特許第5904079号(P5904079)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5904079シリコン単結晶育成装置及びシリコン単結晶育成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5904079
(24)【登録日】2016年3月25日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】シリコン単結晶育成装置及びシリコン単結晶育成方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20160331BHJP
   C30B 15/00 20060101ALI20160331BHJP
   C30B 15/14 20060101ALI20160331BHJP
【FI】
   C30B29/06 502C
   C30B15/00 Z
   C30B15/14
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-221472(P2012-221472)
(22)【出願日】2012年10月3日
(65)【公開番号】特開2014-73925(P2014-73925A)
(43)【公開日】2014年4月24日
【審査請求日】2014年9月16日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】星 亮二
(72)【発明者】
【氏名】菅原 孝世
【審査官】 塩谷 領大
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−263197(JP,A)
【文献】 特開2003−212691(JP,A)
【文献】 特開平09−309789(JP,A)
【文献】 特開2001−139392(JP,A)
【文献】 特開2002−154895(JP,A)
【文献】 特開2002−220296(JP,A)
【文献】 特開2011−020882(JP,A)
【文献】 特開2003−243404(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱用の黒鉛ヒーターの内側に黒鉛ルツボ、該黒鉛ルツボの内側に石英ルツボを配置し、該石英ルツボ内に満たされる原料溶融液から結晶を育成するチョクラルスキー法によるシリコン単結晶育成装置であって、
前記黒鉛ヒーターの外側にヒーター外側断熱部材、前記黒鉛ルツボの下部にルツボ下部断熱部材、前記黒鉛ルツボ及び前記石英ルツボの直胴部の上方にルツボ上部断熱部材、前記黒鉛ルツボが上昇した時にその直胴部の外側に位置するルツボ外側断熱部材、前記黒鉛ルツボ及び前記石英ルツボの直胴部の内側にルツボ内側断熱部材、前記原料溶融液の液面の上方に遮熱部材を有し、前記ルツボ内側断熱部材の内側に整流筒を有し、該整流筒の上端に冷却筒を有し、前記整流筒の下端に前記遮熱部材が配置され、前記ルツボ上部断熱部材と前記ルツボ外側断熱部材と前記ルツボ内側断熱部材との内側に形成される空間において、前記黒鉛ルツボ及び前記石英ルツボが結晶成長軸方向に昇降可能なものであることを特徴とするシリコン単結晶育成装置。
【請求項2】
前記ヒーター外側断熱部材、前記ルツボ下部断熱部材、前記ルツボ上部断熱部材、前記ルツボ外側断熱部材、前記ルツボ内側断熱部材、及び前記遮熱部材がそれぞれ炭素繊維又はガラス繊維からなるものであり、前記ヒーター外側断熱部材、前記ルツボ下部断熱部材、前記ルツボ上部断熱部材、前記ルツボ外側断熱部材、前記ルツボ内側断熱部材、及び前記遮熱部材のそれぞれの表面が黒鉛材又は石英材により保護されたものであることを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶育成装置。
【請求項3】
前記原料溶融液の液面の高さにおける前記黒鉛ルツボの結晶成長軸方向の温度勾配が11℃/cm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシリコン単結晶育成装置。
【請求項4】
加熱用の黒鉛ヒーターの内側に黒鉛ルツボ、該黒鉛ルツボの内側に石英ルツボを配置し、該石英ルツボ内に満たされる原料溶融液から結晶を育成するチョクラルスキー法によるシリコン単結晶育成方法であって、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のシリコン単結晶育成装置を用いて結晶を育成することを特徴とするシリコン単結晶育成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はチョクラルスキー法によるシリコン単結晶育成装置及びシリコン単結晶育成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体産業においては、シリコンウェーハが多数用いられており、その元となるシリコン単結晶の育成は重要な技術である。シリコン単結晶の育成にはシリコン棒を誘導コイルで局所的に加熱溶融して単結晶化させるフローティングゾーン(FZ)法と、ルツボの中のシリコン原料をヒーターで加熱し溶融させた溶液から単結晶を引き上げるチョクラルスキー(CZ)法とがある。CZ法におけるルツボは、シリコンと酸素からなる石英ルツボと、石英ルツボが高温で軟化し形状が崩れてしまうのを防ぐために石英ルツボを支持する黒鉛ルツボの2重構造になっているのが一般的である。CZ法では、育成された結晶には石英ルツボから溶出した酸素がシリコン中に取り込まれており、この結晶から切り出されたウェーハではデバイス中の熱処理などによって酸素析出物が形成され、それがデバイス工程中の不純物を捕獲するゲッタリング効果を発揮する。また、FZ法に比べCZ法では大口径化が比較的容易であることなどもあり、工業的にシリコン単結晶を育成する方法としてはCZ法が主流となっている。
【0003】
シリコンウェーハ上に形成されるデバイスは電子やホールが移動することで動作するため、ウェーハに転位があると電流がリークするなどの問題が生じる。そのため、デバイスを形成する際の出発原料となるシリコンウェーハには転位が無いことが要求される。従って、シリコンウェーハを切り出す元の結晶は転位の無い単結晶であることが必須である。結晶は高温で育成されるので、結晶育成時に有転位化すると、転位がすべったり、増殖したりして、多くの転位が発生してしまう。このような有転位化結晶から切り出したウェーハは、多数の転位を含んでいるため、先端デバイスを作製することができない。従って、結晶育成における有転位化は大きな問題である。しかし、長年多くの研究がなされてきているが、未だに完全に有転位化を防ぐことはできていない。
【0004】
CZ法における結晶育成中の有転位化の原因としては、結晶成長時の内部応力によるものや、種々の難溶物によるものなどが考えられている。結晶の有転位化の原因の一つである内部応力は、例えば結晶の成長速度を非常に高速化すると、液体から固体へ変化する際に発せられる固化潜熱が増加し、融点の等温線である結晶成長界面が上凸形状となりその高さが高くなっていく。結晶成長界面の高さが高くなると、結晶成長軸に対して垂直の方向における温度勾配が大きくなるので、結晶の中心部の応力が大きくなってしまう。この応力が一定以上になれば有転位化が発生してしまうことが経験的に知られている。これを防ぐためには例えば結晶の冷却を強化するなどして、発生した固化潜熱を結晶側から抜くことで、結晶成長界面の高さが低下し、その結果応力が低下して有転位化の抑制が可能となる。更に容易な方法は、成長速度を低下させることで固化潜熱を減らすことである。一般的には、内部応力による有転位化が起こらない範囲の成長速度で結晶を育成することが常識的に行われており、内部応力による有転位化は特に大きな問題ではない。
【0005】
もう一つの有転位化の原因である難溶物としては、炉内にある黒鉛材や断熱材、ワイヤーなど炉内部品由来の不純物、石英ルツボの結晶化・劣化・気泡の開口等により石英ルツボの一部が剥離したSiO、石英ルツボからシリコン溶融液中に溶出した酸素とシリコンが反応した揮発性の酸化シリコン(SiO)がルツボの直胴部の先端やチャンバーなどの冷却された部分に付着して固まったものが再度原料溶融液中に落下したSiO、原料溶融液の温度の不均一性や揺らぎなどによって生じる原料溶融液の固化などが考えられている。このうち炉内部品に由来の不純物は部品形状の工夫などにより比較的容易に解決可能である。
【0006】
石英ルツボの劣化によるSiO難溶物の発生に対しては、例えば特許文献1では操業中の炉内圧を適正化して劣化防止が講じられている。また石英ルツボそのものの品質を改善する技術が種々開示されている。
【0007】
揮発性SiOが固まって落下する問題に対しては、例えば特許文献2には結晶を囲繞する円筒(整流筒)とその下端にカラーを装着することで、上部から流れるアルゴンガスなどにより揮発性SiOやヒーター部で生成されるCOやCO等のガスを整流して、ルツボより上部の部品への付着を防止する技術が開示されている。また、特許文献3ではカラーの外周部をルツボの直胴部の上部まで伸ばすことでルツボの直胴部の上端部を保温し、SiOの付着を防止することも開示されている。また、目的は異なるが特許文献4には断熱材を有する逆円錐状遮熱部材とルツボの直胴部の外側の断熱部材とを組合せた構造、特許文献5、6にはヒーターの上部でルツボの直胴部の近くまで張り出した断熱部材、特許文献7にはルツボの側壁上部と内側に張り出している輻射シールドが開示されている。これらの特許文献はルツボの直胴部を保温する効果がありSiOの付着を予防していると考えられる。
【0008】
最後に、原料溶融液が固化する問題に対しては、例えば特許文献8には遮熱リングによって輻射熱を反射して界面近傍を保温する技術が開示されている。更に特許文献9では石英ルツボの上方に設置されるアッパーリングによってアッパーリングより下方の空間が保温され、原料溶融液の固化が抑制できる技術が開示されている。
【0009】
上記のように、いくつか考えられる有転位化の原因に対して、これまで様々な手段を講じてこれを防ぐことを試みている。しかしながら、これらの方策を施しても、未だに結晶の有転位化が完全に治まることは無く、石英ルツボの改質・各種操業条件の最適化など日々有転位化の低減のための努力が継続されている。また、近年、結晶を育成した時点で無欠陥である結晶の需要の伸びが顕著となっている。この無欠陥結晶を育成するためには、結晶面内の温度勾配を均一に保つ必要がある。この結晶面内の温度勾配を均一化するために、前述の整流筒や遮熱リングと原料溶融液の液面との距離を大きめに取ることが行われており、その結果、原料溶融液の液面の保温性が低下して、原料溶融液の固化が発生し有転位化の原因となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−9097号公報
【特許文献2】特開昭64−65086号公報
【特許文献3】特開平9−183686号公報
【特許文献4】特開平6−340490号公報
【特許文献5】特開2001−10890号公報
【特許文献6】特開平9−278581号公報
【特許文献7】特開2000−119089号公報
【特許文献8】特開平5−105578号公報
【特許文献9】特開平5−221779号公報
【特許文献10】特開2012−148918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記のような問題点を鑑みてなされたもので、整流筒や遮熱部材と原料溶融液の液面との距離が大きい場合においても、原料溶融液の液面の保温性を維持し、固化等による有転位化を抑制することのできるシリコン単結晶育成装置及びシリコン単結晶育成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明によれば、
加熱用の黒鉛ヒーターの内側に黒鉛ルツボ、該黒鉛ルツボの内側に石英ルツボを配置し、該石英ルツボ内に満たされる原料溶融液から結晶を育成するチョクラルスキー法によるシリコン単結晶育成装置であって、
前記黒鉛ヒーターの外側にヒーター外側断熱部材、前記黒鉛ルツボの下部にルツボ下部断熱部材、前記黒鉛ルツボ及び前記石英ルツボの直胴部の上方にルツボ上部断熱部材、前記黒鉛ルツボが上昇した時にその直胴部の外側に位置するルツボ外側断熱部材、前記黒鉛ルツボ及び前記石英ルツボの直胴部の内側にルツボ内側断熱部材、前記原料溶融液の液面の上方に遮熱部材を有し、前記ルツボ上部断熱部材と前記ルツボ外側断熱部材と前記ルツボ内側断熱部材との内側に形成される空間において、前記黒鉛ルツボ及び前記石英ルツボが結晶成長軸方向に昇降可能なものであることを特徴とするシリコン単結晶育成装置を提供する。
【0013】
このようなシリコン単結晶育成装置であれば、整流筒や遮熱部材と原料溶融液の液面との距離が大きい場合においても、原料溶融液の液面の保温性を維持し、固化等による有転位化を抑制することができる。
【0014】
また、前記ヒーター外側断熱部材、前記ルツボ下部断熱部材、前記ルツボ上部断熱部材、前記ルツボ外側断熱部材、前記ルツボ内側断熱部材、及び前記遮熱部材がそれぞれ炭素繊維又はガラス繊維からなるものが好ましく、また、それぞれの表面が黒鉛材又は石英材により保護されたものが好ましい。
【0015】
このような断熱材を用いることで、より高温域での保温性を維持することができ、さらに、断熱材のシリコンとの反応による珪化を抑制することができる上に、不純物ともなりにくい。
【0016】
また、前記原料溶融液の液面の高さにおける前記黒鉛ルツボの結晶成長軸方向の温度勾配が11℃/cm以下であることが好ましい。
【0017】
このような黒鉛ルツボの温度勾配であれば、原料溶融液の温度勾配を小さくし、原料溶融液の固化による有転位化の回数を減らすことができる。
【0018】
また、本発明は、加熱用の黒鉛ヒーターの内側に黒鉛ルツボ、該黒鉛ルツボの内側に石英ルツボを配置し、該石英ルツボ内に満たされる原料溶融液から結晶を育成するチョクラルスキー法によるシリコン単結晶育成方法であって、上記のシリコン単結晶育成装置を用いて結晶を育成することを特徴とするシリコン単結晶育成方法を提供する。
【0019】
このようなシリコン単結晶育成方法であれば、整流筒や遮熱部材と原料溶融液の液面との距離が大きい場合においても、原料溶融液の液面の保温性を維持し、固化等による有転位化の回数を減らしたシリコン単結晶を得ることができる。
【0020】
さらに、本発明は、加熱用の黒鉛ヒーターの内側に黒鉛ルツボ、該黒鉛ルツボの内側に石英ルツボを配置し、該石英ルツボ内に満たされる原料溶融液から結晶を育成するチョクラルスキー法によるシリコン単結晶育成方法であって、前記原料溶融液の液面の高さにおける前記黒鉛ルツボの結晶成長軸方向の温度勾配が11℃/cm以下としてシリコン単結晶を育成することを特徴とするシリコン単結晶育成方法を提供する。
【0021】
このような黒鉛ルツボの温度勾配としたシリコン単結晶育成方法であれば、原料溶融液の温度勾配を小さくし、原料溶融液の固化による有転位化を確実に抑制してシリコン単結晶を得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のシリコン単結晶育成装置及びシリコン単結晶育成方法であれば、整流筒や遮熱部材と原料溶融液の液面との距離が大きい場合においても、原料溶融液の液面の保温性を維持し、固化等による有転位化を抑制してシリコン単結晶を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明のシリコン単結晶育成装置の一例を示す概略図である。
図2】比較例1で用いたシリコン単結晶育成装置の概略図である。
図3】比較例2で用いたシリコン単結晶育成装置の概略図である。
図4】実施例及び比較例における黒鉛ルツボの温度勾配を計算した場所を示す断面図である。
図5】実施例及び比較例における温度勾配及び有転位化指標の結果の相関関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明についてより具体的に説明する。
本発明者らは種々の操業条件における有転位化の状況を詳細に調査した。まず、操業条件ごとに有転位化を指標化して、その操業条件における種々のデータを比較した。未だに除去し切れていない有転位化の要因は原料溶融液の温度の揺らぎによって生じる固化と推定し、原料溶融液周辺の温度と種々の指標の相関関係を調査した。その結果、黒鉛ルツボの温度勾配、特に原料溶融液の液面の高さにおける黒鉛ルツボの結晶成長軸方向の温度勾配と有転位化指標との間に相関があり、温度勾配が小さいほど有転位化しにくいことを見出した。黒鉛ルツボの温度勾配が大きいと、原料溶融液の温度の揺らぎが生じた場合に、その揺らぎの幅も大きくなるため、固化が発生しやすくなっていると考えられる。
【0025】
ここで、黒鉛ルツボの温度勾配、ひいては原料溶融液の温度勾配を小さくするためには、これらの熱ロスを小さくすることが重要である。従来のCZ法によるシリコン単結晶育成装置においては、黒鉛ヒーターの外側に断熱部材を配置し、黒鉛ヒーター及び黒鉛ルツボの熱ロスの低減を図るのが一般的であった。
【0026】
本発明者らはこれに加え、黒鉛ルツボ及び石英ルツボの直胴部の周辺及び下部に断熱部材を配置し、強固に保温することで、原料溶融液の液面の高さにおける黒鉛ルツボの結晶成長軸方向の温度勾配を小さくできることを見出した。
【0027】
以上のような知見に基づき、本発明者らは、黒鉛ヒーターの外側にヒーター外側断熱部材、黒鉛ルツボの下部にルツボ下部断熱部材、黒鉛ルツボ及び石英ルツボの直胴部の上方にルツボ上部断熱部材、黒鉛ルツボが上昇した時にその直胴部の外側に位置するルツボ外側断熱部材、黒鉛ルツボ及び石英ルツボの直胴部の内側にルツボ内側断熱部材、原料溶融液の液面の上方に遮熱部材を有するシリコン単結晶育成装置であれば、原料溶融液の液面の高さにおける黒鉛ルツボの結晶成長軸方向の温度勾配を小さくでき、これによって単結晶の有転位化を改善できることに想到し、本発明を完成させた。
【0028】
以下、本発明について図面を参照して更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0029】
図1は、本発明のシリコン単結晶育成装置の一例を示す概略図である。
本発明の特徴は、黒鉛ルツボの直胴部を強固に保温する技術である。CZ法によるシリコン単結晶育成装置では、メインチャンバー1内において、黒鉛ルツボ6に支持される石英ルツボ5に満たされた原料溶融液4に種結晶を浸漬した後、原料溶融液4から単結晶棒3が引き上げられる。黒鉛ルツボ6及び石英ルツボ5は結晶成長軸方向に昇降可能であり、結晶成長中に結晶化して減少した原料溶融液4の液面下降分を補うように上昇させていく。従って、育成中の単結晶棒3の長さが長くなると、黒鉛ルツボ6の直胴部上端は、上部の冷却水等で冷やされている冷却筒10やメインチャンバー1の天井部に近づいていき、ここからの熱ロスが増大する。本発明では、これを防ぐために、黒鉛ヒーター7の外側のヒーター外側断熱部材13に加え、ルツボ下部断熱部材14、ルツボ上部断熱部材15、ルツボ外側断熱部材16、及びルツボ内側断熱部材17を有し、ルツボ上部断熱部材15とルツボ外側断熱部材16とルツボ内側断熱部材17との内側に黒鉛ルツボ6及び石英ルツボ5が結晶成長軸方向に昇降可能な空間を形成することで、黒鉛ルツボ6の直胴部を保温し、ここからの熱ロスを低減する。
【0030】
尚、ルツボ下部断熱部材14は、黒鉛ルツボ6から下側への熱ロスの低減を図るものである。黒鉛ルツボ6から下側への熱ロスが大きいと、その熱ロスを補うように黒鉛ヒーター7のパワーが高くなり、結果として黒鉛ルツボ6の温度勾配が高くなってしまうので、この熱ロスを低減するルツボ下部断熱部材14は必須である。
【0031】
更に、原料溶融液4と単結晶棒3との界面近傍において、単結晶棒3を囲繞するように、炭素繊維又はガラス繊維からなる断熱材を有する遮熱部材12を配置する。この遮熱部材12によって、原料溶融液4から成長中の単結晶棒3への輻射熱を抑制することができる。遮熱部材12の材質としては、特に限定されるわけではないが、前記断熱材を例えば黒鉛、モリブデン、タングステン、炭化ケイ素、または黒鉛の表面を炭化ケイ素で被覆したもの等で保護したものを用いることができる。
【0032】
上記のような構造は熱ロスを低減できることを第一の利点としているが、その他の利点として揮発性の酸化シリコン(SiO)のルツボの上方における付着防止を挙げることができる。前述したように揮発性SiOは冷えているところに付着して固まり、原料溶融液に落下して有転位化の原因となる。しかし、上記のように黒鉛ルツボ及び石英ルツボの上方をルツボ上部断熱部材により覆うことで、黒鉛ルツボ及び石英ルツボの上方には低温部がなくなり、SiOの付着を防止することが可能である。また、SiOは、ガス導入口9から流れ出し整流筒11を通じてガス流出口8の先にある真空ポンプに吸い込まれているArガスの流れに乗って、下方へと運ばれることで原料溶融液4より上部に付着しないようにしている。
【0033】
また、前述した各断熱部材は炭素繊維もしくはガラス繊維など高温で使用可能な断熱材であることが好ましい。ただし、このような断熱部材の表面は繊維状になっており、劣化するとゴミが発生しやすい上、シリコンと反応して珪化してしまうことがある。従って断熱部材の珪化を抑制する必要がある場合には、板状の黒鉛材もしくは石英材など高温で安定な物質で表面を保護するとより好ましい。
【0034】
各断熱部材の表面を黒鉛材や石英材で保護する場合には、断熱部材全体を囲んで保護しても良いし、珪化しやすく繊維が落下すると問題となる原料溶融液に近いほうの面のみを保護しても良い。
【0035】
以上のような装備を施し、原料溶融液4の液面の高さにおける黒鉛ルツボ6の結晶成長軸方向の温度勾配が11℃/cm以下であるシリコン単結晶育成装置を用いて結晶を育成すれば、有転位化の回数を減らすことが可能である。
【0036】
ここでの原料溶融液の液面の高さにおける黒鉛ルツボの結晶成長軸方向の温度勾配は、FEMAGなど温度解析シミュレーションによって求められた値である。具体的に温度勾配を求めた位置は図4の「A」で示した部分である。
【0037】
原料溶融液の固化発生抑制の指標としては、本来、黒鉛ルツボや石英ルツボの温度勾配ではなく、原料溶融液の温度勾配とし、その値を小さくするべきであるが、シミュレーションにおける原料溶融液の温度計算は、自然対流や強制対流などの対流を考慮するか否かで大きく勾配値が変化してしまうため、指標として用いるのが難しい。そこで原料溶融液の温度勾配と比例の関係にある黒鉛ルツボ又は石英ルツボの温度勾配、特に熱伝導率が大きい黒鉛ルツボの温度勾配を指標とした。石英ルツボの場合には石英材の熱伝導率が黒鉛ルツボと異なるので、石英ルツボの温度勾配を指標に用いる場合には前述の値とは異なる値とする必要がある。
【0038】
尚、上記の原料溶融液の液面の高さにおける黒鉛ルツボの結晶成長軸方向の温度勾配の値は黒鉛ルツボを形成する黒鉛材の熱伝導率、放射率等の物性値が変わることにより変動するものである。従って、これらについても勘案してシミュレーションを行う。
【0039】
また、各断熱部材を配置する場合には、これらの断熱部材が隙間なく黒鉛ルツボ、石英ルツボ、及び黒鉛ヒーターを囲む様になっているのが理想的である。しかし現実的には石英ルツボ、及び黒鉛ヒーターの昇降する都合上や、セットする際の都合上の他、炉内を観察する都合上など、様々な理由で隙間なく各断熱部材を配置するのは難しい。従って、前述の各種の断熱部材は、上記の温度勾配を満たす範囲で隙間等を設けることができる。また、各種の断熱部材のうち、幾つかを分割又は結合して部品点数を増減させてもかまわない。
【0040】
また、各断熱部材の厚みは厚ければ厚いほど好ましい。しかし前述した理由や、メインチャンバーの大きさなどの制約で際限なく大きくすることは不可能である。そのような場合でも、前述した温度勾配を満たす範囲で厚さを適宜選択できる。
【0041】
また、本発明のシリコン単結晶育成装置には、上記の装備に抵触しない範囲であれば、CZ法による他の技術と組み合わせることができる。例えば、特許文献10に記載の、冷却筒の冷却能力を向上させ、引上げ速度を高速度とし、それによって単結晶の生産性及び歩留まりを向上させ、かつ消費電力を抑制することができる技術等と組み合わせることができる。
【0042】
本発明のシリコン単結晶育成方法では、原料溶融液の液面の高さにおける黒鉛ルツボの結晶成長軸方向の温度勾配を11℃/cm以下、好ましくは10℃/cm以下としてシリコン単結晶を育成する。
【0043】
原料溶融液の液面の高さにおける黒鉛ルツボの結晶成長軸方向の温度勾配を11℃/cm以下とする方法としては、前述の黒鉛ルツボの直胴部及び下部を強固に保温する装備を施したシリコン単結晶育成装置を用いることを挙げることができる。それによって、原料溶融液の温度勾配を小さくすることができ、原料溶融液の固化による有転位化を確実に抑制したシリコン単結晶を得ることができる。
【0044】
このようなシリコン単結晶育成方法は、CZ法により行われる方法であり、例えば、原料溶融液に磁場を印加して単結晶を育成する磁場印加CZ(MCZ)法等により行うことができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0046】
(比較例1)
図2に示した単結晶育成装置を用いて、口径32インチ(813mm)のルツボから300mm結晶(実際の太さは305−307mm程度)を多数育成した。図2の装置は、ヒーター外側断熱部材113と薄いルツボ下部断熱部材114を有しているが、黒鉛ルツボ106及び石英ルツボ105の直胴部や上部を保温する断熱部材は有していない。
【0047】
(比較例2)
図3に示した単結晶育成装置を用いて、口径32インチ(813mm)のルツボから300mm結晶(実際の太さは305−307mm程度)を多数育成した。図3の装置は、ヒーター外側断熱部材213、薄いルツボ下部断熱部材214、石英ルツボ205の内側に大きな遮熱部材212を有しており、それと対向するように黒鉛ルツボ206の外側にも小さな断熱部材216を有している。しかし、ルツボ上部断熱部材及びルツボ内側断熱部材は有していない。
【0048】
(調査)
以上の比較例について多数の結晶を育成した際の有転位化の状況を指標化した。同じ有転位化でも、有転位化した位置によってその重大性が異なる。例えば170cmの単結晶棒を育成した際に、直胴部分では有転位化せず、丸めの先端部で有転位化が発生し、スリップバックが直胴部まで戻らなければ、はじめに設計した製品が全て得られる。しかしながら例えば同様に170cmの単結晶棒を育成した際に、直胴部の120cmの位置で有転位化し、40cm程度スリップバックしたとすると、得られる製品ははじめに設計した長さである170cmの半分程度になってしまう。そこで、これらの有転位化の重大さを反映するために、以下のような有転位化指標を設けた。
【0049】
はじめに設計した製品長さを100として、実際に得られた製品長さを%で表す。つまり有転位化指標=(得られた製品長さ/設計製品長さ)x100である。これを育成した結晶全てで平均化したものを有転位化指標とする。例えば10本中9本が有転位化せず、有転位化した1本の製品長さが半分であったとすれば、有転位化指標は(100x9+50x1)/10=95である。
【0050】
上記の有転位化指標を比較例1にて求めると64と非常に低い値であった。一方で比較例2では88と若干低い値であった。また、比較例1では有転位化回数が多いことに加えて、直胴部の前半での有転位化も多かった。一方で比較例2では比較例1と比べて転位化回数は少なかったが、主に直胴部の後半から有転位化が確認された。この理由は比較例2では単結晶棒の直胴部の後半で黒鉛ルツボ及び石英ルツボの直胴部上端が遮熱部材とルツボ外側断熱部材により保温される領域を抜けて上部に出てしまったため、石英ルツボ上端部が冷えてSiOの析出や、黒鉛ルツボの温度勾配が大きくなったためと考えられる。
【0051】
このように有転位化指標が異なる条件において、何が異なっているか種々のパラメータとの相関を調査した。特に比較例1と比較例2の条件での有転位化の様子の違いから、黒鉛ルツボ及び石英ルツボの熱ロスが大きくなると、わずかな温度揺らぎによって固化が発生し有転位化するのではないかと推定された。そこでFEMAGによって求めた原料溶融液および黒鉛ルツボの温度勾配との関連性を調べた結果強い相関が見られた。比較例1はこの黒鉛ルツボの温度勾配値が14.6℃/cm、比較例2は11.8℃/cmであった。なお温度勾配は単結晶の直胴部が100cm育成された時の計算値を用いた(図4参照)。直胴部の育成が始まって間もない頃や状況が極端に変化する場合などを除けば、温度勾配が大きく変化することは無く、代表的な位置での温度勾配を計算すれば比較が可能である。両者の温度勾配値の比較から、各比較例では黒鉛ルツボの直胴部を伝って上方部へ熱ロスが生じており、その結果固化が発生し、有転位化が多発したと考えられる。
【0052】
(実施例)
以上のような結果から、図1に示した装置を用意した。この装置は比較例2で用いた図3の装置と比較してルツボ下部断熱部材14を厚くしたことと、ルツボ5、6が上昇していく部分にルツボ上部断熱部材15とルツボ外側断熱部材16とルツボ内側断熱部材17とを配置し、上昇していく黒鉛ルツボ6及び石英ルツボ5の直胴部も保温して熱ロスの低減を図ったものである。実施例における原料溶融液の液面の高さにおける黒鉛ルツボの温度勾配は6.6℃/cmと非常に小さく、11℃/cm以下の値であった。
【0053】
実施例の条件で多数の結晶を育成した。その結果、有転位化指標は97と非常に良い値となった。これは黒鉛ルツボからの熱ロス低減を図ったことにより、原料溶融液の液面の高さにおける黒鉛ルツボの温度勾配が小さくなり、固化による有転位化回数が減ったためと考えられる。以上の比較例を含む調査結果と実施例の結果をプロットした図を図5に示した。黒鉛ルツボの温度勾配と有転位化指標の間に相関があることがわかる。図5の相関関係から、黒鉛ルツボの温度勾配を11℃/cm以下とすれば、有転位化指標が確実に90以上となり、始めに設定した製品量の90%以上のアウトプットが確実に確保できることがわかる。これは有転位化によってアウトプット量が低下しやすく、製品生産量が変動しやすいCZ単結晶製造にとっては、安定的な生産が可能な数字と言える。
【0054】
以上のことから、本発明のシリコン単結晶育成装置及びシリコン単結晶育成方法を用いれば、原料溶融液の液面の保温性を維持し、固化等による有転位化を抑制することのできることが実証された。
【0055】
尚、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0056】
1…メインチャンバー、 2…引上げチャンバー、 3…単結晶棒、
4…原料溶融液、 5…石英ルツボ、 6…黒鉛ルツボ、 7…黒鉛ヒーター、
8…ガス流出口、 9…ガス導入口、 10…冷却筒、 11…整流筒、
12…遮熱部材、 13…ヒーター外側断熱部材、 14…ルツボ下部断熱部材、
15…ルツボ上部断熱部材、 16…ルツボ外側断熱部材、
17…ルツボ内側断熱部材。
図1
図2
図3
図4
図5