(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
平均単繊維繊度0.9デシテックス以下の極細繊維からなる繊維絡合体中に、高分子弾性体と難燃性微粒子を含有した伸縮性難燃人工皮革であって、見掛け密度を0.40g/cm3以上とするとともに、その厚み方向とタテ方向に共に平行な断面において、前記極細繊維より構成されるミクロなうねり構造をタテ方向に有し、タテ方向1mm中に存在する前記うねり構造のピッチ数が2.2個以上であるとともに、前記うねり構造の平均高さが50〜350μmである伸縮性難燃人工皮革。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の伸縮性難燃人工皮革は、極細繊維からなる繊維絡合体中に高分子弾性体と難燃性微粒子を含有した伸縮性難燃人工皮革であって、見掛け密度を0.40g/cm
3以上とするとともに、
図4、5に示すように、その厚み方向とタテ方向に共に平行な断面において、極細繊維より構成されるミクロなうねり構造をタテ方向に沿って有するものである。本発明の伸縮性難燃人工皮革は、高い見掛け密度とミクロなうねり構造により、タテ方向に適度な伸縮性と伸び止まり感を有しつつ、機械的物性も良好なものとなる。
【0015】
本発明の伸縮性難燃人工皮革は、詳しくは後述するが、人工皮革用基体、すなわち機械収縮加工する前の人工皮革をタテ方向に機械的に収縮させ、その収縮状態でヒートセットすることにより得られるものであり、機械的収縮によりミクロなうねり構造がタテ方向に沿って形成され、ヒートセットによりそのミクロなうねり構造が保持されるものである。
【0016】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
[極細繊維]
伸縮性難燃人工皮革において繊維絡合体を構成する極細繊維の平均単繊維繊度は、好ましくは0.9デシテックス以下、さらに好ましくは0.0001〜0.9デシテックス、より好ましくは0.0001〜0.5デシテックス、特に好ましくは0.005〜0.3デシテックスである。平均単繊維繊度が0.0001デシテックス未満であると、伸縮性難燃人工皮革の強度が低下することがある。また平均単繊維繊度が0.9デシテックスを越えると、伸縮性難燃人工皮革の風合いが堅くなり、また、繊維の絡合が不十分になって、伸縮性難燃人工皮革の表面品位が低下したり、耐摩耗性が低下したりする等の問題が生じることがある。
なお、本発明の効果を損なわない範囲で、単繊維繊度が0.0001デシテックス未満の繊維又は単繊維繊度が0.9デシテックスを越える繊維が限られた量含まれていてもよい。単繊維繊度が0.0001デシテックス未満の繊維および単繊維繊度が0.9デシテックスを越える繊維の含有量は、伸縮性難燃人工皮革を構成する全繊維の30%以下(数基準)が好ましく、10%以下(数基準)がより好ましく、全く含まれないことがさらに好ましい。
【0017】
また、極細繊維が、下記で詳述するように例えば極細化可能繊維から得られ、繊維束の状態で絡合されて繊維絡合体を形成する場合、極細繊維の繊維束の繊度は好ましくは1.0〜4.0デシテックスであり、1本の繊維束中の極細繊維の数は好ましくは9〜500本である。上記範囲内であると、人工皮革用基体やこれから得られるスエード調人工皮革の外観の均一性および発色性と耐磨耗性のバランスが良好である。
【0018】
極細繊維は、短繊維でも長繊維でもよい。短繊維は高品位な表面を有する人工皮革を製造できる点で好ましいが、長繊維は製造工程を単純化でき、強度などの物性面で優れている点で好ましい。また、非弾性長繊維を用いてタテ方向に伸縮性を有する人工皮革を製造することは一般に困難であるが、本発明によれば、非弾性長繊維を用いてもタテ方向に伸縮性を有する伸縮性難燃人工皮革を得ることができる。
【0019】
本発明において、長繊維とは、繊維長が通常3〜80mm程度である短繊維よりも長い繊維長を有する繊維であり、短繊維のように意図的に切断されていない繊維をいう。例えば、長繊維の繊維長は100mm以上が好ましく、技術的に製造可能であり、かつ、物理的に切れない限り、数m、数百m、数kmあるいはそれ以上の繊維長であってもよい。
【0020】
極細繊維は、非弾性繊維であることが好ましい。具体的には、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン等からなる繊維が用いられる。これらの中では、後述するヒートセットによって、うねり構造が保持されやすくなるため、ポリエステルが好ましい。また、ポリエーテルエステル系繊維やいわゆるスパンデックス等のポリウレタン系繊維などの弾性繊維は好ましくない。
【0021】
ポリエステルとしては繊維化が可能なものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレ−ト、ポリエチレン−1,2−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレート等が挙げられる。中でも最も汎用的に用いられているポリエチレンテレフタレートまたは主としてエチレンテレフタレート単位からなる変性ポリエステル(例えば、イソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレート)が好適に使用される。
【0022】
また、ポリアミドとしては、たとえばナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12、等のアミド結合を有するポリマーを挙げることができる。
【0023】
これらのポリマーには、隠蔽性を向上させるためにポリマー中に酸化チタン粒子等の無機粒子を添加してもよいし、潤滑剤、顔料、熱安定剤、紫外線吸収剤、導電剤、蓄熱材、抗菌剤等、種々目的に応じて添加することもできる。
【0024】
[繊維絡合体]
本発明における繊維絡合体は、例えば、短繊維もしくは長繊維の極細繊維もしくは極細化可能繊維をウェブ化し、得られたウェブを絡合して絡合不織布とし、その後、極細化可能繊維の場合には極細化処理を行うなどの方法により形成される。
【0025】
繊維絡合体を形成するための極細繊維もしくは極細化可能繊維は、短繊維の場合、カーディング、抄紙などの乾式法や湿式法によりウェブにするが、乾式法によりウェブにする方が高品位な表面を有する人工皮革を得ることができるので好ましい。
【0026】
また、繊維絡合体を形成するための極細繊維もしくは極細化可能繊維は、長繊維の場合、スパンボンド法によってウェブにすることができ、連続フィラメントの状態で捕集されウェブを形成していれば、人工皮革とする後の工程において長繊維の一部が切断されていても良い。極細化可能長繊維を用いたウェブの場合、熱プレスして表面繊維を仮融着してもよい。仮融着するとウェブの形態が安定し後の工程での取り扱い性が向上する。
【0027】
極細繊維もしくは極細化可能繊維からウェブ化したウェブの目付は、10〜100g/m
2が好ましい。また、そのウェブは、例えばニードルパンチ、ウォータージェットなどの方法により絡合して絡合不織布とする。例えば、前記ウェブを、必要に応じてクロスラッパー等を用いて複数層重ね合わせた後、両面から同時または交互に少なくとも1つ以上のバーブが貫通する条件でニードルパンチする。パンチング密度は、200〜5000パンチ/cm
2の範囲が好ましい。上記範囲内であると、充分な絡合が得られ、極細繊維もしくは極細化可能繊維のニードルによる損傷が少ない。該絡合処理により、極細繊維もしくは極細化可能繊維同士が三次元的に絡合し、極細繊維もしくは極細化可能繊維が極めて緻密に集合した絡合不織布が得られる。
ウェブにはその製造から絡合処理までのいずれかの段階で、針折れ防止油剤、帯電防止油剤、絡合向上油剤などのシリコーン系油剤または鉱物油系油剤を付与してもよい。必要に応じて、70〜100℃の温水に浸漬するなどの収縮処理によって、絡合不織布の絡合状態をより緻密にしてもよい。また、熱プレス処理を行うことで極細繊維もしくは極細化可能繊維同士をさらに緻密に集合させ、絡合不織布の形態を安定にしてもよい。絡合不織布の目付は100〜2000g/m
2であるのが好ましい。
【0028】
極細化可能繊維を使用する場合、極細化処理により極細化可能繊維を極細化して極細繊維束に変換し、該極細繊維束からなる繊維絡合体を形成する。この極細化処理は、極細化可能繊維のウェブを絡合して形成した絡合不織布に対して行われる。なお、極細化処理は、後述する高分子弾性体を含有しない絡合不織布に対して行ってもよいし、高分子弾性体含有不織布に対して行ってもよい。
【0029】
極細化可能繊維は、少なくとも2種類のポリマーからなる多成分系複合繊維である。極細化可能繊維としては特に限定されないが、混合紡糸方式や複合紡糸方式などの方法を用いて得られる海島型繊維や多層積層型繊維等から適宜選択することができる。海島型繊維は海成分ポリマー中にこれとは異なる種類の島成分ポリマーが分散した断面を有する。極細化可能繊維は、絡合不織布に形成し、さらに必要であれば後述するように高分子弾性体を含有させた後に、ポリマーの一成分(除去成分)を抽出または分解して除去することで、残ったポリマー(繊維形成成分)からなる極細繊維が複数本集まった繊維束に変換されて極細化される。
【0030】
極細化可能繊維は、海島型繊維の場合、海成分ポリマーを抽出または分解して除去することで、残った島成分ポリマーからなる極細繊維が複数本集まった繊維束に変換される。すなわち、海島型繊維の場合、島成分ポリマーにより極細繊維を形成する。そのため、島成分ポリマーとしては上記したポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン等を使用する。以下、極細化可能繊維として海島型繊維を用いた場合について説明するが、海島型繊維以外の極細化可能繊維を用いた場合も同様に本発明を実施することが出来る。
【0031】
極細化可能繊維の極細化は、海成分ポリマーを溶解性または分解剤によって除去することにより、極細化可能繊維を極細繊維の繊維束に変換して行う。従って、海成分ポリマーは溶剤に対する溶解性または分解剤による分解性が島成分ポリマーよりも大きいことが必要である。海成分ポリマーを除去する方法としては、島成分ポリマーを溶解しないが海成分ポリマーを溶解する溶剤、又は、島成分ポリマーを分解しないが海成分ポリマーを分解する分解剤で、後述する高分子弾性体含有不織布を処理する方法が好ましい。
海成分ポリマーは、海島型繊維の紡糸安定性の点から島成分ポリマーとの親和性が小さく、かつ、紡糸条件において溶融粘度及び/又は表面張力が島成分ポリマーより小さいことが好ましい。このような条件を満たす限り海成分ポリマーは特に限定されず、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−エチレン共重合体、スチレン−アクリル共重合体、ポリビニルアルコール系樹脂などが好ましく用いられる。
島成分ポリマーがポリアミド系樹脂やポリエステル系樹脂である場合、海成分ポリマーがポリエチレンであればトルエン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンなどの有機溶剤が、海成分ポリマーが水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール(PVA)もしくは水溶性熱可塑性変性ポリビニルアルコール(変性PVA)であれば温水が、また、海成分ポリマーが易アルカリ分解性の変性ポリエステルであれば水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性分解剤が使用される。海成分ポリマーの除去は人工皮革分野において従来採用されている方法、条件により行えばよく、特に制限されない。環境負荷が少ない方法が望まれる場合には、海成分ポリマーとして水溶性熱可塑性PVA、もしくは、エチレン変性PVA等の変性PVAを使用し、これを、有機溶媒を使用することなく85〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理し、除去率が95質量%以上(100%を含む)になるまで抽出除去し、極細化可能繊維を島成分ポリマーからなる極細繊維の繊維束に変換するのが好ましい。
【0032】
海島型繊維の平均繊度は1.0〜6.0デシテックスであるのが好ましい。海島型繊維の断面において、海成分ポリマーと島成分ポリマーの質量比は5/95〜70/30が好ましく、島数は5島以上であるのが好ましい。
【0033】
[高分子弾性体]
本発明の伸縮性難燃人工皮革において、繊維絡合体は難燃性微粒子のバインダーとして高分子弾性体を含有しており、ミクロなうねり構造は、極細繊維と繊維絡合体に含有される高分子弾性体によって構成される。
【0034】
高分子弾性体は、高分子弾性体付与処理により、繊維絡合体に含有される。高分子弾性体付与処理は、例えばウェブを絡合して形成した絡合不織布に高分子弾性体の水性分散液又は有機溶媒溶液を含浸し、固化させて行う。また、高分子弾性体付与処理は、上記した繊維極細化処理の前に行っても良いし、後に行っても良い。
難燃性微粒子を繊維絡合体に付与する際には、高分子弾性体の水性分散液又は有機溶媒溶液中に難燃性微粒子を分散した分散液を繊維絡合体に含浸し、固化させる。
【0035】
高分子弾性体としては、例えば、ポリウレタンエラストマー、ポリウレアエラストマー、ポリウレタン−ポリウレアエラストマー、ポリアクリル酸樹脂、アクリロニトリル−ブタジエンエラストマー、スチレン−ブタジエンエラストマーなどが挙げられるが、中でも、ポリウレタンエラストマー、ポリウレアエラストマー、ポリウレタン−ポリウレアエラストマーなどのポリウレタン系エラストマーが好ましい。例えば、ポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、ポリエステルポリエーテルジオール、ポリラクトンジオール、ポリカーボネートジオールなどの平均分子量500〜3500のポリマージオールから選ばれた少なくとも1種を用いて得られるポリウレタン系エラストマーが好ましい。製品の耐久性の観点から、ポリカーボネートジオールを30重量%以上含むポリマージオールを用いて得られたポリウレタンがより好ましい。ポリカーボネートジオールが30重量%未満では、耐久性が低下することがある。
【0036】
ポリカーボネートジオールとは、ジオール骨格がカーボネート結合を介して連結されて高分子鎖を形成し、その両末端に水酸基を有するものである。該ジオール骨格は、原料として用いるグリコールにより決定されるが、その種類は特に制限されることはなく、例えば、1,6−ヘキサンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオールを用いることができる。また、これらのグリコール群から選ばれた少なくとも2種以上のグリコールを原料として用いた共重合ポリカーボネートジオールは、特に柔軟性と外観に優れた人工皮革を得ることができるので好ましい。また、特に柔軟性に優れた人工皮革を得る場合は、耐久性を損なわない範囲でポリマージオール中にカーボネート結合以外の化学結合、例えば、エステル結合、エーテル結合などを導入することが好ましい。
かかる化学結合を導入する方法としては、ポリカーボネートジオールとそれ以外のポリマージオールをそれぞれ単独で重合し、これらを、ポリウレタン製造時に適当な比率で混合して用いる方法を採用することができる。
【0037】
ポリウレタン系エラストマーはポリマージオール、有機ポリイソシアネ−ト、及び鎖伸長剤を、所定のモル比で反応させることにより得られる。反応条件は特に限定されず、従来公知の方法でポリウレタン系エラストマーを製造することができる。
【0038】
ポリマージオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ(メチルテトラメチレングリコール)などのポリエーテルポリオールおよびその共重合体;ポリブチレンアジペートジオール、ポリブチレンセバケートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレンアジペート)ジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレンセバケート)ジオール、ポリカプロラクトンジオールなどのポリエステルポリオールおよびその共重合体;ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレンカーボネート)ジオール、ポリペンタメチレンカーボネートジオール、ポリテトラメチレンカーボネートジオールなどのポリカーボネートポリオールおよびその共重合体;ポリエステルカーボネートポリオール等が挙げられる。また、必要に応じて、3官能アルコールや4官能アルコールなどの多官能アルコール、又は、エチレングリコール等の短鎖アルコールを併用してもよい。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に、非晶性のポリカーボネートポリオール、脂環式ポリカーボネートポリオール、直鎖状ポリカーボネートポリオール共重合体、及び、ポリエーテルポリオール等が、柔軟性と充実感のバランスにより優れた人工皮革が得られる点から好ましい。
【0039】
有機ポリイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の脂肪族あるいは脂環族ジイソシアネート等の無黄変型ジイソシアネート;2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートポリウレタン等の芳香族ジイソシアネート等が挙げられる。また、必要に応じて、3官能イソシアネートや4官能イソシアネートなどの多官能イソシアネートを併用してもよい。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中では、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートが、機械的特性に優れることから好ましい。
【0040】
鎖伸長剤としては、例えば、ヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジンおよびその誘導体、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジドなどのジアミン類;ジエチレントリアミンなどのトリアミン類;トリエチレンテトラミンなどのテトラミン類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−シクロヘキサンジオールなどのジオール類;トリメチロールプロパンなどのトリオール類;ペンタエリスリトールなどのペンタオール類;アミノエチルアルコール、アミノプロピルアルコールなどのアミノアルコール類等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中では、ヒドラジン、ピペラジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミンおよびその誘導体、ジエチレントリアミンなどのトリアミンの中から2種以上組み合わせて用いることが、力学性能の点から好ましい。また、鎖伸長反応時に、鎖伸長剤とともに、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミンなどのモノアミン類;4−アミノブタン酸、6−アミノヘキサン酸などのカルボキシル基含有モノアミン化合物;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのモノオール類を併用してもよい。
【0041】
高分子弾性体は水溶液、水分散体、又は有機溶媒溶液(例えば、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、アセトン、トルエンなどの有機溶媒の溶液)として絡合不織布に含浸させる。含浸させる方法は特に制限されないが、例えば、浸漬などにより絡合不織布内部に均一に含浸する方法、表面と裏面に塗布する方法などが挙げられる。含浸させた高分子弾性体の水溶液、水分散体、又は有機溶媒溶液は、人工皮革製造に従来採用されている条件及び方法(例えば、湿式法又は乾式法)により凝固させればよい。
高分子弾性体の水溶液、水分散体(例えば、水系エマルジョン)、又は有機溶媒溶液の濃度は5〜50重量%であるのが好ましい。
【0042】
高分子弾性体は水分散体として絡合不織布に含浸させることが好ましく、これにより、繊維絡合体に高分子弾性体の水系エマルジョンの固化物を含有させることになる。本発明では、繊維絡合体に水系エマルジョンの固化物を含有させることにより、後述する機械的収縮処理とヒートセット処理により、うねり構造を形成・保持しやすくすることができる。また、例えば、極細繊維としてヒートセットしにくいポリアミドを使用した場合等には、高分子弾性体を有機溶媒溶液として絡合不織布に含浸させると、機械的収縮及びヒートセット処理によりうねり構造を形成・保持しにくいため好ましくない。
【0043】
高分子弾性体の付与量は、繊維長(短繊維又は長繊維)、付与方法(水溶液、水分散体、有機溶媒溶液)により異なるが、製品の柔軟性、表面タッチ、染色均一性などから、固形分として極細繊維重量の5〜70重量%の範囲が好ましい。特に、短繊維を使用し、高分子弾性体の有機溶媒溶液を用いて付与する場合には、固形分として極細繊維重量の10〜70重量%が好ましい。付与量が10重量%未満では、耐摩耗性が低下しやすく、付与量が70重量%を越えると風合が硬くなりやすいので好ましくない。また、高分子弾性体中に必要に応じて着色剤、酸化防止剤、制電防止剤、分散剤、柔軟剤、凝固調整剤などの添加剤を配合してもよい。
【0044】
[難燃性微粒子]
本発明は、繊維絡合体中に高分子弾性体と難燃性微粒子を含有する伸縮性難燃人工皮革であり、前記難燃性微粒子の平均粒子径が10μm以下であることが、風合いと難燃性に優れる点で好ましい。そして、ジアルキルホスフィン酸の金属塩からなる難燃剤が難燃剤の表面への移行が抑制される点で好ましい。ジアルキルホスフィン酸の金属塩としては、一般的に難燃剤として提案されているものが使用できる。
難燃剤として提案されているジアルキルホスフィン酸の金属塩は、以下の(1)〜(3)等の性状を有するものである。
(1)リン含有率が20質量%以上である。
(2)水や溶剤に難溶性の白色の微細な粉状である。
(3)融点や熱分解温度が高い(通常、熱分解温度は300℃程度である。)。
かかるジアルキルホスフィン酸の金属塩は、リン含有率が20質量%以上と高いことから、優れた難燃性を有している。
また、微細な粉末状であるため、高分子弾性体を形成する高分子弾性体の水溶液、水分散体、又は有機溶媒溶液に配合した際に凝集等の問題が生じにくく、高分子弾性体に容易に内填できる。
そして、水や溶剤に難溶性であることから、耐水性および耐溶剤性に優れており、立毛調人工皮革に仕上げたときの立毛表面や、銀付調人工皮革に仕上げたときの接着剤層や表面層等の銀付表面からブリードアウトしにくい。また、融点や熱分解温度が高いことから耐熱性も良好である。そのため、水洗たく、ドライクリーニング等の洗たく処理や、ジャングル試験、熱老化試験等の促進試験に対する耐久性が高く、また、外観・触感を悪化させにくいと考えられる。
さらに、白色であることから、さらに銀付層を構成する接着剤層や表皮層を顔料等により着色する場合に色に制限がなく、任意の色に着色できる。
【0045】
ジアルキルホスフィン酸の金属塩を構成するジアルキルホスフィン酸イオンは、ホスフィン酸イオンの2つの水素原子がそれぞれアルキル基で置換されたイオンである。ジアルキルホスフィン酸イオンにおけるアルキル基としては、直鎖状、分岐状または環状のいずれであってもよく、炭素数が1〜5であることが好ましく、炭素数1〜2がより好ましい。該アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基等が挙げられる。ジアルキルホスフィン酸における2つのアルキル基は、それぞれ、同一でも異なっていてもよい。
ジアルキルホスフィン酸の金属塩を構成する金属としては、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、アンチモン、スズ、ゲルマニウム、チタン、亜鉛、鉄、ジルコニウム、セリウム、ビスマス、ストロンチウム、マンガン、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。本発明においては、特に、ジアルキルホスフィン酸の金属塩が、アルミニウム、カルシウム、チタン、亜鉛などの多価金属の塩であることが好ましく、特にアルミニウム塩が好ましい。このような多価金属塩は、水や溶剤に対する溶解性が非常に低い難溶性の塩であり、本発明の効果に優れる。
【0046】
ジアルキルホスフィン酸の金属塩の具体例としては、たとえば特表2001−525327号、特表2001−525329号、特開2004−346325号などに記載されているもの、たとえばジアルキルホスフィン酸(またはそのアルカリ金属塩)と、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、アンチモン、スズ、ゲルマニウム、チタン、鉄、ジルコニウム、セリウム、ビスマス、ストロンチウム、マンガン、リチウム、ナトリウム、カリウム等の金属を含有する金属化合物とを反応させて得られる化合物等が使用できる。これらのうち、金属が、上述したような多価金属であるものが好ましい。
【0047】
繊維絡合体中のジアルキルホスフィン酸の金属塩の含有量は、使用する用途・目的により難燃性評価の方法が違うため、また、使用する繊維絡合体の繊維の種類や目付や、高分子弾性体の種類や量などによっても必要とされる量が異なるため、それらを考慮して事前に設定すればよい。
カーシート用途の場合においては、比較的少量の難燃剤で、その難燃性能試験基準である水平法に合格させることができる。
【0048】
本発明の伸縮性難燃人工皮革がカーシート用途に使用される場合、充分な難燃性を確保するためには、ジアルキルホスフィン酸の金属塩の含有量は、繊維絡合体と高分子弾性体の合計重量に対して、10質量%以上であることが好ましい。ジアルキルホスフィン酸の金属塩の含有量が繊維絡合体と高分子弾性体の合計重量に対して、10質量%以上であると、優れた難燃性能が得られ、当該伸縮性難燃人工皮革を種々の難燃物品に利用できる。
本発明における伸縮性難燃人工皮革の好ましい構成としては、繊維絡合体がポリエステル繊維、高分子弾性体がポリウレタン樹脂であり、該ウレタン樹脂に難燃性微粒子が配合されている。
このような複合材料の場合、ポリエステル繊維は溶融ドリップして難燃性を示すが、ウレタン樹脂は溶融しにくく、両者の燃焼挙動は全く異なる。そのため、たとえばカーシートの用途で難燃性能試験基準に合格するためには、ウレタン樹脂に配合する難燃性微粒子の量を、当該ウレタン樹脂量と同じか又はそれ以上として、単位面積あたりの難燃剤の量を多くするなどしてウレタン樹脂を高度に難燃化し、ポリエステル繊維とウレタン樹脂の溶融挙動を同等レベルにする必要がある。特に、ウレタン樹脂層が、架橋剤で3次元架橋された構造を有している場合には、ウレタン樹脂層が非常に溶融しにくいため、極めて高度に難燃化する必要があると考えられる。
そこで、本発明においては、ウレタン樹脂中のジアルキルホスフィン酸の金属塩の量をウレタン樹脂重量に対して100質量%以上とし、ウレタン樹脂を高度に難燃化することにより、カーシート等の難燃物品用途の難燃性能試験基準に合格する難燃性が充分に達成できる。
【0049】
ポリウレタン樹脂を高度に難燃化するためには、粒子径大きい難燃剤を少量のポリウレタン樹脂を用いて付与することが必要であり、一般的にこのような方法で、含浸、バックコートを実施すると、難燃剤とポリウレタン樹脂が繊維絡合体を拘束し伸縮性の低下と風合いの硬化が避けられず、難燃性能試験基準に合格したとしても、縫製性が不良になる問題がある。本発明では、難燃性微粒子を付与して密度を高くしてもタテ方向にミクロなうねり構造を付与することで、上記の問題を解決することが可能である。さらに平均粒子径が10μm以下の難燃性微粒子を用いることで、難燃性と縫製性、高い見掛け密度にもかかわらず、風合いが良好で、タテ方向に適度な伸縮性を持たせるとともに、機械的物性を良好にして適度な伸び止まり感も持たせることができる。
【0050】
ポリウレタン樹脂中の、ジアルキルホスフィン酸の金属塩の含有量の上限値としては、特に制限はないが、ポリウレタン樹脂中のジアルキルホスフィン酸の金属塩の割合が800質量%以下となる量が好ましい。接着剤層中のジアルキルホスフィン酸の金属塩の割合が800質量%以下であると、難燃性微粒子の繊維絡合体に対する接着性が充分に確保できる。
【0051】
ポリウレタン樹脂は、ジアルキルホスフィン酸の金属塩で代表される難燃性微粒子およびウレタン樹脂以外の任意成分を含有してもよい。かかる任意成分としては、たとえば、遮光性を付与するための黒色顔料、隠蔽性を付与するためにアルミ顔料等が挙げられる。
また、本発明においては、ポリウレタン樹脂中に、ジアルキルホスフィン酸の金属塩以外の難燃性微粒子、たとえばジアルキルホスフィン酸の金属塩以外の従来提案されている水酸化アルミ等で代表される難燃性微粒子を含有してもよい。
【0052】
[銀面・立毛加工]
本発明の伸縮性難燃人工皮革は、少なくとも一方の表面に銀面を備えるか、又は、立毛処理により少なくとも一方の表面を立毛表面にして、銀付調人工皮革、半銀付調人工皮革、立毛調人工皮革、又はヌバック調人工皮革とすることが好ましい。銀面層を設ける方法及び立毛処理する方法は、従来人工皮革の製造に用いられている方法を採用すれば良く、本発明では特に限定されない。例えば、離型紙上に形成した表面層となる層を人工皮革用基体の少なくとも一方の面に接着層を介して接着する乾式造面法、人工皮革用基体の少なくとも一方の面に高分子弾性体の分散液又は溶液を塗布し、乾燥凝固させる方法などにより銀面層を形成することが出来る。また、人工皮革用基体の少なくとも一方の表面を針布、サンドペーパーなどで起毛し、次いで、整毛処理する方法などにより立毛表面を形成することができる。
【0053】
[人工皮革用基体]
上記したように、本発明の人工皮革用基体、すなわち熱収縮処理前の人工皮革は、好ましくは、短繊維又は長繊維の極細繊維もしくは極細化可能繊維をウェブ化し、得られたウェブを絡合して絡合不織布とし、その後、必要に応じて高分子弾性体付与処理、極細化処理、銀面・立毛加工を行うことにより得られたものである。
【0054】
人工皮革用基体の見掛け密度は0.25〜0.80g/cm
3であるのが好ましく、0.30〜0.70g/cm
3であるのがより好ましい。熱収縮処理前の人工皮革の見掛け密度をこれら範囲にすることにより、人工皮革用基体の繊維絡合体中の空隙が少なくなり、後述する熱収縮処理でうねり構造を形成しやすくなるとともに、加工性も良好にすることができる。また、目付は130〜1600g/m
2であるのが好ましく、150〜1400g/m
2であるのがより好ましく、厚さは0.5〜2.0mmであるのが好ましい。
【0055】
[うねり構造]
本発明の伸縮性難燃人工皮革におけるミクロなうねり構造は、人工皮革用基体をタテ方向(製造ラインのMD)に機械的に収縮させ、この収縮状態をヒートセットすることにより、極細繊維により構成される繊維絡合体、あるいは、繊維絡合体と該繊維絡合体に含有される高分子弾性体をタテ方向に沿って挫屈させて成形したものである。伸縮性難燃人工皮革は、このうねり構造(挫屈構造)により、その見かけ密度が高くても、柔軟な風合いと緻密な折り曲げ皺を有している。うねり構造は連続している必要はなく、タテ方向に不連続であっても良い。
【0056】
うねり構造は、タテ方向1mm中に存在するピッチ数が2.2個以上であり、平均高さ(山と谷の高さ差)は50〜350μm、平均ピッチは450μm以下であることを特徴とする。なお、ここで平均ピッチとは、うねり構造の1ピッチ(谷と次の山の間、山と次の谷の間)の距離の平均をいい、ピッチ数とは、1mm中に存在するピッチの数をいう。本発明の伸縮性難燃人工皮革は、繊維自体の伸長性ではなく、このようなうねり構造の変化(伸長)によりタテ方向に適度な伸びと伸び止まり感を有する。伸縮性難燃人工皮革は、タテ方向に適度な伸びを有するので着用感や製品への加工性が良好であり、また、適度な伸び止まり感を有するので着崩れ、型崩れ等を防止することができる。
【0057】
上記ピッチ数は好ましくは2.2〜6.7個、より好ましくは2.5〜5.0個である。また、上記平均ピッチは150〜450μmであることが好ましく、200〜400μmであることがより好ましい。ピッチ数を上記範囲とすることにより、より高い伸び止まり感が得られ、着用による型崩れが起こりにくくなるとともに、タテ方向の伸びが良好となり、着用感や成形性がより良好になる。
また、上記平均高さは、80〜300μmであることがより好ましい。平均高さを80〜300μmとすることにより、タテ方向の伸びや伸び止まり感をより良好にすることができると同時に表面の凹凸が抑制され、平滑性や外観に優れた人工皮革用基体を得ることが可能となる。
【0058】
本発明の人工皮革用基体は、タテ方向に機械的に収縮される際、ヨコ方向にはタテ方向よりも小さく収縮され、或いは実質的に収縮されない。そのため、ヨコ方向に沿うミクロなうねり構造は、ヨコ方向に共に平行な断面において形成されない。あるいは、形成されたとしても、ヨコ方向に共に平行な断面におけるうねり構造のうねり量は、タテ方向に共に平行な断面におけるうねり構造のうねり量よりも小さくなる。すなわち、伸縮性難燃人工皮革のタテ方向に沿ううねり構造のピッチ数(1mmあたり)、及び平均高さそれぞれは、ヨコ方向に沿ううねり構造のピッチ数(1mmあたり)、及び平均高さそれぞれよりも大きくなる。
【0059】
本発明の伸縮性難燃人工皮革は、タテ方向にミクロなうねり構造を備え、適度な伸長性を有するので、着用感や製品への加工性が良好であり、また、伸び止まり感を有するので着崩れ、型崩れ等を防止することができる。タテ方向伸長性及び伸び止まり感はタテ方向の荷重伸び曲線(縦軸:荷重、横軸:伸度)やタテ方向の5%円形モジュラスにより評価することができる。例えば、本発明の伸縮性難燃人工皮革は荷重40N/cmで10〜40%の伸長率((伸長した長さ/伸長前の長さ)×100)を示すことが可能である。タテ方向の5%円形モジュラスは、低伸長時の伸長性を示す指標であって、本発明ではうねり構造を形成することにより、例えば40N以下、好ましくは10〜30Nとすることが可能である。
伸び止まり感とは、全く伸びないことを意味するのではなく、伸度が一定値を超えたときに伸びに対する抵抗が著しく大きくなり、更に伸長することが容易ではなくなることを意味し、伸長する際の荷重変化に影響される。本発明では伸び止まり感をタテ方向の荷重伸び曲線(
図3参照)における30%伸長時の荷重と5%伸長時の荷重の比(30%伸長時/5%伸長時)で表す。5%伸長時の荷重は縫製性、加工性、着用感に大きく影響する。人工皮革を30%を超えて伸長した場合、通常人工皮革を構成する不織布の構造は大きく変化してしまい、このような人工皮革は本発明が意図する着崩れ、型崩れ防止効果を示すことができない。この理由で30%伸長時の荷重を採用した。本発明の伸縮性難燃人工皮革の上記荷重比は5以上であることが好ましく、5〜40であることがより好ましく、特に8〜40であることが好ましい。上記範囲内であるとタテ方向の伸長に対する伸び止まり感があり、着用による型崩れが少なく、着用感や種々の用途への加工性がよい。
【0060】
[伸縮性難燃人工皮革の見掛け密度・目付]
本発明の伸縮性難燃人工皮革の見掛け密度は、0.40g/cm
3以上であることを特徴とする。見掛け密度を0.40g/cm
3以上とすることにより、人工皮革内部の空隙が少なくなり、機械的収縮処理によって容易にうねり構造が形成される。また、引裂強力、剥離強力等を良好にでき、特に伸び止まり感を良好にすることができるので、うねり構造によってタテ方向伸縮性を確保しつつ、高強度の人工皮革を得ることができる。見掛け密度は、より好ましくは0.45g/cm
3以上、さらに好ましくは0.50g/cm
3以上である。また、好ましくは0.80g/cm
3以下であり、より好ましくは0.70g/cm
3以下、さらに好ましくは0.65g/cm
3以下である。見掛け密度を0.80g/cm
3以下とすることにより、種々の用途への加工性を良好にすることができる。
【0061】
伸縮性難燃人工皮革の目付は、好ましくは150g/m
2以上であり、より好ましくは200g/m
2以上、さらに好ましくは250g/m
2以上である。また、好ましくは1500g/m
2以下であり、より好ましくは1200g/m
2以下、さらに好ましくは1000g/m
2以下である。伸縮性難燃人工皮革の目付が150g/m
2以上にすることにより、良好な反発感が得られやすくなるため好ましい。また伸縮性難燃人工皮革の目付が1500g/m
2以下の場合、種々の用途への加工性が良好になる傾向にあり好ましい。また、厚さは用途に応じて選ばれるが、0.35〜2.00mm、好ましく0.40〜1.50mmである。本発明では、機械的収縮処理・ヒートセット処理が施されることにより、その見掛け密度、目付それぞれは、人工皮革用基体、すなわち機械的収縮処理前の人工皮革の見掛け密度、目付よりも大きくなる。
【0062】
[うねり構造の形成]
タテ方向に沿うミクロなうねり構造は、人工皮革用基体をタテ方向に機械的に収縮して、その収縮状態でヒートセットすることにより得られるものである。
【0063】
本発明の機械的収縮処理の具体例の一つとして、人工皮革用基体を厚さが数cm以上の厚い弾性体シート(ゴムシート、フェルトなど)のタテ方向に伸長した表面に密着させ、該表面が伸長状態から伸長前の状態に弾性回復させることによって、該人工皮革用基体をタテ方向に収縮させる方法が挙げられる。
図1は、この方法により人工皮革用基体を収縮処理する装置の一例を表す概略図である。厚い弾性体シートからなるベルト3はプレッシャーローラ4(表面の材質:金属製)の表面に接しながら進行する。この間に、ベルト3の外表面はベルトの内外周差によりタテ方向に伸長される。ターンローラ5a、5bより送られてきた人工皮革用基体1をベルト3の伸長した外表面に密着させる。ベルト3とこれに密着した人工皮革用基体1はプレッシャーローラ4とドラム2(表面の材質:金属製)の間隙を通過し、ドラム2の表面に接しながら走行する。この間隙を通過後、ベルト3の人工皮革用基体1側の表面はタテ方向の伸長状態から伸長前の状態に弾性回復することによって進行方向(タテ方向)に追い込まれるように収縮する。
ベルト3の伸長状態から弾性回復状態への変化に対応して人工皮革用基体1は進行方向(タテ方向)に追い込まれるように収縮され、その後、収縮した人工皮革用基体6として引き取られていく。内外周差を利用して弾性シートの外表面を後述する範囲の伸長率で伸長させるためにはプレッシャーローラ4の外径は10〜50cmであることが好ましい。また、弾性シートの外表面の伸長状態を緩和し、伸長前の状態に弾性回復させることで、弾性シートをタテ方向(進行方向)に収縮させるのと同時に人工皮革用基体を後述する範囲の収縮率でタテ方向(進行方向)に収縮させるためには、ドラム2の外径はプレッシャーローラ4の外径よりも大きく、20〜80cmであることが好ましい。ドラム2の径はヒートセット時間を長くし、ヒートセットを効率よく行うためには大きいほど好ましいが、弾性体ベルトの内外収差を利用した収縮率を後述する範囲に設定するためには小さい方がよいので、ドラム2とローラ4の外径はこれらを考慮して決められる。通常は、ヒートセット時間を優先して決めるのが好ましい。プレッシャーローラ4は直接加熱せず、収縮加工前の原反(人工皮革用基体)を予熱する方法が一般的であるが、定常運転状態になったときのローラ4の表面温度は40〜90℃程度であるのが好ましく、ドラム2の表面温度は70〜150℃に加熱されていることが好ましい。
ベルト3はゴムまたはフェルトなどの厚いベルトが好ましく、厚さは通常20mm以上である。また、
図1のターンローラ5a、5bによる人工皮革用基体1の搬送速度をベルト3の搬送速度より高くすると、人工皮革用基体1がベルト3の表面上でタテ方向に折り畳まれ、この折り畳まれた人工皮革用基体1が厚いベルト3の表面の伸長状態から弾性回復状態への変化により収縮されるので、人工皮革用基体1の収縮効果を増大することができる。
【0064】
他の機械的収縮処理方法として、加圧ローラ間でニップして変形させて、弾性体シートが伸長状態から弾性回復する作用を利用して人工皮革用基体をタテ方向(進行方向)に収縮させる方法もある。
図2はこの方法により人工皮革用基体を収縮処理する装置の一例を表す概略図である。金属ローラ11と肉厚ゴム部12を有するゴムローラ13の表面に沿って弾性体シート製のベルト3が循環走行している。ベルト3の外表面はゴムローラ13の表面を走行する際に内外周差によりタテ方向に伸長する。ベルト3の伸長した外表面に人工皮革用基体1を供給する。ベルト3と人工皮革用基体1は金属ローラ11とゴムローラ13のニップ部へ導かれる。ニップの圧力で肉厚ゴム部12はゴムローラ13の中心方向に変形される。この変形によりベルト3は伸長状態から元の状態に弾性回復し、これに伴って人工皮革用基体1は圧縮下でタテ方向(進行方向)に収縮する。収縮した人工皮革用基体14は加熱されている金属ローラ11の表面に沿って走行し、この間に熱処理されて引き取られる。金属ローラ11の表面温度は70〜150℃であることが好ましい。ゴムローラ13は直接加熱せず、収縮加工前の原反(人工皮革用基体)を予熱する方法が一般的であるが、定常運転状態になったときのゴムローラ13の表面温度は40〜90℃であることが好ましい。
【0065】
上記機械的収縮処理を利用してうねり構造を形成する方法は、弾性体シートの表面をタテ方向に伸長させながら人工皮革用基体を該表面に接着剤などの接着手段を用いることなく密着させ、次いで、伸長状態を緩和させて該弾性体シート表面を伸長前の状態に弾性回復させると共に人工皮革用基体を進行方向(タテ方向)に追い込むように収縮させることを特徴とする。人工皮革用基体を密着させる際の弾性シート表面の伸長率((伸長した長さ/伸長前の長さ)×100)は5〜40%、好ましくは7〜25%、より好ましくは10〜20%である。5%以上であれば、タテ方向にほとんど伸長しない人工皮革用基体を密着させた場合であっても、本方法によりうねり構造を形成することができる。例えば、目付250g/m
2以下の短繊維からなる人工皮革用基体は、その製造工程でかかる張力によって伸びが生じ、その結果、タテ方向に伸長し難い。しかし、本方法によれば、短繊維を用いた場合であっても、うねり構造により、容易にタテ方向に伸長する伸縮性難燃人工皮革を得ることができる。また、スパンボンド法によるウェブを用いた場合、一般にタテ方向にフィラメントが並び、タテ方向に伸長し難い人工皮革用基体が得られるが、本方法によれば、うねり構造により、タテ方向に伸長する伸縮性難燃人工皮革を得ることができる。
【0066】
収縮処理は好ましくは70〜150℃、より好ましくは90〜130℃で行い、好ましくは2〜20%の収縮率、より好ましくは4〜15%の収縮率で人工皮革用基体をタテ方向に収縮させる。
収縮率=[(収縮前の長さ)−(収縮後の長さ)]/収縮前の長さ×100
【0067】
機械的収縮処理で用いられる弾性体シートは、上述の弾性特性を有するシート状物であればよく、特に限定されないが、天然ゴムまたは合成ゴムのシートを用いるのが好ましい。天然ゴムまたは合成ゴムの弾性シートを用いれば、特に、弾性回復力が高いので、密着した人工皮革用基体と共に収縮する際、人工皮革用基体の抵抗力に逆らってなお充分に人工皮革用基体を収縮させる効果を得ることができる。また、収縮処理時における、加熱、加圧による人工皮革用基体表面の構造変化を防止するためには、弾性体シートのテンションを低くコントロールするとともに、硬度の低い弾性体シートを用いることが好ましい。
【0068】
弾性体シートの厚さは20〜100mmであるのが好ましく、30〜70mmであるのがより好ましい。上記範囲内であると、内外周差を利用して弾性体シートをタテ方向に効果的に伸長、収縮させることができる。
【0069】
天然ゴムとしては、ヘベア樹などの樹皮から採取されるシス−1,4−ポリイソプレンを主成分とするゴムなどを用いることができる。
合成ゴムとしては、スチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、エチレン−酢酸ビニルゴム、塩素化ポリエチレンゴムなどを用いることができる。
【0070】
本方法においては、弾性体シートから人工皮革用基体を引き離す前に加熱により人工皮革用基体の収縮状態をヒートセットするため、弾性体シートは耐熱性に優れていることが好ましく、耐熱性を有するシリコーンゴム、フッ素ゴムまたはエチレンプロピレンゴムが好ましい。
【0071】
本方法においては、人工皮革用基体をタテ方向に収縮させた後、弾性体シートから引き離す前に該人工皮革用基体を加熱し、収縮状態をヒートセットする。これにより適切なうねり構造を形成し、伸縮性を高めた伸縮性難燃人工皮革を得ることができる。該ヒートセットのための加熱温度は、人工皮革用基体に含まれる繊維が製造工程で受けた熱履歴を考慮して100〜150℃の範囲から選択するのがよい。例えば、液流染色機などで湿熱120℃処理した人工皮革用基体の場合には、ヒートセットのための温度は、湿熱処理の場合は120℃以上、乾熱処理の場合は140℃以上が好ましい。ヒートセットの処理時間は、人工皮革用基体に含まれる繊維のポリマー種およびヒートセット温度によって異なり、通常0.1〜5分の範囲から選ばれる。例えばポリエチレンテレフタレート繊維の場合、1〜3分であるのがヒートセット、加工安定性の点で好ましい。一度のヒートセットで不十分な場合は、弾性体シートから人工皮革用基体を引き離した後に、再度ヒートセットすることが好ましい。
【0072】
ヒートセットする方法は熱風を人工皮革用基体に吹き付けて加熱する方法、赤外線ヒーターを用いて加熱する方法、加熱シリンダーと弾性体シートもしくは不織布シートの間に挟んで熱処理する方法など公知の方法を用いることができるが、低テンションで処理可能な点から、加熱シリンダーとシートの間に挟んで熱処理して、加熱シリンダーのアイロン効果を利用する方法が好ましく用いられる。ヒートセットされた人工皮革用基体は通常2〜15m/分の速度で引き取られる。
【0073】
本方法では効果的にうねり構造を形成するためには、人工皮革用基体を弾性体シートに密着させる前に、人工皮革用基体を軟化させるための予熱処理及び/又は加湿処理をすることが好ましい。
予熱処理する方法としては、スチーム又は水を吹き付けて加湿しながら加熱する方法、熱風を人工皮革用基体に吹き付けて加熱する方法、赤外線ヒーターを用いて加熱する方法など公知の加熱方法を用いることができる。使用する人工皮革用基体により予熱処理の最適条件が異なるが、予熱温度は40〜100℃が好ましい。収縮処理時に人工皮革用基体が過度に昇温することを防止するためには、スチーム又は水をスプレーして加湿処理することにより人工皮革用基体に水分を付与しておくことが好ましい。水分付与量は人工皮革用基体の極細繊維の量に対して1〜5重量%が好ましい。これにより、人工皮革用基体の温度を100℃以下に容易にコントロールすることが出来る。また、100℃以上に人工皮革用基体を昇温して収縮処理を効果的に行いたい場合には、熱風もしくは赤外線ヒーターを用いることが好ましい。予熱処理と加湿処理は組み合わせてもよい。
【0074】
本発明では人工皮革用基体を進行方向(タテ方向)に追い込むように収縮させるので、得られる伸縮性難燃人工皮革は、上記したようにミクロな挫屈構造(うねり構造)を有している。また、本発明では、人工皮革が高密度でかつ極細繊維からなる不織布構造を有しているので、ミクロなうねり構造は形成され易い。
【0075】
なお、本発明においてタテ方向は人工皮革製造ラインの流れ方向(MD)であり、これと直交する方向がヨコ方向である。製品中の人工皮革のタテ方向は、一般に極細繊維の繊維束の配向方向、ニードルパンチや高速流体処理等によるスジ跡や処理跡等の複数の要素から決定することができる。これらの複数の要素により決定したタテ方向が異なる、明確な配向がない、またはスジ跡などがない等の理由でタテ方向を決定することができない場合には、引張強力が最大となる方向をタテ方向、それと直交する方向をヨコ方向とする。
【0076】
[その他の添加剤]
本発明の伸縮性難燃人工皮革には、本発明の効果を逸脱しない範囲において、上述した添加剤以外に、他の染料、柔軟剤、風合い調整剤、ピリング防止剤、抗菌剤、消臭剤、撥水剤、耐光剤、耐侯剤等の機能性薬剤が含まれていても良い。
【0077】
以上のように、本発明の伸縮性難燃人工皮革は、高い見掛け密度とうねり構造を有するため、難燃性微粒子を含有しながらも、タテ方向に適度な伸長性を有しながら、機械的強度を有し伸び止まり感があり、表面品位に優れることになる。そのため、衣料や家具、カーシート、雑貨等の幅広い用途に使用することができる。また、伸縮性難燃人工皮革におけるうねり構造は、人工皮革用基体をタテ方向に収縮させヒートセットすることにより容易に形成することができる。
【実施例】
【0078】
以下、本発明を実施例で詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。実施例中の各物性値は下記の方法により測定した。
【0079】
(1)目付、見掛け密度
目付はJIS L 1096
8.4.2(1999)に記載された方法で測定した。また、厚みをダイヤルシックネスゲージ((株)尾崎製作所製、商品名“ピーコックH”)により測定し、目付の値を厚みの値で割って見掛け密度を求めた。
【0080】
(2)伸び止まり感
JIS L 1096(1999)8.14.1
A法記載された方法で測定した。幅2.5cmの試験片をつかみ間隔20cmのチャックに固定し、一定速度で試験片を引っ張り、伸びと荷重を求めた。その結果から、横軸が伸長率(%)、縦軸が試験片2.5cm幅あたりの荷重(Kg/2.5cm)である荷重伸び曲線を作成した。この曲線から、30%伸長時の荷重と、5%伸長時の荷重を求め、その比(30%伸長時/5%伸長時)を求めた。3回測定し、その平均値を小数点以下1けたに丸めた。伸び止まり感が良好である場合(前記比が8以上)を“A”とし、伸び止まり感がやや良い場合(前記比が5以上8未満)を“B”とし、それ以外を“C”として評価した。
【0081】
(3)伸長率
前記荷重伸び曲線から荷重40N/cmのときのタテ方向伸長率を求めた。
【0082】
(4)平均単繊維繊度
光学顕微鏡にてランダムに選んだ100個の繊維の断面積を測定し、その数平均を求めた。繊維断面積の平均値と繊維の比重から、繊度を計算により求めた。なお、繊維の比重はJIS
L 1015
8.14.2(1999)に基づいて測定した。
【0083】
(5)5%円形モジュラス(N)
図8に示すように、300mmφの円形試験片1片にタテ方向に延びる直線上中央部に200mm間の標点をタテ方向に記し、インストロン型引張試験機でつかみ間隔200mm、引張速度200mm/分で5%伸長時のモジュラスを測定するものである。
【0084】
(6)うねり構造評価
伸縮性難燃人工皮革の厚み方向とタテ方向に共に平行な断面を走査型電子顕微鏡で撮影し、厚さ方向の任意の位置におけるタテ方向に沿う5.0mmにおいて、うねり構造のピッチ(すなわち、谷から次の山、および山から次の谷)を数えていき、その平均を求めて1mm中に存在するピッチ数とした。また、上記5.0mm中に見られたうねり構造において、隣接する山と谷の高さ差それぞれの平均を求めてうねり構造の平均高さとするとともに、ピッチのタテ方向に沿う平均長さを平均ピッチとした。なお、隣接する山と谷の高さ差は、厚さ方向に沿う山と谷の高さ差を求めた。
【0085】
(7)カーシートの難燃性評価
試料として、伸縮性難燃人工皮革用基体から無作為に切り取った100mm×356mmのものを用いて、FMVSS302法を用いて燃焼速度を測定した。なお、難燃性の基準は自動車メーカーによってまちまちであるが、自消性(燃焼速度が0)であれば問題なく合格である。燃焼する場合には、一般的には、例えば燃焼速度が10mm/min以下であれば合格と取り決められている。
【0086】
実施例1
水溶性熱可塑性のエチレン変性ポリビニルアルコール(変性PVA、海成分、変性度10モル%)と、変性度6モル%のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレ−ト(変性PET、島成分)を、海成分/島成分が25/75(質量比)となるように260℃で溶融複合紡糸用口金(島数:25島/繊維)より吐出した。紡糸速度が3700m/minとなるようにエジェクター圧力を調整し、平均繊度が2.1デシテックスの海島型長繊維をネット上に捕集した。ついで、表面温度42℃の金属ロールでネット上の海島型長繊維からなるシートを軽く押さえ、表面の毛羽立ちを抑えてネットから剥離し、表面温度75℃の金属ロール(格子柄)とバックロール間で熱プレスして表面繊維が格子状に仮融着した目付34g/m
2の長繊維ウェブを得た。
【0087】
上記長繊維ウェブに油剤および帯電防止剤を付与し、クロスラッピングにより10枚重ねて総目付が340g/m
2の重ね合わせウェブを作製し、更に針折れ防止油剤をスプレーした。次いで、針先端から第1バーブまでの距離が3.2mmの6バーブ針を用い、針深度8.3mmにて両面から交互に3300パンチ/cm
2でニードルパンチした。このニードルパンチ処理前後の面積保持率は77%であり、ニードルパンチ後の絡合不織布の目付は440g/m
2であった。
【0088】
上記絡合不織布に対して10質量%の量の水を付与して、相対湿度95%、70℃の雰囲気下で、熱処理により収縮を生じさせ、不織布の見かけの密度を向上させ、緻密化された不織布を得た。この緻密化処理による面積収縮率は50%であり、また該不織布の目付は880g/m
2、見かけ密度は0.52g/cm
3であった。ついで該緻密化不織布を乾熱ロールプレスし、水系ポリウレタンエマルジョンを含浸付与し、150℃で乾燥およびキュアリングを施し、高分子弾性体含有不織布シートを得た。ついで、95℃の熱水中でPVAを溶解除去し、樹脂繊維比率R/F=12/88の人工皮革用基体を得た。
【0089】
得られた人工皮革用基体を主表面に平行にスライスして2分割した(厚み:0.67mm)。次いで、難燃加工として、PekoflamS−ST1(ジアルキルホスフィン酸の金属塩、平均粒子径3.5μm、最大粒子径約10μm、固形分40%、クラリアントジャパン株式会社製)38部、自己乳化型水系ポリウレタンエマルジョン(ポリカーボネート系、固形分40%、100%モジュラス:27MPa)5部、ラステックスLB(固形分30%)15部、ニッカシリコンAM202(固形分26.4%)5部、水37部からなる処理液を、人工皮革用基材重量に対して90%付与した後、120℃で乾燥し難燃性人工皮革用基体とした(厚さ0.64mm、目付369/m
2、見掛け密度0.577g/cm
3)。この難燃性人工皮革用基体のタテ方向の荷重伸び曲線を
図3に、厚さ方向及びタテ方向に平行な断面の走査型電子顕微鏡写真を
図6、7に示した。
【0090】
上記、難燃性人工皮革用基体を、加湿部と、加湿部から連続的に送られてくる人工皮革用基体を収縮加工する収縮部と、この収縮部で収縮加工された布帛をヒートセットするヒートセット部とを備えた、収縮加工装置(小松原鉄工株式会社製、サンフォライジング機)を用いて、収縮部のドラム温度120℃、ヒートセット部のドラム温度120℃、搬送速度10m/分で処理してタテ方向(長さ方向)に5.5%収縮させ伸縮性難燃人工皮革を得た。伸縮性難燃人工皮革のタテ方向の荷重伸び曲線を
図3に、厚さ方向及びタテ方向に平行な断面の走査型電子顕微鏡写真を
図4、5に示した。
【0091】
実施例2
水溶性熱可塑性のエチレン変性ポリビニルアルコール(変性PVA、海成分、変性度10モル%)と、変性度6モル%のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレ−ト(変性PET、島成分)を、海成分/島成分が25/75(質量比)となるように260℃で溶融複合紡糸用口金(島数:25島/繊維)より吐出した。紡糸速度が3700m/minとなるようにエジェクター圧力を調整し、平均繊度が2.1デシテックスの海島型長繊維をネット上に捕集した。ついで、表面温度42℃の金属ロールでネット上の海島型長繊維からなるシートを軽く押さえ、表面の毛羽立ちを抑えてネットから剥離し、表面温度75℃の金属ロール(格子柄)とバックロール間で熱プレスして表面繊維が格子状に仮融着した目付34g/m
2の長繊維ウェブを得た。
【0092】
上記長繊維ウェブに油剤および帯電防止剤を付与し、クロスラッピングにより8枚重ねて総目付が272g/m
2の重ね合わせウェブを作製し、更に針折れ防止油剤をスプレーした。次いで、針先端から第1バーブまでの距離が3.2mmの6バーブ針を用い、針深度8.3mmにて両面から交互に3300パンチ/cm
2でニードルパンチした。このニードルパンチ処理前後の面積保持率は77%であり、ニードルパンチ後の絡合不織布の目付は350g/m
2であった。
【0093】
上記絡合不織布に対して10質量%の量の水を付与して、相対湿度95%、70℃の雰囲気下で、熱処理により収縮を生じさせ、不織布の見かけの密度を向上させ、緻密化された不織布を得た。この緻密化処理による面積収縮率は47%であり、また該不織布の目付は630g/m
2、見かけ密度は0.45g/cm
3であった。ついで該緻密化不織布を乾熱ロールプレスし、水系ポリウレタンエマルジョンを含浸付与し、150℃で乾燥およびキュアリングを施し、高分子弾性体含有不織布シートを得た。ついで、95℃の熱水中でPVAを溶解除去し、樹脂繊維比率R/F=12/88の人工皮革用基体を得た。
【0094】
得られた人工皮革用基体を主表面に平行にスライスして2分割した(厚み:0.54mm)。次いで、実施例1と同様に難燃加工を行い難燃性人工皮革用基体とした(厚さ0.61mm、目付296/m
2、見掛け密度0.485g/cm
3)。上記、難燃性人工皮革用基体を実施例1と同様に収縮加工装置を用いて処理し、タテ方向に7.9%収縮させ、伸縮性難燃人工皮革を得た。
【0095】
実施例3
島成分が変性度6モル%のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレ−ト、海成分がポリエチレンの海島型複合繊維ステープル(島成分:海成分=60:40(質量比);繊度4.0デシテックス;繊維長51mm;捲縮数12クリンプ/inch)をカード、クロスラッピングしてウェブを作成した。
該ウェブを1200パンチ/cm
2のニードルパンチを行って絡合処理し、次いで、90℃の熱水中で収縮させることにより、目付750g/m
2の絡合不織布を得た。
【0096】
得られた絡合不織布にポリエーテル系ポリウレタンの15%ジメチルホルムアミド(DMF)溶液を含浸した後、DMFと水の混合液浴中に浸漬してポリウレタンを湿式凝固した。残存するDMFを水洗除去した後、85℃のトルエン浴中で海成分のポリエチレンを抽出除去し、100℃の熱水浴中で残存するトルエンを共沸除去し、乾燥することにより、目付675g/m
2、厚み1.5mmの人工皮革用基体を得た。
【0097】
得られた人工皮革用基体の表面を180番のサンドペーパーにより2回バフィングして、表面を平滑にしつつ厚みを0.65mmとした。次いで、表面を240番のサンドペーパーで2回および400番のサンドペーパーで2回順次バフィングしてポリエチレンテレフタレート極細繊維からなる立毛面を形成した立毛調人工皮革とした(厚さ0.65mm、目付304/m
2、見掛け密度0.468g/cm
3)。
【0098】
次いで、実施例1と同様に難燃加工を行い難燃性人工皮革用基体とした(厚さ0.64mm、目付325/m
2、見掛け密度0.508g/cm
3)。上記、難燃性人工皮革用基体を実施例1と同様に収縮加工装置を用いて処理し、タテ方向に3.5%収縮させ、伸縮性難燃人工皮革を得た。
【0099】
実施例1〜3で得られた伸縮性難燃人工皮革の評価結果を表に示した。
実施例1〜3で得られた伸縮性難燃人工皮革用基体は、タテ方向に沿うミクロなうねり構造を有しており、難燃性微粒子を含有しながらも、タテ方向の伸縮性、伸び止まり感に優れたものとなった。そして、柔軟な風合いを併せ持ち、高密度で機械的物性に優れていながら、風合いは充実感がある上に柔軟であり、かつ屈曲すると細かな皺が均一に生じ、カーシート用の人工皮革用基体として極めて優れた素材であった。
【0100】
比較例1〜3
収縮加工を施さない以外は実施例1〜3と同様にして人工皮革用基体を得た。評価結果を第1表に示した。比較例1の収縮加工を施さない人工皮革用基体のタテ方向の荷重伸び曲線、及び、厚さ方向及びタテ方向に平行な断面の走査型電子顕微鏡写真は
図6,7を参照。
【0101】
【表1】
【0102】
第1表から明らかなように、比較例1〜3の人工皮革用基体は、タテ方向の伸長性や伸び止まり感に乏しく、風合いの硬いものであった。