特許第5904311号(P5904311)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5904311光学材料用樹脂組成物、光学フィルム及び液晶表示装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5904311
(24)【登録日】2016年3月25日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】光学材料用樹脂組成物、光学フィルム及び液晶表示装置
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20160331BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20160331BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20160331BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALI20160331BHJP
【FI】
   C08L69/00
   C08L67/02
   G02B5/30
   G02F1/1335
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-539346(P2015-539346)
(86)(22)【出願日】2014年9月25日
(86)【国際出願番号】JP2014075482
(87)【国際公開番号】WO2015046360
(87)【国際公開日】20150402
【審査請求日】2015年9月4日
(31)【優先権主張番号】特願2013-203983(P2013-203983)
(32)【優先日】2013年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124970
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 通洋
(72)【発明者】
【氏名】氏原 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】田尻 裕輔
(72)【発明者】
【氏名】石山 正登
【審査官】 松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/011977(WO,A1)
【文献】 特開2005−165085(JP,A)
【文献】 特開2012−007035(JP,A)
【文献】 特開2012−007034(JP,A)
【文献】 特開2012−012461(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 − 101/16
CA/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(X)と、下記一般式(1)
B−(G−A)−G−B (1)
(式中、Bは炭素原子数6〜12のアリールモノカルボン酸残基または炭素原子数1〜8の脂肪族モノカルボン酸残基を表す。Gは炭素原子数2〜12のアルキレングリコール残基または炭素原子数4〜12のオキシアルキレングリコール残基を表す。Aは、炭素原子数2〜12のアルキレンジカルボン酸残基または炭素原子数6〜12のアリールジカルボン酸残基を表す。nは0〜9の整数である。)で表され、且つ、数平均分子量が200〜2,000のポリエステル樹脂(Y)を含有する光学材料用樹脂組成物であり、前記ポリエステル樹脂(Y)の含有量が、前記ポリカーボネート樹脂(X)100質量部に対して0.5〜10質量部であることを特徴とする光学材料用樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂(Y)中のBがベンゼンモノカルボン酸残基で、Gが炭素原子数2〜6のアルキレングリコール残基で、Aは、炭素原子数2〜6のアルキレンジカルボン酸残基または炭素原子数6〜12のアリールジカルボン酸残基で、nは1〜9の整数である請求項1記載の光学材料用樹脂組成物。
【請求項3】
前記一般式(1)中のBが安息香酸残基で、Gがプロピレングリコール残基で、Aがフタル酸残基、シクロヘキサンジカルボン酸残基またはアジピン酸残基である請求項2記載の光学材料用樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリエステル樹脂(Y)中のBがベンゼンモノカルボン酸残基または炭素原子数6〜8の環状脂肪族モノカルボン酸残基で、Gが炭素原子数2〜6のアルキレングリコール残基で、nは0である請求項1記載の光学材料用樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリエステル樹脂(Y)中のBが安息香酸残基、パラトルイル酸残基またはシクロヘキサンカルボン酸残基で、Gが、プロピレングリコール残基、ネオペンチルグリコール残基、ブタンジオール残基またはヘキサンジオール残基である請求項4記載の光学材料用樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリエステル樹脂(Y)が数平均分子量250〜1,000のものである請求項1記載の光学材料用樹脂組成物。
【請求項7】
前記重合体(X)が芳香族ポリカーボネート樹脂である請求項1〜のいずれか1項記載の光学材料用樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか1項記載の光学材料用樹脂組成物を含有することを特徴とする光学フィルム。
【請求項9】
偏光板保護用である請求項記載の光学フィルム。
【請求項10】
請求項またはに記載の光学フィルムを有することを特徴とする液晶表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安価で取扱い易く、しかも、外力による複屈折の変化が小さい光学部材の製造に好適に用いることができる樹脂組成物と、該樹脂組成物を用いて得られる光学フィルム及びこれを用いた液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、ディスプレイ市場の拡大に伴い、より画像を鮮明にみたいという要求が高まっており、単なる透明材料ではなく、より高度な光学特性が付与された光学材料が求められている。
【0003】
一般に高分子は分子主鎖方向とそれに垂直方向とで屈折率が異なるために複屈折を生じる。用途によっては、この複屈折を厳密にコントロールすることが求められており、液晶の偏光板に用いられる保護フィルムの場合は、全光線透過率が同じであっても複屈折がより小さい高分子材料成形体が必要とされ、トリアセチルセルロースが代表的な材料として用いられる。
【0004】
このような中、近年は、液晶ディスプレイが大型化し、それに必要な高分子光学材料成形品が大型化するにつれて、外力の偏りによって生じる複屈折の分布を小さくするために、外力による複屈折の変化が小さい材料が求められている。
【0005】
外力による複屈折の変化が小さい成形品が得られる材料は、即ち、光弾性係数が小さい成形品が得られる高分子光学材料であり、このような材料の中でも、ポリカーボネート樹脂が、透明性、耐熱性に優れ、また耐衝撃性等の機械特性に優れた性質を有することから偏光板の保護用途等に用いる光学フィルムの材料として注目されている。しかしながら、このポリカーボネート樹脂は外力が加わった時の歪みに対する位相差の変動(光弾性係数)が大きく、そのため僅かな歪みで位相差が大きく変動し、光ムラが発生しやすい等の欠点を有する。光弾性係数が小さく、光学材料用途として好適な硬化物が得られるポリカーボネート樹脂としては、例えば、フルオレン骨格を導入したポリカーボネートが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、特許文献1に記載されたポリカーボネート樹脂は、前記の通り、フルオレン骨格という特殊な骨格を導入する必要があり、そのためコスト高になる問題を抱えている。また、この樹脂はTgが200℃以上と、通常のビスフェノール系のポリカーボネート樹脂のTgである140℃程度と比べて非常に高い。その為、汎用ポリカーボネート樹脂フィルムの製膜法である押出溶融法を適用することが困難であり、ハンドリング性の観点からも問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−236336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、安価で取扱い易く、しかも、外力による複屈折の変化が小さい光学部材の製造に好適に用いることができる樹脂組成物と、該樹脂組成物を用いて得られる光学フィルム及びこれを用いた液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、脂肪族構造を必須とするエステル化合物で、末端が封止されており、しかも特定範囲の分子量の化合物を添加剤として用いる事により、前記ビスフェノール系のポリカーボネート樹脂等の一般的な樹脂を原料とした光学部材が外力による複屈折の変化が小さい光学部材となること、該添加剤とポリカーボネート樹脂を含有する樹脂組成物は特に光学フィルムを製造する際に好適なこと、該光学フィルムは液晶表示装置を製造する際の部材として好適に使用できる事等を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、ポリカーボネート樹脂(X)と、下記一般式(1)
B−(G−A)−G−B (1)
(式中、Bは炭素原子数6〜12のアリールモノカルボン酸残基または炭素原子数1〜8の脂肪族モノカルボン酸残基を表す。Gは炭素原子数2〜12のアルキレングリコール残基または炭素原子数4〜12のオキシアルキレングリコール残基を表す。Aは、炭素原子数2〜12のアルキレンジカルボン酸残基または炭素原子数6〜12のアリールジカルボン酸残基を表す。nは0〜9の整数である。)で表され、且つ、数平均分子量が200〜2,000のポリエステル樹脂(Y)を含有する光学材料用樹脂組成物であり、前記ポリエステル樹脂(Y)の含有量が、前記ポリカーボネート樹脂(X)100質量部に対して0.5〜10質量部であることを特徴とする光学材料用樹脂組成物を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、前記光学材料用樹脂組成物を含有することを特徴とする光学フィルムを提供するものである。
【0011】
更に、本発明は、前記光学フィルムを有することを特徴とする液晶表示装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、一般的な汎用品であるポリカーボネート樹脂を用いて、外力による複屈折の変化が小さく、光学部材の製造に好適に用いることができる樹脂組成物を提供することができる。この樹脂組成物を用いることにより、外力による複屈折の変化が小さい光学フィルムを容易に得ることができる。そして、この光学フィルムを用いることで、外力により画面の見え具合が変わりにくい液晶表示装置を得ることができる。加えて、本発明の樹脂組成物を用いることにより、耐透湿性に優れる光学フィルムを得ることもできる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明で用いるポリカーボネート樹脂(X)は、種々の構造単位を有するポリカーボネートが挙げられ、例えば、芳香族構造を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を好ましく挙げることができる。芳香族ポリカーボネート樹脂としては、例えば、2価のフェノールとハロゲン化カルボニルとを界面重縮合させる方法や、2価のフェノールと炭酸ジエステルとを溶融重合法(エステル交換法)させる方法等によって製造したものを用いることができる。
【0014】
また、前記ポリカーボネート(X)としては、ポリカーボネート単独のみならず、ポリカーボネートとアクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)とのポリマーアロイ、ポリカーボネートとアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)とのポリマーアロイ、ポリカーボネートとスチレン−ブタジエンゴムとのポリマーアロイ、ポリカーボネートとポリメチルメタクリレート樹脂とのポリマーアロイ、ポリカーボネートとポリエチレンテレフタレート(PET樹脂)のポリマーアロイ、ポリカーボネートとポリブチレンテレフタレート(PBT樹脂)のポリマーアロイ等も用いることができる。
【0015】
前記ポリカーボネート(X)の原料である2価のフェノールとしては、例えば、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、ハイドロキノン、レゾルシン、カテコール等が挙げられる。これら2価のフェノールの中でも、ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン類が好ましく、さらに、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンを主原料としたものが特に好ましい。
【0016】
また、カーボネート前駆体としては、カルボニルハライド、カルボニルエステル、ハロホルメート等が挙げられる。具体的には、ホスゲン;二価フェノールのジハロホルメート、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m−クレジルカーボネート等のジアリールカーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジアミルカーボネート、ジオクチルカーボネート等の脂肪族カーボネート化合物などが挙げられる。
【0017】
また、前記ポリカーボネート(X)としては、そのポリマー鎖の分子構造が直鎖構造であるもののほか、これに分岐構造を有していても良い。このような分岐構造を導入するための分岐剤としては、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、α,α’,α”−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリイソプロピルベンゼン、フロログルシン、トリメリット酸、イサチンビス(o−クレゾール)等を用いることができる。また、分子量調節剤として、フェノール、p−t−ブチルフェノール、p−t−オクチルフェノール、p−クミルフェノール等を用いることができる。
【0018】
さらに、本発明に用いる前記ポリカーボネート(X)としては、上記の2価のフェノールのみを用いて製造された単独重合体のほか、ポリカーボネート構造単位とポリオルガノシロキサン構造単位を有する共重合体、又はこれら単独重合体と共重合体からなる樹脂組成物であっても良い。また、テレフタル酸などの二官能性カルボン酸やそのエステル形成誘導体などのエステル前駆体の存在下にポリカーボネートの重合反応を行うことによって得られるポリエステル−ポリカーボネートであっても良い。
【0019】
さらに、種々の構造単位を有するポリカーボネート(X)を溶融混練して得られる樹脂組成物を用いることもできる。なお、前記ポリカーボネート(X)としては、その構造単位中に実質的にハロゲン原子が含まれないものが好ましい。
【0020】
前記ポリカーボネート(X)の重量平均分子量(Mw)は、10,000〜200,000の範囲が好ましい。この重量平均分子量(Mw)が10,000以上であると、得られるポリカーボネート樹脂組成物の耐熱性及び耐衝撃性がより向上し、200,000以下であると、得られるポリカーボネート樹脂組成物の成形加工性がより良好となる。また、耐熱性、耐衝撃性及び成形加工性をより向上するためには、前記ポリカーボネートの重量平均分子量(Mw)は、10,000〜100,000の範囲がより好ましく、12,000〜50,000の範囲がさらに好ましい。また、前記ポリカーボネート(X)の分散度〔重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)〕は、1〜2.5の範囲が好ましく、1.2〜2の範囲がより好ましく、1.4〜1.8の範囲がさらに好ましい。
【0021】
ここで、本発明において、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)はGPC測定に基づきポリスチレン換算した値である。なお、GPCの測定条件は以下の通りである。
【0022】
[GPC測定条件]
測定装置:東ソー株式会社製「HLC−8220 GPC」
カラム:東ソー株式会社製ガードカラム「HHR−H」(6.0mmI.D.×4cm)+東ソー株式会社製「TSK−GEL GMHHR−N」(7.8mmI.D.×30cm)+東ソー株式会社製「TSK−GEL GMHHR−N」(7.8mmI.D.×30cm)+東ソー株式会社製「TSK−GEL GMHHR−N」(7.8mmI.D.×30cm)+東ソー株式会社製「TSK−GEL GMHHR−N」(7.8mmI.D.×30cm)
検出器:ELSD(オルテック製「ELSD2000」)
データ処理:東ソー株式会社製「GPC−8020モデルIIデータ解析バージョン4.30」
測定条件:カラム温度 40℃
展開溶媒 テトラヒドロフラン(THF)
流速 1.0ml/分
試料:樹脂固形分換算で1.0質量%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(5μl)。
標準試料:前記「GPC−8020モデルIIデータ解析バージョン4.30」の測定マニュアルに準拠して、分子量が既知の下記の単分散ポリスチレンを用いた。
【0023】
(単分散ポリスチレン)
東ソー株式会社製「A−500」
東ソー株式会社製「A−1000」
東ソー株式会社製「A−2500」
東ソー株式会社製「A−5000」
東ソー株式会社製「F−1」
東ソー株式会社製「F−2」
東ソー株式会社製「F−4」
東ソー株式会社製「F−10」
東ソー株式会社製「F−20」
東ソー株式会社製「F−40」
東ソー株式会社製「F−80」
東ソー株式会社製「F−128」
東ソー株式会社製「F−288」
東ソー株式会社製「F−550」
【0024】
本発明で用いるポリエステル樹脂(Y)は、下記一般式(1)
B−(G−A)−G−B (1)
(式中、Bは炭素原子数6〜12のアリールモノカルボン酸残基または炭素原子数1〜8の脂肪族モノカルボン酸残基を表す。Gは炭素原子数2〜12のアルキレングリコール残基または炭素原子数4〜12のオキシアルキレングリコール残基を表す。Aは、炭素原子数2〜12のアルキレンジカルボン酸残基または炭素原子数6〜12のアリールジカルボン酸残基を表す。nは0〜9の整数である。)で表され、且つ、数平均分子量が200〜2,000のものである。このような構造のポリエステル樹脂(Y)は、ベースポリマーであるポリカーボネート樹脂(X)の自由体積部にうまく入り込む事によりベースポリマー主鎖の動きを抑制し、結果として応力による変動を抑制すると発明者は考えている。
【0025】
本発明で用いるポリエステル樹脂(Y)は、前記の通り数平均分子量(Mn)が200〜2,000である必要がある。(Mn)が200より小さいと、揮発し、その結果、外力による複屈折の変化が小さい光学部材が得にくくなることから好ましくない。また、(Mn)が2,000より大きいとポリカーボネート樹脂との相溶性が悪化し、その結果、ヘーズが高い成形物となり光学部材として不適切となりやすいことから好ましくない。本発明で用いるポリエステル樹脂(Y)の(Mn)は250〜1,000がより好ましい。
【0026】
本発明で用いるポリエステル樹脂(Y)は、一般式(1)中のnが0の場合はジエステル体となり、この場合、「B−G−B」で表される構造を有する。
【0027】
ここで、前記Bは炭素原子数6〜12のアリールモノカルボン酸残基または炭素原子数1〜8の脂肪族モノカルボン酸残基を表す。Gは炭素原子数2〜12のアルキレングリコール残基または炭素原子数4〜12のオキシアルキレングリコール残基を表す。Aは、炭素原子数2〜12のアルキレンジカルボン酸残基または炭素原子数6〜12のアリールジカルボン酸残基を表す。本発明において、一般式(1)中に複数存在するB、G、Aは、おのおの同一であっても良いし、異なっていても良い。
【0028】
前記一般式(1)において、nが1〜9の整数の場合、Bがベンゼンモノカルボン酸残基で、Gが炭素原子数2〜6のアルキレングリコール残基で、Aが炭素原子数2〜6のアルキレンジカルボン酸残基または炭素原子数6〜12のアリールジカルボン酸残基であるポリエステル樹脂が、合成しやすく、しかも、光弾性係数が小さい成形品が得られることから好ましい。また、一般式(1)において、nが0の場合、Bがベンゼンモノカルボン酸残基または炭素原子数6〜8の環状脂肪族モノカルボン酸残基で、Gが炭素原子数2〜6のアルキレングリコール残基のポリエステル樹脂(ジエステル体)が、合成しやすく、しかも、光弾性係数が小さい成形品が得られることから好ましい。
【0029】
本発明において、一般式(1)において、nが1〜9の整数の場合のポリエステル樹脂を「一般式(1−1)で表されるポリエステル樹脂」と言うことがある。また、nが0の場合のポリエステル樹脂を「一般式(1−2)で表されるポリエステル樹脂」ということがある。
【0030】
前記一般式(1−1)で表されるポリエステル樹脂の中でも、Bが安息香酸残基で、Gがプロピレングリコール残基で、Aがフタル酸残基、シクロヘキサンジカルボン酸残基またはアジピン酸残基であるポリエステル樹脂が外力による複屈折の変化がより小さい光学部材が得やすいことから好ましい。
【0031】
前記一般式(1−2)で表されるポリエステル樹脂の中でも、Bが安息香酸残基、パラトルイル酸残基またはシクロヘキサンカルボン酸残基で、Gが、プロピレングリコール残基、ネオペンチルグリコール残基、ブタンジオール残基またはヘキサンジオール残基であるポリエステル樹脂が外力による複屈折の変化がより小さい光学部材が得やすいことから好ましい。
【0032】
前記一般式(1−1)で表されるポリエステル樹脂は、例えば、下記に示す方法で得ることができる。
方法1:一般式(1−1)の各残基を構成するモノカルボン酸、ジカルボン酸及びグリコールを一括で仕込み、これらを反応させる方法。
方法2:一般式(1−1)の残基を構成するジカルボン酸とグリコールとを、水酸基の当量がカルボキシル基の当量よりも多くなる条件下で反応させて水酸基を主鎖の末端に有するポリエステル樹脂を得た後、該ポリエステル樹脂とBを構成するモノカルボン酸またはモノカルボン酸誘導体とを反応させる方法。
【0033】
また、前記一般式(1−2)で表されるポリエステル樹脂は、例えば、下記に示す方法で得ることができる。
方法1:一般式(1−2)の各残基を構成するモノカルボン酸及びグリコールを仕込み、これらを反応させる方法。
【0034】
前記Bを構成する原料である炭素数6〜12のアリールモノカルボン酸としては、例えば、安息香酸、ジメチル安息香酸、トリメチル安息香酸、テトラメチル安息香酸、エチル安息香酸、プロピル安息香酸、ブチル安息香酸、クミン酸、パラターシャリブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、エトキシ安息香酸、プロポキシ安息香酸、ナフトエ酸、ニコチン酸、フロ酸、アニス酸等や、これらのメチルエステル及び酸塩化物等が挙げられる。これらは、単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0035】
また、前記Bを構成する原料である炭素数1〜8の脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、オクチル酸、シクロヘキサンカルボン酸等が挙げられる。これらは、単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0036】
本発明で用いるポリエステル樹脂(Y)が、前記一般式(1−1)で表されるポリエステル樹脂である場合、前記Bを構成する原料は安息香酸が好ましい。また、本発明で用いるポリエステル樹脂(Y)が、前記一般式(1−2)で表されるポリエステル樹脂である場合、前記Bを構成する原料は安息香酸、パラトルイル酸及びシクロヘキサンカルボン酸からなる群から選ばれる1種以上の酸が外力による複屈折の変化がより小さい光学部材が得やすいことから好ましい。尚、本発明において「炭素原子数」とは、カルボニル炭素を含まない炭素原子数を言う。
【0037】
前記Gを構成する原料である炭素原子数2〜12のアルキレングリコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール等が挙げられる。これらは、単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0038】
前記Gを構成する原料である炭素原子数4〜12のオキシアルキレングリコールとしては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等が挙げられる。これらは、単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0039】
本発明で用いるポリエステル樹脂(Y)は、前記一般式(1−1)で表されるポリエステル樹脂である場合、前記Gを構成する原料はプロピレングリコールが、外力による複屈折の変化がより小さい光学部材が得やすいことから好ましい。また、本発明で用いるポリエステル樹脂(Y)が、前記一般式(1−2)で表されるポリエステル樹脂である場合、前記Gを構成する原料はプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ブタンジオール及びヘキサンジオールからなる群から選ばれる一種以上のグリコールが、外力による複屈折の変化がより小さい光学部材が得やすいことから好ましい。
【0040】
前記Aを構成する原料である炭素原子数2〜12のアルキレンジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタール酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。
【0041】
前記Aを構成する原料であるアリールジカルボン酸としては、例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸ジメチル、2,6ナフタレンジカルボン酸、1,5ナフタレンジカルボン酸、1,4ナフタレンジカルボン酸、2,6ナフタレンジカルボン酸ジメチル、1,5ナフタレンジカルボン酸ジメチル、1,4−ナフタレンジカルボン酸ジメチル等が挙げられる。これらは単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0042】
本発明で用いるポリエステル樹脂(Y)が、前記一般式(1−1)で表されるポリエステル樹脂である場合、前記Aを構成する原料はフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸及びアジピン酸からなる群から選ばれる1種以上のジカルボン酸が、外力による複屈折の変化がより小さい光学部材が得やすいことから好ましい。
【0043】
本発明で用いるポリエステル樹脂(Y)の酸価としては、ポリカーボネート樹脂(X)の分解を起こすことなく、強度が十分な成形品が得られることから5以下が好ましく、1以下がより好ましい。また、ポリエステル樹脂(Y)の水酸基価は、フィルム化する際の熱等に対する安定性に優れる光学材料用樹脂組成物が得られることから50以下が好ましく、20以下がより好ましい。
【0044】
本発明で用いるポリエステル樹脂(Y)は、例えば、前記の原料を、必要に応じてエステル化触媒の存在下で、例えば、180〜250℃の温度範囲内で10〜25時間、エステル化反応させることにより製造することができる。尚、エステル化反応の温度、時間などの条件は特に限定せず、適宜設定してよい。
【0045】
前記エステル化触媒としては、例えば、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタン系触媒;ジブチル錫オキサイド等のスズ系触媒;p−トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸系触媒などが挙げられる。
【0046】
前記エステル化触媒の使用量は、適宜設定すればよいが、通常、原料の全量100質量部に対して、0.001〜0.1質量部の範囲で使用することが好ましい。
【0047】
本発明で用いるポリエステル樹脂(Y)の性状は、数平均分子量や組成などの要因により異なるが、通常、常温にて液体、固体、ペースト状などである。
【0048】
本発明の光学材料用樹脂組成物中のポリエステル樹脂(Y)の含有量は、使用するポリカーボネート樹脂(X)の光弾性係数にもよるが、樹脂組成物の光弾性係数の絶対値を小さくできることからポリカーボネート樹脂(X)100質量部に対して0.5〜10質量部が好ましく、2〜8質量部がより好ましい。
【0049】
本発明の光学フィルムは、前記本発明の光学材料用樹脂組成物を含有することを特徴とする。本発明の光学フィルムは、光弾性係数が小さい特徴を有し、具体的には光弾性係数の絶対値が70×10−12/Pa以下、より好ましくは65×10−12/Pa以下である。このように、本発明の光学フィルムは光弾性係数が小さく、その結果外力による複屈折の変化が小さくなり、外力により画面の見え具合が変わりにくい液晶表示装置を提供することができる。
【0050】
本発明において、本発明の光学フィルムの光弾性係数は、下記に示す方法にて測定した。
<光弾性係数(C)の測定方法>
本発明の光学フィルムを搬送方向が長手となるように幅15mmで切り抜き、測定サンプルを得る。この測定サンプルを光弾性測定用引張治具(王子計測機器株式会社製)に固定し、127.3g・fから727.3g・fまで100g・f毎に測定サンプルを引っ張る際の加重を変化させ、各々の加重をかけた際の588nmにおける面内位相差変化を位相差測定装置KOBRA−WR(王子計測機器株式会社製)にて測定する。測定は23℃、相対湿度55%雰囲気下で行う
【0051】
本発明の光学材料用組成物を用いる事により、種々の光学用の成形体の製造に用いる事ができる。中でも、フィルム状の成形体(光学フィルム)を製造するのに本発明の光学材料用組成物を好ましく用いることができる。本発明の光学フィルムの中でも、例えば、光弾性係数の絶対値が70(×10−12/Pa)以下である延伸された光学フィルムは、位相差フィルム等の位相差を必要とし応力による複屈折の変化が小さい特性を要求される用途に好適に用いることができる。前記位相差フィルムとしては、光弾性係数の絶対値が65(×10−12/Pa)以下である光学フィルムが好ましく、光弾性係数の絶対値が60(×10−12/Pa)以下である光学フィルムがより好ましい。このような光学フィルムの延伸倍率は、目的によって適宜選択し、前記ポリエステル系樹脂(Y)の量を調整することにより、複屈折の小さい光学的に等方な光学フィルムから複屈折の大きな位相差フィルムまで得ることができる。
【0052】
本発明の光学材料用樹脂組成物には、前記ポリカーボネート樹脂(X)、ポリエステル樹脂(Y)以外の樹脂を、本発明の目的を損なわない範囲で混合することができる。前記重合体(X)、ポリエステル樹脂(Y)以外の樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリスチレン、スチレンアクリロニトリル共重合体等のスチレン系樹脂;ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル樹脂(Y)以外のポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアセタール等の熱可塑性樹脂;及びフェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられる。これらは1種類を混合しても良いし、2種以上を混合しても良い。
【0053】
さらに、本発明の効果を著しく損なわない範囲内で、各種目的に応じて任意の添加剤を配合することができる。添加剤の種類は,樹脂やゴム状重合体の配合に一般的に用いられるものであれば特に制限はない。添加剤としては、例えば、無機充填剤、酸化鉄等の顔料;ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、エチレンビスステアロアミド等の滑剤;離型剤;パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、パラフィン、有機ポリシロキサン、ミネラルオイル等の軟化剤・可塑剤;ヒンダードフェノール系酸化防止剤、りん系熱安定剤、ラクトン系熱安定剤、ビタミンE系熱安定剤等の酸化防止剤;ヒンダードアミン系光安定剤、ベンゾエート系光安定剤等の光安定剤;ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤等の紫外線吸収剤;難燃剤;帯電防止剤;有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属ウィスカ等の補強剤;着色剤、その他添加剤或いはこれらの混合物等が挙げられる。
【0054】
本発明の光学材料用樹脂組成物は、前記ポリカーボネート樹脂(X)とポリエステル樹脂(Y)とを含有すればよく、その製造方法は特に制限がない。具体的には、例えば、前記ポリカーボネート樹脂(X)とポリエステル樹脂(Y)と、必要に応じて上記添加剤を単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ブラベンダー、各種ニーダー等の溶融混練機を用いて溶融混練する方法により得ることができる。
【0055】
本発明の光学フィルムは、本発明の光学材料用樹脂組成物を含有することを特徴とする。本発明の光学フィルムを得るには、例えば、押し出し成形、キャスト成形等の手法が用いられる。具体的には、例えば、Tダイ、円形ダイ等が装着された押出機等を用いて、未延伸状態の光学フィルムを押し出し成形することができる。押し出し成形により本発明の光学フィルムを得る場合は、事前に前記ポリカーボネート樹脂(X)、ポリエステル樹脂(Y)を溶融混錬して得られる本発明の光学材料用樹脂組成物を用いることもできれば、押し出し成形時にポリカーボネート樹脂(X)とポリエステル樹脂(Y)とを溶融混錬し、そのまま押し出し成形することもできる。また、前記ポリカーボネート樹脂(X)及びポリエステル樹脂(Y)成分を溶解する溶媒を用いて、前記ポリカーボネート樹脂(X)、ポリエステル樹脂(Y)を該溶媒中に溶解し、いわゆるドープ液を得たうえで、キャスト成形する溶液流延法(ソルベントキャスト法)により未延伸状態の本発明の光学フィルムを得ることもできる。
【0056】
以下に、溶液流延法について、詳述する。溶液流延法で得られる光学フィルムは、実質的に光学等方性を示す。前記光学等方性を示すフィルムは、例えば液晶ディスプレイなどの光学材料に使用することができ、中でも偏光板用保護フィルムに有用である。また、前記方法によって得られたフィルムは、その表面に凹凸が形成されにくく、表面平滑性に優れる。
【0057】
前記溶液流延法は、一般に、前記ポリカーボネート樹脂(X)と前記ポリエステル樹脂(Y)とを有機溶剤中に溶解させ、得られた樹脂溶液を金属支持体上に流延させる第1工程と、流延させた前記樹脂溶液中に含まれる有機溶剤を留去し乾燥させてフィルムを形成する第2工程、それに続く、金属支持体上に形成されたフィルムを金属支持体から剥離し加熱乾燥させる第3工程からなる。
【0058】
前記第1工程で使用する金属支持体としては、無端ベルト状又はドラム状の金属製のものなどを例示でき、例えば、ステンレス製でその表面が鏡面仕上げの施されたものを使用することができる。
【0059】
前記金属支持体上に樹脂溶液を流延させる際には、得られるフィルムに異物が混入することを防止するために、フィルターで濾過した樹脂溶液を使用することが好ましい。
【0060】
前記第2工程の乾燥方法としては、特に限定しないが、例えば30〜50℃の温度範囲の風を前記金属支持体の上面及び/又は下面に当てることで、流延した前記樹脂溶液中に含まれる有機溶剤の50〜80質量%を蒸発させ、前記金属支持体上にフィルムを形成させる方法が挙げられる。
【0061】
次いで、前記第3工程は、前記第2工程で形成されたフィルムを金属支持体上から剥離し、前記第2工程よりも高い温度条件下で加熱乾燥させる工程である。前記加熱乾燥方法としては、例えば100〜160℃の温度条件にて段階的に温度を上昇させる方法が、良好な寸法安定性を得ることができるため、好ましい。前記温度条件にて加熱乾燥することにより、前記第2工程後のフィルム中に残存する有機溶剤をほぼ完全に除去することができる。
【0062】
尚、前記第1工程〜第3工程で、有機溶媒は回収し再使用することも可能である。
【0063】
前記ポリカーボネート樹脂(X)と前記ポリエステル樹脂(Y)を有機溶剤に混合させ溶解する際に使用できる有機溶剤としては、それらを溶解可能なものであれば特に限定しないが、例えば、クロロホルム、二塩化メチレン、塩化メチレン等の溶媒を挙げることができる。
【0064】
前記樹脂溶液中のポリカーボネート樹脂(X)の濃度は、10〜50質量%が好ましく、15〜35質量%がより好ましい。
【0065】
本発明の光学フィルムの膜厚は、20〜120μmの範囲が好ましく、25〜100μmの範囲がより好ましく、25〜80μmの範囲が特に好ましい。
【0066】
本発明においては、例えば、前記の方法で得られる未延伸状態の光学フィルムを必要に応じて、機械的流れ方向に縦一軸延伸、機械的流れ方向に直行する方向に横一軸延伸することで延伸された光学フィルムを得ることができる。また、ロール延伸とテンター延伸の逐次2軸延伸法、テンター延伸による同時2軸延伸法、チューブラー延伸による2軸延伸法等によって延伸することにより2軸延伸された延伸フィルムを得ることができる。延伸倍率は少なくともどちらか一方向に0.1%以上1000%以下であることが好ましく、0.2%以上600%以下であることがさらに好ましく、0.3%以上300%以下であることがとりわけ好ましい。この範囲に設計することにより、複屈折、耐熱性、強度の観点で好ましい延伸された光学フィルムが得られる。
【0067】
本発明に係る光学フィルムは、光学材料として、液晶表示装置、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビ等のディスプレイに用いられる偏光板保護フィルム、1/4波長板、1/2波長板、視野角制御フィルム、液晶光学補償フィルム等の位相差フィルム、ディスプレイ前面板等に好適に用いることができる。また、本発明の光学材料用樹脂組成物は、その他にも、光通信システム、光交換システム、光計測システムの分野において、導波路、レンズ、光ファイバー、光ファイバーの基材、被覆材料、LEDのレンズ、レンズカバーなどにも用いることができる。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を実施例に基づき更に具体的に説明する。例中の部及び%は断りがない限り質量基準である。
【0069】
合成例1〔ポリエステル樹脂(Y)の調製〕
温度計、攪拌機、窒素導入管及び分留用ト字管を備えた内容量3Lの四つ口フラスコに、アジピン酸(以下「AA」と略記する。)132gと、無水フタル酸(以下「PA」と略記する。)400gと、安息香酸(以下「BzA」と略記する。)977gと、プロピレングリコール(以下「PG」と略記する)648gと、テトライソプロポキシチタン(以下「TiPT」と略記する。)0.130gとを仕込んだ後、20時間反応させた。反応後、200℃で未反応の1,2−プロピレングリコールを減圧留去した。その後減圧を解除し降温して、反応生成物を濾過して取り出し、ポリエステル樹脂(Y1)を得た。ポリエステル樹脂(Y1)の数平均分子量(Mn)は430、重量平均分子量(Mw)は550、酸価は0.1、水酸基価は8.0であった。
【0070】
合成例2(同上)
PA 130gと、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(以下「CHDA」と略記する。) 50gと、BzA 317gと、PG 210gと、TiPTを0.021gとを用いた以外は合成例1と同様にしてポリエステル樹脂(Y2)を得た。ポリエステル樹脂(Y2)の数平均分子量(Mn)は430、重量平均分子量(Mw)は540、酸価は0.4、水酸基価は15であった。
【0071】
合成例3(同上)
PA 533gと、BzA 977gと、PG 648gと、TiPT 0.130gとを用いた以外は合成例1と同様にしてポリエステル樹脂(Y3)を得た。ポリエステル樹脂(Y3)の数平均分子量(Mn)は430、重量平均分子量(Mw)は520、酸価は0.3、水酸基価は11であった。
【0072】
合成例4(同上)
AA 263gと、PA 266gと、BzA 977gと、PG 648gと、TiPT 0.130gとを用いた以外は合成例1と同様にしてポリエステル樹脂(Y4)を得た。ポリエステル樹脂(Y4)の数平均分子量(Mn)は430、重量平均分子量(Mw)は550、酸価は0.40、水酸基価はであった。
【0073】
合成例5(同上)
AA 394gと、PA 133gと、BzA 977gと、PG 648gと、TiPT 0.130gとを用いた以外は合成例1と同様にしてポリエステル樹脂(Y5)を得た。ポリエステル樹脂(Y5)の数平均分子量(Mn)は480、重量平均分子量(Mw)は710、酸価は0.2、水酸基価は6であった。
【0074】
合成例6(同上)
AA 526gと、BzA 977gと、PG 648gと、TiPT 0.130gとを用いた以外は合成例1と同様にしてポリエステル樹脂(Y6)を得た。ポリエステル樹脂(Y6)の数平均分子量(Mn)は450、重量平均分子量(Mw)は570、酸価は0.2、水酸基価は10であった。
【0075】
調製例1〔数平均分子量を調製したポリエステル樹脂(B)の調製〕
薄膜蒸留装置を用いてポリエステル樹脂(B1)の薄膜蒸留を行い、高分子量の成分を分画したポリエステル樹脂(Y7)と、低分子量の成分を分画したポリエステル樹脂(Y8)を得た。ポリエステル樹脂(Y7)の数平均分子量(Mn)は570、重量平均分子量(Mw)は690、酸価は0.4、水酸基価は8であった。ポリエステル樹脂(Y8)の数平均分子量(Mn)は280、重量平均分子量(Mw)は280、酸価は0.2、水酸基価は14であった。
【0076】
ポリエステル樹脂(Y1)〜(Y8)の原料と物性値を第1表に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
第1表の脚注
(※):括弧内は質量基準における割合
PG:1,2−プロピレングリコール
AA:アジピン酸
PA:無水フタル酸
CHDA:1,4−シクロヘキサンジカルボン酸
BzA:安息香酸
【0079】
合成例7(同上)
温度計、攪拌機、窒素導入管及び分留用ト字管を備えた内容量3Lの四つ口フラスコに、PG 358gと、BzA 1000gと、TiPT 0.081gとを仕込んだ後、13時間反応させた。反応後、190℃で未反応の1,2−プロピレングリコールを減圧留去した。その後減圧を解除し降温して、反応生成物を濾過して取り出し、ポリエステル樹脂(Y9)を得た。ポリエステル樹脂(Y9)の数平均分子量(Mn)は300、重量平均分子量(Mw)は300、酸価は0.1、水酸基価は1であった。
【0080】
合成例8(同上)
温度計、攪拌機、窒素導入管及び分留用ト字管を備えた内容量3Lの四つ口フラスコに、1,3−プロピレングリコール(以下、「1,3−PG」と略記する。)358gとBzA 1000gと、TiPT 0.081gとを用いた以外は合成例7と同様にして、ポリエステル樹脂(Y10)を得た。ポリエステル樹脂(Y10)の数平均分子量(Mn)は250、重量平均分子量(Mw)は260、酸価は0.1、水酸基価は1であった。
【0081】
合成例9
内容量2Lの四つ口フラスコを用い、且つ、ネオペンチルグリコール(以下「NPG」と略記する。)437gと、BzA 733gと、TiPT 0.070gとを用いた以外は合成例7と同様にして、ポリエステル樹脂(Y11)を得た。ポリエステル樹脂(Y11)の数平均分子量(Mn)は320、重量平均分子量(Mw)は320、酸価は0.1、水酸基価は18であった。
【0082】
合成例10
1,4−ブタンジオール(以下「1,4−BG」と略記する。)849gと、BzA 1000gと、TiPT 0.111gとを用いた以外は合成例7と同様にして、ポリエステル樹脂(Y12)を得た。ポリエステル樹脂(Y12)の数平均分子量(Mn)は270、重量平均分子量(Mw)は280、酸価は0.1、水酸基価は10であった。
【0083】
合成例11(同上)
内容量2Lの四つ口フラスコを用い、且つ、1,6−ヘキサンジオール(以下「1,6−HD」と略記する。)334gと、BzA 600gと、TiPT 0.056gとを用いた以外は合成例7と同様にして、ポリエステル樹脂(Y13)を得た。ポリエステル樹脂(Y13)の数平均分子量(Mn)は300、重量平均分子量(Mw)は310、酸価は0.1、水酸基価は10であった。
【0084】
合成例12(同上)
1,4−シクロヘキサンジメタノール(以下「CHDM」と略記する。)664gと、BzA 977gと、TiPT 0.098gとを用いた以外は合成例7と同様にして、ポリエステル樹脂(Y14)を得た。ポリエステル樹脂(Y14)の数平均分子量(Mn)は300、重量平均分子量(Mw)は310、酸価は0.1、水酸基価は41であった。
【0085】
合成例13(同上)
PG 321gと、p−トルイル酸(以下「pTA」と略記する) 1000gと、TiPT 0.079gとを用いた以外は合成例7と同様にして、ポリエステル樹脂(Y15)を得た。ポリエステル樹脂(Y15)の数平均分子量(Mn)は300、重量平均分子量(Mw)は300、酸価は0.1、水酸基価は0.2であった。
【0086】
合成例14
内容量2Lの四つ口フラスコを用い、且つ、NPG 437gと、pTA 817gと、TiPTを0.075gとを用いた以外は合成例7と同様にして、ポリエステル樹脂(Y16)を得た。ポリエステル樹脂(Y16)の数平均分子量(Mn)は310、重量平均分子量(Mw)は320、酸価は0.1、水酸基価は43であった。
【0087】
合成例15
内容量2Lの四つ口フラスコを用い、且つ、PG 62gと、シクロヘキサンカルボン酸(以下「CHCA」と略記する。) 200gと、TiPT 0.016gとを用いた以外は合成例7と同様にして、ポリエステル樹脂(Y17)を得た。ポリエステル樹脂(Y17)の数平均分子量(Mn)は310、重量平均分子量(Mw)は310、酸価は0.2、水酸基価は9であった。
【0088】
ポリエステル樹脂(Y9)〜(Y17)の原料と物性値を第1表に示す。
【0089】
【表2】
【0090】
第2表の脚注
PG:1,2−プロピレングリコール
1,3−PG:1,3−プロピレングリコール
NPG:ネオペンチルグリコール
1,4−BG:1,4−ブタンジオール
1,6−HG:1,6−ヘキサンジオール
CHDM:1,4−シクロヘキサンジメタノール
BzA:安息香酸
pTA:パラトルイル酸
CHCA:シクロヘキサンカルボン酸
【0091】
実施例1(光学材料用樹脂組成物及び光学フィルムの調製)
ポリカーボネート樹脂(AD−5503、帝人化成株式会社製)100部と、第3表に示す量(0部〜8部)のポリエステル樹脂(Y1)を、ジクロロメタン142部にそれぞれ加えて溶解し、溶解液を得た。この溶解液を真空ミキサーで60間攪拌し、本発明の光学材料用樹脂組成物(ドープ液)を得た。
【0092】
このドープ液をガラス板上に厚さ0.3mmとなるように流延し、乾燥機中で40℃で10分間、さらに80℃で10分間乾燥させて、幅180mm、長さ250mm、膜厚50μmのフィルムを得た。
【0093】
得られたフィルムを用いて光弾性係数(C)の測定を行い、その結果を第3表に示す。また、光弾性係数(C)の測定方法を下記に示す。
【0094】
<光弾性係数(C)の測定方法>
前記フィルムから、フィルムの流延方向が長手方向となるように幅15mm、長さ80mmに切抜いたフィルム試片を作成した。このフィルム試片を光弾性測定用引張治具(王子計測機器株式会社製)に固定し、127.3g・fから727.3g・fまで100g・f毎に加重を変化させたときの588nmにおける面内位相差(Re)の変化を位相差測定装置KOBRA−WR(王子計測機器株式会社製)にて測定した。測定は23℃、相対湿度55%雰囲気下で行った。面内位相差(Re)は、下記式に従って求めた。
Re=(n−n)×d
〔(n):延伸方向の屈折率、(n):延伸方向と直交する方向の屈折率、d:フィルムの厚み(μm)〕
【0095】
測定値について、横軸に応力(σ)、縦軸に面内位相差(Re)をプロットし、最小二乗近似により線形領域の直線の傾きから光弾性係数(C)を求めた。傾きの絶対値が小さいほど光弾性係数が0に近いことを示し、外力による複屈折の変化が小さいフィルムであることを示す。
【0096】
実施例2〜20(同上)
第3表及び第4表に示す配合で光学材料用樹脂組成物(ドープ液)を得た以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。実施例1と同様の評価を行い、その結果を光弾性係数(C)については第3表及び第4表にそれぞれ示す。
【0097】
【表3】
【0098】
第3表の脚注
−:測定せず。
光弾性係数の単位:×10−12/Pa
【0099】
【表4】
【0100】
第4表の脚注
−:測定せず。
光弾性係数の単位:×10−12/Pa
【0101】
本発明の光学用樹脂組成物を用いて得られる光学フィルムは、光学弾性係数が小さく、外力による複屈折の変化が小さいフィルムである。一方、本発明で用いるポリエステル樹脂(Y)を添加していない光学フィルムは光学弾性係数の絶対値が大きく外力による複屈折の変化が大きい。
【0102】
実施例21(同上)
実施例1で得た幅180mm、長さ250mm、膜厚50μmのフィルムから、60mm角(膜厚50μm)のフィルムを切り出した。このフィルムを二軸延伸機(井元製作所製)を用いて自由一軸延伸法にて延伸し、延伸フィルムを得た。延伸する際の条件は、下記の通りである。
【0103】
延伸温度:光学材料用樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)+15℃
延伸速度:60mm/min
延伸倍率:2.0倍
尚、TgはPerkinElmer社製Diamond DSCを用いて示差走査熱分析を行い、相転移に伴うベースラインシフトから算出した。
【0104】
前記延伸フィルムから、フィルムの延伸方向が長手方向となるように幅15mm、長さ80mmに切抜いたフィルム試片を作成した。このフィルム試片を用いた以外は実施例1と同様にして延伸フィルムの光弾性係数(C)の測定を行った。その結果を第5表に示す
【0105】
実施例22〜25(同上)
第5表に示す配合の光学材料用樹脂組成物を用いた以外は実施例21と同様にして延伸フィルムを得た。実施例1と同様の評価を行い、その結果を光弾性係数(C)については第5表に示す。
【0106】
【表5】
【0107】
第5表の脚注
光弾性係数の単位:×10−12/Pa
【0108】
実施例26(同上)
第6表に示す配合で光学材料用樹脂組成物(ドープ液)を得た以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。このフィルムを用いてJIS Z 0208に準じて、ポリカーボネートフィルムの透湿度を測定した。その結果を第表に示す。尚、透湿度を測定する際の測定条件は、温度40℃、相対湿度90%とした。
【0109】
実施例27及び28(同上)
第6表に示す配合の光学材料用樹脂組成物を用いた以外は実施例1と同様にして延伸フィルムを得た。実施例26と同様の評価を行い、その結果をその結果を第6表に示す。
【0110】
【表6】
【0111】
第6表の脚注
透湿度の単位:g/m・day