【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「ナノテクノロジープログラム/カーボンナノチューブキャパシタ開発プロジェクト」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
Y. TZENG et al.,Electrical contacts between carbon-nanotube coated electrodes,Diamond and Related Materials,2003年,12,774-779.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の最良の実施形態について以下に添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0032】
図1は、実施例の方法で製造した、本発明の基材を用いて得られた単層CNT配向集合体の全体をデジタルカメラで撮影した画像であり、
図2は、その単層CNT配向集合体の一部を拡大した走査型電子顕微鏡(以下、SEMとも称する)画像である。
図1の単層CNT配向集合体の特性値は、単層CNT含有率98%、重量密度:0.03g/cm
3、G/D:7、BET−比表面積:1100m
2/g、平均外径:2.8nm、半値幅2nm、炭素純度99.9%、ヘルマンの配向係数0.7であった。
【0033】
図3は、実施例の方法で製造した、単層CNT配向集合体を基材からまとめて剥離した後のバルク状単層CNT配向集合体の一例をデジタルカメラで撮影した画像であり、
図4は、実施例の方法で製造した、単層CNT配向集合体を基材から剥離したバルク状単層CNT配向集合体のデジタルカメラ画像およびその側面の一部を拡大したSEM画像である。
図4の単層CNT配向集合体の特性値は、単層CNT含有率98%、重量密度:0.03g/cm
3、G/D:7、BET−比表面積:1100m
2/g、平均外径:2.8nm、半値幅2nm、炭素純度99.9%、ヘルマンの配向係数0.7であった。
【0034】
図5は、基材から剥離後の粉体状単層CNT配向集合体のデジタルカメラ画像およびその一部を拡大したSEM画像である。なお、
図5のregion1とregion2は同じ試料の違う領域の画像である。
図5の粉体状の単層CNT配向集合体の特性値は、重量密度:0.009g/cm
3、BET−比表面積:1100m
2/g、平均外径:2.8nm、半値幅:2nm、炭素純度:99.9%、ヘルマンの配向係数:0.7である。
【0035】
〔CNTの比表面積について〕
これらのバルク状単層CNT配向集合体および粉体状単層CNT配向集合体を含む単層CNT配向集合体の好ましい比表面積は、単層CNTが主として未開口のものにあっては、600m
2/g以上であり、単層CNTが主として開口したものにあっては、1300m
2/g以上である。このような高比表面積を有する単層CNT配向集合体は触媒の担持体やエネルギ・物質貯蔵材や、スーパーキャパシタの電極材料やアクチュエータ、および複合材料のフィラーなどへ好適に適応できる。また、後に詳細に述べるように、高い比表面積を有する単層CNT集合体は、集合体を構成する単層CNT同士に隙間があること、すなわち、過度に単層CNTがバンドル化していないことを示している。そのため、高い比表面積を有する単層CNT集合体は、集合体を構成する個々の単層CNT同士が過度に強く結合しておらず、非常に緩やかに結合しており、そのため、優れた形状加工性を有する。
【0036】
比表面積が600m
2/gに満たない未開口のもの、または1300m
2/gに満たない開口したものは、金属不純物や炭素不純物などを重量の数十パーセント(40%程度)含んでいる可能性があり、CNT本来の機能を発現することができず、上記の用途で使用するのに適していない。
【0037】
単層CNT配向集合体の比表面積は、一般的には大きければ大きいほど好ましいが、理論的計算によれば、未開口のものは1300m
2/g程度であり、開口したものは2600m
2/g程度であると説明されている。
【0038】
単層CNT配向集合体の比表面積は、液体窒素の77Kでの吸脱着等温線の計測によって求めることができる。その一例として、後に詳述する実施例1で製造された単層CNT配向集合体30mgについて、BELSORP-MINI(株式会社日本ベル製)を用いて計測した吸脱着等温曲線を
図6に示す(吸着平衡時間は600秒とした)。この吸脱着等温曲線からBrunauer, Emmett, Tellerの方法で比表面積を計測したところ、1100m
2/gであった。なお、図中Pは吸着平衡圧、P
0は飽和蒸気圧である。
【0039】
未開口な単層CNT配向集合体の吸脱着等温曲線は、相対圧が0.5以下の領域において高い直線性を示す。また
図7に示すように、α
sプロットも1.5以下の領域において直線性を示した。これらの計測結果は、この試料が未開口の単層CNTであることを示している。
【0040】
単層CNTに開口処理を施すことにより、単層CNT配向集合体の比表面積をさらに増加させることができる。開口処理としては、酸素によるドライプロセス処理を用いることができる。またウェットプロセス処理を用いることができる場合には、酸による処理、具体的には過酸化水素での還流処理や、高温塩酸での切断処理などを用いることができる。
【0041】
Carbon誌、第45巻(2007年)、第722〜726頁に記載の方法によって開口処理(ドライ空気中で昇温速度1℃/分で500℃まで)を施した単層CNT配向集合体の吸脱着等温曲線は、
図8に示すように、初期吸着立ち上がりが大きいこと、および相対圧が0.5以下の領域において凸型を示すことで特徴付けられる。
図7の直線性を示した、未開口な単層CNT配向集合体のα
sプロットとは異なり、開口処理を施した単層CNT配向集合体のα
sプロットは、
図9に示すように、吸着量の増加率は、0.7以下の領域では比較的大きく、0.7超の領域では比較的小さく、1.0以下の領域で凸型を示した。
【0042】
単層CNT配向集合体の比表面積は、α
sプロットにおいて吸着量の増加率が大きい0.7以下の領域から導出することができ、
図9のデータを採った試料の場合は、2236m
2/gであり、開口処理によって比表面積が増加していることが分かった。
【0043】
吸脱着等温曲線やα
sプロットが凸型を示すのは、先端が開口したCNTにおいては、内部表面と外部表面との両方で吸着が発生するためである。つまり、吸脱着等温曲線を求めることにより、CNTが未開口か開口かを識別することができる。
【0044】
開口処理温度と比表面積との間には相関があり、
図10に示すように、開口処理温度を350℃から600℃に変化させることにより、1000m
2/g〜2300m
2/gの範囲で単層CNT配向集合体の比表面積を変化させることできた。
【0045】
なお、開口処理を施しても、すべてのCNTが開口されるとは限らず、またCNTがすべて未開口であるとも限らない。単層CNT配向集合体は、機能を損なわない程度に、未開口CNTと開口CNTとが混在するものであってもよい。
【0046】
このような比表面積が非常に大きい単層CNT配向集合体は、従来は得られなかったものであり、本発明によって初めて得られたものである。本発明の基材を用いて得られた単層CNT配向集合体の比表面積が非常に大きくなる理由として、以下の要件を備えていることが考えられる。
【0047】
1.CNT配向集合体が単層CNTで構成されていること
多層CNTから構成されるCNT配向集合体は、CNTのカーボン層間に窒素原子が拡散できないために比表面積は大幅に小さくなる。例えば、2層CNT配向集合体の比表面積は単層CNT配向集合体の約半分程度であり、理論値の上限も未開口の2層CNT配向集合体は650m
2/g程度である。本発明の基材を用いて得られたCNT配向集合体の単層CNT含有率(観察されたCNTに占める単層CNTの本数割合)は、透過型電子顕微鏡(以下、TEMとも称する)画像(
図11参照)から求めたところ、99.5%以上であった。
単層CNT配向集合体は、機能を損なわない程度に、2層CNTと、多層CNTを含んでもよい。
【0048】
2.CNT配向集合体を構成する単層CNTが高純度であること
大きい比表面積を得るためには、単層CNTが可能な限り高純度であることが望ましい。ここでいう純度とは、炭素純度であり、単層CNT配向集合体の重量の何パーセントが炭素で構成されているかを示す値である。大きな比表面積を得る上での純度に上限はないが、製造上の都合から、99.9999%以上の単層CNT配向集合体を得ることは困難である。純度が95%に満たないと、未開口単層CNTの場合、1000m
2/gを超える比表面積を得ることが困難となる。さらには、金属不純物を含んで炭素純度が95%に満たないと、単層CNTの開口処理工程において、金属不純物が酸素と反応するなどして単層CNTの開口を妨げるため、結果として、比表面積の拡大が困難となる。これらの点から、単層CNTの純度は95%以上であることが好ましい。
【0049】
本発明の基材を用いて得られた単層CNT配向集合体の純度は、蛍光X線を用いた元素分析結果から得られる。後述の実施例1の方法で製造した単層CNT配向集合体を蛍光X線によって元素分析したところ、炭素の重量パーセントは99.98%であり、鉄の重量パーセントは0.013%であり、その他の元素は計測されなかった。また実施例1の方法において、触媒を担持する基材としてニッケル−鉄合金の板材からなる基板を用いて製造した単層CNT配向集合体を蛍光X線によって元素分析したところ、炭素の重量パーセントは99.9%であり、ニッケルの重量パーセントは0.0198%、鉄の重量パーセントは0.0100%であった。
【0050】
3.単層CNT配向集合体を構成する単層CNTの平均外径が1.5nm以上、4nm以下であり、且つ外径分布の範囲を表す半値幅が1nmより大きいこと。上述した、平均外径、半値幅は従来の単層CNTよりも大きな値であり、本発明の基材を用いて得られた単層CNT配向集合体を構成する単層CNTが、従来の単層CNT集合体よりも、広い外径分布範囲を持つことを意味している。例えば、平均外径は2.8nm、半値幅は2nmであり、本発明の基材を用いて得られた単層CNT配向集合体を構成する単層CNTは0.8〜4.5nmの範囲に渡って分布する。
【0051】
単層CNT配向集合体を構成する単層CNTは、一本一本が孤立して存在しているわけではなく、
図12に示すように、複数の単層CNTがくっつき合ったバンドルを形成している。
【0052】
本発明の基材を用いて得られた単層CNT配向集合体を構成する単層CNTのバンドルは、
図12−aに示すように、平均外径が大きく(1.5nm以上)、且つ外径分布範囲が広く(半値幅1nm以上)、かつ、直線性が低い(G/D比50以下)、単層CNTからなっている。そして本発明の基材を用いて得られた単層CNT配向集合体は、
図13に示すように、基板上の触媒微粒子から延伸した単層CNTが、数本〜数十本ずつがくっつき合った複数のバンドルを形成しつつ基材面の法線方向に成長したものとなっている。単層CNT配向集合体を構成する単層CNTがこのように広い外径分布を持つために、単層CNTは、異なる外径分布を持つ単層CNTによって隣接される。そのため、CNT同士間には窒素原子が拡散できる隙間が生成され、大きな比表面積が得られている。すなわち、単層CNTの平均外径が大きいことと外径分布範囲が広いこととは、大きい比表面積を得る上に好適である。
【0053】
比表面積の大きい単層CNT配向集合体を得る上に好適な単層CNTの平均外径並びに半値幅の範囲は、平均外径が1.5nm以上、4nm以下であり、且つ半値幅が1nm以上で平均外径の倍以下である。
【0054】
CNTの平均外径が4nmを超えると、多層CNTの混在量が増大するために比表面積が減少する。またCNTの平均外径が4nmを超えると、単層CNTが扁平形状に変形し易くなるために開口した場合の比表面積が減少する。CNTの平均外径が1.5nmに満たない場合は、多数のCNTが隙間なくくっつき合って大きなバンドルを形成し易くなるために比表面積が減少する。また半値幅が1nmに満たない、すなわち単層CNT配向集合体を構成するCNTの外径が揃うと、これも多数のCNTが隙間なくくっつき合って大きなバンドルを形成し易くなるために比表面積を減少させる要因となる。なお、半値幅の値の上限は平均外径の倍となる。
【0055】
これに対し、
図12−bに示したような、平均外径が小さく(1.5nm未満)、且つ外径分布範囲が狭く(半値幅0.5nm未満)、しかも直線性が高い(G/D比50以上)従来の単層CNT集合体は、通常、数百〜数万本の単層CNTが最密充填されたバンドルを形成し易い。その場合、バンドル内のCNT同士間の隙間を窒素原子が拡散できず、比表面積が小さくなる。例えば、Carbon誌、第41巻(2003年)、第1273〜1280頁の記載によれば、Carbon Nanotechnologies社のHiPco単層CNTは、平均外径が0.75nm近傍であり、半値幅が0.5nm未満であり、直線性が高く、かかるHiPco単層CNTの比表面積は、Nano Letters誌、第2巻(2002年)、第385〜388頁の記載によれば、開口処理を施しても861m
2/gである。
【0056】
図11に示したような、本発明の基材を用いて得られた単層CNT配向集合体を構成するCNTのTEM画像から一本一本のCNTの外径を計測してヒストグラムを作成し、このヒストグラムから求めた値を、平均外径および半値幅とした。これにより得られた本発明の実施例2で製造された単層CNT配向集合体における単層CNTの平均外径および半値幅の一例を
図14に示す。本例の場合は、その外径が0.8〜4.5nmの範囲に渡って分布し、平均外径は2.8nmであり、半値幅は2nmである。なお、平均外径および半値幅は、触媒微粒子の調製によって制御可能である。
【0057】
図15は、成長時間を5分とし、鉄触媒層の厚みを1.3nmとした基板を合成炉の互いに異なる3つの場所(中心近傍、中心から下流側へ4cm、中心から下流側へ8cm)に設置して生成した単層CNT配向集合体における単層CNTの平均外径および半値幅の計測結果(平均外径:2.1nm・2.3nm・2.5nm、半値幅:2nm、外径分布1〜4nm)を示し、
図16は、鉄触媒層の厚みを0.8nmとした場合の単層CNT配向集合体における単層CNTの平均外径および半値幅の計測結果(平均外径:1.7nm、半値幅:1.6nm・平均外径:1.8nm、半値幅:1.8nm、外径分布0.8〜3.5nm)を示す。さらに
図17は鉄触媒層の厚みを1.3nmとした場合の単層CNT配向集合体における単層CNTの平均外径および半値幅の計測結果(平均外径:2.5nm、半値幅:3nm、外径分布0.5〜5nm)を示す。
【0058】
これらの計測結果より、本発明の基材を用いて得られた単層CNT配向集合体は、平均外径が1.7〜2.8nmの範囲で、且つ半値幅が1.6〜3nmの範囲で製造可能であることが分かった。
【0059】
4.単層CNTの直線性(結晶性)が低いこと
単層CNTの直線性(結晶性)は、後に詳述するラマンスペクトルのG/D比で評価でき、比表面積の大きい単層CNT配向集合体を得る上での単層CNTの直線性(結晶性)の好適な範囲は、G/D比が1以上、50以下である。
【0060】
G/D比が1に満たないものは、単層CNTの結晶性が低く、アモルファスカーボンなどの汚れが多い上、多層CNTの含有量が多いことが考えられる。この反対にG/D比が50を超えるものは、直線性が高く、単層CNTが隙間の少ない大きなバンドルを形成しやすく、比表面積が減少する可能性がある。
【0061】
本発明の基材を用いて得られた単層CNT配向集合体のラマンスペクトルデータの例を、
図18〜
図20に示す。
図18に示すものは、後述する実施例1の方法で成長時間を10分として、
図19に示すものは、後述する実施例2の方法において成長時間を1分として、それぞれ製造された単層CNT配向集合体のラマン分光測定結果であり、
図20に示すものは、実施例2の方法において触媒賦活物質としての水の添加量を半分にして製造した単層CNT配向集合体のラマン分光測定結果である。
【0062】
図18において、鋭いGバンドピークが1590カイザー近傍で観察され、これより本発明の基材を用いて得られた単層CNT配向集合体を構成するCNTにグラファイト結晶構造が存在することが分かる。また欠陥構造などに由来するDバンドピークが1340カイザー近傍で観察されている。さらに、複数の単層CNTに起因するRBMモードが低波長側(100〜300カイザー)に観察されたことから、このグラファイト層が単層CNTであることが分かる。
【0063】
GバンドとDバンドとの強度比(G/D比)は、
図18に示したものは15であり、
図19に示したものは25であり、
図20に示したものは2.5であり、これらのCNTに有意な欠陥が含まれていることを示している。TEM画像(
図11)を観察すると、本発明の基材を用いて得られた単層CNTは、ところどころ折れ曲がったり、変形したりしていて直線性に欠けていることが分かる。
【0064】
これに対し、J. Phys. Chem. B誌、第110巻(2006年)、第5849〜5853頁の記載によると、直線性が高く且つ欠陥構造を含まない高品質な単層CNTのG/D比は、一般的には50以上、時には200以上となる。
【0065】
これらのことより、G/D比をCNTの直線性の評価指標とすることが可能であると言える。
【0066】
本発明の基材を用いて得られた単層CNT配向集合体は、上述の4つの要件、すなわち、1)CNT配向集合体が単層CNTで構成されていること、2)CNT配向集合体を構成する単層CNTが高純度であること、3)CNT配向集合体を構成する単層CNTの平均外径が1.5nm以上、4nm以下であり、且つ外径分布の範囲を表す半値幅が1nmより大きいこと、4)単層CNTの直線性(結晶性)が低いことを充足していることが好ましいが、大きい比表面積を得るためには、必ずしもこれらの要件のすべてを充足する必要はなく、必要な要件を適宜に過不足なく満たしていればよい。
【0067】
〔CNTの配向性について〕
単層CNT配向集合体の配向性の評価は、例えばヘルマンの配向係数に基づいて行う。この具体的な方法については後に詳述するが、例えば、θ−2θ法またはラウエ法で得られたX線回折強度、またはSEM画像もしくは原子間力顕微鏡(以下、AMFとも称す)画像を高速フーリエ変換(FFT変換)して得られたFFT画像から得た強度プロフィールを用いて計算したヘルマンの配向係数が、本発明の基材を用いて得られた単層CNT配向集合体においては、0.1より大きく1より小さいことである。
【0068】
このような配向の範囲にある単層CNT配向集合体は、良好な電気的特性、良好な機械的特性、および良好な熱的特性を示し、且つ電気的・機械的・熱的な異方性もあり、様々な用途に好適である。また、このような配向の範囲にある単層CNT配向集合体は、後述の高密度化処理を施した際に、隣接する単層CNT同士を隙間なく高密度に充填させることができるため、優れた成形加工性を有する。
【0069】
配向の方向は、単層CNT配向集合体を構成する個々の単層CNTの方向ベクトルの平均となる。そのため、単層CNT配向集合体の場所、配向性を評価する領域のサイズにより、配向の方向は異なる可能性がある。定量的に配向の向きを決めるためには単層CNT配向集合体のSEM画像等を高速フーリエ変換した、FFT画像を用いると良い。配向性を有する単層CNT配向集合体のFFT画像は、扁平な楕円状をなし、楕円が扁平であるほど配向性が高い。楕円の長軸方向は、配向性に起因する単層CNTの周期性が最大となる方向であり、楕円の短軸方向は、FFT画像の元画像の視野における、配向の向きとなる。ヘルマン配向係数を計算する参照方位は、楕円の長軸方向とする。
【0070】
ヘルマンの配向係数が0.1以上あれば、配向の効果が発現する。ヘルマンの配向係数が0.25より大きいと単層CNT配向集合体は配向性の効果が著しく増大する。これは、ヘルマンの配向係数が0.25より大きい物は、CNTの傾斜が45゜以上となり、配向の効果が増大するためである。なお、ヘルマン配向係数が1の単層CNT配向集合体は、完全に配向したものとなる。
【0071】
単層CNT配向集合体の配向性を得るためには、単層CNT配向集合体の高さ(長さ)は10μm以上、10cm以下の範囲にあることが好ましい。この高さ範囲にある単層CNT配向集合体は、良好な配向性を備えている。高さが10μmに満たないと配向性が低下する。また高さが10cmを超えるものは、基材近傍の配向性が低下しやすい。
【0072】
単層CNT配向集合体、バルク状単層CNT配向集合体、および粉体状単層CNT配向集合体の配向性は以下の手法によって評価可能である。
【0073】
(1)X線回折(θ−2θ法)による配向性評価
θ−2θ法X線回折装置のセットアップ状態を
図21に示す。この構成において、配向性を有する物体に対し、配向方向に平行する第1の方向からX線を入射する場合(以下、平行入射)と、配向方向に直交する第2の方向からX線を入射する場合(以下、垂直入射)との両方についてX線回折スペクトルを観測すると、垂直入射の反射強度が平行入射の反射強度よりも高くなる角度θと反射方位とが存在し、且つ平行入射の反射強度が垂直入射の反射強度よりも高くなる角度θと反射方位とが存在する。
【0074】
本発明の基材を用いて得られた単層CNT配向集合体は、
図22〜
図24に示すように、平行入射のX線回折スペクトルのピーク回折強度は、単層CNT間のパッキングに起因する(CP=close-packing)および(002)が垂直入射よりも高く、単層CNTを構成する炭素六員環構造に起因する(100)および(110)が垂直入射よりも低い。また垂直入射のX線回折スペクトルのピーク回折強度は、(CP)および(002)が平行入射よりも低く、(100)および(110)が平行入射よりも高い。
【0075】
このように本発明の基材を用いて得られた単層CNT配向集合体においては、(CP)および(002)のピーク回折強度と、(100)および(110)のピーク回折強度とは、X線の入射方向が変わると大きく変化する。完全に等方的(無配向)な物体の場合は、X線の入射方向によって回折強度は変化しないので、このことは、本発明の基材を用いて得られた単層CNT配向集合体が、異方性を有している、換言すると、配向性に富んでいることを示している。
【0076】
X線の入射方向による各回折ピークの強度比を、本発明の基材を用いて得られた単層CNT配向集合体と無配向CNT集合体とで比較した結果を表1に示す。
【0078】
(2)X線回折(ラウエ法)による配向性評価
ラウエ法X線回折装置のセットアップ状態を
図25に示す。このラウエ法において、単層CNT配向集合体の円柱状をなす試料を配向方向に平行な軸上で回転させると共に、直径0.5mmのピンホールコリメータを通過したX線を配向方向に直交する方向から試料に照射し、CCDパネル上に回折パターン像を結像させた。
【0079】
その結果、
図26に示すように、本発明による単層CNT配向集合体の(CP)、(002)、および(100)などの回折ピークのパターン像は楕円状となった。完全に等方的な物体のラウエ回折パターン像は真円状となるので、このことは、本発明による単層CNT配向集合体が異方性を有している、換言すると、配向していることを示している。
【0080】
(3)高速フーリエ変換画像による配向性評価
図27は、粉体状単層CNT配向集合体のSEM画像(
図5)を高速フーリエ変換(以下、FFTとも称する)して各方向の凹凸の分布を周波数分布で表した平面FFT画像である。
図27において、FFTの強度は、横軸を長軸とする扁平な楕円状をなしている。これはCNTが
図27にて上下方向に配向していることを表している。そしてこの楕円が扁平であるほど配向性が高いことを表している。
図28は、FFT画像の原点から等距離を保って動径方向に参照方向(φ=0)からφ=π/2までの変換強度を求めた回折強度関数である。ここで、参照方向は、楕円の長軸方向とする。短軸方向を参照方向として、ヘルマンの配向係数を計算すると負の値となり、本発明の場合には、−0.05より大きく、−0.5より小さくなる。
【0081】
(4)ヘルマンの配向係数による配向性評価
ヘルマンの配向係数を算出することで、単層CNT配向集合体の配向度を定量的に評価することができる。
ヘルマンの配向係数Fは以下の式で定義される。
【数1】
【0082】
但し、φはφ=0を参照(基準)方位とした方位角(azimuthal angle)であり、I(φ)は回折強度関数である。
【0083】
ヘルマンの配向係数においては、φ=0方向について完全配向ならばF=1となり、無配向ならばF=0となる。
【0084】
先ず回折強度関数I(φ)を求める。このためには、θ−2θ法X線回折装置において、ある回折強度ピークが観測される角度2θにX線検出器を固定した状態で、角度θにある試料の角度θを参照方位として(φ=0)、試料を角度φだけ回転させる(
図21−b参照)。これにより、φの関数としてのX線回折強度I(φ)が得られる(
図29参照)。
【0085】
バックグラウンドを除いた(ゼロベースライン)φ=0からφ=π/2までのX線回折強度関数I(φ)を変数として上式を演算することにより、ヘルマンの配向係数Fを求める。これにより、φ=0方向についての配向度を定量的に評価することができる。
【0086】
回折強度関数I(φ)をラウエ法で求める場合は、2次元の回折パターン像(
図30参照)において、原点から等距離を保って動径方向に参照方向(φ=0)からφ=π/2までの回折強度を求め、これを変数として上式を演算することにより、ヘルマンの配向係数Fを求める。これにより、φ=0方向についての配向度を定量的に評価することができる。
【0087】
単層CNT配向集合体のSEM画像などに基づくFFT画像(
図27)における変換強度を変数としてヘルマンの配向係数を算出することでも配向性を定量的に評価することができる。この場合は、FFT画像の原点から等距離を保って動径方向に参照方向(φ=0)からφ=π/2までの変換強度を求め、これを回折強度関数(
図28)とする。この回折強度関数は、方位角方向での原点からの距離に対応する周期性の程度を示している。例えば、FFT画像の原点からの距離が30×10
13Hzに対応する実空間の距離は100nmとなる。この回折強度関数を変数として上式を演算することにより、参照方向についての配向度を定量的に評価することができる。
【0088】
〔重量密度について〕
本発明の基材を用いて得られた単層CNT配向集合体の重量密度は0.002〜0.2g/cm
3である。このような重量密度範囲にある単層CNT配向集合体は形状加工性に非常に優れており、様々な形状に成形加工することが可能である(この点については後に詳述する)。この重量密度は、触媒微粒子の個数密度を調整することによって制御可能である。因みに、Chem.Mater.誌、第13巻(2001年)第1008頁に述べられた方法によって合成された鉄触媒微粒子を用い、後述する実施例1の条件で製造された単層CNT配向集合体における触媒微粒子の添加量(触媒微粒子を溶解させた溶媒の添付量)と単層CNT配向集合体の重量密度との関係を
図31に示す。これにより、触媒微粒子の添加量を変化させることで単層CNT配向集合体の重量密度を制御可能なことが分かる。
【0089】
本発明の基材を用いて得られた単層CNT配向集合体の成長高さと重量および重量密度との関係の一例を
図32に示す。本図から、重量は成長高さに比例して増加しており、単層CNT配向集合体の構造が、成長高さに関わりなく均質であることが分かる。そこで、重量密度を、単層CNT配向集合体の体積を重さで割ったものと定義すれば、重量密度は成長高さに関係なく殆ど一定(0.036g/cm
3)となることが分かる。基材上に設けられた、単層CNT配向集合体の重量は、単層CNT配向集合体を基材上に設ける前の基材の重量と、単層CNT配向集合体を設けた後の基材の重量を計測し、差分をとれば評価できる。または、基材から、単層CNT配向集合体を剥離し、重量を計測しても良い。
【0090】
単層CNT配向集合体の重量密度が0.002g/cm
3〜0.2g/cm
3の範囲にあると、生成後に高密度化処理を施すことにより、互いに隣接するCNT同士を隙間なく高密度に充填させることが可能である。この際、Nature Material誌、第5巻(2006年)、第987〜994頁に述べられている手法などを利用して高密度化処理工程を制御することにより、例えば高密度なフィルム状などの様々な形態に単層CNT配向集合体を成形することができる。また重量密度がこの範囲にあると、単層CNT配向集合体を構成するCNT同士の結びつきが過度に強まらないので、単層CNT配向集合体を溶媒などに攪拌した際に、均質に分散させることが容易になる。
【0091】
また重量密度がこの範囲にあると、単層CNT配向集合体を構成するCNT同士の結びつきが過度に強まらないので、単層CNT配向集合体を溶媒などに攪拌した際に、均質に分散させることが容易になる。重量密度が0.2g/cm
3を超えると、均質な分散液を得ることが困難となるばかりでなく、単層CNT配向集合体の剛直性および一体性が過大となり、生成後に高密度化処理を施して様々な形状に成形することが困難となる。また重量密度が0.002g/cm
3に満たないと、単層CNT配向集合体の一体性が失われてばらけ易くなるため、成形加工が殆ど不可能になる。
【0092】
本発明の基材を用いて得られた単層CNT配向集合体が優れた形状加工性を有するさらなる理由は、本発明の基材を用いて得られた単層CNT配向集合体中の単層CNTが過大なバンドルを形成せず、
図13に示したように数本から数十本の単層CNTが寄り添いあって起立し、互いに隣接する各単層CNT同士が非常に緩やかに結合しており、単層CNT同士間にナノサイズの隙間(細孔)が存在するためと考えられる。このナノサイズの隙間(細孔)が単層CNT同士間に存在するために、本発明の基材を用いて得られた単層CNT配向集合体は重量密度が低くなる。そしてこの単層CNT同士間の細孔が、上述の均質分散を容易にするのみならず、細孔径の縮小化によって上述の高密度化処理を可能にする。
【0093】
単層CNT同士間のナノサイズの細孔径は、液体窒素の77Kでの吸着等温線から求めることができる。細孔径分布を求める理論式としては、細孔がシリンダ状であると仮定したBJH法(J. Amer. Chem. Soc.誌、第73巻(1951年)、第373頁を参照されたい)を用いるのがよい。本明細書で定義する細孔径は、液体窒素の77Kでの吸着等温線からBJH法で求めたものである。
【0094】
BJH法で求めた細孔径が主として100nm以下に分布しており、分布極大が5nm以上、100nm以下にある、単層CNT配向集合体は、互いに隣接する各単層CNT同士が非常に緩やかに結合しており、優れた形状加工性を有する上に、細孔間を容易にガスが拡散できるため、高い比表面積を有する。細孔径の分布極大が5nm未満の場合には、単層CNT同士の結合力が強くなり、良好な分散性を示さない上、高密度化処理を施しての様々な形状への成形加工が困難となる。この逆に、細孔径の分布極大が100nm超の場合には、単層CNT同士の結合力が弱くなり、単層CNT配向集合体の一体性が失われてばらけ易くなるため、成形加工が殆ど不可能になる。
【0095】
〔単層CNT配向集合体の製造装置〕
本発明に係る基材を用いて得られた単層CNT配向集合体の製造には、公知のCVD法と公知のCNT製造装置を適用することができる。これは、複数の触媒微粒子を基材上に設け、その複数の触媒微粒子から複数のCNTを化学気相成長(CVD)させるものである。
【0096】
本発明の実施に用いるCNT製造装置は、触媒を担持した基材を受容する合成炉(反応チャンバ)および加熱手段を備えることが必須であるが、各部の構造・構成については特に限定されることはなく、公知のCNT製造装置がいずれも使用できる。
【0097】
本発明に適用されるCVD装置の一例を
図34に示す。このCVD装置31は、触媒を担持した基材(基板)32を受容する例えば石英ガラスや耐熱金属などからなる管状の合成炉33と、合成炉33を外囲するように設けられた例えば抵抗発熱コイルなどからなる適宜な加熱手段34とを備えている。
【0098】
合成炉33の一端壁には、合成炉33内に開口するガス供給管35が接続され、合成炉33の他端壁には、合成炉33内に開口するガス排出管37が接続されている。そしてガス供給管35には、集合・分岐管路部38を介して原料ガス供給部39、触媒賦活物質供給部40、雰囲気ガス供給部41、並びに還元ガス供給部42が接続されている。
【0099】
合成炉33内の下方位置には、触媒微粒子32aを備えた基板32を保持する基板ホルダ43が設けられている。
【0100】
ガス供給管35、ガス排出管37、並びに各供給部39〜42の適所には、逆止弁、流量制御弁、および流量センサが設けられており、図示されていない制御装置からの制御信号によって各流量制御弁を適宜に開閉制御することにより、所定流量の原料ガス、触媒賦活物質、雰囲気ガス、および還元ガスが、ガス供給管35から、反応プロセスに応じて連続的にまたは間欠的に合成炉33内に供給されるようになっている。
【0101】
触媒賦活物質供給部40には、別のキャリアガス供給部(図示省略)が付設されており、触媒賦活物質は、例えばヘリウムなどのキャリアガスと共に供給される。
【0102】
このように構成されたCVD装置31によれば、集合・分岐管路部38を介して供給される各ガスを、ガス供給管35の開口から合成炉33内に送り込み、基板32の触媒微粒子32aに複数のCNTを実質的に同一の方向へ成長させることができる。
【0103】
〔単層CNT配向集合体の製造方法〕
本発明に係わる配向CNTの製造方法について
図35を参照して以下に詳細に説明する。
図35に示すように、先ず、ガス供給管35から供給された雰囲気ガス(例えばヘリウム)や還元ガス(例えば水素)などが満たされて所定温度(例えば750℃)に加熱され、且つその温度に保たれた合成炉33内に、触媒層(例えばアルミナ−鉄薄膜)を別工程で予め成膜した基板32(例えばシリコンウエハ)を基板ホルダ43に載置したものを搬送する(基板搬送工程S1)。
【0104】
次いでガス供給管35から合成炉33内に還元ガス(例えば水素)を所望の時間供給する(フォーメーション工程S2)。この還元ガスにより、触媒層より、触媒微粒子32aが、CNTの成長に適合した状態に調製される。ここで適切な触媒層の厚さおよび還元反応条件を選択することにより、直径数nmの触媒微粒子を、1.0×10
10(個/cm
2)〜5.0×10
13(個/cm
2)の個数密度に調製可能である。この個数密度は、基板32に直交する向きに配向した複数のCNTを成長させ、重量密度が0.002g/cm
3〜0.2g/cm
3のCNT配向集合体を製造するのに好適である。このフォーメーション工程S2においては、必要に応じて触媒賦活物質を添加しても良い。
【0105】
次いでガス供給管35からの還元ガスおよび雰囲気ガスの供給を、所望(反応条件)に応じて停止または低減すると共に、原料ガス(例えばエチレン)と共に雰囲気ガスに混入した触媒賦活物質(例えば水)を、一方のガス供給管35から供給し、基板32の触媒微粒子32aに接触させる(成長工程S3)。これにより、触媒微粒子からCNTが成長する。
【0106】
このようにして、基板32の触媒微粒子32aから同時に成長した複数のCNTは、基板32に直交する向きに成長して高さが概ね揃ったCNT配向集合体を構成する。
【0107】
成長工程終了後、合成炉33内に雰囲気ガスのみを供給し、残余の原料ガスや触媒賦活物質を排除し(フラッシュ工程S4)、その後、合成炉33内から基板32を取り出す(基板取り出し工程S5)ことで一連のCNT製造工程が完了する。
【0108】
このようにして得られた単層CNT配向集合体を基板から切り離すことにより、バルク状単層CNT配向集合体が得られる。また、基板から切り離した単層CNT配向集合体を粉体にすることにより、粉体状単層CNT配向集合体が得られる。
【0109】
製造されるCNTの平均外径・半値幅・高さ・結晶性・純度・CNT配向集合体の比表面積・重量密度・配向性などの構造および特性や、成長寿命および成長速度などの成長効率は、CNTの製造に用いた基材・触媒・CVD装置、およびフォーメーション工程における温度・時間・還元ガスなどのプロセス条件、並びに成長工程における温度・時間・原料ガス・触媒賦活物質・雰囲気圧力・雰囲気ガス・炭素濃度などのプロセス条件に大きく依存するため、所望のCNTの成長を実現し、所望の構造および特性のCNTを製造するためには、製造上の各条件を適切に選択・設定する必要がある。
【0110】
以下、これらの各種条件について詳述する。
【0111】
〔基材(基板)〕
基材(基板)とは、その表面にCNTを成長させる触媒を担持することのできる部材であり、最低限400℃以上の高温でも形状を維持できるものであれば適宜のものを用いることができる。これまでにCNTの製造に実績のある材質としては、鉄・ニッケル・クロム・モリブデン・タングステン・チタン・アルミニウム・マンガン・コバルト・銅・銀・金・白金・ニオブ・タンタル・鉛・亜鉛・ガリウム・インジウム・ゲルマニウム・砒素・燐・アンチモンなどの金属、並びにこれらの金属を含む合金および酸化物、またはシリコン・石英・マグネシア・スピネル・カルシア・ドロマイト・クロミア・ジルコニア・チタニア・ムライ・ガラス・マイカ・グラファイト・アルミナ・酸化マグネシウム・チタン酸カリウム・酸化ジリコニウム・ゼオライト・シリカ・酸化チタン・ダイヤモンドなどの非金属、並びにセラミックおよびこれらの混合物が挙げられる。金属は、シリコンやセラミックと比較して廉価である点が好ましく、特に、鉄−クロム(Fe−Cr)合金、鉄−ニッケル(Fe−Ni)合金、および鉄−クロム−ニッケル(Fe−Cr−Ni)合金などが本発明の実施に好適である。
【0112】
基材の形態としては、平板状が一般的であるが、これ以外に、薄膜状、ブロック状、粉末状、または線状などでもよく、特に体積の割に表面積を大きくとれる形態が多量生産において有利である。本発明は、マクロ形状が平らな粒子(フレーク状・ディスク状など)や、細長い粒子(円柱状・ロッド状・リボン状など)にも適応できる。具体的には、板状アルミナ・石英フレーク・石英繊維・セラミック繊維・繊維状酸化チタンなどを例示できる。特に粒状体(ビーズ)や線状体(ワイヤ)は、触媒を均一に塗布し易く取り扱いが容易であり、しかも体積の割に表面積を大きくとれるので、基材として好適である。さらには、粒状体(ビーズ)や線状体のある程度の厚みをもった集合体は、平面面積(基材が占める空間の縦と横からなる面の面積)あたりの触媒層の面積が大きくなり、平板状の基材よりも大量のCNT配向集合体を製造することが容易である。また、粒子状の基材は流動床に適応できる。
【0113】
粒状体や線状体を基材として用いる場合の基材のサイズに格別な制限はないが、基材の平均径を著しく凌駕する高さのCNT配向集合体を製造することは容易ではないため、基材、すなわち粒状体や線状体の平均径は10μm以上、1cm以下であることが好ましい。この範囲に平均径がある粒状体や線状体を基材として用いた場合には、数十μm以上の高さのCNT配向集合体を製造することができる。これに対し、基材の平均径が10μm未満の場合には、数十μm以上の高さのCNT配向集合体を製造することが困難になる。また、基材の平均径が1cmを超える場合には、シャワーヘッドなどを用いて原料ガスおよび触媒賦活物質を供給する場合に、基材の表面全体に均一に原料ガスおよび触媒賦活物質を供給することが困難となるため、CNT配向集合体を高効率に製造することが困難になる。
【0114】
このような、粒状体や線状体を基材として製造されたCNT配向集合体は、平板基材上に製造されたCNT配向集合体と比較して、基板との結合が弱く、より容易に基板から剥離するため、バルク状もしくは粉体状のCNT配向集合体を製造するのに好適である。さらには、集合体を構成する個々の単層CNT同士の結びつきも弱く、溶媒などに均一に分散させることが容易であるため、平板基材上に製造されたCNT配向集合体と比較して、優れた分散性、すなわち、形状加工性を有する。
【0115】
さらに、粒状体や線状体の平均径が10μm以上、1cm以下であると、好適に、CNT配向集合体を製造できるのみならず、粒状体や線状体間の接触面積が大きいため、粒状体や線状体同士をすりあわせた時に、容易に基材からCNT配向集合体が剥離し、バルク状もしくは粉体状のCNT配向集合体を得ることができる。これに対し、粒状体や線状体の平均径が1cm超であると、粒状体や線状体間の接触面積が小さくなり、粒状体や線状体同士をすりあわせた時の、CNT配向集合体が基材からの剥離性が低下する。また、粒状体や線状体の平均径が10μm未満であると、CNT配向集合体が効率良く製造できなくなり、基材からの剥離性も低下する。
【0116】
〔触媒〕
本発明の実施において基材に担持される触媒としては、これまでのCNTの製造に実績のあるものであれば適宜のものを用いることができるが、具体的には、鉄・ニッケル・コバルト・モリブデン、およびこれらの塩化物並びに合金や、これらがさらにアムミニウム・アルミナ・チタニア・窒化チタン・酸化シリコンと複合化、または重層化したものでもよい。特に好ましいものとしては、鉄−モリブデン薄膜、アルミナ−鉄薄膜、アルミナ−コバルト薄膜、アルミナ−鉄−モリブデン薄膜、アルミニウム−鉄薄膜、およびアルミニウム−鉄−モリブデン薄膜などを例示することができる。
【0117】
触媒の元素および構成は、製造されるCNTの重量密度、比表面積、平均外径、および製造収率に大きな影響を与えるため、所望のCNTを製造するためには、適切な触媒の選択は非常に大事である。特に、アルミナ上に担持された鉄またはニッケルを含む金属触媒は、比表面積が600m
2/g〜2600m
2/gであり且つ重量密度が0.002g/cm
3〜0.2g/cm
3であると共に、ヘルマンの配向係数が0.1より大きく1より小さい単層CNT配向集合体を製造するのに好適である。
【0118】
本発明の実施における触媒の存在量は、これまでのCNT製造に実績のある範囲内であればよいが、例えば鉄やニッケルの金属薄膜を用いる場合、その厚さは、0.1nm以上、100nm以下が好ましく、0.5nm以上、5nm以下がさらに好ましく、0.8nm以上、2nm以下が特に好ましい。特に厚さが0.8nm以上、2nm以下であれば、単層CNTを選択的に合成でき、比表面積が600m
2/g〜2600m
2/gであり、且つ重量密度が0.002g/cm
3〜0.2g/cm
3であると共に、ヘルマンの配向係数が0.1より大きく1より小さいCNT配向集合体を製造するのに好適である。
【0119】
〔触媒形成法〕
基材表面への触媒層の形成は、ウェットプロセスまたはドライプロセスのいずれをも適用することができる。具体的には、スパッタリング蒸着法や、金属微粒子を適宜な溶媒に分散させた液体の塗布・焼成法などを適用することができる。また周知のフォトリソグラフィーを適用したパターニングを併用して任意の形状の触媒層を用いることもでき、基材上に成膜する触媒のパターニングおよびCNTの成長時間により、薄膜状、円柱状、角柱状、およびその他の複雑な形状をしたものなど、単層CNT配向集合体の形状を任意に制御することができる。
【0120】
パターニングされた単層CNT配向集合体は、例えば、長さおよび幅寸法を、触媒のパターニングによって任意に制御可能であり、且つ高さ寸法は、単層CNT配向集合体を構成する各単層CNTの成長時間によって任意に制御可能である。このように、パターニングを用いると所望の形状を有する単層CNT配向集合体を得ることができ、成形加工性が著しく増加する。例えば、パターニングにより、薄膜状にした単層CNT配向集合体は基材から容易に剥離して、一体性を保持したまま、任意の基板上に配設することができ、各種のデバイスを製造する素材に好適である。
【0121】
〔フォーメーション工程〕
フォーメーション工程とは、基材に担持された触媒の周囲環境を還元ガス環境とすると共に、触媒または還元ガスの少なくとも一方を加熱する工程である。この工程により、触媒の還元、触媒層のCNTの成長に適合した状態の微粒子化促進、および触媒の活性向上の少なくとも一つの効果が現れる。例えば、触媒層がアルミナ−鉄薄膜である場合、鉄触媒層は還元されて微粒子化し、アルミナ層上にナノメートルサイズの触媒微粒子が多数形成される。
【0122】
このように調製された触媒微粒子から触媒賦活物質を添加しながらCNTを成長させると、85%もの確率でCNTを成長させることが可能である。一般的に、一つの触媒微粒子からは、一つのCNTが成長し、また、触媒微粒子と成長するCNTの外径はおよそ一致する。
【0123】
このとき、触媒層の厚みとフォーメーション工程条件を調整し、触媒微粒子の個数密度を、1×10
10〜5×10
13個/cm
2に調製すると、平均外径が1.5nm〜4.0nm、半値幅が1nm以上の単層CNTを選択的に合成でき、また、適切な密度でCNTが成長させることができるため、ヘルマンの配向係数が0.1より大きく1より小さいCNTを、重量密度が0.002g/cm
3〜0.2g/cm
3の範囲で製造する上で好適である。
【0124】
ここで触媒微粒子の個数密度が1×10
10個/cm
2未満であると、効率良く触媒微粒子から単層カーボンナノチューブ(直径4.0nm)を成長させても、重量密度は0.002g/cm
3に満たず、一体性を持つ単層CNT配向集合体の形成が困難になるとともに、成長する単層CNTの配向性が低下する。また、触媒微粒子の個数密度5×10
13個/cm
2は平均径1.5nmの触媒微粒子を一層表面に敷き詰めた値に相当し、これを超えて触媒を密に配置すると、触媒同士の融着がおきやすくなり、触媒の個数密度と外径を制御できなくなる。
【0125】
このように、フォーメーション工程により、触媒層を微粒子化し、触媒微粒子の個数密度が1×10
10〜5×10
13個/cm
2の範囲に調整すると単層CNTを選択的に製造する上に、また比表面積が600m
2/g〜2600m
2/g、重量密度が0.002g/cm
3〜0.2g/cm
3、ヘルマンの配向係数が0.1より大きく1より小さいCNT配向集合体を製造する上に、多大な効果がある。
【0126】
〔成長工程〕
成長工程とは、触媒の周囲環境を原料ガス環境とすると共に、触媒および原料ガスの少なくとも一方を加熱することにより、触媒表面にCNTを成長させる工程のことである。フォーメーション工程の後に成長工程を行うことはCNT配向集合体の生産に好適である。
【0127】
〔冷却工程〕
冷却工程とは、CNT配向集合体、触媒、および基材を、成長工程後に冷却する工程のことである。成長工程後のCNT配向集合体、触媒、および基材は高温状態にあるため、酸素存在環境下に置かれると酸化してしまうおそれがある。それを防ぐために冷却ガス環境下でCNT配向集合体、触媒、および基材を、400℃以下、さらに好ましくは200℃以下に冷却する。冷却ガスとしては、不活性ガスが好ましく、特に安全性、経済性、およびパージ性などの点から窒素が好ましい。
【0128】
〔還元ガス〕
フォーメーション工程で用いる還元ガスは、触媒の還元、触媒のCNTの成長に適合した状態の微粒子化促進、および触媒の活性向上の少なくとも一つの効果を持つガスである。本発明の実施に用いる還元ガスとしては、これまでのCNTの製造に実績のある還元性を有するガスであれば適宜のものを用いることができるが、例えば水素・アンモニア・水、およびそれらの混合ガスを適用することができる。また、水素を、ヘリウム・アルゴン・窒素などの不活性ガスと混合した混合ガスでもよい。なお、還元ガスは、フォーメーション工程のみならず、成長工程で適宜に用いても良い。
【0129】
〔雰囲気ガス〕
化学気相成長の雰囲気ガス(キャリアガス)としては、CNTの成長温度で不活性であり、成長するCNTと反応しないガスであればよく、本発明の実施に用いる雰囲気ガスとしては、これまでのCNTの製造に実績のあるものであれば適宜のものを用いることができる。一般的には、不活性ガスが好ましく、ヘリウム・アルゴン・水素・窒素・ネオン・クリプトン・二酸化炭素・塩素などや、これらの混合ガスが挙げられ、特に窒素・ヘリウム・アルゴン・水素、およびこれらの混合ガスが好適である。
【0130】
〔原料ガス〕
本発明の実施においてCNTの製造に用いる原料としては、これまでのCNTの製造に実績のあるものであれば、成長温度において原料炭素を含む適宜なガス状物質を用いることができる。
【0131】
この原料ガスとしては、芳香族化合物・飽和炭化水素・不飽和炭化水素・不飽和鎖式炭化水素・飽和鎖式炭化水素・環状不飽和炭化水素・環状飽和炭化水素などのガス状炭素化合物を例示できる。なかでも、メタン・エタン・プロパン・ブタン・ペンタン・ヘキサン・ヘプタンプロピレン・エチレン・ブタジエン・ポリアセチレン・アセチレンなどの炭化水素が好適である。この他にも、メタノール・エタノールなどの低級アルコールや、アセトン・一酸化炭素などの低炭素数の含酸素化合物でもよい。またこれらの混合物も使用可能である。またこれらの原料ガスは、不活性ガスで希釈されていてもよい。これらの原料ガスが成長工程において触媒と接触することにより、触媒表面にCNTが生成される。
【0132】
〔雰囲気圧力〕
CNTを成長させる雰囲気の圧力は、10
4Pa以上、10
6Pa(100気圧)以下が好ましく、5×10
4Pa以上、2×10
5Pa(2大気圧)以下がさらに好ましく、9×10
4Pa以上、1.1×10
5Pa以下が特に好ましい。9×10
4Pa以上、1.1×10
5Paの間で、真空や高圧を用いない、大気圧や大気圧に近い圧力下では、CNTの製造効率は非常に良好である。また、シャッターやバルブを用いない開放系の製造装置が使用可能となるので量産の観点からも好ましい。
【0133】
〔触媒賦活物質の添加〕
CNTの成長工程において、触媒賦活物質を添加するとよい。触媒賦活物質の添加により、触媒の寿命を延長し、且つ活性を高め、結果としてCNTの生産効率向上や高純度化を推進することができる。この触媒賦活物質の添加による触媒の活性を高め、且つ触媒の寿命を延長する作用(触媒賦活作用)により、従来は高々2分間程度で終了したCNTの成長が数十分間継続する上、成長速度が従来に比べて100倍以上、さらには1000倍にも増大することになった。この結果、その高さが著しく増大したCNT配向集合体が得られることとなった。
【0134】
ここで用いる触媒賦活物質としては、酸素を含む物質であり、且つ成長温度でCNTに多大なダメージを与えない物質であればよく、水・酸素・オゾン・酸性ガス、および酸化窒素・一酸化炭素・二酸化炭素などの低炭素数の含酸素化合物、またはエタノール・メタノール・イソプロパノールなどのアルコール類、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトンなどのケトン類、アルデヒドロ類・酸類・塩類・アミド類・エステル類、並びにこれらの混合物が有効である。この中でも、水・酸素・二酸化炭素・一酸化炭素・エーテル類・アルコール類が好ましいが、特に、極めて容易に入手できる水が好適である。
【0135】
〔触媒賦活物質の機能発現のメカニズム〕
触媒賦活物質の機能発現のメカニズムは、現時点では以下のように推測される。CNTの成長過程において、アモルファスカーボンやグラファイトなどが副次的に発生し、触媒に付着し、触媒を失活させる。触媒賦活物質は、触媒を失活させた副次生成物を酸化し、一酸化炭素や二酸化炭素などにガス化し、触媒を清浄化する。この結果、触媒の活性が高められ、且つ寿命が長くなると考えられる。つまるところ、触媒賦活物質とは上記作用を持つ物質であればよく、酸素を含む物質以外にも、酸化力を有する物質、例えば、硫黄などの六属の元素を含む物質が例示できる。
【0136】
〔触媒賦活物質の供給量〕
触媒賦活物質の添加量には最適値が存在する。つまり、触媒賦活物質の添加量が多すぎると、過剰な触媒賦活物質が成長効率を低下させ、逆に少なすぎると、触媒賦活物質の効果が十分に発揮されない。CNTの製造効率を高めるためには、原料に含まれる炭素原子の個数濃度と触媒賦活物質に含まれる酸素の個数濃度との比がもっとも大事な要因の一つである。炭素原子の個数濃度と酸素原子の個数濃度との最適な比は、成長工程の温度、用いる触媒賦活物質と原料、および用いる触媒によって異なるが、合成炉に導入される原料ガスに含有される炭素原子の個数濃度と触媒賦活物質に含有される酸素原子の個数濃度の比で言うと、一般的に0.5以上、2000以下であることが好ましい。
【0137】
また、原料ガスに含有される炭素原子の個数濃度と触媒賦活物質に含有される酸素原子の個数濃度の比は{(導入された原料ガスの濃度)×(原料ガスに含まれる炭素の個数)}を{(導入された触媒賦活物質の濃度)×(触媒賦活物質に含まれる酸素の個数)}で割ったものから計算できる。ここで導入された原料ガス、及び触媒賦活物質の濃度とは、供給管を介して、合成炉内に供給され、触媒と接触するガスの総流量に対する原料ガス、及び触媒賦活物質の流量の割合を意味する。
【0138】
炭素原子の個数濃度と酸素原子の個数濃度との比が0.5よりも小さいと、過剰な酸素のために触媒の活性が低下して、CNTの製造が阻害される。逆に炭素原子の個数濃度と酸素原子の個数濃度との比が2000より大きいと、酸素不足のために触媒賦活物質の効果が十分に発揮されない。炭素原子の個数濃度と酸素原子の個数濃度との比が0.5から2000の範囲にあると、高効率なCNTの製造が可能となり、高さ寸法と比表面積とが共に大きいCNT配向集合体を効率よく製造することができる。
【0139】
さらに、炭素原子の個数濃度と酸素原子の個数濃度との比が0.5から100の範囲にあると、炭素不純物、基材等に触媒賦活物質が接触して若干消費されても、十分な量の触媒賦活物質が残余し、最適量に近い量が安定かつ均一に触媒に供給できるため、安定かつ均一な単層CNT配向集合体の成長に好適である。
【0140】
上記をまとめると、最適な触媒賦活物質を合成炉内に添加した際に、炭素原子の個数濃度と酸素原子の個数濃度との比が0.5から100の範囲になるような、原料ガスと触媒賦活物質の組み合わせを選ぶことは、安定かつ均一な単層CNT配向集合体の成長を実現するために好適である。
【0141】
炭素原子の個数濃度と酸素原子の個数濃度との比が0.5から100の範囲におさめるためには、効率の良い原料ガスを用いて、所望の量のCNTを製造するのに必要な、原料ガスの量を低減するとともに、効率の悪い触媒賦活物質を用いて、最適な触媒賦活物質量を増加させると良い。
【0142】
ここで、効率の悪い触媒賦活物質とは、上記した、触媒の活性を高め、寿命を延長する効率が悪い触媒賦活物質のことを意味する。
【0143】
すなわち、効率の悪い触媒賦活物質は、効率の良い触媒賦活物質と比較して、より多く添加しないと、触媒の活性を高め、寿命を延長する効果が十分に発現しないため、最適な触媒賦活物質を供給するためには、合成炉内の酸素原子の個数濃度を増加させる必要がある。
【0144】
効率の悪い触媒賦活物質とは、より安定な物質が良く、二酸化炭素や、アセトン、テトラヒドロフラン、エタノールなどが例示できる。また、効率の良い触媒賦活物質としては、水を例示できる。
【0145】
〔触媒賦活物質の賦活維持手段〕
上記した触媒賦活物質の触媒を賦活させる機能を維持し、安定かつ均一な単層CNT配向集合体の成長を可能にする手段、たとえば、触媒賦活物質の賦活維持手段として、効率の良い原料ガスを用いて、所望の量のCNTを製造するのに必要な、原料ガスの量を低減するとともに、効率の悪い触媒賦活物質を用いて、最適な触媒賦活物質量を増加させ、炭素原子の個数濃度と酸素原子の個数濃度との比が0.5から100の範囲に調整することを例示できる。
【0146】
このようにすると、炭素不純物、基材等に触媒賦活物質が接触して若干消費されても、十分な量の触媒賦活物質が残余し、最適量に近い量が安定かつ均一に触媒に供給できるため、安定かつ均一な単層CNT配向集合体の成長に好適である。
【0147】
〔触媒賦活物質の効果〕
原料と触媒賦活物質との組み合わせにより、製造されるCNTの平均外径・半値幅・比表面積・結晶性・純度、並びにCNT配向集合体の重量密度・高さ・配向性などの構造や特性が変化すると共に、成長寿命および成長速度などの成長効率が変化する。そのため、適切な原料と触媒賦活物質との組み合わせを選択・設定することにより、所望の構造および特性のCNT配向集合体を製造することができる。これにより、比表面積が600m
2/g〜2600m
2/gであり、且つ重量密度が0.002g/cm
3〜0.2g/cm
3であると共に、ヘルマンの配向係数が0.1より大きく1より小さいCNT配向集合体を製造する上に多大な効果を奏する。
【0148】
〔触媒賦活物質および原料の条件〕
成長工程において触媒賦活物質と原料とを用いてCNTを製造する際には、以下の2つの条件を満たすことが、CNTを高効率で製造する上に重要である。すなわち、(1)原料は酸素を含まず、(2)触媒賦活物質は酸素を含むこと、である。
【0149】
これらの2つの条件の検証を行うために、酸素を含まない2種類の原料(アセチレン・エチレン)および酸素を含む1種類の原料(一酸化炭素)の計3種類の原料と、酸素を含む5種類の触媒賦活物質(水・二酸化炭素・ケトン類のアセトン・エーテル類のテトラヒドロフラン・アルコール類のエタノール)および1種類の酸素を含まない物質(アンモニア)を触媒賦活物質として見立てた計6種類の触媒賦活物質とによる18通りの組み合わせと、原料のみの3通りと、触媒賦活物質のみ6通りでCNTを製造した場合の、生成されたCNT配向集合体の高さ(成長効率)を
図36に示す。なお、この検証を行った際のCNT配向集合体の製造条件については後に詳述する。
【0150】
これによると、原料のみで触媒賦活物質を用いない場合には、CNTは製造できるものの、CNT配向集合体の高さ寸法は小さく、高効率でCNTを製造できないことが分かった。このことは、触媒賦活物質がCNTを効率良く製造するためには非常に重要であることを示している。
【0151】
また酸素を含まないアンモニアを添加した場合には、高効率でCNTが製造できなかったが、酸素を含む5種類の物質を添加した場合には、高効率でCNTを製造できた。このことは、触媒賦活物質は酸素を含む必要があることを示している。
【0152】
炭素と酸素とを共に含む原料(一酸化炭素)を用いた場合には、触媒賦活物質の種類に関わらず、CNTは製造できるものの、高さ寸法の大きいCNT配向集合体は製造できなかった。
【0153】
これらに対し、炭素を含み且つ酸素を含まない原料(アセチレン・エチレン)と、酸素を含む触媒賦活物質(水・二酸化炭素・アセトン・テトラヒドロフラン・エタノール)とを用いた10通りの組み合わせのいずれにおいても、高さ寸法の大きいCNT配向集合体が製造できることが分かった。すなわち、上記の2つの条件を充足する原料と触媒賦活物質との組み合わせにより、高効率でCNTが製造できることが示された。また2つの条件を充足する場合には、酸素と炭素との供給量を別個に最適化することが可能となり、高効率でCNTを製造することが可能となることが示された。
【0154】
〔反応温度〕
CNTを成長させる反応温度は、金属触媒、原料炭素源、および反応圧力などを考慮して適宜に定められるが、触媒失活の原因となる副次生成物を排除するために触媒賦活物質を添加する工程を含む場合は、その効果が十分に発現する温度範囲に設定することが望ましい。つまり、最も望ましい温度範囲としては、アモルファスカーボンやグラファイトなどの副次生成物を触媒賦活物質が除去し得る温度を下限値とし、主生成物であるCNTが触媒賦活物質によって酸化されない温度を上限値とすることである。具体的には、触媒賦活物質として水を用いる場合は、好ましくは400℃〜1000℃とすることである。400℃未満では触媒賦活物質の効果が発現せず、1000℃を超えると、触媒賦活物質がCNTと反応してしまう。また触媒賦活物質として二酸化炭素を用いる場合は、400℃〜1100℃以下とすることがより好ましい。400℃未満では触媒賦活物質の効果が発現せず、1100℃を超えると、触媒賦活物質がCNTと反応してしまう。
【実施例1】
【0155】
以下に本発明に係わる実施例1の単層CNT配向集合体についてより詳細に説明する。実施例1によって製造される単層CNT配向集合体の特性は製造条件に依存するが、下記の実施例1の製造条件での特性値は、重量密度:0.03g/cm
3、BET−比表面積:1200m
2/g、G/D:10、平均外径:2.5nm、半値幅:2nm、炭素純度:99.9%、ヘルマンの配向係数:0.8であった。
【0156】
実施例1に係る製造工程は、
図37のフローチャートに示す。触媒基板の作成工程と単層CNTの合成工程とを備えている。アルミナ(Al
2O
3)からなる厚さ40nmの助触媒層をRFスパッタリングによってシリコン基板上((2センチ角、厚み0.6ミリ)、600ナノメートルの酸化膜付き)に形成し、このアルミナ層上に鉄(Fe)からなる厚さ1nmの触媒層をスパッタリングによって形成する(触媒基板の作成工程)。なお、詳細なプロセス条件を
図38に示す。
【0157】
この基板32を、炉内温度:750℃、炉内圧力:1.02×10
5Paに保持されたCVD装置31(
図34)の合成炉33内に搬送・設置し(基板搬送工程S1)、この炉内に、He(雰囲気ガス):100sccm、H
2(還元ガス):900sccmを6分間、ガス供給管35から導入した。これにより、鉄触媒層は還元されて単層CNTの成長に適合した状態の微粒子化が促進され、ナノメートルサイズの触媒微粒子がアルミナ層上に多数形成された(フォーメーション工程S2)。触媒微粒子の個数密度は、
図39に示すような10万倍以上の倍率の走査型電子顕微鏡の画像で観察される微粒子の個数を計測することで見積もることができる。
図39の画像等を用いて計測した触媒の個数密度は6.2×10
11個/cm
2であった。
【0158】
次に、炉内温度:750℃、炉内圧力:1.02×10
5Pa(大気圧)に保持された状態の合成炉33内に、He(雰囲気ガス):850sccm、C
2H
4(原料ガス):100sccm、H
2O含有He(相対湿度23%)(キャリアガスに混入した触媒賦活物質):50sccmを、ガス供給管35から5分間供給した。これにより、単層CNTが各触媒微粒子から成長し(成長工程S3)、配向した単層CNTの集合体が得られた。
【0159】
実施例1の条件では、上記の状態に調製された触媒微粒子から、80%以上の確率で単層CNTが成長する。もちろん、水の添加量を調整するなどして、単層CNTの成長確率を80%以下にすることもできる。
【0160】
成長工程終了後、合成炉33内にHe:1000sccmのみを供給し、残余の原料ガスや触媒賦活剤を排除し(フラッシュ工程S4)、その後、基板を400℃以下に冷却した後、合成炉33内から基板を取り出す(基板取り出し工程S5)ことにより、一連の単層CNT配向集合体の製造工程を完了させた。
【0161】
成長工程での圧力が5×10
4Pa以下、および2×10
5Pa(2大気圧)以上の場合には、CNT配向集合体の製造効率が低下し、効率よく、CNT配向集合体を製造できなかった。
【0162】
実施例1の方法において成長時間を120分として生成された高さ1cmの単層CNT配向集合体のデジタルカメラ画像を
図40に示す。また、実施例1の方法を用い、且つ特願2008−051321号明細書に記載のテレセントリック測定システムを用いて成長高さを計測しつつCNTを成長させて10μmで原料ガスの供給を停止させて単層CNT配向集合体を得た。その単層CNT配向集合体の側方からのSEM画像を
図41に示す。また同じくテレセントリック測定システムで成長中の高さをリアルタイムに計測して得た成長曲線の一例を
図42に示す。このように成長高さをリアルタイムに計測しつつCNTを成長させ、かつ成長高さの計測値に応じて原料ガスの供給を制御することにより、所望の高さの単層CNT配向集合体を自動制御によって得ることが可能である。なお、
図53に示した例は、原料ガスの停止とCNTの成長停止との間にタイムラグがあり、実際には12μmまで成長した。
【0163】
パターニングされた単層CNT配向集合体を製造する場合には、先ず、触媒基板の作成工程において、助触媒層が予め形成されたシリコン基板上に、電子ビーム露光用レジスト(ZEP−520A/日本ゼオン製)をスピンコーター(4700rpm/60秒)で薄く塗布し、それをベークする(200℃/3分)。次に、レジストが塗布された基板上に、例えば直径150μmの円形のパターンを、電子ビーム露光装置を用いて250μm間隔で描画する。
【0164】
次に、スパッタ蒸着装置を用いてアルミナと鉄を蒸着し、最後に、剥離液(ZD−MAC/日本ゼオン製)を用いて基板上からレジストを剥離する。これらの工程を経て、例えば円形などの任意形状にパターニングされた触媒金属層が成膜されたシリコン基板が得られた。パターニングしない場合には直接基板上に、スパッタ蒸着装置を用いてアルミナと鉄を蒸着する。このように触媒層がパターニングされた基板を用いて単層CNTの合成工程を行うと、パターニングされた単層CNT配向集合体を得る。このCNT配向集合体を透過型電子顕微鏡により観察したところ、CNTの98%が単層CNTであった。
このようにして、比表面積が600m
2/g〜2600m
2/gであり、重量密度が0.002g/cm
3〜0.2g/cm
3であり、且つヘルマンの配向係数が0.1より大きく1より小さい単層CNT配向集合体を好適に製造できた。
【実施例2】
【0165】
本発明に係る実施例2の単層CNT配向集合体の他の製造方法を以下に説明する。実施例2に係る製造工程のフローチャートを
図43に示し、詳細なプロセス条件を
図44に示す。
【0166】
上記実施例1と同様の触媒金属(Al
2O
3+Fe)が蒸着されたシリコン基板32を用意し、この基板32を、炉内温度:室温、炉内圧力:1.02×10
5Paに保持されたCVD装置31の合成炉33内に搬送・設置し(基板搬送工程S21)、この炉内に、He(雰囲気ガス):600sccm、H
2(還元ガス):400sccmを導入し、昇温速度:50℃/分で炉内温度を15分間上昇させた(フォーメーション工程S2)。つまり実施例2の上記実施例1との大きな違いは、基板を設置した後に炉内を昇温させることである。
【0167】
次に、炉内温度:750℃、炉内圧力:1.02×10
5Paに保持された状態の合成炉33内に、He(雰囲気ガス):510sccm、H
2(還元ガス):400sccm、さらにH
2O含有He(相対湿度23%)(キャリアガスに混入した触媒賦活物質):90sccmを供給した(水添加フォーメーション工程S2)。この処理時間は5分である。これにより、実施例1と同様に、鉄触媒層は還元され、アルミナ層上にナノメートルサイズの微粒子が多数形成された。触媒微粒子の個数密度は9×10
11個/cm
2であった。
【0168】
次に、炉内温度:750℃、炉内圧力:1.02×10
5Paに保持された状態の合成炉33内に、He(雰囲気ガス):850sccm、C
2H
4(原料ガス):100sccm、さらにH
2O含有He(相対湿度23%)(キャリアガスに混入した触媒賦活物質):50sccmを供給した(成長工程S3)。この処理時間は10分である。これにより、単層CNTが各鉄触媒微粒子から成長した。
【0169】
成長工程終了後、反応炉内にHe:1000sccmのみを供給し、残余の原料ガスや触媒賦活物質を排除し(フラッシュ工程S4)、その後、合成炉33内から基板32を取り出す(基板取り出し工程S5)ことにより、一連の単層CNT配向集合体の製造工程を完了させた。
【0170】
上記で得たCNT配向集合体を透過型電子顕微鏡により観察したところ、CNTの98%が単層CNTであった。
【0171】
実施例2によって製造された単層CNT配向集合体の特性値は、重量密度:0.03g/cm
3、G/D:7、BET−比表面積:1100m
2/g、平均外径:2.8nm、半値幅2nm、炭素純度99.9%、ヘルマンの配向係数0.7であった。実施例2により、比表面積が高く、形状加工性に優れた、単層CNT配向集合体を得ることができる。
【実施例3】
【0172】
基材として粒状体または線状体を用いた場合の本発明に係る単層CNT配向集合体及びの製造方法について以下に説明する。
【0173】
実施例3に係る製造方法は、実施例1と同様であるが、基材として、球形状の粒状体またはSUS304の線状体から構成される金網を、実施例1のシリコン基板に替えて用いた。また触媒層の形成は、粒状体を用いた場合には、粒状体を回転させながら、スパッタリングを行った。
【0174】
平均径が3mmのアルミナ粒子上に成長した単層CNT配向集合体のデジタル写真を
図45に示す。これにより、高さ寸法が数百μmの単層CNT配向集合体がアルミナ粒子上に製造できることが分かる。また、平均径が300μmのシリカ粒子上に成長した単層CNT配向集合体のデジタル写真を
図46に示す。なお、各単層CNT配向集合体の特性に関しては表2に示す。
【0175】
次に平均径100μm、30μm、16μmのSUS304ワイヤを基材として用いて製造した単層CNT配向集合体のSEM画像を
図47〜
図49に示す。これにより、平均径100μm〜16μmの線状体を基材として単層CNT配向集合体を製造できることが分かる。なお、各単層CNT配向集合体の特性に関しては表2に示す。
【0176】
これらの単層CNT配向集合体の構造は、
図50に示したSEM画像に見られる通り、配向性を有している。
【0177】
種々の材質、平均径の粒状体、及び線状体を用いて単層CNT配向集合体を製造した触媒個数密度と製造された単層CNT配向集合体の比表面積、ヘルマンの配向係数、重量密度、炭素純度、G/D比、平均外径、半値幅を表2に示す。
【0178】
【表2】
【0179】
この結果より、粒状体、及び線状体を基材として用いて、比表面積が692m
2/g〜858m
2/g、重量密度が0.0021g/cm
3〜0.043g/cm
3であり、ヘルマンの配向係数が0.48より大きく0.75より小さいCNT配向集合体が製造できることが分かる。
【0180】
また、各単層CNT配向集合体は基材から容易に剥離することができ、バルク状の単層CNT配向集合体及び粉体状の単層CNT配向集合体を好適に製造することができた。 上述の12通りの基材で製造された単層CNT配向集合体が下記の検証例1および/または2において、優れた成形加工性を示した場合を○として示した。この結果より、本実施例で製造された、単層CNT配向集合体は優れた成形加工性を有することがわかる。
【0181】
また、いずれの場合においても、平板状の基材よりも、基材が占める合成炉内の単位面積(基材が占める空間の縦と横からなる面の面積)当たり、多くのCNT配向集合体を製造することができた。
【0182】
以下に、上記の実施例の単層CNT配向集合体を、原料と触媒賦活物質との組み合わせを変えて製造した場合の結果について以下に詳細に説明する。製造工程は、
図37に示した実施例1のフローチャートと同様であり、
図38に示した実施例1のプロセス条件と同様であるが、原料としてはエチレンに限定せず、酸素を含まない2種類の物質(アセチレン(原料希釈アセチレン:ヘリウム中に10%含有)・エチレン)と、酸素を含む1種類の物質(一酸化炭素)との計3種類の物質を用い、また触媒賦活物質としては水に限定せず、酸素を含む7種類の物質(水・二酸化炭素・アセトン・テトラヒドロフラン・エタノール)と、酸素を含まない1種類の物質(アンモニア)との計6種類の物質を用いた。
【0183】
実施例1と同様の触媒金属(Al
2O
3+Fe)が蒸着されたシリコン基板を用意し、これを実施例1と同様に予熱された合成炉内に搬送・設置し、実施例1と同等のフォーメーション工程を経た後に、実施例1と同等の条件で、上記の3種類の原料と6種類の触媒賦活物質との18通りの組み合わせでCNTの成長工程を行うと共に、原料のみ3通りと、触媒賦活物質のみ6通りでCNTの成長工程を行った。その後、実施例1と同様にフラッシュ工程を行った上で炉内から基板を取り出した。
【0184】
このようにして、原料と触媒賦活物質との27通りの組み合わせで製造されたCNT配向集合体の成長高さは、
図36に示した通りである。この結果から、触媒賦活物質を用いずに原料のみで製造した場合は、CNTは製造できるものの、CNT配向集合体の成長高さは小さく、高効率にCNTを製造できないことが分かった。このことは、CNTを効率良く製造するために触媒賦活物質が非常に重要であることを示している。
【0185】
これに対し、炭素を含み且つ酸素を含まない原料(アセチレン・エチレン)と、酸素を含む触媒賦活物質(水・二酸化炭素・アセトン・テトラヒドロフラン・エタノール)とを用いた10通りの組み合わせのいずれにおいても、高さ寸法の大きいCNT配向集合体が製造できた。このことは、所期の条件を充足する原料と触媒賦活物質との組み合わせによれば、高効率にCNTが製造できることを示している。
【0186】
また、酸素を含まないアンモニアを添加した場合には、高さ寸法の大きいCNTは製造できず、酸素を含む5種類の物質を添加した場合には、高さ寸法の大きいCNTを製造できた。このことは、酸素を含まない物質は触媒賦活物質として不適であり、高効率でのCNT製造を企図して添加する触媒賦活物質としては、酸素を含む必要があることを示している。
【0187】
〔触媒賦活物質の添加量と成長効率との関係〕
次に触媒賦活物質の添加量と成長効率との関係についての検証結果について述べる。原料としてエチレン(75sccm)を用い、且つ触媒賦活物質として二酸化炭素並びにアセトンを用いた場合に、テレセントリック測定システム(特願2008−051321号明細書参照)によってCNTの成長速度をリアルタイムに計測して得た成長曲線の例を、
図51および
図52に示す。これによると、両触媒賦活物質を添加しない場合には、CNT配向集合体は殆ど成長しないのに対し、両触媒賦活物質の添加量が増大するに連れてCNTの成長速度が高くなり、且つ成長継続時間が長くなる。つまり触媒賦活物質を添加した結果、CNT配向集合体の高さは著しく増大し、成長効率は向上する。
【0188】
CNTの成長速度と成長高さとは、触媒賦活物質の添加量が最適値となったところで最大になる。二酸化炭素の場合の最適添加量(
図67を参照されたい)は5000ppmであり、アセトンの場合の最適添加量(
図68を参照されたい)は4800ppmであった。また、最適値を超えて多量の触媒賦活物質を添加した場合には、成長速度は低くなり、且つ成長継続時間は短くなった。つまり触媒賦活物質を過度に添加すると、CNT配向集合体の成長高さは小さくなり、且つ成長効率は低下する。なお、最適化された成長工程における原料に含まれる炭素と触媒賦活物質に含まれる酸素との比は、二酸化炭素の場合は15、アセトンの場合は31であった。
【0189】
上述した原料と触媒賦活物質との最適組み合わせの検証結果において、高効率に単層CNT配向集合体が製造できた組み合わせ、すなわち炭素を含みかつ酸素を含まない原料(アセチレン・エチレン)と、酸素を含む触媒賦活物質(水・二酸化炭素・アセトン・テトラヒドロフラン・エタノール)とを用いた10通りの組み合わせのいずれにおいても、同様な触媒賦活物質の添加効果および最適添加量の存在が観察された。
【0190】
これらの原料と触媒賦活物質との10通りの組み合わせにおいて、最適成長条件での炭素原料に含まれる炭素と触媒賦活物質に含まれる酸素との比を、表3に示す。
これによると、原料に含まれる炭素と触媒賦活物質に含まれる酸素との最適な比は、原料および触媒賦活物質によって異なるものの、2以上1500以下の範囲にあった。
これらの原料と触媒賦活物質との10通りの組み合わせにおいて、最適成長条件下で製造されたCNT配向集合体の単層CNTの含有率を透過型電子顕微鏡(以下、TEMとも称する)画像から求めたところ、いずれも95%以上であった。
【0191】
高い単層CNT配向集合体が得られた、上述の原料と触媒賦活物質との10通りの組み合わせによって最適成長条件での、触媒個数密度、原料、触媒賦活物質、原料添加量(アセチレンは、ヘリウム中に10%含有の希釈ガスを用いた)、触媒賦活物質添加量と、製造された単層CNT配向集合体の比表面積、ヘルマンの配向係数、重量密度、炭素純度、G/D比、平均外径、半値幅を表3と表4に示す。
【0192】
【表3】
【0193】
【表4】
【0194】
この表のデータから、原料と触媒賦活物質とを適切に組み合わせることにより、比表面積が630m
2/g〜1443m
2/gまでの範囲の単層CNT配向集合体を製造できることが分かる。特に、水・二酸化炭素・テトラヒドロフラン・エタノールは、高比表面積の単層CNT配向集合体を製造するのに好適であった。
また、原料と触媒賦活物質とを適切に組み合わせることにより、ヘルマンの配向係数が0.45から0.7の範囲の単層CNT配向集合体を製造できることが分かる。
【0195】
原料と触媒賦活物質とを適切に組み合わせることにより、重量密度が0.028g/cm
3〜0.068g/cm
3の範囲の単層CNT配向集合体を製造できることが分かる。また、水は、重量密度が小さい単層CNT配向集合体を製造するのに好適であり、テトラヒドロフランおよびエタノールは、重量密度が大きい単層CNT配向集合体を製造するのに好適であることが分かる。
【0196】
蛍光X線によって元素分析した結果、いずれの場合においても炭素純度は99.9%以上であった。
【0197】
この表のデータから、原料と触媒賦活物質とを適切に組み合わせることにより、G/D比が5.9〜9.5の範囲のCNT配向集合体を製造できることが分かる。また、水・アセトン・エタノールは、G/D比の大きい単層CNT配向集合体を製造するのに好適であることが分かる。
【0198】
この表のデータから、原料と触媒賦活物質とを適切に組み合わせることにより、平均外径が2.3nm〜2.8nmの範囲の単層CNT配向集合体を製造できることが分かる。また、アセトンおよびテトラヒドロフランは、平均外径の小さい単層CNT配向集合体を製造するのに好適であり、二酸化炭素は、平均外径の大きい単層CNT配向集合体を製造するのに好適であることが分かる。いずれの場合においても、外径分布範囲(半値幅)は1nm以上、2nm以下であった。
【0199】
上述の原料と触媒賦活物質との10通りの組み合わせで製造された単層CNT配向集合体が下記の検証例1および/または2において、優れた成形加工性を示した場合を表2に○として示した。この結果より、本実施例で製造された、単層CNT配向集合体は優れた成形加工性を有することがわかる。
【実施例4】
【0200】
〔バルク状単層CNT配向集合体〕
単層CNT配向集合体を基板32から剥離することにより、バルク状単層CNT配向集合体が得られる。
バルク状単層CNT配向集合体の特性は、単層CNT配向集合体の製造条件に依存するが、実施例1の製造条件で製造された単層CNT配向集合体を用いた場合の特性値は、剥離前は、重量密度:0.03g/cm
3、BET−比表面積:1200m
2/g、G/D:10、平均外径:2.5nm、半値幅:2nm、炭素純度:99.9%、ヘルマンの配向係数:0.8であり、剥離後は重量密度:0.03g/cm
3、BET−比表面積:1200m
2/g、平均外径:2.5nm、半値幅:2nm、炭素純度:99.9%、ヘルマンの配向係数:0.8である。
【0201】
また実施例2の製造条件で製造された単層CNT配向集合体を用いた場合の特性値は、剥離前は、重量密度:0.03g/cm
3、G/D:7、BET−比表面積:1100m
2/g、平均外径:2.8nm、半値幅2nm、炭素純度99.9%、ヘルマンの配向係数0.7であり、剥離後は重要密度:0.03g/cm
3、BET−比表面積:1100m
2/g、平均外径:2.8nm、半値幅:2nm、炭素純度:99.9%、ヘルマンの配向係数:0.7である。
【0202】
単層CNT配向集合体を基板32から剥離する方法としては、物理的、化学的あるいは機械的な剥離方法が例示でき、例えば電場、磁場、遠心力、および表面張力を用いて剥離する方法、基板32から機械的に直接剥ぎ取る方法、圧力や熱を用いて基板32から剥離する方法などが適用可能である。簡単な剥離法としては、単層CNT配向集合体をピンセットで直接つまんで基板32から剥がす方法があるが、カッターブレードなどの薄い刃物を使用して基板32から剥ぎ取ることがより好適である。また、真空ポンプを用いて単層CNT配向集合体を吸引し、基板32から剥ぎ取ることも可能である。
【0203】
単層CNT配向集合体を基板32から剥離する分離装置を
図53に示す。この分離装置は、カッターまたはヘラなどの鋭利部を備えている。この鋭利部を、単層CNT配向集合体と基板との境界に当て(
図53−a)、単層CNT配向集合体を基板からそぎ取るように基板面に沿って鋭利部を動かすことにより(
図53−b)、単層CNT集合配向体が基板から剥ぎ取られる。ここで単層CNT配向集合体が100μm以上の十分な高さを備えていると、単層CNT配向集合体を基板から容易に剥離することができる。
【0204】
このような方法を用いると、基材上に設けられた単層CNT配向集合体を、一体性を保持したまま、ほとんど変形させることなく基材から剥離することができ、基材上に設けられた単層CNT配向集合体の特性を保持したまま、基材から剥離したバルク状の単層CNT配向集合体を得ることができる。このような、バルク状の単層CNT配向集合体は、所望の基材上に敷設・配置することができ、優れた成形加工性を有する。
【0205】
このようにして基板から剥離したバルク状単層CNT配向集合体から50mgの塊りを取り出し、これをBELSORP-MINI(株式会社日本ベル製)を用いて77Kで液体窒素の吸脱着等温線を計測した(吸着平衡時間は600秒とした)。この吸脱着等温線からBrunauer, Emmett, Tellerの方法で比表面積を計測したところ、1100m
2/gであった。また、同じバルク状単層CNT配向集合体から50mgの塊りを取り出してこれをアルミナ製のトレイに均等配置し、マッフル炉に入れた。そして1℃/分で550℃まで昇温させ、酸素雰囲気下(濃度20%)で1分間の熱処理を行ったところ、試料の重量は43mgとなり、7mgが燃焼していた。熱処理後の試料について上記と同様にして比表面積を計測したところ、比表面積はおよそ2000m
2/gであった。熱処理後の試料は、試料に比べて比表面積が増大しており、熱処理によってCNTの先端が開口されたことが示唆された。
【0206】
〔θ−2θ法による配向性評価〕
得られたバルク状単層CNT配向集合体の配向性評価をCu−KαX線源として15kWのパワーでX線回折装置(Rigaku Corp Diffractometer : RINT-2500/HRPBO ) を用いて、θ−2θ法によるX線回折測定法で行った。X線のスポット径は0.6mmであった。試料として用いたバルク状単層CNT配向集合体の主要諸元は、形状寸法:1mm×1mm×10mmの四角柱、重量密度:0.037g/cm
3、BET−比表面積:1200m
2/g、平均外径:2.8nm、半値幅:2nm、炭素純度:99.9%である。
【0207】
この試料でのX線回折スペクトルは、
図22〜
図24に示した通りである。観測された回折ピークは、単層CNTを構成する炭素六員環の構成の周期性と、単層CNT間のパッキングの周期性とを反映している。低角(0〜15度)で観察される(CP)回折ピークは、単層CNT同士の間隔を反映している。25度近傍で観察される緩やかな回折ピークは、異なる単層CNTの炭素六員環シートの間隔を反映している(
図54参照)。42度近傍の回折ピークは、単層CNTの炭素六員環の(100)面を反映し、77〜78度付近の回折ピークは(110)面を反映している。単層CNTの炭素六員環構造は、CNTの炭素六員環構造が丸められ湾曲しているため、グラファイトの回折ピークと密接に一致しない。また、単層CNTのサイズ、配向度共にピーク位置は若干変化するが、回折ピークの同定は可能である。
【0208】
この結果からヘルマンの配向係数Fを算出したところ、(CP)回折ピークでは0.4〜0.62であり、(002)回折ピークでは0.75であった。
【0209】
〔ラウエ法による配向性評価〕
得られたバルク状単層CNT集合配向体の配向度をラウエ法によるX線回折測定法で評価した。使用した装置はBruker 社製(Bruker SMART APEX CCD area-detector diffractometer )。4.5kWのパワーでX線源(BRUKERAXS MO CE-SRA)として Mo−Kαを用いた。試料とX線検出器の距離は5.968cmでCCD検出器のサイズは6.1×6.1cmであり、X線のスポット径は0.5mmであった。
【0210】
試料として用いたバルク状単層CNT集合配向体の主要諸元は、形状寸法:直径1mm×高さ0.5mmの円柱形、重量密度:0.037g/cm
3、BET−比表面積:1200m
2/g、平均外径:2.8nm、半値幅:2nm、炭素純度:99.9%である。
【0211】
この結果、バルク状単層CNT配向集合体の観察された(CP)、(002)、(100)などの回折ピークは楕円状となり、異方性を示した。この異方性は、単層CNTが配向していることを示す。
【0212】
この結果からヘルマンの配向係数Fを算出したところ、(CP)回折ピークでは0.38であり、(002)回折ピークでは0.61であった。
【実施例5】
【0213】
〔粉体状単層CNT配向集合体〕
単層CNT配向集合体を基板から剥離して粉体状単層CNT配向集合体を得た。
粉体状単層CNT配向集合体の特性は、用いた単層CNT配向集合体の製造条件に依存するが、実施例1の製造条件で製造された単層CNT配向集合体を用いた場合の特性値は、剥離前は、重量密度:0.03g/cm
3、BET−比表面積:1200m
2/g、G/D:10、平均外径:2.5nm、半値幅:2nm、炭素純度:99.9%、ヘルマンの配向係数:0.8であり、剥離後は重量密度:0.0005g/cm
3〜0.16g/cm
3、BET−比表面積:1200m
2/g、平均外径:2.5nm、半値幅:2nm、炭素純度:99.9%、ヘルマンの配向係数:0.3〜0.7である。
また実施例2の製造条件で製造された単層CNT配向集合体を用いた場合の特性値は、剥離前は、重量密度:0.03g/cm
3、G/D:7、BET−比表面積:1100m
2/g、平均外径:2.8nm、半値幅2nm、炭素純度99.9%、ヘルマンの配向係数0.7であり、剥離後は重量密度:0.0005g/cm
3〜0.16g/cm
3、BET−比表面積:1100m
2/g、平均外径:2.8nm、半値幅:2nm、炭素純度:99.9%、ヘルマンの配向係数:0.3〜0.6である。
【0214】
図55に示すように、市販の真空掃除機であって良い真空装置に接続された吸引チューブを単層CNT配向集合体の試料上に配置し、その吸引力を利用して単層CNT配向集合体を基板から分離させて吸引チューブに吸い込ませる。この際、単層CNT配向集合体は、粉体状になり(
図56参照)、回収器の中のフィルターに捕捉されて回収される。
【0215】
粉体状単層CNT配向集合体の細孔径分布を
図33に示す。これにより、細孔径の分布極大は13nmであり、このような細孔径分布を持つ単層CNT配向集合体は、非常に優れた形状加工性を有した。
【0216】
粉体状単層CNT配向集合体の構造は、
図5に示したSEM画像に見られる通り、多くの場合、配向性を有している。かつ、粉体状の単層CNT配向集合体は複数の異なる配向の向きを持っている。そのため、粉体状単層CNT配向集合体の配向度をSEM(またはAFM)画像により評価するには、下記に記述のように適切な場所、適切な倍率での観察が必要となる。
【0217】
なお、粉体状単層CNT配向集合体は、その用途上での機能を損なわない程度に一部等方的な構造を含んでいてもかまわない。
【0218】
〔粉体状単層CNT配向集合体の配向性〕
図5に示したSEM画像に基づくFFT画像を
図27に示す。これらのFFT画像は、SEM画像の倍率、場所により程度は異なるものの、それぞれが異方性を示した。これは構造体中のCNTが配向していることを示す。
【0219】
FFT画像(
図27)の原点から等距離を保って動径方向に参照方向(φ=0)からφ=π/2までの変換強度を求め、
図28に示す強度プロフィールを得た。この強度プロフィールを用いてヘルマンの配向係数Fを算出したところ、Region1の場合は0.6、Region2の場合は0.3となり、この粉体状単層CNT配向集合体が配向していることが判った。粉体状単層CNT配向集合体は場所により、配向の向きが異なる場合があるために、広領域のSEM画像からFFT画像を計算し、ヘルマンの配向係数を算出すると、得られたヘルマンの配向係数は、剥離前の単層CNT配向集合体のヘルマンの配向係数より小さくなる。そのため、1〜5μm程度のSEM画像からFFT画像を計算し、ヘルマンの配向係数を算出するのが好ましい。
【0220】
〔粉体状単層CNT配向集合体の重量密度〕
粉体状単層CNT配向集合体の重量密度を以下により求めた。粉体状単層CNT配向集合体の重量密度測定は、2つの方法、即ち、ルーズ重量密度とタップ重量密度とで評価することができる。
【0221】
ルーズ重量密度とは、粉体状の単層CNT配向集合体を容器に入れ、激しく揺り動かした後の重量密度である。この試料の場合、ルーズ重量密度は0.019g/cm
3となった。また別の試料のルーズ重量密度は0.009g/cm
3となった。
【0222】
タップ重量密度とは、粉体状の単層CNT配向集合体を容器に入れ、これを25mmの高さから固い表面に20回繰り返して落下させた後の重量密度である。この試料の場合、タップ重量密度は0.024g/cm
3となった。また別の試料のタップ重量密度は0.014g/cm
3となった。粉体状にする以前の単層CNT配向集合体の重量密度は0.03〜0.04g/cm
3程度であったので、粉体状にすることで、重量密度が5分の4から4分の1に減少することが分かった。
【0223】
〔成形加工性の検証1:高密度化処理工程による成形加工〕
実施例4で製造されたバルク状の単層CNT配向集合体もしくは、実施例5で製造された粉体状の単層CNT配向集合体に外部圧力をかけることにより、所望の形状を有し、高密度化された、単層CNT配向構造体の製造方について述べる。
1)同一サイズの長方形の平らなガラススライドを2枚準備した。
2)ガラススライド一枚の中心部に、成長した状態のバルク状の単層CNT配向集合体をCNTがガラススライドに対して垂直に配向する向きで、配置した。
3)2枚目のガラススライドを一枚目のガラススライドに覆い被さるように、バルク状の単層CNT配向集合体上に置く。
4)2枚目のスライドを押すとともに、同時にずらし、CNTを挟んだ2枚の基板に垂直方向と基板の長手方向の水平報告に圧力をかけることで、バルク状の単層CNT配向集合体に圧縮応力とともに、ずり応力を加える。
5)CNTを挟んだ2枚の基板をクリップにより固定する。
6)基板を水が入った容器に入れ、その後、基板の下から、アルコールをピペットで供給し、溶液を水とアルコールの混合溶液として、約20分間浸す。
7)この工程でCNTから泡が出てくる。泡の出現が中止したら、基板を容器から取り出し、この基板を暖められたホットプレート上に約1時間置き乾燥する。
8)乾燥させた後、ゆるやかに一枚のガラススライドを取り除く
【0224】
以上の作業により、
図57に示す、CNTが長手方向に配向し、所望の形状を有する、高密度、単層CNT配向構造体を得た。このように、バルク状の単層CNT配向集合体は成形加工性に優れていることが分かる。
【0225】
〔成形加工性の検証2:分散性〕
実施例4で製造されたバルク状の単層CNT配向集合体もしくは、実施例5で製造された粉体状の単層CNT配向集合体(重量密度0.024g/cm
3)の形状加工性(分散性)を検証するために、CNTの分散溶媒としてよく用いられるDMF5ml中に粉体状単層CNT配向集合体1mgを投入し、ホモジナイザを用いて10分間分散した。さらに溶媒を5ml追加し、ホモジナイザで10分間分散した。得られた分散液を
図58に示す。これにより、本発明の粉体状単層CNT配向集合体が溶媒中に均一に分散し易いこと、換言すると低密度な粉体状単層CNT配向集合体が形状加工性に優れていることが分かる。
【0226】
〔非分散性の検証〕
実施例5で製造された粉体状単層CNT配向集合体をNature Material誌、第5巻(2006年)、第987〜994頁に述べられている手法などを利用して高密度化処理を行った。具体的には、粉体状単層CNT配向集合体1mgをイソプロパノール溶液10ml中に投入し、それを乾燥させて高密度化した。得られた、高密度化粉体状単層CNT配向集合体のタップ重量密度は0.22g/cm
3であつた。高密度化粉体状単層CNT配向集合体1mgをCNTの分散溶媒としてよく用いられるDMF5ml中に投入し、ホモジナイザで10分間分散した。さらに溶媒を5ml追加してホモジナイザで10分間分散した。これにより、高密度な粉体状単層CNT配向集合体は溶媒中に分散し難いこと、換言すると高密度な粉体状単層CNT配向集合体が形状加工¥性に劣ることが分かった。