【実施例】
【0026】
以下本発明を実施例により、具体的に説明する。
<安定性評価試験(1)>
弱酸性水溶液(McIlvaine 緩衝液pH5.0)にナイシンAを500IU/ml添加し、更に下記の各種試験化合物を0.1質量%になるように添加して均一になるまで攪拌して試験水溶液を得た。この試験水溶液を75℃の過酷条件で恒温槽内に保存し、保存1日後および6日後のナイシンAの残存活性を、ATP測定装置を用いて調べた。ナイシンAの残存活性は、ナイシン高感受性株Micrococcus luteus NBRC13867を供試菌に用い、バイオルミネッセンス法(標的細胞からのATP流出量測定)により供試菌細胞からのATP流出量を測定した。ATP測定は,ルシフェラーゼ反応を応用したATP測定用試薬キット(ルシフェール250,キッコーマン社製)を使用し,ルミテスター C−100(キッコーマン社製)により測定した。結果を表1に示す。配合直後のATP流出量を100とし、保存後のナイシン残存活性(%)を算出した。保存後の数値減少が少ないほどナイシンAの活性が残存しており、弱酸性溶液内での安定性が高いことになる。
【0027】
試験化合物1:ヒドロキシプロピルセルロース(HPC、和光純薬社製、(2%,20℃)2.0〜2.9mPa・s)
試験化合物2:メチルセルロース(MC15、和光純薬社製、(2%,20℃)13〜18mPa・s)
試験化合物3:アルキルグルコシド(Mydol10、花王株式会社製)
試験化合物4:メチオニン(和光純薬社製)
試験化合物5:尿素(和光純薬社製)
試験化合物6:ジメチルスルホキシド(和光純薬社製)
試験化合物7:乳ホエー(市販ヨーグルトから調製)
【0028】
【表1】
【0029】
上記の安定性評価試験(1)の結果より、弱酸性水溶液でナイシンAと組み合わせて安定性が良好になる化合物は試験化合物1〜3であった。試験化合物4〜6は、酸化防止剤として公知の化合物であるが、いずれも安定化の効果が確認できなかった。また、タンパク質である乳ホエー(試験化合物7)においても安定化の効果は確認できなかった。添加剤無添加の活性を見ると、試験化合物4〜7はナイシンの安定性を逆に低下させている。
【0030】
<安定性評価試験(2)>
弱酸性水溶液でナイシンAの安定性に寄与した試験化合物1〜3について、試験化合物の濃度による安定性の違いを確認した。弱酸性水溶液(McIlvaine 緩衝液pH5.0)にナイシンAを500IU/ml添加し、試験化合物1〜3及び比較のため試験化合物4を0.01〜0.1質量%になるように配合し、40℃の加速条件で恒温槽内に保存し、安定性評価(1)と同様の方法で供試菌細胞からのATP流出を測定し、配合直後のATP流出量を100として、ナイシン残存活性を算出した。結果を表2に示す。
【0031】
【表2】
【0032】
安定性評価試験(1)と違い、40℃の加速条件で弱酸性水溶液下による長期の安定性を調べたが、セルロース誘導体である試験化合物1及び2は0.01質量%の低濃度でも安定性に寄与することが確認された。一方、ノニオン界面活性剤であるアルキルグルコシド(試験化合物3)は、0.05質量%以上の濃度であれば効果が得られるが、0.01質量%の低濃度では22日以降の活性が明らかに低下していることがわかる。なお、安定性評価試験(1)で効果がないと判断された試験化合物4や添加剤無添加は、本試験においても効果が得られないことが確認された。
【0033】
<セルロース誘導体の効果(1)>
セルロース誘導体がナイシン活性(細胞膜損傷)に及ぼす効果を、標的微生物細胞(St. aureus)から溶出したATPの濃度を測定することで評価した。試験は、弱酸性水溶液(McIlvaine 緩衝液pH5.0)にナイシンAを300IU/ml添加し、更に下記の各種試験化合物を0.1質量%になるように添加して均一になるまで攪拌した後、標的微生物細胞(Staphylococcus aureus NBRC12732(黄色ブドウ球菌))と接触させて安定性評価(1)と同様の方法によりATP濃度を測定した。ATP濃度が高いほどナイシン活性が高いことになり、ナイシン活性の増強効果が認められることになる。結果を表3に示す。
【0034】
(試験化合物:いずれも和光純薬社製)
HPC2 :ヒドロキシプロピルセルロース(2%,20℃)2.0〜2.9mPa・s
HPC150:ヒドロキシプロピルセルロース(2%,20℃)150〜400mPa・s
MC15 :メチルセルロース(2%,20℃)13〜18mPa・s
MC100 :メチルセルロース(2%,20℃)80〜120mPa・s
HPMC :ヒドロキシプロピルメチルセルロース(和光純薬社製)
CMC :カルボキシメチルセルロースナトリウム(和光純薬社製)
【0035】
【表3】
【0036】
種々のセルロース誘導体の効果について試験したが、ヒドロキシプロピルメチルセルロースでは増強効果が弱く、カルボキメチルセルロースでは弱い阻害効果を示した。顕著なナイシン活性の増強効果を認めたのは、メチルセルロースとヒドロキシプロピルセルロースだけであった。なお、本試験においてはアルキルセルロースとヒドロキシアルキルセルロースの分子量(粘度)による差は見られなかった。
【0037】
<セルロース誘導体の効果(2)>
セルロース誘導体がナイシン活性(細胞膜損傷)に及ぼす長期的な効果を、標的微生物細胞(St. aureus)から溶出したATPの濃度を測定することで評価した。試験は、弱酸性水溶液(McIlvaine 緩衝液pH5.0)にナイシンAを500IU/ml添加し、更に下記の各種試験化合物を0.1質量%になるように添加して均一になるまで攪拌した後、4℃及び40℃でそれぞれ22日間保存し、保存後の溶液を標的微生物細胞(Staphylococcus aureus NBRC12732(黄色ブドウ球菌))と接触させて安定性評価(1)と同様の方法によりATP濃度を測定した。ATP濃度が高いほどナイシン活性が高く、ナイシン活性が長期間安定ということになる。結果を表4に示す。
【0038】
(試験化合物:いずれも和光純薬社製)
HPC2:ヒドロキシプロピルセルロース(2%,20℃)2.0〜2.9mPa・s
MC15:メチルセルロース(2%,20℃)13〜18mPa・s
HPMC:ヒドロキシプロピルメチルセルロース(和光純薬社製)
CMC :カルボキシメチルセルロースナトリウム(和光純薬社製)
【0039】
【表4】
【0040】
ヒドロキシプロピルセルロース及びメチルセルロースを配合すると、低温でも高温でもナイシン活性が長期間維持されているが、他のセルロース誘導体では、HPCやMCほどの効果は得られていない。
【0041】
<キレート剤の効果>
ナイシンにセルロース誘導体及びキレート剤を添加したときのナイシン活性を測定した。弱酸性水溶液(McIlvaine 緩衝液pH5.0)に各種濃度のナイシンA、セルロース誘導体としてヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を0.1質量%及びキレート剤としてエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)を0.004質量%になるように添加し、Staphylococcus aureus NBRC12732(黄色ブドウ球菌)を供試菌として、最小発育阻止濃度(MIC)を25℃で18時間培養後の培地の混濁にて評価した。ナイシンA以外の添加剤の濃度を固定し、ナイシンAの濃度を変化させたときの、菌が培養されなかったナイシンAの最小濃度をMICとした。表5に結果を示す。
【0042】
【表5】
【0043】
++:菌の培養が確認される
+:わずかだが菌の培養が確認される
−:菌が培養されない
【0044】
試験1はナイシンAのみの結果であり、MICは500IU/mlであった。ナイシンAとセルロース誘導体の併用でMICを半分にでき(試験2)、ナイシンAとキレート剤との併用でMICを1/4にできる(試験3)。ここでナイシンAにセルロース誘導体とキレート剤とを併用すると(試験4)、MICは1/64まで低下し、顕著な相乗効果が確認できた。
【0045】
<溶血性試験>
溶血性試験により、人体等に対する安全性を評価した。溶血性試験は、細胞毒性の指標とされる試験法である。溶血活性は、壊れた赤血球細胞から溶出したヘモグロビンを指標として評価した。赤血球細胞は、緬羊保存血液<SHEEP>(日本バイオテスト研究所社製)をリン酸緩衝生理食塩水で洗浄し調製した。各種試験化合物を0.1質量%になるようリン酸緩衝生理食塩水に添加し、ナイシンと赤血球細胞を混合し、37℃で35分間放置後に上清の吸光度(540nm)を測定した。界面活性剤(Triton X-100)を0.2質量%で作用させ赤血球細胞が完全に溶血した時の吸光度を100(%)とした。試験化合物を0.1質量%になるように添加し、ナイシンは100、500、1000IU/mlの濃度で作用させた。結果を表6に示す。なお、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)が添加されている試験におけるEDTAの配合量は、いずれも試験溶液全量に対して0.004質量%である。
【0046】
(試験化合物)
ポリオキシエチレンオクチルフェノール(Triton X-100:ナカライテスク社製)
アルキルグルコシド(Mydol10、花王株式会社製)
ヒドロキシプロピルセルロース(HPC、和光純薬社製、20℃:2.0〜2.9mPa・S)
メチルセルロース(MC15、和光純薬社製、20℃:13〜18mPa・S)
EDTA(エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム)
【0047】
【表6】
【0048】
ポリエーテル系のノニオン界面活性剤や、弱酸性水溶液中での安定性が良好だったアルキルグルコシドをナイシンンと併用したものは、高い生体膜損傷(細胞毒性)を示した。それに対して、(B)成分とナイシンとの組成物や、(B)成分及び(C)成分との組成物の細胞毒性はナイシン単独と同等であり、(B)成分や(C)成分を添加しても細胞毒性を上昇させないことが確認できた。
【0049】
<アクネ菌に対する効果>
上記安定性評価試験(1)と同じ条件で、試験化合物1(HPC)を用い、また対象となる菌としてPropionicbacterium acnes ATCC6919(アクネ菌)を使用し、バイオルミネッセンス法を用いてナイシンの活性を評価した。
【0050】
【表7】
【0051】
上記の表より、HPC無添加の場合のATP流出量と比較して、HPC0.01質量%添加したものと比較して2倍になった。また、HPC添加量が増えるとATP流出量も増えていき、ナイシンの抗菌活性が増強されることが分かった。
この結果より、本発明のナイシン抗菌性組成物はアクネ菌にも活性があり、ニキビ予防もしくは治療薬として利用可能であることが分かった。
【0052】
さらに、ナイシンにセルロース誘導体およびキレート剤を加えたときの、アクネ菌に対する効果を確認した。
弱酸性水溶液(McIlvaine 緩衝液pH5.0)に各種濃度のナイシンA、セルロース誘導体としてヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を0.1質量%及びキレート剤としてエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)を0.004質量%になるように添加し、Propionicbacterium acnes ATCC6919(アクネ菌)を供試菌として、最小発育阻止濃度(MIC)を25℃で18時間培養後の培地の混濁にて評価した。
ナイシン単独の場合のMICは6.25ug/mL(250IU/mL)であった。これに対し、ナイシンにHPC、EDTAを添加した場合に、MICは0.195ug/mL(7.8IU/mL)となり、ナイシンのアクネ菌に対する効果がHPCおよびEDTAの添加により増強されたことが確認された。