特許第5903978号(P5903978)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5903978
(24)【登録日】2016年3月25日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】粘着剤付き光学部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20160331BHJP
   C09J 7/02 20060101ALI20160331BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALI20160331BHJP
   G02F 1/13363 20060101ALI20160331BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20160331BHJP
   C09J 5/00 20060101ALI20160331BHJP
【FI】
   G02B5/30
   C09J7/02 Z
   G02F1/1335 510
   G02F1/13363
   C09J201/00
   C09J5/00
【請求項の数】3
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2012-73085(P2012-73085)
(22)【出願日】2012年3月28日
(65)【公開番号】特開2013-205545(P2013-205545A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年2月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113000
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 亨
(74)【代理人】
【識別番号】100151909
【弁理士】
【氏名又は名称】坂元 徹
(72)【発明者】
【氏名】張 柱烈
(72)【発明者】
【氏名】李 眞求
【審査官】 藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−25813(JP,A)
【文献】 特開2011−201999(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/038697(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
C09J 5/00
C09J 7/02
G02F 1/1335
G02F 1/13363
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の剥離フィルム、粘着剤層及び第二の剥離フィルムがこの順に積層されている粘着剤シートから前記第一の剥離フィルムを剥がして前記粘着剤層を露出させる剥離工程と、前記剥離工程で露出させた前記粘着剤層を光学部材に貼り合わせる貼合工程とを経て、前記光学部材、前記粘着剤層及び前記第二の剥離フィルムがこの順に積層された粘着剤付き光学部材を製造する方法であって、
前記第一の剥離フィルムと前記粘着剤層との間の剥離力、及び前記第二の剥離フィルムと前記粘着剤層との間の剥離力は、それぞれ 0.3m/分の剥離速度で試験したとき、いずれも0.02N/25mmを超え、0.15N/25mm未満の範囲にあり、かつ二つの剥離力の差が0.01N/25mm未満であり、
前記剥離工程は、前記第一の剥離フィルムが前記粘着剤層から剥がれる剥離ポイントにおいて、前記第一の剥離フィルムは屈曲しないように直進させ、前記第二の剥離フィルムは、前記粘着剤層が貼着されている面の反対側から押圧力が加わらないようにして前記粘着剤層とともに、前記第一の剥離フィルムの直進方向とは異なる方向に搬送し、前記第一の剥離フィルムが前記粘着剤層から剥離するように行われることを特徴とする
粘着剤付き光学部材の製造方法。
【請求項2】
前記粘着剤層は光拡散剤を含有する請求項1に記載の粘着剤付き光学部材の製造方法。
【請求項3】
前記光学部材は偏光板である請求項1又は2に記載の粘着剤付き光学部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶パネルや液晶表示装置の製造に好適に用いられる粘着剤付き光学部材の製造方法に関するものである。詳しくは、粘着剤層の両面に剥離フィルムが設けられている粘着剤シートから一方の剥離フィルムを剥がしてその粘着剤層を光学部材に貼り、粘着剤付き光学部材を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置を構成する液晶パネルは、一般に、偏光板や位相差フィルム等の光学部材が粘着剤層を介して液晶セルに貼合された構成を備えている。液晶セルに貼合するための光学部材は、液晶セルへの貼合面に粘着剤層を形成し、さらにその表面を剥離フィルムで仮着保護した構造の粘着剤付き光学部材として生産されるのが一般的である。
【0003】
このような粘着剤付き光学部材は、粘着剤層の両面に剥離可能なフィルム(剥離フィルム)が設けられている粘着剤シートから一方の剥離フィルムを剥がしてその粘着剤層を光学部材に貼り付ける方法で製造されることが多い。すなわち粘着剤シートは、剥離フィルムが粘着剤層の表裏にそれぞれ設けられており、一般の文房具や工作用として用いられる両面粘着テープのような構造をしているが、一般の両面粘着テープは、粘着剤層と剥離フィルムが1枚:1枚で対応しているのに対し、粘着剤シートは、粘着剤層の両面に剥離フィルムが設けられている点で相違する。この粘着剤シートから一方の剥離フィルムを剥がして、それにより露出した粘着剤面を光学部材の表面に貼合する方法で製造される粘着剤層が設けられた光学部材、すなわち粘着剤付き光学部材は、この状態で保管又は流通される。そして、液晶セルに貼合される直前にその粘着剤面を仮着保護している剥離フィルムを剥がし、それにより露出した粘着剤面が液晶セルに貼合される。なお、ここでいう粘着剤は、感圧接着剤と呼ばれることもあり、また剥離フィルムは、セパレータ又はセパレートフィルムと呼ばれることもある。
【0004】
粘着剤シートの両面に貼られる剥離フィルムの粘着剤層からの剥離力が同じ場合、両方の剥離フィルムを外側へ引っ張って剥がそうとすると、粘着剤層のある部分は一方の剥離フィルムに伴って引き剥がされ、粘着剤層の他の部分は他方の剥離フィルムに伴って引き剥がされることが多い。この現象は、俗に「泣き別れ」とも呼ばれ、泣き別れが発生すると、光学部材に均一な粘着剤層を形成することができない。
【0005】
そこで従来から、粘着剤シートとして、粘着剤層に対し、相対的に小さな剥離力を示す剥離フィルム(「軽剥離フィルム」とも呼ばれる)と、相対的に大きな剥離力を示す剥離フィルム(「重剥離フィルム」とも呼ばれる)とを、粘着剤層の両面にそれぞれ貼り合わせたものが採用されている。剥離フィルムは、ポリエチレンテレフタレートのような透明樹脂からなるフィルムに、シリコーンオイルのような離型剤を塗布することにより、製造される。そして、離型剤の組成及び/又は処理方法を変えることで、ある一つの粘着剤層に対する剥離力が異なるように設計された各種の剥離フィルムが市販されている。
【0006】
光学部材に粘着剤層を形成するために、剥離フィルム上に粘着剤層を設けた粘着剤シートを用いる手法について開示する先行技術文献の例を、以下に掲げる。特開 2003-177241号公報(特許文献1)には、偏光板等の光学部材(この文献では「液晶ディスプレイ用部材」と表記)に粘着剤層を貼着するための粘着剤シート(この文献では「粘着剤転写テープ」と表記)が開示されている。この文献では、粘着剤層を粘着力の異なる2層以上で構成するとともに、その粘着剤層を2枚の剥離フィルムで挟んだ構造とすることが提案されている。そして、それら2枚の剥離フィルムの粘着剤層に対する剥離力に差を持たせ、両者の比が一定範囲となるようにすることも開示されている。
【0007】
特開 2004-10647 号公報(特許文献2)には、粘着剤層の両面に剥離フィルムを設けた剥離フィルム付き粘着剤シートにおいて、剥離フィルムの少なくとも一方をポリオレフィン系フィルムで構成するとともに、両面の剥離フィルムの粘着剤層に対する剥離力の差が0.1N/25mm 以上となるようにすることが開示されている。特開 2004-196939号公報(特許文献3)には、同じく粘着剤層の両面に剥離フィルムを設けた剥離フィルム付き粘着剤シートにおいて、幅方向両端に1〜50mmの粘着剤層のない部分を設けるとともに、両面の剥離フィルムの粘着剤層に対する剥離力の差が、10mN/25mm以上、すなわち、0.01N/25mm 以上となるようにすることが開示されている。また特開 2005-154689号公報(特許文献4)には、剥離フィルムの片面に粘着剤層を設けた状態で巻物状とし、その剥離フィルムのもう一方の面に粘着剤層が接触する剥離フィルム付き粘着剤シートにおいて、剥離フィルムの粘着剤層に接する両面の表面粗さをともに0.1μm以下とするとともに、剥離フィルム両面の粘着剤層に対する剥離力の差が、10mN/25mm以上、すなわち0.01N/25mm 以上となるようにすることが開示されている。
【0008】
さらに、国際公開第 2010/038697 号(特許文献5)には、粘着剤層の一方の側に軽剥離フィルムが、他方の側に重剥離フィルムが積層されている粘着剤シートに、搬送転向ロールを当てて、軽剥離フィルムの搬送方向及び/又は剥離後の粘着剤層と重剥離フィルムの積層物の搬送方向を変えつつ、軽剥離フィルムを剥がすことが開示されている。
【0009】
上記特許文献4のように、剥離フィルムを1枚だけとし、その両面の粘着剤層に対する剥離力に差を設ける方法は、粘着剤の種類によって剥離力に違いがあるため、対象とする粘着剤毎に剥離フィルムの両面に施す離型処理を変更し、その粘着剤に見合った剥離力を与えるように設計する必要がある。そのため、剥離フィルムを1枚だけとする方法は大幅なコスト高になるので、工業的には採用されておらず、特許文献1〜3及び5に開示されるような、2枚の剥離フィルムの間に粘着剤層を挟み、それぞれの剥離フィルムの粘着剤層に対する剥離力に差を持たせる方法が主流になっている。
【0010】
このような事情から、先にも述べたように、離型剤の組成及び/又は処理方法を変えることで、粘着剤層に対する剥離力が異なるように設計された各種の剥離フィルムが市販されており、これらの中から、対象とする粘着剤層に適した剥離力を示すものを、軽剥離フィルム及び重剥離フィルムとして選択し、それらを粘着剤層の両面に貼り付けて、粘着剤シートが生産されている。しかしながらこの場合は、数ある剥離フィルムの中から、適当な剥離力を示す軽剥離フィルム及び重剥離フィルムを選択する必要があるため、粘着剤シートの設計管理が煩雑になり、依然としてコスト高になっていた。
【0011】
一方で、軽剥離フィルムと重剥離フィルムの粘着剤層に対する剥離力の差又は両者の比を一定範囲とするために、軽剥離フィルムの剥離力を小さくしすぎると、その軽剥離フィルムが粘着剤層から浮き上がったり、その軽剥離フィルムと粘着剤層との間に部分的な剥離に伴うスジや気泡が観察されるトンネリングと呼ばれる不良を生じたりすることがあった。また、重剥離フィルムの剥離力を大きくしすぎると、重剥離フィルムが剥がれにくくなり、粘着剤付き光学部材からその重剥離フィルムを剥がして液晶セルに貼合する段階で重剥離フィルムの未剥離問題を惹起し、極端な場合には液晶パネル生産ラインの停止に至ることもあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003−177241号公報
【特許文献2】特開2004−10647号公報
【特許文献3】特開2004−196939号公報
【特許文献4】特開2005−154689号公報
【特許文献5】国際公開(WO)第2010/038697号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明者らは、粘着剤層の両面に剥離フィルムが設けられた粘着剤シートを採用することを基本にして、そこに用いられる2枚の剥離フィルムを事実上同じものとし、両者の粘着剤層に対する剥離力に差をつける必要がなければ、粘着剤シートの設計管理が容易になってコスト低下につながると考え、この状態でも、いわゆる泣き別れを起こすことなく、粘着剤層から一方の剥離フィルムを剥がすことができないかという観点から研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0014】
そこで本発明の課題は、粘着剤層の両面に剥離フィルムが設けられた粘着剤シートを用い、それぞれの剥離フィルムの剥離力に依存することなく、かついわゆる泣き別れを起こすことなく、容易に一方の剥離フィルムを粘着剤層から剥がすことができ、その剥離フィルムを剥がした後に露出する粘着剤層を光学部材に貼り合わせて、粘着剤付き光学部材を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、本発明によれば、第一の剥離フィルム、粘着剤層及び第二の剥離フィルムがこの順に積層されている粘着剤シートから第一の剥離フィルムを剥がして粘着剤層を露出させる剥離工程と、その剥離工程で露出させた粘着剤層を光学部材に貼り合わせる貼合工程とを経て、光学部材、粘着剤層及び第二の剥離フィルムがこの順に積層された粘着剤付き光学部材を製造する方法であって、上記粘着剤シートにおける第一の剥離フィルムと粘着剤層との間の剥離力、及び第二の剥離フィルムと粘着剤層との間の剥離力は、それぞれ0.3m/分の剥離速度で試験したとき、いずれも 0.02N/25mmを超え、0.15N/25mm未満の範囲にあり、かつ二つの剥離力の差が 0.01N/25mm未満であり、上記の剥離工程は、第一の剥離フィルムが粘着剤層から剥がれる剥離ポイントにおいて、第一の剥離フィルムは屈曲しないように直進させ、第二の剥離フィルムは、粘着剤層が貼着されている面の反対側から押圧力が加わらないようにして粘着剤層とともに、第一の剥離フィルムの直進方向とは異なる方向に搬送し、第一の剥離フィルムが粘着剤層から剥離するように行われる方法が提供される。
【0016】
この方法において、粘着剤シートを構成する粘着剤層は、一般の透明な粘着剤層であることもできるし、光拡散剤を含有する、いわゆる光拡散粘着剤層であることもできる。特に、光拡散粘着剤層の両面を剥離力にあまり差のない剥離フィルムで挟んだ場合に、それぞれの剥離フィルムを外側に引っ張って剥がそうとすると、いわゆる泣き別れを起こしやすいのに対し、上記本発明の方法を採用すれば、泣き別れを起こすことなく第一の剥離フィルムを粘着剤層から剥がすことができるので、光学部材に光拡散粘着剤層を貼り合わせる場合にも、有効に使用することができる。またこれらの方法において、粘着剤層が貼り合わされる光学部材の典型的な例は、偏光板である。
【0017】
これらの方法によって製造される粘着剤付き光学部材は、その粘着剤層の上に存在する第二の剥離フィルムを剥がし、それにより露出する粘着剤層を液晶セルに貼合することによって、液晶パネルとすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の方法では、粘着剤シートを構成する第一の剥離フィルムと粘着剤層との間の剥離力、及び第二の剥離フィルムと粘着剤層との間の剥離力に事実上差を設けない状態、すなわち第一の剥離フィルムと第二の剥離フィルムが事実上同じものであってもよい状態としたうえで、第一の剥離フィルムが粘着剤層から剥がれる剥離ポイントにおいて、第一の剥離フィルムは屈曲しないように直進させ、第二の剥離フィルムは、粘着剤層が貼着されている面の反対側から押圧力が加わらないようにして、第一の剥離フィルムの直進方向とは異なる方向に搬送している。
【0019】
これにより、第一の剥離フィルム及び第二の剥離フィルムのそれぞれ粘着剤層からの剥離力にあまり依存することなく、粘着剤層は第一の剥離フィルムから自然に剥がれて、第二の剥離フィルムとともにその搬送方向に移送される。そのため、粘着剤層が第一の剥離フィルム上に部分的に残る、いわゆる泣き別れが生じにくくなる。このように、粘着剤層が第一の剥離フィルムから自然に剥がれるようにしているので、粘着剤層との関係で第一の剥離フィルム及び第二の剥離フィルムの組合せを選択する必要がなく、粘着剤シートの設計管理が容易となる。そして、第一の剥離フィルムから剥がされ、第二の剥離フィルム上に残った粘着剤層は、欠損などがない良好な状態となっているので、その露出された粘着剤層を次の貼合工程で光学部材に貼り合わせることにより、粘着剤層に欠陥のない良好な品質の粘着剤付き光学フィルムを製造することができる。
【0020】
したがってこの方法によれば、粘着剤付き光学部材や液晶パネルの生産コストを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】粘着剤付き光学部材を得るまでの各部材の層構成を模式的に示す断面図である。
図2】粘着剤シートを連続ラインで製造するときの装置の配置例を模式的に示す側面図である。
図3】粘着剤付き光学部材を連続ラインで製造するときの装置の配置例を模式的に示す側面図である。
図4】剥離工程が本発明で規定する要件を満たさず、したがって泣き別れを起こしやすいいくつかの例を模式的に示す側面図である。
図5】後述する実施例における剥離フィルムの剥離力を測定する状態を模式的に示す断面図である。
図6】後述する実施例における高速剥離試験の状態を模式的に示す断面図である。
図7】後述する実施例における手剥離試験の状態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態を、添付の図面も適宜参照しながら、詳細に説明する。図1は、本発明の方法によって粘着剤付き光学部材を得るまでの各部材の層構成を模式的な断面図で示したものである。
【0023】
図1を参照して、本発明の方法ではまず、同図(A)に示すように、第一の剥離フィルム2、粘着剤層1及び第二の剥離フィルム3がこの順に積層されている粘着剤シート5が用意される。次に、この粘着剤シート5から第一の剥離フィルム2を剥がして、同(B)に示すように、第二の剥離フィルム3と粘着剤層1との積層体であって、粘着剤層1が露出された貼合前粘着剤シート10とする。別途、同(C)に示す光学部材20が用意される。そして、同(B)の貼合前粘着剤シート10で露出させた粘着剤層1を、同(C)の光学部材20に貼り合わせて、同(D)に示すように、光学部材20、粘着剤層1、及び第二の剥離フィルム3がこの順に積層された粘着剤付き光学部材25が製造される。図1には、光学部材20が、偏光フィルム15の両面に透明保護フィルム16,17が貼合されている偏光板である例が示されている。光学部材はそのほか、位相差フィルムなどであることもでき、一般に光学特性を有し、粘着剤層が設けられる各種の部材に対して、本発明の方法は適用できる。
【0024】
図1の(A)に示す粘着剤シート5から、第一の剥離フィルム2を剥がして、同(B)に示す貼合前粘着剤シート10を得るまでの工程が、本発明でいう剥離工程に相当する。また、同(B)に示す貼合前粘着剤シート10を同(C)に示す光学部材20に貼り合わせて、同(D)に示す粘着剤付き光学部材25を得るまでの工程が、本発明でいう貼合工程に相当する。
【0025】
本発明では、図1(A)に示す粘着剤シート5として、第一の剥離フィルム2と粘着剤層1との間の剥離力、及び第二の剥離フィルム3と粘着剤層1との間の剥離力が、いずれも0.02N/25mmを超え、0.15N/25mm未満の範囲にあり、かつ二つの剥離力の差が0.01N/25mm未満のものを採用する。ここでいう剥離力は、0.3m/分の剥離速度で試験したときの値である。
【0026】
具体的な剥離力の試験方法は、後述する図5を参照して実施例に示すとおりである。すなわち、25mm幅で裁断された粘着剤シートの一方の剥離フィルム側(図5では第二の剥離フィルム3側)を、両面粘着テープを介してガラス板に貼り、この状態で、ガラス板に貼合されていない剥離フィルム(図5では第一の剥離フィルム2)の長さ方向(幅25mmの一辺と直交する方向)一端をつかみ、そのつかんだ剥離フィルム(図5では第一の剥離フィルム2)を180度方向(折り返してフィルム面に沿う方向)に剥離速度 0.3m/分で剥がすことにより、そのつかんだ剥離フィルム(図5では第一の剥離フィルム2)の粘着剤層からの剥離力を求める。一方の剥離フィルムを剥がした後に残る粘着剤がもう一方の剥離フィルムに貼着されている積層体は、先にガラス板に貼るために用いた両面粘着テープから剥がした後、その粘着剤層側をガラス板に貼り、この状態で、ガラス板と反対側にある剥離フィルム(図5では第二の剥離フィルム3)の長さ方向一端をつかみ、そのつかんだ剥離フィルム(図5では第二の剥離フィルム3)を180度方向(折り返してフィルム面に沿う方向)に剥離速度 0.3m/分で剥がすことにより、そのつかんだ剥離フィルム(図5では第二の剥離フィルム3)の粘着剤層からの剥離力を求める。
【0027】
第一の剥離フィルム2と粘着剤層1との間の剥離力及び/又は第二の剥離フィルム3と粘着剤層1との間の剥離力が0.02N/25mm 以下と小さくなると、以下のような不都合を生じやすい。すなわち、剥離フィルム2,3と粘着剤層1とがデラミネーション(層間剥離)を起こし、剥離フィルム2,3が粘着剤層1から浮き上がる、いわゆるトンネリング現象が生じやすくなる。また、剥離力を小さくするためには離型剤を多く塗布する必要があるところ、離型剤がシリコーンオイルを含む場合には、そのシリコーンオイルを含む離型剤を多く塗布する結果、シリコーンオイルのブリードアウトを生じ、粘着剤シートをロール状に巻いたときに、一方の剥離フィルムに塗布された離型剤がもう一方の剥離フィルムの表面に二次転写(いわゆる背面転写)されるという現象も生じる可能性がある。
【0028】
一方、第一の剥離フィルム2と粘着剤層1との間の剥離力及び/又は第二の剥離フィルム3と粘着剤層1との間の剥離力が0.15N/25mm 以上と大きくなると、以下のような不都合を生じやすい。すなわち、この粘着剤シートから一方の剥離フィルムを剥がし、光学部材に貼って得られる粘着剤層に剥離フィルムが貼合された状態の粘着剤付き光学部材を、液晶パネル製造ラインで液晶セルに貼合するとき、剥離フィルムの表面には剥離用テープを接着し、反対側の光学部材は吸着板で吸引し、この状態で剥離用テープを引き上げて剥離フィルムを剥がし、粘着剤層を液晶セルに貼合するところ、剥離フィルムの粘着剤層からの剥離力が大きすぎると、剥離用テープの剥離フィルムに対する接着力の減退が早く、剥離用テープの交換周期が早くなって、液晶パネルの生産コストアップにつながりやすい。また、剥離フィルムの粘着剤層からの剥離力が大きすぎると、剥離用テープを引っ張っても剥離フィルムを粘着剤層から剥がすことができず、液晶パネル製造ラインを停止させてしまう可能性もある。
【0029】
また上述のとおり、第一の剥離フィルム2の粘着剤層1からの剥離力と、第二の剥離フィルム3の粘着剤層1からの剥離力との差は、 0.01N/25mm未満と小さくする。二つの剥離力に差を設けない状態、すなわち、第一の剥離フィルムと第二の剥離フィルムとが事実上同じものであってもよい。この場合、第一の剥離フィルム2と第二の剥離フィルム3は、同じ条件で製造したものを用いることができるため、製造工程の短縮化や製造コストの低減を図ることができる。本明細書では、第一の剥離フィルム2と粘着剤層1との間の剥離力を、単に「第一の剥離フィルム2の剥離力」と、第二の剥離フィルム3と粘着剤層1との間の剥離力を、単に「第二の剥離フィルム3の剥離力」と、それぞれ呼ぶことがある。
【0030】
[粘着剤シートとその製造方法]
まず、粘着剤シートを連続ラインで製造する方法について、図2を参照して説明する。図2は、粘着剤シートを連続ラインで製造するときの装置の配置例を模式的な側面図で示したものである。図示の例では、第二の剥離フィルム3の表面に粘着剤層を形成し、その粘着剤層の表面に第一の剥離フィルム2を貼合して、粘着剤シート5を製造し、巻取りロール35に巻き取られるようになっている。順を追って説明すると、繰出しロール30に巻かれている第二の剥離フィルム3は、そこから繰り出され、その離型処理面に、塗工機31から供給される粘着剤組成物が塗布される。塗布された粘着剤組成物は、乾燥機32で乾燥されて粘着剤層となり、第二の剥離フィルム3と粘着剤層との積層体10となる。別の繰出しロール33に巻かれている第一の剥離フィルム2がそこから繰り出されて、乾燥機32から送られてくる第二の剥離フィルム3と粘着剤層との積層体10の粘着剤層表面に、その離型処理面で積層され、貼合ロール34の貼合圧力により貼合される。得られた粘着剤シート5は、巻き取りロール35に巻き取られ、保管される。図2中、曲線矢印はロールの回転方向を意味する。
【0031】
このように、粘着剤シート5は一般に、第二の剥離フィルム3に粘着剤組成物を塗工する塗工工程、その粘着剤組成物を乾燥して粘着剤層を形成する乾燥工程、及び得られる粘着剤層に第一の剥離フィルムを貼り合わせる貼合工程を経て、製造される。塗工工程及び乾燥工程を経て得られる第二の剥離フィルム3と粘着剤層との積層体10は、粘着剤シート製造のための中間体となる。
【0032】
なお、背景技術の項で説明したとおり、光学部材に適用される従来の粘着剤シートにおいては、両面に貼合される剥離フィルムとして、粘着剤層に対する剥離力が異なるものを用いることが多かった。この場合、相対的に剥離力の大きい重剥離フィルムを図2における第二の剥離フィルム3とし、その離型処理面に粘着剤層を設け、相対的に剥離力の小さい軽剥離フィルムを図2における第一の剥離フィルムとし、上記重剥離フィルム(第二の剥離フィルム)3の上に設けた粘着剤層に、この軽剥離フィルム(第一の剥離フィルム)2の離型処理面を貼合することにより、製造されていた。
【0033】
本発明においては先に説明したとおり、第一の剥離フィルム2の粘着剤層に対する剥離力と、第二の剥離フィルム3の粘着剤層に対する剥離力との間に、実質的な差を設ける必要がない。そこで、図2においては便宜上、塗工工程で第二の剥離フィルム3の離型処理面に粘着剤組成物を塗工し、得られる粘着剤層に、その後の貼合工程で第一の剥離フィルム2の離型処理面を貼り合わせるように描かれているが、第一の剥離フィルム2と第二の剥離フィルム3が逆になっても構わない。すなわち、本発明に用いる粘着剤シート5は、図1を参照して、粘着剤層1に対する剥離力の差が0.01N/25mm 未満である2枚の剥離フィルム2,3の間に粘着剤層1が挟まれた状態のものであればよく、それら2枚の剥離フィルムのうち、一方を第一の剥離フィルム2とし、他方を第二の剥離フィルム3として、上で述べた本発明の方法を適用すればよい。
【0034】
粘着剤組成物の塗工は、公知の方法で行うことができ、例えば、ダイコーター、グラビアロールコーター、コンマコーターなどを用いることができる。粘着剤組成物の塗工後、図2に示すように乾燥炉32を通すことで、粘着剤層が形成される。粘着剤層の厚みは、通常1〜100μm 程度である。
【0035】
第一の剥離フィルム2及び第二の剥離フィルム3は、離型処理が施された樹脂フィルムで構成するのが一般的である。剥離フィルムを構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレート、及びポリブチレンテレフタレートのようなポリエステル系樹脂や、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、各種の液晶性高分子、各種の生分解性樹脂などを採用することができる。これらのうち、耐熱性やその後の離型処理のしやすさなどの観点から、ポリエチレンテレフタレート又はポリエチレンナフタレートが好適であり、さらにコストの点を考慮すると、ポリエチレンテレフタレートが最も実用的である。もちろん、所望なら2種以上の樹脂を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
上記の樹脂は、未延伸のものであってもよいし、一軸又は二軸に延伸されたものであってもよい。なかでも、配向主軸の最大歪みが10度以下の一軸又は二軸延伸フィルムが好ましい。剥離フィルムには、単体フィルムを用いてもよいし、複数の単体フィルムが積層された積層フィルムを用いてもよい。剥離フィルムの厚さは、例えば、5〜200μm 程度とすることができる。
【0037】
剥離フィルムの表面に施される離型処理は、離型剤をフィルム表面に塗布する方法によって行うことができる。離型剤は、任意のものを用いることができるが、離型特性に優れたシリコーン系離型剤が特に好ましい。シリコーン系離型剤として、比較的低温で硬化する付加反応型シリコーン系離型剤や、熱を付与しないタイプのアクリルシリコーン系離型剤、紫外線硬化型のエポキシ基含有シリコーン系離型剤などを使用することができる。剥離力は、離型剤の厚さ、離型剤に添加するオリゴマーの有無やその量によって調節することができる。
【0038】
離型剤の塗工量は、0.01〜3g/m2 程度とすることが好ましい。離型剤の塗工量が0.01g/m2 未満であると、剥離フィルムの剥離力は大きくなるが、剥離性能が不足して粘着剤層から剥離フィルムを剥がしにくくなる。一方、離型剤の塗工量が3g/m2を超えると、剥離力は小さくなるものの、離型処理が施された剥離フィルムをロール状に巻いたときに、塗工面上の離型剤が、離型処理を施していないもう一方の面(背面)に付着して固化する、いわゆるブロッキングを起こしやすくなる。
【0039】
[粘着剤]
図1に示す粘着剤シート5を構成する粘着剤層1は、アクリル系重合体、シリコーン系重合体、ポリエステル系重合体、ポリウレタン系重合体、ポリエーテル系重合体などをベースポリマーとする粘着剤組成物を用いて形成することができる。なかでも、透明性や濡れ性、凝集力、また耐候性や耐熱性を包含する耐久性などの観点から、アクリル系重合体(アクリル樹脂)をベースポリマーとするアクリル系粘着剤が、好ましく用いられる。
【0040】
アクリル系粘着剤を構成するアクリル樹脂としては、一般に、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位を主成分とし、遊離カルボキシル基、水酸基、アミノ基、エポキシ環をはじめとする複素環基のような、架橋可能な極性官能基を有する不飽和単量体に由来する構造単位を有するアクリル系共重合体が有用である。極性官能基を有する不飽和単量体も、(メタ)アクリル酸系化合物であるのが好ましい。アクリル系粘着剤を構成するアクリル樹脂は、20℃以下、さらには0℃以下のガラス転移温度を有することが好ましい。また、ゲルパーミェーションクロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量が10万以上であるものが好ましい。
【0041】
アクリル樹脂を主成分とする粘着剤組成物には通常、架橋剤が配合される。架橋剤は、アクリル樹脂を構成する極性官能基と反応して架橋構造を形成しうる官能基を分子内に少なくとも2個有する化合物である。具体的には、イソシアネート系化合物、エポキシ系化合物、金属キレート化合物、アジリジン系化合物などを挙げることができる。
【0042】
アクリル樹脂を主成分とする粘着剤組成物には、粘着剤層と液晶セルガラスとの密着性を向上させるために、シランカップリング剤とも呼ばれるシラン化合物を含有させることが好ましい。架橋剤を配合する前に、粘着剤組成物中にシラン系化合物を配合しておくこともできる。
【0043】
また、粘着剤組成物にイオン性化合物を含有させることもできる。これによって、粘着剤層1に帯電防止性が付与される。イオン性化合物としては、例えば、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、アンモニウムカチオンなどを有する化合物を用いることができる。
【0044】
粘着剤層は、光拡散剤を含有することができ、これによって、粘着剤層自体に光拡散性を付与することができる。光拡散剤を含有する粘着剤層が2枚の剥離フィルムに挟まれている粘着剤シートは特に、一方の剥離フィルムを剥がすときに泣き別れが発生しやすいので、このような粘着剤シートから粘着剤付き光学部材を製造する場合に、本発明の方法は有効である。光拡散剤は一般に、有機又は無機の微粒子であり、その形状は球状であることが好ましい。
【0045】
有機微粒子は一般に樹脂(高分子化合物)からなり、光拡散剤となりうる樹脂の例を挙げると、ポリスチレン、ポリエチレンやポリプロピレンのようなポリオレフィン系樹脂、ポリメタクリレート系樹脂やポリアクリレート系樹脂のようなアクリル樹脂、シリコーン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、メラミン樹脂などがある。もちろんこれらの樹脂は、2種類以上の単量体から得られる共重合体であってもよい。さらに、架橋構造を有する樹脂微粒子も、光拡散剤として有効に使用することができる。一方、光拡散剤となりうる無機微粒子の例を挙げると、シリカ微粒子、酸化チタン微粒子、酸化アルミニウム微粒子などがある。粘着剤組成物を構成するアクリル樹脂に対する分散性、粘着剤組成物の塗工性、得られる粘着剤層の光学特性などを考慮すると、光拡散剤としては、シリコーン樹脂又はアクリル樹脂(通常はポリメチルメタクリレート系樹脂)からなる微粒子が好適である。
【0046】
光拡散剤を配合して光拡散性を付与する場合、その光拡散剤は、粘着剤組成物を構成するアクリル樹脂との間に、0.01以上0.07以下、さらには0.01以上0.04以下の屈折率差を有することが好ましい。両者の屈折率差が 0.01を下回ると、得られる粘着剤層に所望の光拡散性が付与されず、結果として透明な粘着剤に近いものとなる。一方、両者の屈折率差が大きくなりすぎると、光拡散性が強く発現するので、液晶表示装置を正面から見たときの白輝度を低下させることになる。
【0047】
以上説明した各成分のうち、光拡散剤以外の成分は、有機溶剤に溶かした状態で混合される。光拡散剤を配合する場合は、その混合溶液に光拡散剤を分散させて調製することができる。粘着剤組成物は、例えば、トルエンや酢酸エチルのような有機溶剤に、アクリル樹脂を溶解させ、また架橋剤、シラン化合物、イオン性化合物及び光拡散剤のうち必要な成分、さらには所望により配合される以下の各成分を溶解又は分散させて、10〜40重量%程度の固形分濃度を有する溶液状態で調製される。
【0048】
上記の粘着剤組成物(溶液)はさらに、架橋触媒、耐候安定剤、タッキファイヤー、可塑剤、軟化剤、染料、顔料などを含んでもよい。粘着剤組成物に架橋剤とともに架橋触媒を配合すると、粘着剤層1を短時間の熟成で調製することができる。このため、得られる粘着剤付き光学部材又はこれを適用した液晶表示装置などにおいて、粘着剤層1と光学部材との間に浮きや剥がれが発生したり、粘着剤層1内で発泡が起こったりすることを抑制することができ、またリワーク性も一層良好とすることができる。架橋触媒としては、例えば、ヘキサメチレンジアミン、エチレンジアミン、ポリエチレンイミン、ヘキサメチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、イソホロンジアミン、トリメチレンジアミン、ポリアミノ樹脂、メラミン樹脂のようなアミン系化合物などを挙げることができる。粘着剤に架橋触媒としてアミン系化合物を配合する場合、架橋剤としてはイソシアネート系化合物が好適である。
【0049】
[粘着剤付き光学部材の製造方法]
図3は、粘着剤付き光学部材を連続ラインで製造するときの装置の配置例を模式的な側面図で示したものである。図示の例は、粘着剤シート5から第一の剥離フィルム2を剥がし、得られる第二の剥離フィルム3と粘着剤層1の積層体である貼合前粘着剤シート10の粘着剤層1を光学部材20の表面に貼合し、こうして得られる粘着剤付き光学部材25を巻取りロール42で巻き取るように構成されている。図3中、直線矢印はフィルムの搬送方向を意味し、曲線矢印はロールの回転方向を意味する。図3を参照しながら、本発明に係る粘着剤付き光学部材25の製造方法を説明する。
【0050】
繰出しロール36に巻かれている粘着剤シート5は、そこから繰り出される。そして、上流テンションロール37と下流テンションロール38との間で、粘着剤シート5を構成する第一の剥離フィルム2には張力がかけられ、第一の剥離フィルム2は屈曲しないように直進させる一方で、その直進区間Lの間のある点(剥離ポイントP)において、第二の剥離フィルム3は粘着剤層1とともに、両者の積層体、すなわち光学部材への貼合前粘着剤シート10となって、第一の剥離フィルム2の直進方向とは異なる方向に搬送される。このとき、第二の剥離フィルム3には、その粘着剤層1が貼着されている面の反対側から押圧力が加わらないようにする。
【0051】
繰出しロール36から繰り出される粘着剤シート5は、図3において、上流テンションロール37の直後下流側に一点鎖線の引き出し線を引いて拡大断面図Aで示すように、第一の剥離フィルム2、粘着剤層1、及び第二の剥離フィルム3がこの順に積層された状態となっており、そこから第一の剥離フィルム2だけを下流側テンションロール38の方向へ直進させ、粘着剤層1から剥がされる。剥がされた第一の剥離フィルム2は、下流側テンションロール38を経た後、巻取りロール39に巻き取られる。一方、第一の剥離フィルム2を剥がした後の第二の剥離フィルム3と粘着剤層1の積層体である貼合前粘着剤シート10は、その粘着剤層1側が、別の繰出しロール40から繰り出される光学部材20に重ねられ、貼合ロール41で貼合されて、粘着剤付き光学部材25とされる。得られる粘着剤付き光学部材25は、巻取りロール42に巻き取られる。
【0052】
図3において、粘着剤シート5から、第一の剥離フィルム2を剥がす工程が、本発明でいう剥離工程に相当し、第一の剥離フィルム2を剥がした後の第二の剥離フィルム3と粘着剤層1の積層体である貼合前粘着剤シート10を貼合ロール41で光学部材20に貼り合わせる工程が、本発明でいう貼合工程に相当する。
【0053】
〈剥離工程〉
剥離工程においては、上述のとおり、上流テンションロール37と下流テンションロール38との間で、第一の剥離フィルム2に張力をかけ、第一の剥離フィルム2が屈曲しないように、それを直進される。このときの張力は、繰出しロール36と巻取りロール39との間で周速度に差を持たせる方法や、テンションロールを支持体にしてフィルムの搬送方向を変える方法などによって付与することができる。周速度に差を持たせる場合は、巻取りロール39の周速度を繰出しロール36の周速度よりも速くすることで、第一の剥離フィルム2に張力が付与される。また、テンションロールでフィルムの搬送方向を変える場合は、例えば図3のように、下流テンションロール38を支持体として第一の剥離フィルム2の搬送方向が大きく変更されると、上流テンションロール37と下流テンションロール38との間で張力が付与される。
【0054】
第一の剥離フィルム2に付与される張力の大きさは、第二の剥離フィルム3と粘着剤層1との間の剥離力よりも相対的に大きければよい。第一の剥離フィルム2に付与される張力が第二の剥離フィルム3と粘着剤層1との間の剥離力よりも大きくなると、第一の剥離フィルム2の搬送方向(張力方向)と異なる方向に、押圧力が加わらないように第二の剥離フィルム3を剥したとき、粘着剤層1が第一の剥離フィルム2に残る、いわゆる泣き別れが発生しにくくなる。
【0055】
上記の第二の剥離フィルム3を剥がすときの速度は、生産性、作業性、後述する粘着剤層1と光学部材20に施される表面活性化処理などによって変動するが、3〜50m/分程度に設定することが好ましい。
【0056】
剥離工程は、図3に示す直進区間Lで行われるが、第一の剥離フィルム2が粘着剤層1から剥がれる剥離ポイントPは、直送区間Lの範囲内で張力の変動など製造条件の変化により移動する。剥離ポイントPは、例えば、直進区間Lにおいて剥離ポイントの上流側と下流側に剥離ポイントを検知するセンサーをそれぞれ設け、これらのセンサーで剥離面を検知した場合に、繰出しロール36や巻取りロール39の周速度を調節したり、上流テンションロール37と下流テンションロール38との間隔を調整したりすることで、第一の剥離フィルム2にかかる張力を適宜調節し、剥離ポイントPをセンサーの間に保持することができる。使用するセンサーとしては、剥離ポイントを検出できるものであれば、超音波センサーや光学センサーなど公知のセンサーから適宜選択することができる。第一の剥離フィルム2を直進方向に搬送を維持するために付与される張力は、公知のテンションコントローラにより測定・制御することができる。
【0057】
図4は、上記の剥離工程が本発明で規定する要件を満たさず、したがって泣き別れを起こしやすいいくつかの例を模式的に示す側面図であり、図3の直進区間Lとその周辺部を拡大して示している。図4中の直線矢印は、フィルムの搬送方向を示す。図4(A)は、第二の剥離フィルム3に張力を付与して直進させ、第一の剥離フィルム2は押圧力を加えないように剥がす形態の製造ラインの構成である。この形態では、本発明で規定する方法とは異なり、第二の剥離フィルム3に張力を付与しているため、粘着剤層1の付随が第一の剥離フィルム2に生じる。図4(B)は、第一の剥離フィルム2と第二の剥離フィルム3とにかかる応力が同じ条件下でフィルムを剥がす形態の製造ラインの構成である。この形態では、第一の剥離フィルム2と第二の剥離フィルム3にかかる張力に差がないため、粘着剤層1の泣き別れが生じる。また、図4(C)は、第二の剥離フィルム3及び粘着剤層1が支持体を用いて剥離する、すなわち、第二の剥離フィルム3に押圧力を付与して剥がす形態の製造ラインの構成である。この形態では、支持体により第二の剥離フィルム3にも張力が付与されるため、粘着剤層1に泣き別れが生じる。このように、本発明で規定する要件を満たさない剥離形態では、第一の剥離フィルム2に粘着剤層1が付随したり、粘着剤層1が泣き別れを起こしたりしやすい傾向がある。
【0058】
以上説明したように、本発明の粘着剤付き光学部材の製造方法は、第一の剥離フィルム2に第二の剥離フィルム3の剥離力より大きい張力を付与し、第一の剥離フィルム2の搬送方向と異なる方向に、押圧力が加わらないように第二の剥離フィルム3を剥がすことを特徴とする。この方法によると、本発明で規定した剥離力を有する剥離フィルムを用いたとき、第一の剥離フィルム2の剥離力及び第二の剥離フィルム3の剥離力の大小関係に関わらず、泣き別れが生ずることなく粘着剤シート5から第一の剥離フィルム2を剥がすことができる。このとき、第一の剥離フィルム2の剥離力と第二の剥離フィルム3は、事実上同じものを用いることができるため、従来のように剥離力を所定の範囲内に設定する必要がない。これにより、剥離力が所定の範囲内となるように剥離フィルムや粘着剤層を選択する必要がなく、設計管理が容易になり、粘着剤シート5及び粘着剤付き光学部材の製造コストを低減することができる。
【0059】
〈貼合工程〉
貼合工程では、剥離工程を経た第二の剥離フィルム3と粘着剤層1との積層体である貼合前粘着剤シート10における粘着剤層1の表面に光学部材20を貼合する。貼合工程について、先の図3を参照しながら説明する。上述の貼合前粘着剤シート10は、連続する貼合工程で、繰出しロール40から繰り出される光学部材20の表面に、その粘着剤層1側が積層され、貼合ロール41で貼合圧力をかけて貼合する。これにより、光学部材20に、粘着剤層1及び第二の剥離フィルム3がこの順で積層された粘着剤付き光学部材25を製造することができる。製造された粘着剤付き偏光板25は、巻取りロール42に巻き取られ、保管される。
【0060】
粘着剤層1と光学部材20との接着力を高めるために、粘着剤層1及び/又は光学部材20の接着面にコロナ放電処理を施しておくことが好ましい。コロナ放電処理とは、電極間に高電圧をかけて放電し、そこに配置された樹脂フィルムや粘着剤層の表面を活性化する処理である。コロナ放電処理の出力は、 200〜1,000W程度に設定して行うことが好ましい。コロナ放電処理の出力が200W以上であると、この処理による効果が顕著になり、粘着剤層1と透明樹脂フィルム17との間の接着力が向上する。また、コロナ放電処理の出力が 1,000W以下であると、この処理によって生じやすい粉塵の発生が抑えられる。コロナ放電処理の効果は、電極の種類、電極間隔、電圧、温度などによって変動するが、被処理物の移動速度を3〜50m/分程度に設定することが好ましい。
【0061】
[光学部材]
先にも説明したとおり、本発明において粘着剤層が設けられる光学部材は、光学特性を有するものであり、その典型的な例として、偏光板や位相差フィルムを挙げることができる。とりわけ偏光板が好適に用いられる。
【0062】
偏光板とは、自然光などの入射光に対し、偏光を出射する機能を持つ光学部材である。偏光板には、ある方向の振動面を有する直線偏光を吸収し、それと直交する振動面を有する直線偏光を透過する性質を示す直線偏光板、ある方向の振動面を有する直線偏光を反射し、それと直交する振動面を有する直線偏光を透過する性質を示す偏光分離板、偏光板と位相差フィルムを積層した楕円偏光板などがある。これらのなかでも、直線偏光板が代表的である。以下、この直線偏光板について、具体的に説明する。以下では、直線偏光板を単に偏光板と呼ぶ。
【0063】
偏光板は、図1(C)に断面模式図で示したとおり、偏光フィルム15の両面にそれぞれ、第一の透明保護フィルム16及び第二の透明保護フィルム17が貼合された構造になっていることが多い。
【0064】
偏光フィルム15は、一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムにヨウ素や二色性染料の如き二色性色素が吸着配向されているもので構成することができる。このような偏光フィルムは、一般に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対し、一軸延伸、二色性色素による染色及びホウ酸処理を施すことにより製造される。偏光フィルム15の厚さは、例えば2〜40μm 程度とすることができる。
【0065】
ポリビニルアルコール系樹脂として、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化したものを用いることができる。ポリ酢酸ビニル系樹脂は、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体などであることができる。酢酸ビニルに共重合可能な他の単量体として、例えば、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類、アンモニウム基を有するアクリルアミド類などが挙げられる。
【0066】
偏光フィルム15は、その両面に透明保護フィルム16,17がそれぞれ貼合されている。これらの透明保護フィルム16,17は、例えば、メタクリル酸メチル系樹脂のようなアクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、スチレン系樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン系共重合樹脂、アクリロニトリル・スチレン系共重合樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、変性ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリブチレンテレフタレートやポリエチレンテレフタレート系等)、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、オキセタン系樹脂などで構成することができる。これらの透明樹脂は、透明性や偏光フィルム15との接着性を阻害しない範囲で添加物を含有することができる。透明保護フィルム16,17は、その厚さを5〜200μm程度とすることができるが、好ましくは20〜120μmの範囲である。
【0067】
偏光フィルムの一方の面に貼合される透明保護フィルム、特に、粘着剤層1が設けられて、液晶パネルとするときに液晶セル側となる第二の透明保護フィルム17は、延伸されて位相差が付与されたものとすることができる。位相差が付与されたフィルム、すなわち位相差フィルムを採用する場合、その偏光板が適用される液晶セルのモードによって、適当な位相差値を有するものを選択すればよい。例えば、垂直配向(Vertical Alignment:VA)モードの液晶セルに対しては、正の固有複屈折を有する高分子フィルムが一軸延伸され、屈折率楕円体がnx>ny≒nz の関係を有するポジティブAプレート、横延伸や逐次二軸延伸が施され、nx>ny>nzの関係を有する二軸性のフィルム、又は nx≒ny>nzの関係を有するネガティブCプレートを用いることができる。また横電界(In-Plane Switching:IPS)モードの液晶セルに対しては、屈折率楕円体がnx≒ny≒nzの関係を有する概ね無配向のフィルムが好ましく用いられる。ここで、nx はフィルムの面内遅相軸(x軸)方向の屈折率、ny は面内進相軸(y軸:遅相軸と面内で直交する軸)方向の屈折率、そしてnz は厚み(z軸)方向の屈折率である。
【0068】
VAモードの液晶セルに対しては、第二の透明保護フィルム17として特に、二軸延伸された二軸性の位相差フィルムが好ましく用いられる。二軸性の位相差フィルムを用いる場合、その二軸性の目安となるNz係数は、次の式(1)で定義される。また、膜厚をdとしたときの面内の位相差値Re及び厚み方向の位相差値Rthは、それぞれ次の式(2)及び(3)で定義される。
Nz=(nx−nz)/(nx−ny) (1)
Re=(nx−ny)×d (2)
Rth=〔(nx+ny)/2−nz〕×d (3)
【0069】
さらに、上記式(1)〜(3)から、Nz係数と、面内の位相差値Re及び厚み方向の位相差値Rthとの関係は、次の式(4)で表すことができる。
Nz=Rth/Re+0.5 (4)
【0070】
第二の透明保護フィルム17として二軸性の位相差フィルムを用いる場合、その面内の位相差値Reは、30〜300nmの範囲、とりわけ50〜260nmの範囲にあることが好ましい。またNz係数は、1.1〜7の範囲、とりわけ1.4〜5の範囲にあることが好ましい。これらの範囲から、適用される液晶表示装置に要求される視野角特性に合わせて、適宜光学特性の値を選択すればよい。
【0071】
一方、液晶セルから遠い側となる第一の透明保護フィルム16に対しては、ハードコート処理、帯電防止処理、反射防止処理、防汚処理、防眩処理などから選ばれる表面処理を施すことで、傷防止や視認性向上などの機能を付与することができる。
【0072】
偏光板20は、以上説明した偏光フィルム15に、それぞれ接着剤を介して、第一の透明保護フィルム16及び第二の透明保護フィルム17を貼合することにより得られる。貼合に用いる接着剤は、通常、透明樹脂からなるものであり、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液など、水系の接着剤を用いることもできるし、紫外線の照射によって硬化する紫外線硬化型接着剤を用いることもできる。偏光フィルム15の両面に設けられる接着剤層を形成する接着剤は、同種であってもよいし、異種であってもよい。
【0073】
[液晶パネル及び液晶表示装置]
本発明によって製造される粘着剤付き光学部材は、液晶パネルの構成部材として使用することができる。図1の(D)に示す粘着剤付き光学部材(粘着剤付き偏光板)25は、そこから第二の剥離フィルム3を剥がし、それによって露出する粘着剤層1を液晶セルに積層して、液晶パネルとされる。液晶パネルは、液晶セルと、液晶セルの視認側に配置される前面側偏光板と、液晶セルの視認側とは反対側に配置される背面側偏光板とで構成され、液晶表示装置の構成部材となる。
【0074】
液晶表示装置は、液晶パネルと、その視認側とは反対側に順次配置された光拡散板及びバックライトで構成される。液晶表示装置において、液晶パネルは、その背面側偏光板がバックライト側となるように配置される。ここで背面側とは、液晶パネルを液晶表示装置に搭載したときのバックライト側を意味し、視認側(前面側)とは、液晶パネルを液晶表示装置に搭載したときのバックライトとは反対側であって、その表示装置を見る人がいる側を意味する。本発明によって製造される粘着剤付き偏光板は25、前面側偏光板に用いることもできるし、背面側偏光板に用いることもできる。
【0075】
液晶セルは、ガラス基板の間に液晶物質を封入したセルを電気的に制御することで、画像を表示させる素子である。液晶セルのモードとしては、VAモード、IPSモード、ブルー相の液晶を用いた液晶駆動モードなど、公知のモードを採用することができる。
【0076】
粘着剤付着偏光板25を液晶セルに貼合するときは、第二の剥離フィルム3を粘着剤層1から剥がし、それによって露出する粘着剤層1の面を液晶セルの表面に貼合する。粘着剤付き偏光板25は、ロール状に保管されたものをシート状に繰り出してロール・トゥ・セル方式で液晶セルに貼合してもよいし、シート状にチップカットされた状態で保管されたものをシート・トゥ・セル方式で液晶セルに貼合してもよい。
【0077】
バックライトは、液晶セルに表示用の光を供給するための装置である。バックライトには、エッジライト式と呼ばれるものや直下型と呼ばれるものなどがさる。エッジライト式のバックライトは、導光板と、その側面に配置された冷陰極管やLEDなどの光源とで構成され、光源からの光が導光板を通じて液晶パネルを照射するようになっている。また、直下型のバックライトは、液晶パネルの背面側に配置された複数の光源で構成され、そこからの光が上記光拡散板を通じて液晶パネルを照射するようになっている。バックライトの種類は、液晶表示装置の用途に応じたものを適宜選択して採用することができる。
【0078】
液晶パネルとバックライトの間に配置される光拡散板は、バックライトからの光を拡散させ、均一化された光を液晶パネルに供給する機能を有する光学部材である。光拡散板としては、例えば、熱可塑性樹脂に光拡散剤である粒子を分散させて光拡散性を付与したもの、熱可塑性樹脂フィルムの表面に凹凸を形成して光拡散性を付与したもの、熱可塑性樹脂フィルムの表面に粒子が分散された樹脂組成物の塗布層を設け、光拡散性を付与したものなどが使用できる。光拡散板は通常、0.1〜5mm程度の厚さを有する。
【0079】
光拡散板と液晶パネルの間には、輝度向上フィルム〔3M社(日本では住友スリーエム(株))から“DBEF”の商品名で販売されている反射型偏光フィルムなどがこれに該当する〕や、バックライトの直上に配置される光拡散板とは異なる光拡散フィルムなど、他の光学機能性を示すシート又はフィルムを配置することもできる。他の光学機能性を示すシート又はフィルムは、必要に応じて複数種類、また複数枚配置してもよい。
【実施例】
【0080】
以下に具体的な実験例を示して、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。例中、使用量ないし含有量を表す部及び%は、特記ない限り重量基準である。
【0081】
[粘着剤シートの作製]
(a)剥離フィルム
離型処理が施された以下の4種類のポリエチレンテレフタレートフィルムを用意し、それぞれを剥離フィルムとして用いた。以下に示すフィルムは、粘着剤層からの剥離力の順に並べており、上が剥離力の小さいもの、下が剥離力の大きいものである。
【0082】
剥離フィルム1:三菱樹脂(株)から販売されている商品名“MRF”、
剥離フィルム2:三菱樹脂(株)から販売されている商品名“MRE(MT125)”、
剥離フィルム3:三菱樹脂(株)から販売されている商品名“MRV(08)”、
剥離フィルム4:帝人(株)から販売されている商品名“A71−T1”。
【0083】
(b)粘着剤用アクリル樹脂の調製
冷却管、窒素導入管、温度計及び攪拌機を備えた反応器に、酢酸エチル 169.8部、アクリル酸ブチル98.6部、アクリル酸2−ヒドロキシエチル1.0部、及びアクリル酸0.4部の混合溶液を仕込み、 窒素ガスで装置内の空気を置換して酸素不含としながら、内温を55℃に上げた。次に、重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル 0.14部を酢酸エチル5部に溶かした溶液を全量添加した。その後、内温を54〜56℃に保ちながら12時間保温し、最後に酢酸エチルを添加して、アクリル樹脂の濃度が28%となるように調節した。得られたアクリル樹脂は、ゲルパーミェーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算の重量平均分子量Mwが134万、重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnの比Mw/Mn が1.7であり、屈折率が1.46であった。
【0084】
(c)アクリル系粘着剤組成物の調製
粘着剤組成物に配合するイソシアネート系架橋剤、シラン化合物、帯電防止剤となるイオン性化合物、及び光拡散剤として、それぞれ次のものを用いた。“ ”で括った名前は商品名である。
【0085】
(イソシアネート系架橋剤)
“コロネートL”:トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体を75%濃度で含む酢酸エチル溶液、日本ポリウレタン工業(株)から入手。
【0086】
(シラン化合物)
“KBM−403”:3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、液体、信越化学工業(株)から入手。
【0087】
(イオン性化合物)
“FC−4400”:式 (C49)3(CH3)N+(CF3SO2)2-の構造を有するトリブチルメチルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、融点26℃、住友スリーエム(株)から入手。
【0088】
(光拡散剤)
“MX−1000”:平均粒径が10μm、屈折率が1.49で球状タイプのアクリル樹脂微粒子、綜研化学(株)から入手。
【0089】
上の(b)で調製したアクリル樹脂の酢酸エチル溶液(ただし、以下ではその固形分量として表示)に、上記のイソシアネート系架橋剤、シラン化合物、イオン性化合物、及び光拡散剤をそれぞれ以下の割合で配合し、アクリル系粘着剤組成物を調製した。
【0090】
(アクリル系粘着剤組成物の組成)
(b)のアクリル樹脂 100部(固形分量)
イソシアネート系架橋剤 0.16部
シラン化合物 0.5部
イオン性化合物 1.0部
光拡散剤 35部
【0091】
(d)粘着剤シートの作製
上の(a)に示した4種類の剥離フィルムを、表1に示す組合せで第一の剥離フィルム2及び第二の剥離フィルム3として用い、その間に、上の(c)で調製したアクリル系粘着剤組成物から形成される粘着剤層を挟んで、粘着剤シートを作製した。具体的な操作は以下のとおりである。まず、第二の剥離フィルムの離型処理面に、アプリケーターを用いて乾燥後の厚さが25μm となるように上記の粘着剤組成物を塗布し、90℃で2分間乾燥させて、シート状粘着剤を得た。次いで、第一の剥離フィルムの離型処理面に、上で得たシート状粘着剤の第二の剥離フィルムと反対側の面(粘着剤面)をラミネーターにより貼り合わせた後、温度23℃、相対湿度65%の条件で10日間熟成して、粘着剤シートA〜Dを作製した。
【0092】
(e)トンネリングの有無の評価
上の(d)で粘着剤シートを作製する際、第二の剥離フィルム上に形成された粘着剤層を第一の剥離フィルムの離型処理面に貼り合わせた直後に、第一の剥離フィルムと粘着剤層との間のデラミネーション現象(トンネリングによるスジ又は気泡の存在)の有無を目視で観察した。結果は、表1の「トンネリング」の欄に表示した。
【0093】
(f)第一の剥離フィルムの剥離力の測定
上の(d)で作製したそれぞれの粘着剤シートについて、第一の剥離フィルムの粘着剤層からの剥離力を以下の手順で測定した。まず、スーパーカッターを用いて、粘着剤シートから長さ150mm×幅25mmの試験片を裁断した。そして、図5(A)に示すように、第二の剥離フィルム3の表面に市販の両面粘着テープ45を貼り付け、さらに、ハンドローラーを用いて両面粘着テープ45の反対面をガラス基板50〔コーニング社製の商品名“EAGLE XG”〕に貼り付けた。この状態で、オートグラフ〔(株)島津製作所製の製品名“AGS−X”〕を用いて第一の剥離フィルム2の長さ方向一端(幅25mmの一辺)をつかみ、荷重範囲5,000g及び剥離速度0.3m/分で180度方向(折り返してフィルム面に沿う方向であって、図中の曲線矢印方向)に引っ張って粘着剤層1から剥がし、そのときの剥離力をチャートに記録した。測定開始直後と測定終了直前はデータが安定しないため、測定開始後20%のデータと測定終了前20%のデータをカットし、データが比較的安定している中間部分60%の範囲のみから平均値を算出し、これを剥離力とした。各粘着剤シートA〜Dについて試験し、結果を表1に示した。
【0094】
(g)第二の剥離フィルムの剥離力の測定
上の(f)で第一の剥離フィルムを剥がした後の第二の剥離フィルム/粘着剤層の積層体を両面粘着テープ45から剥がした。次に、図5(B)に示すように、その粘着剤層1を、ハンドローラーを用いて上の(f)に示したのと同じガラス基板“EAGLE XG”に貼り付けた。この状態で、上の(f)に示したのと同じオートグラフ“AGS−X”を用いて第二の剥離フィルム3の長さ方向一端をつかみ、それ以外は上の(f)と同じ条件で剥離力を測定して、結果を表1に示した。
【0095】
(h)第二の剥離フィルム未剥離の可能性の評価
上の(g)で求めた第二の剥離フィルム3の剥離力が 0.15N/25mmとなった粘着剤シートCについては、そこから第一の剥離フィルムを剥がして粘着剤層を光学部材に貼って粘着剤付き光学部材とし、液晶セルへ貼合する直前に第二の剥離フィルムを剥がすとき、その第二の剥離フィルムの未剥離の問題が生じやすいと判断し、表1の「第二の剥離フィルム未剥離の可能性」の欄に「あり」と表示した。その他の粘着剤シートA、B及びDは、第二の剥離フィルムの剥離力が0.15N/25mm を下回っているので、その未剥離問題は生じにくいと判断し、表1の同項目に「なし」と表示した。
【0096】
【表1】
【0097】
表1に示すとおり、粘着剤シートDでは、第一の剥離フィルム2の剥離力が 0.02N/25mmと小さいため、トンネリングが発生した。また、粘着剤シートCでは、第二の剥離フィルム3の剥離力が0.15N/25mm と大きいため、液晶セルに貼合する直前にその第二の剥離フィルムを剥がすとき、未剥離の問題を起こす可能性が大きい。
【0098】
次に、上で作製した粘着剤シートA〜Dのうち、第一の剥離フィルムにトンネリングが発生せず、第二の剥離フィルムに未剥離の問題も生じないと判断された粘着剤シートA及びBを用いて剥離試験を行い、泣き別れの有無を評価した実験例を示す。
【0099】
[実施例1]
(a)高速剥離試験
スーパーカッターを用いて、粘着剤シートAから長さ500mm×幅25mmの試験片を裁断した。そして、図6(A)に示すように、その第一の剥離フィルム2の表面に、市販されている厚さ約0.1mm の両面粘着テープ45を貼り付け、さらに、ハンドローラーを用いて、両面粘着テープ45の反対面をガラス基板50〔コーニング社製の商品名“EAGLE XG”〕に貼り付けた。この状態で、剥離試験機〔韓国の CHUNG BUK TECHNOLOGY CO. 製の製品名“SSA-034-SD (Double Type)”〕を用い、第二の剥離フィルム3の長さ方向一端(幅25mmの一辺)をつかみ、荷重範囲を 5,000gとし、剥離速度を5m/分、10m/分、及び15m/分の3水準で変化させて、図中の曲線矢印方向に引っ張って第二の剥離フィルム3を剥がし、そのときの剥離力をチャートに記録した。測定開始直後と測定終了直前はデータが安定しないため、測定開始後20%のデータと測定終了前20%のデータをカットし、データが比較的安定している中間部分60%の範囲のみから平均値を算出し、これを剥離力とした。結果を表2に示した。この試験は、第一の剥離フィルム2を水平方向に固定し、第二の剥離フィルム3をそれとは異なる方向に引っ張ることにより行っており、かつ第二の剥離フィルム3の粘着剤層の反対側からはロールなどによる特別な押圧力を加えていない。そこで相対的には、第一の剥離フィルム2は、屈曲しないように直進させ、第二の剥離フィルム3は、粘着剤層の反対側から押圧力が加わらないようにして第一の剥離フィルム2が位置する水平方向とは異なる方向に搬送する状態に相当する。
【0100】
(b)手剥離試験
スーパーカッターを用いて、粘着剤シートAから長さ400mm×幅25mmの試験片を裁断した。そして、図7(A)に示すように、第一の剥離フィルム2の長さ方向両端を一人の人間が左右の両手でつかんで図中の外側へ向く2本の直線矢印方向に引っ張り、その方向にある程度張力を付与した状態で、第二の剥離フィルム3の一端をもう一人の人間がつかんでこれを図中の曲線矢印方向に引き上げ、第二の剥離フィルム3を剥がした。この試験も、第一の剥離フィルム2を水平方向に固定し、第二の剥離フィルム3をそれとは異なる方向に引っ張ることにより行っており、かつ、第二の剥離フィルム3の粘着剤層の反対側からはロールなどによる特別な押圧力を加えていない。そこで相対的には、第一の剥離フィルム2は、屈曲しないように直進させ、第二の剥離フィルム3は、粘着剤層の反対側から押圧力が加わらないようにして第一の剥離フィルム2が位置する水平方向とは異なる方向に搬送する状態に相当する。
【0101】
(c)泣き別れの有無の観察
上の(a)高速剥離試験及び(b)手剥離試験それぞれを行った後、第一の剥離フィルム2の表面を目視で観察した。そして、その第一の剥離フィルム2の表面に残った粘着剤の量によって、以下のレベル0〜3の4段階に区分し、泣き別れの有無を評価した。レベル0のみが、泣き別れなしで粘着剤層1がすべて第二の剥離フィルム3に移った状態に相当する。なお、レベル3の状態は、泣き別れとはいわないが、粘着剤層1が意図しない第一の剥離フィルム2に残っている状態である。結果を表2に示した。
【0102】
〈泣き別れのレベル〉
レベル3:粘着剤がすべて第一の剥離フィルム2に残る。
レベル2:粘着剤の50%超100%未満が第一の剥離フィルム2に残る。
レベル1:粘着剤の0%超50%以下が第一の剥離フィルム2に残る。
レベル0:粘着剤が第一の剥離フィルム2にまったく残らない。
【0103】
[実施例2]
粘着剤シートAを粘着剤シートBに変え、その他は実施例1と同じ試験を行い、結果を表2にまとめた。
【0104】
[比較例1]
(a)高速剥離試験
実施例1の(a)と同様に、粘着剤シートAから長さ500mm×幅25mmの試験片を裁断するが、図6(B)に示すように、両面粘着テープ45を介して第二の剥離フィルム3側をガラス基板50に貼り、第一の剥離フィルム2を図中の曲線矢印方向に引っ張って剥がすように変更し、その他は実施例1の(a)と同様の試験を行った。結果を表2に示した。この試験は、第二の剥離フィルム3を水平方向に固定し、第一の剥離フィルム2をそれとは異なる方向に引っ張ることにより行っており、かつ第一の剥離フィルム2の粘着剤層の反対側からはロールなどによる特別な押圧力を加えていない。そこで相対的には、第二の剥離フィルム3は、屈曲しないように直進させ、第一の剥離フィルム2は、粘着剤層の反対側から押圧力が加わらないようにして第二の剥離フィルム3が位置する水平方向とは異なる方向に搬送する状態に相当する。すなわちこの試験は、先に説明した図4(A)の状態に相当する。
【0105】
(b)手剥離試験
実施例1の(b)と同様に、粘着剤シートAから長さ400mm×幅25mmの試験片を裁断するが、図7(B)に示すように、第二の剥離フィルム3の長さ方向両端を一人の人間が左右の両手でつかんで図中の外側へ向く2本の直線矢印方向に引っ張り、その方向にある程度張力を付与した状態で、第一の剥離フィルム2の一端をもう一人の人間がつかんでこれを図中の曲線矢印方向に引き上げ、第一の剥離フィルム2を剥がした。結果は、実施例1に準じて評価し、表2に示した。この試験も、第二の剥離フィルム3を水平方向に固定し、第一の剥離フィルム2をそれとは異なる方向に引っ張ることにより行っており、かつ、第一の剥離フィルム2の粘着剤層の反対側からはロールなどによる特別な押圧力を加えていない。そこで相対的には、第二の剥離フィルム3は、屈曲しないように直進させ、第一の剥離フィルム2は、粘着剤層の反対側から押圧力が加わらないようにして第二の剥離フィルム3が位置する水平方向とは異なる方向に搬送する状態に相当する。
【0106】
[比較例2]
粘着剤シートAを粘着剤シートBに変え、その他は比較例1と同じ試験を行い、結果を表2にまとめた。
【0107】
[比較例3]
(a)高速剥離試験
実施例1の(a)と同様に、粘着剤シートAから長さ500mm×幅25mmの試験片を裁断するが、図6(C)に示すように、この試験片の第一の剥離フィルム2の外側長さ方向一端(幅25mmの一端)にのみ、厚さ約0.1mm の両面粘着テープ45を25mm幅で貼り付け、さらに両面粘着テープ45の反対面をガラス基板50に貼り付けた。この状態で、第二の剥離フィルム3を図中の曲線矢印方向に引っ張って剥がすように変更し、その他は実施例1の(a)と同様の試験を行い、結果を表2に示した。この試験は、図6(C)に示すとおり、第一の剥離フィルム2及び第二の剥離フィルム3に屈曲が生じた状態で行っているので、先に説明した図4(B)に近い状態である。
【0108】
(b)手剥離試験
実施例1の(b)と同様に、粘着剤シートAから長さ400mm×幅25mmの試験片を裁断するが、図7(C)に示すように、その長さ方向一端の第一の剥離フィルム2と第二の剥離フィルム3を一人の人間が左右の両手でそれぞれつかんで、図中の左右に向く曲線矢印方向に引っ張り、両者を引き剥がす試験を行った。結果を表2に示した。
【0109】
[比較例4]
比較例3の(a)と同様に、粘着剤シートAから長さ500mm×幅25mmの試験片を裁断するが、図6(D)に示すように、この試験片の第二の剥離フィルム3の外側長さ方向一端(幅25mmの一端)にのみ、厚さ約0.1mm の両面粘着テープ45を25mm幅で貼り付け、さらに両面粘着テープ45の反対面をガラス基板50に貼り付けた。この状態で、第一の剥離フィルム2を図中の曲線矢印方向に引っ張って剥がすように変更し、その他は比較例3の(a)と同様の実験を行い、結果を表2に示した。この試験も、図6(D)に示すとおり、第一の剥離フィルム2及び第二の剥離フィルム3に屈曲が生じた状態で行っているので、先に説明した図4(B)に近い状態である。
【0110】
なお、この例に相当する手剥離試験は、比較例3の(b)と同じなので、表2の「手剥離試験」の欄には、「同上」とのみ記載した。「比較例3と同じ」という趣旨である。
【0111】
[比較例5及び6]
粘着剤シートAを粘着剤シートBに変え、その他は比較例3及び4と同じ実験を行い、結果を表2に示した。
【0112】
【表2】
【0113】
表2に示すとおり、剥離フィルムを剥がすときに、第一の剥離フィルム2を水平状態とし、第二の剥離フィルム3をそれとは異なる方向に引っ張ると、泣き別れが発生せずに、粘着剤層1が第二の剥離フィルム3に伴って剥がれるのに対し、第二の剥離フィルム3を水平状態とし、第一の剥離フィルムをそれとは異なる方向に引っ張ると、粘着剤層1がすべて、引っ張った第一の剥離フィルム2側に移行し、また第一の剥離フィルムが屈曲している状態で引っ張ると、泣き別れが発生する。これらの結果から、第一の剥離フィルム2は屈曲しないように直進させ、第二の剥離フィルム3は粘着剤層1が貼着されている面の反対側から押圧力が加わらないように、第一の剥離フィルム2の直進方向とは異なる方向に搬送すれば、粘着剤層1が泣き別れを起こすことなく、第二の剥離フィルム3に伴って剥がれることがわかる。
【符号の説明】
【0114】
1……粘着剤層、
2……第一の剥離フィルム、
3……第二の剥離フィルム、
5……粘着剤シート、
10……第二の剥離フィルムと粘着剤層との積層体(粘着剤シート製造のための中間体となり、光学部材への貼合前粘着剤シートともなる)、
15……偏光フィルム、
16,17……透明保護フィルム、
20……光学部材(偏光板)、
25……粘着剤付き光学部材、
30,33,36,40……繰出しロール、
31……塗工機、
32……乾燥機、
34,41……貼合ロール、
35,39,42……巻き取りロール、
37……上流テンションロール、
38……下流テンションロール、
L……第一の剥離フィルムの直進区間、
P……剥離ポイント、
A……粘着剤シートの拡大断面図、
45……両面粘着テープ、
50……ガラス基板。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7