(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。
【0009】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る保護リレー装置1の構成を示す構成図である。なお、図面における同一部分には同一符号を付してその詳しい説明を省略し、異なる部分について主に述べる。以降の実施形態も同様にして重複する説明を省略する。
【0010】
保護リレー装置1は、主保護と後備保護の2段構えの保護動作により、電力系統を保護する。後備保護による保護動作は、主保護による保護動作が失敗した場合に実行される。保護動作が失敗した場合とは、例えば、遮断器が不動作の場合などである。主保護と後備保護は、それぞれリレー要素として2端子型の電流差動リレーを採用している。保護リレー装置1は、外部の2つの保護リレー装置Ra,Rbとそれぞれ同期をとって、情報の授受を行う。情報とは、例えば、電流又は電圧のサンプリングデータなどである。保護リレー装置1は、主保護を動作させるための情報を保護リレー装置Raから受信する。保護リレー装置1は、後備保護を動作させるための情報を保護リレー装置Rbから受信する。
【0011】
保護リレー装置1は、装置クロック2、アナログ情報入力部3、時刻情報付加部4、リレー演算部5、制御出力部6、主保護用構成部Ga、及び後備保護用構成部Gbを備えている。
【0012】
装置クロック2は、ソフトウェアで実現された時計である。装置クロック2は、保護リレー装置1内における全ての時計の基準となる。装置クロック2が示す時刻は、主保護用構成部Ga、及び後備保護用構成部Gb、及び時刻情報付加部4で参照される。装置クロック2は、任意のタイミングで時刻を合わせる。ここで、装置クロック2は、外部の2つの保護リレー装置Ra,Rbにある時計及び保護リレー装置1内にある仮想クロック16a,16bとは関係なく時刻を合わせる。即ち、装置クロック2は、他の時計と同期をとる必要はない。
【0013】
アナログ情報入力部3には、保護リレー装置1が計測する電力系統の電圧又は電流の瞬時値情報が入力される。例えば、瞬時値情報とは、電流差動リレーの演算で用いる自端の電流値などである。アナログ情報入力部3は、入力されたアナログの瞬時値情報をデジタル変換する。アナログ情報入力部3は、デジタルに変換した瞬時値情報のサンプリング等の演算処理をする。アナログ情報入力部3は、演算処理した電圧又は電流などの電気量情報を時刻情報付加部4に出力する。
【0014】
時刻情報付加部4は、アナログ情報入力部3から入力された電気量情報に、装置クロック2の時刻を情報として付加する。時刻情報付加部4は、時刻情報を付加した電気量情報をリレー演算部5に出力する。
【0015】
主保護用構成部Gaは、保護リレー装置Raから受信した主保護に必要なサンプリングされた電気量情報をリレー演算部5で用いるための情報にするために必要な演算処理をする。例えば、主保護に必要な電気量情報とは、電流差動リレーの演算で用いる相手端の電流値などである。主保護用構成部Gaは、演算処理した電気量情報をリレー演算部5に出力する。
【0016】
後備保護用構成部Gbは、保護リレー装置Rbから受信した後備保護に必要なサンプリングされた電気量情報をリレー演算部5で用いるための情報にするために必要な演算処理をする。例えば、後備保護に必要な電気量情報とは、電流差動リレーの演算で用いる相手端の電流値などである。後備保護用構成部Gbは、演算処理した電気量情報をリレー演算部5に出力する。
【0017】
リレー演算部5は、主保護用構成部Ga、後備保護用構成部Gb、及び時刻情報付加部4からそれぞれ受信した電気量情報に基づいて、電流差動リレーのリレー特性に基づく演算処理を行う。リレー演算部5は、演算処理結果に基づいて、リレー動作となる否かを判断する。リレー演算部5は、リレー動作となる場合、リレー動作信号を制御出力部6に出力する。
【0018】
リレー演算部5は、主保護のリレー動作を判断するための演算処理を行う場合、時刻情報付加部4から入力された電気量情報と主保護用構成部Gaから入力された電気量情報を用いる。リレー演算部5は、後備保護のリレー動作を判断するための演算処理を行う場合、時刻情報付加部4から入力された電気量情報と後備保護用構成部Gbから入力された電気量情報を用いる。
【0019】
制御出力部6は、リレー演算部5からリレー動作信号を受信すると、制御出力をする。制御出力は、遮断器を開放するためのトリップ指令又は各種警報などである。
【0020】
主保護用構成部Gaは、伝送部11a、デジタル情報受信部12a、時刻情報付加部13a、時刻情報補正部14a、伝送遅延時間管理部15a、仮想クロック16a、及び時間差管理部17aを備えている。
【0021】
後備保護用構成部Gbは、伝送部11b、デジタル情報受信部12b、時刻情報付加部13b、時刻情報補正部14b、伝送遅延時間管理部15b、仮想クロック16b、及び時間差管理部17bを備えている。
【0022】
なお、ここでは、主に主保護用構成部Gaについて説明し、後備保護用構成部Gbについては、主保護用構成部Gaと同様に構成されているものとして、適宜説明を省略する。
【0023】
伝送部11aは、保護リレー装置Raとの情報の送受信をする。伝送部11aは、受信した情報をデジタル情報受信部12aに出力する。
【0024】
デジタル情報受信部12aは、受信した情報から主保護に必要な電流値を含む電気量情報を取り出す。後備保護用構成部Gbのデジタル情報受信部12bは、受信した情報から後備保護に必要な電流値を含む電気量情報を取り出す。デジタル情報受信部12aは、取り出した電気量情報を時刻情報付加部13aに送信する。
【0025】
仮想クロック16aは、装置クロック2とは別に独立して時刻を刻むソフトウェアで実現された時計である。仮想クロック16aは、保護リレー装置Raから受信する情報の時間管理をするための時刻を刻む。仮想クロック16aが示す時刻は、時刻情報付加部13a及び時間差管理部17aで参照される。
【0026】
仮想クロック16aは、保護リレー装置Raと同期するように時刻を合わせる。ここで、仮想クロック16aは、装置クロック2、後備保護用構成部Gbの仮想クロック16b、及び保護リレー装置Rbとは関係なく同期をとる。同様に、仮想クロック16bは、保護リレー装置Rbと同期するように時刻を合わせる。ここで、仮想クロック16bは、装置クロック2、主保護用構成部Gaの仮想クロック16a、及び保護リレー装置Raとは関係なく同期をとる。
【0027】
時刻情報付加部13aは、デジタル情報受信部12aから入力された電気量情報に、仮想クロック16aの時刻を時刻情報として付加する。時刻情報付加部13aは、時刻情報を付加した電気量情報を時刻情報補正部14aに出力する。
【0028】
伝送遅延時間管理部15aは、伝送部11aと保護リレー装置Raとを接続する伝送路の伝送による遅延時間を予め決められた時間間隔で定期的に計測する。伝送遅延時間管理部15aは、計測した伝送遅延時間を管理する。
【0029】
例えば、伝送遅延時間管理部15aは、伝送部11aから信号を返してくるよう信号を保護リレー装置Raに送信する。伝送遅延時間管理部15aは、保護リレー装置Raに信号を送信してから信号が返ってくるまでの往復時間を計測する。伝送遅延時間管理部15aは、この往復の時間を2で割った値を片道の伝送に掛かる伝送遅延時間として管理する。
【0030】
時間差管理部17aは、仮想クロック16aの時刻と基準となる装置クロック2の時刻を比較した時間差を常時計測する。時間差管理部17aは、計測した時間差を管理する。
【0031】
時刻情報補正部14aは、伝送遅延時間管理部15aで管理されている伝送遅延時間及び時間差管理部17aで管理されている時間差に基づいて、時刻情報付加部13aにより付加された時刻情報を補正する。時刻情報補正部14aは、時刻情報を補正した電気量情報をリレー演算部5に出力する。
【0032】
例えば、時刻情報補正部14aは、伝送遅延時間に基づいて、保護リレー装置Raから受信した電気量情報が計測された時刻になるように、時刻情報を補正する。また、時刻情報補正部14aは、時間差管理部17aで管理されている時間差に基づいて、装置クロック2の時刻に換算する補正をする。
【0033】
次に、リレー演算部5による演算処理について説明する。
【0034】
電流差動リレーは、任意の時刻の任意の点で、流入する電流の総和と流出する電流の総和が等しいという法則(キルヒホッフの第1法則)を利用する。従って、電流差動リレーの演算に用いる電流値は、計測された時刻が同時刻でなければならない。
【0035】
アナログ情報入力部3から入力される自端の電流値は、装置クロック2の時刻により計測された時刻を特定するための情報が付加される。
【0036】
一方、外部にある保護リレー装置Ra,Rbから入力される相手端の電流値は、最初に、仮想クロック16a,16bの時刻により計測された時刻を特定するための情報が付加される。次に、この電流値の情報に付加された時刻情報は、時刻情報補正部14a,14bにより装置クロック2の時刻に換算された時刻に補正される。
【0037】
リレー演算部5は、電気量情報に付加されている時刻情報に基づいて、リレー演算に必要な電気量情報を選択する。リレー演算部5は、選択した電気量情報を用いてリレー演算をする。
【0038】
具体的には、リレー演算部5は、付加されている時刻情報が一致する保護リレー装置Ra,Rbから入力された相手端の電流値と保護リレー装置1が計測した自端の電流値を選択する。リレー演算部5は、選択した相手端の電流値と自端の電流値を用いて、電流差動リレーの演算をする。このようにして、リレー演算部5は、同時刻に計測された自端の電流値と相手端の電流値で、電流差動リレーの動作判定をする。
【0039】
本実施形態によれば、主保護リレーと後備保護リレーとで、異なる仮想クロック16a,16bを用いているため、主保護リレーのための同期と後備保護リレーのための同期を別々に行うことができる。これにより、例えば後備保護リレーの系統の伝送路に通信障害がある場合でも、主保護リレーの系統のみで同期させる制御をすることができる。同様に、主保護リレーの系統が同期できない場合でも、後備保護リレーの系統のみで同期させる制御をすることもできる。
【0040】
よって、保護リレー装置1を適用したシステムでは、システム全域にある装置を一括して同期させる必要は無く、リレー要素の系統毎に同期をとることができる。
【0041】
ここで、電流差動リレーは、事故区間の検出精度が高いが、その事故の検出方法から他の装置との同期が必要である。従って、主保護リレーと後備保護リレーの同期を別々にとることができない保護リレー装置では、主保護リレーと後備保護リレーの両方に、電流差動リレーを適用した場合、同期がとれない時点で、主保護リレーと後備保護リレーの両方が動作できないことになる。従って、主保護リレーと後備保護リレーの同期を別々にとることができない保護リレー装置では、主保護リレーと後備保護リレーの両方に、電流差動リレーを採用することはできない。
【0042】
一方、距離リレーは、他の装置と同期をとる必要はないが、事故区間の検出精度が低い。また、後備保護に距離リレーを適用した場合、主保護と後備保護のそれぞれの保護動作の時間協調が必要となる。即ち、主保護が動作した後に、後備保護が動作するように時間協調する必要がある。
【0043】
これに対して、保護リレー装置1では、主保護リレーと後備保護リレーの同期を別々にとることができるため、主保護リレーと後備保護リレーの両方に、事故区間の検出精度が高い電流差動リレーを採用することができる。
【0044】
(第2の実施形態)
図2は、本発明の第2の実施形態に係る保護リレー装置1Aの構成を示す構成図である。
【0045】
保護リレー装置1Aは、
図1に示す第1の実施形態に係る保護リレー装置1において、後備保護用構成部Gbを後備保護用構成部GbAに代えた構成である。
【0046】
後備保護用構成部GbAは、3端子型の電流差動リレーを機能させるための構成である。3端子型の電流差動リレーは、2箇所の電流値に基づいて、事故を検出する。後備保護用構成部GbAは、2つの保護リレー装置Rb,Rcからそれぞれ電気量情報を受信する。後備保護用構成部GbAは、2つの保護リレー装置Rb,Rcからそれぞれ受信した電気量情報に時刻情報を付加する。その他の点は、第1の実施形態に係る後備保護用構成部Gbと同様の構成である。
【0047】
後備保護用構成部GbAは、第1の実施形態に係る後備保護用構成部Gbにおいて、伝送部11c、デジタル情報受信部12c、時刻情報付加部13c、時刻情報補正部14c、及び伝送遅延時間管理部15cを加えた構成である。
【0048】
伝送部11cは、保護リレー装置Rcとの情報の送受信をする。伝送部11cは、受信した情報をデジタル情報受信部12cに出力する。
【0049】
デジタル情報受信部12cは、受信した情報から後備保護に必要な電流値を含む電気量情報を取り出す。デジタル情報受信部12cは、取り出した電気量情報を時刻情報付加部13cに送信する。
【0050】
時刻情報付加部13cは、デジタル情報受信部12cから入力された電気量情報に、保護リレー装置Rbから受信した電気量情報と同じ仮想クロック16bの時刻を時刻情報として付加する。時刻情報付加部13cは、時刻情報を付加した電気量情報を時刻情報補正部14cに出力する。
【0051】
伝送遅延時間管理部15cは、第1の実施形態の伝送遅延時間管理部15aと同様に、伝送部11cと保護リレー装置Rcとを接続する伝送路の伝送遅延時間の計測及び管理する。
【0052】
時刻情報補正部14cは、伝送遅延時間管理部15cで管理されている伝送遅延時間及び時間差管理部17bで管理されている時間差に基づいて、時刻情報付加部13cにより付加された時刻情報を補正する。時刻情報補正部14cは、時刻情報を補正した電気量情報をリレー演算部5に出力する。
【0053】
リレー演算部5は、時刻情報補正部14b,14cから受信する電気量情報と時刻情報付加部4から受信する電気量情報を、それぞれに付加されている時刻情報に基づいて選択する。例えば、リレー演算部5は、電流差動リレーの演算に用いる同時刻に計測された2箇所の相手端の電流値と自端の電流値を選択する。リレー演算部5は、選択した電気量情報を用いてリレー演算をする。
【0054】
本実施形態によれば、2箇所以上の電気量情報を受信する必要があるリレー要素であっても、第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0055】
(第3の実施形態)
図3は、本発明の第3の実施形態に係る電力システムの構成を示す構成図である。
【0056】
電力システムは、A電気所及びB電気所にそれぞれ設置された複数の第1の実施形態に係る保護リレー装置1をVLAN(virtual local area network)でネットワーク接続した構成である。A電気所とB電気所は、同じ電力系統の送電線21に設けられている。
【0057】
電力システムは、VLAN1、VLAN2、及びVLAN3の3つのVLANで構成されている。A電気所内の伝送路は、VLAN1で構成されている。B電気所内の伝送路は、VLAN2で構成されている。A電気所とB電気所を接続する伝送路は、VLAN3で構成されている。
【0058】
本実施形態によれば、第1の実施形態に係る保護リレー装置1をネットワーク構成することができる。また、A電気所内の伝送路、B電気所内の伝送路、及びA電気所とB電気所を接続する伝送路を別々のVLANで構成することにより、機能の独立性を保つことができる。
【0059】
さらに、本実施形態ではVLAN1およびVLAN2は保護リレー装置1間を接続し、VALN3はネットワーク間を接続しているが、電力システムとして同一のVALNに接続してもよい。
【0060】
また、第1の実施形態に示すように、主保護用構成部Gaおよび後備保護用構成部Gbの複数の構成部を備える場合には、構成部毎に異なるVLANを構成してもよい。つまり、主保護用構成部Ga用のVLANと、後備保護用構成部Gb用のVLANを設けてもよい。
【0061】
各実施形態では、リレー要素として、電流差動リレーを用いて説明したが、他のリレー要素であってもよい。どのようなリレー要素でも、電流差動リレーの実施形態と同様に構成することができる。
【0062】
また、各実施形態では、リレー要素が2つの場合の保護リレー装置1,1Aについて説明したが、リレー要素はいくつでもよい。リレー要素毎に対応するクロック16a,16bを設けることにより、同様に構成することができる。また、リレー要素が必要とする情報を送信する装置の数は3箇所以上でもよい。また、情報を送信する装置は、保護リレー装置に限らず、どのような装置でもよい。
【0063】
さらに、各実施形態において、装置クロック2と仮想クロック16a,16bは、どのように構成してもよい。例えば、他の保護リレー装置Ra,Rbから受信する情報に装置クロック2による時刻情報を付加し、保護リレー装置1自身が計測する情報に仮想クロック16a,16bにとる時刻情報を付加してもよい。また、どのクロック2,16a,16bの時刻を基準としてもよい。また、リレー要素毎に設けられた仮想クロック16a,16bは、保護リレー装置1自身が計測する情報に時刻情報を付加するためのクロックを兼用してもよい。即ち、リレー要素毎に、異なるクロックが割り当てられていれば、リレー要素毎の系統で同期をとることができるため、各実施形態と同様に構成することができる。
【0064】
また、各実施形態において、情報を送信する外部の装置を複数として説明したが、外部の装置が各実施形態に係る保護リレー装置1,1Aであれば1つでもよい。即ち、外部の装置にも、リレー要素毎にクロックが設けられていれば、要素毎に同期をとることができる。
【0065】
さらに、各実施形態では、リレー演算のための情報を同期させる場合の構成について説明したが、どのような情報を同期させてもよい。例えば、計測情報、監視情報、または制御出力を同期させてもよい。
【0066】
また、第3の実施形態では、第1の実施形態に係る保護リレー装置1を用いた構成としたが、第2の実施形態に係る保護リレー装置1Aを用いてもよいし、これらの保護リレー装置1,1Aを混在させてもよい。
【0067】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。