【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 省エネルギー革新技術開発事業 先導研究 高効率ガスタービン用アドバンスド遮熱コーティングの研究開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
重量基準で、C:0.06%以上0.08%以下、B:0.016%以上0.035%以下、Hf:0.2%以上0.3%以下、Cr:6.9%以上7.3%以下、Mo:0.7%以上1.0%以下、W:7.0%以上9.0%以下、Re:1.2%以上1.6%以下、Ta:8.5%以上9.5%以下、Nb:0.6%以上1.0%以下、Al:4.9%以上5.2%以下、Co:0.8%以上1.2%以下、及び残部が実質的にNiでなる単結晶耐熱合金で形成された翼基材の表面に、前記翼基材側から順に、拡散バリア層、金属層、ボンドコート及びトップコートが積層され、
前記金属層と前記ボンドコートとの界面には、前記金属層へのブラスト処理による粗面が形成され、
前記金属層の厚さが5−30μmであることを特徴とする発電用ガスタービン翼。
【背景技術】
【0002】
最近のガスタービンにおいては、高効率化を目指して、燃焼ガス温度の高温化が進められている。これに伴って、タービン動翼、静翼等の合金部材における遮熱コーティング(TBC)が適用されてきている。
【0003】
TBCにおける遮熱のためのトップコートには、熱伝導率が低い酸化物が用いられている。代表的なものとしては、イットリアの添加で結晶構造を安定化したイットリア部分安定化ジルコニア(Yttria Stabilized Zirconia:YSZ)がある。また、TBCにおける耐酸化性及び耐食性を確保するためのボンドコートには、MCrAlY合金(Mは、Ni、Co及びFeのうちのいずれか1種類以上である。)やNi-Al、Ni-Al-Pt等のアルミナイドが用いられている。
【0004】
ボンドコートは、表面に熱成長酸化物(Thermal Grown Oxide:TGO)を形成し、酸化性および腐食性の環境から基材を保護したものである。このTGOには、アルミナが好適であるため、ボンドコートは、通常、基材に比較して高いAl濃度を持つが、高温での使用中にボンドコートから基材へのAlの拡散により、基材中に、強度に悪影響を与える二次反応層(Secondary reaction Zone:SRZ)を形成してしまう。
【0005】
この問題を解決するため、特許文献1には、Ru、Re等の合金層により、基材とボンドコートとの間の元素の拡散を抑制する拡散障壁層が開示されている。また、特許文献2には、Re、Cr及びNiを含む金属間化合物による拡散バリア層の例が開示されている。
【0006】
特許文献3には、鋳造時の凝固割れを防止し、さらに使用中の信頼性を確保するのに十分な結晶粒界の強度を有し、かつ、優れた高温強度をあわせ持つ所定の組成を有する方向性凝固用高強度Ni基超合金が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
拡散バリア層(拡散障壁層)は、基材とボンドコートとの状態図における平衡相である。すなわち、熱力学的に安定である必要がある。しかしながら、特許文献1に記載されているRu、Re等の合金層の場合、基材とボンドコートとの反応により、高温で分解が進み、効果を維持できないという問題が存在する。
【0009】
一方、特許文献2に記載されているRe、Cr及びNiを含む金属間化合物のσ相は、基材とボンドコートとの平衡相であることから、熱力学的に安定であり、長時間にわたって拡散バリア層としての機能を維持できる。
【0010】
発電用ガスタービン(以下、「ガスタービン」と略す。)では、CO
2排出量削減から高効率化が必須となってきている。高効率化の一つの方法として、燃焼ガス温度の高温化が有効である。その為、動静翼基材の耐熱温度を高くする必要があり、鋳造凝固制御型の単結晶材料が最も有望である。
【0011】
さらに、遮熱コーテイング(TBC)と高性能冷却とを組み合わせた動静翼では、冷却空気量の削減も期待でき、余剰空気を燃焼に用いることができ、高効率化に寄与できる。このように、翼基材温度を単結晶材の耐熱温度上限で設計することになる。その結果、TBCボンド層の温度も高くなり、ボンド層と基材との界面での相互拡散が加速され、長時間使用で基材(特に単結晶材)表面部に相互拡散による再結晶層の発生、ボンド層で耐酸化性の低下が生じる。従って、ボンド層と基材との界面に拡散バリア層(拡散障壁層)が必要となる。
【0012】
一方、ガスタービン翼特有の課題として、単結晶翼が多用されている航空機タービン翼に比べ、以下の相異がある。耐熱温度の基準がガスタービン翼では、5万〜10万時間のクリープ破断強度で設計するのに対し、航空機タービン翼では数千時間と短い。さらに、翼の寸法もガスタービン翼は航空機タービン翼に比べ、10〜20倍程度となる。このような相異から、まず、長時間寿命を前提とした特に単結晶ガスタービン翼では、材料強度を維持する組織・再結晶発生防止から、溶体化温度、時効温度の温度を厳密に守り、翼加工後の高温熱処理を実施しないことが重要となる。
【0013】
その為に、例えば、特許文献2に例示されている高温(溶体化温度)でのバリア層成膜は、翼加工部で再結晶発生があり適用できない。一方、比較的低温(時効温度)での例示もあるが、この場合、発明者らの検討の結果、バリア層成膜が若干脆くなる傾向が認められた。
【0014】
次に、ガスタービン翼は航空機タービン翼に比べ、寸法が10〜20倍程度となる。大型翼では、翼の精密鋳造プロセスでの歩留まりも大きな問題となる。
【0015】
最後に、翼大きさの相異は、TBCの成膜プロセスにも関係がある。ボンド層メタル及びトップ層セラミックの成膜方法は、大型翼のガスタービンでは、溶射方法がコスト的に望ましい。航空機タービン翼は、小型翼であり、1バッチに多数の翼を入れられる物理蒸着方法がコスト的にも有望となる。溶射方法では、ボンドコート溶射前には、密着性を向上させるため、前処理としてアルミナなどの硬質粒子を基材に衝突させ、表面を粗面化し、かつ、清浄化するブラスト処理を施すのが通例である。
【0016】
以上の結果から、ガスタービン翼では、航空機タービン翼に比べ、長時間寿命の要求から、所定の合金組成を有する単結晶翼で、かつ、バリア層の低温成膜が必要となる。低温成膜バリア層では、バリア層が若干脆く、大型翼のTBC施工要求からの溶射方法でのブラスト処理でバリア層損傷、機能喪失の危惧がある。
【0017】
本発明の目的は、拡散バリア層の機能を消失させることなく、溶射方法により遮熱コーティングを形成した長時間寿命型の発電用ガスタービン翼、及びそれを用いた発電用ガスタービンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の課題を解決するため、本発明の発電用ガスタービン翼は、重量基準で、C:0.06%以上0.08%以下、B:0.016%以上0.035%以下、Hf:0.2%以上0.3%以下、Cr:6.9%以上7.3%以下、Mo:0.7%以上1.0%以下、W:7.0%以上9.0%以下、Re:1.2%以上1.6%以下、Ta:8.5%以上9.5%以下、Nb:0.6%以上1.0%以下、Al:4.9%以上5.2%以下、Co:0.8%以上1.2%以下、及び残部が実質的にNiでなる単結晶合金で形成された翼基材の表面に、翼基材側から順に、拡散バリア層、金属層、ボンドコート及びトップコートが積層されており、金属層の厚さが、5−30μmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、拡散バリア層の機能を消失させることなく、溶射方法により遮熱コーティングを形成した長時間寿命型の発電用ガスタービン翼、及びそれを用いた発電用ガスタービンを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の翼材料は、C、B、Hf等の粒界強化元素を添加し、単結晶に対し方位が異なる異結晶の許容結晶方位差が大きく、大型翼でも精密鋳造プロセスでの歩留向上ができる特許文献3に記載された方向性凝固用高強度Ni基超合金が望ましい。特に、重量基準で、C:0.06%以上0.08%以下、B:0.016%以上0.035%以下、Hf:0.2%以上0.3%以下、Cr:6.9%以上7.3%以下、Mo:0.7%以上1.0%以下、W:7.0%以上9.0%以下、Re:1.2%以上1.6%以下、Ta:8.5%以上9.5%以下、Nb:0.6%以上1.0%以下、Al:4.9%以上5.2%以下、Co:0.8%以上1.2%以下、及び残部が実質的にNiでなる単結晶耐熱合金が、大型単結晶翼を構成する材料として実質的に適している。
【0022】
なお、本明細書においては、例えば「0.06%以上0.08%以下」は、「0.06%以上かつ0.08%以下」と同義であり、「0.06〜0.08%」と記載してもよいものである。他の数値範囲についても同様である。
【0024】
図1は、従来の耐熱合金部材の模式断面図を示したものである。
【0025】
本図に示す耐熱合金部材は、基材5の表面にボンドコート3とトップコート4とを基材5側から順に形成した構成を有している。
【0026】
基材5は、耐熱合金部材の強度を受け持つ部分である。基材5は、高温での強い応力や、起動停止に伴って繰り返される応力に曝されるため、高温でのクリープ強度、疲労強度などに優れた材料が選定される。
【0027】
基材5としては、発電用ガスタービン翼として、上記の合金組成を有する単結晶合金材を用いる。
【0028】
ボンドコート3は、基材5を腐食および酸化から保護する機能と、トップコート4の密着性を確保する機能とを担っている。
【0029】
通常、ボンドコート3としては、優れた耐食性及び耐酸化性を発揮するMCrAlY(Mは、Fe、Ni及びCoからなる群から選ばれる1種類以上の金属である。)が使用される。例えば、CoNiCrAlY(Co-32Ni-21Cr-8Al-0.5Y)やNiCoCrAlY(Ni-17Cr-23Co-12.5Al-0.5Y)が広く知られている。
【0030】
トップコート4は、遮熱のために耐熱合金部材の表面に配置され、高温の燃焼ガスと基材5との間に温度勾配を生じさせ、基材5の表面温度の上昇を防いでいる。
【0031】
トップコート4としては、熱伝導率が低い材料、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ:ZrO
2-6〜8Y
2O
3)が使用される。トップコート4の内部に多数の気孔を設けることにより、その熱伝導率を0.5〜2W/m・K程度とNi基合金の約1/10に低減することが可能である。
【0032】
以下に、
図1に示す耐熱合金部材の製造方法について説明する。
【0033】
まず、基材5の表面は、前処理としてブラスト処理が行われる。ブラスト処理は、基材5に珪砂等のような非金属粒や金属粒を高速度で噴きつけ、表面を粗面化し、清浄化する方法である。溶射においては、基材5とボンドコート3との密着性を確保するための工程となっている。
【0034】
ブラスト処理の後、耐酸化性及び耐食性を付与するボンドコート3は、減圧プラズマ溶射(Low Pressure Plasma Spray:LPPS)や高速フレーム溶射(High Velocity Oxy-fuel Frame-spraying:HVOF)により成膜される。
【0035】
ボンドコート3の厚さは、特に限定されないが、通常、約100〜200ミクロン程度である。
【0036】
ボンドコート3の成膜後、遮熱のためのトップコート4は、大気圧プラズマ溶射(Air Plasma Spray:APS)に溶射されるのが一般的である。
【0037】
トップコート4は、250〜300μmの厚さで施工されるのが通例である。
【0038】
以上の工程により、
図1に示す従来の耐熱合金部材が製造される。
【0039】
図2は、実施例である拡散バリア層を含む耐熱合金部材の構成を示す模式断面図である。
【0040】
本図に示す耐熱合金部材は、基材5の表面に拡散バリア層1と金属層2とボンドコート3とトップコート4とを基材5側から順に形成した構成を有している。
【0041】
基材5、ボンドコート3及びトップコート4は、
図1のものと同様である。
【0042】
拡散バリア層1は、基材5とボンドコート3との間で原子の拡散を防止する目的で配置されている。
【0043】
高温度の環境においては、ボンドコート3から主にAlが基材5に拡散し、基材5に二次反応層(SRZ)を形成し、基材5の組織が変化する。これにより、強度が低下する。ボンドコート3においては、基材5から、例えばCo、Mo、W、Ta、Nb、Ti、B、Cなどの元素が拡散をし、ボンドコート3の組成が変化する。これにより、耐食性及び耐酸化性が劣化する。
【0044】
拡散バリア層1は、基材5とボンドコート3との間の拡散を防止することにより、基材5の強度低下を抑制し、ボンドコート3の耐食性及び耐酸化性の維持に寄与する。
【0045】
拡散バリア層1は、拡散係数が小さいことが要求される。一般に、金属の場合、拡散係数が融点に反比例するため、高融点金属が好ましく、例えば、Ru又はReが選択される。さらに、拡散バリア層1には、高温で長時間にわたり分解せずに安定であることが要求され、基材5とボンドコート3との状態図における平衡相であることが好ましく、 例えばRe、Cr及びNiを含む金属間化合物のσ相が挙げられる。
【0046】
金属層2は、ブラスト処理時の衝撃から、拡散バリア層1の破壊を防ぐことを目的としている。
【0047】
金属層2を構成する金属としては、拡散バリア層1に比べて靭性に富む金属、例えばNi、Cr、Co、Fe、Pt、Pd、Irなどが選ばれる。これらの金属は、ブラスト処理時の衝撃を自らが変形することで吸収する。このうち、特にNi又はCoが望ましい。これによって、脆性を有する拡散バリア層1の破壊を防ぐことが可能となり、拡散バリア層1はその機能を維持することができる。
【0048】
また、金属層2は、高温でボンドコート3と次第に反応するが、Ni、Cr、Co及びFeは、ボンドコート3に含まれる元素であるため、組成を大きく変化させない範囲でボンドコート3の耐食性、耐酸化性などに悪影響を及ぼすことは無い。Pt、Pd及びIrは、ボンドコート3として広く使用されているMCrAlYなどの耐食性及び耐酸化性を向上させる元素として知られている。
【0049】
以下に、本発明の耐熱合金部材の製造方法について説明する。
【0050】
図3は、実施例である拡散バリア層を含む耐熱合金部材の製造方法を示すフロー図である。
【0051】
基材5の表面に設ける拡散バリア層1の密着性を向上させるため、表面酸化物の除去及び脱脂の前処理が行われる。方法については特に制限が無いが、表面酸化物の除去にはブラスト処理、耐水研磨紙による研磨、塩酸などによる酸洗が一般的な方法である。脱脂は、アセトン、ベンゼン、アルコールなどの有機溶剤を用いて行われるのが通例である。
【0052】
前処理の後、基材5表面に拡散バリア層1を成膜する(S1)。その方法は特に限らないが、めっきと熱処理との組み合わせによる施工が容易であり、工業上有利である。
【0053】
めっきは、膜厚の制御をミクロンオーダーで行うことが可能であり、液体を使用するプロセスであるため、複雑形状の部材にも容易に施工できるという利点を持つ。この点は、タービン翼などの複雑形状を持つ部材の施工に好適な方法である。
【0054】
溶射による成膜においては、膜厚は最低でも数十マイクルメートルとなり、膜厚の制御の精度に限界がある。一方、電子ビーム真空蒸着(Electron Beam Physical Vapor Deposition:EB-PVD)においては、高度な真空装置が必要である。また、EB-PVDにおいては、部材を真空装置内に設置し、真空に排気する必要があり、排気に長時間を必要とする。従って、特別な装置を必要としないめっきに比べて操業効率も劣る。
【0055】
例えば、拡散バリア層1としてRe、Cr及びNiを含む金属間化合物をめっきにより成膜する場合には、基材5の表面にRe-Cr-Ni層を任意の厚さでめっきした後、それぞれの層間の密着性を向上するために熱処理を行う。この熱処理により、めっきの際に層内に発生した応力や開放される。また、それぞれの層の界面が拡散により接合され、密着性が向上する。
【0056】
熱処理は、真空中や、アルゴン、窒素などの不活性雰囲気で行われるのが通例であるが、それだけに限定されず、工業的に拡散浸透処理と呼ばれる熱処理も含まれる。
【0057】
拡散浸透処理は、セメンテーションとも呼ばれ、部材の表面に他の金属元素又は非金属元素を拡散浸透させる熱処理の総称であり、部材を液体又は気体、金属、合金粉末などの固体に埋没させて行われる。工業的には、Alを拡散させるアルミナイジング、Crを拡散させるクロマイジングが広く行われている。
【0058】
めっき後の熱処理として拡散浸透処理を行うと、拡散バリア層1の組成を任意に選択することが可能である。Re、Cr及びNiを含む拡散バリア層1を形成する場合は、Re-Ni層をめっきで成膜し、クロマイジングを行うことも可能である。
【0059】
拡散バリア層1を成膜した後、その表面に金属層2を成膜する(S2)。その方法は特に限らないが、上述した理由によりめっきが好ましい形態である。金属層2の厚さは、5〜30μmである。
【0060】
5μm未満では、拡散バリア層1をブラストの衝撃から保護するのに不十分となる場合があり、30μmを越えると、ボンドコートと反応した際のボンドコートの組成変化が大きくなり、耐食性、耐酸化性等を悪化させる場合がある。
【0061】
金属層2の成膜により、その後の工程は、
図1に示した従来の耐熱合金部材の製造方法と同様に行うことができ、工業的に通常実施されている条件にてブラスト処理(S3)並びにボンドコート3及びトップコート4の溶射(S4)を行い、拡散バリア層1を含む耐熱合金部材を製造する(S5)。
【実施例1】
【0063】
ガスタービン部材としては、Ni-7Cr-1Co-0.8Mo-8.8W-1.4Re-0.8Nb-8.9Ta-5.1Al-0.25Hf-0.07C-0.02Bからなる組成の単結晶耐熱合金を棒状に鋳造し、直径1インチ、厚さ3mmに機械加工し、基材5とした。この合金は、本発明の特に望ましい組成範囲を有するものである。
【0064】
基材5の表面を600番のSiC耐水研磨紙で研磨した後、アセトン中で超音波洗浄を行って脱脂した。その後、電解めっきにより拡散バリア層1の成膜を行った。
【0065】
本実施例においては、電解Niめっきにより基材5の表面にNi層を析出させた後、蒸留水による洗浄を行い、連続して電解Reめっきを行うことによりRe層を析出させた。その後、電解Niめっき及び電解Reめっきをこの順で積層し、計3層のNi/Re層を成膜した。Ni層及びRe層の厚さはそれぞれ、約2μmとなるように成膜した。
【0066】
その後、熱処理としてクロマイジングを行った。めっき後の基材5をアルミナ坩堝中に設置し、Cr及びアルミナの混合粉末の中に埋没させた。混合粉末の配合は、重量比でCr:アルミナ=1:3であるが、任意の配合で実施が可能である。このアルミナ坩堝を真空加熱炉内に設置し、雰囲気を10
-3Paに排気した後、加熱を開始した。
【0067】
クロマイジングの後、試験片の洗浄及び脱脂を再び行い、めっきを用いて金属層2として電解Niを30μm成膜した。その後、溶射の前処理として、粒度24のアルミナ粒子を用いたブラスト処理を圧力5kgf/cm
2で行った。
【0068】
ボンドコート3としてCo-32Ni-21Cr-8Al-0.5Yの組成を持つ市販のCoNiCrAlY溶射粉末を高速フレーム溶射(HVOF)により約150μm溶射した。
【0069】
トップコート4についても、市販のイットリア安定化ジルコニア(YSZ)を大気圧プラズマ溶射(APS)により約300μm施工した。
【0070】
図4は、上記の実施例の拡散バリア層1と金属層2近傍の断面走査顕微鏡写真である。
【0071】
本図においては、基材5の表面に拡散バリア層1と金属層2とボンドコート3とが順に配置されている。
【0072】
ブラスト処理によって金属層2のNi層が変形しており、ボンドコート3との密着性に好ましい表面の凹凸が形成されているのが観察される。一方、拡散バリア層1には変形、亀裂などの欠陥は観察されず、金属層2がブラストの衝撃を吸収し、拡散バリア層1の保護に効果的であることが分かる。
【0073】
(比較例)
比較例として上述の方法で基材5の表面に拡散バリア層1を成膜した後、金属層2を配置せず、ブラスト処理をし、ボンドコート3及びトップコート4の溶射を行った試験片を作製した。
【0074】
図5は、上記の比較例の耐熱合金部材の走査顕微鏡写真を示したものである。この試験片は、観察のため、表面を樹脂11でコーティングしてある。
【0075】
本図に示すように、ブラスト処理後の断面観察を実施したところ、拡散バリア層1には、広範囲にわたる欠落や、多数の亀裂が観察された。ブラスト処理の衝撃により3層積層させた拡散バリア層1のうち1層が完全にブラストにより消失しており、拡散バリア層1が損傷を受け、その機能を失ってしまうことが明らかである。
【0076】
本発明の効果を確認するため、1100℃における高温暴露試験によって評価した。
【0077】
図4及び5に示す試験片に加え、拡散バリア層1及び金属層2を含まない、
図1に示す構造の試験片も作製した。ブラスト処理、ボンドコート3及びトップコート4の成膜条件は、
図4に示す実施例と同様である。
【0078】
図6は、
図4に示す実施例の試験片を1100℃で600hにわたって暴露した後、断面の走査顕微鏡写真を撮影したものである。本図より、実施例における基材5には機械的特性に有害な二次反応層(SRZ)が形成せず、拡散バリア層1が基材5とボンドコート3との間の拡散を効果的に抑制していることがわかる。
【0079】
一方、
図7に示す従来の拡散バリア層1の無い構造の試験片の場合、1100℃で600hにわたって暴露した後、基材5とボンドコート3との相互拡散に起因して基材5の表面層に針状のTCP相(Topologically Close-Packed相)が析出したSRZが顕著に観察され、基材5の強度低下が避けられない。
【0080】
上述の通り、
図2に示す実施例の耐熱合金部材においては、拡散バリア層1が有効に機能し、相互拡散が抑制された結果、SRZの形成が妨げられている。従って、燃焼温度の高温化に対応が可能となる。
【実施例2】
【0081】
実施例1と同じ組成の単結晶耐熱合金で形成された初段動翼23の燃焼ガスに曝される翼面に実施例1と同様のコーティングを施工することにより、発電用ガスタービン翼を得た。
【0082】
図8は、実施例の発電用ガスタービン翼を用いた発電用ガスタービンの概略を示したものである。
【0083】
本図において、ガスタービンは、圧縮機11、燃焼器12、タービン部13(動翼及び静翼を含む。)及び排気部14を含む構成である。
【0084】
図9は、
図8のA部を拡大して示したものであり、動翼及び静翼を含むタービン部13の詳細を示す断面図である。
【0085】
本図において、タービン部は、初段シュラウド21、2段シュラウド22、初段動翼23、2段動翼24、デイスク25、初段静翼26、2段静翼27及び燃焼器トランジッションピース28を含む構成である。
【0086】
本実施例の発電用ガスタービンでは、耐熱性に優れた単結晶コーティング翼を積載することにより、燃焼ガス温度の高温化が実現でき、ガスタービン発電効率40%級が達成できた。
【0087】
以上の通り、本発明について具体的な実施例を用いて説明したが、本発明は、これらの実施の形態にのみ限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。