【実施例】
【0063】
実施例1〜4
Li:Coが化学量論的に制御されたリチウムコバルト系酸化物の調製
これらの実施例では、−0.5ppm付近を中心とした単一のLi寄与を特徴とする
7Li MAS NMRスペクトルと、増加したT1スピン格子緩和時間とを特徴とするLi:Coが化学量論的に制御されドープされたリチウムコバルト系酸化物が、高電圧サイクル安定性をも特徴とすることを示す。改善された安定性、単一寄与の
7Li MAS NMRスペクトル、およびより長いT1が、リチウム対金属比を最適化することで得られる。
【0064】
実施例1:
実施例1および2の特性決定により、Li化学量論が制御されたLiCoO
2系カソード材料、すなわちLi/Co比が1.00±0.01であり、Li原子が三価の反磁性金属に取り囲まれた1つの場所を占めるコアを含み、コア材料の元素(Li、Co)とMgおよびTiを含む無機金属酸化物とを含む電子絶縁性表面を有するカソード材料が、高電圧用途で改善された特徴を示すことを実証する。
【0065】
LCO−1の調製:国際公開第2010−139404号パンフレットで説明される方法により、パイロットラインで0.25mol%のチタンと0.5mol%のマグネシウムとでドープされたCo(OH)
2をLiCoO
2の前駆体として調製する。前駆体をLi
2CO
3と混合することによって、標準的な高温固相合成(=第1の焼成ステップ)により、最先端のチタンおよびマグネシウムでドープされたLiCoO
2(LCO−1と記載)が得られる。Li
2CO
3−ドープされたCo(OH)
2のブレンド中に使用される典型的なLi:Coモル比は1.06〜1.12である。LCO−1の平均粒度は20μmである。ICPによって測定される焼成後のLCO−1の最終Li:Coモル比は1.053であり、これが実施例1および2のLi:Co比を求めるために使用される。LCO−1は、実施例1および実施例2のリチウムドープされたコバルト酸化の「親」とも記載される。
【0066】
実施例1(Ex1と記載)の調製:95mol%のLCO−1、および0.25mol%のTiと0.5mol%のMgとドープされた5mol%のCo(OH)
2(それぞれ95.24重量%および4.76重量%に相当)を、最終Li:Coモル比1.000を目標として混合する。LCO−1およびCo(OH)
2におけるコバルト重量含有率がそれぞれ60.21重量%および63.40重量%と仮定して試薬の重量を計算すると、Li:Coの計算において0.2%未満の絶対誤差となる。得られた均一混合物をアルミナるつぼに入れ、一定空気流下925℃で12時間加熱する(=第2の焼成ステップ)。冷却後、得られた粉末(Ex1)をふるい分けし、特性決定を行う。Ex1の平均粒度は20μmであることが分かった。
【0067】
実施例2:
実施例2(Ex2と記載)の調製:94mol%のLCO−1、および0.25mol%のTiと0.5mol%のMgとでドープされた6mol%のCo(OH)
2(それぞれ94.28重量%および5.72重量%に相当)を、最終Li:Coモル比0.990±0.002を目標として混合する。得られた均一混合物をアルミナるつぼに入れ、一定空気流下925℃で12時間加熱する。冷却後、得られた粉末(Ex2)をふるい分けし、特性決定を行う。Ex2の平均粒度は20μmであることが分かった。
【0068】
実施例3:
実施例3の特性決定では、Li原子が三価の反磁性金属に取り囲まれた1つの場所を占めるコアを含み、Coが部分的にAl
3+で置換され、コア材料の元素(Li、CoおよびAl)とMgおよびTiを含む無機金属酸化物とを含む電子絶縁性表面を有するLi化学量論が制御されたLiCoO
2系カソード材料が、改善された高電圧特性、および大きな圧縮密度を示すことを実証する。
【0069】
LCO−3の調製:Co
3O
4の粉末をTiO
2、MgO、およびLi
2CO
3と乾式混合することによって、標準的な高温固相合成により、最先端のチタンおよびマグネシウムでドープされたLiCoO
2(LCO−3と記載)が得られる。LCO−3は、0.25mol%のチタンおよび0.25mol%のマグネシウムを含有する。ブレンドに使用される典型的なLi:Coモル比は1.10である。LCO−3の平均粒度は18μmである。焼成後のLCO−3の最終Li:Coモル比(ICPによって測定される)は1.070であり、実施例3のLi:(Co+Al)比を設定するために使用される。
【0070】
実施例3(Ex3と記載)の調製:Al:Coモル比が0.01:0.99(またはCoの場所の1mol%がAlで置換)に調整され、最終Li:(Co+Al)モル比が1.000±0.002に調整されるように、85.40重量%のLCO−3、平均粒度が3μmである10.51重量%のCo
3O
4、3.47重量%のLi
2CO
3、0.05重量%のMgO、0.05重量%のTiO
2、および0.52重量%のAl
2O
3を混合して、カソード粉末材料を調製する。得られた均一混合物をアルミナるつぼに入れ、一定空気流下980℃で12時間加熱する。冷却後、得られた粉末(Ex3)をふるい分けし、特性決定を行う。Ex3の平均粒度は16μmであることが分かり、バイモーダル分布が得られる。
【0071】
実施例4:
実施例4の特性決定では、Li化学量論が制御され、Li原子が三価の反磁性金属に取り囲まれた1つの場所を占めるコアを含み、コア材料の元素(Li、Co)とMgおよびTiを含む無機金属酸化物とを含む電子絶縁性表面を有するLiCoO
2系カソード材料が、高Cレートおよび高平均電圧の維持が必要な高出力用途に好適であることを示す。
【0072】
LCO−4の調製:Co
3O
4の粉末を、TiO2、MgO、およびLi
2CO
3と乾式混合することによって、標準的な高温固相合成により、最先端のチタンおよびマグネシウムでドープされたLiCoO
2(LCO−4と記載)が得られる。LCO−4は、0.18mol%のチタンおよび0.40mol%のマグネシウムを含有する。ブレンドに使用される典型的なLi:Coモル比は1.03である。LCO−4の平均粒度は6μmである。焼成後のLCO−4の最終Li:Coモル比(ICPによって測定される)は1.015であり、実施例4のLi:Co比を設定するために使用される。
【0073】
実施例4(Ex4と記載)の調製:98.5mol%のLCO−4、および1.5mol%のTi(0.18mol%)とMg(0.4mol%)とでドープされたCo
3O
4(それぞれ98.77重量%および1.23重量%に相当)を、最終Li:Coモル比1.000±0.002を目標として均一に混合する。LCO−3およびCo
3O
4におけるコバルト重量含有率がそれぞれ60.21重量%および73.42重量%と仮定して試薬の重量を計算した。得られた均一混合物をアルミナるつぼに入れ、一定空気流下1000℃で12時間加熱する。冷却後、得られた粉末(Ex4)をふるい分けし、特性決定を行う。
【0074】
実施例5:
実施例5の特性決定では、1.00±0.01のリチウム化学量論を目標とした場合にのみ、高い電気化学的性能が得られることを示す。最先端のLiCoO
2系材料で通常確認されるようにリチウム化学量論を超えると、放電容量、Cレート、および高電圧安定性の系統的な低下が生じる。
【0075】
実施例5a〜5e(Ex5a〜5eと記載)の調製:88.91重量%のLCO−3、平均粒度が3μmである10.94重量%のCo
3O
4、0.12重量%のMgO、および0.03重量%のTiO
2を混合することによって、カソード粉末材料を調製する。最終Li:Co(またはLi:M)比を1.00(Ex5a)、1.01(Ex5b)、1.02(Ex5c)、1.03(Ex5d)、および1.04(Ex5e)に調整するために、Li
2CO
3をさらに加える。得られた均一混合物をアルミナるつぼに入れ、一定空気流下980℃で12時間加熱する。冷却後、得られた粉末(Ex5a〜5e)をふるい分けし、特性決定を行う。
【0076】
Ex5a〜5eの電気化学的性質を表1に示す。Li:M比が減少して1.00±0.01に近づくと、レート放電容量DQ7およびDQ8ならびに3Cレート性能が大きく改善される。Li:M比が化学量論付近になると、4.5Vにおける容量低下も顕著に改善される。Li:Mが1.00に近づくと導電率を大きく低下し、LCO−3と比較して3〜4桁小さくなる。これらの性質は、Li:Mが化学量論に近づくときに分離したMgおよびTiの量が増加する「電子絶縁性その場コーティング」の機構を明確に指示している。Li化学量論コアと、MgおよびTiに富む表面との高電圧用途での利点が、最終的に明確に強調されている。
【0077】
【表2】
【0078】
実施例1〜4の特性決定
Li:M化学量論の制御および調整のために使用した第2の焼成の前後での、本発明により調製したリチウムコバルト系酸化物の物理的および電気化学的性質の変化の特性決定を行った。
【0079】
SEM分析
走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して表面を撮像し、
図1に示している。すべてのサンプルが、第2の焼成の前後でモノリス粒子形状を特徴としている。第2の焼成ステップ後、粒子の表面は明確に変化し:LCO−1、LCO−3、およびLCO−4の表面はダストおよび破片で覆われており、第2の焼成後のEx1、Ex2、Ex3およびEx4の平滑な表面とは対照的である。
【0080】
XRD分析
X線回折によって、リチウムコバルト系酸化物の結晶構造を調べた。LCO−1および実施例1のXRDパターンを
図2に示す。すべてのピークは、層状LiCoO
2相に典型的なa=2.815Åおよびc=14.05Åの通常の格子パラメータを有する菱面体セルを用いて、R−3m空間群に帰属される。不純物相、すなわちコバルト系酸化物Co
3O
4およびCoOは観察されない。
【0081】
同様に、同じ構造モデルおよび類似の格子パラメータを使用してLCO−3、LCO−4、Ex3、およびEx4のXRDパターンを分析する。LiOHおよびLi
2CO
3などの表面塩基の含有量が多いが、LCO−1、LCO−3、およびLCO−4のXRDパターンは、そのような化合物が同定できず、それらの含有量がXRDの検出限界未満である、および/または表面塩基が非晶質の形態であることを示唆している。
【0082】
Ex2のXRDパターンを
図3に示す。層状LiCoO
2系酸化物(R−3m空間群)に帰属する主要ピークに加えて、強度の低いピークが観察され、これは約1.2重量%の量のコバルト系スピネル不純物の存在を示しており、これは0.990の目標Li:Coモル比と非常によく一致している。したがって、Ex2は、約99mol%Li化学量論的に制御されたLiCoO
2系材料、および約1mol%コバルトスピネル系不純物を含む。
【0083】
Ex3の場合、CoのAlによる均一な置換が、(c/(√24a)−1)×1000で定義される「換算」c/a比の増加することで確認され、その値は、LCO−3(Alなし)およびEx3(1mol%のAlを含有)でそれぞれ18.56および18.90である。LiCoO
2へのAlドーピングによるc/a比の増加は、他の研究(たとえば、Myung et al.,Solid State Ionics Volume 139,Issues 1−2,2 January 2001,Pages 47−56、およびGaudin et al.,J.Phys.Chem.B,2001,105,8081−8087)とよく一致している。
【0084】
Li塩不純物の分析
種々の材料の表面塩基および炭素の含有量を表2に示している。Ex1、Ex2、Ex3、およびEx4の場合、第2の焼成後に、LCO−1、LCO−3およびLCO−4よりも塩基および炭素の含有量が大きく減少している。この結果は、SEMによって示されるように、LCO−1、LCO−3、およびLCO−4の表面はLiOHおよびLi
2CO
3などの未反応の過剰のLi塩で部分的に覆われており、Ex1、Ex2、Ex3、およびEx4の表面にはそのような不純物がほとんど存在しないことを裏付けている。
【0085】
【表3】
【0086】
X線光電子分光(XPS)分析
LCO−1およびEx1の粒子表面の化学組成を、XPSによって調べた。フルスケールのXPSスペクトルを
図4aおよびbに示しており、LCO−1およびEx1の定量的結果を表3に示している。
【0087】
【表4】
【0088】
コバルト2pおよび3pのXPSピークを
図5に示す。スピン軌道結合によって、Co2pスペクトルが2つの成分2p
3/2および2P
1/2に分割され、強度比は約2:1である。各成分は780および795eVにおける主線に示され、配位子から金属への電荷移動サテライトピークが790および805eVに示されている。Co3pスペクトルも、それぞれ61および71eVにおける主線およびサテライトからなり;しかし3p
3/2および3P
1/2のエネルギー分裂は小さすぎるため観察されない。LCO−1およびEx1のCo2pおよびCo3pスペクトルは、LiCoO
2のCo
3+イオンが特徴的であり、粒子表面におけるCo
2+の存在を排除している。これらの観察はLiCoO
2に関する以前の研究(たとえば、Daheron et al.,J.Phys.Chem.C,2009,113,5843)と適合している。
【0089】
しかしXPS分析では、LCO−1およびEx1の粒子表面の化学組成の差を明確に示している:
リチウム1s、酸素1sおよび炭素1sのXPSスペクトルを、
図5(b)および(d)(Li1s)、ならびに
図6(a)および(c)(O1s)、ならびに
図6(b)および(d)(C1s)に示している。LCO−1ではLi
2CO
3からの強いピークが観察され、Li1s、O1sおよびC1sの特性結合エネルギーはそれぞれ55.7eV、532eV、および290.2eVを中心としている。Li
2CO
3はLCO−1粒子表面の26原子%を占めると推定される。これらの寄与はEx1には存在せず、粒子表面にリチウム塩がほとんど存在しないことを示唆している。
【0090】
50eV付近の良く分解されたMg2p XPSピークは、
図5dに示されるようにEx1の場合にのみ観察される。LCO−1およびEx1は、約0.005の同一のMg:Co比を特徴とするが、Ex1の表面で測定されるMg:Co比は約0.37であり、LCO−1よりも約2桁の増加を示している。MgO様の環境は、
図7(c)に示されるように300〜400eVの範囲で観察される典型的なMg KLLオージェ構造によって裏付けられる(Davoisne et al,Astronomy and Astrophysics,2008,482,541参照)。LCO−1表面にマグネシウムが存在しないことは、Mgが依然としてLCO−1の構造中にあることを示唆している。
【0091】
図7(a)および(b)は、両方のサンプルのそれぞれの458.5および464eVにおける2つの成分Ti2p
3/2およびTi2p
5/2を有するTi2pのXPSスペクトルを示している。これらの結合エネルギーは、6倍酸素環境におけるTi
4+の排他的存在と良く一致している(Tanaka et al.,Corrosion Science,2008,50,2111、およびEl Ouatani et al.,Journal of The Electrochemical Society,2009,156,A4687も参照されたい)。本発明の系におけるTi
4+の可能性のあるホスト構造はTiO
2およびLi
2TiO
3である。同様に、LCO−1およびEx1の表面で測定したTi:Co比は0.1付近であり、Ti:Coブレンド比(約0.0025)の40倍を超える。Ex1粒子の表面におけるTi量は、LCO−1よりもわずかに多い。
【0092】
粒子の深さの関数としてのMgおよびTiの展開を、
図8に示すようにXPS深さプロファイリングによって、Ex−1に関して監視した。MgおよびTiの濃度は、粒子の最初の50nmで急速に低下する。MgおよびTiの量は、予想されるように、長時間のエッチング後でさえも0まで減少しない。これはアルゴンイオンスパッタリングの副作用によるものであり、アルゴンイオンがサンプルの内側深くまで注入されるために、次の層の原子と強制的に混合される。Ex1のMgおよびTiの含有量がLCO−1よりも多いことと、深さプロファイリング実験とから、その場コーティング機構が示唆され、その機構によって、Li:Co平衡(第2の)焼成中に、MgおよびTiがコバルト酸リチウムバルク構造から放出され、LiCoO
2粒子表面に酸化形態で蓄積する。MgおよびTiのその場分離機構は、導電率測定によってさらに明らかとなるであろう。
【0093】
導電率
種々の材料の導電率表4に示す。
【0094】
【表5】
【0095】
Ex1〜4の導電率は、対応するリチウムドープされた酸化コバルトの親のLCO−1、LCO−3、およびLCO−4よりも3桁小さい。本発明者らの見解では、この低い導電率は2つの寄与によって得られる:
i)
7Li NMR(後述)によって示されるようなバルク構造欠陥の減少による、Li:Co=1.00であるLi化学量論的LiCoO
2のバンド絶縁特性の向上、および
ii)Ex1、Ex2、Ex3、およびEx4の第2の焼成中に得られる、LiCoO
2粒子への絶縁性Co、Mg、およびTi酸化物系化学種のその場コーティング。後者は、市販のMgO(Kyowa Chemicals)およびTiO
2(Cosmo Chemicals KA300)が非常に低い導電率、それぞれ測定すると10
−8S/cm未満および6.02×10
−7S/cmであることによって裏付けられる。コバルト系スピネル不純物を含有するEx2と関連して、Co
3O
4の導電率が10
−6S/cm未満であると一般に許容される。
【0096】
圧縮密度
親相および実施例の圧縮密度を測定し、結果を表5に示している。
【0097】
【表6】
【0098】
圧縮密度は次のように測定する:3グラムの粉末を直径「d」が1.300cmのプレス金型中に入れる。207MPaの圧力に相当する2.8tの一軸荷重を30秒間加える。荷重を除いた後、プレスされた粉末の厚さ「t」を測定する。続いてペレットを次のように計算する:3/(π×(d/2)
2×t)(単位g/cm
3)。
【0099】
すべての材料で非常に高い圧縮密度を特徴とし、平均粒度が6μmのLCO−4およびEx4では3.40g/cm
3を超え、平均粒度が15μmを超えるLCO−1、LCO−3、Ex1、Ex2、およびEx3では3.75g/cm
3を超える。Ex3の圧縮密度はLCO−3よりも0.1g/cm
3だけ増加しており、これは、18μmの粒子の充填によって得られる空隙に3μmの粒子が入ることができるためである。
図4は、Ex3の粒度の関数としての体積分布および累積体積分布の展開を示している。驚くべきことに、Ex3は、第2の焼成後にバイモーダル粒度分布を維持しており、2つの寄与の質量中心は約3μmおよび18μmである。2つのガウス関数を用いた実験データのフィッティングによって求められる3μmの寄与の体積分率は13%となり、3および18μmの粒子の初期の組成と良く一致している。第2の焼成で3および18μmの粒子の凝集は起こらず、(a)XPSによって前述のように明らかとなった粒子表面におけるMgおよびTi種の蓄積と、(b)「リチウムフラックス効果」による粒子のさらなる成長を抑制するリチウム化学量論の制御との2つの要因のいずれかまたは両方によって、凝集が防止されると考えられる。過剰のリチウム(最終Li:Co>1.01)を再焼成しMgおよびTiドーパントを使用せずにサンプルのバイモーダル分布を維持しようとする取り組みは失敗し、大きな粒子の凝集および合体が観察され、圧縮密度が大きく低下する。
【0100】
7Li MAS NMR
種々の実施例の
7Liマジック角回転核磁気共鳴(MAS NMR)スペクトルを、LCO−1は
図9に、Ex1は
図10に、Ex2は
図12に、LCO−3は
図13に、Ex3は
図14に、LCO−4は
図15に、Ex4は
図16に示している。
【0101】
2種類のパターンに区別可能である:
LCO−1、LCO−3、およびLCO−4は、複数の寄与を有する複雑な
7Li MAS NMRパターンを有する。約−0.5ppmを中心とする主要な反磁性寄与および関連するスピニングサイドバンドに加えて、LCO−1のスペクトルは、約185ppm、5ppm、−7ppm、および−16ppmにおける複数の常磁性寄与を特徴とし、リチウムイオンに対して数種類の異なる常磁性電子スピン金属環境を示している。
【0102】
他方、Ex1、Ex2、Ex3、およびEx4は、−0.5ppm±0.25ppmを中心とする唯一のLi共鳴および関連のスピニングサイドバンドを特徴とする。
【0103】
−0.5ppmを中心とする鋭いピークは、文献(Levasseur et al.,Solid State Ionics 2000,128,11参照)に報告されるように三価反磁性Co
3+(t
2g6e
g0)イオンのみがリチウムイオンを取り囲むために得られる。したがって反磁性三価金属イオンによってのみ取り囲まれる唯一のLi部位が、Ex1、Ex2、Ex3、およびEx4で観察される。
【0104】
LCO−1、LCO−3、およびLCO−4に関しては、約185ppm、5ppm、−7ppm、−16ppm、および−40ppmにおけるさらなる常磁性寄与が、以下の2つの主な寄与によって生じる構造欠陥により得られ:
S.Levasseur,Chem.Mater.2003,15,348−354に記載されるように、層状リチウムコバルト系酸化物のリチウムの過剰リチオ化が生じると、局所的な電荷保存のために、酸素欠乏が存在すると好都合であり、それによってCo
3+イオンが四角錐を占有し、中間常磁性スピン状態の構成を有し、e
g軌道中に不対電子が生じ、さらに
ドーパントの効果によって、異なるスピンおよび原子価状態のコバルトイオンが存在するようになる。たとえば、最近の研究では、LiCoO
2中のCo
3+がMg
2+で置換されて、実質的な酸素欠乏が生じることが示されている(Wenbin Luo et al.,J.Electrochem.Soc.,2010,157,782参照)。同様に、この酸素欠乏は、常磁性中間スピン状態Co
3+イオンの存在が好都合となる。局所的電荷保存の理由で、CoがTiで置換されて、Ti
3+常磁性不純物、またはTi
4+原子価状態が存在する場合のCo
2+常磁性不純物のいずれかが誘導されることも妥当な想定となりうる。
【0105】
Ex2の
7Li MAS NMRスペクトルは、スピネル型不純物が存在するにもかかわらず、−0.5ppm付近で唯一の共鳴を依然として特徴とする。この特性は、Ex2は、Li:Co=0.99を目標としたが、化学量論的に制御されたLiCoO
2を含み、そこでLiイオンが、周囲の三価の反磁性金属と、粒子表面に最も存在すると思われるリチウムを含有しないスピネル不純物とに適応することを明確に示している。
【0106】
さらに、Co
3+のAl
3+による置換は、どちらも三価の反磁性金属イオンであり、Ex3の
7Li MAS NMR信号を変調させず、−0.5ppm付近の唯一の共鳴が保存され、リチウムイオンが、三価の反磁性金属のみで取り囲まれる唯一の場所を占有することを明確に示している。同様に、この発見は、Al
3+、Ga
3+、およびB
3+などの三価の反磁性金属によるCo
3+イオンの置換にも拡張することができ、Li化学量論のLiCo
1−aM’
aO
2(M’=Al、B、およびGa)の
7Li MAS NMR信号の変調は起こらない。
【0107】
構造欠陥が相対的に存在しないことは、表6に示されるようにT1スピン格子緩和時間を測定することでさらに特徴付けられる。LCO−1、LCO−2、およびLCO−4のT1値は測定されず、数種類のスピン格子緩和機構のために正確に測定できない。しかしそれぞれ個別の機構の特徴的緩和時間は0.1s未満である。他方、Ex1〜4のT1値は、
図11に示されるように磁化回復の単一指数フィットによって首尾良く求められる。
【0108】
7Li MAS NMRへの単一の寄与と、より長いT1値との両方によって、Ex1、Ex2、Ex3、およびEx4における構造欠陥の濃度が、LCO−1、LCO−3、およびLCO−4よりも低いことが示される。
【0109】
【表7】
【0110】
結論として、
7Li MAS NMR、XPS分析、および導電率によって、低スピンのCo
3+(t
2g6e
g0)およびAl
3+などの三価の反磁性金属で取り囲まれた1つの場所をLiが占有するLi化学量論が制御されたコアと、Mg、Ti、Si、Co、およびLiを含む無機金属酸化物を含む電子絶縁性表面とを含む、Ex1、Ex2、Ex3、およびEx4の材料の構造を明確に表すことができる。
【0111】
電気化学的性能
実施例1〜4の電気化学的性能を表7に示す。予期せぬことに、電気化学的性質は、LCO−1、LCO−3、およびLCO−4よりも改善される。4.3Vにおいて、Ex1、Ex2、Ex3、およびEx4は、非常に小さい不可逆容量を示し、LCO−1、LCO−3、およびLCO−4よりも良好なレート性能を示す。Ex1、Ex2、Ex3、およびEx4の4.5Vの高電圧性能が向上し、非常に高い容量および非常に良好なサイクル寿命を特徴とする。Ex1、Ex2、Ex3、およびEx4の4.6Vの性能は、1Cにおける40%未満の容量低下が例外的であり、本発明者らの知る限りでは、文献に匹敵するものはない。これらのデータは、
7Li MAS NMRによって示される比較的低い欠陥濃度と、化学量論的に制御されたLiCo
1−xM
xO
2の改善された高電圧特性との間で完全な相関を示している。
【0112】
4.5Vおよび4.6Vの場合の0.1CにおけるEx1、Ex2、Ex3のおよびEx4のエネルギー密度は、圧縮密度、平均電圧、および放電容量の積で定義され、それぞれLCO−1、LCO−2、およびLCO−3と比較して向上している。高エネルギー密度と改善されたサイクル寿命とが結び付いたことで、Ex1、Ex2、Ex3、およびEx4は、携帯型エレクトロニクスなどの用途に好適となる。Ex4の容量低下は、LCO−4と比較して顕著に改善されているが、Ex1、Ex2、およびEx3よりは大きいことに注目される。この作用は、Ex4の粒度が低いことの直接的な結果であり、加えられたMgおよびTiの量はすべてのサンプルで同様であるため、粒度が低いと表面層が薄くなり、電解質分解に対する保護が不十分になる。
【0113】
【表8】
【0114】
表8は、Ex4およびLCO−4の4.4Vにおける放電容量、Cレート性能、および平均電圧を示している。15Cにおいて、Ex4のCレートおよび平均電圧はLCO−4よりも改善され、その結果、平均放電電圧と放電容量との積で定義される比エネルギーEsが約4%増加している。改善されたサイクル寿命および比エネルギーを特徴とするEx4は、高Cレートにおける高い比エネルギーの維持が必要な高出力用途に非常に好適である。
【0115】
【表9】