(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5906892
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月20日
(54)【発明の名称】カルシウム・マグネシウム含有水の処理方法及び処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/58 20060101AFI20160407BHJP
B01D 61/14 20060101ALI20160407BHJP
C02F 1/44 20060101ALI20160407BHJP
C02F 5/00 20060101ALI20160407BHJP
C02F 5/02 20060101ALI20160407BHJP
【FI】
C02F1/58 J
B01D61/14 500
C02F1/44 E
C02F5/00 620B
C02F5/02 B
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-77251(P2012-77251)
(22)【出願日】2012年3月29日
(65)【公開番号】特開2013-202582(P2013-202582A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年1月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】中原 敏次
(72)【発明者】
【氏名】朝田 裕之
【審査官】
井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2002/0046974(US,A1)
【文献】
国際公開第2009/119300(WO,A1)
【文献】
特開平09−085262(JP,A)
【文献】
特開平10−005763(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00〜 1/78
B01D 21/00〜21/34
B01D 61/00〜61/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウム及びマグネシウムを含有する水(以下「原水」という。)に、反応槽で炭酸根を添加してpH11以上のアルカリ条件下に炭酸カルシウム及び水酸化マグネシウムを析出させ、該反応槽からの該析出物を含む反応液を固液分離するカルシウム・マグネシウム含有水の処理方法において、
該析出物を精密濾過膜分離装置で固液分離する方法であって、該反応槽からの反応液を循環槽に受け入れ、該循環槽の流出液を該精密濾過膜分離装置で固液分離し、該精密濾過膜分離装置の濃縮水の一部を循環水として前記反応槽に返送して前記原水と混合して処理すると共に、残部を循環槽に返送することを特徴とするカルシウム・マグネシウム含有水の処理方法。
【請求項2】
請求項1において、前記原水に混合する循環水量が原水量の0.5〜1.5倍であることを特徴とするカルシウム・マグネシウム含有水の処理方法。
【請求項3】
カルシウム及びマグネシウムを含有する水(以下「原水」という。)に炭酸根を添加してpH11以上のアルカリ条件下に炭酸カルシウム及び水酸化マグネシウムを析出させ、該析出物を含む反応液を固液分離するカルシウム・マグネシウム含有水の処理装置において、
該原水にアルカリと炭酸根を添加する反応槽と、該反応槽からの反応液を受け入れる循環槽と、該循環槽の流出液を固液分離する精密濾過膜分離装置と、該精密濾過膜分離装置の濃縮水を前記反応槽及び循環槽に返送する手段とを有することを特徴とするカルシウム・マグネシウム含有水の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルシウム及びマグネシウムを含有する水に炭酸根を添加してアルカリ条件下にカルシウムを炭酸カルシウムとして、また、マグネシウムを水酸化マグネシウムとして析出させて固液分離するカルシウム・マグネシウム含有水の処理方法及び処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カルシウム及びマグネシウムを含有する排水を、蒸発装置等で加熱処理する場合や、樹脂を用いた吸着処理装置で処理する場合、排水中のカルシウムやマグネシウムは、加熱装置や吸着処理装置内でスケール障害を引き起こしたり、吸着阻害の要因となったりするため、予め除去する必要がある。
【0003】
排水中のカルシウムは、pH9以上のアルカリ条件下、炭酸ナトリウム等の炭酸根との反応で以下の反応式(1)に従って炭酸カルシウムの沈殿として除去することが知られている(コールドライム法)。また、マグネシウムは水酸化ナトリウム等のアルカリを添加してpH11以上のアルカリ性とすることにより、以下の反応式(2)に従って、水酸化マグネシウムの沈殿として除去することが知られている。
Ca
2++Na
2CO
3 → CaCO
3↓+2Na
+ …(1)
Mg
2++2NaOH → Mg(OH)
2↓+2Na
+ …(2)
【0004】
図2は、従来のカルシウム・マグネシウム含有排水の処理方法を示す系統図であって、原水は、反応槽11でアルカリと炭酸根が添加され、その後凝集槽12でポリマー(高分子凝集剤)が添加されて凝集処理され、凝集処理水は沈殿槽13で固液分離される。沈殿槽の上澄水は更に濾過装置14で濾過され処理水として系外へ排出される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図2に示すように、固液分離手段として沈殿槽13を用いる従来法では、沈殿槽13での固液分離性を高めてSSを十分に低減した処理水を得るために、ポリマーを添加して凝集処理する必要があり、更に、沈殿槽13の上澄水を濾過装置14で濾過してSSを除去する必要があった。このため、ポリマー添加の薬剤コストが嵩む上に処理工程が多く、装置も煩雑で大型化するという欠点があった。
【0006】
本発明は、後工程のスケール成分となる排水中のカルシウム及びマグネシウムを、ポリマーによる凝集処理を必要とすることなく、比較的簡易な装置で高度に除去して高水質の処理水を得るカルシウム・マグネシウム含有水の処理方法及び処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、カルシウム及びマグネシウムを含有する水に炭酸根を添加してアルカリ条件下で反応させて炭酸カルシウム及び水酸化マグネシウムを析出させた反応液を、精密濾過膜で固液分離することにより、ポリマーによる凝集処理を行うことなく、SS濃度10mg/L以下の高水質の処理水を安定して得ることができること、更に、精密濾過膜分離装置の濃縮水を循環させて析出汚泥を改質することにより、高濃度汚泥を得ることができ、排出汚泥の処理効率も高めることができることを見出した。
【0008】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0009】
[1] カルシウム及びマグネシウムを含有する水(以下「原水」という。)に
、反応槽で炭酸根を添加してpH11以上のアルカリ条件下に炭酸カルシウム及び水酸化マグネシウムを析出させ、該
反応槽からの該析出物を含む反応液を固液分離するカルシウム・マグネシウム含有水の処理方法において、該析出物を精密濾過膜分離装置で固液分離する
方法であって、該反応槽からの反応液を循環槽に受け入れ、該循環槽の流出液を該精密濾過膜分離装置で固液分離し、該精密濾過膜分離装置の濃縮水の一部を循環水として前記反応槽に返送して前記原水と混合して処理すると共に、残部を循環槽に返送することを特徴とするカルシウム・マグネシウム含有水の処理方法。
【0011】
[
2] [
1]において、前記原水に混合する循環水量が原水量の0.5〜1.5倍であることを特徴とするカルシウム・マグネシウム含有水の処理方法。
【0012】
[
3] カルシウム及びマグネシウムを含有する水(以下「原水」という。)に炭酸根を添加してpH11以上のアルカリ条件下に炭酸カルシウム及び水酸化マグネシウムを析出させ、該析出物を含む反応液を固液分離するカルシウム・マグネシウム含有水の処理装置において、該原水にアルカリと炭酸根を添加する反応槽と、該反応槽からの反応液を受け入れる循環槽と、該循環槽の流出液を固液分離する精密濾過膜分離装置と、該精密濾過膜分離装置の濃縮水を前記反応槽及び循環槽に返送する手段とを有することを特徴とするカルシウム・マグネシウム含有水の処理装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、後工程のスケール成分となる排水中のカルシウム及びマグネシウムを、ポリマーによる凝集処理を必要とすることなく、比較的簡易な装置で高度に除去して高水質の処理水を安定に得ることができる。
また、精密濾過膜分離装置の濃縮水を循環させて析出汚泥を改質することにより、高濃度汚泥を得ることができ、排出汚泥の処理効率も改善され、汚泥処理コストの削減を図ることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明のカルシウム・マグネシウム含有水の処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【
図3】実施例1における汚泥濃度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0016】
図1は本発明のカルシウム・マグネシウム含有水の処理装置の実施の形態の一例を示す系統図であり、1は反応槽、2は循環槽、3は精密濾過(MF)膜分離装置である。反応槽1及び循環槽2には、撹拌手段が設けられ、また反応槽1にはpH計が設けられている。Pはポンプである。
【0017】
図1において、原水(カルシウム・マグネシウム含有水)は反応槽1に導入されて、MF膜分離装置3から返送されたMF膜分離装置3の濃縮水と共に、アルカリと炭酸根が添加され、pH11以上のアルカリ条件下、原水中のカルシウムが炭酸カルシウムとして、またマグネシウムが水酸化マグネシウムとして析出し、析出物を含む反応液は次いで循環槽2を経てポンプPによりMF膜分離装置3にて固液分離され、MF膜の透過水が処理水として系外へ排出される。一方、濃縮水は、その一部が反応槽1に返送され、残部は循環槽2に循環される。この循環槽2からは、必要に応じて余剰汚泥が排出される。
【0018】
本発明で処理する原水は、カルシウムとマグネシウムを含有する水であり、そのカルシウム濃度、マグネシウム濃度には特に制限はないが、カルシウム濃度50〜2000mg/L、マグネシウム濃度50〜2000mg/L程度の鉱山排水、排煙脱硫排水、下水などが挙げられる。
【0019】
原水に添加するアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を用いることができ、アルカリ添加により反応液のpHを11以上、好ましくは11〜13に調整する。このpHが11未満では、マグネシウムを水酸化マグネシウムとして十分に析出させることができず、処理水のマグネシウム濃度が高くなり、好ましくない。pHが13を超えると、アルカリ使用量が徒に多くなり、不経済である。
【0020】
炭酸根、即ち、炭酸イオンを生成させる物質としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムの炭酸塩の他、炭酸水素ナトリウム(重曹)や炭酸ガス等を用いることもできる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
炭酸根の添加量は、原水中のカルシウムを炭酸カルシウムとして析出させるに必要な理論量の1倍以上、特に1〜10倍であることが好ましい。この炭酸根の添加量が上記下限よりも少ないと、原水中のカルシウムを炭酸カルシウムとして十分に析出させることができず、処理水のカルシウム濃度が高くなり好ましくない。炭酸根の添加量が多過ぎても不経済である。
【0022】
本発明において、MF膜分離装置の濃縮水の原水側への循環は必ずしも必要ではないが、濃縮水を原水側に循環させて原水と混合して反応を行うことにより、濃縮水中の析出物を核として更に炭酸カルシウム及び水酸化マグネシウムの析出が進行することにより、高濃度の汚泥が得られるようになり好ましい。
【0023】
この場合、原水側へ返送する濃縮水量(循環水量)は、原水量の0.5〜1.5倍程度とすることが好ましい。この返送濃縮水量が少な過ぎると、濃縮水を返送することによる上記効果を十分に得ることができず、多過ぎると反応槽容量が過大となり、経済性が損なわれ、実用的でなくなる。
【0024】
このような本発明の方法によれば、処理水(MF膜分離装置3の透過水)として、SS濃度10mg/L以下の高水質の処理水を、従来法のようにポリマー添加や、沈殿槽と濾過装置の2段の固液分離処理を行うことなく、MF膜分離装置による1段の固液分離処理で安定に得ることができ、また、濃縮水の返送により、後述の実施例に示すように、高濃度汚泥を得ることができる。
【実施例】
【0025】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0026】
なお、以下の実施例及び比較例で処理した原水は、純水にカルシウム濃度500mg/L、マグネシウム濃度1000mg/Lとなるように塩化カルシウムと塩化マグネシウムを添加して調製した合成排水である。
【0027】
[比較例1]
原水を
図2に示す従来法に従って処理した。反応槽11にて、原水に炭酸ナトリウムを理論量の1.3倍(1700mg/L)添加すると共に、水酸化ナトリウムを用いてpH12.5とした後、凝集槽12にてアニオンポリマーを3mg/L添加して凝集処理を行った。凝集処理水を沈殿槽13で固液分離し、沈殿槽13の上澄水を濾過装置14で濾過した。
沈殿槽13の上澄水と、処理水(濾過装置14の濾過水)について、その水質を分析し、結果を表1に示した。
また、沈殿槽13の分離汚泥の汚泥濃度を調べ、結果を表1に示した。
なお、汚泥濃度は、分離汚泥を24時間静置した後の汚泥層について測定した汚泥濃度である。
【0028】
[実施例1]
原水を
図1に示す本発明法に従って処理した。反応槽1にて、比較例1と同様の条件で原水に炭酸ナトリウムと水酸化ナトリウムを添加した後、循環槽2を経てMF膜分離装置3で固液分離した。MF膜分離装置3への通水はクロスフローとした。MF膜分離装置3の濃縮水のうちの一部(原水量と同量)は反応槽1に返送し、残部は循環槽2に循環させた。余剰汚泥は循環槽2から抜き出した。
この処理は20日間連続して行った。
得られた処理水(MF膜分離装置の透過水)の水質の分析結果を表1に示す。
また、循環槽2から抜き出した汚泥について、比較例1と同様にして測定した汚泥濃度(処理が安定してからの平均値)を表1に示すと共に、この汚泥濃度の経時変化を
図3に示した。
【0029】
【表1】
【0030】
実施例1及び比較例1より、以下のことが分かる。
本発明法による実施例1では、ポリマーを必要とすることなく、また、濾過装置を用いることなく、比較例1の処理水(濾過装置の濾過水)と同等以上の高水質の処理水を得ることができ、しかも、得られる汚泥濃度も比較例1の場合に比べて格段に高い。これは、濃縮水の循環により、汚泥が改質され、汚泥濃度が高くなったことによるものである。なお、
図3より、汚泥の改質は1日程度で進行し、初期汚泥濃度1%程度が1日経過後は平均16%程度まで高くなることが分かる。
【符号の説明】
【0031】
1 反応槽
2 循環槽
3 MF膜分離装置
11 反応槽
12 凝集槽
13 沈殿槽
14 濾過装置