(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を用いて各実施形態について説明する。
【0016】
以下では、荷電粒子線装置の一例として、荷電粒子線顕微鏡について説明する。ただし、これは本発明の単なる一例であって、本発明は以下説明する実施の形態に限定されるものではない。本発明は、走査電子顕微鏡、走査イオン顕微鏡、走査透過電子顕微鏡、これらと試料加工装置との複合装置、またはこれらを応用した解析・検査装置にも適用可能である。
【0017】
また、本明細書において「大気圧」とは大気雰囲気または所定のガス雰囲気であって、大気圧または若干の負圧若しくは加圧状態の圧力環境のことを意味する。具体的には約10
5Pa(大気圧)から〜約10
3Pa程度である。
【実施例1】
【0018】
本実施例では、基本的な実施形態について説明する。
図1には、本実施例の荷電粒子顕微鏡の全体構成図を示す。
図1に示される荷電粒子顕微鏡は、主として、荷電粒子光学鏡筒2、荷電粒子光学鏡筒を装置設置面に対して支持する第1筐体7(以下、真空室と称することもある)、第1筐体7に挿入して使用される第2筐体121(以下、アタッチメントと称することもある)およびこれらを制御する制御系によって構成される。荷電粒子顕微鏡の使用時には荷電粒子光学鏡筒2と第1筐体の内部は真空ポンプ4により真空排気される。真空ポンプ4の起動および停止動作も制御系により制御される。図中、真空ポンプ4は一つのみ示されているが、二つ以上あってもよい。
【0019】
荷電粒子光学鏡筒2は、荷電粒子線を発生する荷電粒子源8、発生した荷電粒子線を集束して鏡筒下部へ導き、一次荷電粒子線として試料6を走査する光学レンズ1などの要素により構成される。荷電粒子光学鏡筒2は第1の筐体7内部に突き出すように設置されており、真空封止部材123を介して第1の筐体7に固定されている。荷電粒子光学鏡筒2の端部には、上記一次荷電粒子線の照射により得られる二次粒子(二次電子または反射電子、イオン等の二次荷電粒子、または光子,X線等)を検出する検出器3が配置される。また、後述するように二次粒子を検出可能な検出器として、第2筐体121すなわち試料が載置された空間に検出器151が具備されている。
【0020】
本実施例の荷電粒子顕微鏡は、制御系として、装置使用者が使用するコンピュータ35、コンピュータ35と接続され通信を行う上位制御部36、上位制御部36から送信される命令に従って真空排気系や荷電粒子光学系などの制御を行う下位制御部37を備える。コンピュータ35は、装置の操作画面(GUI)が表示されるモニタと、キーボードやマウスなどの操作画面への入力手段を備える。上位制御部36、下位制御部37およびコンピュータ35は、各々通信線43、44により接続される。
【0021】
下位制御部37は真空ポンプ4、荷電粒子源8や光学レンズ1などを制御するための制御信号を送受信する部位であり、さらには検出器3の出力信号をディジタル画像信号に変換して上位制御部36へ送信する。図では検出器3、検出器151からの出力信号を、プリアンプなどの信号増幅器153、154を経由して下位制御部37に接続している。もし、信号増幅器が不要であればなくてもよい。
【0022】
上位制御部36と下位制御部37ではアナログ回路やディジタル回路などが混在していてもよく、また上位制御部36と下位制御部37が一つに統一されていてもよい。なお、
図1に示す制御系の構成は一例に過ぎず、制御ユニットやバルブ、真空ポンプあるいは通信用の配線などの変形例は、本実施例で意図する機能を満たす限り、本実施例の荷電粒子線顕微鏡の範疇に属する。
【0023】
第1筐体7には、一端が真空ポンプ4に接続された真空配管16が接続され、内部を真空状態に維持できる。同時に、筐体内部を大気開放するためのリークバルブ14を備え、メンテナンス時などに、第1筐体7の内部を大気開放することができる。リークバルブ14は、なくてもよいし、二つ以上あってもよい。また、第1筐体7におけるリークバルブ14の配置箇所は、
図1に示された場所に限られず、第1筐体7上の別の位置に配置されていてもよい。更に、第1筐体7は、側面に開口部を備えており、この開口部を通って上記第2筐体121が挿入される。
【0024】
第2筐体121は、直方体形状の本体部131と合わせ部132とにより構成される。後述するように本体部131の直方体形状の側面のうち少なくとも一側面は開放面9となっている。本体部131の直方体形状の側面のうち隔膜保持部材155が設置される面以外の面は、第2筺体121の壁によって構成されていてもよいし、第2筺体121自体には壁がなく第1筺体7に組み込まれた状態で第1筺体7の側壁によって構成されても良い。第2筐体121は第1筐体7の側面又は内壁面又は荷電粒子光学鏡筒に位置が固定される。本体部131は、上記の開口部を通って第1筐体7内部に挿入され、第1筺体7に組み込まれた状態で観察対象である試料6を格納する機能を持つ。合わせ部132は、第1筐体7の開口部が設けられた側面側の外壁面との合わせ面を構成し、真空封止部材126を介して上記側面側の外壁面に固定される。これによって、第2筐体121全体が第1筐体7に嵌合される。上記の開口部は、荷電粒子顕微鏡の真空試料室にもともと備わっている試料の搬入・搬出用の開口を利用して製造することが最も簡便である。つまり、もともと開いている穴の大きさに合わせて第2筐体121を製造し、穴の周囲に真空封止部材126を取り付ければ、装置の改造が必要最小限ですむ。また、第2筐体121は第1筐体7から取り外しも可能である。
【0025】
第2筐体121の上面側には、第2筐体121全体が第1筐体7に嵌合された場合に上記荷電粒子光学鏡筒2の直下になる位置に隔膜10を備える。さらに、第2筐体121上部に検出器151を具備している。隔膜10は、荷電粒子光学鏡筒2の下端から放出される一次荷電粒子線を透過または通過させることが可能であり、一次荷電粒子線は、隔膜10を通って最終的に試料6に到達する。
【0026】
従来技術では、試料は液体を満たした隔膜内部に保持されており、一度大気圧観察を行うと試料が濡れてしまうため、同じ状態の試料を大気雰囲気および高真空雰囲気の両方で観察することは非常に困難であった。また、液体が隔膜に常に接触しているために、隔膜が破損する可能性が非常に高いという問題もあった。一方、本実施例の方式によれば、試料6は隔膜10と非接触の状態で配置されることになるため、試料の状態を変えずに高真空下でも大気圧でも観察することができる。また、試料が隔膜上に載置されないので試料によって隔膜が破損してしまう可能性を低減できる。
【0027】
試料6に到達した荷電粒子線によって試料内部または表面から反射荷電粒子や透過荷電粒子などの二次粒子を放出する。この二次粒子を検出器3または検出器151にて検出する。検出器3は荷電粒子が照射された隔膜より上側の空間にあり、検出器151は隔膜の下側面とほぼ同じ平面上にある。
【0028】
検出器3及び検出器151は数keVから数十keVのエネルギーで飛来してくる荷電粒子線を検知することができる検出素子である。また、さらにこの検出素子は信号の増幅手段を有していてもよい。本検出素子は装置構成の要求から、薄くて平らであることが好ましい。例えば、シリコン等の半導体材料で作られた半導体検出器や、ガラス面あるいは内部にて荷電粒子信号を光に変換することが可能なシンチレータ等である。
【0029】
荷電粒子線が電子線の場合には、隔膜10の厚さは電子線が透過できる程度の厚さ、典型的には数nmから20μm程度以下である必要がある。隔膜に替えて、一次荷電粒子線の通過孔を備えるアパーチャ部材を用いてもよく、その場合の孔径は、現実的な真空ポンプで差動排気可能という要請から、面積1mm
2程度以下であることが望ましい。荷電粒子線がイオンの場合は、隔膜を破損させる事なしに貫通させることが困難であるため、面積1mm
2程度以下のアパーチャを用いる。図中の一点鎖線は、一次荷電粒子線の光軸を示しており、荷電粒子光学鏡筒2および隔膜10は、一次荷電粒子線光軸と同軸に配置されている。試料6と隔膜10との距離は、適当な高さの試料台17を置いて調整する。
【0030】
図1に示すように第2筐体121の側面は大気空間と少なくとも試料の出し入れが可能な大きさの面で連通した開放面9であり、第2筐体121の内部(図の点線より右側;以降、第2の空間とする)に格納される試料6は、観察中、大気圧状態に置かれる。なお、
図1は光軸と平行方向の装置断面図であるため開放面9は一面のみが図示されているが、
図1の紙面奥方向および手前方向の第1の筺体の側面により真空封止されていれば、第2の筺体121の開放面9は一面に限られない。第2の筺体121が第1の筺体7に組み込まれた状態で少なくとも開放面が一面以上あればよい。一方、第1筐体7には真空ポンプ4が接続されており、第1筐体7の内壁面と第2筐体の外壁面および隔膜10によって構成される閉空間(以下、第1の空間とする)を真空排気可能である。第2の空間の圧力を第1の空間の圧力より大きく保つように隔膜が配置されることで、本実施例では、第2の空間を圧力的に隔離することができる。すなわち、隔膜10により第1の空間11が高真空に維持される一方、第2の空間12は大気圧または大気圧とほぼ同等の圧力のガス雰囲気に維持されるので、本実施例では、装置の動作中、荷電粒子光学鏡筒2や検出器3を真空状態に維持でき、かつ試料6を例えば大気圧に維持することができる。
【0031】
局所的に大気雰囲気に維持できる環境セルのような従来技術では、大気圧/ガス雰囲気での観察を行うことは可能であるが、セルに挿入可能なサイズの試料しか観察できず、大型試料の大気圧/ガス雰囲気での観察ができないという問題があった。また環境セルの場合、異なる試料を観察するには、SEMの真空試料室から環境セルを取り出し、試料を取り替えて再度真空試料室内に搬入しなければならず、試料交換が煩雑であるという問題もあった。一方、本実施例の方式によれば、第2筐体121の一側面が開放されており、広い大気圧空間である第2の空間12の中に試料6が載置されるので、半導体ウェハ等の大型試料であっても大気圧下で観察することができる。特に本実施例の第2筐体は、試料室の側面から挿入する方式のため大型化が容易であり、従って環境セルには封入できないような大型の試料であっても観察が可能となる。さらに、第2筐体121に開放面があるので、観察中に第2の空間12の内部と外部の間を試料移動させることができ、試料交換を容易に行うことができる。
【0032】
図2に検出器3、隔膜10、試料6及び検出器151近傍の詳細図を示す。図では隔膜10及び検出器151は隔膜保持部材155上に具備され、試料とは対向して配置されている。したがって、検出器151は試料が載置される空間と同じ圧力雰囲気下に置かれることになる。一方、検出器3は隔膜10に対して試料6の反対側の空間に設置されており、検出器3が設置されている空間は真空状態となっている。図中検出器は検出器3と検出器151の計二つが具備されているが、これら検出器は両方配置されてもよいし、はずして一つだけの配置にしてもよい。また、これら以外の検出器が配置されていてもよい。隔膜10は土台159上に成膜または蒸着されている。隔膜10を備えた土台159は隔膜保持部材155上に具備されている。図示しないが、隔膜10を備えた土台159と隔膜保持部材155は真空シールが可能な接着剤や両面テープ等により接着または密着しているものとする。
【0033】
隔膜10を備えた土台159は隔膜保持部材155から着脱可能とする。また、隔膜10を備えた土台159が具備された状態で隔膜保持部材155は着脱可能とする。隔膜10は試料6が接触するなどして破損することがあるので、隔膜保持部材155ごと装置外部にはずして隔膜10を交換すること可能となる。図示されていないが、隔膜保持部材155はネジなどを用いて第2筺体121と接続されていてもよい。
【0034】
隔膜10を取り囲むように検出器151が具備されている。検出器151で検出した信号は信号線156経由で信号増幅器153に出力される。図中信号増幅器153は第2筐体121内部に配置されている。これは、一般的に検出器151からの信号量は微弱であるために、信号増幅器は検出器に近接させたほうが外乱ノイズ防止のためによいからである。外乱ノイズが問題にならなければ信号増幅器153は第2筐体121外部に配置されていてもよい。
【0035】
図3(a)に隔膜10及び検出器151周辺構造を示す。隔膜10は土台159上に具備されている。隔膜10はカーボン材、有機材、シリコンナイトライド、シリコンカーバイド、酸化シリコンなどである。土台159は例えばシリコンのような部材であり、ウェットエッチングなどの加工により図のようにテーパ穴165が掘られてあり、図中下面に隔膜10が具備されている。また、隔膜が搭載された金属メッシュでもよい。隔膜の厚みは数nm〜数十μm程度である。
【0036】
図3(b)及び
図3(c)では隔膜保持部材155上に荷電粒子線を検出することが可能な検出器151と隔膜10を具備した土台159が配置された様子を示す。図は試料6側から見た時の斜視図である。隔膜の周辺を取り囲むように検出器151が配置される。図示していないが、検出器151を備えた隔膜保持部材155と隔膜10を具備した土台159は真空シールが可能な接着剤や両面テープ等により接着されているものとする。断面図は
図2で示したようであり、荷電粒子線が通過するために隔膜保持部材155には穴があいてあり、この穴近傍に隔膜10が配置されている。図中検出器151は円形で描かれているが四角など他の形状でもよい。
【0037】
ここで、隔膜10の面と検出器151の検出面が同じ面上にほぼ揃うように配置することが望ましい。例えば、
図2の点線176に検出器面及び隔膜面を示した。こうすることで、試料を隔膜に接近させるときに検出器151及び隔膜10の両方にできる限り試料を近接させることが可能となる。
【0038】
検出器151は例えばシリコンなどで作られた半導体検出素子である。半導体検出素子は荷電粒子線等が入射されると信号を増幅し、電流を発生させる。この電流は信号線162を経由してコネクタ160へ出力される。
【0039】
図3(c)のように検出器151は一面だけでなく四面など複数面配置してもよい。検出面が広すぎると既成容量(キャパシタンス)成分のために検出器によって検出された信号帯域が狭くなる。信号帯域を広くしたい場合、図のように4分割など複数分割してキャパシタンス成分を小さくすることが望ましい。
【0040】
図3(d)では隔膜保持土台と検出器が一体化された例を図示する。土台159と検出器151がシリコンなどで作られた半導体検出器の場合、半導体プロセスにて一括して隔膜10と検出素子151を備えた保持台177を製造することが可能である。検出器151で検出した信号は信号線162を経由して金属で作られたパッド164へ出力される。パッド164から信号増幅器153まではワイヤボンディングやコネクタなどを経由して接続すればよい。
図3(e)のように検出器151は4面など複数面配置してもよい。
【0041】
図3(f)に
図3(d)や
図3(e)の断面図を示す。図中下側が試料側である。検出器3にて信号取得する際の信号検出効率を高めるためにテーパ部165が真空側(図中上側)にある。検出器151は保持台177の表面上またはその内部に具備されている。保持台内部に検出部を有すると隔膜面と検出器面をほぼ同じ平面上に備えることが簡便となる。
【0042】
検出器151は荷電粒子線を光に変換するシンチレータでもよい。シンチレータの場合は、荷電粒子線を一旦光に変換する。その場合は、信号線162は電気信号線ではなく光波路になり、コネクタ160は光伝達用コネクタになる。
また、検出器151はイオン、電子などの荷電粒子線を検出する検出器だけでなく、試料から放出される光子、X線などを検出する検出器でもよい。マルチチャンネルプレートや電離箱のような検出器でもよく、本実施例で意図する機能を満たす限り、本実施例の荷電粒子線顕微鏡の範疇に属する。
【0043】
次に、
図4を用いて、検出器3と検出器151の使用方法に関して説明する。
【0044】
図4(a)では隔膜10と試料6が近接している様子を示す。隔膜10と試料6が近接している場合は、試料に照射された荷電粒子線によって生じる二次粒子は検出器3に到達することができる。隔膜から試料6までの間は大気圧の状態であるが、荷電粒子線が散乱することをできる限り防止したい場合つまり部荷電粒子ビームのスポット系を小さくし分解能を高めたい場合は、このように隔膜10に試料6を接近させることが有用である。
【0045】
一方で、
図4(b)のように、凹凸の大きい試料を観察したい場合は、検出器151を用いればよい。このような場合は試料から生じる二次粒子は検出器151にて検出することが可能となる。つまり、荷電粒子線が照射される試料部位と隔膜との距離が長い場合、隔膜10から戻ってきた二次粒子178を検出器3にて信号を検出することが難しい。このため、隔膜10に近接した検出器151にて凹凸試料などが観察可能となる。
【0046】
隔膜と試料との距離に応じてどちらの検出器を用いるか、または両方の検出器を用いるかを決定して各検出器のON/OFFを制御してもよいし、常に両方の検出器で二次粒子を検出するようにしてもよい。
【0047】
なお、隔膜10の面積を大きくすれば検出器151は不要であるように思われる。しかし、隔膜は荷電粒子線を透過できるぐらいの非常に薄い隔膜なので、面積を大きくすることが大変難しい。そのため、凹凸がある試料を観察したい場合は隔膜10の周辺に検出器151を配置することが望ましくなる。
【0048】
以上、本実施例により、凹凸がある試料でも観察が可能で大気圧で観察可能な荷電粒子顕微鏡が実現される。
【実施例2】
【0049】
本実施例では、荷電粒子顕微鏡への別の適用例について説明する。なお、荷電粒子顕微鏡としては具体的には走査電子顕微鏡、イオン顕微鏡などが挙げられる。以下では、実施例1と同様の部分については説明を省略する。
【0050】
図5には、本実施例の荷電粒子顕微鏡の全体構成図を示す。実施例1と同様、本実施例の荷電粒子顕微鏡も、荷電粒子光学鏡筒2、荷電粒子光学鏡筒を装置設置面に対して支持する第1筐体(真空室)7、第1筐体7に挿入して使用される第2筐体(アタッチメント)121、制御系などによって構成される。これらの各要素の動作・機能あるいは各要素に付加される付加要素は、実施例1とほぼ同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0051】
隔膜保持部材155は、第2筐体121の天井板の下面側に真空封止部材を介して脱着可能に固定される。隔膜10は、電子線が透過する要請上、厚さ数nm〜数十μm程度以下と非常に薄いため、経時劣化または観察準備の際に破損する可能性がある。また、隔膜10は薄いため直接ハンドリングすることが非常に困難である。本実施例のように、隔膜10を直接ではなく隔膜保持部材155を介してハンドリングできることで、隔膜10の取扱い(特に交換)が非常に容易となる。つまり、隔膜10が破損した場合には、隔膜保持部材155ごと交換すればよく、万が一隔膜10を直接交換しなければならない場合でも、隔膜保持部材155を装置外部に取り出し、隔膜10の交換を装置外部で行うことができる。なお、隔膜に替えて、面積1mm
2以下程度の穴を有するアパーチャ部材を使用できる点は、実施例1と同様である。また、
図1や
図2で説明したように隔膜10の周辺部には検出器151が具備されている。
【0052】
検出器151からの検出信号は信号増幅器153を経由したのち、蓋部材122に取り付けられたハーメチックコネクタ175を経由して、下位制御部37におくられる。後述する通り、第2の筐体内部の第2の空間12は真空にすることがあるので、ハーメチックコネクタ175は真空領域を維持することが可能な真空封じされたハーメチックコネクタであることが望ましい。図中信号増幅器153は第2の空間12内部に配置されているが、大気空間である外部にあってもよいし、真空空間である第1の空間にあってもよい。
【0053】
本実施例の荷電粒子顕微鏡の場合、第2筐体121の開放面を蓋部材122で蓋うことができるようになっており、種々の機能が実現できる。以下ではそれについて説明する。
【0054】
本実施例の荷電粒子顕微鏡においては、第2筐体内に空気以外の置換ガスを供給する機能を備えている。荷電粒子光学鏡筒2の下端から放出された荷電粒子線は、高真空に維持された第1の空間11を通って、
図5に示す隔膜10を通過し、更に、大気圧または(第1の空間よりも)若干の負圧状態に維持された第2の空間12に侵入する。ところが、真空度の低い空間では荷電粒子線は気体分子によって散乱されるため、平均自由行程は短くなる。つまり、隔膜10と試料6の距離が大きいと荷電粒子線または前記荷電粒子線照射により発生する二次電子、反射電子もしくは透過電子等の二次粒子が試料及び検出器3や検出器151まで届かなくなる。一方、荷電粒子線の散乱確率は、気体分子の質量数に比例する。従って、大気よりも質量数の軽いガス分子で第2の空間12を置換すれば、荷電粒子線の散乱確率が低下し、荷電粒子線が試料に到達できるようになる。また、第2の空間の全体ではなくても、少なくとも第2の空間中の電子線の通過経路の大気をガス置換できればよい。置換ガスの種類としては、窒素や水蒸気など、大気よりも軽いガスであれば画像S/Nの改善効果が見られるが、質量のより軽いヘリウムガスや水素ガスの方が、画像S/Nの改善効果が大きい。
【0055】
以上の理由から、本実施例の荷電粒子顕微鏡では、蓋部材122にガス供給管100の取り付け部(ガス導入部)を設けている。ガス供給管100は連結部102によりガスボンベ103と連結されており、これにより第2の空間12内に置換ガスが導入される。ガス供給管100の途中には、ガス制御用バルブ101が配置されており、管内を流れる置換ガスの流量を制御できる。このため、ガス制御用バルブ101から下位制御部37に信号線が伸びており、装置ユーザは、コンピュータ35のモニタ上に表示される操作画面で、置換ガスの流量を制御できる。
【0056】
置換ガスは軽元素ガスであるため、第2の空間12の上部に溜まりやすく、下側は置換しにくい。そこで、蓋部材122でガス供給管100の取り付け位置よりも下側に第2の空間の内外を連通する開口を設けるとよい。例えば
図5では圧力調整弁104の取り付け位置に開口を設ける。これにより、ガス導入部から導入された軽元素ガスに押されて大気ガスが下側の開口から排出されるため、第2筐体121内を効率的にガスで置換できる。なお、この開口を後述する粗排気ポートと兼用しても良い。
【0057】
第2筐体121または蓋部材122に真空排気ポートを設け、第2筐体121内を一度真空排気して若干の負圧状態にしてもよい。この場合の真空排気は、第2筐体121内部に残留する大気ガス成分を一定量以下に減らせればよいので高真空排気を行う必要はなく、粗排気で十分である。粗排気したあとにガス供給管100からガスを導入してもよい。真空度としては10
5Pa〜10
3Paなどである。ガスの導入をしないのであれば、ガスボンベ103を真空ポンプと置き換えても若干の負圧状態の形成が可能である。
【0058】
従来のいわゆる低真空走査電子顕微鏡では、電子線カラムと試料室が連通しているので、試料室の真空度を下げて大気圧に近い圧力とすると電子線カラムの中の圧力も連動して変化してしまい、約10
5Pa(大気圧)〜約10
3Paの圧力に試料室を制御することは困難であった。本実施例によれば、第2の空間と第1の空間を薄膜により隔離しているので、第2筐体121および蓋部材122に囲まれた第2の空間の中の圧力およびガス種は自由に制御することができる。したがって、これまで制御することが難しかった約10
5Pa(大気圧)〜約10
3Paの圧力に試料室を制御することができる。さらに、大気圧(約10
5Pa)での観察だけでなく、その近傍の圧力に連続的に変化させて試料の状態を観察することが可能となる。
【0059】
ただし、生体試料など水分を含む試料などを観察する場合、一度真空状態に置かれた試料は、水分が蒸発して状態が変化する。従って、上述のように、大気雰囲気から直接置換ガスを導入する方が好ましい。上記の開口は、置換ガスの導入後、蓋部材で閉じることにより、置換ガスを効果的に第2の空間12内に閉じ込めることができる。
【0060】
上記開口の位置に三方弁を取り付ければ、この開口を粗排気ポートおよび大気リーク用排気口と兼用することができる。すなわち、三方弁の一方を蓋部材122に取り付け、一方を粗排気用真空ポンプに接続し、残り一つにリークバルブを取り付ければ、上記の兼用排気口が実現できる。
【0061】
上述の開口の代わりに圧力調整弁104を設けても良い。当該圧力調整弁104は、第2筐体121の内部圧力が1気圧以上になると自動的にバルブが開く機能を有する。このような機能を有する圧力調整弁を備えることで、軽元素ガスの導入時、内部圧力が1気圧以上になると自動的に開いて窒素や酸素などの大気ガス成分を装置外部に排出し、軽元素ガスを装置内部に充満させることが可能となる。なお、図示したガスボンベ103は、荷電粒子顕微鏡に備え付けられる場合もあれば、装置ユーザが事後的に取り付ける場合もある。
【0062】
次に、試料6の位置調整方法について説明する。本実施例の荷電粒子顕微鏡は、観察視野の移動手段として試料ステージ5を備えている。試料ステージ5には、面内方向へのXY駆動機構および高さ方向へのZ軸駆動機構を備えている。蓋部材122には試料ステージ5を支持する底板となる支持板107が取り付けられており、試料ステージ5は支持板107に固定されている。支持板107は、蓋部材122の第2筐体121への対向面に向けて第2筐体121の内部に向かって延伸するよう取り付けられている。Z軸駆動機構およびXY駆動機構からはそれぞれ支軸が伸びており、各々操作つまみ108および操作つまみ109と繋がっている。装置ユーザは、これらの操作つまみ108および109を操作することにより、試料6の第2筐体121内での位置を調整する。
【0063】
次に、試料6の交換のための機構について説明する。本実施例の荷電粒子顕微鏡は、第1筐体7の底面および蓋部材122の下面に、蓋部材用支持部材19、底板20をそれぞれ備える。蓋部材122は第2筐体121に真空封止部材125を介して取り外し可能に固定される。一方、蓋部材用支持部材19も底板20に対して取り外し可能に固定されており、
図6に示すように、蓋部材122および蓋部材用支持部材19を丸ごと第2筐体121から取り外すことが可能である。なお、本図では電気配線などは省略している。
【0064】
底板20には、取り外しの際にガイドとして使用される支柱18を備える。通常の観察時の状態では、支柱18は底板20に設けられた格納部に格納されており、取り外しの際に蓋部材122の引出し方向に延伸するように構成される。同時に、支柱18は蓋部材用支持部材19に固定されており、蓋部材122を第2筐体121から取り外した際に、蓋部材122と荷電粒子顕微鏡本体とが完全には分離しないようになっている。これにより、試料ステージ5または試料6の落下を防止することができる。
【0065】
図6には、蓋部材122の引出し方向に取り外された際に信号線158が信号増幅器153から取り外された様子を示している。例えば、信号増幅器153と信号線158との間のコネクタ179などを使って着脱して電気接続や断続をすればよい。信号線158の長さが十分長ければ、外す必要はない。信号線158として伸縮可能な配線を用いてもよい。なお、取り外す部分は検出器151からの出力コネクタ160と信号線156間でもよいし、ハーメチックコネクタ175側でもよい。図示しないが、信号増幅器153からの出力信号を出力するためのハーメチックコネクタ175を蓋部材122に取り付けるのではなく、第一筐体7または第二筐体121に接続されている場合は試料交換の度に本電気接続部の着脱は不要となる。
【0066】
信号増幅器および信号増幅器からの出力信号線の配置場所、配線方法及び着脱方法及びに関しては、本実施例で意図する機能を満たす限り、本実施例の荷電粒子顕微鏡の範疇に属する。
【0067】
第2筐体121内に試料を搬入する場合には、まず試料ステージ5のZ軸操作つまみを回して試料6を隔膜10から遠ざける。次に、圧力調整弁104を開放し、第2筐体内部を大気開放する。その後、第2筐体内部が減圧状態または極端な与圧状態になっていないことを確認後、蓋部材122を装置本体とは反対側に引き出す。信号増幅器153とハーメチックコネクタ175とが配線で接続されている場合には必要があれば取り外す。これにより試料6を交換可能な状態となる。試料交換後は、必要があれば信号増幅器153とハーメチックコネクタ175との間を電気接続し、蓋部材122を第2筐体121内に押し込み、図示しない締結部材にて蓋部材122を合わせ部132に固定後、必要に応じて置換ガスを導入する。以上の操作は、荷電粒子光学鏡筒2内部の光学レンズ2に高電圧を印加している状態や荷電粒子源8から荷電粒子線が放出している状態の時にも実行することができる。そのため、荷電粒子光学鏡筒2の動作を継続したまま及び第一空間が真空状態のまま実行することができ、従って本実施例の荷電粒子顕微鏡は、試料交換後、迅速に観察を開始することができる。
【0068】
本実施例の荷電粒子顕微鏡は、通常の高真空SEMとして使用することも可能である。
図7には、高真空SEMとして使用した状態での、本実施例の荷電粒子顕微鏡の全体構成図を示す。
図7において、制御系は
図5と同様であるので図示は省略している。
図7は、蓋部材122を第2筐体121に固定した状態で、ガス供給管100と圧力調整弁104を蓋部材122から取り外した後、ガス供給管100と圧力調整弁104の取り付け位置を蓋部材130で塞いだ状態の荷電粒子顕微鏡を示している。この前後の操作で、隔膜10および隔膜保持部材155を第2筐体121から取り外しておけば、第1の空間11と第2の空間12をつなげることができ、第2筐体内部を真空ポンプ4で真空排気することが可能となる。これにより、第2筐体121を取り付けた状態で、高真空SEM観察が可能となる。
【0069】
以上説明したように、本実施例では、試料ステージ5およびその操作つまみ108、109、ガス供給管100、圧力調整弁104が全て蓋部材122に集約して取り付けられている。従って装置ユーザは、上記操作つまみ108、109の操作、試料の交換作業、またはガス供給管100、圧力調整弁104の脱着作業を第1筐体の同じ面に対して行うことができる。よって、上記構成物が試料室の他の面にバラバラに取り付けられている構成の荷電粒子顕微鏡に比べて大気圧下での観察用の状態と高真空下での観察用の状態とを切替える際の操作性が非常に向上している。
【0070】
また、二次電子検出器や反射電子検出器に加えて、X線検出器や光検出器を設けて、EDS分析や蛍光線の検出ができるようにしてもよい。X線検出器や光検出器は、第1の空間11または第2の空間12のいずれに配置されてもよい。
【0071】
また、試料ステージ5や検出器151に電圧を印加してもよい。試料6や検出器150に電圧を印加すると試料6からの放出電子や透過電子に高エネルギーを持たせることができ、信号量を増加させることが可能となり、画像S/Nが改善される。
【0072】
以上、本実施例により、実施例1の効果に加え、高真空SEMとしても使用可能で、かつ大気圧または若干の負圧状態のガス雰囲気下での観察を簡便に行えるSEMが実現される。また、置換ガスを導入して観察が実行できるため、本実施例の荷電粒子顕微鏡は、実施例1の荷電粒子顕微鏡よりもS/Nの良い画像取得が可能である。
【0073】
なお、本実施例では卓上型電子顕微鏡を意図した構成例について説明したが、本実施例を大型の荷電粒子顕微鏡に適用することも可能である。卓上型電子顕微鏡の場合は、装置全体あるいは荷電粒子光学鏡筒が筐体によって装置設置面に支持されるが、大型の荷電粒子顕微鏡の場合は、装置全体を架台に載置すればよく、従って、第1筐体7を架台に載置すれば、本実施例で説明した構成をそのまま大型の荷電粒子顕微鏡に転用できる。
【実施例3】
【0074】
本実施例では、
図5の装置構成から蓋部材122を外した構成例について説明する。以下では、実施例1、2と同様の部分については説明を省略する。
【0075】
図8には、本実施例の荷電粒子顕微鏡の全体構成を示す。制御系については、実施例2と同様であるので図示を省略し、装置の要部のみ示している。
【0076】
図8に示す構成では、試料ステージ5が第2筐体121の底面に直接固定される。ガス供給管100は第2筐体121に固定されていてもよいし、されていなくてもよい。本構成によれば、試料が装置外部にはみ出すことが許容されるため、蓋部材122を備える実施例2の構成よりもサイズの大きな試料を観察することが可能である。
【実施例4】
【0077】
本実施例では、
図5の装置構成において、第2筐体121が第1筐体の上側で真空シールされている変形例について説明する。以下では、実施例1、2、3と同様の部分については説明を省略する。
【0078】
図9に本実施例の荷電粒子顕微鏡の全体構成を示す。実施例3と同様、
図9では装置の要部のみ示す。本構成では、鍋型のアタッチメント(第2筐体121)を用いて、第1筐体7に上からアタッチメントをはめ込み、更にその上から荷電粒子光学鏡筒2をはめ込んだ構成を備える。アタッチメントは第1の筺体に取り付けられた状態では、直方体状の第1筺体7の内部に突き出した形状となっている。この状態において、第1筐体7の内壁面と第2筐体の外壁面および隔膜10によって構成される閉空間(第2の空間12)は大気圧状態の空間となり、第2筐体121の内部(第1の空間11)は真空排気される空間となる。
【0079】
第2筐体121は荷電粒子光学鏡筒2に対して真空封止部材123で真空シールされ、更に、第2筐体121は第1筐体7に対して真空封止部材129で真空シールされる。この構成の場合、
図5と比較すると第2の空間12の容積を大きくすることができ、実施例2の構成よりも大きな試料の配置をすることが可能となる。
【0080】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。
【0081】
各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード、光ディスク等の記録媒体に置くことができる。
【0082】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。