特許第5901964号(P5901964)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5901964
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】組換え微生物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20160331BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20160331BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20160331BHJP
   C12R 1/125 20060101ALN20160331BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C12N1/21
   C12Q1/02
   C12N1/21
   C12R1:125
【請求項の数】10
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2011-284851(P2011-284851)
(22)【出願日】2011年12月27日
(65)【公開番号】特開2013-132245(P2013-132245A)
(43)【公開日】2013年7月8日
【審査請求日】2014年11月10日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「バイオマスエネルギー先導技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100141771
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 宏和
(74)【代理人】
【識別番号】100131288
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 尚祐
(72)【発明者】
【氏名】劉 生浩
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 一暁
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】矢追 克郎
【審査官】 戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】 FEMS Microbiol. Lett.,2008年,vol.279, no.1,pp.103-109
【文献】 J. Mol. Microbiol. Biotechnol.,2007年,vol.12, no.1-2,pp.82-95
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12N 1/00−1/38
C12Q 1/00−1/70
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/
WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
枯草菌(Bacillus subtilis)のgmuB遺伝子、gmuA遺伝子、gmuC遺伝子、gmuD遺伝子、gmuR遺伝子、gmuE遺伝子、gmuF遺伝子及びgmuG遺伝子からなるグルコマンナン資化オペロン又は前記遺伝子に相当する遺伝子からなりグルコマンナン資化オペロンとして機能するオペロンをゲノム上に有する微生物において、前記gmuG遺伝子又はgmuG遺伝子に相当する遺伝子の下流に目的遺伝子が作動可能に連結している、組換え微生物。
【請求項2】
gmuB遺伝子、gmuA遺伝子、gmuC遺伝子、gmuD遺伝子、gmuR遺伝子、gmuE遺伝子、gmuF遺伝子、及びgmuG遺伝子がゲノム上でこの順で連結してグルコマンナン資化オペロンを構成する、請求項1記載の組換え微生物。
【請求項3】
さらに、枯草菌ccpA遺伝子又はそれに相当する遺伝子を欠失又は不活性化した、請求項1又は2記載の組換え微生物。
【請求項4】
前記目的遺伝子の発現がセロビオースにより制御される、請求項1〜3のいずれか記載の組換え微生物。
【請求項5】
前記目的遺伝子が薬剤耐性遺伝子である、請求項1〜4のいずれか記載の組換え微生物。
【請求項6】
前記薬剤耐性遺伝子がクロラムフェニコール耐性遺伝子である、請求項5記載の組換え微生物。
【請求項7】
前記組換え微生物がバチルス(Bacillus)属細菌である、請求項1〜6のいずれか記載の組換え微生物。
【請求項8】
前記バチルス属細菌が枯草菌(Bacillus subtilis)である、請求項7記載の組換え微生物。
【請求項9】
枯草菌(Bacillus subtilis)のgmuB遺伝子、gmuA遺伝子、gmuC遺伝子、gmuD遺伝子、gmuR遺伝子、gmuE遺伝子、gmuF遺伝子及びgmuG遺伝子からなるグルコマンナン資化オペロン又は前記各遺伝子に相当する遺伝子からなりグルコマンナン資化オペロンとして機能するオペロンをゲノム上に有する微生物において、前記gmuG遺伝子又はgmuG遺伝子に相当する遺伝子の下流に目的遺伝子を作動可能に連結する工程を含む、請求項1〜8のいずれか記載の組換え微生物の作製方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか記載の組換え微生物を用いるセルラーゼ遺伝子のスクリーニング方法であって、該組換え微生物に導入した前記目的遺伝子の発現を指標として、セルラーゼをコードする遺伝子を選択する、セルラーゼ遺伝子のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換え微生物に関する。
【背景技術】
【0002】
セルラーゼは、セルロースのβ-1,4-グルコシド結合を加水分解する酵素の総称であり、アミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼと共に加水分解酵素の代表的存在である。セルラーゼの基質となるセルロースは、植物細胞壁の主成分として年間1000億トン以上も生産されるバイオマスであり、衣料、紙、建築材料等に有効利用されている。また、セルロースは、グルコースが直鎖状に結合した巨大分子であるため、分解によって燃料物質やより高付加価値の代謝物質に変換が可能である。そのため、セルロースの効率的分解や、その分解産物の有効利用に関する研究が広く行われている。セルロースを高付加価値物質に変換する場合、通常、セルロース原料を前処理によって高反応性セルロースに変換した後、グルコースなどの低分子糖に分解する。得られた低分子糖は微生物による発酵等の化学反応を経て、高付加価値物質へと変換される。近年この一連のプロセスのセルロース分解工程においては、より経済的な方法として、セルラーゼよる酵素分解が一般に利用されている。
しかし、現状ではセルラーゼによるセルロース分解の速度は充分ではなく、必要な分解速度を達成するためには多量の酵素を使用するか、多種類の酵素を混合して使用しなければならない。またこのことは必然的に、酵素に多額のコストがかかる結果となる。そこで、効率的にセルロース分解産物を生産する高活性のセルラーゼをコードするセルラーゼ遺伝子を効率的に選択する、セルラーゼ遺伝子のスクリーニング方法が求められている。
【0003】
従来のセルラーゼ遺伝子のスクリーニング方法としては、土壌などの微生物源をカルボキシメチルセルロース(CMC)や微結晶セルロース等を添加した固形培地上に培養し、コンゴーレッド等の色素を用いたCMCの分解に伴うハロー形成、微結晶セルロース分解に伴うクリアハローの形成等を指標にセルラーゼ生産菌を単離し、その微生物よりセルラーゼ遺伝子を取得する方法が挙げられる。近年ではDNAを適当な制限酵素で分解するか、RNAからcDNAを得て、これらDNAを用いて形質転換を行い、上記と同様にハロー形成する形質転換体よりセルラーゼ遺伝子を取得することが可能となっている。しかし、これらの方法では無数のセルラーゼ遺伝子を有しない微生物から少数のセルラーゼ遺伝子を有する微生物を見つけ出す必要があり、多大な試行錯誤が必要とされる。
そこで、より効率的なセルラーゼのスクリーニング方法として、グルコマンナン資化(利用)オペロンを有する微生物を用いたスクリーニング方法が考えられる。
枯草菌(Bacillus subtilis)等のゲノム上には、グルコマンナンの資化に関わるタンパク質をコードする遺伝子から構成されるグルコマンナン資化オペロンが存在する。枯草菌において、グルコマンナン資化オペロンは、8つのORF(open reading frame)からなる。
枯草菌のグルコマンナン資化オペロンの作用機序は非特許文献1等に詳細に記載されており、その概略を図2に基づいて説明する。枯草菌のグルコマンナン資化オペロンは、gmuB遺伝子、gmuA遺伝子、gmuC遺伝子、gmuD遺伝子、gmuR遺伝子、gmuE遺伝子、gmuF遺伝子、及びgmuG遺伝子がこの順に連結して構成される。このうち、gmuG遺伝子がコードし、細胞外に分泌されたβ-1,4-マンナナーゼ(以下、本明細書において、β-1,4-マンナナーゼを「GmuG」ともいう)は、グルコマンナンを部分的に分解し、オリゴグルコマンナンを生成する(図2中、「Glucomannan」と表記する)。このオリゴグルコマンナンは、gmuB遺伝子、gmuA遺伝子及びgmuC遺伝子がそれぞれコードするGmuB、GmuA、及びGmuCから構成されるPTS(phosphotransferase system)により細胞内に取り込まれる。細胞内に取り込まれた、セロビオースやマンノビオース等のグルコマンナン分解物(図2中、「Glucomannan**-P」と表記する)は、グルコマンナン資化オペロンのインデューサーとして機能し、グルコマンナン資化オペロンの発現を誘導する。一方、グルコマンナン資化オペロンの発現は、gmuR遺伝子がコードする内部リプレッサー(以下、本明細書において「GmuR」ともいう)や、炭素カタボライト抑制因子(CcpA)等により制御される。
【0004】
このような微生物を用い、グルコマンナン資化オペロンの発現を利用してセルラーゼ遺伝子を効率的にスクリーニングする場合、薬剤耐性遺伝子や栄養要求性遺伝子等の選択マーカーを宿主微生物(親微生物)に導入し、グルコマンナン資化オペロンの発現に伴う選択マーカーの発現に基づいて形質転換体を選抜することを可能とする必要がある。しかし、これまでに、グルコマンナン資化オペロンを有する微生物において、グルコマンナン資化オペロンを利用した選択マーカーの発現がどのように誘導されるか、解明されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Sadaie Y.et al.,FEMS Microbiol.Lett.,2008,vol.279,No.1,p.103-109
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、グルコマンナン資化オペロンを有する微生物においてセロビオース等のグルコマンナン分解物がインデューサーとしてグルコマンナン資化オペロンの発現を制御することを利用し、宿主微生物のゲノムに挿入された目的遺伝子の発現がセロビオースにより制御される、組換え微生物の提供を課題とする。
また、本発明は、前記組換え微生物を効率的に製造するための、組換え微生物の作製方法の提供を課題とする。
さらに、本発明は、当該組換え微生物を用いたセルラーゼ遺伝子のスクリーニング方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑み、本発明者等は、ゲノム上にグルコマンナン資化オペロンを有する微生物において、該オペロンを利用してゲノム中に挿入された選択マーカーなどの目的遺伝子を発現させる場合の、目的遺伝子発現のメカニズムについて鋭意検討を行った。その結果、グルコマンナン資化オペロンを構成する8つのORFのうち、gmuG遺伝子又はgmuG遺伝子に相当する遺伝子の下流に目的遺伝子を導入することにより、目的遺伝子の発現がセロビオース等のグルコマンナン分解物により制御可能となることを見出した。さらに、目的遺伝子の発現がセロビオースにより発現制御されるので、セルロースを基質としてセロビオースを生成するセルラーゼをコードする遺伝子のスクリーニングにこのような組換え微生物が好適に用いられることを見出した。本発明はこれらの知見に基づき完成するに至った。
【0008】
本発明は、枯草菌のgmuB遺伝子、gmuA遺伝子、gmuC遺伝子、gmuD遺伝子、gmuR遺伝子、gmuE遺伝子、gmuF遺伝子及びgmuG遺伝子からなるグルコマンナン資化オペロン又は前記遺伝子に相当する遺伝子からなりグルコマンナン資化オペロンとして機能するオペロンをゲノム上に有する微生物において、前記gmuG遺伝子又はgmuG遺伝子に相当する遺伝子の下流に目的遺伝子が作動可能に連結している、組換え微生物に関する。
【0009】
また、本発明は、枯草菌のgmuB遺伝子、gmuA遺伝子、gmuC遺伝子、gmuD遺伝子、gmuR遺伝子、gmuE遺伝子、gmuF遺伝子及びgmuG遺伝子からなるグルコマンナン資化オペロン又は前記各遺伝子に相当する遺伝子からなりグルコマンナン資化オペロンとして機能するオペロンをゲノム上に有する微生物において、前記gmuG遺伝子又はgmuG遺伝子に相当する遺伝子の下流に目的遺伝子を作動可能に連結する工程を含む、前記組換え微生物の作製方法に関する。
【0010】
さらに、本発明は、前記組換え微生物を用いるセルラーゼ遺伝子のスクリーニング方法であって、該組換え微生物に導入した前記目的遺伝子の発現を指標として、セルラーゼをコードする遺伝子を選択する、セルラーゼ遺伝子のスクリーニング方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の組換え微生物は、目的遺伝子がグルコマンナン資化オペロンと作動可能に連結しているので、グルコマンナン資化オペロンのインデューサーであるセロビオース等のグルコマンナン分解物により目的遺伝子の発現が制御される。
また、本発明の組換え微生物の作製方法は、前記組換え微生物を効率的に作製することができる。
さらに、本発明の組換え微生物を用いたセルラーゼ遺伝子のスクリーニング方法は、セルラーゼ遺伝子のスクリーニングに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の組換え微生物における目的遺伝子挿入部位を模式的に示す図である。
図2】枯草菌のグルコマンナン資化オペロンの作用機序を模式的に示す図である。
図3】黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来のクロラムフェニコール耐性遺伝子の塩基配列を示す図である。
図4】SOE-PCR断片を用いた、2重交差法による目的遺伝子の導入手順を示す模式図である。
図5】枯草菌son1株、枯草菌son2株、枯草菌son3株、枯草菌son4株及び枯草菌son5株のゲノム上におけるクロラムフェニコール耐性遺伝子(cat遺伝子)の挿入位置を模式的に示す図である。
図6図5(a)はセロビオース及びクロラムフェニコール含有LB寒天培地で培養した枯草菌son5株を示す図であり、図5(b)はクロラムフェニコール含有LB寒天培地で培養した枯草菌son5株を示す図である。
図7】枯草菌son5株のセロビオース存在下での生育度を示す図である。
図8】枯草菌son5株の、セロビオース、セロトリオース、セロテトラオース、セロペンタオース又はセロヘキサオース存在下での生育度を示す図である。
図9】枯草菌son5株を用いたセルラーゼ遺伝子のスクリーニング結果を示す図である。
図10】実施例で行ったセルラーゼ遺伝子のスクリーニングにおける、枯草菌son5株のグルコマンナン資化オペロンの作用機序を模式的に示す図である。
図11】SOE-PCR断片を用いた、2重交差法によるccpA遺伝子の欠失手順を示す模式図である。
図12】枯草菌son5A株のセロビオース及び/又はグルコース存在下での生育度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、「遺伝子の上流」とは、複製開始点からの位置ではなく、対象の遺伝子の開始コドンの5'末端側に続く領域をさす。また、「遺伝子の下流」とは、対象の遺伝子の終始コドンの3'末端側に続く領域をさす。
【0014】
本明細書に記載の枯草菌の各遺伝子の名称及びゲノム上での配置、並びに各遺伝子がコードするタンパク質の名称及びそれらの機能は、FEMS Microbiol.Lett.,2008,vol.279,No.1,p.103-109で報告され、ゲノムデータはBSORF;Bacillus subtilis Genome Database(http://bacillus.genome.jp/bsorf.html)やNCBI Database(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez?db=nucleotide)で公開されているが、本発明ではNCBI Databaseの枯草菌ゲノムデータに基づいて記載している。
【0015】
本発明において、アミノ酸配列及び塩基配列の同一性はLipman-Pearson法(Science,227,1435,(1985))によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx-Win(ソフトウェア開発)のホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、パラメーターであるUnit size to compare(ktup)を2として解析を行うことにより算出される。
【0016】
本発明において、枯草菌のグルコマンナン資化オペロンはgmuB遺伝子、gmuA遺伝子、gmuC遺伝子、gmuD遺伝子、gmuR遺伝子、gmuE遺伝子、gmuF遺伝子及びgmuG遺伝子、又は前記各遺伝子に相当する遺伝子からなり、それぞれ、マンナナーゼ類似のタンパク質で、グルコマンナンの分解及び利用に関連する酵素をコードする遺伝子である。以下、これらの遺伝子について詳細に説明する。
【0017】
本発明において、gmuB遺伝子(ydhM遺伝子とも称される)、gmuA遺伝子(ydhN遺伝子とも称される)及びgmuC遺伝子(ydhO遺伝子とも称される)は、それぞれGmuB、GmuA及びGmuCをコードする遺伝子である。GmuB、GmuA及びGmuCはPTSを構成するタンパク質であり、枯草菌の細胞外に存在するグルコマンナン分解物がこのPTSを介して細胞内に取り込まれる。このようにして細胞内に取り込まれた、セロビオースやマンノビオース等のグルコマンナン分解物は、グルコマンナン資化オペロンのインデューサーとして機能し、グルコマンナン資化オペロンの発現を誘導する。
本明細書において「gmuB遺伝子に相当する遺伝子」、「gmuA遺伝子に相当する遺伝子」及び「gmuC遺伝子に相当する遺伝子」とは、NCBI Databaseに記載の枯草菌GmuBをコードする遺伝子(gmuB又はydhM)、枯草菌GmuAをコードする遺伝子(gmuA又はydhN)又は枯草菌GmuCをコードする遺伝子(gmuC又はydhO)の塩基配列に対して90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上の同一性を有する塩基配列を有し、且つGmuB、GmuA又はGmuCと同様にPTSを構成するタンパク質をコードする遺伝子を指す。あるいは、gmuB遺伝子、gmuA遺伝子又はgmuC遺伝子と相同性(homology)又は類似性(similarity)を有する遺伝子も、「gmuB遺伝子に相当する遺伝子」、「gmuA遺伝子に相当する遺伝子」及び「gmuC遺伝子に相当する遺伝子」に含まれる。

【0018】
本発明において、gmuD遺伝子(ydhP遺伝子とも称される)は、ホスホ−β−グルコシダーゼに類似のタンパク質GmuDをコードする遺伝子である。gmuE遺伝子(ydhR遺伝子とも称される)は、フルクトキナーゼと相同性を有するタンパク質GmuEをコードする遺伝子である。gmuF遺伝子(ydhS遺伝子とも称される)は、マンノース−6−リン酸イソメラーゼと相同性を有するタンパク質GmuFをコードする遺伝子である。GmuD、GmuE及びGmuFはいずれも、前記PTSにより細胞内に取り込まれたグルコマンナン分解物の代謝を行う。
本明細書において「gmuD遺伝子に相当する遺伝子」、「gmuE遺伝子に相当する遺伝子」及び「gmuF遺伝子に相当する遺伝子」とは、NCBI Databaseに記載の枯草菌GmuDをコードする遺伝子(gmuD又はydhP)、枯草菌GmuEをコードする遺伝子(gmuE又はydhR)又は枯草菌GmuFをコードする遺伝子(gmuF又はydhS)の塩基配列に対して90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上の同一性を有する塩基配列を有し、且つGmuD、GmuE又はGmuFと同様に細胞内に取り込まれたグルコマンナン分解物の代謝を行うタンパク質をコードする遺伝子を指す。あるいは、gmuD遺伝子、gmuE遺伝子又はgmuF遺伝子と相同性又は類似性を有する遺伝子も、「gmuD遺伝子に相当する遺伝子」、「gmuE遺伝子に相当する遺伝子」及び「gmuF遺伝子に相当する遺伝子」に含まれる。

【0019】
本発明において、gmuR遺伝子(ydhQ遺伝子とも称される)は、転写調節因子の1種である、GntRファミリーに属するDNA結合タンパク質GmuRをコードする遺伝子である。GmuRにより、グルコマンナン資化オペロンの発現が抑制される。
本明細書において「gmuR遺伝子に相当する遺伝子」とは、NCBI Databaseに記載の枯草菌GmuRをコードする遺伝子(gmuR又はydhQ)の塩基配列に対して90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上の同一性を有する塩基配列を有し、且つGmuRと同様にグルコマンナン資化オペロンの発現の抑制を行うタンパク質をコードする遺伝子を指す。あるいは、gmuR遺伝子と相同性又は類似性を有する遺伝子も、「gmuR遺伝子に相当する遺伝子」に含まれる。

【0020】
本発明において、gmuG遺伝子(ydhT遺伝子とも称される)は、シグナル配列をN末端側に有する、β-1,4-マンナナーゼGmuGをコードする遺伝子である。gmuG遺伝子がコードするGmuGが細胞外に分泌されると、グルコマンナンをセロビオースやマンノビオース等に分解する。
本明細書において「gmuG遺伝子に相当する遺伝子」とは、NCBI Databaseに記載の枯草菌GmuGをコードする遺伝子(gmuG又はydhT)の塩基配列に対して90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上の同一性を有する塩基配列を有し、且つGmuGと同様に細胞外に分泌されるとグルコマンナンをセロビオースやマンノビオース等に分解するタンパク質をコードする遺伝子を指す。あるいは、gmuG遺伝子と相同性又は類似性を有する遺伝子も、「gmuG遺伝子に相当する遺伝子」に含まれる。

【0021】
本発明の組換え微生物のグルコマンナン資化オペロン、及び該オペロンを構成する各遺伝子の塩基配列について、配列番号1に示す、枯草菌168株のグルコマンナン資化オペロンを構成する各遺伝子の塩基配列に基づき説明する。しかし、本発明はこれに制限するものではない。
gmuB遺伝子の塩基配列は配列番号1に示す塩基配列の969〜1280番目の領域、gmuA遺伝子の塩基配列は配列番号1に示す塩基配列の1280〜1612番目の領域、gmuC遺伝子の塩基配列は配列番号1に示す塩基配列の1631〜2959番目の領域、gmuD遺伝子の塩基配列は配列番号1に示す塩基配列の2977〜4374番目の領域、gmuR遺伝子の塩基配列は配列番号1に示す塩基配列の4517〜5230番目の領域、gmuE遺伝子の塩基配列は配列番号1に示す塩基配列の5259〜6158番目の領域、gmuF遺伝子の塩基配列は配列番号1に示す塩基配列の6155〜7102番目の領域、gmuG遺伝子の塩基配列は配列番号1に示す塩基配列の7121〜8209番目の領域にそれぞれ該当する。
【0022】
gmuB遺伝子に相当する遺伝子、gmuA遺伝子に相当する遺伝子、gmuC遺伝子に相当する遺伝子、gmuD遺伝子に相当する遺伝子、gmuR遺伝子に相当する遺伝子、gmuE遺伝子に相当する遺伝子、gmuF遺伝子に相当する遺伝子及びgmuG遺伝子に相当する遺伝子としては、下記表1に記載の相同遺伝子も挙げられる。表1は、各菌種の代表的な菌株と各遺伝子に相当する相同遺伝子を挙げたものである。表1に記載の菌種と同種の異なる菌株が有する、表1と同じ相同遺伝子又は別の相同遺伝子も、本発明における各遺伝子に相当する遺伝子に含まれる。
【0023】
【表1】
【0024】
本発明の組換え微生物のグルコマンナン資化オペロンにおけるgmuB遺伝子、gmuA遺伝子、gmuC遺伝子、gmuD遺伝子、gmuR遺伝子、gmuE遺伝子、gmuF遺伝子及びgmuG遺伝子の各遺伝子、又は各遺伝子に相当する遺伝子の配列については、これらの遺伝子が構成するオペロンがグルコマンナン資化オペロンとして機能する限り特に制限はない。例えば、gmuB遺伝子又はその相同遺伝子、gmuA遺伝子又はその相同遺伝子、gmuC遺伝子又はその相同遺伝子、gmuD遺伝子又はその相同遺伝子、gmuR遺伝子又はその相同遺伝子、gmuE遺伝子又はその相同遺伝子、gmuF遺伝子又はその相同遺伝子、及びgmuG遺伝子又はその相同遺伝子がゲノム上でこの順で連結してグルコマンナン資化オペロンを構成するのが好ましく、gmuB遺伝子、gmuA遺伝子、gmuC遺伝子、gmuD遺伝子、gmuR遺伝子、gmuE遺伝子、gmuF遺伝子、及びgmuG遺伝子がゲノム上でこの順で連結してグルコマンナン資化オペロンを構成するのがより好ましい。あるいは、前記各遺伝子に相当する遺伝子がグルコマンナン資化オペロンとして機能する限り、各遺伝子がゲノム上の離れた位置にそれぞれ存在してもよい。例えば、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)DSM7株において、gmuR遺伝子はグルコマンナン資化オペロンを構成する他の遺伝子とは離れた位置に存在するが、インデューサーとなるグルコマンナン分解物が存在しない状態ではグルコマンナン資化オペロンの発現が抑制される。したがって、バチルス・アミロリケファシエンスDSM7株のように、前記各遺伝子に相当する遺伝子がゲノム上の離れた位置に存在する微生物であっても、これらの遺伝子がグルコマンナン資化オペロンとして機能する限り、本発明に用いる宿主微生物に含むものとする。
【0025】
本発明の組換え微生物において、目的遺伝子が、gmuG遺伝子又はgmuG遺伝子に相当する遺伝子の下流に作動可能に連結している。gmuG遺伝子又はgmuG遺伝子に相当する遺伝子の下流であって、且つ当該オペロンのターミネーターの上流に目的遺伝子を作動可能に連結させることで、発現誘導型プロモーターであるグルコマンナン資化オペロンのインデューサーの制御下で目的遺伝子の発現が可能となる。ここで、発現誘導型プロモーターとは、特定の条件下でのみ遺伝子発現を誘導する機能を有するプロモーターを意味する。本発明において「特定の条件下」とは、発現系にセロビオースなどのグルコマンナン分解物が存在することをさす。また、「目的遺伝子を作動可能に連結させる」とは、グルコマンナン資化オペロンの発現に伴い遺伝子の転写を誘導し得るように目的遺伝子が連結されていることをいう。
【0026】
gmuG遺伝子又はgmuG遺伝子に相当する遺伝子の下流に作動可能に連結させる目的遺伝子としては特に制限はなく、収縮タンパク質、輸送タンパク質、シグナルタンパク質、生体防御タンパク質、受容体タンパク質、構造タンパク質、遺伝子調節タンパク質、酵素、及び貯蔵タンパク質等のタンパク質をコードする遺伝子、薬剤耐性遺伝子、栄養要求性遺伝子、並びに機能性RNA等のノンコーディングRNAをコードする遺伝子が挙げられる。本発明の微生物をセルラーゼ遺伝子などの外来遺伝子のスクリーニングに用いる場合は、目的遺伝子の発現を指標として外来遺伝子の選択を行う観点から、薬剤耐性遺伝子、栄養要求性遺伝子、リポーター遺伝子等、選択マーカーとなり得る遺伝子が好ましい。
前記薬剤耐性遺伝子としては特に制限はなく、クロラムフェニコール耐性遺伝子(cat遺伝子)、テトラサイクリン耐性遺伝子(tet遺伝子)、ネオマイシン耐性遺伝子(nem遺伝子)、エリスロマイシン耐性遺伝子(erm遺伝子)、スペクチノマイシン耐性遺伝子(spm遺伝子)、カナマイシン耐性遺伝子などが挙げられる。
栄養要求性遺伝子としては特に制限はなく、ウラシル、アデニン等の核酸要求性遺伝子、メチオニン、トリプトファン等のアミノ酸要求性遺伝子などが挙げられる。
その他の目的遺伝子としては、緑色蛍光タンパク質(GFP)、β-グルクロニダーゼ(GUS)、β-ガラクトシダーゼ(β-Gal)等のリポーター遺伝子などが挙げられる。
これら目的遺伝子はプロモーター配列を有さないことが好ましい。
【0027】
本発明に用いられる目的遺伝子の一例として、クロラムフェニコール耐性遺伝子(cat遺伝子)について説明する。
黄色ブドウ球菌由来のクロラムフェニコール耐性遺伝子の塩基配列(プロモーター配列を含む)を配列番号2及び図3に示し、当該塩基配列からなるクロラムフェニコール耐性遺伝子がコードするアミノ酸配列を配列番号3に示す。なお、図3には、黄色ブドウ球菌由来のクロラムフェニコール耐性遺伝子におけるプロモーター配列及びシャイン・ダルガノ(Shine-Dalgarno)配列(本明細書において、SD配列ともいう)を併せて示す。
真正細菌のプロモーターは、転写開始点から約10塩基上流と約35塩基上流に見られる、2つの短い配列から成っている。転写開始点から約10塩基上流の配列は「-10領域」とも呼ばれ、多くの遺伝子の-10領域からは「5’-TATAAT-3’」という6塩基の共通配列が見出されている。この-10領域は、原核生物における転写の開始に不可欠である。転写開始点から約35塩基上流の配列は「-35領域」とも呼ばれ、5’-TTGACA-3’という6塩基の共通配列である。この-35領域は、転写の強度を高める機能を持つ。目的遺伝子の転写開始点の上流に-10領域及び-35領域が含まれていないと、自力での転写が不可能となる。また、SD配列はリボゾーム結合部位であり、タンパク質の翻訳に必須の配列である。
本発明において、gmuG遺伝子又はgmuG遺伝子に相当する遺伝子の下流に連結される目的遺伝子は、プロモーター配列を有さない(前記-10領域及び-35領域を有さない)ことが好ましい。すなわち、目的遺伝子の翻訳開始点(又はSD配列)より上流の配列を含まず、目的遺伝子の転写開始点(又はSD配列)及びそれより下流の領域をgmuG遺伝子又はgmuG遺伝子に相当する遺伝子の下流であって、且つ当該オペロンのターミネーターの上流に作動可能に連結することが好ましい。このような構成とすることで、グルコマンナン資化オペロンのインデューサーの制御下でのみ、目的遺伝子の発現が可能となる。
【0028】
gmuG遺伝子又はgmuG遺伝子に相当する遺伝子と、目的遺伝子(マーカー遺伝子)との連結は、当該分野で通常用いられる方法により行うことができる。例えば、図4に示すように、SOE(splicing by overlap extension)-PCR法(Gene,1989,vol.77(1),p.61-68参照)よって目的遺伝子導入用SOE-PCR断片を作製し、SOE-PCR断片を宿主微生物の細胞内に導入し、2重交差法による相同組換えによって宿主微生物のゲノムにマーカー遺伝子を直接組み込むことによって、本発明の組換え微生物を作製することができる。
【0029】
以下に、具体例を挙げて、本発明の組換え微生物の作製方法について説明する。しかし、本発明はこれに制限するものではない。
まず、目的遺伝子を導入する宿主微生物のゲノムDNA又はそのcDNAを鋳型として目的遺伝子挿入部位の上流断片(以下、断片(A)ともいう)及び下流断片(以下、断片(B)ともいう)を、目的遺伝子の塩基配列が組み込まれたプラスミドなどを鋳型として目的遺伝子断片(以下、断片(C)ともいう)をそれぞれPCRにより調製する。なお、断片(A)の3’末端に目的遺伝子の5’末端側の10〜30塩基対程度が付加されるようにデザインしたプライマーを用いてPCRを行う。また、断片(B)の5’末端に、目的遺伝子の3’末端側の10〜30塩基対程度が付加されるようにデザインしたプライマーを用いてPCRを行う。ここで、断片(A)及び断片(B)のサイズに特に制限はないが、0.1kb〜3kbが好ましく、0.5kb〜3kbがより好ましく、0.5kb〜2kbがさらに好ましい。
断片(A)、断片(B)及び断片(C)の3種類のPCR断片を鋳型としてPCRを行うことにより、断片(A)の3’末端及び断片(B)の5’末端に付加した目的遺伝子の部分配列と、断片(C)との間でアニールが生じ、断片(A)と断片(B)との間に断片(C)を挿入した目的遺伝子導入用SOE-PCR断片(断片(D))が得られる。
かくして得られた断片(D)を通常の方法により宿主微生物細胞内に導入し、相同組換えが生じる条件下において断片(D)と宿主微生物のゲノムとを近接させると、目的遺伝子挿入部位の上流及び下流の相同領域において細胞内で二重交差の相同組換えが起こり、宿主微生物のゲノム上の目的遺伝子挿入部位に目的遺伝子が挿入される。
【0030】
ここで、相同組換えが生じる条件下とは、宿主微生物が本来的に有している組換え反応に関与する酵素等の機能を失っていない状態を意味する。断片(D)と宿主微生物のゲノムとの間の組換え方法としては特に制限はなく、一般的なコンピテントセル形質転換方法(例えば、J.Bacterial.,1967,vol.93,p.1925など参照)、プロトプラスト形質転換法(例えば、Mol.Gen.Genet.,1979,vol.168,p.111など参照)、エレクトロポレーション法(例えば、FEMS Microbiol.Lett.,1990,vol.55,p.135など参照)、LP形質転換方法(例えば、Archives of Microbiology,1987,vol.146,p.353-357;Bioscience,Biotechnology,and Biochemistry,2001,vol.65,No.4,p.823-829参照)、塩化カルシウム法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、アグロバクテリウム法、パーティクルガン法、PEG法、スフェロプラスト法、酢酸リチウム法などが挙げられる。例えば、宿主微生物が枯草菌である場合、コンピテントセル形質転換方法に従って以下の様に形質転換を行うことができる。
まず、宿主微生物の菌株を、SPI培地(0.20%(w/v)硫酸アンモニウム、1.40%(w/v)リン酸水素二カリウム、0.60%(w/v)リン酸二水素カリウム、0.10%(w/v)クエン酸三ナトリウム二水和物、0.50%(w/v)グルコース、0.02%(w/v)カザミノ酸(Difco社製)、5mM硫酸マグネシウム、0.25μM塩化マンガン、50μg/mLトリプトファン)において37℃で、例えば生育度(OD600)の値が1程度になるまで振盪培養する。振盪培養後、培養液の一部を9倍量のSPII培地(0.20%(w/v)硫酸アンモニウム、1.40%(w/v)リン酸水素二カリウム、0.60%(w/v)リン酸二水素カリウム、0.10%(w/v)クエン酸三ナトリウム二水和物、0.50%(w/v)グルコース、0.01%(w/v)カザミノ酸(Difco社製)、5mM硫酸マグネシウム、0.40μM塩化マンガン、5μg/mLトリプトファン)に接種し、更に例えば生育度(OD600)の値が0.4程度になるまで振盪培養することで、コンピテントセルを調製する。次いで、DNA断片を、宿主微生物の菌株のコンピテントセルに添加し、1時間〜2時間培養する。添加するDNA断片の量は特に限定されないが、100pg〜100μgが好ましく、1ng〜10μgがより好ましい。また、コンピテントセルの使用量に特に制限はないが、105〜109CFUが好ましく、106〜108CFUがより好ましい。
【0031】
目的遺伝子の挿入の確認は、通常の方法により行うことができる。例えば、形質転換体から抽出したゲノムDNAを鋳型としてPCRを行い、目的遺伝子が挿入していることを確認すればよい。
また、目的遺伝子が薬剤耐性遺伝子や栄養要求性遺伝子等の選択マーカーの場合、当該選択マーカーの発現を指標として相同組み換えが行われた形質転換体を分離することができる。例えば、目的遺伝子が薬剤耐性遺伝子の場合、薬剤耐性遺伝子の発現はグルコマンナン資化オペロンに制御されるので、グルコマンナン資化オペロンのインデューサーとして機能するセロビオースやマンノビオース等の存在下で初めて薬剤耐性を獲得する微生物を選択すればよい。
【0032】
本発明の組換え微生物を作製するための宿主微生物としては、枯草菌のgmuB遺伝子、gmuA遺伝子、gmuC遺伝子、gmuD遺伝子、gmuR遺伝子、gmuE遺伝子、gmuF遺伝子及びgmuG遺伝子からなるグルコマンナン資化オペロン又は前記各遺伝子に相当する遺伝子からなりグルコマンナン資化オペロンとして機能するオペロンをゲノム上に有するものであれば特に制限はなく、これらは野生型でも変異株でもよい。具体的には、バチルス・リケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バチルス・アンシラシス(Bacillus anthracis)、バチルス・ハロデュランス(Bacillus halodurans)、枯草菌等のバチルス(Bacillus)属細菌、クロストリジウム(Clostridium)属細菌、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属細菌、シュードモナス(Pseudomonas)属細菌、大腸菌(Escherichia coli)、酵母等が挙げられ、中でもバチルス属細菌が好ましい。特に、全ゲノム情報が明らかにされ、遺伝子工学、ゲノム工学技術が確立されている点、宿主微生物として安全且つ優良と認められる点、タンパク質を菌体外に分泌生産させる能力を有する点から、枯草菌がより好ましい。さらに、選択される宿主微生物は、野生型の菌株、野生型の菌株に対して所定の変異を導入した変異株のいずれも使用することができる。
【0033】
本発明の組換え微生物において、グルコマンナン資化オペロンの発現が炭素カタボライト抑制因子(CcpA)により抑制される場合、CcpAをコードするccpA遺伝子又はそれに相当する遺伝子を欠失又は不活性化することが好ましい。ccpA遺伝子又はそれに相当する遺伝子を欠失又は不活性化することにより、グルコース等の代謝されやすい糖の存在下においても、セロビオースにより目的遺伝子の発現を確認することが可能となる。ccpA遺伝子としては炭素カタボライト抑制因子をコードする遺伝子であれば制限は無いが、好ましくは枯草菌ccpA遺伝子である。
枯草菌ccpA遺伝子の塩基配列を配列番号40に基づいて説明する。なお、配列番号40に示す塩基配列は、枯草菌ccpA遺伝子の塩基配列(配列番号40で示される塩基配列のうち、1087〜2091番目の領域)、並びにその上流及び下流の塩基配列を示す。ccpA遺伝子に相当する遺伝子としては、当該塩基配列に対して90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上の同一性を有する塩基配列を有し、かつCcpAをコードする遺伝子をいう。
【0034】
ccpA遺伝子又はそれに相当する遺伝子の欠失又は不活性化方法としては特に制限はなく、通常の方法により行うことができる。例えば、SOE-PCRで作成した線状DNA断片を用いたダブルクロスオーバー法、環状プラスミドを用いたシングルクロスオーバー法、UV照射や変異原物質による突然変異法などが挙げられる。
具体的には、SOE-PCR法(Gene,1989,vol.77(1),p.61-68参照)によって調製される欠失用DNA断片を用いた2重交差法を用いる方法によって、ccpA遺伝子をゲノム上から欠失させることができる。本方法で用いる欠失用DNA断片は、ccpA遺伝子の上流に隣接する約0.1〜3kbの断片(上流断片と称する)と、薬剤耐性マーカー遺伝子断片と、ccpA遺伝子の下流に隣接する約0.1〜3kb断片(下流断片と称する)の3断片を連結したDNA断片である。
【0035】
まず、1回目のPCRによって、欠失対象遺伝子(ccpA遺伝子)の上流断片及び下流断片、並びに薬剤耐性マーカー遺伝子断片の3断片を調製する。この際、結合対象となるDNA断片の末端10〜30塩基対の配列を付加したプライマーを設計する。例えば、上流断片の下流末端に位置する(アニールする)プライマーにおける5’末端に、薬剤耐性マーカー遺伝子断片の上流側10〜30塩基に相当する配列を付加し、また下流断片の上流末端に位置する(アニールする)プライマーにおける5’末端に、薬剤耐性マーカー遺伝子断片の下流側10〜30塩基に相当する配列を付加する。このように設計したプライマーセットを用いて上流断片及び下流断片を増幅した場合、増幅された上流断片の下流側には薬剤耐性マーカー遺伝子断片の上流側に相当する領域が付加されることとなり、増幅された下流断片の上流側には薬剤耐性マーカー遺伝子断片の下流側に相当する領域が付加されることとなる。
次に1回目に調製した上流断片、薬剤耐性マーカー遺伝子断片及び下流断片を混合して鋳型とし、上流断片の上流に位置する(アニールする)プライマー及び下流断片の下流側に位置する(アニールする)プライマーからなる1対のプライマーを用いてSOE-PCRを行う。この2回目のPCRにより、上流断片、薬剤耐性マーカー遺伝子断片及び下流断片をこの順で結合した欠失用DNA断片を増幅することができる。
【0036】
次いで、欠失用DNA断片による宿主菌の形質転換をコンピテントセル形質転換法(例えば、J.Bacterial.,1967,vol.93,p.1925など参照)などによって行い、欠失用DNA断片とゲノム上の相同領域間での2重交差の相同組換えによって、薬剤耐性マーカー遺伝子が宿主菌ゲノム上のccpA遺伝子に置き換えた形質転換体を得る。形質転換体の選択には欠失用DNA断片に挿入した薬剤耐性マーカー遺伝子による薬剤耐性を指標に行えば良い。こうした菌株からゲノムDNAを抽出し、PCR法などによって目的遺伝子の欠失を確認すれば良い。
【0037】
本発明の組換え微生物において目的遺伝子がグルコマンナン資化オペロンに作動可能に連結しているので、グルコマンナン資化オペロンのインデューサーであるセロビオース等のグルコマンナン分解物により目的遺伝子の発現が制御される。したがって、本発明の組換え微生物を用いることにより、組換え微生物に導入された目的遺伝子の発現を指標として、セルロースのβ-1,4-グルコシド結合を加水分解してセロビオースの生成を行うセルラーゼをコードする遺伝子のスクリーニングが可能となる。
【0038】
以下、本発明のセルラーゼ遺伝子のスクリーニング方法の実施態様について説明する。しかし、本発明はこれに制限するものではない。
【0039】
スクリーニングする遺伝子で形質転換を行い本発明の組換え微生物に該遺伝子を導入した場合、セルロースの存在下で本発明の組換え微生物に導入した遺伝子を発現させ、当該遺伝子がセルラーゼ遺伝子であると、セルロースを基質としてセロビオースが生成する。このセロビオースが組換え微生物の細胞内に取り込まれると、組換え微生物のグルコマンナン資化オペロンのインデューサーとして機能し、gmuG遺伝子又はgmuG遺伝子に相当する遺伝子の下流に連結する目的遺伝子が発現する。したがって、発現した目的遺伝子を指標とすることでセルラーゼ遺伝子のスクリーニングが可能となる。例えば、本発明の組換え微生物の目的遺伝子として薬剤耐性遺伝子を用いた場合、組換え微生物に導入した被検遺伝子の発現を誘導し、セルロースの存在下で組換え微生物を培養し、組換え微生物が薬剤耐性を獲得した場合、当該組換え微生物に導入した被検遺伝子をセルラーゼ遺伝子として選択すればよい。
メタゲノムからセルラーゼ遺伝子をスクリーニングする場合、そのDNAを適当な制限酵素で処理してスクリーニングに供する遺伝子とすることができる。また、RNAを用いる場合、RNAを逆転写してcDNAを合成することによりスクリーニングに供する遺伝子とすることができる。
【0040】
本発明のセルラーゼ遺伝子のスクリーニングにおいて、組換え微生物の培養を行うための培地としては、セルラーゼが加水分解するセルロースが存在する限り特に制限はなく、グリセロール、フルクトース、マルトース、キシロース、アラビノース、各種有機酸等の炭素源、各種アミノ酸、ポリペプトン、トリプトン、硫酸アンモニウムや尿素等の窒素源、ナトリウム塩等の無機塩類及びその他必要な栄養源、微量金属塩等を含む、当該組換え微生物の宿主微生物の培養に通常使用される培地であればよい。また、本発明の組換え微生物のccpA遺伝子を欠失又は不活性化することによりグルコース等の資化され易い糖を炭素源とした培地を使用するができる。
また、本発明に用いられるセルロースとしては特に制限はなく、ミル粉砕セルロース、CMC、Avicel PH101(商品名、Fluka社製)、Cellulose Powder(Fuluka社製)、パルプ、リン酸膨洵セルロース、KCフロックなどが挙げられる。このうち、ミル粉砕セルロース、CMCが好ましい。
【0041】
本発明の組換え微生物は、gmuG遺伝子又はgmuG遺伝子に相当する遺伝子の下流に目的遺伝子が作動可能に連結している。また、グルコマンナン資化オペロンのインデューサーはセロビオースやマンノビオース等である。したがって、前記目的遺伝子の発現はセロビオースやマンノビオース等によって制御される。
さらに、セロビオースによって発現が制御される前記目的遺伝子を指標とすることで、セルロースを基質とし、セロビオースを生成するセルラーゼをコードする遺伝子のスクリーニングに本発明の組換え微生物を好適に用いることができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例で使用したプライマーの名称、その配列及び配列番号を表2及び3に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
以下の実施例におけるDNA断片増幅のためのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)には、GeneAmp PCR System(アプライドバイオシステムズ社製)を使用し、Pyrobest DNA Polymerase(タカラバイオ社製)と付属の試薬類を用いてDNA増幅を行った。PCRの反応液組成は、適宜希釈した鋳型DNAを1μL、センス及びアンチセンスプライマーを各々20pmol、並びにPyrobest DNA Polymeraseを2.5U添加して、反応液総量を50μLとした。PCRの反応条件は、98℃で10秒間、55℃で30秒間及び72℃で1〜5分間(目的増幅産物に応じて調整。目安は1kbあたり1分間)の3段階の温度変化を30回繰り返した後、72℃で5分間反応させることにより行った。
【0046】
また、枯草菌の形質転換は以下の様に行った。
枯草菌株をSPI培地において37℃で、生育度(OD600)の値が1程度になるまで振盪培養した。振盪培養後、培養液の一部を9倍量のSPII培地に接種し、更に生育度(OD600)の値が0.4程度になるまで振盪培養することで、枯草菌株のコンピテントセルを調製した。次いで、調製したコンピテントセル懸濁液(SPII培地における培養液)100μLに各種DNA断片を含む溶液(SOE−PCRの反応液等)5μLを添加し、37℃で1時間振盪培養後、適切な薬剤を含むLB寒天培地(1%トリプトン、0.5%酵母エキス、1%NaCl、1.5%寒天)に全量を塗沫した。37℃における静置培養の後、生育したコロニーを形質転換体として分離した。得られた形質転換体のゲノムを抽出し、これを鋳型とするPCRによって、目的とするゲノム構造の改変が為されたことを確認した。
【0047】
実施例1 組換え微生物の作製
図5に示すように、枯草菌168株のgmuG遺伝子の下流にプロモーターのない薬剤耐性遺伝子を挿入した枯草菌son5株を、図4の概略図で示す方法により作製した。以下、その詳細を説明する。
【0048】
枯草菌168株から抽出したゲノムDNAを鋳型とし、表2に示したson5f1(配列番号22)及びson5/catr(配列番号24)の塩基配列で示されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーセットを用いて、cat遺伝子の5'末端相同配列を3'末端側に有する、1.0kbの断片(A)をPCRにより作製した。同様に、上記ゲノムDNAを鋳型とし、表2に示したson5/catf(配列番号25)及びson5r1(配列番号27)の塩基配列で示されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーセットを用いて、cat遺伝子の3'末端相同配列を5'末端側に有する、1.0kbの断片(B)をPCRにより作製した。さらに、プラスミドpC194のDNA(J.Bacteriol.,vol.150,No.2,p.815,1982参照)を鋳型とし、表2に示したcatf2(配列番号4)及びcatr2(配列番号5)の塩基配列で示されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーセットを用いて、クロラムフェニコール耐性遺伝子(cat遺伝子)を含む0.7kbの断片(C)をPCRにより作製した。
【0049】
次に、得られた1.0kb断片(A)、1.0kb断片(B)及び0.7kbの断片(C)の3断片を混合して鋳型として、表2に示したson5f2(配列番号23)及びson5r2(配列番号26)の塩基配列で示されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーセットを用いたSOE-PCR法を行い、3断片を断片(A)、断片(C)、断片(B)の順になるように結合させ、2.7kbのDNA断片(D)を得た。
【0050】
さらに、コンピテントセル形質転換法によって、得られたDNA断片(D)を用いて、枯草菌168株の形質転換を行った。形質転換後、セロビオース(0.1%)及びクロラムフェニコール(10ppm)を含むLB寒天培地上に生育したコロニーを形質転換体として分離した。得られた形質転換体のゲノムDNAを抽出し、PCRによってgmuG遺伝子の下流にcat遺伝子が挿入していることを確認した。このように構築した株を枯草菌son5株とする。
【0051】
断片(A)、断片(B)、断片(C)及び断片(D)の作製に用いたプライマーを表4の通りとした以外は、枯草菌son5株と同様にして、枯草菌son1株、枯草菌son2株、枯草菌son3株及び枯草菌son4株をそれぞれ作製した。また、枯草菌son1株、枯草菌son2株、枯草菌son3株、枯草菌son4株及び枯草菌son5株のゲノム上におけるcat遺伝子の挿入位置を図5に示す。
【0052】
【表4】
【0053】
試験例1
実施例1で作製した各形質転換体をそれぞれLB+Cmプレート(クロラムフェニコール:10ppm)とLB+Cm+セロビオースプレート(クロラムフェニコール:10ppm、セロビオース:0.1%(w/v))に植菌し、30℃、2日間培養した後、生育状況(コロニーの有無)の確認を行なった。その結果を表5に示す。また、枯草菌son5株を培養したLB+Cmプレート及びLB+Cm+セロビオースプレートを図6に示す。
【0054】
【表5】
【0055】
表5に示すように、クロラムフェニコール耐性遺伝子をgmuG遺伝子の下流以外の部位に挿入した、枯草菌son1株、枯草菌son2株、枯草菌son3株及び枯草菌son4株は、セロビオースの有無に関わらず生育可能であった。すなわち、これらの組換え微生物においては、クロラムフェニコール耐性遺伝子の発現をセロビオースにより制御できなかった。枯草菌son1株は、グルコマンナン資化オペロンのプロモーターのcre配列にcat遺伝子を導入したため、gmuR遺伝子がコードする内部リプレッサーGmuRの結合に影響を与え、グルコマンナン資化オペロンのインデューサーであるセロビオースの有無に関わらず生育できたものと考えられる。枯草菌son3株及びson4株は、cat遺伝子をgmuR遺伝子の上流又はgmuR遺伝子中に導入したため、gmuR遺伝子がコードするGmuRの発現に影響を及ぼし、cat遺伝子が構成的に発現し、セロビオースの有無に関わらず生育できたものと考えられる。
一方、表5及び図6に示すように、枯草菌son5株については、セロビオース非存在下ではクロラムフェニコールを含む培地では生育できないのに対し、セロビオース存在下では薬剤耐性を獲得し、クロラムフェニコールを含む培地でも生育することが可能である。
【0056】
試験例2
クロラムフェニコールを10ppm及びセロビオースを0.1%(w/v)含有する5mLのLB培地に、30℃で一晩で振盪培養した枯草菌son5株の培養液を菌体濃度がOD600=0.03になるように植菌し、37℃で、180rpmで振盪培養し、菌株の生育度(OD600)を測定した。また、比較として、セロビオースを含有しない以外は同様に培養を行い、枯草菌son5株の生育度を測定した。その結果を図7に示す。
図7に示すように、セロビオース非存在下では枯草菌son5株は生育できなかったのに対し、セロビオース存在下で枯草菌son5株の生育が可能となった。これは、セロビオースがグルコマンナン資化オペロンのインデューサーとして機能することでグルコマンナン資化オペロンの発現を誘導し、グルコマンナン資化オペロンのgmuG遺伝子の下流に作動可能に連結させた薬剤耐性遺伝子が発現して、枯草菌son5株が薬剤耐性を獲得したためである。
【0057】
また、セロビオースに代えて、セロトリオース、セロテトラオース、セロペンタオース又はセロヘキサオースを用いたこと以外は同様に培養を行い、枯草菌son5株の生育度を測定した。その結果を図8に示す。
図8に示すように、セロトリオース、セロテトラオース、セロペンタオース又はセロヘキサオース存在下では枯草菌son5株は生育できなかった。したがって、本発明の組換え微生物のグルコマンナン資化オペロンのgmuG遺伝子の下流に作動可能に連結させた目的遺伝子の発現は、セロビオースにより制御されることを示唆している。
【0058】
実施例2 セルラーゼ遺伝子のスクリーニング
(1)枯草菌セルラーゼ遺伝子bglC過剰発現プラスミドの構築
In-FusionTM Advantage PCR Cloning Kit(Clontech社製)のプロトコールに従い、バチルス・エスピー(Bacillus sp.)KSM-S237株(FERM BP-7875)由来のアルカリセルラーゼ遺伝子(特開2000-210081号公報参照)のプロモーターとシグナル配列をコードするDNA断片が挿入された組換えプラスミドpHYS237(Biosci.Biotechnol.Biochem.,2000,vol.64(11),p.2281-2289参照)を鋳型として、表3に示したPSF_infu(EcI)(配列番号28)とPS237R(配列番号29)の塩基配列で示されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーセットを用いて、DNA断片を増幅した。さらに、枯草菌168株のゲノムDNAを鋳型として、表3に示したbglC-sig/PSF(配列番号30)とbglC_infu(SaI)(配列番号31)の塩基配列で示されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーセットを用いて、枯草菌セルラーゼ遺伝子bglCを増幅した。これらDNA断片と、制限酵素EcoRI及びSalIで処理し線状化したシャトルベクターpHY300PLK、及びIn-Fusion酵素を適当量で混合し、30分間反応を行なった。このように作製したプラスミドを用いて、大腸菌HB101コンピテントセル(TaKaRa社製)の形質転換を行った。CMC及びトリパンブルーを含有するLB寒天培地を用いて、テトラサイクリン耐性を獲得した形質転換体を選抜した。この様にして、S237セルラーゼのプロモーター配列及びシグナル配列をbglCの構造遺伝子と連結させてプラスミドpHPS-bglCを作製した。
なお、枯草菌としては168株としては、国立遺伝学研究所ではMGNA-A001、米国のBacillus Genetic Stock Center(BGSC)ではアクセスナンバー1A1として登録されている株と同じ株を用いた。
【0059】
(2)bglC過剰発現プラスミドを用いた形質転換体の作製
前記プラスミドpHPS-bglCを、プロトプラスト形質転換法(Mol.Gen.Genet.,1979,vol.168,p.111)に従い、枯草菌son5株に導入した。形質転換体はテトラサイクリン(Tc)入りのDM3寒天培地(1%CMC、0.5%カザミノ酸、0.5%酵母エキス(Difco社製)、0.01%メチオニン、0.01%リジン、0.01%トリプトファン、8.1%コハク酸Na・6H2O、0.35%リン酸水素2カリウム、0.15%リン酸水素1カリウム、0.5%グルコース、20mM塩化マグネシウム、0.01%トリパンブルー、0.01%BSA、50ppmテトラサイクリン)より選抜した。
【0060】
(3)セルラーゼ遺伝子のスクリーニング
pHPS-bglCを導入した枯草菌son5株、及びコントロールとしてpHY300PLKを導入した枯草菌son5株を、クロラムフェニコール10ppm、及びミル粉砕セルロース又はCMC0.1%を含むLB寒天培地で培養し、生育した単一コロニーをセルロース源(ミル粉砕セルロース又はCMC)を含む又はセルロース源を含まない、SPI+Cm寒天培地及びLB+Cm寒天培地に白金耳で植菌し、30℃、3日培養した。その後、プレートでの菌株の生育を確認した。その結果を図9に示す。
なお、ミル粉砕セルロースは、粉末状パルプ(商品名:W−400G、日本製紙ケミカル社製、400メッシュパス90以上、セルロース含有量99質量%、水分含量1質量%)を媒体撹拌式ミル(アトライタ、三井鉱山(株)製、「MA1D−X」、容器全容量:5.5L)に500g投入し、媒体として、ジルコニアボール(直径10mm、材質:ジルコニア)11kgをアトライタに充填(充填率59%)して、回転数307rpmの条件で、2時間粉砕処理することにより調製した。
【0061】
図9に示したように、セルラーゼ遺伝子を含まないプラスミドを導入した枯草菌son5株はセルラーゼを生成することができない。そのため、インデューサーとしてのセロビオースが存在せず、結果として、宿主微生物のゲノムに挿入されたクロラムフェニコール耐性遺伝子が発現せず、クロラムフェニコール存在下では生育することができない。これに対して、bglC高発現プラスミドpHPS-bglCを導入した枯草菌son5株は、bglC遺伝子が発現することでセルラーゼが生産され、セルラーゼによりセルロースを分解してセロビオースが生成される。このセロビオースがグルコマンナン資化オペロンのインデューサーとして機能するので、枯草菌son5株に導入されたcat遺伝子が発現してクロラムフェニコール耐性を獲得し、枯草菌son5株はクロラムフェニコール存在下でも生育することができる。
【0062】
図10に、セルラーゼ遺伝子のスクリーニングにおける、枯草菌son5株のグルコマンナン資化オペロンの作用機序を模式的に示す。セルラーゼをコードするセルラーゼ遺伝子を本発明の組換え微生物に導入しセルラーゼ遺伝子を発現させると、培地中に含まれるセルロースからセロビオースが生成され、セロビオースがグルコマンナン資化オペロンの発現を誘導する。グルコマンナン資化オペロンには薬剤耐性遺伝子が作動可能に連結しているので、グルコマンナン資化オペロンの発現が誘導されることにより薬剤耐性を獲得する。したがって、薬剤耐性遺伝子を指標とすることで、セルラーゼ遺伝子のスクリーニングが可能となる。
【0063】
以上の結果から、本発明によれば、目的遺伝子の発現がグルコマンナン資化オペロンのインデューサーにより制御される、組換え微生物を作成することができる。さらに、本発明の組換え微生物を用いることで、目的遺伝子の発現を指標として、セルラーゼ遺伝子のスクリーニングを行うことができる。
【0064】
実施例3
図11に示したように、ネオマイシン耐性遺伝子(neo遺伝子)をマーカーとして、枯草菌son5株からccpA遺伝子を欠失させた菌株son5A株を作製した。以下、その詳細を説明する。
【0065】
枯草菌168株から抽出したゲノムDNAを鋳型とし、表3に示したccpAFW(配列番号32)及びccpA/NeR(配列番号33)の塩基配列で示されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーセットを用いて、neo遺伝子の5’末端相同配列を3’末端側に有する、1.0kbの断片(E)をPCRにより作製した。同様に、上記ゲノムDNAを鋳型とし、表3に示したccpA/NeF(配列番号34)及びccpARV(配列番号35)の塩基配列で示されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーセットを用いて、neo遺伝子の3’末端相同配列を5’末端側に有する、1.0kbの断片(F)をPCRにより作製した。さらに、プラスミドpUB110のDNA(Plasmid,vol.15,p.93,1986参照)を鋳型とし、表3に示したrneof(配列番号38)及びneor(配列番号39)の塩基配列で示されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーセットを用いて、neo遺伝子を含む1.3kbの断片(G)をPCRにより作製した。
【0066】
次に、得られた1.0kb断片(E)、1.0kb断片(F)及び1.3kbの断片(G)の3断片を混合して鋳型として、表3に示したccpAFW2(配列番号36)及びccpARV2(配列番号37)の塩基配列で示されるオリゴヌクレオチドからなるプライマーセットを用いたSOE-PCR法を行い、3断片を断片(E)、断片(G)、断片(F)の順になるように結合させ、3.3kbのDNA断片(H)を得た。
【0067】
さらに、コンピテントセル形質転換法によって、得られたDNA断片(H)を用いて、枯草菌son5株の形質転換を行った。形質転換後、ネオマイシン(20ppm)を含むLB寒天培地上に生育したコロニーを形質転換体として分離した。得られた形質転換体のゲノムDNAを抽出し、PCRによってccpA遺伝子がneo遺伝子に置換していることを確認した。このように構築した株をson5A株とする。
【0068】
試験例3
クロラムフェニコールを10ppm、並びに(i)セロビオース0.1%(w/v)、(ii)セロビオース0.1%(w/v)及びグルコース0.1%(w/v)、又は(iii)グルコース0.1%(w/v)を含有する5mLのLB培地に、30℃で一晩で振盪培養した枯草菌son5A株の培養液を菌体濃度がOD600=0.03になるように植菌し、37℃で、180rpmで振盪培養し、菌株の生育度(OD600)を測定した。また、比較として、セロビオース及びグルコースを含有しない以外は同様に培養を行い、枯草菌son5A株の生育度を測定した。その結果を図12に示す。
図12に示すように、ccpA遺伝子又はそれに相当する遺伝子を欠失又は不活性化した枯草菌son5A株は、グルコースの存在の有無に関わらず、クロラムフェニコールに対する耐性を獲得していた。これは、セロビオースがグルコマンナン資化オペロンのインデューサーとして機能することでグルコマンナン資化オペロンの発現を誘導し、グルコマンナン資化オペロンのgmuG遺伝子の下流に作動可能に連結させた薬剤耐性遺伝子が発現して、枯草菌son5A株が薬剤耐性を獲得したためである。したがって、本発明の組換え微生物のccpA遺伝子又はそれに相当する遺伝子を欠失又は不活性化することにより、グルコース等の代謝されやすい糖の存在下においても、セロビオースにより目的遺伝子の発現を確認することが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図7
図8
図10
図11
図12
図6
図9
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]