(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
温度315℃、荷重5kgの条件でASTM D1238−70に準拠して測定されたメルトインデックスが、10g/10min以上150g/10min以下の範囲内のポリフェニレンサルファイド樹脂によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シート。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで近年、自動車部品や精密機器部品は、その性能を最適化する目的で、これまで以上に小型化かつ形状の複雑化が進んでいる。そのため、このような部品と共に利用される発泡シートについても、微細かつ複雑な加工を求められることが多くなってきた。また、これに加えて、発泡シートを断熱材、保温材、電気絶縁材、封止材、または保護材として利用する場合、熱効率の向上や電気回路の劣化防止、省スペース化などの理由から、微細かつ複雑な構造を有する被密着体と発泡シートとを意識的に密着させたいという要求が増加している。
【0007】
すなわち、近年の発泡シートには、耐熱性や熱成形性といった従来の要求に加え、微細な複雑形状に追従して密着する、いわゆる表面の追従性が求められるようになってきた。しかしながら、ポリイミド発泡シートに代表される熱硬化性樹脂発泡シートや、シリコーンゴム発泡シートに代表される架橋・加硫型の樹脂発泡シートは、高い耐熱性を有するものの、2次成形は難しいことが知られており、特に、微細な加工を熱成形で行うことは困難である。
【0008】
一方、成形性の良さに注目した場合、ポリスチレン発泡シートやポリエチレンテレフタレート発泡シートに代表される熱可塑性樹脂発泡シートが挙げられるが、耐熱性が十分でなく、近年の自動車部品や精密機器部品に適用する場合にはその用途が限定されてしまうといった問題が生じていた。
これに対し、高耐熱を有する熱可塑性樹脂も存在する。例えば、180℃以上の耐熱性を有するポリエーテルイミド樹脂発泡シートや、特許文献1、2に記載のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートがある。しかしながら、ポリエーテルイミド樹脂発泡シートは、基本的に硬質発泡シートに分類されるものであり、その表面は極めて硬く、微細形状に対する追従性は持ち得ない。
【0009】
また、高耐熱を有する従来のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートについては、特に、特許文献2において結晶化度を20%以下に限定することで成形性の改善を図っているが、追従性が不十分であった。実際、微細形状を有する被密着体に対して、従来のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートを密着させようとしても空隙ができてしまうか、もしくは無理に高い密着圧力をかけることによって、被密着体上に形成された微細構造を破壊してしまうか、のいずれかになってしまうといった問題が生じていた。
【0010】
そのため、表面の追従性を改善する目的で、ポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートの表面に、柔軟性を有するエラストマーを添加するといったことも考えられてきたが、一般にエラストマーはポリフェニレンサルファイド樹脂に比べて耐熱性が低く、また耐薬品性も劣りかつ難燃性が悪化するため、このような方法ではポリフェニレンサルファイド樹脂の特徴を活かすことができない。
【0011】
自動車部品や精密機器部品、電気・電子部品と発泡シートの密着性が不十分であることにより空隙ができると、例えば断熱用途の場合には、空気の対流によって断熱性や保温性の低下を引き起こし、電気絶縁目的の場合には、コロナ放電による劣化を引き起こすことがある。また、被密着体が金属からなる場合には、酸化による劣化を促進するため製品の長期信頼性に深く関わる問題となっている。以上のような理由から、発泡シート表面の追従性改善が急務となっていた。
また最近では、機器の小型化に伴う省スペース化の観点からも追従性の改善が期待されている。
【0012】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、耐熱性、難燃性、電気絶縁性、及び耐薬品性に優れ、被密着体に密着させる際に表面の追従性が良好なポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートは、表面のアスカーC硬度が10以上90以下であることを特徴としている。
【0014】
また、本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートの一態様は、密度が10kg/m
3以上150kg/m
3以下であることを特徴としている。
【0015】
また、本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートの一態様は、温度315℃、荷重5kgの条件でASTM D1238−70に準拠して測定されたメルトインデックスが、10g/10min以上150g/10min以下の範囲内のポリフェニレンサルファイド樹脂によって形成されていることを特徴としている。
【0016】
本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートの製造方法は、前述のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートを製造するポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートの製造方法であって、ポリフェニレンサルファイド樹脂体に不活性ガスを含浸させる含浸工程と、常圧下で加熱発泡を行う発泡工程と、を備えることを特徴としている。
【0017】
また、本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートの製造方法の一態様は、前記含浸工程において、密度が220kg/m
3以上のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートに、さらに不活性ガスを含浸させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、耐熱性、難燃性、電気絶縁性、及び耐薬品性に優れ、かつ被密着体に密着させる際に表面の追従性が良好なポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明に係るポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シート、及びポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートの製造方法の実施形態について説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0021】
本発明の実施形態に係るポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートは、シート化されたポリフェニレンサルファイド樹脂体であるポリフェニレンサルファイド樹脂シートを発泡させたものであり、アスカーゴム硬度計C型で測定した際の表面硬度(アスカーC硬度)が10以上90以下の範囲とされている。
【0022】
ポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートの表面硬度が10より小さいと、発泡シートを取り扱う際に指の力などで容易に潰れてしまうため、ハンドリング性が著しく低下する場合がある。
また、ポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートの表面硬度が90より大きいと、微細形状を有する被密着体に対して密着させようとしても追従はせず空隙ができてしまうか、もしくは無理に高い密着圧力をかけることによって、被密着体上に形成された微細構造を破壊してしまうといった問題が生じる場合がある。
【0023】
本発明の実施形態に係るポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートは、発泡シートを構成する全ての成分(但し、不活性ガス(B)などの気体成分は除く)の合計100質量%において、ポリフェニレンサルファイド樹脂(A)を50質量%以上99.99質量%以下含有することが好ましい。ポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シート中のポリフェニレンサルファイド樹脂(A)以外の成分としては、必要に応じてポリフェニレンサルファイド樹脂以外の樹脂や無機充填剤などの各種添加剤を含有することができる。
【0024】
なお、本発明の実施形態に係るポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートは、発泡シートを構成する全ての成分(但し、不活性ガス(B)などの気体成分は除く)の合計100質量%において、ポリフェニレンサルファイド樹脂(A)を80質量%以上含有することがより好ましい。
【0025】
本発明の実施形態に係るポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートを構成するポリフェニレンサルファイド樹脂(A)は、下記構造式(I)で示される繰り返し単位を有する重合体である。ポリフェニレンサルファイド樹脂(A)を構成する全ての単位を100モル%とした場合に、ポリフェニレンサルファイド樹脂(A)は下記構造式(I)で示される繰り返し単位を70モル%以上100モル%以下含有することが好ましい。
【0027】
また、ポリフェニレンサルファイド樹脂(A)は、ポリフェニレンサルファイド樹脂(A)を構成する全ての単位を100モル%とした場合に、その繰り返し単位の30モル%未満を、下記構造式(II)を有する繰り返し単位で構成することが可能である。
【0029】
また、本発明の実施形態に係るポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートを構成するポリフェニレンサルファイド樹脂(A)は、MI(メルトインデックス)が10g/10min以上150g/10min以下(温度315℃、荷重5kg、ASTM D1238−70に準拠)の範囲であることが好ましく、15g/10min以上100g/10min以下の範囲であることがさらに好ましい。
【0030】
MIが10g/10min以上の場合、発泡性が良好となりポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートを低密度化することができる。
また、MIが150g/10min以下の場合、発泡前の原反シート(ポリフェニレンサルファイド樹脂シート)作製時にドローダウン(垂れ下がり)することを抑制し、特性のより安定したシートを作製することができる。さらに、MIが150g/10min以下の場合、樹脂シート自体が脆くなることを抑制して追従性が良好となるため、微細構造を有する被密着体に密着させる際に発泡シート表面にひび割れが生じることを抑制できる。
【0031】
本発明の実施形態に係るポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートを構成するポリフェニレンサルファイド樹脂(A)については、公知の技術等で重合・回収したものを用いることができる。
たとえば、少なくとも、p−ジクロロベンゼンに代表されるポリハロゲン化芳香族化合物、硫化ナトリウムに代表されるアルカリ金属硫化物、N−メチル−2−ピロリドンに代表される有機極性溶媒を含有する混合物を、段階的に200〜290℃範囲まで昇温させ、通常0.5〜50時間程度加熱重合した後、220℃以下に冷却して得られたポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂以外の副生成物、水、ハロゲン化アルカリ金属塩、有機極性溶媒の重合反応後混合液から、ふるい等の目を用いてポリフェニレンサルファイド樹脂を回収して得ることができる。その際、架橋助剤等を使用して、枝状に重合させるような手法を実施してもよい。
【0032】
ポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートを構成するポリフェニレンサルファイド樹脂(A)において、重合・回収されたポリフェニレンサルファイド樹脂は、後処理が行われてもよい。上述のとおり、重合・回収されたPPS樹脂には、低分子量のポリフェニレンサルファイド樹脂や副生成物、不純物が混在している場合があるため、熱水処理または有機溶媒による洗浄を施される場合のあることが知られている。
【0033】
ポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートを構成するポリフェニレンサルファイド樹脂の熱水処理に用いる熱水には、特に制限はないが、洗浄効果の点から、使用する水を蒸留水あるいは脱イオン水とすることが好ましい。また、熱水温度も90℃以上であることが好ましい。
【0034】
また、ポリフェニレンサルファイド樹脂の有機溶媒処理に用いる有機溶媒は、ポリフェニレンサルファイド樹脂を分解する作用などを有しないものであれば、特に制限はなく、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ピペラジノン類の窒素原子含有の極性溶媒、塩化メチレン、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、モノクロロエタン、ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼンなどのハロゲン原子含有の極性溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒などが挙げられる。これらの中でも、N−メチル−2−ピロリドンまたはアセトンまたはクロロホルムなどの使用が特に好ましい。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用してもよい。また、洗浄効果の点から、洗浄温度は常温〜200℃の範囲であることが好ましい。また、有機溶媒洗浄後に蒸留水あるいは脱イオン水で洗浄を行ってもよく、上記熱水洗浄を行っても良い。
【0035】
本実施形態においては、水洗浄時に洗浄添加剤を用いてもよく、この洗浄添加剤としては、酸、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩などが挙げられる。なかでも、白色度が高く、意匠性の高い押出成形品を得るにはアルカリ土類金属塩を用いて洗浄し、ポリフェニレンサルファイド樹脂中にアルカリ土類金属を含有させることが好ましい。アルカリ土類金属塩としては、有機酸または無機酸のマグネシウム塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩などが挙げられ、コストや取り扱い性の観点から酢酸カルシウム塩や酢酸マグネシウム塩を用いることが好ましい。
【0036】
前述のアルカリ土類金属塩量は、ポリフェニレンサルファイド樹脂の質量に対し0.01質量%以上5質量%以下の範囲内にすることが好ましく、0.1質量%以上0.7質量%以下の範囲内となるように、水に添加して洗浄を行うことが更に好ましい。このようにして得られたポリフェニレンサルファイド樹脂の中のアルカリ土類金属量(例えば、酢酸カルシウムを用いた場合は、ポリフェニレンサルファイド樹脂のカルシウム量)は50ppm(質量基準)以上3000ppm(質量基準)以下、より好ましく100ppm(質量基準)以上2000ppm(質量基準)以下となる。
【0037】
なお、カルシウム成分の含有量は以下に従って測定することができる。
まず、白金皿を純水で洗浄後、700℃で1時間焼成しデシケータ内で乾燥する。次いで、白金皿の質量を、0.1mgまで精秤した値をA(g)とする。次に、ポリマー試料を白金皿の中に約5(g)採取して、白金皿と試料の合計量を化学天秤で0.1(mg)まで精秤した値をB(g)とする。
その後、ステンレスバットにポリマー試料の入った白金皿を乗せ、440℃にセットされた高温オーブン内に入れ5時間焼成し、その後オーブンを500℃に上げ、さらに5時間焼成を行う。焼成の処理を行った後、300(℃)以下まで冷却し、さらに白金皿をデシケータ内で12時間保管する。その後、白金皿をデシケータから取り出し、538(℃)で安定しているマッフル炉に入れ6時間焼成する。処理後、白金皿をマッフル炉から取り出し、試料中に黒色炭化物が完全になくなっていることを確認する。なお、僅かでも黒色炭化物の存在が認められる場合、焼成をさらに実施する。焼成終了後、マッフル炉から白金皿を取り出し、デシケータ内で30分冷却する。
【0038】
次に、白金皿内に純水:塩酸(特級品)=1:1(質量比、以下1:1塩酸と称する)の液体2mlを加える。その後、ホットプレートを用いて、1:1塩酸が入った白金皿を、溶液の沸騰が確認される程度まで加熱する。白金皿の内容物が蒸発乾固する手前で加熱を止め、白金皿を室温に冷却する。その後、白金皿の内容物をイオン交換水で洗浄しながら数回に分け、50mlメスフラスコに入れ、メスフラスコの50ml標線に合わせる。このように調整した試料液を用いて、イオン交換水をブランクとして原子吸光測定装置を用いて測定を実施する。なお、濃度の値を判定する方法は、分析するカルシウムを含む標準液を用いて作成した検量線により、カルシウム濃度を算出する。もし、測定値が検量線を外れる場合は、試料液をX(ml)採取し、イオン交換水で希釈してY(ml)にし、検量線の範囲に来るように濃度調整を行う。このように調整した試料液を用いて測定した値をC(ppm(質量基準))とする。以上の数値を用いて、以下の式により、カルシウム濃度(ppm(質量基準))を算出する。
濃度(ppm(質量基準))=C(ppm(質量基準))/(B−A)×50×Y/X
【0039】
発泡シートが追従性を有するためには、ポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートの密度が、150kg/m
3以下であることが好ましく、140kg/m
3以下がより好ましく、130kg/m
3以下であるのがさらに好ましい。
ポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートの密度を上記のように従来のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートよりも大きく下げることで、発泡シート表面の硬度を大きく低下させ、微細形状に対する良好な追従性を発現することができる。
【0040】
本実施形態に係るポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートの結晶化度は、用途によって好ましい結晶化度が異なるため、特に限定されるものではないが、ポリフェニレンサルファイド樹脂の結晶化温度(約140度)以上で使用する用途に対しては、熱収縮を抑制するといった観点から、結晶化度は10%以上が好ましく、15%以上がより好ましい。
結晶化度が10%以上の場合、ポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートは結晶状態にあるため熱収縮を低減することができる。
【0041】
ポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートの気泡構造は、断熱性、保温性、封止性、クッション性などが求められる用途の場合には、独立気泡構造であることが望ましい。独立気泡率は80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。なお、独立気泡率が高い場合であっても、ポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シート表面近傍の気体は内部よりも抜けやすい状態にあるため、表面の追従性が低下することはない。
【0042】
また、ポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートの気泡径(平均気泡径)については特に限定されないが、200μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましい。
薄型化やコンパクト化が求められる用途にポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートを適用する場合、厚み数mm以下のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートを要求されることがある。このとき、平均気泡径が発泡シート厚みと同程度であると機械強度が著しく低下することがあるが、気泡径が200μm以下の場合、発泡シートの機械強度を保ち、発泡シートの取扱い性を維持することができる。
【0043】
以上のような構成とされた本発明の実施形態に係るポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートにおいては、ポリフェニレンサルファイド樹脂(A)からなるため、耐熱性、難燃性、電気絶縁性、及び耐薬品性等に優れる。そして、表面のアスカーC硬度が10以上90以下の範囲とされているため、被密着体に密着させる際の表面の追従性が良好である。
【0044】
また、被密着体と発泡シート表面の接触面に関して、極めて高い密着性が求められる場合には、発泡シートの表面にスキン層を設けるのが良い。ここで、スキン層とは、発泡シート表面に形成された未発泡層のことである。発泡シート表面にスキン層が存在すると、スキン層がない状態に比べて、被密着体との接触面積が大きくなる。したがって、被密着体の酸化などを防ぐことを目的に、本発明の実施形態に係るポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートを用いる場合、スキン層が形成されたものを利用することが好ましい。
【0045】
スキン層が厚くなり過ぎると、発泡シート表面が硬くなり表面成形加工における表面の追従性が低下することがある。この理由から、本発明の実施形態に係るポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートのスキン層厚みは20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることがさらに好ましい。
なお、用途によっては、スキン層は必ず必要なものではなく、気泡が露出した状態で使用しても良い。例えば、本実施形態に係るポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートにスライス加工を行うことで、意識的に気泡を露出させて使用することもできる。スライス方法としては、カンナ方式やバンドソー方式のスライサーを用いることができる。
【0046】
本発明の実施形態では、ポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートにおいて表面の追従性を良好にする事、すなわちポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートをある圧力下で被密着体に圧着させ、被密着体の微細形状に追従させることが目的である。そのため、圧着開放後のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートの密度については特に制限はない。
ただし、ポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートを断熱用途や保温用途、電気絶縁用途、緩衝用途として使用する場合、発泡シートの圧縮復元率は10%以上90%以下であることが好ましい。圧縮復元率が10%以上の場合、被密着体に圧着させるときにポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートが圧着荷重方向に潰れてしまうことを抑制し、所望の特性を確実に得ることができる。また、圧縮復元率が90%以下の場合、ポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートの復元力を十分に低減できるため、被密着体の形状に追従した部分が元に戻ることを抑制でき、被密着体への追従性が良好となる。
【0047】
なお、圧縮復元率を上述の範囲にするためには、ポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートが独立気泡構造を有し、かつポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートの密度は、10kg/m
3以上あることが好ましく、25kg/m
3以上であることがより好ましく、30kg/m
3以上であることがさらに好ましい。
密度が10kg/m
3以上の場合、ポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートの圧縮強度を十分に確保し、被密着体と密着させる際に必要な圧力を低減し、被密着体との圧着圧力開放後であっても所定の断熱性や保温性、電気絶縁性、緩衝性の効果を得ることができる。
【0048】
次に本発明の実施形態に係るポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートの製造方法について説明する。このポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートの製造方法は、特に限定されるものではないが、機械的強度、クッション性、断熱性、シートの表面性などを求められる用途の場合には、気泡のマイクロ化や独立気泡構造化、スキン層の形成を容易に達成できるバッチ発泡法で行うことが好ましい。
【0049】
ここで、バッチ発泡法とは、原反シート(ポリフェニレンサルファイド樹脂シート)に高圧下で不活性ガスを含浸させる含浸工程と、常圧(大気圧)下で加熱発泡を行う発泡工程と、で構成される樹脂発泡法のことである。バッチ発泡法によって、追従性を発現する程度にまで低密度化したポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートを得るには、バッチ発泡法にて1度発泡を行ったシートに対して、再度ガス含浸と常温下での加熱発泡を繰り返して行うことがより好ましい。
なお、バッチ発泡法は、複数回行っても構わないが、生産性と得られる効果の観点から2回行うことが好ましい。
【0050】
発泡時に使用する不活性ガスとしては、ヘリウム、窒素、二酸化炭素、アルゴンまたはこれら2種以上の混合ガス等が挙げられるが、樹脂への浸透性(浸透時間、溶解度)を考慮すると二酸化炭素を用いることが好ましい。
【0051】
発泡前の原反シート(ポリフェニレンサルファイド樹脂シート)の厚みについては、0.03mm以上5mm以下であることが好ましく、0.1mm以上1mm以下であることがより好ましい。
原反シートの厚みが0.03mm以上の場合、原反シートに含浸させた不活性ガスが抜けにくくなり、加熱発泡時に発泡性が良好となる。そのため、低密度の発泡シートが得られ、ポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シート表面の硬度が下がり、被密着体に密着させる際の表面の追従性が向上する。
また、原反シートの厚みが5mm以下の場合、原反シートに不活性ガスを含浸するのに必要な時間を短くでき、生産性が向上する。
【0052】
なお、原反シートは、特性に影響を及ぼさない範囲で、原料樹脂に結晶化核剤、結晶化促進剤、気泡核剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線防止剤、光安定剤、蛍光増白剤、顔料、染料、相溶化剤、滑剤、強化剤、架橋剤、架橋助剤、可塑剤、増粘剤、減粘剤等の各種添加剤を配合してもよい。
また、本発明の実施形態に係るポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートに、上記の添加剤を含有する樹脂を積層しても良いし、上記の添加剤を含有する塗料を塗布しても良い。
【0053】
原反シートの結晶化度は、25%以下が好ましく、20%以下がより好ましく、15%以下がさらに好ましい。
原反シートの結晶化度が25%以下の場合、不活性ガスを十分に含浸させることができるので、加熱発泡時に発泡性が良好となる。そのため、低密度のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートが得られ、結果としてシート表面の硬度が下がるため、2次成形時における表面の追従性が向上する。
なお、結晶化度の低い原反シートを得る方法としては、押出成形機や射出成形機等で溶融樹脂をシート化する際に急冷する方法が一般的である。
【0054】
なお、低密度のポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートを得るためには、バッチ発泡を複数回行う方法があることを説明したが、2回目以降のバッチ発泡時に使用するポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートの結晶化度については、特に制限はない。
その理由は、すでにシート内部には気泡が形成されており、結晶化度が高くても不活性ガスが含浸しやすいためである。
【0055】
なお、2回目以降の発泡時に使用するポリフェニレンサルファイド樹脂シートの密度については、220kg/m
3以上であることが好ましく、250kg/m
3以上であることがより好ましく、320kg/m
3以上であることがさらに好ましい。
2回目以降の発泡時に用いるポリフェニレンサルファイド樹脂シートの密度が上記の範囲の場合、シートの気泡壁を十分に厚くすることができ、発泡時において不活性ガスが抜けにくくなる。これにより、低密度の発泡シートが得られ、結果としてポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シート表面の硬度が低下し、表面の成形加工における追従性が向上する。
【0056】
また、上記の実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【0057】
また、ポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートは、射出成形型内発泡、真空成形、スタンピング成形、圧縮成形などの成形法によって成形体とすることができる。これらの成形体は、熱溶着、振動溶着、超音波溶着、レーザー溶着などで、必要に応じた形状に加工することもできる。
【0058】
また、本実施形態に係るポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートから得られた成型体は、種々の用途へ適用される。たとえば、LEDランプ、コネクター、スイッチ、コンデンサー、パソコンケース、スピーカーなどの電子・電気部品、排気ガス用パイプやパイプカバー、吸気ガス用パイプやパイプカバー、インテークマニホールド、ランプリフレクター用の反射板、モーター断熱用板などの自動車部品などに例示できる。
また、本実施形態に係るポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートは、フィルム用途でも発泡シートの長所となる電気絶縁性、軽量性を活かし、かつポリフェニレンサルファイド樹脂の長所となる難燃性を活かした、コンデンサー、チップコンデンサーの誘電体発泡シート、モーター絶縁発泡シート、離型用発泡シート、粘着材を付与させた発泡シートテープなどにも使用できる。
【0059】
(実施例)
次に、本発明の実施例について説明する。本実施例では、実施例1〜9及び比較例1〜5の供試体を作製し、各種評価試験を行った。まず、実施例1〜9及び比較例1〜5の供試体の作製方法を説明する。
【0060】
(実施例1〜6)
まず、MI(メルトインデックス、樹脂粘度)70g/10min(温度315℃、荷重5kg、ASTM D1238−70に準拠)のポリフェニレンサルファイド樹脂100質量%に対し洗浄時にカルシウム成分70ppm(質量基準)になるように置換して得られた製品を用いて押出機先端に取り付けられたTダイより310℃で溶融押出し、80℃に設定した冷却ロールにて急冷し、厚み0.7mm、密度1310kg/m
3、結晶化度10%のポリフェニレンサルファイド樹脂シート(原反シート)を作製した。
ポリフェニレンサルファイド樹脂発泡シートの作製は、次のように2段階に分けて行った。まず、ポリフェニレンサルファイド樹脂シートを高圧容器内に入れ、炭酸ガス雰囲気(温度17℃、圧力5MPa)中でガスを48時間浸透させた。その後、シートを容器から取り出し、直ちに表1に示す温度条件1の温度に設定した恒温槽内で1分間加熱して、表1に示す密度Aの発泡シートを得た。
次に、得られた発泡シートを再び高圧容器内に入れ、炭酸ガス雰囲気(温度17℃、圧力5MPa)中でガスを48時間浸透させた。その後、ガスを含浸させた発泡シートを容器から取り出し、直ちに表1に示す温度条件2の温度に設定した恒温槽内で1分間加熱して、実施例1〜6の供試体を得た。
【0061】
なお、MIは、測定温度315℃、荷重5000gとし、ASTM D1238−70に準拠して測定した。
また、結晶化度は、試験対象物(原反シート)に対して、示差走査熱量計を用いて10℃/分の昇温速度で測定し、その熱分析結果に基づいて、以下の式により決定した。
χ
c={(ΔH
m−ΔH
c)/ΔH
0}×100
ここで、χ
c:結晶化度[%]
ΔH
m:結晶融解ピークの熱量[J/g]
ΔH
c:結晶成長時の発熱ピーク[J/g]
H
0:100%結晶の融解吸熱ピークの熱量(=146.2*)[J/g]
(*)Maemura E. et al.,Polym.Eng.Sci.,29(2),140(1989)
【0062】
(実施例7〜9)
MIの異なる3種(それぞれ24g/10min、100g/10min、140g/10min)のポリフェニレンサルファイド樹脂100質量%に対し洗浄時にカルシウム成分70ppm(質量基準)になるように置換して得られた製品を用いてから、実施例1〜6と同様の方法にてポリフェニレンサルファイド樹脂シートを作製した。発泡についても実施例1〜6と同様に2段階に分けて行い、実施例7〜9の供試体を得た。なお、温度条件1、密度A、及び温度条件2は、表1のようにした。
【0063】
(比較例1)
MI70のポリフェニレンサルファイド樹脂ペレットから、実施例1〜6と同様にして作製したポリフェニレンサルファイド樹脂シート(原反シート)を比較例1の供試体とした。
(比較例2〜4)
MI70のポリフェニレンサルファイド樹脂ペレットから、実施例1〜6と同様の方法にてポリフェニレンサルファイド樹脂シートを作製した。次に、ポリフェニレンサルファイド樹脂シートを高圧容器内に入れ、炭酸ガス雰囲気(温度17℃、圧力5MPa)中でガスを48時間浸透させた。その後、ガスを含浸させたシートを容器から取り出し、直ちに表2に示す温度条件1の温度で恒温槽内で1分間加熱して、比較例2〜4の供試体を得た。
【0064】
(比較例5)
MI3のポリフェニレンサルファイド樹脂ペレットから、実施例1〜6と同様の方法にてポリフェニレンサルファイド樹脂シートを作製し、これを比較例5の供試体とした。なお、発泡についても実施例1〜6と同様にして2段階に分けて行い、温度条件1、密度A、及び温度条件2は、表1のようにした。
【0065】
以上のようにして作製した実施例1〜9、比較例1〜5の供試体に対して、以下に示すように各種評価を行い、平均気泡径、密度、シート厚み(供試体の厚み)、スキン層厚み、表面硬度、追従性、圧縮復元率、独立気泡率、及び難燃性を評価した。なお、比較例1の供試体については、平均気泡径、圧縮復元率、独立気泡率の測定を省略した。
【0066】
(シート厚み)
マイクロメーターを用いて、供試体の厚みを10点測定し、その平均値をシート厚みとした。
(平均気泡径)
ASTM D3576−77に準拠して求めた。
(スキン層厚み)
供試体(発泡シート)断面のSEM写真から任意の場所十点を選定し、その平均値をもってスキン層厚みとした。
【0067】
(供試体の密度)
供試体の密度をJIS K6767(1999)により求めた。
(供試体の表面硬度)
アスカーゴム硬度計C型を用いて、供試体の表面硬度を測定した。なお、供試体の厚みが5mmに満たない場合は、供試体を複数枚重ねて5mm以上の厚みになるような状態にして硬度測定を実施した。
【0068】
(追従性)
図1(a)、(b)、及び
図2に示す凸部12を有するアルミ(A5052)製の治具10を作製し、これを供試体Pに押し当てた場合の供試体Pの変形量から、以下の式により追従率γを決定した。
γ=(S’/S)×100(%)
ここで、S:治具10における凸部12の断面積(m
2)
S’:治具10を供試体Pに押し当てた後に供試体P上に形成された凹部の断面積(m
2)
【0069】
アルミ製の治具10の形状については、
図1(a)、(b)に示すように、幅3.5μm×25mm、厚み10mmのアルミ基板11の上に、アルミ製の幅3.5mm×200μm、高さ100μmの直方体型の凸部12が1mm間隔で並べられた形状になっている。なお、凸部の総数は26本である。
これを供試体Pに荷重5kgfで押付けて供試体Pに凹部を形成し、治具10の凸部12の断面積S(200μm×100μm)と供試体Pの凹部断面積S’(断面をSEM観察)の割合から追従性を評価した。ただし、測定する断面の方向はアルミ基板11の長手に沿う方向であり、供試体Pの凹部断面積S’については、SEMによる断面観察をもとに計算した。
また、追従性評価後に、治具10の凸部12に変形があるかどうかを目視にて確認した。治具10に変形がなく正常に供試体Pが追従した場合には、後述する表にて「○」の符号を付し、供試体Pが硬く治具10の凸部12に変形が見られた場合には「×」の符号を付した。
【0070】
(圧縮復元率)
島津社製のAUTOGRAPH(AGS−X)により、50%圧縮させる前と圧縮させた後の供試体の厚み(圧縮解放後60分後)を測定し、次式によって、圧縮復元率を定義した。
(圧縮復元率)={(圧縮させた後の供試体の厚み)−(50%圧縮時の供試体の厚み)}×100/{(圧縮させる前の供試体の厚み)−(50%圧縮時の供試体の厚み)}[%]
なお、評価に使用したのは2.5cm角の供試体であり、圧縮速度は300秒後に圧縮率50%になるよう設定した。
【0071】
(独立気泡率)
東京サイエンス社製のAIR COMPARSION PYCNOMETER(MODEL1000)により、供試体の連続空隙率を測定し、次式によって独立気泡率を算出した。
(独立気泡率)={100−(連続空隙率)}[%]
(燃焼試験)
UL94燃焼性試験の方法に準じて実施した。
以上の評価の結果を表1、2に示す。
【0074】
表1に示すように、実施例1〜9は、表面硬度が低く、密度も低いため、追従性が良好であった。また、難燃性も良好であった。
一方、表2に示すように、比較例1は、表面硬度が高過ぎるため、追従性が実施例1〜9と比較して劣った。
また、比較例2〜5は、表面硬度が高く、密度も高いため実施例1〜9と比較して追従性が悪化した。