特許第5905086号(P5905086)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5905086コア材料の元素と1種類以上の金属酸化物との混合物でコーティングされたリチウム金属酸化物粒子
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5905086
(24)【登録日】2016年3月25日
(45)【発行日】2016年4月20日
(54)【発明の名称】コア材料の元素と1種類以上の金属酸化物との混合物でコーティングされたリチウム金属酸化物粒子
(51)【国際特許分類】
   C01G 51/00 20060101AFI20160407BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20160407BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20160407BHJP
【FI】
   C01G51/00 A
   H01M4/525
   H01M4/36 C
【請求項の数】35
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2014-513995(P2014-513995)
(86)(22)【出願日】2012年5月29日
(65)【公表番号】特表2014-523840(P2014-523840A)
(43)【公表日】2014年9月18日
(86)【国際出願番号】EP2012059986
(87)【国際公開番号】WO2012171780
(87)【国際公開日】20121220
【審査請求日】2013年12月6日
(31)【優先権主張番号】61/498,038
(32)【優先日】2011年6月17日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マキシム・ブランジェロ
(72)【発明者】
【氏名】キュボ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ヒュン−ジョ・ジェ
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−524204(JP,A)
【文献】 特開2008−311132(JP,A)
【文献】 特開2006−331943(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/052712(WO,A1)
【文献】 特開2007−258095(JP,A)
【文献】 特開2003−221234(JP,A)
【文献】 特表2010−532075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G25/00−47/00,49/10−99/00
H01M4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電池中のカソード材料と使用するためのリチウム金属酸化物粉末であって、コア材料および表面層からなり、前記コアが、Li、金属M、および酸素の元素からなる層状結晶構造を有し、前記Liの含有量が化学量論的に制御され、前記金属Mが式M=Co1−aM’(式中、0≦a≦0.05であり、M’は、Al、Ga、およびBからなる群のいずれか1種類以上の金属である)で表され;前記表面層は、前記コア材料の前記元素および無機N系酸化物の混合物からなり、NがMgおよびTiからなり、前記Mgの含有量が0.1〜1mol%の間であり、前記Tiの含有量が0.1〜0.5mol%の間であるリチウム金属酸化物粉末。
【請求項2】
0<a≦0.05である、請求項1に記載のリチウム金属酸化物粉末。
【請求項3】
0<a≦0.03である、請求項1に記載のリチウム金属酸化物粉末。
【請求項4】
平均粒度D50が少なくとも5μmである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のリチウム金属酸化物粉末。
【請求項5】
前記表面層の厚さが100nm未満である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のリチウム金属酸化物粉末。
【請求項6】
前記表面層が、2000ppm未満のLiF、LiPO、およびLiSOのいずれか1種類以上をさらに含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載のリチウム金属酸化物粉末。
【請求項7】
前記コア中の前記金属が反磁性である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のリチウム金属酸化物粉末。
【請求項8】
前記コアのLiが、三価の反磁性金属で取り囲まれた結晶学的位置を占有する、請求項7に記載のリチウム金属酸化物粉末。
【請求項9】
圧縮密度が少なくとも3.40g/cmである、請求項1〜8のいずれか一項に記載のリチウム金属酸化物粉末。
【請求項10】
0.1Cの放電率で、25℃において、Li/Liに対して3.0〜4.6Vの間でサイクルされるカソード中の活物質成分として使用される場合に、可逆電極容量が少なくとも200mAh/gとなる、請求項1〜9のいずれか一項に記載のリチウム金属酸化物粉末。
【請求項11】
1Cレート容量低下値が60%未満である、請求項10に記載のリチウム金属酸化物粉末。
【請求項12】
全塩基含有量が50μmol/g未満である、請求項1〜11のいずれか一項に記載のリチウム金属酸化物粉末。
【請求項13】
炭素含有量が50ppm未満である、請求項1〜12のいずれか一項に記載のリチウム金属酸化物粉末。
【請求項14】
導電率が10−4S/cm未満である、請求項1〜13のいずれか一項に記載のリチウム金属酸化物粉末。
【請求項15】
導電率が10−5S/cm未満である、請求項1〜14のいずれか一項に記載のリチウム金属酸化物粉末。
【請求項16】
前記表面層がリチウム塩を含有しない、請求項1〜15のいずれか一項に記載のリチウム金属酸化物粉末。
【請求項17】
モノリスでジャガイモ型で非凝集の粒子からなる、請求項1〜16のいずれか一項に記載のリチウム金属酸化物粉末。
【請求項18】
前記粉末がバイモーダル粒子形状分布を有し、小さな粒度分画がD50≦5μmであって、3〜20体積%の間であり、大きな粒度分画がD50≧12μmである、請求項1〜17のいずれか一項に記載のリチウム金属酸化物粉末。
【請求項19】
前記コア材料が、酸素空孔と、前記層状結晶構造のMO層中のMのLiによる置換とを有さない、請求項1〜18のいずれか一項に記載のリチウム金属酸化物粉末。
【請求項20】
前記コア材料が、常磁性金属を含有しない、請求項1〜19のいずれか一項に記載のリチウム金属酸化物粉末。
【請求項21】
リチウム金属酸化物粉末の製造方法であって、金属Mが式M=Co1−aM’(式中、0≦a≦0.05であり、M’は、Al、Ga、およびBからなる群のいずれか1種類以上の金属である)で表され:
−第1のCoまたはCoおよびM’を含む前駆体粉末と、第1のLiを含む前駆体粉末との第1の混合物を提供するステップであって、前記第1の混合物のLi対金属のモル比が>1.01であるステップと、
−前記第1の混合物を、酸素を含む雰囲気中、少なくとも600℃の温度Tで焼結させることによって、Liに富むリチウム金属酸化物化合物を得るステップと、
−第2のCoまたはCoおよびM’を含む前駆体粉末を提供するステップと、
−前記Liに富むリチウム金属酸化物化合物と、前記第2のCoまたはCoおよびM’を含む前駆体粉末とを混合することによって、第2の混合物を得るステップであって、Li対金属のモル比が1.00±0.01であるステップと、
−前記第2の混合物を、酸素を含む雰囲気中、少なくとも600℃の温度Tで焼結させるステップとを含む、方法。
【請求項22】
前記第2の混合物を焼結させるステップは、導電率が10−5S/cm未満であるリチウム金属酸化物粉末を生成する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
コア材料および表面層からなるリチウム金属酸化物粉末の製造方法であって、前記コア材料が、Li、金属M、および酸素の元素からなる層状結晶構造を有し、前記Liの含有量が化学量論的に制御され、前記金属Mが式M=Co1−aM’(式中、0≦a≦0.05であり、M’は、Al、Ga、およびBからなる群のいずれか1種類以上の金属である)で表され;前記表面層は、前記コア材料の前記元素および無機N系酸化物の混合物からなり、Nが、Mg、Ti、Fe、Cu、Ca、Ba、Y、Sn、Sb、Na、Zn、Zr、およびSiからなる群のいずれか1種類以上の金属であり:
−第1のCoまたはCoおよびM’を含む前駆体粉末と、第1のLiを含む前駆体粉末との第1の混合物を提供するステップであって、前記第1の混合物のLi対金属のモル比が>1.01であるステップと、
−前記第1の混合物を、酸素を含む雰囲気中、少なくとも600℃の温度Tで焼結させることによって、Liに富むリチウム金属酸化物化合物を得るステップと、
−第2のCoまたはCoおよびM’を含む前駆体粉末を提供するステップと、
−前記Liに富むリチウム金属酸化物化合物と、前記第2のCoまたはCoおよびM’を含む前駆体粉末とを混合することによって、第2の混合物を得るステップであって、Li対金属のモル比が1.00±0.01であるステップと、
−前記第2の混合物を、酸素を含む雰囲気中、少なくとも600℃の温度Tで焼結させるステップとを含み;
前記第1のCoまたはCoおよびM’を含む前駆体粉末、前記第1のLiを含む前駆体粉末、ならびに前記第2のCoまたはCoおよびM’を含む前駆体粉末のいずれか1つ以上が、Mg、Ti、Fe、Cu、Ca、Ba、Y、Sn、Sb、Na、Zn、Zr、およびSiからなる群の少なくとも1種類の元素をさらに含む、方法。
【請求項24】
前記第2のCoまたはCoおよびM’を含む前駆体粉末が、Mg、Ti、Fe、Cu、Ca、Ba、Y、Sn、Sb、Na、Zn、Zr、およびSiからなる群からの1種類の元素を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
第2のCoまたはCoおよびM’を含む前駆体粉末を提供する前記ステップが:
−第3のCoまたはCoおよびM’を含む前駆体粉末を提供するサブステップと、
−第2のLiを含む前駆体粉末を提供するサブステップと、
−Li対金属のモル比が0.9未満となる前記第2のCoまたはCoおよびM’を含む前駆体粉末が得られるような量で、前記第3のCoまたはCoおよびM’を含む前駆体粉末と、前記第2のLiを含む前駆体粉末とを混合するサブステップとを含む、請求項21または23に記載の方法。
【請求項26】
前記第1の混合物のLi対金属のモル比が1.02〜1.12の間である、請求項2125のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記第2のCoまたはCoおよびM’を含む前駆体粉末中のCoまたはCoおよびM’の、前記Liに富むリチウム金属酸化物化合物中の前記金属に対するモル比が、0.1:1〜30.0:1の間である、請求項2126のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
における前記焼成ステップおよびTにおける前記焼成ステップのそれぞれが、6〜24時間の間の時間で行われる、請求項2127のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記第3のCoまたはCoおよびM’を含む前駆体粉末がリチウムを含有しない、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
前記第1のCoまたはCoおよびM’を含む前駆体粉末および前記第1のLiを含む前駆体粉末のいずれか一方または両方が炭素をさらに含み、前記Liに富むリチウム金属酸化物化合物の炭素含有量が少なくとも50ppmである、請求項21または23に記載の方法。
【請求項31】
a=0であり、前記第1および前記第2のCoを含む前駆体粉末が、酸化コバルト、オキシ水酸化コバルト、水酸化コバルト、炭酸コバルト、およびシュウ酸コバルトからなる群のいずれか1つである、請求項21または23に記載の方法。
【請求項32】
a=0であり、前記第1および前記第3のCoを含む前駆体粉末が、酸化コバルト、オキシ水酸化コバルト、水酸化コバルト、炭酸コバルト、およびシュウ酸コバルトからなる群のいずれか1つである、請求項25に記載の方法。
【請求項33】
前記第1のCoまたはCoおよびM’を含む前駆体粉末、前記第1のLiを含む前駆体粉末、ならびに前記第2のCoまたはCoおよびM’を含む前駆体粉末のいずれか1つ以上が、F、P、およびSのいずれか1つ以上をさらに含み;前記表面層が、2000ppm未満のLiF、LiPO、およびLiSOのいずれか1つ以上をさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項34】
前記Liに富むリチウム金属酸化物と、前記第2のCoまたはCoおよびM’を含む前駆体粉末との平均粒度の比が、少なくとも3:1である、請求項2133のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
請求項1〜20のいずれか一項に記載のリチウム金属酸化物粉末の、電気化学セル中のカソードとしての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学量論的に制御されたリチウム含有量を有するコアと電子絶縁性表面とを有する高電圧安定性で高密度のリチウム金属酸化物粉末状化合物に関する。これらの化合物は、改善された高電圧電気化学的な性能および改善されたエネルギー密度を得るためにMg、Ti、およびAlなどの周知の元素を含むことができる。これらの材料の製造方法も開示される。本発明のリチウム遷移金属酸化物粉末は、再充電可能なリチウム電池中のカソード活物質として使用することができる。
【背景技術】
【0002】
高いエネルギー密度のため、再充電可能なリチウム電池およびリチウムイオン電池は、携帯電話、ラップトップ型コンピュータ、デジタルカメラ、およびビデオカメラなどの種々の携帯型エレクトロニクス用途において使用できる。市販のリチウムイオン電池は、通常、黒鉛系アノードと、LiCoO系カソード材料とからなる。今日の家庭用エレクトロニクスでは、より高いエネルギー密度を有する蓄電池が要求されるので、より要求の厳しい最終用途のために比容量が増加したLiCoO系材料への関心が高まっている。
【0003】
エネルギー密度を改善するための2つの一般的な方法は、(a)より高い電圧で充電可能となるより堅牢なカソード材料が必要とされる、コインセルに取り付けた場合のLi金属に対して典型的には4.5Vまたはさらには4.6V、およびフルセルに取り付けた黒鉛に対して4.35Vおよび4.4Vに充電電圧を増加させる方法、ならびに(b)粉末粒子の粒度を増加させることが必要な充填密度を増加させる方法である。しかしこれら2つの方法の工業的応用範囲は、副次的な問題によって制限される。他方、充電電圧を増加させると、電極の挙動が不安定になり、その結果カソードが劣化して電解質の分解につながる。リチウムがLiCoO(x<1)から除去されると、Co3+から不安定な酸化状態Co4+への酸化が起こる。充電電圧が高いほど、Co4+量が増加する。Co4+濃度が高いと、電解質と充電されたカソードとの間での望ましくない副反応が増加する。これらの副反応によって、安全性が低下し、高電圧でのサイクル安定性が不十分となり、高温で充電されたカソードの貯蔵特性が不十分となる。他方、充填密度を増加させるために粒度を増加させると、蓄電池の出力能力が低下する。出力の要求を満たすためには、全体としての電池および特にカソード活物質自体が、十分に高いレート性能を有する必要がある。平均粒度が増加すると、固体リチウム拡散長が減少し、それによって最終的にレート性能が低下する。
【0004】
カソード材料に関して公開されている結果を注意深く検討すると、LiCoO系の再充電可能なリチウム電池の制限をより良く理解することができる。最先端のLiCoO系材料開発における根本的な限界は、Li過剰と粒度とのジレンマにある。国際公開第2010−139404号パンフレットにおいて、著者らは、最先端のMgおよびTiでドープされたLiCoOの調製に使用される充填密度、平均粒度、およびリチウム過剰の間の関係を説明している。要約すると、充填密度が高いほど、粒度が大きくなり、Liがより過剰となり、これはLi:Co>>1.00と表され、通常、合成に使用される場合Li:Coは約1.05である。この機構は、いわゆる「リチウムフラックス効果」に基づいており、その場合、Li過剰は、LiCoO粒子の成長を促進するフラックスとして機能し、それによって最終的に充填密度が増加する。通常、18μmの粒子の場合に約3.70g/cmの充填密度が達成される。著者らは、高い圧縮密度が好ましく、モノリスで、ジャガイモ型で、凝集していない一次LiCoO粒子が得られることも強調している。しかし、より大きなモノリス粒子を得るためにLi:Co過剰を大きくすることで、電気化学的性能が不十分となり、より低いCレートおよびより低い放電容量が得られ、そのため、粒度の増加によって得られるエネルギー密度の増加が相殺される。このような大きなLi:Co値ではpH、遊離塩基含有量、および炭素含有量も増加し、充電されたカソードの安全性、貯蔵性、および膨れ特性が低下する。Levasseurは、Chem.Mater.,2002,14,3584−3590において、Li MAS NMRによって示される構造欠陥濃度の増加と、Li:Co過剰の増加との間に明確な関係があることを立証している。
【0005】
結果として、現在最先端の合成では、Li:Co過剰の少ない緻密なモノリスLiCoO系粒子を実現することができない。部分的な改善は達成されているが、上記の基本的な問題はまだ十分に解決されていない。したがって、より高い電圧で実際のセル中で安定な方法でサイクルを行うことができる高容量のLiCoO系カソードの必要性は明確である。
【0006】
従来技術においては、この問題に対処するためのいくつかの方法が提案されている。高電圧安定性を実現するために、LiCoO材料は、通常、コーティング(たとえばAlによる)またはその他の化学改質(たとえばフッ素化表面の形成によって)が行われる。問題の1つは、コーティングされた緻密なLiCoOは可逆容量が低い場合が多く、そのため、より高い電圧に充電することによるエネルギー密度の増加の一部は、固有の低い容量によって打ち消されることである。この効果は、酸化アルミニウム保護コーティングおよびLiF保護コーティングの場合に確認されることがあるが、ZrO、AlPOなどの他のコーティング方法の場合でも類似の効果が確認される。
【0007】
文献をさらに検討すると、高電圧安定性を実現するためにはコーティングは全く不要となりうることが分かる。たとえばChenおよびDahn(Electrochem.Solid−State Lett.,Volume 7,Issue 1,pp.A11−A14(2004))は、Li金属アノードを有するコインセルで試験した場合に、新しく調製したLiCoOが、4.5Vにおいて安定な方法でサイクル可能であることを報告している。このような方法は、コインセルの場合には正しい場合があるが、実際の商業的なセルではその効果が再現できない。これらの結果は、公開から数年後の現在、特殊な処理が行われ純粋ではないLiCoOが高電圧用途で商業的に販売されていることで確認されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
現在、高電圧性能につながる他の方法は知られていない。本発明の目的の1つは、高充填密度、高レート性能、改善された放電容量を有し、高性能二次電池用途で高充電電圧で長期間のサイクル中に高い安定性を示すカソード材料を見いだすことである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の態様から見ると、本発明は、蓄電池中のカソード材料として使用するためのリチウム金属酸化物粉末であって、Li、金属M、および酸素の元素からなるコア材料であって、Li含有量が化学量論的に制御され、金属Mが式M=Co1−aM’(式中、0≦a≦0.05、好ましくは0≦a≦0.01であり、M’は、Al、Ga、およびBからなる群のいずれか1種類以上の金属である)で表されるコア材料と;コア材料の元素および無機N酸化物粒子の混合物からなる表面層であって、Nが、Mg、Ti、Fe、Cu、Ca、Ba、Y、Sn、Sb、Na、Zn、Zr、およびSiからなる群のいずれか1種類以上の金属である表面層とからなる、リチウム金属酸化物粉末を提供することができる。Li含有量が化学量論的に制御されるとは、割合Li/M=1.00±0.01であることを意味する。
【0010】
コアは層状構造であり(リチウムコバルタイト(lithium cobaltite)は、コバルト原子および酸素原子によって形成された八面体のスラブまたは層の間にあるリチウムの複数の層からなることが知られている)、層状結晶構造のMO層中に酸素空孔およびMのLiによる置換が実質的に存在しない場合がある。また、コア材料は、Co2+ならびに中間スピンCo3+およびCo4+などの常磁性金属を実質的に含有しない場合がある。M中のすべての金属は、反磁性および三価であってよい。したがってコア中のLiは、三価で反磁性の金属で取り囲まれた結晶学的位置を占めることができる。表面層の厚さは、平均粒度D50の0.008倍未満であってよい。
【0011】
一実施形態においては、本発明の粉末は、一般式LiCo1−a−bM’M”(式中、0<a≦0.05および0≦b≦0.02であり、M’は、Al、Mg、Ti、Fe、Cu、Ca、Ba、Y、B、Sn、Sb、Na、Ga、Znの群からのいずれか1種類以上の元素を含み;M”は、F、P、S、Zrの群からのいずれか1種類以上の元素含む)で表される。元素F、P、およびSは、LiF、LiPO、およびLiSOの形態で表面上に存在することができる。別の一実施形態においては、リチウム金属酸化物粉末の表面におけるM’およびM”の濃度は、粉末全体のM’およびM”の濃度の少なくとも5倍である。さらに別の一実施形態においては、M’はAl、Mg、およびTiからなり、Al含有量は0.1〜1mol%の間であり、Mg含有量は0.1〜1mol%の間であり、Ti含有量は0.1〜0.5mol%の間である。異なる実施形態のリチウム金属酸化物粉末は、平均粒度D50が少なくとも5μm、好ましくは少なくとも8μm、より好ましくは少なくとも12μmであってよい。一実施形態においては、粉末の平均粒度D50は少なくとも15μmである。
【0012】
一実施形態においては、本発明の粉末は、1つのLiの寄与が−0.5ppm付近を中心とすることを特徴とするLi MAS NMRスペクトルを有し、本発明の粉末は、カソード中の活物質成分として使用し、0.1C、好ましくは1Cの放電率で25℃において、Li/Liに対して3.0〜4.6Vの間でサイクルを行った場合に、少なくとも200mAh/g、好ましくは210mAh/gおよび最も好ましくは215mAh/gの可逆電極容量を有する。このリチウム金属酸化物粉末は1Cレート容量低下が60%未満、好ましくは40%未満、最も好ましくは30%未満となることができる。本発明のリチウム金属酸化物粉末は、1C容量低下が60%、好ましくは40%未満、最も好ましくは30%未満となることもできる。
【0013】
別の一実施形態においては、リチウム金属酸化物粉末は、スピン格子緩和時間T1が少なくとも500ms、好ましくは少なくとも750ms、最も好ましくは少なくとも900msである。本発明のリチウム金属酸化物粉末は、50μmol/g未満、好ましくは25μmol/g未満、より好ましくは15μmol/g未満の全塩基含有量を有することもできる。一実施形態においては、リチウム金属酸化物粉末の炭素含有量は50ppm未満、好ましくは<35ppm、より好ましくは≦25ppmであってよい。別の一実施形態においては、リチウム金属酸化物粉末は10−4S/cm未満の導電率を有することができる。
【0014】
本発明のリチウム金属酸化物粉末は、一般式LiCo1−a(式中、0<a≦0.05、好ましくは0<a≦0.01であり、Mは、Al、B、およびGaの群からのいずれか1種類以上の元素を含む)で表される化学量論化合物を少なくとも97mol%含むことができる。
【0015】
さらに別の一実施形態においては、リチウム金属系粉末は、小さな粒度分画および大きな粒度分画を有するバイモーダル粒子形状分布を有し、小さな粒度分画はD50≦5μmであり3〜20体積%の間であり、大きな粒度分画はD50≧12μm、好ましくはD50≧15μmである。
【0016】
第2の態様から見ると、本発明は、リチウム金属酸化物粉末の製造方法であって、金属Mが、式M=Co1−aM’(式中、0≦a≦0.05、好ましくは0≦a≦0.01であり、M’は、Al、Ga、およびBからなる群のいずれか1種類以上の金属である)で表され:
−第1のMを含む前駆体粉末および第1のLiを含む前駆体粉末からなる第1の混合物を提供するステップであって、第1の混合物のLi対金属のモル比が>1.01であるステップと、
−第1の混合物を、酸素を含む雰囲気中、少なくとも600℃の温度Tで焼結させることによって、Liに富むリチウム金属酸化物化合物を得るステップであって、金属がMであるステップと;
−第2のMを含む前駆体粉末を提供するステップと、
−Liに富むリチウム金属酸化物化合物および第2のMを含む前駆体粉末を混合することによって、第2の混合物を得るステップと、
第2の混合物を、酸素を含む雰囲気中、少なくとも600℃の温度Tで焼結させるステップとを含む方法を提供することができる。「Liに富む」は、LiMO化合物中の化学量論量よりもLi含有量が多いことを意味する。
【0017】
一実施形態においては、リチウム金属酸化物粉末の製造方法であって、金属Mが式M=Co1−aM’(式中、0≦a≦0.05、好ましくは0≦a≦0.01であり、M’は、Al、Ga、およびBからなる群のいずれか1種類以上の金属である)で表される、方法は:
−第1のCoを含むまたはCoおよびM’を含む前駆体粉末と、第1のLiを含む前駆体粉末とからなる第1の混合物を提供するステップであって、第1の混合物のLi対金属のモル比が>1.01であるステップと、
−第1の混合物を、酸素を含む雰囲気中、少なくとも600℃の温度Tで焼結させることによって、Liに富むリチウム金属酸化物化合物を得るステップと、
−第2のCoまたはCoおよびM’を含む前駆体粉末を提供するステップと、
−Liに富むリチウム金属酸化物化合物と、第2のCoまたはCoおよびM’を含む前駆体粉末とを混合することによって、第2の混合物を得るステップであって、Li対金属のモル比が1.00±0.01であるステップと、
−第2の混合物を、酸素を含む雰囲気中、少なくとも600℃の温度Tで焼結させるステップとを含む。この方法において、Liに富むリチウム金属酸化物化合物のLi対金属のモル比は、最終的なLi対金属比(第2の混合物)が1.00±0.01となるように第2の混合物中で混合すべき第2のCoまたはCoおよびM’を含む前駆体粉末の量を求めるために使用される。
【0018】
別の一実施形態においては、コア材料および表面層からなるリチウム金属酸化物粉末の製造方法であって、コア材料が、Li、金属M、および酸素の元素からなる層状結晶構造を有し、Li含有量が化学量論的に制御され、金属Mは式M=Co1−aM’(式中、0≦a≦0.05、好ましくは0≦a≦0.01であり、M’は、Al、GaおよびBからなる群のいずれか1種類以上の金属である)で表され;表面層は、コア材料の元素および無機N系酸化物の混合物からなり、Nは、Mg、Ti、Fe、Cu、Ca、Ba、Y、Sn、Sb、Na、Zn、Zr、およびSiからなる群のいずれか1種類以上の金属である、方法は:
−第1のCoまたはCoおよびM’を含む前駆体粉末と、第1のLiを含む前駆体粉末との第1の混合物を提供するステップであって、第1の混合物のLi対金属のモル比が>1.01であるステップと、
−第1の混合物を、酸素を含む雰囲気中、少なくとも600℃の温度Tで焼結させることによって、Liに富むリチウム金属酸化物化合物を得るステップであって、金属がMであるステップと;
−第2のCoまたはCoおよびM’を含む前駆体粉末を提供するステップと、
−Liに富むリチウム金属酸化物化合物と、第2のCoまたはCoおよびM’を含む前駆体粉末とを混合することによって、第2の混合物を得るステップであって、Li対金属のモル比が1.00±0.01であるステップと、
−第2の混合物を、酸素を含む雰囲気中、少なくとも600℃の温度Tで焼結させるステップとを含み;
第1のCoまたはCoおよびM’を含む前駆体粉末と、第1のLiを含む前駆体粉末と、第2のCoまたはCoおよびM’を含む前駆体粉末とのいずれか1つ以上が、Mg、Ti、Fe、Cu、Ca、Ba、Y、Sn、Sb、Na、Zn、Zr、およびSiからなる群の少なくとも1種類の元素をさらに含む。CoおよびM’を含む前駆体が、少なくとも1種類のNドーパントをさらに含むと言及することによって、この粉末が、たとえばCoおよびAlなどの化合物の混合物と、TiOおよびMgOなどのN前駆体とからなることを意味することもできる。同様に、Liを含む前駆体は、たとえばLiCOおよびTiOおよびMgOの混合物であってよい。
【0019】
別の一実施形態においては、第2のCoまたはCoおよびM’を含む前駆体粉末を提供するステップは:
−第3のCoまたはCoおよびM’を含む前駆体粉末を提供するサブステップと、
−第2のLiを含む前駆体粉末を提供するサブステップと、
−Li対金属のモル比が0.9未満、好ましくは0.7未満となる第2のCoまたはCoおよびM’を含む前駆体粉末が得られるような量で、第3のCoまたはCoおよびM’を含む前駆体粉末と、第2のLi含む前駆体粉末とを混合するサブステップとを含む。第2のLiを含む前駆体粉末は炭酸リチウム粉末であってよい。第3のCoまたはCoおよびM’を含む前駆体粉末はリチウムを含まなくてよい。
【0020】
上記実施形態において、第1および第2のCoまたはCoおよびM’を含む前駆体は、同じ「M前駆体」化合物であってよい。a=0の場合、M=Coであり、M’は存在しない。その場合、前述のそれぞれのCoを含む前駆体粉末でa>0であれば;第1、第2、および第3のCoを含む前駆体粉末は、酸化コバルト、オキシ水酸化コバルト、水酸化コバルト、炭酸コバルト、およびシュウ酸コバルトからなる群のいずれか1つであってよい。一実施形態においては、第1、第2、および第3のCoを含む前駆体粉末は、Ti、Mg、F、Zr、およびCaからなる群の少なくとも1種類の元素をさらに含む。
【0021】
別の一実施形態においては、前述の方法において、Liに富むリチウム金属酸化物と、第2のCoまたはCoおよびM’を含む前駆体粉末との平均粒度の比が、少なくとも3:1、好ましくは少なくとも4:1および最も好ましくは少なくとも5:1である。Liに富むリチウム金属酸化物の粒子と、第2のMを含む前駆体粉末とは、第2の焼成後にバイモーダル粒度分布を維持する。さらに別の一実施形態においては、バイモーダル粒度粉末圧縮密度は、Liに富むリチウム金属酸化物の圧縮密度よりも少なくとも0.1g/cm高い。
【0022】
第3の態様から見ると、本発明は、電気化学セル中のカソードとしての前述のリチウム金属酸化物粉末の使用を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】従来技術のLiCoOおよび本発明による材料の両方の10000倍の倍率におけるSEM画像である。
図2】LCO−1および実施例1のXRDパターンである。回折強度は、度の単位での2θの関数としての対数目盛でプロットされる。
図3】XRDパターン実施例2。回折強度は、度の単位での2θの関数としての対数目盛りでプロットされる。アスタリスクの付いたピークは、コバルトを主成分とするスピネル不純物の存在を示している(Co、Fd−3m空間群に帰属し、a=8.085Å)。
図4】Ex3の粒度の関数としての体積分布(破線、左側の目盛)および累積体積分布(実線、右側の目盛)の展開である。
図4a】LCO−1のフルスケールのXPSスペクトル(10000カウント/秒対結合エネルギー(eV))である。
図4b】Ex1のフルスケールのXPSスペクトル(10000カウント/秒対結合エネルギー(eV))である。
図5a】LCO−1のCo2pのXPSピークである。
図5b】LCO−1のCo3p、Li1s、およびMg2pのピークである。
図5c】Ex1のCo2pのXPSピークである。
図5d】Ex1のCo3p、Li1s、およびMg2pのピークである。
図6a】LCO−1のO1sのXPSピークである。
図6b】LCO−1のC1sのXPSピークである。285.5eVにおけるピークは、炭化水素表面汚染に対応する。
図6c】Ex1のO1sのXPSピークである。
図6d】Ex1のC1sのXPSピークである。285.5eVにおけるピークは、炭化水素表面汚染に対応する。
図7a】LCO−1のTi2pのXPSピークである。
図7b】Ex1のTi2pのXPSピークである。
図7c】Ex1のMgのKLLオージェスペクトルである。
図8】Ta基準物質を用いて規格化したエッチング深さの関数としてのEx1のMg、Ti、およびSiの原子パーセント値の展開である。
図9】a)フルスケールおよびb)50倍に拡大した強度スケールにおけるLCO−1のLi MAS NMRスペクトルである(116MHz、回転30kHz、同期エコー(synchronized echo))。アスタリスク()の付いた線は、スピニングサイドバンドを示し、測定のアーティファクトである。
図10】a)フルスケールおよびb)100倍に拡大した強度スケールにおけるEx1のLi MAS NMRスペクトルである(116MHz、回転30kHz、同期エコー(synchronized echo))。アスタリスク()の付いた線は、スピニングサイドバンドを示し、測定のアーティファクトである。
図11】回復時間(s)の関数としての磁化回復(任意の単位)の展開である。実線は、時間I[t]=I[0](1−2×A×exp(−t/T1))の関数としての磁化回復の単一指数フィットである。
図12】Ex2のLi MAS NMRスペクトルである(116MHz、回転30kHz、同期エコー)。
図13】LCO−3のLi MAS NMRスペクトルである(116MHz、回転30kHz、同期エコー)。
図14】Ex3のLi MAS NMRスペクトルである(116MHz、回転30kHz、同期エコー)。
図15】LCO−4のLi MAS NMRスペクトルである(116MHz、回転30kHz、同期エコー)。
図16】Ex4のLi MAS NMRスペクトルである(116MHz、回転30kHz、同期エコー)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図面中および以下の詳細な説明において、本発明の実施を可能にするための好ましい実施形態を詳細に説明する。これらの特定の好ましい実施形態を参照しながら本発明を説明するが、本発明がこれらの好ましい実施形態に限定されるものではないことを理解されたい。逆に、以下の詳細な説明および添付の図面を考慮すれば明らかとなるように、本発明は多数の代案、修正、および同等物を含んでいる。
【0025】
本発明は、高充填密度、高レート性能、改善された放電容量を有し、高充電電圧で長期間サイクルを行う間に高い安定性を示すカソード材料を開示する。これは、粉末状リチウム金属酸化物であって、Li、金属M、および酸素の元素からなるコア材料であって、Li含有量が化学量論的に制御されるコア材料と;コア材料の元素、または無機N系酸化物、またはそれらの組み合わせの混合物からなる電子絶縁性表面層であって、Nは、Mg、Ti、Fe、Cu、Ca、Ba、Y、Sn、Sb、Na、Zn、Zr、およびSiからなる群のいずれか1種類以上の金属である表面層とからなる、粉末状リチウム金属酸化物によって実現される。
【0026】
一実施形態においては、本発明の材料のコアは、式Li1.00±0.01MOで表され、Mは、式M=Co1−aM’で表され、0≦a≦0.05であり、M’は、Al、Ga、およびBからなる群のいずれか1種類以上の金属であり、Li:Mのモル比は、化学量論的に制御され1.00±0.01である。別の一実施形態においては、コア材料は六角形層状結晶構造を有し、空間群R−3mを有する規則的な岩塩型結晶構造と説明される。コアは、酸素空孔、およびMO層中のMのLiによる置換などの構造欠陥を実質的に有さないを有さない場合があり、Co2+、中間スピンCo3+およびCo4+などの常磁性金属を実質的に含有しない場合もある。
【0027】
欠陥のないコアが存在することは、実際の発明のカソード材料に固有の特徴である。本発明者らは、Liイオンの粒子中へのより速い拡散を可能にする欠陥のないコアが、開示されるカソード材料で観察される高レート性能および改善された放電容量と関連することを確認した。
【0028】
表面層は、コアと比較して不均一な組成を有し、異なるM、M’、Li、およびO元素の組成勾配を有する。表面は、Mg、Ti、Fe、Cu、Ca、Ba、Y、Sn、Sb、Na、Zn、Zr、およびSiなどの元素Nに富んでおり、一実施形態においては、これらの金属ドーパントがコアから分離して粒子表面に蓄積することによって形成される。コア中には、これらのドーパントは実質的に存在しない。本発明者らは、表面に形成された酸化物の化学的性質を明確に確立できておらず、したがって、たとえばMg、Si、およびTiのドーピングの場合、可能な形態としては、限定するものではないが、LiMO、MgO、CoO、Co1−φMgφO(φ≦1)、Co、MgδCo3−δ(δ≦1)、TiO、LiTiO、SiO、LiεSiλπ(2≦ε≦8、1≦λ≦2、および3≦π≦7)などになると推測される。これらの仮定は、Co、Mg、およびTiに関して観察される化学シフトが、酸素環境に典型的なものとなるXPS実験によって支持され、前述の酸化物の粒子が低導電率であることから強い絶縁体であると推測される。表面層が、コア材料の元素(Li、M、O)および無機N系酸化物の混合物からなると記載される場合、「N系」酸化物は、Li原子を含むそれらの酸化物をも意味する。
【0029】
表面は、コアに緻密かつ連続に連結しており、粒子から物理的に分離することができない。したがって、別の一実施形態においては、N金属中の濃度は、表面からの距離が増加するとともに減少し、場合によってはある勾配で減少し、粒子の内側では0に近づく。粒子のNに富む表面は、さらに2つの予期せぬ性質を特徴とする:
(i)表面は、LiOHおよびLiCOなどのリチウム塩を実質的に含有しない。このような特徴は、膨れ特性および貯蔵特性が顕著に改善されるため、高性能ポリマーセルまたは角柱型セルなどの高密度高電圧用途に特に望ましい。
(ii)驚くべきことに、Nに富む表面粒子は、電子絶縁性をも特徴とする。本発明者らは、酸化したN系化学種の蓄積が、低い電子伝導率に関与し、電解質から物理的に分離され、望ましくない副反応がさらに防止されると推測している。
【0030】
表面層は、通常20nm〜200nmの間、好ましくは20nm〜100nmの間の厚さであり、主として以下の2つの要因の影響を受ける:
(i)N含有量:N含有量が増加すると、厚さが増加する。
(ii)粉末材料の粒度分布。特定の量のNで粒度が低いと、表面層が薄くなる。層が厚すぎると、分極が増加し、最終的にレート性能が低下するため、望ましくない。逆に、層が薄すぎることも、電解質の遮蔽が不十分となり、寄生反応防止の有効性が低くなるので、有利ではない。
【0031】
最初に記載したように、LiCoO系カソード材料の重要な特徴の1つは高充填密度であり、これによって市販の二次電池のエネルギー密度を増加させることができる。本発明において、高充填密度を実現するための好ましい形態の一実施形態は、モノリスでジャガイモ型で非凝集の粒子にある。モノリス粒子は、内部に細孔を示さず、より小さな一次粒子の凝集体からはならない。典型的な粒度(D50)は、最小5μmであり、さらには少なくとも10μmであり、好ましくは15μmを超える。圧縮密度は、典型的には3.40g/cmを超え、好ましくは少なくとも3.70g/cmの範囲内である。一実施形態においては、圧縮密度は3.90g/cmまでの高さとなる。別の一実施形態においては、平均粒度が6μmを超える粉末の場合の圧縮密度は少なくとも3.40g/cmである。さらに別の一実施形態においては、平均粒度が15μmを超える粉末の場合の圧縮密度は少なくとも3.75g/cmである。
【0032】
方法の一実施形態においては、本発明の高密度および高安定性の化合物の製造方法は、以下のような:
(i)第1の金属Mを含む前駆体粉末および第1のLiを含む前駆体粉末の第1の混合物を提供するステップであって、第1の混合物のLi対金属のモル比が>1.01であるステップと、
(ii)酸素を含む雰囲気中、少なくとも600℃の温度Tで焼結させることによって、Liに富むリチウム金属酸化物化合物を得るステップと;
(iii)第2のMを含む前駆体粉末を提供するステップと、
(iv)Liに富むリチウム金属酸化物化合物および第2のMを含む前駆体粉末を混合して第2の混合物を得るステップであって、それによって混合物中のLi:Mのモル比を1.00±0.01にするステップと、
(v)第2の混合物を、酸素を含む雰囲気中、少なくとも600℃の温度Tで焼結させるステップとで実施される。特定の一実施形態においては、金属M=Coである。
【0033】
以下の文章で、ステップ(i)および(ii)はさらに「第1の焼成」と記載され、ステップ(iii)、(iv)、および(v)は「第2の焼成」と記載される。特にプロセス条件、異なる前駆体の性質、およびそれらのブレンド順序に関して、実際の発明の別の実施も可能である。
【0034】
第1のMを含む前駆体および第2のMを含む前駆体は、コバルト含有前駆体およびM’含有前駆体の混合物であってよい。好適なコバルト含有前駆体の例としては、コバルトの酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、およびシュウ酸塩が挙げられる。M’含有前駆体は、酸化物、水酸化物、または有機錯体であってよく、好ましくは、均質な分散を実現しブレンドプロセスを容易にするために、サブミクロンの粉末形態を有する。
【0035】
いくつかの実施形態において、第1のMを含む前駆体粉末、第2のMを含む前駆体粉末、および第1のLiを含む前駆体粉末のいずれか1つまたは両方は、Al、Mg、Fe、Cu、Ti、Ca、Ba、Y、B、Sn、Sb、Na、Ga、Zn、F、P、S、およびZrからなる群からの少なくとも1種類のドーパント(M’またはN)をさらに含む。これらの実施形態の1つにおいては、第1のMを含む前駆体粉末および第1のLiを含む前駆体粉末のいずれか1つまたは両方は、Mg、Fe、Cu、Ti、Ca、Ba、Y、Sn、Sb、Na、Zn、Zr、F、P、S、およびSiからなる群の少なくとも1種類の元素をさらに含む。Nドーパント元素が均一に分布することが、最も重要であり、この方法の実施形態を使用することで改善できる。別の方法の一実施形態においては、Nドーパントの均一な分散は、第2のMを含む前駆体粉末が、Mg、Fe、Cu、Ti、Ca、Ba、Y、Sn、Sb、Na、Zn、Zr、およびSiからなるNドーパント元素の群の少なくとも1種類の元素をさらに含む場合に改善される。N元素を含む好適な化合物の例は、サブミクロンの粒度を有する酸化物(MgO、TiO、SiOなど)、ホタル石(fluorite)(MgFなど)である。
【0036】
特定の一実施形態においては、TiおよびMgが、好ましくはD50がそれぞれ100nm未満および1μm未満であるTiOおよびMgO粒子の形態で、前述の第1および第2の混合物の一方または両方に加えられる。別の一実施形態においては、Alが、好ましくはD50が100nm未満であるAl粒子の形態で、前述の第2の混合物に加えられる。別の特定の一実施形態においては、Liに富むリチウム金属酸化物化合物は、少なくとも5、好ましくは少なくとも10〜20マイクロメートルの緻密なモノリス粒子を有するLiCoOである。多くの市販の従来技術のLiCoO材料は、既にこの所望の形態を有する。
【0037】
さらに別の特定の一実施形態においては、第2のMを含む前駆体は、Liに富むリチウム金属酸化物化合物のD50の1/3未満、好ましくは1/4未満のD50を有する粒度分布を特徴とする。一実施形態においては、第2のMを含む前駆体とLiに富むリチウム金属酸化物化合物との間のサイズの比は1/6である。後者の場合、第2の焼成後、第2のMを含む前駆体から得られるLiMO系粒子が、(a)非常に高いCレートを支持し、(b)より大きなリチウム金属酸化物粒子の充填の空隙にうまく適合するのに十分な小さなである場合に、バイモーダル分布が得られ、それによって低多孔度の電極および高い体積エネルギー密度が可能となる。
【0038】
第1の焼成ステップ後に得られる最先端の化合物と呼ばれるLiに富むリチウム金属酸化物化合物は:
少なくとも2つの寄与を有するNMR信号、
粒子表面における多量のリチウム塩および炭素、
10−4S/cmを超える導電率、
低い電気化学的な性能、すなわち低Cレートおよび低放電容量、
をさらに特徴とする。
【0039】
逆に、リチウム化学量論を細かく制御することによって、第2の焼成ステップ後に得られる本発明のカソード材料は:
0ppm付近が中心の単一のNMR寄与、
粒子表面において非常に少ない量のリチウム塩および炭素、
10−5S/cm未満の導電率、
改善された電気化学的性能、すなわち高Cレートおよび高放電容量、
を特徴とする。
【0040】
本発明の材料のLi含有量は、化学量論的に制御され、これはLi:Mモル比が1.00±0.01の範囲内である事を意味する。本発明者らは、目標Li:Mが1.01を超えると、より低い放電容量およびより低い高電圧安定性などの電気化学的性能と、塩基含有量および炭素含有量の増加などの物理的性質とが、得られる材料で低下することを確認した。同様に、目標Li:Mが0.99未満であると、その材料は、非常に良好な高電圧安定性維持するが:(i)より少ない活物質が利用され放電容量が低下すること、および(ii)コバルト系スピネルに富む表面が粒子表面に形成され、それによってセルの分極が増加することの2つの望ましくない影響が生じる。
【0041】
本発明者らは2つの驚くべき観察を行っており、それらが本発明の重要な態様となると考えている。
【0042】
第1の観察:粒子のコアは、リチウムが化学量論的であり、欠陥を実質的に有さない。本発明によるリチウム金属酸化物は、最先端の方法により調製され、本発明のリチウム金属酸化物と同じ成分を含有するリチウム金属酸化物とは異なる電気化学的性質を示す。この物理的性質の変化は、Li−NMRによって観察することができる。Li−NMRにおいては、リチウム含有材料に外部から強い磁界が印加されたときに、Li化学シフト値は、核磁気モーメントを有するとリチウム核と、リチウム含有材料中に含まれる金属成分の不対電子との間の種々の非常に小さな相互作用によってシフトする。リチウム含有材料の結晶構造中の特定の成分の局所的な構造的および電子的特性は、そのような化学シフト値によって生じるLi NMRスペクトルに対する種々の寄与を測定することによって評価することができる。
【0043】
従来方法により調製された最先端のTiおよびMgでドープされたコバルト酸リチウム物(以下の実施例における材料LCO−1、LCO−3、およびLCO−4)においては、Li NMRスペクトルにおいて−0.5ppm付近の鋭いピークと、185ppm、5ppm、−7ppm、−16ppm、および−40ppmの付近に質量中心を有するさらなるピークとが観察される(図9参照)。この場合、−0.5ppm付近における鋭いLi共鳴は、Liの結晶学的位置が反磁性Co3+金属(t2g)にのみ配位することを示しており;これらの電子はすべて対になる。Levasseur,Chem.Mater.,2002,14,3584−3590において議論されているように、185ppm、5ppm、−7ppm、−16ppm、および−40ppm付近を中心とするさらなるピークは、反磁性低スピンCo3+金属(t2g)に加えて、Li結晶学的位置が部分的または完全に常磁性中間スピンCo3+(t2g)に配位していることを示している。常磁性金属の不対電子とリチウム核との間の相互作用によって、種々の化学シフトが得られ、LCO−1、LCO−3、およびLCO−4の異なる複数のLi位置環境を明らかにすることができる。本発明者らは、LiMO粒子のコア中のMgおよびTiなどのドーパントNの存在(Wenbin Luo et al.,J.Electrochem.Soc.,2010,157,782によるX線回折などの他の技術によって文献で確立されている)によって、コバルトイオンのスピン状態および原子価の変化(低スピンCo3+がMg2+またはTi4+に置換されると推測される)、他の電子スピン担体(Ti3+など)の導入が生じて、コア中の構造欠陥および常磁性欠陥の濃度がさらに増加すると推測している。
【0044】
これと比較すると、本発明のリチウム金属酸化物は、最先端の方法により調製したリチウム金属酸化物と同じ成分および組成を有するが、−0.5ppm付近に唯一のLiピークを示すことが分かる。したがって、Ex1、Ex2、Ex3、Ex4、およびEx5(以下参照)は、Co3+(t2g)またはAl3+(2p)などの反磁性三価金属イオンのみに囲まれた1つのLi位置環境のみを有することが分かる。したがって実施例の材料のコアは、常磁性不純物、構造欠陥、ならびにMg2+、Ti3+、またはTi4+などのドーパントNを実質的に有さない。
【0045】
この観察は、本発明のカソード材料と比較して最先端のLiCoO系材料の方が常磁性スピン濃度が高いことを明確に示しているT1スピン格子緩和時間測定によってさらに裏付けられる。
【0046】
第2の観察:ドーパントNが存在する場合、コアからのドーパントの自発的分離によって、第2の焼成中に表面が形成される。この「その場」コーティングの厳密な機構は不明であるが、本発明者らは、リチウムの化学量論が精密に制御され、Li:Mのモル比が1.00±0.01となる場合に得られると考えている。この場合、協同反応が起こって、粒子のコアがリチウム化学量論的となり、MgおよびTiなどのNドーパントが排出されて粒子表面に蓄積する。前述したように、これはNMR測定によって立証される。
【0047】
これと関連して、本発明のカソード材料のもう1つの重要な特徴は、それらが「絶縁」性であることである。これらのカソード材料は、現在知られている最も伝導性が低いカソード材料よりも少なくとも2〜3桁低い伝導率を有する。たとえば、市販のLiCoOは10−2〜10−3S/cmの範囲内の比較的高い導電率を有する。このような絶縁性カソードが優れた電気化学的性能、すなわち大きな放電容量およびCレート性能を得ることができるのは驚くべきことであり、その理由は、固体カソード中、および電解質とカソードとの界面でLi陽イオンが拡散するためには高い導電率が必要であると、一般に受け入れられているからである。
【0048】
表面層によって得られる低伝導率が、本発明のカソード材料の高電圧安定性の主な理由であると考えられる。LiCoO系カソードが高電圧まで充電されると(カソードが強くデインターカレートされることを意味する)、コバルトイオンの大部分が4+の原子価状態となるLiCoO(x<<1)組成が得られる。四価コバルトを含有するLiCoOは非常に強い酸化剤であり、反応性が高い。このような酸化性表面と接触すると、電解質は熱力学的に不安定になる。電解質(還元剤となる)との反応は、エネルギー的に非常に好ましい。低温でさえも(高電圧におけるLiCoOカソードの通常のサイクル中)、この反応は、ゆっくりであるが連続的に進行する。反応生成物がカソード表面を覆い、電解質が分解し、両方の作用によって、電池の電気化学的性能が低下し続ける。また、分極による容量の低下および抵抗の大きな増加が観察される。
【0049】
明らかに、絶縁性表面層で保護されたカソード材料は、四価のコバルトイオンを電解質から物理的に分離し、最終的に電解質のさらなる還元を防止することによって、この問題を解決する。Mg、Zr、Si、およびTiなどの化合物を注意深く選択することによって、本発明方法は、リチオ化もされうるMgOおよびTiOなどの酸化化合物に富む層による最終粉末のその場コーティングが可能となる。この不活性コーティング層によって、粉末が電池の電解質に接触する場合のさらなる安全性が得られる。
【0050】
実施例で使用される測定技術:
導電率の測定は、63.7MPaの圧力を使用し4プローブ構成で行われる。本明細書の説明および特許請求の範囲において、実際に63.7MPaの圧力が使用される場合に、丸められた値として63MPaの値も記載される。
【0051】
電気化学的な性能は、CR2032コイン型セルにおいて、Li箔を対極として使用し、リチウムヘキサフルオライト(lithium hexafluorite)(LiPF)型電解質中25℃で試験を行う。活物質使用量は10.5(±0.5)mg/cmである。セルは4.3Vで充電し3.0Vで放電させて、レート性能および容量を測定する。長期サイクル中の高電圧放電容量および容量保持は、4.5Vおよび4.6Vの充電電圧で測定される。放電率の測定には、160mAh/gの比容量が選択される。たとえば、2Cにおける放電の場合、320mA/gの比電流が使用される。以下の表は、この説明のすべてのコインセルに使用される試験の説明である。
【0052】
【表1】
【0053】
データ分析に関して以下の定義が使用される:Q:容量、D:放電、C:充電、後に続く番号はサイクル番号を示す。たとえば、遅い高電圧放電容量DQ7は、0.1Cにおいて4.5(または4.6)〜3.0Vの範囲での第7サイクル中に測定される。急速高電圧放電容量DQ8は、1Cにおいて4.5(または4.6)〜3.0Vの範囲での第8サイクル中に測定される。
【0054】
不可逆容量 Qirr(%)は((CQ1−DQ1)/CQ1)×100である。
【0055】
レート性能は、それぞれ0.2、0.5、1、2、および3CにおけるDQ対0.1CにおけるDQの比によって定義され、%の単位に変換されて表される。
【0056】
100サイクル当たりの0.1Cにおける%で表される容量低下率は:(1−(DQ31/DQ7))×100/23で計算される。同様に、100サイクル当たりの1Cにおける容量低下率は:(1−(DQ32/DQ8))×100/23である。
【0057】
0.1Cおよび1Cにおけるエネルギー低下率は、容量低下率と同様に計算されるが、放電容量DQの代わりに放電エネルギー(DQ×平均放電電圧と定義される)が計算に使用される。
【0058】
Liマジック角回転(MAS)NMRスペクトルは、Bruker 300 Avance分光計上、116MHz(7.05Tの磁石)において、標準2.5mm Bruker MASプローブを用いて記録される。シングルパルスおよびハーンエコーシーケンスの組み合わせがMAS条件(30kHzの回転速度)において使用される。tπ/2=2.0μsのシングルパルスシーケンスは、分光計の不感時間のために、sin(x)/x基準線補正を伴う一次位相整合法(first−order phasing process)が必要となる。すべての信号の位相整合を容易にし、受信機の不感時間中に失われる場合による非常に幅広の信号を確実に測定しながら、電子スピンとの相互作用にリフォーカスするために、ローター同期ハーンエコーシーケンス[tπ/2−τ−tπ−τ](ここでτ=τは1ローター回転周期、すなわち33.33マイクロ秒に等しい)が使用される。90°パルス幅はtπ/2=2.0μsである。100sのリサイクル時間が使用される。ppmの単位で表される等方性化学シフトは、HO中に溶解させた1MのLiClを外部標準として使用して得られる。
【0059】
T1スピン格子緩和時間は、静止サンプルに対する反転回復シーケンスを使用して測定される。T1は、回復遅延(100μs〜100s)の関数としての磁化回復強度の単一指数フィッティングによって求められる。
【0060】
X線光電子分光(XPS)測定は、集束単色化Al Kα放射線(hυ=1486.6eV)を取り付けたKratos Axis Ultra分光計を用いて行われる。Ag 3d5/2線の場合、記録条件下の半値全幅は0.58eVである。サンプルの分析面積は300×700μmである。ピークは20eVの一定パスエネルギーを使用して記録される。分析室中の圧力は約5×10−7Paである。サンプルの湿気および空気への曝露を防止するため、移動室を介してXPS分光計に直接接続されるアルゴンドライボックス中でサンプリングを行う。捕捉時間の短い対照スペクトルを、各実験の最初および最後に記録して、サンプルが分解していないことを確認する。結合エネルギースケールは、LiCoOピーク(Co2p、Co3p、およびO1s)から較正する。コアのピークは、非線形Shirley型バックグラウンドを用いて解析される。ピークの位置および面積は、70%Gaussianおよび30%Lorentzianの線形を用いて加重最小二乗フィッティング法によって最適化される。Scofieldの相対感度因子に基づいて定量化を行った。深さプロファイル実験の場合、深さは、0.32nm/sのアルゴンエッチング速度が観察されたTaのサンプルに対して計算した。
【0061】
塩基含有量は、表面と水との間の反応生成物の分析によって定量的に測定可能な材料表面特性である。粉末が水中に浸漬されると、表面反応が起こる。その反応中、水のpHが増加し(「塩基が溶解し」)、その塩基はpH滴定によって定量化される。滴定の結果が「可溶性塩基含有量」(SBC)である。可溶性塩基の含有量は、以下のように測定できる:100mlの脱イオン水を7.5gのカソードに加え、続いて8分間撹拌する。通常3分間で沈殿し、次に溶液を取り出し、1μmシリンジフィルターに通すことによって、>90gの透明溶液が得られ、この溶液が可溶性塩基を含有する。可溶性塩基の含有量は、撹拌下でpHが3に到達するまで、0.5ml/分の速度で0.1MのHClを加える間のpHプロファイルを記録することによって滴定される。DI水中に低濃度で溶解させたLiOHおよびLiCOの好適な混合物を滴定することによって、基準電圧プロファイルが得られる。ほぼすべての場合で、2つの明確なプラトーが観察される。上部のプラトーはOH/HOからCO2−/HCOに続き、下部プラトーはHCO/HCOである。第1および第2のプラトーの間の変曲点、ならびに第2のプラトーの後の変曲点は、pHプロファイルの導関数dpH/dVolの対応する極小値から得られる。第2の変曲点は一般にpH4.7付近にある。結果は、カソード1g当たりの塩基のマイクロモル数として記載される。
【0062】
溶液となる塩基の量は、非常に再現性が高く、カソードの表面特性と直接関連している。これらは安定性(すなわち、最終電池の安全性、および過充電/高T貯蔵特性)に対して大きな影響を示すので、塩基含有量と安定性との間には相関がある。可溶性塩基含有量は、同時係属出願の欧州特許第11000945.3号明細書において、より詳細に議論されている。
【実施例】
【0063】
実施例1〜4
Li:Coが化学量論的に制御されたリチウムコバルト系酸化物の調製
これらの実施例では、−0.5ppm付近を中心とした単一のLi寄与を特徴とするLi MAS NMRスペクトルと、増加したT1スピン格子緩和時間とを特徴とするLi:Coが化学量論的に制御されドープされたリチウムコバルト系酸化物が、高電圧サイクル安定性をも特徴とすることを示す。改善された安定性、単一寄与のLi MAS NMRスペクトル、およびより長いT1が、リチウム対金属比を最適化することで得られる。
【0064】
実施例1:
実施例1および2の特性決定により、Li化学量論が制御されたLiCoO系カソード材料、すなわちLi/Co比が1.00±0.01であり、Li原子が三価の反磁性金属に取り囲まれた1つの場所を占めるコアを含み、コア材料の元素(Li、Co)とMgおよびTiを含む無機金属酸化物とを含む電子絶縁性表面を有するカソード材料が、高電圧用途で改善された特徴を示すことを実証する。
【0065】
LCO−1の調製:国際公開第2010−139404号パンフレットで説明される方法により、パイロットラインで0.25mol%のチタンと0.5mol%のマグネシウムとでドープされたCo(OH)をLiCoOの前駆体として調製する。前駆体をLiCOと混合することによって、標準的な高温固相合成(=第1の焼成ステップ)により、最先端のチタンおよびマグネシウムでドープされたLiCoO(LCO−1と記載)が得られる。LiCO−ドープされたCo(OH)のブレンド中に使用される典型的なLi:Coモル比は1.06〜1.12である。LCO−1の平均粒度は20μmである。ICPによって測定される焼成後のLCO−1の最終Li:Coモル比は1.053であり、これが実施例1および2のLi:Co比を求めるために使用される。LCO−1は、実施例1および実施例2のリチウムドープされたコバルト酸化の「親」とも記載される。
【0066】
実施例1(Ex1と記載)の調製:95mol%のLCO−1、および0.25mol%のTiと0.5mol%のMgとドープされた5mol%のCo(OH)(それぞれ95.24重量%および4.76重量%に相当)を、最終Li:Coモル比1.000を目標として混合する。LCO−1およびCo(OH)におけるコバルト重量含有率がそれぞれ60.21重量%および63.40重量%と仮定して試薬の重量を計算すると、Li:Coの計算において0.2%未満の絶対誤差となる。得られた均一混合物をアルミナるつぼに入れ、一定空気流下925℃で12時間加熱する(=第2の焼成ステップ)。冷却後、得られた粉末(Ex1)をふるい分けし、特性決定を行う。Ex1の平均粒度は20μmであることが分かった。
【0067】
実施例2:
実施例2(Ex2と記載)の調製:94mol%のLCO−1、および0.25mol%のTiと0.5mol%のMgとでドープされた6mol%のCo(OH)(それぞれ94.28重量%および5.72重量%に相当)を、最終Li:Coモル比0.990±0.002を目標として混合する。得られた均一混合物をアルミナるつぼに入れ、一定空気流下925℃で12時間加熱する。冷却後、得られた粉末(Ex2)をふるい分けし、特性決定を行う。Ex2の平均粒度は20μmであることが分かった。
【0068】
実施例3:
実施例3の特性決定では、Li原子が三価の反磁性金属に取り囲まれた1つの場所を占めるコアを含み、Coが部分的にAl3+で置換され、コア材料の元素(Li、CoおよびAl)とMgおよびTiを含む無機金属酸化物とを含む電子絶縁性表面を有するLi化学量論が制御されたLiCoO系カソード材料が、改善された高電圧特性、および大きな圧縮密度を示すことを実証する。
【0069】
LCO−3の調製:Coの粉末をTiO、MgO、およびLiCOと乾式混合することによって、標準的な高温固相合成により、最先端のチタンおよびマグネシウムでドープされたLiCoO(LCO−3と記載)が得られる。LCO−3は、0.25mol%のチタンおよび0.25mol%のマグネシウムを含有する。ブレンドに使用される典型的なLi:Coモル比は1.10である。LCO−3の平均粒度は18μmである。焼成後のLCO−3の最終Li:Coモル比(ICPによって測定される)は1.070であり、実施例3のLi:(Co+Al)比を設定するために使用される。
【0070】
実施例3(Ex3と記載)の調製:Al:Coモル比が0.01:0.99(またはCoの場所の1mol%がAlで置換)に調整され、最終Li:(Co+Al)モル比が1.000±0.002に調整されるように、85.40重量%のLCO−3、平均粒度が3μmである10.51重量%のCo、3.47重量%のLiCO、0.05重量%のMgO、0.05重量%のTiO、および0.52重量%のAlを混合して、カソード粉末材料を調製する。得られた均一混合物をアルミナるつぼに入れ、一定空気流下980℃で12時間加熱する。冷却後、得られた粉末(Ex3)をふるい分けし、特性決定を行う。Ex3の平均粒度は16μmであることが分かり、バイモーダル分布が得られる。
【0071】
実施例4:
実施例4の特性決定では、Li化学量論が制御され、Li原子が三価の反磁性金属に取り囲まれた1つの場所を占めるコアを含み、コア材料の元素(Li、Co)とMgおよびTiを含む無機金属酸化物とを含む電子絶縁性表面を有するLiCoO系カソード材料が、高Cレートおよび高平均電圧の維持が必要な高出力用途に好適であることを示す。
【0072】
LCO−4の調製:Coの粉末を、TiO2、MgO、およびLiCOと乾式混合することによって、標準的な高温固相合成により、最先端のチタンおよびマグネシウムでドープされたLiCoO(LCO−4と記載)が得られる。LCO−4は、0.18mol%のチタンおよび0.40mol%のマグネシウムを含有する。ブレンドに使用される典型的なLi:Coモル比は1.03である。LCO−4の平均粒度は6μmである。焼成後のLCO−4の最終Li:Coモル比(ICPによって測定される)は1.015であり、実施例4のLi:Co比を設定するために使用される。
【0073】
実施例4(Ex4と記載)の調製:98.5mol%のLCO−4、および1.5mol%のTi(0.18mol%)とMg(0.4mol%)とでドープされたCo(それぞれ98.77重量%および1.23重量%に相当)を、最終Li:Coモル比1.000±0.002を目標として均一に混合する。LCO−3およびCoにおけるコバルト重量含有率がそれぞれ60.21重量%および73.42重量%と仮定して試薬の重量を計算した。得られた均一混合物をアルミナるつぼに入れ、一定空気流下1000℃で12時間加熱する。冷却後、得られた粉末(Ex4)をふるい分けし、特性決定を行う。
【0074】
実施例5:
実施例5の特性決定では、1.00±0.01のリチウム化学量論を目標とした場合にのみ、高い電気化学的性能が得られることを示す。最先端のLiCoO系材料で通常確認されるようにリチウム化学量論を超えると、放電容量、Cレート、および高電圧安定性の系統的な低下が生じる。
【0075】
実施例5a〜5e(Ex5a〜5eと記載)の調製:88.91重量%のLCO−3、平均粒度が3μmである10.94重量%のCo、0.12重量%のMgO、および0.03重量%のTiOを混合することによって、カソード粉末材料を調製する。最終Li:Co(またはLi:M)比を1.00(Ex5a)、1.01(Ex5b)、1.02(Ex5c)、1.03(Ex5d)、および1.04(Ex5e)に調整するために、LiCOをさらに加える。得られた均一混合物をアルミナるつぼに入れ、一定空気流下980℃で12時間加熱する。冷却後、得られた粉末(Ex5a〜5e)をふるい分けし、特性決定を行う。
【0076】
Ex5a〜5eの電気化学的性質を表1に示す。Li:M比が減少して1.00±0.01に近づくと、レート放電容量DQ7およびDQ8ならびに3Cレート性能が大きく改善される。Li:M比が化学量論付近になると、4.5Vにおける容量低下も顕著に改善される。Li:Mが1.00に近づくと導電率を大きく低下し、LCO−3と比較して3〜4桁小さくなる。これらの性質は、Li:Mが化学量論に近づくときに分離したMgおよびTiの量が増加する「電子絶縁性その場コーティング」の機構を明確に指示している。Li化学量論コアと、MgおよびTiに富む表面との高電圧用途での利点が、最終的に明確に強調されている。
【0077】
【表2】
【0078】
実施例1〜4の特性決定
Li:M化学量論の制御および調整のために使用した第2の焼成の前後での、本発明により調製したリチウムコバルト系酸化物の物理的および電気化学的性質の変化の特性決定を行った。
【0079】
SEM分析
走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して表面を撮像し、図1に示している。すべてのサンプルが、第2の焼成の前後でモノリス粒子形状を特徴としている。第2の焼成ステップ後、粒子の表面は明確に変化し:LCO−1、LCO−3、およびLCO−4の表面はダストおよび破片で覆われており、第2の焼成後のEx1、Ex2、Ex3およびEx4の平滑な表面とは対照的である。
【0080】
XRD分析
X線回折によって、リチウムコバルト系酸化物の結晶構造を調べた。LCO−1および実施例1のXRDパターンを図2に示す。すべてのピークは、層状LiCoO相に典型的なa=2.815Åおよびc=14.05Åの通常の格子パラメータを有する菱面体セルを用いて、R−3m空間群に帰属される。不純物相、すなわちコバルト系酸化物CoおよびCoOは観察されない。
【0081】
同様に、同じ構造モデルおよび類似の格子パラメータを使用してLCO−3、LCO−4、Ex3、およびEx4のXRDパターンを分析する。LiOHおよびLiCOなどの表面塩基の含有量が多いが、LCO−1、LCO−3、およびLCO−4のXRDパターンは、そのような化合物が同定できず、それらの含有量がXRDの検出限界未満である、および/または表面塩基が非晶質の形態であることを示唆している。
【0082】
Ex2のXRDパターンを図3に示す。層状LiCoO系酸化物(R−3m空間群)に帰属する主要ピークに加えて、強度の低いピークが観察され、これは約1.2重量%の量のコバルト系スピネル不純物の存在を示しており、これは0.990の目標Li:Coモル比と非常によく一致している。したがって、Ex2は、約99mol%Li化学量論的に制御されたLiCoO系材料、および約1mol%コバルトスピネル系不純物を含む。
【0083】
Ex3の場合、CoのAlによる均一な置換が、(c/(√24a)−1)×1000で定義される「換算」c/a比の増加することで確認され、その値は、LCO−3(Alなし)およびEx3(1mol%のAlを含有)でそれぞれ18.56および18.90である。LiCoOへのAlドーピングによるc/a比の増加は、他の研究(たとえば、Myung et al.,Solid State Ionics Volume 139,Issues 1−2,2 January 2001,Pages 47−56、およびGaudin et al.,J.Phys.Chem.B,2001,105,8081−8087)とよく一致している。
【0084】
Li塩不純物の分析
種々の材料の表面塩基および炭素の含有量を表2に示している。Ex1、Ex2、Ex3、およびEx4の場合、第2の焼成後に、LCO−1、LCO−3およびLCO−4よりも塩基および炭素の含有量が大きく減少している。この結果は、SEMによって示されるように、LCO−1、LCO−3、およびLCO−4の表面はLiOHおよびLiCOなどの未反応の過剰のLi塩で部分的に覆われており、Ex1、Ex2、Ex3、およびEx4の表面にはそのような不純物がほとんど存在しないことを裏付けている。
【0085】
【表3】
【0086】
X線光電子分光(XPS)分析
LCO−1およびEx1の粒子表面の化学組成を、XPSによって調べた。フルスケールのXPSスペクトルを図4aおよびbに示しており、LCO−1およびEx1の定量的結果を表3に示している。
【0087】
【表4】
【0088】
コバルト2pおよび3pのXPSピークを図5に示す。スピン軌道結合によって、Co2pスペクトルが2つの成分2p3/2および2P1/2に分割され、強度比は約2:1である。各成分は780および795eVにおける主線に示され、配位子から金属への電荷移動サテライトピークが790および805eVに示されている。Co3pスペクトルも、それぞれ61および71eVにおける主線およびサテライトからなり;しかし3p3/2および3P1/2のエネルギー分裂は小さすぎるため観察されない。LCO−1およびEx1のCo2pおよびCo3pスペクトルは、LiCoOのCo3+イオンが特徴的であり、粒子表面におけるCo2+の存在を排除している。これらの観察はLiCoOに関する以前の研究(たとえば、Daheron et al.,J.Phys.Chem.C,2009,113,5843)と適合している。
【0089】
しかしXPS分析では、LCO−1およびEx1の粒子表面の化学組成の差を明確に示している:
リチウム1s、酸素1sおよび炭素1sのXPSスペクトルを、図5(b)および(d)(Li1s)、ならびに図6(a)および(c)(O1s)、ならびに図6(b)および(d)(C1s)に示している。LCO−1ではLiCOからの強いピークが観察され、Li1s、O1sおよびC1sの特性結合エネルギーはそれぞれ55.7eV、532eV、および290.2eVを中心としている。LiCOはLCO−1粒子表面の26原子%を占めると推定される。これらの寄与はEx1には存在せず、粒子表面にリチウム塩がほとんど存在しないことを示唆している。
【0090】
50eV付近の良く分解されたMg2p XPSピークは、図5dに示されるようにEx1の場合にのみ観察される。LCO−1およびEx1は、約0.005の同一のMg:Co比を特徴とするが、Ex1の表面で測定されるMg:Co比は約0.37であり、LCO−1よりも約2桁の増加を示している。MgO様の環境は、図7(c)に示されるように300〜400eVの範囲で観察される典型的なMg KLLオージェ構造によって裏付けられる(Davoisne et al,Astronomy and Astrophysics,2008,482,541参照)。LCO−1表面にマグネシウムが存在しないことは、Mgが依然としてLCO−1の構造中にあることを示唆している。
【0091】
図7(a)および(b)は、両方のサンプルのそれぞれの458.5および464eVにおける2つの成分Ti2p3/2およびTi2p5/2を有するTi2pのXPSスペクトルを示している。これらの結合エネルギーは、6倍酸素環境におけるTi4+の排他的存在と良く一致している(Tanaka et al.,Corrosion Science,2008,50,2111、およびEl Ouatani et al.,Journal of The Electrochemical Society,2009,156,A4687も参照されたい)。本発明の系におけるTi4+の可能性のあるホスト構造はTiOおよびLiTiOである。同様に、LCO−1およびEx1の表面で測定したTi:Co比は0.1付近であり、Ti:Coブレンド比(約0.0025)の40倍を超える。Ex1粒子の表面におけるTi量は、LCO−1よりもわずかに多い。
【0092】
粒子の深さの関数としてのMgおよびTiの展開を、図8に示すようにXPS深さプロファイリングによって、Ex−1に関して監視した。MgおよびTiの濃度は、粒子の最初の50nmで急速に低下する。MgおよびTiの量は、予想されるように、長時間のエッチング後でさえも0まで減少しない。これはアルゴンイオンスパッタリングの副作用によるものであり、アルゴンイオンがサンプルの内側深くまで注入されるために、次の層の原子と強制的に混合される。Ex1のMgおよびTiの含有量がLCO−1よりも多いことと、深さプロファイリング実験とから、その場コーティング機構が示唆され、その機構によって、Li:Co平衡(第2の)焼成中に、MgおよびTiがコバルト酸リチウムバルク構造から放出され、LiCoO粒子表面に酸化形態で蓄積する。MgおよびTiのその場分離機構は、導電率測定によってさらに明らかとなるであろう。
【0093】
導電率
種々の材料の導電率表4に示す。
【0094】
【表5】
【0095】
Ex1〜4の導電率は、対応するリチウムドープされた酸化コバルトの親のLCO−1、LCO−3、およびLCO−4よりも3桁小さい。本発明者らの見解では、この低い導電率は2つの寄与によって得られる:
i)Li NMR(後述)によって示されるようなバルク構造欠陥の減少による、Li:Co=1.00であるLi化学量論的LiCoOのバンド絶縁特性の向上、および
ii)Ex1、Ex2、Ex3、およびEx4の第2の焼成中に得られる、LiCoO粒子への絶縁性Co、Mg、およびTi酸化物系化学種のその場コーティング。後者は、市販のMgO(Kyowa Chemicals)およびTiO(Cosmo Chemicals KA300)が非常に低い導電率、それぞれ測定すると10−8S/cm未満および6.02×10−7S/cmであることによって裏付けられる。コバルト系スピネル不純物を含有するEx2と関連して、Coの導電率が10−6S/cm未満であると一般に許容される。
【0096】
圧縮密度
親相および実施例の圧縮密度を測定し、結果を表5に示している。
【0097】
【表6】
【0098】
圧縮密度は次のように測定する:3グラムの粉末を直径「d」が1.300cmのプレス金型中に入れる。207MPaの圧力に相当する2.8tの一軸荷重を30秒間加える。荷重を除いた後、プレスされた粉末の厚さ「t」を測定する。続いてペレットを次のように計算する:3/(π×(d/2)×t)(単位g/cm)。
【0099】
すべての材料で非常に高い圧縮密度を特徴とし、平均粒度が6μmのLCO−4およびEx4では3.40g/cmを超え、平均粒度が15μmを超えるLCO−1、LCO−3、Ex1、Ex2、およびEx3では3.75g/cmを超える。Ex3の圧縮密度はLCO−3よりも0.1g/cmだけ増加しており、これは、18μmの粒子の充填によって得られる空隙に3μmの粒子が入ることができるためである。図4は、Ex3の粒度の関数としての体積分布および累積体積分布の展開を示している。驚くべきことに、Ex3は、第2の焼成後にバイモーダル粒度分布を維持しており、2つの寄与の質量中心は約3μmおよび18μmである。2つのガウス関数を用いた実験データのフィッティングによって求められる3μmの寄与の体積分率は13%となり、3および18μmの粒子の初期の組成と良く一致している。第2の焼成で3および18μmの粒子の凝集は起こらず、(a)XPSによって前述のように明らかとなった粒子表面におけるMgおよびTi種の蓄積と、(b)「リチウムフラックス効果」による粒子のさらなる成長を抑制するリチウム化学量論の制御との2つの要因のいずれかまたは両方によって、凝集が防止されると考えられる。過剰のリチウム(最終Li:Co>1.01)を再焼成しMgおよびTiドーパントを使用せずにサンプルのバイモーダル分布を維持しようとする取り組みは失敗し、大きな粒子の凝集および合体が観察され、圧縮密度が大きく低下する。
【0100】
Li MAS NMR
種々の実施例のLiマジック角回転核磁気共鳴(MAS NMR)スペクトルを、LCO−1は図9に、Ex1は図10に、Ex2は図12に、LCO−3は図13に、Ex3は図14に、LCO−4は図15に、Ex4は図16に示している。
【0101】
2種類のパターンに区別可能である:
LCO−1、LCO−3、およびLCO−4は、複数の寄与を有する複雑なLi MAS NMRパターンを有する。約−0.5ppmを中心とする主要な反磁性寄与および関連するスピニングサイドバンドに加えて、LCO−1のスペクトルは、約185ppm、5ppm、−7ppm、および−16ppmにおける複数の常磁性寄与を特徴とし、リチウムイオンに対して数種類の異なる常磁性電子スピン金属環境を示している。
【0102】
他方、Ex1、Ex2、Ex3、およびEx4は、−0.5ppm±0.25ppmを中心とする唯一のLi共鳴および関連のスピニングサイドバンドを特徴とする。
【0103】
−0.5ppmを中心とする鋭いピークは、文献(Levasseur et al.,Solid State Ionics 2000,128,11参照)に報告されるように三価反磁性Co3+(t2g)イオンのみがリチウムイオンを取り囲むために得られる。したがって反磁性三価金属イオンによってのみ取り囲まれる唯一のLi部位が、Ex1、Ex2、Ex3、およびEx4で観察される。
【0104】
LCO−1、LCO−3、およびLCO−4に関しては、約185ppm、5ppm、−7ppm、−16ppm、および−40ppmにおけるさらなる常磁性寄与が、以下の2つの主な寄与によって生じる構造欠陥により得られ:
S.Levasseur,Chem.Mater.2003,15,348−354に記載されるように、層状リチウムコバルト系酸化物のリチウムの過剰リチオ化が生じると、局所的な電荷保存のために、酸素欠乏が存在すると好都合であり、それによってCo3+イオンが四角錐を占有し、中間常磁性スピン状態の構成を有し、e軌道中に不対電子が生じ、さらに
ドーパントの効果によって、異なるスピンおよび原子価状態のコバルトイオンが存在するようになる。たとえば、最近の研究では、LiCoO中のCo3+がMg2+で置換されて、実質的な酸素欠乏が生じることが示されている(Wenbin Luo et al.,J.Electrochem.Soc.,2010,157,782参照)。同様に、この酸素欠乏は、常磁性中間スピン状態Co3+イオンの存在が好都合となる。局所的電荷保存の理由で、CoがTiで置換されて、Ti3+常磁性不純物、またはTi4+原子価状態が存在する場合のCo2+常磁性不純物のいずれかが誘導されることも妥当な想定となりうる。
【0105】
Ex2のLi MAS NMRスペクトルは、スピネル型不純物が存在するにもかかわらず、−0.5ppm付近で唯一の共鳴を依然として特徴とする。この特性は、Ex2は、Li:Co=0.99を目標としたが、化学量論的に制御されたLiCoOを含み、そこでLiイオンが、周囲の三価の反磁性金属と、粒子表面に最も存在すると思われるリチウムを含有しないスピネル不純物とに適応することを明確に示している。
【0106】
さらに、Co3+のAl3+による置換は、どちらも三価の反磁性金属イオンであり、Ex3のLi MAS NMR信号を変調させず、−0.5ppm付近の唯一の共鳴が保存され、リチウムイオンが、三価の反磁性金属のみで取り囲まれる唯一の場所を占有することを明確に示している。同様に、この発見は、Al3+、Ga3+、およびB3+などの三価の反磁性金属によるCo3+イオンの置換にも拡張することができ、Li化学量論のLiCo1−aM’(M’=Al、B、およびGa)のLi MAS NMR信号の変調は起こらない。
【0107】
構造欠陥が相対的に存在しないことは、表6に示されるようにT1スピン格子緩和時間を測定することでさらに特徴付けられる。LCO−1、LCO−2、およびLCO−4のT1値は測定されず、数種類のスピン格子緩和機構のために正確に測定できない。しかしそれぞれ個別の機構の特徴的緩和時間は0.1s未満である。他方、Ex1〜4のT1値は、図11に示されるように磁化回復の単一指数フィットによって首尾良く求められる。
【0108】
Li MAS NMRへの単一の寄与と、より長いT1値との両方によって、Ex1、Ex2、Ex3、およびEx4における構造欠陥の濃度が、LCO−1、LCO−3、およびLCO−4よりも低いことが示される。
【0109】
【表7】
【0110】
結論として、Li MAS NMR、XPS分析、および導電率によって、低スピンのCo3+(t2g)およびAl3+などの三価の反磁性金属で取り囲まれた1つの場所をLiが占有するLi化学量論が制御されたコアと、Mg、Ti、Si、Co、およびLiを含む無機金属酸化物を含む電子絶縁性表面とを含む、Ex1、Ex2、Ex3、およびEx4の材料の構造を明確に表すことができる。
【0111】
電気化学的性能
実施例1〜4の電気化学的性能を表7に示す。予期せぬことに、電気化学的性質は、LCO−1、LCO−3、およびLCO−4よりも改善される。4.3Vにおいて、Ex1、Ex2、Ex3、およびEx4は、非常に小さい不可逆容量を示し、LCO−1、LCO−3、およびLCO−4よりも良好なレート性能を示す。Ex1、Ex2、Ex3、およびEx4の4.5Vの高電圧性能が向上し、非常に高い容量および非常に良好なサイクル寿命を特徴とする。Ex1、Ex2、Ex3、およびEx4の4.6Vの性能は、1Cにおける40%未満の容量低下が例外的であり、本発明者らの知る限りでは、文献に匹敵するものはない。これらのデータは、Li MAS NMRによって示される比較的低い欠陥濃度と、化学量論的に制御されたLiCo1−xの改善された高電圧特性との間で完全な相関を示している。
【0112】
4.5Vおよび4.6Vの場合の0.1CにおけるEx1、Ex2、Ex3のおよびEx4のエネルギー密度は、圧縮密度、平均電圧、および放電容量の積で定義され、それぞれLCO−1、LCO−2、およびLCO−3と比較して向上している。高エネルギー密度と改善されたサイクル寿命とが結び付いたことで、Ex1、Ex2、Ex3、およびEx4は、携帯型エレクトロニクスなどの用途に好適となる。Ex4の容量低下は、LCO−4と比較して顕著に改善されているが、Ex1、Ex2、およびEx3よりは大きいことに注目される。この作用は、Ex4の粒度が低いことの直接的な結果であり、加えられたMgおよびTiの量はすべてのサンプルで同様であるため、粒度が低いと表面層が薄くなり、電解質分解に対する保護が不十分になる。
【0113】
【表8】
【0114】
表8は、Ex4およびLCO−4の4.4Vにおける放電容量、Cレート性能、および平均電圧を示している。15Cにおいて、Ex4のCレートおよび平均電圧はLCO−4よりも改善され、その結果、平均放電電圧と放電容量との積で定義される比エネルギーEsが約4%増加している。改善されたサイクル寿命および比エネルギーを特徴とするEx4は、高Cレートにおける高い比エネルギーの維持が必要な高出力用途に非常に好適である。
【0115】
【表9】
図4
図4(a)】
図4(b)】
図8
図9a)】
図9b)】
図10a)】
図10b)】
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図1
図2
図3
図5a
図5b
図5c
図5d
図6a
図6b
図6c
図6d
図7a
図7b
図7c