(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
データの入力部、出力部、記憶部及び制御・演算部を備えた装置が、物質中又は物質近傍に存在する原子又は分子のポテンシャルエネルギーに基づいて、前記物質中又は物質近傍に存在する前記原子又は分子の量子状態を推定する量子状態推定方法であって、
前記入力部にて前記物質中又は物質近傍の位置を特定するための3つの独立な基本ベクトルを受け付ける第1ステップと、
該第1ステップにて受け付けた基本ベクトルに応じて、前記制御・演算部が、前記物質中又は物質近傍の空間を仮想的に複数の領域に分割し、分割した各領域の情報を、各領域を識別する識別番号に対応付けて前記記憶部に各領域での原子又は分子のポテンシャルエネルギーを記憶させる第2のステップと、
前記制御・演算部が、前記記憶部に記憶された識別番号により識別される領域の情報に基づいて、各領域にマッピングされたポテンシャルエネルギーの3次元離散フーリエ変換を行い、離散フーリエ変換データの各基本逆格子ベクトル方向に並べたデータ列の後半分を前半分のデータ列の前に移動させた離散フーリエ変換シフトデータを前記記憶部に記憶させる第3ステップと、
前記第1ステップにて受け付けた基本ベクトルに応じて、前記制御・演算部が、前記物質中又は物質近傍の空間を仮想的に複数の領域に分割し、分割した各領域に対して3次元正規分布関数を割り当て、それを基底関数として設定する第4ステップと、
原子又は分子のハミルトニアン行列及び重なり積分行列を、前記制御・演算部が、前記基底関数を用いた各行列要素の解析的表式へ前記記憶部に記憶された前記フーリエ変換シフトデータを代入して計算し、その結果を前記記憶部に記憶させ、その後ポテンシャルエネルギー超曲面の空間対称性に応じて各行列要素の値を補正し記憶させ直す第5ステップと、
前記第4ステップで設定された前記基底関数の線形結合を試行関数とする数値変分法にて、前記記憶部に記憶させた前記ハミルトニアン行列と前記重なり積分行列の行列要素を用いて、固有エネルギーと対応する前記線形結合の係数の組みを前記制御・演算部が算出し前記記憶部に記憶させる第6ステップと、
前記制御・演算部が、前記第6ステップで算出した前記線形結合の各係数を前記試行関数へ代入することにより、前記原子又は分子の量子状態を表す波動関数を算出し、固有エネルギーと共に前記出力部から結果を提示する第7ステップと、
を実行することを特徴とする量子状態推定方法。
さらに、算出した波動関数と固有エネルギーを記憶させておき、記憶された波動関数と固有エネルギーに基づいて各種物理量を算出し、算出した物理量を可視化させるステップを備えることを特徴とする請求項1に記載の量子状態推定方法。
データの入力部、出力部、記憶部及び制御・演算部を備えたコンピュータに、物質中又は物質近傍の原子又は分子のポテンシャルエネルギーに基づいて、前記物質中又は物質近傍に存在する前記原子又は分子の量子状態を推定させるためのコンピュータプログラムであって、
前記入力部にて前記物質中又は物質近傍の位置を特定するための3つの独立な基本ベクトルを受け付ける第1ステップと、
該第1ステップにて受け付けた基本ベクトルに応じて、前記制御・演算部が、前記物質中又は物質近傍の空間を仮想的に複数の領域に分割し、分割した各領域の情報を、各領域を識別する識別番号に対応付けて前記記憶部に各領域での原子又は分子のポテンシャルエネルギーを記憶させる第2のステップと、
前記制御・演算部が、前記記憶部に記憶された識別番号により識別される領域の情報に基づいて、各領域にマッピングされたポテンシャルエネルギーの3次元離散フーリエ変換を行い、離散フーリエ変換データの各基本逆格子ベクトル方向に並べたデータ列の後半分を前半分の前に移動させた離散フーリエ変換シフトデータを前記記憶部に記憶させる第3ステップと、
前記第1ステップにて受け付けた基本ベクトルに応じて、前記制御・演算部が、前記物質中又は物質近傍の空間を仮想的に複数の領域に分割し、分割した各領域に対して3次元正規分布関数を割り当て、それを基底関数として設定する第4ステップと、
原子又は分子のハミルトニアン行列及び重なり積分行列を、前記制御・演算部が、前記基底関数を用いた各行列要素の解析的表式へ前記記憶部に記憶された前記フーリエ変換シフトデータを代入して計算し、その結果を前記記憶部に記憶させ、その後ポテンシャルエネルギー超曲面の空間対称性に応じて各行列要素の値を補正し記憶させ直す第5ステップと、
前記第4ステップで設定された前記基底関数の線形結合を試行関数とする数値変分法にて、前記記憶部に記憶したハミルトニアン行列と重なり積分行列の行列要素を用いて、固有エネルギーと対応する前記線形結合の係数の組みを前記制御・演算部が算出し前記記憶部に記録させる第6ステップと、
前記制御・演算部が、第6ステップで算出した前記線形結合の各係数を前記試行関数へ代入することにより、前記原子又は分子の量子状態を表す波動関数を算出し、固有エネルギーと共に前記出力部から結果を提示する第7ステップと、
を実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
さらに、算出した波動関数と固有エネルギーを記憶させておき、記憶された波動関数と固有エネルギーに基づいて各種物理量を算出し、算出した物理量を可視化させるステップを実行させることを特徴とする請求項5に記載のコンピュータプログラム。
【背景技術】
【0002】
近年、オゾン層破壊及び大気汚染等の地球環境問題に対処すべく、石油などの化石燃料に替わるエネルギー源として水素が注目されている。水素を利用した代表例が燃料電池であり、燃料電池は、酸化しやすい水素などの燃料と大気中に豊富に存在している酸素とを反応させ、燃料と酸素が持つ化学エネルギーを、熱に変換することなく、直接電気エネルギーに変換する。また、燃料として水素を用いた場合、反応生成物は水だけであることから、環境破壊に繋がる虞がなく、今後のエネルギーの主流になっていくものと考えられている。
【0003】
ところで、パラジウムPdは水素を多量に吸蔵することができるが、ニッケルNiは高圧でのみ水素化物を作り、白金Ptは水素を透過させるだけであまり吸蔵することはできない。このように、ニッケルNi、パラジウムPd及び白金Ptは第10族元素であるが、水素の貯蔵特性が異なることから、それぞれの水素貯蔵金属によって形成される固有のポテンシャルエネルギーに応じて水素の振る舞いを考慮する必要がある。物質中に存在する水素等の原子又は分子の量子状態を推定する場合、まず原子又は分子のポテンシャルエネルギー超曲面を求める。その際、物質中の可能な位置の一つに原子又は分子を一つ配置し、(物質+原子又は分子)系の総エネルギー(該当の原子又は分子の運動エネルギーを除く)を、好適には密度汎関数理論に基づく第一原理計算(例えば非特許文献1、非特許文献2参照。)により求める。様々な可能な位置で計算をおこない、前記総エネルギーを原子又は分子の配置位置の関数として得て、それを物質中における原子又は分子の受けるポテンシャルエネルギー超曲面とする。古典力学的には、導出されたポテンシャルエネルギー超曲面のエネルギー最小点に対応する原子又は分子の配置位置がその原子又は分子の安定存在位置であり、そのエネルギー最小点で特定方向の2階偏微分を原子の質量で除算したあと平方根を取り、ディラック定数を乗算したものが、その特定方向での原子又は分子の振動エネルギーを与える。
【0004】
しかしながら、原子又は分子の質量が小さい場合は、量子効果が顕著になり、必ずしもポテンシャルエネルギー超曲面の最小点が存在位置にはならない。また、金属表面の場合、一般にポテンシャルエネルギー超曲面の非調和性が顕著であり、前述の振動エネルギー算出法は使えない。さらに、有限の零点エネルギーの効果が存在し、エネルギー最小点に静止することもない。
【0005】
これは、量子の世界では、物質が粒子及び波の二面性を有し、特に微視的スケールでは波動性が顕著になるためである。したがって、物質中の原子又は分子の量子状態を正確に把握するには、シュレーディンガー方程式(式(1))を解いて波動関数Ψを算出する必要がある。
【0006】
式(1)において、mは該原子又は分子の質量、hはプランク定数(なお、h/2πはディラック定数)、Vはポテンシャルエネルギー(原子又は分子の位置座標x、y、zの関数となる)、E
ω は固有エネルギー(固有値)であって、各固有エネルギーE
ω に対して固有の波動関数ψ
ω (固有関数)が対応する。
【0007】
【数1】
【0008】
物質が形成するポテンシャルエネルギーV(x,y,z)によって、物質内部又は近傍の空間に存在する原子又は分子の量子状態が決定されることから、例えば、原子又は分子と前記物質の相互作用が大きく、深いポテンシャル井戸が形成される場合には、原子又は分子は物質のポテンシャル井戸の底の部分に安定した状態で吸着されるので、前記物質から容易に脱することがなくなる。したがって、ポテンシャル井戸に閉じ込められた原子又は分子の量子状態を高精度で推定する技術の実現は水素貯蔵技術、二次電池の電極技術や、環境高負荷な原子又は分子の閉じ込め隔離技術等の高揚のためにも不可欠であると考えられる。
【0009】
ところが、ポテンシャルVによっては、固有エネルギーE
ω及び波動関数ψ
ωを解析的に解くことが困難であり、そのため、水素のように質量が小さく量子効果が顕著に現れる原子又は分子の量子状態を推定することは極めて困難であった。また、固体中の水素などの原子又は分子の量子状態を実験にて計測するには、中性子回折法が有望であるが、中性子源の原子炉と特殊な装置が必要で、簡便でさらに精度良く固体中に存在する原子又は分子の量子状態を推定する技術が要望されていた。
【0010】
そこで、本発明者等は、固体表面に吸着した原子又は分子の量子状態推定法として、被吸着物質の表面上におけるポテンシャルエネルギー超曲面の表面垂直方向の形状をモース型のポテンシャルエネルギー曲線に当てはめ、曲線を表現する2種類のパラメータを表面平行方向で変化させることにより被吸着物質の表面上全体におけるポテンシャルエネルギー超曲面を表現する簡便化ポテンシャルエネルギー超曲面を作り、また原子の被吸着物質の表面を仮想的に複数の領域に分割し、次いで、分割された各領域に対して正規分布関数を割り当て、各領域に割り当てた正規分布関数の線形結合を試行関数に設定し、数値変分法によって、前記簡便化ポテンシャルエネルギー超曲面に基づくシュレーディンガー方程式を解いて波動関数を算出し、そして、算出した波動関数に基づいて、被吸着物質の表面上に吸着する原子又は分子の量子状態を推定することにより、ポテンシャルが複雑な場合であっても波動関数を精度良く算出することができ、固体表面での吸着原子又は吸着分子の量子状態の推定精度を向上させることができる量子状態推定方法、量子状態推定装置及びその機能をコンピュータで実現するコンピュータプログラムを提案した(特許文献1)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前記特許文献1で提案した技術により、固体表面上の水素などの原子又は分子の量子状態を容易に実験にて計測することができ、精度良く物質の表面上に吸着する原子又は分子の量子状態を推定することが可能となった。しかしながら、モース型のポテンシャルエネルギー曲線には合わない形状をもつ一般のポテンシャルエネルギー超曲面の場合、たとえば、固体結晶中に存在する場合や、界面に存在する場合等であるが、これらの場合の原子又は分子の量子状態を推定することができる技術がさらに要望されていた。
【0014】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたもので、任意の物質中又は物質近傍に存在する原子又は分子の量子状態を、さらに複雑なポテンシャルエネルギー超曲面の場合であっても精度よく推定することができる量子状態推定技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、第1発明に係る量子状態推定方法は、データの入力部、出力部、記憶部及び制御・演算部を備えた装置が、物質中又は物質近傍に存在する原子又は分子のポテンシャルエネルギーに基づいて、前記物質中又は物質近傍に存在する前記原子又は分子の量子状態を推定する量子状態推定方法であって、前記入力部にて前記物質中又は物質近傍の位置を特定するための3つの独立な基本ベクトルを受け付ける第1ステップと、該第1ステップにて受け付けた基本ベクトルに応じて、前記制御・演算部が、前記物質中又は物質近傍の空間を仮想的に複数の領域に分割し、分割した各領域の情報を、各領域を識別する識別番号に対応付けて前記記憶部に各領域での原子又は分子のポテンシャルエネルギーを記憶させる第2のステップと、前記
制御・演算部が、前記記憶部に記憶された識別番号により識別される領域の情報に基づいて、各領域にマッピングされたポテンシャルエネルギーの3次元離散フーリエ変換を行い、離散フーリエ変換データの各基本逆格子ベクトル方向に並べたデータ列の後半分を前半分のデータ列の前に移動させた離散フーリエ変換シフトデータを前記記憶部に記憶させる第3ステップと、前記第1ステップにて受け付けた基本ベクトルに応じて、前記制御・演算部が、前記物質中又は物質近傍の空間を仮想的に複数の領域に分割し、分割した各領域に対して3次元正規分布関数を割り当て、それを基底関数として設定する第4ステップと、原子又は分子のハミルトニアン行列及び重なり積分行列を、前記制御・演算部が、前記基底関数を用いた各行列要素の解析的表式へ前記記憶部に記憶された前記フーリエ変換シフトデータを代入して計算し、その結果を前記記憶部に記憶させ、その後ポテンシャルエネルギー超曲面の空間対称性に応じて各行列要素の値を補正し記憶させ直す第5ステップと、前記第4ステップで設定された前記基底関数の線形結合を試行関数とする数値変分法にて、前記記憶部に記憶させた前記ハミルトニアン行列と前記重なり積分行列の行列要素を用いて、固有エネルギーと対応する前記線形結合の係数の組みを前記制御・演算部が算出し前記記憶部に記憶させる第6ステップと、前記制御・演算部が、前記第6ステップで算出した前記線形結合の各係数を前記試行関数へ代入することにより、前記原子又は分子の量子状態を表す波動関数を算出し、固有エネルギーと共に前記出力部から結果を提示する第7ステップと、を実行することを特徴とする。
【0016】
第2発明に係る量子状態推定方法は、第1発明において、さらに、算出した波動関数と固有エネルギーを記憶させておき、記憶された波動関数と固有エネルギーに基づいて各種物理量を算出し、算出した物理量を可視化させるステップを備えることを特徴とする。
【0017】
第3発明に係る量子状態推定装置は、
データの入力部、出力部、記憶部及び制御・演算部を備え、物質中又は物質近傍に存在する原子又は分子のポテンシャルエネルギーに基づいて、前記物質中又は物質近傍に存在する前記原子又は分子の量子状態を推定する量子状態推定装置であって、
前記入力部が、前記物質中又は物質近傍の位置を特定するための3つの独立な基本
ベクトルを受け付ける受付手段
を有し、前記制御・演算部が、前記受付手段にて受け付けた基本ベクトルに応じて、前記物質中又は物質近傍の空間を仮想的に複数の領域に分割し、分割した各領域の情報を、各領域を識別する識別番号に対応付けて
前記記憶部に各領域での原子又は分子のポテンシャルエネルギーを
記憶させる空間分割処理手段と、
前記記憶部に記憶された識別番号により識別される領域の情報に基づいて、各領域にマッピングされたポテンシャルエネルギーの3次元離散フーリエ変換を行い、離散フーリエ変換データの各基本逆格子ベクトル方向に並べたデータ列の後半分を前半分のデータ列の前に移動させた離散フーリエ変換シフトデータを前記
記憶部に記憶させるフーリエ変換シフトデータ処理手段と、前記受付手段にて受け付けた基本ベクトルに応じて、前記物質中又は物質近傍の空間を仮想的に複数の領域に分割し、分割した各領域に対して3次元正規分布関数を割り当て、それを基底関数として設定する設定手段と、原子又は分子のハミルトニアン行列および重なり積分行列を、前記基底関数を用いた各行列要素の解析的表式へ前記
記憶部に記憶された前記フーリエ変換シフトデータを代入して計算し、その結果を前記
記憶部に記憶させ、その後ポテンシャルエネルギー
超曲面の空間対称性に応じて各行列要素の値を補正し記憶させ直す算出手段と、前記設定手段で設定された前記基底関数の線形結合を試行関数とする数値変分法にて、前記
記憶部に記憶されたハミルトニアン行列と重なり積分行列の行列要素を用いて、固有エネルギーと対応する前記線形結合の係数の組み
を算出し前記
記憶部に記憶させる数値対角化計算手段と、該数値対角化計算手段で算出した前記線形結合の各係数を前記試行関数へ代入することにより、前記原子又は分子の量子状態を表す波動関数を算出し、固有エネルギーと共に結果を
前記出力部から提示させる
波動関数算出手段と、を備えることを特徴とする。
【0018】
第4発明に係る量子状態推定装置は、第3発明において、
前記制御・演算部が、さらに、算出した波動関数と固有エネルギーを前記記憶手段に記憶させ、記憶された波動関数と固有エネルギーに基づいて各種物理量を算出する物理量算出手段と、該物理量算出手段が算出した物理量を可視化させる可視化手段を備えることを特徴とする。
【0019】
第5発明に係るコンピュータプログラムは、データの入力部、出力部、記憶部及び制御・演算部を備えたコンピュータに、物質中又は物質近傍の原子又は分子のポテンシャルエネルギーに基づいて、前記物質中又は物質近傍に存在する前記原子又は分子の量子状態を推定させるためのコンピュータプログラムであって、前記入力部にて前記物質中又は物質近傍の位置を特定するための3つの独立な基本
ベクトルを受け付ける第1ステップと、該第1ステップにて受け付けた基本ベクトルに応じて、前記制御・演算部が、前記物質中又は物質近傍の空間を仮想的に複数の領域に分割し、分割した各領域の情報を、各領域を識別する識別番号に対応付けて前記記憶部に各領域での原子又は分子のポテンシャルエネルギーを記憶させる第2のステップと、前記制御・演算部が、前記記憶部に記憶された識別番号により識別される領域の情報に基づいて、各領域にマッピングされたポテンシャルエネルギーの3次元離散フーリエ変換を行い、離散フーリエ変換データの各基本逆格子ベクトル方向に並べたデータ列の後半分を前半分の前に移動させた離散フーリエ変換シフトデータを前記記憶部に記憶させる第3ステップと、前記第1ステップにて受け付けた基本ベクトルに応じて、前記制御・演算部が、前記物質中又は物質近傍の空間を仮想的に複数の領域に分割し、分割した各領域に対して3次元正規分布関数を割り当て、それを基底関数として設定する第4ステップと、原子又は分子のハミルトニアン行列及び重なり積分行列を、前記制御・演算部が、前記基底関数を用いた各行列要素の解析的表式へ前記記憶部に記憶された前記フーリエ変換シフトデータを代入して計算し、その結果を前記記憶部に記憶させ、その後ポテンシャルエネルギー超曲面の空間対称性に応じて各行列要素の値を補正し記憶させ直す第5ステップと、前記第4ステップで設定された前記基底関数の線形結合を試行関数とする数値変分法にて、前記記憶部に記憶したハミルトニアン行列と重なり積分行列の行列要素を用いて、固有エネルギーと対応する前記線形結合の係数の組みを前記制御・演算部が算出し前記記憶部に記録させる第6ステップと、前記制御・演算部が、第6ステップで算出した前記線形結合の各係数を前記試行関数へ代入することにより、前記原子又は分子の量子状態を表す波動
関数を算出し、固有エネルギーと共に前記出力部から結果を提示する第7ステップと、を実行させることを特徴とする。
【0020】
第6発明に係るコンピュータプログラムは、第5発明において、さらに、算出した波動関数と固有エネルギーを記憶させておき、記憶された波動関数と固有エネルギーに基づいて各種物理量を算出し、算出した物理量を可視化させるステップを実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、物質中又は物質近傍に存在する原子又は分子の量子状態を推定するにあたり、物質中又は物質近傍の空間を仮想的に複数の3次元領域に分割し、分割した各領域の情報を、各領域を識別する識別番号に対応付け、各領域における原子又は分子のポテンシャルエネルギーを、好適には密度汎関数理論に基づく第一原理計算で算出し、各領域にマッピングされたポテンシャルエネルギーを3次元離散フーリエ変換を行い、離散フーリエ変換データの各基本逆格子ベクトル方向に並べたデータ列の後半分を前半分のデータ列の前に移動させた離散フーリエ変換シフトデータを得る、また別に物質中又は物質近傍の空間を仮想的に複数の3次元領域に分割し、各領域を識別する識別番号に対応付け、各領域に対して3次元正規分布関数を割り当て基底関数とし、原子又は分子のハミルトニアン行列および重なり積分行列を、前記基底関数を用いた各行列要素の解析的表式へ前記フーリエ変換シフトデータを代入して計算し、その後ポテンシャルエネルギー超曲面の空間対称性に応じて各行列要素の値を補正して、前記基底関数の線形結合を試行関数とする数値変分法にて、前記ハミルトニアン行列と重なり積分行列の行列要素を用いて、固有エネルギーおよび対応する前記線形結合の係数の組みを求め、前記線形結合の各係数を前記試行関数へ代入することにより、前記原子又は分子の量子状態を表す波動関数を算出するようにしたので、ハミルトニアン行列の行列要素を計算するためにモース型ポテンシャル曲線を使うこともなく、また計算量の多い数値積分を実行することもなく、あらゆる物質中又は物質近傍に存在する原子又は分子の量子状態を複雑なポテンシャルエネルギー超曲面の場合であっても高速に精度よく推定することが可能となる。
【0022】
さらに、この波動関数及び固有エネルギーを用いて各量子状態の確率分布や、運動量分布などの各種物理量を算出することができる。
【0023】
このため、特に、水素貯蔵、燃料電池電極触媒、プロトン伝導体、半導体製造技術や、プロトン伝導、イオン伝導の関与するバイオテクノロジー、人工光合成など、水素が主要な働きをする材料開発に指針を与え得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施形態に基づき詳細に説明する。
【0026】
図1は本発明の一実施形態に係る量子状態推定装置の構成を示すブロック図である。
【0027】
本発明に係る量子状態推定装置は、CPUで構成された制御・演算部10を備えている。制御・演算部10は、ROM11、RAM12、入力部13、表示部14、情報データベース15などと接続され、ROM11に予め格納されているコンピュータプログラム50に従って、各部と協働して本発明に係る各種の手段として機能する。なお、コンピュータプログラム50はROM11に記憶されずとも後述のRAM12に外部(HDDやネット接続された他のコンピュータの記憶装置)から転送されて記憶された物でも良い。RAM12は、制御・演算部10によるコンピュータプログラムの実行時に発生する一時的なデータを記憶するもので、例えばDRAMのような半導体メモリにより構成される。
【0028】
ROM11に格納されているコンピュータプログラム50は、物質中又は物質近傍での位置を特定するための3つの独立な基本ベクトル及びその物質中もしくはその近傍の空間を分割する分割数の入力を受け付けさせる入力処理51と、基本ベクトルと分割数に基づいて、空間を仮想的に複数の領域(セル)に分割させる第1の空間分割処理52−1と、また別に基底関数割り当て用に基本ベクトルと分割数に基づいて、空間を仮想的に複数の領域(セル)に分割させる第2の空間分割処理52−2と、分割させた各セルに対して各セルに原子又は分子が存在する時のポテンシャルエネルギーを対応(マッピング)させ3次元の離散フーリエ変換を行わせる離散フーリエ変換処理53と、離散フーリエ変換データを各基本逆格子ベクトル方向に並べた後半分のデータ列を前半分のデータ列の前に移動させるフーリエ変換シフト処理54と、分割させた各セルに対して3次元正規分布関数を割り当て、基底関数を設定する基底関数設定処理55と、原子又は分子のハミルトニアン行列及び重なり積分行列を基底関数とフーリエ変換シフトデータから計算するハミルトニアン行列、重なり積分行列の設定を行うハミルトニアン行列・重なり積分行列設定処理56と、ポテンシャルエネルギー超曲面の空間対称性に応じてハミルトニアン行列の行列要素の値を補正するハミルトニアン対称性補正処理57と、ハミルトニアン行列と重なり積分から構成する永年方程式を数値解法する永年方程式解法処理58と、永年方程式解法処理で算出した各固有エネルギーに対応した波動関数を計算する波動関数算出処理59とを行なうためのプログラムを含んでいる。ここで、物質の近傍とは、物質表面から20Å離れた位置までの物質周りの空間、及び結晶粒界内の空間を意味する。
【0029】
また、コンピュータプログラム50は、算出した波動関数及び固有エネルギーに基づいて、様々な用途に供するために関連する物理量を算出させる物理量算出処理60と、算出した物理量を可視化させる可視化処理61とをさらに行なうためのプログラムを含んでいる。
【0030】
物理量とは、例えば、原子又は分子の運動量の期待値、運動量分布や状態遷移に伴って放射又は吸収されるエネルギー量などで、実際に実験で観測や測定が可能な量である。
【0031】
入力部13は、原子又は分子の量子状態を推定するために必要な各種データを入力するためのものであって、原子又は分子の質量、3つの基本ベクトル、ポテンシャルエネルギー配置の為の空間分割の分割数、基底関数設定の為の空間分割数、基底関数の減衰因子パラメータ、各分割された空間(セル)に原子又は分子が存在する時のポテンシャルエネルギー値、ポテンシャルエネルギー超曲面の空間対称性のデータを取得する機能を有する(入力処理51)。本発明におけるセルとは、物質を仮想的に分割した複数の3次元区画のことである。
【0032】
入力部13において、3つの基本ベクトル、ポテンシャルエネルギー配置の為の空間分割の分割数を受け付けた場合、制御・演算部10は、受け付けた基本ベクトルと分割数に応じて、物質中又は近傍の空間を3次元セルに仮想的に分割する(空間分割処理52−1)。例えば、
図2に示すように3つの基本ベクトルそれぞれのx成分、y成分、z成分を受け取る。第1の基本ベクトル方向の分割数N
1を8、第2の基本ベクトル方向の分割数N
2を8、第3の基本ベクトル方向の分割数N
3を5とした場合の空間の分割の様子を
図3に示す。物質中又は物質近傍の空間を複数のセルR(8×8×5=320(N))に仮想的に3次元分割される。
【0033】
分割された各セルには、セルを識別する識別番号(ID c)が割り当てられた後、
図4に示すように、ID c、第1の基本ベクトル方向のセル番号c
1、第2の基本ベクトル方向のセル番号c
2、及び第3の基本ベクトル方向のセル番号c
3をRAM12に記憶する。なお、分割数によって、後述する計算時間および計算結果の精度が決定されることから、原子又は分子の種類、ポテンシャルエネルギー超曲面の形状などに応じてセル数を適宜設定する必要がある。
【0034】
次いで、基底関数設定のための空間分割数を入力部13において受け取り、分割数と受け付けた基本ベクトルに応じて、基底関数設定の為に再び物質中又は物質近傍の空間を複数の3次元セルに仮想的に分割し(空間分割処理52−2)、各セルの識別番号(ID q)を割り当てる。例えば、
図2に示すように第1の基本ベクトル方向の分割数N
G1を12、第2の基本ベクトル方向の分割数N
G2を12、第3の基本ベクトル方向の分割数N
G3を7とした場合の識別番号(ID q)と第1の基本ベクトル方向のセル番号q
1、第2の基本ベクトル方向のセル番号q
2、及び第3の基本ベクトル方向のセル番号q
3の関係を
図5に示す。
【0035】
制御・演算部10は、空間分割処理52によって分割された各セルに対し、各セルの中心位置に3次元正規分布関数(式(2))の中心を配置して割り当て、基底関数とする(基底関数設定処理55)。
【0037】
式(2)において、β
x、β
y、β
zは正規分布のx方向、y方向、z方向への減衰率を示すパラメータ(減衰因子)であり、(X
q,Y
q,Z
q)は第qセルの中心位置の座標である。
【0038】
各セルに割り当てた正規分布関数を基底関数とすることは、変分法における試行関数を基底関数とした正規分布関数の線形結合(式(3))としたことになる。
【0040】
式(3)において係数A
ω,qは各セルにおける波動関数Ψへの寄与率であり、ωは量子数(量子状態を識別する識別番号)である。
【0041】
理解を容易にするため1次元の場合で説明すると、
図6に示すように、各セルの中心位置X
1,X
2,…が中心となる正規分布関数G
1,G
2,…を基底関数とし、その線形結合を試行関数とすることになる。
【0042】
3次元の場合は、各セルの中心は、
図7左側に示されるドットの配列のように配置される。それぞれのドットを中心として、3次元正規分布関数が配置される。隣接するセルq、q’に配置された正規分布関数G
q,G
q’は、
図7右側の模式図(3次元中の2次元断面で表示)のように重なりあっている。
【0043】
シュレーディンガー方程式(1)は、式(3)を試行関数とする変分法によって、式(4)となる。
【0045】
ここでハミルトニアン行列Hは、式(5)で示されるとおり運動エネルギー行列Kとポテンシャルエネルギー行列Uの和である。
【0047】
運動エネルギー行列Kとポテンシャルエネルギー行列Uは、式(6)と式(7)の積分で定義される。
【0050】
また、式(4)中の重なり積分Sは、式(8)の積分で定義される。
【0052】
運動エネルギー行列Kと重なり積分Sは、数値積分を行うことなく、積分の解析的表式(9)と式(10)を使うことにより容易に算出できる。
【0055】
ポテンシャルエネルギー行列Uを計算するのに必要な、ポテンシャルエネルギーV(x,y,z)は、原子又は分子と物質間の相互作用エネルギーであって、一般に様々な様相を呈し容易にポテンシャルエネルギー行列Uを計算することが困難であった。固体表面の場合には、モース型のポテンシャル曲線にフィッテイングすることにより計算量を減らすことができたが、その他の一般の場合には、その方法は、使えない。そこで本発明では、以下の方法によりその困難を克服した。
【0056】
識別番号ID c(c
1,c
2,c
3)のセル中に、原子又は分子が存在する場合のポテンシャルエネルギー値を好適には密度汎関数理論を基にした第一原理計算で求め、式(11)のUc
1,c
2,c
3として、入力部13から受け取る。
【0058】
式(12)で定義される3次元離散フーリエ変換を行い、離散フーリエ変換データU~
shiftを得る(離散フーリエ変換処理53)。この離散フーリエ変換データU~
shiftを得る演算処理は公知の高速フーリエ変換(FFT)アルゴリズムを用いることにより迅速に行うことができる。
【0060】
次に、式(13)で定義されるデータシフト操作を行い離散フーリエ変換シフトデータU~
shiftを得る(離散フーリエ変換データシフト処理54)。
【0062】
この操作は、離散フーリエ変換データを各基本逆格子ベクトル方向に並べたデータ列の後半分を前半分の前に移動させる操作である。
【0063】
理解を容易にするため1次元の場合で説明すると、
図8に示すように、U
0、U
1、・・・、U
N-1と並ぶデータ列を離散フーリエ変換してU~
shift0、U~
shift1、・・・、U~
shiftN-1データ列を得る。このデータ列の後ろ半分を、前半分のデータ列の前に移動し、U~
shiftデータ列を得る。なお図ではデータ数Nが奇数の場合を描いた。より簡単には、このデータシフト操作は、
図9に示したデータ列の移動である。この操作は、三次元の場合では、
図10に示すように、8個のブロックに分割した後、ブロックごとのデータ入れ替えとなる。
【0064】
なお、式(13)を用いると、各基本(逆格子)ベクトル方向のデータ数、N
1、N
2、N
3が奇数の場合も、偶数の場合でも対応できる。
【0065】
得られた離散フーリエ変換シフトデータU~
shiftを式(14)に代入することによりポテンシャルエネルギー行列Uを容易に計算することができる。
【0067】
以上に示した通り、式(9)と式(14)の解析的表式を用い運動エネルギー行列Kとポテンシャルエネルギー行列Uを求めて式(5)へ代入しハミルトニアン行列Hを求め、また式(10)の解析的表式を用いて重なり積分行列Sを求める(ハミルトニアン行列・重なり積分行列設定処理56)。
【0068】
この場合V(x,y,z)には、何ら特別な条件を課していないため、Vがいかなるポテンシャルエネルギー超曲面の場合でも、容易に計算できる。本発明では、さらに精度をあげるため、ポテンシャルエネルギー超曲面のもつ空間対称性により、ポテンシャルエネルギー行列を補正して、以下の計算に供する。
【0069】
具体的には、ポテンシャルエネルギー超曲面のもつ空間対称性の空間対称操作により互いに重なりあう点を中心にもつセルの識別番号qの対を算出し、それに対応して行列要素の値が同じになるべき行列要素を選び出し、それらの行列要素の値の平均値を、それぞれの行列要素の値として設定し直す操作をハミルトニアン対称性補正処理57で行う。
【0070】
これによりハミルトニアン行列Hを構成する運動エネルギー行列Kとポテンシャルエネルギー行列U、および重なり積分行列Sが求まり、式(15)の永年方程式を解くことにより、固有エネルギーEを求めることができる(永年方程式解法処理58)。
【0072】
なお、永年方程式の解Eは、1つだけではなく複数の解(固有エネルギーE
ω)が存在し、各固有エネルギーE
ω と各固有エネルギーE
ω に対する固有の波動関数ψ
ωの係数A
ω,q(式3)とが対として算出される。この算出されたE
ωとA
ω,qの対は、式(4)を満たす。
【0073】
永年方程式は、公知のヤコビ法、ハウスホルダー法などの数値対角化法で容易に解くことができる。小さい固有エネルギーから昇順にならべ対応する識別番号ωを0,1,2・・・と非負整数を割り当て、
図11で示されるフォーマットでE
ωとA
ω,qを情報データベース15に記録し保存する。
【0074】
固有エネルギーE
0 、波動関数ψ
0が、基底状態の固有エネルギーと波動関数を表し、順次、E
1 、E
2 、E
3 、…、E
ω 、・・・(E
0 ≦E
1≦E
2 ≦E
3 …)が第1励起状態、第2励起状態、第3励起状態、…、第ω励起状態の固有エネルギーで、ψ
1、ψ
2 、ψ
3 、…、ψ
ω、…は対応する各励起状態における波動関数である(波動関数算出処理59)。
【0075】
図12は、本実施形態の量子状態推定装置を用いて求めた、原子又は分子が軽水素原子、重水素原子、三重水素原子で、物質がパラジウムとして、その物質の近傍空間としてパラジウムの(111)表面を選んだ場合の固有エネルギーを示す。
【0076】
図13は、そのうち軽水素の場合の波動関数の空間分布を示す。
【0077】
算出された波動関数の自乗は原子又は分子の存在確率を表すことから、それ自体公知の画像化ツールによって、画像化された後に表示部14に表示することにより、使用者は、表示部14に表示された画像から物質中又は物質近傍に存在する原子又は分子の位置に対する存在確率を正確に把握することができる。
【0078】
以上のようにして、複雑な形状のポテンシャルエネルギー超曲面の場合であっても、式(13)で示される離散フーリエ変換シフトデータを式(14)へ代入する計算処理により、物質中又は物質近傍に存在する原子又は分子の量子状態を示す固有エネルギー及び波動関数を容易に算出することができる。
【0079】
算出した各固有エネルギー及びその固有エネルギーに対応する波動関数に基づいて、運動量分布などの物理量を正確に算出することができ、さらに物理量を可視化して表示することによって正確かつ端的に把握させることができる(物理量算出処理60、可視化処理61)。
【0080】
図14及び
図15は本発明に係る量子状態推定装置の処理手順を示すフローチャートである。
【0081】
まず、量子状態推定装置は、使用者により原子又は分子の質量mの入力を受け付ける(ステップS1)。次いで、物質又は物質近傍の空間領域を指定する基本ベクトルa
1,a
2,a
3の入力を受け付ける(ステップS2)。各基本ベクトル方向の基底関数用の空間分割数N
G1,N
G2,N
G3の入力を受け付ける(ステップS3)。基本ベクトルと分割数をもとに、基底関数用空間セルの設定とID割り当てを行なう(ステップS4)。その後、基底関数として用いる3次元正規分布関数のx、y、z方向の減衰因子β
x,β
y,β
zの入力を受け付ける(ステップS5)。なお、減衰因子β
x,β
y,β
zは、隣り合うグリッド間の正規分布関数が重なり合うように設定する。
【0082】
次に、各基本ベクトル方向のポテンシャルエネルギー超曲面用の空間分割数N
1,N
2,N
3の入力を受け付ける(ステップS6)。なお、基底関数用の分割数とポテンシャルエネルギー超曲面用の分割数は、同数にする必要はない。基本ベクトルと分割数をもとに、ポテンシャルエネルギー超曲面用の空間セルの設定とID割り当てを行う(ステップS7)。その後、各空間セルに原子又は分子が存在する場合のポテンシャルエネルギーの値の入力を受け付ける(ステップS8)。入力数Nは、N=N
1×N
2×N
3個である。
【0083】
なお、各空間セルに原子又は分子が存在する場合のポテンシャルエネルギーの値は、好適には密度汎関数理論に基づく第一原理計算により物質中又は近傍の対応する空間セルに原子又は分子が存在する場合のトータルエネルギーを求めることにより算出する。
【0084】
次にポテンシャルエネルギー超曲面の空間対称性の入力を受け付ける(ステップS9)。以上の入力をもとにハミルトニアン行列を算出する工程(A)へ進む。
【0085】
次に、式(10)を用いて重なり積分行列Sを算出する(ステップS10)。
【0086】
その後、式(9)を用いて運動エネルギー行列Kを算出する(ステップS11)。
【0087】
ステップS8で入力されたポテンシャルエネルギーデータの3次元離散フーリエ変換を行う(ステップS12)。3次元離散フーリエ変換されたデータ列のシフト操作を行い、3次元離散フーリエ変換シフトデータを得る(ステップS13)。シフト操作は、各基本逆格子ベクトル方向に並ぶデータ列の後ろ半分を前半分の前へ移動させる式(13)で定義された操作である。得られた3次元離散フーリエ変換シフトデータを、式(14)へ代入してポテンシャルエネルギー行列Uを算出する(ステップS14)。
【0088】
運動エネルギー行列Kとポテンシャルエネルギー行列Uを足してハミルトニアン行列Hを計算する(ステップS15)。
【0089】
ステップS9で入力された空間対称性にもとづきハミルトニアン行列の行列要素を補正する(ステップS16)。ステップS9で入力された空間対称性の空間対称操作OPにより互いに重なりあう点を中心にもつセルの識別番号ID qの集合Q
OPを算出し、それに対応して行列要素の値が同じになるべきハミルトニアンの行列要素H
q,q’(q∈Qo)を選び出し、それら行列要素の値の平均値を求め、それら行列要素の値として設定し直す。この再設定をすべての対称操作OPについて行う。ステップS16で補正されたハミルトニアン行列HとステップS10で得られた重なり積分行列Sから永年方程式の式(15)を設定する(ステップS17)。永年方程式を数値対角化法で解き固有エネルギーを求める(ステップS18)。小さい固有エネルギーから昇順にならべ識別番号ωを0,1,2・・・と非負整数を割り当て、それぞれの固有エネルギーをE
ω(ω=0,1,2・・・)とする。E
ωを連立方程式の式(4)へ代入し係数A
ω,q(q=0,1,2・・・,N
G=N
G1×N
G2×N
G3)を算出して固有ベクトル(波動関数)をすべてのωに対し求める(ステップS19)。ステップS18の永年方程式は、公知のヤコビ法、ハウスホルダー法などの数値対角化法で容易に解くことができる。ステップS18とステップS19は、別々に実行しても同時に実行しても構わない。算出された固有エネルギーと対応する波動関数の情報を
図11で示されるフォーマットでE
ωとA
ω,qを情報データベース15に記録し保存する(ステップS20)。
【0090】
情報データベース15に格納された固有エネルギーE
ω 及び波動関数ψ
ω を読み出し、所望の物理量を算出する(ステップS21)。算出された物理量は画像化された後に表示部14に表示する(可視化処理ステップS22)。
【0091】
例えば、物質中又は物質近傍に存在する原子又は分子の基底状態を把握したい場合は、ω=0の固有エネルギーE
0 及び波動関数ψ
0を選択して読み出し、読み出した固有エネルギーE
0及び波動関数ψ
0から、基底状態における物理量を算出すればよい。基底状態の原子又は分子の存在位置分布ならば、ψ
0(x,y,z)の絶対値の自乗となる。一般に状態ωにおける物理量Oを観測した場合に得られる期待値は、式(16)で計算することができる。O^
shiftは、量子力学において物理量Oに対応するエルミート演算子である。
【0093】
また、励起状態ω=ωEXから基底状態ω=0へ遷移(脱励起)する際に放射されるエネルギーを算出する場合には、基底状態の固有エネルギーE
0及び励起状態の固有エネルギーE
ωEX (ωEX≠0)を選択して読み出し、読み出した固有エネルギーE
ωEX から固有エネルギーE
0を差し引くこと(E
ωEX−E
0 )で、放射エネルギーを容易に得ることができる。基底状態ω=0から励起状態ω=ωEXへ励起するのに必要なエネルギーも(E
ωEX−E
0)で与えられる。
【0094】
一般に、物質中および物質近傍の水素原子などの量子状態を実験において特定することは極めて困難であるが、本発明を適用することによってポテンシャルエネルギー超曲面が複雑な場合であっても量子状態を精度良く算出することができる。
【0095】
したがって、算出した情報に基づいて、存在位置、振動モード、拡散や脱離に必要なエネルギーなどを推定することができ、水素関連の触媒開発、表面処理などの研究開発において極めて有効である。
【0096】
なお、上記実施形態では、制御・演算部10がROM11に予め格納されているコンピュータプログラム50を読み取ることによって、量子状態推定装置としての各種の機能を果たす形態について説明したが、制御・演算部10、ROM11及びRAM12などをプログラマブルロジックデバイスで実現し、ハードウェア的に各種の機能を実行するようにしてもよい。
【0097】
例えば、
図16に示すように、入力部13に原子又は分子の質量入力部13a、基本ベクトル入力部13b、ポテンシャルエネルギー用空間分割数入力部13c、各セルのポテンシャルエネルギー値入力部13d、ポテンシャルエネルギー超曲面の空間対称性入力部13e、基底関数用空間分割数入力部13f、基底関数用3次元正規分布関数の減衰因子入力部13gを設け、これらの各入力部にて受け付けた原子又は分子の質量、基本ベクトル、ポテンシャルエネルギー用の空間分割数、各セルのポテンシャルエネルギー値、空間対称性、基底関数用の空間分割数、基底関数とする3次元正規分布関数の減衰因子に応じて、物質中又は物質近傍の空間をセルに仮想的に分割する空間分割処理(ポテンシャルエネルギー情報処理用と基底関数情報処理用の2種類)71、ポテンシャルエネルギー用に分割されたセルに、ポテンシャルエネルギーデータを割り当て離散フーリエ変換を行う離散フーリエ変換処理72、各基本逆格子ベクトル方向に並べた離散フーリエ変換データ列の後ろ半分を、前半分のデータ列の前に移動させる離散フーリエ変換データシフト処理73、基底関数用に空間を分割されたセルの中心に3次元正規分布関数を配置しそれを基底関数としたハミルトニアン行列と重なり積分行列の各要素を算出するハミルトニアン行列・重なり積分行列設定処理74、ポテンシャルエネルギー超曲面の空間対称性を満たすようにハミルトニアン行列の行列要素を補正するハミルトニアン行列の対称性補正処理75、補正されたハミルトニアン行列と重なり積分行列を用いた永年方程式を数値解法し固有エネルギーを算出する永年方程式解法処理76、得られた固有エネルギーに対応する固有ベクトル(波動関数)を算出する波動関数算出処理77、固有エネルギー、波動関数のデータを今後の活用の為、情報データベースに登録するデータベース構築処理78、データベースに登録された波動関数と固有エネルギーに基づいて各種有用な物理量を算出する物理量算出処理79と、算出した物理量を可視化させる可視化処理80が電子回路で実現された量子状態推定装置であってもよい。