(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Mn塩とLi塩の水溶液に、Si源の溶液を金属元素比率(Li:Mn:Si)が1.8〜2.2:0.9〜1.1:0.9〜1.1となるように混合し、さらに分子内にカルボキシル基と水酸基を併せ持つかカルボキシル基を2個以上有する有機酸の水溶液を、Liに対する濃度が等モル以下となるように添加・混合した後、得られた金属塩の水分散体を凍結乾燥し、引き続き、不活性雰囲気あるいは還元性雰囲気で加熱処理して、表面にカーボン被膜が形成されたリチウムシリケート化合物を合成することを特徴とするリチウムシリケート化合物の製造方法。
前記混合液に、さらにFe塩、Co塩、Ca塩、Zn塩、またはMg塩から選ばれる1種以上の水溶液を混合し溶解させることを特徴とする請求項1に記載のリチウムシリケート化合物の製造方法。
前記凍結乾燥が、前記水分散体を凍結させ、−30℃〜0℃、かつ4〜48時間の減圧条件で行われることを特徴とする請求項1に記載のリチウムシリケート化合物の製造方法。
前記加熱処理が、窒素、または水素のいずれか一種以上を含む雰囲気中、500〜900℃の温度で1〜24時間行われることを特徴とする請求項1に記載のリチウムシリケート化合物の製造方法。
【背景技術】
【0002】
現在、リチウム二次電池は、軽量でエネルギー密度が高いことから、携帯電話、ノート型パソコン、その他IT機器などの小型電池に幅広く使用されてきており、IT機器の発展、普及に伴い、現在もその需要が世界的な規模で伸びている。
これらの小型電池には主として、LiCoO
2、LiCoNiMnO
2、LiNiAlO
2などの層状岩塩化合物からなる正極活物質が用いられている。
さらに、これらの小型電池に加えて、産業用の大型電池として、ハイブリッド自動車(HEV)用、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)、電気自動車(EV)用、電力平準化用、電力貯蔵用など、さらに多方面にその需要の拡大が期待され、研究開発も盛んに行われている。
【0003】
こうした需要環境の中、産業用の大型電池が本格的に実用化されるための課題として、正極材料には、高い安全性、高寿命、高出力、低価格が要求されている。
そして、高い安全性と優れたサイクル性能を示し、低価格で製造可能なLiFePO
4が、LiCoO
2やLiMn
2O
4等の代替正極材料として注目されている。このLiFePO
4は、リン酸の強固な骨格を有するため、安全で放電容量が高く、サイクル寿命の良い材料である。しかし、LiFePO
4の実容量は170mAh/gと理論値に達しており、更なる高容量化は困難である。
【0004】
そこで、高安全性を維持しつつ更なる高容量化が期待される材料として、金属ケイ酸リチウム塩(Li
2MSiO
4:Mは、Mn、Fe等の遷移金属)が提案されている(例えば、特許文献1)。このケイ酸金属リチウム塩を正極活物質として用いた場合、遷移金属(M)1モルに対し、2モルのLiを含有することから、容量の理論値は330mAh/gに達する。しかしながら、Li
2MSiO
4は、LiFePO
4と比べ、まだ電子伝導性が低く、得られている容量は理論値より大幅に低いため、粒子を微細化するとともに、さらに黒鉛などの導電性材料の被覆・複合化することにより、導電性を改善することが試みられている。そのケイ酸金属リチウム塩を製造するには、できる限り簡易な方法で、微細なLi
2MSiO
4粒子が得られるとともに、導電性材料との複合化が可能であることが重要である。
【0005】
これまでにケイ酸金属リチウム塩の合成方法として、固相法、水熱法、ゾル−ゲル法等が報告されている。
固相法では、ケイ酸リチウムと2価の遷移金属原料として蓚酸塩を、溶媒中で混合し焼成することが提案されている(例えば、非特許文献1)。これにより高純度のケイ酸金属リチウム塩を得ることができる。しかし、蓚酸塩は価格が高く、また強い毒性があるために人体や環境面でも好ましくなく、多量に合成する方法も確立されていない。
さらに、一般的に固相法では反応に必要な温度が高いために、1次粒子が粗大化し、凝集成長しやすく、粒子径が大きくなる。また、このようにして得られたLi
2MSiO
4は、粒子が粗大で導電性が低いために、強力な微細化処理が必要となる。
【0006】
これに対して、水熱法では、蓚酸塩を用いることなく、高純度のケイ酸金属リチウム塩が得られるという特徴がある(例えば、非特許文献2)。ただし、水熱法では合成時に、生成物の2倍のリチウムが必要であり、工業的に多量に合成する場合には課題が多い。
さらに、短時間で効率的なケイ酸金属リチウム塩の製造方法として、アルカリ金属、遷移金属およびケイ素の供給源となる化合物を混合、加熱して溶融した後、徐冷する方法が提案されている(例えば、特許文献2)。この提案においては、原料を溶融状態にまで加熱するため、得られるケイ酸金属リチウム塩は粗大粒子となり、微粒化することが困難といわれている。
【0007】
上記のように、固相法には、高純度のケイ酸金属リチウム塩を得ることができるという利点があるものの、一般的に出発原料の粒径が数μm程度であることから、イオン拡散性に問題が有り、反応に長時間が必要であること、元素の種類によってはドープが極めて困難であること、さらに、反応温度が高いことによるリチウム欠陥等が懸念され、電池材料としてのリチウムシリケート化合物の合成には不向きである。
リチウムシリケート化合物は、その結晶構造上の特徴より導電性が劣るため、電池特性発現の為にはカーボンコートによる導電性付与が必須であり、合成効率、省エネルギー的観点から、リチウムシリケート化合物の合成と同時に一括でカーボンコートする方法が渇望されている。
しかし、固相法反応によるリチウムシリケートにおいては、一般的に出発原料の粒径が数μm程度であることからイオン拡散性に問題が有り反応に長時間が必要であること、さらに、反応を進めるためには高温が必要であり、有機物を用いたカーボンコートを同時処理にて行うことは極めて困難である。
【0008】
一方、液相法によるリチウムシリケート合成は、出発原料の水溶液或いは水分散体を乾燥、加熱することにより行われる。本出願人も、原料金属塩の溶液とケイ酸イオンを含む溶液を特定のpH条件下、混合して共沈殿物を晶析させ、固液分離後、水洗、乾燥することを提案した(例えば、特許文献5参照)。ここでは、得られた正極活物質の前駆体に、スクロース、グルコースといった単糖類、二糖類などの炭水化物を混合して、カーボンコートすることが記載されている。これにより、導電性が向上したが、製造工程が増え、さらなる改良が必要とされていた。
【0009】
そのため、出発原料の水溶液中の金属イオンを錯体化する工程で、同時に炭素源を添加し、加熱乾燥し、さらに焼成時のリチウムシリケート合成とともにカーボンコートを行う方法も提案され、炭素源としてクエン酸を用い、金属塩の水溶液或いは水分散体中へと添加する方法が報告されている(非特許文献3)。クエン酸を用いることは、すでにLiMn
2O
4のリチウム電池活物質の製造に関する特許文献4でも提案されているが、400℃以上の温度で熱分解することで良質なカーボンコート材となることが確認されている。
【0010】
しかしながら、リチウムシリケート合成の場合、Mnを含む水溶液を加熱乾燥するので、その時にMnがクエン酸と難溶性化合物の凝集体を形成するため均一な前駆体を得ることが困難であった。結果、得られるリチウムシリケート化合物の純度および電池特性が不十分となって、実用的なリチウム電池は得られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、表面に均一にカーボン被膜が形成された高純度のリチウムシリケート化合物を簡単、かつ短時間で製造できるリチウムシリケート化合物の製造方法および得られるリチウムシリケート化合物、それを用いたリチウムイオン電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、上記の課題に対し鋭意検討を重ねた結果、Mn塩、Li塩、Si源を含む反応溶液中に特定の有機酸を添加しながら、前記金属塩を含む水溶液或いは水分散体とし、これを従来のように加熱乾燥するのではなく凍結乾燥させると、その後、不活性雰囲気あるいは還元雰囲気下、高温で加熱処理することにより、反応溶液にマンガンと有機酸の反応による凝集物を生じることなく、表面にカーボン被膜が形成されたリチウムシリケート化合物を製造することができ、得られたリチウムシリケート化合物は、リチウムイオン電池或いはリチウム電池用の正極材料として優れた特性を発揮するようになることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、Mn塩とLi塩の水溶液に、Si源の溶液を金属元素比率(Li:Mn:Si)が1.8〜2.2:0.9〜1.1:0.9〜1.1となるように混合し、さらに分子内にカルボキシル基と水酸基を併せ持つかカルボキシル基を2個以上有する有機酸の水溶液を、Liに対する濃度が等モル以下となるように添加・混合した後、得られた金属塩の水分散体を凍結乾燥し、引き続き、不活性雰囲気あるいは還元性雰囲気で加熱処理して、表面にカーボン被膜が形成されたリチウムシリケート化合物を合成することを特徴とするリチウムシリケート化合物の製造方法が提供される。
【0016】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記有機酸が、クエン酸、酒石酸、またはマロン酸から選ばれる1種以上であることを特徴とするリチウムシリケート化合物の製造方法が提供される。
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、前記混合液に、さらにFe塩、Co塩、Ca塩、Zn塩、またはMg塩から選ばれる1種以上の水溶液を混合し溶解させることを特徴とするリチウムシリケート化合物の製造方法が提供される。
また、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、前記凍結乾燥が、前記水分散体を凍結させ、−30℃〜0℃、かつ4〜48時間の減圧条件で行われることを特徴とするリチウムシリケート化合物の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、前記加熱処理が、窒素、または水素のいずれか一種以上を含む雰囲気中、500〜900℃の温度で1〜24時間行われることを特徴とするリチウムシリケート化合物の製造方法が提供される。
【0017】
一方、本発明の第6の発明によれば、第1〜第5のいずれかの発明の製造方法によって得られたリチウムシリケート化合物の表面に0.5〜20質量%のカーボン被膜
を形成
してなるリチウムシリケート化合物凝集体の製造方法が提供される。
また、本発明の第7の発明によれば、第6の発明において、粒子径が1000nm以下であることを特徴とするリチウムシリケート化合物凝集体の製造方法が提供される。
一方、本発明の第8の発明によれば、第6または第7の発明において得られたリチウムシリケート化合物凝集体を正極活物質として用いたリチウムイオン電池の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、リチウムイオン電池或いはリチウム電池用の正極材料として優れた特性を有する高純度のリチウムシリケート化合物が合成でき、その際に、表面に均一にカーボンコートされるので、工程が簡単であり、かつ短時間に製造可能という利点がある。
さらに、この製造方法によれば表面にカーボンコートされた粒子径10〜1000nmのリチウムシリケート化合物凝集体、リチウムシリケート化合物とカーボンの複合体を得ることが出来、高い反応性および、粉体の扱い易さを両立した材料を製造することも可能である。
さらに、それを正極活物質として用いることで、高い安全性と高容量を兼ね備え、かつサイクル寿命にも優れたリチウム二次電池を容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、リチウム二次電池用正極活物質として用いられる本発明のリチウムシリケート化合物、その製造方法などについて詳細に説明する。
【0021】
1.[リチウムシリケート化合物の製造方法]
本発明のリチウムシリケート化合物の製造方法では、Mn塩とLi塩の水溶液に、Si源の溶液を金属元素比率(Li:Mn:Si)が1.8〜2.2:0.9〜1.1:0.9〜1.1となるように混合し、さらに分子内にカルボキシル基と水酸基を併せ持つかカルボキシル基を2個以上有する有機酸の水溶液を、Liに対する濃度が等モル%以下となるように添加・混合した後、得られた金属塩の水分散体を凍結乾燥し、引き続き、不活性雰囲気あるいは還元性雰囲気で加熱処理して、表面にカーボン被膜が形成されたリチウムシリケート化合物を合成することを特徴とする。
【0022】
(1)原料金属成分、有機酸の種類
原料金属成分として使用するMn塩、Li塩は、リチウム二次電池用正極活物質の製造に通常用いられているものであれば特に制限はないが、水溶性のものが好ましい。Mn塩、Li塩は蒸留水、イオン交換水などの純水に溶解することが好ましい。
【0023】
Mn塩としては、酢酸マンガン、硝酸マンガンなどのマンガン化合物を用いることができ、また、Li塩としては、水酸化リチウム、酢酸リチウム物、硝酸リチウムなどのリチウム化合物を用いることができる。いずれの金属塩も、特に安価で取扱いが容易な酢酸塩を用いることが好ましい。
また、上記Mn塩に対して、その一部を、Fe塩、Co塩、Ca塩、Zn塩、Mg塩、などの遷移金属塩やアルカリ土類金属塩で置換することができる。中でも好ましいのは、電池特性を向上しうるという観点からFe塩であり、酢酸鉄、硝酸鉄、クエン酸鉄などを用いることができる。
【0024】
さらに、Si源は特に制限されず、例えばプロピレングリコール修飾シラン(PGMS)、ポリエチレングリコール修飾シラン(PEGMS)、グリセリン修飾シラン(GMS)などの水溶性珪素が挙げられる。ほかにも任意の濃度に溶解したテトラエトキシシランのエタノール溶液、フュームドシリカなどがあげられる。
中でもプロピレングリコール修飾シラン(PGMS)を用いることが好ましい。プロピレングリコール修飾シラン(PGMS)は、水に任意の割合で溶解し、安定性が高いという特性を有するからである。このプロピレングリコール修飾シラン(PGMS)は、例えば特開2010−7032に記載のとおり、特定のケイ素化合物の縮合物と、分子内に少なくとも1以上の水酸基及び/又はアミノ基を有する水溶性化合物とを接触させた後に、酸性物質を接触させることで製造することができる。
【0025】
一方、本発明において、有機酸は、分子内にカルボキシル基と水酸基を併せ持つか、カルボキシル基を2個以上有するものが使用される。かかる有機酸としては、たとえば、クエン酸[CH
2−COOH(HO−C−COOH)CH
2−COOH]、酒石酸[COOH(CHOH)
2COOH]、マロン酸[HOOC−CH
2−COOH]、乳酸[CH
3CH(OH)COOH]、グリコール酸などを使用できる。これらクエン酸などの有機酸は、リチウムや遷移金属を1分子中に1個より多く配位して保持することができ、リチウム塩と遷移金属塩の組成が常時安定し、乾燥や熱分解反応の効率を高めることができる。
【0026】
中でも好ましいのは、クエン酸、酒石酸、またはマロン酸から選ばれる1種以上である。このような有機酸を所定量用いることで、リチウムシリケート化合物が合成される際に、その表面に均一にカーボン被膜が形成される。また、その添加量は、Liに対して等モル(当モル量)以下である。当モル量より多いと電池正極活物質として作用する材料に対して、不活性なカーボンが過剰に残留するため、電池とした場合、容量の低下を招き、また溶液中での有機酸とマンガンの反応が加速し、凍結乾燥する前に相分離が起きるので好ましくない。
【0027】
(2)原料金属成分、有機酸の混合、溶解
次に、Mn塩とLi塩の水溶液に、Si源の溶液を金属元素比率(Li:Mn:Si)が1.8〜2.2:0.9〜1.1:0.9〜1.1となるように混合する。このとき、分子内にカルボキシル基と水酸基を併せ持つかカルボキシル基を2個以上有する有機酸の水溶液を存在させてもよいし、後で添加してもよい。Mn塩に対して、その一部を、Fe塩などの遷移金属塩(M塩)で置換するときは、金属元素比率(Li:Mn:M:Si)が1.8〜2.2:0.68〜1.1:0〜0.28:0.9〜1.1となるように混合する。金属元素比率をこの範囲とすることにより容量特性、サイクル特性の優れた活物質を製造することができる。
【0028】
Mn塩、Li塩の水溶液とSi源の溶液との混合、これらと有機酸の水溶液との混合は、原料金属成分が均一に混合できればよく、通常の混合機を用いることができる。これら成分は、室温〜80℃の温度で、1〜10分間攪拌することで容易に溶解する。好ましいのは、室温で1〜5分攪拌することである。10分以上の攪拌では有機酸の濃度によってはMnと反応し、有機酸Mn塩の凝集物が生成する。溶解溶液のpHは、特に制限されない。
【0029】
(3)乾燥
得られた原料金属成分と有機酸を含む水溶液は、次に乾燥処理される。本発明では、乾燥手段として、凍結乾燥処理を施すことが重要である。凍結乾燥は、前記水分散体をゲル状態となる前に凍結させ、−30〜0℃、かつ4〜48時間の減圧条件で行われることが好ましい。より好ましいのは、凍結後、−30〜−10℃、かつ4〜36時間の減圧条件で行うことである。水分散体がゲル状態になるまで凍結しないと、有機酸とMnが反応して、有機酸Mn塩の凝集物が生成するので好ましくない。凍結乾燥には、通常の冷却・減圧機能を有する凍結乾燥装置を使用することができる。
【0030】
本発明では、乾燥手段として凍結乾燥を採用することで、不溶性のMnの有機酸錯体が形成されることなく原料物質が均一に混合された固化物が得られるようになる。これに対して、従来のように、原料金属成分と有機酸を含む水溶液を50℃あるいはそれ以上の温度で加熱したのでは、不溶性のMnの有機酸錯体が形成されてしまうので好ましくない。
【0031】
(4)加熱処理
得られた固化物は、窒素、または水素のいずれか一種以上を含む雰囲気中、500〜900℃の温度で1〜24時間加熱処理される。
【0032】
加熱雰囲気を窒素、または水素のいずれか一種以上を含むガスとし、加熱温度を500℃〜900℃とするのは、結晶性が高いリチウムシリケート化合物を得るためである。500℃未満では、材料の結晶性が低く、リチウム二次電池正極活物質として用いた場合、容量が低下してしまう。また、900℃より高くなるとリチウムの蒸散が顕著となり、目的の組成比の材料を得ることが困難になってしまうことがある。より好ましい温度は600℃〜800℃である。窒素と水素の混合ガスを用いる場合は、水素含有量は、1〜2体積%とすることが好ましい。また、窒素の一部または全部をアルゴンに代えてもよい。
加熱処理炉は、雰囲気制御が可能な炉であればよいが、ガスの発生がない電気炉が好ましく、管状炉、マッフル炉などの静置炉やプッシャー炉、ローラーハースキルン、ロータリーキルン、流動床炉などの連続炉が使用できる。
【0033】
2.[リチウムシリケート化合物]
本発明のリチウムシリケート化合物は、表面に0.5〜20質量%のカーボン被膜が形成されたリチウムシリケート化合物凝集体として得られる。本発明では、前記した原料を所定量用いることで、一般式Li
2MnSiO
4で表されるリチウムシリケート化合物を合成することができる。
【0034】
また、Mn塩の一部をFe塩に置換することで、一般式Li
2MnxFe(1−x)SiO
4(0.75≦x≦1.0)で表されるリチウムシリケート化合物を合成することができ、充放電容量の増加、サイクル性の向上などの効果を得ることができる。添加元素であるFeの添加量はMnのモル数に対して25%以下であることが好ましい。25%より多いとFe
3+/Fe
4+の酸化還元電位の高いFeが不活性なため電池容量が減少する。添加元素として、前記のとおり、Co、Ca、Zn、Mgなどを用いた場合は、これら遷移金属やアルカリ土類金属を含むリチウムシリケート化合物となる。
【0035】
得られたリチウムシリケート化合物は、その表面に0.5〜20質量%のカーボン被膜が形成されている。リチウムシリケート化合物粒子は、自身では導電性が必ずしも十分とはいえないが、カーボン被膜が形成されることによりリチウムシリケート化合物粒子の導電性が改善され、優れた電池特性を発現できるようになる。カーボン被覆量は、0.5〜20質量%であることが好ましく、1〜15質量%がより好ましい。0.5質量%未満では導電性補助効果を示すためにカーボン量が不十分であり、20質量%を超えるとカーボン自体は充放電に寄与しないため電池容量が低下する。
【0036】
リチウムシリケート化合物は、表面にカーボン被膜が形成された粒子径1000nm以下のリチウムシリケート化合物が凝集したものである。すなわち、本発明では、ケイ酸金属塩とリチウムが反応してリチウムシリケート化合物の一次粒子を生成し、さらに一次粒子が凝集して二次粒子を形成することで生成されたものであり、正極活物質として使用される。
したがって、その正極活物質の粒子の形態は、一次粒子および一次粒子が凝集した二次粒子となる。このような粒子の形態では、電解液との接触は主に一次粒子表面で行われるため、一次粒子径が大きいと、粒子内部から表面までのリチウム原子の移動する抵抗が増加する。したがって、一次粒子径は小さいことが望ましい。
【0037】
本発明では、一次粒子径を1000nm以下として、粒子内部から表面へのリチウム原子の移動を容易とすることにより、充放電反応の抵抗を大幅に低減させている。一次粒子径が1000nmを超えると、充放電反応が阻害されるため、十分な電池の容量が得られなくなる。一次粒径は500nm以下であるとより好ましい。
本発明では、一次粒子径を10〜300nmとするとさらに好ましい。こうして、粒子内部から表面へのリチウム原子の移動を容易とすることにより、充放電反応の抵抗を大幅に低減できる。ただし、一次粒子径は細かいことが充放電反応には有利であるが、10nm未満になると得られる正極活物質のかさ密度が低くなるため、体積あたりの正極活物質量が少なく、同容積の電池と比較すると容量が低下することがある。
【0038】
3.[リチウム二次電池]
本発明によるリチウム二次電池は、上記リチウムシリケート化合物凝集体を正極活物質として用いたものである。リチウムイオン電池は、正極、負極、非水電解質など、一般のリチウム二次電池と同様の構成要素から構成される。
【0039】
以下、本発明のリチウム二次電池の実施形態について、その構成要素、用途などの項目に分けて詳しく説明するが、以下の実施形態は例示にすぎず、本発明のリチウム二次電池は、本明細書に記載の実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。
【0040】
(a)正極
正極は、本発明の正極活物質、導電材および結着剤を含んだ正極合材から形成される。詳しくは、粉末状の正極活物質、導電材を混合し、それに結着剤を加え、必要に応じて、粘度調整などのための溶剤をさらに添加して、正極合材ペーストを調整し、その正極合材ペーストを、たとえば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布、乾燥、必要に応じて加圧することにより、シート状の正極を作製する。
【0041】
導電材は、正極の電気伝導性を確保するためのものであり、たとえば、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛などの炭素物質粉状体の1種または2種以上を混合したものを用いることができる。
結着剤は、活物質粒子を繋ぎ止める役割を果たすもので、たとえば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、フッ素ゴムなどの含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂、その他の適切な材料を用いることができる。必要に応じて正極合材に添加する溶剤、つまり、活物質、導電材、活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。また、活性炭を、電気二重層容量を増加させるために添加することができる。
【0042】
このような正極活物質、導電材、および結着剤を混合し、必要に応じて、活性炭、溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペーストを調製する。
正極合材中のそれぞれの混合比も、リチウムイオン二次電池の性能を決定する重要な要素となりうる。正極合材の固形分を100質量%とした場合、一般のリチウム二次電池の正極と同様、それぞれ、正極活物質は60〜95質量%、導電材は1〜20質量%、結着剤は1〜20質量% することが望ましい。
たとえば、アルミニウムなどの金属箔集電体の表面に、充分に混練した上記の正極合材ペーストを塗布し、乾燥して溶剤を飛散させ、必要に応じて、その後に電極密度を高めるべくロールプレスなどにより圧縮することにより、正極をシート状に形成することができる。シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断などを行い、電池の作製に供することができる。
【0043】
(b)負極
負極には、金属リチウム、リチウム合金など、また、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅などの金属箔集電体の表面に塗布、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して、形成したものを使用する。
【0044】
このとき、負極活物質として、たとえば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂などの有機化合物焼成体、コークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極と同様に、ポリフッ化ビニリデンなどの含フッ素樹脂などを、これら負極活物質および結着剤を分散させる溶剤としてはN−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
【0045】
(c)セパレータ
正極と負極の間にはセパレータを挟み装填する。セパレータは、正極と負極とを分離し電解質を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの薄い微多孔膜を用いることができる。
【0046】
(d)非水電解質
非水電解質は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。支持塩としては、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiASF
6、LiN(CF
3SO
2)
2など、およびそれらの複合塩を用いることができる。さらに、非水電解質は、ラジカル補足剤、界面活性剤や難燃剤などを含んでいてもよい。
【0047】
本発明のリチウム二次電池は、以上のように構成されるが、その形状は円筒型、積層型など、種々のものとすることができる。いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、正極集電体および負極集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リードなどを用いて接続し、この電極体に上記の非水電解質を含浸させ、電池ケースに密閉して電池を完成させる。
本発明のリチウム二次電池においては、本発明のリチウム二次電池用正極活物質を正極材料として用いた正極を備えており、2.0〜4.5Vの電位で充放電を行なうことで、従来のリチウム金属複合酸化物よりも安全性がきわめて高く、さらに高容量を兼ね備えたリチウム二次電池を工業的に実現できる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に具体的に説明するが、本発明は実施例によってのみ限定されるものではない。なお、得られたリチウムシリケート化合物の物性、これを用いて製造した電池の特性は次の要領で測定した。
【0049】
(1)X線回折:
粉末X線回折装置(PANALYTICAL社製、X‘Pert PRO MRD)を用いて、得られた正極活物質について、Cu−Kα線による粉末X線回折で測定した。
(2)粒子径:
得られたリチウムシリケート化合物は、SEM写真をもとに、表面にカーボン被膜が形成された一次粒子径で測定した。
(3)カーボン量:
リチウムシリケート化合物の表面に形成されたカーボン被膜中のカーボン量は、LECO社製炭素分析装置(CS−600)を用いて、高周波燃焼赤外吸収法で行った。なお、助燃剤として銅と鉄のチップを用いて正極活物質0.2を高周波炉内で酸素気流中にて燃焼を行い、その際にCO
2となった炭素を赤外線のエネルギー量で測定した。
【0050】
(4)電池評価
得られたリチウムシリケート化合物を乳鉢にて10分間解砕した後、導電助剤としてのアセチレンブラック/ファイバー状グラファイトおよびバインダとしてのPVDF、溶媒としてのNMPとを所定比率で混合、分散処理を施すことで電極ペーストを得た。このペーストをドクターブレードにて狙い目付け2mg/cm
2にてAl基材上へと塗布し評価用電極を得た。なお、電極合材部は、合成サンプル/導電助剤/バインダ=80/10/10(質量%)の重量比となるよう設計した。
得られた評価用電極の電池特性は対極としてLi金属、セパレータとしてポリオレフィン微多孔膜、電解液としてLiPF
6をEC/EMC/DMCの炭酸エステル系混合溶媒へと溶解させた非水電解液を用いた2032型コインセルにて評価した。
作製された2032型コインセルによる合成粉評価は以下の通り行った。
リチウムシリケート化合物の理論容量から計算される1/20CレートにてCC−CV充電(4.5V,3時間、又は1/200C カット)、CC放電(2.0Vカット)を5サイクル繰り返した際の合成サンプルの容量変化を60℃で測定した。充放電装置としては、HJ−SM8(北斗電工社製)を用いた。
【0051】
(実施例1)
まず、Si源である水溶性珪素プロピレングリコール修飾シラン(PGMS)を次のように作製した。テトラエトキシシラン:TEOS(関東化学株式会社製)とプロピレングリコール(関東化学株式会社製99%)をそれぞれ22.4ml、29.3ml秤量し、80℃で1時間混合した。更に混合液に塩酸を100μl加えて室温で1時間攪拌した。この攪拌液を常温に戻し、蒸留水を加えて100mlになるようメスフラスコで希釈して1Mの水溶性珪素を作製した。
次に、この水溶性珪素15mlと、2M酢酸リチウム(和光純薬工業株式会社、特級)水溶液15ml及び1M酢酸マンガン(和光純薬工業株式会社、特級)水溶液15ml、1Mクエン酸(和光純薬工業株式会社、特級)水溶液15mlを室温にて30分間攪拌した。このとき、固体の析出による相分離は見られなかった。
得られた水溶液を−30℃にて凍結した上で減圧乾燥装置に入れ、18時間減圧乾燥を行った。その後、得られた乾燥粉に対して700℃で窒素ガス雰囲気下において5時間焼成を行った。
焼成後の粉末のXRDを
図1に、SEM観察結果を
図2に示す。一次粒子径10nmのLi
2MnSiO
4微粒子が得られていることを確認した。カーボン量を測定すると10質量%のカーボンが含有されていた。
さらに、前記の方法で電池を構成し、特性を評価した。これらの測定結果を表1に示す。
【0052】
(実施例2)
実施例1で用いた1Mクエン酸(和光純薬工業株式会社、特級)水溶液15mlを、1Mクエン酸(和光純薬工業株式会社、特級)水溶液4.5mlに変えただけで、後は実施例1と同じ手順で試料を作製し電池評価を行った。測定結果を表1に示す。
【0053】
(実施例3)
実施例1で用いた1M酢酸マンガン(和光純薬工業株式会社、特級)水溶液15mlを、1M酢酸マンガン(和光純薬工業株式会社、特級)水溶液13.5mlとクエン酸鉄(III)n水和物(関東化学株式会社、1級)から調製した鉄水溶液(1M)1.5mlに変えただけで、後は実施例1と同じ手順で試料を作製し電池評価を行った。なお、この実施例3においては、1Mクエン酸水溶液の量を15ml用いている。測定結果を表1に示す。
【0054】
(実施例4)
実施例3で用いた1Mクエン酸水溶液の量を4.5mlに変えた以外は実施例3と同じ手順で試料を作製し、電池評価を行った。測定結果を表1に示す。
【0055】
(実施例5)
実施例3で用いた1M酢酸マンガン(和光純薬工業株式会社、特級)水溶液13.5mlと、クエン酸鉄(III)n水和物(関東化学株式会社、1級)から調製した鉄水溶液(1M)1.5mlを、1M酢酸マンガン(和光純薬工業株式会社、特級)水溶液12mlとクエン酸鉄(III)n水和物(関東化学株式会社、1級)から調製した鉄水溶液(1M)3.0mlに変えただけで、後は実施例3と同じ手順で試料を作製し電池評価を行った。測定結果を表に示す。
【0056】
(比較例1)
実施例1と同様にして調製した原料の混合水溶液を30分攪拌後、凍結乾燥せずに静置した。約30分以内に白色の固体が析出し、液相と分離した。液相と分離した時点で組成が均一な焼成原料の合成は不可能となり、所望のリチウムシリケート化合物を得ることができなかった。
【0057】
(比較例2)
実施例1で用いた1Mクエン酸(和光純薬工業株式会社、特級)水溶液の量を15mlから60mlに変更し同様の実験を行った。原料の混合水溶液から直ちに白色の固体が析出し、液相と分離した。液相と分離した時点で組成が均一な焼成原料の合成は不可能となり、所望のリチウムシリケート化合物を得ることができなかった。
【0058】
【表1】
【0059】
「評価」
上記結果を示す表1から、実施例では本発明の方法で、少なくともMn塩とLi塩を含む水溶液に、Si源の溶液を特定の金属元素比率となるように混合し、さらに分子内にカルボキシル基と水酸基を併せ持つかカルボキシル基を2個以上有する有機酸の水溶液を、特定の濃度となるように添加しているので、相分離なく混合でき、得られた金属塩の水分散体を凍結乾燥しているので、その固化物を焼成することで、リチウムシリケート化合物の表面に特定量のカーボン被膜が形成された。これにより、優れた導電性が得られリチウムイオン電池の正極活物質として用いることができることが分かる。