特許第5903889号(P5903889)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5903889
(24)【登録日】2016年3月25日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】ハードコートフィルム及び前面保護板
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20160331BHJP
【FI】
   B32B27/30 A
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2011-538750(P2011-538750)
(86)(22)【出願日】2011年9月1日
(86)【国際出願番号】JP2011069901
(87)【国際公開番号】WO2012029905
(87)【国際公開日】20120308
【審査請求日】2014年8月19日
(31)【優先権主張番号】特願2010-196432(P2010-196432)
(32)【優先日】2010年9月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱レイヨン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】鍋島 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】庄子 恵子
(72)【発明者】
【氏名】舟見 英太
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−111465(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/007720(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/033998(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00〜 43/00
C08F220/00〜220/70
C08J 5/00〜 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるジ(メタ)アクリレート(A)単位とモノ(メタ)アクリレート(B)単位を含む重合体(C)を含有する基材フィルムの少なくとも一方の表面に、分子内に(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する多官能性(メタ)アクリル化合物(D)を含有する硬化性樹脂組成物から形成されたハードコート層が積層されたハードコートフィルム。
【化1】
〔上記式(1)中、Xは、ポリアルキレングリコール残基、ポリエステルジオール残基及びポリカーボネートジオール残基から選ばれる少なくとも1種の数平均分子量500以上のジオール残基を示し、Rは、H又はCHを示す。〕
【請求項2】
前記ハードコート層が、分子内に(メタ)アクリロイル基を2つ以上含む多官能性(メタ)アクリル化合物(D)及び光重合開始剤を含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(E)を硬化させた層であることを特徴とする請求項1に記載のハードコートフィルム。
【請求項3】
前記ハードコート層の厚みが1〜20μmであることを特徴とする請求項1に記載のハードコートフィルム。
【請求項4】
前記ハードコート層の厚みが1〜20μmであることを特徴とする請求項2に記載のハードコートフィルム。
【請求項5】
前記基材フィルムを構成する重合体(C)を得るための単量体原料(c)として、ジ(メタ)アクリレート(A)及びモノ(メタ)アクリレート(B)を含有する単量体混合物中に、ジ(メタ)アクリレート(A)及びモノ(メタ)アクリレート(B)を含有する単量体混合物の一部が重合した共重合体を溶解させたシラップ状物(c’)を使用することを特徴とする請求項1に記載のハードコートフィルムの製造方法
【請求項6】
前記シラップ状物(c’)の粘度が100〜8000mPa・sであることを特徴とする請求項5に記載のハードコートフィルムの製造方法
【請求項7】
厚みが50〜500μmであることを特徴とする請求項1〜のいずれかの一項に記載のハードコートフィルム。
【請求項8】
厚みが50〜500μmであることを特徴とする請求項5又は6に記載のハードコートフィルムの製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載のハードコートフィルムからなる前面保護板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハードコートフィルム及び前面保護板に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイパネル、プラズマディスプレイパネル、及びカーナビディスプレイパネル等の各種ディスプレイ用フィルム、並びに、携帯情報端末等のタッチパネルフィルム等として、基材フィルムにハードコート層が積層されたハードコートフィルムが利用されている。上記ハードコートフィルムの基材フィルムとしてはポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、及びポリオレフィンフィルム等の透明フィルムが用いられている。
【0003】
また、前記ハードコートフィルムのハードコート層としては耐擦傷性や耐磨耗性に優れたものが用いられており、例えば、多官能性(メタ)アクリル化合物を含有する活性エネルギー線硬化性組成物を硬化させた層が知られている。ハードコート層形成用原料として多官能性(メタ)アクリル化合物を含有する組成物を使い、基材フィルムとしてポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、トリアセチルセルロースフィルム又はポリオレフィンフィルムを用いた場合、基材フィルムとハードコート層との間に屈折率差が生じる。
【0004】
このため、ハードコートフィルムをタッチパネル等の光学用途のハードコートフィルムとして使用する場合、基材フィルム層とハードコート層との屈折率差により両層間での光の反射や屈折が生じ、ハードコートフィルムの透明性やハードコートフィルムの下面の画像等の視認性が低下する。また、ポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム等の複屈折が大きいフィルムを基材フィルムとして用いた場合には、ハードコートフィルム中に輝度斑が出現し、ハードコートフィルムの下面の画像の視認性が更に低下する。
【0005】
上記問題を解決するために、例えば特許文献1には、メタクリル樹脂中にゴム粒子が分散したアクリル系樹脂層を含み、100μm以上1800μm以下の厚みを有するアクリル系樹脂フィルムの表面に、硬化性塗料を硬化させて得られる耐擦傷性被膜が形成されてなることを特徴とする、耐擦傷性アクリル系樹脂フィルムが提案されている。しかしながら、特許文献1のアクリル系樹脂フィルムは、メタクリル樹脂中にゴム粒子が分散しており、フィッシュアイ、ダイライン等の外観不良を有し易いことから、ゴム粒子等の粒子状物を含有せず、外観、耐擦傷性、及び耐衝撃性又は表面硬度に優れ、高い透明性を有するハードコートフィルムの出現が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−143365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、外観が良好で、透明性、耐衝撃性、及び耐擦傷性又は表面硬度に優れたハードコートフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記式(1)で表されるジ(メタ)アクリレート(A)単位とモノ(メタ)アクリレート(B)単位を含む重合体(C)を含有する基材フィルムの少なくとも一方の表面にハードコート層が積層されたハードコートフィルムである。
【0009】
【化1】
上記式(1)中、Xは、ポリアルキレングリコール残基、ポリエステルジオール残基及びポリカーボネートジオール残基から選ばれる少なくとも1種の数平均分子量(Mn)500以上のジオール残基を示し、Rは、H又はCHを示す。
【0010】
また本発明は、前記のハードコートフィルムからなる前面保護板である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のハードコートフィルムは、外観が良好で、透明性、耐衝撃性、及び耐擦傷性又は表面硬度に優れていることから、液晶ディスプレイパネル、プラズマディスプレイパネル及びカーナビディスプレイパネル等の各種ディスプレイ用フィルム、並びに携帯情報端末等のタッチパネルフィルム等の光学用ハードコートフィルムとして好適である。本発明のハードコートフィルムは、各種ディスプレイ及び携帯情報端末等の前面保護板として使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を説明する。本発明において、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」及び「メタクリレート」の一方または両方を意味する。
【0013】
<ジ(メタ)アクリレート(A)単位>
本発明において、ジ(メタ)アクリレート(A)単位は式(1)で示され、基材フィルムを構成する重合体(C)の構成単位の1つである。ジ(メタ)アクリレート(A)単位は下記式(2)で示される単量体を重合することにより重合体中に導入される。
【0014】
【化2】
上記式(2)中、Xは、ポリアルキレングリコール残基、ポリエステルジオール残基及びポリカーボネートジオール残基から選ばれる少なくとも1種の数平均分子量(Mn)500以上のジオール残基を示し、Rは、H又はCHを示す。
【0015】
ジ(メタ)アクリレート(A)単位は、本発明のハードコートフィルムの透明性及び耐衝撃性を向上させるためのものである。ジ(メタ)アクリレート(A)単位を用いることによって、重合体(C)中に柔軟性に富んだ長鎖分子の架橋構造が導入される。
【0016】
式(1)中のジオール残基のMnは500〜10000が好ましく、600〜3000がより好ましい。ジオール残基のMnを500以上とすることにより本発明のハードコートフィルムの耐衝撃性を良好とすることができる。また、本発明のハードコートフィルムの透明性の点で、ジオール残基のMnとしては10,000以下が好ましい。
【0017】
本発明のハードコートフィルムを光学部材用途に使用する場合、Xとしては、疎水性の高いポリアルキレングリコール残基が好ましく、特に疎水性が最も高いポリブチレングリコール残基が好ましい。
【0018】
Xの構造としては、単独構造単位の繰返し又は2以上の構造単位の繰返しのいずれでも良い。また、Xの構造が2以上の構造単位の繰返しの場合、その構造単位の並び方は、各構造単位がランダムに存在するもの、各構造単位がブロックで存在するもの、又は、各構造単位が交互に存在するもののいずれであっても良い。
【0019】
ジ(メタ)アクリレート(A)単位を構成するための原料であるジ(メタ)アクリレート(A)としては、例えば以下のものが挙げられる。ドデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の繰り返し単位数が12以上のポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート;ノナプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、デカプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ウンデカプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ドデカプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリデカプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の繰り返し単位数が9以上のポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート;及びヘプタブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、オクタブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、デカブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ウンデカブチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の繰り返し単位数が7以上のポリブチレングリコールジメタクリレート。これらは単独で又は2種以上を併せて使用することができる。
【0020】
ジ(メタ)アクリレート(A)の具体例としては、例えば以下のもの(いずれも商品名)が挙げられる。三菱レイヨン(株)製のアクリエステルPBOM(ポリブチレングリコールジメタクリレート、XのMn:648)、日油(株)製のブレンマーPDE−600(ポリエチレングリコールジメタクリレート、XのMn:616)、ブレンマーPDP−700(ポリプロピレングリコールジメタクリレート、XのMn:696)、ブレンマーPDT−650(ポリテトラメチレングリコールジメタクリレート、XのMn:648)、ブレンマー40PDC1700B(ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールのランダム共重合体ジメタクリレート、XのMn:1704)及びブレンマーADE−600(ポリエチレングリコールジアクリレート、XのMn:616)、並びに、新中村化学工業(株)製のNKエステルA−600(ポリエチレングリコールジアクリレート、XのMn:616)、NKエステルA−1000(ポリエチレングリコールジアクリレート、XのMn:1012)、NKエステルAPG−700(ポリプロピレングリコールジアクリレート、XのMn:696)、NKエステル14G(ポリエチレングリコールジメタクリレート、XのMn:616)及びNKエステル23G(ポリエチレングリコールジメタクリレート、XのMn:1012)。
【0021】
<モノ(メタ)アクリレート(B)単位>
本発明において、モノ(メタ)アクリレート(B)単位は基材フィルムを構成する重合体(C)の構成単位の1つである。モノ(メタ)アクリレート(B)単位は、本発明のハードコートフィルムの表面硬度を高くするために重合体(C)中に導入される。
【0022】
モノ(メタ)アクリレート(B)単位を構成するための原料であるモノ(メタ)アクリレート(B)としては、例えば以下のものが挙げられる。メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソ−プロピル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート;及びイソボルニル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、1−アダマンチル(メタ)アクリレート、2−メチル−2−アダマンチル(メタ)アクレート、2−エチル−2−アダマンチル(メタ)アクリレート等の脂環式(メタ)アクリレート。これらは単独で又は2種以上を併せて使用することができる。これらの中で、本発明のハードコートフィルムの透明性の点でメチルメタクリレートが好ましい。
【0023】
本発明においては、重合体(C)中には、必要に応じてジ(メタ)クリレート(A)単位及びモノ(メタ)アクリレート(B)単位以外の、その他のビニル単量体単位を含むことができる。その他のビニル単量体としては、例えば以下のものが挙げられる。スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基含有ビニル単量体等のモノビニル単量体;及びエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート(A)以外のポリビニル単量体。これらは単独で又は2種以上を併せて使用することができる。
【0024】
重合体(C)を得る方法としては、例えば、塊状重合法、溶液重合法、乳化重合法及び懸濁重合法が挙げられる。重合体(C)の重合手段としては、活性エネルギー線重合法、熱重合法、及び活性エネルギー線重合法と熱重合法の併用のいずれの手段でもよい。
【0025】
〔単量体原料(c)〕
重合体(C)を得るための単量体原料(以下、「単量体原料(c)」という)中には光重合開始剤及び熱重合開始剤等の重合開始剤が配合される。
【0026】
光重合開始剤としては、例えば以下のものが挙げられる。1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、メチルフェニルグリオキシレート、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1−フェニル−1,2−プロパン−ジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、2−メチル[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−1−プロパノン、ベンジル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2−クロロチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2−メチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド及びベンゾイルジメトキシフォスフィンオキサイド。これらは単独で又は2種以上を併せて使用することができる。
【0027】
熱重合開始剤としては、例えば以下のものが挙げられる。ベインゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート等の有機過酸化物系重合開始剤;及び2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系重合開始剤。これらは単独で又は2種以上を併せて使用することができる。
【0028】
単量体原料(c)中の重合開始剤の添加量としては、単量体原料(c)100質量部に対して0.005〜5質量部が好ましく、0.01〜1質量部がより好ましく、0.05〜0.5質量部が特に好ましい。重合開始剤の添加量が5質量部以下であれば、重合体(C)の着色を抑制することができる。また、重合開始剤の添加量が0.005質量部以上であれば、重合時間が長すぎず適正な重合時間とすることができる。
【0029】
〔シラップ状物(c’)〕
本発明においては、単量体原料(c)として、ジ(メタ)アクリレート(A)及びモノ(メタ)アクリレート(B)を含有する単量体混合物中に、この単量体混合物と同様の単量体混合物の一部が重合した共重合体を溶解させたシラップ状物(c’)を使用することができる。
【0030】
シラップ状物(c’)の粘度としては10〜10,000mPa・sが好ましく、100〜8,000mPa・sがより好ましく、300〜6,000mPa・sが特に好ましい。
【0031】
シラップ状物(c’)は、前記単量体原料(c)中の一部の単量体を重合させることによって調製することができる。以下この方法を「シラップ調製方法1」という場合がある。シラップ状物(c’)の調製方法としては、例えば、冷却管、温度計及び攪拌機を備えた反応器中に、ジ(メタ)アクリレート(A)、モノ(メタ)アクリレート(B)、必要に応じてその他の単量体、及び連鎖移動剤を仕込み、撹拌しながら加熱を開始し、所定温度になった時点で重合開始剤を添加し、反応器内の温度を一定にして所定時間保持して重合を進行させた後、減圧冷却等によって室温付近まで急冷して重合を停止させる方法が挙げられる。
【0032】
シラップ状物(c’)の重合に使用される重合開始剤としては、例えば、単量体原料(c)の重合に使用される重合開始剤と同様のものが挙げられる。また、重合開始剤の添加量としては、例えば、シラップ状物(c’)中の単量体混合物の合計量100質量部に対して0.01〜0.5質量部程度である。
【0033】
シラップ状物(c’)を得る際には、重合体の架橋ゲル化を防ぐ目的で必要に応じて連鎖移動剤を添加することができる。連鎖移動剤としては、例えば、n−ブチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン等のアルキルメルカプタンが挙げられる。連鎖移動剤の添加量としては、単量体混合物の合計量100質量部に対して0.01〜10質量部が好ましく、0.05〜5質量部がより好ましい。連鎖移動剤の添加量が0.01質量部以上でシラップ状物(c’)のゲル化が抑制される。また連鎖移動剤の添加量が10質量部以下でシラップ状物(c’)の粘度が適正なレベルとなる。
【0034】
本発明においては、シラップ状物(c’)の着色や自然硬化を避けるために必要に応じて重合禁止剤を添加することができる。重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール及び2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノールが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併せて使用することができる。
【0035】
また、上記のシラップ状物(c’)は、前記単量体混合物中に、前記単量体混合物と同様の単量体混合物等から得られた共重合体を添加することによって調製することができる。以下この方法を「シラップ調製方法2」という場合がある。例えば、ジ(メタ)アクリレート(A)及びモノ(メタ)アクリレート(B)を含有する単量体混合物に溶解可能な(メタ)アクリレート重合体を、この単量体混合物中に溶解させてシラップ状物(c’)を得る方法が挙げられる。上記の(メタ)アクリレート重合体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i―ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレートを重合して得られるポリアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併せて使用することができる。この(メタ)アクリレート重合体は、必要に応じてアルキル(メタ)アクリレート単位以外の単量体単位を含むことができる。なお、本発明において、重合は、単独重合と共重合の両方を含む。
【0036】
本発明においては、単量体原料(c)中には必要に応じて離型剤を配合することができる。離型剤の配合量としては、単量体原料(c)100質量部に対して0.005〜0.5質量部が好ましい。離型剤の配合量が0.005質量部以上であれば、基材フィルムをポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムやステンレス板等の鋳型から剥離する際の離型性が良好となる。また、離型剤の配合量が0.5質量部以下であれば、本発明のハードコートフィルムの吸水性や表面状態が良好となる。
【0037】
離型剤としては、例えば、日本サイテックインダストリーズ(株)製のSOLUSOL(登録商標)100% Cosmetic Grade Surfactant(商品名、スルホ琥珀酸ジ(2−エチルヘキシル)ナトリウム)及び城北化学工業(株)製のJP−502(商品名、リン酸ジエチルエステル50モル%及びリン酸モノエチルエステル50モル%の混合物)が挙げられる。
【0038】
<重合体(C)>
本発明のハードコートフィルムにおいて、重合体(C)は、ジ(メタ)アクリレート(A)単位及びモノ(メタ)アクリレート(B)単位を含む重合体であって、基材フィルムを構成する重合体であり、ハードコートフィルムに透明性及び耐衝撃性を付与するための成分である。
【0039】
重合体(C)中のジ(メタ)アクリレート(A)単位の含有量としては、耐衝撃性の観点で、10〜90質量%が好ましく、20〜80質量%がより好ましく、30〜70質量%が特に好ましい。ジ(メタ)アクリレート(A)単位の含有量が10質量%以上であれば、本発明のハードコートフィルムの耐衝撃性が良好となる。また、一方、ジ(メタ)アクリレート(A)単位の含有量が90質量%以下であれば、本発明のハードコートフィルムの強度低下を抑制できる。
【0040】
重合体(C)中のモノ(メタ)アクリレート(B)単位の含有量としては、本発明のハードコートフィルムの強度の観点で、10〜90質量%が好ましく、20〜80質量%がより好ましく、30〜70質量%が特に好ましい。モノ(メタ)アクリレート(B)単位の含有量が10質量%以上であれば、本発明のハードコートフィルムの強度が良好となる。また、一方、ジ(メタ)アクリレート(B)単位の含有量が90質量%以下であれば、本発明のハードコートフィルムの耐衝撃性の低下を抑制できる。
【0041】
尚、本発明のハードコートフィルムの耐衝撃性と表面硬度はトレードオフの関係にあり、重合体(C)の組成、並びに、ハードコート層の組成及び厚み、に影響される。このため、本発明のハードコートフィルムの耐衝撃性を重視する場合には、重合体(C)中のジ(メタ)アクリレート(A)単位の含有量を多くすることが好ましい。一方、本発明のハードコートフィルムの表面硬度を重視する場合には、重合体(C)中のジ(メタ)クリレート(A)単位の含有量を少なくすることが好ましい。
【0042】
<基材フィルム>
本発明において、基材フィルムは重合体(C)を含有するフィルムである。基材フィルム中には、必要に応じて滑剤、可塑剤、抗菌剤、防カビ剤、光安定剤、紫外線吸収剤、ブルーイング剤、染料、帯電防止剤、熱安定剤等の各種添加剤を添加することができる。
【0043】
基材フィルムの製造方法としては、例えば、以下の「バッチ式注型重合法」が挙げられる。まず、ステンレス板、ガラス板等の表面が鏡面又は凹凸を有する型を2枚、所定間隔をもって対向させて、2枚の型の周囲に軟質ポリ塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合物、ポリエチレン、エチレン−メタクリル酸メチル共重合物等の重合体で形成された中空形状物をガスケットとしてはさみ込み、クランプで固定して鋳型を形成する。次いで、この鋳型の中に単量体原料(c)を注入し、単量体原料(c)を重合させる。重合後に鋳型から重合物を取り出して基材フィルムを得る。
【0044】
また、基材フィルムの別の製造方法として、以下の「連続注型重合法」が挙げられる。所定間隔をもって対向して走行する2枚のPETフィルム等のフィルムを型として用い、また、型の両側面にガスケットを走行させることによって、鋳型を形成する。この走行する鋳型は、その上流が単量体原料(c)の注入部であり、下流が重合部である。鋳型の上流においてシラップ状物(c’)を注入し、鋳型の下流において型の上面及びまたは下面から加熱または光照射して、単量体原料(c)を重合させる。得られた重合物を型から剥離することによって基材フィルムが得られる。尚、シラップ状物(c’)の粘度が100〜8,000mPa・sである場合、厚み精度に優れる基材フィルムが得られる。
【0045】
<ハードコート層>
本発明において、ハードコート層は基材フィルムの少なくとも一方の表面に積層されている。
【0046】
ハードコート層を形成するための材料としては、例えば、分子内に(メタ)アクリロイル基を2つ以上有する多官能性(メタ)アクリル化合物(D)及び光重合開始剤を含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(E)が挙げられる。多官能性(メタ)アクリル化合物(D)としては、例えば、1モルの多価アルコールと2モル以上の(メタ)アクリル酸又はその誘導体とから得られるエステル化物;及び、多価カルボン酸又はその無水物と多価アルコールと(メタ)アクリル酸又はその誘導体とから得られる線状のエステル化物が挙げられる。
【0047】
1モルの多価アルコールと2モル以上の(メタ)アクリル酸又はその誘導体とから得られるエステル化物の具体例としては、例えば以下のものが挙げられる。ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート;1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート;ペンタグリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート;グリセリントリ(メタ)アクリレート;ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート;トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート及びトリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート。
【0048】
多価カルボン酸又はその無水物と多価アルコールと(メタ)アクリル酸又はその誘導体とから得られる線状のエステル化物において、多価カルボン酸又はその無水物と多価アルコールと(メタ)アクリル酸の組み合わせ(多価カルボン酸又はその無水物/多価アルコール/(メタ)アクリル酸)としては、例えば以下のものが挙げられる。マロン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸;コハク酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸;アジピン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸;グルタル酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸;セバシン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸;フマル酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸;イタコン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸;無水マレイン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸及び無水マレイン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸。
【0049】
上記の多官能性(メタ)アクリル化合物(D)以外の多官能性(メタ)アクリル化合物としては、例えば以下のものが挙げられる。トリメチロールプロパントルイレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等のジイソシアネートを三量化等の多量化して得られるポリイソシアネートに、イソシアネート基と等モル以上となる量の2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシ(メタ)アクリルアミド、1,2,3−プロパントリオール−1,3−ジ(メタ)アクリレート、3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の活性水素を有する(メタ)アクリレートを反応させて得られるウレタン(メタ)アクリレート;トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸のジ(メタ)アクリレート又はトリ(メタ)アクリレート等のポリ[(メタ)アクリロイルオキシエチレン]イソシアヌレート及びエポキシポリ(メタ)アクリレート。これらの多官能性(メタ)アクリル化合物は単独で又は2種以上を併せて使用することができる。
【0050】
光重合開始剤は、光照射によって多官能(メタ)アクリル化合物(D)を重合する機能を有し、例えば以下のものが挙げられる。ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトイン、ブチロイン、トルオイン、ベンジル、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、α,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルグリオキシレート、4,4'−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン等のカルボニル化合物;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等の硫黄化合物;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド;及びベンゾイルジエトキシフォスフィンオキサイド。これらは単独で又は2種以上を併せて使用することができる。
【0051】
光重合開始剤の添加量としては、活性エネルギー線による硬化性の観点で多官能性(メタ)アクリル化合物(D)100質量部に対して0.1質量部以上が好ましい。また、光重合開始剤の添加量としては、ハードコート層の良好な色調を維持する観点で多官能性(メタ)アクリル化合物(D)100質量部に対して10質量部以下が好ましい。
【0052】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(E)には、必要に応じて、分子中に1つの官能基を有する単量体、レベリング剤、導電性無機微粒子、導電性を有さない無機微粒子、紫外線吸収剤、光安定剤等の各種成分を含有することができる。各種成分の添加量としては、得られるハードコート層の物性が損なわれない範囲で適宜選択でき、例えば、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(E)中に10質量%以下程度である。
【0053】
<ハードコートフィルム>
本発明のハードコートフィルムは、基材フィルムの少なくとも一方の表面にハードコート層が積層されたものである。ハードコートフィルムは、50〜500μmの厚みを有することが好ましい。ハードコートフィルムの厚みが50μm以上であれば膜厚精度の良好なハードコートフィルムを得ることができ、500μm以下であれば光学用ハードコートフィルムとして好適に使用することができる。本発明のハードコートフィルムは、各種ディスプレイ及び携帯情報端末等の前面保護板として使用できる。
【0054】
本発明のハードコートフィルムにおいて、ハードコート層は活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(E)を硬化させた層であることが好ましい。また、ハードコート層の厚みは、1〜20μmが好ましい。ハードコート層の厚みは耐衝撃性及び表面硬度に影響する。このため、本発明のハードコートフィルムの表面硬度を重視する場合には、ハードコート層の厚みを大きくすることが好ましい。一方、本発明のハードコートフィルムの耐衝撃性を重視する場合には、ハードコート層の厚みを小さくすることが好ましい。
【0055】
ハードコート層を基材フィルム上に積層する方法としては、例えば、基材フィルムの上にハードコート層形成材料を直接塗布した後にハードコート層形成材料を硬化する方法(以下「積層方法1」という場合がある。)が挙げられる。また前記の鋳型を使用して注型重合により基材フィルムを製造する際に、以下のステップ(1)〜(3)によってハードコート層を基材フィルム上に積層する方法(以下「積層方法2」という場合がある。)が挙げられる。
(1)先ず、鋳型の少なくとも一方の内面にハードコート層形成材料を塗布し、これ重合硬化させて鋳型の少なくとも一方の内面にハードコート層を形成させる。
(2)次いで、この鋳型のキャビティ内に単量体原料(c)を注入して単量体原料(c)を重合させて重合体(C)(即ち、基材フィルム)を得る。尚、この重合体(C)(基材フィルム)が生成される際に、前記ハードコート層が基材フィルムに転写される。
(3)基材フィルムにハードコート層が転写されたハードコートフィルムを鋳型から剥離する。
【0056】
本発明において、ハードコート層形成材料として活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(E)を使用する場合の硬化方法としては、例えば、空気雰囲気下で活性エネルギー線を照射して活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(E)を硬化させる方法、及び、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(E)の塗膜上にフィルムを被せて空気を遮断させた状態で活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(E)を硬化させる方法が挙げられる。
【0057】
活性エネルギー線としては、例えば、紫外線及び電子線が挙げられる。活性エネルギー線として紫外線を使用する場合には、活性エネルギー線源としては、例えば、紫外線ランプが挙げられる。紫外線ランプの具体例としては、高圧水銀灯、メタルハライドランプ及び蛍光紫外線ランプが挙げられる。活性エネルギー線照射による活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(E)の硬化法としては、1段階で硬化する方法、又は、前硬化及び後硬化等を含む多段階硬化による方法のいずれでもよい。
【0058】
本発明のハードコートフィルムには、ハードコート層を設けた表面の逆の表面に機能層として粘着層、反射防止機能層、防眩層、防汚層など各種機能層を設けることができる。
【0059】
<粘着層付ハードコートフィルム>
粘着層付のハードコートフィルムは、ハードコートフィルムが50〜500μmの厚さを有し、粘着層が50〜300μmの厚さを有することが好ましい。粘着層は、50μm以上の厚さであれば十分な粘着性能を発揮し、300μm以下の厚さであれば光学用途に適した透明性を得ることができる。
【0060】
粘着層を形成するための粘着層形成材料としては、例えば、アクリル酸系誘導体(F)、アクリル酸系誘導体ポリマー(G)、ジ(メタ)アクリレート(A)および光重合開始剤を含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(H)が挙げられる。
【0061】
アクリル酸系誘導体(F)としては、アクリル酸又はメタクリル酸、それらの誘導体等であって、例えば以下の重合性不飽和結合を分子内に1個有する化合物が挙げられる。メチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート等のアラルキル(メタ)アクリレート;ブトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノアルキル(メタ)アクリレート;ジエチレングリコールエチルエーテルの(メタ)アクリル酸エステル、トリエチレングリコールブチルエーテルの(メタ)アクリル酸エステル、ジプロピレングリコールメチルエーテルの(メタ)アクリル酸エステル等のポリアルキレングリコールアルキルエーテルの(メタ)アクリル酸エステル;ヘキサエチレングリコールフェニルエーテルの(メタ)アクリル酸エステル等のポリアルキレングリコールアリールエーテルの(メタ)アクリル酸エステル;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、メトキシ化シクロデカトリエン(メタ)アクリレート等の脂環式基を有する(メタ)アクリル酸エステル;ヘプタデカフロロデシル(メタ)アクリレート等のフッ素化アルキル(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート等の水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル;グリシジル(メタ)アクリレート等のグリシジル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド等。これらは、単独で又は2種類以上を併せて使用することができる。
【0062】
アクリル酸系誘導体ポリマー(G)は、上記アクリル酸誘導体の中で重合性不飽和結合を分子内に1個有する化合物を重合させて得られるものであるが、本発明の効果を損なわない範囲で重合性不飽和結合を分子内に2個以上有する化合物を共重合させることができる。その質量平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより標準ポリスチレンの検量線を用いて測定したもの、以下同様)が100,000〜700,000であるものが好ましい。
【0063】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(H)中のアクリル酸系誘導体ポリマー(G)の含有量は、10〜60質量%が好ましい。アクリル酸系誘導体ポリマー(G)が10質量%以上であれば、活性線による粘着層の重合硬化速度が向上し、また60質量%以下であれば粘着性形成材の粘度が高すぎず、取り扱い性がよい。
【0064】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(H)中のジ(メタ)アクリレート(A)の含有量は、0.01〜5質量%が好ましい。ジ(メタ)アクリレート(A)の含有量が0.01質量%以上であれば、粘着層の流動性がよく、層としての構造を維持しやすい。また、その含有量が5質量%以下であれば、硬化物の架橋点が適切で、粘着層の粘着性が良好となる。
【0065】
活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(H)中の光重合開始剤の含有量は、0.05〜1質量%が好ましい。光重合開始剤の含有量が0.05質量%以上であれば、重合硬化速度が向上し、1質量%以下であれば、粘着層の光学性能が劣化せず良好となる。
【0066】
粘着層をハードコートフィルム上に積層する方法としては、例えば、ハードコート層を基材フィルム上に積層する方法と同様の「積層方法1」及び「積層方法2」によって、積層することができる。また活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(H)の硬化方法、その活性エネルギー線源、及び活性エネルギー線の照射方法としては、前記活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(E)の場合と同様の、硬化方法、活性エネルギー線源、及び照射方法を用いることができる。
【0067】
<前面保護板>
本発明の前面保護板は、携帯型情報端末等において、液晶やELなどの表示窓を保護する部材として用いられる。この部材は、外部からの衝撃に対する強度が必要とされるが、板の厚みが薄くなると、衝撃強度が低下する傾向にある。特に近年、携帯電話、スマートフォン等の携帯型情報端末では、コンパクトでスリムなデザインが普及しつつあることから、その前面保護板として使用されるハードコートフィルムには、厚みをより薄くすることが要求されている。
【0068】
本発明のハードコートフィルムは、外観、透明性、耐衝撃性及び薄さを兼ね備え、耐擦傷性にも優れることから、携帯電話、スマートフォン等の携帯型情報端末の表示窓等の前面保護板として好適である。また、その他、デジタルカメラやハンディ型ビデオカメラなどのファインダー部、携帯型ゲーム機等の表示窓等の前面保護板など、耐衝撃性、透明性、薄さが要求される分野での各種部材としても使用することが可能である。
【実施例】
【0069】
以下、本発明を実施例により説明する。尚、以下において、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」をそれぞれ表す。また、ハードコートフィルムの評価は以下の方法により実施した。
【0070】
(1)YI値
YI値をJIS K7103に準拠して測定し、ハードコートフィルムの外観を評価した。
【0071】
(2)全光線透過率及びヘイズ
日本電色工業(株)製HAZE METER NDH2000(商品名)を用いてJIS K7361−1に示される測定法に準拠してハードコートフィルムの全光線透過率及びヘイズを測定し、ハードコートフィルムの透明性を評価した。
【0072】
(3)耐擦傷性
#000のスチールウールを装着した直径25.4mmの円形パッドをハードコートフィルムの表面上に置き、9.8Nの荷重下で20mmの距離を100回往復擦傷した。擦傷前と擦傷後のヘイズ値の差(Δヘイズ)を下式より求め、ハードコートフィルムの耐擦傷性を判断した。
[Δヘイズ(%)]=[擦傷後ヘイズ値(%)]−[擦傷前ヘイズ値(%)]
【0073】
(4)耐衝撃性
温度23℃及び相対湿度50%の雰囲気下、ステンレス鋼製球をハードコートフィルム試験片の上に落下させて、試験片の数(20個)の50%が破壊する高さである「50%破壊高さ」を求め、これによってハードコートフィルムの耐衝撃性を評価した。
【0074】
ステンレス鋼製球としては、小球(球径16.0mmφ、質量16.7g)と大球(球径20.0mmφ、質量20.0g)の2種類を用いた。また、試験片として、縦横各50mm長のハードコートフィルムを使用した。試験片支持台として、直径20mmの円形の穴が空いた5mm厚のアクリル板を用いた。試験片を、その中心が当該穴の中心に一致するように支持台に乗せて、試験片の左右両端をセロハンテープで固定した。当該穴の中心の上方(75〜450mmの間の距離)にステンレス鋼製球を設置し、JIS K7211に示される測定法(計算法)に準拠して落下を繰り返して「50%破壊高さ」を測定した。
【0075】
(5)鉛筆硬度
JIS K5400に準拠してハードコートフィルムの鉛筆硬度を測定し、ハードコートフィルムの表面硬度を評価した。
【0076】
(6)弾性率
スーパーダンベルカッター((株)ダンベル製、SDK−100D(商品名))を用いてダンベル状1号型のハードコートフィルムの試験片を5枚作成し、ストログラフT((株)東洋精機製作所製、商品名)を使用して室温23℃及び引張速度500mm/分で、5回の引張試験を実施し、その時の応力歪み曲線の接線を弾性率として、その平均値を求め、基材フィルムの硬さを評価した。
【0077】
[実施例1]
(1)基材フィルム用の単量体原料の調製
冷却管、温度計及び攪拌機を備えた反応器内に、ジ(メタ)アクリレート(A−1)としてポリブチレングリコールジメタクリレート(三菱レイヨン(株)製、アクリルエステルPBOM)10部、モノ(メタ)アクリレート(B−1)としてメチルメタクリレート(三菱レイヨン(株)製、アクリエステルM)90部、及び連鎖移動剤としてn−オクチルメルカプタン(エルフアトケムジャパン(株)製、NOM)0.4部を仕込み、撹拌しながら加熱を開始した。
【0078】
反応器内の温度が70℃になった時点で熱重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業(株)製、V65)0.026部を添加し、次いで、反応器内の温度を80℃に昇温して60分間保持した後、多量の氷水で反応器内の温度を室温まで急冷して、シラップ状物(c’−1)を得た。シラップ状物(c’−1)の25℃での粘度は185cpsであった。結果を表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
次いで、得られたシラップ状物(c’−1)90部に対して表2に示す種類と量の材料を添加した後、減圧下で脱気処理を行い、基材フィルム用の単量体原料(c−1)を調製した。
【0081】
【表2】
【0082】
(2)活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(E−1)の調製
表3に示す種類と量の材料を含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(E−1)を調製した。
【0083】
【表3】
【0084】
(3)ハードコート層が積層されたガラス板の作製
ガラス板上に上記の活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(E−1)を塗布し、次いで、塗布面側から高圧水銀灯を照度300mW/cm及び光量1,200mJ/cmの条件で照射して活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(E−1)を硬化させ、厚み7μmのハードコート層が積層されたガラス板を作製した。
【0085】
(4)ハードコートフィルムの作製
ガラス板とハードコート膜が積層されたガラス板とをそれぞれ1枚ずつ用意し、ハードコート膜が積層されたガラス板のハードコート膜が内側になるように2枚のガラス板を対向させた。次いで、2枚の対向するガラス板の対向面の周囲を軟質ポリ塩化ビニル製のガスケットで封じ、対向するガラス板の間隔が500μmである、注型重合用の鋳型を作製した。この鋳型内に、前記の基材フィルム用の単量体原料(c−1)を注入し、ケミカルランプで照度2mW/cm及び光量3,600mJ/cmの条件で単量体原料(c−1)を重合させ、次いで130℃の空気炉で30分間重合させ、重合体積層物を得た。鋳型を冷却した後にガラス板を取り除き、ハードコート層が積層された500μmの厚みを有するハードコートフィルムを得た。このハードコートフィルムの評価結果を表4に示す。
【0086】
【表4】
【0087】
[実施例2〜5及び比較例1]
シラップ状物の原料を表1に示す条件に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、シラップ状物(c’−2)を製造した。表1に示すシラップ状物を用い、基材フィルム用の単量体原料の組成及びハードコート層の厚みを表4に示す条件に変更した。比較例1では、ハードコート層を形成しなかった。これら以外の条件は実施例1と同様にして、それぞれ、ハードコートフィルムを得た。各ハードコートフィルムの評価結果を表4に示す。
【0088】
[比較例2]
冷却管、温度計及び攪拌機を備えた反応器内に、メチルメタクリレート100部を供給し、撹拌しながら−90kPaで10分間減圧した。次いで、窒素ガスで大気圧に戻し、加熱を開始した。内温が80℃になった時点で熱重合開始剤V65を0.05部添加し、更に内温100℃まで加熱して9分間保持した。その後、減圧冷却により室温まで冷却し、重合禁止剤である2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール0.003部を混合した後に減圧下で脱気処理を行い、シラップ状物(c’−3)を得た。シラップ状物(c’−3)の重合率は約20%であった。シラップ状物(c’−3)の25℃での粘度は1,100cpsであった。結果を表1に示す。
【0089】
このシラップ状物(c’−3)を用い、基材フィルム用の単量体原料の組成を表4に示す条件に変更したこと以外は実施例1と同様にしてハードコートフィルムを得た。得られたハードコートフィルムの評価結果を表4に示す。
【0090】
〔評価結果の纏め〕
実施例1〜5から明らかなように、本発明のハードコートフィルムは透明性、耐擦傷性及び耐衝撃性に優れていることが分かる。一方、比較例1から明らかなように、ハードコート層が積層されていない基材フィルムでは耐擦傷性に劣ることが分かる。また、比較例2から明らかなように、基材フィルムを形成する重合体中にジ(メタ)アクリレート(A)単位を含有しない場合には、得られるハードコートフィルムの耐衝撃性が著しく低いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明のハードコートフィルムは、各種ディスプレイ用フィルム及び携帯情報端末等のタッチパネルフィルム等の光学用フィルムとして有用である。また、各種ディスプレイ及び携帯情報端末等の前面保護板として有用である