(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記構造物は、前記平坦な表面から突出する柱体を形成し、その柱体の上面を前記傾斜面として形成したことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の発光素子。
前記構造物は、前記平坦な表面から凹む孔を形成し、その孔の底面を前記傾斜面として形成したことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の発光素子。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の発光素子を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図面に示される部材等のサイズや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。
【0030】
本発明の発光素子は、平坦な表面に複数の微細な構造物(以下、微細構造物という)が形成され、各微細構造物は、光を射出する端面として、平坦な表面に対して傾斜した傾斜面を有している。以下、微細構造物が、素子表面から凹む孔である場合を第1実施形態、微細構造物が素子表面から突出する柱体である場合を第2実施形態として順次説明する。
【0031】
(第1の実施形態)
[発光素子の構造の概要]
【0032】
本発明の第1実施形態に係る発光素子について
図1を参照して説明する。
図1に示すように、発光素子1には、素子表面(上面)から凹んだ、第1の孔10と、第2の孔20と、第3の孔30と、が設けられている。なお、
図1にて破断して示した発光素子1の外観を
図6(a)に示す。また、素子上面において、所定領域を環状に取り囲むように配置された3つの孔10,20,30を
図2に示す。なお、孔については後記する。
発光素子1は、指向性の高い光を発光する素子であって、特定の方向に光線を射出する光線指向型の発光素子である。
【0033】
<発光素子の構造>
発光素子1は、例えばLEDのように、平坦な表面から光を放射するものである。
発光素子1は、
図1に示すように、半導体層2と、発光層3と、バッファ層4と、金属層(遮光膜)5とを備えている。
半導体層2は、発光層3の下側に、図示しない基板との間に設けられたn型半導体層である。バッファ層4は、発光層3の上側(光取り出し側)に、発光層3と素子表面との間に設けられたp型半導体層である。
【0034】
<発光層>
発光素子1が青色発光素子である場合、発光層3は、例えば、InGaNの量子井戸層として形成される。
<半導体層>
半導体層2は、図示しない基板側から順に、例えば、n型GaN層と、n型GaN/InGaN障壁層とが積層された構造とすることができる。
<バッファ層>
バッファ層4は、発光層3側から順に、例えば、p型GaN/InGaN障壁層と、p型GaN層と、が積層された構造とすることができる。
【0035】
<金属層>
金属層5は、バッファ層4の上に積層されている。ただし、金属層5は、発光素子1の光取り出し側において孔10,20,30が形成されていない表面に設けられている。すなわち、金属層5は、孔以外から放出される光をマスクするための遮光膜として機能する。
【0036】
<電極>
図示を省略したが、一般的なLED素子と同様に、半導体層2およびバッファ層4との間に段差を設けて、当該段差から引き出された部分にオーミックコンタクトを形成する形で電極を形成できれば、電極の構造は特に限定されるものではない。例えばp電極を、金属層5の部分に設け、n電極を半導体層2の基板側の面に設けてもよい。
また、電極材料としては一般的な金属電極が使用できる。
【0037】
<孔の傾斜面>
第1の孔10の底面は傾斜面11であり、第2の孔20の底面は傾斜面21であり、第3の孔30の底面は傾斜面31である。各傾斜面11,21,31の面内の輪郭形状(例えば楕円)を素子表面(上面)の位置に投影した平面図形(例えば楕円が投影されれば円になる)の径は、発光素子1の発光層3からの光が通るのに充分な太さを有する。なお、投影された平面図形は円に限定されるものではない。ここで、充分な太さとは、発光素子1から放出される光の波長(以下、λと表記する)程度以上である。波長λは、自由空間における放射光の波長を示す。
【0038】
<孔の平面形状>
図1および
図2では、孔の形状を円形で示した。つまり、各傾斜面11,21,31が素子表面(上面)に投影されたときの平面図形の形状は円形であるものとした。また、
図1および
図2に示すように各孔の太さは等しいものとした(直径d:
図3および
図4参照)。
【0039】
<孔の間隔p>
孔10,20,30は、光取り出し面において、所定の原点の周囲に均等な角度β(この場合、β=120度)の方位に、互いに間隔pだけ離間して配置されている。孔の間隔pは、隣り合った孔からの光が干渉できる程度の長さに予め設定されている。つまり、孔の間隔pは、発光素子の可干渉長以下であることが好ましい。なお、光の可干渉長は、光源の発光スペクトルの半値幅と、中心波長とに依存する。光源がLEDの場合、例えば10〜数十μm程度の長さとなる。
【0040】
<複数の孔の配置の原点M>
図2に示す例では、所定の原点とは、素子上面において3つの孔10,20,30により環状に取り囲まれた所定領域に位置する点である。また、この原点は、第1の孔10の中心O
1と、第2の孔20の中心O
2と、第3の孔30の中心O
3とから等距離にある点であり、中心O
1,O
2,O
3を頂点とする正三角形の重心(原点Mと表記する)のことである。ここで、3つの孔10,20,30は、円環状かつ均等に配置されることが好ましい。なお、各孔により取り囲まれた所定領域の形状やサイズは、孔の径とバランスを取りながら所望のものとして適宜設計できる。例えば孔の径が、発光波長の数波長程度分であれば、所定領域のサイズは、数分の1波長〜数波長程度とすることができる。
【0041】
<孔の傾斜面の仰角>
図1では、第3の孔30の傾斜面31の仰角αだけ図示したが、ここでは、3つの孔10,20,30の各傾斜面11,21,31の仰角αがそれぞれ等しいものとした。例えば傾斜面21については、
図2のA−A線矢視における断面図を
図3に示すように、傾斜面21の仰角も角度αとなっている。
【0042】
<孔の傾斜面の方位角>
発光素子1の各孔10,20,30において各傾斜面11,21,31の方位角はそれぞれ等しいものとした。ここで、傾斜面の方位角とは、発光素子1を発光面(上面)から見たときの傾斜面の傾斜方向を示す角度であって、例えば高い方から低い方へ傾斜する向きで特定する。具体的には、
図2において、傾斜面11の方位角の方向は、第1の孔10の中心O
1を始点とする太線の矢印の向きと同じ方向で表される。また、傾斜面21の方位角の方向は、第2の孔20の中心O
2を始点とする太線の矢印の向きと同じ方向で表される。また、傾斜面31の方位角の方向は、第3の孔30の中心O
3を始点とする太線の矢印の向きと同じ方向で表される。つまり、この発光素子1の傾斜面の方位角は、地図上ならば南向き(
図2において下向き)である。なお、各傾斜面11,21,31は、高い方から低い方へ傾斜する向きが、+Y方向から−Y方向への向きに一致している。また、3本の太線の矢印の向きは、発光素子1から広がりを抑えて放射される光線の方向を示している。
【0043】
なお、各孔10,20,30において各傾斜面11,21,31の方位角を独立に変化させてもよい。この場合、
図2に示す配置では、横並びの2つの孔10,20の傾斜面11,21については、方位角を対称に変化させると都合がよい。そこで、各傾斜面11,21,31の方位角(太線の矢印の方向)を特定するために、孔ごとに孔の中心を基点とした回転角θを方位角とは区別して導入することとした。
【0044】
具体的には、傾斜面11についての回転角θ
1は、
図2において、第1の孔10の中心O
1と原点Mと結ぶ線分を基準として、時計回りに角度が大きくなるように表すこととした。
図2において、第1の孔10の中心O
1を始点とする太線の矢印の方向(方位角)は、回転角度θ
1が120度のときに対応している。
【0045】
傾斜面21についての回転角θ
2は、
図2において、第2の孔20の中心O
2と原点Mと結ぶ線分を基準として、反時計回りに角度が大きくなるように表すこととした。
図2において、第2の孔20の中心O
2を始点とする太線の矢印の方向(方位角)は、回転角度θ
2が120度のときに対応している。
【0046】
傾斜面31についての回転角θ
3は、
図2において、第3の孔30の中心O
3と原点Mと結ぶ線分を基準として、反時計回りに角度が大きくなるように表すこととした。
図2において、第3の孔30の中心O
3を始点とする太線の矢印の方向(方位角)は、回転角度θ
3が0度のときに対応している。なお、各回転角θの定義は一例であって、角度が大きくなる方向を反時計回りに統一しても差し支えないし、θ
1、θ
2、θ
3の初期値の位置を変更してもよい。
【0047】
<孔の深さ>
孔10,20,30は、金属層5の厚みよりも深く、かつ、金属層5とバッファ層4とを合わせた厚みよりも浅く形成されている。孔10,20は、
図3および
図4に示すように、バッファ層4の表面に開口してバッファ層4に底面11,21を有する。なお、孔30もバッファ層4の表面に開口してバッファ層4に底面31(
図1参照)を有する。各孔10,20,30は底面を有しており、孔の底面が傾斜している。
図3に示すように、孔20の傾斜面(底面)21の最下端は、発光層3よりも上に位置する。また、孔20の傾斜面(底面)21の最上端は、金属層5よりも下に位置する。なお、傾斜面(底面)21の最上端は、バッファ層4の上面の開口の周縁よりも下に位置してもよい。
【0048】
傾斜面21の最上端が金属層5よりも下に位置すると、光が金属層5の側面で反射する。具体例として、
図3の断面図において、孔20の直下の発光層3からバッファ層4を介して真上へ向かう光を想定すると、傾斜面21への入射角度が仰角αと等しい。そして、この真上へ向かう光は、傾斜面21の上下の媒質の屈折率の相違と入射角とに応じて屈折し、真上(+Z軸)から、+Y方向(
図3において右側)に傾いた方向へ出射する。この出射光は、金属層5の開口部の側面で反射する。そして、この反射光は、素子真上(+Z軸)から、−Y方向(
図3において左側)に傾いた方向で孔20の外部へ出射することとなる。
【0049】
[発光素子の設計の具体例]
発光素子1は、例えばGaNにInを添加したLEDであるものとし、発光スペクトルの中心波長(波長λ)は470nmであるものとした。
発光素子1のバッファ層4(
図1参照)の厚さを約250nmとした。
金属層5(
図1参照)は、厚さ200nmのMoの金属薄膜とした。
孔の間隔p(
図2参照)は、放射光の自由空間での1波長に相当する470nmとした。孔の直径d(
図3および
図4参照)は、放射光の自由空間での2波長に相当する940nmとした。孔の傾斜面の方位角は、
図2の太い矢印のように−Y方向とした。つまり、回転角θ
1=120°、回転角θ
2=120°、回転角θ
3=0°とした。孔の傾斜面の仰角αの値を変化させることで、光線方向が制御されることを確かめた。
【0050】
[発光素子の傾斜面から出射される光の干渉の原理]
一般に、半導体の誘電率は真空中(空気中)より高いため、半導体中を伝搬する際の光の速度は、空気中を伝搬する速度に比べて遅くなる。具体的には、大気中または真空中の光の速度をc、半導体の屈折率をnとすると、半導体中の速度は、c/nで与えられる(例えばGaNであれば例えばn=2.6)。
【0051】
そして、
図3の断面図において、孔20の直下の発光層3からの光は、バッファ層4に入射し、バッファ層4から外部の空気中(自由空間)へと出射する。このとき、バッファ層4の媒質の方が外部の媒質(空気)よりも高いので、バッファ層4を通過する光は傾斜面21への入射角に応じた方向に屈折する。つまり、バッファ層4を通過する光は、素子表面(金属層5の上面)に垂直な方向ではなく、傾斜面21の仰角αの大きさに応じた屈折角で特定される方向に出射する。
【0052】
同様に、孔10の傾斜面11の直下の発光層3からの光や、孔
30の傾斜面
31の直下の発光層3からの光も仰角αの大きさに応じた屈折角で特定される方向に出射する。そして、これら各孔10,20,30から出射した光は、干渉して所定の広がりを有した光線として成形され、特定の方向を向いた線上に出射する。
【0053】
以下、発光素子1の傾斜面11,21,31から出射される光の干渉について下記の数式を適宜用いて説明する。下記数式を用いる説明では、簡便のため、2つの傾斜面だけが形成されたLEDの発光素子を想定する。
【0054】
ここで、3次元空間の位置r
1にある波源としての傾斜面と、3次元空間の位置r
2にある波源としての傾斜面とから射出された光の干渉について説明する。
位置r
1にある波源と、位置r
2にある波源とからそれぞれ射出された光によって、3次元空間の位置rに時刻tにおいて合成される光の強度I(r)は、次の式(1)で与えられる。
【0056】
式(1)において、光の干渉を表す第3項が存在するために、発光層3から射出された光が、2つの波源からそれぞれ射出された後に重畳されて、波面を変えて波の進行方向を変えることが可能となる。式(1)では、式(2)のγの実部を利用する。式(2)のE
*は、Eの複素共役であることを示す。γは、式(2)で示すように、0から1までの値をとり、2つの波源から射出された光が時間的・空間的にどのくらい相関を持っているのかを示している。よって、γは、次の式(3)〜式(5)のように場合分けすることができる。
【0058】
式(3)の場合を完全コヒーレント、式(4)の場合をインコヒーレント、式(5)の場合を部分的なコヒーレントと呼ぶ。ここでは、発光素子として、LEDの光源を使用しているため、部分的なコヒーレントになっている。したがって、
図1の発光素子においては、光の強度において、前記式(1)の第3項の寄与が大きい。
【0059】
ここでは、簡単のため、2つの波源から出射される光の干渉について説明した。波源が3つある場合についても、前記式(1)を拡張することが可能である。例えば、第1の孔10と第2の孔20との組み合わせを2つの波源として前記式(1)を適用し、第2の孔20と第3の孔30との組み合わせを2つの波源として前記式(1)を適用し、第3の孔30と第1の孔10との組み合わせを2つの波源として前記式(1)を適用し、これら3つの組み合わせを加算することで、波源としての孔が3つある場合についての関係式を求めることができる。以下では、第1実施形態の発光素子1のように3つの孔を有している場合の光線の成形と、光線の方向制御とに関して行ったシミュレーションについて順次説明する。
【0060】
[発光素子の性能]
第1実施形態の発光素子1の性能を確かめるために、FDTD(Finit
e-Difference Time-Domain)法によるシミュレーションを行った。シミュレーションの条件としては、発光素子100の表面(上面)と平行な面の正方形領域(大きさ3000nm×3000nm)をベースとして想定した。また、発光領域から素子表面の上方3500nmまでの領域を計算対象としてシミュレーションを行った。
【0061】
<ビームパターンの具体例1>
ビームパターンの具体例1は、後記するビームパターンの具体例2(本発明の実施例)に対する比較例である。
ビームパターンの計算結果の一例として、
図2に示すような3つの孔の配置において、孔の傾斜面の仰角αがすべて0度である場合のシミュレーション結果を
図5に示す。具体的には、
図5(a)に示すように、孔の傾斜面の仰角αが0度である発光素子100をXYZ軸の3次元空間に配置した。発光素子100は、孔の底面が水平であって傾斜面を有していないので、
図1の発光素子1と区別し、3つの孔を110,120,130と表記した。また、ここでは、発光素子100のバッファ層4の上面をZ=0(XY平面)として、XY平面において3つの孔110,120,130のそれぞれの中心で定められる重心を原点M(0,0,0)とした。
【0062】
発光素子100の放射光として、XY平面における光の強度の積算値を、XY平面のビームパターンとして
図5(b)に示す。
図5(b)において、矩形の画像の幅方向がX方向に対応し、矩形の画像の高さ方向がY方向に対応している。また、
図5(b)において矩形の画像の中心が原点Mに対応している。すなわち、矢印201の延長線と、矢印202の延長線との交点が原点Mに対応している。
【0063】
このビームパターンにおいて、符号rの領域は、
図5(b)のカラー表示の場合の赤色の領域を示し、
図5(b)において画像の右に示すスケールにてred、すなわち、光の強度がおよそ0.05W/m
2であることを示す。なお、ここでは、FDTD法における電界の自乗をとった電力密度を光の強度とした。
【0064】
また、符号yの領域は、
図5(b)のカラー表示の場合の黄色の領域を示し、
図5(b)に示すスケールにてyellow、すなわち、光の強度がおよそ0.035W/m
2であることを示す。
符号gの領域は、
図5(b)のカラー表示の場合の緑色の領域を示し、
図5(b)に示すスケールにてgreen、すなわち、光の強度がおよそ0.025W/m
2であることを示す。
符号bの領域は、
図5(b)のカラー表示の場合の青色の領域を示し、
図5(b)に示すスケールにてblue、すなわち、光の強度がおよそ0W/m
2であることを示す。
符号rの領域は、素子表面の上方3500nmに到達した光の多い領域を示し、符号bの領域は、素子表面の上方3500nmに光の到達しない領域を示す。
光の強度分布の中心点を光線が通るものとすると、原点上に光の強度分布の中心点が現れることから、素子表面と垂直な方向に向かう線上に光線が成形されてしまうことを、この比較例で確かめた。
【0065】
発光素子100の放射光として、YZ平面における光の強度の積算値を、YZ平面のビームパターンとして
図5(c)に示す。
図5(c)において、矩形の画像の幅方向がY方向に対応し、矩形の画像の高さ方向がZ方向に対応している。また、
図5(c)において矢印203の延長線と、矢印204の延長線との交点が原点Mに対応している。このビームパターンにおいて、符号r,y,bの領域は、
図5(b)における符号r,y,bと同様な色の領域を示す。ただし、
図5(c)に示す光の強度のスケールは、
図5(b)に示す光の強度のスケールの目盛り値を2倍したものとなっている。
【0066】
図5(c)に示すように、下方においてrの領域は第3の孔130の位置に対応して発生しており、第3の孔130のない位置では、bの領域が発生している。また、原点の上方では、yの領域が生じ、光の強度が比較的高いことが分かる。これにより、3つの孔110,120,130の底面の仰角αが0度である場合に、適切な間隔で適切な位置に配置された3つの孔110,120,130からの光が相互に干渉することで、素子表面と垂直な方向に向かう線上に光線が成形されてしまうことを、この比較例で確かめた。
【0067】
<ビームパターンの具体例2>
ビームパターンの計算結果の一例として、
図2に示すような3つの孔の配置において、孔の傾斜面の仰角αがすべて14度である場合のシミュレーション結果を
図6に示す。
図6の見方は
図5と同様なので、
図5を参照して説明した符号の説明等を適宜省略し、傾斜面の仰角αを0°から14°に変更したときの相違点を主として説明する。
まず、
図6(a)に示すように、孔の傾斜面の仰角αが14度である発光素子1をXYZ軸の3次元空間に配置した。
【0068】
発光素子1の放射光として、XY平面における光の強度の積算値を、XY平面のビームパターンとして
図6(b)に示す。光の強度分布の中心点を光線が通るものとすると、矢印206の延長線と、矢印202の延長線との交点上に光の強度分布の中心点(rの領域)が現れることから、素子表面と垂直な方向から−Y方向に傾斜した線上に光線を成形できることを確かめた。
【0069】
発光素子1の放射光として、YZ平面における光の強度の積算値を、YZ平面のビームパターンとして
図6(c)に示す。
図6(c)に示すように、下方においてrの領域は、第3の孔
30の位置から−Y方向に傾斜した位置に発生しており、そのrの領域から上方において−Y方向に傾斜した位置にyの領域が発生している。
図6(c)の矢印205で示す画像の上端は、原点から上方3000nmの位置を表す。
図6(c)において原点からの光線を、原点から上方3500nmの位置まで延長すると、画像の左端の延長線に一致する。
図6(c)の原点から画像の左端までの距離は、
図6(b)の原点から画像の下端までの距離に対応している。これらは、原点の位置を基準に、+Z方向の垂直な方向から、−Y方向に22度傾斜した線上に光の強度が最も高い光線が形成されたことを意味する。これにより、3つの孔10,20,30の底面の仰角αが14度である場合に、適切な間隔で適切な位置に配置された3つの孔10,20,30からの光が相互に干渉することで、素子表面と垂直な方向から−Y方向に22度傾斜した線上に光線を成形できることを確かめた。
【0070】
<遠方界パターン>
FDTD法による計算結果を用い、遠方界パターンを計算し、これを光の方向制御の評価に用いた。遠方界パターンは、距離が変わっても角度に対して光の強度が一定となるパターンを示す。前記ビームパターンは、素子表面の上方3500nm(3.5ミクロン)の距離を想定していたが、遠方界パターンは、素子表面の上方のおよそ1mmの距離を想定している。
【0071】
YZ平面のように発光素子1を上から下に向かって切断するような断面は無数にあるが、光線方向の制御角が最も大きくなるのはYZ平面であった。よって、このYZ平面について、発光素子1において、3つの孔10,20,30の底面の仰角αの値を変化させたときに、光強度の遠方界パターンの具体例をそれぞれ求めた。
図7(a)は、比較のために求めたものであって、3つの孔10,20,30の底面の仰角αが0度である場合(発光素子100)の光強度の遠方界パターンを示す。
図7(b)は、試した中で最もよい結果であって、3つの孔10,20,30の底面の仰角αが14度である場合(発光素子1)の光強度の遠方界パターンを示す。
【0072】
ここで、原点(放射状のグラフの中心)は、XY平面(Z=0)における3個の孔10,20,30の中心から等しい距離にある点(重心)であって、バッファ層4の上面をZ=0とした点に定めている。
図7において、角度Ψは、発光素子1の表面の法線と遠方界における光線のメインローブとが成す角を示す。以下では、角度Ψを制御角Ψとも呼称する。
【0073】
α=0°の場合、
図7(a)に示すように、制御角Ψは0度であって、素子表面と垂直な方向に向かう線上に光線を成形できることが分かる。なお、メインローブの左右には均等なサイドローブが現れた。そして、3つの孔10,20,30の底面の仰角αを徐々に増加させて制御角Ψを求めたとき、α=14°において最大制御角となった。
【0074】
すなわち、孔の傾斜面の仰角α=14°、回転角θ
1=120°、回転角θ
2=120°、回転角θ
3=0°の場合、
図7(b)に示すように、制御角Ψは22度であって、素子表面と垂直な方向から−Y方向に22度傾いた方向に光線を成形できることが分かる。なお、Z軸から−Y方向へ回転する方向を角度
Ψの正の方向とした。例えば
図2の平面図の場合、Z軸から−Y方向へ回転する方向とは、第3の孔30から他の孔10,20に向かう方向(原点Mから
図2において下に向かう方向)を示す。なお、3つの孔10,20,30の底面の仰角αが14度の場合には、仰角αが0度の場合と比べると、メインローブの右(−Ψの方向)にあるサイドローブが、左(+Ψの方向)のサイドローブよりも小さくなった。
【0075】
[発光素子の製造方法]
発光素子1を製造する方法としては、公知の種々の微細加工技術を用いることができる。発光素子1は、例えばLEDのように平坦な放射面を有する発光素子を用意し、その表面を微細加工して作成することが可能である。
【0076】
発光素子1の製造工程の一例を挙げると、まず、例えばGaAsやSi等の半導体基板に、例えば分子線エピタキシー(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法、有機金属化学気相成長(MOCVD)法などの成膜方法により、半導体層2と発光層3とバッファ層4とを積層する。次いで、バッファ層4上に金属材料を蒸着法、スパッタリング法等により積層した後、フォトリソグラフィ法等によって金属層5が作製される。
【0077】
そして、金属層5上において孔を形成する領域以外をマスクして孔10,20,30を形成する。このとき、反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)等のドライエッチングや薬液を用いたウェットエッチングにより、孔10,20,30に傾斜面11,21,31を形成する。
【0078】
例えば、各孔において傾斜面の上端側となる領域ほど厚くなるように傾斜をつけたフォトレジストを、周囲の前記マスクよりも薄くパターニングして積層し、これを前記周囲のマスクの上からエッチングして、各孔において傾斜面の上端側となる領域ほどエッチングレートを小さくすることで、孔の傾斜面を形成してもよい。また、例えば、ガス種、ガス流量、温度、時間等のエッチング条件を変更する方法を組み合わせて傾斜面を形成してもよい。なお、孔10,20,30に傾斜面11,21,31の形成後に、孔の内壁や金属層5の表面にSiO
2等の絶縁性の保護膜を形成してもよい。
【0079】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係る発光素子について
図8を参照して説明する。
図8に示すように、発光素子1Aには、素子表面(上面)から突出する柱体の上面が傾斜面として形成された、第1の突起部40と、第2の突起部50と、第3の突起部60と、が設けられている。また、素子上面において、所定領域を環状に取り囲むように配置された3つの突起部40,50,60を
図9に示す。発光素子1Aは、指向性の高い光を発光する素子であって、特定の方向に光線を射出する光線指向型の発光素子である。なお、発光素子1Aにおいて、第1実施形態に係る発光素子1と同様な構成には同様の符号を付し、説明を適宜省略する。
【0080】
<発光素子の構造>
発光素子1Aは、例えばLEDのように、平坦な表面から光を放射するものである。
発光素子1Aは、
図8に示すように、半導体層2と、発光層3と、バッファ層4と、金属層(遮光膜)5とを備えている。
半導体層2は、発光層3の下側に、図示しない基板との間に設けられたn型半導体層である。バッファ層4は、発光層3の上側(光取り出し側)に、素子表面との間に設けられたp型半導体層である。バッファ層4は、上面に、平坦に形成された平坦領域と、この平坦領域から一部突出して形成された複数の突起部40,50,60とを有する。バッファ層4の平坦領域には、金属層5が積層されている。
【0081】
<突起部の傾斜面>
第1の突起部40の上面は傾斜面41であり、第2の突起部50の上面は傾斜面51であり、第3の突起部60の上面は傾斜面61である。突起部40,50,60の金属層5よりも上方に位置する基端において、各突起部の径は、放射光の波長以上である。すなわち、各傾斜面41,51,61を素子表面(上面)に投影した平面図形の径は、発光素子1Aの発光層3からの光が通るのに充分な太さを有する。ここで、充分な太さとは、発光素子1Aから放出される光の波長λ程度以上である。
なお、各傾斜面41,51,61は、高い方から低い方へ傾斜する向きが、−Y方向から+Y方向への向きに一致している。つまり、発光素子1Aの傾斜面の向きと、第1実施形態の発光素子1の傾斜面の向きとは180度異なっている。
【0082】
<突起部の平面形状>
図9では、突起部の平面形状を円形で示した。つまり、
図8に示す各傾斜面41,51,61の面内の輪郭形状(楕円)が素子表面(上面)の位置に投影されたときの平面図形の形状は円形であるものとした。また、
図8および
図9に示すように各突起部の太さは等しいものとした(直径d:
図10および
図11参照)。
【0083】
<突起部の間隔p>
突起部40,50,60は、光取り出し面において、原点Mの周囲に均等な角度β(この場合、β=120度)の方位に、互いに間隔pだけ離間して配置されている。突起部の間隔pは、隣り合った突起部からの光が干渉できる程度の長さに予め設定されている。なお、原点Mは、第1の突起部40の中心O
1と、第2の突起部50の中心O
2と、第3の突起部60の中心O
3とを頂点とする正三角形の重心に対応している。
【0084】
<突起部の傾斜面の仰角>
3つの突起部40,50,60の各傾斜面41,51,61の仰角はそれぞれ等しいものとした。例えば傾斜面51については、
図9のC−C線矢視における断面図を
図10に示すように、傾斜面51の仰角は角度αとなっている。
【0085】
<突起部の傾斜面の方位角>
発光素子1
Aの各突起部40,50,60において各傾斜面41,51,61の方位角はそれぞれ等しいものとした。傾斜面の方位角は、例えば高い方から低い方へ傾斜する向きで特定する。
図9において、傾斜面41の方位角の方向は、第1の突起部40の中心O
1を始点とする太線の矢印の向きと反対の方向で表される。また、傾斜面51の方位角の方向は、第2の突起部50の中心O
2を始点とする太線の矢印の向きと反対の方向で表される。また、傾斜面61の方位角の方向は、第3の突起部60の中心O
3を始点とする太線の矢印の向きと反対の方向で表される。つまり、この発光素子1Aの傾斜面の方位角は、地図上ならば北向き(
図9において上向き)である。傾斜面41についての回転角θ
1は、
図2に示す傾斜面11についての回転角θ
1と同様に表すこととした。傾斜面51についての回転角θ
2は、
図2に示す傾斜面21についての回転角θ
2と同様に表すこととした。傾斜面61についての回転角θ
3は、
図2に示す傾斜面31についての回転角θ
3と同様に表すこととした。なお、3本の太線の矢印の向きは、発光素子1
Aから広がりを抑えて放射される光線の方向を示している。
【0086】
<突起部の傾斜面の位置>
各傾斜面41,51,61は、金属層5よりも上方に形成されている。より詳細には、
図10および
図11に示すように、バッファ層4の突起部40,50,60は、金属層5の上面よりも下側の形状が円柱である。また、突起部40,50,60は、金属層5の上面よりも上側の形状が円柱を斜断した形状である。また、
図10に示すように、突起部50の傾斜面(上面)51の最下端は、金属層5の上面に段差なく滑らかに繋がっている。
【0087】
傾斜面51の最下端が金属層5の上面に段差なく滑らかに繋がっていると、光が金属層5の側面で反射することはない。具体例として、
図10の断面図において、突起部50の直下の発光層3からバッファ層4を介して真上へ向かう光を想定すると、傾斜面51への入射角度が仰角αと等しい。そして、この真上へ向かう光は、傾斜面51の上下の媒質の屈折率の相違と入射角とに応じて屈折し、真上(+Z軸)から、−Y方向(
図10において左側)に傾いた方向へ出射することとなる。つまり、傾斜面51からの光は、
図3を参照して説明した傾斜面21からの孔20の外部への光と同じ方向に出射し、また、出射光の強度は、より大きな値となる。
【0088】
[発光素子の設計の具体例]
発光素子1Aは、第1実施形態の発光素子1と同様な材料、同様なサイズで同様に設計することができる。なお、第2実施形態の発光素子1Aにおいては、突起部の傾斜面の方位角は、
図9の太い矢印を180度回転させて+Y方向とした。つまり、回転角θ
1=300°、回転角θ
2=300°、回転角θ
3=180°とした。その上で、突起部の傾斜面の仰角αの値を変化させることで、光線方向が制御されることを確かめた。
【0089】
[発光素子の傾斜面から出射される光の干渉の原理]
発光素子1Aにおいては、第1実施形態の発光素子1における孔を突起部に置き換えることで、複数の突起部からの光が同様な原理で同様に干渉することができる。
【0090】
[発光素子の性能]
第2実施形態の発光素子1Aの性能を確かめるために、FDTD法によるシミュレーションを、第1実施形態と同様な手法で行った。FDTD法による計算結果を用い、遠方界パターンを計算し、これを光の方向制御の評価に用いた。
図12は、試した中で最もよい結果であって、発光素子1Aの3つの突起部40,50,60の上面の仰角αが14度である場合の光強度の遠方界パターンを示す。
【0091】
ここで、原点(放射状のグラフの中心)は、XY平面(Z=0)における3個の突起部40,50,60の中心から等しい距離にある点(重心)であって、バッファ層4の上面をZ=0とした点に定めている。
突起部の傾斜面の仰角α=14°、回転角θ
1=300°、回転角θ
2=300°、回転角θ
3=180°の場合、
図12に示すように、制御角Ψは22度であって、素子表面と垂直な方向から
−Y方向に22度傾いた方向に光線を成形できることが分かる。
【0092】
[発光素子の製造方法]
発光素子1Aを製造する方法としては、公知の種々の微細加工技術を用いることができる。発光素子1Aは、例えばLEDのように平坦な放射面を有する発光素子を用意し、その表面を微細加工して作成することが可能である。
【0093】
発光素子1Aの製造工程の一例を挙げると、まず、例えばGaAsやSi等の半導体基板に、例えば分子線エピタキシー(MBE:Molecular Beam Epitaxy)法、有機金属化学気相成長(MOCVD)法などの成膜方法により、半導体層2と発光層3とバッファ層4とを積層する。次いで、バッファ層4上に金属材料を蒸着法、スパッタリング法等により積層した後、フォトリソグラフィ法等によって金属層5が作製される。
【0094】
ここで、バッファ層4については、まず、突起部の最上部以上の厚みで成膜する。それから、突起部40,50,60を形成する領域をマスクする。このとき、傾斜面の仰角に対応させて、傾斜面の上端となる領域が下端となる領域よりも厚くなるようにマスクの厚みに傾斜をつける。そして、バッファ層4のマスクの上から、反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)等のドライエッチングや薬液を用いたウェットエッチングを行うことにより、突起部40,50,60を形成する。このとき、突起部の傾斜面の上端となる領域と下端となる領域とでは、エッチングレートが異なるので、突起部40,50,60に傾斜面41,51,61が形成される。
【0095】
そして、バッファ層4上において突起部40,50,60をマスクして、金属材料を蒸着法、スパッタリング法等により積層した後、フォトリソグラフィ法等によって金属層5が作製される。そして、リフトオフにより、突起部40,50,60上のマスクとこのマスク上の金属層を除去する。なお、その後、突起部の表面や金属層5の表面にSiO
2等の絶縁性の保護膜を形成してもよい。
【0096】
[発光素子の応用例]
第1および第2の実施形態の発光素子1,1Aを基板上に多数並べることにより、IP方式のディスプレイであるIP立体ディスプレイを提供することが可能である。
一例として、
図13(a)および
図13(b)に、第1の実施形態の発光素子1を基板71上に多数並べたIP立体ディスプレイ70を示す。図示は省略するが、IP立体ディスプレイ70に対応したIP立体撮影装置がレンズ板を介して
図13(b)に示す円柱や立方体等の被写体を予め撮影した要素画像群を取得しておくことが、立体を表示(再生)するための前提となる。撮影に用いるレンズ板は、要素レンズを所定のレンズピッチで並置して構成された要素レンズアレイになっている。従来のIP方式のディスプレイでは、例えば液晶パネルに要素画像群を表示して、撮影時と同様の要素レンズアレイの各要素レンズを介して各要素画像を投影し、それらを集積した像を、被写体に対応した立体再生像として観察する。IP立体ディスプレイ70の場合、密集して配置された複数の発光素子1が1単位の要素画素群として要素画像を形成し、通常のIP立体ディスプレイの個々の要素レンズに相当する領域に、要素画素群(1つの単位構造)が並置される構造となる。これにより、
図13(b)に示すように、IP立体ディスプレイ70の各要素画素群(複数の発光素子1からな
る単位構造)が要素画像を空間上に投影し、それらが集積されて、被写体の再生像(立体像)として、例えば円柱や立方体が表示される。
【0097】
IP立体ディスプレイ70は、
図13(a)に示すように、画面に向かって一番右側の列に並べられた発光素子1は、1つの孔が配置された側(第3
の孔30の側)を画面の右側に向け、2つの孔が配置された側(第1の孔10、第2の孔20の側)を画面の左側に向けている。これは、画面に向かって右側の発光素子1においては、光線を素子表面の法線方向から
図13において左側に向けて傾けることを企図した配置である。ここで、画素に対応した発光素子1の1つ1つにおいて、
仰角は画素毎に決定されており、当該画素から射出する光線の方向を規定するように設定される。
図13(b)にて、例えば円柱や立方体を終点とする太い矢印が光線の方向を示している。
【0098】
また、IP立体ディスプレイ70において、画面に向かって一番左側の列に並べられた発光素子1と、画面に向かって一番右側の列に並べられた発光素子とは、孔の配置が対称になっている。これは、画面に向かって左側の発光素子1においては、光線を素子表面の法線方向から
図13において右側に向けて傾けることを企図した配置である。
【0099】
また、IP立体ディスプレイ70において、画面に向かって一番上の列に並べられた発光素子1と、画面に向かって一番下側の列に並べられた発光素子とは、孔の配置が対称になっている。この配置も同様な理由によるものである。さらに、その他の画面領域に並べられた発光素子1も場所に応じた配置で配置されている。
よって、素子単位の画素構造(発光素子1)の中の3つの波源からそれぞれ射出された光によって、当該画素において強度変調が可能となる。なお、画素の位置によっては、制御角θ=0度とするために仰角αを0度とすべき位置もある。
【0100】
一方、立体ディスプレイ
70の発光素子1間、すなわち、画素間においては、光源(発光層3)が異なるので、発光強度の点では相関性を持たない。そのため、合成される光の強度は、
2つの画素から射出されたそれぞれの光の強度の単なる加算となる。つまり、画素間において合成される光の強度は、
2つの画素を
2つの波源とみなしたときに、前記式(1)の第1項と第2項に相当する演算で求められることとなる。
このように立体ディスプレイ
70は、各画素を構成する発光素子1が、個別に、射出される方向(方位)が決定されていることによって、光学レンズを介することなく、各発光素子1から特定の方向(方位)への指向性をもった光を射出することができる。
【0101】
このような微細構造を有する発光素子1を多数個並べた表示素子(FPD)は、従来技術においてレンズ板と発光面とを接合させた装置と同じ働きを有するようになる。このようにして作成したIP立体ディスプレイ70においては、立体表示の解像度は、発光素子1の精細度にのみ依存し、光学系の解像度不足による映像ボケが生じない。また、発光素子1を用いたIP表示における視域角は、素子表面と垂直な方向に対する放射光の成す角(制御角θ)の最大値にのみ依存し、解像度と視域角とを独立に改善することが可能である。
【0102】
[発光素子の利用可能性]
発光素子1,1Aは、光線の成形と方向制御を必要とするデバイス一般に応用することが可能である。例えば、プロジェクター用光源、空間光インターコネクションに用いる接続器、拡散板を必要としない照明用光源などに好適である。
【0103】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る発光素子1,1Aは、表面に複数の微細構造物(孔または突起部)を形成することで光の干渉効果により光線を成形できる。
また、発光素子1,1Aは、表面に形成した微細構造物(孔または突起部)の傾斜面の仰角αを適切に選ぶことで、素子表面から垂直な方向以外の任意方向へ放射する光線を成形することが可能となる。
【0104】
以上、実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、LED素子の材料は、GaNであるもとして説明したが、本発明はこれに限らず、例えば、AlN、GaAlN、ZnO、GaAs、GaP、GaAlAs、GaAlAsP等であってもよい。
【0105】
また、発光素子は、LED素子のような注入型のEL素子に限定されず、有機EL素子や無機EL素子のような真性EL素子であってもよい。
また、発光素子の遮光機能としての金属層5に電極機能を持たせてもよい。また、発光素子の金属層5の部分を、透明電極層と遮光機能としての金属薄膜とで構成してもよい。
【0106】
前記各実施形態では、発光素子の表面に形成した微細構造物(孔または突起部)からの光線の方向が等しいものとして説明した。すなわち、第1実施形態では、発光素子1の孔の傾斜面の仰角α=14°、回転角θ
1=120°、回転角θ
2=120°、回転角θ
3=0°の場合を例示することで、3つの孔10,20,30の傾斜面の方位角が等しいものとした。また、第2実施形態では、発光素子1Aの突起部の傾斜面の仰角α=14°、回転角θ
1=300°、回転角θ
2=300°、回転角θ
3=180°の場合を例示することで、3つの突起部40,50,60の傾斜面の方位角が等しいものとした。ただし、本発明は、これに限定されるものではない。本発明の発光素子は、各微細構造物の傾斜面の方位角が等しくなくても、広がりを抑えた光線を成形することが可能である。このとき、広がりを抑えた光線は、どのような線上に成形されることになるのかは、各微細構造物の傾斜面の方位角によって定められ、ケースバイケースである。
【0107】
以下、発光素子の表面に形成した微細構造物(孔または突起部)についての変形例を列挙する。ここでは、微細構造物が例えば孔であるものとする。
孔の断面形状は、図示した円に限らず、多角形等であってもよい。また、孔の個数を3つとしたが、2つまたは4つ以上であってもよい。
孔の個数を2つにする場合、
図1および
図2に示した第3
の孔30を取り除いて、第1の孔10と第2の孔20のように横並びで傾斜面の方位が揃った状態で配置することが好ましい。孔の個数が3つ以上の場合、所定領域を取り囲むように円環状に孔を配置することが好ましい。例えば孔の個数を4つとした場合、4つの孔の配置は
図2の角度βが90度となるようにすることが好ましい。
【0108】
孔の個数を5つとした場合、5つの孔の配置は
図2の角度βが72度となるようにすることが好ましい。
【0109】
孔の個数を6つとした場合、6つの孔の配置は
図2の角度βが60度となるようにすることが好ましい。例えば6つの孔を環状に配列した場合、間隔p(
図2参照)はほぼ0であっても構わない。
【0110】
波源としての孔が4以上の整数Nである場合については、隣り合った2つの孔の組み合わせの個数を
NC
2とすれば、孔が3つある場合に
3C
2(=3)回だけ前記式(1)を適用して加算したのと同様な手法により、
NC
2回だけ前記式(1)を適用して加算することで前記式(1)を拡張することが可能である。
【0111】
一重に環状に配列した複数の孔の間隔p(
図2参照)をほぼ0としても、孔の総数に比例して素子のサイズが大きくなるので、所望の素子のサイズに合わせて孔の総数を適宜設計することができる。
内側に3個、外側に6個のように、環状に配列した複数の孔を二重に配列してもよい。
すべての孔の径は必ずしも等しくなくてもよい。
【0112】
発光素子の表面に形成した微細構造物としての孔についての変形例は、同様に微細構造物としての突起部の変形例に置き換えることができる。
第2実施形態の発光素子1Aにおいては、
図10を参照して、突起部50の傾斜面51の最下端は、金属層5の上面と面一であるものとして説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。例えば突起部50の傾斜面51の最下端は、金属層5の上面よりも上に位置してもよい。この場合、突起部50は、金属層5の上面よりも上側の形状が、円柱に、円柱を斜断した形状を継ぎ足したような形状となる。
【0113】
また、突起部50の傾斜面51の上端が金属層5の上面よりも上に位置していれば、傾斜面51の下端は、金属層5の上面よりも下に位置してもよい。この場合、突起部50は、金属層5の上面から突出した部分と、金属層5の上面から凹んだ部分とを合わせ持つ構造となる。
【0114】
また、微細構造物が突起部の場合、複数の突起部のうち、傾斜面の仰角の値が異なる突起部があってもよいし、方位角の方向が異なる突起部があってもよい。