【実施例】
【0037】
[実験例A]
(希土類錯体ポリマーの合成)
まず、Eu(III)イオンの原料である酢酸ユーロピウムと、上記式(2)で表される配位子の原料である1,1,1,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオンとを混合して、トリス(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)ユーロピウム(III)を合成した。
【0038】
次いで、このトリス(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)ユーロピウム(III)、及び、ホスフィンオキシド二座配位子の原料となる化合物を含むメタノール溶液を準備し、この溶液を還流しながら12時間攪拌した。その後、得られた反応混合物をロータリーエバポレーターにより濃縮し、さらにメタノールを用いて再結晶を行うことにより精製して、目的とする希土類錯体ポリマーを得た。本例では、上記式(4)において、Ar
1が上記式(3a)で表される基(m=0)である希土類錯体ポリマー([Eu(hfa)
3(dpb)]
n、実施例1)、Ar
1が上記式(3b)で表される基(m=0)である希土類錯体ポリマー([Eu(hfa)
3(dpbp)]
n、実施例2)及びAr
1が上記式(3c)で表される基(m=0)である希土類錯体ポリマー([Eu(hfa)
3(dpbt)]
n、実施例3)の3種類の希土類錯体ポリマーを合成した。
【0039】
また、比較例として、トリス(ヘキサフルオロアセチルアセトナト)ユーロピウム(III)及び1,1’−ビフェニル−2,2’−ジイルビス(ジフェニルホスフィンオキシド(BIPHEPO)を含むメタノール溶液を準備し、この溶液を還流しながら12時間攪拌した。その後、得られた反応混合物をロータリーエバポレーターにより濃縮し、さらにメタノールを用いて再結晶を行うことにより精製して、ホスフィンオキシド二座配位子による架橋構造が形成されていない希土類錯体を合成した(下記式(5)で表される化合物、Eu(hfa)
3(BIPHEPO)、比較例1)。
【化9】
【0040】
(特性評価)
まず、実施例1〜3の希土類錯体ポリマー及び比較例1の希土類錯体を、X線構造解析により分析した結果、一つのEu(III)イオンに対し、2分子(実施例1〜3)又は1分子(比較例1)のホスフィンオキシド二座配位子が2箇所において配位し、また3分子のヘキサフルオロアセチルアセトナート(Hfa)が6箇所において配位しており、8配位型の錯体構造が形成されていることが分かった。
【0041】
また、一例として、実施例1の希土類錯体ポリマーである[Eu(hfa)
3(dpb)]
nの380nm励起(配位子励起)による固体状態の発光スペクトルを
図1に示す。
図1に示すように、この希土類錯体ポリマーでは、Eu(III)のf−f電子遷移に基づく578nm、592nm、613nm及び649nmの発光が観察された。
【0042】
さらに、実施例1〜3の希土類錯体ポリマー及び比較例1の希土類錯体について、TG−DTAによる熱重量分析を行った。得られた結果を
図2に示す。
図2中、(a)は[Eu(hfa)
3(BIPHEPO)]
n(比較例1)、(b)は[Eu(hfa)
3(dpb)]
n(実施例1)、(c)は[Eu(hfa)
3(dpbp)]
n(実施例2)、(d)は[Eu(hfa)
3(dpbt)]
n(実施例3)の結果を示している。
【0043】
これらの結果より、各実施例及び比較例の希土類錯体ポリマー又は希土類錯体の熱分解温度は、次のように算出された。
[Eu(hfa)
3(dpb)]
n(実施例1):230℃
[Eu(hfa)
3(dpbp)]
n(実施例2):290℃
[Eu(hfa)
3(dpbt)]
n(実施例3):310℃
[Eu(hfa)
3(BIPHEPO)]
n(比較例1):210℃
【0044】
このように、実施例1〜3の希土類錯体ポリマーは、比較例1の希土類錯体に比して高い熱分解温度を有しており、優れた耐熱性を有していることが判明した。
【0045】
[実験例B]
以下の方法にしたがって、各種の配位子の原料を合成し、さらにそれを用いて各種の希土類錯体ポリマーを合成した。なお、下記の各種分析は、次の条件で行った。IR測定は、日本光学社製、FT/IR−350を用いて行った。
1H−NMR測定は、日本電子社製、JNM−EX270(270MHz)を用いて行い、テトラメチルシラン(TMS)を内部標準として化学シフトを決定した。元素分析及び質量分析は、北海道大学機器分析部門にて行った。熱重量測定は、リガク社製TermoEvo TG8120を用い、アルゴン雰囲気下、1℃/分の昇温速度で行った。DSC測定は、マックサイエンス社製、DSC3220を用い、2℃/分の昇温速度で行った。
【0046】
(配位子の原料の合成)
<1,4−ビス(ジフェニルホスホリル)ベンゼン(dpb)の合成>
100mLの三口フラスコをフレームドライして、内部をArで置換した。この三口フラスコに、0.80mL(8.0mmol)の1,4−ジフルオロベンゼンを入れ、さらに40mLのカリウムジフェニルホスファイド溶液(0.5MTHF溶液、20mmol)をシリンジでゆっくり加え、室温で1時間攪拌し、その後、12時間還流した。このとき、溶液の色は赤褐色から濁った黄色へと変化した。還流後、反応を止め、THFを減圧留去し、さらにメタノール(約40mL)を加えた。この溶液を加熱し、30分還流した後、メタノールをデカントして、灰色の粉末を得た。
【0047】
次に、上記で得られた灰色の粉末及び約20mLのジクロロメタンをフラスコに入れ、この溶液を0℃に冷却して、そこに30%の過酸化水素水(約5mL)を加えた。この混合物を2時間攪拌した。反応後、生成物をジクロロメタンで抽出し、飽和食塩水で3回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、さらにエバポレータで溶媒を留去した。濃縮物を、ジクロロメタンで再結晶して、1,4−ビス(ジフェニルホスホリル)ベンゼン(dpb)の白色の結晶を得た(収量:2.5g(収率:66%))。生成物の分析結果は以下の通りであった。
【0048】
IR(KBr):1121(st、P=O)cm
−1.
1H−NMR(270MHz,CDCl
3,25℃)δ7.48−7.78(m、24H;P−C
6H
5,C
6H
4)ppm.
ESI−Mass(m/z)=479.1[M+H]
+.
元素分析:(C
30H
24O
2P
2の計算値):C,75.31;H,5.06%、(実測値):C,74.86;H,5.11%
【0049】
<1,4−ビス(ジフェニルホスホリル)ビフェニル(dpbp)の合成>
100mLの三口フラスコをフレームドライして、内部をArで置換した。この三口フラスコに、1.9g(6.0mmol)の4,4’−ジブロモビフェニル及び30mLのTHFを入れ、液体窒素/エタノールで約―80℃に冷却した。この溶液に、9.3mL(15mmol)の1.6Mのn−ブチルリチウムヘキサン溶液をシリンジでゆっくり添加した。この添加は、約15分かけて行い、この間、黄色の析出物が生成した。この溶液を−10℃で3時間攪拌した。次に、溶液を再び−80℃に冷却した後、2.7mL(15mmol)のジクロロフェニルホスファイドを滴下し、14時間攪拌させながら徐々に室温に戻した。その後、反応を止め、酢酸エチルで抽出を行った。得られた溶液を飽和食塩水で3回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、エバポレータで溶媒を留去した。得られた組成生物を、アセトン及びエタノールで複数回洗浄することにより精製し、白色の粉末を得た。
【0050】
次に、上記で得られた白色の粉末及び約40mLのジクロロメタンをフラスコに入れ、この溶液を0℃に冷却し、そこに30%の過酸化水素水(約5mL)を加えた。この混合物を、2時間攪拌した。生成物をジクロロメタンで抽出した後、抽出液を飽和食塩水で3回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。その後、エバポレータで溶媒を留去して、白色の粉末を得た。この白色の粉末をジクロロメタンで再結晶して、1,4−ビス(ジフェニルホスホリル)ビフェニル(dpbp)の白色の結晶を得た(収量:1.1g(収率:33%))。生成物の分析結果は以下の通りであった。
【0051】
IR(KBr):1120(st、P=O)cm
−1.
1H−NMR(270MHz,CDCl
3,25℃)δ7.67−7.80(m、16H;P−C
6H
5,C
6H
4),7.45−7.60(m、12H;P−C
6H
5,C
6H
4)ppm.
ESI−Mass(m/z)=555.2[M+H]
+.
元素分析:(C
36H
28O
2P
2の計算値):C,77.97;H,5.09%、(実測値):C,77.49;H,5.20%
【0052】
<4,4−ビス(ジフェニルホスホリル)ビチオフェン(dpbt)の合成>
100mLの三口フラスコをフレームドライして、内部をArで置換した。この三口フラスコに、1.2g(7.2mmol)のビチオフェン及び20mLのTHFを入れ、液体窒素/エタノールで約−80℃に冷却した。この溶液に、13mL(20mmol)の1.6Mのn−ブチルリチウムヘキサン溶液をシリンジでゆっくり添加した。この添加は、約15分かけて行い、この間、黄色の析出物が生成した。この溶液を−10℃で3時間攪拌した後、この溶液に3.7mL(20mmol)のクロロジフェニルホスファイドを−80℃で滴下した。この溶液を18時間攪拌させながら徐々に室温に戻した。生成物を酢酸エチルで抽出した後、抽出物を飽和食塩水で3回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、エバポレータで溶媒を留去した。得られた組成生物を、メタノールで繰り返し洗浄して、黄色の粉末を得た。
【0053】
次に、得られた黄色の粉末及び約40mLのジクロロメタンをフラスコに入れ、この溶液を0℃に冷却し、そこに30%の過酸化水素水(10mL)を加えた。この混合物を、2時間攪拌した。生成物をジクロロメタンで抽出した後、抽出液を飽和食塩水で3回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。その後、エバポレータで溶媒を留去して、黄色の粉末を得た。この黄色の粉末をジクロロメタンで再結晶して、4,4−ビス(ジフェニルホスホリル)ビチオフェン(dpbt)の黄色の結晶を得た(収量:1.4g(収率:31%))。生成物の分析結果は以下の通りであった。
【0054】
IR(KBr):1122(st,P=O)
1H−NMR(270MHz,CDCl
3,25℃)δ7.45−7.79(m、20H;P−C
6H
5),7.33−7.37(m,2H;C
4H
2S),7.24−7.27(m,2H;C
4H
2S)ppm.
ESI−Mass(m/z)=567.1[M+H]
+.
元素分析:(C
32H
24O
2P
2S
2の計算値):C,67.83;H,4.27%、(実測値):C,67.13;H,4.40%
【0055】
<3,6−ビス(ジフェニルホスホリル)−9−フェニルカルバゾール(dppcz)の合成>
100mLの三口フラスコをフレームドライして、内部をArで置換した。この三口フラスコに、2.4g(6.0mmol)の3,6−ジブロモ−9−フェニルカルバゾール及び30mLのTHFを入れ、液体窒素/エタノールで約−80℃に冷却した。この溶液に、8.8mL(14mmol)の1.6Mのn−ブチルリチウムヘキサン溶液をシリンジでゆっくり添加した。この添加は、約10分かけて行い、この間、黄白色の析出物が生成した。この溶液を−10℃で2時間攪拌した後、この溶液に2.6mL(14mmol)のジクロロフェニルホスファイドを−80℃で滴下した。この溶液を徐々に室温に戻し、18時間攪拌させて、白色の析出物を得た。この析出物をろ過し、メタノールで数回洗浄し、その後真空下で乾燥させた。
【0056】
次に、上記で得られた白色の粉末及び約40mLのジクロロメタンをフラスコに入れ、この溶液を0℃に冷却し、そこに30%の過酸化水素水(8mL)を加えた。この混合物を、2時間攪拌した。生成物をジクロロメタンで抽出した後、抽出液を飽和食塩水で3回洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。その後、エバポレータで溶媒を留去して、白色の粉末を得た。この白色の粉末をジクロロメタン/ヘキサンで再結晶して、3,6−ビス(ジフェニルホスホリル)−9−フェニルカルバゾール(dppcz)の無色の結晶を得た(収量:2.0g(収率:53%))。生成物の分析結果は以下の通りであった。
【0057】
IR(KBr):1122(st,P=O)cm
−1.
1H−NMR(270MHz,CDCl
3,25℃)δ8.43−8.47(d,J=10.8Hz,2H;P−C
6H
5),7.63−7.76(m,11H;C
4H
2S),7.43−7.60(m,18H;C
4H
2S)ppm.
ESI−Mass(m/z)=644.2[M+H]
+.
元素分析:(C
43H
31NO
2P
2の計算値):C,78.37;H,4.85;N,2.18%、(実測値):C,78.42;H,5.00;N,2.18%
【0058】
(希土類錯体ポリマーの合成;実施例4〜8)
上記で得た配位子の原料の1等量、及び、[Eu(hfa)
3(H
2O)
2]の1等量をクロロホルム(20mL)に溶解した。この溶液を8時間攪拌しながら還流した。その後、得られた反応混合物を濃縮して乾燥させた。そして、メタノール−クロロホルム溶液の液−液拡散法により、希土類錯体ポリマーを得た。
【0059】
本例では、配位子の原料として、上述したdpb、dpbp、dpbt及びdppczをそれぞれ用いることで、上記式(4)において、Ar
1が上記式(3a)で表される基(m=0)である希土類錯体ポリマー([Eu(hfa)
3(dpb)]
n、実施例4)、Ar
1が上記式(3b)で表される基(m=0)である希土類錯体ポリマー([Eu(hfa)
3(dpbp)]
n、実施例5)、Ar
1が上記式(3c)で表される基(m=0)である希土類錯体ポリマー([Eu(hfa)
3(dpbt)]
n、実施例6)及びAr
1が上記式(3d)で表される基(m=0)である希土類錯体ポリマー([Eu(hfa)
3(dppcz)]
n、実施例7)の4種類の希土類錯体ポリマーを合成した。
【0060】
得られた核希土類錯体ポリマーの収量(収率)及び分析結果は以下の通りであった。
[Eu(hfa)
3(dpb)]
n
収量:60mg(収率42%、モノマー換算)
IR(KBr):1652(st,C=O)、1256−1145(st,C−F)、1128(st,P=O)cm
−1
ESI−Mass(m/z)=1045.05[Eu(hfa)
2(dpb)]
+、2297.18[Eu
2(hfa)
5(dpb)
2]
+.
元素分析:([C
45H
27EuF
18O
8P
2]
nの計算値)、C,43.18;H,2.17%、(実測値)、C,43.12;H,2.28%
【0061】
[Eu(hfa)
3(dpbp)]
n
収量:98mg(収率67%、モノマー換算)
IR(KBr):1653(st,C=O)、1255−1145(st,C−F)、1127(st,P=O)cm
−1
ESI−Mass(m/z)=1120.08[Eu(hfa)
2(dpbp)]
+、2447.15[Eu
2(hfa)
5(dpbp)
2]
+.
元素分析:([C
51H
31EuF
18O
8P
2]
nの計算値)、C,46.14;H,2.35%、(実測値)、C,45.59;H,2.49%
【0062】
[Eu(hfa)
3(dpbt)]
n
収量:160mg(収率68%、モノマー換算)
IR(KBr):1651(st,C=O)、1254−1145(st,C−F)、1128(st,P=O)cm
−1
ESI−Mass(m/z)=1133.00[Eu(hfa)
2(dpbt)]
+、2473.02[Eu
2(hfa)
5(dpbt)
2]
+.
元素分析:([C
47H
27EuF
18O
8P
2S
2]
nの計算値)、C,42.14;H,2.03%、(実測値)、C,42.67;H,2.12%
【0063】
[Eu(hfa)
3(dppcz)]
n
収量:110mg(収率50%、モノマー換算)
IR(KBr):1652(st,C=O)、1256−1145(st,C−F)、1128(st,P=O)cm
−1
ESI−Mass(m/z)=1210.13[Eu(hfa)
2(dppcz)]
+、1853.34[Eu(hfa)
2(dppcz)
2]
+.
元素分析:([C
57H
34EuF
18NO
8P
2]
nの計算値)、C,48.32;H,2.42;N,0.99%、(実測値)、C,48.32;H,2.42;N,1.06%.
【0064】
また、比較例として、[Eu(hfa)
3(BIPHEPO)](比較例2)を上述した比較例1と同様に合成するとともに、[Eu(hfa)
3(H
2O)
2](比較例3)で表されるホスフィンオキシド配位子を有しない希土類錯体を合成した。
【0065】
なお、X線構造解析により分析した結果、実施例4〜7の各希土類錯体ポリマーも、実施例1〜3の希土類錯体ポリマーと同様の8配位型の錯体構造を有していることが確認された。
【0066】
(特性評価)
上述した希土類錯体ポリマーのうち、実施例4、5及び7の希土類錯体ポリマー並びに比較例3の希土類錯体の、固体状態の拡散反射吸収スペクトルを
図3の左側に、実施例4、5及び7の希土類錯体ポリマーの465nm励起(配位子励起)による固体状態の発光スペクトルを
図3の右側に示す。
図3の左側に示すように、実施例4、5及び7の希土類錯体ポリマー並びに比較例3の希土類錯体では、hfa配位子によるπ−π
*遷移に基づく310nmの吸収が確認され、実施例4、5及び7の希土類錯体ポリマーでは、Eu(III)の
7F
0−
5D
2遷移に基づく465nmの小さな吸収が観察された。また、
図3の右側に示すように、実施例4、5及び7の希土類錯体ポリマーでは、Eu(III)のf−f電子遷移に基づく578nm、591nm、613nm、649nm及び698nmの発光が観察された。
【0067】
さらに、実施例4、5及び7の希土類錯体ポリマー並びに比較例2及び3の希土類錯体について以下の評価を行った。得られた結果をまとめて表1に示す。
【0068】
まず、実施例4、5及び7の希土類錯体ポリマー並びに比較例2の希土類錯体について、TGAによる熱重量測定を行い、それらの熱分解温度(℃)を測定した。
【0069】
また、各希土類錯体ポリマー又は希土類錯体の発光を、Nd:YAGレーザー(スペクトラ・フィジックス社製INDI−50、半値幅=5ns、中心波長=1064nm)の第3高調波(355nm)を励起光源とし、光電子増倍管(浜松ホトニクス社製R5108、応答時間≦1.1ns)を用いて測定した。そして、Nd:YAGレーザーの応答をオシロスコープ(ソニー・テクトロニックス社製、TDS3052、500MHz)によりモニターし、減衰プロファイルの対数プロットの傾きから、各希土類錯体ポリマー又は希土類錯体の発光寿命(t
obs、単位:ms)を算出した。
【0070】
また、各希土類錯体ポリマー又は希土類錯体の、380nm励起による合計発光量子収率(F
tot、単位:%)を、積分級ユニット(日本分光社製、ILF−533、φ=100mm)と接続した蛍光光度計(日本分光社製、F−6300−H)により測定した。
【0071】
さらに、各希土類錯体ポリマー又は希土類錯体による放射寿命(τ
rad、単位:ms)、4f−4f発光量子収率(F
Ln、単位:%))、光増感エネルギー移動効率(η
sens、単位:%)、放射速度定数(k
r、単位:S
−1)及び無放射速度定数(k
nr、単位:S
−1)を求めた。これらは、それぞれ以下の式で表される関係を満たす。
τ
rad=1/k
r (a)、
t
obs=1/(k
r+k
nr) (b)、
F
Ln=k
r/(k
r+k
nr) (c)、
1/τ
rad=A
MD,0n
3(I
tot/I
MD) (d)、
k
nr=1/t
obs−1/τ
rad (e)。
【0072】
これらの式中、A
MD,0は、真空での
5D
0−
7F
1遷移の自然放出確率(ここでは14.65s
−1)であり、nは溶媒の屈折率(ここでは1.5を用いる)であり、(I
tot/I
MD)は、Eu(III)による発光スペクトルの全領域の、
5D
0−
7F
1発光の領域に対する比率である。
【0073】
なお、表1中の比較例3の希土類錯体の熱分解温度、t
obs、τ
rad、F
Ln、F
tot及びη
sensはいずれも文献値である(Y. Hasegawa
et al., J. Phys. Chem., A 2003, 107, 1697-1702)。
【0074】
【表1】
【0075】
表1に示されるように、実施例4、5及び7の希土類錯体ポリマーは、優れた蛍光特性を有しながら、比較例2及び3の希土類錯体に比して高い耐熱性を有していることが判明した。
【0076】
[実験例C]
(希土類錯体ポリマーの合成)
0.18mmolのTb(hfa)
3(H
2O)
3と、0.18mmolのホスフィンオキシド二座配位子の原料となる化合物とを、10mLのメタノール及び5mLのクロロホルムを混合した混合溶媒に溶解し、80℃で8時間加熱還流した。その後、反応溶液中の白色沈殿を分離し、数回メタノール及びクロロホルムで洗浄して、目的とする希土類錯体ポリマーを得た。本例では、実施例1及び2の希土類錯体ポリマーにおけるEuがTbに置き換わった希土類錯体ポリマーとして、[Tb(hfa)
3(dpb)]
n(実施例8)及び[Tb(hfa)
3(dpbp)]
n(実施例9)の2種類を合成した。
【0077】
実施例8及び9の希土類錯体ポリマーの収量(収率)及び分析結果は以下の通りであった。
[Tb(hfa)
3(dpb)]
n(実施例8)
収量:90mg(収率34%)
IR(KBr):1655(st,C=O)、1256−1141(st,C−F)、1125(st,P=O)cm
−1
元素分析:([C
45H
27F
18O
8P
2Tb]
nの計算値)、C,42.95;2.34%、(実測値)、C,42.87;H,2.29%
【0078】
[Tb(hfa)
3(dpbp)]
n(実施例9)
収量:95mg(収率40%)
IR(KBr):1653(st,C=O)、1253−1142(st,C−F)、1125(st,P=O)cm
−1
元素分析:([C
51H
31F
18O
8P
2Tb]
nの計算値)、C,45.90;2.34%、(実測値)、C,45.76;H,2.48%
【0079】
(特性評価)
実施例8及び9の希土類錯体ポリマーである[Tb(hfa)
3(dpb)]
n及び[Tb(hfa)
3(dpbp)]
nの360nm励起(配位子励起)による固体状態の発光スペクトルを、日本分光社製、F−6300−Hを用いて測定した。得られた結果を
図4に示す。