(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5903282
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】静電チャック付きロボットハンド
(51)【国際特許分類】
B25J 15/00 20060101AFI20160331BHJP
H01L 21/677 20060101ALI20160331BHJP
【FI】
B25J15/00 Z
H01L21/68 A
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-12509(P2012-12509)
(22)【出願日】2012年1月24日
(65)【公開番号】特開2013-151035(P2013-151035A)
(43)【公開日】2013年8月8日
【審査請求日】2014年10月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】特許業務法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 傑之
(72)【発明者】
【氏名】南 展史
(72)【発明者】
【氏名】小池 土志夫
【審査官】
木原 裕二
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/077678(WO,A1)
【文献】
特開2003−282388(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/099107(WO,A1)
【文献】
米国特許第05583736(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 − 21/02
H01L 21/677
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送ロボットのロボットアームに連結される基端部と、この基端部から先方にのびるフィンガー部と、静電チャック用の電極とを備え、表面で薄板状の被搬送物を吸着保持する静電チャック付きロボットハンドであって、
ロボットハンドから被搬送物に向かう方向を上、被搬送物からロボットハンドに向かう方向を下とし、ロボットハンドの上面に、被搬送物の内径より小さい同一円周上に沿ってのびる突条が設けられ、突条がロボットハンドの上面から起立する側壁を有し、突条の上面との角部を断面円弧状のアール面としたものにおいて、
静電チャック用の電極が突条表面に形成され、この電極が絶縁性材料で覆われていることを特徴とするロボットハンド。
【請求項2】
前記静電チャック用の電極は、成膜処理により突条表面に直接形成されたものであることを特徴とする請求項1記載のロボットハンド。
【請求項3】
前記誘電体は、成膜処理により突条表面に直接形成されたものであることを特徴とする請求項1または請求項2記載のロボットハンド。
【請求項4】
前記突条は前記ロボットハンドに一体に形成されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のロボットハンド。
【請求項5】
前記突条の上面のうちアール面を除く部分を平坦面としたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のロボットハンド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送ロボットのロボットアームに連結される基端部と、この基端部から先方にのびるフィンガー部と、静電チャック用の電極とを備え、薄板状の被搬送物を吸着保持する静電チャック付きロボットハンドに関する。
【背景技術】
【0002】
上記種のロボットハンドは、例えば特許文献1で知られている。このものでは、ロボットハンドが、搬送ロボットのロボットアームに連結される基端部と、この基端部から先方にのびる平面視矩形のフィンガー部とを備え、その内部に正負の電極が埋設されている(所謂双極型)。そして、例えばロボットハンドの薄板状の被搬送物の吸着面を誘電体(絶縁層)で覆い、両電極間にチャック電源により直流電圧を印加することで発生する静電気力で、基板やウエハなどの薄板状の被搬送物を吸着保持する。
【0003】
ところで、半導体製造工程においては、生産性の更なる向上等のため、被搬送物たるウエハを大径かつ薄肉のものとする傾向がある。このようなウエハは、その自重や各種処理(成膜処理による薄膜の応力等)によって、様々な方向に反りが生じている場合がある。このように反りのあるウエハを上記構成のロボットハンドの平坦な上面に載置すると、当該上面とウエハとの接点以外には空隙ができることとなる。
【0004】
ここで、正負の電極に印加する電圧は、反りのない形状のウエハにて最適な値に設定することが一般である。このため、上記状態でウエハを吸着すると、吸着力が電極とウエハとの間隔が長くなるのに従い小さくなることから、電極の位置によっては、ウエハまでの間隔が長くなって十分な吸着力が得られない場合がある。その結果、ロボットアームの動作時、ロボットハンドで吸着されたウエハが位置ずれを起こしたり、脱離するといった搬送不良が発生する。
【0005】
このような場合、印加電圧を上げて吸着力を大きくすることが考えられる。然し、誘電体の耐電圧を考慮すると、高電圧が印加できない場合があり、また、高電圧を印加した場合、ウエハの受渡し位置で両電極への電圧印加を停止した後に多くの電荷が残留することとなり、その残留する電荷の影響でウエハの脱離に長時間を要したり、ウエハを脱離させる他の機構等が別途必要となったりする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−63885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の点に鑑み、高電圧を印加することなく、反りのある被搬送物を確実に吸着することができるようにした静電チャック付きロボットハンドを提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、搬送ロボットのロボットアームに連結される基端部と、この基端部から先方にのびるフィンガー部と、静電チャック用の電極とを備え、表面で薄板状の被搬送物を吸着保持する静電チャック付きロボットハンド
であって、 ロボットハンドから被搬送物に向かう方向を上、被搬送物からロボットハンドに向かう方向を下とし、ロボットハンドの上面に、被搬送物の内径より小さい同一円周上に沿ってのびる突条が設けられ、
突条がロボットハンドの上面から起立する側壁を有し、突条の上面との角部を断面円弧状のアール面とし
たものにおいて、静電チャック用の電極が突条表面に形成され、この電極を覆うように誘電体が形成されることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、ロボットハンドに突条を設けると共にその側壁と上面との角部を断面円弧状のアール面とし、突条の径方向内外に周方向にのびるアール面が存する構成としたため、例えば薄板状の被搬送物にその周囲が上方に持ち上がるように凹状の反りが発生している場合、当該被搬送物をロボットハンドに載置すると、突条に形成した内側のアール面で被搬送物が受けられて線接触するようになる。他方で、被搬送物にその周囲が下方に垂れ下がる凸状の反りが発生している場合、当該被搬送物をロボットハンドに載置すると、突条に形成した外側のアール面で被搬送物が受けられて線接触するようになる。そして、被搬送物と接触している突条直下の位置に電極が存することで、電極と被搬送物との間の間隔が略一定になり、電極に印加する電圧を然程高くすることなく、反りのある被搬送物をその反りの方向に関係なく、確実に吸着することができる。つまり、電極に印加する単位電圧当たりの被搬送物の吸着力を大きくすることができる。結果として、ロボットアームの動作時にウエハが位置ずれを起こしたり、脱離したりすることが防止され、搬送ロボットの高速動作が可能になる。このような場合、アール形状の曲率半径が大きくなるのに従い、ウエハとの線接触箇所近傍で、電極とウエハとの距離が近くなるため、電極に印加する電圧が少なくて済む。つまり、単位電圧当たりの吸着力を増加させることができる。
【0010】
なお、本発明においては、突条を被搬送物の半径より径方向外側寄りに設置することが好ましい。これによれば、ウエハと接触している部分の周長を確実に長くすることができ、両者の接触面積が大きくなって、より確実に被搬送物を吸着することができる。
【0011】
また、本発明において、前記突条の上面のうちアール面を除く部分を平坦面とすることが好ましい。これによれば、例えば被搬送物が反りのないものであるような場合には、当該平坦部で被搬送物が線接触し、高電圧を印加することなく、反りのない被搬送物を確実に吸着できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明のロボットハンドを備えた搬送ロボットの斜視図。
【
図3】被搬送物を載置した状態を説明する
図1のIII−III線に沿う断面図。
【
図4】突条を省略してロボットハンドへの電極の配置を説明する平面図。
【
図5】変形例に係るロボットハンドを説明する部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、薄板状の被搬送物をφ300mmのシリコンウエハ(以下、「ウエハW」という)とし、このウエハWの搬送に用いる場合を例に本発明の実施形態のロボットハンドを説明する。
【0014】
図1を参照して、1は、本実施形態のロボットハンドを備えた搬送ロボットを示している。この搬送ロボット1は、昇降及び旋回自在なロボット本体2と、ロボット本体2上に設けた屈伸自在なロボットアーム3とを備え、ロボットアーム3の先端部にロボットハンド4が連結されている。
【0015】
図2〜
図4も参照して、ロボットハンド4は、ロボットアーム3に連結される基端部41と、この基端部41から二股状に分岐して先方にのびる一対のフィンガー部42,42とで構成されている。以下では、ロボットハンド4からウエハWに向かう方向を上、ウエハWからロボットハンド4に向かう方向を下とし(
図1中、上下方向)、ウエハWがロボットハンド4の上面で吸着保持されるものとして説明する
【0016】
ロボットハンド4の基端部41は、フィンガー部42,42より肉厚に形成され、境界にウエハWの外周に対応する周方向にのびる段差部41aが設けられている。また、フィンガー部42の先端部上面には、ウエハWの外周に対応する段差部42aが形成され、これら段差部41a、42aの内側でウエハWが規制されて位置決めされるようになっている。
【0017】
ロボットハンド4の上面には、ウエハWを着座させたときのウエハWの中心から所定半径rの仮想円C上に位置させて電極5が形成されている。この場合、半径rは、被搬送物Wの径や反り量を考慮した、後述の突条6の形成位置に応じて決定され、本実施形態は、ウエハWの半径の中点より径方向外側に突条が位置するように(例えば、100mm)設定している。
【0018】
電極5は、銅やアルミニウム等の導電性金属の薄膜で構成される。電極5は、仮想円Cの円周方向にのびる帯状の正電極5aと負電極5bとからなり、正負の各電極5a、5bが交互にかつ周方向に等間隔となるように形成されている。この場合、正電極5a相互並びに負電極5b相互は、接続ライン5c,5cで接続され、基端部41に設けた端子部5dに図示省略のチャック電源から正負の両電極5a、5b間に所定電圧が印加されるようになっている。チャック電源やこのチャック電源からの給電方法としては公知のものが利用できるため、ここでは詳細な説明を省略する。また、電極5のロボットハンド4への形成方法としては、スパッタリング装置や蒸着装置によりパターニング成膜するものやインクジェット法やスクリーン印刷が用いられる。
【0019】
電極5の直上には、仮想円C上に位置させて突条6が設けられている。突条6は、ロボットハンド4(ひいては、電極5)の上面から直交方向に起立させた側壁61と、ロボットハンド4の上面に平行な平坦部62とからなり、側壁61と平坦部62との角部を周方向全長に亘って断面円弧状のアール面63としたものである。この場合、ロボットハンド4の上面から平坦部62までの高さ、アール面63の曲率半径、平坦部62の幅は、被搬送物たるウエハWの径や反り量等を考慮して適宜設定される。なお、平坦部62までの高さによっては、この平坦部62とロボットハンド4の上面までを全てアール面で結ぶ、つまり、側壁61を断面形状円弧状のアール面としてもよい。
【0020】
また、突条6は、石英ガラス、アルミナや樹脂等の絶縁性材料または少なくともその表面を絶縁性材料で覆ってなるもので構成され、ロボットハンド4の所定位置に取り付けられる。この場合、取付方法としては、絶縁が確保できるものであれば特に制限はなく、接着剤を用いて接着し、または、ねじを用いて固定してもよい。
【0021】
上記実施形態によれば、ロボットハンド4の所定位置に、ウエハWが着座する突条6を設けると共に、その側壁61と上面62との角部を断面円弧状のアール面63とし、突条6の径方向内外に周方向にのびるアール面63が存する構成としたため、例えばウエハWにその周囲が上方に持ち上がるように凹状の反りが発生している場合、ウエハWをロボットハンド4に載置すると、突条6に形成した内側のアール面63でウエハWが受けられて線接触するようになる(
図3参照)。他方で、ウエハWにその周囲が下方に垂れ下がる凸状の反りが発生している場合、ウエハWをロボットハンド4に載置すると、突条6に形成した外側のアール面63でウエハWが受けられて線接触するようになる(
図3参照)。この場合、ウエハW中心から突条6の平坦部62中央までの距離をウエハWの半径の中点より径方向外側寄りに設置したことで、ウエハWと接触している部分の周長が長くなる。更に、ウエハWに反りがない場合、ウエハWをロボットハンド4に載置すると、突条6の上面にその全長に亘ってウエハWが当接して線接触するようになる(
図3参照)。
【0022】
そして、ウエハWと線接触している突条6直下の位置に電極5が存することで、電極5とウエハWとの間の間隔が略一定になり、電極5に印加する電圧を然程高くすることなく、ウエハWを、その反りの有無や反り方向に関係なく、確実に吸着することができる。つまり、電極に印加する単位電圧当たりの被搬送物の吸着力を大きくすることができ、結果として、ロボットアームの動作時、ウエハWが位置ずれしたり、脱離したりする等の不具合が発生せず、搬送ロボットの高速動作が可能になる。このような場合、アール形状の曲率半径が大きくなるのに従い、ウエハWとの線接触箇所近傍で、電極5とウエハWとの距離が近くなるため、電極5に印加する電圧が少なくて済む。つまり、単位電圧当たりの吸着力を増加させることができる。
【0023】
以上の効果を確認するために、上記ロボットハンド4を用いて次の実験を行った。この場合、平坦部62を、ウエハW中心から100mm位置を中点とする幅6mmのものとし、この平坦部62をロボットハンド4の上面とR10の円弧で結んでアール面63とした突条6をロボットハンド4の上記位置に設けた。また、被搬送物を、0.3mmの凸状の反りが生じているφ300mmのウエハ(試料1)、0.3mmの凹状の反りが生じているφ300mmのウエハ(試料2)、1mmの凸状の反りが生じているφ300mmのウエハ(試料3)、1mmの凹状の反りが生じているφ300mmのウエハ(試料4)とし、各試料をロボットハンドで吸着した。この場合、正負の電極に印加する電圧を300Vとした。
【0024】
比較実験として、平坦部62を、ウエハWの中心から100mm位置と中点とする幅6mmのものとし、この平坦部62をロボットハンド4の上面から垂直に起立する側壁で結んだ突条6をロボットハンド上面に設け、上記各試料をロボットハンドで吸着した。そして、各試料をロボットハンドで吸着したときの吸着力(N)を測定した。この場合、吸着力は、ウエハWにかかる加速度と、ウエハWとロボットハンド4との摩擦抵抗等を考慮し、ウエハWの位置ずれが生じる搬送速度から吸着力を測定した。発明実験では、試料1の吸着力が6.20N、試料2の吸着力が6.16N、試料3の吸着力が3.89N、そして、試料4の吸着力が3.79Nであった。それに対して、比較実験では、試料1の吸着力が4.97N、試料2の吸着力が4.97N、試料3の吸着力が2.82N、そして、試料4の吸着力が2.80Nであり、アール面を設けることで吸着力が向上していることが判る。
【0025】
次に、この平坦部62をロボットハンド4の上面とR20の円弧で結んでアール面とした突条6をロボットハンド上面に設け、その他の条件は同一に他の実験を行った。これによれば、試料1の吸着力が6.72N、試料2の吸着力が6.66N、試料3の吸着力が4.41N、そして、試料4の吸着力が4.27Nであり、特に、反り量の多い試料3、4に対する吸着力が向上していることが判る。
【0026】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記に限定されるものではない。上記実施形態では、突条6は、ロボットハンド4上面で平面視C字状に連続した形態を有するが、同一円周上に位置していれば、突条は連続している必要はなく、断続的に設けられていてもよく、また、無端状に設けられたものでもよい。また、上記実施形態では、フィンガー部42,42が二股状に分岐して対をなす形態を有するものを例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、平板状に先方にのびるものにも本発明は適用することができる。
【0027】
また、上記実施形態では、ロボットハンドに別体の突条を取り付けるものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、ロボットハンドに一体に突条を形成することもできる。このような場合、ロボットハンドの下面側から電極を設けるようにすればよい。また、上記実施形態では、ロボットハンド4の上面に電極5を形成した後、突条6を設けたものを例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、
図5に示すように、切削加工等でロボットハンド4のフィンガー部42に突条6を一体に形成し、この突条の表面に金属電極7をスパッタリング装置等の公知の成膜装置を用いてパターニング成膜し、この金属電極7を覆うように絶縁膜8(例えば、SiO
2)をパッタリング装置等の公知の成膜装置を用いてパターニング成膜してもよい。これによれば、突条のアール形状部と平坦部の両方に亘って、突条表面から一定の距離で均一に電極を配置することができるので、非搬送物と電極との距離が近くなり、同じ吸着力を得る場合でも、電極に印加すう電圧を低くすることができる。
【符号の説明】
【0028】
1…搬送ロボット、4…ロボットハンド、41…基端部、42…フィンガー部、5a、5b…電極、6…突条、61…側壁、62…平坦面、63…アール面、C…仮想円、W…被搬送物。