特許第5907440号(P5907440)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5907440
(24)【登録日】2016年4月1日
(45)【発行日】2016年4月26日
(54)【発明の名称】セメントクリンカ及びセメント組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/24 20060101AFI20160412BHJP
   C04B 7/02 20060101ALI20160412BHJP
   C04B 14/04 20060101ALI20160412BHJP
   C04B 14/28 20060101ALI20160412BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20160412BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20160412BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20160412BHJP
【FI】
   C04B7/24
   C04B7/02
   C04B14/04 Z
   C04B14/28
   C04B18/08 Z
   C04B18/14 A
   C04B28/02
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-230661(P2014-230661)
(22)【出願日】2014年11月13日
【審査請求日】2015年4月27日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(72)【発明者】
【氏名】狩野 和弘
(72)【発明者】
【氏名】松田 英明
(72)【発明者】
【氏名】平野 有紀
【審査官】 佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−246190(JP,A)
【文献】 特開2012−188308(JP,A)
【文献】 特開2011−207699(JP,A)
【文献】 特開2010−228923(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Alを6.0質量%以上8.0質量%以下、SOを0.7質量%以上2.2質量%以下、Fを0.01質量%以上0.3質量%以下、Pを0.2質量%以上0.5質量%以下含み、CSを40質量%以上70質量%以下、CSを5質量%以上35質量%以下、CAを11質量%以上16質量%以下、CAFを7質量%以上11質量%以下含むセメントクリンカであって、
前記Alの含有量(質量%)と、前記SOの含有量(質量%)と、前記Fの含有量(質量%)と、前記Pの含有量(質量%)とが下記式1を満たす関係であるセメントクリンカ。
Alの含有量≦αSOの含有量+εPの含有量+θ・・・(1)
(但し、α=10.3×Fの含有量+1.3、ε=3.5、θ=−13×Fの含有量+4.5)
【請求項2】
前記SOの含有量(質量%)と前記Pの含有量(質量%)と前記Fの含有量(質量%)とが下記式2を満たす関係である請求項1に記載のセメントクリンカ。
δSO≦βP+γ・・・(2)
(但し、δ=−1.6×Fの含有量+1、β=4.4、γ=0.3)
【請求項3】
Srを0.01質量%以上0.5質量%以下含む請求項1又は2に記載のセメントクリンカ。
【請求項4】
原料原単位は、石灰石が1000kg/トン以上1200kg/トン以下、廃棄物が200kg/トン以上500kg/トン以下である請求項1乃至3のいずれか一項に記載のセメントクリンカ。
【請求項5】
前記廃棄物は、石炭灰、建設発生土、鉱滓、焼却灰及び汚泥からなる群より選ばれる少なくとも1種以上である請求項4に記載のセメントクリンカ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のセメントクリンカと石膏とを含むセメント組成物。
【請求項7】
さらに、混合材を含む請求項6に記載のセメント組成物。
【請求項8】
前記混合材は、高炉スラグ、シリカ質混合材、フライアッシュ及び石灰石微粉末からなる群より選ばれる少なくとも1種以上である請求項7に記載のセメント組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントクリンカ、及びそのセメントクリンカを含むセメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、一般廃棄物、産業廃棄物等の廃棄物をセメントクリンカ原料として用いることが検討されている。例えば、セメントクリンカの原料として用いられる廃棄物としては、石炭灰、建設発生土、鉱滓、焼却灰、汚泥等のアルミニウムを比較的多く含むものが一般的に用いられる。かかる廃棄物は近年増加しており、できるだけ多量の廃棄物をセメントクリンカの原料として再利用することが望まれている。
【0003】
一方、前述のような廃棄物をセメントクリンカ原料として多く用いた場合には、原料中に廃棄物由来のアルミニウムが多く含まれることになり、セメントクリンカ中のAl含有量が増加する。セメントクリンカ中にAlが多く含まれると、クリンカ化合物である3CaO・Al(CA)が増加することが知られている。セメントクリンカ中のCAが増加すると、該セメントクリンカをセメント組成物として用いる場合の流動性が低下するという問題がある。
そこで、廃棄物をセメントクリンカ原料として用いたセメント組成物の流動性の低下を抑制することが種々検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1及び2には、セメントクリンカ中のCAと微量成分であるMgOとのモル比を適正化することが記載されている。
特許文献3には、セメントクリンカ原料として酸化リンを用いることが記載されている。
特許文献4には、クリンカ化合物の組成を特定の範囲に調整することが記載されている。
特許文献1乃至4には、これらのセメントクリンカをセメント組成物として用いた場合に流動性の低下が抑制できることが記載されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1乃至4に記載のセメントクリンカでは、廃棄物をより多量に原料として用いる等してセメントクリンカ中のAlがさらに多くなった場合の流動性の低下を十分に抑制できず、また、同時に硬化後の強度を維持することが難しいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−149515号公報
【特許文献2】特開2009−256205号公報
【特許文献3】特開2007−91506号公報
【特許文献4】特開2006−347814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑み、セメントクリンカ中のAlが比較的多い場合にも、該セメントクリンカを含むセメント組成物の流動性及び強度の低下を十分に抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のセメントクリンカは、
Alを6.0質量%以上8.0質量%以下、SOを0.7質量%以上2.2質量%以下、Fを0.01質量%以上0.3質量%以下、Pを0.2質量%以上0.5質量%以下含み、CSを40質量%以上70質量%以下、CSを5質量%以上35質量%以下、CAを11質量%以上16質量%以下、CAFを7質量%以上11質量%以下含むセメントクリンカであって、
前記Alの含有量(質量%)と、前記SOの含有量(質量%)と、前記Fの含有量(質量%)と、前記Pの含有量(質量%)とが下記式1を満たす関係である。
Alの含有量≦αSOの含有量+εPの含有量+θ・・・(1)
(但し、α=10.3×Fの含有量+1.3、ε=3.5、θ=−13×Fの含有量+4.5)
【0009】
Alを6.0質量%以上8.0質量%以下、SOを0.7質量%以上2.2質量%以下、Fを0.01質量%以上0.3質量%以下、Pを0.2質量%以上0.5質量%以下含み、CSを40質量%以上70質量%以下、CSを5質量%以上35質量%以下、CAを11質量%以上16質量%以下、CAFを7質量%以上11質量%以下含むセメントクリンカであって、前記Alの含有量(質量%)と、前記SOの含有量(質量%)と、前記Fの含有量(質量%)と、前記Pの含有量(質量%)とが前記式1を満たす関係であることで、該セメントクリンカをセメント組成物とした場合の流動性の低下及び強度の低下を十分に抑制することができる。従って、廃棄物を比較的多く原料として用いる等してセメントクリンカがAlを比較的多く含む場合にも、該セメントクリンカを含むセメント組成物の流動性及び強度の低下を十分に抑制することができる。
【0010】
本発明において、前記SOの含有量(質量%)と前記Pの含有量(質量%)と前記Fの含有量(質量%)とが下記式2を満たす関係であることが望ましい。
δSO≦βP+γ・・・(2)
(但し、δ=−1.6×Fの含有量+1、β=4.4、γ=0.3)
【0011】
前記各成分の含有量が前記範囲であり及び前記式1を満し、且つ、前記SOの含有量(質量%)と前記Pの含有量(質量%)と前記Fの含有量(質量%)とが前記式2を満たす関係である場合には、セメントクリンカをセメント組成物とした場合の流動性低下をより十分に抑制できると同時に、強度の低下をより十分に抑制することができる。
【0012】
本発明において、Srを0.01質量%以上0.5質量%以下含んでいてもよい。
【0013】
Srを0.01質量%以上0.5質量%以下含む場合には、セメントクリンカがAlを比較的多く含む場合にも、該セメントクリンカを含むセメント組成物の流動性の低下をより十分に抑制することができる。
【0014】
本発明において、原料原単位は、石灰石が1000kg/トン以上1200kg/トン以下、廃棄物が200kg/トン以上500kg/トン以下であってもよい。
【0015】
原料原単位が、石灰石が1000kg/トン以上1200kg/トン以下、廃棄物が200kg/トン以上500kg/トン以下である場合には、該セメントクリンカを含むセメント組成物の流動性の低下をより十分に抑制することができる。
【0016】
尚、本発明における原料原単位とは、当該セメントクリンカ1トンを製造する全原料における各原料の量(kg)をいい、単位をkg/トンで示す。
【0017】
本発明において、前記廃棄物は、石炭灰、建設発生土、鉱滓、焼却灰及び汚泥からなる群より選ばれる少なくとも1種以上であってもよい。
【0018】
石炭灰、建設発生土、鉱滓、焼却灰、汚泥はアルミニウム含有量が比較的多い廃棄物である。そのため、これらの廃棄物をセメントクリンカ原料として用いた場合にセメントクリンカ中のAlは増加するが、これらの廃棄物を本発明のセメントクリンカの原料として用いても、該セメントクリンカを含むセメント組成物の流動性の低下を十分に抑制することができる。よって、セメント組成物の流動性の低下を抑制しつつ、これらの廃棄物をより多くセメントクリンカの原料として使用することができる。
【0019】
本発明のセメント組成物は、前記各セメントクリンカと石膏とを含む。
【0020】
本発明のセメント組成物は、さらに、混合材を含んでいてもよい。
【0021】
本発明のセメント組成物は、前記混合材が、高炉スラグ、シリカ質混合材、フライアッシュ及び石灰石微粉末からなる群より選ばれる少なくとも1種以上であってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、セメントクリンカ中のAlが比較的多い場合にも、該セメントクリンカを含むセメント組成物の流動性及び強度の低下を十分に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明にかかるセメントクリンカ及びセメント組成物の一実施形態について説明する。
【0024】
まず、本実施形態のセメントクリンカについて説明する。
本実施形態のセメントクリンカは、Alを6.0質量%以上8.0質量%以下、SOを0.7質量%以上2.2質量%以下、Fを0.01質量%以上0.3質量%以下、Pを0.2質量%以上0.5質量%以下含むセメントクリンカであって、前記Alの含有量(質量%)と、前記SOの含有量(質量%)と、前記Fの含有量(質量%)と、前記Pの含有量(質量%)とが下記式1を満たす関係であるセメントクリンカである。

Alの含有量≦αSOの含有量+εPの含有量+θ・・・(1)
(但し、α=10.3×Fの含有量+1.3、ε=3.5、θ=−13×Fの含有量+4.5)
【0025】
セメントクリンカ中のAlは、含有量が多くなりすぎると、該セメントクリンカを用いたセメント組成物を混練する場合の流動性が低下する。これは、セメントクリンカ中に含まれるクリンカ化合物であるCAが増加するためである。
セメントクリンカ中のAlはクリンカの原料に由来するものである。
【0026】
尚、本実施形態において、クリンカ化合物とは、CS、CS、CA、CAFを指す。ここで、CSは3CaO・SiO2、CSは2CaO・SiO2、CAは3CaO・Al23、CAFは4CaO・Al23・Fe23を意味し、C=CaO、S=SiO2で、A=Al23、F=Fe23である。
【0027】
本実施形態のセメントクリンカはAlを6.0質量%以上8.0質量%以下含むが、セメントクリンカ中のAlの好ましい含有量としては、前記流動性の低下抑制の観点からは、6.0質量%以上7.5質量%以下、より好ましくは6.0質量%以上7.0質量%以下、さらにより好ましくは6.0質量%以上6.5質量%以下が挙げられる。
また、実施形態のセメントクリンカ中のAlの好ましい含有量としては、経済性の観点からは、6.5質量%以上8.0質量%以下、より好ましくは7.0質量%以上8.0質量%以下、さらにより好ましくは7.5質量%以上8.0質量%以下が挙げられる。
【0028】
本実施形態のセメントクリンカは、SOを0.7質量%以上2.2質量%以下含むが、セメントクリンカ中のSOのより好ましい含有量としては、セメントクリンカの製造時にサイクロン等の製造装置へ付着して目詰まりを生じないという製造のしやすさの観点から、0.7質量%以上1.5質量%以下、さらにより好ましくは0.7質量%以上1.0質量%以下が挙げられる。
【0029】
本実施形態のセメントクリンカはF(フッ素)を0.01質量%以上0.3質量%以下含むが、セメントクリンカ中のF(フッ素)の好ましい含有量としては、セメント硬化体から溶出するF(フッ素)を少なくする観点から、0.01質量%以上0.2質量%以下、さらにより好ましくは0.01質量%以上0.1質量%以下が挙げられる。
【0030】
本実施形態のセメントクリンカはPを0.2質量%以上0.5質量%以下含むが、セメントクリンカ中のPの好ましい含有量としては、強度発現性の観点から、0.3質量%以上0.5質量%以下が挙げられる。
【0031】
また、セメントクリンカ中のAlの含有量、SOの含有量、F(フッ素)の含有量及びPの含有量は、前記範囲であって、且つ前記式1を満たす関係であることが必要である。セメントクリンカ中のAl、SO、F(フッ素)、Pの含有量が、かかる式1を満たす関係であることで、Alが比較的多い状態でも十分にセメント組成物とした場合の流動性及び強度の低下を抑制できる。
【0032】
セメントクリンカ中のAlの含有量が増加すると、クリンカ化合物のCAを増加させることは知られている。しかし、セメントクリンカ中のAlの含有量に対するSOの含有量を、前記式1を満たす関係になるようにすることで、CAの含有量の増加を抑制できる。これは、Alの含有量に対するSOの含有量を特定の範囲に調整することで、AlがCSを増加させるために消費され、CAの増加を抑制するものと考えられる。
【0033】
また、セメントクリンカ中のAlの含有量に対するPの含有量を前記式1を満たすような関係にすることで、CAの含有量の増加を抑制する効果も得られる。PもSOと同様に、AlがCSを増加させるために消費されることを促進してCAの増加を抑制するものと考えられる。
【0034】
また、セメントクリンカ中に含まれるF(フッ素)も、セメント組成物の流動性に影響を与える。具体的な理由は定かではないが、セメントクリンカが適量のF(フッ素)を含むことでCAの増加を抑制するものと考えられる。
【0035】
前記式を満たすためにAl、SO、F、Pの含有量を調整する方法としては、例えば、後述するセメントクリンカの原料中のAl、SO、F、Pの供給源となりうるものの量を調整すること等が挙げられる。
【0036】
本実施形態のセメントクリンカは、各クリンカ化合物を、以下のような含有量で含む。
S=40質量%以上70質量%以下、CS=5質量%以上35質量%以下、CA=11質量%以上16質量%以下、CAF=7質量%以上11質量%以下。
尚、本実施形態でクリンカ化合物の含有量は、JIS R 5202「ポルトランドセメントの化学分析方法」にて分析し、ボーグ式を用いてCS、CS、CA、CAFを算出することで得られる値をいう。
【0037】
本実施形態のセメントクリンカは、Srを0.01質量%以上0.5質量%以下、好ましくは0.01質量%以上0.2質量%以下含んでいてもよい。
Srは、微量金属として、各種原料に含まれている場合があり、セメントクリンカ中における含有量が多すぎると、セメント組成物の流動性に影響を及ぼす。Srが、セメント組成物の流動性に影響を与える。具体的にその理由は定かではないが、前述のように、Alの含有量に対するSOの含有量を特定の範囲に調整することで、CAの増加を抑制する場合に、Srが特定の量を超えて含まれていると、CAの増加を抑制することを抑制する虞があると考えられる。従って、Srの含有量を前記範囲に調整することで、セメント組成物の流動性の低下をより抑制することができる。
【0038】
本実施形態のセメントクリンカは、Ti等の金属あるいは金属酸化物、F以外のハロゲン元素等を含んでいてもよい。
【0039】
本実施形態のセメントクリンカは、セメントクリンカ中のPの含有量(質量%)と、Alの含有量(質量%)と、SOの含有量(質量%)と前記Fの含有量(質量%)とが下記式2を満たす関係であることが好ましい。
δSO≦βP+γ・・・(2)
(但し、δ=−1.6×Fの含有量+1、β=4.4、γ=0.3)
【0040】
本実施形態のセメントクリンカを用いたセメント組成物は、例えば、JIS 5201に記載された方法で測定される28日後の圧縮強さが58N/mm以上のような強度が得られる。
特に、SOの含有量(質量%)とPの含有量(質量%)と前記Fの含有量(質量%)とが上記式2を満たすような関係であるセメントクリンカを用いたセメント組成物は、例えば、JIS 5201に記載された方法で測定される28日後の圧縮強さが60N/mm以上のようなより高い強度が得られる。
【0041】
尚、本実施形態において、セメントクリンカ中のAl、SO、Sr、P、F(フッ素)の含有量は、後述する実施例において説明する方法で測定される。
【0042】
本実施形態のセメントクリンカは、通常のセメント用のセメントクリンカとして使用できる。例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント等のポルトランドセメント;白色ポルトランド等のポルトランドセメントの成分等を調整したセメント;高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント等の混合セメント;超速硬セメント等のセメント用のセメントクリンカとして用いることが挙げられる。
中でも、Alの含有量が前記範囲であることから、ポルトランドセメント用のセメントクリンカとして本実施形態のセメントクリンカは好適である。
【0043】
本実施形態のセメントクリンカは、Alを比較的多く含むセメントクリンカにおいて、SO、P及びFの関係に着目することで、流動性及び強度の低下をより抑制しうる各成分の前記含有量の範囲が見いだされたものである。
【0044】
セメントクリンカは、例えば、以下のような方法で製造する。
【0045】
本実施形態のセメントクリンカは、セメントクリンカの原料を混合粉砕して調整した調合原料を、予備加熱し、さらに焼成炉で原燃料を投入して焼成し、冷却することで得られる。
尚、本実施形態では、セメントクリンカの原料には、前記調合原料に加えて、原燃料も含む。
【0046】
原料としては、石灰石、粘土、ケイ石等のケイ素源、酸化鉄等の鉄源、廃棄物等が挙げられる。
原燃料としては、オイルコークス、石炭、再生油等が挙げられる。
中でも、オイルコークスは、SOの供給源となるため、セメントクリンカ中のSOの含有量を調整しやすくなり好ましい。
【0047】
廃棄物としては、産業廃棄物、産業副産物、一般廃棄物等が挙げられ、中でも、セメントクリンカの粘土代替原料として使用されうる廃棄物が好ましい。
粘土代替原料として使用されうる廃棄物としては、石炭灰、建設発生土、鉱滓、下水汚泥焼却灰等の焼却灰、下水汚泥等の汚泥等が挙げられる。
これらの、廃棄物、特に粘土代替原料として使用されうる廃棄物には、通常、Alを比較的多く含む。従って、廃棄物をセメントクリンカの原料として用いた場合には、クリンカ中のAlが多くなり、セメントクリンカをセメント組成物とした場合に流動性の低下の一因となる。
また、下水汚泥や下水汚泥焼却灰等はPの供給源でもあるため、セメントクリンカ中のPの含有量を調整しやすくなり好ましい。
【0048】
一方、廃棄物の処理の観点から、できるだけ多くの廃棄物をセメントクリンカの原料として使用することが要望されている。このためには、Alを比較的多く含むセメントクリンカにおいて流動性の低下を抑制することが必要である。
本実施形態のセメントクリンカは、前記のような範囲の量のAl3と、SOと、F(フッ素)と、Pとを含み、且つ、Al3の含有量とSOとの含有量とPの含有量とが、前記式1の関係を満たすことにより、流動性及び強度の低下を抑制することができる。
従って、アルミニウムを多く含む廃棄物をセメントクリンカの原料として比較的多量に用いることができる。
【0049】
本実施形態のセメントクリンカは、例えば、セメントクリンカ1トンを製造する原料全体における各原料の量(原料原単位)は、石灰石が1000kg/トン以上1200kg/トン以下、好ましくは1050kg/トン以上1150kg/トン以下、廃棄物が200kg/トン以上500kg/トン以下、好ましくは200kg/トン以上400kg/トン以下であることが挙げられる。
原料原単位における石灰石及び廃棄物の量が前記範囲である場合には、廃棄物を比較的多く使用しつつ、流動性の低下を十分に抑制できる。
【0050】
廃棄物は、粘土の代替原料として、粘土の一部を廃棄物に置換して配合されてもよい。
あるいは、廃棄物は原燃料の一部として焼成炉に投入されてもよい。
【0051】
次に、前記のようなセメントクリンカを用いたセメント組成物について説明する。
本実施形態のセメント組成物は、前述のような本実施形態のセメントクリンカと、石膏とを含む。
石膏としては、特に限定されるものではないが、無水石膏(CaSO4)、半水石膏(CaSO4・0.5H2O)、二水石膏(CaSO4・2H2O)等が挙げられる。
【0052】
本実施形態のセメント組成物は、さらに、混合材を含んでいてもよい。
混合材は、通常用いられるセメントクリンカ、石膏以外のセメント組成物の混合成分であれば特に限定されるものではない。
例えば、混合材は、高炉スラグ、シリカ質混合材、フライアッシュ、石灰石微粉末などが挙げられる。
【0053】
本実施形態のセメント組成物には、さらに他の成分として、必要に応じて、混和材、添加剤、増量材等を適宜配合してもよい。
【0054】
セメントクリンカ、石膏、混合材は、混合し、ミルなどで粉砕してセメント組成物として製造される。
【0055】
本実施形態のセメント組成物は、さらに水を加えて混練して、コンクリート用のセメント組成物あるいはモルタル用セメント組成物として使用することができる。
コンクリート用のセメント組成物として用いる場合には、さらに細骨材及び粗骨材を配合することができる。
モルタル用のセメント組成物として用いる場合には、さらに細骨材を配合することができる。
【0056】
本実施形態のセメント組成物は、前述のような本実施形態のセメントクリンカを含むため混練された場合に流動性の低下が抑制できる。
前述のように本実施形態のセメントクリンカは、Alを比較的多く含んでいても、流動性の低下が抑制できるため、アルミニウムを多く含む廃棄物をセメントクリンカの原料として比較的多く用いても、流動性が低下しにくいセメントクリンカとなる。
よって、廃棄物を多く原料として再利用することが可能となる。
【0057】
尚、本実施形態にかかるセメントクリンカ及びセメント組成物は以上のとおりであるが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は前記説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【実施例】
【0058】
以下に実施例を示して、本発明にかかるセメント組成物についてさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
以下のような方法で、表1に記載の配合A0〜A7でセメントクリンカを作製した。
まず、原料として石灰石、珪石、粘土代替原料、高炉粉を用いて表1に示す配合で混合粉砕し、レンガ状に成型したものを電気炉にて1425〜1475℃で1〜2時間焼成し、セメントクリンカを得た。焼成条件はf−CaOが0.4〜0.9%になるよう調整した。得られたセメントクリンカに半水石膏および石灰石を添加し、ブレーン比表面積3300±50cm/gになるようボールミルにて粉砕した。
さらに、SO、Sr、F(フッ素)、Pの含有量の調整には試薬特級のHSO、SrCO、CaF、Pを用いて、表2に記載の含有量になるように原料に各試薬を添加した。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
各セメントクリンカ中に含まれるAl、SO、PはJIS R 5204(セメントの蛍光X線分析方法)、F(フッ素)はCAJS I−51(セメントおよびセメント原料中の微量成分の定量方法)、SrはICP発光分光分析法(装置名730−ES、Varian社製)に従って測定した。
【0063】
尚、各セメントクリンカ中のSOの含有量(質量%)を下記式3、式4に当てはめ計算した結果を表2に示す。

{(10.3×Fの含有量+1.3)×SOの含有量}+(3.5×Pの含有量)+(−13×Fの含有量+1.3)・・・(3)

{(4.4×Pの含有量)+0.3}÷{(−1.6×Fの含有量+1)}・・・(4)
【0064】
さらに各セメントクリンカと石膏とを、ボールミルにて粉砕して粉体セメント組成物を得た。
【0065】
各粉体セメント組成物を用いて粘度を測定した。
粉体セメント組成物に水を水/セメント比0.5になるように添加してペースト状のセメント組成物を得た。
このペースト状のセメント組成物の2分間20℃の条件で混練した際の粘度を、粘度計(HAAKE社製)で測定した。尚、せん断速度500s−1時のせん断応力を測定し、このときの見かけ粘度を粘度として表2に示す。
【0066】
各セメント組成物を用いて強度を測定した。強度はJIS R 5201(セメントの物理試験方法)に従い28日圧縮強さを測定した。
強度の評価としては、強度が58N/mm以上を○、60N/mm以上を◎、58N/mm未満を×として評価した。結果を表2に示す。
【0067】
表2に示すとおり、全ての実施例は、粘度が130mPa・s未満と、Alが少ない対照例1のセメントクリンカを用いたセメント組成物と同等レベルであった。
尚、粘度の評価としては、粘度が130mPa・s超を×、130mPa・s以下を○として評価した。
すなわち、すべての実施例のセメント組成物の流動性は良好(○)であった。
【0068】
さらに、式3の値と、Alの含有量の値とを比較したところ、各実施例ではいずれも、式3の値の方がAlの含有量よりも多かった。
すなわち、実施例のセメントクリンカのAlの含有量(質量%)、SOの含有量(質量%)、Fの含有量(質量%)及びPの含有量(質量%)は下記式1を満たす関係であることが判明した。

Alの含有量≦αSOの含有量+εPの含有量+θ・・・(1)
(但し、α=10.3×Fの含有量+1.3、ε=3.5、θ=−13×Fの含有量+4.5)
【0069】
特に、式4の値がSOの含有量よりも大きかった各実施例のセメントクリンカのSOの含有量(質量%)とPの含有量(質量%)とFの含有量(質量%)とは、下記式2を満たす関係であり、これらの実施例はいずれも28日圧縮強さが60N/mm以上(評価◎)と高強度であった。

δSO≦βP+γ・・・(2)
(但し、δ=−1.6×Fの含有量+1、β=4.4、γ=0.3)
【0070】
一方、対照例1よりもAlの含有量が多く、且つ、式3の値がAlの含有量よりも小さい、すなわち、式1を満たす関係ではなかった比較例1乃至6では、粘度が130mPa・sを超えており、流動性の低下が十分に抑制できていなかった。また、式3の値はAlの含有量より大きいが、Pの含有量が過剰である比較例7及び8では、強度が58N/mm未満であり、強度の維持が十分ではなかった。
【要約】
【課題】セメントクリンカ中のAlが比較的多い場合にも、該セメントクリンカを含むセメント組成物の流動性及び強度の低下を十分に抑制することを課題とする。
【解決手段】本発明のセメントクリンカは、Alを6.0質量%以上8.0質量%以下、SOを0.7質量%以上2.2質量%以下、Fを0.01質量%以上0.3質量%以下、Pを0.2質量%以上0.5質量%以下含むセメントクリンカであって、前記Alの含有量(質量%)と、前記SOの含有量(質量%)と、前記Fの含有量(質量%)と、前記Pの含有量(質量%)とが下記式1を満たす関係であるセメントクリンカ。
Alの含有量≦αSOの含有量+εPの含有量+θ・・・(1)
(但し、α=10.3×Fの含有量+1.3、ε=3.5、θ=−13×Fの含有量+4.5)
【選択図】なし