(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
正極と、負極と、セパレータと、電解液とを含むリチウムイオン二次電池であって、前記正極は、請求項4記載のリチウムイオン二次電池用正極であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、高出力で放電する際の容量の劣化を抑制するリチウムイオン二次電池正極用導電剤及びこれを用いたリチウムイオン二次電池に関する。
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池正極用導電剤並びにこれを用いた正極材料、正極合剤、正極及びリチウムイオン二次電池について説明する。
【0018】
前記リチウムイオン二次電池正極用導電剤は、リチウムイオン二次電池の正極(又は正極合剤)に用いる導電剤であって、直径が0.5〜10nmであり、長さが10μm以上であるカーボンナノチューブ(Carbon Nanotube:CNT)を含むことを特徴とする。
【0019】
ここで、正極合剤は、正極活物質と、導電剤と、バインダとを含むものである。また、正極は、正極合剤を集電体に塗工した構成を有する。
【0020】
なお、本発明は、直径が小さく、長さが大きいカーボンナノチューブの新たな用途を見出したものである。すなわち、上記の寸法を有するカーボンナノチューブをリチウムイオン二次電池正極用導電剤に適用したものである。
【0021】
前記リチウムイオン二次電池正極用導電剤において、カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブであることが望ましい。
【0022】
前記リチウムイオン二次電池正極用導電剤において、カーボンナノチューブの炭素純度は、重量基準で99.9%以上であることが望ましい。カーボンナノチューブの炭素純度が99.9%以上であれば、導電剤としての添加重量が極少量で済み、電池の充放電における短絡や、容量劣化が起きにくい。
【0023】
前記リチウムイオン二次電池正極用導電剤において、カーボンナノチューブは、水分散された状態(水に分散された状態)で安定(保存可能)であることが望ましい。
【0024】
前記正極材料(リチウムイオン二次電池用正極材料)は、前記リチウムイオン二次電池正極用導電剤と、正極活物質とを含むことを特徴とする。
【0025】
前記正極材料において、正極活物質は、オリビン構造を有するリチウム酸化物であることが望ましい。
【0026】
前記正極材料において、正極活物質は、オリビンマンガンであることが望ましい。
【0027】
前記正極材料において、カーボンナノチューブの含有量は、重量基準で0.1〜0.6%であることが望ましい。
【0028】
前記正極合剤(リチウムイオン二次電池用正極合剤)は、前記正極材料と、バインダとを含むことを特徴とする。
【0029】
前記正極(リチウムイオン二次電池用正極)は、前記正極合剤を集電体に塗工した構成を有することを特徴とする。
【0030】
前記リチウムイオン二次電池は、前記正極と、負極と、セパレータと、電解液とを含むものである。
【0031】
以上の構成により、電池の容量を大きくすることができ、容量の劣化を抑制することができる。そして、大型化しても安全性が高く、寿命が長い電池を提供することができる。
【0032】
以下、実施例のCNTの特徴について説明する。
【0033】
CNTは、一枚の面状のグラファイトを巻いて筒状にした形状を有するものであり、繊維状炭素の一種である。CNTは、グラファイトの面における炭素原子同士の結合が非常に長距離にわたって連続しているため、導電性が高いことが知られている。より多くの導電経路を構築する観点から、繊維径の小さい繊維状炭素が好ましい。繊維状炭素は、炭化水素ガス等を利用し、アーク放電法、レーザー蒸発法、化学気相成長法等で得られる。
【0034】
CNTの製造方法には、He、Ar、CH
4、H
2などの雰囲気ガスのもとで、Ni、Co、Y、Fe等の金属触媒を含む黒鉛電極をアーク放電で蒸発させるアーク放電法、Ni−Co、Pd−Rdなどの金属触媒を混ぜた黒鉛にYAGレーザーを当てて蒸発させ、Arの気流で1200℃程度に加熱された電気炉に送り出すレーザー蒸発法、触媒としてペンタカルボニル鉄(Fe(CO)
5)を用いて一酸化炭素を高圧で熱分解するHiPCo法等がある。
【0035】
上記のようにして得られた導電剤として用いるCNTを含有する正極材料は、以下の方法により、電極として用いる正極と成すことができる。
【0036】
すなわち、正極活物質、正極用導電剤、正極用バインダ等を含む混合物に溶剤を加えて十分に混練して得た正極合剤ペーストを正極集電体の片面または両面に塗布し、乾燥した後、プレス等により所定の厚さ及び極密度を有する正極合剤層を形成することにより、正極とする。
【0037】
CNTのアスペクト比については、例えば、炭化水素(ベンゼン等)と水素ガス等の雰囲気ガスの濃度比が小さいほど、生成するCNTの直径が小さくなり、アスペクト比が大きくなる。また、反応時間が短いほど、生成するCNTの直径が細くなり、アスペクト比が大きくなる。
【0038】
CNTには、グラファイトの一枚面が筒状になった単層カーボンナノチューブ(シングルウォールナノチューブ(Single−Wall Carbon Nanotube:SWCNT))、及び、グラファイトの面が重なった多層カーボンナノチューブ(マルチウォールカーボンナノチューブ(Malti−Wall Carbon Nanotube:MWCNT))がある。
【0039】
SWCNTは、グラフェンシート一枚のため、MWCNTよりも直径を小さくすることができるという特徴を有する。一方、MWCNTの場合、直径が大きくなるため、長さ方向に成長する際に内部の重なったグラフェンシートの一部に欠陥が生じることがある。そうすると、電子伝導性が低下する可能性がある。
【0040】
また、MWCNTは、グラフェンの層の重なりが電子伝導性に対して相互作用を及ぼすため、SWCNTよりも電子伝導性が劣る場合がある。SWCNTは、グラフェンシートに欠陥がない場合は電子伝導性が優れているが、欠陥が見られる場合はそれよりも電子伝導性が劣る。
【0041】
SWCNT又はMWCNTを形成するグラフェンシートが理想的なものであって繊維径がSWCNTの方がMWCNTよりも小さい場合、SWCNTの方がMWCNTよりも電子伝導性が優れるため、導電剤として好ましい。但し、MWCNTの直径および長さがSWCNTと同等である場合にはその限りではない。
【0042】
実施例のCNTは、水分散されたもの(水溶液に分散されたもの)である。CNTは、一般に、凝集しやすい性質を有するが、水分散することにより、粉体の状態で正極活物質と混合するよりも容易に混合分散されやすくなるという利点がある。また、水分散することにより、繊維が長いCNTが折れにくくなるため、CNTの取り扱いが容易となる。
【0043】
CNTを水分散したものを正極活物質と混合し、スラリーとした後、乾燥してCNTを含む正極材料(CNT含有正極材料)を得る。望ましくは、CNTとしてSWCNTを用いる。上記のようにスラリーを一度乾燥することにより、正極活物質の表面にCNTが固定された状態となる。このため、バインダ及び溶剤を混合して正極合剤のスラリーを作製した場合にCNTのみが凝集することがなく、正極の内部抵抗が一様になる。
【0044】
これに対して、正極合剤のスラリーを作製する際、正極活物質とCNTとを別々に添加して混合すると、CNTのみが凝集するおそれがある。
【0045】
また、SWCNTは、有機溶媒を含む溶媒に分散されたものであっても良い。溶媒は、NMPやエタノール等の有機溶媒、又はこれらにポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の結着剤を混合したものであっても構わない。
【0046】
正極活物質は、特に限定されるものではないが、オリビン型結晶構造を有する正極活物質が望ましい。オリビン型結晶構造を有するリチウムマンガン複合酸化物(LiMnPO
4)は、更に好ましい。
【0047】
オリビン型結晶構造を有するリチウムマンガン複合酸化物は、Mg及びAlのうち少なくとも一方が含まれていると、より高いサイクル特性及び高温保存特性が得られる。
【0048】
また、スピネル構造を有するLiMn
2O
4、又はLiMnSO
4等のポリアニオン型化合物を用いることもできる。さらに、CuO、Cu
2O、Ag
2O、CuS、CuSO
4などのI族金属化合物、TiS
2、SiO
2、SnOなどのIV族金属化合物、V
2O
5、V
6O
12、VO
x、Nb
2O
5、Bi
2O
3、Sb
2O
3などのV族金属化合物、CrO
3、Cr
2O
3、MoO
3、MoS
2、WO
3、SeO
2などのVI族金属化合物、MnO
2、Mn
2O
3などのVII族金属化合物、Fe
2O
3、FeO、Fe
3O
4、FePO
4、Ni
2O
3、NiO、CoO
3、CoOなどのVIII族金属化合物が上記の正極活物質に添加されていてもよい。
【0049】
さらに、ジスイルフィド、ポリピロール、ポリアニリン、ポリパラフェニレン、ポリアセチレン、ポリアセン系材料などの導電性高分子化合物、擬似グラファイト構造炭素質材料等を上記の正極活物質に添加又は上記の正極活物質の表面にコーティングしたものを正極材料として用いてもよい。
【0050】
また、正極活物質の粒子の構成は、特に限定されるものではなく、凝集せずに単一の結晶で形成されていてもよく、単一の結晶で形成された粒子(一次粒子)が複数個集合(凝集)して形成された粒子(二次粒子)であっても良い。単一の結晶で形成された粒子を用いる場合、その粒子径は1nm〜10μmが望ましい。粒子径が大きすぎると、粒子間の接触が少ないために出力性能が低下する可能性がある。
【0051】
尚、正極活物質に対するCNT添加量が少なすぎると、導電剤の効果が十分に得られない。一方、CNT添加量が多すぎると、正極活物質、CNT、バインダ及び溶剤を含む正極合剤のスラリーを作製する際に、スラリー中にCNTの凝集物が発生し、粘度が急激に上昇する現象が起きる。このスラリーは、集電体の表面に塗布する際、CNTの凝集物が塗布ブレードに引っ掛かり、塗布面に筋が発生し、一定の膜厚で塗布が出来なくなる等の問題を生じる。
【0052】
CNTと正極活物質とからなる正極材料のうちCNTの割合は、重量基準で0.1〜0.6%が好ましい。安定なスラリーを作製することを考慮すると0.1〜0.25%が更に好ましい。
【0053】
負極活物質としては、炭素材料を使用することが望ましい。炭素材料の例としては下記のものが挙げられる。
【0054】
すなわち、天然黒鉛、人造黒鉛、無定形炭素、繊維状炭素、粉末状炭素、石油ピッチ系炭素及び石炭コークス系炭素である。これらの炭素材料は、直径が0.01〜10μmであることが好ましく、繊維状炭素の場合、繊維長さが2μm〜10mmであることが好ましい。また、負極活物質としてLi
4Ti
5O
12等の酸化物を使用しても構わない。Li
4Ti
5O
12は、金属リチウムに対する作動電位が約1.5V付近であり、リチウムデンドライド析出がなく、安全性も高いため、容量が大きく、かつ、安全性が高い電池を作製することができる。
【0055】
以下、正極用導電剤について説明する。
【0056】
従来、正極用導電剤として一般に用いられるものは、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料である。通常、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛など)、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカー、炭素繊維、銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金などの金属粉、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料(電子伝導性材料)を1種類用い、または2種類以上を混合して用いる。これらの中で、導電性及び塗工性の観点より、アセチレンブラックが好適に用いられている。その添加量は、1〜50重量%が好ましく、特に2〜30重量%が好ましいとされている。2種類以上を混合する場合は、物理的な混合を行う。その理想とするところは均一混合である。そのため、V型混合機、S型混合機、擂かい機、ボールミル、遊星ボールミル等の粉体混合機を乾式あるいは湿式で用いる。
【0057】
しかし、上記の導電剤は、少なくとも1〜50%ほど添加する必要があり、コンパクトで、かつ、大容量の電池を製造する上で問題となっている。
【0058】
実施例のCNTは、正極に含まれる導電剤の添加量を低減し、電池の大容量化を促進し、電池を長寿命化するものである。
【0059】
実施例のCNTについて以下に詳細に説明する。なお、以下の記載において単に「CNT」と呼ぶ場合は、実施例のCNTを意味する。
【0060】
実施例のCNTの製造方法は、支持体に支持された触媒の表面に炭素源を供給してCNTを合成するものである。支持体を加熱することにより触媒を高温度とし、炭素源を含む原料ガスを供給してCNTの合成を行う。合成されたCNTを回収し、その後、触媒の再生処理を行い、支持体及び触媒を繰り返し合成に利用する。
【0061】
(触媒)
本明細書において「触媒」とは、支持体上に担持されたものをいい、一般的な触媒を意味する。この触媒は、供給された炭素源と接触してCNTの合成の仲介、促進、効率化等を行うものである。「触媒」は、炭素源を取り込み、CNTを吐き出す役割を持つ材料を意味する。さらに、「触媒」は、ナノメーターオーダーの大きさを有する金属ナノ粒子であり、固体材料、半固体材料等で形成された支持体に保持されたものである。
【0062】
(支持体の種類)
支持体は、触媒、触媒担体(定義は後述する。)、触媒キャップ材(定義は後述する。)等を反応器内に保持するための構造体である。支持体は、一般的には固体材料が好ましい。支持体は、可能な限り支持体の単位体積当たりの表面積を大きくできるものが良く、具体的には、0.1〜10.0mm
2/mm
3以上の比表面積を有するものが好ましい。更に、支持体は、例えば、断面形状が六角形の六角パイプを並べたような構造として知られているハニカム構造であることが望ましい。ハニカム構造以外でも、多数の板材を並べたもの、波形の板材を並べたもの、断面矩形の角パイプを並べたような構造のもの等であっても良い。
【0063】
耐熱性、耐腐食性、耐薬品性、機械的強度特性等の面から、セラミックスを支持体の材料に用いることが好ましい。支持体には、Si、Al、Zr及びMgの群から選択される1種類以上の元素を含む公知のアルミナ系、炭化ケイ素系等のセラミックスを用いることが望ましい。ただし、支持体は、セラミックスに限定されるものではなく、Fe、Co及びNiの中から選択される1種類以上の元素を含む合金材料を用いても良い。
【0064】
(触媒/触媒担体の作製)
実施例の触媒の作製は、次のように行う。
【0065】
実施例の触媒は、触媒の原料を溶剤に溶解した液体原料を支持体の表面に接触させて乾燥することにより担持する。この場合に、液体原料に支持体を浸漬してから引き出し、乾燥してもよいし、支持体に液体原料のミストを通過させて担持してもよい。液体原料としては、硝酸塩、燐酸塩、塩化物等の金属無機塩の水溶液、アルコキシド、又は、酢酸塩等の金属有機塩の有機溶液を利用することができる。
【0066】
また、触媒は、触媒の原料を気体化させ、その気体原料を支持体の表面に接触させることにより担持してもよい。この場合は、触媒の気体原料を高温の支持体に供給し、支持体に触媒を担持する。
【0067】
また、高温の支持体に液体原料を供給して、高温の支持体の表面で液体原料を蒸発させ、支持体の表面に触媒を担持してもよい。触媒の原料としては、硝酸塩、燐酸塩、塩化物等の金属無機塩の水溶液、アルコキシド、又は、酢酸塩等の金属有機塩の有機溶液を利用することができる。特に、Fe触媒の場合は、フェロセンが好ましい。
【0068】
触媒は、その成分としてFe、Co、Ni、Mo及びCrの群から選択される1種類以上の元素を含むものが望ましい。また、触媒は、Si、Al、Mg、Zr及びMoの群から選択される1種類以上の元素を含む触媒担体の表面に形成することが望ましい。
【0069】
ここで、「触媒担体」は、金属ナノ粒子を付着させた材料であり、SiO
2、Al
2O
3、アルミノシリケート、MgO等の酸化物、Si
3N
4やAlN等の窒化物、又は、SiC等の炭化物で形成されている。ただし、支持体が担体の機能を兼ねても良い。
【0070】
触媒担体のAl源としては、Al(NO
3)
3、AlCl
3等のAlを含む無機塩、有機アルミニウムが好ましい。触媒担体のSi源としては、Siを含む無機物又は有機物が使えるが、取り扱いの容易性等からTEOSが好ましい。触媒は、Si、Al、Mg、Zr及びMoの群から選択される1種類以上の元素を含む触媒キャップ材で部分的に覆われていると良い。ここで記述した「触媒キャップ材」は、触媒の表面を部分的に覆うことで、触媒を触媒担体又は支持体の間に挟みこむ機能を有する材料である。「触媒キャップ材」は、触媒の表面に自然に形成される酸化被膜等である。
【0071】
本明細書において、「触媒キャップ材」は、金属ナノ粒子の上に形成されるSiO
2、Al
2O
3、MgO等の酸化物、Si
3N
4、AlN等の窒化物、又は、SiC等の炭化物で形成されている層と定義する。この「触媒キャップ材」は、金属ナノ粒子の凝集を抑える等の作用で、触媒の特性を向上する場合がある。
触媒及び担体原料であるAl、Fe又はCoの原料として、これらの元素を含む有機原料又は無機原料を利用することができる。
【0072】
具体的には、触媒及び担体原料のAl源として、塩化アルミニウム(AlCl
3)、アルミニウムイソプロポキシド(Al(iso−OC
3H
7)
3)、アルミニウムアセチルアセトナート(Al(iso−C
5H
7O
2)
3)及びトリメチルアルミニウム(Al(CH
3)
3)からなる群から選択される1種類以上の物質が好ましい。
【0073】
触媒及び担体原料のFe源として、トリス(2,4−ペンタンジオナト)鉄(III)(Fe(C
5H
7FeO
2)
3)、フェロセン((C
5H
5)
2Fe)、硝酸鉄(III)九水和物(Fe(NO
3)
3・9H
2O)及び鉄カルボニル(Fe(CO)
5)からなる群から選択される1種類以上の物質が好ましい。
【0074】
触媒及び担体原料のCo源として、トリス(2,4−ペンタンジオナト)コバルト(III)(Co(C
5H
7O
2)
3)及び硝酸コバルト(II)六水和物(Co(NO
3)
2・6H
2O)からなる群から選択される1種類以上の物質が好ましい。
【0075】
(支持体の加熱)
前述した支持体の加熱は、次の方法を採用すると良い。
【0076】
実施例においては、CNTを熱CVD法により合成する。この熱CVD法は、気体又は液体の原料を加熱して気化し、その蒸気の気相中、或いは基材表面における化学反応により薄膜を形成する方法である。この化学反応を起こさせるエネルギーを、基材や反応容器壁から熱エネルギーの形で与えるものが、熱CVD法として知られている。
【0077】
この加熱方法は、反応器全体を加熱炉によって加熱しても良い。また、支持体を通電加熱しても良い。つまり、通電加熱は、反応器全体を加熱炉により加熱する代わり、支持体のみを加熱する方法である。なお、加熱手段としては、電気炉、燃焼炉、熱交換又は赤外線加熱を利用することができる。また、支持体が導電性材料で形成されている場合は、加熱手段として通電加熱又は誘導加熱も利用できる。
【0078】
ここで、加熱された反応器内の温度は、触媒粒子の溶融温度以上の温度で、炭素源の分解の温度より低い温度が好ましい。担持触媒を用い、CVDでSWCNTを成長させる温度範囲は、400〜1200℃程度が好ましい。また、ハニカム構造の支持体を用いてSWCNTの合成を行なう際、600〜1000℃の温度範囲が特に好ましい。
【0079】
(炭素原料)
炭素源の原料は、アルカン(パラフィン炭化水素)、アルケン(オレフィン炭化水素)、アルコール、エーテル、アルデヒド、ケトン、芳香族、アセチレン及び一酸化炭素からなる群から選択される1種類以上を含むことが望ましい。炭素源の原料を含む気体を0.001MPa(0.01気圧)〜1.013MPa(10気圧)で、前述した触媒に送気させることにより熱CVDを行うと良い。
【0080】
(炭素原料及びキャリアガスを含む混合ガス)
炭素原料である揮発性化合物を気化させて水素、アルゴン、窒素等のキャリアガスに混合し、上記の触媒に送気する。混合気体には、酸素を元素として含むことが望ましい。
【0081】
(分離・回収)
合成されたCNTは、触媒、触媒キャップ材、触媒担体、支持体等の表面又は近傍に、積層、又は滞留するため、これを分離してCNTのみを回収する必要がある。合成されたCNTの分離は、非定常のガスパルス又は定常のガス流によりに行うと良い。非定常のガスパルスとは、アルゴン、窒素等の不活性ガスの流速を一定周期でパルス状に変化させることをいう。定常のガス流とは、流速が一定の不活性ガス流をいう。
【0082】
合成されたCNTは、これらのガス流の動圧によって、触媒、触媒キャップ材、触媒担体、支持体等の表面又は近傍から分離される。流体の運動エネルギーは、圧力のディメンジョンを有しており、これが動圧である。この動圧により分離されたCNTを含む気体をフィルターで濾過して、CNTを捕集する。
【0083】
別法として、分離されたCNTを含む気体を液体と接触させ、CNTを液体中に捕集することもできる。また、分離されたCNTを含む気体をガス流により、このガス流の温度より低温の固体壁又は液体壁に接触させて、CNTを熱泳動で捕集することもできる。
【0084】
(触媒の再生処理)
実施例の触媒の再生処理とは、CNTの生産により劣化、不活性化又は消耗した触媒を定期的又は不定期に再生することをいう。触媒の再生処理は、触媒の酸化処理を伴うと良い。この酸化処理は、空気中の酸素で加熱処理する方法であっても良い。酸化処理には、酸化剤を利用してもよい。酸化剤としては、酸素又は水蒸気を利用することができる。共存ガスに含まれる水蒸気及び酸素等も酸化剤として利用できる。
【0085】
酸化処理の後、還元ガスを触媒の表面に送り込んで接触させることにより触媒を還元する。また、酸化処理の後、炭素源を触媒面に送り込んで接触させることにより触媒を還元してもよい。これにより、触媒の再生処理を行うことができる。
触媒の還元処理においては、水素等の還元ガスを流す方法、触媒原料をスパッタ成膜する際にキャリアガスとして水素を混合し、この水素を還元剤として使用する方法を用いてもよい。さらに、触媒の再生処理においては、触媒に含まれる元素の補給を伴うものとしてもよい。
【0086】
上述の酸化処理及び還元処理は、選択された触媒の種類に応じて、公知の酸化剤及び還元剤を使用する。上述の補給は、触媒を構成する元素を含む気体を触媒の表面に送り込んで接触させることにより行ってもよい。また、上述の補給は、予め触媒及び/又は支持体に触媒用の元素を含ませ、触媒担体の表面にこの元素を徐々に拡散させることにより行ってもよい。
【0087】
上記の還元ガスとしては、水素(H
2)、アンモニア(NH
3)等を用いることができる。また、炭素源自体をも還元剤に兼用することもできる。炭素源としては、CH
4、C
2H
6等のアルカン、C
2H
4、C
3H
6等のアルケン、C
2H
2等のアルキン、CH
3OH、C
2H
5OH等のアルコール及びCOを利用することができる。さらに、アルデヒド、ケトン等のC、H及びOを構成元素として含む分子も炭素源として利用できる。
【0088】
(SWCNT)
実施例のCNTの製造方法は、各種の構造を有するCNTの製造が可能であるが、とりわけ、SWCNTの製造に適した方法である。
【0089】
(CNTの製造方法)
実施例のCNTの製造方法の概要は、次の通りである。
【0090】
実施例のCNTの製造方法は、大量に、かつ、連続的に合成するためのCNTの製造方法に特徴がある。
【0091】
まず、比表面積の大きい固体で形成された支持体に、ナノ粒子触媒を担持する(第1工程)。
【0092】
支持体に担持したナノ粒子触媒を加熱し、キャリアガス等に混合した揮発性化合物である炭素源を供給することにより、ナノ粒子触媒(支持体)の表面にCNTを成長させる(第2工程)。
【0093】
CNTの合成後、支持体、触媒、触媒キャップ材、触媒担体等の表面又は近傍に積層又は滞留しているCNTを、不活性ガス等のガスを送風して分離する(第3工程)。なお、このガスの送風は、一定周期で速度の変動を繰り返すパルス状の送風、又は一定速度で行われる。
【0094】
その後、分離されたCNTを回収する(第4工程)。
【0095】
この後、ナノ粒子触媒を担持した支持体を再生する(第5工程)。つまり、支持体を繰り返し利用するため、支持体上の触媒の再生を行う。ただし、この支持体の再生は、定期、又不定期の間隔で行っても良い。
【0096】
触媒の再生を行った後、上記の第2工程に戻り、支持体とともにナノ粒子触媒を加熱し、炭素源を供給することによりCNTを成長させる。その後、第3工程〜第5工程を繰り返す。
【0097】
以上のように、ナノ粒子触媒を担持した支持体を再生し、CNTの合成を連続的に行う。
【0098】
得られたCNTを水に分散調製する方法について以下に説明する。
【0099】
分散調製する方法としては、水中にこれらを一括にして添加し分散する方法、及び、分散助剤を予め水中に混合して分散助剤の水溶液を作製しておき、この水溶液にCNTを混合して分散する方法があるが、後者の方法が好ましい。
【0100】
水分散した(水溶液に分散した)カーボンナノチューブを予め正極活物質と混合するプロセスによって、カーボンナノチューブを正極材料に均一に分散することが可能となる。
【0101】
CNTの分散に使用可能な分散助剤としては、炭素数6〜22の脂肪酸(例えば、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、ステアロール酸等)、上記脂肪酸とアルカリ金属(Li、Na、K等)またはアルカリ土類金属(Mg、Ca、Ba等)とで構成された金属石鹸、脂肪族アミン、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等のカップリング剤、高級アルコール、ポリアルキレンオキサイドリン酸エステル、アルキルリン酸エステル、アルキルホウ酸エステル、サルコシネート類、ポリアルキレンオキサイドエステル類、レシチン等の化合物、アルキレノキサイド系、グリセリン系等のノニオン性界面活性剤、高級アルキルアミン類、第4級アンモニウム塩類、ホスホニウム、スルホニウム等のカチオン性界面活性剤、カルボン酸、スルホン酸、リン酸、硫酸エステル、リン酸エステル基等のアニオン性界面活性剤、アミノ酸、アミノスルホン酸、アミノアルコールの硫酸エステル又はリン酸エステル等の両性界面活性剤;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール又はその変性体、ポリアクリルアミド、ポリヒドロキシ(メタ)アクリレート、スチレン−マレイン酸共重合体などの水溶性ポリマー類などがある。これらのうち、カルボキシメチルセルロース以下の水溶性ポリマー類は、炭素化合物である導電剤を特に良好に分散させるため好ましく、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール又はその変性体、スチレン−マレイン酸共重合体は特に好ましい。これらの分散助剤は単独でも2種類以上を混合しても使用することができる。
【0102】
CNTを水中に分散させるためには、ミキサーやホモブレンダーなどの公知の分散機又は分散方法を用いることができる。
【0103】
実施例のCNTは、それだけでも導電剤としての機能を果たすことができるが、必要に応じて、他の導電剤を添加することができる。
【0104】
他の導電剤としては、特に限定されるものではなく、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛など)、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカー、炭素繊維;銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金などの金属粉、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料を1種類用いてもよく、2種類以上用いてもよい。これらのうち、導電性及び塗工性の観点より、アセチレンブラックが望ましい。その添加量は、1〜50重量%が好ましく、特に2〜30重量%が好ましい。
【0105】
これらの混合方法は、物理的な混合であり、その理想とするところは均一混合である。そのため、V型混合機、S型混合機、擂かい機、ボールミル、遊星ボールミル等の粉体混合機を乾式又は湿式で用いることが可能である。
【0107】
負極には、必要に応じて、その電極合剤に導電剤、結着剤、フィラー等を添加することができる。
【0108】
導電剤としては、特に限定されるものではなく、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛など)、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカー、炭素繊維;銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金などの金属粉、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料を1種類用いてもよく、2種類以上用いてもよい。これらのうち、導電性及び塗工性の観点より、アセチレンブラックが望ましい。その添加量は、1〜50重量%が好ましく、特に2〜30重量%が好ましい。
【0109】
これらの混合方法は、物理的な混合であり、その理想とするところは均一混合である。そのため、V型混合機、S型混合機、擂かい機、ボールミル、遊星ボールミル等の粉体混合機を乾式又は湿式で用いることが可能である。
【0110】
正極合剤及び負極合剤に用いる結着剤としては、テトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、カルボキシメチルセルロース等の熱可塑性樹脂、ゴム弾性を有するポリマー、多糖類等を用いることができる。これらを2種類以上混合して用いることもできる。
【0111】
多糖類のように、リチウムと反応する官能基を有する結着剤は、例えばメチル化するなどしてその官能基を失活させておくことが望ましい。その添加量は、1〜50重量%が好ましく、特に2〜30重量%が好ましい。
【0112】
また、上記の結着剤の中にCNTを混入させることも可能である。結着剤の中にCNTを混合させることにより、正極活物質やフィラーの隙間にCNTを含む結着剤が入り込み、粒子間の導通を向上させることができる。この場合、結着剤は導電性結着剤として役割を果たすことになる。
【0113】
正極合剤及び負極合剤に用いるフィラーとしては、特に限定されるものではなく、ポリプロピレン、ポリエチレン等のオレフィン系ポリマー、エアロゲル、ゼオライト、ガラス、炭素等を用いることができる。フィラーの添加量は0〜30重量%が好ましい。
【0114】
さらに、大容量化を目的として、カルコゲン元素(硫黄、セレン及びテルル)を含む物質を添加することも可能である。添加されたカルコゲン元素は、電極材料にジスルフィド基(S−S結合)を付加し、更なる充放電容量を与える。カルコゲン元素の添加量は0〜30重量%が好ましい。
【0115】
電気化学的活性物質の集電体としては、構成された電池において悪影響を及ぼさない電子伝導体であれば特に限定されるものではない。例えば、正極用集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス等のほか、接着性、導電性及び耐酸化性の向上を目的として、アルミニウムや銅等の表面をカーボン、ニッケル、チタン、銀等で処理した材料を用いることができる。
【0116】
負極用集電体としては、銅、ニッケル、鉄、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al−Cd合金等のほか、接着性、導電性及び耐酸化性の向上を目的として、銅等の表面をカーボン、ニッケル、チタン、銀等で処理した材料を用いることができる。これらの材料については表面を酸化処理してもよい。
【0117】
集電体としては、フォイル状のほか、フィルム状、シート状、ネット状、パンチされたもの、エキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体等が用いられる。厚さは、特に限定はないが、1〜500μmのものが用いられる。
【0118】
これらの集電体の中で、正極には耐酸化性に優れているアルミニウム箔が好ましく、負極には還元場において安定で、且つ、導電性に優れ、安価である銅箔、ニッケル箔、鉄箔、およびそれらの一部を含む合金箔が好ましい。さらに、電気化学的活性物質層と集電体との密着性が優れている粗面表面粗さRaが0.2μm以上の箔であることが望ましい。このような粗面を有する集電体として電解箔が優れている。
【0119】
以下、CNTを電極に添加する方法について説明する。
【0120】
実施例のCNTは、その分散液を作製した後、正極活物質を加えて混合し、これを乾燥した後、結着剤、及びCNT以外の導電剤等を混合して正極合剤とする。ここで、正極活物質を加えて混合し、一旦乾燥することが特徴である。
【0121】
実施例のCNTは、長尺で(繊維が長く)、かつ、高純度であるという特徴を有する。具体的には、実施例のCNTは、直径2〜8nm、長さ約1mmであり、炭素純度99.9重量%以上である。そのため、正極活物質粒子間を効率的に繋ぐことができ、粒子間の電子伝導性を高めることができる。
【0123】
図1は、従来の正極の微視的な構成を示す部分拡大断面図である。
【0124】
正極は、集電体151と、その表面(両面)に塗工された正極合剤層とで構成されている。なお、本図においては、集電体151の片面の近傍部分を示している。
【0125】
本図において、正極合剤層は、正極活物質101と、導電剤103、113と、バインダ104とを含む。正極活物質101は、一次粒子であり、複数個の一次粒子が凝集して二次粒子102を形成している。1個の二次粒子102の範囲は、破線の円で表している。正極合剤層は、複数個(多数)の二次粒子102が重なったものである。バインダ104は、二次粒子102同士及び二次粒子102と集電体151との密着性を高めるものである。導電剤103、113としては、通常、正極活物質101に比べて非常に微細な粒子状のものが用いられている。導電剤103、113は、正極活物質101の表面(又は表面近傍)に付着した状態であり、正極活物質101がリチウムイオンを吸蔵・放出する際に正極活物質101に発生する電荷を集電体151に伝達する機能を有する。このうち、導電剤113は、二次粒子102同士を導通する機能を有するものである。
【0126】
本図に示す従来の構成においては、導電剤103、113のすべてが導通に直接寄与するとは限らないため、導電剤103、113の添加量を多くする必要があった。また、導電剤103、113が粒子であるため、これらの粒子間の接触抵抗もあり、この接触抵抗が電池の内部抵抗の要因となる場合もあると考えられる。
【0127】
図2は、実施例の正極材料を示す模式構成図である。
【0128】
本図において、正極材料は、正極活物質101と、導電剤であるカーボンナノチューブ105、115とを含む構成である。正極活物質101は、一次粒子であり、複数個の一次粒子が凝集して二次粒子102を形成している。1個の二次粒子102の範囲は、破線の円で表している。
【0129】
カーボンナノチューブ105、115のうち、カーボンナノチューブ105は、一次粒子である正極活物質101同士の間に入り込み、複数個の正極活物質101の表面に接触して、導電性を高めている。一方、カーボンナノチューブ115は、二次粒子102同士の間に入り込み、二次粒子102の間の導通に寄与している。また、カーボンナノチューブ105、115は、繊維状で長いため、二次粒子102の外側にひげ状に突出した部分を有するものもある。
【0130】
図3は、実施例の正極の構成を示す部分拡大断面図である。
【0131】
すなわち、本図に示す正極は、
図2の正極材料にバインダ104を混合し、集電体151の表面(両面)に塗工したものである。なお、本図においては、集電体151の片面の近傍部分を示している。
【0132】
本図においては、カーボンナノチューブ105、115が導電剤としての機能を有する。カーボンナノチューブ105、115は、二次粒子102の外側に突出した部分を有し、その一部が集電体151に接触している。
【0133】
カーボンナノチューブ105、115は、繊維が長いため、1本1本が何らかの形で正極活物質101又は他のカーボンナノチューブ105、115と接触して導通に寄与する確率が粒子状の導電剤に比べて高いと考えられる。このため、カーボンナノチューブ105、115の添加量が少ない場合であっても、正極合剤層の導電性を高めることができる。また、カーボンナノチューブ105、115は、粒子状の導電剤に比べて、正極活物質101から集電体151までを少ない本数で電気的に接続するため、接触抵抗が小さくなる。
【0134】
カーボンナノチューブ105、115が短すぎると、正極活物質101から集電体151までを少ない本数で電気的に接続するという所期の目的が達成されない。一方、カーボンナノチューブ105、115が長い場合には、多数の正極活物質101と接触する確率が高くなり、かつ、集電体151と接触する確率も高くなる。
【0135】
正極合剤層の厚さは、後述の実施例において示すように、10〜20μm程度の場合もある。また、正極活物質101の一次粒子の粒径は、1nm〜10μm程度であり、正極活物質101の二次粒子の粒径は、1〜20μm程度である。したがって、カーボンナノチューブ105、115の長さ(繊維長)は、10μm以上が望ましく、20μm以上が更に望ましく、50μm以上が更に望ましく、100μm以上が更に望ましく、500μm以上が特に望ましい。
【0136】
ここで、繊維長とは、カーボンナノチューブ105、115(繊維)の全長をいう。すなわち、繊維が折れ曲がっている場合には、繊維に沿う曲線の長さを意味する。
【0137】
また、カーボンナノチューブ105、115は、一枚の面状のグラファイトを筒状にしたものであるため、その直径が大きすぎると体積当たりの充填効率が低下し、大容量化や導電性向上の阻害要因となるおそれがある。したがって、カーボンナノチューブ105、115の直径は、0.5〜10nmが望ましく、0.5〜5nmが更に望ましく、1〜5nmが特に望ましい。
【0138】
なお、本図に示す実施例においては、正極活物質101とカーボンナノチューブ105、115とを含む正極材料を混練して作製した後、一旦乾燥し、その後、バインダ104と混合している。このため、乾燥した正極材料に含まれる正極活物質101の一次粒子は、凝集して二次粒子を形成している。このため、バインダ104は、正極活物質101の二次粒子の表面に付着するものが多く、正極活物質101の二次粒子の内部に入り込むものは少ない。この構成は、導電性向上の観点から、有効であると考える。
【0139】
図4は、カーボンナノチューブに加えて粒子状の導電剤を添加した正極の構成を示す部分拡大断面図である。
【0140】
本図においては、カーボンナノチューブ105、115及び導電剤103、113の相乗効果により、正極合剤層の導電性を高めることができる。カーボンナノチューブ105、115があるため、導電剤103、113は少量でも十分である。
【0141】
次に、実施例のリチウムイオン二次電池の構成について説明する。
【0142】
図5は、捲回型非水電解液二次電池の一例を示したものである。本図においては、同一部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0143】
本図においては、集電体の両面に正極材料を塗布した正極1と、集電体の両面に負極材料を塗布した負極3とが直接接触しないように、正極1と負極3と間にセパレータ2を配置して捲回することにより、電極群を形成している。この電極群は、SUS製の電池缶4に挿入してある。セパレータ2は、微多孔性ポリプロピレンフィルムで形成されている。
【0144】
電池缶4には、非水電解液(例えば、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とを体積比で1:2とした混合溶媒に1.0モル/リットルのLiPF
6を溶解させたもの)を注入してある。電池缶4は、ガスケット9を取り付けた電池蓋11を用いて密閉してある。正極1のリード片である正極タブ5は、電池蓋11に電気的に接続してある。また、負極3のリード片である負極タブ6は、電池缶4の底部に電気的に接続してある。内蓋7と電池蓋11との間には、PTC素子10(正温度係数素子)が設けてあり、温度上昇が起こった際に電流を電気的に遮断する構造としている。また、電池蓋11の内側には、内圧開放弁8が設けてあり、電池の内圧が所定の値以上となった場合に開放されるようになっている。
【0145】
正極1については、正極集電体の一端部に正極合剤ペーストを塗布していない集電体露出部を設け、一部または両端部にタブを溶接して、正極タブ5としている。また、集電体露出部を折り返すことにより、集電体の一端部または両端部に正極リードを設け、集電体の一部又は両極部にタブを溶接して正極タブ5としてもよい。
【0146】
負極3については、負極集電体の一部に負極合剤ペーストを塗布していない集電体露出部を設け、一部または両端部にタブを溶接して、負極タブ6としている。また、集電体露出部を折り返すことにより、集電体の一端部または両端部に負極リードを設け、集電体の一部または両極部にタブを溶接して負極タブ6としても良い。
【0147】
電池缶4としては、鉄、ステンレススチール、アルミニウム等の金属缶を用いることが可能であるが、重量当たりのエネルギー密度の観点から、金属箔及び樹脂フィルムを積層した金属樹脂複合材が好ましい。
【0148】
金属樹脂複合材に用いる金属箔の例として、アルミニウム、鉄、ニッケル、銅、SUS鋼、チタン、金、銀等、ピンホールのない箔であれば限定されないが、好ましくは軽量で且つ安価なアルミニウム箔を用いる。また、金属樹脂複合材に用いる樹脂フィルムとしては、電池の外表面となる部位には、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ナイロンフィルム等の突き刺し強度に優れた樹脂フィルムを、電池の内表面となる部位には、ポリエチレンフィルム、ナイロンフィルム等の熱可塑性であって融着可能なフィルムを用いることが好ましい。耐溶剤性の観点から、このような樹脂フィルムの開口部を熱可塑性樹脂で封止することが望ましい。
セパレータ2は、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリアクリロニトリル系、ポリフェニレンサルファイド系、ポリイミド系又はフッ素樹脂系の微孔膜や不織布を用いることが可能である。これらのうち、濡れ性の低い(疎水性)微孔膜には界面活性剤等で処理を施すことが必要となる。
【0149】
セパレータ2の空孔率は、強度の観点から98体積%以下が好ましい。また、充放電特性の観点から、空孔率は20体積%以上が好ましい。
【0150】
但し、セパレータ2の負極側に表面処理を行った場合、空孔率は上記の範囲でなくてもよい。
【0151】
非水電解質電池に用いる非水電解質は、限定されるものではない。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどの環状炭酸エステル;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトンなどの環状エステル;ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの鎖状炭酸エステル;酢酸メチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル;テトラヒドロフランまたはその誘導体、1,3−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、メチルジグライムなどのエーテル類;アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;ジオキサランまたはその誘導体;スルホラン、スルトンまたはその誘導体などの単独またはそれら2種以上の混合溶媒にLiClO
4、LiBF
4、LiAsF
6、LiPF
6、LiCF
3SO
3、LiCF
3CO
2、LiSCN、LiBr、LiI、Li
2SO
4、Li
2B
10Cl
10、NaClO
4、NaI、NaSCN、NaBr、KClO
4、KSCN等のLi、NaまたはKを含む無機イオン塩、LiN(CF
3SO
2)
2、LiN(C
2F
5SO
2)
2、(CH
3)
4NBF
4、(CH
3)
4NBr、(C
2H
5)
4NClO
4、(C
2H
5)
4NI、(C
3H
7)
4NBr、(n−C
4H
9)
4NClO
4、(n−C
4H
9)
4NI、(C
2H
5)
4N−maleate、(C
2H
5)
4N−benzoate、(C
2H
5)
4N−phtalateなどの四級アンモニウム塩、ステアリルスルホン酸リチウム、オクチルスルホン酸リチウム、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウムなどの有機イオン塩等を1種類又は2種類以上混合したもの等を用いることができる。
【0152】
上記の電解液は、正極1と負極3との間にセパレータ2を挟み込み、積層又は捲回をした後に注液することが可能である。注液法としては、常圧で注液することも可能であるが、真空含浸法や加圧含浸法を用いることも可能である。
【0153】
非水電解質としては、イオン液体やリチウム伝導性の固体電解質(−20〜60℃にあって固体あるいは固形状である。)も用いることができる。この固体電解質は、上記塩を含む高分子で構成される。上記塩を含む高分子の電解質としては、該リチウム塩を溶解したポリエチレンオキサイド誘導体又は少なくとも該誘導体を含むポリマー、ポリプロピレンオキサイド誘導体又は少なくとも該誘導体を含むポリマー、ポリフォスファゼンや該誘導体、イオン解離基を含むポリマー、リン酸エステルポリマー誘導体、ポリビニルピリジン誘導体、ビスフェノールA誘導体、ポリアクリロニトリル、ポリビニリデンフルオライド、フッ素ゴム等に非水電解液を含浸した高分子マトリックス材料(ゲル電解質)、及び無機固体電解質等のイオン伝導性化合物が挙げられる。
【0154】
次に、正極及び負極の構成について実施例を用いて説明する。ただし、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0155】
(正極の作製)
まず、正極活物質の作成方法を説明する。
【0156】
酢酸リチウム・二水和物〔Li(CH
3COO)・2H
2O〕と、酢酸マンガン・四水和物〔Mn(CH
3COO)
2・4H
2O〕と、リン酸二水素アンモニウム〔NH
4H
2PO
4〕とをモル比で1:1:1となるように秤量し、これらを溶媒である純水に溶かし、原料混合液を調製した。次いで、得られた原料混合液に、ゲル化剤であるグリコール酸〔C
2H
4O
3〕を酢酸リチウム・二水和物:グリコール酸=1:5のモル比となるように添加し、得られた組成物を大気中600℃で焼成を行うことにより、LiMnPO
4を合成し、正極活物質とした。
【0157】
この正極活物質と導電剤であるCNTとが重量比で94.8:0.20となるようにCNT分散液を正極活物質に加え、マグネチックスターラで撹拌混合した。正極活物質とCNT分散液との混合溶液は、減圧下における加熱乾燥又は空気中における加熱乾燥により水分を除去して粉末状にし、その後、100℃で2時間真空乾燥して、CNT含有正極材(正極材料)とした。
【0158】
CNT含有正極材と結着剤であるPVDFとが重量比で95:5となるようにPVDFの濃度が12重量%であるNMP溶液を混合してペーストを作製した。本実施例において用いたCNTの長さ(全長)の平均値は、約1mmである。
【0159】
このペーストを厚さ20μmのアルミニウム箔に塗布した後、80℃で乾燥した。
【0160】
その後、120℃で真空乾燥した後、合剤層の多孔質度が35%となるようにプレスし、正極とした。
【0161】
(負極の作製)
負極活物質として黒鉛を用い、この負極活物質95重量%と、アセチレンブラック5重量%と、PVDF(結着剤)の濃度が13重量%であるNMP溶液5重量%とを混合してペーストを作製した。このペーストを厚さ10μmの銅箔に塗布した後、80℃で乾燥した。その後、100℃で真空乾燥した後、合剤層の多孔度が35%となるようにプレスし、負極とした。
【0162】
(電解液)
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との体積比が3:7である混合溶媒に1MのLiPF
6を溶解した非水処理液を作製し、電解液とした。
【0163】
(電池の作製)
電池は、
図5に示す捲回型電池として作製した。上記の正極及び負極と厚さ30μmのポリエチレン製のセパレータとを用い、これらを重ねて捲回して電極群とし、電池缶に挿入し、電解液を注入し電池とした。
【0164】
(電池の充放電評価)
上記のように作製した電池は、電流密度0.5mA/cm
2の定電流で、充電電圧4.3V、放電電圧2Vで3サイクル充放電を行った(初期充放電)。その後、電流密度を0.5mA/cm
2の定電流で、充電電圧4.3Vまで充電し、電流密度を8mA/cm
2で2Vまで放電させた際の放電容量を測定した(4サイクル目)。次に、電流密度を0.5mA/cm
2の定電流で、充電電圧4.3Vまで充電し、電流密度を13mA/cm
2で2Vまで放電させた際の放電容量を測定した(5サイクル目)。
【0165】
上記の初期充放電における3サイクル目の放電容量を基準(分母)として、放電の電流密度8mA/cm
2(4サイクル目)及び13mA/cm
2(5サイクル目)における放電容量の割合を算出し、それぞれ、8mA/cm
2及び13mA/cm
2の容量維持率(%)とした。
【実施例2】
【0166】
正極を作製する際、正極活物質と導電剤であるCNTとが重量比で94.9:0.10となるようにCNT分散液を正極活物質に加えて混合したこと以外は、実施例1と同様にして電極を作製し、測定を行った。
【0167】
(参考例)
正極を作製する際、正極活物質と導電剤であるCNTとが重量比で93.95:0.050となるようにCNT分散液を正極活物質に加えて混合し、CNTを含む正極材料を得た後、PVDFを混合する際に導電補助剤としてアセチレンブラック(AB)を正極活物質とCNTとABとが重量比で93.95:0.050:1.0となるように混合したこと以外は、実施例1と同様にして電極を作製し、測定を行った。
【0168】
本実施例は、CNT以外に少量の導電補助剤を添加することにより、容量維持率の高い正極合剤を作製することができることを示している。
【実施例3】
【0169】
正極を作製する際、正極活物質と導電剤であるCNTとが重量比で94.5:0.50となるようにCNT分散液を正極活物質に加えて混合したこと以外は、実施例1と同様にして電極を作製し、測定を行った。
【0170】
(比較例1)
正極を作製する際、実施例のCNTを用いず、正極活物質と導電剤であるABとが重量比で94.8:0.20となるようにABを含む分散液を正極活物質に加えて混合したこと以外は、実施例1と同様にして電極を作製し、測定を行った。
【0171】
(比較例2)
正極を作製する際、実施例のCNTを用いず、正極活物質と導電剤であるABとが重量比で93.95:0.10となるようにABを含む分散液を正極活物質に加えて混合したこと以外は、実施例1と同様にして電極を作製し、測定を行った。
【0172】
(比較例3)
正極を作製する際、実施例のCNTを用いず、正極活物質と比較例の導電剤であるCNT(シグマ−アルドリッチ社、製品名:SWeNT CG100、直径0.7〜1.3nm、長さ450nm〜2300nm、炭素純度75%)とが重量比で93.95:0.20となるようにCNT分散液を正極活物質に加えて混合したこと以外は、実施例1と同様にして電極を作製し、測定を行った。
【0173】
(比較例4)
正極を作製する際、いずれのCNTも用いず、ABも用いなかった。正極合剤は、正極活物質と結着剤であるPVDFとが重量比で95:5となるようにPVDFの濃度が12重量%であるNMP溶液を混合して作製した。それ以外は、実施例1と同様にして電極を作製し、測定を行った。
【0174】
(比較例5)
正極を作製する際、正極活物質と導電剤であるCNTとが重量比で94.95:0.050となるようにCNT分散液を正極活物質に加えて混合したこと以外は、実施例1と同様にして電極を作製し、測定を行った。
【0175】
表1は、実施例及び比較例についてCNT添加量、容量維持率等をまとめたものである。
【0176】
【表1】
本表より、実施例のCNTを水に分散した液(水分散液)を用いることにより、高出力で高い容量維持率を保つ電池が作製できることがわかる。
【0177】
このうち、
参考例のCNT0.05%及びAB1%を混合した電極を用いた場合が最も効果的であった。
参考例は、電極の塗布性にも優れていた。
【0178】
本発明によれば、電池を大容量化することができ、出力を高くしても容量を維持することができる。