【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、先導的産業技術創出事業「次世代パワー集積回路の実現に向けた低抵抗Pチャネル型GaN素子の開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
降伏電流を運ぶキャリアと同じ極性の分極電荷を有するヘテロ接合界面を通過して、前記降伏電流が流れることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の半導体装置。
【背景技術】
【0002】
パワー半導体装置は、主に電力変換器(DC-DC、AC-DC、DC-AC、および
AC-AC)や高周波パワーアンプに用いられる。現在までSiパワー半導体装置が広く用いられている。しかし、近年においてSiの材料物性に起因した、Siパワー半導体装置における性能向上の限界が指摘されている。
【0003】
パワー半導体装置に要求される性能の中でも重要なものとして、高い装置耐圧、低いオン抵抗、および低い装置容量の3つが挙げられる。しかし、これらの3つの間には材料物性に起因したトレードオフの関係が存在し、1つを向上させると、他の2つが悪化する傾向にある。これによって、Siを用いたパワー半導体装置の性能向上に限界がある。このトレードオフによる限界を打破するために、ワイドバンドギャップ半導体を用いたパワー半導体装置の研究開発が、世界中で進められている。
【0004】
本明細書では、以下の(1)から(3)を満たす半導体を、ワイドバンドギャップ半導体として以下のように定義する。
(1)ワイドバンドギャップ半導体装置とは、バンドギャップエネルギーがSi(1.1eV)およびGaAs(1.4eV)に比べて大きな半導体のことである。具体的には、2eV以上のバンドギャップエネルギーを有する半導体のことである。
(2)また、結晶を形成する元素の構成としては、ワイドバンドギャップ半導体は、周期律表の第2周期の元素であるホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、および酸素(O)を主成分とする半導体である。具体的には、結晶を構成する原子の総数に対して、第2周期の元素の割合が3分の1以上の半導体である。
(3)また、ワイドバンドギャップ半導体の物性としては、1MV/cm以上の絶縁破壊強度を有する。
【0005】
ワイドバンドギャップ半導体の具体例として、炭化ケイ素、窒化物半導体、酸化物半導体、およびダイヤモンドなどが挙げられる。
炭化ケイ素(以下、SiC)の化学式としては、SiCで表され、各種のポリタイプが存在する。特に、本明細書でのSiCとは、4H−SiC、6H−SiC、および3C−SiCの3種類を指し示す。
【0006】
窒化物半導体は、III族原子(B、Al、In、及びGa)と窒素原子(N)により構成される化合物半導体である。III族原子の総数は、窒素原子の数と同数であり、化学式としては、次式(1)で表わされる。
【0007】
【数1】
【0008】
式中x、y及びzは、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、x+y+z≦1を満足させる数値をもつものとする。とくに、GaN、In
zGa
1-zN(以下、InGaN)、Al
yGa
1-yN(以下、AlGaN)、およびAl
yIn
zGa
1-y-zN(以下、AlInGaN)は、パワー半導体装置の材料として、とくに重要である。AlN、およびB
xAl
1-xN(以下、BAlN)は、バンドギャップエネルギーが5eV以上あり、半導体であると同時に、絶縁体としても用いることが出来る。
【0009】
酸化物半導体は、酸素原子(O)を主成分とする半導体であり、具体的には、ZnO、Ga
2O
3、MgO、CdO、NiO、SnO
2、Cu
2O、CuAlO
2、TiO
2、VO
2、In
2O
3、およびSrTiO
3などが挙げられる。また、前記酸化物半導体を2種類以上組み合わせて、混晶を作製してもよい。具体的には、透明導電膜として利用されるITOが挙げられる。また、II族酸化物半導体は、パワー半導体装置の材料として特に有効であり、その化学式は、次式(2)で表わされる。
【0010】
【数2】
【0011】
式中x及びyは、0≦x≦1、0≦y≦1、x+y≦1を満足させる数値をもつものとする。
【0012】
ダイヤモンドは、絶縁体であると同時に、ドナーおよびアクセプタを添加することで、ワイドバンドギャップ半導体としてもふるまう。
ワイドバンドギャップ半導体の優れた物性として、とくに高い絶縁破壊強度が挙げられる。Siの絶縁破壊強度が約0.2MV/cmであるのに対して、ワイドバンドギャップ半導体であるSiC(約2MV/cm)、GaN(約3MV/cm)、およびダイヤモンド(5〜10MV/cm)の絶縁破壊強度は、10倍程度も大きい。そのため、ワイドバンドギャップ半導体をパワー半導体装置に用いることで、Siパワー半導体装置における耐圧、オン抵抗、および装置容量のトレードオフ関係を超えて、性能向上が可能となる。
【0013】
しかし、電力変換器に用いた時の、ワイドバンドギャップ半導体装置の問題点として、サージ電圧による装置の破壊が挙げられる。電力変換器応用では、ワイドバンドギャップ半導体装置がオン状態からオフ状態にターンオフするときに、電力変換器に入力される電源電圧を超えたサージ電圧が印加される。サージ電圧は、半導体装置の装置耐圧に達することもある。その場合、半導体装置においてアバランシェ降伏が起こり、この降伏状態が続くと装置が破壊される。
【0014】
そのため、降伏における耐量の向上が、ワイドバンドギャップ半導体装置に必要とされている。ここで、降伏における耐量とは、オフ状態において耐圧を超えた電圧が印加され、それによってオフ状態にもかかわらず電流が流れた状態(降伏状態)において、装置が破壊されずに、装置で消費出来るエネルギーの最大値と定義する。
【0015】
図1に従来技術によるワイドバンドギャップ半導体装置の一例として、SiCを用いたMetal Insulator Semiconductor Field Effect Transistor(以下、MISFET、または絶縁ゲート型電界効果型トランジスタ)の断面構造図を示す。また、ゲート絶縁膜としてSiO
2を用いたMetal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor(以下、MOSFET)も、MISFETの一種である。
以下では、
図1のSiC−MISFETを例にあげ、半導体装置の降伏を説明する。
【0016】
図2に、
図1で示したSiC−MISFETの電流−電圧特性の概略図を示す。
図2に描かれるように、オン状態では、正Vdsを印加することで、ドレインからソースにドレイン電流が流れる。ここで、Vdsとは、ソース電極の電位に対するドレイン電極の電位とする。一方、オフ状態では、Vdsを印加することで、まず、P型領域222およびN型伝導領域203の間のボディダイオードの逆方向リーク電流に起因した微小なドレイン電流が流れる。その後、さらにVdsを上げていくと、Vdsが所定の電圧Vavaに達するとアバランシェ降伏が起こり、急激にドレイン電流が上昇する。
図1に示すように、このときのアバランシェによる降伏電流は、降伏電流の経路220を通って、ドレイン電極212からソース電極210に向かって流れる。
【0017】
ここで、装置の耐圧とは、オフ状態において電流が流れ始め、オフ状態を維持できなくなる電圧であり、
図1のSiC−MISFETでは、アバランシェ降伏電圧Vavaにより、耐圧が決定される。
【0018】
アバランシェ降伏とは、半導体装置の内部での電界強度が、半導体の絶縁破壊強度に匹敵する値となり、アバランシェ増倍による電子と正孔の発生が顕著となり、これによって装置がオフ状態にもかかわらず、電流が流れる現象である。
図1の例では、発生した正孔は降伏電流の経路220に沿ってソース電極210から排出され、電子は降伏電流の経路220を逆向きにたどってドレイン電極212から排出される。
【0019】
電力変換器において、アバランシェ降伏によりワイドバンドギャップ半導体装置が破壊される要因として、以下の3つが挙げられる。
【0020】
まず、1つ目の要因として、Siパワー装置と比較して、ワイドバンドギャップ半導体装置では、サージ電圧が発生しやすく、装置耐圧を超えたサージ電圧が発生して、降伏状態になりやすいことが挙げられる。サージ電圧の大きさは、回路の浮遊インダクタンス(Ls)、およびドレイン電流i
dの時間当たりの変化量(di
d/dt)に依存し、Ls×di
d/dtの大きさに比例して大きくなる。ワイドバンドギャップ半導体装置は、装置容量が小さく、高速なスイッチング動作が可能であるため、di
d/dtが大きく、それに伴いサージ電圧が本質的に大きい。また、装置容量が小さいため、浮遊インダクタンスに蓄えられたわずかなエネルギーでも、大きなサージ電圧が発生する。これは、高速スイッチングが可能なワイドバンドギャップ半導体装置における避けられない問題である。
【0021】
2つ目の要因として、アバランシェ降伏による電流が、装置内部で局所的に集中することによる破壊が挙げられる。ワイドバンドギャップ半導体装置では、装置全体で均一にアバランシェ降伏を起こすことが出来ず、降伏電流が集中しやすい。この問題は、ワイドバンドギャップ半導体では、P型およびN型の両方で同時に低い抵抗率が得られないことに起因している。特に、SiC、窒化物半導体、および酸化物半導体では、P型のワイドバンドギャップ半導体において抵抗率が高い。そのため、装置の内部からの、アバランシェ増倍で発生した電子と正孔を効率よく排出することが出来ない。これにより、アバランシェ降伏が最初に発生した箇所に、降伏電流が集中して、この集中箇所で装置が破壊される。
3つ目の要因として、半導体装置の表面を保護する保護絶縁膜の破壊が挙げられる。ワイドバンドギャップ半導体の絶縁破壊強度は、SiO
2などの一般的に用いられる保護絶縁膜の絶縁破壊強度に匹敵する。そのため、アバランシェ降伏が発生する強い電界を印加すると、半導体内部ではなく、保護絶縁膜中で絶縁破壊が発生することがある。
【0022】
前記2つ目の要因における破壊の具体例を、
図1のSiC−MISFETを例に挙げて説明する。P型領域222とN型伝導領域203の間に形成されるボディダイオードに電界がかかり、アバランシェ降伏を起こす。このときアバランシェにより発生した正孔は、降伏電流の経路220を通って、P型コンタクト領域206に注入され、ソース電極210から排出される。このとき、P型領域222およびP型コンタクト領域206の抵抗が高く、その電圧降下により、P型コンタクト領域206とN型コンタクト領域205の間のダイオードがオン状態となる。これによって、ソース電極210から、N型コンタクト領域205を介して電子が注入され、降伏電流がさらに増大する。その結果、降伏電流が装置内部の所定の箇所に集中して、局所的な破壊に至る。つまり、ユニポーラ型の装置であるMISFETが、降伏状態では、少数キャリアの注入が起こり、バイポーラ動作となっており、このバイポーラ動作における装置内部での電流集中が、装置の破壊を引き起こす。
前記2つ目の要因により、オン状態でのオン電流を運ぶキャリアが電子であることを特徴とするワイドバンドギャップ半導体装置において、アバランシェ降伏による破壊がとくに顕著になる。
なお、
図1中の他の符号、符号200は、基板を示し、符号207は、N型コンタクト領域を示し、符号211は、ゲート電極、符号224は、ゲート絶縁膜を示す。また、本明細書中、同一の符号は、同一名の部材を示す。
【0023】
また、前記2つ目の要因における破壊に関する、もう一つの具体例として、窒化物半導体を用いたHeterojunction Field Effect Transistor(以下、HFET、またはヘテロ接合型電界効果型トランジスタ)について説明する。窒化物半導体HFETの断面構造図を
図3に示す。同図に描かれるように、窒化物半導体HFETは、一般的にPN接合によるボディダイオードを有していない。そのため降伏電流が流れる経路を持っていない。その場合、アバランシェにより発生した正孔を排出するためのP型領域、およびそのP型領域に対する電極を有していないため、正孔の排出がより困難になる。それによって、アバランシェ増倍で発生した正孔が装置の内部に蓄積される。正孔の蓄積は電界の集中を誘発し、それによってアバランシェ降伏の電流が、装置の内部において局所的に集中して流れる。これにより、わずかなアバランシェ電流において、装置が破壊される。なお、
図3中、符号103は、N型伝導領域を示し、符号110は、ソース電極を示し、符号111は、ゲート電極を示し、符号112は、ドレイン電極を示し、符号117は、基板電極を示し、符号124は、ゲート絶縁膜を示し、符号133は、2次元電子ガスを示し、符号134は、表面バリア層を示し、符号135は、GaN下地層を示し、符号136は、成長初期層を示し、符号137は、異種基板を示す。
【0024】
また、窒化物半導体においてもPN接合によるボディダイオードを有する構造が開示されている(非特許文献1、特許文献1)が、
図1のSiC−MISFETと同様に、P型の抵抗率が高いことによるアバランシェ降伏電流の集中により、装置の破壊が起こる。
また、ワイドバンドギャップ半導体におけるアバランシェ降伏の耐量を向上させた構造が、特許文献2で開示されているが、前記のようにワイドバンドギャップ半導体におけるアバランシェ降伏の本質的な問題は解決されていない。
【0025】
以上、ワイドバンドギャップ半導体におけるアバランシェ降伏における装置の破壊の問題について、
図1のSiC−MISFET、および
図3の窒化物半導体のHFETを例に挙げて説明した。しかし、ワイドバンドギャップ半導体装置におけるアバランシェ降伏による破壊は、前記のように、サージ電圧が大きいこと、および装置全体に均一にアバランシェ降伏を起こ
さないこと、さらにアバランシェ降伏を起こすほどの強い電界が絶縁膜の劣化を起こすことに起因した、様々なワイドバンドギャップ半導体装置における共通の問題である。
【0026】
具体的には、ユニポーラ型およびバイポーラ型の装置について、同様の問題を有する。ここで、ユニポーラ型の装置とは、以下の2つの条件を満たす半導体装置である。一つ目の条件として、オン状態において主電極を通って流れるオン電流を運ぶキャリアが、電子または正孔のどちらか一種類である半導体装置である。また、2つ目の条件として、このとき半導体内部で、電子または正孔は、それぞれN型半導体またはP型半導体のみを通過する。
図1および
図3の半導体装置は、電子をキャリアとするユニポーラ型に分類される。ここで、N型半導体およびP型半導体とは、絶縁膜と半導体界面でのN型またはP型への反転層についても、それぞれ含む。また、前記2つの条件を満たさないものを、バイポーラ型の装置と呼ぶ。
【0027】
ここで、主電極とは、電界効果型トランジスタのソースおよびドレイン電極、バイポーラトランジスタのエミッタおよびコレクタ電極、およびダイオードのカソードおよびアノード電極をさす。
【0028】
より具体的には、下記のワイドバンドギャップ装置において、同様の問題を有する。ユニポーラ型の装置に分類されるトランジスタであるJunction Field Effect Transistor(以下、JFET、または接合型電界効果型トランジスタ)、Static Induction Transistor(以下、SIT、または静電誘導型トランジスタ)についても同様の問題を有している。
また、バイポーラ装置に分類されるパワートランジスタであるBipolar Transistor(以下、BT、またはバイポーラトランジスタ)、Heterojunction Bipolar Transistor(以下、HBT、またはヘテロ接合型バイポーラトランジスタ)、およびInsulated Gate Bipolar Transistor(以下、IGBT、または絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)についても同様の問題を有している。
また、ダイオードにおいても同様の問題が見られ、ユニポーラ型のSchottky Barrier Diode(以下、SBD、またはショットキーバリアダイオード)、およびショットキーバリアダイオードの一種であるJunction Barrier Schottky Diode(以下、JBSD)、およびバイポーラ型のP−N junction Diode(以下、PND)およびP−i−N junction Diode(PiND)についても同様の問題を有している。
【0029】
また、ユニポーラ型の装置は、バイポーラ型の装置と比較して、スイッチング速度が速いため、前記アバランシェ降伏による破壊の問題がより顕著である。
【0030】
また、横型の半導体装置では、縦型の半導体装置に比較して、前記アバランシェ降伏による問題が、以下の2つの理由により顕著になる。一つ目の理由として、横型の半導体装置は、縦型の半導体装置に比べて、スイッチング速度が速く、これによってサージ電圧が大きくなる。二つ目の理由として、アバランシェ降伏により発生した、高エネルギーのキャリアが、半導体装置表面を流れ、これによって半導体装置表面を保護した絶縁膜に注入され、絶縁膜中に電界の集中を起こし、絶縁膜内部で破壊を起こす。
【0031】
ここで、縦型の装置とは、主電極が半導体基板の両面に形成され、これによってオン電流が半導体基板を貫通して流れる半導体装置である。横型の装置とは、主電極が半導体基板の片面に形成された半導体装置である。また、
図1と
図3は、横型の半導体装置である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
発明を実施するための最良の形態(以下、実施の形態と言う。)について説明する。以下では、特に、<第一の実施の形態>において窒化物半導体によるHFET、<第二の実施の形態>においてSiCによるMISFET、<第三の実施の形態>においてSiCによるJFET、および<第四の実施の形態>において窒化物半導体によるSBDに関する実施の形態について説明する。これらはすべて、ワイドバンドギャップ半導体を材料として用いており、かつユニポーラ型であり、かつ電子をキャリアとしており、かつ横型の半導体装置である。本発明は、バイポーラ装置を含む様々な材料の装置に適用可能であるが、特に、ユニポーラ型の半導体装置で特に有効であり、さらに電子をキャリアとするユニポーラ型ではとくに有効である。ユニポーラ装置に適用することで、降伏状態も含めた完全なユニポーラ動作を実現できる。また、ワイドバンドギャップ半導体を用いた半導体装置で効果が得られ、とくに、横型のワイドバンドギャップ半導体装置において最も効果が得られる。
また、<第五の実施の形態>で述べるように、同一基板上に本発明による半導体装置を集積化させることで、信頼性の高い集積回路を実現できる。
【実施例1】
【0053】
<第一の実施の形態>
第一の実施の形態である窒化物半導体によるHFETについて説明する。
図4に本発明による窒化物半導体HFETの構造図を示す。基板100を除き、HFETを形成する半導体材料の化学式は、次式(3)で表わされる窒化物半導体である。
【0054】
【数3】
【0055】
式中x、y及びzは、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、x+y+z≦1を満足させる数値をもつものとする。基板100については、窒化物半導体以外の材料も用いることが出来る。
また、本発明による層構造は六方晶の結晶構造におけるc軸方向に積層することが望ましい。c軸方向とは、[0001]または[000−1]方向のことである。
基板100の材料については、高品質な窒化物半導体の結晶成長が行えることが望ましい。例えば、Si基板、SOI(Silicon−on−Insulator)基板、SOS(Silicon−on−Sapphire)基板、サファイア基板、SiC基板、ダイヤモンド基板、および窒化物半導体基板が挙げられる。基板の面方位は、六方晶系であれば(0001)面もしくは(000−1)面が望ましく、立方晶系では(111)面が望ましい。これによって、
図4の層構造をc軸方向に積層することが可能となる。
【0056】
基板100上に、N型キャリア供給領域101を形成する。N型キャリア供給領域101は、N型の導電性を有する窒化物半導体からなる。N型キャリア供給領域101は、N型のInAlGaN、AlGaN、GaN、InAlN、またはInGaNにより形成することが望ましい。ただし、組成の異なる2種類以上の窒化物半導体層による多層膜としても良い。N型にするために、ドナー不純物をドーピングすることが望ましく、Siをドーピングすることがより望ましい。Siのドーピング濃度は、好適には5×10
16cm
-3以上であり、より好適には3×10
17cm
-3以上である。ただし、窒化物半導体は、成長条件によってはノンドープでもN型が得られるため、N型キャリア供給領域101を、ノンドープで作製することも出来る。N型キャリア供給領域101の膜厚は、10nm以上あることが望ましく、100nm以上であることがより望ましい。
【0057】
N型キャリア供給領域101上に、P型バリア領域102を形成する。P型バリア領域102は、P型の導電性を有する窒化物半導体からなる。P型バリア領域102は、P型のInAlGaN、AlGaN、GaN、InAlN、またはInGaNにより形成することが望ましい。ただし、組成の異なる2種類以上の窒化物半導体層による多層膜としても良い。P型にするために、アクセプタ不純物をドーピングすることが望ましく、Mgをドーピングすることがより望ましい。Mgのドーピング濃度は、好適には1×10
16cm
-3以上であり、より好適には3×10
16cm
-3以上である。Mg濃度を上げることで、室温付近での正孔の活性化率が低下する。これによって装置内部で降伏が起きた場所において、発熱により、正孔の活性化率が上昇し、自動的に突き抜けによる降伏が抑制される。
これによって、装置全体で均一な降伏を起こすことが可能になる。ただし、Mg濃度が高すぎると、活性
化率の低下により、温度変動による突き抜けによる降伏電圧の変動が大きくなりすぎてしまう。最悪の場合、温度の上昇にともない、突き抜けによる降伏電圧が増大し、アバランシェ降伏電圧に達してしまう。そのため、Mg濃度は2×10
19cm
-3以下であることが望ましく、5×10
18cm
-3以下であることがより望ましい。また、N型キャリア供給領域101に、In組成が2%〜30%のInGaNを用いることで、温度の変動を抑制できる。
【0058】
P型バリア領域102上に、低濃度耐圧制御領域104を形成する。低濃度耐圧制御領域104は、低濃度P型、低濃度N型、および半絶縁の窒化物半導体からなる。低濃度耐圧制御領域104は、キャリア濃度の低いInAlGaN、AlGaN、GaN、InAlN、またはInGaNにより形成することが望ましい。ただし、組成の異なる2層以上の窒化物半導体層による多層膜としても良い。例えば、GaN層およびAlGaN層、またはGaN層およびAlN層を、交互に繰り返し積層した超格子構造により、低濃度耐圧制御領域104を形成することが可能である。キャリア濃度を下げるため、ノンドープで作製することが望ましい。ただし、SiドナーやMgアクセプタを低濃度で添加をしてもよい。また、高抵抗化するために、OやCなどの深い準位を形成する不純物を添加してもよい。キャリア濃度は、好適には1×10
16cm
-3以下であり、より好適には5×10
15cm
-3以下である。膜厚については、耐圧を決定する重要なパラメータであり、耐圧によって設計する必要があり、耐圧200V以上では、0.5μm以上である。耐圧600V以上では、1.5μm以上である。
【0059】
低濃度耐圧制御領域104上に、表面バリア層134を形成する。低濃度耐圧制御領域104と表面バリア層134のヘテロ接合界面に正の分極電荷を誘起することで、2次元電子ガス133を形成している。表面バリア層134を、低濃度耐圧制御領域104よりバンドギャップの大きな窒化物半導体層で形成することで、高密度の2次元電子ガス133が得られる。表面バリア層134の膜厚は、2nm〜70nmの範囲であることが望ましい。
【0060】
装置のオン状態において、2次元電子ガス133を通して、ソース電極110からドレイン電極112にキャリアである電子が流れる。そのため、2次元電子ガス133がN型伝導領域103の役割を果たす。また、表面バリア層134の全体もしくは一部に、Siをドーピングしてもよく、これにより2次元電子ガス133のキャリア密度を増大させ、装置のオン抵抗を下げることが出来る。このときの、Siのドーピング濃度は、好適には5×10
19cm
-3以下であり、より好適には1×10
19cm
-3以下である。ただし、ヘテロ界面における正の分極により、ノンドープでも2次元電子ガス133を形成できるので、表面バリア層134は、ノンドープで作製してもよい。また、組成の異なる2層以上の窒化物半導体層による多層膜により、表面バリア層134を形成しても良い。具体的には、InGaN/InAlGaNの2層構造により表面バリア層134を形成してもよく、またGaN/AlGaNの2層構造により表面バリア層134を形成してもよい。
【0061】
ここで2次元電子ガスとは、ヘテロ接合界面における正の分極電荷により誘起される、ヘテロ接合界面近傍に2次元的に分布した、電子をさす。
300Kにおける、N型伝導領域103のシート電子濃度は、5×10
12cm
-2以上であり、より望ましくは1×10
13cm
-2以上である。また、N型伝導領域103のシート電子濃度は、P型バリア領域102のシート正孔濃度より多いことが望ましい。これによって、突き抜け降伏を安定して起こすことができる。ここで、シート電子濃度(単位はcm
-2)とは、基板表面に対して垂直の方向に、N型伝導領域103の電子濃度(単位はcm
-3)を積分した値とする。
【0062】
パンチスルー電極115は、N型キャリア供給領域101に対して、電子のやり取りに関するオーミック接触している。パンチスルー電極115の材料としては、Ti系合金が挙げられる。
ドレイン電極112は、N型伝導領域103に対して、電子のやり取りに関するオーミック接触している。ドレイン電極112の材料としては、Ti系合金が挙げられる。
ソース電極110は、N型伝導領域103に対して、電子のやり取りに関するオーミック接触している。ソース電極110の材料としては、Ti系合金が挙げられる。
【0063】
図4に描かれるように、パンチスルー電極115とソース電極110は電気的に短絡している。
ゲート電極111は、表面バリア層134上に形成された、ゲート絶縁膜124の上に形成されている。これにより、MIS構造のゲートが形成されている。ゲート電極111の材料としては、様々な材料を用いることが出来るが、例えばNi系合金およびPt系合金が挙げられる。ゲート絶縁膜124の材料は、特に限定されないが、例えば、SiO
2、SiNx、Al
2O
3、AlN、およびダイヤモンドなどが挙げられる。AlNやダイヤモンドは、半導体であると同時に、絶縁膜としても用いることが出来る。
ただし、ゲート電極111をN型キャリア供給領域103に対するショットキー電極とし、表面バリア層134に接触させて形成してもよい。
【0064】
ソース電極110とゲート電極111の横方向の距離は、5μm以下であり、望ましくは2μm以下である。ゲート電極111とドレイン電極の横方向の距離は、低濃度耐圧制御層104の膜厚に対して、大きいことが望ましく、より望ましくは1.2倍以上である。
また、P型バリア領域102に対して、オーミック接触および間接的なオーミック接続された電極は無い。そのため、P型バリア領域102は、N型伝導領域103、およびN型キャリア供給領域101により、すべての電極からPN接合分離がされており、電気的に浮いている。これより装置の作製コストを大幅に低減できる。
【0065】
図5に、
図4に示した窒化物半導体HFETにおける、ゼロバイアス時(Vds=0V)のドレイン電極112の下に位置する半導体領域において、基板表面から垂直方向におけるバンド構造のプロファイルの概略図を示す。N型伝導領域103とP型バリア領域102の間の空乏層幅は、P型バリア領域102とN型キャリア供給領域101の間の空乏層幅と比較して、大きいことが望ましく、具体的は2倍以上であり、より好適には5倍以上である。
【0066】
以下では、
図4に示した窒化物半導体HFETの動作について説明する。
図6にこの窒化物半導体HFETにおけるI−V特性の概略図を示す。まず、
図4のゲート電極111とソース電極110の間に閾値電圧以上の電圧が印加されたオン状態では、ソース電極110からドレイン電極112からに向かって、N型伝導領域103を通して電子が運ばれる。電子は負の電荷をもっているので、オン電流としては、ドレイン電極112からソース電極110に向かって流れる。
次に、
図4のゲート電極111とソース電極110の間に閾値電圧以下の電圧が印加された、オフ状態では、ゲート電極111の下の2次元電子ガス133が空乏化する。この状態で、ドレイン112およびソース110の間に正の電圧Vdsを印加していくと、まず、
図6に描くように微小なリーク電流が流れる。リーク電流の値は、オン状態におけるドレイン電流の最大値の1千分の1以下であり、より望ましくは1万分の1以下である。
【0067】
さらにVdsを増加させていくと、P型バリア層102の一部、とくに、ドレイン電極112の垂直下に位置する箇所で、正孔の空乏化が起こる。Vdsが突き抜けによる降伏電圧(以下、Vpt)に達した時、N型伝導領域103と、N型キャリア供給領域101が空乏層でつながり、突き抜けによる降伏状態となる。これによって、電子がパンチスルー電極115から注入され、N型キャリア供給領域101を経由して、P型バリア領域102の正孔が空乏化した箇所を通過して、ドレイン電極112に到達する。この突き抜けによる降伏電流の経路120は、負の電荷をもつ電子の流れと逆向きになる。突き抜けが起こることによって、
図6に描かれるようにVpt以上のVdsにおいて、オフ状態であるにもかかわらず、ドレイン電流が流れる。
【0068】
図7に突き抜け降伏時のドレイン電極112の下側に位置する半導体領域において、基板表面から垂直方向におけるバンド構造のプロファイルの概略図を示す。
図7に描くように、ドレイン電極112の下側に位置するP型バリア領域102が空乏化して、c軸方向に向かって、降伏電流の経路120の方向に降伏電流が流れる。
この突き抜け降伏状態では、ドレイン電極112からパンチスルー電極115に向かって電流が流れており、ドレイン電極112とソース電極110、およびドレイン電極112とゲート電極111の間ではほとんど電流は流れない。具体的には、ドレイン電極112からパンチスルー電極115に向かって電流が流れる電流に対して、ドレイン電極112とソース電極110、およびドレイン電極112とゲート電極111の間で流れる電流は、それぞれ1千分の1以下であり、より好ましくはそれぞれ1万分の1以下である。
【0069】
また、本発明による半導体装置は、Vptが、アバランシェ降伏電圧(以下、Vava)より低く設計されており、アバランシェ降伏を起こさない。これによって、アバランシェ降伏による破壊を防ぐことが出来る。また、本発明による半導体装置における装置耐圧(以下、BV)は、Vptにより決定される。
ここで、半導体装置におけるBVとは、オフ状態が維持できなくなり電流が流れ始める電圧のことであり、FETではドレイン電流が流れ始めるドレインとソース間の電圧Vdsのことである。
また、
図6では描かれていないが、オン状態においても、Vptに相当する過電圧を印加すると、オフ状態と同様に、ドレイン電極112からパンチスルー電極115に、突き抜け降伏による電流が流れる。これによって、オン状態でもアバランシェ降伏を防ぐことが出来る。
【0070】
図4の窒化物半導体HFETにおける、P型キャリア供給領域102のシート正孔濃度に対する、300KでのBVの値を、デバイスシミュレーションによる仮想実験により検証した。
図8にシミュレーション結果を示す。シート正孔濃度が1.7×10
13cm
-2以下では、降伏は突き抜けによっておこり、それ以上では、アバランシェ降伏が起きた。よって、本発明での窒化物半導体による半導体装置における、シート正孔濃度は、1.7×10
13cm
-2以下である。ここで、シート正孔濃度(単位はcm
-2)とは、ドレイン電極112の下側に位置するP型バリア領域102において、基板表面に対して垂直の方向に正孔濃度(単位はcm
-3)を積分した値とする。なお、正孔濃度は、容量−電圧測定(CV測定)、Hall効果測定により測定することができる。また、正孔濃度は、透過型電子顕微鏡による観察、エネルギー分散型X線分光法による分析、X線回折による測定、および二次イオン質量分析などの各種評価法により、半導体装置の構造を特定し、その結果をもとにデバイスシミュレーションを行うことで、見積もることが出来る。
装置内部で、降伏電流が局所的に集中すると、集中カ所から装置が破壊されてしまう。そのため、装置が破壊されずに、出来るだけ多くの降伏電流を流すためには、装置全体で均一に降伏電流が流れることが望ましい。
【0071】
以下では、本発明による、半導体装置内部で、均一な降伏電流が得られる原理を説明する。装置内部では、構造のばらつきに起因した、Vptのばらつきが存在する。突き抜け降伏は、装置内部でもっともVptの小さい箇所から始まる。しかし、本発明によるワンドバンドギャップ半導体装置による突き抜け降伏では、以下で説明する効果により、降伏の発生した箇所において、降伏電流の抑制が起こるため、自動的に降伏電流の分布を均一化させる効果が得られる。
【0072】
まず、一つ目の効果として、この突き抜けによる降伏では、アバランシェ降伏のような電子および正孔の発生を伴わないことが挙げられる。そのため、正孔の排出を行う必要が無い。これによって、アバランシェ降伏と比較して、均一に降伏電流を流すことが出来る。
【0073】
また、二つ目の効果として、温度上昇により移動度が低下することによる、降伏状態の抑制が挙げられる。突き抜けによる降伏では、降伏状態でもユニポーラ動作が保たれるため、ユニポーラ装置のオン状態と同様に、発熱による温度上昇によるキャリア移動度の低下により、降伏電流の集中が抑制され、降伏電流の分布が自動的に均一化される効果がある。
【0074】
三つ目の効果として、突き抜けによる降伏では、降伏によって流れる電子の負の電荷により、降伏状態が抑制される。
図4で説明すると、P型バリア領域102におけるイオン化されたアクセプタの負電荷と同じ極性をもった電子が流れることで、空乏層中に電子が存在し、実効的にP型バリア領域102のアクセプタ濃度を増加させたことと同じ状態となり、降伏電流の集中が抑制され、降伏電流の分布が自動的に均一化される効果がある。
【0075】
四つ目の効果として、降伏した箇所に電流が流れることで、その箇所の温度が上昇し、これがアクセプタの活性化率を上げて、降伏電流を抑制する。
図4で説明すると、P型バリア領域102における正孔の活性化率が上昇し、実効的にP型バリア領域102のアクセプタ濃度を増加させたことと同じ状態となり、これが降伏した場所のVptを増加させる。これによって、降伏電流の集中が抑制され、降伏電流の分布が自動的に均一化される効果がある。
【0076】
以上の4つの相乗効果により、本発明によるワイドバンドギャップ半導体装置では、従来のアバランシェ降伏が発生する装置と比較して、装置全体で均一な降伏が得られる。
また、本発明における降伏電流は、ドレイン電極112から基板方向(c軸方向)に向かって、降伏電流の経路120にそって流れる。これによって以下の2つの利点が得られる。
【0077】
一つ目の利点として、装置の内部方向に向かって降伏電流が流れるため、表面付近での素子の破壊を防ぐことが出来る。これによって、装置の信頼性が向上する。二つ目の利点として、c軸方向の誘電率は、a軸方向に比べて大きいため、突き抜け降伏電圧、アバランシェ降伏電圧、および特性オン抵抗のトレードオフを改善して、小さなチップ面積で、高い素子耐圧と
低いオン抵抗を両立できる。
【0078】
また、
図4に示した本発明による窒化物半導体装置の構造は、本発明の趣旨に従い、変形することが可能である。以下では、具体的な変形例を挙げる。
図4では描かれていないが、基板100上とN型キャリア供給領域101の間には、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、各種の半導体、絶縁体、および金属を挿入しても良い。とくに、窒化物半導体の結晶性を向上させるための、初期成長層を含んでも良い。具体的には、一般的に用いられている低温GaN緩衝層、低温AlGaN緩衝層、低温AlN緩衝層、横方向成長のための各種絶縁体などが挙げられる。
【0079】
また、
図4では描かれていないが、装置の表面を絶縁保護膜で覆うことが望ましい。絶縁膜としては、例えばSiO
2、SiN
x、Al
2O
3、AlNおよびダイヤモンドなどが挙げられる。
【0080】
また、
図4では描かれていないが、表面バリア層134と低濃度耐圧制御領域104の間に、スペーサ層を挿入してもよい。スペーサ層の挿入により移動度が改善し、これによってオン抵抗を下げることが出来る。スペーサ層は窒化物半導体であり、表面バリア層134よりバンドギャップエネルギーが大きい。好適には、厚さ3nm以下のAlN層とする。
【0081】
また、
図4では描かれていないが、表面バリア層134と低濃度耐圧制御領域104の間に、キャリアの閉じ込めを促進するための井戸層を挿入してもよい。これによって、オフ状態でのリーク電流を低減できる。井戸層は窒化物半導体であり、低濃度耐圧制御領域104よりバンドギャップエネルギーが小さい。好適には、厚さ500nm以下のInGaN層である。より好適には、厚さ50nm以下のInGaN層である。
【0082】
また、
図9に示す変形例が可能である。P型バリア領域102とN型キャリア供給領域101の間に低濃度耐圧制御領域104bを追加する。低濃度耐圧制御領域104bを追加することで、逆方向の電圧(負のVds)における耐圧が向上する。低濃度耐圧制御領域104bは、低濃度P型、低濃度N型、および半絶縁の窒化物半導体からなる。好適にはAlGaN、InGaN、またはGaNである。ただし、組成の異なる2層以上の窒化物半導体層による多層膜としても良い。キャリア濃度を下げるため、ノンドープで作製することが望ましい。ただし、SiドナーやMgアクセプタを低濃度で添加をしてもよい。また、高抵抗化するために、OやCなどの深い準位を形成する不純物を添加してもよい。キャリア濃度は、好適には1×10
16cm
-3以下であり、より好適には5×10
15cm
-3以下である。低濃度耐圧制御領域104bの膜厚については、低濃度耐圧制御領域104aより薄いことが望ましく、好適には低濃度耐圧制御領域104aの膜厚の2分の1以下であり、より好適には5分の1以下である。
【0083】
また、
図10に示す変形例が可能である。N型キャリア供給領域101とN型伝導領域103の間に、2つ以上のP型バリア領域102(
図10中、102a,102b)と低濃度耐圧制御領域104(
図10中、104a,104b)を入れることも可能である。これによって、温度変動に対する降伏電圧の変動を抑制できる。
【0084】
また、
図11に示す変形例が可能である。複数のP型バリア領域102(102a,102b)の間に、N型中間層125を挿入してよい。この場合、各P型バリア領域のシート正孔濃度は、1.7×10
13cm
-2以下とする。これによって、Vptを向上することが出来る。
【0085】
また、
図12に示す変形例が可能である。これによって、半導体装置の製造プロセスにおける歩留りが向上し、製造コストを下げられる。
【0086】
また、
図13に示す変形例が可能である。パンチスルー電極115はP型バリア領域102と接触してもよい。これによって、製造コストを下げられる。
【0087】
また、
図14に示す変形例が可能である。基板に、N型窒化物半導体基板139を用いることで、装置の裏面からパンチスルー電極115を形成することが出来る。N型窒化物半導体基板139は、GaN、またはAlNであることが望ましい。これによって、サージ電圧を発生させるエネルギーを、体積の大きな基板に吸収させることが可能となり、降伏の耐量が向上する。また、
図14の変形例として、N型窒化物半導体基板139を、窒化物半導体以外のN型半導体基板に置き換えることも可能である。具体的には、N型Si基板およびN型SiC基板を用いることが可能である。ただし、窒化物半導体以外の基板を用いることで、N型キャリア供給領域101とN型半導体基板の界面において、伝導帯にバンドオフセットが生じるため、十分な降伏電流を流すためには、N型半導体基板が高濃度のN型であることが望ましい。具体的には、電子濃度が5×10
18cm
−3以上のN型Si基板、または電子濃度が1×10
18cm
−3以上のN型SiC基板を用いることが望ましい。
【0088】
また、
図15に示す変形例が可能である。パンチスルー電極115は、すべてのユニットセルにそれぞれ形成するのではなく、複数のユニットセルに対してパンチスルー電極115が1つでもよい。これによって、装置面積を縮小して、製造コストを削減できる。なお、符号110a,110bは、ソース電極を示し、符号111a,111bは、ゲート電極を示し、符号124a,124bは、ゲート絶縁膜を示す。
また、
図16に描くように、パンチスルー電極115とソース電極110は、一体化して形成しても良い。これによって、装置全体で均一な降伏を起こすことが出来る。また、装置面積を縮小できる。
【0089】
また、
図17に描くように、パンチスルー電極絶縁膜152を形成してもよい。これによって、パンチスルー電極115と、P型バリア領域102および低濃度耐圧制御領域104が電気的に絶縁され、降伏電圧以下でドレイン電極112に流れるリーク電流を低減できる。
【0090】
また、
図18に描くように、パンチスルー電極115とソース電極110は、短絡させずに、パンチスルー制御電源150を介して電気的に接続しても良い。これによって、パンチスルー制御電源150により、パンチスルー電圧を制御することが出来る。
【0091】
また、
図19に描くように、パンチスルー電極115とソース電極110は、短絡させずに、抵抗体154を介して電気的に接続しても良い。これによって、装置全体で均一に降伏電流を流すことが出来るため、降伏の耐量を高めることが出来る。抵抗体154としては、金属体、半導体のドリフト抵抗を用いた抵抗体、および金属と半導体の接触抵抗を用いた抵抗体あり、半導体素子とワンチップで形成することが可能である。また、抵抗体154は、半導体装置の外部に設けても良い。
また、
図20に描くように、パンチスルー電極115とソース電極110は、短絡させずに、ダイオード156を介して電気的に接続しても良い。これによって、逆方向電圧(負のVds)において、ダイオード156が逆バイアス状態となり、逆方向電圧におけるアバランシェ降伏電圧を高め、素子の破壊を防ぐことが出来る。ダイオード156としては、<第五の実施の形態>で詳しく述べるように、同一基板上に作製したダイオードとワンチップで形成することが可能である。また、ダイオード156は、半導体装置の外部に設けても良い。
【0092】
また、
図21に描くように、P型バリア層102にオーミック接触したパンチスルー補助電極116を設けても良い。これにより、スイッチング時の装置のオン抵抗を下げることが出来る。このとき、この突き抜け降伏状態では、ドレイン電極112からパンチスルー電極115に向かって電流が流れており、ドレイン電極112とパンチスルー補助電極116の間ではほとんど電流は流れない。具体的には、ドレイン電極112からパンチスルー電極115に向かって電流が流れる電流に対して、ドレイン電極112とパンチスルー補助電極116で流れる電流は1千分の1以下であり、より好ましくは1万分の1以下である。これによって、パンチスルー補助電極116を設けても、降伏状態におけるユニポーラ動作が保たれ、均一な降伏電流の分布が得られる。パンチスルー補助電極116は、
図21に描かれるように、パンチスルー電極115と電気的に短絡させることが望ましい。
【0093】
また、
図22に描くように、パンチスルー補助電極116は、パンチスルー電極115と一体で形成することで、お互いを短絡させても良い。これによって、装置面積を縮小して製造コストを下げられる。
【0094】
また、
図23に描くように、パンチスルー補助電極116は、ゲート電極111と電気的に短絡させてもよい。これによって、オフ状態でのリーク電流を低減することが出来る。また、
図23では描かれていないが、抵抗体を介してパンチスルー補助電極116とゲート電極111を接続することで、降伏電流の装置内部での均一性を向上させることが出来る。
【0095】
また、
図24に示す変形例が可能である。パンチスルー電極115は、N型コンタクト領域108を介してN型キャリア供給領域101と間接的に接続してもよい。また、パンチスルー補助電極116は、P型コンタクト領域109を介して間接的にP型バリア領域102と間接的に接続しても良い。また、ソース電極110、N型コンタクト領域105を介してN型伝導領域103と間接的に接続してもよい。また、ドレイン電極112、N型コンタクト領域107を介してN型伝導領域103と間接的に接続してもよい。これによって、コンタクトの抵抗を下げ、スイッチング動作を高速に行うことが出来る。
【0096】
また、
図25に描くように、パンチスルー電極115、パンチスルー補助電極116、およびソース電極110は、一体化して形成しても良い。これによって、装置面積を縮小して、製造コストを抑えることが出来る。
【0097】
また、
図26に示す変形例が可能である。低濃度耐圧制御領域104と組成の異なる分極層138により、低濃度耐圧制御領域104と分極層138のヘテロ接合界面に負の分極を発生させ、これによって誘起させた2次元正孔ガス132により、P型バリア領域102を形成する。これによって、Mgドーピングだけでは不可能な、高濃度の正孔を有するP型バリア領域102を形成することが可能である。分極により発生する正孔濃度は温度に依存しない。よって、分極を用いることで、温度変動に対する、突き抜けによる降伏電圧の変動を大幅に減らすことが出来る。また、低濃度耐圧制御領域104と分極層138のヘテロ接合界面の付近に、さらにMgドーピングを行うことで、さらに正孔濃度を高めることが出来る。Mgドーピングのみを用いてP型バリア領域102を形成する場合と比較して、Mgドーピング濃度を下げられるため、温度変動に対する、突き抜けによる降伏電圧の変動を大幅に減らすことが出来る。このとき、Mg濃度は2×10
19cm
-3以下であることが望ましく、5×10
18cm
-3以下であることがより望ましい。この変形例における降伏電流の経路120は、負の分極電荷を有するヘテロ接合界面を通過して流れることを特徴とする。
【0098】
ここで2次元正孔ガスとは、ヘテロ接合界面における負の分極電荷により誘起される、ヘテロ接合界面に2次元的に分布した、正孔をさす。
図27に、
図26におけるドレイン電極112の下側に位置する半導体領域において、基板表面から垂直方向におけるバンド構造のプロファイルの概略図を示す。分極層138は、低濃度耐圧制御領域104より、バンドギャップエネルギーの大きな窒化物半導体を用いることが望ましい。これによって、高濃度の2次元正孔ガス132を発生させることが出来る。具体的には、分極層138は、低濃度耐圧制御層104に対してバンドギャップエネルギーの大きな、InAlGaN、AlGaN、GaN、InAlN、またはInGaNにより形成することが望ましい。ただし、組成の異なる2種類以上の窒化物半導体層による多層膜としても良い。
【0099】
図28に、
図26におけるバンド構造の変形例の概略図を示す。分極層138と低濃度耐圧制御領域104の間で、組成を連続的に変化させることで、分極層138と耐圧制御領域104のヘテロ接合におけるバンド不連続を低減することが出来る。これによって、装置全体で均一な突き抜けによる降伏電流を流すことが出来るため、降伏の耐量を向上することが出来る。
【0100】
また、
図29に示す変形例が可能である。分極層138と組成の異なる低濃度領域140により、分極層138と低濃度領域140のヘテロ接合界面に正の分極を発生させ、分極により誘起させた2次元電子ガス131により、N型キャリア供給領域101を形成する。これによって、Siドーピングだけでは不可能な、高濃度の電子を有するN型キャリア供給領域101を形成することが可能である。また、分極層138と低濃度領域140のヘテロ接合界面の付近に、さらにSiドーピングを行うことで、さらに電子濃度を高めることが出来る。これによって、Siドーピング濃度を下げられるため、温度変動に対する、突き抜けによる降伏電圧の変動を大幅に減らすことが出来る。このとき、Si濃度は2×10
19cm
-3以下であることが望ましく、5×10
18cm
-3以下であることがより望ましい。また、分極により発生する電子は移動度が高い。よって、分極を用いることで、サージ電圧に対して、瞬時に降伏電流を流すことが出来るので、装置の降伏の耐量を大きくすることが出来る。また、分極層138は、InAlGaN、AlGaN、またはInAlNによって形成することが望ましい。とくに、InAlNを用いる場合は、In組成は40%以下であることが望ましく、In組成が13〜25%の範囲であることがより望ましい。
【0101】
図30に、
図29におけるドレイン電極112の下側に位置する半導体領域において、基板表面から垂直方向におけるバンド構造のプロファイルの概略図を示す。低濃度領域140は、分極層138より、バンドギャップエネルギーの小さな窒化物半導体を用いることが望ましい。これによって、高濃度の2次元電子ガス131を発生させることが出来る。具体的には、低濃度領域140は、分極層138に対してバンドギャップエネルギーの小さな、InAlGaN、AlGaN、GaN、InAlN、またはInGaNにより形成することが望ましい。ただし、組成の異なる2種類以上の窒化物半導体層による多層膜としても良い。
【0102】
図31に、
図29におけるバンド構造の変形例の概略図を示す。分極層138と低濃度領域140の間で、組成を連続的に変化させることで、分極層138と低濃度領域140のヘテロ接合におけるバンド不連続を低減することが出来る。これによって、装置全体で均一な突き抜けによる降伏電流を流すことが出来るため、降伏の耐量を向上することが出来る。
また、
図32に示す変形例が可能である。低濃度領域140の下側に、N型下地層126を設け、このN型下地層126に対して、パンチスルー電極115を形成する。これによって、装置の作製コストを低減することが出来る。
図33に、
図32におけるドレイン電極112の下側に位置する半導体領域において、基板表面から垂直方向におけるバンド構造のプロファイルの概略図を示す。
【0103】
また、
図34に描くように、ゲート電極111と表面バリア層134の間に、P型ゲート領域123を設けることで、ノーマリーオフ型のHFETにおいてアバランシェ降伏を防ぎ、降伏の耐量を向上することが出来る。なお、符号133a,133bは、二次元電子ガスを示す。
【0104】
また、
図35に描くように、トレンチゲート構造にすることで、ノーマリーオフ型のHFETにおいてアバランシェ降伏を防ぎ、降伏の耐量を向上することが出来る。
【0105】
また、
図36に描くように、本発明によるノーマリーオン型の突き抜け降伏機能を有するトランジスタ153と、ノーマリーオフ型のSi−MISFET151をカスコード接続して、等価的にノーマリーオフ型のトランジスタを実現できる。降伏状態では、Si−MISFET151はアバランシェ降伏を起こす。突き抜け降伏機能を有するトランジスタ153の部分は、突き抜けによる降伏動作となり、アバランシェ降伏は発生しない。ノーマリーオフ型のSi−MISFET151に対して、突き抜け降伏機能を有するトランジスタ153の素子耐圧は大きい。具体的には、Si−MISFET151に対して、突き抜け降伏機能を有するトランジスタ153の素子耐圧は、3倍以上であり、より望ましくは6倍以上である。これによって、降伏時にアバランシェ降伏を起こすSi−MISFET151で消費されるエネルギーが小さくなる。降伏時に消費されるエネルギーの大きな、突き抜け降伏機能を有するトランジスタ153では、突き抜け降伏による降伏の耐量が大きいため、
図36の装置全体として、大きな降伏の耐量を持たせることが出来る。また、Si−MISFETのゲート絶縁膜の信頼性は、ワイドバンドギャップ半導体のゲート構造の信頼性と比較して格段に高く、
図36の構成にすることで、装置全体として大きな信頼性が得られる。
また、
図36において、パンチスルー電極115は、ソース電極110、およびSi−MISFET151のドレイン電極と電気的に短絡しているが、パンチスルー電極115を、ソース電極110、およびSi−MISFET151のドレイン電極と電気的に切り離し、Si−MISFET151のソース電極と電気的に短絡した形式に変形することが可能である。この変形よって、降伏状態での電圧の安定性が向上する。また、
図36におけるSi−MISFET151は、Siにおける、各種の電界効果型トランジスタ、およびNPNバイポーラトランジスタなどで置き換えることも可能である。
【0106】
カスコード接続とは、第一のトランジスタのドレイン電極と、第二のトランジスタのソース電極を短絡し、かつ、第二のトランジスタのゲート電極を、第一のトランジスタのソース電極と、電気的に接続した回路のことである。第二のトランジスタのゲート電極と、第一のトランジスタのソース電極の、電気的な接続は、短絡が望ましい。ただし、抵抗体、電圧源、インダクタ、およびコンデンサを介して接続してもよく、これによって降伏時における第一のトランジスタにかかる電圧を安定して制御することが可能となるため、装置の信頼性を向上することができる。
【0107】
また、第一の実施の形態では、Nチャネル型のHFETを示したが、N型とP型、ドナーとアクセプタ、正の分極と負の分極、および電子と正孔を入れかえることで、Pチャネル型のHFETにおいても、本発明を用いることが出来る。
また、第一の実施の形態では、窒化物半導体によるHFETについて説明したが、SiC、酸化物半導体、およびダイヤモンドなどの、他のワイドバンドギャップ半導体によるHFETにおいても、本発明を用いることが出来る。
【0108】
ただし、降伏電流の流れる経路は、1種類のワイドバンドギャップ半導体で作製することが望ましい。2種類以上のワイドバンドギャップ半導体を用いると、その接合界面において、電子および正孔の流れが阻害され、装置全体において均一な突き抜け降伏を起こすことが困難になる。具体的に、
図4では、降伏電流の経路120にあたる、表面バリア層134、低濃度耐圧制御領域104、P型バリア領域102、およびN型キャリア供給領域101は同種のワイドバンドギャップ半導体で形成することが望ましい。
ただし、ワイドバンドギャップ半導体の結晶を構成する主成分となる周期律表の第2周期の元素が同じものを、同じ種類のワイドバンドギャップ半導体と呼ぶものとする。
【0109】
さらには、均一な突き抜け降伏を起こすためには、降伏電流の経路120において、ヘテロ接合界面におけるバンドオフセットが、小さいことが望ましい。具体的には、
図4のようなNチャネル型の装置では、伝導帯のオフセットが0.5eV以下であることが望ましく、より好適には0.1eV以下である。Pチャネル型の装置の場合は、価電子帯のオフセットが0.5eV以下であることが望ましく、より好適には0.1eV以下である。
また、以上の第一の実施の形態による窒化物半導体装置における変形例は、組み合わせて使うことが可能である。また、本発明の趣旨に従い、適
時変形することが可能である。
【実施例2】
【0110】
<第二の実施の形態>
第二の実施の形態であるSiCによるMISFETについて説明する。
図37に本発明によるSiCによるMISFETの構造図を示す。基板200を除き、MISFETを形成する半導体材料のSiCである。SiCのポリタイプは3C、6H、および4Hであることが望ましい。基板200については、SiC以外の材料も用いることが出来る。
また、特にポリタイプとして六方晶系の6Hおよび4Hが望ましく、さらに層構造は六方晶の結晶構造におけるc軸方向に積層することが望ましい。c軸方向とは、[0001]または[000−1]方向のことである。c軸方向の誘電率は、a軸方向に比べて大きいため、突き抜け降伏電圧、アバランシェ降伏電圧、および特性オン抵抗のトレードオフを改善して、小さなチップ面積で、高い素子耐圧とオン抵抗を両立できる。
【0111】
基板200の材料については、高品質なSiCの結晶成長が行えることが望ましい。特に、その上に形成される成長層と同じポリタイプであり、かつc面のSiC基板を用いることが望ましい。その他にも、Si基板、SOI(Silicon−on−Insulator)基板、SOS(Silicon−on−Sapphire)基板、サファイア基板、SiC基板、ダイヤモンド基板、および窒化物半導体基板が挙げられる。基板の面方位は、六方晶系であれば(0001)面もしくは(000−1)面が望ましく、立方晶系では(111)面が望ましい。これによって、
図37の層構造をc軸方向に積層することが可能となる。
【0112】
基板200上に、N型キャリア供給領域201を形成する。N型キャリア供給領域201は、N型の導電性を有するSiCからなる。N型にするために、ドナー不純物をドーピングすることが望ましく、N(窒素)をドーピングすることがより望ましい。Nのドーピング濃度は、好適には5×10
16cm
-3以上であり、より好適には3×10
17cm
-3以上である。ただし、SiCは、成長条件によってはノンドープでもN型が得られるため、N型キャリア供給領域201を、ノンドープで作製することも出来る。
【0113】
N型キャリア供給領域201上に、P型バリア領域202を形成する。P型にするために、アクセプタ不純物をドーピングすることが望ましく、Alをドーピングすることがより望ましい。Alのドーピング濃度は、好適には1×10
16cm
-3以上であり、より好適には3×10
16cm
-3以上である。Al濃度を上げることで、室温付近での正孔の活性化率が低下する。これによって装置内部で降伏が起きた場所において、発熱により、正孔の活性化率が上昇し、自動的に突き抜けによる降伏が抑制される。これによって、装置全体で均一な降伏を起こすことが可能になる。ただし、Al濃度が高すぎると、活性率の低下により、温度変動による突き抜けによる降伏電圧の変動が大きくなりすぎてしまう。最悪の場合、温度の上昇にともない、突き抜けによる降伏電圧が増大し、アバランシェ降伏電圧に達してしまう。そのため、Al濃度は2×10
19cm
-3以下であることが望ましく、5×10
18cm
-3以下であることがより望ましい。
【0114】
P型バリア領域202上に、低濃度耐圧制御領域204を形成する。低濃度耐圧制御領域204は、低濃度P型、低濃度N型、および半絶縁のSiCからなる。キャリア濃度を下げるため、ノンドープで作製することが望ましい。ただし、NドナーやAlアクセプタを低濃度で添加をしてもよい。また、高抵抗化するために、OやCなどの深い準位を形成する不純物を添加してもよい。キャリア濃度は、好適には1×10
16cm
-3以下であり、より好適には5×10
15cm
-3以下である。膜厚については、耐圧を決定する重要なパラメータであり、耐圧によって設計する必要があり、耐圧200V以上では、0.7μm以上である。耐圧600V以上では、2.1μm以上である。
【0115】
低濃度耐圧制御領域204上に、N型伝導領域203を形成する。装置のオン状態において、N型伝導領域203を通して、ソース電極210からドレイン電極212にキャリアである電子が流れる。300Kにおける、N型伝導領域203のシート電子濃度は、3×10
12cm
-2以上であり、より望ましくは6×10
12cm
-2以上である。また、N型伝導領域203のシート電子濃度は、P型バリア領域202のシート正孔濃度より多いことが望ましい。これによって、突き抜け降伏を安定して起こすことができる。ここで、シート電子濃度とは、基板表面に対して垂直の方向に、N型伝導領域203の電子濃度を積分した値とする。
【0116】
ソース電極210のコンタクト抵抗を低減するため、N型コンタクト領域205およびP型コンタクト領域206を形成する。また、ドレイン電極212のコンタクト抵抗を低減するためN型コンタクト領域207を形成する。
パンチスルー電極215は、N型キャリア供給領域201に対して、電子のやり取りに関するオーミック接触している。
【0117】
ドレイン電極212は、N型伝導領域203に対して、電子のやり取りに関するオーミック接触している。
ソース電極210は、N型伝導領域203に対して、電子のやり取りに関するオーミック接触している。
図37に描かれるように、パンチスルー電極215とソース電極210は電気的に短絡している。
【0118】
ゲート電極211は、ゲート絶縁膜224の上に形成されている。これにより、MIS(Metal−Insulator−Semiconducotor)構造のゲートが形成されている。ゲート電極211の材料としては、様々な材料を用いることが出来るが、例えばNi系合金およびPt系合金が挙げられる。ゲート絶縁膜224の材料は、特に限定されないが、例えば、SiO
2、SiNx、Al
2O
3、AlN、およびダイヤモンドなどが挙げられる。AlNやダイヤモンドは、半導体であると同時に、絶縁膜としても用いることが出来る。
【0119】
ソース電極210とゲート電極211の横方向の距離は、5μm以下であり、望ましくは2μm以下である。ゲート電極211とドレイン電極212の横方向の距離は、低濃度耐圧制御層204の膜厚に対して、大きいことが望ましく、より望ましくは1.2倍以上である。
また、P型バリア領域202に対して、オーミック接触および間接的なオーミック接続された電極は無い。そのため、P型バリア領域202は、N型伝導領域203、およびN型キャリア供給領域201により、すべての電極からPN接合分離がされており、電気的に浮いている。これにより装置の作製コストを大幅に低減できる。
【0120】
ゼロバイアス時(Vds=0V)のN型伝導領域203とP型バリア領域202の間の空乏層幅は、P型バリア領域202とN型キャリア供給領域201の間の空乏層幅と比較して、大きいことが望ましく、具体的は2倍以上であり、より好適には5倍以上である。
オン状態およびオフ状態におけるSiC−MISFETの動作は、<第一の実施の形態>における窒化物半導体HFETと同じであり、そのI−V特性は
図6に相当する。
【0121】
図37のSiC−MISFETにおける、P型バリア領域202のシート正孔濃度に対する、300KでのBVの値を、デバイスシミュレーションによる仮想実験により検証した。
図38にシミュレーション結果を示す。シート正孔濃度が1.3×10
13cm
-2以下では、降伏は突き抜けによっておこり、それ以上では、アバランシェ降伏が起きた。よって、本発明でのSiCによる半導体装置における、シート正孔濃度は、1.3×10
13cm
-2以下である。ここで、シート正孔濃度(単位はcm
-2)とは、ドレイン電極212の下側に位置するP型バリア領域202において、基板表面に対して垂直の方向に正孔濃度(単位はcm
-3)を積分した値とする。
また、異なるポリタイプのSiCヘテロ接合界面における負の分極により形成される2次元正孔ガスを、P型バリア領域202として用いることも可能である。具体的には、3C−SiC/6H−SiCヘテロ接合、および3C−SiC/4H−SiCヘテロ接合における分極が挙げられる。分極を用いることで、温度変化に対する突き抜け降伏電圧の変動を抑制することが出来る。
【0122】
また、
図37に示した本発明によるSiC−MISFETの構造は、本発明の趣旨に従い、変形することが可能である。以下では、具体的な変形例を挙げる。
図37では描かれていないが、基板200上とN型キャリア供給領域201の間には、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、各種の半導体、絶縁体、および金属を挿入しても良い。例えば、基板200またはN型キャリア供給領域201と同じポリタイプのSiCからなる層構造を挿入しても良い。
【0123】
また、
図37では描かれていないが、装置の表面を絶縁保護膜で覆うことが望ましい。絶縁膜としては、例えばSiO
2、SiN
x、Al
2O
3、AlNおよびダイヤモンドなどが挙げられる。
【0124】
また、
図39に示すように、P型コンタクト領域206を、P型バリア領域202と繋げてもよい。これによって、ソース電極210にパンチスルー補助電極216の役割を持たせることができる。これによって、スイッチング時のオン抵抗を低減することが出来る。
また、<第一の実施形態>における変形例と同じ趣旨の変形を、SiC−MISFETでも行うことが出来る。また、第二の実施の形態では、Nチャネル型のMISFETを示したが、N型とP型、ドナーとアクセプタ、正の分極と負の分極、および電子と正孔を入れかえることで、Pチャネル型のMISFETにおいても、本発明を用いることが出来る。
【0125】
また、第二の実施の形態では、SiC−MISFETについて説明したが、窒化物半導体、酸化物半導体、およびダイヤモンドなどの、他のワイドバンドギャップ半導体によるMISFETにおいても、本発明を用いることが出来る。
【0126】
ただし、降伏電流の流れる経路は、1種類のワイドバンドギャップ半導体で作製することが望ましい。2種類以上のワイドバンドギャップ半導体を用いると、その接合界面において、電子および正孔の流れが阻害され、装置全体において均一な突き抜け降伏を起こすことが困難になる。具体的に、
図37では、降伏電流の経路220にあたる、N型コンタクト領域207、N型伝導領域203、低濃度耐圧制御領域204、P型バリア領域202、およびN型キャリア供給領域201は同種のワイドバンドギャップ半導体で形成することが望ましい。
【0127】
さらには、均一な突き抜け降伏を起こすためには、降伏電流の経路220において、ヘテロ接合界面を含む場合、そのバンドオフセットが、小さいことが望ましい。具体的には、Nチャネル型の装置では、伝導帯のオフセットが0.5eV以下であることが望ましく、より好適には0.1eV以下である。Pチャネル型の装置の場合は、価電子帯のオフセットが0.5eV以下であることが望ましく、より好適には0.1eV以下である。
【実施例3】
【0128】
<第三の実施の形態>
第三の実施の形態であるSiCによるJFETについて説明する。
図40に本発明によるSiCによるMISFETの構造図を示す。基板300を除き、MISFETを形成する半導体材料のSiCである。SiCのポリタイプは3C、6H、および4Hであることが望ましい。基板300については、SiC以外の材料も用いることが出来る。
また、特にポリタイプとして六方晶系の6Hおよび4Hが望ましく、さらに層構造は六方晶の結晶構造におけるc軸方向に積層することが望ましい。c軸方向とは、[0001]または[000−1]方向のことである。c軸方向の誘電率は、a軸方向に比べて大きいため、突き抜け降伏電圧、アバランシェ降伏電圧、および特性オン抵抗のトレードオフを改善して、小さなチップ面積で、高い素子耐圧とオン抵抗を両立できる。
【0129】
基板300の材料については、高品質なSiCの結晶成長が行えることが望ましい。特に、その上に形成される成長層と同じポリタイプであり、かつc面のSiC基板を用いることが望ましい。その他にも、Si基板、SOI(Silicon−on−Insulator)基板、SOS(Silicon−on−Sapphire)基板、サファイア基板、SiC基板、ダイヤモンド基板、および窒化物半導体基板が挙げられる。基板の面方位は、六方晶系であれば(0001)面もしくは(000−1)面が望ましく、立方晶系では(111)面が望ましい。これによって、
図40の層構造をc軸方向に積層することが可能となる。
【0130】
基板300上に、N型キャリア供給領域301を形成する。N型キャリア供給領域301は、N型の導電性を有するSiCからなる。N型にするために、ドナー不純物をドーピングすることが望ましく、N(窒素)をドーピングすることがより望ましい。Nのドーピング濃度は、好適には5×10
16cm
-3以上であり、より好適には3×10
17cm
-3以上である。ただし、SiCは、成長条件によってはノンドープでもN型が得られるため、N型キャリア供給領域301を、ノンドープで作製することも出来る。
【0131】
N型キャリア供給領域301上に、P型バリア領域302を形成する。P型にするために、アクセプタ不純物をドーピングすることが望ましく、Alをドーピングすることがより望ましい。Alのドーピング濃度は、好適には1×10
16cm
-3以上であり、より好適には3×10
16cm
-3以上である。Al濃度を上げることで、室温付近での正孔の活性化率が低下する。これによって装置内部で降伏が起きた場所において、発熱により、正孔の活性化率が上昇し、自動的に突き抜けによる降伏が抑制される。これによって、装置全体で均一な降伏を起こすことが可能になる。ただし、Al濃度が高すぎると、活性率の低下により、温度変動による突き抜けによる降伏電圧の変動が大きくなりすぎてしまう。最悪の場合、温度の上昇にともない、突き抜けによる降伏電圧が増大し、アバランシェ降伏電圧に達してしまう。そのため、Al濃度は2×10
19cm
-3以下であることが望ましく、5×10
18cm
-3以下であることがより望ましい。
【0132】
P型バリア領域302上に、低濃度耐圧制御領域304を形成する。低濃度耐圧制御領域304は、低濃度P型、低濃度N型、および半絶縁のSiCからなる。キャリア濃度を下げるため、ノンドープで作製することが望ましい。ただし、NドナーやAlアクセプタを低濃度で添加をしてもよい。また、高抵抗化するために、OやCなどの深い準位を形成する不純物を添加してもよい。キャリア濃度は、好適には1×10
16cm
-3以下であり、より好適には5×10
15cm
-3以下である。膜厚については、耐圧を決定する重要なパラメータであり、耐圧によって設計する必要があり、耐圧200V以上では、0.7μm以上である。耐圧600V以上では、2.1μm以上である。
【0133】
低濃度耐圧制御領域304上に、N型伝導領域303を形成する。装置のオン状態において、N型伝導領域303を通して、ソース電極310からドレイン電極312にキャリアである電子が流れる。300Kにおける、N型伝導領域303のシート電子濃度は、3×10
12cm
-2以上であり、より望ましくは6×10
12cm
-2以上である。また、N型伝導領域303のシート電子濃度は、P型バリア領域302のシート正孔濃度より多いことが望ましい。これによって、突き抜け降伏を安定して起こすことができる。ここで、シート電子濃度とは、基板表面に対して垂直の方向に、N型伝導領域303の電子濃度を積分した値とする。
【0134】
ソース電極310のコンタクト抵抗を低減するため、N型コンタクト領域305を形成する。また、ドレイン電極312のコンタクト抵抗を低減するためN型コンタクト領域307を形成する。
パンチスルー電極315は、N型キャリア供給領域301に対して、電子のやり取りに関するオーミック接触している。
【0135】
ドレイン電極312は、N型伝導領域303に対して、電子のやり取りに関するオーミック接触している。
ソース電極310は、N型伝導領域303に対して、電子のやり取りに関するオーミック接触している。
図40に描かれるように、パンチスルー電極315とソース電極310は電気的に短絡している。
【0136】
ゲート電極311は、P型ゲート領域323の上に形成されている。これにより、PN接合構造のゲートが形成されている。P型ゲート領域323の材料としては、N型伝導領域303と同じポリタイプのSiCを用いることが望ましい。
【0137】
ソース電極310とゲート電極311の横方向の距離は、5μm以下であり、望ましくは2μm以下である。ゲート電極311とドレイン電極312の横方向の距離は、低濃度耐圧制御層304の膜厚に対して、大きいことが望ましく、より望ましくは1.2倍以上である。
また、P型バリア領域302に対して、オーミック接触および間接的なオーミック接続された電極は無い。そのため、P型バリア領域302は、N型伝導領域303、およびN型キャリア供給領域301により、すべての電極からPN接合分離がされており、電気的に浮いている。これにより装置の作製コストを大幅に低減できる。
【0138】
ゼロバイアス時(Vds=0V)のN型伝導領域303とP型バリア領域302の間の空乏層幅は、P型バリア領域302とN型キャリア供給領域301の間の空乏層幅と比較して、大きいことが望ましく、具体的は2倍以上であり、より好適には5倍以上である。
【0139】
オン状態およびオフ状態におけるSiC−JFETの動作は、<第一の実施の形態>における窒化物半導体HFETと同じであり、そのI−V特性は
図6に相当する。
また、300KでのBVの値を、デバイスシミュレーションによる仮想実験により検証した。その結果、シート正孔濃度が1.3×10
13cm
-2以下では、降伏は突き抜けによっておこり、それ以上では、アバランシェ降伏が起きた。よって、本発明でのSiCによる半導体装置における、シート正孔濃度は、1.3×10
13cm
-2以下である。ここで、シート正孔濃度(単位はcm
-2)とは、ドレイン電極312の下側に位置するP型バリア領域302において、基板表面に対して垂直の方向に正孔濃度(単位はcm
-3)を積分した値とする。
また、異なるポリタイプのSiCヘテロ接合界面における負の分極により形成される2次元正孔ガスを、P型バリア領域302として用いることも可能である。具体的には、3C−SiC/6H−SiCヘテロ接合、および3C−SiC/4H−SiCヘテロ接合における分極が挙げられる。分極を用いることで、温度変化に対する突き抜け降伏電圧の変動を抑制することが出来る。
【0140】
また、
図40に示した本発明によるSiC−JFETの構造は、本発明の趣旨に従い、変形することが可能である。以下では、具体的な変形例を挙げる。
図40では描かれていないが、基板300上とN型キャリア供給領域301の間には、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、各種の半導体、絶縁体、および金属を挿入しても良い。例えば、基板300またはN型キャリア供給領域301と同じポリタイプのSiCからなる層構造を挿入しても良い。
【0141】
また、
図40では描かれていないが、装置の表面を絶縁保護膜で覆うことが望ましい。絶縁膜としては、例えばSiO
2、SiN
x、Al
2O
3、AlNおよびダイヤモンドなどが挙げられる。
【0142】
また、<第一の実施形態>および<第二の実施形態>における変形例と同じ趣旨の変形を、SiC−JFETでも行うことが出来る。また、第三の実施の形態では、Nチャネル型のJFETを示したが、N型とP型、ドナーとアクセプタ、正の分極と負の分極、および電子と正孔を入れかえることで、Pチャネル型のJFETにおいても、本発明を用いることが出来る。
【0143】
また、第三の実施の形態では、SiC−JFETについて説明したが、窒化物半導体、酸化物半導体、およびダイヤモンドなどの、他のワイドバンドギャップ半導体によるJFETにおいても、本発明を用いることが出来る。
ただし、降伏電流の流れる経路は、1種類のワイドバンドギャップ半導体で作製することが望ましい。2種類以上のワイドバンドギャップ半導体を用いると、その接合界面において、電子および正孔の流れが阻害され、装置全体において均一な突き抜け降伏を起こすことが困難になる。具体的に、
図40では、降伏電流の経路320にあたる、N型コンタクト領域307、N型伝導領域303、低濃度耐圧制御領域304、P型バリア領域302、およびN型キャリア供給領域301は同種のワイドバンドギャップ半導体で形成することが望ましい。
【0144】
さらには、均一な突き抜け降伏を起こすためには、降伏電流の経路320において、ヘテロ接合界面を含む場合、そのバンドオフセットが、小さいことが望ましい。具体的には、Nチャネル型の装置では、伝導帯のオフセットが0.5eV以下であることが望ましく、より好適には0.1eV以下である。Pチャネル型の装置の場合は、価電子帯のオフセットが0.5eV以下であることが望ましく、より好適には0.1eV以下である。
【実施例4】
【0145】
<第四の実施の形態>
第四の実施の形態である窒化物半導体によるSBDについて説明する。
図41に本発明による窒化物半導体SBDの構造図を示す。<第一の実施の形態>におけるソース電極110を、N型伝導領域403に対してショットキー特性を有するアノード電極413に置き換え、かつ、<第一の実施の形態>におけるドレイン電極112を、N型伝導領域403に対してオーミック特性を有するカソード電極414に置き換え、かつ、<第一の実施の形態>におけるオン状態を、ダイオードにおける順バイアス状態であり、カソード電極414の電位に対するアノード電極413の電位(以下、Vac)が正の値でありアノード電極413からカソード電極414に向けて電流が流れる状態に置き換え、かつ、<第一の実施の形態>におけるオフ状態を、ダイオードにおける逆バイアス状態であり、Vacが負の値であり、アノード電極413とカソード電極414の間で電流が流れない状態に置き換えることで、本発明をダイオードに適用することができる。
【0146】
具体的には、基板400を除き、SBDを形成する半導体材料の化学式は、次式(4)で表わされる窒化物半導体である。
【0147】
【数4】
【0148】
式中x、y及びzは、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、x+y+z≦1を満足させる数値をもつものとする。基板400については、窒化物半導体以外の材料も用いることが出来る。
【0149】
また、本発明による層構造は六方晶の結晶構造におけるc軸方向に積層することが望ましい。c軸方向とは、[0001]または[000−1]方向のことである。
基板400の材料については、高品質な窒化物半導体の結晶成長が行えることが望ましい。例えば、Si基板、SOI(Silicon−on−Insulator)基板、SOS(Silicon−on−Sapphire)基板、サファイア基板、SiC基板、ダイヤモンド基板、および窒化物半導体基板が挙げられる。基板の面方位は、六方晶系であれば(0001)面もしくは(000−1)面が望ましく、立方晶系では(111)面が望ましい。これによって、
図41の層構造をc軸方向に積層することが可能となる。
【0150】
基板400上に、N型キャリア供給領域401を形成する。N型キャリア供給領域401は、N型の導電性を有する窒化物半導体からなる。N型キャリア供給領域401は、N型のInAlGaN、AlGaN、GaN、InAlN、またはInGaNにより形成することが望ましい。ただし、組成の異なる2種類以上の窒化物半導体層による多層膜としても良い。N型にするために、ドナー不純物をドーピングすることが望まく、Siをドーピングすることがより望ましい。Siのドーピング濃度は、好適には5×10
16cm
-3以上であり、より好適には3×10
17cm
-3以上である。ただし、窒化物半導体は、成長条件によってはノンドープでもN型が得られるため、N型キャリア供給領域401を、ノンドープで作製することも出来る。N型キャリア供給領域401の膜厚は、10nm以上あることが望ましく、100nm以上であることがより望ましい。
【0151】
N型キャリア供給領域401上に、P型バリア領域402を形成する。P型バリア領域402は、P型の導電性を有する窒化物半導体からなる。P型バリア領域402は、P型のInAlGaN、AlGaN、GaN、InAlN、またはInGaNにより形成することが望ましい。ただし、組成の異なる2種類以上の窒化物半導体層による多層膜としても良い。
P型にするために、アクセプタ不純物をドーピングすることが望ましく、Mgをドーピングすることがより望ましい。Mgのドーピング濃度は、好適には1×10
16cm
-3以上であり、より好適には3×10
16cm
-3以上である。Mg濃度を上げることで、室温付近での正孔の活性化率が低下する。これによって装置内部で降伏が起きた場所において、発熱により、正孔の活性化率が上昇し、自動的に突き抜けによる降伏が抑制される。これによって、装置全体で均一な降伏を起こすことが可能になる。ただし、Mg濃度が高すぎると、活性率の低下により、温度変動による突き抜けによる降伏電圧の変動が大きくなりすぎてしまう。最悪の場合、温度の上昇にともない、突き抜けによる降伏電圧が増大し、アバランシェ降伏電圧に達してしまう。そのため、Mg濃度は2×10
19cm
-3以下であることが望ましく、5×10
18cm
-3以下であることがより望ましい。また、N型キャリア供給領域401に、In組成が2%〜30%のInGaNを用いることで、温度の変動を抑制できる。
【0152】
P型バリア領域402上に、低濃度耐圧制御領域404を形成する。低濃度耐圧制御領域404は、低濃度P型、低濃度N型、および半絶縁の窒化物半導体からなる。低濃度耐圧制御領域404は、キャリア濃度の低いInAlGaN、AlGaN、GaN、InAlN、またはInGaNにより形成することが望ましい。ただし、組成の異なる2層以上の窒化物半導体層による多層膜としても良い。キャリア濃度を下げるため、ノンドープで作製することが望ましい。ただし、SiドナーやMgアクセプタを低濃度で添加をしてもよい。また、高抵抗化するために、OやCなどの深い準位を形成する不純物を添加してもよい。キャリア濃度は、好適には1×10
16cm
-3以下であり、より好適には5×10
15cm
-3以下である。膜厚については、耐圧を決定する重要なパラメータであり、耐圧によって設計する必要があり、耐圧200V以上では、0.5μm以上である。耐圧600V以上では、1.5μm以上である。
【0153】
低濃度耐圧制御領域404上に、表面バリア層434を形成する。低濃度耐圧制御領域404と表面バリア層434のヘテロ接合界面に正の分極電荷を誘起することで、2次元電子ガス433を形成している。表面バリア層434を、低濃度耐圧制御領域404よりバンドギャップの大きな窒化物半導体層で形成することで、高密度の2次元電子ガス433が得られる。表面バリア層434の膜厚は、2nm〜70nmの範囲であることが望ましい。
【0154】
装置のオン状態において、2次元電子ガス433を通して、カソード電極414からアノード電極413にキャリアである電子が流れる。そのため、2次元電子ガス433がN型伝導領域403の役割を果たす。また、表面バリア層434の全体もしくは一部に、Siをドーピングしてもよく、これにより2次元電子ガス433のキャリア密度を増大させ、装置のオン抵抗を下げることが出来る。このときの、Siのドーピング濃度は、好適には5×10
19cm
-3以下であり、より好適には1×10
19cm
-3以下である。ただし、ヘテロ界面における正の分極により、ノンドープでも2次元電子ガス433を形成できるので、表面バリア層434は、ノンドープで作製してもよい。また、組成の異なる2層以上の窒化物半導体層による多層膜により、表面バリア層434を形成しても良い。具体的には、InGaN/InAlGaNの2層構造により表面バリア層434を形成してもよく、またGaN/AlGaNの2層構造により表面バリア層434を形成してもよい。
【0155】
ここで2次元電子ガスとは、ヘテロ接合界面における正の分極電荷により誘起される、ヘテロ接合界面近傍に2次元的に分布した、電子をさす。
300Kにおける、N型伝導領域403のシート電子濃度は、5×10
12cm
-2以上であり、より望ましくは1×10
13cm
-2以上である。また、N型伝導領域403のシート電子濃度は、P型バリア領域402のシート正孔濃度より多いことが望ましい。これによって、突き抜け降伏を安定して起こすことができる。ここで、シート電子濃度とは、基板表面に対して垂直の方向に、N型伝導領域403の電子濃度を積分した値とする。
【0156】
パンチスルー電極415は、N型キャリア供給領域401に対して、電子のやり取りに関するオーミック接触している。パンチスルー電極415の材料としては、Ti系合金が挙げられる。
カソード電極414は、N型伝導領域403に対して、電子のやり取りに関するオーミック接触している。カソード電極414の材料としては、Ti系合金が挙げられる。
アノード電極413は、N型伝導領域403に対して、電子のやり取りに関するショットキー接触している。アノード電極413の材料としては、Ni系合金やPt系合金が挙げられる。
【0157】
図41に描かれるように、パンチスルー電極415とアノード電極413は電気的に短絡している。
アノード電極413とカソード電極414の横方向の距離は、低濃度耐圧制御層404の膜厚に対して、大きいことが望ましく、より望ましくは1.2倍以上である。
【0158】
また、P型バリア領域402に対して、オーミック接触および間接的なオーミック接続された電極は無い。そのため、P型バリア領域402は、N型伝導領域403、およびN型キャリア供給領域401により、すべての電極からPN接合分離がされており、電気的に浮いている。これにより装置の作製コストを大幅に低減できる。
【0159】
以下では、
図41に示した窒化物半導体SBDの動作について説明する。
図42にこの窒化物半導体SBDにおけるI−V特性の概略図を示す。ここで、半導体からカソード電極に電流が流れ出る場合を正のカソード電流とし、カソード電極から半導体に電流が流れこむ場合を負のカソード電流とする。
図42の構造におけて、Vac=0Vでのバンド構造は、<第一の実施の形態>における
図5に相当する。Vacが正の値であり、ダイオードの順バイアス状態にあたるオン状態では、カソード電極414からアノード電極413からに向かって、N型伝導領域403を通して電子が運ばれる。電子は負の電荷をもっているので、オン電流としては、アノード電極413からカソード電極414に向かって流れる。
【0160】
次に、Vacが負の値であり、ダイオードの逆バイアス状態にあたるオフ状態では、負のVacを印加すると、まず、
図42に描くように微小なリーク電流が流れる。リーク電流の値は、オン状態におけるオン電流の1千分の1以下であり、より望ましくは1万分の1以下である。
【0161】
さらにVacを負の方向に増加させていくと、P型バリア領域402の一部、とくに、カソード電極414の垂直下に位置する箇所で、正孔の空乏化が起こる。Vacが突き抜けによる降伏電圧Vptに達した時、N型伝導領域403と、N型キャリア供給領域401が空乏層でつながり、突き抜けによる降伏状態となる。これによって、電子がパンチスルー電極415から注入され、N型キャリア供給領域401を経由して、P型バリア領域402の正孔が空乏化した箇所を通過して、カソード電極414に到達する。この突き抜けによる降伏電流の経路420は、負の電荷をもつ電子の流れと逆向きになる。突き抜けが起こることによって、
図42に描かれるようにVptより負の方向に大きなVacにおいて、オフ状態であるにもかかわらず、カソード電流が流れる。
【0162】
この突き抜け降伏時のカソード電極414の下側に位置する半導体領域のバンド構造は、<第一の実施の形態>における
図7に相当する。
この突き抜け降伏状態では、カソード電極414からパンチスルー電極415に向かって電流が流れており、カソード電極414とアノード電極413の間ではほとんど電流は流れない。具体的には、カソード電極414からパンチスルー電極415に向かって電流が流れる電流に対して、カソード電極414とアノード電極413の間で流れる電流は
、1千分の1以下であり、より好ましく
は1万分の1以下である。
【0163】
また、本発明による半導体装置は、Vptが、アバランシェ降伏電圧Vavaより低く設計されており、アバランシェ降伏を起こさない。これによって、アバランシェ降伏による破壊を防ぐことが出来る。また、本発明による半導体装置における装置耐圧BVは、Vptにより決定される。
ここで、半導体装置におけるBVとは、オフ状態が維持できなくなり電流が流れ始める電圧のことであり、ダイオードではカソード電流が流れ始めるVacのことである。
【0164】
図41の窒化物半導体SBDにおける、P型バリア領域402のシート正孔濃度に対する、300KでのBVの値を、デバイスシミュレーションによる仮想実験により検証した。その結果、シート正孔濃度が1.7×10
13cm
-2以下では、降伏は突き抜けによっておこり、それ以上では、アバランシェ降伏が起きた。よって、本発明での窒化物半導体による半導体装置における、シート正孔濃度は、1.7×10
13cm
-2以下である。
ここで、シート正孔濃度(単位はcm
-2)とは、ドレイン電極412の下側に位置するP型バリア領域402において、基板表面に対して垂直の方向に正孔濃度(単位はcm
-3)を積分した値とする。
【0165】
また、
図41に示した本発明による窒化物半導体装置の構造は、本発明の趣旨に従い、変形することが可能である。以下では、具体的な変形例を挙げる。
【0166】
図41では描かれていないが、基板400上とN型キャリア供給領域401の間には、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、各種の半導体、絶縁体、および金属を挿入しても良い。とくに、窒化物半導体の結晶性を向上させるための、初期成長層を含んでも良い。具体的には、一般的に用いられている低温GaN緩衝層、低温AlGaN緩衝層、低温AlN緩衝層、横方向成長のための各種絶縁体などが挙げられる。
【0167】
また、
図41では描かれていないが、装置の表面を絶縁保護膜で覆うことが望ましい。絶縁膜としては、例えばSiO
2、SiN
x、Al
2O
3、AlNおよびダイヤモンドなどが挙げられる。
【0168】
また、
図41では描かれていないが、表面バリア層434と低濃度耐圧制御領域404の間に、スペーサ層を挿入してもよい。スペーサ層の挿入により移動度が改善し、これによってオン抵抗を下げることが出来る。スペーサ層は窒化物半導体であり、表面バリア層434よりバンドギャップエネルギーが大きい。好適には、厚さ3nm以下のAlN層とする。
【0169】
また、
図41では描かれていないが、表面バリア層434と低濃度耐圧制御領域404の間に、キャリアの閉じ込めを促進するための井戸層を挿入してもよい。これによって、オフ状態でのリーク電流を低減できる。井戸層は窒化物半導体であり、低濃度耐圧制御領域404よりバンドギャップエネルギーが小さい。好適には、厚さ500nm以下のInGaN層である。より好適には、厚さ50nm以下のInGaN層である。
【0170】
また、<第一の実施の形態>におけるソース電極110を、N型伝導領域403に対してショットキー特性を有するアノード電極413に置き換え、かつ、<第一の実施の形態>におけるドレイン電極112を、N型伝導領域403に対してオーミック特性を有するカソード電極414に置き換え、かつ、<第一の実施の形態>におけるオン状態を、ダイオードにおける順バイアス状態であり、Vacが正の値であり、アノード電極413からカソード電極414に向けて電流が流れる状態に置き換え、かつ、<第一の実施の形態>におけるオフ状態を、ダイオードにおける逆バイアス状態であり、Vacが負の値であり、アノード電極413とカソード電極414の間で電流が流れない状態に置き換えることで、<第一の実施の形態>における変形例と、同様の主旨の変形を行うことができる。
【0171】
また、第四の実施の形態では、オン状態でのオン電流を運ぶキャリアが電子であるSBDを示したが、N型とP型、ドナーとアクセプタ、正の分極と負の分極、および電子と正孔を入れかえることで、正孔をキャリアに用いたSBDにおいて、本発明を用いることが出来る。また、SBD以外のダイオードにおいても本発明を用いることが出来る。とくに、JBSDなどのユニポーラ型のダイオードにおいて、効果が得られる。
【0172】
また、第四の実施の形態では、窒化物半導体によるSBDについて説明したが、SiC、酸化物半導体、およびダイヤモンドなどの、他のワイドバンドギャップ半導体によるSBDにおいても、本発明を用いることが出来る。
【0173】
ただし、降伏電流の流れる経路は、1種類のワイドバンドギャップ半導体で作製することが望ましい。2種類以上のワイドバンドギャップ半導体を用いると、その接合界面において、電子および正孔の流れが阻害され、装置全体において均一な突き抜け降伏を起こすことが困難になる。具体的に、
図41では、降伏電流の経路420にあたる、表面バリア層434、低濃度耐圧制御領域404、P型バリア領域402、およびN型キャリア供給領域401は同種のワイドバンドギャップ半導体で形成することが望ましい。
ただし、ワイドバンドギャップ半導体の結晶を構成する主成分となる周期律表の第2周期の元素が同じものを、同じ種類のワイドバンドギャップ半導体と呼ぶものとする。
【0174】
さらには、均一な突き抜け降伏を起こすためには、降伏電流の経路420において、ヘテロ接合界面におけるバンドオフセットが、小さいことが望ましい。具体的には、
図41のようなオン電流を電子が運ぶ装置では、伝導帯のオフセットが0.5eV以下であることが望ましく、より好適には0.1eV以下である。オン電流を正孔が運ぶ装置の場合は、価電子帯のオフセットが0.5eV以下であることが望ましく、より好適には0.1eV以下である。
【実施例5】
【0175】
<第五の実施の形態>
また、本発明による複数の半導体装置を、同一基板上に作製することで、パワー半導体装置の集積回路をワンチップで作製することが出来る。ワンチップ集積回路では、必然的に半導体素子の数が増えるため、アバランシェ降伏による破壊の問題がより深刻である。つまり、集積回路内の一つの装置がアバランシェ降伏により破壊されても、破壊された装置を単体で取り換えることができないため、集積回路全体の取り換えが要求される。それによって、取り換えにおけるコストが装置の数が増えるにしたがって甚大となる。本発明による半導体装置は、アバランシェ降伏による破壊を防ぐことができるため、ワンチップ集積回路にもちいることで、その信頼性を飛躍的に高めることができる。
【0176】
図43に、本発明による集積回路の一例として、窒化物半導体によるHFET553とSBD555をワンチップで組み合わせた簡単な集積回路の構造図を示す。この回路は、HFET553のドレイン電極512と、SBD555のアノード電極513が短絡されており、DC−DC電力変換器の一種である、チョッパ回路に用いることができる。
HFET553とSBD555は、同一の基板500の上にワンチップで形成されている。HFET553のN型キャリア供給領域501aと、窒化物半導体のN型キャリア供給領域501bは電気的に絶縁されている。なお、符号502a,502bは、P型バリア領域を示し、503a,503bは、N型伝導領域を示し、504a,504bは、低濃度耐圧制御領域を示し、符号510は、ソース電極を示し、符号511は、ゲート電極を示し、符号515a,515bは、パンチスルー電極を示し、符号520a,520bは、降伏電流の経路を示し、符号524は、ゲート絶縁膜を示し、符号533a,533bは、2次元電子ガスを示し、符号534a,534bは、表面バリア層を示す。
【0177】
図44に、本発明による集積回路の一例として、窒化物半導体によるHFET553とSBD555をワンチップで組み合わせた簡単な集積回路の構造図を示す。この回路は、HFET553のドレイン電極512とSBD555のカソード電極514、およびHFET553のソース電極510とSBD555のアノード電極513が、それぞれ短絡されており、全体として逆導通型のトランジスタとして機能する。ここで、HFET553とSBD555は、同一の基板500の上にワンチップで形成されている。さらに、この逆導通型のトランジスタを、同一基板上に複数作製することで、電力変換器の主回路をワンチップで作製できる。例えば、逆導通型のトランジスタを6個用いて、3相のインバータ回路を実現できる。
【0178】
また、本発明におけるワンチップ集積回路では、回路内のすべての半導体装置に、突き抜けによる降伏手段を備えることは、必ずしも必要でない。過電圧による破壊が起きない装置については、突き抜けによる降伏手段を備える必要はない。これによって余計なパンチスルー電極を取り除き、ワンチップ集積回路のチップ面積を小さくできる。その一例として、
図45に、
図44における逆導通型のトランジスタの変形例を示す。窒化物半導体SBD555は、パンチスルー電極を有していないが、並列に接続された窒化物半導体トランジスタ553が突き抜けによる降伏の手段を有しており、それによってSBD555におけるアバランシェ破壊を防ぎつつ、
図44に対してチップ面積を小さくできる。