【実施例】
【0048】
(多孔質フェライト粒子の製造例)
原料としてのFe
2O
3(平均粒径:0.6μm)17.13kg、Mn
3O
4(平均粒径:0.9μm)6.69kgを純水6.2kg中に分散し、還元剤としてカーボンブラックを156g、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を148g添加して混合物とした。この混合物を湿式ボールミル(メディア径2mm)により粉砕処理し、混合スラリーを得た。
この混合スラリーをスプレードライヤーにて約130℃の熱風中に噴霧し、粒径10μm〜75μmの乾燥造粒物を得た。この造粒物から粒径25μm以下の微小な粒子は篩を用いて除去した。
この造粒物を電気炉に投入し975℃まで4.5時間かけて昇温し、975℃で3時間保持し、その後室温まで8時間かけて冷却した。昇温時、保持時及び冷却時の酸素濃度は5000ppmとした。
得られた焼成物を振動ふるいで分級することにより平均粒径38.0μmの多孔質フェライト粒子を得た。
【0049】
(Liフェライト微粒子の製造例)
原料としてのFe
2O
3(平均粒径:0.6μm)7.053kg、Li
2CO
3(平均粒径:25μm)0.165kgを純水4.3kg中に分散し、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム系分散剤を30g添加して混合物とした。この混合物を湿式ボールミル(メディア径2mm)により粉砕処理し、混合スラリーを得た。
この混合スラリーをスプレードライヤーにて約130℃の熱風中に噴霧し、粒径10μm〜75μmの乾燥造粒物を得た。
この造粒物を電気炉に投入し800℃まで4.5時間かけて昇温し、800℃で3時間保持し、8時間かけて室温まで冷却した。昇温、保持及び冷却は空気中で行った。
得られた焼成物を振動ボールミルを用いて、150分間粉砕し、Liフェライト微粒子を得た。Liフェライト微粒子の粒径は300nm〜70μmの範囲であり、体積平均粒径D
50は2.3μmであった。
図14にLiフェライト微粒子の粒度分布を示す。なお、Liフェライト微粒子の粒径の大きなものは多孔質フェライト粒子表面から脱落するため、体積平均粒径D
50程度の微粒子が多孔質フェライト粒子表面に外在することになる。
【0050】
実施例1
前記で得られた多孔質フェライト粒子900gとLiフェライト粒子100gとをV型混合機を用いて300分間混合処理を行った後、混合物を電気炉に投入し300℃まで4.5時間かけて昇温し、300℃で3時間保持し、その後室温まで8時間かけて冷却した。昇温、保持及び冷却は空気中で行った。
次いで、得られた加熱処理物を風力分級機(NIPPON PNEUMATIC MFG社製「MDS−2」)にて1回処理し、外添構造のキャリア芯材を得た。風量分級処理時の差圧は500mmH
2Oとした。
得られたキャリア芯材のLi含有量、見掛け密度(AD)、XRDパターンのピーク強度値割合B/(A+B)、最高高さRz、磁気特性、電気抵抗値、微粒量(10μm未満)、被覆率を後述する方法で測定した。表1に測定結果をまとめて示す。
【0051】
また、得られたキャリア芯材の表面を樹脂で被覆してキャリアを作製した。具体的には、シリコーン樹脂450質量部と、(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン9質量部とを、溶媒としてのトルエン450質量部に溶解してコート溶液を作製した。このコート溶液を、流動床型コーティング装置を用いてキャリア芯材50000質量部に塗布し、温度300℃の電気炉で加熱してキャリアを得た。以下の実施例、比較例についても同様にしてキャリアを得た。
【0052】
得られたキャリアと平均粒径5.0μm程度のトナーとを、ポットミルを用いて所定時間混合し、二成分系の電子写真用現像剤を得た。なお、トナー質量/(トナー質量+キャリア質量)=5/100となるように調整した。以下、全ての実施例及び比較例についても同様にして現像剤を作製した。得られた電子写真用現像剤についてトナースペント、キャリア飛散、キャリア現像の発生状況の評価を行った。評価結果を表1に合わせて示す。
【0053】
実施例2
風量分級処理時の差圧を450mmH
2Oとした以外は、実施例1と同様の方法でキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の物性測定及び不具合評価を実施例1と同様にして測定した。表1に測定結果をまとめて示す。
【0054】
実施例3
風量分級処理時の差圧を400mmH
2Oとした以外は、実施例1と同様の方法でキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の物性測定及び不具合評価を実施例1と同様にして測定した。表1に測定結果をまとめて示す。
【0055】
実施例4
焼成温度を400℃とし、風量分級処理時の差圧を350mmH
2Oとした以外は、実施例1と同様の方法でキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の物性測定及び不具合評価を実施例1と同様にして測定した。表1に測定結果をまとめて示す。
【0056】
実施例5
前記製造例で得られた多孔質フェライト粒子を800g、前記製造例で得られたLiフェライト粉末を200g、風量分級処理時の差圧を500mmH
2O、処理回数を7回とした以外は、実施例1と同様の方法でキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の物性測定及び不具合評価を実施例1と同様にして測定した。表1に測定結果をまとめて示す。
【0057】
実施例6
前記製造例で得られた多孔質フェライト粒子を600g、前記製造例で得られたLiフェライト粉末を400g、風量分級処理時の差圧を500mmH
2O、処理回数を7回とした以外は、実施例1と同様の方法でキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の物性測定及び不具合評価を実施例1と同様にして測定した。表1に測定結果をまとめて示す。
【0058】
比較例1
前記製造例で得られた多孔質フェライト粒子を1000g、前記製造例で得られたLiフェライト粉末を0gとした以外は、実施例1と同様の方法でキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の物性測定及び不具合評価を実施例1と同様にして測定した。表1に測定結果をまとめて示す。
【0059】
比較例2
前記製造例で得られた多孔質フェライト粒子998gと、Li
2CO
3粉末2gとをV型混合機を用いて300分間混合処理を行った。この混合物を電気炉に投入し300℃まで4.5時間かけて昇温し、300℃で50時間保持し、その後室温まで8時間かけて冷却して外殻構造のキャリア芯材を得た。昇温、保持及び冷却は空気中で行った。
得られたキャリア芯材の物性測定及び不具合評価を実施例1と同様にして測定した。表1に測定結果をまとめて示す。
【0060】
比較例3
焼成温度を500℃、保持時間を27時間にした以外は比較例2と同様の方法でキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の物性測定及び不具合評価を実施例1と同様にして測定した。表1に測定結果をまとめて示す。
【0061】
比較例4
前記製造例で得られた多孔質フェライト粒子を997g、Li
2CO
3粉末を3gとし、焼成温度を500℃、保持時間を27時間とにした以外は比較例3と同様の方法でキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の物性測定及び不具合評価を実施例1と同様にして測定した。表1に測定結果をまとめて示す。
【0062】
比較例5
前記の多孔質フェライト粒子の製造例における混合スラリー作成時に、Fe
2O
3(平均粒径:0.6μm)を16.37kg、Mn
3O
4(平均粒径:0.9μm)を6.37kgとし、前記のLiフェライト粉を1.08kg加えた以外は、比較例1と同様にして内添構造のキャリア芯材を得た。得られたキャリア芯材の物性測定及び不具合評価を実施例1と同様にして測定した。表1に測定結果をまとめて示す。
【0063】
(Liの含有量)
キャリア芯材を酸溶液中で溶解し、ICPにて定量分析を行った。本発明に記載したキャリア芯材のLi含有量は、当該ICPによる定量分析で得られたLi量である。
【0064】
(見掛け密度)
見掛け密度はJIS Z 2504に準拠して測定した。
【0065】
(粉末X線回折パターンの測定)
粉末X線回折パターンは、粉末X線回折装置(リガク社製、RINT2000)を用いて測定した。X線源をCu、加速電圧を40kV、電流を40mA、発散スリット開口角を1°、散乱スリット開口角を1°、受光スリット幅を0.3mm、走査モードをステップスキャン、ステップ幅を0.0200°、係数時間を1.0秒、積算回数を1回とした。そして、得られたX線回折パターンからメインピーク強度値A、Liフェライトのピーク強度値Bを求め、B/(A+B)の値を算出した。
【0066】
(最大高さRzの測定)
キャリア芯材の最大高さRzを次のように測定した。超深度カラー3D形状測定顕微鏡(「VK−X100」株式会社キーエンス製)を用い、100倍対物レンズで表面を観察して求めた。具体的には、まず、表面の平坦な粘着テープにキャリア芯材を固定し、100倍対物レンズで測定視野を決定した後、オートフォーカス機能を用いて焦点を粘着テープ面に調整し、オート撮影機能を用いてキャリア芯材表面の3次元形状を取り込んだ。
各パラメータの測定には、装置付属のソフトウェアVK−H1XAを用いて行った。まず、前処理として、得られたキャリア芯材の表面の3次元形状から解析に用いる部分の取り出しを行った。
図15に、観察画面の概略図を示す。キャリア芯材の表面の中央部分に長さ15.0μmの水平方向に延びる線分31を引き、その上下に0.75μm間隔で10本ずつ平行線を追加した場合の線分上にあたる粗さ曲線を、計21本分取り出した。
図15において、上側の10本の線分32a、下側の10本の線分32bを簡略的に示している。
【0067】
キャリア芯材は略球形状であるため、取り出した粗さ曲線は、バックグラウンドとして一定の曲率を持っている。このため、バックグラウンドの補正として、最適な二次曲線をフィッティングし、粗さ曲線から差し引く補正を行った。この場合のカットオフ値λsを、0.25μm、カットオフ値λcを0.08mmとした。
【0068】
以上の計測方法により、粗さ曲線1本の中で最も高い山の高さと最も深い谷の深さの和を求めた。同様に粗さ曲線21本分の最も高い山の高さと最も深い谷の深さの和を求め、平均化することで最大高さRzを算出した。
【0069】
(磁力の測定)
室温専用振動試料型磁力計VSM(東英工業株式会社製、VSM−P7)を用いて、外部磁場を0〜79.58×10
4A/m(10000エルステッド)の範囲で1サイクル連続的に印加して、79.58×10
3A/m(1000エルステッド)の磁場における磁化σ
1k(Am
2/kg)を測定した。
【0070】
(電気抵抗値測定)
表面を電解研磨した厚さ2mmの電極としての真鍮板2枚を、距離2mm離して対向するように配置した。電極間にキャリア芯材200mgを装入した後、それぞれの電極の背後に、断面積240mm
2の磁石(表面磁束密度が1500ガウスのフェライト磁石)を配置して、電極間にキャリア芯材のブリッジを形成させた。そして、500V,1000Vの直流電圧を電極間に印加し、キャリア芯材に流れる電流値を測定し、キャリア芯材の電気抵抗値をそれぞれ算出した。また、ブレークダウン電圧(B.D)を測定した。
【0071】
(微粒量の割合)
レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装社製「マイクロトラックModel9320−X100」)を用いて体積粒度分布を求め、キャリア芯材に含まれる10μm未満の微粒量の割合を算出した。測定の際の溶媒はイオン交換水を用いた。粒度分布の算出はHRA法で行い、粒子屈折率は2.42、溶媒屈折率は1.333を用いた。
【0072】
(Liフェライト被覆率)
キャリア芯材の表面のSEM写真をメディアサイバネティクス社製画像解析ソフト(Image−Pro PLUS)に導入して、キャリア芯材表面におけるLiフェライト微粒子の被覆率を求めた。SEM写真は走査電子顕微鏡(日本電子社製)を用いて倍率5000倍にて撮影した。画像解析で得られたキャリア芯材100粒子において、キヤリア芯材表面において5μm以下の微粒子の明度が最大となるようにコントラストを調整した後、キャリア芯材に対するLiフェライト微粒子のピクセル数の比率を被覆率として用いた。
【0073】
現像装置(現像ローラの周速度Vs:406mm/sec,感光体ドラムの周速度Vp:205mm/sec,感光体ドラム−現像ローラ間距離:0.3mm)に、作製した二成分現像剤を投入し、画像形成を1000枚行った後、トナースペント、キャリア飛散、キャリア現像を下記基準で評価した。
現像装置から現像剤を抜き取り、トナースペント重量率γを測定した。抜き取った現像剤は界面活性剤を使用してトナーを除去した後80℃で乾燥させた。乾燥させた現像剤50gをトルエンで洗浄し、トナースペントを除去し、80℃で乾燥させた。トルエンでの洗浄前後の重量減少から、キャリアに付着したトナースペント重量率γを評価した。
キャリア飛散
「○」:0≦α+β≦6個
「×」:7≦α+β
キャリア現像
「○」:0≦α−β≦3
「×」:4≦α−β
トナースペント
「○」:γ≦0.5質量%
「×」:γ>0.5質量%
【0074】
【表1】
【0075】
実施例1〜3のキャリア芯材は、風力分級処理における差圧を500mmH
2O,450mmH
2O,400mmH
2Oの順で低くすることによって多孔質フェライト粒子表面からLiフェライト微粒子を除去する力を順に弱くして、キャリア芯材のLi含有量を変化させたものである。実施例1〜3のキャリア芯材では、Li含有量が多くなるにしたがって、ブレークダウン電圧(B.D)は高くなる一方、磁力σ
1kは低下したが、磁力σ
1kの低下は実使用上問題のない範囲に抑えられ、キャリア飛散は生じなかった。
【0076】
また、実施例4のキャリア芯材は、風力分級処理における差圧を350mmH
2Oとさらに低くして、多孔質フェライト粒子表面からLiフェライト微粒子を除去する力を弱くする一方、加熱温度を400℃としてLiフェライト微粒子の固着強度を高めたものである。この結果、実施例4のキャリア芯材では、Li含有量が699ppmと高くなり、ブレークダウン電圧(B.D)は2000Vと高くなった。一方、磁力σ
1kは61.0Am
2/kgに低下したものの実使用上問題のない範囲に抑えられ、キャリア飛散は生じなかった。
【0077】
実施例5,6のキャリア芯材は、風力分級処理における差圧を実施例1と同じ500mmH
2Oとして、Liフェライト微粒子の添加量を実施例1よりも多い20wt%、40wt%としたものである。すなわち、実施例1,5,6のキャリア芯材は、Liフェライト微粒子の添加量10,20,40wt%と増やすことによってキャリア芯材のLi含有量を変化させたものである。実施例1,5,6のキャリア芯材では、Li含有量が多くなるにしたがって、ブレークダウン電圧(B.D)は高くなる一方、磁力σ
1kは低下したが、磁力σ
1kの低下は実使用上問題のない範囲に抑えられ、キャリア飛散は生じなかった。また、Li含有量が多いほど最大高さRzは小さくなった。すなわち、多孔質フェライト粒子表面の凹凸の段差部分にLiフェライト微粒子が入り込んで凹凸が小さくなった。
【0078】
これに対して、Liフェライト微粒子を外添しなかった比較例1のキャリア芯材では、ブレークダウン抵抗が100Vと低くキャリア現像が発生した。
【0079】
また、炭酸リチウムを多孔質フェライト粒子に外添し加熱処理した比較例2〜4のキャリア芯材では、加熱処理によってLiイオンが多孔質フェライト粒子内に取り込まれ、多孔質フェライト粒子の表面近傍にLiフェライト層が形成された外殻構造を有していた。この結果、比較例2〜4のキャリア芯材では、最大高さRzは多孔質フェライト粒子(比較例1)のそれとほぼ同じであり、同様の表面形状がSEMで観察された。また、見掛け密度が2.22g/cm
3,2.23g/cm
3と大きくトナースペント及びトナー飛散が発生した。そしてまた、比較例3,4のキャリア芯材では、磁力σ
1kが52.3Am
2/kg,53.7Am
2/kgと低くキャリア飛散が発生した。さらに、比較例2,4のキャリア芯材では、ブレークダウン電圧(B.D)が250V,750Vと低くキャリア現像が発生した。
【0080】
Liフェライト微粒子を他の原料と共に混合し焼成した比較例5のキャリア芯材では、Liフェライト微粒子がキャリア芯材内に分散して存在している内添構造を有していた。内添構造では、キャリア芯材表面においてLiフェライト相はXRDからも確認できたが、多孔質フェライト粒子(比較例1)と同様の表面形状がSEMで観察された。そのためブレークダウン電圧(B.D)が100Vと低くキャリア現像が発生した。