特許第5901501号(P5901501)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5901501
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】ネギ科野菜ソース
(51)【国際特許分類】
   A23L 23/00 20160101AFI20160331BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20160331BHJP
【FI】
   A23L1/39
   A23L1/22 D
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-258455(P2012-258455)
(22)【出願日】2012年11月27日
(65)【公開番号】特開2014-103884(P2014-103884A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2015年4月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岩波 早帆
【審査官】 渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−327822(JP,A)
【文献】 特開2004−215539(JP,A)
【文献】 特開2011−004688(JP,A)
【文献】 特開2012−034634(JP,A)
【文献】 特開平10−113153(JP,A)
【文献】 特開平10−014524(JP,A)
【文献】 特開2001−299292(JP,A)
【文献】 特開2007−135460(JP,A)
【文献】 特開2003−061628(JP,A)
【文献】 特開2006−191860(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0136179(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0117238(US,A1)
【文献】 特開平11−178550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 23/00
A23L 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネギ科野菜、キサンタンガム及びヴァージンオリーブオイルを含む混合液を調製後、水中油型の乳化状態で60〜95℃の加熱処理を施し、更に冷凍解凍処理を施すネギ科野菜ソースの製造方法。
【請求項2】
前記混合液に、60〜95℃の加熱処理を施した牛乳又は豆乳を配合する請求項1記載のネギ科野菜ソースの製造方法。
【請求項3】
ネギ科野菜がニンニクのリン茎である請求項1又は2記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱したネギ科野菜特有の香気に優れるだけでなく、加熱したネギ科野菜特有の香気がソース全体の風味と調和したネギ科野菜ソースに関する。
【背景技術】
【0002】
ネギ科野菜は、アサツキ、チャイブ、ニンニク等が知られ、ジアリルスルフィド等に代表される生のネギ科野菜特有の辛味を伴う香気を有する。更に、ネギ科野菜は、ジメチルジチアン等に代表されるボイル加熱したネギ科野菜の香気、ジアリルジスルフィド等に代表される焙煎加熱したネギ科野菜の香気と、加熱温度の上昇に伴って異なる香気成分を発し、料理に彩りを添えてくれる。
【0003】
また、加工食品市場において、加熱ネギ科野菜の香気を活かしたソースは、枚挙に暇がなく、ドレッシング、焼肉のタレ、鍋用スープ等が市販されている。しかしながら、上記従来の加工食品は、数カ月の長期に渡る賞味期間中の香気成分の減少を考慮し、加熱したネギ科野菜特有の香気成分を単に多く配合しているため、加熱したネギ科野菜特有の香気成分がソース全体の風味と調和していない、加工食品特有の不自然な風味が問題であった。
【0004】
加熱したネギ科野菜特有の香気がソース全体の風味と調和しない課題を解決するため、特許3285834号公報(特許文献1)では、生のホールガーリックをマイクロウェーブ及び/又は遠赤外線で加熱処理し、これに油を加えて、ペースト状に粉砕して焙煎することで、焙煎したネギ科野菜特有の香気を活かしつつ、苦味を抑制してソース全体の風味と調和させる技術が提案されている。しかしながら、これは、苦味の抑制に限定される技術であり、汎用性にやや欠けるものであった。
【0005】
【特許文献1】特許3285834号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、加熱したネギ科野菜特有の香気に優れ、かつ、加熱したネギ科野菜特有の香気がソース全体の風味と調和したネギ科野菜ソースを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべくネギ科野菜ソースに使用されている様々な配合原料、及び製造工程について鋭意研究を重ねた。その結果、ネギ科野菜、キサンタンガム及びヴァージンオリーブオイルを含む混合液に、水中油型の乳化状態で特定温度の加熱処理を施した後、更に冷凍解凍処理を施すことで、意外にも、加熱したネギ科野菜特有の香気に優れるだけでなく、加熱したネギ科野菜特有の香気がソース全体の風味と調和したネギ科野菜ソースを提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)ネギ科野菜、キサンタンガム及びヴァージンオリーブオイルを含む混合液を調製後、水中油型の乳化状態で60〜95℃の加熱処理を施し、更に冷凍解凍処理を施すネギ科野菜ソースの製造方法、
(2)前記混合液に、60〜95℃の加熱処理を施した牛乳又は豆乳を配合する(1)のネギ科野菜ソースの製造方法、
(3)ネギ科野菜がニンニクである(1)又は(2)の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、加熱したネギ科野菜特有の香気に優れるだけでなく、加熱したネギ科野菜特有の香気がソース全体の風味と調和したネギ科野菜ソースを提供することができる。そのため、消費者の需要を満たし、ネギ科野菜ソース市場ひいては加工食品市場の需要拡大が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明のソースの製造方法を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
【0011】
本発明のネギ科野菜ソースの製造方法は、ネギ科野菜、キサンタンガム及びヴァージンオリーブオイルを含む混合後、水中油型の乳化状態で60〜95℃の加熱処理を施し、更に冷凍解凍処理を施す。以下に、上記製造方法を順に詳述する。
【0012】
製造工程1:混合液の調製
具体的には、まず、ネギ科野菜、キサンタンガム、ヴァージンオリーブオイル、その他適宜風味原料を混合する。
【0013】
本発明に用いるネギ科野菜は、市販されているアサツキ、チャイブ、ニンニク等を用いればよい。混合液に供する際の形状は、スライス、みじん切り、ペースト、乾燥等が挙げられる。また、ネギ科野菜の配合量は、本発明の効果により、低減したとしても十分にネギ科野菜特有の香気を発揮することができる。具体的には、5〜40%が好ましく、5〜20%がより好ましい。
【0014】
製造工程2:乳化物の調製
次に、前記混合液に、撹拌等の物理的シェアを加え続けることでキサンタンガムの粘度が増し、キサンタンガムとヴァージンオリーブオイルとの相乗効果により水中油型の乳化状態となる。製造工程1で既に乳化状態であってもよいが、その場合でも製造工程2を経ることで、経時的に安定な物性の乳化状態が得られる。水中油型の乳化状態とは、水の中に油滴が分散している型の乳化状態を指す。
【0015】
本発明の製造方法における水中油型の乳化状態の平均粒子径は、加熱したネギ科野菜特有の香気成分が揮発し易いように小さすぎないことが好ましい。かつ、加熱したネギ科野菜特有の香気がソース全体の風味と調和するように大きすぎないことが好ましい。具体的には、10〜150μmが好ましく、15〜80μmがより好ましい。なお、粒子径は、常法に則り光学顕微鏡(オリンパス社製)で測定できる。平均粒子径は、常法に則りレーザー回析・散乱式粒子径測定装置(日機装社製)で測定できる。
【0016】
本発明の製造方法における水中油型乳化物に用いる乳化材は、主材にショ糖脂肪酸エステル等の乳化剤を用いるのではなく、キサンタンガムとヴァージンオリーブオイルの組合せを用いることが重要である。キサンタンガムとヴァージンオリーブオイルを配合した水中油型乳化物の粘着性は、ネギ科野菜のリン茎を喫食した際の粘着性に類似している。すなわち、キサンタンガムとヴァージンオリーブオイルを配合した水中油型乳化物は、触覚を通じて感じる粘着性と、嗅覚を通じて感じるネギ科野菜特有の香気との相乗効果を発揮している。その結果、加熱したネギ科野菜特有の香気に優れるだけでなく、加熱したネギ科野菜特有の香気がソース全体の風味と調和している。
【0017】
本発明に使用するキサンタンガムは、キサントモナス キャンペストリスが生産する発酵多糖類を取り出して精製したものである。本発明においては、市販されているキサンタンガムやキサンタンガム製剤を使用すれば良く、例えば、サンエース(三栄源エフ・エフ・アイ社製)や、ケルトロール(CPケルコ社製)等が挙げられる。
【0018】
ヴァージンオリーブオイルは、市販の大豆油、菜種油、綿実油、精製オリーブ油等とは異なり、加熱工程や溶剤抽出工程を取らなくても油脂分を分離することができ、市販品として流通されている。本発明の製造方法では、ヴァージンオリーブオイルを乳化材としてキサンタンガムと組合せている。
【0019】
本発明の製造方法において、キサンタンガムとオリーブオイルとを乳化材に用いる水中油型乳化物の粘度は、加熱したネギ科野菜特有の香気成分が揮発し易いように低すぎないことが好ましい。かつ、加熱したネギ科野菜特有の香気がソース全体の風味と調和するように高すぎないことが好ましい。具体的には、0.05〜20Pa・sが好ましく、0.1〜10Pa・sがより好ましい。なお、粘度は、品温20℃のときの粘度であり、BH形粘度計を用いローター:No.2、回転数:4rpmの条件で測定し、2回転後の示度により算出した値である。
【0020】
製造工程3:加熱処理
次に、前記水中油型乳化物に60℃以上の加熱処理を施す。65〜90℃が好ましく、70〜85℃がより好ましい。水中油型の乳化状態で前記温度範囲の加熱処理を施すことで、ジメチルジチアン等の加熱したネギ科野菜特有の香気が増し、かつ、加熱したネギ科野菜特有の香気がソース全体の風味と調和する。なお、加熱処理の方法は、上記加熱処理ができる方法であれば、特に限定するものではないが、例えば、湯せん、二重釜を用いて蒸気、熱水などの熱媒体を入れて加熱する方法、プレート式熱交換器を用いて加熱する方法、チューブ式熱交換器を用いて加熱する方法、レトルト殺菌機を用いて加熱する方法等が挙げられる。
【0021】
製造工程4:冷凍解凍処理
次に、冷凍解凍処理を施し、乳化状態を不均一にするか又は破壊する。この処理を施すことで、ジメチルジチアン等の加熱したネギ科野菜特有が揮発し易くなり、香気として増しているように感じられる。また、この処理を施すことで、加熱したネギ科野菜特有の香気がソース全体の風味と調和し易く、加工食品特有の不自然な風味でなくなる。本発明の製造方法における冷凍温度は、水中油型乳化物が凍結されればよく、−80〜−18℃で冷凍処理を施せばよい。また、本発明の製造方法における解凍方法は、特に限定されないが、室温等で徐々に解凍してもよく、湯煎等を行ってもよい。
【0022】
以上が、本発明の特徴的な製造方法の説明となる。以下、上記以外の内容について説明する。
【0023】
本発明の製造方法で得られるネギ科野菜ソースの脂質含有量は、上記乳化状態を満たす範囲であれば良く、10〜70%が好ましく、20〜60%がより好ましい。使用する脂質は、前記のヴァージンオリーブオイル以外に、菜種油、コーン油、綿実油、サフラワー油、紅花油、大豆油、パーム油、魚油、卵黄油などの動植物油又はこれらの精製油が挙げられる。
【0024】
本発明の製造方法で得られるネギ科野菜ソースの水分含有量は、上記乳化状態を満たす範囲であれば良く、30〜90%が好ましく、40〜80%がより好ましい。
【0025】
本発明に用いるネギ科野菜は、特に限定されないが、アサツキ、タマネギ、チャイブ、ニンニク等が挙げられる。ネギ科野菜の中でも、特にニンニクのリン茎特有の香気に対し効果的であり大変好ましい。ところで、段落番号[0017]に記載したように、本発明のネギ科野菜ソースの製造方法は、キサンタンガムとヴァージンオリーブオイルを配合した水中油型乳化物の粘着性が、ネギ科野菜のリン茎特有の粘着性と通ずることを利用し、風味向上効果を高めている。ニンニクのリン茎の形状は、前記の粘着性による風味向上効果に影響があり、特にニンニクのリン茎をみじん切りにすることが好ましい。
【0026】
本発明のネギ科野菜ソースの製造方法は、製造工程2の乳化物に、60〜95℃の加熱処理を施した牛乳又は豆乳を配合することで、加熱したネギ科野菜特有の香気に優れるだけでなく、加熱したネギ科野菜特有の香気がソース全体の風味と調和が得られるようになり好ましい。牛乳又は豆乳の加熱処理温度は、65〜95℃が好ましく、80〜95℃がより好ましい。
【0027】
本発明の製造方法で得られるネギ科野菜ソースは、前記のネギ科野菜、キサンタンガム、ヴァージンオリーブオイル、脂質以外の原料を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択し配合することができる。例えば、タマリンドシードガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、グアーガム、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、これらの澱粉にアルファ化、架橋等の処理を施した加工澱粉、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン酸脂肪エステル等の乳化剤、砂糖、還元水飴等の糖類、グルタミン酸ナトリウム、食塩等の調味料、ビタミンC等の酸化防止剤、香辛料、香料等が挙げられる。
【0028】
以下、本発明について、実施例、比較例並びに試験例に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例】
【0029】
[実施例1]
<ネギ科野菜ソースの製造方法>
まず、清水52.99%、ネギ科野菜(ニンニクのリン茎のみじん切り、70℃加熱処理済)20%、牛乳(70℃加熱処理済)5%、食塩2%、キサンタンガム0.01%を混合後、最後にヴァージンオリーブオイル20%を混合する。続いて、撹拌速度を150rpmに高め水中油型の乳化状態にする。次に、前記乳化物に85℃の加熱処理を施した後、マイナス20℃の冷凍庫で凍結し、更に25℃恒温機で解凍し、ネギ科野菜ソースを調製した。なお、得られたネギ科野菜ソースは、粘度が12Pa・sであり、乳化物調製時の平均粒子径は50μmであった。
【0030】
[実施例2]
ネギ科野菜(ニンニクのリン茎のみじん切り)を5%、乳化物の加熱処理温度を70℃に変更した以外は、実施例1に準じて本発明の製造方法で得られるネギ科野菜ソースを調製した。
【0031】
[実施例3]
牛乳の加熱処理温度を70℃から95℃に変更した以外は、実施例1に準じて本発明の製造方法で得られるネギ科野菜ソースを調製した。
【0032】
[実施例4]
ネギ科野菜(ニンニクのリン茎のみじん切り)をネギ科野菜(チャイブの葉のみじん切り)に置換えた以外は、実施例1に準じて本発明の製造方法で得られるネギ科野菜ソースを調製した。
【0033】
[比較例1]
キサンタンガムを清水に置換えた以外は、実施例1に準じてネギ科野菜ソースを調製した。
【0034】
[比較例2]
ヴァージンオリーブオイルを精製オリーブオイルに置換えた以外は、実施例1に準じてネギ科野菜ソースを調製した。
【0035】
[比較例3]
ヴァージンオリーブオイルを大豆油に置換えた以外は、実施例1に準じてネギ科野菜ソースを調製した。
【0036】
[比較例4]
水中油型の乳化状態を取らなかった以外は、実施例1に準じてネギ科野菜ソースを調製した。
【0037】
[比較例5]
乳化物に80℃の加熱処理を施さない以外は、実施例1に準じてネギ科野菜ソースを調製した。
【0038】
[比較例6]
冷凍解凍処理を施さない以外は、実施例1に準じてネギ科野菜ソースを調製した。
【0039】
実施例1〜4及び比較例1〜6のネギ科野菜ソースを喫食し、官能評価を行った。その結果、ネギ科野菜、キサンタンガム及びヴァージンオリーブオイルを含む混合液を調製後、水中油型の乳化状態で60〜95℃の加熱処理を施し、更に冷凍解凍処理を施すことで、はじめて、加熱したネギ科野菜特有の香気に優れ、かつ、加熱したネギ科野菜特有の香気がソース全体の風味と調和したネギ科野菜ソースが得られることが分かった(実施例1〜4)。また、ネギ科野菜として、ニンニクのリン茎のみじん切りを用いることがより好ましかった。一方、前記製造工程を違えた場合、いずれも加熱したネギ科野菜特有の香気又は風味の調和に劣っていた(比較例1〜6)。
【0040】
[実施例5]
牛乳を清水に置換えた以外は、実施例1に準じて本発明の製造方法で得られるネギ科野菜ソースを調製した。喫食したところ、実施例1にはやや劣るが、本発明の効果が得られており、好ましかった。