特許第5903887号(P5903887)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立化成株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5903887-印刷法用インクの製造方法 図000009
  • 特許5903887-印刷法用インクの製造方法 図000010
  • 特許5903887-印刷法用インクの製造方法 図000011
  • 特許5903887-印刷法用インクの製造方法 図000012
  • 特許5903887-印刷法用インクの製造方法 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5903887
(24)【登録日】2016年3月25日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】印刷法用インクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/03 20140101AFI20160331BHJP
   C09D 11/52 20140101ALI20160331BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20160331BHJP
   H05K 3/10 20060101ALI20160331BHJP
【FI】
   C09D11/03
   C09D11/52
   B41M5/00 E
   H05K3/10 D
【請求項の数】6
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2011-531917(P2011-531917)
(86)(22)【出願日】2010年9月13日
(86)【国際出願番号】JP2010065715
(87)【国際公開番号】WO2011034019
(87)【国際公開日】20110324
【審査請求日】2013年8月1日
(31)【優先権主張番号】特願2009-215001(P2009-215001)
(32)【優先日】2009年9月16日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-18417(P2010-18417)
(32)【優先日】2010年1月29日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-25318(P2010-25318)
(32)【優先日】2010年2月8日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】中子 偉夫
(72)【発明者】
【氏名】山本 和徳
(72)【発明者】
【氏名】神代 恭
(72)【発明者】
【氏名】横澤 舜哉
(72)【発明者】
【氏名】江尻 芳則
(72)【発明者】
【氏名】増田 克之
(72)【発明者】
【氏名】黒田 杏子
(72)【発明者】
【氏名】稲田 麻希
【審査官】 富永 久子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/054343(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/078448(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D11/00
B41J2/01
B41M5/00
H05K3/10
H05K3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも金属ナノ粒子を分散媒に分散してなる印刷法用インクの製造方法であって、
前記金属ナノ粒子として、Cu、CuO及びCuOからなる群から選択される少なくとも1種を用い、全固形分中の炭素原子の含有量を0.4mass%以下、全固形分中におけるイオン性不純物量を2600ppm以下、金属ナノ粒子乾燥粉中におけるイオン性不純物量を900ppm以下、かつゼータ電位の絶対値を30mV以上とする工程を含むことを特徴とする印刷法用インクの製造方法。
【請求項2】
前記金属ナノ粒子の90%分散粒径が10nm以上500nm以下であること特徴とする請求項1に記載の印刷法用インクの製造方法。
【請求項3】
前記金属ナノ粒子を25℃における蒸気圧が1.34×10Pa未満の分散媒に分散し、かつ25℃における粘度を50mPa・s以下とする工程を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の印刷法用インクの製造方法。
【請求項4】
前記分散媒がハンセン溶解度パラメータにおける極性項が11MPa0.5以上の有機極性溶媒であることを特徴とする請求項3に記載の印刷法用インクの製造方法。
【請求項5】
印刷法が無版印刷法である請求項1〜のいずれか1項に記載の印刷法用インクの製造方法。
【請求項6】
印刷法としてインクジェット印刷装置またはディスペンサ装置を使用する無版印刷法である請求項に記載の印刷法用インクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Cu及び/又はCuO及び/又はCuOを含む金属ナノ粒子を含有する印刷法用インク及びそれに用いられる金属ナノ粒子に関し、具体的には、導体層、配線パターンの形成に用いる印刷法用インク及びそれに用いられる金属ナノ粒子、並びに該印刷法用インクを用いて形成される配線、回路基板、半導体パッケージに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷などに代表される印刷法により、様々な機能性インクを印刷成形する手法が注目されている。中でもCu及び/又はCu酸化物を含む粒子を分散したインクは、印刷導体配線の形成の観点から検討されている。インクジェットによる印刷では、微小なノズルから微小液滴を飛ばす方式であることから、インク中にインクノズルサイズに近い粗大粒子が含まれるとノズルのつまりを生じ、また、粒子添加により粘度が高くなると液滴として飛ばすことができなくなる。他の印刷法でも粗大粒子はファインラインの印刷に不都合なものである。
具体的には、低真空ガス雰囲気中でかつ溶剤の蒸気の共存する気相中で金属を蒸発させ分散液を得るガス中金属蒸発法によって作製した粒径100nm以下の銅微粒子を分散した分散液を用いて金属薄膜を形成する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、このようなガス中金属蒸発法により得られる金属超微粒子は凝集しており、溶剤中に分散を試みても安定な状態にはなり難い。従って、このような金属超微粒子分散液をインクジェット用インクとして使用しても、金属超微粒子の凝集体がインクジェットノズルを目詰まりさせてしまうという問題があった。
【0003】
以上のように印刷法用の粒子入りインクには、小粒径の粒子を用い、凝集無く分散させる必要がある。粒子サイズや粘度の上限は装置の設計によって異なり、微小液滴になるほど制限は厳しくなる。
また、金属表面は高い活性化エネルギーを有しているため、金属表面を有する金属ナノ粒子を含む分散液の調製に際し、分散剤なしで分散させるのは困難である。そこで、従来このような目的を達成するため、粒子表面を分散剤で処理して分散した分散液が用いられてきた(例えば、特許文献2〜10参照)。特に、銅のナノ粒子の場合、粒子の酸化を防ぐためにも表面処理が有効であり、そのことからも様々な保護・分散剤が用いられている(例えば、特許文献11、12参照)。
【0004】
粒子表面を分散剤で処理して分散した分散液では、シングルナノの平均粒径を持つ粒子を凝集無く分散できることが知られている。しかし、分散剤を使用したインクでは導体化の際、分散剤を除去して粒子間を接触させる必要があり、そのために多大なエネルギーを要し、200℃以上への加熱やエネルギー線による加熱との併用が必要であった(例えば、特許文献13、14参照)。配線パターンの形成において、導体化は、銅ナノ粒子を含む層が基板上に形成された状態で加熱することにより行われるため、高熱に耐えるべく耐熱性の高い基板が要求される。このことから、使用可能な基板が限られるという問題がある。
さらに、分散剤の脱離に伴う体積収縮は導体層のクラックや剥離を引き起こし導通が得られないことも課題であった。
【0005】
以上のような経緯から、微小粒径のCu及び/又はCu酸化物の粒子を分散剤なしで、凝集無く分散した印刷法用インクが求められていた。
【0006】
これに対し、本発明者らは、酸化銅表面を有するナノ粒子は、極性が高く、水素結合性のない溶媒を用いることにより、分散剤を使用せず分散できる場合があることを見出した(例えば、特許文献15参照)。しかし、入手元の異なる酸化銅ナノ粒子では、分散できないという分散性の問題や、沈殿の発生や粒子の分離による上澄みの発生が起こるという分散安定性の問題が生じることが課題であった(例えば、特許文献14、15参照)。そのため、印刷法用Cu系インクには限られた粒子しか使用できず、改善の余地が残されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2561537号公報
【特許文献2】特開2003−334618号公報
【特許文献3】特開2003−311944号公報
【特許文献4】特許第3764349号公報
【特許文献5】国際公開第2005/025787号
【特許文献6】特開2004−211108号公報
【特許文献7】特開2008−127679号公報
【特許文献8】特開2008−88518号公報
【特許文献9】国際公開第2006/019144号
【特許文献10】特開2008−138286号公報
【特許文献11】特許第3953237号公報
【特許文献12】特開2004−315853号公報
【特許文献13】特開2009−215501号公報
【特許文献14】特開2004−119686号公報
【特許文献15】特開2007−83288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の従来の問題点に鑑みなされたものであり、以下の目的を達成することを課題とする。
すなわち、本発明の目的は、Cu及び/又はCuO及び/又はCuOを含む金属ナノ粒子(以下、「Cu系ナノ粒子」と呼ぶ場合がある。)その他の金属ナノ粒子を含む印刷法用インクであって、分散剤などの添加剤を使用せずに良好な分散性と継時的な分散安定性が得られる印刷法用インク、及び該印刷法用インクの調製に適した金属ナノ粒子、並びに該印刷用用インクを用いて形成した配線、回路基板、半導体パッケージを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、Cu系ナノ粒子の種類が異なることにより分散性、分散安定性が得られないという課題に関し、1.Cu系ナノ粒子表面の酸化第二銅の酸素欠陥状態、2.有機不純物の付着、3.吸着水分量の差、4.イオン性不純物量の差のいずれかが原因であると考え、それぞれ、1.空気中200℃加熱による表面酸化の影響、2.RFプラズマ処理によるCu粒子表面のクリーニング処理、3.真空乾燥あるいは窒素下加熱乾燥によるCu系ナノ粒子粉の乾燥、4.イオンクロマトグラフを用いたイオン性不純物の定量を検討し、1〜3が粒子の分散性、分散安定性に影響を及ぼさないことを確認し、他方、イオン性不純物量と分散性、分散安定性の間に相関があることを見出し、本発明に至った。
また、イオン性不純物量の低減に加え、分散液のゼータ電位の絶対値が30mV以上であれば分散性及び分散安定性の高い金属ナノ粒子分散液が得られることを見出した。
さらに、本発明者らは上述の如き欠点を詳細に検討した結果、1次粒子の体積平均粒径D(nm)の金属ナノ粒子と分散媒を含み、金属ナノ粒子同士の平均粒子間距離L(nm)が、1.6≦L/D≦3.5の関係を満足すれば、分散剤無しで分散性に優れる印刷法用インクが得られることを見出した。
さらにこの印刷法用インクを用いれば、インクジェット法に代表される印刷法による配線描画が可能であり、成膜後のパターニング加工無しに、所望の配線パターンを形成可能である。
【0010】
すなわち、前記課題を解決する本発明は以下の通りである。
(1)少なくとも金属ナノ粒子を含み、全固形分中の炭素原子の含有量が0.4mass%以下であることを特徴とする印刷法用インク。
【0011】
(2)Cu及び/又はCuO及び/又はCuOを含む金属ナノ粒子を含有し、イオン性不純物量が全固形分中において2600ppm以下であることを特徴とする前記(1)に記載の印刷法用インク。
【0012】
(3)イオン性不純物量が金属ナノ粒子乾燥粉中において1600ppm以下である、Cu及び/又はCuO及び/又はCuOを含む金属ナノ粒子を分散媒に分散してなることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の印刷法用インク。
【0013】
(4)前記Cu及び/又はCuO及び/又はCuOを含む金属ナノ粒子の90%分散粒径が10nm以上500nm以下であること特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の印刷法用インク。
【0014】
(5)ゼータ電位の絶対値が30mV以上であることを特徴とする前記(2)に記載の印刷法用インク。
【0015】
(6)前記金属ナノ粒子の体積平均粒径が2nm以上500nm以下であることを特徴とする前記(2)〜(5)のいずれかに記載の印刷法用インク。
【0016】
(7)前記Cu及び/又はCuO及び/又はCuOを含む金属ナノ粒子が25℃における蒸気圧が1.34×10Pa未満の分散媒に分散し、かつ25℃における粘度が50mPa・s以下であることを特徴とする前記(1)〜(6)いずれかに記載の印刷法用インク。
【0017】
(8)前記分散媒がハンセン溶解度パラメータにおける極性項が11MPa0.5以上の有機極性溶媒であることを特徴とする前記(7)に記載の印刷法用インク。
【0018】
(9)1次粒子の体積平均粒径がD(nm)の金属ナノ粒子と分散媒とを含み、印刷法用インク中における隣接する前記金属ナノ粒子同士の平均粒子間距離をL(nm)としたとき、1.6≦L/D≦3.5の関係を満足し、前記分散媒が、ハンセン溶解度パラメータにおける極性項が11MPa0.5以上であることを特徴とする前記(1)に記載の印刷法用インク。
【0019】
(10)金属ナノ粒子の1次粒子の体積平均粒径(D)が10〜300nmであることを特徴とする前記(9)に記載の印刷法用インク。
【0020】
(11)金属ナノ粒子が、Cu、Ag、Au、Al、Ni、Co、Pd、Sn、Pb、In、Gaの内少なくともひとつ以上の元素及び/またはそれらの一部/または全部の酸化物のうち1種を単独でまたは2種以上混合されてなることを特徴とする前記(9)又は(10)に記載の印刷法用インク。
【0021】
(12)金属ナノ粒子に対する分散剤を用いずに調製されることを特徴とする前記(9)〜(11)のいずれかに記載の印刷法用インク。
【0022】
(13)25℃における粘度が0.1から50mPa・sであることを特徴とする前記(9)〜(12)のいずれかに記載の印刷法用インク。
【0023】
(14)印刷法が無版印刷法である前記(9)〜(13)のいずれかに記載の印刷法用インク。
【0024】
(15)印刷法としてインクジェット印刷装置またはディスペンサ装置を使用する無版印刷法である前記(14)に記載の印刷法用インク。
【0025】
(16)イオン性不純物量が1600ppm以下であり、一次粒子の90%粒径が200nm以下であり、体積平均粒径が100nm以下であり、かつ粒子表面がCuO及び/又はCuOからなる、印刷法用インクに用いられるナノ粒子。
【0026】
(17)印刷法により基板上に前記(1)〜(16)のいずれかに記載の印刷法用インクを用いて形成してなる配線。
【0027】
(18)280℃以下で電気導電性の付与を行った前記(17)に記載の配線。
【0028】
(19)前記(17)又は(18)に記載の配線を電気導電用回路としてその一部または全部に使用した回路基板。
【0029】
(20)前記(17)又は(18)に記載の配線を電気導電用回路としてその一部または全部に使用した半導体パッケージ。
【0030】
本願の開示は、2009年9月16日に日本国において出願された特願2009−215001、2010年1月29日に日本国において出願された特願2010−18417、及び2010年2月8日に日本国において出願された特願2010−25318に記載の主題と関連しており、それらの開示内容は引用によりここに援用される。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、Cu及び/又はCuO及び/又はCuOを含む金属ナノ粒子、その他の金属ナノ粒子を含む印刷法用インクであって、分散剤などの添加剤を使用せずに良好な分散性が得られる印刷法用インク、及び該印刷法用インクの調製に適した金属ナノ粒子、並びに該印刷用用インクを用いて形成した配線、回路基板、半導体パッケージを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】実施例1の印刷法用インクを用いてパターン印刷した様子を示す図面代用写真である。
図2】ホットワイヤ法原子状水素処理装置の模式図である。
図3】本発明の一実施例であり、印刷法用インクを塗布した塗布基板の断面図である。
図4】本発明の配線と、無電解めっき層及び/又は電解めっき層の断面図である。
図5】ホットワイヤ法原子状水素処理装置による還元処理前後の印刷法用インク塗布基板の外観を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
<印刷法用インク>
本発明の印刷法用インクは、全固形分中の炭素原子の含有量が0.4mass%以下であることを特徴としている。
すなわち、本発明の印刷法用インクは、分散剤や保護剤などを使用しないことに特徴があり、分散剤や保護剤などに由来する炭素が存在せず、それ故に炭素含有量が極めて少ない。換言すると、分散剤や保護剤などは、通常、有機化合物たる炭素含有化合物であるが、本発明の印刷法用インクは、それらを使用しないために炭素含有量が極めて少なく、具体的には、炭素含有量は、0.4mass%以下であり、下限としては通常0.01mass%であり、理想的には0.00mass%である。
なお、炭素含有量は、高周波誘導加熱燃焼-赤外線吸収法により測定することができる。測定装置としては、株式会社堀場製作所のEMIA-Vシリーズを使用することができる。
【0034】
本発明の印刷法用インクは、上記の通り、分散剤や保護剤などを使用しないことから、分散性、分散安定性を確保できるかが懸念されるが、以下に示す本発明の実際的な態様である第1の態様及び第2の態様において、分散性、分散安定性が良好となる条件を見出したものである。
以下に、本発明の印刷法用インクの第1の態様及び第2の態様について説明する。
【0035】
[第1の態様の印刷法用インク]
本発明の第1の態様の印刷法用インクは、全固形分中の炭素原子の含有量が0.4mass%以下であって、Cu及び/又はCuO及び/又はCuOを含む金属ナノ粒子を含有し、イオン性不純物量が全固形分中において2600ppm以下であることを特徴としている。
【0036】
本発明においては所定のイオン性不純物量の、Cu及び/又はCuO及び/又はCuOを含む金属ナノ粒子、分散媒、及び必要に応じて添加剤を用いて印刷法用インクを調製することにより、分散剤などの添加剤を使用せずとも良好な分散性が得られる。分散剤を使用しないため、分散剤を除去するための多大なエネルギーを必要とせずに銅粒子の焼結ができ、配線パターンの形成に際し、耐熱性が低い基板でも使用することが可能となり、基板の選定の幅を広げることができる。
以下にまず、本発明の印刷法用インクのCu及び/又はCuO及び/又はCuOを含む金属ナノ粒子として、コア部が銅であり、シェル部が酸化銅であるコア/シェル構造を有する粒子及び/又は酸化銅からなる粒子について説明する。
【0037】
[銅/酸化銅コアシェル粒子]
コア部が銅であり、シェル部が酸化銅であるコア/シェル構造を有する粒子(以下、「銅/酸化銅コアシェル粒子」と称する。)は、例えば、還元作用を示さない有機溶剤中に分散させた原料金属化合物にレーザー光を攪拌下で照射して製造されたものを用いることができる。また、不活性ガス中のプラズマ炎に銅原料を導入し、冷却用不活性ガスで急冷して製造された銅/酸化銅コアシェル粒子を用いることもできる。レーザー光を用いた銅/酸化銅コアシェル粒子の特性は、原料銅化合物の種類、原料銅化合物の粒子径、原料銅化合物の量、有機溶剤の種類、レーザー光の波長、レーザー光の出力、レーザー光の照射時間、温度、銅化合物の攪拌状態、有機溶剤中に導入する気体バブリングガスの種類、バブリングガスの量、添加物などの諸条件を適宜選択することによって制御される。
【0038】
銅/酸化銅コアシェル粒子に含まれるイオン性不純物の量は、印刷法用インクに含まれるイオン性不純物量が多いと分散安定性が低下するという観点から、2600ppm以下としており、1500ppm以下であることが好ましい。
銅/酸化銅コアシェル粒子に含まれるイオン性不純物は、乾燥銅/酸化銅コアシェル粒子に対し 重量で10倍量の超純水を加え、テフロン(登録商標)製容器に密閉して120℃、24時間抽出を行い、遠心分離にて粒子を分離した上澄みをイオンクロマトグラフにより分析できる。イオン性不純物量は先の結果と標準溶液を用いて作成した検量線とを参照することで定量できる。
【0039】
本発明において使用される銅/酸化銅コアシェル粒子は、粗大粒子は配管やインクジェットヘッドのつまりの原因となるため、分散状態での90%分散粒径が10nm以上500nm以下であることが好ましく、10nm以上300nm以下であることがより好ましく、10nm以上200nm以下であることがさらに好ましい。
【0040】
[酸化銅粒子]
酸化銅からなる粒子(以下、「酸化銅粒子」と称する。)としては、シーアイ化成製の気相蒸発法により作成された酸化銅ナノ粒子や日清エンジニアリング製のプラズマ炎法により作成された酸化銅ナノ粒子のような市販品として入手可能なものを用いてもよい。
【0041】
酸化銅粒子に含まれるイオン性不純物の量は、印刷法用インクに含まれるイオン性不純物量が多いと分散安定性が低下するという観点から、原料全てに含まれるイオン性不純物量の総和が2600ppm以下としており、1500ppm以下であることが好ましい。
【0042】
酸化銅粒子に含まれるイオン性不純物は、乾燥銅/酸化銅コアシェル粒子に対し 重量で10倍量の超純水を加え、テフロン(登録商標)製容器に密閉して120℃、24時間抽出を行い、遠心分離にて粒子を分離した上澄みをイオンクロマトグラフにより分析できる。イオン性不純物量は、先の結果と標準溶液を用いて作成した検量線とを参照することで定量できる。
【0043】
本発明において使用される酸化銅粒子は、粗大粒子は配管やインクジェットヘッドのつまりの原因となるため、分散状態での90%分散粒径が10nm以上500nm以下であることが好ましく、10nm以上300nm以下であることがより好ましく、10nm以上200nm以下であることがさらに好ましい。
【0044】
以上の本発明に係るCu及び/又はCuO及び/又はCuOを含む金属ナノ粒子を、以下に説明する分散媒に分散させることにより本発明の印刷法用インクを得ることができる。以下に、本発明に係る分散媒について説明する。
なお、上記金属ナノ粒子を分散媒に分散させて印刷法用インクを調製する際に、具体的には、金属ナノ粒子乾燥粉を分散媒に分散されるが、当該金属ナノ粒子乾燥粉中におけるイオン性不純物量は1600ppm以下であることが好ましく、1200ppm以下であることがより好ましく、900ppm以下であることがさらに好ましい。ここで、「金属ナノ粒子乾燥粉」とは、分散媒を含まない状態の金属ナノ粒子をいう。
【0045】
[分散媒]
本発明の印刷法用インクにおいて使用するCu及び/又はCuO及び/又はCuOを含む金属ナノ粒子を分散する分散媒としては、25℃における蒸気圧が1.34×10Pa未満の分散媒を用いることが好ましい。このような分散媒であれば、分散媒の揮発によるインク粘度の上昇を抑えることができる。
例えば25℃の蒸気圧が1.34×10以上の分散媒のみであると、分散媒の揮発によるインク粘度の上昇が著しく、例えばインクジェット印刷法ではインクジェットヘッドのノズルから液滴を吐出することが困難になり、更にインクジェットヘッドの目詰まりが生じやすくなる傾向にある。また、オフセット印刷法では版胴に塗布したインク塗布面からパターンの不要部分を除去する工程や、版胴から被印刷物にインクを転写する工程で糸引きが起こり、良好なパターン形成ができないなどの不具合を生じる。
なお、蒸気圧が1.34×10Pa未満の分散媒と、蒸気圧が1.34×10Pa以上の分散媒とを併せて用いてもよいが、その場合、蒸気圧が1.34×10Pa以上の溶剤の配合割合を、分散媒全量の質量基準で、60mass%以下とすることが好ましく、50mass%以下とすることがより好ましく、40mass%以下とすることがさらに好ましい。なお、分散媒としては、蒸気圧が所望の範囲で、かつ絶縁性の樹脂を分散又は溶解するものであれば種々のものを用いることができる。
【0046】
25℃における蒸気圧が1.34×10Pa未満の分散媒としては、具体的には、ノナン、デカン、ドデカン、テトラデカン等の脂肪族炭化水素系溶媒;エチルベンゼン、アニソール、メシチレン、ナフタレン、シクロヘキシルベンゼン、ジエチルベンゼン、フェニルアセトニトリル、フェニルシクロヘキサン、ベンゾニトリル、メシチレン等の芳香族炭化水素系溶媒;酢酸イソブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ−ブチロラクトン、グリコールスルファイト、乳酸エチル、乳酸エチル等のエステル系溶媒;1−ブタノール、シクロヘキサノール、α−テルピネオール、グリセリンなどのアルコ−ル系溶媒;シクロヘキサノン、2−ヘキサノン、2−ヘプタノン、2−オクタノン、1,3−ジオキソラン−2−オン、1,5,5-トリメチルシクロヘキセン-3-オン等のケトン系溶媒;ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールプロピルエーテルアセテート、ジエチレングリコールイソプロピルエーテルアセテート、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール−t−ブチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールエチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールプロピルエーテルアセテート、トリエチレングリコールイソプロピルエーテルアセテート、トリエチレングリコールブチルエーテルアセテート、トリエチレングリコール−t−ブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル等のアルキレングリコール系溶媒;ジヘキシルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル等のエーテル系溶媒;プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒,マロノニトリルなどのニトリル系溶媒が挙げられる。また、25℃における蒸気圧が1.34×10Pa以上の分散媒として具体的には、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、イソプロピルアルコール等が挙げられる。これらの分散媒は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0047】
印刷法用インク中における分散媒の含有割合については、特に限定されず、インクの25℃における粘度及び表面張力が後述する範囲内となるように適宜調整することが好ましいが、通常、インク質量に対して、40〜99質量%とすることが好ましい。
【0048】
また、本発明の印刷法用インクにおいて使用する銅/酸化銅コアシェル粒子又は酸化銅粒子を分散する分散媒として、特開2009−215501号公報に記載のハンセン溶解度パラメータにおける極性項が11MPa1/2以上である分散媒を用いるハンセン溶解度パラメータにおける水素結合項が8MPa1/2以下であり、かつハンセン溶解度パラメータにおける極性項が11MPa1/2以上である分散媒を用いることが分散性の点で好ましい。
ここで、ハンセン溶解度パラメータとは、溶剤の溶解パラメータを定義する方法の1種であり、詳細は、例えば「INDUSTRIAL SOLVENTSHANDBOOK」(pp.35−68、Marcel Dekker, Inc.1996年発行)や、「HANSEN SOLUBILITY PARAMETERS:A USER’S HANDBOOK」(pp.1−41,CRC Press,1999)「DIRECTORY OF SOLVENTS」(pp.22−29、Blackie Academic & Professional、1996年発行)などに記載されている。ハンセン溶解度パラメータは溶媒と溶質の親和性を推測するために導入された物質固有のパラメータであり、ある溶媒と溶質が接したときに系の自由エネルギーがどの程度下がるか、あるいは上がるかをこのパラメータから推測できる。すなわち、ある物質を溶かすことのできる溶媒はある領域のパラメータを有することになる。本発明者等は、同様のことが金属粒子表面と分散媒との間にも成立すると考えた。すなわち、金属ナノ粒子と分散媒とが接したときエネルギー的に安定化するには、分散媒がある領域の溶解度パラメータを有すると類推した。
【0049】
以上の条件を満足する分散媒としては、例えば、γ−ブチロラクトン、N−メチルピロリドン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート,エチレングリコールスルファイト,アセトニトリルなどが挙げられる。中でも特にγ−ブチロラクトン、プロピレンカーボネート,エチレングリコールスルファイトが好ましい。
【0050】
蒸気圧及びハンセン溶解パラメータのいずれも上記条件を満たす分散媒としては、γ−ブチロラクトン、N−メチルピロリドン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート,グリコールスルファイトが挙げられる。
【0051】
分散媒に含まれるイオン性不純物量は、印刷法用インクに含まれるイオン性不純物量が多いと分散安定性が低下するという観点から、原料全てに含まれるイオン性不純物量の総和が2600ppm以下であることが好ましく、1500ppm以下であることがより好ましい。
【0052】
分散媒に含まれるイオン性不純物量はイオンクロマトグラフにより求められる。具体的には、分散媒をテフロン(登録商標)製の容器で加熱あるいは減圧して乾燥し、超純水を注いでイオン性不純物を溶かしだしてイオンクロマトグラフにより分析できる。イオン性不純物量は、先の結果と標準溶液を用いて測定した作成した検量線とを参照することで定量できる。
【0053】
本発明の印刷法用インクにおいては、既述の通り、調製に際し、銅粒子表面から除去するのに高エネルギーが必要な分散剤は必要としないが、本発明の効果を損なわない範囲で、分散安定性のさらなる向上などのために、炭素の含有量0.4mass%以下において使用するのは差し支えない。例えば、配線パターンを描画するための印刷装置に適合するため表面張力調整剤を使用することができる。
【0054】
前記粒子の分散は、超音波分散機、ビーズミルなどのメディア分散機、ホモミキサーやシルバーソン攪拌機などのキャビテーション攪拌装置、アルテマイザーなどの対向衝突法、クレアSS5などの超薄膜高速回転式分散機、自転公転式ミキサなどを用いて行うことができる。
【0055】
前記印刷法用インク中の前記粒子の濃度は、1〜70重量%とすることが好ましく、5〜60重量%とすることがより好ましく、10〜50重量%とすることがさらに好ましい。
【0056】
印刷法用インクの粒子は、分散剤、表面処理剤による分散安定化をしていない場合には、粒子表面のゼータ電位による反発力により分散媒中に分散安定化していると考えられる。このような系では、ゼータ電位と対になる荷電を有する物質が存在する場合、ゼータ電位の中和や作用距離の短縮が生じ、分散安定性が低下することが予想される。このような荷電を有する物質としては塩基、酸、およびそれらの塩があり、それらが解離したイオンとしては陰イオン、陽イオンが存在する。本発明において、イオン性不純物とは、印刷法用インク中に含まれる塩基、酸、それらの塩、陰イオン、陽イオンこれらの総称とする。
【0057】
イオン性不純物を純水で抽出した際に、イオンクロマトグラムで検出可能な解離したイオンとしては以下のものが挙げられるが、これに限定されるものではない。水素イオン(H+)、リチウムイオン(Li+)、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、銀イオン(Ag+)、銅(I)イオン(Cu+)、水銀(I)イオン(Hg+)、オキソニウムイオン(H3O+)、アンモニウムイオン(NH4+)、ジアンミン銀イオン([Ag(NH3)2]+)、ビオレオ([CoCl2(NH3)4]+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、カルシウムイオン(Ca2+)、ストロンチウムイオン(Sr2+)、バリウムイオン (Ba2+)、カドミウムイオン(Cd2+)、ニッケル(II)イオン(Ni2+)、亜鉛イオン(Zn2+)、銅(II)イオン(Cu2+)、水銀(II)イオン(Hg2+)、鉄(II)イオン(Fe2+)、コバルト(II)イオン(Co2+)、スズ(II)イオン(Sn2+)、鉛(II)イオン(Pb2+)、マンガン(II)イオン(Mn2+)、テトラアンミン亜鉛(II)イオン([Zn(NH3)4]2+)、テトラアンミン銅(II)イオン([Cu(NH3)4]2+)、テトラアクア銅(II)イオン([Cu(H2O)4]2+)、チオシアノ鉄(III) イオン([Fe(SCN)]2+)、ヘキサアンミンニッケル(II)イオン([Ni(NH3)6]2+)、プルプレオ([CoCl(NH3)5]2+)、アルミニウムイオン(Al3+)、鉄(III)イオン(Fe3+)、クロム(III)イオン(Cr3+)、ヘキサアンミンコバルト(III)イオン([Co(NH3)6]3+)、ヘキサアクアコバルト(III)イオン([Co(H2O)6]3+)、ヘキサアンミンクロム(III)イオン([Cr(NH3)6]3+)、ローゼオ([Co(NH3)4(H2O)2]3+)、スズ(IV)イオン(Sn4+)、水素化物イオン(H-)、フッ化物イオン(F-)、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、ヨウ化物イオン(I-)、水酸化物イオン(OH-)、シアン化物イオン(CN-)、硝酸イオン(NO3-)、亜硝酸イオン(NO2-)、次亜塩素酸イオン(ClO-)、亜塩素酸イオン(ClO2-)、塩素酸イオン(ClO3-)、過塩素酸イオン(ClO4-)、過マンガン酸イオン(MnO4-)、酢酸イオン(CH3COO-)、炭酸水素イオン(HCO3-)、リン酸二水素イオン(H2PO4-)、硫酸水素イオン(HSO4-)、硫化水素イオン(HS-)、チオシアン酸イオン(SCN-)、テトラヒドロキソアルミン酸イオン([Al(OH)4]-、[Al(OH)4(H2O)2]-)、ジシアノ銀(I) 酸イオン([Ag(CN)2]-)、テトラヒドロキソクロム(III)酸イオン([Cr(OH)4]-)、テトラクロロ金(III)酸イオン([AuCl4]-)、酸化物イオン(O2-)、硫化物イオン(S2-)、過酸化物イオン(O22-)、硫酸イオン(SO42-)、亜硫酸イオン(SO32-)、チオ硫酸イオン(S2O32-)、炭酸イオン(CO32-)、クロム酸イオン(CrO42-)、二クロム酸イオン(Cr2O72-)、リン酸一水素イオン(HPO42-)、テトラヒドロキソ亜鉛(II)酸イオン([Zn(OH)4]2-)、テトラシアノ亜鉛(II)酸イオン([Zn(CN)4]2-)、テトラクロロ銅(II) 酸イオン ([CuCl4]2-)、リン酸イオン(PO43-)、ヘキサシアノ鉄(III)酸イオン([Fe(CN)6]3-、ビス(チオスルファト)銀(I)酸イオン([Ag(S2O3)2]3-)、ヘキサシアノ鉄(II)酸イオン([Fe(CN)6]4-)等である。
【0058】
本発明の印刷法用インクに含まれるイオン性不純物の量は、既述のように、全固形分において2600ppm以下であるが、イオン性不純物の量を当該範囲内とする手段としては、イオン交換樹脂による脱イオン処理や、透析等が挙げられる。あるいは、金属ナノ粒子の作製時にイオン性不純物が混入しないように、窒素、ハロゲン、アルカリ金属等が含まないように留意することでもイオン性不純物を前記範囲内とすることができる。原料からイオン性不純物を除くだけでなく、スパッタ、プラズマ等のラジカルを発生させる処理を用いる場合に、雰囲気に窒素、炭酸ガスが混入すると、それぞれ硝酸イオン、カルボン酸イオンを発生するため、雰囲気中のイオン性成分を生成する元素を除くことも重要である。
【0059】
印刷法用インクに含まれるイオン性不純物の量は、イオンクロマトグラフにより求められる。また、蛍光X線分析によりイオン性不純物に由来する元素を検出し間接的にイオン性不純物の量を類推することも可能である。
イオンクロマトグラフによるイオン性不純量の定量は、当該印刷法用インクを減圧、あるいは加熱乾燥した後、乾燥物の重量で10倍量の超純水を加え、テフロン(登録商標)製容器に密閉して120℃、24時間抽出を行い、遠心分離にて分離した上澄みをイオンクロマトグラフにより分析できる。イオン性不純物量は、先の結果と標準溶液を用いて測定した作成した検量線とを参照することで定量できる。
【0060】
本発明の印刷法用インクにおいて、分散性、分散安定性をさらに向上させるには、イオン性不純物量の低減に加え、ゼータ電位の絶対値が30mV以上に設定することが好ましい。さらに、ゼータ電位の絶対値は35mV以上であることが好ましく、40mV以上であることがより好ましい。また、200mV以下であることが好ましい。ゼータ電位の絶対値が30mV未満であれば、金属ナノ粒子の分散安定性が低下するおそれがある。なお、ゼータ電位は、例えば、ゼータ電位測定装置(ベックマン・コールター株式会社製、Delsa 440SX)などを用いて測定することができる。
また、この場合、銅/酸化銅コアシェル粒子や酸化銅粒子などの金属ナノ粒子は、大きな粒子は自重で沈降しやすく分散安定化しにくいという観点から、分散時の体積平均粒子径が2nm以上500nm以下であることが好ましく、2nm〜300nmであることがより好ましく、2nm〜200nmであることがさらに好ましい。
【0061】
本発明の印刷法用インクは、インクジェット印刷法やディスペンサ印刷法などの非接触印刷法や、オフセット印刷法などの平板印刷、スクリーン印刷法などの孔版印刷、グラビア印刷などの凹版印刷法などに使用することができる。
【0062】
本発明の印刷法用インクの粘度(動的粘度)は、25℃で50mPa・s以下であることが好ましい。絶縁体インクの粘度が50mPa・s以下であれば、インクジェット印刷時の不吐出ノズルの発生や、ノズルの目詰まりの発生を一層確実に防止することができる。また、絶縁体インクの粘度は、25℃で1.0〜30mPa・sであることがより好ましい。インク粘度を当該範囲とすることによって、液滴を小径化でき、インクの着弾径を一層小さくすることができる傾向がある。
従って、既述のように、25℃の蒸気圧が1.34×10Pa以上の分散媒を用いることで印刷法用インクの粘度を上記範囲とすることが容易であるため好ましい。つまり、本発明の印刷法用インクは、Cu及び/又はCuO及び/又はCuOを含む金属ナノ粒子が25℃における蒸気圧が1.34×10Pa未満の分散媒に分散し、かつ25℃における粘度が50mPa・s以下であることが好ましい。
【0063】
本発明の印刷法用インクの25℃における表面張力は20mN/m以上であることが好ましい。表面張力が20mN/m未満の場合、インク液滴が基材に着弾後に濡れ広がり、平坦な膜を形成できない傾向がある。絶縁体インクの表面張力は、20〜80mN/mの範囲であることがより好ましい。これは、インクの表面張力が80mN/mを越える場合、インクジェットノズルにおいて表面張力により液滴が引き戻され吐出しにくくなる傾向があるためである。20〜50mN/mであるとより好ましい。
また、必要に応じてインク表面張力調整剤などの調整剤、基板との接着力を付与するためのカップリング剤や接着剤、酸化防止剤などを配合してもよい。
【0064】
<評価方法>
以上のように、Cu及び/又はCuO及び/又はCuOを含む金属ナノ粒子に含まれるイオン性不純物量が2600ppm以下であれば、分散剤を用いなくても、良好な分散性、分散安定性を示す印刷法用インクを調製することができる。これを逆に考えれば、未知のCu及び/又はCuO及び/又はCuOを含む金属ナノ粒子のイオン性不純物量を測定し、2600ppm以下か否かで、その金属ナノ粒子の分散性、分散安定性が良好であるか、ひいては分散剤を必要とするか否かを評価することができる。
【0065】
[第2の態様の印刷法用インク]
本発明の第2の態様の印刷法用インクは、全固形分中の炭素原子の含有量が0.4mass%以下であって、1次粒子の体積平均粒径がD(nm)の金属ナノ粒子と分散媒とを含み、印刷法用インク中における隣接する前記金属ナノ粒子同士の平均粒子間距離をL(nm)としたとき、1.6≦L/D≦3.5の関係を満足し、前記分散媒が、ハンセン溶解度パラメータにおける極性項が11MPa0.5以上であることを特徴としている。
前記L/Dの値が1.6以上であると、分散剤を用いずに良好な金属ナノ粒子の分散性及び分散状態の継続性を得る観点から好ましい。また、L/Dの値が3.5を超えると、分散媒中の金属ナノ粒子の濃度が低くなり、配線を形成する過程において、金属ナノ粒子の付着量が減少する。そのため、例えば、インクジェット印刷法に代表される印刷工程を多数回繰り返さなければならないなど、実用的な観点から好ましくない。よって分散性と配線形成性の観点から1.6≦L/D≦3.5である。さらに分散性と配線形成性の観点から1.6≦L/D≦3.0が好ましく、インクジェット印刷法に代表される印刷回数を削減する観点から1.6≦L/D≦2.8がより好ましい。ここでいう分散剤とは、耐酸化、耐融着、分散性向上を目的に金属ナノ粒子表面に付着させた有機化合物及び/または無機化合物を指す。
【0066】
上記L(nm)は、以下の幾何学的な近似式を用いて、分散媒中における金属ナノ粒子の一次粒子同士の平均表面間距離を幾何学的に求めた値Ls(nm)と1次粒子の体積平均粒径D(nm)を用いた、金属ナノ粒子同士の中心間の平均距離とする。
L(nm)=D/2+Ls(nm)
Ls(nm)=D×[(1/3×π×F+5/6)0.5−1]
F=印刷法用インク中の金属ナノ粒子の体積/印刷法用インクの体積
なお、印刷法用インク中の金属ナノ粒子の体積及び印刷法用インクの体積は、各々の質量を密度で除することにより算出することが可能である。本発明において、前記式よりL(nm)を求め、そしてL/Dの値を求める。
【0067】
印刷法用インクに用いる分散媒は、分散剤を用いずに良好な金属ナノ粒子の分散性及び分散状態の継続性を得るために、ハンセン溶解度パラメータにおける極性項を11MPa0.5以上と規定している。
これらの条件を満足する分散媒を用いることで、前記粒子の分散性が向上するのは、金属粒子表面と分散媒の接触により自由エネルギーが低下し分散状態のほうが安定化するためと考えられる。
【0068】
また、本発明に係る分散媒は、ハンセン溶解度パラメータにおける極性項は11MPa0.5以上であり、高極性であることを示しているが、12MPa0.5以上であることが好ましく、13MPa0.5以上であることがより好ましい。11MPa0.5未満では、分散系は凝集し,増粘や粒子の沈降,粒子と分散媒の分離を生じることとなってしまう。また、上限は通常は20MPa0.5である。
【0069】
以上の条件を満足する分散媒としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトン、プロピレンカーボネート(炭酸プロピレン),エチレンカーボネート(炭酸エチレン)、ブチレンカーボネート(炭酸ブチレン)、エチレングリコールスルファイト、スルホラン、マロノニトリル、フェニルアセトニトリル、アセトニトリル、N−アセチルピロリドン、アセチルフロライド、アンモニア、1,4−ブタンジオール、3−ブテンニトリル、シクロペンタノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、ジエチルスルファイト、ジエチレングリコール、ジエチレントリアミン、N,N−ジエチルアセトアミド、ジエチルスルフィド、ジエチルホルムアミド、エチリデンアセトン、ホルムアミド、グリセロール、メチルイソペンチルケトン、フェニルアセトニトリル、などが挙げられる。中でも特にジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトン、プロピレンカーボネート(炭酸プロピレン)、エチレンカーボネート(炭酸エチレン)、ブチレンカーボネート(炭酸ブチレン)、エチレングリコールスルファイト、スルホラン、マロノニトリル、フェニルアセトニトリル、アセトニトリル、アセチルクロライド、N−アセチルピロリドン、アセチルフロライド、アクリロニトリル、シクロペンタノン、N,N−ジエチルアセトアミド、ジエチルスルファイト、フェニルアセトニトリルが挙げられる。
【0070】
さらに、インクジェット法に代表される印刷法に好適な分散媒としては、25℃における蒸気圧が1.34×10Pa未満である有機溶剤(溶媒)であることが好ましい。具体例は第1の態様で示したのでここでは省略する。これらの溶媒は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、上記以外でも、ハンセン溶解度パラメータにおける極性項が11MPa0.5以上である分散媒であり、1種を単独で又は2種以上を組み合わせた場合の25℃における蒸気圧が1.34×10Pa未満であれば使用可能である。
【0071】
次に、金属ナノ粒子について説明する。金属ナノ粒子はCu、Ag、Au、Al、Ni、Co、Pd、Sn、Pb、In、Ga及びこれらの酸化物のいずれも使用可能であり、少量の不純物として金属塩及び金属錯体を含んでもよい。粒子は全体が金属であってもよいし、周囲が酸化物であるコアシェル金属粒子やそのほとんどすべてが酸化物(例えば酸化銅)である粒子、さらに常態や処理後に導電性を発現できればその他の元素との化合物であってもよい。また、酸化第一銅およびコア/シェル構造を有する粒子は、容易に還元が可能であるのでより好ましい。これらの金属ナノ粒子は、市販品を用いてもよいし、公知の合成方法を用いて合成することも可能である。これらの金属ナノ粒子は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0072】
一般的に金属は比重が大きく、粒径が大きいと、自重で沈降しやすく分散状態が安定的に保ち難いという観点から、金属ナノ粒子の一次粒径は、体積平均粒径が10〜300nmであると好ましく、分散剤を用いずに分散させる場合の分散性の観点から、15〜200nmであるとより好ましく、良好な分散性の継続及び後に述べる還元処理により導体化(低抵抗率化)も容易となるため、20〜100nmであるとさらに好ましい。一次粒径の体積平均粒径は、レーザ回折散乱法によって25℃で測定した散乱光の強度から求められる粒径に対する体積分率の粒度分布から算術平均粒径を算出する方法、または、窒素吸着BET法による比表面積の測定値から、1次粒子の比重で、粒子形状を真球粒子と仮定した場合の粒径を算出する方法で求めるが、平均粒径を粉体の状態で測定する場合には、後者により求める方法が一般的である。また、水などの溶媒分散系では、前者の方法が一般的である。その場合の体積平均粒径は、レーザ散乱法粒度分布測定装置(ベックマン・コールター株式会社製、LS13 320)を用いて粒度分布を測定し、求めることが可能であるが、二次粒子等の凝集体も含む場合がある。
【0073】
また、金属ナノ粒子は、印刷法に適用するため、二次凝集体などを含めた平均分散粒径が500nm以下であることが好ましい。平均分散粒径が200nm以下であると、例えばインクジェット印刷法ではノズルの目詰まりなどの不具合が発生しにくく、より好ましい。分散粒径が500nm以上の粒子があっても良いが、最大分散粒径は2000nm以下であるとインクジェット印刷での目詰まりの発生等がなく好ましく、工業的に、より汎用性の高い分散安定性を得る観点から、最大分散粒径は800nm以下であるとより好ましい。
【0074】
印刷法に適用するための該金属ナノ粒子の分散は、粉体を液体に分散する一般的な方法を用いることができる。例えば、超音波法、ビーズミルなどのメディア分散法、三本ロール法、ホモミキサーやシルバーソン攪拌装置、アルテマイザーなどの対向衝突法、クレアSS5などの超薄膜高速回転式分散器、自転公転式ミキサなどで分散処理を施せばよい。これらの分散処理は室温(25℃)で行ってもよく、分散液の粘度を下げるために加熱して行ってもよい。分散媒の融点が高い場合は、液体になる温度に加熱しながら上記操作を行うことが好ましい。また、金属ナノ粒子の表面に凝集の原因となる活性な破断面を作らず、より安定な分散状態を得るためには、超音波法、ビーズミルなどのメディア分散法、自転公転式ミキサがより好ましい。これらの分散方法は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0075】
上記方法で分散媒に金属ナノ粒子を分散処理した印刷法用インクは、遠心分離処理を施すことにより、平均粒径が小さく、より分散安定な状態に調製することができる。遠心分離処理条件である遠心回転数および遠心時間は使用する装置によって異なるため、1次粒子の比重で沈降粒径が1μm以上を遠心分離できる条件を適宜選択する。
【0076】
印刷法用インク中における分散媒の含有割合については特に限定されず、インクの25℃における金属ナノ粒子同士の平均粒子間距離L(nm)と体積平均一次粒子径D(nm)の比L/D、粘度及び表面張力が各々好適な範囲内となるように適宜調整することが好ましいが、通常、印刷法用インク質量に対して、40から97質量%とすることが好ましい。印刷法用インクを、インクジェット法に代表される印刷法に好適な粘度の低粘度分散液とするためには、印刷法用インク質量に対して分散媒の含有割合を50から90質量%とすることがより好ましく、印刷法により形成する配線の形状を良好に保つために、印刷法用インク質量に対して分散媒の含有割合を60から80質量%とすると更に好ましい。
【0077】
インクジェット法に代表される印刷法に好適な印刷法用インクを得るためには、分散処理した後の25℃における粘度が0.1〜50mPa・sであることが好ましく、1〜30mPa・sであれば、インクジェット印刷時の不吐出ノズルの発生や、ノズルの目詰まりを一層確実に防止することができるため、より好ましく、3〜20mPa・sであると、安定的な吐出性を保ち、工業的により汎用性の高い印刷法用インクとなるため、更に好ましい。
【0078】
印刷法用インクには、インクジェット法に代表される印刷法に好適な表面張力に調整するために、表面調整剤を適宜添加してもよい。20℃における表面張力は、印刷時の良好な配線の形成性を得るために20〜80mN/mであることが好ましく、インクジェット法で印刷する場合に、より好適な吐出性を得るために21〜50mN/mであることがより好ましく、平坦な配線の形成性の観点から22〜45mN/mであることが更に好ましい。
【0079】
上記表面調整剤としては、シリコン系、ビニル系、アクリル系、フッ素系等の化合物が挙げられる。なお、これらの表面調整剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて含有させてもよい。
【0080】
<金属ナノ粒子>
本発明の金属ナノ粒子は、印刷法用インクに用いられる金属ナノ粒子であって、イオン性不純物量が1000ppm以下であり、一次粒子の90%粒径が200nm以下であり、体積平均粒径が100nm以下であり、かつ粒子表面がCuO又は/及びCuOからなることを特徴としている。
本発明の金属ナノ粒子は、既述の本発明の印刷法用インクの調製に適しており、当該金属ナノ粒子を既述の分散媒に分散させ、必要に応じてその他の工程を経ることで本発明の印刷法用インクを調製することができる。
また、本発明の金属ナノ粒子は、粒子構造の観点からは、粒子表面がCuO又は/及びCuOからなるが、これは既述のような、銅/酸化銅コアシェル粒子、又は酸化銅粒子が挙げられる。
【0081】
本発明の金属ナノ粒子において、一次粒子の90%粒径が200nm以下であることで、インクジェットの配管やノズルの詰まりを避けることができる。一次粒子の90%粒径は、150nm以下が好ましい。下限値としては、通常、1nmである。
なお、当該90%粒径の数値は、TEMやSEMの観察像や、BETにより測定して得られる値である。
【0082】
また、本発明の金属ナノ粒子の体積平均粒径が100nm以下であることで、粒子の自重による沈降を抑制できる。当該体積平均粒径は、70nm以下が好ましい。下限値としては、通常、1nmである。
【0083】
<配線パターンの形成>
次に、本発明の印刷法用インクを用い、基板上に配線パターンを形成する方法の一例として、銅配線パターンを形成する方法について説明する。まず、使用する基板について説明する。
【0084】
[基板]
本発明の配線パターンの形成方法において使用される基板の材質として、具体的には、ポリイミド、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、液晶ポリマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネートエステル樹脂、繊維強化樹脂、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、ガラス板等が挙げられるが、これに限られるものではない。
【0085】
なお、既述のように、本発明の印刷法用インクを使用すれば、耐熱性が低い基板を使用することができるなど、使用する基板の制約が少ない。
次に、配線パターンの形成方法の手順、及び各工程における操作の詳細について順次説明する。
【0086】
配線は、印刷法用インクをインクジェット法に代表される印刷法でパターニングしたドット状、ライン状および膜状の印刷物であり、印刷後に必要に応じて真空乾燥処理や加熱乾燥処理などにより分散媒を除去し、電気導電性を付与するための焼結処理や還元処理を経て得られる。配線の厚みは0.1〜25μmが好ましく、接続信頼性の観点から0.2〜10μmがより好ましく、電気導電性を付与するための焼結処理や還元処理を効率的に行うために、0.4〜3μmが更に好ましい。
【0087】
印刷法用インクの印刷法としては、例えば、スクリーン印刷法、凸版印刷法、凹版印刷法、転写印刷法、グラビア印刷法、インクジェット印刷法、スーパーインクジェット印刷法、ディスペンサ印刷法、ニードルディスペンサ法、ジェットディスペンサ法、ナノインプリント印刷法、コンタクトプリント印刷法、スピンコート印刷法など種々の印刷法が適用できる。中でもインクジェット印刷法は、特別な版を使用せずに所望の位置に所望の量のインクを印刷でき、材料利用効率やパターン設計変更への対応の容易さなどの特徴を有し好ましい。
図3は、印刷法用インクを塗布した塗布基板を模式的に示した断面図であり、符号11は配線を示し、符号12は金属ナノ粒子を示し、符号13は基板を示す。
【0088】
本発明の印刷法用インクを用い、配線パターンの描画を終えた後、分散媒の揮発性にあわせた温度で乾燥を行う。乾燥手法としては、基板を加熱したり、熱風を吹き付けたりする加熱処理方法を採用することができる。このような乾燥処理は、例えば、加熱温度30〜200℃、加熱時間0.1〜2.0時間で行うことができる。その他に、低圧や真空環境下において分散媒を除去することもできる。この際、銅/酸化銅コアシェル粒子及び酸化銅粒子のいずれも、表面が酸化銅であるため金属銅粒子のように酸素を除いた雰囲気で乾燥する必要はない。
【0089】
次に、銅/酸化銅コアシェル粒子及び酸化銅粒子の酸化銅を還元し、金属銅を生成する。還元処理はそれぞれの配線に適した方法であればよく、特に制限されない。還元や焼結後の体積抵抗率は1×10−5Ω・m以下であることが望ましい。これ以上の体積抵抗率であると、電気配線としての用を成さないおそれがある。良好な電気導電性の観点から、体積抵抗率は、1×10−6Ω・m以下であるとより好ましく、配線の電気抵抗損失の少ない好適な微細配線としての利用の観点から、体積抵抗率は1×10−7Ω・m以下であるとさらに好ましい。
【0090】
還元処理方法としては、例えば金属ナノ粒子に酸化銅を含む銅粒子を使用した配線層の場合、原子状水素を利用した還元方法や、水素やアンモニアのような還元性ガス雰囲気下において加熱する還元方法がその例として挙げられる。原子状水素を生成する方法としては、図2に示すような、ホットワイヤ法原子状水素処理装置を挙げることができる。装置内を10−3Pa以下に減圧し系内の空気を除去する。ついでガス導入口より水素、アンモニア、ヒドラジンなどの水素を含んだ原料ガスをチャンバ内のガスを拡散させるためのシャワーヘッドに送り込む。シャワーヘッドから拡散されたガスは、例えばタングステンワイヤからなる高温の触媒体(通電し高温に加熱、例えば1700℃)を通過することで、原料ガスが分解され原子状水素が生成される。この原子状水素により酸化銅粒子は還元され、焼結が進行する。なお、高温に加熱された触媒体と試料基板の間にはガスを遮断しない隙間のあるシャッターや遮蔽板を挿入し、触媒体からの輻射熱を基板が直接受けないようにすることもできる。この処理の間、基板の温度は、触媒体からの輻射熱を直接受けたり基板ホルダを加熱したりしなければ50℃以下で推移するが、このような低温でも還元と同時に、還元した銅粒子間の融着が進行する。それ以外にも、RFやマイクロ波などを利用した真空プラズマ装置や大気圧プラズマ装置により発生させた原子状水素により還元することができる。
これ以外にも、アルキルアミンボラン、ヒドラジン、ヒドラジン化合物、ホルムアルデヒド、アルデヒド化合物、亜リン酸化合物、次亜リン酸化合物、アジピン酸、蟻酸、アルコール、スズ(II)化合物、金属スズ、ヒドロキシアミン類、アスコルビン酸から選ばれた還元性の液体及び/または気体を使用した還元方法により、所望の体積抵抗率の配線を得ることができる。
【0091】
上記のような還元処理方法で還元反応がある程度進行したものと認められたら、配線中の銅粒子同士が焼結し得る温度(以下、「焼結温度」と称す。)まで加熱し、この焼結温度を一定時間保持することで、銅粒子同士が焼結し、全体として配線が導体化する(電気導電性の付与)。なお、分散剤を用いない場合は、分散剤を除去するために必要なエネルギーは不要であり、比較的低温での焼結が可能である。また、焼結は還元処理と同時に行ってもよく、還元処理のみで十分に導体化できる場合には、焼結を行わなくてもよい。
【0092】
焼結温度としては、良好な電気導電性を得る観点から、120〜300℃が好ましく、130〜250℃が好ましく、低体積抵抗率の配線を形成する観点から140℃〜200℃がより好ましい。
また、処理温度の上限は基板の耐熱温度により規定され、有機基板上に配線を形成する場合280℃以下が好ましく、用いることのできる基板の種類の点から200℃以下がより好ましい。
【0093】
焼結時間は保持する温度によっても異なるが、例えば0.5〜60分とすることが好ましく、効率的な焼結処理工程とする観点から1〜30分とすることがより好ましい。焼結後、導体層が形成された基板は、超純水等にさらした後、アセトン等をかけて乾燥することができる。
以上のようにして、いずれの態様においても優れた電気導電性を有する配線を作製することができる。
また、この配線は、厚膜微細配線を形成する場合には、無電解めっきのシード層として利用することもでき、電解めっきを施して厚膜化してもよい(図4参照)。図4は、配線と、無電解めっき層及び/又は電解めっき層の断面図であり、図4中、符号14は配線を示し、符号15は無電解めっき層及び/又は電解めっき層を示す。
また、前記の配線を、電気導電用回路として、回路の一部または全部に使用して、回路基板や半導体パッケージを作製してもよい。また、回路基板、あるいは、半導体パッケージの材質としては、特に限定せず、樹脂基板、無機基板いずれでもよい。
【実施例】
【0094】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0095】
[実施例1]
(インクジェットインクの調製)
酸化銅ナノ粒子(酸化第二銅、平均一次粒子径74nm、製品名:ナノテックCuO、シーアイ化成株式会社製)27gをγ−ブチロラクトン73g(酸化銅ナノ粒子濃度27mass%)に添加し、超音波ホモジナイザー(US−600、日本精機製)により19.6kHz、600W、5分処理し分散液を得た。この分散液を遠心分離機にて1500rpm、4分かけて粗粒を除きインクジェットインク(印刷法用インク)とした。
調製したインクジェットインクの動的粘度を、(株)エー・アンド・ディー製、小型振動式粘度計SV−10により測定したところ8mPa・sであり、同表面張力を、協和界面科学(株)製、全自動表面張力計CBVP−Zで測定したところ45mN/mであった。
【0096】
(分散性および分散安定性評価)
インク調製1日後にレーザー散乱法粒度分布測定装置(ベックマン・コールター、LS13 320)を用いて粒度分布を測定した。その後、10mlキャップ付き試験管に10mlのインクを取り、密栓して試験管立てで静置して、1週間後の沈殿の発生状況と上澄みの有無を目視にて評価した。
その結果、粒度分布は体積平均粒径0.07μm、d90%(90%粒径):0.2μmの粒度分布を示し、1μm以上の粗粒無く分散性は良好であった。静置したインクは1週間後に沈殿や上澄みは見られず分散安定性は良好であった。
【0097】
(酸化銅ナノ粒子のイオン性不純物定量分析)
酸化銅ナノ粒子(平均一次粒子径74nm、シーアイ化成製)3.5gを超純水35mLに加え、テフロン(登録商標)製の容器に密閉したのち120℃で24時間イオン成分を抽出した。抽出液を0.2μmまたは0.02μmのフィルターでろ過した後、陽イオンおよび陰イオンクロマトグラフィーで分析した。検出されたピークを、標準液を用いて検量し各イオン性抽出物量を定量した。
測定の結果を表1にまとめた。全イオン性不純物量は1510ppmであった。
【0098】
(インクジェットインク中のイオン性不純物定量分析)
調製したインクジェットインクをテフロン(登録商標)フラスコ内で加熱して分散媒を除き真空乾燥した後、乾燥物を上記「酸化銅ナノ粒子のイオン性不純物定量分析」と同様に分析しイオン性不純物を定量した。その結果、インクジェットインク中に含まれる全イオン性不純物量は1920ppmであった。
【0099】
(インクジェット吐出試験)
インクジェットインクをインクジェット装置(MJPプリンタ、マイクロジェット製)にて吐出量90ng/滴により、5分間の連続吐出、3分間隔の間欠吐出を行いいずれも、ノズルのつまり、吐出液滴の異常なく良好な吐出を確認した。
【0100】
(インクジェット印刷試験)
インクジェットインクをインクジェット装置(MJPプリンタ、マイクロジェット製)にて、ガラス基板上に櫛状パターンの印刷を行いライン幅110μmで良好な印刷性を確認した。当該印刷パターンを図1の図面代用写真に示す。
【0101】
[実施例2]
(インクジェットインクの調製)
分散媒にγ−ブチロラクトンの変わりにNMP(N−メチルピロリドン)を用いた以外は実施例1と同様にインクジェットインクを調製した。次いで、実施例1の「イオン性不純物定量分析」と同様に、全イオン性不純物量の分析を行った。分析結果を表1に示す。
【0102】
(分散安定性)
実施例1の「分散性および分散安定性評価」と同様に1日後の粒度分布、1週間後の沈殿の発生状況と上澄みの有無を評価した。その結果、粒度分布は体積平均粒径0.07μm、d90%:0.1μmの単峰性の粒度分布を示し、分散性は良好であった。静置したインクは1週間後に沈殿や上澄みは見られず分散安定性は良好であった。
【0103】
(インクジェット印刷試験)
実施例1の「インクジェット印刷試験」と同様にインクジェット吐出試験を行い、ノズルのつまり、吐出液滴の異常なく良好な吐出を確認した。
【0104】
[実施例3]
(インクジェットインクの調製)
コア部が銅でありシェル部が酸化銅であるコア/シェル構造を有する銅ナノ粒子(平均粒子径76nm、日清エンジニアリング製)10gとγ−ブチロラクトン40gをサンプル瓶に秤量後、密栓して超音波洗浄器で60分処理しインクジェットインクを得た。
【0105】
(分散安定性)
実施例1の「分散性および分散安定性評価」と同様に1日後の粒度分布、1週間後の沈殿の発生状況と上澄みの有無を評価した。
その結果、粒度分布は体積平均粒径0.2μm、d90%:0.6μmと凝集を少量含む二峰性の粒度分布を示し、1μm以上の粗粒は無く分散性は良好であった。静置したインクは1週間後に沈殿や上澄みは見られず分散安定性は良好であった。
【0106】
(イオン性不純物定量分析)
実施例1と同様にイオン性不純物を定量した。その結果を表1にまとめた。全イオン性不純物量は473ppmであった。
【0107】
[実施例4]
(インクジェットインクの調製)
分散媒にγ−ブチロラクトンの変わりにNMPを用いた以外は実施例3と同様にインクジェットインクを調製した。
【0108】
(分散安定性)
実施例1の「分散性および分散安定性評価」と同様に、1週間後の沈殿の発生状況と上澄みの有無を評価した。その結果、静置したインクは1週間後に沈殿や上澄みは見られず分散安定性は良好であった。
【0109】
[比較例1]
(インクジェットインクの調製)
銅ナノ粒子(銅ただし自然酸化物、平均一次粒径100nm、TEKNA製) 20gとγ-ブチロラクトン80gを秤量し、実施例1の「インクジェットインクの調製」にしたがって処理しインクジェットインクを得た。
【0110】
(分散安定性)
実施例1の「分散性および分散安定性評価」と同様に1日後の粒度分布、1週間後の沈殿の発生状況と上澄みの有無を評価した。
その結果、粒度分布は体積平均粒径0.3μm、d90%:0.4μmの単峰性の粒度分布を示し、分散性は良好であった。しかし、静置したインクは1週間後に多量の沈殿と上澄みが生じ分散安定性は悪かった。
【0111】
(イオン定量分析)
実施例1と同様にイオン性不純物を定量した。その結果を表1にまとめた。全イオン性不純物量は2610ppmであった。
【0112】
[比較例2]
(インクジェットインクの調製)
分散媒にγ−ブチロラクトンの変わりにNMPを用いた以外は比較例1と同様にインクジェットインクを調製した。
(分散安定性)
実施例1の「分散性および分散安定性評価」と同様に1日後の粒度分布、1週間後の沈殿の発生状況と上澄みの有無を評価した。
その結果、粒度分布は体積平均粒径0.3μm、d90%:0.4μmの単峰性の粒度分布を示し、分散性は良好であった。しかし、静置したインクは1週間後に多量の沈殿が生じ分散安定性は悪かった。
【0113】
[比較例3]
(インクジェットインクの調製)
酸化銅ナノ粒子(酸化第二銅、平均一次粒径7.9nm、 Nano-Size Ltd.製) 20g をγ−ブチロラクトン80gに混ぜ(粒子濃度20mass%)、実施例1の「インクジェットインクの調製」と同様に処理し、インクジェットインクを得た。
【0114】
(分散安定性)
調製したインクジェットインクを実施例1の「分散性および分散安定性評価」と同様に評価した。その結果、粒度分布は体積平均粒径0.9μm、d90:1.5μmの粒度分布を示し、1μm以上の凝集を含み分散性は悪かった。静置したインクジェットインクは1週間後には上澄みが発生し分散安定性は悪かった。
【0115】
(イオン性不純物定量分析)
実施例1と同様にイオン性不純物を定量した。その結果を表1にまとめた。全イオン性不純物量は170000ppmであった。
【0116】
[比較例4]
(インクジェットインクの調製)
分散媒にN-メチルピロリドンを用いた以外は比較例3と同様にインクジェットインクを調製した。
【0117】
(分散安定性)
調製したインクジェットインクを実施例1の「分散性および分散安定性評価」と同様に評価した結果、粒度分布は体積平均粒径5.6μm、d90:14.57μmであり分散性は悪かった。静置したインクジェットインクは1週間後には上澄みが発生し分散安定性は悪かった。
【0118】
[比較例5]
(インクジェットインクの調製)
酸化銅ナノ粒子(平均一次粒子径41nm、日清エンジニアリング製)20gをγ−ブチロラクトン80gに混ぜ(粒子濃度20mass%)、実施例1の「インクジェットインクの調製」と同様に処理し、インクジェットインクを得た。
【0119】
(分散安定性)
調製したインクジェットインクを実施例1の「分散性および分散安定性評価」と同様に評価した。その結果、粒度分布は体積平均粒径15μm、d90:47μmの凝集物ピークを含む粒度分布を示し分散性は悪かった。さらに、静置したインクジェットインクは1週間後には上澄みが発生し分散安定性も悪かった。
【0120】
(イオン性不純物定量分析)
実施例1と同様にイオン性不純物を定量した。その結果を表1に示す。全イオン性不純物量は10800ppmであった。
【0121】
[比較例6]
(インクジェットインクの調製)
分散媒にN-メチルピロリドンを用いた以外は比較例5と同様にインクジェットインクを調製した。
【0122】
(分散安定性)
調製したインクジェットインクを実施例1の「分散性および分散安定性評価」と同様に評価した結果、粒度分布は体積平均粒径6μm、d90:18μm、静置したインクジェットインクは1週間後には上澄みが発生し分散安定性は悪かった。
【0123】
以上のように、種々のCu系ナノ粒子を検討した結果、イオン性不純物量の少ないCu系ナノ粒子を用いた場合に良好な分散性、分散安定性が得られた。なお、実施例1のインクジェットインクに用いたCu系ナノ粒子のイオン性不純物量は1510ppmであったのに対し、当該インクジェットインクに含まれる全イオン性不純物量は1920ppmであった。つまり、インクジェットインクの調製に際し、イオン性不純物量は、原料のCu系ナノ粒子よりも410ppm増加したところ、この増分は分散媒や分散装置、容器から混入したと推定されるが、種々のCu系ナノ粒子そのものに含まれるイオン性不純物量に比べ非常に少ないことが分かる。この事実は、他のCu系ナノ粒子を用いてインクジェットインクを調製した場合にも当てはまると考えられる。よって、原料のCu系ナノ粒子に含まれるイオン性不純物を評価し低減することが、分散安定性の評価、安定性向上に有効である。
【0124】
【表1】
分散性の評価は7日間静置後の沈殿状態を観察し、以下の評価基準に従い評価した。
(評価基準)
◎:均一に分散し,沈殿はほとんど無し
○:ほぼ分散しており、沈殿は少量
△:透明の上澄みは無いが、沈殿は多量
×:上澄みが透明で,ほとんど分散していない
【0125】
表1において、GBLはγ−ブチロラクトンを、NMPはN−メチルピロリドンを示す。表2、表3についても同様である。
【0126】
[比較例7]
(インクジェットインクの調製)
酸化銅ナノ粒子(酸化第二銅、平均粒子径74nm、 製品名:ナノテックCuO、シーアイ化成株式会社製)27gに酸化銅ナノ粒子に対し100ppmに相当する塩化ナトリウム2.7mg(和光純薬製)、γ−ブチロラクトン73g(酸化銅ナノ粒子濃度27mass%)をサンプル瓶に秤量し、実施例3と同様にインクジェットインクを調製した。
【0127】
(分散安定性)
調製したインクジェットインクを10ml蓋付き試験管に密閉し、試験管立てで静置して1週間後の沈殿の発生状況と上澄みの有無を評価した。その結果、上澄みが発生し分散安定性は悪かった。
【0128】
(イオン性不純物定量分析)
酸化銅ナノ粒子に酸化銅ナノ粒子に対し100ppm塩化ナトリウムを添加した粉体を実施例1と同様にイオン性不純物を定量した。その結果を表に示す。全イオン性不純物量は2710ppmであった。
【0129】
[比較例8]
(インクジェットインクの調製)
分散媒にN−メチルピロリドン (酸化銅ナノ粒子濃度27mass%)を用いた以外は比較例7と同様にインクジェットインクを調製した。
【0130】
(分散安定性)
調製したインクジェットインクを比較例7の「分散性および分散安定性評価」と同様に評価した結果、多量の沈殿が発生し分散安定性は悪かった。
【0131】
このように分散性、分散安定性の高いインクジェットインクにイオン性の塩化ナトリウムを100ppm添加すると分散性、分散安定性が悪化した。インクジェットインク中のイオン性不純物が分散性、分散安定性を悪化させることが分かる。
【0132】
【表2】
分散性の評価は7日間静置後の沈殿状態を観察し、以下の評価基準に従い評価した。
(評価基準)
◎:均一に分散し,沈殿はほとんど無し
○:ほぼ分散しており、沈殿は少量
△:透明の上澄みは無いが、沈殿は多量
×:上澄みが透明で,ほとんど分散していない
【0133】
[実施例5]
(インクジェットインクの調製)
比較例5で用いられている酸化銅ナノ粒子10gを超純水200gに懸濁した後、透析膜の袋に密閉した。懸濁液を入れた透析膜の袋を、超純水に浸し、24時間おきに超純水の導電率を測った後超純水を交換して、透析を行った。1ヶ月経過して導電率が一定になったところで透析を終了し、懸濁液中の水を遠心分離(15,000rpm×40min)により除き、減圧乾燥器で24時間乾燥し、イオン性不純物を除いた酸化銅ナノ粒子を得た。
該イオン性不純物を除いた酸化銅ナノ粒子0.3gとN−メチルピロリドン5gを秤量し、ビーズミル(800rpm×30min)により30分間処理しインクジェットインクを得た。
【0134】
(分散安定性)
実施例1の「分散性および分散安定性評価」と同様に1日後の粒度分布、1週間後の沈殿の発生状況と上澄みの有無を評価した。
【0135】
[イオン定量分析]
該イオン性不純物を除いた酸化銅ナノ粒子を実施例1と同様にイオン性不純物を定量した。その結果を表1にまとめた。全イオン性不純物量は255ppmであった。
このように、分散性、分散安定性の悪いCu系粒子(比較例5)からイオン性不純物を除いた後、分散させることで分散性、分散安定性が向上したことが分かる。
【0136】
【表3】
分散性の評価は7日間静置後の沈殿状態を観察し、以下の評価基準に従い評価した。
(評価基準)
◎:均一に分散し,沈殿はほとんど無し
○:ほぼ分散しており、沈殿は少量
△:透明の上澄みは無いが、沈殿は多量
×:上澄みが透明で,ほとんど分散していない
【0137】
[実施例6]
(印刷法用インク(金属ナノ粒子分散液)調製)
酸化銅ナノ粒子(酸化第二銅、平均粒子径74nm、製品名:ナノテックCuO、シーアイ化成株式会社製)27gをγ−ブチロラクトン(GBL)73g(酸化銅ナノ粒子濃度:27質量%)に添加し、超音波ホモジナイザー(US−600、日本精機株式会社製)により19.6kHz、600W、5分間処理した。この分散液を遠心分離機にて1500rpm、5分かけて粗粒を除きインクジェット方式向け印刷法用インク(金属ナノ粒子分散液)とした。
調製したインク(金属ナノ粒子分散液)の動的粘度(株式会社エー・アンド・ディー、小型振動式粘度計SV−10で測定)は、8mPa・sであり、表面張力(協和界面科学株式会社、全自動表面張力計CBVP−Zで測定)は、45mN/mであった。
【0138】
(分散性および分散安定性評価)
印刷法用インク(金属ナノ粒子分散液)調製後にレーザー散乱法粒度分布測定装置(ベックマン・コールター株式会社製、LS13 320)を用いて粒度分布を測定した。その後、10mlキャップ付き試験管に10mlのインクを取り、密栓して試験管立てで静置し、一週間後の沈殿の発生状況と上澄みの有無を目視にて評価した。
その結果、粒度分布は体積平均粒径0.07μmの粒度分布を示し、1μm以上の粗粒無く分散性は良好であった。静置したインクは1週間後に沈殿や上澄みは見られず分散安定性は良好であった。
【0139】
(ゼータ電位測定)
酸化銅ナノ粒子(平均粒子径74nm、シーアイ化成株式会社製)1.0mgをGBL100mLに加え、容器に密閉したのち超音波洗浄機により20分間処理した。この分散液(インク)を24h平衡させた後、ゼータ電位測定装置(ベックマン・コールター株式会社製、Delsa 440SX)を用いてゼータ電位を測定した。測定の結果を表4にまとめた。
【0140】
(イオン性不純物定量分析)
酸化銅ナノ粒子(平均粒子径74nm、シーアイ化成株式会社製)3.5gを超純水35mLに加え、フッ素樹脂製の容器に密閉したのち120℃で24時間イオン成分を抽出した。抽出液を0.2μmまたは0.02μmのフィルターでろ過した後、陽イオンおよび陰イオンクロマトグラフで分析した。検出されたピークを、標準液を用いて検量し各イオン性抽出物量を定量した。測定の結果を表4にまとめた。
【0141】
(インクジェット吐出試験)
印刷法用インクをインクジェット装置(MJPプリンタ、株式会社マイクロジェット製)にて吐出量90ng/滴により、5分間の連続吐出、3分間隔の間欠吐出を行い、いずれも、ノズルのつまり、吐出液滴の異常なく良好な吐出を確認した。
【0142】
(インクジェット印刷試験)
印刷法用インクをインクジェット装置(MJPプリンタ、株式会社マイクロジェット製)にて、ガラス基板上に櫛状パターンの印刷を行いライン幅110μmで良好な印刷性を確認した(図1参照、なお図中の単位はμmである)。
【0143】
[実施例7]
(印刷法用インク調製)
分散媒にGBLの代わりにN−メチルピロリドン(NMP)を用いた以外は実施例6と同様にして印刷法用インクを調製した。
調製した印刷法用インクの動的粘度(株式会社エー・アンド・ディー、小型振動式粘度計SV−10で測定)は、4.7mPa・sであり、表面張力(協和界面科学株式会社、全自動表面張力計CBVP−Zで測定)は、40mN/mであった。
(分散安定性)
実施例6の(分散性および分散安定性評価)と同様に1日後の粒度分布、一週間後の沈殿の発生状況と上澄みの有無を評価した。その結果、粒度分布は体積平均粒径0.07μmの単峰性の粒度分布を示し、分散性は良好であった。静置したインクは1週間後に沈殿や上澄みは見られず分散安定性は良好であった。
(イオン定量分析)
実施例6と同様にイオン性不純物を定量した。その結果を表4にまとめた。全イオン性不純物量は1500ppmであった。
(ゼータ電位測定)
分散媒にGBLの代わりにNMPを用いた以外は実施例6と同様に分散液のゼータ電位を測定した。測定の結果を表4に示した。
(インクジェット印刷試験)
実施例6と同様にインクジェット吐出試験を行い、ノズルのつまり、吐出液滴の異常なく良好な吐出を確認した。
【0144】
[実施例8]
(印刷法用インク調製)
酸化銅ナノ粒子の代わりにイオン性不純物低減表面酸化銅ナノ粒子(平均粒径100nm、TEKNA PLASMA INC.製)を用い、分散媒にGBLの代わりに炭酸プロピレンを用いた以外は実施例6と同様にして印刷法用インクを調製した。
調製した印刷法用インクの動的粘度(日本シイベルヘグナー株式会社、粘弾性測定装置MCR501に測定治具CP50-1を装着して測定)は、30.0mPa・sであった。
【0145】
(分散安定性)
実施例6の(分散性および分散安定性評価)と同様に1日後の粒度分布、一週間後の沈殿の発生状況と上澄みの有無を評価した。その結果、粒度分布は平均粒径0.1μmと1μmの二峰性の粒度分布を示し、90%分散粒径は400nmであった。静置したインクは1週間後に沈殿や上澄みは見られず分散安定性は良好であった。
【0146】
(イオン定量分析)
実施例6と同様にイオン性不純物を定量した。その結果を表4にまとめた。全イオン性不純物量は830ppmであった。
【0147】
(ゼータ電位測定)
分散媒にGBLの代わりに炭酸プロピレンを用いた以外は実施例6と同様に分散液のゼータ電位を測定した。ゼータ電位は−31mVであった。
【0148】
[比較例9]
(印刷法用インク調製)
銅ナノ粒子(平均粒径100nm、TEKNA PLASMA INC.製)20gと分散媒にNMPを用いた以外は実施例6と同様に処理し印刷法用インクを得た。
(分散安定性)
実施例6と同様に1日後の粒度分布、一週間後の沈殿の発生状況と上澄みの有無を評価した。
その結果、粒度分布は体積平均粒径0.3μmの粒度分布を示し、分散性は良好であった。しかし、静置した印刷法用インクは1週間後に多量の沈殿と上澄みが生じ分散安定性は悪かった。
(イオン定量分析)
実施例6と同様にイオン性不純物を定量した。その結果を表4にまとめた。全イオン性不純物量は2600ppmであった。
(ゼータ電位測定)
分散媒にGBLの代わりにNMPを用いた以外は実施例6と同様に分散液のゼータ電位を測定した。ゼータ電位は−25mVであった。
(インクジェット印刷試験)
大量の沈殿を含み、インクジェット印刷装置ノズル及びヘッドに詰まりを生じる可能性があるため、インクジェット印刷試験は実施しなかった。
【0149】
[比較例10]
(分散液調製)
酸化銅ナノ粒子(平均粒径41nm、日清エンジニアリング株式会社製)20gと分散媒にNMP80gを用いた以外は実施例6と同様にして分散液を調製した。
(分散安定性)
実施例6と同様に1日後の粒度分布、一週間後の沈殿の発生状況と上澄みの有無を評価した。
その結果、粒度分布は平均粒径6μmの粒度分布を示し、静置したインクは1週間後に多量の沈殿と上澄みが生じ分散安定性は悪かった。
(イオン定量分析)
実施例6と同様にイオン性不純物を定量した。その結果を表4にまとめた。全イオン性不純物量は11000ppmであった。
(ゼータ電位測定)
分散媒にGBLの代わりにNMPを用いた以外は実施例6と同様にして分散液のゼータ電位を測定した。ゼータ電位は−16mVであった。
(インクジェット印刷試験)
大量の沈殿を含み、インクジェット印刷装置ノズル及びヘッドに詰まりを生じる可能性があるため、インクジェット印刷試験は実施しなかった。
【0150】
[比較例11]
(分印刷法用インク調製)
銅ナノ粒子(銅但し、自然酸化物、平均粒径100nm、TEKNA PLASMA INC.製)5g、GBL20gを用いた以外は実施例6と同様にして印刷法用インクを調製した。
(分散安定性)
実施例6と同様に1日後の粒度分布、一週間後の沈殿の発生状況と上澄みの有無を評価した。
その結果、体積粒度分布は平均粒径0.1μmの粒度分布をしめし、1μm以上の粗粒は無く分散性は良好であった。静置したインクは一週間後には多量の沈殿が発生し、分散安定性は不良であった。
(イオン性不純物定量分析)
実施例6と同様にイオンクロマトグラフを用い、イオン性不純物量を定量した。結果を表4に示した。
(ゼータ電位測定)
実施例6と同様に分散液のゼータ電位を測定した。ゼータ電位は−57mVであった。
(インクジェット印刷試験)
大量の沈殿を含み、インクジェット印刷装置ノズル及びヘッドに詰まりを生じる可能性があるため、インクジェット印刷試験は実施しなかった。
【0151】
以上のように、種々のCu系ナノ粒子を検討した結果、イオン性不純物量が少なく、ゼータ電位の絶対値が大きい場合に良好な分散安定性が得られた。
【0152】
【表4】
【0153】
表4からわかるように、実施例6及び実施例7はゼータ電位の絶対値が30mV以上、イオン性不純物量は1600ppm以下であり、分散安定性が良好であった。
一方、比較例9及び10は、イオン性不純物量が1600ppmを超えており、かつゼータ電位の絶対値が30mVより小さいため、分散安定性は不良であった。
比較例11はゼータ電位の絶対値は30mV以上であったが、イオン性不純物量が1600ppmを超えているため、分散安定性は不良であった。
【0154】
[実施例10
(配線パターンの形成及び導体化)
実施例6又は実施例7の印刷法用インク(金属ナノ粒子分散液)をインクジェット装置(MJPプリンタ、株式会社マイクロジェット製)にて、ガラス基板上に配線パターン(ライン幅110μm、厚み1μm)を形成した。還元性ガス(ギ酸)雰囲気下において、180℃、30分間加熱し、還元処理し、配線パターンを導体化した。
導体化した配線パターンをカスタム社製デジタルマルチテスタCDM−11Dで測定した。その結果、配線抵抗から計算した体積抵抗率は、実施例1の印刷法用インク(金属ナノ粒子分散液)を用いた場合は、3×10−8Ω・mであり、実施例2の印刷法用インク(金属ナノ粒子分散液)を用いた場合は、4×10−8Ω・mであった。
【0155】
[実施例1117、比較例12〜17]
(印刷法用インクの調製)
実施例または比較例ごとに各金属ナノ粒子を各分散媒に混合した。分散媒の種類を表5に示す。また、金属ナノ粒子の種類及び混合時の金属ナノ粒子と分散媒の質量を表6に示す。上記混合物を株式会社日本精機製作所製超音波ホモジナイザUS−600CCVPで出力600W、振動数19.5kHz、振幅値26.5μmで5分間処理し、50mlの遠心沈殿管に35g秤量し、1500回転で4分間遠心分離処理を行い、その上澄みを印刷法用インクとした金属ナノ粒子は、Cu1(NanoTek CuO、CIKナノテック社製、比表面積12m/g、一次粒子径 75nm、酸化銅)、Cu2(CuO−MIX40、NanoSize社製、比表面積130m/g、一次粒子径 10nm、酸化銅)を用いた。
【0156】
(分散性の評価方法)
なお、分散性の評価は、まず、遠心分離処理前の各金属ナノ粒子分散液を30分静置し、沈殿の有無を目視で評価した。沈殿の発生のない分散性良好なものは、遠心分離処理後、レーザ回折散乱粒度分布測定装置(ベックマンコールター株式会社製、LS 13 320)で粒度分布測定を行った。
以下の評価基準に従って分散性を評価した。結果を表7に示す。
【0157】
(L/D値)
調製した印刷法用インクの中の金属ナノ粒子の体積及び印刷法用インクの体積を、各々の質量を密度で除することにより算出し、F値を求めた。さらに、下記式より、L(nm)を求め、そしてL/Dの値を求めた。結果を表7に示した。
L(nm)=D/2+Ls(nm)
Ls(nm)=D×[(1/3×π×F+5/6)0.5−1]
F=印刷法用インク中の金属ナノ粒子の体積/印刷法用インクの体積
【0158】
(分散性の評価基準)
◎:平均粒径300nm未満、最大粒径800nm未満
○:平均粒径300nm〜800nm、最大粒径800〜2000nm
△:30分静置後、沈殿発生無し
×:30分静置後、沈殿発生
【0159】
(導電性の評価)
得られた印刷法用インクをギャップ150μmのアプリケータを用いてスライドガラス上に塗布し、窒素雰囲気下60℃のホットプレート上で30分乾燥し塗布基板を得た。塗布基板を図2のような構造のホットワイヤ法原子状水素処理装置にセットし、水素0.118Pa・m/s、タングステンワイヤ温度1800℃、圧力5.3Pa、ステージ温度(基板保持部の温度)44℃の条件で20分間還元処理を行い、タングステンワイヤへの通電と水素を止めて10分間冷却した後常圧に戻して処理された印刷法用インク塗布基板を取り出した。処理前は黒色であった塗布基板は、処理後赤銅色となった(図4参照)。処理後の塗布基板をFIB(集束イオンビーム)装置により切削加工し断面をSIM(走査イオン像)観察により膜厚を測定した。四探針法微小抵抗測定装置(Loresta MCP−T610,三菱化学株式会社製)にて膜の表面抵抗率を測定し、膜厚の測定値を用いて表面抵抗率の測定値を体積抵抗率に換算し、その値が10−5Ω・m以下であれば導電性は○、10−5Ω・mを超える場合、導電性は×と評価した。結果を表7に示す。
【0160】
【表5】
【0161】
【表6】
【0162】
【表7】
【0163】
表7に示すように、1.6≦L/D≦3.5の関係を満足し、ハンセン溶解度パラメータにおける極性項が11MPa0.5以上である分散媒を使用し、分散剤を用いず調整した実施例1117の印刷法用インクは、いずれも、分散性に優れ、また、この印刷法用インクにより形成した配線は、280℃以下の低温(44℃)で電気導電性の付与(還元処理)を行っても、導電性に問題ないことがわかった。
【0164】
<炭素含有量>
以上の各実施例及び比較例において、印刷法用インク中の全固形分中の炭素原子の含有量を得るため、各実施例中の酸化銅ナノ粒子や銅ナノ粒子の炭素原子を、高周波誘導加熱燃焼−赤外線吸収法(株式会社堀場製作所製のEMIA-Vシリーズを使用)により測定した。
【0165】
[実施例1、2、6、7、17、比較例7、8、12〜17]
これらの実施例・比較例において使用された酸化銅ナノ粒子(酸化第二銅、平均一次粒
子径74nm、製品名:ナノテックCuO、シーアイ化成株式会社製)の炭素原子含有量
は0.15mass%であった。
【0166】
[実施例3、4]
これらの実施例において使用されたコア部が銅でありシェル部が酸化銅であるコア/シェル構造を有する銅ナノ粒子(平均粒子径76nm、日清エンジニアリング製)の炭素原子含有量0.04mass%であった。
【0167】
[実施例8、比較例9、11
これらの実施例・比較例において使用されたイオン性不純物低減表面酸化銅ナノ粒子(平均粒径100nm、TEKNA PLASMA INC.製)の炭素原子含有量は0.38mass%であった。
【0168】
較例3、
これらの比較例において使用された酸化銅ナノ粒子(酸化第二銅、平均一次粒径7.9nm、 Nano-Size Ltd.製)の炭素原子含有量は不明である。
【0169】
[比較例1、2、9]
これらの比較例において使用された銅ナノ粒子(銅ただし自然酸化物、平均一次粒径100nm、TEKNA製)の炭素原子含有量0.82mass%であった。
【0170】
実施例5、比較例5、6、10
これらの実施例・比較例において使用された酸化銅ナノ粒子(平均一次粒子径41nm、日清エンジニアリング製)の炭素原子含有量は、0.13mass%であった。
【0171】
以上の結果から、炭素源となる分散剤や保護剤を使用しない各実施例においては、上記炭素原子含有量がそのまま印刷法用インクの炭素原子含有量となると考えられ、すなわち炭素含有量は0.4mass%以下である。
【符号の説明】
【0172】
01 ホットワイヤ法原子状水素処理装置
02 ガス導入口
03 シャワーヘッド
04 排気口
05 基板保持部
06 温度調整機
07 触媒体
08 シャッター
09 基板
10 11 配線
12 金属ナノ粒子
13 基板
14 配線
15 無電解めっき層及び/又は電解めっき層
図2
図3
図4
図1
図5