【文献】
三宅亮,モデルベースによる水循環系スマート水質モニタリング網構築技術の開発,「持続可能な水利用を実現する革新的な技術とシステム」平成22年度研究実施報告書,2011年 9月 3日,URL,http://www.water.jst.go.jp/publication/pdf/miake_22.pdf
【文献】
Proc. SPIE,2008年 2月13日,Vol.6886,p.68860R-1 - 68860R-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
上水を管理している水道事業者や市販の飲料水を製造している飲料水製造業者などでは、微生物汚染を防ぐために、水質基準に定められた所定の項目についての微生物検査が日常的に行われている。例えば、一般細菌数については100個/ml以下であることが求められており、その基準を満たすことを確認するために、用水中の一般細菌を計数する微生物検査が行われている。
【0003】
通常、そのような検査は、サンプリングした試料液を培地に添加して培養し、検出されるコロニー数を計数する、いわゆる培養法が用いられている。しかし、培養法は、専門の設備や技術を要するうえに、検査結果が出るまでに数日かかるという問題がある。そこで、検査結果を数時間で知ることができる迅速測定法が提案されている。その一例として、例えば、ATP法や蛍光フローサイトメトリー法がある。
【0004】
ATP法は、特定の酵素(ルシフェラーゼ)が細胞中に存在するATP(アデノシン三リン酸)の量に依存して発光する性質を利用したものであり、試料液中の細菌から抽出したATPにルシフェラーゼを反応させることで、その発光量から微生物汚染を調べることができる。通常、ATP法は、拭き取り検査などの菌数の多い微生物汚染の有無を調べるのに用いられており、細菌の計数には用いられてはいない。
【0005】
それに対し、蛍光フローサイトメトリー法は、細菌の計数ができる。具体的には、蛍光フローサイトメトリー法では、試料液中の細菌が所定の蛍光色素で染色され、その後、細菌を1個ずつ流すことができる微小流路に試料液が流される。微小流路には所定波長のレーザーが照射されており、染色された細菌は、そのレーザー光によって蛍光を発する。その蛍光を検出することにより、細菌を検出し、細菌数をカウントする。このような蛍光フローサイトメトリー法を用いた微生物検査装置は、例えば特許文献1に開示されている。
【0006】
本発明に関し、マイクロチップ中に、断面形状の異なる2つの流路が合わさった凸型形状の流路が形成された二相安定化チップが開示されている(特許文献2)。その特殊形状をした流路によれば、安定した2相流を形成することができるので、エマルジョンの相分離や気液反応への利用が示唆されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ATP法や蛍光フローサイトメトリー法は、検査の簡便化が可能であり、そしてなによりも数時間で検査結果が出ることから、培養法に代わる検査手法として期待されている。
【0009】
しかしながら、上述した水系の微生物検査のように、微生物濃度が非常に低い場合には、これらATP法や蛍光フローサイトメトリー法では、前処理として、試料液を濃縮する処理が必要になる。
【0010】
試料液の濃縮処理方法としては、例えば、フィルタで濾過して細菌を捕捉、回収する方法(特許文献3)や、フィルタの表面に多数の磁性粒子からなる層を形成し、その上に細菌を堆積させた後に、磁性粒子とともに細菌を剥離させる方法(特許文献4)などが知られているが、いずれも手間を要し、時間もかかる。
【0011】
そこで、本発明の目的は、低濃度の試料液であっても微生物の迅速測定が簡単にできる微生物検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る微生物検出装置は、液中の微生物を検出する微生物検出装置であり、試料液を受け入れる受入部と、前記受入部の下流側に配置され、受け入れた試料液を連続的に濃縮する濃縮部と、前記濃縮部の下流側に配置され、濃縮された試料液に、微生物に作用する試薬を添加する前処理部と、前記前処理部の下流側に配置され、前記試薬の添加された試料液から微生物を検出する検出部とを備えている。
【0013】
前記濃縮部は、
表面にシリコン窒化板が形成されたシリコン板を含む積層体からなるチップと、前記チップ内に形成され、試料液が流れる第1マイクロ流路と、前記第1マイクロ流路に接して気体が流れる第2マイクロ流路と
、前記シリコン窒化板によって構成され、前記第1マイクロ流路と前記第2マイクロ流路との間を仕切るとともに、これら流路に連通する細孔群を有する多孔質な仕切板と、を有している。前記第1マイクロ流路の深さは100μm以下に形成されている。前記第1マイクロ流路を流れる試料液と、前記第2マイクロ流路を流れる気体とは、重なった2相の流れを形成している。そして、試料液が前記第1マイクロ流路を流れている間に、試料液中の水分が蒸発して前記第2マイクロ流路を流れる気体側に移行することにより、試料液が濃縮されるように構成されている。
【0014】
ここでいう「液」とは、主に水を意味するが、例えば、市販の清涼飲料等、それ以外の成分を含むものであってもよい。また、「蒸発」とは、第1マイクロ流路を流れる試料液と、第2マイクロ流路を流れる気体との間の気液界面を通じて、試料液の水分が気化することを意味する。
【0015】
このように構成された微生物検出装置によれば、受入部に受け入れられる試料液は、その後、深さが100μm以下のマイクロサイズの微小な第1マイクロ流路に流入する。第1マイクロ流路には、気体の流れる第2マイクロ流路が接していて、試料液と気体とが重なった2相の流れが形成される。試料液が第1マイクロ流路を流れている間、試料液中の水分は蒸発し、第2マイクロ流路を流れる気体側に移行する。
【0016】
このとき、第1マイクロ流路の深さが非常に小さいため、試料液の流量に対する気液界面の相対的な面積を非常に大きくすることができる。しかも、試料液と接する気体が流れているため、気体の蒸気圧は常に不飽和に保たれ、蒸発効率が低下しないように構成されている。その結果、細菌が生存する常温域であっても、第1マイクロ流路に試料液を流すだけで、10倍以上の濃縮が可能になる。
【0017】
すなわち、この微生物検出装置によれば、一定流量の気体と微量の試料液とを濃縮部に供給するだけで、濃縮部を通過する間に試料液が一定の割合で蒸発し、連続的に試料液を濃縮することができる。従って、低濃度の試料液であっても微生物の迅速検査が簡単にできる。
【0018】
具体的には、前記第1マイクロ流路の幅は、500μm以下であるのが好ましい。
【0019】
そうすれば、試料液と気体とが重なった2相の流れを安定して形成することができる。
【0020】
例えば、前記第1マイクロ流路と当該第2マイクロ流路との間が、これら流路に連通する細孔群を有する多孔質な仕切膜によって仕切られているように構成してもよい。
【0021】
そうすれば、試料液の蒸発を大きく妨げることなく、より安定した2相の流れを形成することができる。
【0022】
その場合、前記細孔の孔径が検出対象の微生物よりも小さく形成されているようにするのが好ましい。
【0023】
そうすれば、微生物が気体の流れる第2マイクロ流路側に漏れ出すのを防ぐことができ、検出精度を高めることができる。
【0024】
また、前記濃縮部が、前記第1マイクロ流路を流れる試料液の温度調節が可能な温度調節機構を有しているようにするとよい。
【0025】
温度変化に応じて蒸発量も変化するため、温度調節機構により第1マイクロ流路を流れる試料液の温度を気化熱を補いながら一定に保つことで、環境温度とは無関係に濃縮程度を一定に保持することができる。従って、安定した濃縮率が得られるので、検出精度を高めることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の微生物検出装置によれば、マイクロサイズの濃縮部を利用することにより、連続的に試料液を濃縮することが可能になるため、低濃度の試料液であっても連続的に微生物検査が行えるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。ただし、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物あるいはその用途を制限するものではない。また、説明では便宜上、上下等の方向を表す表現を用いるが、マイクロデバイスでは重力の影響が小さいため、これら表現は設置方向を制限するものではない。
【0029】
図1に、本実施形態の微生物検出装置1を示す。微生物検出装置1は、例えば、水道施設における上水や飲料水製造工場における用水の供給配管2などに接続され、水質基準に定められている一般細菌数や大腸菌群等の微生物検査に用いられる。微生物検出装置1は、サンプリング配管3を通じてこれら供給配管2内から検体として用いる試料液を抜き取り、微生物の検査を行った後、排水配管4を通じて廃液を排出する。微生物検出装置1は、自動的に試料液をサンプリングして微生物検査を実行するように設計されている。
【0030】
図2に、微生物検出装置1の構成を示す。微生物検出装置1は、受入部11や濃縮部12、前処理部13、検出部14、計数部15、制御部16などで構成されている。
【0031】
(制御部)
制御部16は、CPUやメモリ等のハードウエアや、これらに実装された制御プログラム等のソフトウエアを有している。制御部16は、受入部11や濃縮部12、前処理部13、検出部14、及び計数部15と協働して、微生物検出装置1の動作全般を制御している。
【0032】
(受入部)
受入部11は、サンプリング配管3を通じて試料液を受け入れる。受入部11は、連続的あるいは断続的な所定のタイミングで所定量の試料液を受け入れて、受け入れた試料液を後段の濃縮部12に一定の流量で供給する。
【0033】
(濃縮部)
濃縮部12は、受入部11の下流側に配置され、受け入れた試料液を連続的に濃縮する機能を有している。
図3〜
図6に、濃縮部12の構成を示す。
【0034】
図3に示すように、本実施形態の濃縮部12は、外観が小さな矩形薄板状のチップ21で構成されている。ちなみに、本実施形態のチップ21は、長さ寸法(L)が15mm、幅寸法(M)が20mm、厚み寸法(N)が1.6mmとなっている。
【0035】
図5や
図6に示すように、チップ21は、ガラス板22やシリコン板23、シリコン窒化板24の薄板の積層体である。チップ21の下側にシリコン板23が配置され、そのシリコン板23の上側に、シリコン窒化板24を間に挟んだ状態でガラス板22が配置されている。
【0036】
チップ21の内部には、第1マイクロ流路26や第2マイクロ流路27が形成されている。第1マイクロ流路26は、試料液が流れる流路であり、第2マイクロ流路27は、脱水ガスが流れる流路である。脱水ガスは乾燥しているものが好ましい。例えば、乾燥窒素ガスが脱水ガスに利用できる。
【0037】
第1マイクロ流路26及び第2マイクロ流路27は、波状に大きく蛇行しながら、チップ21の長さ方向の一端から他端まで延びている。第1マイクロ流路26及び第2マイクロ流路27は、それぞれ、その中間部分に、互いに上下に重なり合った作用部位28を有している(
図3や
図4において太線で示す部分)。試料液及び脱水ガスは、作用部位28において上下に重なった2相の流れを形成する。
【0038】
図5や
図6に示すように、第1マイクロ流路26は、シリコン板23の上面に形成されたマイクロ(μm)サイズの底の浅い溝であり、略同じ幅、深さの矩形断面を有している。本実施形態の第1マイクロ流路26は、深さ(h1)約8μm、幅(w)約100μmで形成されている。また、第1マイクロ流路26の長さは、約80mmに形成されている。
【0039】
第2マイクロ流路27は、第1マイクロ流路26と上下に対向するように、ガラス板22の下面に形成されたマイクロサイズの溝であり、第1マイクロ流路26と略同じ幅、深さの矩形断面を有している。本実施形態の第2マイクロ流路27は、深さ(h2)約40μm、幅(w)約100μmで形成されている。また、第2マイクロ流路27の長さも約80mmに形成されている。
【0040】
第1マイクロ流路26の深さは、少なくとも100μm以下に設定するのが好ましい。100μmより大きくなると、第1マイクロ流路26を流れる試料液の量が増えて気液界面の面積が相対的に小さくなるため、蒸発効率が低下する。また、第1マイクロ流路26や第2マイクロ流路27の流路幅は、500μm以下が好ましい。500μmより大きくなると、作用部位28において安定した2相の流れが形成できないおそれがある。
【0041】
図3や
図4に示すように、第1マイクロ流路26は、その上流側の端部に、配管t1を通じて受入部11に連なる大径の液取入口29を有し、その下流側の端部に、配管t2を通じて前処理部13に連なる大径の液排出口30を有している。液取入口29及び液排出口30は、シリコン板23の下面に開口している。
【0042】
一方、第2マイクロ流路27は、その上流側の端部に、配管t3を通じて脱水ガスの供給源Sに連なる大径の給気口31を有し、その下流側の端部に、配管t4を通じて図外のガス排出口に連なる大径の排気口32を有している。給気口31及び排気口32もシリコン板23の下面に開口している。
【0043】
液取入口29と給気口31は、配管を接続し易いように、チップ21の長さ方向の一方の端部において、幅方向に離れて位置している。液取入口29と液排出口30は、チップ21に対して対角状に位置しており、また、給気口31と排気口32も、チップ21に対して対角状に位置している。従って、液排出口30と排気口32も、チップ21の長さ方向の他方の端部において、幅方向に離れて位置している。
【0044】
図5や
図6に示すように、作用部位28では、第1マイクロ流路26と第2マイクロ流路27との間が、多孔質な仕切板34によって仕切られている。すなわち、シリコン窒化板24には、作用部位28に沿って、第1マイクロ流路26と第2マイクロ流路27とに連通する細孔34a群が形成されており、それによって仕切板34が構成されている。シリコン窒化板24の厚みは、ナノ(nm)サイズであり、本実施形態では約300nmに形成されている。なお、便宜上、図示のシリコン窒化板24の厚みは大きく示してある。
【0045】
細孔34aの孔径は、検出対象の微生物(主に細菌であるため、以下、細菌ともいう)よりも小さく形成するのが好ましい。そうすれば、試料液中の細菌が第2マイクロ流路27側に漏れ出すのを防ぐことができるので、検出精度を高めることができる。ただし、仕切板34は、試料液と脱水ガスの2相流を安定化させるものであって、試料液を濾過するものではないため、孔径は細菌よりも大きくてもよい。従って、本実施形態の細孔34aの孔径は、細菌が通過し得る1μm以上の大きさに設定されている。
【0046】
細孔34aが延びる方向は細菌が流れる方向と略直交しているため、細菌が細孔34aよりも小さくても、細菌の漏れ出しは効果的に抑制される。なお、仕切板34は、撥水性を付与するのが好ましい。そうすれば、試料液中の水分の蒸発を妨げることなく、試料液や細菌が第2マイクロ流路27側に漏れ出すのを確実性をもって阻止することができる。
【0047】
図7に示すように、このような構成のチップ21は、半導体等の製造技術を用いて製造されている。具体的には、同図の(a)に示すように、シリコン板23の表面にシリコン窒化板24を形成し、更にその表面をレジスト膜41で被覆する。そして、同図の(b)に示すように、フォトリソグラフィの技術を用いて、シリコン窒化板24に細孔34a群や、液取入口29や液排出口30等の一部を形成する。その後、同図の(c)に示すように、エッチングの技術を用いて、シリコン板23に第1マイクロ流路26や液排出口30等の残りの部分を形成する。後は、レジスト膜41を除去して、第2マイクロ流路27が形成されたガラス板22と貼り合わせればよい。ちなみに、第2マイクロ流路27は、ガラス板22に対してフォトリソグラフィとフッ酸エッチングとを行うことによって形成されている。
【0048】
図4に示すように、チップ21の第1マイクロ流路26側には、温度調節が可能なシート状のヒータ43が取り付けられている(温度調節機構の一例)。ヒータ43により、第1マイクロ流路26を流れる試料液は、予め設定された温度に一定に保持される。なお、微生物検査では生菌を対象とするのが一般的であるため、通常は細菌が死に至る温度まで試料液を加熱することはない。従って、試料液の温度は、細菌の生存温度(少なくとも50℃以下)の範囲内に保持される。
【0049】
次に、濃縮部12における試料液の処理について説明する。
【0050】
図3や
図4に矢印で示したように、受入部11から一定の流量で送られる試料液は、液取入口29から第1マイクロ流路26に流入する。少なくともその時には、脱水ガスが給気口31を通じて一定の流量で第2マイクロ流路27に流されている。
【0051】
第1マイクロ流路26を流れる試料液は、作用部位28に至ると、仕切板34を介してその上側の第2マイクロ流路27を流れる脱水ガスと接触し、気液2相の流れが形成される。従って、作用部位28では、試料液は、相対的に大きな表面積で乾燥した脱水ガスと常に接することになるため、試料液中の水分が蒸発し、
図5に矢印破線で示したように、その水蒸気が細孔34aを通じて脱水ガス側に移行する。
【0052】
乾燥した脱水ガスが常に一定の流量で第2マイクロ流路27に供給されるので、脱水ガスの蒸気圧が不飽和の状態に維持され、高い蒸発効率を確保することができるし、試料液を連続的に流しても蒸発効率が一定に保たれ、安定した濃縮を行うことができる。
【0053】
第1マイクロ流路26を流れる試料液も一定の流量で供給され、また、一定の温度に保持されているため、連続的に処理しても常に一定の濃縮率で濃縮を行うことができる。
【0054】
試料液と脱水ガスとが同じ方向に流れているため、安定した2相の流れを形成できる。また、最も乾燥した状態の脱水ガスが最初に試料液に接するため、試料液の水分を効率よく蒸発させることができる。
【0055】
(前処理部)
前処理部13は、濃縮部12の下流側に配置され、濃縮された試料液に、細菌に作用する試薬を添加する機能を有している。本実施形態の微生物検出装置1は、ATP法に基づいて生菌を検出し、その数が計数できるように構成されており、前処理部13では、その前処理が行われる。
【0056】
図8に、前処理部13の構成を示す。前処理部13は、濃縮された試料液が流れる微細な主流路51に接続された第1注入路52や第2注入路53、油液注入路54などで構成されている。
【0057】
主流路51は、細菌が1個ずつ流れるような微小な内径の流路で構成されている。
【0058】
第1注入路52は、図外の供給先から主流路51内に溶菌試薬を注入し、第2注入路53は、図外の供給先から主流路51内に発光試薬を注入する。溶菌試薬は、試料液中に細菌が存在すれば、その細胞膜等を溶かして細菌内に存在するATPを溶出させる。発光試薬は、ATPと反応して蛍光を発する酵素(ルシフェラーゼ)を含む。第2注入路53は、第1注入路52と前後して配置されている。なお、溶菌試薬と発光試薬とを混合して1つにすれば、第1注入路52及び第2注入路53のいずれかは省略できる。
【0059】
油液注入路54は、第1注入路52及び第2注入路53の下流側に配置され、図外の供給先から、試料液の液滴が形成されるように、主流路51内に油液を注入する。溶菌試薬、発光試薬及び油液は、主流路51を流れる試料液の流れに連動して、それぞれ所定量ずつ注入される。
【0060】
本実施形態の前処理部13では、まず、濃縮された試料液に溶菌試薬が注入される。試料液中に細菌が存在すると、その細菌は溶菌試薬によって溶解され、ATPが試料液中に溶出する。それと前後して、その試料液に発光試薬が注入される。試料液中にATPがあれば、発光試薬がATPと反応して蛍光が発生する。
【0061】
その後、その試料液は、油液の注入によって所定量の液滴に分けられる。試料液中に細菌が存在した場合に、1個の液滴に概ね1個の細菌から抽出されたATPが含まれるように、液滴の大きさ等が設定されている。
【0062】
(検出部、計数部)
図8に示したように、検出部14は、前処理部13の下流側に配置され、試薬の添加された試料液から細菌を光学的に検出する機能を有している。本実施形態の検出部14は、ATPと発光試薬との反応で生じる蛍光を検出する検出器61を有している。検出器61は、液滴が流れる主流路51の近傍に設置されている。検出器61は、蛍光を発する液滴を検出すると、計数部15に検出信号を出力する。計数部15は、検出部14から入力される検出信号に基づいて、細菌数を計数し、図外の表示部等を通じてその結果を出力する。
【0063】
検出部14を通過した試料液は、排水配管4を通じて廃液として排出される。
【0064】
(検証試験)
濃縮部の性能を検証するべく、試料液の温度と、脱水ガスの流量とが、蒸発量に及ぼす影響を調べる検証試験を行った。試験には、上述した実施形態で示した濃縮部12を単独で用いた。脱水ガスには乾燥窒素ガスを用い、試料液には水(純水)を用いた。
【0065】
試験では、蒸発量を直接計測することが困難であったため、強制的に液排出口30を封止し、0.2〜0.6MPaの乾燥窒素ガスを所定の流量で第2マイクロ流路27に流しながら、液取入口29から水を第1マイクロ流路26に注入した。そうして、排気口32から水が漏れ出すのを観察し、水が漏れだした時点をもってその最大蒸発量と推定した。
【0066】
図9に、その試験結果を示す。縦軸は最大蒸発量を、横軸は乾燥窒素ガスの流量を示している。同図に示すように、50℃の温度では、ガス流量と最大蒸発量との間で、比例関係は認められなかったが、40℃、27℃では比例関係が認められ、ガス流量の増加に伴い蒸発量も一定の比率で増加する傾向が認められた。また、その濃縮率も10倍以上に濃縮できることを確認した。
【0067】
従って、試料液やガスの流量、試料液の温度を調整することにより、試料液を連続的に安定して濃縮することが可能であり、ガス流量の調整により、濃縮率の制御が可能であることが確認された。
【0068】
(変形例)
例えば、上述した実施形態では、作用部位28における第1マイクロ流路26と第2マイクロ流路27との間が仕切板34で仕切られた例を示したが、仕切板34を無くして試料液と脱水ガスとが直接接するようにしてもよい。
【0069】
図10〜
図12に、その具体例を示す。
図10は、ガラス板22とシリコン板23とを分離して示した濃縮部12を表している。便宜上、先の実施形態と同じ構成については同じ符号を付してその説明は省略する。
【0070】
仕切板34を無くしても脱水ガスの界面が安定して維持できるように、本変形例では、第1マイクロ流路26及び第2マイクロ流路27の作用部位28での形態が工夫されている。すなわち、第1マイクロ流路26は、その作用部位28において、複数(本変形例では8つ)の第1要素流路26aに分岐している。第2マイクロ流路27も、その作用部位28において、第1要素流路26aに対応して複数(本変形例では8つ)の第2要素流路27aに分岐している。そして、その第2要素流路27aが細分化(16等分)されて更に複数の細分化流路27bに分岐している。
【0071】
その結果、
図11に示すように、作用部位28では、1本の第1マイクロ要素流路26aに対して16本の細分化流路27bが上下に重なった状態となっている。
【0072】
図12に、各細分化流路27bの部分を拡大した概略断面図を示す。ガラス板22の作用部位28における表面には、疎水化処理を施すことにより、撥液性を有する撥液層28aが形成されている。撥液層28aは、細分化流路27bの側壁面にも形成されている。
【0073】
図10に示したように、液排出口30の下流側には、液圧を調整する液圧調整装置80が設置され、排気口32の下流側には、気圧を調整する気圧調整装置81が設置されている。そして、これら液圧調整装置80及び気圧調整装置81により、作用部位28を流れる試料液の液圧及び脱水ガスの気圧のバランスを調整している。
【0074】
そうすることで、
図12に示したように、仕切板34が無くても、例えば、表面張力によって試料液の一部が細分化流路27bの内側に膨らんだ状態に保持することができ、気液界面を安定して保持することができる。
【0075】
図13に示すように、第1マイクロ流路26と第2マイクロ流路27とで、それぞれの構成を逆にしてもよい。
【0076】
具体的には、第1マイクロ流路26及び第2マイクロ流路27は、その作用部位28において、複数(本変形例では8つ)の第1要素流路26a及び第2要素流路27aに分岐している。そして、第1要素流路26aは、細分化(16等分)されて更に複数の細分化流路26bに分岐している。
【0077】
その結果、
図14に示すように、作用部位28では、1本の第2マイクロ要素流路27aに対して16本の細分化流路26bが上下に重なった状態となっている。
【0078】
図15に、各細分化流路26bの部分を拡大した概略断面図を示す。この場合、ガラス板22の作用部位28における表面には、疎水化処理を施すことにより、撥液性を有する撥液層28aが形成されている。細分化流路27bの側壁面は、親水化処理を施すことにより、親水性を有する親水層28bが形成されている。
【0079】
そうすることで、
図15に示したように、仕切板34が無くても、例えば、表面張力によって試料液の一部が第2要素流路27aの内側に膨らんだ状態に保持することができ、気液界面を安定して保持することができる。
【0080】
なお、本発明にかかる微生物検出装置は、上述した実施形態に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。
【0081】
例えば、上述した実施形態では、前処理部13や検出部14に、ATP法を利用して生菌数を計数する例を示したが、それに限らず、蛍光フローサイトメトリー法を利用してもよい。微生物の検出は、これら光学的方法に限らない。例えば、電気的方法や磁気的方法など、その他の物理的や化学的な検出方法を用いてもよい。
【0082】
その他、チップ21は複数個接続したり大きくすることができるし、第1マイクロ流路26や第2マイクロ流路27の形態は、仕様に応じて適宜変更できる。例えば、給気口31や排気口32、液取入口29、液排出口30は、ガラス板22やシリコン板23のいずれに形成してあってもよいし、第1マイクロ流路26や第2マイクロ流路27も、ガラス板22やシリコン板23のいずれに形成してあってもよい。