(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記プラズマ生成電極板は、給電を受ける給電端と接地されている接地端とを有し、前記基板の搬送経路を横断する方向に電流が流れて磁界を形成する横断部分の前記給電端から前記接地端に向かう電流経路の向きは、前記横断部分のうち前記搬送方向に隣接する横断部分同士で、互いに逆向きである、請求項1に記載の成膜装置。
前記プラズマ生成電極板の、前記搬送経路を挟んだ両側のうち少なくともいずれか一方の側に位置する端部は、前記給電端と前記接地端とが前記搬送方向に沿って交互に設けられている、請求項2に記載の成膜装置。
前記プラズマ生成電極板は、2つの横断部分が前記搬送経路を横切る方向に延び、かつ、前記搬送方向の位置に関して前記インジェクタの1つを挟むように配置されたU字状の板材を用いて構成され、前記給電端と前記接地端は、前記搬送経路を挟んで同じ側に位置する、請求項2または3に記載の成膜装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの成膜装置あるいは成膜方法では、基板としてフレキシブル性を有するフィルムまたはシート状のものが用いられ、基板は搬送されながら、複数の成膜用のヘッド部を通過することにより、異なるガスが交互に基板に供給される。
上記成膜装置及び成膜方法は、異なるガスを基板に交互に供給することで、供給したガスと、既に供給されたガスのうち基板に形成された成膜成分の層とが反応することで、原子層単位の薄膜が形成されるが、この反応は温度に依存するので、反応を高めるために基板の温度を高める必要がある。このため、フレキシブルで樹脂系フィルムを基板として用いる場合、基板の種類は制限され易く、また、基板の温度も制限を受け易い。
【0007】
これに対して、基板の温度の制限を受け難いプラズマを用いたALD(プラズマALD)も知られている。
しかし、プラズマALDの成膜装置であって、搬送する基板に対して成膜する成膜装置では、プラズマから生成される反応活性が高いラジカル(ラジカル原子やラジカル分子)を用いるので、可能な限り反応する他の成膜用ガスと気相中で混合されることは好ましくない。
また、搬送する基板に対して成膜するプラズマALD成膜装置であって、成膜を効率よく行うことができ、しかも、簡単な構成でALDを実現できる装置構成は現在知られていない。
一方、静止した基板を成膜容器内で成膜するプラズマALD成膜装置として、平行平板電極を用いた構成が知られている。この構成を搬送中の基板に適用したとき、反応性ガスをラジカル化するために平行平板電極間の空間全体に亘ってプラズマを効率く生成することは難しく、ラジカルを効率よく基板上に供給することは難しかった。
【0008】
そこで、本発明は、プラズマALDを用いて搬送中の基板を成膜する成膜装置であって、効率よくラジカルを基板上に供給することができる成膜装置及びこの成膜装置を用いた成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、成膜用ガスと反応性ガスを用いて原子層単位で薄膜を形成する成膜装置である。当該成膜装置は、
成膜容器と、
前記成膜容器内で成膜用の基板を搬送する搬送機構と、
前記成膜容器内の前記基板の搬送経路に沿って設けられる複数の板状の電極板であって、前記電極板それぞれの主表面は前記基板の面に対向するように設けられ、前記電極板それぞれにおいて前記基板の搬送経路を横断する方向に電流が流れて磁界を形成することで前記成膜空間内の反応性ガスを用いてプラズマを生成するプラズマ生成電極板と、
前記プラズマ生成電極板と前記搬送経路との間において、前記プラズマから生成されるラジカルが前記基板に供給されるように隙間をあけて前記搬送経路に沿って設けられた複数のインジェクタであって、成膜用ガスの噴射口を有し、前記成膜用ガスを前記基板に向けて供給するインジェクタと、を有する。
前記プラズマ生成電極板それぞれの前記電流が流れて磁界を形成する横断部分は、前記搬送方向に沿った位置に関して、前記インジェクタ間の前記隙間と同じ位置に設けられている。
【0010】
前記プラズマ生成電極板は、給電を受ける給電端と接地されている接地端とを有し、前記基板の搬送経路を横断する方向に電流が流れて磁界を形成する横断部分の前記給電端から前記接地端に向かう電流経路の向きは、前記横断部分のうち前記搬送方向に隣接する横断部分同士で、互いに逆向きである、ことが好ましい。
【0011】
前記プラズマ生成電極板の、前記搬送経路を挟んだ両側のうち少なくともいずれか一方の側に位置する端部は、前記給電端と前記接地端とが前記搬送方向に沿って交互に設けられている、ことが好ましい。
【0012】
前記プラズマ生成電極板は、直線状の板材を用いて構成され、前記給電端と前記接地端は、前記搬送経路を挟んで異なる側に位置し、前記搬送経路を挟んだ両側において前記給電端と前記接地端とは前記搬送方向に沿って交互に設けられている、ことが好ましい。
【0013】
前記プラズマ生成電極板は、2つの横断部分が前記搬送経路を横切る方向に延び、かつ、前記搬送方向の位置に関して前記インジェクタの1つを挟むように配置されたU字状の板材を用いて構成され、前記給電端と前記接地端は、前記搬送経路を挟んで同じ側に位置する、ことも同様に好ましい。
【0014】
前記プラズマ生成電極板の前記給電端は互いに同位相の交流の給電を受ける、ことが好ましい。
【0015】
このような成膜装置の一形態として、前記搬送機構は、一対の回転ローラを含み、前記基板は、長尺
状のフレキシブルなフィルムである。この場合、前記フィルムは、前記回転ローラの一方に巻き回された状態から前記回転ローラの他方に巻き取られる、ことが好ましい。
【0016】
さらに、本発明の他の一態様は、上述した成膜装置を用いて行う成膜方法である。当該成膜方法において用いる前記基板は、ロールに巻かれたフィルムである。当該成膜方法は、
成膜時、フィルムをロールから引き出してフィルムの成膜のために前記フィルムを搬送した後、搬送中成膜されたフィルムを巻き回して成膜処理ロールにする第1ステップと、
前記フィルムの膜厚を厚くするために、前記成膜処理ロールから前記フィルムを再度引き出して搬送し、搬送中成膜されたフィルムを巻き取って新たな成膜処理ロールにする第2ステップと、を含み、前記第2ステップを繰り返すことにより、形成された膜の膜厚を目標の厚さにする。
【発明の効果】
【0017】
上述の成膜装置及び成膜方法によれば、効率よくラジカルを搬送中の基板上に供給することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の成膜装置について詳細に説明する。
【0020】
(成膜装置)
図1は、本実施形態の成膜装置の概略構成図である。成膜装置10は、成膜容器12と、搬送機構14と、プラズマ生成ユニット16と、インジェクタユニット18と、ガス供給ユニット20と、排気ユニット22と、を有する。成膜装置10は、プラズマ生成電極板を流れる電流によって生成される磁界により、プラズマを生成する方式である。この方式は、モノポールアンテナ等のアンテナ素子等の共振により発生する高電圧によりプラズマを生成する方式や平行平板電極間に電圧をかけてプラズマを生成する容量結合プラズマ方式(CCP)とは異なる方式である。
本実施形態では、成膜用基板として、極めて薄いガラス板や樹脂フィルムであって、ロール状に巻くことのできるフレキシブルな基板を対象として説明する。しかし、本発明で用いる成膜用基板は、フレキシブルな基板に限定されない。例えば、板状の硬い1枚の基板を成膜用基板とすることもできる。
【0021】
成膜容器12の成膜空間内には、搬送機構14と、プラズマ生成ユニット16に属するプラズマ生成電極板16aと、インジェクタユニットに属するインジェクタ18aと、が主に設けられている。成膜容器12は、成膜容器12内の成膜空間を所定の圧力に維持し、あるいは減圧し、成膜空間内で成膜用基板を成膜処理するための容器である。成膜容器12の外周の壁面のそれぞれには、成膜空間内の雰囲気を成膜処理に適した温度にするために、加熱ヒータ24が設けられている。
【0022】
搬送機構14が搬送する成膜用基板は、ロール(回転ローラ14a,14b)に巻かれたフレキシブルなフィルムFである。搬送機構14は、回転ローラ14a,14bを備える。回転ローラ14a,14bは図示されない駆動モータに接続され、駆動モータの回転により、回転ローラ14a,14bが回転するように構成されている。駆動モータの回転方向は選択することができる。回転ローラ14a,14bにはフィルムFが巻き回されており、フィルムFはロール状を成している。搬送機構14は、成膜するとき、回転ローラ14a,14bのいずれか一方を巻き取りローラとし、他方を送りローラとして回転させる。すなわち、回転ローラ14a,14bの回転により、フィルムFをロール(回転ローラ14b)に巻き回された状態から引き出し、回転ローラ14aが巻き取る。このとき、引き出されたフィルムFは成膜のために一方向に搬送された後、搬送中成膜されたフィルムFを回転ローラ14aは巻き取って成膜処理ロールにする。
図1では、フィルムFが回転ローラ14bから回転ローラ14aに搬送されて、回転ローラ14aで巻き取られることが図示されている。
【0023】
本実施形態では、フィルムFに形成される薄膜の膜厚を厚くするために、フィルムFへの成膜を繰り返し行うことが好ましい。このとき、搬送機構14は、成膜後のフィルムFを回転ローラ14aで巻き取って得られた成膜処理ロールを再度引き出して、回転ローラ14aから回転ローラ14bに向かって、すなわち、先の成膜中の搬送方向と反対方向に搬送することが好ましい。搬送中、フィルムFは成膜されて膜厚が厚くなる。回転ローラ14bは、成膜されたフィルムFを巻き取って新たな成膜処理ロールにする。この後、さらに膜厚を厚くするために、回転ローラ14bから回転ローラ14aに向かって、すなわち、先の成膜中の搬送方向と反対方向にフィルムFを搬送する。搬送中、フィルムFは成膜されて膜厚が厚くなる。回転ローラ14aは、成膜されたフィルムFを巻き取って新たな成膜処理ロールにする。このように、フィルムFの異なる方向への搬送を繰り返しながら、薄膜の膜厚を厚くすることにより、フィルムFに形成される薄膜の膜厚を目標の厚さにすることが好ましい。すなわち、回転ローラ14a,14bは、互いに異なる方向に回転することができ、フィルムFの搬送方向は、異なる2方向に自在に選択されることが好ましい。
【0024】
排気ユニット22は、ロータリポンプあるいはドライポンプ等の排気装置22a,22bを含む。排気ユニット22は、成膜容器12内の成膜空間及びプラズマの生成されるプラズマ生成空間内のガスを排気して、一定の圧力、例えば1〜100Paの減圧状態を維持する。排気装置22aは、後述するプラズマ生成空間内の反応性ガスを排気する。排気装置22bは、プラズマ生成電極板16aより下方の、プラズマ生成空間を含む成膜空間内のガスを排気する。
【0025】
プラズマ生成ユニット16は、プラズマ生成電極板16aと、マッチングボックス16cと、高周波電源16dと、を有する。プラズマ生成ユニット16は、成膜用ガスのフィルムFに吸着した成膜成分と反応する反応物質を生成するユニットである。成膜容器12内には、成膜容器12の断面を横切るように空間仕切り壁17が設けられている。
【0026】
成膜容器12内のプラズマ生成電極板16aは、成膜容器内のフィルムFの搬送経路に沿って複数設けられている。プラズマ生成電極板16aそれぞれの主表面はフィルムFの面に対向するように設けられている。プラズマ生成電極板16aそれぞれにおいてフィルムFの搬送経路を横断する方向に電流が流れて磁界を形成することで成膜空間内の反応性ガスを用いてプラズマを生成する。このため、プラズマ生成電極板16aのそれぞれは、給電線により、成膜容器12の天井面からマッチングボックス16cを介して高周波電源16dに接続されている。高周波電源16dは、例えば13.56MHzの高周波電圧をプラズマ生成電極板16aに供給する。高周波電源16aに高周波電力を供給する給電線は、成膜容器12の天井面に設けられた孔を通して成膜容器12外のマッチングボックス16cから成膜容器12内に延びており、給電線はプラズマ生成電極板16aのそれぞれと接続される。このとき、孔は、絶縁体16eでシールされている。
【0027】
具体的には、プラズマ生成電極板16aそれぞれには、板材の長手方向(搬送経路を横断する方向)に沿って電流、例えば数アンペアの電流が流れる。プラズマ生成電極板16aのそれぞれに電流が流れることで磁界を成膜空間内に生成する。このプラズマ生成電極板16aの作用は、従来のアンテナ素子のようにアンテナ素子を共振させてアンテナ素子近傍の空間で高電圧を生成する方式と異なり、共振が発生しなくてもよく、生成された磁界によってプラズマを生成する。このため、プラズマ生成電極板16aの共振に対応するように周波数を調整する必要がない。また、容量結合プラズマの生成方式のように、搬送経路全体をカバーするような1つの大きな平行平板電極を用いる必要がなく、プラズマを生成させたい部分だけにプラズマ生成電極板16aを配置すればよいので、電極板を小型化でき、コンパクトな成膜装置を構成することができる。また、プラズマ生成電極板16aの面は、従来の平行平板電極の面のように大きな面積を必要としないので、電力の消費を抑制することができ、単位電力当たりのプラズマ、さらにはプラズマから生成されるラジカル(ラジカル原子あるいはラジカル分子)の量を増加させて、フィルムFに良質な膜を形成することができる。
【0028】
成膜容器12には、側壁から延びる絶縁体板16fが設けられ、プラズマ生成電極板16aと絶縁板16fとが、成膜容器12内の空間を上方空間と下方空間に隔てている。下方空間の気圧は、排気ユニット22によって減圧状態になるように制御されている。したがって、プラズマ生成電極板16aに電流が流れることにより、プラズマ生成電極板16aの下方空間で反応性ガスを用いてプラズマが生成される。より具体的には、プラズマ生成電極板16aと絶縁板16fとで作られる壁と、空間仕切り壁17との間に、プラズマが生成するプラズマ生成空間が形成される。
プラズマ生成電極板16aのプラズマ生成空間に面する側には、膜状の誘電体16gが設けられている。誘電体16gには、例えば石英が用いられる。誘電体16gを設けるのは、プラズマによるプラズマ生成電極板16aの腐食を防ぎ、かつ効率よくプラズマへ電気エネルギを伝播させるためである。
プラズマ生成電極板16aの配置については、後述する。
【0029】
プラズマ生成空間を画する成膜容器12の側壁(
図1中の右側の側壁)には、ガス供給孔が設けられている。このガス供給孔は、
図1に示されるように、後述する反応性ガス源20aと接続したガス供給管と接続されている。このガス供給孔を通して反応性ガスがプラズマ生成空間内に供給される。すなわち、反応性ガスは、成膜容器12の側壁から、プラズマ生成空間内に供給される。また、プラズマ生成空間を画する成膜容器12の側壁(
図1中の左側の側壁)には、ガス排気孔が設けられている。このガス排気孔は、
図1に示されるように、排気装置22aと接続された排気管と接続されている。
【0030】
空間仕切り壁17は、板状の絶縁部材から構成される。
空間仕切り壁17の下方であって、フィルムFの搬送経路の上方、すなわち、プラズマ生成電極板16aと搬送経路の間には、インジェクタユニット18が設けられている。インジェクタユニット18は、フィルムFの搬送経路に沿って複数のインジェクタ18aを含む。インジェクタ18aそれぞれは、プラズマ生成空間中のプラズマから生成されるラジカル原子あるいはラジカル分子がフィルムFに供給されるように、隙間をあけてフィルムFの搬送経路に沿って列を成して設けられている。インジェクタ18aそれぞれは、フィルムFの搬送方向に直交する方向に延在する成膜用ガスの噴射口を有し、この成膜用ガスをフィルムFに向けて供給する。成膜用ガスをフィルムFに向けて供給することにより、フィルムF上に成膜用ガスの少なくとも一部である成膜成分の層を形成させる。成膜成分は、フィルムFに化学吸着する。すなわち、成膜用ガスは、フィルムFに成膜成分が化学吸着するようなガスが選択されている。
【0031】
なお、空間仕切り壁17には、フィルムFの搬送経路に沿って隣接するインジェクタ18aとの間の隙間に対応するフィルムFの搬送方向の位置において、フィルムFの搬送方向と直交する方向に延びるスリット状の貫通孔が設けられている。これにより、フィルムFに吸着された成膜成分の層が、その直後のインジェクタ間の隙間を通過するとき、上述したプラズマ生成空間で生成されたプラズマから得られる反応性ガスのラジカル原子あるいはラジカル分子が上記貫通孔さらに上記隙間を通してフィルムFに向かって下降して供給される。すなわち、成膜装置10では、隣接するインジェクタ18a間に位置する貫通孔さらには隙間からラジカル原子あるいはラジカル分子がフィルムFに形成された成膜成分の層に供給されるように構成されている。インジェクタ18aの構成については後述する。
【0032】
複数のインジェクタ18aの列の両側には、ダミーインジェクタ18bが設けられている。ダミーインジェクタ18bは、成膜用ガスを供給する機能を有しない。ダミーインジェクタ18bは、隣に位置するインジェクタ18aとの間に、2つのインジェクタ18a間に作られる隙間と同様の隙間を作り、この隙間からラジカル原子やラジカル分子をフィルムFに供給するために設けられている。
このように、成膜用ガスをフィルムFに向けて供給しないダミーインジェクタ18bは、フィルムFの搬送方向の最下流側に位置する最下流インジェクタに対してさらに搬送方向の下流側に隙間をあけて設けられている。より具体的には、ダミーインジェクタ18bは、最下流に位置する最下流インジェクタとともに、空間仕切り壁17に設けられたスリット状の貫通孔17aのうち搬送方向の最下流側に位置する最下流貫通孔を挟むように設けられることが好ましい。このとき、回転ローラ14a,14bが逆方向に回転してフィルムFの搬送と成膜を繰り返し行う場合、ダミーインジェクタ18bは、
図1に示すように、一列に並んだインジェクタ18bの両側に設けられることが好ましい。
【0033】
空間仕切り壁17より下方の成膜容器12の側壁(
図1の右側の側壁)には、ガス供給孔が設けられている。このガス供給孔には、後述するパージガス源20cと接続されたガス供給管が接続されている。パージガスは、不要となった成膜用ガス、反応性ガス、ラジカル分子、ラジカル原子等を効率よく排気するために用いるガスである。
さらに、インジェクタ18aのそれぞれには、後述する成膜用ガス源20bと接続されたガス供給管と不活性ガス源20dと接続されたガス供給管が接続されている。
【0034】
ガス供給ユニット20は、反応性ガス源20aと、成膜用ガス源20bと、パージガス源20cと、不活性ガス源20dと、マスフローコントローラ22e,22f(
図2(a)参照)とを有する。
反応性ガス源20aが供給する反応性ガスとして、例えば、O
2,O
3,H
2O,N
2O,N
2,NH
3等が用いられる。成膜用ガス源20bが供給する成膜用ガスとして、例えばTMA(トリメチルアルミニウム)、TEMAZ(テトラエチルメチルアミノジルコニウム)、TEMAHf(テトラエチルメチルアミノハフニウム)、アミノシラン等を含む有機金属化合物ガスが用いられる。パージガス源20cが供給するパージガスとして、窒素ガス、アルゴンガス、ネオンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスが用いられる。不活性ガス源22dが供給する不活性ガスとして、窒素ガス、アルゴンガス、ネオンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスが用いられる。不活性ガスとは、反応性ガスと成膜用ガスに対して反応しないガスをいう。
【0035】
(インジェクタ18a)
図2(a)は、インジェクタ18aの概略斜視図である。
図2(a)は、フィルムFに対向する基板対向面30を上方に向くように図示している。
図2(b)は、インジェクタ18aの基板対向面30を説明する図である。
【0036】
インジェクタ18aは、空間仕切り壁17のプラズマ生成電極板16aと対向する対向面と反対側の面に設けられ、成膜用ガスをフィルムFに向かって供給する。しかし、インジェクタ18aは、単に成膜用ガスを供給するだけでなく、フィルムFへの吸着をしない余分な成膜用ガスを吸引するとともに、インジェクタ18aから隣接するインジェクタ18a間の隙間に成膜用ガスが拡散しないように不活性ガスをバリアガスとして出力する。
【0037】
基板対向面30には、複数のスリット状の開口32が設けられている。開口32の長さは、フィルムFの幅より短い。
基板対向面30に設けられた開口32は、
図2(b)に示すように、成膜用ガス供給口50と、第1ガス排気口52,52と、不活性ガス供給口54,54と、第2ガス排気口56,56と、を含む。
成膜用ガス供給口50は、成膜用ガスを出力する開口である。第1ガス排気口52,52は、成膜用ガス供給口50に対してフィルムFの搬送方向の両側に設けられ、フィルムF上の余分なガスを吸引する開口である。不活性ガス供給口54,54は、第1ガス排気口52,52のそれぞれに対してフィルムFの搬送方向のうち成膜用ガス供給口50から遠ざかる側に設けられ、成膜成分に対して不活性なガスを供給する。
【0038】
成膜用ガス供給口50及び不活性ガス供給口56,56の開口面には、開口の一部を塞ぐ部材50a,54aがスリット状の開口の長手方向に沿って設けられている。部材50a,54aを設けるのは、成膜用ガス供給口50及び不活性ガス供給口54,54からの成膜用ガス及び不活性ガスの噴射速度を可能な限り抑制して、フィルムFの面に穏やかに成膜用ガス及び不活性ガスを供給するためである。インジェクタイ18aの幅W(
図2(b)参照)は、例えば20〜40mmであり、成膜用ガス供給口50、第1ガス排気口52,52、不活性ガス供給口54,54、及び第2ガス排気口56,56のそれぞれの開口幅は例えば1〜3mmである。
【0039】
このようなガスの供給及び排気のために、基板対向面30には、開口32の他に、楕円形状の開口を成すガス供給ポート34,36とガス排気ポート38,40が設けられている。
ガス供給ポート34には、
図2(a)に示すように、不活性ガス供給管42と接続されている。不活性ガス供給管42は、マスフローコントローラ22fを介して不活性ガス源20dと接続されている。マスフローコントローラ22fは、不活性ガスの成膜空間内への供給量を制御する。
ガス供給ポート36には、
図2(a)に示すように、成膜用ガス供給管44と接続されている。成膜用ガス供給管44は、マスフローコントローラ22eを介して成膜用ガス源20bと接続されている。マスフローコントローラ22eは、成膜用ガスの成膜空間内への供給量を制御する。
ガス排気ポート38,40のそれぞれには、
図2(a)に示すように、排気管46,48と接続されている。排気管46,48は、排気装置22bと接続されている。
本実施形態では、ガス供給ポート34,36とガス排気ポート38,40は、インジェクタ18aの基板対向面30に設けられているが、これに限られない。ガス供給ポート34,36とガス排気ポート38,40は、インジェクタ18aの他の面に設けられてもよい。
【0040】
なお、本実施形態では、第2ガス排気口54,54が設けられているが、必ずしも設けられなくてもよい。しかし、不活性ガスを確実に排気し、隣接するインジェクタ18aとの間の隙間に不活性ガスが流れることにより、成膜に必要なラジカル原子やラジカル分子のフィルムFへの供給を阻害しない点で、第2ガス排気口54,54が設けられることが好ましい。
【0041】
(プラズマ生成電極板16a)
図3(a)、(b)は、プラズマ生成電極板16aの配置を説明する図である。
プラズマ生成電極板16aは、直線状の板材を用いて構成されている。
プラズマ生成電極板16aそれぞれの電流が搬送経路を横断する方向に流れて磁界を形成する横断部分は、フィルムFの搬送方向に沿った位置に関して、インジェクタ18a間の隙間18cと同じ位置に設けられている。このように、プラズマ生成電極板16aを配置することにより、プラズマ生成電極板16aそれぞれの下方のプラズマ生成空間においてプラズマPが生成され、このプラズマPあるいはプラズマPから生成されるラジカル分子あるいはラジカル原子が隙間18cに移動するので、フィルムFにラジカル分子あるいはラジカル原子を効率よく供給することができる。しかも、プラズマ生成電極16aの幅(搬送方向に沿った長さ)は、隙間18cの搬送方向に沿った長さに略対応した幅であればよいので、従来のような平行平板電極を用いるプラズマ生成の場合に比べて、幅の狭い電極板を用いることができるので、コンパクトな装置となる他、電力の消費を抑制することができる。この結果、単位電力当たりのプラズマ、さらにはプラズマから生成されるラジカル原子あるいはラジカル分子の量を増加させて、効率よくラジカルを基板上に供給することができ、フィルムFに良質な膜を形成することができる。
プラズマ生成電極板16aの給電端は互いに同位相の交流の給電を受けるように、配線長が調整されている。プラズマ生成電極板16aの給電端は互いに同位相の交流の給電を受けることにより、同位相の磁界を生成でき、効率よくプラズマPを形成することができる。
【0042】
プラズマ生成電極板16aは、給電を受ける給電端16hと接地されている接地端16iとを有する。そして、フィルムFの搬送経路を横断する方向に電流が流れて磁界を形成する横断部分の給電端16hから接地端iに向かう電流経路の向きは、搬送方向に隣接する2つの横断部分同士で、互いに逆向きである。このように逆向きとするのは、本実施形態のような磁界によるプラズマの生成方式では、プラズマ生成空間内で生成されるプラズマの電子密度は、接地端16iの側では電子密度が高く、給電端16hの側では電子密度が低い。この理由については、明確ではないが、接地端16iの側では電流により生成された磁界に基づいて生成されるプラズマ(電流に由来するプラズマ)が支配的であるのに対し、給電端16hの側では高電圧によって生成されるプラズマ(電圧に由来するプラズマ)が支配的であることに起因すると考えられる。高電圧の給電端18hの側では、電子はその電界により加熱されるため、十分なエネルギを受け取ることができず、高密度なプラズマが生成されにくいと考えられる。このため、フィルムFの搬送方向と直交する方向で供給されるラジカル分子あるいはラジカル原子の密度が異なり、形成される薄膜の厚さの不均一性が生じ易い。したがって、給電端16hと接地端16iの配置を、隣接するプラズマ生成電極16a間で互いに逆向きに配置することにより、すなわち、給電端16hから接地端iに向かう電流経路の向きを互いに逆向きとすることにより、形成される薄膜の厚さを均一にすることができる。このように、プラズマ生成電極板16aでは、給電端16hと接地端16iが、フィルムFの搬送経路を挟んで異なる側に位置し、搬送経路を挟んだ両側において給電端16hと接地端16iとは搬送方向に沿って交互に設けられている。
【0043】
(成膜方法)
このような成膜装置10では、インジェクタ18aが複数隙間を開けて設けられており、搬送されるフィルムFは、各インジェクタ18aを通過する毎に、インジェクタ18aから成膜用ガスの供給を受けて、フィルムF上に成膜用ガスの成膜成分が原子層単位で化学吸着する。
一方、フィルムFの搬送時、プラズマ生成空間に反応性ガスが供給され、電流が流れるプラズマ生成電極板16aによる磁界により反応生成ガスを用いたプラズマが生成される。このプラズマあるいはプラズマから生成されるラジカル原子あるいはラジカル分子が空間仕切り壁17の貫通孔及びインジェクタ18a間の隙間18cを通過することにより、フィルムF上に到達する。この時、プラズマの一部分はイオンが中性化して、ラジカル原子あるいはラジカル分子の状態となっている。したがって、インジェクタ18aによる成膜用ガスの供給によってフィルムF上に吸着した原子層単位の成膜成分と上記ラジカル分子あるいはラジカル原子とが反応して薄膜を形成する。インジェクタ18aとインジェクタ18a間の隙間18cは複数交互に設けられているので、フィルムFの搬送中、徐々にフィルムFに形成される薄膜は厚くなる。
【0044】
このように、フィルムFをロールから引き出してフィルムFの成膜のためにフィルムFを搬送した後、搬送中成膜されたフィルムFを巻き回して成膜処理ロールにする(第1ステップ)。さらに、フィルムFの膜厚を厚くするために、成膜処理ロールからフィルムFを再度引き出して搬送し、搬送中成膜されたフィルムFを巻き取って新たな成膜処理ロールにする(第2ステップ)。そして、第2ステップを繰り返すことにより、膜の膜厚を目標の厚さにすることができる。
このようにして、成膜装置10は、フィルムFに薄膜を形成することができる。
【0045】
(変形例1)
図4は、変形例1におけるプラズマ生成電極板16aの形状と、プラズマ生成電極板16aとインジェムタ18aとの配置を説明する図である。
変形例1におけるプラズマ生成電極板16aは、U字形状を成した電極板で構成される。
プラズマ生成電極板16aでは、U字形状の対向する2つの直線部分が搬送経路を横切る方向に延びる横断部分となっている。そして、プラズマ生成電極16aの上記横断部分は、フィルムFの搬送方向の位置に関してインジェクタ18aの1つを挟むように配置されている。このように、プラズマ生成電極板16aはU字形状を成すので、1つのプラズマ生成電極16aにおける2つの横断部分では、給電端16hから接地端16iに至る電流経路の向きは互いに逆向きである。このため、上述したように、接地端16iの側では電子密度が高く、給電端16hの側では電子密度が低くなることに由来する薄膜の厚さのフィルムFの幅方向における不均一性の問題を解消することができ、形成される薄膜の厚さをフィルムFの幅方向において均一にすることができる。
また、プラズマ電極板16aは、高周波電源16dと接続された給電端16hと接地された接地端16iは、搬送経路を挟んで同じ側に位置するように配置されている。隣接するプラズマ生成電極板16aも同様にU字形状を成し、給電端16hと接地された接地端16iは、搬送経路を挟んで同じ側に位置するように配置されている。そして、給電端16hと接地端16iとを有するプラズマ生成電極板16aでは、上記横断部分の給電端16hから接地端16iに向かう電流経路の向きは、横断部分のうち搬送方向に隣接する横断部分同士で、互いに逆向きである。給電端16hと接地端16iの配置を、隣接するプラズマ生成電極16a間で互いに逆向きに配置することにより、
図3(a)に示す本実施形態と同様に、接地端16iの側では電子密度が高く、給電端16hの側では電子密度が低くなることに由来する薄膜の厚さのフィルムFの幅方向における不均一性の問題を解消することができ、形成される薄膜の厚さをフィルムFの幅方向において均一にすることができる。
【0046】
(変形例2)
図5は、変形例2におけるプラズマ生成電極板16aの形状と、プラズマ生成電極板16aとインジェクタ18aとの配置を説明する図である。
変形例2におけるプラズマ生成電極板16aは、変形例1と同様に、U字形状を成した電極板で構成される。プラズマ生成電極板16aは、U字形状の対向する2つの直線部分が搬送経路を横切る方向に延びる横断部分となっている。そして、プラズマ生成電極16aの上記横断部分は、フィルムFの搬送方向の位置に関してインジェクタ18aの1つを挟むように配置されている。プラズマ電極板16aは、高周波電源16dと接続された給電端16hと接地された接地端16iは、搬送経路を挟んで同じ側に位置するように配置されている。しかし、隣接するプラズマ生成電極16aの向き、具体的にはU字形状の向く向きは互いに反対側になっている。
図5では、U字形状のプラズマ生成電極16aの向きは、下側、上側、下側となっている。
これに対して、上記横断部分の給電端16hから接地端16iに向かう電流経路の向きは、横断部分のうち搬送方向に隣接する横断部分同士で、互いに逆向きとなるように、給電端16hと接地端16iが定められている。
図3(a)に示す本実施形態と同様に、形成される薄膜の厚さをフィルムFの幅方向において均一にすることができる。また、プラズマ生成電極板16aはU字形状を成すので、1つのプラズマ生成電極16aにおける2つの横断部分では、給電端16hから接地端16iに至る電流経路の向きは互いに逆向きである。このため、上述したように、接地端16iの側では電子密度が高く、給電端16hの側では電子密度が低くなることに由来する薄膜の厚さのフィルムFの幅方向における不均一性の問題を解消することができ、形成される薄膜の厚さをフィルムFの幅方向において均一にすることができる。
【0047】
以上、本実施形態、変形例1及び変形例2では、プラズマ生成電極板16aそれぞれの電流が流れて磁界を形成する横断部分は、フィルムFの搬送方向に沿った位置に関して、インジェクタ18a間の隙間18cと同じ位置に設けられている。プラズマ生成電極板16aそれぞれの下方のプラズマ生成空間においてプラズマPは生成される。このプラズマPあるいはプラズマPから生成されるラジカル分子あるいはラジカル原子は、隙間18cに移動するので、フィルムFにラジカル分子あるいはラジカル原子を効率よく供給することができ、成膜を効率よくできる。しかも、プラズマ生成電極16aの幅(搬送方向に沿った長さ)は、隙間18cの搬送方向に沿った長さに略対応した幅であればよいので、従来のような平行平板電極を用いるプラズマ生成の場合に比べて、幅の狭い電極板を用いることができる。したがって、成膜装置10はコンパクトな装置構成となり、電力の消費も抑制される。さらに、単位電力当たりのラジカル原子あるいはラジカル分子の量を増加させることができるので、効率よくラジカルを基板上に供給することができ、成膜時の反応を良好に行うことができ、良質な膜をフィルムFに形成することができる。
【0048】
本実施形態、変形例1及び変形例2におけるプラズマ生成電極板16aは、給電端16hと接地端16iとを有し、フィルムFの搬送経路を横断する方向に電流が流れて磁界を形成する横断部分の給電端18hから接地端18iに向かう電流経路の向きは、横断部分のうち搬送方向に隣接する横断部分同士で、互いに逆向きである。このため、形成される薄膜の厚さをフィルムFの幅方向において均一にすることができる。
【0049】
図3に示すように、本実施形態のプラズマ生成電極板16aは、直線状の板材を用いて構成され、給電端16hと接地端16iは、搬送経路を挟んで異なる側に位置する。そして、搬送経路を挟んだ両側において給電端16hと接地端16iとは搬送方向に沿って交互に設けられている。このため、給電線及び接地線を配線し易い。
また、
図4に示すように、プラズマ生成電極板16aは、2つの横断部分が搬送経路を横切る方向に延び、かつ、搬送方向の位置に関してインジェクタ18aの1つを挟むように配置されたU字状の板材を用いて構成される。このため、フィルムF上に形成される薄膜の厚さをフィルムFの幅方向において均一にすることができる。また、給電端16hと接地端16iは、搬送経路を挟んで同じ側に位置するので、給電線及び接地線を配線し易い。
【0050】
本実施形態、変形例1,2では、搬送機構は回転ローラ14a,14bを含み、薄膜を形成する基板は、長尺
状のフレキシブルなフィルムFである。フィルムFは、回転ローラ14a,14bの一方に巻き回された状態から回転ローラ14a,14bの他方に巻き取られる。このため、1つの成膜容器12内で、フィルムFを回転ローラ14a,14bが巻き取ると、第1の回転方向、第1の回転方向と反対の第2の回転方向に順次回転方向を変えることにより、フィルムFをインジェクタユニット18に沿って繰り返し往復させることができ、搬送中成膜をすることができる。したがって、フィルムF上に形成された薄膜の膜厚を目標の厚さに効率よくすることができる。
【0051】
以上、本発明の成膜装置及び成膜方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態および例に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。