(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
圧延加工によって形成された光半導体装置用リードフレームの基体であって、JIS Z8741準拠の入射角60°で測定した該基体の表面における光沢度が、圧延方向に対して平行方向および直角方向それぞれで500%以上であって、かつ、その平行方向の光沢度と直角方向の光沢度の比が0.8〜1.2であることを特徴とする、光半導体装置用リードフレーム用基体。
前記基体において、表面に形成されたオイルピットの個数が100μm×100μmの面積において50個以内であることを特徴とする、請求項1に記載の光半導体装置用リードフレーム用基体。
前記基体において、リードフレームに光半導体素子を搭載するための凹部を形成して、有椀形状を持つことを特徴とする、請求項1または2記載の光半導体装置用リードフレーム用基体。
請求項1〜3のいずれか1項に記載の光半導体装置用リードフレーム用基体上の最表面に、銀、銀−セレン合金、銀−アンチモン合金、銀−錫合金、銀−インジウム合金、銀−金合金、銀−白金合金のうちいずれかからなる反射層を有することを特徴とする、光半導体装置用リードフレーム。
前記反射層を有する表面における原子間力顕微鏡による測定での表面粗さSaが、3nm以上50nm以下であることを特徴とする、請求項4又は5に記載の光半導体装置用リードフレーム。
前記反射層を有する光半導体装置用リードフレームにおいて、波長450nmにおける全反射率が、95%以上であることを特徴とする、請求項4〜6のいずれか1項に記載の光半導体装置用リードフレーム。
請求項4〜7のいずれか1項に記載の半導体装置用リードフレームを製造する方法であって、少なくとも前記反射層を電気めっき法で形成することを特徴とする、光半導体装置用リードフレームの製造方法。
【背景技術】
【0002】
光半導体装置用リードフレームは、例えばLED(Light Emitting Diode)素子等の光半導体素子である発光素子を光源に利用した各種表示用・照明用光源の構成部材として広く利用されている。その光半導体装置は、例えば基板にリードフレームを配し、そのリードフレーム上に発光素子を搭載した後、熱、湿気、酸化等の外部要因による発光素子やその周辺部位の劣化を防止するため、発光素子とその周囲を樹脂で封止している。
【0003】
ところで、LED素子を照明用光源として用いる場合、リードフレームの反射材には可視光波長(400〜800nm)の全領域において反射率が高い(例えば硫酸バリウムや酸化アルミニウムなどの基準物質に対する反射率が80%以上)ことが求められる。 また、白色光を形成するLEDの手法としては、赤(R)、緑(G)、青(B)のすべての色を出すチップを3個並べる手法、青色LEDチップに黄色の蛍光体を分散した封止樹脂を用いる手法、さらには近紫外域のLEDチップにそれぞれRGBの蛍光体を分散した封止樹脂を用いる手法の、主に3つに大別される。従来は青色チップに黄色の蛍光体を分散した封止樹脂を用いる手法が主流であったが、近年は演色性の問題から発光波長帯に紫外域を含むLEDチップを用いる手法が注目を集めつつある。この手法において、光半導体装置の反射材には、近紫外域(波長340〜400nm)および可視光域(波長400〜800nm)における反射率が高いことが求められる。
【0004】
このように、反射率の高い表面を得るためには、平滑な基体をリードフレーム用の基体として用いることが考えられる。
例えば特許文献1には、銅合金板又は条からなる基体の少なくとも一方の面に電解処理後に圧延加工を施して、20°入射の光沢度が200%以上、かつ表面粗さRzが1.0μm以下である平滑な基体が提案されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1において、光沢度が200%以上かつ表面粗さRzが1.0μm以下との記載であるが、測定方向に関する明記がない。これは、圧延加工によって基体表面には圧延筋と呼ばれる加工痕が圧延平行方向に生じるが、光沢度は圧延平行方向および圧延直角方向の測定方向によって大きく異なる場合があるためである。特に光半導体装置に用いるリードフレーム基体としては、圧延筋が光の反射に対してムラとなって現れるため、圧延平行(長手)方向および圧延直角(幅)方向の両方の方向において光沢度が高いことが要求される。この点で、特許文献1ではこれらの検討はなされておらず、光半導体装置用のリードフレーム基体としては更なる検討が必要である。また、近年リードフレームに張出し加工を施して凹部を形成し、その側面に銀めっきを施して高出力タイプの光半導体装置が形成される場合がある。この際、圧延筋による凹凸が起点となって、張出し加工時に割れが発生してしまうことがあった。このことから、張出し加工性が良好な光半導体装置用リードフレーム基体が求められているが、この観点からの検討についても、特許文献1においては行われていない。
【0006】
さらに、LED素子が実装されるリードフレーム上には、特に可視光域の光反射率(以下、反射率という)の向上を目的として、銀又は銀合金からなる層(皮膜)が形成されているものが多い。銀の皮膜は、可視光域における反射率が高いことが知られており、具体的には、銀めっき層を反射面に形成すること(特許文献2)や、銀又は銀合金皮膜形成後に200℃以上で30秒以上の熱処理を施し、当該皮膜の結晶粒径を0.5μm〜30μmの範囲とし、かつ下地材料の表面粗度を0.5μm以上とすること(特許文献3)等が知られている。さらに別の高反射化の手法として、銀合金反射膜において表面粗さRaを2.0nm以下にすること(特許文献4)等が知られている。
【0007】
また、反射率を高めるめっきの検討としては、特許文献2のように、銀又はその合金皮膜を単純に形成しただけの場合、特に近紫外域(波長340〜400nm)における反射率の低下が大きく、より一層の反射率改善が要求される。
【0008】
また、特許文献3のように、銀又は銀合金の皮膜の結晶粒径を0.5μm〜30μmかつ下地の表面粗さが0.5μm以上とする場合でも、未だに反射率が常に高い状態を維持するものではなく、更なる改善の余地があると考えられる。特に特許文献3の
図8および
図9に見られるように、近紫外域(340〜400nm)、特に345nm〜355nm付近に吸収ピークが見られており、発光波長375nmのLEDチップを使用すると、可視光領域よりも反射率が低い部分に相当することがわかる。このとき、例えば発光波長450nmの青色LEDチップ搭載の場合と比べると、発光波長375nmのLEDチップを使用した場合には反射率が約10%も低いことが分かる。また、熱処理により上記結晶粒径に調整すると、残留酸素の影響により銀が酸化し、逆に反射率が低下してしまい反射率改善に十分な効果が得られない場合がある。
【0009】
さらに特許文献4において開示されているように、表面粗度Raを2nm以下のような非常に平滑な皮膜を形成するためには、その達成法としてスパッタリングや蒸着法などのPVD(物理蒸着)プロセスが必須であり、光半導体装置のような大量生産性を求める手法としては不向きである。さらに、粗度が2nm以下であると、光半導体装置に形成されるモールド樹脂との密着性が極端に悪いという別の問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、LED・フォトカプラ・フォトインタラプタなどに使用される光半導体装置用リードフレームにおいて、張出し加工を行っても割れが発生しにくい光半導体装置用リードフレーム用基体、さらにその基体を用いた近紫外域〜可視光域(波長340〜800nm)における反射率が極めて良好な光半導体装置用リードフレームおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記従来技術の問題に鑑み鋭意検討を進めた結果、圧延加工によって形成された光半導体装置用リードフレームの基体の表面において、JIS Z8741準拠の入射角60°で測定した光沢度が、圧延方向に対して平行方向および直角方向それぞれで500%以上であって、かつ、その平行方向の光沢度と直角方向の光沢度の比が0.8〜1.2以内であることにより、張出し加工を行っても割れが発生しにくく、波長340〜800nmの光の反射率に優れるリードフレーム用の基体とすることができることを見出した。さらに、本発明による基体を用いて銀又は銀合金めっきを施すことで、簡便に反射率の高い光半導体装置用リードフレームを提供できることを見出した。本発明は、この知見に基づきなされるに至ったものである。
【0013】
本発明によれば、以下の手段が提供される:
(1)圧延加工によって形成された光半導体装置用リードフレームの基体であって、JIS Z8741準拠の入射角60°で測定した該基体の表面における光沢度が、圧延方向に対して平行方向および直角方向それぞれで500%以上であって、かつ、その平行方向の光沢度と直角方向の光沢度の比が0.8〜1.2であることを特徴とする、光半導体装置用リードフレーム用基体。
(2)前記基体において、表面に形成されたオイルピットの個数が100μm×100μmの面積において50個以内であることを特徴とする、(1)項に記載の光半導体装置用リードフレーム用基体。
(3)前記光半導体装置用リードフレーム基体において、リードフレームに光半導体素子を搭載するための凹部を形成して、有椀形状を持つことを特徴とする、(1)または(2)項に記載の光半導体装置用リードフレーム用基体。
(4)(1)〜(3)のいずれか1項に記載の光半導体装置用リードフレーム用基体上の最表面に、銀、銀−セレン合金、銀−アンチモン合金、銀−錫合金、銀−インジウム合金、銀−金合金、銀−白金合金のうちいずれかからなる反射層を有することを特徴とする、光半導体装置用リードフレーム。
(5)前記反射層の厚さが3μm以下であることを特徴とする、(4)項に記載の光半導体装置用リードフレーム。
(6)前記反射層を有する表面における原子間力顕微鏡による測定での表面粗さSaが、3nm以上50nm以下であることを特徴とする、(4)又は(5)項に記載の光半導体装置用リードフレーム。
(7)前記反射層を有する光半導体装置用リードフレームにおいて、波長450nmにおける全反射率が、95%以上であることを特徴とする、(4)〜(6)のいずれか1項に記載の光半導体装置用リードフレーム。
(8)(4)〜(7)のいずれか1項に記載の半導体装置用リードフレームを製造する方法であって、少なくとも前記反射層を電気めっき法で形成することを特徴とする、光半導体装置用リードフレームの製造方法。
(9)(1)〜(3)のいずれか1項に記載の光半導体装置用リードフレーム用基体
上の光半導体素子搭載部に光の反射層を
有し、光半導体素子が搭載されてなることを特徴とする、光半導体装置。
(10)(4)〜(7)のいずれか1項に記載の光半導体装置用リードフレームに光半導体素子が搭載されてなることを特徴とする、光半導体装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、基体表面の光沢度を圧延平行方向と圧延直角方向で所定の関係に調整することによって、基体上に設ける銀又は銀合金からなる反射層の厚さを薄くしても、基体表面に生じる圧延筋の影響を著しく小さくして、近紫外域から可視光域まで(波長340〜800nm)における反射率が著しく高い光反射特性を有する光半導体装置用リードフレーム用の基体を得ることができる。
また、リードフレームに凹部を形成して高出力タイプの光半導体装置を形成する際に、例えば張出し加工により凹部を形成しても、圧延平行方向と直角方向での凹凸差が小さく形成されているため、張出し加工で特に圧延直角方向に亀裂の生じにくい光半導体装置用リードフレーム基体が提供できる。
本発明の光半導体装置用リードフレーム用基体によれば、基体表面の光沢度を圧延平行方向と圧延直角方向で所定の関係に調整することによって、基体上のリードフレーム表面に設ける銀又は銀合金からなる反射層の厚さを薄くしても、基体表面に生じる圧延筋の影響を著しく小さくして、近紫外域から可視光域まで(波長340〜800nm)における反射率が著しく高い光反射特性を有する光半導体装置用リードフレームを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明においては、圧延加工によって形成された光半導体装置用リードフレーム用の基体の表面において、JIS Z8741準拠の入射角60°で測定した光沢度が、
図1に示すように圧延方向に対して平行方向および直角方向それぞれで500%以上、さらに好ましくは550%以上であって、かつ、その平行方向の光沢度と直角方向の光沢度の比が0.8〜1.2であることが好ましく、この比が0.9〜1.1であることがさらに好ましい。ここで、前記光沢度とは、JIS Z8741に規定されている通り、可視光を入射角60°で入射した時の鏡面反射率が10%となる、屈折率1.567のガラス面を光沢度100とし、この基準面と鏡面反射率を比較して求めた相対値をいう。また、実際の光沢度は、3回の測定の平均値である。基体の平行方向の光沢度と直角方向の光沢度の比をこの範囲内とすることにより、その基体上に設けるリードフレームの反射層について平行方向の光沢度と直角方向の光沢度の差を小さく制御することができ、それによって得られる光半導体装置の反射率を近紫外域から可視光域まで著しく高めることができる。
【0017】
さらに本発明においては、前記基体の表面に形成されたオイルピットの個数が100μm×100μmの面積において50個以内であることが好ましい。
なお、ここにいうオイルピットとは、冷間圧延時に圧延ロールと材料の間に取り込まれた潤滑油によって基体の板もしくは条材表面に現れる局部的な凹部をいう。該凹部の発生は、圧延ロールの直径、粗さ等の条件、圧延時の加工率、圧延速度などの加工条件、潤滑用オイルの温度、粘度等の条件、板もしくは条材の機械強度、結晶粒の大きさ等の条件等によって変化させることができる。
図2は、本発明に係る基体の表面を、観察倍率500倍で撮影したSEM写真である。この図に示すように形成されている凹部がオイルピットである。この個数が、100μm×100μmの面積において、50個以内であることが好ましい。
図2中で、左の写真は
、100μm×100μmの面積で50個
を超えるオイルピットを有する従来の基体の一例の写真、中央は10〜30個有する本発明の基体の一例の写真、さらに右は10個以下有する本発明の基体の一例の写真である。
本発明における基体の表面性状は、光半導体装置に形成されるモールド樹脂と基体との密着性に大きく影響を及ぼし以下のように作用する。まず、冷間圧延工程において、表面性状は局部的な凹部(オイルピット)のある形態となる。このような材料に常法により例えば3μm以下の厚さで下地層さらには光反射層をめっきで形成した場合、仮にそれらのいずれかもしくは両者が光沢めっきであっても、そのオイルピットの形状を反映した凹凸が形成される。その形成されたオイルピット様態の凹凸によって生じるアンカー効果によって、光半導体装置を形成する際の封止樹脂との密着性を向上させることができる。このオイルピット形成の程度は、例えば観察倍率500倍でのSEM観察により、オイルピットの数を数えることによって評価することができる。前記密着性の向上の為には、幅5μm以上で深さ10μm以下の大きさのオイルピットの数が、10000μm
2中に50個以下であることが好ましく、この数が15個以下であることがさらに好ましい。
【0018】
また、本発明の光半導体装置用リードフレーム用基体の表面に、厚さが好ましくは3μm以下の銀又は銀合金の皮膜からなる反射層を設けることにより、光半導体装置用リードフレームを得ることができる。
図3は、その概略断面図の一例である。前記反射層の厚さは、さらに好ましくは2μm以下、特に好ましくは1μm以下である。通常、反射層の厚さが厚ければ厚い程、得られる光反射特性を優れたものとすることができる。この点、本発明においては、基体表面の状態として光沢度に着目し、圧延平行方向と圧延直角方向における光沢度を所定の関係に調整することによって、反射層の厚さを薄くしても、優れた光反射特性を達成することができるものである。優れた反射率を示す最小厚としては、0.1μm以上、好ましくは0.2μm以上である。
【0019】
なお、反射層の形成方法としては、めっき法、スパッタ法、蒸着法などが可能であるが、生産性を考慮してめっき法、特に湿式めっき法が好ましく、さらに電解めっき法がより好ましい。
【0020】
さらに、前記基体上に反射層が形成された本発明の光半導体装置用リードフレームにおいては、反射層の表面における原子間力顕微鏡による測定で、表面粗さSaが3nm以上50nm以下であることが好ましく、3nm以上10nm以下であることがさらに好ましい。反射層の表面を原子間力顕微鏡により測定した前記表面粗さSaをこの範囲内とすることによって、近紫外域から可視光域まで(波長340〜800nm)の光の反射率が極めて優れ、かつ封止樹脂やモールド樹脂との密着性も遜色なく確保できる光半導体装置用に適した反射層とすることができる。
【0021】
本発明における反射層を有する表面の表面粗さとは、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)の観察視野で得られる表面粗さをいう。この表面粗さは、めっき上がりのデンドライト状の析出の頻度などがこの数値として現れ、表面の数十nmオーダーの凹凸が反射率を低減させる原因であることを見い出した。この表面粗さを測定するためには、AFMを用い、数μm〜数十μm視野内にて測定することが適当であり、実験の結果から6.16μm×6.16μmの視野における測定がこの表面粗さを最も良く表わし、反射率との相関があることが分かった。なお、リードフレームの大きな表面キズ、圧延筋の影響を小さくするため、リードフレームのオイルピットが形成されていない任意の5点において測定を行い、その平均値を表面粗さとした。
この表面粗さを前記範囲内で極力小さく押さえることによって、波長340〜400nmの近紫外域と400nm付近〜800nm付近の可視光領域の両方の光に対して反射率に優れながら、高い封止樹脂密着性を有する半導体装置用リードフレームを得ることができる。
【0022】
反射層を有する表面の粗さSaは、好ましくは50nm以下で、より好ましくは30nm以下、特に好ましくは10nm以下、最も好ましくは5nm以下とすることでLED用部品材料の反射率が向上する。ここで、本発明における好ましい反射率は、例えば反射層が銀で形成されている場合は、可視光領域(例えば400〜800nm)で全反射率が90%以上、特に波長450nmで90%以上であり、波長600nmで95%以上である。さらに好ましくは波長450nmで95%以上であり、この反射率であれば、青色発光の光半導体素子を搭載した光半導体装置用リードフレームとして、優れた輝度を出力する効果があり、物理上限値に限りなく近い反射率を達成することができる。また、近紫外光領域である波長375nmで80%以上であることを示す。
また、表面粗さSaが2nmよりも小さくなると、封止樹脂やモールド樹脂との密着力が極端に低下するため、ミクロな表面粗さは3nm以上が好ましい。
【0023】
この反射層を有する光半導体装置用リードフレームを得るには、本発明によって提供される基体に、反射層として例えば電解法におけるめっき浴は、常法の純銀(Ag)浴、銀−セレン(Se)浴、銀−アンチモン(Sb)浴、銀−セレン−アンチモン浴、銀−インジウム(In)浴、銀−金(Au)浴、銀−白金(Pt)浴、銀−錫(Sn)浴等のめっき浴を使用し、その被覆厚を3μm以下、より好ましくは1.5μm以下で形成することで、反射率に優れた光半導体装置用リードフレームを得ることが出来る。従来の光沢めっき浴では、常法の基体を用いてめっきを施しても、平滑性を高めるためには5〜10μmの被覆厚がないと、基体の凹凸を十分に平滑に出来ず、光沢度が高くならないために反射率が高められないという課題があった。このため、本発明の基体を用いることで、より薄い被覆厚でも十分に平滑性を上げることができ、その結果、被覆厚低減効果から生産性に優れ、コストダウンに貢献でき、省資源の観点からも環境にやさしく、さらに反射率に極めて優れた光半導体装置用リードフレームが提供できるものである。なお、被覆厚の下限値としては、特に制限は設けないが、基材からの拡散による反射率低下を抑制する観点から、0.15μm以上が好ましく、0.5μm以上であることがさらに好ましい。
【0024】
また、本発明において、基体の製造工程は特に制限するものではなく、常法により得ることができるが、その工程の最後に圧延加工を施すことが好ましい。圧延加工により所望の厚さにして機械的強度と表面の光沢平滑性を付与する。そのために通常、10%以上の総圧下率が加えられる。通常、平滑な圧延ロールを用い、低粘性の潤滑油を併用して能率的に加工される。必要に応じてより高度の光沢平滑性を必要とする場合には潤滑剤を使用しないで磨き圧延も行われる。なお、必要に応じて圧延途中又は圧延後に加熱処理が施されていても良い。
【0025】
なお、使用する金属基体成分としては特に制限はないが、銅もしくは銅基合金、又は鉄もしくは鉄基合金等が用いられる。例えば銅合金の一例として、CDA(Copper Development Association)掲載合金である「C14410(Cu−0.15Sn、古河電気工業(株)製、表品名:EFTEC−3)」、「C19400(Cu−Fe系合金材料、Cu−2.3Fe−0.03P−0.15Zn)」、「C26000(黄銅、Cu−30Zn)」、「C52100(リン青銅、Cu−8Sn−0.15P)」、「C77000(洋白、Cu−18Ni−27Zn)」、および「C18045(Cu−0.3Cr−0.25Sn−0.5Zn、古河電気工業(株)製、表品名:EFTEC−64T)」等を用いることができる。なお、各元素の前の数字の単位は質量%である。これら基体はそれぞれ導電率や強度が異なるため、適宜要求特性により選定されて使用されるが、光半導体装置用リードフレームの放熱性を向上させるという観点からは、導電率が60%IACS以上の銅合金の条材とすることが好ましい。
また、鉄もしくは鉄基合金としては、例えば、42アロイ(Fe−42mass%Ni)などが用いられる。
基体の厚さには特に制限はないが、通常、0.05mm〜1mmであり、好ましくは、0.1mm〜0.8mmである。
【0026】
前記金属基体を製造する際の圧延加工工程において、最後に施される仕上圧延時のロール粗度等の圧延ロールの条件や圧延油の種類、また、圧延時の引張強さを変えることで、基体表面の粗さを調整することができる。例えば、最後に施される仕上圧延時のロールの表面粗度を算術平均粗さRaで0.05μm以下とすることが好ましい。また、圧延油の種類としては、例えば動粘度が7mm
2/s以下、より好ましくは5mm
2/s以下の圧延油を用いることが好ましい。さらに、圧延時の張力を200〜600MPaとすることが好ましい。
【0027】
また、本発明の光半導体装置用リードフレームには、基体と、銀又は銀合金からなる反射層との間に、ニッケル、ニッケル合金、コバルト、コバルト合金、パラジウム、パラジウム合金、ロジウムおよびロジウム合金からなる群から選ばれた金属又は合金からなる中間層を設けてもよい。中間層は、例えばめっきにより好適に形成される。
図4に、中間層3が形成された概略断面図の一例を示す。
【0028】
例えば、鉄系の基体を用いた場合は材料の熱伝導度が比較的低いため、中間層として銅又は銅合金からなる中間層を設けることにより、反射率を損なうことなく放熱性を向上させることができる。さらに、前記の銅又は銅合金層である中間層は、その上の反射層とその下の基体との間のめっき密着性の向上にも寄与するため、発光素子が発光する際の発熱による密着性の劣化を防止できる。
銅又は銅合金基体を用いた場合は、発光素子が発光する際の発熱による基体成分の反射層への拡散を抑制するために、中間層としてニッケル、ニッケル合金、コバルト、又はコバルト合金の中間層を設けることが好ましい。
これらの中間層の厚さは、本発明においては特に限定されるものではないが、0.001〜0.5μmの範囲が好ましい。中間層の厚さは、基体の光沢度改善の効果を減少させないために必要最小限であることが好ましいため、0.005〜0.1μmの範囲が特に好ましい。
【0029】
さらに本発明における基体を、所望のリードフレーム形状に予めプレスやエッチングなど常法にて加工後、必要な箇所にのみ前記反射層や下地の中間層を形成すると、必要以上に被覆材料を使用せずに光半導体装置用リードフレームが形成でき、環境にやさしいリードフレームが提供できる。
【0030】
図5は、リードフレーム基体1に凹部4を張出し加工により形成したのち、反射層2を形成させた断面模式図の一例を示したものである。このように、高出力品においてはリードフレームに有椀加工を施して光半導体素子を凹部の底部に搭載して形成するものも存在するが、凹部の斜部において張出し加工によって割れが発生するケースが見られるが、本発明ではその割れ発生が抑制され、張出し加工性に優れた光半導体装置用リードフレームが提供できる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
表1に示した厚さ0.5mm、幅200mmの銅合金条基体(組成:Cu−0.15Sn、古河電気工業(株)製、表品名:EFTEC−3)の焼鈍上がり品について、表面粗さRaが0.05μm又は0.035μmに仕上げられた、直径80mmのワークロールを使用して、6段圧延機を用いて圧延加工し、0.25mm厚の銅合金条材を光半導体装置用リードフレームの基体として得た。その際に、圧延油は動粘度4mm
2/sのものを使用し、圧延回数および各圧延時における圧下率を適宜調整して、表1記載の光沢度およびオイルピット数を備えた基体を得た。
実施例1〜12では、それぞれ中間の圧延加工率を5〜40%、圧延回数を2〜3回で調整し、最終板厚0.25mmとし、圧延におけるワークロールの表面粗さRaを0.050μm、0.035μmの二種を適宜選択した。これらのロール粗度の使い分けは、圧延筋直角方向における光沢度を540%以上にする際にRa=0.035μmのロールを使用した。圧延条件詳細を表1に記す。
従来例1では、前記圧下率を同様の50%とし、最終の圧延におけるワークロールの表面粗さRaを 0.06 μmとした。
また、比較例1〜2では、それぞれ前記圧下率を同様の50%とし、最終の圧延におけるワークロールの表面粗さRaを0.035μmとした。なお、実施例と同じ圧延回数であるが、中間材の板厚を調整して光沢度の仕上がり調整を行った。
【0033】
以下に評価方法を述べる。
前記各基体を幅50mmにスリットしたサンプルについて、圧延方向に対して平行方向および直角方向それぞれについて光沢度を測定した。なお、光沢度は日本電色工業社製VG2000(商品名)を用いて、JIS Z8741に準じて入射角受光角60゜にて測定した。圧延方向に対して平行方向および直角方向それぞれで500%以上の場合を「合格」とし、この値が少なくとも一方の方向で500%未満の場合を「不合格」とした。
また、前記圧延方向と平行方向の光沢度と圧延方向と直角方向の光沢度の比が0.8〜1.2である場合を「合格」とし、この比が0.8未満もしくは1.2を超える場合を「不合格」とした。
【0034】
また、作成した各板状の基体の表面性状のSEM写真を500倍の倍率で撮影し、写真上でオイルピットの数を計測した。計測したオイルピットの数が、100μm×100μmの面積において平均で50個以内であれば「合格」とし、この数が50個を超えた場合を「不合格」とした。
【0035】
さらに、得られた基体を用いて、電解脱脂−酸洗−銀ストライクめっきの前処理工程を経た後、表1に記載の各種厚さで表に記載の各めっき浴により反射層を形成した。
【0036】
次に、反射層を形成したリードフレームについて、初期の全反射率を測定・評価した。分光光度計(U−4100(商品名、(株)日立ハイテクノロジーズ製))において、基準物質を硫酸バリウム試験片とした時の全反射率を300nm〜800nmにかけて連続測定を実施した。このうち、紫外域〜近紫外域である375nm、さらには可視光域である450nmおよび600nmにおける全反射率(%)を表1に示す。それぞれ波長375nmでの反射率を80%以上、波長450nmでの反射率を90%以上、および波長600nmでの反射率を95%以上であることが要求特性とした。
なお、連続測定の結果から、各波長間で全反射率が急落することはないことを確認している。
【0037】
さらに、各反射層形成後の表面粗さSaについて、AFM(Mobile S:製品名、Nanosurf社製、触針:CONTR−10#)で測定した。視野角は6.16μm×6.16μmとし、オイルピットが形成されていない任意の箇所5点の平均値を採用し、その測定結果を表1に示した。
【0038】
また、得られた基体を用いて凹部を形成し、その亀裂の有無を確認した。凹部の形状は、深さ0.25mm、上面から見た形状は、底部の長さと幅ともに4mmの正方形とし、張出し部曲げ半径は0.3mm、凹部の底部の垂線と斜部とでなす角度は30度としてプレス機にて形成した。そして、亀裂が存在していないもしくは僅かなシワが形成されている程度であるものを「なし」として合格、亀裂や大きなシワが存在したものを「あり」と記して不合格と判定し、表1に併記した。
【0039】
前処理および反射層形成条件は、以下のように施した。
(前処理条件)
[電解脱脂]
脱脂液:NaOH 60g/リットル
脱脂条件:2.5A/dm
2、温度60℃、脱脂時間60秒
[酸洗]
酸洗液:10%硫酸
酸洗条件:30秒 浸漬、室温
[銀ストライクめっき]
めっき液:KAg(CN)
2 4.45g/リットル、KCN 60g/リットル
めっき条件:電流密度 5A/dm
2、温度 25℃
【0040】
(反射層形成条件)
[銀めっき浴]
めっき液:AgCN 50g/リットル、KCN 100g/リットル、K
2CO
3 30g/リットル
めっき条件:電流密度 1A/dm
2、温度 30℃
[銀−セレンめっき浴] めっき液:KCN 150g/リットル、K
2CO
3 15g/リットル、KAg(CN)
2 75g/リットル、Na
2O
3Se・5H
2O 5g/リットル めっき条件:電流密度 2A/dm
2、温度 50℃[銀−アンチモンめっき浴] めっき液:KCN 150g/リットル、K
2CO
3 15g/リットル、KAg(CN)
2 75g/リットル、C
4H
4KOSb 10g/リットル めっき条件:電流密度 1A/dm
2、温度 50℃
【0041】
【表1】
【0042】
表1の結果から、次のことがわかる。
本発明に従った実施例1〜12においては、いずれも、JIS Z8741準拠の入射角60°で測定した該基体の表面における光沢度が、圧延方向に対して平行方向および直角方向それぞれで500%以上であって、かつ、その平行方向の光沢度と直角方向の光沢度の比(平行方向光沢度を直角方向光沢度で除した数)が0.8〜1.2の範囲内であった。このため、各実施例では、得られた基体を用いた光半導体装置用リードフレームにおいて、被覆厚が薄くても近紫外域から可視光域まで(波長340〜800nm)における反射率が著しく高い光反射特性を有し、光半導体装置用リードフレーム用の基体として好適であることが分かる。
これに対して、従来例1は、汎用的なリードフレーム基体であるが、光沢度が特に直角方向測定値で500%を下回っており、同じ被覆厚で同じめっき液組成の皮膜を形成しても、反射率が本発明例の高いレベルには達していないことが分かる。
一方、比較例1および2のように、光沢度は500%を上回っているにもかかわらず、その平行方向の光沢度と直角方向の光沢度の比が所定の0.8〜1.2の範囲外であるケースにおいても、同様に同じめっき液および同じ被覆厚であっても本発明例の高いレベルの反射率が得られていないことが分かる。さらに、張出し加工による亀裂が発生しており、加工性の面から本発明例の方が優れた特性を示すことが分かる。
この結果、前記光沢度の条件、すなわち、基体の表面における光沢度が圧延方向に対して平行方向および直角方向それぞれで500%以上であることと、その平行方向の光沢度と直角方向の光沢度の比が所定の範囲内にあることを少なくとも1つ満たさないことによって、近紫外域から可視光域まで(波長340〜800nm)における反射率が低く、光半導体装置用リードフレーム用の基体として不適当なものであった。