(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5909748
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】糖尿病性末梢神経障害の評価装置、およびその方法
(51)【国際特許分類】
A61B 10/00 20060101AFI20160414BHJP
【FI】
A61B10/00 UZDM
A61B10/00 X
【請求項の数】9
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-536431(P2014-536431)
(86)(22)【出願日】2012年9月18日
(86)【国際出願番号】JP2012073835
(87)【国際公開番号】WO2014045339
(87)【国際公開日】20140327
【審査請求日】2015年4月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】592019213
【氏名又は名称】学校法人昭和大学
(73)【特許権者】
【識別番号】514250827
【氏名又は名称】高橋 紀代
(73)【特許権者】
【識別番号】390041162
【氏名又は名称】株式会社飛鳥電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100148138
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡
(72)【発明者】
【氏名】井野 秀一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 満
(72)【発明者】
【氏名】高橋 紀代
(72)【発明者】
【氏名】吉村 眞一
【審査官】
宮川 哲伸
(56)【参考文献】
【文献】
特許第4611453(JP,B1)
【文献】
特開2010−22585(JP,A)
【文献】
特開2010−11984(JP,A)
【文献】
特表2009−529963(JP,A)
【文献】
特表2007−512900(JP,A)
【文献】
特表2008−517648(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00,9/00,10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
足裏の感覚閾値を測定する測定装置(A)と、測定装置(A)の測定結果から感覚閾値を特定し、さらに、特定された感覚閾値から神経障害の有無、あるいは神経障害の進行状況などを評価する主制御部(B)とを備えており、
測定装置(A)は、基台(1)に設けられて座位ないし立位の被験者の足裏を支持する足載台(2)と、足裏に移動刺激を与えるプローブ(4)と、プローブ(4)を移動操作するプローブ駆動構造(3)と、移動刺激を認識した被験者によって操作される入力スイッチ(5)と、プローブ駆動構造(3)の駆動状態を制御する駆動制御部(51)とを備えており、
主制御部(B)には、患者群の足裏に移動刺激を与えたときの既知の感覚閾値の基準データと、患者の年代の違いに基づく感覚閾値の標準値から算出された年齢補正係数とが予め記憶させてあり、
駆動制御部(51)は、前記基準データと年齢補正係数とを用いてプローブ駆動構造(3)の駆動状態を制御して、1次刺激付与状態と、2次刺激付与状態と、3次刺激付与状態とを順次行って感覚閾値を測定するように構成されており、
1次刺激付与状態においては、プローブ(4)による移動刺激の変化幅を大きくして大まかな感覚閾値を仮設定しており、
2次刺激付与状態においては、仮設定された大まかな感覚閾値を基準値にして、変化幅が小さな移動刺激を付与して感覚閾値を測定しており、
3次刺激付与状態においては、2次刺激付与状態において被験者の刺激反応がなかった場合に、1次刺激付与状態で仮設定した感覚閾値に対応する移動刺激より大きな移動刺激を付与して感覚閾値を測定しており、
主制御部(B)が、測定された感覚閾値と前記既知の基準データとを比較評価して、足裏の神経障害の有無と、神経障害の程度を自動的に判定することを特徴とする糖尿病性末梢神経障害の評価装置。
【請求項2】
プローブ駆動構造(3)が、前後および左右へ往復スライド自在に案内支持される第1テーブル(11)および第2テーブル(12)と、基台(1)に設けられて第1テーブル(11)を往復操作する第1駆動構造(13)と、第1テーブル(11)に設けられて第2テーブル(12)を往復操作する第2駆動構造(14)と、第2テーブル(12)に設けたプローブ固定部(40)とで構成されており、
プローブ固定部(40)に装着したプローブ(4)を第1テーブル(11)の移動方向と、第2テーブル(12)の移動方向に個別に移動させて、プローブ(4)の移動距離と、移動速度を独立した変数として測定し、
測定された感覚閾値と前記基準データとを主制御部(B)で評価する請求項1に記載の糖尿病性末梢神経障害の評価装置。
【請求項3】
プローブ駆動構造(3)が、往復スライド自在に案内支持される移動テーブル(11)と、基台(1)に設けられて移動テーブル(11)を往復操作する駆動構造(13)と、移動テーブル(11)に設けたプローブ固定部(40)とで構成されており、
プローブ固定部(40)に装着したプローブ(4)の移動方向に沿う姿勢と、プローブ(4)の移動方向と直交する姿勢とに被験者の姿勢を変更して、前後方向の移動刺激と左右方向の移動刺激を足裏に付与する請求項1に記載の糖尿病性末梢神経障害の評価装置。
【請求項4】
足裏の神経障害の有無と神経障害の程度に関する主制御部(B)の判定結果を表示する表示手段(55)を備えている請求項1から3のいずれかひとつに記載の糖尿病性末梢神経障害の評価装置。
【請求項5】
第1駆動構造(13)を構成するモーター(23)と、第2駆動構造(14)を構成するモーター(33)のそれぞれが、振動を遮断する防振構造(28・38)を介してブラケット(27・37)に固定されており、
前記各モーター(23・33)の回転動力を、ボールねじ軸(21・31)と、第1テーブル(11)および第2テーブル(12)に固定した雌ねじ体(22・32)とで往復動作に変換して、第1テーブル(11)および第2テーブル(12)を前後および左右へ往復スライド操作する請求項2または4に記載の糖尿病性末梢神経障害の評価装置。
【請求項6】
足載台(2)の所定位置に開口した接触窓(8)に足裏を載せる検査準備過程と、
駆動制御部(51)の制御手順に従って作動するプローブ駆動構造(3)でプローブ(4)を移動操作し、被験者が足裏に移動刺激を感じたときに入力スイッチ(5)を操作して感覚閾値を測定する刺激測定過程と、
測定された感覚閾値を主制御部(B)で評価する評価過程とを含み、
主制御部(B)には、患者群の足裏に移動刺激を与えたときの既知の感覚閾値の基準データと、患者の年代の違いに基づく感覚閾値の標準値から算出された年齢補正係数とが予め記憶されており、
刺激測定過程における駆動制御部(51)は、前記基準データと年齢補正係数とを用いてプローブ駆動構造(3)の駆動状態を制御して、プローブ(4)による移動刺激の変化幅を大きくして大まかな感覚閾値を仮設定する1次刺激付与状態と、
1次刺激付与状態で得られた大まかな感覚閾値を基準値にして、変化幅が小さな移動刺激を付与して感覚閾値を測定する2次刺激付与状態と、
2次刺激付与状態において被験者の刺激反応がなかった場合に、1次刺激付与状態で仮設定した感覚閾値に対応する移動刺激より大きな移動刺激を付与して、感覚閾値を測定する3次刺激付与状態とを記載順に行っており、
評価過程において、主制御部(B)が、測定された感覚閾値と前記既知の基準データとを比較評価して、足裏の神経障害の有無と、神経障害の程度を自動的に判定することを特徴とする糖尿病性末梢神経障害の評価方法。
【請求項7】
刺激測定過程において、1次刺激付与状態において被験者の刺激反応がなかった場合に、4次刺激付与状態に移行して最大の強度の移動刺激を付与して感覚閾値を測定し、
4次刺激付与状態において被験者の刺激反応があった場合に、最大移動刺激を基準値にして、変化幅が小さな移動刺激を付与して感覚閾値を測定する3次刺激付与状態を行う請求項6に記載の糖尿病性末梢神経障害の評価方法。
【請求項8】
刺激測定過程において、プローブ(4)をプローブ駆動構造(3)で前後方向と左右方向とに個別に移動させて、足裏に前後の移動刺激と左右の移動刺激を与え、プローブ(4)の移動距離と、移動速度を独立した変数として測定できる請求項6または7に記載の糖尿病性末梢神経障害の評価方法。
【請求項9】
刺激測定過程において足裏の母趾面(E1)と、母趾球面(E2)と、踵面(E3)のそれぞれに、移動刺激を個別に与えて感覚閾値を測定する請求項6から8のいずれかひとつに記載の糖尿病性末梢神経障害の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2型糖尿病(以下、単に糖尿病と言う。)に由来する末梢神経障害、とくに足裏における感覚障害を定量的に評価するための評価装置と、その方法に関する。本発明により得られる定量的な評価結果は、初期段階の糖尿病を予見する際の指標として利用することができる。
【背景技術】
【0002】
生活習慣病の多くを占める糖尿病は、初期段階での自覚症状が明確でないため、早期に発見して適正に治療を行うことが難しい。糖尿病であることを医学的に特定する場合には、血液検査を行って血糖値が適正値を越えているか否かを確認するのが一般的である。しかし、とくに目立った自覚症状もなく、外見上、健常者と変わったところがない初期段階の糖尿病患者の場合には、自ら進んで血液検査を行う必要を感じないため、糖尿病が初期段階で発見されることは少ない。このように自覚症状が希薄な糖尿病は、多くの患者が発見されないまま存在していると推測され、公的機関が平成19年に行った調査によれば、糖尿病が強く疑われる人と、糖尿病の可能性を否定できない人の合計値が、日本国内で2210万人いるとの調査結果が出ている。
【0003】
糖尿病は、その進行度合に応じて神経障害(末梢神経障害)、網膜症、腎症などの合併症を併発することが知られている。これらの合併症のうち、神経障害は糖尿病の初期段階に手足の末梢部から現われることが知られており、それまで感じられていた足裏の外部刺激に対する感覚が徐々に弱くなり、やがて無感覚になることが判っている。しかし、一定の強さの外部刺激に対する感覚の減少は緩やかであるため、日常生活の中で足裏の感覚の減少が自覚症状として明確に認識されることはなく、重度の神経障害、あるいは網膜症、腎症などのさらに重度の合併症を発症して初めて、糖尿病であることが判明するケースが少なくない。
【0004】
本発明においては、足裏における感覚障害を定量的に計測し評価して、自覚症状がない初期段階であっても糖尿病であるかもしれないことを示唆できるが、この種の皮膚感覚の評価手法としては、Semmes−Weinstein皮膚感覚計が周知である。この皮膚感覚計は、太さが異なる20種のフィラメントをプローブヘッドに付け換えて、どのフィラメントを指先に押付けたときに触覚や痛覚を感じたかによって閾値を特定して、触覚や痛覚を定量化するものである。皮膚感覚計の応用例としては、例えば、整形外科領域における手術後の神経の回復度の評価がある。
【0005】
本発明に関して、人の皮膚感覚を測定して定量化する装置は、例えば特許文献1から3に公知である。特許文献1の振動感覚閾値測定装置は、被験者の前腕を支持する支持台と、被験者の指先に振動刺激を与える加振器と、被験者によって操作される押ボタンスイッチと、加振器のロードセルと加速度計からの出力信号に基づき閾値を算出し評価する制御部などで測定装置を構成している。なお、特許文献1の振動感覚閾値測定装置は、JIS-B-7763に規定された測定方法をベースにしており、被験者に与える振動刺激の大きさを、直前の下降法で求めた下降法閾値に対して、所定の範囲でランダムに変化させる点に特徴がある。
【0006】
特許文献2には、人の皮膚感覚閾値測定を行なうための荷重測定装置が開示してある。そこでは、被験者の測定部位を支持する支持台と、支持台に固定される支柱と、支柱に沿って上下に移動できる可動テーブルと、可動テーブルに固定した微小加重変換器と、微小加重変換器に設けられる測定針と、制御装置などで荷重測定装置を構成している。制御装置は、可動テーブルを上下に駆動するステッピングモータの駆動状態を制御し、さらに、微小加重変換器から出力される信号を処理する。
【0007】
特許文献2の荷重測定装置と同様に、人の皮膚の感覚認識を検査する装置が特許文献3に開示されている。そこでは、左右一対のスライドブロックと、各ブロックの前端に固定される撓みブロックと、各撓みブロックの前端に固定されるプローブと、スライドブロックの左右間隔を調整する構造と、撓みブロックの歪みを検出する歪みゲージなどで検査装置を構成している。皮膚の感覚認識を検査する場合には、一対のプローブの左右間隔を所定状態にセットし、プローブの突端を所定の力で皮膚に押付けた状態で引きずって、被験者に感覚認識があるか否かを検査する。
【0008】
特許文献4には、神経障害を併発して足裏の感覚が殆どない、あるいは足裏の感覚が全くない、いわゆる糖尿病足を検査するための検査機器が開示されている。この検査機器は、箱状のハウジングと、ハウジングの上面に配置される透明の足載せ板と、ハウジングの内部に配置されるビデオカメラ、および光源と、ビデオカメラの映像データを送信する送信手段などで構成してある。検査を行う場合には、足載せ板の所定の位置に被験者の足裏を載せた状態で、ビデオカメラで足裏の画像を撮像し、送信されてきた画像を医師が解析して神経障害の度合を診断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4611453号公報(段落番号0025〜0027、
図1)
【特許文献2】特開平06−30904号公報(段落番号0016、
図1)
【特許文献3】特表平05−503022号公報(第3頁左下欄18〜20行、
図2)
【特許文献4】特表2005−533543号公報(段落番号0020、
図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
人の皮膚感覚の閾値の測定装置として、特許文献1〜3の測定装置があるが、いずれも、被験者の皮膚に外部刺激を与えたときの感覚閾値が、どの程度であるかを測定しているに過ぎない。そのため、測定結果は、例えば末梢神経が損傷した場合の感覚閾値を評価することに利用できるものの、他に応用することは難しい。また、特許文献1の感覚閾値測定装置の使用にあたっては、JIS規格によって測定条件が厳密に規定されているため、医師または専門の技術者でないと測定できない。例えば、指先に接触させるプローブの位置が、皮膚の厚い部分にあってはならず、指紋の中心位置以外でなければならない。また、指先にプローブを当てた時の静止状態における皮膚の凹み深さが1.5±0.8mmでなければならないなど、測定条件が極めて煩雑である。
【0011】
特許文献2の荷重測定装置は、可動テーブルをステッピングモータで一定速度で下降させて測定針を皮膚に押付け、被験者が測定針による刺激を感知したときの測定針の荷重を、微小加重変換器の荷重測定部で測定して感覚閾値としている。そのため、例えば足裏の感覚閾値を特定する場合には、多数の測定点において測定針による刺激付与を繰り返し行う必要があり、末梢神経障害の有無、およびその程度を特定するのに多くの時間がかかってしまう。
【0012】
特許文献3の感覚識別装置は、例えば医師がケース全体を片手で持った状態で、プローブの突端を所定の力で皮膚に押付け、その状態のままプローブを引きずって被験者に感覚認識があるか否かを検査する。そのため、プローブの皮膚に対する押付け力や引きずり速度を一定にすることが難しく、さらにプローブを引きずるときにノイズが含まれやすいので、大まかな感覚閾値を判定するのには適していても、感覚閾値を正確に測定する用途には適さない。
【0013】
特許文献4の糖尿病足を検査するための検査機器は、検査機器から送信されてきた画像を医師が解析して神経障害の度合を診断するが、この検査機器は、足裏の感覚が殆どない、あるいは足裏の感覚が全くない患者を検査対象にして、足裏に創傷があるかないかを検査しているに過ぎない。そのため、自覚症状がない糖尿病の初期段階において、神経障害の有無、あるいは神経障害の進行状況などを特定し、糖尿病の可能性を判定することはできない。
【0014】
糖尿病の初期段階の診療は、外来での診療が主体となるが、診察現場で足裏における神経障害(感覚障害)を定量評価することに関して、評価(検査)の手法が簡便であること、評価に要する時間が短時間で済むこと、専門的な知識や技術を要することなく誰もが正確に検査を行えることなどが望まれる。しかし、上記のような従来の測定装置は、測定条件が煩雑で測定に多くの時間がかかり、専門知識を有する医師あるいは技術者でないと測定装置を使用できないなど、誰もが手軽に感覚閾値を測定できない点に改善の余地があった。
【0015】
足裏の皮膚感覚を刺激して足裏における神経障害を定量的に評価する場合には、皮膚感覚をどのように刺激するかが評価を左右する要因となる。この種の感覚検査においては、特許文献1にも見られるように、刺激強度を知覚不能な微小刺激から、徐々に刺激強度を強めながら、被験者に対して繰り返し刺激を与え、どの時点で刺激を認識できたかによって、皮膚感覚の閾値を特定する上昇法と、逆に刺激強度を徐々に弱める下降法とがあり、さらに、この両者を併用する極限法とが知られている。さらに、刺激強度をランダムに変化させる恒常刺激法が知られている。極限法は、より少ない刺激付与数で閾値を測定できる利点を持つが、馴化や期待による測定誤差を含みやすい。その点、刺激強度をランダムに変化させる恒常刺激法の場合には、馴化や期待の影響を排除できるが、測定に多くの時間を要するため、短い診察時間で感覚障害を評価するのには適しておらず、外来での診療を実現するには極限法を採る以外にない。
【0016】
足裏の皮膚感覚を刺激して足裏における神経障害を的確に評価するには、健常者と同じ条件の刺激を被験者に与えても、適正な評価を得ることはできない。これは、糖尿病の神経障害を明確に把握するには、被験者に対する感覚刺激の提示強度の範囲が、健常者よりはるかに広い範囲になるからである。例えば、被験者に対する感覚刺激の刺激強度をプローブの移動距離で規定する場合、健常者では5μmから100μmの範囲内でプローブを移動させることで検査を行える。しかし、本発明者が行った臨床試験では、糖尿病に由来する神経障害を発症している被験者の場合には、5μmから1600μmを越える範囲の刺激強度を与えねばならないことが判っている。このことは、糖尿病に由来する神経障害の程度を満遍なく評価するには、刺激強度の変化範囲を健常者よりはるかに広く設定しなければならないことを意味している。そのため、神経障害の程度を的確に評価するには、先に述べた極限法であっても評価に要する時間が長くなり、外来での診療に適さないものとなる。
【0017】
本発明者は、上記の知見に基づいて検討を重ねた結果、糖尿病の患者群から得られた足裏に移動刺激を与えたときの既知の感覚閾値の基準データと、患者の年代の違いに基づく感覚閾値の標準値から算出される年齢補正係数を用いて刺激強度の変化幅を決定することにより、より少ない刺激付与回数で感覚閾値を決定でき、さらに、得られた感覚閾値から神経障害の有無、あるいは神経障害の進行状況などを特定できることを見出し、本発明を提案するに至ったものである。
【0018】
本発明の目的は、糖尿病に由来する足裏における感覚閾値を定量的に測定し、測定結果から神経障害の有無、あるいは神経障害の進行状況などを自動的に特定できる糖尿病性末梢神経障害の評価装置、およびその方法を提供することにある。
本発明の目的は、より少ない刺激付与回数で神経障害の有無、あるいは神経障害の進行状況などを自動的に特定でき、従って、評価に要する時間が短時間で済み、さらに専門的な知識や技術を要することなく誰もが正確に検査を行える、外来での診察に適した糖尿病性末梢神経障害の評価装置と、その方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明に係る糖尿病性末梢神経障害の評価装置は、足裏の感覚閾値を測定する測定装置Aと、測定装置Aの測定結果から感覚閾値を特定し、さらに、特定された感覚閾値から神経障害の有無、あるいは神経障害の進行状況などを評価する主制御部Bとを備えている。測定装置Aは、基台1に設けられて座位ないし立位の被験者の足裏を支持する足載台2と、足裏に移動刺激を与えるプローブ4と、プローブ4を移動操作するプローブ駆動構造3と、移動刺激を認識した被験者によって操作される入力スイッチ5と、プローブ駆動構造3の駆動状態を制御する駆動制御部51とを備えている。主制御部Bには、患者群の足裏に移動刺激を与えたときの既知の感覚閾値の基準データと、患者の年代の違いに基づく感覚閾値の標準値から算出された年齢補正係数とが予め記憶させてある。駆動制御部51は、前記基準データと年齢補正係数とを用いてプローブ駆動構造3の駆動状態を制御して、1次刺激付与状態と、2次刺激付与状態と、3次刺激付与状態とを順次行って感覚閾値を測定するように構成してある。1次刺激付与状態においては、プローブ4による移動刺激の変化幅を大きくして大まかな感覚閾値を仮設定する。2次刺激付与状態においては、仮設定された大まかな感覚閾値を基準値にして、変化幅が小さな移動刺激を付与して感覚閾値を測定する。3次刺激付与状態においては、2次刺激付与状態において被験者の刺激反応がなかった場合に、1次刺激付与状態で仮設定した感覚閾値に対応する移動刺激より大きな移動刺激を付与して感覚閾値を測定する。主制御部Bは、測定された感覚閾値と前記既知の基準データとを比較評価して、足裏の神経障害の有無と、神経障害の程度を自動的に判定する。
【0020】
プローブ駆動構造3は、前後および左右へ往復スライド自在に案内支持される第1テーブル11および第2テーブル12と、基台1に設けられて第1テーブル11を往復操作する第1駆動構造13と、第1テーブル11に設けられて第2テーブル12を往復操作する第2駆動構造14と、第2テーブル12に設けたプローブ固定部40とで構成する。プローブ固定部40に装着したプローブ4を第1テーブル11の移動方向と、第2テーブル12の移動方向に個別に移動させて、プローブ4の移動距離と、移動速度を独立した変数として測定する。測定された感覚閾値と前記基準データとを主制御部Bで評価する。
【0021】
プローブ駆動構造3が、往復スライド自在に案内支持される移動テーブル11と、基台1に設けられて移動テーブル11を往復操作する駆動構造13と、移動テーブル11に設けたプローブ固定部40とで構成する。プローブ固定部40に装着したプローブ4の移動方向に沿う姿勢と、プローブ4の移動方向と直交する姿勢とに被験者の姿勢を変更して、前後方向の移動刺激と左右方向の移動刺激を足裏に付与する。
【0022】
評価装置は、足裏の神経障害の有無と神経障害の程度に関する主制御部Bの判定結果を表示する表示手段55を備えている。
【0023】
第1駆動構造13を構成するモーター23と、第2駆動構造14を構成するモーター33のそれぞれを、振動を遮断する防振構造28・38を介してブラケット27・37に固定する。前記各モーター23・33の回転動力を、ボールねじ軸21・31と、第1テーブル11および第2テーブル12に固定した雌ねじ体22・32とで往復動作に変換して、第1テーブル11および第2テーブル12を前後および左右へ往復スライド操作する。
【0024】
本発明に係る糖尿病性末梢神経障害の評価方法は、足載台2の所定位置に開口した接触窓8に足裏を載せる検査準備過程と、駆動制御部51の制御手順に従って作動するプローブ駆動構造3でプローブ4を移動操作し、被験者が足裏に移動刺激を感じたときに入力スイッチ5を操作して感覚閾値を測定する刺激測定過程と、測定された感覚閾値を主制御部Bで評価する評価過程とを含む。主制御部Bには、患者群の足裏に移動刺激を与えたときの既知の感覚閾値の基準データと、患者の年代の違いに基づく感覚閾値の標準値から算出された年齢補正係数とが予め記憶されている。刺激測定過程における駆動制御部51は、まず、前記基準データと年齢補正係数とを用いてプローブ駆動構造3の駆動状態を制御して、プローブ4による移動刺激の変化幅を大きくして大まかな感覚閾値を仮設定する1次刺激付与状態により測定を行なう。次に、1次刺激付与状態で得られた大まかな感覚閾値を基準値にして、変化幅が小さな移動刺激を付与して感覚閾値を測定する2次刺激付与状態により測定を行なう。また、2次刺激付与状態において被験者の刺激反応がなかった場合に、1次刺激付与状態で仮設定した感覚閾値に対応する移動刺激より大きな移動刺激を付与して感覚閾値を測定する3次刺激付与状態により感覚閾値の測定を行なう。つまり、1次刺激付与状態、2次刺激付与状態、3次刺激付与状態とを記載順に行う。評価過程においては、主制御部Bが、測定された感覚閾値と前記既知の基準データとを比較評価して、足裏の神経障害の有無と、神経障害の程度を自動的に判定する。
【0025】
刺激測定過程において、1次刺激付与状態において被験者の刺激反応がなかった場合に、4次刺激付与状態に移行して最大の強度の移動刺激を付与して感覚閾値を測定する。4次刺激付与状態において被験者の刺激反応があった場合に、最大移動刺激を基準値にして、変化幅が小さな移動刺激を付与して感覚閾値を測定する3次刺激付与状態を行う。
【0026】
刺激測定過程において、プローブ4をプローブ駆動構造3で前後方向と左右方向とに個別に移動させて、足裏に前後の移動刺激と左右の移動刺激を与え、プローブ4の移動距離と、移動速度を独立した変数として測定する。
【0027】
刺激測定過程において足裏の母趾面E1と、母趾球面E2と、踵面E3のそれぞれに、移動刺激を個別に与えて感覚閾値を測定する。
【発明の効果】
【0028】
本発明の評価装置においては、プローブ4をプローブ駆動構造3で移動操作して、被験者の足裏に移動刺激を与え、被験者が操作する入力スイッチ5の出力信号に基づき、移動刺激に対する感覚閾値を測定する。また、感覚閾値を測定する過程では、予め用意してある既知の感覚閾値の基準データと年齢補正係数とを用いてプローブ駆動構造3の駆動状態を制御して、1次から3次の各刺激付与状態を経て感覚閾値を測定し、得られた感覚閾値と前記基準データとを主制御部Bで比較評価して、足裏の神経障害の有無と、神経障害の程度を自動的に判定する。
【0029】
以上のように、本発明の評価装置によれば、足載台2の所定位置に被験者の足裏を載せ、年齢データを入力したのち評価装置を作動させるだけで、プローブ4をプローブ駆動構造3で自動的に移動操作して、被験者に対して設定されたとおりの移動刺激を、設定された手順で正確に与えることができる。従って、被験者に対する移動刺激がばらつくのを一掃して感覚閾値を高い再現性で測定でき、糖尿病に由来する足裏における感覚閾値を定量的に測定し、測定結果から神経障害の有無、あるいは神経障害の進行状況などを自動的に特定できる。また、一連の測定および評価は自動的に行なわれるので、足裏における感覚閾値を測定し評価するのに、医学的な専門知識や、生体計測に関する専門的な知識および技術を持っていない測定者であっても、感覚閾値の測定を簡便に行なえるうえ、測定者の違いによる測定結果のばらつきを排除でき、とくに充分な時間をかけて診察を行うことが難しい外来での診察に適した糖尿病性末梢神経障害の評価装置とすることができる。
【0030】
また、1次刺激付与状態において大まかな感覚閾値を仮設定したのち、仮設定された大まかな感覚閾値を基準値にして変化幅が小さな移動刺激(2次刺激)を付与して、感覚閾値をより詳細に測定するので、より少ない刺激付与回数で感覚閾値を正確に決定できる。従って、充分な時間をかけることが難しい外来診察において、感覚閾値の評価に要する時間を大幅に減少して、短時間で感覚閾値を測定し評価することが可能となる。なお、3次刺激付与を行うのは、2次刺激付与状態において被験者の刺激反応がなかった場合に、1次刺激付与状態で仮設定した大まかな感覚閾値の測定に、何らかの誤差あるいは誤認が含まれている可能性があり、再度、大きな移動刺激を付与して感覚閾値を測定し直すためである。
【0031】
第1テーブル11および第2テーブル12と、これらのテーブル11・12を駆動する第1、第2の駆動構造13・14などでプローブ駆動構造3を構成すると、足裏に前後の移動刺激と左右の移動刺激を的確に与えることができる。このように、プローブ4を2方向へ個別に移動させて、2方向の移動刺激に対する被験者の知覚の有無を測定すると、皮膚の特定部位に振動刺激や圧迫刺激などを与える従来の測定装置とは異なり、足裏に加わるせん断方向への移動刺激に対する感覚閾値を測定できる。さらに、足裏の知覚特性が2方向で異なるという知見が反映された測定結果が得られるうえ、プローブ4の移動距離と、移動速度を独立した変数として測定することができる。従って、得られた測定結果を、予め収集してデータベース化してある既知の感覚閾値と比較することにより、糖尿病に由来する神経障害の有無、あるいは神経障害の進行状況などをさらに的確に特定できる。
【0032】
1個の移動テーブル11のみを駆動するプローブ駆動構造3によれば、評価装置の全体構造を著しく簡素化してコンパクト化できるので、診察室や待合室などの狭い場所で使用するのに好適な評価装置を提供できる。また、評価装置の構造を簡素化できる分だけ全体コストを削減して、評価装置の導入費用を低コスト化できる利点もある。さらに、被験者の姿勢をプローブ4の移動方向に沿う姿勢と、プローブ4の移動方向と直交する姿勢とに変更するだけで、前後方向の移動刺激と左右方向の移動刺激を足裏に付与できるので、2個のテーブル11・12を駆動する形態のプローブ駆動構造3と同様に、足裏の知覚特性が2方向で異なるという知見が反映された測定結果が得られる。従って、得られた測定結果を、予め収集してデータベース化してある既知の感覚閾値と比較することにより、糖尿病に由来する神経障害の有無、あるいは神経障害の進行状況などをさらに的確に特定できる。
【0033】
評価装置に表示手段55が設けてあると、主制御部Bで比較し評価した判定結果を表示手段55で明示して、被験者に提示しながら神経障害の有無、あるいは神経障害の進行状況などを詳細に説明できる。例えば、判定結果が10段階に分けてある場合には、外来担当の医療者に対しては10段階の評価のうちのどの評価段階であるかを明示したうえで、さらに、各評価段階に応じて「僅かな神経障害があります」、あるいは「やや強い神経障害があります」と被験者向けの評価結果を表示して提示できる。
【0034】
第1駆動構造13および第2駆動構造14のモーター23・33を、主制御部Bのスタートボタンの操作で起動させて、一連の移動刺激を自動的に与える測定装置によれば、スタートボタンをオン操作するだけで、プローブ4を予め設定された手順に従って駆動して、被験者に対して予め設定されたとおりの移動刺激を正確に与えることができる。因みに、感覚閾値の測定は、単一の部位へさまざまな強度の刺激を何度も与え、さらに他の部位でも同じ手順を繰り返すという手間のかかる作業となる。そのため、時間に制約のある臨床現場では実施するのが困難となる。しかし、上記のように両駆動構造13・14の動作を駆動制御部51で制御して、被験者に対する移動刺激の付与、および被験者の感覚閾値の記録などを自動化すると、専門的な知識および技術を持っていない測定者であっても、感覚閾値の測定を簡便に行なえるうえ、測定者の違いによる測定結果のばらつきを排除でき、外来での診察に適した糖尿病性末梢神経障害の評価装置を提供できる。
【0035】
本発明に係る評価方法においては、検査準備過程と、刺激測定過程と、評価過程とを経て、足裏の感覚閾値の測定と、測定結果の評価を行うようにした。刺激測定過程では、予め用意してある既知の感覚閾値の基準データと年齢補正係数とを用いてプローブ駆動構造3の駆動状態を制御して、1次から3次の各刺激付与状態を経て感覚閾値を測定し決定できるようにした。また、評価過程においては、前段の過程で得られた感覚閾値と基準データとを主制御部Bで比較評価して、足裏の神経障害の有無と、神経障害の程度を自動的に判定できるようにした。
【0036】
以上のように、本発明に係る評価方法によれば、足載台2の所定位置に被験者の足裏を載せ、年齢データを入力したのち、刺激測定過程をスタートさせることで、プローブ4をプローブ駆動構造3で自動的に移動操作して、被験者に対して設定されたとおりの移動刺激を、設定された手順で正確に与えることができる。従って、被験者に対する移動刺激がばらつくのを一掃して感覚閾値を高い再現性で測定でき、糖尿病に由来する足裏における感覚閾値を定量的に測定し、測定結果から神経障害の有無、あるいは神経障害の進行状況などを自動的に特定できる。また、一連の測定および評価は自動的に行なわれるので、足裏における感覚閾値を測定し評価するのに、医学的な専門知識や、生体計測に関する専門的な知識および技術を持っていない測定者であっても、感覚閾値の測定を簡便に行なえるうえ、測定者の違いによる測定結果のばらつきを排除でき、とくに充分な時間をかけて診察を行うことが難しい外来での診察に適した糖尿病性末梢神経障害の評価方法を提供できる。
【0037】
また、1次刺激付与状態において大まかな感覚閾値を仮設定したのち、仮設定された大まかな感覚閾値を基準値にして変化幅が小さな移動刺激(2次刺激)を付与して、感覚閾値をより詳細に測定するので、より少ない刺激付与回数で感覚閾値を正確に決定できる。従って、充分な時間をかけることが難しい外来診察において、感覚閾値の評価に要する時間を大幅に減少して、短時間で感覚閾値を測定し評価することが可能となる。なお、3次刺激付与を行うのは、2次刺激付与状態において被験者の刺激反応がなかった場合に、1次刺激付与状態で仮設定した大まかな感覚閾値の測定に、何らかの誤差あるいは誤認が含まれている可能性があり、再度、大きな移動刺激を付与して感覚閾値を測定し直すためである。
【0038】
刺激測定過程において、1次刺激付与状態において被験者の刺激反応がなかった場合に、4次刺激付与状態に移行して最大の強度の移動刺激を付与して感覚閾値を測定するのは、まず、最大の強度の移動刺激に対して被験者の刺激反応があるかないかを確認するためである。また、最大の強度の移動刺激に対して被験者の刺激反応があった場合には、最大移動刺激を基準値にして、変化幅が小さな移動刺激を付与して感覚閾値を測定する3次刺激付与状態に移行して、感覚閾値を確実に測定し特定するためである。このように、4次刺激付与状態を用意しておくことにより、最大の強度の移動刺激に対して被験者の刺激反応がない状態、すなわち感覚脱失であることと、極めて重度の感覚障害があることとを特定して、とくに感覚障害の程度が高い場合の神経障害を明確に評価できる。
【0039】
刺激測定過程において、足裏に前後の移動刺激と左右の移動刺激を与え、プローブ4の移動距離と、移動速度を独立した変数として測定すると、皮膚の特定部位に振動刺激や圧迫刺激などを与える従来の測定装置とは異なり、足裏に加わるせん断方向への移動刺激に対する感覚閾値を測定できる。さらに、足裏の知覚特性が2方向で異なるという知見が反映された測定結果と、プローブ4の移動距離と、移動速度を独立した変数として測定することができる。従って、得られた測定結果を、予め収集してデータベース化してある既知の感覚閾値と比較することにより、糖尿病に由来する神経障害の有無、あるいは神経障害の進行状況などをさらに的確に評価できる。
【0040】
刺激測定過程において足裏の母趾面E1と、母趾球面E2と、踵面E3の感覚閾値を測定するのは、これらの測定対象部位に、機械的な移動刺激を感知する皮膚内の感覚受容器が高密度に分布しているからであり、感覚刺激に対する閾値もそれぞれ異なっているからである。また、他の部位を測定対象部位とする場合に比べて、先の各部位の感覚閾値をより確実に測定して、神経障害の有無、あるいは神経障害の進行状況などを評価しやすいからである。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】本発明に係る感覚閾値の測定装置を示す縦断側面図である。
【
図4】プローブおよびプローブ固定部の縦断面図である。
【
図5】感覚閾値の測定手順を示す1次および2次刺激付与状態のフローチャートである。
【
図6】感覚閾値の測定手順を示す3次および4次刺激付与状態のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
(実施例)
図1ないし
図8は本発明に係る糖尿病性末梢神経障害の評価装置(以下、単に評価装置という。)の実施例を示す。本発明において前後、左右、上下とは、各図に示す交差矢印と、各矢印の近傍に表記した前後、左右、上下の表示に従う。
【0043】
図1ないし
図3において、評価装置は、足裏の感覚閾値を測定する測定装置Aと、測定装置Aの測定結果から感覚閾値を特定し、さらに、特定された感覚閾値から神経障害の有無、あるいは神経障害の進行状況などを評価する主制御部(コンピュータ)Bとで構成する。測定装置Aは、四角形の基台1と、足裏を支持する足載台2と、基台1と足載台2との間に配置されるプローブ駆動構造3と、足裏に移動刺激を与えるプローブ4と、被験者によって操作される入力スイッチ5などで構成する。足載台2はプラスチック製の厚板で形成されて、基台1の四隅に設けた支柱7で固定支持してある。足載台2の中央部にはプローブ4を収容する接触窓8がL字状に開口してある。足載台2の後縁には、足載台2の上に起立した被験者を支える手摺9が立設してある。
図2において符号10はAD−DAコンバータであり、符号55はディスプレイ(表示手段)である。足載台2の上面には、測定対象の足を固定するための固定器具50が設けてある。固定器具50は、雌雄の面ファスナーを備えた一対の帯布で形成してある。
【0044】
プローブ駆動構造3は、水平面に沿って互いに直交する向きへ往復スライド自在に案内される第1テーブル11および第2テーブル12と、第1テーブル11を往復操作する第1駆動構造13と、第2テーブル12を往復操作する第2駆動構造14などで構成する。左右に長い長方形状の第1テーブル11は、その下面の4個所に設けたスライダー15を介して、駆動ベース16上に設けた左右一対のガイドレール17で前後スライド自在に案内支持してある。また、正方形状の第2テーブル12は、その下面の4個所に設けたスライダー18を介して、第1テーブル11上に設けた前後一対のガイドレール19で左右スライド自在に案内支持してある。
【0045】
図1に示すように、第1駆動構造13は、ボールねじ軸21と、第1テーブル11の下面に固定されてボールねじ軸21に噛合うナット体22と、ボールねじ軸21を正逆転駆動するステップモーター(モーター)23と、カップリング24などで構成する。ボールねじ軸21の軸端は、前後一対の軸受ボックス25でベアリング26を介して回転自在に支持してある。軸受ボックス25は駆動ベース16に固定してある。ボールねじ軸21をステップモーター23で、正逆いずれかへ回転駆動することにより、第1テーブル11を前後いずれかへ移動操作することができる。ステップモーター23は、駆動ベース16に固定したブラケット27に防振ゴム(防振構造)28を介して固定してあり、これにより、ステップモーター23で発生した振動を遮断して、振動が駆動ベース16および基台1と支柱7を介して足載台2に伝わるのを防止している。
【0046】
図3において、第2駆動構造14は、ボールねじ軸31と、第2テーブル12の下面に固定されてボールねじ軸31に噛合うナット体32と、ボールねじ軸31を正逆転駆動するステップモーター(モーター)33と、カップリング34などで構成する。ボールねじ軸31の軸端は、左右一対の軸受ボックス35でベアリング36を介して回転自在に支持してある。軸受ボックス35は第1テーブル11に固定してある。ボールねじ軸31をステップモーター33で正逆いずれかへ回転駆動することにより、第2テーブル12を左右いずれかへ移動操作することができる。ステップモーター33は、第1テーブル11に固定したブラケット37に防振ゴム(防振構造)38を介して固定してあり、これにより、ステップモーター33で発生した振動を遮断して、振動が足載台2に伝わるのを防止している。
【0047】
第2テーブル12の上面の中央には、プローブ4を取付けるためのプローブ固定部40が設けてある。
図4に示すように、プローブ固定部40の中央には、断面が正方形の装着穴41が形成してあり、この装着穴41にプローブ4を嵌込むことにより、第2テーブル12の前後移動、および左右移動に同行してプローブ4を移動させることができる。この実施例では、ステップモーター23の回転動力を、ボールねじ軸21・31とナット体22・32とで往復動力に変換するようにしたがその必要はなく、電動シリンダー、ロッドレスシリンダーなどの直動式のリニアアクチュエーターを駆動源にして、第1駆動構造13および第2駆動構造14を構成してもよい。
【0048】
図4は2種類のプローブ4を示しており、これらをプローブ固定部40に装着して感覚閾値を測定することができる。第1プローブ4A(4)は角軸状のプラスチック製の棒状体からなり、その上端に設けた平坦な接触部44で足裏に移動刺激を与える。接触部44が足裏と接触する面積を充分なものとするために、接触部44の前後寸法および左右寸法を10mmとし、面積が100mm
2 となるようにした。第2プローブ4B(4)は、第1プローブ4Aと同じ角軸状のプラスチック製の棒状体で形成するが、棒状体の上端にカーペットを貼付けて接触部44とした。接触部44の前後寸法および左右寸法と面積は、第1プローブ4Aの接触部44と同じとした。第1プローブ4Aおよび第2プローブ4Bをプローブ固定部40に嵌込んだ状態では、
図1に示すように、それぞれの接触部44・44が接触窓8の上開口面と面一になる。接触窓8は、前後溝45と左右溝46とでL字状に形成してあり、各溝45・46の前後寸法および左右寸法は、それぞれ28mmとした。
【0049】
入力スイッチ5は押ボタンスイッチからなり、感覚閾値を測定装置Aで測定する過程で被験者が移動刺激を感じたときにオン操作する。入力スイッチ5から出力されたオン信号(出力信号)は、主制御部Bに取込まれ、入力スイッチ5のオン信号とプローブ4の移動状況とが記憶部52に記憶される。また、入力スイッチ5のオン信号とプローブ4の移動状況は主制御部Bに設けたディスプレイ(表示手段)6に表示される。
【0050】
主制御部Bは、駆動制御部51でプローブ駆動構造3の駆動状態を制御することにより、プローブ4を所定の手順で前後方向、あるいは左右方向へ個別に移動させることができる。なお、プローブ駆動構造3によるプローブ4の移動速度は1mm/s刻みで設定でき、さらに移動距離は0.1μm刻みで設定することができる。
【0051】
上記構成の測定装置Aによる足裏における感覚閾値の測定は、まず、第1プローブ4Aを使用して、右足の足裏と左足の足裏とで測定を行なう。さらに、
図7および
図8に示すように各足ごとに母趾面E1と、母趾球面E2と、踵面E3のそれぞれの個所において、前後方向の移動刺激と左右方向の移動刺激を与えて測定を行なう。前後方向の移動刺激と左右方向の移動刺激とは、比較的知覚されにくい刺激から、比較的知覚されやすい刺激まで多段階用意しておき、例えば刺激の強度を強めながら(あるいは弱めながら)感覚閾値の測定を行ない、さらに、刺激の強さをランダムに変化させながら行う。移動刺激の強さは、プローブ4の移動速度および移動距離の組合せを変えることで変更でき、どのような強度の移動刺激を、どのような順番で与えるかは、主制御部Bに予め組み込んでおく。
【0052】
測定に際しては、被験者の足を素足の状態で足載台2の上に載せ、被験者の体重が足裏に作用する状態で起立してもらう。このとき、被験者は手摺9を掴んで起立姿勢を安定させ、さらに利き腕側の手で入力スイッチ5を握って、いつでも入力スイッチ5をオン操作できるようにする。また、
図5に示すように母趾面E1の全体が接触窓8に臨む状態で起立してもらって、足載台2に取付けた固定器具50(
図2参照)で測定対象の足を固定する。
【0053】
上記のように測定準備が整った状態で、主制御部Bのスタートボタンをオン操作して、プローブ駆動構造3を作動させてプローブ4を移動させる。主制御部Bの記憶部52には、糖尿病に罹患している患者群の足裏に移動刺激を与えたときの既知の感覚閾値の基準データと、患者の年代の違いに基づく感覚閾値の標準値から算出された年齢補正係数とが予め記憶させてある。駆動制御部51は、先の基準データと年齢補正係数とを用いてプローブ駆動構造3の駆動状態を制御して、1次刺激付与状態と、2次刺激付与状態と、3次刺激付与状態とを順次行って感覚閾値を測定するように構成してある。
【0054】
図5に示すように、1次刺激付与状態においては、プローブ4による移動刺激の変化幅を大きくして大まかな感覚閾値を仮設定する。例えば、5段階に分かれた移動刺激をランダムに与えて(S1)、移動刺激に対する被験者の刺激反応の有無を確認する(S2)。被験者の刺激反応が認められた場合(S2においてYESの場合)には、最も小さかった感覚閾値を基準値として仮設定する。つまり、5段階に分かれた移動刺激に対する大まかな感覚閾値を仮設定して、2次刺激付与状態へと移行する。
【0055】
2次刺激付与状態においては、仮設定された大まかな感覚閾値を基準値にして、変化幅が小さな移動刺激を付与して感覚閾値を測定する。例えば、仮設定された大まかな感覚閾値が、5段階の移動刺激のうち段階3に対応する閾値であった場合には、これを基準値にして、基準値より僅かに小さな移動刺激を与え(S3)、被験者の刺激反応の有無を確認する(S4)。被験者の刺激反応が認められた場合(S4においてYESの場合)には、先に与えた移動刺激を新たな基準値にして、基準値より僅かに小さな移動刺激を与え(S5)、被験者の刺激反応の有無を確認する(S6)。刺激反応が認められた場合(S6においてYESの場合)には、先の移動刺激よりさらに小さな刺激を与えて(S5)、被験者の刺激反応の有無を確認し(S6)、以後、被験者の刺激反応が認められなくなるまで(S6においてNOの場合)、より小さな移動刺激の付与を繰返えして感覚閾値を測定する。2次刺激付与状態は、移動刺激の付与を5回前後行うことで終了できる。得られた感覚閾値は、主制御部Bにおいて、予め測定された既知の感覚閾値の基準データと比較評価されて、足裏の神経障害の有無と、神経障害の程度を判定する(S7)。神経障害の程度の評価は例えば10段階に分かれており、被験者がどの段階の神経障害に陥っているかを主制御部Bで特定し、ディスプレイ55で明示する。具体的には、外来担当の医療者に対しては10段階の評価のうちのどの評価段階であるかを、ディスプレイ55に明示したうえで、さらに、各評価段階に応じて「僅かな神経障害があります」、あるいは「やや強い神経障害があります」のように、被験者向けの評価結果を表示する。
【0056】
2次刺激付与状態において被験者の刺激反応が認められなかった場合(S4においてNOの場合)には、1次刺激付与状態で仮設定した大まかな感覚閾値の測定に、何らかの誤差あるいは誤認が含まれている可能性がある。そのことを確認するために、
図6に符号Aで示すように、3次刺激付与状態へ移行し、再度移動刺激を付与して(S8)感覚閾値を測定し直し被験者の刺激反応の有無を確認する(S9)。この場合には、1次刺激付与状態で仮設定した感覚閾値に対応する移動刺激より大きな移動刺激を付与して、被験者の刺激反応が認められた場合(S9でYESの場合)に、これを感覚閾値とする。得られた感覚閾値は、主制御部Bにおいて、予め測定された既知の感覚閾値の基準データと比較評価されて、足裏の神経障害の有無と、神経障害の程度を判定する(S11)。3次刺激付与状態において、被験者の刺激反応が認められなかった場合(S9でNOの場合)には、前回の移動刺激より大きな刺激を与えて(S8)、移動刺激が最大の値に達するまで、被験者の刺激反応の有無を繰返し確認する(S9)。移動刺激が最大の値に達した場合(S10でYESの場合)には、その時点で被験者の刺激反応の有無を確認して、測定を終了する。なお、移動刺激を最大の値にした場合にも、被験者の刺激反応がなかった場合には、感覚脱失とみなされる。
【0057】
1次刺激付与状態において被験者の刺激反応が認められなかった場合(S2でNOの場合)には、
図6に符号Bで示すように、4次刺激付与状態に移行して、最大の強度の移動刺激をプローブ4で付与し(S12)、被験者の刺激反応の有無を確認する(S13)。4次刺激付与状態において被験者の刺激反応があった場合(S13でYESの場合)には、最大移動刺激を基準値にして、最大移動刺激より小さな移動刺激を付与して(S15)、被験者の刺激反応の有無を繰返し確認し(S16)、被験者の刺激反応が認められなくなった時点(S16においてNOの場合)で、これを感覚閾値とする。得られた感覚閾値は、主制御部Bにおいて、予め測定された既知の感覚閾値の基準データと比較評価されて、足裏の神経障害の有無と、神経障害の程度を判定する(S17)。また、4次刺激付与状態において、最大移動刺激を付与したにも拘らず、験者の刺激反応がなかった場合(S13でNOの場合)には、感覚脱失とみなされて測定を終了する(S14)。
【0058】
以上のように、感覚閾値を測定する場合には、1次刺激付与状態と、2次刺激付与状態と、3次刺激付与状態とを順次行うが、各刺激付与状態においては、プローブ4を前後に一往復させて、比較的知覚されにくい前後方向の移動刺激を与える。なお、入力スイッチ5の出力信号のタイミングと、プローブ4の移動状況とを比較して、両者のタイミングに大きなずれがある場合には、被験者の勘違いあるいは誤操作であるとして、入力スイッチ5の出力信号をマークし、あるいは無効化することができる。
【0059】
上記と同様にして、母趾面E1に左右方向の移動刺激を与えることにより、左右方向の移動刺激に対する感覚閾値を主制御部Bで特定することができる。母趾面E1の測定が終了したら、
図7に示すように母趾球面E2を接触窓8に臨ませ、前後方向の移動刺激と左右方向の移動刺激を個別に与えながら、上記と同様にして測定を行なう。さらに、母趾球面E2の測定が終了したら、踵面E3を接触窓8に臨ませ、前後方向の移動刺激と左右方向の移動刺激を個別に与えながら、上記と同様にして測定を行なって右足の測定を終了する。左足についても、右足と同様にして母趾面E1、母趾球面E2、および踵面E3のそれぞれの個所ごとに、前後方向の移動刺激と左右方向の移動刺激を与えて測定を行なうことにより、各測定個所の感覚閾値を特定することができる。
【0060】
第1プローブ4Aを使用した測定が終了したら、第1プローブ4Aに換えて第2プローブ4Bをプローブ固定部40に装着し、第1プローブ4Aと同様にして、左右の足裏の母趾面E1と、母趾球面E2と、踵面E3について感覚閾値を測定することができる。以上により得られた測定結果を、予め収集してデータベース化してある既知の感覚閾値と比較することにより、糖尿病に由来する足裏の神経障害の有無と、神経障害の程度を判定することができる。なお、外来診察を行う場合には、充分な時間を掛けて診察を行うことが難しいので、第1プローブ4Aのみで感覚閾値を測定して、足裏の神経障害の有無と、神経障害の程度を評価してもよい。
【0061】
上記のように接触部44の物理的な性質が異なる複数種のプローブ4A・4Bを用意しておき、刺激測定過程において、複数種のプローブ4A・4Bを択一的に使用して、足裏に複数種の異質の移動刺激を与えて感覚閾値を測定すると、単一のプローブ4のみで、移動刺激に対する感覚閾値を測定する場合に比べて、被験者の足裏の状況等に応じて移動刺激を的確に付与することができる。例えば高齢者等で足裏皮膚の角質が極度に肥厚している場合には、摩擦係数が高いプローブを使用することで、皮膚の状態に左右されない測定結果が得られる。
【0062】
以上のように、上記構成の測定装置によれば、被験者を正しい位置に起立させ、主制御部Bのスタートボタンをオン操作するだけで、駆動制御部51からの指令でプローブ4をプローブ駆動構造3で移動操作して足裏の感覚閾値を自動的にしかも的確に測定できる。従って、医学的な専門知識や、生体計測に関する専門的な知識および技術を持っていない測定者であっても、感覚閾値の測定を簡便に行なえるうえ、測定者の違いによる測定結果のばらつきを排除できる。このように、誰が行なっても感覚閾値を的確に測定できるので、待合室において診察の順番待ちをしている状態において、看護師や看護助手の指導に従って感覚閾値の測定を行なうことができ、充分な時間をかけて診察を行うことが難しい外来での診察に適した糖尿病性末梢神経障害の評価装置とすることができる。また、プローブ駆動構造3でプローブ4を移動させて、被験者に対して設定されたとおりの移動刺激を正確に与えることができるので、移動刺激がばらつくのを一掃して感覚閾値を高い再現性で測定できる。
【0063】
次に、糖尿病性末梢神経障害の評価方法(以下、単に評価方法と言う。)の詳細を説明する。足裏における感覚閾値の測定は、検査準備過程と、刺激測定過程と、評価過程とを含む。検査準備過程においては、足載台2の所定位置に開口した接触窓8に足裏を載せて、固定器具50で固定する。刺激測定過程においては、駆動制御部51の制御手順に従って作動するプローブ駆動構造3でプローブ4を移動操作し、被験者が足裏に移動刺激を感じたときに入力スイッチ5を操作して感覚閾値を測定する。評価過程においては、測定された感覚閾値を主制御部Bで評価して、足裏の神経障害の有無と、神経障害の程度を判定する。
【0064】
主制御部Bには、患者群の足裏に移動刺激を与えたときの既知の感覚閾値の基準データと、患者の年代の違いに基づく感覚閾値の標準値から算出された年齢補正係数とが予め記憶させてある。刺激測定過程における駆動制御部51は、まず、先の基準データと年齢補正係数とを用いてプローブ駆動構造3の駆動状態を制御して、プローブ4による移動刺激の変化幅を大きくして大まかな感覚閾値を仮設定する1次刺激付与状態を実行する。また、1次刺激付与状態で得られた大まかな感覚閾値を基準値にして、変化幅が小さな移動刺激を付与して感覚閾値を測定する2次刺激付与状態を実行する。さらに、2次刺激付与状態において被験者の刺激反応がなかった場合に、1次刺激付与状態で仮設定した感覚閾値に対応する移動刺激より大きな移動刺激を付与して、感覚閾値を測定する3次刺激付与状態を実行する。評価過程においては、主制御部Bが、3次刺激付与状態で得られた測定値と、既知の感覚閾値とを比較評価して、足裏の神経障害の有無と、神経障害の程度を自動的に判定する。各次刺激付与状態における、測定方法の詳細は先に説明したとおりである。
【0065】
以上のように評価法においては、極限法を各次刺激付与状態において段階的に使い分けて、移動刺激に対する感覚閾値を測定するので、足裏に対する刺激付与回数が通常の極限法よりも少なくてすみ、より短い時間で感覚閾値を測定できるものとなっている。反面、刺激付与回数が少ない分だけ、極限法の特徴である馴化や期待による測定誤差が、極限法で測定を行った場合よりも大きく表れるおそれを含むこととなるが、こうした測定誤差を排除して、測定値の妥当性を確実にするために、3次刺激付与状態を実行して、より正確な感覚閾値の測定を保障できるようにしている。
【0066】
より好ましくは、刺激測定過程において、1次刺激付与状態において被験者の刺激反応がなかった場合に、4次刺激付与状態に移行して最大の強度の移動刺激を付与して感覚閾値を測定する。4次刺激付与状態において被験者の刺激反応があった場合に、最大移動刺激を基準値にして、変化幅が小さな移動刺激を付与して感覚閾値を測定する3次刺激付与状態を行う。この後、評価過程において主制御部Bが、測定された既知の感覚閾値と前記基準データとを比較評価して、足裏の神経障害の有無と、神経障害の程度を自動的に判定する。なお、4次刺激付与状態において被験者の刺激反応がなかった場合には、感覚脱失とみなされて測定を終了する。
【0067】
刺激測定過程において、プローブ4をプローブ駆動構造3で前後方向と左右方向とに個別に移動させて、足裏に前後の移動刺激と左右の移動刺激を与え、プローブ4の移動距離と、移動速度を独立した変数として測定する。この評価方法によれば、皮膚の特定部位に振動刺激や圧迫刺激などを与える従来の測定装置とは異なり、足裏に加わるせん断方向への移動刺激に対する感覚閾値を測定できる。さらに、足裏の知覚特性が2方向で異なるという知見が反映された測定結果と、プローブ4の移動距離と、移動速度を独立した変数として測定することができる。従って、得られた測定結果を、予め収集してデータベース化してある既知の感覚閾値と比較することにより、糖尿病に由来する神経障害の有無、あるいは神経障害の進行状況などをさらに的確に特定できる。
【0068】
刺激測定過程において足裏の母趾面E1と、母趾球面E2と、踵面E3のそれぞれに、移動刺激を個別に与えて感覚閾値を測定することが好ましい。このように、母趾面E1と、母趾球面E2と、踵面E3のそれぞれに移動刺激を個別に与えるのは、足裏面上のこの3点は機械的刺激を感知する皮膚内の感覚受容器が高密度に分布している部位であり、感覚刺激に対する閾値もそれぞれ異なっており、これら3点の感覚閾値は極めて重要な意味を有しているという知見が広く認識されているからである。ただし、本装置は足裏面であればこの3点以外のどこであっても原理的には測定が可能であり、例えば、神経疾患の診断に応用する場合には、障害が予想される末梢神経が支配する先の3点以外の足裏面での測定を行なうことが可能である。
【0069】
刺激測定過程においては、足載台2の上に被験者を起立させ、被験者の体重が足裏に作用する状態で移動刺激を与えて感覚閾値を測定する。このように、被験者の体重が足裏に作用する状態で移動刺激を与えると、皮膚内に分布する感覚受容器に対して体重による圧力が均等に付加されて常に刺激された条件での感覚閾値の測定となる。体重による圧力付加は皮膚内の感覚受容器の感度をマスクする効果があるため、感覚が鈍くなり、体重が付加されない測定条件で計測された感覚閾値よりも大きな値が計測される。このような条件で計測された感覚閾値はまさに通常の立姿勢と同じ条件での値であり、糖尿病に由来する神経障害の有無、あるいは神経障害の進行状況などの評価に有効である。こうした測定は、これまでのあらゆる感覚機能測定手法、および測定機器では不可能である。
【0070】
上記の実施例では、第1テーブル11および第2テーブル12と、これらのテーブル11・12を往復操作する第1駆動構造13および第2駆動構造14などでプローブ駆動構造3を構成したが、その必要はなく、第1テーブル(移動テーブル)11と、基台1に設けられて第1テーブル11を往復操作する第1駆動構造(駆動構造)13と、第1テーブル11に設けたプローブ固定部40とでプローブ駆動構造3を構成することができる。その場合には、例えば第1テーブル11の駆動方向が前後方向である場合には、プローブ4で被験者の足裏に前後方向の移動刺激を与えたのち、プローブ4の移動方向と直交するように被験者の姿勢を変更して、足裏に左右方向の移動刺激を与えることができる。
【0071】
上記の様に、1個の移動テーブル11のみを駆動する構造のプローブ駆動構造3によれば、評価装置の全体構造を著しく簡素化してコンパクト化できるので、診察室や待合室などの狭い場所で使用するのに好適な評価装置を提供できる。また、評価装置の構造を簡素化できる分だけ全体コストを削減して、評価装置の導入費用を低コスト化できる利点もある。
【0072】
足裏における感覚閾値の測定は、被験者が足載台2の上に起立して、被験者の体重が足裏に作用する状態で行うのが好ましいが、その必要はない。例えば、椅子に座った被験者の足を足載台2に載せて感覚閾値の測定を行なうことができる。その場合には、足載台2に設けたベルト、あるいは押え枠などで足を動かないように保持するとよい。入力スイッチ5は、押ボタンスイッチである必要はなく、タッチスイッチや倒伏スイッチなどの他のスイッチを使用することができる。また、入力スイッチ5は手摺9に組込むことができる。
【0073】
上記の実施例では、プラスチック製の棒状体の平滑な上端面を接触部44とする場合と、棒状体の上端にカーペットを貼付けて接触部44とする場合を例示したが、実施例で説明した接触部44には限定しない。たとえば、棒状体の上端に木片、金属片、畳表、皮革、生地、タイルなどを貼付けて接触部44とすることができる。さらに、プローブ4をプラスチック、金属、木材で棒状に形成し、その上端面に凹凸、溝、突起群などを形成し、あるいは上端面を粗面化して接触部44とすることができる。要は、接触部44の形状、構造、摩擦係数、硬度などの物理的な性質が異なる多数のプローブ4を用意しておいて、測定の目的に合致するプローブ4を使用して、足裏に異質の移動刺激を与えるとよい。
【0074】
第1駆動構造13および第2駆動構造14のモーター23・33はステップモーターである必要はなく、他の形式の同期モーターを使用することができる。防振ゴム28・38は、駆動ベース16と基台1との間にも配置することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 基台
2 足載台
3 プローブ駆動構造
4 プローブ
5 入力スイッチ
8 接触窓
11 第1テーブル
12 第2テーブル
13 第1駆動構造
14 第2駆動構造
40 プローブ固定部
44 接触部
51 駆動制御部
52 記憶部
A 測定装置
B 主制御部(コンピュータ)