(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体とアルカリ金属塩を含有し、該アルカリ金属塩をアルカリ金属元素換算で10〜500ppm含有する請求項6に記載の樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は、下記式(I)で表され、全単量体単位に対するa、b及びcの含有率(モル%)が下記式(1)〜(3)を満足し、かつ下記式(4)で定義されるケン化度(DS)が99モル%以上である変性エチレン−ビニルアルコール共重合体である。この変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は、エチレン単位及びビニルアルコール単位に加えて、共重合体の主鎖に1,3−ジオール構造を有する単量体単位を有することによって、当該単量体単位を含まないエチレン−ビニルアルコール共重合体に比べて結晶化速度が低下している。したがって、当該変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の層を有する多層構造体の層間接着性を向上させることができる。また、この変性エチレンービニルアルコール共重合体は、1,3−ジオール構造の強い水素結合力により、結晶性の低下に起因するバリア性の低下を軽減させることができる。すなわち、バリア性能の低下を最小限に抑えながら、層間接着性を向上させることができる。
【0019】
式(I)中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表し、該アルキル基は水酸基、アルコキシ基又はハロゲン原子を含んでもよい。X、Y及びZは、それぞれ独立に水素原子、ホルミル基又は炭素数2〜10のアルカノイル基を表す。
【0020】
式(I)において、R
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表す。R
1、R
2、R
3及びR
4は同じ基であってもよいし、異なっていてもよい。該アルキル基の構造は特に限定されず、一部に分岐構造や環状構造を有していてもよい。また、該アルキル基は水酸基、アルコキシ基又はハロゲン原子を含んでもよい。R
1、R
2、R
3及びR
4は、好ましくは、水素又は炭素数1〜5のアルキル基である。当該アルキル基の好適な例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基などの直鎖又は分岐を有するアルキル基が挙げられる。
【0021】
式(I)において、X、Y及びZは、それぞれ独立に水素原子、ホルミル基又は炭素数2〜10のアルカノイル基を表す。X、Y又はZが水素原子である場合には、式(I)が水酸基を有し、X、Y又はZがホルミル基又はアルカノイル基である場合には、式(I)がエステル基を有する。当該アルカノイル基としては、炭素数が2〜5のアルカノイル基であることが好ましく、アセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基などが好適なものとして例示される。これらの中でも、アセチル基が特に好適である。X、Y及びZは、いずれも、水素原子、又は水素原子を含む混合物であることが好ましい。
【0022】
Xを含む単量体単位は、通常、ビニルエステルをケン化することによって得られる。したがって、Xが、水素原子とホルミル基又は炭素数2〜10のアルカノイル基との混合物であることが好ましい。単量体(酢酸ビニル)の入手のし易さや製造コストを考慮すれば、Xが、水素原子とアセチル基との混合物であることが特に好ましい。
【0023】
一方、Y及びZを含む単量体単位は、1,3−ジエステル構造を有する不飽和単量体単位を共重合してからケン化することによっても製造できるし、1,3−ジオール構造を有する不飽和単量体単位をそのまま共重合することによっても製造できる。したがって、Y及びZは、いずれも水素原子のみであってもよいし、水素原子とホルミル基又は炭素数2〜10のアルカノイル基との混合物、より好適には、水素原子とアセチル基との混合物であってもよい。
【0024】
本発明の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は、全単量体単位に対するa、b及びcの含有率(モル%)が下記式(1)〜(3)を満足する。
18≦a≦55 (1)
0.01≦c≦0.5 (2)
[100−(a+c)]×0.9≦b≦[100−(a+c)] (3)
【0025】
aは、全単量体単位に対するエチレン単位の含有率(モル%)を示したものであり、18〜55モル%である。エチレン含有量が18モル%未満では、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の溶融成形性が悪化する。aは、好適には22モル%以上である。一方、エチレン含有量が55モル%を超えると、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体のバリア性が不足する。aは、好適には50モル%以下である。
【0026】
cは、全単量体単位に対する、式(I)中で右端に示された単量体単位の含有率(モル%)を示したものであり、0.01〜0.5モル%である。cが0.01モル%未満では、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の層を有する多層構造体の層間接着性が不十分となる。cは、好適には0.05モル%以上である。一方、cが大きくなるにしたがって変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の結晶性が低下してバリア性が低下する傾向がある。特に優れたバリア性を有するためには、cは、0.5モル%以下であり、好適には0.3モル%以下である。
【0027】
bは、全単量体単位に対するビニルアルコール単位及びビニルエステル単位の含有率(モル%)を示したものである。これが下記式(3)を満足することが好ましい。
[100−(a+c)]×0.9≦b≦[100−(a+c)] (3)
すなわち、本発明の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体においては、エチレン単位と式(I)中で右端に示された単量体単位以外の単量体単位のうちの90%以上がビニルアルコール単位又はビニルエステル単位であるということである。式(3)を満足しない場合、ガスバリア性が不十分となる。より好適には下記式(3’)を満足し、さらに好適には下記式(3”)を満足する。
[100−(a+c)]×0.95≦b≦[100−(a+c)] (3’)
[100−(a+c)]×0.98≦b≦[100−(a+c)] (3”)
【0028】
本発明の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は、下記式(4)で定義されるケン化度(DS)が99モル%以上である。
DS=[(X、Y及びZのうち水素原子であるものの合計モル数)/(X、Y及びZの合計モル数)]×100 (4)
ここで、「X、Y及びZのうち水素原子であるものの合計モル数」は、水酸基のモル数を示し、「X、Y及びZの合計モル数」は、水酸基とエステル基の合計モル数を示す。ケン化度(DS)が低下すると、バリア性能が低下する傾向があるとともに、熱安定性も低下して高温成形時のロングラン成形性が低下する傾向がある。特に優れたバリア性及び熱安定性を有するためには、ケン化度(DS)は、99モル%以上であり、好適には99.5モル%以上であり、より好適には99.8モル%以上である。
【0029】
ケン化度(DS)は、核磁気共鳴(NMR)法によって得ることができる。上記a、b及びcで示される単量体単位の含有率も、NMR法によって得ることができる。また、本発明の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は、通常ランダム共重合体である。ランダム共重合体であることは、NMRや融点の測定結果から確認できる。
【0030】
本発明の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の好適なメルトフローレート(MFR)(190℃、2160g荷重下)は0.1〜30g/10分であり、より好適には0.3〜25g/10分、更に好適には0.5〜20g/10分である。但し、融点が190℃付近あるいは190℃を超えるものは2160g荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿した値で表す。
【0031】
ここで、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体が、異なる2種類以上の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の混合物からなる場合、a、b、cで示される単量体単位の含有率、ケン化度、MFRは、配合重量比から算出される平均値を用いる。
【0032】
本発明の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の、20℃、65%RHにおける酸素透過速度が100cc・20μm/m
2・day・atm以下であることが好適である。酸素透過速度は、より好適には10cc・20μm/m
2・day・atm以下であり、さらに好適には5cc・20μm/m
2・day・atm以下である。
【0033】
本発明の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の製造方法は特に限定されない。例えば、エチレン、下記式(II)で示されるビニルエステル、及び下記式(III)で示される不飽和単量体をラジカル重合させて下記式(IV)で示される変性エチレン−ビニルエステル共重合体を得た後に、それをケン化する方法が挙げられる。
【0035】
式(II)中、R
5は、水素原子又は炭素数1〜9のアルキル基を表す。当該アルキル基の炭素数は、好適には1〜4である。式(II)で示されるビニルエステルとしては、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニルなどが例示される。経済的観点からは酢酸ビニルが特に好ましい。
【0037】
式(III)中、R
1、R
2、R
3及びR
4は式(I)に同じである。R
6及びR
7は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜9のアルキル基を表す。当該アルキル基の炭素数は、好適には1〜4である。式(III)で示される不飽和単量体としては、1,3−ジアセトキシ−2−メチレンプロパン、1,3−ジプロピオニルオキシ−2−メチレンプロパン、1,3−ジブチロニルオキシ−2―メチレンプロパンなどが挙げられる。中でも、1,3−ジアセトキシ−2−メチレンプロパンが、製造が容易な点から好ましく用いられる。
【0039】
式(IV)中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、a、b及びcは、式(I)〜(III)に同じである。こうして得られた変性エチレン−ビニルエステル共重合体は、新規ポリマーであり、その後ケン化処理される。
【0040】
また、上記式(III)で示される不飽和単量体の代わりに、下記式(V)で示される不飽和単量体を共重合してもよく、この場合はケン化処理によって、上記式(II)で示される不飽和単量体由来の単位のみがケン化されることになる。
【0042】
式(V)中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、式(I)と同じである。
【0043】
本発明で用いられる式(III)及び式(V)で示される不飽和単量体は、ビニルエステル単量体との共重合反応性が高いため、共重合反応が進行しやすい。したがって、得られる変性エチレン−ビニルエステル共重合体の変性量や重合度を高くすることが容易である。また、低重合率で重合反応を停止させても重合終了時に残留する未反応の当該不飽和単量体の量が少ないので、環境面及びコスト面においても優れている。式(III)及び式(V)で示される不飽和単量体は、この点において、アリルグリシジルエーテルや3,4−ジアセトキシ−1−ブテンなど、アリル位に官能基を炭素原子が1個だけである有する他の単量体よりも優れている。ここで、式(III)で示される不飽和単量体は、式(V)で示される不飽和単量体よりも反応性が高い。
【0044】
エチレンと、上記式(II)で示されるビニルエステルと、上記式(III)あるいは(V)で示される不飽和単量体とを共重合して、変性エチレン−ビニルエステル共重合体を製造する際の重合方式は、回分重合、半回分重合、連続重合、半連続重合のいずれでもよい。また、重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの公知の方法を採用できる。無溶媒又はアルコールなどの溶媒中で重合を進行させる塊状重合法又は溶液重合法が、通常採用される。高重合度の変性エチレン−ビニルエステル共重合体を得る場合には、乳化重合法の採用が選択肢の一つとなる。
【0045】
溶液重合法において用いられる溶媒は特に限定されないが、アルコールが好適に用いられ、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどの低級アルコールがより好適に用いられる。重合反応液における溶媒の使用量は、目的とする変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の粘度平均重合度や、溶媒の連鎖移動を考慮して選択すればよく、反応液に含まれる溶媒と全単量体との重量比(溶媒/全単量体)は、0.01〜10の範囲、好ましくは0.05〜3の範囲から選択される。
【0046】
エチレンと、上記式(II)で示されるビニルエステルと、上記式(III)あるいは(V)で示される不飽和単量体とを共重合する際に使用される重合開始剤は、公知の重合開始剤、例えばアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤から重合方法に応じて選択される。アゾ系開始剤としては、例えば2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)が挙げられる。過酸化物系開始剤としては、例えばジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネートなどのパーカーボネート系化合物;t−ブチルパーオキシネオデカネート、α−クミルパーオキシネオデカネート、過酸化アセチルなどのパーエステル化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド;2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテートなどが挙げられる。過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などを上記開始剤に組み合わせて使用してもよい。レドックス系開始剤は、例えば上記の過酸化物系開始剤と亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、L−アスコルビン酸、ロンガリットなどの還元剤とを組み合わせた重合開始剤である。重合開始剤の使用量は、重合触媒により異なるために一概には決められないが、重合速度に応じて調整される。重合開始剤の使用量は、ビニルエステル単量体に対して0.01〜0.2モル%が好ましく、0.02〜0.15モル%がより好ましい。重合温度は特に限定されないが、室温〜150℃程度が適当であり、好ましくは40℃以上かつ使用する溶媒の沸点以下である。
【0047】
エチレンと、上記式(II)で示されるビニルエステルと、上記式(III)あるいは(V)で示される不飽和単量体とを共重合する際には、本発明の効果が阻害されない範囲であれば、連鎖移動剤の存在下で共重合してもよい。連鎖移動剤としては、例えばアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドなどのアルデヒド類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;2−ヒドロキシエタンチオールなどのメルカプタン類;ホスフィン酸ナトリウム一水和物などのホスフィン酸塩類などが挙げられる。なかでも、アルデヒド類及びケトン類が好適に用いられる。重合反応液への連鎖移動剤の添加量は、連鎖移動剤の連鎖移動係数及び目的とする変性エチレン−ビニルエステル共重合体の重合度に応じて決定されるが、一般にビニルエステル単量体100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましい。
【0048】
こうして得られた変性エチレン−ビニルエステル共重合体をケン化して、本発明の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を得ることができる。このとき、共重合体中のビニルエステル単位はビニルアルコール単位に変換される。また、式(III)で示される不飽和単量体に由来するエステル結合も同時に加水分解され、1,3−ジオール構造に変換される。このように、一度のケン化反応によって種類の異なるエステル基を同時に加水分解することができる。
【0049】
変性エチレン−ビニルエステル共重合体のケン化方法としては、公知の方法を採用できる。ケン化反応は、通常、アルコール又は含水アルコールの溶液中で行われる。このとき好適に使用されるアルコールは、メタノール、エタノールなどの低級アルコールであり、特に好ましくはメタノールである。ケン化反応に使用されるアルコール又は含水アルコールは、その重量の40重量%以下であれば、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、ベンゼンなどの他の溶媒を含んでもよい。ケン化に使用される触媒は、例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物や、ナトリウムメチラートなどのアルカリ触媒、鉱酸などの酸触媒である。ケン化を行う温度は限定されないが、20〜120℃の範囲が好適である。ケン化の進行に従ってゲル状の生成物が析出してくる場合には、生成物を粉砕した後、洗浄、乾燥して、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を得ることができる。
【0050】
本発明の変性−エチレンビニルアルコール系重合体は、本発明の効果が阻害されない範囲であれば、エチレン、上記式(II)で示されるビニルエステル、及び上記式(III)あるいは(V)で示される不飽和単量体と共重合可能な、他のエチレン性不飽和単量体に由来する構造単位を含んでもよい。このようなエチレン性不飽和単量体としては、例えば、プロピレン、n−ブテン、イソブチレン、1−ヘキセンなどのα−オレフィン類;アクリル酸及びその塩;アクリル酸エステル基を有する不飽和単量体;メタクリル酸及びその塩;メタクリル酸エステル基を有する不飽和単量体;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩(例えば4級塩);メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩(例えば4級塩);メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル、2,3−ジアセトキシ−1−ビニルオキシプロパンなどのビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル類;塩化ビニル、フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、2,3−ジアセトキシ−1−アリルオキシプロパン、塩化アリルなどのアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和ジカルボン酸及びその塩又はエステル;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシラン化合物;酢酸イソプロペニルなどが挙げられる。
【0051】
こうして得られた本発明の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体に、他の成分を配合して樹脂組成物とすることができる。例えば、他の熱可塑性樹脂、可塑剤、滑剤、安定剤、界面活性剤、色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、乾燥剤、架橋剤、金属塩、充填剤、各種繊維などの補強剤などを配合した樹脂組成物とすることもできる。
【0052】
なかでも、本発明の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体がアルカリ金属塩を含有することが好ましい。このようにアルカリ金属塩を含有する樹脂組成物とすることによって、他の樹脂と積層した時の層間接着性が良好になる。アルカリ金属塩のカチオン種は特に限定されないが、ナトリウム塩又は及びカリウム塩が好適である。アルカリ金属塩のアニオン種も特に限定されない。カルボン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、リン酸水素塩、ホウ酸塩、水酸化物等として添加することができる。アルカリ金属塩の含有量は、アルカリ金属元素換算で10〜500ppmであることが好ましい。アルカリ金属塩の含有量が10ppm未満の場合には層間接着性が不十分になる場合があり、より好適には50ppm以上である。一方、アルカリ金属塩の含有量が500ppmを超える場合には溶融安定性が不十分になる場合があり、より好適には300ppm以下である。
【0053】
本発明の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体がリン酸化合物を含有することも好ましい。このようにリン酸化合物を含有する樹脂組成物とすることによって、溶融成形時の着色を防止することができる。本発明に用いられるリン酸化合物は特に限定されず、リン酸、亜リン酸等の各種の酸やその塩等を用いることができる。リン酸塩としては第1リン酸塩、第2リン酸塩、第3リン酸塩のいずれの形で含まれていてもよいが、第1リン酸塩が好ましい。そのカチオン種も特に限定されるものではないが、アルカリ金属塩であることが好ましい。これらの中でもリン酸2水素ナトリウム及びリン酸2水素カリウムが好ましい。リン酸化合物の含有量は、好適にはリン酸根換算で5〜200ppmであることが好ましい。リン酸化合物の含有量が5ppm未満の場合には、溶融成形時の耐着色性が不十分になる場合があり、より好適には20ppm以上である。一方、リン酸化合物の含有量が200ppmを超える場合には溶融安定性が不十分になる場合があり、より好適には160ppm以下である。
【0054】
本発明の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体がホウ素化合物を含有してもよい。このようにホウ素化合物を含有する樹脂組成物とすることによって、加熱溶融時のトルク変動を抑制することができる。本発明に用いられるホウ素化合物としては特に限定されず、ホウ酸類、ホウ酸エステル、ホウ酸塩、水素化ホウ素類等が挙げられる。具体的には、ホウ酸類としては、オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸などが挙げられ、ホウ酸エステルとしてはホウ酸トリエチル、ホウ酸トリメチルなどが挙げられ、ホウ酸塩としては上記の各種ホウ酸類のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ホウ砂などが挙げられる。これらの化合物のうちでもオルトホウ酸(以下、単にホウ酸と表示する場合がある)が好ましい。ホウ素化合物の含有量は、好適にはホウ素元素換算で20〜2000ppm以下であることが好ましい。ホウ素化合物の含有量が20ppm未満の場合には、加熱溶融時のトルク変動の抑制が不十分になる場合があり、より好適には50ppm以上である。一方、ホウ素化合物の含有量が2000ppmを超える場合にはゲル化しやすく、成形性が悪化する場合があり、より好適には1000ppm以下である。
【0055】
本発明の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を成形する方法は特に限定されない。変性エチレン−ビニルアルコール共重合体の溶液を用いて成形するすることもできるが、溶融成形することが好ましい。溶融成形することにより、フィルム、シート、容器、パイプ、繊維等、各種の成形物が得られる。溶融成形方法としては、押出成形、射出成形、インフレーション成形、プレス成形、ブロー成形などの方法が例示される。なかでもフィルムは、柔軟性が要求され、溶融成形後に延伸加工することが多いことから、本発明の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体を使用するのに適した用途である。
【0056】
本発明の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体からなる成形品は、多くの場合、当該変性EVOH層と他の熱可塑性樹脂層とを含む多層構造体として使用される。特に、変性EVOH層を中間層とし、その両側の外層に他の熱可塑性樹脂を配置する構成が好ましい。変性EVOH層と他の熱可塑性樹脂層とが接着性樹脂層を介して接着されてなることも好ましい。変性EVOH層はバリア性を担っており、その厚みは、通常3〜250μm、好適には10〜100μmである。一方、外層に使用される熱可塑性樹脂は特に制限されず、要求される透湿性、耐熱性、ヒートシール性、透明性などの性能や用途を考慮して適宜選択される。多層構造体全体の厚さは特に限定されないが、通常15〜6000μmである。
【0057】
本発明の変性EVOH層と積層される他の熱可塑性樹脂層としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体などのポリオレフィン;ポリアミド;ポリエステル;ポリスチレン;ポリ塩化ビニル;アクリル樹脂;ポリ塩化ビニリデン;ポリアセタール;ポリカーボネートなどが例示される。
【0058】
多層構造体は各種の製造方法によって得ることができ、共押出法、ドライラミネート法、サンドラミネート法、押出ラミネート法、共押出ラミネート法、溶液コート法などを採用することができる。これらの内、共押出法は、変性EVOHと他の熱可塑性樹脂を、押出機より同時に押出して溶融状態下に積層し、ダイス出口から多層フィルム状に吐出する方法である。共押出法で製膜する場合、変性EVOH層と他の熱可塑性樹脂層を接着性樹脂層を挟んで積層する方法が好ましい。接着性樹脂としては、カルボキシル基、カルボン酸無水物基又はエポキシ基を有するポリオレフィンを用いることが好ましい。このような接着性樹脂は、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体との接着性にも、カルボキシル基、カルボン酸無水物基又はエポキシ基を含有しない他の熱可塑性樹脂との接着性にも優れている。
【0059】
カルボキシル基を含有するポリオレフィンとしては、アクリル酸やメタクリル酸を共重合したポリオレフィンなどが挙げられる。このとき、アイオノマーに代表されるようにポリオレフィン中に含有されるカルボキシル基の全部あるいは一部が金属塩の形で存在していてもよい。カルボン酸無水物基を有するポリオレフィンとしては、無水マレイン酸やイタコン酸でグラフト変性されたポリオレフィンが挙げられる。また、エポキシ基を含有するポリオレフィン系樹脂としては、グリシジルメタクリレートを共重合したポリオレフィンが挙げられる。これらカルボキシル基、カルボン酸無水物基又はエポキシ基を有するポリオレフィンのうちでも、無水マレイン酸等のカルボン酸無水物で変性されたポリオレフィン、特にポリエチレン及びポリプロピレンが接着性に優れる点から好ましい。
【0060】
こうして得られた溶融成形品は、さらに二次加工に供されることが好ましい。本発明の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体は、二次加工性に優れる。二次加工の方法としては、一軸延伸、二軸延伸、延伸ブロー成形、熱成形、圧延などが例示される。特に、高い倍率で延伸されたフィルムが本発明の好適な実施態様である。具体的には、面積倍率7倍以上に延伸されてなるフィルムが特に好適な実施態様である。二次加工に先立って、放射線照射などによる架橋を施してもよい。
【0061】
こうして得られた本発明の成形品は、バリア性、柔軟性及び二次加工性に優れているので、フィルム、カップ、ボトル等、様々な形状に成形され、各種の容器などとして好適に用いることができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0063】
実施例1
(1)変性EVAcの合成
ジャケット、撹拌機、窒素導入口、エチレン導入口及び開始剤添加口を備えた50L加圧反応槽に、酢酸ビニル(式(II)において、R
5がメチル基:以下、VAcと称する)を21kg、メタノール(以下、MeOHと称する)を6.6kg、2−メチレン−1,3−プロパンジオールジアセテート(式(III)において、R
1、R
2、R
3及びR
4が水素原子で、R
6及びR
7がメチル基:以下、MPDAcと称する)を29.7g仕込み、60℃に昇温した後、30分間窒素バブリングして反応槽内を窒素置換した。次いで反応槽圧力(エチレン圧力)が3.8MPaとなるようにエチレンを導入した。反応槽内の温度を60℃に調整した後、開始剤として8.4gの2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業株式会社製「V−65」)をメタノール溶液として添加し、重合を開始した。重合中はエチレン圧力を3.8MPaに、重合温度を60℃に維持した。4時間後にVAcの重合率が42%となったところで冷却して重合を停止した。反応槽を開放して脱エチレンした後、窒素ガスをバブリングして脱エチレンを完全に行った。次いで減圧下で未反応のVAcを除去した後、MPDAc由来の構造単位が共重合により導入された変性エチレン−酢酸ビニル共重合体(本明細書中、変性EVAcと称することがある)にMeOHを添加して20質量%MeOH溶液とした。
【0064】
(2)変性EVAcのケン化
ジャケット、撹拌機、窒素導入口、還流冷却器及び溶液添加口を備えた10L反応槽に(1)で得た変性EVAcの20質量%MeOH溶液4715gを仕込んだ。この溶液に窒素を吹き込みながら60℃に昇温し、水酸化ナトリウムの濃度が2規定のMeOH溶液を14.7mL/分の速度で2時間添加した。水酸化ナトリウムMeOH溶液の添加終了後、系内温度を60℃に保ちながら2時間撹拌してケン化反応を進行させた。その後酢酸を254g添加してケン化反応を停止した。その後、80℃で加熱攪拌しながら、イオン交換水3Lを添加し、反応槽外にMeOHを流出させ、変性エチレンービニルアルコール共重合体(以下、変性EVOHと称する)を析出させた。デカンテーションにより析出した変性EVOHを収集し、ミキサーで粉砕した。得られた変性EVOH粉末を1g/Lの酢酸水溶液(浴比20:粉末1kgに対して水溶液20Lの割合)に投入して2時間攪拌洗浄した。これを脱液し、さらに1g/Lの酢酸水溶液(浴比20)に投入して2時間攪拌洗浄した。これを脱液したものを、イオン交換水(浴比20)に投入して攪拌洗浄を2時間行い脱液する操作を3回繰り返して精製を行った。次いで、酢酸0.5g/L及び酢酸ナトリウム0.1g/Lを含有する水溶液10Lに4時間攪拌浸漬してから脱液し、これを60℃で16時間乾燥させることで変性EVOHの粗乾燥物を543g得た。
【0065】
(3)変性EVOH含水ペレットの製造
ジャケット、撹拌機及び還流冷却器を備えた3L撹拌槽に、(2)を2回繰返して得た変性EVOHの粗乾燥物758g、水398g及びMeOH739gを仕込み、85℃に昇温して溶解させた。この溶解液を径4mmのガラス管を通して5℃に冷却した水/MeOH=90/10の混合液中に押し出してストランド状に析出させ、このストランドをストランドカッターでペレット状にカットすることで変性EVOHの含水ペレットを得た。得られた変性EVOHの含水ペレットの含水率をメトラー社製ハロゲン水分計「HR73」で測定したところ、55質量%であった。
【0066】
(4)変性EVOH組成物ペレットの製造
上記(3)で得た変性EVOHの含水ペレット1577gを1g/Lの酢酸水溶液(浴比20)に投入して2時間撹拌洗浄した。これを脱液し、さらに1g/Lの酢酸水溶液(浴比20)に投入して2時間撹拌洗浄した。脱液後、酢酸水溶液を更新し同様の操作を行った。酢酸水溶液で洗浄してから脱液したものを、イオン交換水(浴比20)に投入して撹拌洗浄を2時間行い脱液する操作を3回繰り返して精製を行い、ケン化反応時の触媒残渣が除去された、変性EVOHの含水ペレットを得た。当該含水ペレットを酢酸ナトリウム濃度0.525g/L、酢酸濃度0.8g/L、リン酸濃度0.007g/Lの水溶液(浴比20)に投入し、定期的に撹拌しながら4時間浸漬させた。これを脱液し、80℃で3時間、及び105℃で16時間乾燥させることによって、酢酸、ナトリウム塩及びリン酸化合物を含有した変性EVOH組成物ペレットを得た。
【0067】
(5)変性EVAc中の各構造単位の含有量
変性EVAc中の、エチレン含有量(式(IV)におけるaモル%)、酢酸ビニル由来の構造単位の含有量(式(IV)におけるbモル%)及びMPDAc由来の構造単位の含有量(式(IV)におけるcモル%)は、ケン化前の変性EVAcを
1H−NMR測定して算出した。
【0068】
まず、(1)において得られた変性EVAcのMeOH溶液を少量サンプリングし、イオン交換水中で変性EVAcを析出させた。析出物を収集し、真空下、60℃で乾燥させることで変性EVAcの乾燥品を得た。次に、得られた変性EVAcの乾燥品を内部標準物質としてテトラメチルシランを含むジメチルスルホキシド(DMSO)−d
6に溶解し、500MHzの
1H−NMR(日本電子株式会社製:「GX−500」)を用いて80℃で測定した。
【0069】
図1に、実施例1で得られた変性EVAcの
1H−NMRスペクトルを示す。当該スペクトル中の各ピークは、以下のように帰属される。
・0.6〜1.0ppm:末端部位エチレン単位のメチレンプロトン(4H)
・1.0〜1.85ppm:中間部位エチレン単位のメチレンプロトン(4H)、MPDAc由来の構造単位の主鎖部位メチレンプロトン(2H)、酢酸ビニル単位のメチレンプロトン(2H)
・1.85−2.1ppm:MPDAc由来の構造単位のメチルプロトン(6H)と酢酸ビニル単位のメチルプロトン(3H)
・3.7−4.1ppm:MPDAc由来の構造単位の側鎖部位メチレンプロトン(4H)
・4.4−5.3ppm:酢酸ビニル単位のメチンプロトン(1H)
【0070】
上記帰属にしたがい、0.6〜1.0ppmの積分値をx、1.0〜1.85ppmの積分値をy、3.7−4.1ppmの積分値をz、4.4−5.3ppmの積分値をwとした場合、エチレン単位の含有量(a:モル%)、ビニルエステル単位の含有量(b:モル%)及びMPDAc由来の構造単位の含有量(c:モル%)は、それぞれ以下の式にしたがって算出される。
a=(2x+2y−z−4w)/(2x+2y+z+4w)×100
b=8w/(2x+2y+z+4w)×100
c=2z/(2x+2y+z+4w)×100
上記方法により算出した結果、エチレン単位の含有量(a)は32.0モル%、ビニルエステル単位の含有量(b)は67.8モル%、MPDAc由来の構造単位の含有量(c)は0.2モル%であった。変性EVAcにおけるa、b及びcの値は、ケン化処理後の変性EVOHにおけるa、b及びcの値と同じである。
【0071】
(6)変性EVOHのケン化度
ケン化後の変性EVOHについても同様に
1H−NMR測定を行った。上記(2)で得られた変性EVOHの粗乾燥物を、内部標準物質としてテトラメチルシラン、添加剤としてテトラフルオロ酢酸(TFA)を含むジメチルスルホキシド(DMSO)−d
6に溶解し、500MHzの
1H−NMR(日本電子株式会社製:「GX−500」)を用いて80℃で測定した。
図2に、実施例1で得られた変性EVOHの
1H−NMRスペクトルを示す。1.85〜2.1ppmのピーク強度が大幅に減少していることから、酢酸ビニルに含まれるエステル基に加え、MPDAc由来の構造単位に含まれるエステル基もケン化されて水酸基になっていることは明らかである。ケン化度は酢酸ビニル単位のメチルプロトン(1.85〜2.1ppm)と、ビニルアルコール単位のメチンプロトン(3.15〜4.15ppm)のピーク強度比より算出した。変性EVOHのケン化度は99.9モル%以上であった。
【0072】
(7)変性EVOHの融点
上記(4)で得られた変性EVOH組成物ペレットについて、JIS K7121に準じて、30℃から215℃まで10℃/分の速度にて昇温した後100℃/分で−35℃まで急冷して再度−35℃から195℃まで10℃/分の昇温速度にて測定を実施した(セイコー電子工業株式会社製示差走査熱量計(DSC)「RDC220/SSC5200H」)。温度の校正にはインジウムと鉛を用いた。2ndランのチャートから前記JISにしたがって融解ピーク温度(Tpm)を求め、これを変性EVOHの融点とした。融点は182℃であった。
【0073】
(8)変性EVOH組成物中のナトリウム塩含有量とリン酸化合物含有量
上記(4)で得られた変性EVOH組成物ペレット0.5gをテフロン(登録商標)製圧力容器に入れ、ここに濃硝酸5mLを加えて室温で30分間分解させた。30分後蓋をし、湿式分解装置(株式会社アクタック製:「MWS−2」)により150℃で10分間、次いで180℃で5分間加熱することで分解を行い、その後室温まで冷却した。この処理液を50mLのメスフラスコ(TPX製)に移し純水でメスアップした。この溶液について、ICP発光分光分析装置(パーキンエルマー社製「OPTIMA4300DV」)により含有金属の分析を行い、ナトリウム元素及びリン元素の含有量を求めた。ナトリウム塩含有量は、ナトリウム元素換算値で150ppmであり、リン酸化合物含有量は、リン酸根換算値で10ppmであった。
【0074】
(9)フィルムの作製
上記(4)で得られた変性EVOH組成物ペレットを用いて、株式会社東洋精機製作所製20mm押出機「D2020」(D(mm)=20、L/D=20、圧縮比=2.0、スクリュー:フルフライト)を用いて以下の条件にて単層製膜を行い、変性EVOH組成物の単層フィルムを得た。
シリンダー温度:供給部175℃、圧縮部215℃、計量部215℃
ダイ温度:215℃
スクリュー回転数:40〜100rpm
吐出量:0.4〜1.5kg/時間
引取りロール温度:80℃
引取りロール速度:0.8〜3.2m/分
フィルム厚み:20〜150μm
【0075】
なお、本明細書中の他の実施例では、変性EVOHの融点にしたがって、以下の通り押出機の温度条件を設定した。
シリンダー温度:
供給部:175℃
圧縮部:変性EVOHの融点+30〜45℃
計量部:変性EVOHの融点+30〜45℃
ダイ温度:変性EVOHの融点+30〜45℃
【0076】
(10)酸素透過速度測定
上記(9)で得られた厚さ20μmの単層フィルムを20℃、85%RHの条件下で3日間調湿後、同条件下で酸素透過速度の測定(Mocon社製「OX−TORAN MODEL 2/21」)を行った。その結果、酸素透過速度(OTR)は1.7cc・20μm/m
2・day・atmであった。
【0077】
(11)多層フィルム作製
得られた変性EVOH組成物を原料とし、3種5層共押出機を用いて、ポリプロピレン層/接着性樹脂層/変性EVOH層/接着性樹脂層/ポリプロピレン層の5層構成になるように製膜し、多層フィルムを作製した。ここで、接着性樹脂としては無水マレイン酸変性ポリプロピレンを用い、ポリプロピレン層を200μm、接着性樹脂層を25μm、変性EVOH層を50μmとした。
【0078】
(12)剥離強度
上記(11)で作製された多層構造体について、接着性樹脂層と変性EVOH層との層間接着性の指標として、下記条件で剥離強度を測定した。すなわち、23℃、50%RHの雰囲気下で7日間調湿したのち、15mm×200mmの短冊状の試験片を切出したサンプルについて、島津製作所製オートグラフAGS−H型にて、チャック間隔200mm、引張速度250mm/分の条件で引張破断点強度(gf/15mm)の測定を行った。測定は10サンプルについて行い、接着性を以下の基準で判定した。
A:全てが500gf/15mm
B:一つでも500gf/15mm未満
【0079】
(13)熱安定性
上記(9)における、変性EVOH組成物の単層フィルムについて、押出機を用いて溶融押出を行った際の熱安定性について以下のように判定した。
A :良好
B :ゲル発生、着色
【0080】
実施例2
実施例1の(1)において、MeOHの量を6.3kgにし、MPDAcの仕込量を98gにした以外は、同様の方法で重合を行った。4時間後にVAcの重合率が47%となったところで冷却し重合を停止した。引き続き、実施例1と同様に変性EVOHを合成して評価した結果を、表1にまとめて示す。
【0081】
比較例1
実施例1の(1)において、MeOHの量を2.1kgにし、エチレン圧力を4.2MPaにし、MPDAcの仕込量を0.5kgにした以外は、同様の方法で重合を行った。6時間後にVAcの重合率が52%となったところで冷却し重合を停止した。引き続き、実施例1と同様に変性EVOHを合成して評価した結果を、表1にまとめて示す。
【0082】
比較例2
実施例1の(1)において、MeOHの量を6.3kgにし、エチレン圧力を3.7MPaにし、開始剤の量を4.2gにし、MPDAcを仕込まなかった以外は、同様の方法で重合を行った。4時間後にVAcの重合率が44%となったところで冷却し重合を停止した。引き続き、実施例1と同様に変性EVOHを合成して評価した結果を、表1にまとめて示す。
【0083】
比較例3
比較例2と同様にして未変性のEVAcを合成し、EVAcのメタノール溶液を得た。引き続き、水酸化ナトリウムのMeOH溶液を2.2mL/分の速度で添加した以外は、実施例1の(2)と同様の方法でケン化処理した。こうして得られた未変性EVOHを評価した結果を、表1にまとめて示す。
【0084】
実施例3
実施例1の(1)において、MeOHの量を6.3kgにし、開始剤の量を8.4gにし、エチレン圧力を3.0MPaにし、MPDAcの仕込量を29.7gにした以外は、同様の方法で重合を行った。4時間後にVAcの重合率が45%となったところで冷却し重合を停止した。引き続き、実施例1と同様に変性EVOHを合成して評価した結果を、表1にまとめて示す。
【0085】
実施例4
実施例1の(1)において、MeOHの量を4.2kgにし、開始剤の量を16.8gにし、エチレン圧力を5.5MPaにし、MPDAcの仕込量を7.2gにした以外は、同様の方法で重合を行った。3時間後にVAcの重合率が30%となったところで冷却し重合を停止した。引き続き、実施例1と同様に変性EVOHを合成して評価した結果を、表1にまとめて示す。
【0086】
比較例4
実施例1の(1)において、MeOHの量を6.3kgにし、開始剤の量を4.2gにし、エチレン圧力を2.9MPaにし、MPDAcを添加しなかった以外は、同様の方法で重合を行った。4時間後にVAcの重合率が50%となったところで冷却し重合を停止した。引き続き、実施例1と同様に変性EVOHを合成して評価した結果を、表1にまとめて示す。
【0087】
比較例5
実施例1の(1)において、MeOH量を4.2kgにし、開始剤の量を4.2gにし、エチレン圧力を5.3MPaにし、MPDAcを添加しなかった以外は、同様の方法で重合を行った。3時間後にVAcの重合率が29.3%となったところで冷却し重合を停止した。引き続き、実施例1と同様に変性EVOHを合成して評価した結果を、表1にまとめて示す。
【0088】
【表1】