特許第5901549号(P5901549)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5901549
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】計測検査装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/22 20060101AFI20160331BHJP
   H01L 21/66 20060101ALI20160331BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20160331BHJP
   H01J 37/24 20060101ALI20160331BHJP
   H01J 37/244 20060101ALI20160331BHJP
【FI】
   H01J37/22 502H
   H01L21/66 J
   H01J37/28 B
   H01J37/24
   H01J37/244
【請求項の数】15
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2013-7706(P2013-7706)
(22)【出願日】2013年1月18日
(65)【公開番号】特開2014-137974(P2014-137974A)
(43)【公開日】2014年7月28日
【審査請求日】2015年5月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100080001
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 大和
(72)【発明者】
【氏名】李 ウェン
(72)【発明者】
【氏名】高橋 弘之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 誠
(72)【発明者】
【氏名】川野 源
【審査官】 佐藤 仁美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−338068(JP,A)
【文献】 特開2003−257352(JP,A)
【文献】 特開2011−165450(JP,A)
【文献】 特開2006−162609(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 15/00−15/08、
H01J 37/00−37/02、37/05、
37/09−37/244、37/252−37/295、
H01L 21/64−21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査型電子ビーム方式で試料の計測または検査の少なくとも一方を行う計測検査装置であって、
前記試料に対して電子ビームを走査制御しながら照射する照射部と、
前記試料から発生する二次電子を電気信号として検出する検出部と、
前記検出部の検出信号を入力してアナログ信号処理及び増幅して出力するアナログ信号処理増幅部と、
前記アナログ信号処理増幅部の出力アナログ信号を入力してデジタル信号へ変換して出力するAD変換部と、
前記AD変換部の出力デジタル信号を入力して前記計測または検査のための画像を含むデータ情報を生成して出力する処理部と、
前記走査制御の走査速度、及び前記検出部のゲインに対応させて、前記アナログ信号処理増幅部における通過させるアナログ信号の周波数帯域を複数状態間で切り替える帯域切り替え部と、を有する、計測検査装置。
【請求項2】
請求項1記載の計測検査装置において、
前記計測または検査を含む全体を制御し当該計測または検査に関するデータ情報を記憶管理する制御部と、
前記計測または検査を含む作業のためのユーザインタフェースを提供するインタフェース部と、
前記検出部からの出力電流信号を電圧に変換して前置増幅して出力するプリアンプと、を有し、
前記照射部は、
前記試料に対して電子ビームを照射するための電子光学系、及び前記電子光学系を制御する電子光学制御部と、
前記試料に対する電子ビームの照射の際に走査制御を行うための走査制御部と、を有し、
前記検出部は、前記試料に対する電子ビームの照射により試料から発生する二次電子を電流信号として検出する検出器を有し、
前記アナログ信号処理増幅部は、前記プリアンプの出力電圧信号を入力してアナログ信号処理及び増幅して出力し、
前記処理部は、前記AD変換部の出力デジタル信号を入力して前記計測または検査のための画像を含むデータ情報を生成し前記インタフェース部を通じてユーザに対し出力する画像処理部を有し、
前記帯域切り替え部は、前記走査制御の走査速度、前記検出器のゲイン、及び前記AD変換部の入力レンジに対応させて、前記アナログ信号処理増幅部における通過させるアナログ信号の周波数帯域を複数状態間で切り替える、計測検査装置。
【請求項3】
請求項2記載の計測検査装置において、
前記走査制御の走査速度、前記検出器のゲイン、前記周波数帯域、及び前記AD変換部の入力レンジに対応させて、前記アナログ信号処理増幅部の可変ゲインアンプによる増幅レベルを調整する可変ゲイン調整部を有する、計測検査装置。
【請求項4】
請求項3記載の計測検査装置において、
前記走査制御の走査速度、前記検出器のゲイン、前記周波数帯域、前記可変ゲインアンプによる増幅レベル、及び前記AD変換部の入力レンジに対応させて、前記アナログ信号処理増幅部のクランプアンプの最大出力レベルを制限するように調整するクランプ出力調整部を有する、計測検査装置。
【請求項5】
請求項2記載の計測検査装置において、
前記アナログ信号処理増幅部は、
前記プリアンプの出力電圧信号を入力して、前記検出器のゲインに合わせて設定された最大出力レベル制限値内で出力する、第1クランプアンプと、
前記第1クランプアンプの出力アナログ信号を入力して、前記走査速度に合わせて、前記通過させる周波数帯域に応じたフィルタが選択されるように切り替えられる、複数の各々の周波数帯域で通過させる複数のフィルタ、及び前記フィルタの選択のためのスイッチと、
前記フィルタの出力を入力して、前記検出器のゲイン、及び前記フィルタの周波数帯域に合わせて設定された可変ゲインによる増幅レベルで増幅して出力する可変ゲインアンプと、
前記可変ゲインアンプの出力を入力して、前記検出器のゲイン、前記フィルタの周波数帯域、及び前記可変ゲインに合わせて設定された最大出力レベル制限値内で出力する第2クランプアンプと、を有する、計測検査装置。
【請求項6】
請求項5記載の計測検査装置において、
前記制御部は、
前記アナログ信号処理増幅部の前記スイッチに対する制御信号により、前記複数のフィルタからフィルタを選択することで前記通過させる周波数帯域を切り替える機能と、
前記アナログ信号処理増幅部の前記可変ゲインアンプに対する制御信号により、前記可変ゲインによる増幅レベルを調整する機能と、
前記アナログ信号処理増幅部の前記第1及び第2クランプアンプに対する制御信号により、前記第1及び第2クランプアンプの各々の最大出力レベルを調整する機能と、を有する、計測検査装置。
【請求項7】
請求項2記載の計測検査装置において、
前記インタフェース部は、前記計測または検査のための画像を含むデータ情報を表示する画面を生成してユーザに対し出力し、
前記制御部は、前記画面で前記ユーザの操作に従い設定された情報に従って制御し、
前記画面において、
前記ユーザの操作に従い前記走査速度を選択する項目と、
前記ユーザの操作に従い前記走査速度に応じて前記アナログ信号処理増幅部の前記通過させる周波数帯域を切り替える項目と、を有する、計測検査装置。
【請求項8】
請求項7記載の計測検査装置において、
前記画面において、前記ユーザの操作に従い前記走査速度に応じて前記アナログ信号処理増幅部の可変ゲインによる増幅レベルを調整する項目を有する、計測検査装置。
【請求項9】
請求項8記載の計測検査装置において、
前記画面において、前記ユーザの操作に従い前記走査速度に応じて前記アナログ信号処理増幅部のクランプアンプの最大出力レベル制限値を調整する項目を有する、計測検査装置。
【請求項10】
請求項2記載の計測検査装置において、
前記インタフェース部は、前記ユーザの操作に従い、2つ以上の走査速度のうち使用する1つを選択可能とし、
前記走査制御部は、前記ユーザにより選択された走査速度で、前記試料に対する電子ビームの照射の際に走査制御を行い、
前記アナログ信号処理増幅部は、前記2つ以上の走査速度の各々に対応させた周波数帯域を通過させる複数のフィルタを有し、前記ユーザにより選択された走査速度に応じたフィルタが選択される、計測検査装置。
【請求項11】
請求項4記載の計測検査装置において、
前記アナログ信号処理増幅部は、第1の走査速度の場合、第1の周波数帯域、第1の可変ゲイン、及び第1の最大出力レベルの状態に切り替えられ、前記第1の走査速度よりも速い第2の走査速度の場合、前記第1の周波数帯域よりも広い第2の周波数帯域、前記第1の可変ゲインよりも大きい第2の可変ゲイン、及び前記第1の最大出力レベルよりも大きい第2の最大出力レベルの状態に切り替えられる、計測検査装置。
【請求項12】
請求項2記載の計測検査装置において、
前記インタフェース部は、前記計測または検査のための画像を含むデータ情報を表示する画面を生成してユーザに対し出力し、
前記制御部は、前記画面で前記ユーザの操作に従い設定された情報に従って制御し、
前記画面において、
前記ユーザの操作に従い前記画像の明るさを調整する項目と、
前記ユーザの操作に従い前記画像のコントラストを調整する項目と、
前記画像の明るさ及びコントラストの調整の結果を表示する項目と、を有し、
前記制御部は、前記走査速度に対応させて、前記アナログ信号処理増幅部の回路オフセット値を調整することで前記画像の明るさを調整し、前記検出器のゲインを調整することで前記画像のコントラストを調整する、計測検査装置。
【請求項13】
請求項2記載の計測検査装置において、
前記プリアンプと前記アナログ信号処理増幅部との間は、差動信号を伝送する第1のケーブルで接続され、
前記プリアンプは、前記差動信号を出力するアンプを有し、
前記アナログ信号処理増幅部は、前記差動信号を入力し、前記検出器のゲインに合わせて設定された最大出力レベル制限値で出力する、シングル出力型の第1クランプアンプを有する、計測検査装置。
【請求項14】
請求項2記載の計測検査装置において、
前記アナログ信号処理増幅部と前記AD変換部との間は、差動信号を伝送する第2のケーブルで接続され、
前記アナログ信号処理増幅部は、前記AD変換部の入力レンジに合わせて設定された最大出力レベル制限値で前記差動信号を出力する、シングル入力の第2クランプアンプを有し、
前記AD変換部は、前記差動信号を入力するAD変換器を有する、計測検査装置。
【請求項15】
請求項2記載の計測検査装置において、
前記電子光学系として、前記電子ビームを出射する出射部、及び前記電子ビームを導く光学レンズと、
前記電子ビームの走査制御の際に電子ビームの偏向を制御するための偏向器、及び前記偏向器を制御する偏向制御部と、
前記試料を移動制御するための機構系、及び前記機構系を制御する機構系制御部と、を有する、計測検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板・ウェハなどの試料ないし対象物の計測または検査などを行う計測検査装置、及びそれを用いて計測または検査などを行う計測検査方法などに関する。また、走査型電子ビーム方式の電子顕微鏡装置(SEM:Scanning Electron Microscope)などに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセスにおいて、ウェハ上に形成される回路パターンの微細化が進んでおり、パターンが設計通りに形成されているか否か等を監視するプロセスモニタリングの重要性が益々増加している。例えば、半導体製造プロセスにおける異常や欠陥の発生を早期に或いは事前に検知するために、各製造工程の終了時に、ウェハの回路パターン等の計測及び検査が行われる。
【0003】
上記計測・検査の際、SEMなどの計測検査装置及び対応する計測検査方法においては、ウェハ等の試料に対して電子ビーム(電子線、電子プローブ等ともいう)を走査しながら照射し、これにより発生する二次電子などのエネルギーを検出する。そしてその検出に基づき信号処理・画像処理などにより計測画像や検査画像などの画像を生成し、当該画像に基づいて計測及び検査が行われる。
【0004】
例えば、回路パターンにおける欠陥の検査を行う検査装置・検査機能の場合は、検査画像を用いて、同様の回路パターンの画像同士を比較し、それらの差が大きい箇所を欠陥として判定・検出する。また回路パターンにおける計測を行う計測装置・計測機能の場合は、二次電子などの発生量が試料の凹凸などの表面形状によって変化するので、その二次電子の信号の評価処理により、試料の表面形状の変化などを捉えることができる。特に、回路パターンのエッジ部で二次電子の信号が急激に増減することを利用して、当該回路パターンの画像内でのエッジ位置を推定することで、回路パターンの寸法値などを計測することができる。そしてその計測結果に基づいて、当該回路パターンの加工の良否などを評価することができる。
【0005】
上記計測・検査に係わる先行技術例として、特開2006−93251号公報(特許文献1)、特開平7−326314号公報(特許文献2)、特開2009−32445号公報(特許文献3)などがある。特許文献1〜3では、SEM方式の計測・検査装置の構成例が記載されている。
【0006】
特許文献1では、パターンの断面形状上の所望の位置におけるパターン寸法を計測する技術などが記載されている。特許文献1では、「走査型電子顕微鏡を用いて試料の二次電子画像を取得し、この取得した二次電子画像の中で寸法を計測するパターンの画像プロファイルを二次電子画像を用いて作成し、予め記憶しておいた断面の形状と寸法とが既知で形状が異なる複数のパターンのそれぞれの二次電子画像から得られた複数のパターンのそれぞれに対応する複数のモデルプロファイルの中から作成した画像プロファイルと最も一致するモデルプロファイルを検索し、この検索して得たモデルプロファイルの情報を用いてパターンの寸法を求めるようにした寸法計測方法およびその装置」等が記載されている。
【0007】
特許文献2では、「絶縁物、あるいは、半導体試料に一次荷電粒子ビームを照射して試料から得られる信号を検出する走査荷電粒子ビーム装置において、試料の帯電現象を著しく少なくすることができる走査荷電粒子ビーム装置を実現する」等が記載されている。
【0008】
特許文献3では、「高精度の電子線画像を検出すると同時に、その際問題となる低サンプリングレートに対するAD変換素子の制約を排除した走査電子顕微鏡を用いた検査装置および検査方法を提供する」等の目的が記載されている。また上記目的に対し、「サンプリング信号に含まれる連続するN個のデジタル値毎に、該N個のデジタル値を次加算し、サンプリング周波数の1/Nの周波数のデジタル輝度信号を生成する」等の方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−93251号公報
【特許文献2】特開平7−326314号公報
【特許文献3】特開2009−32445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来例のSEM等の計測検査装置及び方法における電子ビーム走査方式について以下である。例えばCD−SEM(測長SEM)における通常の走査をTV走査ないしラスタ走査などと呼び、1画面あたりの走査時間が例えば約26μsである。またTV走査を基準としてそのn倍速とした走査をn倍速走査などと呼び、例えば4倍速走査の場合、1画面の走査時間が約26/4=6μsとなる。
【0011】
従来例のラスタ走査方式ないしTV走査方式では、走査方向や走査速度、試料パターン形状などに応じた、試料の帯電量の違いなどの課題がある(詳しくは後述図2図3等)。試料の帯電量の違いにより、二次電子の検出の画像において、画像コントラストが低下する、あるいは回路パターンのエッジが消失する等、試料表面状態の観察すなわち測定や検査が低精度または不可能となる課題がある。
【0012】
上記計測・検査の精度の課題に関して、単位領域あたりの照射時間を短くし、即ち照射電荷密度を小さくし、試料の帯電量を下げる又は適切にすることが有効である。このためには、電子ビーム照射に関するプローブ電流を低くするか、あるいは、走査速度をn倍速のように速くすること即ち高速走査を実現することが有効である。
【0013】
単位領域あたりの照射電荷密度が下がる場合、計測・検査の画像の信号対雑音比(SNR)を保証するためには、例えば複数の画像(フレームともいう)の積算ないし加算による処理が必要または有効である。
【0014】
走査速度を変えずにプローブ電流を低くする場合、フレーム撮像時間が長く必要になるため、スループット低下を招く。よって、高速ないし効率的な計測・検査を実現したい場合は、プローブ電流を変えずに走査速度を速くすること即ち高速走査が必要である。
【0015】
従来例のSEM方式の計測検査装置の二次電子信号検出系(詳しくは後述図5等)では、PMT等の検出器、プリアンプ回路、二次電子信号検出部であるアナログ信号処理増幅部及びアナログ・デジタル変換部(ADC)などを有する。従来例の検出系で、高速走査を行う場合、1ラインや1画素などの単位領域あたりの走査時間が短くなるので、ADCでのサンプリングの速度を速くする必要がある。そのため、ADCを含む検出系回路全体についても高速化ないし広帯域化しなければならない。
【0016】
SEM方式の計測検査装置において、様々な材料やパターン等の試料に対応可能な高精度な計測・検査を実現するためには、上記二次電子信号検出部(アナログ信号処理増幅部及びADC)などを含む検出系の回路において、上記のように高速走査への対応が必要である。また更に、所定の速度の高速走査のみの実現だけではなく、従来のTV走査のような低速走査と、そのn倍速の高速走査とを含めた、多様な走査速度での走査制御を可能とする対応が望ましい。
【0017】
しかしながら、上述の高速走査及び高速サンプリングに対応するために上記検出系の二次電子信号検出部などの回路を広帯域化する場合、当該回路構成で低速走査を行う場合などに、以下のような課題が生じる。
【0018】
(1) 第1の課題は、雑音信号の増大、言い換えると信号対雑音比(SNR)の低減である。雑音信号のソースは、一次電子ビーム、二次電子のシュート雑音、蛍光体及びPMTなどの検出器におけるシュート雑音、二次電子信号検出系の回路の電圧・電流雑音などを含む。これらの雑音信号は、基本的にガウス分布の特性を持つランダム雑音と考えられる。ランダム雑音の大きさは、周波数帯域のルート(平方根)に比例している。例えば、周波数帯域が4倍に広がると、雑音信号の大きさが2倍になる。高速走査では、TV走査(1倍速)に対して試料への照射量を同等にするためには、前述のように、走査速度に応じてフレーム積算回数が増加する。例えば4倍速走査ではフレーム積算回数が4回である。ランダム雑音信号の大きさは理論的にはフレーム積算回数のルートで低減する。高速走査の場合、上記検出系の回路の広帯域化により増大する雑音量は、フレーム積算によって低減できる。従って、上記広帯域かつ高速走査の場合、全体的には相殺されるので、SNRは従来と同じにできる。
【0019】
一方、上記広帯域化した検出系の回路において従来のTV走査のような低速走査での計測・検査を実行する場合、スループットの観点ではフレーム積算回数は変わらず、広帯域による雑音信号の増加によりSNRが低下し、精度が劣化する課題がある。
【0020】
(2) 第2の課題は、サンプリング時のパルス信号の取りこぼし、言い換えると二次電子の検出信号の漏れである。SEM方式の計測装置では、例えば試料の表面のパターンの凹凸のエッジの信号を検出し画像化して当該パターンの寸法を計測する。この検出信号は、一般的に、確率的に表されるパルス信号である。即ち、試料の表面において、上記エッジパターンが有る場所ではパルス信号の出現の確率が高くその数が多くなる。一方、上記エッジパターンが無い場所ではパルス信号の出現の確率が低くその数が少なくなる。確率的な現象であるため、この検出信号ないしパルス信号に対し、前述のように、複数の画像のフレームの積算ないし加算による画像処理ないしデータ処理が行われ、総合的な検出結果を得る(図3等)。これにより試料表面の場所毎のパルス信号の出現の確率あるいは数に応じて画素の階調値として表された画像が得られる。
【0021】
上記検出信号となるパルス信号の幅ないし間隔は、プローブ電流および検出器の周波数応答特性などに応じて決定される。走査速度に応じてサンプリング速度が遅く、サンプリング周期が当該パルス信号の幅ないし間隔よりも長い場合、ADCでのサンプリング時のパルス信号の取りこぼしの現象が発生する。これにより、当該サンプリングのデジタル信号に対応して得られる画像における画素の階調値が低くなる。即ちSNRが低下し、計測精度が劣化する。
【0022】
(3) 更に第3の課題として、回路の飽和現象がある。これは、上記二次電子信号検出系の回路において、検出器及びプリアンプ回路からの、アナログ信号処理増幅部に対する入力信号の振幅が大きい場合、当該増幅部の最大出力レベルを超えることで、出力信号が歪んでしまう現象である。これによりADCへの入力信号が歪むので、同様に計測・検査の精度が低下する。
【0023】
従来例のSEM方式の計測装置では、試料の材料やパターン等に応じて、上記検出信号となるパルス信号の振幅のばらつきも大きい。例えば後述図10の例のパルス信号a1,a2では、振幅の差が大きい。a1のような振幅が大きいパルスは、上記のように最大出力レベルを超えることで歪む可能性が高い。またa2のような振幅が小さいパルスは、小さすぎると、階調値ないし情報として検出しにくい。
【0024】
また従来例のSEM方式の計測装置では、高精度な画像を得るための1つの機能として、画像の明るさ及びコントラストを調整する機能(ABCC:Auto Brightness & Contrast Control)を有するものがある。このABCC機能の場合、例えば計測毎に取得した画像のヒストグラムによって、制御部から、検出器のPMTのゲインと、二次電子信号検出部の回路オフセットの値を制御する。これにより自動的に画像の明るさ及びコントラストを調整することができる。また他の機能を持つ他の方式の計測検査装置の場合にも、高精度な画像を得るためには、上記二次電子信号検出系の回路における上記ゲインなどの値を適切に設定する必要がある。
【0025】
上記ABCC機能あるいは他の設定機能を用いて、振幅が小さいパルス信号の取りこぼし等が無いように、検出器のPMTのゲインを設定した場合、振幅が大きいパルス信号については、上記検出系の回路の特にアナログ信号処理増幅部での増幅の途中で飽和する可能性がある。このような飽和現象が発生すると、正しい回路動作が保証できず、リンギングや発振などの望ましくない現象も発生し得る。最悪の場合、飽和部品が故障になり回復できなくなる。高速走査に伴い、電子ビームの発振のパルスの立ち上げ・立ち下げも更に速くなるので、上記大きい振幅のパルス信号による回路の飽和現象の発生の確率も高くなる。
【0026】
なおSEMに限らない一般的な受光素子ないし増幅回路などにおいて、大入力に対する出力の飽和を防ぐために、一定電圧(最大出力レベル)以下に抑えるクランプ回路などの技術は公知である。なお本願発明では、後述のように、上記飽和現象を防ぐために、上記クランプ回路などを単純に用いるのではなく、クランプ回路の最大出力レベルなどを好適に制御する手段などを有する。
【0027】
なお特許文献1〜3等の先行技術例では、上述したような課題、即ち、高速走査及び低速走査を含む多様な走査速度への対応、及び二次電子信号検出系の広帯域化に伴う、(1)SNR低下、(2)パルス信号取りこぼし、(3)回路飽和、といった課題、及びその解決手段などについては記載されていない。
【0028】
また特許文献3では、SNRの向上などに寄与できる、サンプリング信号のデジタル加算処理の手段などについては記載されている。しかしながら、この技術の場合、対応できるアナログ信号の帯域がサンプリング周波数の1/N倍しかないという制約条件がある。
【0029】
以上を鑑み、本発明の主な目的は、走査型電子ビーム方式の計測検査装置などに関し、高速走査及び低速走査を含む多様な走査速度に対応可能であると共に、二次電子信号検出系の広帯域化においても、高速及び高精度な計測・検査を実現できる技術を提供することである。特に、(1)SNR向上、(2)パルス信号取りこぼし防止、(3)回路飽和防止などを実現できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0030】
上記目的を達成するため、本発明のうち代表的な形態は、走査型電子ビーム方式の計測検査装置及び計測検査方法などであって、以下に示す構成を有することを特徴とする。
【0031】
(1)本形態は、走査型電子ビーム方式で試料の計測または検査の少なくとも一方を行う計測検査装置であって、前記試料に対して電子ビームを走査制御しながら照射する照射部と、前記試料から発生する二次電子を電気信号として検出する検出部と、前記検出部の検出信号を入力してアナログ信号処理及び増幅して出力するアナログ信号処理増幅部と、前記アナログ信号処理増幅部の出力アナログ信号を入力してデジタル信号へ変換して出力するAD変換部と、前記AD変換部の出力デジタル信号を入力して前記計測または検査のための画像を含むデータ情報を生成して出力する処理部と、前記走査制御の走査速度、及び前記検出部のゲインに対応させて、前記アナログ信号処理増幅部における通過させるアナログ信号の周波数帯域を複数状態間で切り替える帯域切り替え部と、を有する。
【0032】
(2)本形態の計測検査装置は、前記計測または検査を含む全体を制御し当該計測または検査に関するデータ情報を記憶管理する制御部と、前記計測または検査を含む作業のためのユーザインタフェースを提供するインタフェース部と、前記試料に対して電子ビームを照射するための電子光学系、及び前記電子光学系を制御する電子光学制御部と、前記試料に対する電子ビームの照射の際に走査制御を行うための走査制御部と、前記試料に対する電子ビームの照射により試料から発生する二次電子を電流信号として検出する検出器と、前記検出器からの出力電流信号を電圧に変換して前置増幅して出力するプリアンプと、前記プリアンプの出力電圧信号を入力してアナログ信号処理及び増幅して出力するアナログ信号処理増幅部と、前記アナログ信号処理増幅部の出力アナログ信号を入力してデジタル信号へ変換して出力するAD変換部と、前記AD変換部の出力デジタル信号を入力して前記計測または検査のための画像を含むデータ情報を生成し前記インタフェース部を通じてユーザに対し出力する画像処理部と、前記走査制御の走査速度、前記検出器のゲイン、及び前記AD変換部の入力レンジに対応させて、前記アナログ信号処理増幅部における通過するアナログ信号の周波数帯域を複数状態間で切り替える帯域切り替え部と、を有する。
【0033】
(3)また本形態の計測検査装置において、前記走査制御の走査速度、前記検出器のゲイン、前記周波数帯域、及び前記AD変換部の入力レンジに対応させて、前記アナログ信号処理増幅部の可変ゲインアンプによる増幅レベルを調整する可変ゲイン調整部を有する。
【0034】
(4)また本形態の計測検査装置において、前記走査制御の走査速度、前記検出器のゲイン、前記周波数帯域、前記可変ゲインアンプによる増幅レベル、及び前記AD変換部の入力レンジに対応させて、前記アナログ信号処理増幅部のクランプアンプの最大出力レベルを制限するように調整するクランプ出力調整部を有する。
【発明の効果】
【0035】
本発明のうち代表的な形態によれば、走査型電子ビーム方式の計測検査装置などに関し、高速走査及び低速走査を含む多様な走査速度に対応可能であると共に、二次電子信号検出系の広帯域化においても、高速及び高精度な計測・検査を実現できる。特に、(1)SNR向上、(2)パルス信号取りこぼし防止、(3)回路飽和防止などを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の実施の形態1の走査型電子ビーム方式の計測検査装置の全体の構成を示す図である。
図2】従来及び本実施の形態における走査方式について示す図である。
図3】従来及び本実施の形態における走査速度による帯電量の違いについて示す図である。
図4】従来例における二次電子信号検出系の構成及び設定値などを示す図である。
図5】実施の形態1の計測検査装置の二次電子信号検出系の構成を示す図である。
図6】実施の形態1の計測検査装置の二次電子信号検出系の制御概要を示す図である。
図7】実施の形態1の計測検査装置の二次電子信号検出系の相関制御例を示す図である。
図8】(a)は従来例のGUI画面表示例、(b)は実施の形態1のGUI画面表示例を示す図である。
図9】従来例の二次電子信号検出系での各信号波形について示す図である。
図10】従来例の二次電子信号検出系での信号波形例について示す図である。
図11】実施の形態1の効果の1つを示す第1の説明図である。
図12】実施の形態1の効果の1つを示す第2の説明図である。
図13】本発明の実施の形態2の計測検査装置の二次電子信号検出系の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお実施の形態を説明するための全図において同一部には原則として同一符号を付しその繰り返しの説明は省略する。以下、計測検査装置及び計測検査方法とは、計測のみを行う場合、検査のみを行う場合、及び計測と検査の両方が可能な場合を含む。
【0038】
<概要等>
本実施の形態(図1図5等)の計測検査装置は、多様な走査速度に対応した計測・検査を制御する機能を有すると共に、その際に課題となる、SNR低減、サンプリング時のパルス信号の取りこぼし、及び回路の飽和現象などに対処する手段を提供する。その手段として、二次電子信号検出系におけるアナログ信号処理増幅部(51)で、その前段の検出器(107)のゲイン等の特性、及び後段のADC(52)の入力レンジ及びサンプリング周波数などの特性に対応させて、帯域、増幅レベル、及びクランプの最大出力レベル制限などのパラメータ値を好適かつ可変に制御する各機能(帯域切り替え機能、可変ゲイン調整機能、クランプ出力調整機能)を設ける。またGUI画面でそれら各機能の値をユーザにより容易及び柔軟に設定することができる機能を設ける。これにより高速及び高精度な計測・検査を実現する。
【0039】
<実施の形態1>
図1図12を用いて、本発明の実施の形態1の走査型電子ビーム方式の計測検査装置及びそれを用いた計測検査方法について、従来例と比較しながら説明する。
【0040】
[計測検査装置]
図1は、実施の形態1の計測検査装置を含むシステム全体の構成を示す。実施の形態1の計測検査装置は、半導体ウェハを試料110として自動的な計測及び検査を行う機能を有する走査型電子ビーム方式の電子顕微鏡装置(SEM)への適用例である。本計測検査装置は、試料110の表面のパターンにおける寸法値を計測する計測機能、及び同パターンにおける異常や欠陥などの状態を検出する検査機能を備える。
【0041】
本計測検査装置は、本体であるカラム100、試料110などを載置するステージである試料台112を含む機構系、信号処理系であるコンピュータ200、及び二次電子信号検出部50等を有する構成である。カラム100は、SEM方式の光学系や検出器107などを内蔵している。カラム100の検出器107に対しては、プリアンプ(プリアンプ回路)30を通じて、二次電子信号検出部50が接続され、二次電子信号検出部50がコンピュータ200に接続されている。プリアンプ回路30や二次電子信号検出部50は例えば電子回路基板などで構成される。例えばカラム100の側面近辺(内側または外側)にプリアンプ回路30などの基板が接続されてもよい。コンピュータ200は例えばPC等で実現できる。コンピュータ200及び二次電子信号検出部50等は、例えば制御ラックに格納される。またカラム100、電子回路基板、コンピュータ200等の間は、ケーブルなどで接続される。なおコンピュータ200と他の基板(30,50)を一体化した形態なども可能である。
【0042】
コンピュータ200は、画像処理部205、制御部210、GUI(グラフィカルユーザインタフェース)部215、電子光学制御部220、走査制御部230、検出制御部240、機構系制御部250などを備える。例えばプロセッサ及びメモリ等の公知の要素によるソフトウェアプログラム処理あるいは専用回路処理などで実現される。なおコンピュータ200及び制御部210等において、計測機能と検査機能の両方を備えるが、一方のみ備える形態も勿論可能である。
【0043】
制御部210は、GUI部215によるGUI画面などを通じたユーザの指示入力に従い、本計測検査装置の全体及び各部を制御する処理、及び計測・検査の処理を行う。制御部210は、計測・検査の実行時、二次電子信号検出部50及び画像処理部205を通じて検出・生成された画像を含むデータ情報を取得し、GUI部250によるGUI画面に表示させる。制御部210は、上記画像を含むデータ情報や、計測・検査の設定情報などを、メモリやストレージ等の記憶手段に記憶し管理する。
【0044】
GUI部215は、計測・検査を行うユーザに対してGUI画面を提供する処理を行う。ユーザは、GUI画面において計測・検査の作業に関して計測機能や検査機能を選択的に実行可能であり、各種の操作指示やデータ情報閲覧などが可能である。GUI部215では、計測・検査の条件などを入力・設定する画面や、計測・検査の結果を二次元画像などの形式で表示する画面などを提供する。GUI部215は、キーボードやマウスやディスプレイ等の入出力装置や通信インタフェース部などを含む。計測機能や検査機能を選択的に実行可能である。
【0045】
電子光学制御部220は、ブランキング制御回路などを含む構成であり、制御部210からの制御に従い、カラム100内の電子銃101、レンズ(102,104)、絞り103、ブランキング制御電極105等を含む光学系を駆動することで、電子ビーム(A1,A2,A3)の照射を制御する。カラム100内の光学レンズ等を含む電子光学系を制御する。
【0046】
走査制御部230は、偏向制御部231を含む構成であり、制御部210からの制御に従い、カラム100内の偏向器108を含む部位を駆動することで、試料110に対する電子ビーム(A2)の照射による走査制御を行う。また走査制御部230は、後述の各走査速度の走査モードに対応する走査制御機能を実現し、指定された走査速度に応じて走査制御を行う。偏向制御部231は、偏向器108に対して偏向制御信号を印加することにより、電子ビームの偏向による走査を制御する。
【0047】
検出制御部240は、対物レンズ制御部241などを含む構成であり、制御部210からの制御に従い、カラム100内の対物レンズ109を含む部位を駆動することで、検出器107による試料110からの二次電子信号A4(SE)の検出を制御する。対物レンズ制御部241は、対物レンズ109に対して対物レンズ制御信号を印加することにより、試料110へのビームA2の照射による二次電子(SE)A4の検出を制御する。
【0048】
機構系制御部250は、制御部210からの制御に従い、試料台112等の機構系に対する制御信号の印加により、動作を制御する。例えば図2のように、電子ビームの走査制御に対応させて、試料台112上の試料110をX,Y方向などで移動制御する。
【0049】
115は、上記各制御部(220,230,240)から対応する電極などを駆動制御する際のドライバ回路やその端子である。
【0050】
カラム100内は、真空であり、電子光学系などを構成する要素として、電子銃101、第1コンデンサレンズ102、絞り103、第2コンデンサレンズ104、ブランキング制御電極105、アパーチャ106、偏向器108、及び対物レンズ109等を有する。またカラム100内には、検出系を構成する要素である検出器107などを備える。
【0051】
電子銃101は、一次電子ビームであるビームA1を出射する。第1コンデンサレンズ102は、集束レンズであり、電子銃101から出射されたビームA1が通る。第2コンデンサレンズ104は、集束レンズであり、絞り103で絞られたビームA1が通る。電子銃101から出射されたビームA1は、第1コンデンサレンズ102、絞り103、及び第2コンデンサレンズ104を通じて集束される。ブランキング制御電極105は、ビーム照射の遮断をオン/オフ制御するブランキング制御を行う場合に使用される。通常、遮断オフ時には、ブランキング制御電極105間をビームがそのまま通過し、A2のようにアパーチャ106を通る。遮断オン時には、ブランキング制御電極105間でビームが曲げられ、A3のようにアパーチャ106を通らずに遮断される。アパーチャ106を通過したビームA2は、偏向器108を通じて偏向制御される。即ちビームA2は、偏向制御を含む走査制御を通じて、対物レンズ109等を経て、試料台112上の試料110に対して走査しながら照射される。試料110に対する電子ビームA2の照射により試料110から発生する二次電子A4(SE)は検出器107に入射され、電気信号・アナログ信号(検出信号、パルス信号などともいう)として検出される。
【0052】
検出器107で検出されたアナログ信号は、プリアンプ回路30での電流(I)−電圧(V)変換、及び前置増幅を経て、二次電子信号検出部50に入力される。二次電子信号検出部50では、後述のアナログ信号処理増幅部51によるアナログ信号処理及び増幅を経て、ADC52でアナログ信号からデジタル信号に変換するサンプリングが行われる。そのデジタル信号ないしサンプリングデータが画像処理部205に入力される。
【0053】
画像処理部205では、二次電子信号検出部50の出力のデジタル信号ないしサンプリングデータを用いて、計測または検査に応じた画像処理を施すことで、二次元の計測画像または検査画像を生成する。画像処理部205は、計測機能の場合は計測画像を生成し、当該画像内のパターン寸法値の計算などを行う。また、検査機能の場合は、検査画像を生成し、当該画像内の欠陥などを検出・判定する処理などを行う。
【0054】
制御部210は、当該画像を含むデータ情報を取得してコンピュータ200内のメモリ等に記憶管理する。また制御部210からGUI部250の処理を通じて、当該画像及びデータ情報を含むGUI画面を生成しユーザに対し表示する。例えば計測機能の場合、計測画像内の情報に基づいて回路パターンの寸法などが計測される。検査機能の場合、検査画像内の情報に基づいて異常や欠陥などが検出される。
【0055】
[走査方式]
図2は、前提技術として、従来及び本実施の形態での走査方式としてのTV走査方式ないしラスタ走査方式について示す。400は、試料110の表面における一次電子ビーム(A1,A2)による走査及び照射の対象となる二次元領域を示す。なお試料110の平面をX,Yとし、それに垂直なビーム照射方向をZ方向として図示している。400の領域におけるビーム軌跡として、401はビーム走査方向(それに対応するX方向)、402はビーム移動方向(それに対応するY方向)を示す。403は、401でX方向に1ライン走査した後の、Y方向の次ライン先頭への振り戻し、及びその時の照射遮断を示す。なおビーム移動方向(Y)は、ビーム側の制御でも、機構系の制御でも実現可能である。404はビーム走査方向(X)に対応した横ライン領域の例、405はビーム移動方向(Y)に対応した縦ライン領域の例を示す。
【0056】
上記走査方式において、試料110に対し入射する一次電子ビームと試料110との相互作用によって試料110から二次電子が放出される。その入射電子1個当たりの放出電子数を二次電子放出率(η)と呼ぶ。ηはビームの照射エネルギー、試料110の材質や形状などに依存する。η<1の場合、ビーム照射によって試料110に負の電荷が蓄積するため、負帯電になる。一方、η>1の場合、試料110に正の電荷が蓄積するため正帯電になる。
【0057】
ここで従来、例えば上記負帯電した試料110上でビームを走査して試料110からの二次電子を検出してその画像である二次電子像を得ても、試料110の負帯電部分が明るく光ってしまい、試料110の表面状態の観察すなわち測定や検査が不可能または低精度となる課題がある。逆に、正帯電した試料110上でビームを走査して二次電子像を得ても、試料110の正帯電部分が暗くなってしまい、同様に観察が不可能または低精度となる課題がある。特に試料110が絶縁物の場合は上記現象が顕著となる。
【0058】
また上記帯電量は、試料110のパターン形状やそれに対する走査方式にも依存する。例えば図2の横ライン404のように、ラスタ走査方式でパターンのX方向のラインを走査する場合、その横ライン404上ではビームが連続的に照射され、連続的照射領域になるので、蓄積する電荷量が多くなる、即ち帯電量が大きくなる。よって、帯電による電位上昇が大きく、試料110に引き戻される二次電子数が増えるので、画像コントラストが低下する。一方、縦ライン405のように、同ラスタ走査方式で同パターンのY方向のライン(なお横ライン404と同じ長さ・面積とする)を走査する場合、走査が非連続的で複数回のX方向の部分ごとに分かれることになる。即ち、当該縦ライン405は、非連続的照射領域になる。縦ライン405上での連続的な照射時間が短くなり、帯電量が小さくなり、帯電による電位上昇が小さくなる。よって、検出できる二次電子数は縦ライン405の方が多く、縦ライン405の方が画像コントラストが良くなる。
【0059】
上記のようにラスタ走査でパターンの縦・横ラインを観察した場合、縦ライン405に比べて横ライン404のコントラストが低下し、例えばラインのエッジが消失する場合がある。即ちビーム走査による試料110の帯電の影響などによる計測・検査の精度の課題がある。
【0060】
帯電の影響を除去するには、1ライン当たりの照射電荷密度を小さくすることが有効である。1ライン当たりの照射電荷密度を下げるためには、プローブ電流を低くするか、走査速度を早くする必要がある。1ライン当たりの照射電荷密度が下がると、画像の信号対雑音比(SNR)を保証するためには、複数の画像フレームの積算ないし加算が必要になる。走査速度を変えずにプローブ電流を低くした場合、長いフレーム撮像時間が必要になるため、スループット低下を招く。そこで、プローブ電流を変えずに走査速度を速くすることが必要である。即ち上記n倍速のような高速走査が必要である。高速走査は、通常のTV走査と比較して1画素あたりの照射時間が短くなる。そのため、照射時間内の帯電電位の上昇を小さくできる。
【0061】
ここで、以下具体的に、通常のTV走査(1倍速)と例えば4倍速走査とを比較する。即ちTV走査(1倍速)で1画面を走査した場合と、4倍速で4画面分、即ち1画面を4回繰り返して走査した場合とで比較する。TV走査での1画面の走査と、4倍速走査での4画面分の走査とでは、トータルの照射量が同じである。
【0062】
図3に、上記従来のTV走査(1倍速)と4倍速走査との比較として、走査速度による帯電量の違いを示す。A(破線)は、試料表面の1画面に対するTV走査時の電位変化軌跡を示す。ここでの1画面は例えば図2の406のようなX,Y平面の矩形領域とする。B(実線)は、同じ画面に対する4倍速走査時の電位変化軌跡を示す。1画面に対し4回繰り返して走査する。H1は、上記TV走査後の試料表面電位、H2は上記4倍速走査後の試料表面電位である。B1〜B4は、4倍速走査の1回目〜4回目の走査時の各々の電位変化軌跡を示す。t1〜t4は、B1〜B4に対応した走査時間を示す。B12は、1回目のB1(t1)の後、次の2回目のB2(t2)の走査に遷移する際(なおこの遷移時間は図示省略する)における電位すなわち帯電量の低下を示す。
【0063】
4倍速走査の場合、1画面分の照射時間がTV走査の1/4であるため、その時間内の帯電による電位上昇はTV走査より小さい。更に、1画面の走査後の次の画面の照射までの間に、画素は周辺画素からの二次電子や試料内の電荷によって帯電が緩和され、B12のように、試料表面の電位が低下する。そのため、H2,H1のように、4倍速走査での4画面分の走査後の帯電電位はTV走査と比べて低くなる。従って上記のように高速走査によって帯電を抑制することができる効果が得られる。
【0064】
また、二次電子信号検出系における検出信号ないしパルス信号は、確率的であるため、当該パルス信号に対して、複数の画像のフレームの積算ないし加算による画像処理ないしデータ処理が行われる。図3の例で言えば、B1〜B4の4回分のフレームを積算することで、総合的な検出結果を得る。これにより、試料表面の場所毎のパルス信号の出現の確率あるいは数に応じて画素の階調値として表された画像が得られる。
【0065】
[従来例の二次電子信号検出系]
図4は、本実施の形態との比較例及び前提として、従来例におけるSEM方式の計測検査装置の二次電子信号検出系の構成、及び設定値などを示す。従来例の二次電子信号検出系は、カラム150内の、検出器を構成する蛍光体501及び光電子増倍管(PMT)502と、カラム150側面付近などに設けるプリアンプ回路503と、カラム150外部に設ける二次電子信号検出部500と、それに接続される画像処理部506及び制御部510とを有する。二次電子信号検出部500は、アナログ信号処理増幅部504(AAで示す)と、アナログ・デジタル変換部(ADC)505とを有する。
【0066】
試料110に対する一次電子ビームの照射により発生した二次電子(SE)は、反射板119で反射されて、蛍光体501に入射する。この二次電子は、蛍光体501で光子に変換され、PMT502により再び光子から電流(I)の信号に変換及び増幅される。これによりPMT502は、二次電子を電流(I)の信号として検出する。
【0067】
プリアンプ回路503は、PMT502の出力の電流(I)信号を入力して電流(I)−電圧(V)変換し、前置増幅して出力する。プリアンプ回路503は、例えばオペアンプを用いた電流(I)−電圧(V)変換部、及び増幅器などで構成される。増幅された電圧(V)のアナログ信号は、ケーブル509で伝送され、二次電子信号検出部500のアナログ信号処理増幅部504に入力される。
【0068】
二次電子信号検出部500において、アナログ信号処理増幅部504は、ADC505の最大入力レンジ(例えば約2Vpp)に合わせて、プリアンプ回路503からの電圧(V)のアナログ信号を入力する。アナログ信号処理増幅部504は、設定されたゲインで、入力の電圧(V)の信号をアナログ信号処理及び増幅してADC505へ出力する。
【0069】
ADC505は、入力のアナログ信号をデジタル信号へ変換するサンプリングを行って、そのデジタル信号ないしサンプリングデータを画像処理部506へ出力する。ADC505は、例えばAD変換器とデジタル信号処理回路とで構成される。
【0070】
画像処理部506は、ADC505からのデジタル信号を画像処理して計測または検査の画像を生成する。また、画像処理部506または制御部510は、生成した画像に対する計測または検査の情報処理を行うことで、計測結果や検査結果を得る。
【0071】
例えばSEM方式の計測装置の場合、上記二次電子(SE)の検出信号は、計測対象の試料、その材料、及び照射の際の電子光学条件などによって、当該出力信号の大きさが異なる。そこで高精度の画像を得るためには、計測毎に取得した画像のヒストグラムによって、制御部510から検出器のPMT502のゲインを自動調整する。
【0072】
制御部510からは、設定値として、検出器のPMT502のゲインを調整することで、画像のコントラストなどを調整することができる。また、設定値として、アナログ信号処理増幅部504のゲインによる増幅レベルや、回路オフセットによる画像の明るさの調整などがある。また、設定値として、ADC505の最大入力レンジや、サンプリング周波数などがある。
【0073】
なお図4の従来例の二次電子信号検出系を含む計測検査装置では、検出器となる蛍光体501及びPMT502がカラム150内に配置され、またプリアンプ回路503がカラム150側面付近などに配置される。しかしながら、二次電子信号検出系におけるその他の部位(500など)については、サイズ等の関係で、カラム150近辺には設置できない。そこで、カラム150近辺のプリアンプ回路503で増幅された信号を、ケーブル509を経由して例えば約数メートル離れた場所に設置した二次電子信号検出部500のアナログ信号処理増幅部504へ伝送する構成である。
【0074】
高速走査を行う場合、前述のように、例えば1ライン当たりの走査時間が短い。即ち、高速走査に対応して適切なサンプリングを実現するためには、走査視野や画素数が不変である場合、画素当たりのサンプリング速度を速くする必要がある。そのため、ADC505だけでなく、上記のような二次電子信号をもとに計測画像へ変換するための二次電子信号検出部500を含む検出系回路の全体についても、高速化ないし広帯域に対応しなければならない。例えば従来のTV走査でサンプリング速度が10Msps、及び必要な検出系回路の帯域が10MHzである場合において、例えば8倍速走査に対応するためには、検出系回路の帯域を10MHzの8倍である80MHz以上に広帯域化することが必要である。
【0075】
上述のような前提や課題を踏まえ、本実施の形態では以下のような構成である。
【0076】
[二次電子信号検出系]
図5は、実施の形態1の計測検査装置(図1)における二次電子信号検出系の構成を示す。また図6は、図5に対応した二次電子信号検出系の制御概要などを示す。新規のアナログ信号処理増幅部51などを設けた構成である。
【0077】
本二次電子信号検出系は、カラム100内の検出器107、カラム100側面付近などに設けるプリアンプ(プリアンプ回路)30、カラム100外部に設ける信号検出部50(51,52)、前述の画像処理部205、制御部210、及びGUI部215などで構成される。二次電子信号検出部50は、プリアンプ回路30の後段に接続されるアナログ信号処理増幅部(AA)51と、その後段に接続されるアナログ・デジタル変換部(ADC)52とを有する構成である。
【0078】
カラム100内の検出器107は、例えば従来例(図4)と同様に、蛍光体71とPMT(光電子増倍管)72で構成される。試料110に対する一次電子ビームの照射により発生した二次電子(SE)は、反射板119で反射されて、蛍光体71に入射する。この二次電子は、蛍光体71で光子に変換され、PMT72により再び光子から電流(I)の信号に変換及び増幅される。これによりPMT72は、二次電子を電流(I)の信号として検出する。検出器107は、PMTなどに限らず、APDなどの他のデバイスで構成してもよい。検出器107は、二次電子(SE)の検出器に限らず、その他のエネルギーを検出する検出器としてもよい。
【0079】
プリアンプ回路30は、例えばオペアンプを用いたI−V変換回路31、及び増幅器32などで構成される。プリアンプ回路30は、PMT72の出力の電流(I)信号を入力してI−V変換回路31で電流(I)−電圧(V)変換し、増幅器32で前置増幅して出力する。プリアンプ回路30で増幅された電圧(V)のアナログ信号は、第1のケーブル91で伝送され、二次電子信号検出部50のアナログ信号処理増幅部51の第1クランプアンプ回路10に入力される。プリアンプ回路30は、カラム100の側面付近などに電子回路基板などの形で接続されてもよい。
【0080】
アナログ信号処理増幅部51は、ADC52の最大入力レンジ等に合わせて、プリアンプ回路30からの出力信号(V)である二次電子(SE)のアナログ信号ないし検出信号を入力し、設定されたゲイン等でアナログ信号処理及び増幅して、ADC52へ出力する。アナログ信号処理増幅部51は、第1クランプアンプ回路10と、第1スイッチ11と、LPF組12と、第2スイッチ13と、可変ゲイン増幅回路(可変ゲインアンプ)14と、第2クランプアンプ回路15とが順に接続される構成である。LPF組12は複数のLPF(#1〜#N)を含む構成である。
【0081】
アナログ信号処理増幅部(AA)51の可変ゲイン増幅回路14とADC52のAD変換器21との間は第2のケーブル92で接続され、AA51の出力信号であるアナログ信号(SA)が第2のケーブル92を通じて伝送される。なお実施の形態1のケーブル91,92はシングル伝送型である。
【0082】
ADC52は、アナログ信号処理増幅部51でアナログ処理増幅されたアナログ信号(SA)を入力してデジタル信号(DA)へ変換するサンプリングを行って画像処理部205へ出力する。ADC52は、上記アナログ信号(SA)をデジタル信号(DA)へ変換するAD変換器21、及びその後段に接続されるデジタル信号処理回路22等で構成される。
【0083】
画像処理部205は、前述同様に、ADC52からのデジタル信号(DA)をもとに、所定の画像処理を行い、測定または検査の画像を生成する。また、画像処理部205または制御部210は、生成した画像に対する計測または検査の情報処理を行うことで、計測結果や検査結果を得る。制御部210は、画像処理部205で生成した画像を記憶管理すると共に、GUI部215の処理を通じて、上記画像を含むデータ情報を表示するGUI画面をユーザに提供する。
【0084】
例えば計測機能の場合、上記二次電子(SE)の検出信号は、計測対象の試料110、及び照射の際の電子光学条件などによって、当該出力信号の大きさが異なる。そこで高精度の画像を得るために、計測毎に取得した画像のヒストグラムなどの統計処理によって、制御部210から検出器107のPMT72のゲインを自動調整する。
【0085】
制御部210からは、設定値として、検出器107のPMT72のゲインを調整することで、画像のコントラストなどを調整することができる。また、設定値として、アナログ信号処理増幅部51のゲインによる増幅レベルや、回路オフセットによる画像の明るさの調整などがある。また、設定値として、ADC52の最大入力レンジや、サンプリング周波数などがある。
【0086】
更に、制御部210は、GUI部215の画面でのユーザの設定や操作に従い、例えば走査速度(1倍/2倍/4倍/8倍など)に対応する走査モードの指定に従い、二次電子信号検出系のアナログ信号処理増幅部51を含む各部に対するパラメータ値の制御を制御信号C1等により行う。例えば制御信号Caにより検出器107のPMT72のゲインを調整することで画像のコントラストを調整する。また、制御信号CbによりADC52の最大入力レンジや、サンプリング周波数などを調整する。
【0087】
また制御部210は、制御信号C0,C5により第1クランプアンプ10及び第2クランプアンプ15の各クランプ電圧である最大出力レベル制限値を調整する。また、制御信号C1,C3により第1スイッチ11及び第2スイッチ13の切り替えによりLPF組12のうちの使用するLPFを選択することでアナログ信号の回路周波数帯域ないし通過帯域を切り替える。また、制御信号C4により、可変ゲインアンプ14の可変ゲインによる増幅レベルを調整する。
【0088】
制御部210は、走査速度などに応じて、検出器107及びプリアンプ回路30とADC52との間に配置されるアナログ信号処理増幅部(AA)51内の各部を、上記制御信号を用いて好適に制御する各機能を有する。即ち、制御部210は、(1)帯域切り替え機能、(2)可変ゲイン調整機能、(3)クランプ出力調整機能を有する。(1)帯域切り替え機能は、制御信号C1,C3を用いて、AA51の回路周波数帯域を好適に切り替える制御を行う。(2)可変ゲイン調整機能は、制御信号C4を用いて、AA51の可変ゲインによる増幅レベルを好適に切り替える制御を行う。(3)クランプ出力調整機能は、制御信号C0,C5を用いて、AA51の入力側及び出力側の最大出力レベル制限値を調整する。
【0089】
[二次電子信号検出部50]
アナログ信号処理増幅部51において、第1クランプアンプ回路10は、制御部210からの制御信号C0に応じて、そのクランプ電圧である最大出力レベルが制限されるように調整・制御される入力クランプアンプ回路である。第1クランプアンプ回路10の出力レベル制限値は、PMT72のゲインなどに合わせて調整される。
【0090】
LPF組12は、それぞれ異なる通過周波数帯域を持つ複数(N個)のLPF(ローパルフィルタ)#1〜#Nによる組ないし群である。LPF組12の前後のスイッチ(11,13)は、制御部210からの制御信号C1,C3により切り替えが制御される。これにより使用するLPFが選択される。複数のLPFは、試料110、ビーム走査制御の電子光学条件、走査速度、ADC52のサンプリング周波数などに対応させて、好適にアナログ信号の周波数帯域を通過させるように、それらの値に応じた複数の各々の帯域を通過させるフィルタが設計されている。
【0091】
可変ゲインアンプ14は、制御部210からの制御信号C4により、LPF(12)の通過後の信号の増幅のゲインを可変に制御できる。可変ゲインアンプ14は、ADC52のサンプリング周波数などに合わせて、その可変ゲインによる増幅レベルが調整されることで、検出信号となるパルス信号の振幅を調整可能である。
【0092】
第2クランプアンプ回路15は、制御部210からの制御信号C5に応じて、その最大出力信号レベルが制限されるように調整・制御される出力クランプアンプ回路である。第2クランプアンプ回路15の最大出力信号レベルは、ADC52のAD変換器21の最大入力信号レンジなどに合わせて制御される。第1及び第2クランプアンプ(10,15)での出力レベル制限により、検出信号であるパルス信号の最大振幅も制限される。
【0093】
[二次電子信号検出系の制御概要]
上記二次電子信号検出系におけるアナログ信号処理増幅部51の各部を制御する各機能について以下である。下記(0)〜(3)の各機能の制御は他の機能と相関して行われる。言い換えると各部のパラメータ値は相関して設定される。
【0094】
(0) まず前提・公知技術として、制御部210から検出器107のPMT72のゲイン等を自動調整する機能を有する。また制御部210からADC52の最大入力レンジやサンプリング周波数ないし周期などを調整する機能を有する。特に、ABCC機能として、PMT72のゲインやアナログ信号処理増幅部51の回路オフセット等を自動調整することで、取得する画像の明るさ及びコントラストを調整する機能を有する。特に事前設定の1つとして、上記自動調整の機能により、PMT72のゲインの補正ないし校正を行って、そのデータないし設定情報を保存しておく。
【0095】
また、GUI部215の画面を通じたユーザによる指示に従い、制御部210では、計測・検査に使用する走査モードにおける走査速度を制御する。ユーザは例えば1倍/2倍/4倍/8倍などから走査速度を選択する。制御部210は、選択された走査モードの走査速度に応じて、走査制御部230により、電子ビームの走査や、ADC52のサンプリングを制御する。
【0096】
(1) 本計測検査装置は、二次電子信号検出部50におけるアナログ信号処理増幅部(AA)51でのアナログ信号処理の帯域を切り替える帯域切り替え機能(言い換えると帯域切り替え部)を有する。制御部210からのLPF組12のスイッチ(11,13)に対する制御信号(C1,C3)により、走査速度、PMT72のゲイン、ADC52のサンプリング周波数及び入力レンジなどに対応させて、LPF組12のうちの使用するLPF、即ち帯域を選択する。選択する帯域は、下記(2)の可変ゲインや下記(3)のクランプ出力に合わせて決定する。これにより、走査速度などに応じた好適な帯域にすることで、SNRを向上し、サンプリングでのパルス信号の取りこぼし等を防止する。
【0097】
二次電子(SE)の検出アナログ信号のリンギングや応答遅れ等を発生させず、且つ余分な帯域外ノイズを最大限に低減するために、この帯域切り替え機能により、走査速度に応じた好適な帯域への切り替え制御を実現している。
【0098】
(2) 本計測検査装置は、アナログ信号処理増幅部(AA)51の可変ゲインによる増幅レベルを調整する可変ゲイン調整機能(言い換えると増幅レベル調整機能、可変ゲイン調整部)を有する。制御部210からの可変ゲインアンプ14に対する制御信号C4により、走査速度、PMT72のゲイン、ADC52のサンプリング周波数及び入力レンジなどに対応させて、また上記(1)の帯域、及び下記(3)のクランプ出力等に合わせるようにして、当該可変ゲインによる増幅レベルを調整する。これにより、検出信号となるパルス信号の振幅の大きさを調整し、AA51での回路飽和現象などを防止する。
【0099】
(3) 本計測検査装置は、アナログ信号処理増幅部(AA)51の入出力の部位である第1及び第2クランプアンプ回路(10,15)の各クランプ電圧である最大出力レベルを制限するクランプ出力調整機能(言い換えると、入出力レベル制限機能、クランプ出力調整部)を有する。制御部210から第1及び第2クランプアンプ回路(10,15)に対する制御信号(C0,C5)により、走査速度、PMT72のゲイン、ADC52のサンプリング周波数及び入力レンジなどに対応させて、また上記(1)の帯域、上記(2)の可変ゲインなどに合わせるようにして、当該各クランプ出力を調整する。第1及び第2クランプアンプ回路(10,15)の各最大出力レベルは対応関係で制御される。これによりAA51での回路飽和現象などを防止する。
【0100】
[制御及び設定の例]
図7は、上記二次電子信号検出系の制御の各機能の相関制御及び設定情報の例を示す。制御部210は、図7のようなテーブル情報を記憶管理する。またGUI部215による設定画面、例えば後述図8のようなGUI画面で、このようなテーブル情報を表示し、ユーザにより各値を設定可能とする。なおユーザが直接詳細にパラメータ値を設定可能とする場合を示すが、ユーザが選択した走査モードなどに応じて制御部210が自動的に各パラメータ値を設定するようにしてもよい。
【0101】
図7のテーブルでは、管理項目として、(a)走査モード(走査速度)、(b)帯域(LPF)、(c)可変ゲイン(増幅レベル)、(d)クランプ#1,#2(最大出力レベル)を有する。
【0102】
まず(a)でユーザにより走査モード(対応する走査速度)を選択指定する。例えばユーザは走査速度として1倍/2倍/4倍/8倍から選択する。例えば低速走査である通常のTV走査を行う場合は1倍を選択する。
【0103】
次に(b)で、(a)で選択された走査速度に応じた好適な帯域を対応するLPFとして選択する。例えば、1倍速(TV走査)の場合は、二次電子(SE)の検出アナログ信号ないしパルス信号の通過に必要な帯域が10MHzであり、それに対応する通過帯域を持つLPF#1が選択される。同様に、2倍速では20MHzのLPF#2、4倍速では40MHzのLPF#3、8倍速では80MHzのLPF#4などである。(b)での選択に応じて前述のようにLPF組12のLPFが切り替え制御される。本設定によりSNRが改善できる。
【0104】
次に(c)で、(a),(b)の選択に対応させて、可変ゲインによる増幅レベルを設定する。例えば1倍速で10MHzの場合に好適な第1ゲイン(G1)が設定される。同様に各ゲイン(G2〜G4)が設定される。G1<G2<G3<G4である。(c)の設定に応じて前述のように可変ゲインアンプ14の可変ゲイン値が制御される。
【0105】
次に(d)で、(a),(b),(c)の選択・設定値に対応させて、各クランプ#1(10),#2(15)の最大出力レベルの制限値を設定する。例えば1倍速で10MHz、第1ゲイン(G1)の場合に好適な第1電圧(V1)が設定される。同様に各クランプ電圧(V2〜V4)が設定される。V1<V2<V3<V4である。(d)の設定に応じて前述のように各クランプアンプ(10,15)のクランプ電圧値が制御される。
【0106】
なお図7のテーブルないし画面のように、予め、走査速度ないし走査モードに応じた各パラメータ値の関係付けのパターンを用意しておき、ユーザがそれらから選択して利用可能としてもよい。
【0107】
[GUI画面]
図8は、GUI部215によるGUI画面の表示例として、計測・検査の際に二次電子信号検出系の各パラメータ値を設定・制御するための画面例を示す。特に本実施の形態では、前述の公知技術であるABCC機能に対応した画面例を示す。ABCC機能として、計測画像ないし検査画像の明るさ及びコントラストなどを自動調整する機能を有し、それに対応した設定項目などを有する。また図7と同様に、各パラメータ値をユーザが直接詳細に設定できる画面の場合を示す。
【0108】
図8(a)は、従来例の計測装置ないし計測機能におけるABCC機能に対応した設定・制御のGUI画面のイメージである。本画面では、基本設定の項目g0と、ABCC機能に対応した、画像コントラスト調整の項目g1、画像明るさ調整の項目g2、及びABCC調整結果の項目g3などを有する。
【0109】
基本設定の項目g0は、基本的な計測条件などのパラメータ情報を表示してユーザ設定可能とする項目である。基本設定の項目g0では、詳細は図示省略するが、例えば、計測または検査の対象となる試料110の情報を表示・設定する項目、計測・検査の際の電子光学条件ないしレシピ(条件やパラメータのセット)を表示・設定する項目、走査速度ないし走査モードを設定する項目、前述のフレーム積算回数を設定する項目、測定・検査の出力の倍率を設定する項目などがある。例えばユーザが所望の項目を選択して遷移する詳細画面で、対応するパラメータ値を確認・設定可能である。ユーザは例えば走査モードとして1倍/2倍/4倍/8倍から選択可能である。
【0110】
画像コントラスト調整の項目g1では、PMT502のゲイン値を調整可能であり、この設定値に対応して前述の制御信号Caにより画像コントラストが調整される。ユーザ操作により本画面内のスライドバー等によりパラメータ値を調整・設定できる。
【0111】
画像明るさ調整の項目g2では、二次電子信号検出回路50の回路オフセット値を調整可能であり、この設定値に対応して画像明るさが調整される。詳しくは、ABCC機能により、計測毎に取得した画像のヒストグラムによって、PMT502のゲインおよび回路オフセットの値が自動的に調整される。
【0112】
ABCC調整結果の項目g3では、上記項目g1,g2を用いたABCC機能による調整結果のグラフやデータ情報などを表示する。
【0113】
従来例では上記のようにABCC機能などで画像のコントラスト及び明るさを調整可能であるが、PMT502のゲイン等しか調整できないので、調整がうまく収束できない場合もある。特に、試料の材料やパターン及びPMT502のゲインの設定値によっては、アナログ信号処理増幅部504での回路飽和現象などが発生する可能性もある。
【0114】
一方、図8(b)は、本実施の形態の計測検査装置におけるABCC機能に対応した計測・検査の設定・制御のGUI画面のイメージである。本画面では、基本設定項目g0と、図8(a)の従来例と同様のABCC機能の各項目(g1,g2,g3)とに加え、二次電子信号検出系の回路の各部、特にアナログ信号処理増幅部51の各部を、好適に調整するための各機能の設定を可能とする各項目(g11,g12,g13)を設けている。即ち、本画面では、回路帯域切替え(LPF選択)の項目g11と、可変ゲインアンプ調整(信号増幅レベル調整)の項目g12と、クランプ電圧調整(最大出力レベル制限)の項目g13とを有する。
【0115】
回路帯域切替え(LPF選択)の項目g11では、走査速度などに合わせて、アナログ信号処理増幅部(AA)51の回路周波数帯域、またはそれに対応させて使用するLPFを設定可能である。項目g11では、ユーザにより、当該帯域またはLPFを、バーや数値入力欄、あるいはLPF選択ボタンなどで切り替えや調整ができる。使用する所望のLPF(#1〜#N)を直接選択できる形式としてもよい。
【0116】
可変ゲインアンプ調整(信号増幅レベル調整)の項目g12では、走査速度及び使用帯域などに合わせて、可変ゲインアンプ14の可変ゲインによる増幅レベルを設定可能である。項目g12では、ユーザにより、当該可変ゲイン値をスライドバーや数値入力欄などで調整できる。
【0117】
クランプ電圧調整(最大出力レベル制限)の項目g13では、走査速度、使用帯域、及び可変ゲインに合わせて、第1クランプアンプ10の最大入力レベル制限値、及び第2クランプアンプ15のそれぞれの最大出力レベル制限値を設定可能である。項目g13では、ユーザにより、当該最大出力レベル制限値をスライドバーや数値入力欄などで調整できる。
【0118】
上記画面での設定により、ABCC機能を含む計測・検査機能の調整が効率良く可能である。即ち、ユーザの選択による高速走査や低速走査のいずれの走査速度に対しても、二次電子信号検出系の回路帯域やサンプリングなどが適切な状態となるように柔軟に対応することができる。これにより、前述のSNR低減、パルス信号取りこぼし防止、及び回路飽和現象防止などを実現でき、計測・検査の高速化及び高精度化が実現できる。
【0119】
本GUI画面でのユーザによる各項目の設定の順序例は以下である。即ち、(0)項目g0での走査速度などの設定、(1)項目g11での帯域ないしLPFの設定、(2)項目g12での可変ゲインによる増幅レベルの設定、(3)項目g13でのクランプ出力の設定、(4)ABCC機能の各項目g1〜g3での画像コントラスト及び明るさの設定・確認。
【0120】
(0)項目g0でユーザが所望の走査速度を選択する。(1)項目g11では、選択された走査速度に対応して帯域ないしLPFを選択する。例えば1倍速(TV走査)の場合に10MHzが設定される。(2)項目g12では、帯域の設定値に対応して、前述の事前のゲイン補正ないし校正のデータを用いて、可変ゲインによる増幅レベルの値が設定される。なお上記校正データを用いない場合、ユーザにより使用する任意の可変ゲイン値の設定も可能である。(3)項目g13では、帯域及び可変ゲインの設定値に対応して、各クランプの最大入力レベル制限値が設定される。ここでは例えば、帯域及び可変ゲインの設定値を用いて制御部210等により見積もった、プリアンプ回路30で増幅されたアナログ信号の最大振幅値(例えば図11のScのc1)に合わせて、当該制限値が設定される。(4)次に、ユーザは、前述の項目g1,g2を利用して、項目g3に表示される取得画像のヒストグラムを確認しながら、ABCC調整ないし画像コントラスト及び明るさ調整を行う。ここでもし回路飽和などによって、ABCC調整結果(g3)における収束性が悪い場合、ユーザは、上記各項目(g11〜g13)、例えばクランプの最大出力レベル制限値などを微調整しながら、再度、ABCC調整を同様に行う。これにより良好な画像が得られる。
【0121】
[計測検査方法]
本計測検査装置を用いた計測検査方法及びユーザの作業の概略は以下である。
【0122】
(ステップS1) 前述のGUI画面などで、ユーザは、計測機能または検査機能を選択し、計測/検査における基本的な条件として、試料110、電子光学条件、走査速度に対応した走査モード、フレーム積算回数、倍率などのパラメータ値を設定する。または、設定済みの情報を読み出して使用してもよい。
【0123】
(S2) 前述のGUI画面(図8(b))で、ユーザは、二次電子信号検出系の各部(10〜15)のパラメータ値を設定する。または、図7のテーブルのように設定済みの情報を読み出して使用してもよい。
【0124】
(S3) ユーザは、計測検査装置に対し、計測または検査の開始を指示入力する。計測検査装置は、上記選択された走査速度を含む設定に従い、走査制御を含む計測・検査の制御を実行する。即ち前述のようにコンピュータ200からカラム100内の各部を制御し、これにより検出器107で二次電子(SE)の信号を検出する。そして検出器107(71,72)から、プリアンプ回路30を経て、二次電子信号検出部50のアナログ信号処理増幅部51、及びADC52での処理を通じて、二次電子(SE)の検出信号をサンプリングデータとして取得する。
【0125】
(S4) 画像処理部205は、ADC52からのサンプリングデータに対して画像処理を施し、二次元の計測画像または検査画像を生成する。またフレーム積算処理などの統計処理を行う場合は、上記処理を画像ごとに複数回同様に繰り返す。
【0126】
(S5) 制御部210は、計測画像または検査画像を取得し、例えば当該画像に対して、回路パターン寸法値の計測処理や、異常検出判定などの検査処理を行い、その処理結果と画像とを含むデータ情報をメモリ等に記憶する。そして、GUI部215により、当該画像を含むデータ情報を表示するGUI画面データを生成してディスプレイに表示する。
【0127】
(S6) ユーザは、上記GUI画面を見て、計測画像または検査画像の結果を確認する。また必要に応じて適宜ステップS1等に戻り、設定値を変更し、再度同様に処理を実行することで、異なる設定値による計測画像または検査画像を取得する。
【0128】
[従来例の信号波形]
図9は、比較のため、従来例の二次電子信号検出系(図4)における各信号波形のイメージを示す。図中上側は図4同様の二次電子信号検出系の構成例を示す。Sa(901)は、検出器107に入射される二次電子(SE)の信号を示す。Sb(902)は、PMT502の出力の電流信号波形を示す。Sc(903)は、プリアンプ回路503の出力の電圧信号波形を示す。Sd(904)は、アナログ信号処理増幅部504の出力である増幅された二次電子(SE)の検出アナログ信号波形を示す。丸印(○)はADC505でのサンプリング点である。Se(905)は、ADC505の出力のデジタル信号波形を示す。ADC505の出力のサンプリング結果は、画像処理部506での画像処理及びフレーム積算処理などを経て、試料パターン形状に応じた二次元画像として取得される。
【0129】
Saでは振幅が小さいパルス信号を含んでいる。Sb,Sc,Sdのように、二次電子(SE)の検出信号は、試料のパターン等に応じた頻度分布を持つ、離散的なパルス信号を含んだ波形となる。これらの複数のパルス信号は、幅及び間隔が短いものが多い。パターンの平坦部分ではパルス信号の出現頻度が低く、パターンのエッジ部では、パルス信号の出現頻度が高く、振幅が大きい。
【0130】
従来例では、低速走査時には、二次電子(SE)のアナログ信号は、Sd(904)のように、帯域不足によりSNRが低減する場合がある。また大きい振幅のパルス信号(例えばSdのd1)が、アナログ信号処理増幅部504での回路飽和現象により、ADC505で適切にサンプリングできない場合がある。またADC505のサンプリング周波数が、パルス信号の間隔ないし幅よりも大きい場合、Sd,Seのように、サンプリング時にパルス信号の取りこぼしが発生する場合がある。
【0131】
図10は、従来例の課題の1つとして、図9のSd(904)に対応した二次電子(SE)の検出信号であるパルス信号について拡大で示す。特に、ADC505のサンプリング周期(TS)よりもパルス信号の間隔(TP)の方が小さい場合(TS>TP)の箇所を含んだ波形を示す。サンプリング周期をTS、パルス信号の間隔をTPとする。丸(○)はサンプリング点である。
【0132】
TS≦TPの場合及び箇所では、問題無くパルス信号をサンプリングすることができる。従来例のTV走査に対応した検出系では、アナログ信号処理増幅部504を含む回路全体の周波数帯域は、TV走査時のサンプリング速度である例えば10Mspsに対応する最大10MHzしかない。また検出信号となるパルス信号の幅ないし間隔(TP)はサンプリング周期(TS)である例えば100ns以上に大きい(TS≦TP)。よって、パルス信号を取りこぼさずにサンプリング可能である。
【0133】
しかし、図10のようにTS>TPの場合及び箇所では、出現するパルス信号のすべてを適切にサンプリングすることはできず、パルス信号の取りこぼしの現象が発生する。走査速度の高速化、及びアナログ信号処理増幅部504を含む回路の広帯域化に伴い、図9のSb,Scのような検出信号も高速化すなわちパルスの間隔ないし幅が短くなり、大きな振幅になる。例えば8倍速走査が可能なように広帯域化した回路の場合、パルス信号の幅ないし間隔(TP)が最短12.5nsになる。当該高速走査のために広帯域化した回路構成で低速走査を行う場合、上記のように、最短のパルス信号の幅ないし間隔(TP)がサンプリング周期(TS)よりも短くなる可能性がある(TS>TP)。例えばサンプリング周期(TS)が100nsになり、TS>TPとなる。これにより、図10の例のように、サンプリングでパルス信号の取りこぼしの現象が発生する。また、アナログ信号処理増幅部504での回路飽和現象の発生や、波形のリンギングや応答遅れ等の発生につながり、回路動作が不安定化し、計測・検査の精度に影響を与える。したがって、結果として取得される画像において情報が欠落になるので、計測・検査の精度が低下する。
【0134】
そこで、本実施の形態では、高速走査及び低速走査のいずれにも対応できる走査制御機能を有する構成であると共に、走査速度に応じて、前述のようにアナログ信号処理増幅部51の各部を好適に制御する構成である。これにより上記課題に対処し、高速・高精度な計測・検査を実現している。
【0135】
[本実施の形態の信号波形]
図11は、実施の形態1での効果のイメージとして、二次電子信号検出系での各信号波形を示す。Sa〜Seは、図9の従来例の各信号波形に対応した本実施の形態での信号波形を示す。本実施の形態では、前述の帯域切替え機能、可変ゲイン調整機能、及びクランプ出力調整機能などを利用することで、各信号波形を好適になるように調整する。波形Sc(1001)のように、早いパルス信号、即ちパルスの幅及び間隔が狭い波形については、アナログ信号処理増幅部51での適切な帯域でのアナログ処理増幅により、波形Sd(1002)のように、時間的な変化が遅いパルス信号、即ちパルスの幅及び間隔が広い波形となる。なおSd(1002)では2つのパルスの概略的な間隔をTPとして示している。調整された波形SdをADC52の入力としてサンプリングすることで、波形Se(1003)のように、適切にサンプリング可能である。即ち、低速走査に対応した遅いサンプリング周期(TS)によって当該波形Sdをサンプリングしたとしても、TS≦TPであるため、パルス信号の取りこぼしが発生しない。即ちサンプリング精度が高くなり、計測画像/検査画像の品質を高くできる。
【0136】
また、図12は、実施の形態1での効果のイメージとして、各走査速度に応じた、ゲイン及びアナログ信号処理増幅部51の帯域の好適な選定により、それぞれ対応する雑音量が異なることを示す。1200は雑音信号を示す。走査速度及び帯域として、1倍であるTV走査の帯域(a1)、2倍速走査の帯域(a2)、4倍速走査の帯域(a3)、及び8倍速走査の帯域(a4)の場合を示す。前述の帯域切替え機能では、例えばa1の場合はLPF組12のLPF#1を選択し、a2の場合はLPF#2、a3の場合はLPF#3、a4の場合はLPF#4を選択する。これにより、例えば低速走査時にはa1のように狭い信号帯域を選択することで、対応する雑音量を低減できることがわかる。即ちSNRの低減を防止でき、高精度な計測・検査が実現できる。
【0137】
<実施の形態2>
次に、図13を用いて、本発明の実施の形態2の走査型電子ビーム方式の計測検査装置について説明する。実施の形態2の基本構成は、実施の形態1(図1等)と同様であり、実施の形態1と異なる構成として、差動伝送手段を有する構成である。
【0138】
図13は、実施の形態2の計測検査装置の二次電子信号検出系の構成を示す。前述の形態(図5)と異なる主な部位として、各部間を接続する、第1の差動ケーブル91b、及び第2の差動ケーブル92bと、それに対応した差動構成として、差動出力プリアンプ回路30b、及び差動入出力に対応した二次電子信号検出部50b(51b,52b)を有する。差動出力プリアンプ回路30bは、差動出力型増幅器32bを含む。二次電子信号検出部50bは、差動入出力型のアナログ信号処理増幅部51bと、差動入力に対応した差動ADC52bとを有する。アナログ処理増幅部51bは、第1差動クランプアンプ回路10b、及び第2差動クランプアンプ回路15bを有する。差動ADC52bは、差動入力型のAD変換器21bを有する。
【0139】
差動出力プリアンプ回路30bは、検出器107(71,72)からの出力電流(I)を電圧(V)に変換して差動出力型増幅器32bで前置増幅し、差動信号を出力する。差動出力プリアンプ回路30bからの差動出力信号は、第1の差動ケーブル91bを経由して、第1差動クランプアンプ回路10bに差動入力される。第1差動クランプアンプ回路10bは、前述同様にその最大出力レベルが制御される、差動入力シングル出力クランプアンプ回路である。また、第2差動クランプアンプ回路15bは、前述同様にADC52bの最大入力レンジに合わせてその最大出力レベルが制御される、シングル入力差動出力クランプアンプ回路である。第2差動クランプアンプ回路15bからの、アナログ処理増幅された差動出力アナログ信号は、第2の差動ケーブル92bを経由して、差動入力型のADC52bのAD変換器21bに入力され、前述同様に処理され、デジタル信号(SD)が出力される。
【0140】
制御部210は、前述の形態と同様に、各制御信号(C0〜C5等)により各部のパラメータ値を制御する。例えば制御信号C0,C5により、前述の可変ゲイン等に合わせて、各クランプ(10b,15b)の最大出力レベルが制限されることにより、アナログ信号処理増幅部51bの回路飽和現象が防止される。
【0141】
実施の形態2では、二次電子信号検出系を構成する要素(30b,51b,52b)間を全て差動ケーブル91b,92bを用いて差動信号伝送する構成により、実施の形態1の効果に加え、検出系の回路における耐雑音性ないし外乱耐性を強化し、放射ノイズなどを抑制でき、取得画像に重畳されるノイズを低減でき、即ち計測・検査の精度を向上できる。
【0142】
更に、前述の実施の形態1の構成(図1)では、従来例の構成に従う場合、筐体であるカラム100の側面付近の例えば内側に、検出器107(71,72)に接続されるプリアンプ回路30などを実装した電子回路基板などが設けられる。このプリアンプ回路30あるいは更にその後段の回路を含めて実装した基板は、カラム100内の検出器107などの検出系に対して位置的に近いため、影響を与える。そこで、実施の形態2のように、差動ケーブル91b,92bを用いて差動信号伝送する構成とし、プリアンプ回路30の基板をカラム100の側面の外側などに配置し、カラム100から離れた位置に二次電子信号検出部50bなどを配置する。これにより、上記プリアンプ回路30等の基板からのカラム100内の検出系への影響を低減することができる。長い差動ケーブル91b,92bを用いて各要素(30b,51b,52b)間を離して配置することで相互影響を低減できる。
【0143】
なお2つの差動ケーブル(91b,92b)で接続する形態に限らず、一方のみを差動伝送する形態としてもよい。
【0144】
<効果等>
以上説明したように、本実施の形態の計測検査装置によれば、高速走査及び低速走査を含む多様な走査速度へ対応可能な制御機能を備え、高速走査を可能とするための二次電子信号検出系の広帯域化に対しても、高速及び高精度な計測・検査を実現できる。特に、二次電子信号検出部50内の各部を制御して帯域・増幅レベル・クランプ出力などを好適に制御する構成により、雑音信号の低減によるSNRの低減ないし向上、サンプリング時のパルス信号の取りこぼしの防止、及び回路飽和現象の防止などを実現できる。
【0145】
本計測検査装置は、例えば前述の試料の帯電量の制御に係わる高速走査を含む、複数の走査速度の制御機能、それに対応した高速な二次電子信号検出系、及び各種設定が可能なGUI画面などを備える。それと共に、低速走査時においても、前述のSNR低下、パルス信号取りこぼし、及び回路飽和などを発生させずに良好な計測・検査を実現できる。
【0146】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【0147】
例えば、前述の(1)帯域切替え機能、(2)可変ゲイン調整機能、及び(3)クランプ出力調整機能の3つの機能のすべてを備える形態に限らず、それらの1つまたは2つを備える形態も勿論可能である。例えば、帯域切替え機能のみ備える形態や、帯域切替え機能と可変ゲイン調整機能との2つを備える形態などが可能である。
【0148】
また例えば、前述の帯域切替え制御のためにLPF組12を用いたが、LPFに限らず、各種のフィルタやその組合せで制御してもよい。
【符号の説明】
【0149】
10…第1クランプアンプ回路、11…第1スイッチ、12…LPF組、13…第2スイッチ、14…可変ゲイン増幅回路(可変ゲインアンプ)、15…第2クランプアンプ回路、21…AD変換器、22…デジタル信号処理回路、30…プリアンプ(プリアンプ回路)、31…I−V変換回路、32…増幅器、50…二次電子信号検出部、51…アナログ信号処理増幅部、52…・変換部(ADC)、71…蛍光体、72…PMT、91,92…ケーブル、100…カラム、107…検出器、110…試料、119…反射板、200…コンピュータ、205…画像処理部、210…制御部、215…GUI部、220…電子光学制御部、230…走査制御部、231…偏向制御部、240…検出制御部、241…対物レンズ制御部、250…機構系制御部。
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