特許第5909821号(P5909821)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5909821
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】ナイシン含有抗菌性組成物
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/22 20060101AFI20160414BHJP
   A01N 63/02 20060101ALI20160414BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20160414BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20160414BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20160414BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20160414BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20160414BHJP
   A61Q 17/00 20060101ALI20160414BHJP
   A61P 17/10 20060101ALI20160414BHJP
【FI】
   A01N25/22
   A01N63/02 P
   A01P3/00
   A61K37/02
   A61P31/04
   A61K47/38
   A61K8/64
   A61Q17/00
   A61P17/10
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-36502(P2012-36502)
(22)【出願日】2012年2月22日
(65)【公開番号】特開2013-170161(P2013-170161A)
(43)【公開日】2013年9月2日
【審査請求日】2014年12月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(73)【特許権者】
【識別番号】513252703
【氏名又は名称】園元 謙二
(73)【特許権者】
【識別番号】593131611
【氏名又は名称】オーム乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(72)【発明者】
【氏名】竹花 稔彦
(72)【発明者】
【氏名】河田 恵美
(72)【発明者】
【氏名】小池 誠治
(72)【発明者】
【氏名】永利 浩平
(72)【発明者】
【氏名】古賀 祥子
【審査官】 松本 淳
(56)【参考文献】
【文献】 特表平08−501091(JP,A)
【文献】 特表平07−508499(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/018186(WO,A1)
【文献】 Lebensm.-Wiss. U.-Technol.,2003年,V36,P209-213
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 1/00−65/48
A01P 1/00−23/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分としてナイシン、(B)成分としてヒドロキシプロピルセルロースを含有することを特徴とするナイシン含有抗菌性組成物。
【請求項2】
(A)成分1質量部に対して(B)成分が0.08〜800000質量部であることを特徴とする請求項1に記載の抗菌性組成物。
【請求項3】
更に(C)成分としてキレート剤を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の抗菌性組成物。
【請求項4】
(C)成分がカルボン酸型キレート剤であることを特徴とする請求項3に記載の抗菌性組成物。
【請求項5】
(A)成分1質量部に対して(B)成分が0.08〜800000質量部、(C)成分が0.025〜300000質量部であることを特徴とする請求項3又は4に記載の抗菌性組成物。
【請求項6】
前記抗菌性組成物が液状である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の抗菌性組成物。
【請求項7】
前記抗菌性組成物のpHが3〜7である、請求項6に記載の抗菌性組成物。
【請求項8】
ナイシンの抗菌活性を、ヒドロキシプロピルセルロースを共存させることで増強させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弱酸性領域での保存安定性が良好で、且つナイシンの濃度が低濃度でも優れた抗菌効果を発揮するナイシン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
食品や化粧品あるいは医療分野においては、防腐剤や抗菌剤が幅広く使用されているが、パラベンに代表される多くの抗菌剤は、皮膚への高い刺激性や肌の老化促進、細胞毒性あるいはアレルギーの促進等が指摘されており、自然物由来の安全性の高い抗菌剤が求められている。こうした中、近年ナイシンに注目が集まっている。ナイシンは乳酸球菌により生産される耐熱性の低分子ペプチドであり、抗菌剤として公知の物質である。ナイシンの類縁体の1つであるナイシンAは、GRAS(Generally recognized as safe)物質として1969年に米国FDAに認可され、現在50カ国以上の国で食品保存料として利用されており、日本でも2009年に食品添加物として指定された安全性の高い抗菌剤である。
【0003】
しかしながらナイシンは、化粧品として皮膚刺激性の低い弱酸性〜中性領域で、水への溶解度や水溶液の安定性が低下するため、弱酸性に調製した化粧品にはナイシンの使用が困難であるという問題が指摘されている。また、その他の抗菌剤と比較するとナイシンは高価であり、経済的には価格競争力が低いという問題もある。
【0004】
こうした中、ナイシンの安定性を向上させる組成物が知られている(例えば、特許文献1又は2を参照)。しかしながら特許文献1の組成物は、ナイシンの酸化を防止して安定化するには有効であるが、弱酸性〜中性下での安定化には効果が認められない。また特許文献2の組成物は、弱酸性〜中性下での安定化に効果は見られ、更に相乗効果によりナイシンが低濃度でも抗菌効果を発揮する。少量の添加量で抗菌効果が向上することから経済的にも優れているが、抗菌効果の向上と共に細胞毒性を上昇させる問題がある。細胞毒性が高くなると生体膜を損傷させる割合が上昇するため、人体に対する安全性という観点から好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−270014号公報
【特許文献2】特開2007−099809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明が解決しようとする課題は、弱酸性領域での保存安定性が良好で、且つナイシンの濃度が低濃度でも細胞毒性を上昇させずに優れた抗菌効果を発揮するナイシン含有組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者等は鋭意検討し、ナイシンの抗菌効果を最大限に発揮できる組成物を見出し、本発明に至った。即ち、本発明は、(A)成分としてナイシン、(B)成分としてヒドロキシプロピルセルロースを含有することを特徴とするナイシン含有抗菌性組成物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の効果は、弱酸性領域での保存安定性が良好で、且つナイシンの濃度が低濃度でも細胞毒性を上昇させずに優れた抗菌効果を発揮するナイシン含有抗菌性組成物を提供したことにある。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の(A)成分はナイシンである。本発明で「ナイシン」というときは、特に示した場合を除き、ナイシンA、ナイシンZ、ナイシンQ等のナイシン類を全て含むが、本発明の(A)成分としてはナイシンA及びナイシンZを使用することが好ましく、ナイシンAを使用することがより好ましい。ナイシンAは乳酸菌Lactococcus lactisにより産生され、欧米など50カ国以上で既に食品添加物として認可使用されている。ナイシンZは、ナイシンAに類似のバクテリオシンで、ナイシンAを構成する34個のアミノ酸残基のうち、N末端から27番目が、ナイシンAがヒスチジン残基であるのに対し、ナイシンZがアスパラギン残基である点でのみ異なる化合物である。ナイシンポリペプチドは、国際単位により、1ug=40IUと定義される。
【0010】
本発明の組成物の抗菌活性は、微生物の菌体内から菌体外に流出するATPの量を指標にして判断することができる。ナイシンは、微生物の細胞膜(リピッドII)に作用し、細胞膜に孔を形成することによって殺菌効果を発揮することから、形成された孔から菌体外に流出したATPの量が多いほど殺菌活性が高いと判断できる。ATP量の測定は、例えば、ルシフェラーゼによって触媒されるATPとルシフェリンの反応で生じる発光を、例えば光電子増倍管を検出器とした測定装置を用いて測定することができる。
【0011】
ナイシンは、乳酸菌を公知の方法により培養し、精製することによって得ることができる。また例えば、ナイサプリン(Nisaplin、ダニスコ株式会社製)を購入してもよい。ナイサプリンは、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)由来のナイシンと塩化ナトリウムとの混合物であり、無脂肪乳または糖培地由来の成分を含む。必要な場合、公知の精製方法により精製度を高めて使用してもよい。
【0012】
本発明の(B)成分はアルキルセルロース類及びヒドロキシアルキルセルロース類から選択される1種又は2種以上のセルロース誘導体である。当該セルロース誘導体とは、セルロース骨格を有するポリマーの水酸基をアルキル基又はヒドロキシアルキル基で変性(置換)したものであり、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース等のアルキルセルロース類、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシブチルセルロース等のヒドロキシアルキルセルロース類が挙げられる。これらの中でも保存安定性が良好で、ナイシンとの相乗効果が優れていることから、メチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロースが好ましく、ヒドロキシプロピルセルロースがより好ましい。これらのセルロース誘導体は、単品で使用しても複数のセルロース誘導体を混合して使用してもよい。
なお、ここでのアルキルセルロース類及びヒドロキシアルキルセルロース類から選択されるセルロース誘導体とは、アルキル変性またはヒドロキシアルキル変性のみを行っているセルロース誘導体であり、セルロースの変性の際、異なる2種以上の基を組み合わせて変性を行っているセルロース誘導体、及びアルキル変性あるいはヒドロキシアルキル変性以外の変性を行っているセルロース誘導体は含まない。例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)のようにヒドロキシアルキル変性とアルキル変性とを組み合わせたセルロース誘導体や、カルボキシメチルセルロース(CMC)のようにカルボキシメチル変性を行ったセルロース誘導体は含まない。
【0013】
これらセルロース誘導体の分子量は特に規定されないが、取扱いが良好なことから、重量平均分子量が10000〜1000000が好ましく、ヒドロキシアルキルセルロースでは30000〜1000000、アルキルセルロースでは13000〜20000がより好ましい。また、変性の割合(置換度)についても特に規定されないが、置換度は0.2〜3.0が好ましく、ヒドロキシアルキルセルロースでは0.4〜3.0、アルキルセルロースでは1.3〜2.6がより好ましい。置換度とは、セルロース骨格を構成するグルコピラノース環にある3つの水酸基の変性率を表したものであり、置換度3で全ての水酸基が置換されたことになる。
【0014】
本発明は(A)成分であるナイシンと(B)成分であるセルロース誘導体を含有する組成物である。(A)成分と(B)成分の配合比は特に規定されないが、保存安定性が良好で、ナイシンの持つ抗菌効果を向上させる相乗効果に優れることから、(A)成分1質量部に対して(B)成分が0.08〜800000質量部であることが好ましく、0.8〜400000質量部であることがより好ましく、3〜20000質量部であることが更に好ましい。
【0015】
本発明は更に(C)成分を配合することで、保存安定性及びナイシンの持つ抗菌効果を向上させる相乗効果を更に向上させることができる。(C)成分はキレート剤であり、キレート効果を持つ公知のキレート剤であれば特に指定されない。キレート剤としては、例えば、オルトリン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、ヘキサメタリン酸等のリン酸及びその塩;ニトリロ三酢酸(NTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミノ五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラアミン六酢酸(TTHA)、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸(HIDA)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、メチルグリシン二酢酸(MGDA)、グルタミン酸二酢酸(GLDA)、アスパラギン酸二酢酸(ASDA)、β-アラニン二酢酸(ADA)、セリン二酢酸(SDA)等のアミノポリ酢酸及びその塩;グリシン、アラニン、グルタミン酸、アスパラギン酸等のアミノ酸や、グルコール酸、乳酸、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、リンゴ酸等の有機酸及びその塩;ポリアクリル酸、ポリフマル酸、ポリマレイン酸、ポリ−α−ヒドロキシアクリル酸、ポリアセタールアクリル酸等の高分子及びその塩が挙げられる。なお塩としてはナトリウム塩やカリウム塩が挙げられ、ナトリウム塩であることが好ましい。これらのキレート剤の中でも、保存安定性が良好で、ナイシンとの相乗効果が優れていることから、アミノポリ酢酸及びその塩が好ましく、アミノポリ酢酸塩がより好ましく、エチレンジアミン四酢酸塩が更に好ましい。
【0016】
(C)成分の配合比は特に規定されないが、保存安定性が良好で、ナイシンとの相乗効果が優れていることから、(A)成分1質量部に対して(C)成分が0.025〜300000質量部であることが好ましく、0.3〜150000質量部がより好ましく、0.5〜60000質量部が更に好ましい。
【0017】
本発明の組成物はそのままでも使用できるが、溶媒を添加して、液状、半固形状又は固形状等の種々の形状にして使用することもできる。溶媒は種類を選ばず、水、水溶性溶剤、油溶性溶剤のいずれも使用することができるが、本発明の組成物は、主に医薬品や医薬部外品あるいは化粧品に好適に使用できるため、安全性の高い溶剤の使用が好ましい。
【0018】
安全性の高い溶剤として水が挙げられるが、水溶性溶剤としては、例えば、エタノール、プロパノール等のアルコール類が挙げられる。油溶性溶剤としては、例えば、オリーブ油、大豆油、ナタネ油、ひまし油、パーム油、ヤシ油、コーン油、落花生油等の植物油;豚油、牛脂等の動物油が挙げられ、その他ミツロウ、ワセリン等も使用することができる。これらの溶媒は、本発明の用途によって適宜選択すればよい。
【0019】
本発明の組成物は、殺菌や抗菌を要する用途であればいずれの用途にも使用することができるが、安全性が高いことから、医薬品や医薬部外品あるいは化粧品に使用することが好ましい。具体的には、手指用洗浄殺菌剤、口腔内洗浄剤、歯磨き剤、制汗剤、外用抗菌薬等が挙げられる。従来から使用されている殺菌剤は、皮膚刺激性が大きく、標的である細菌のみならず皮膚組織の修復に寄与する細胞、例えば免疫細胞、線維芽細胞、及び表皮細胞に対しても毒性を示す問題がある。例えば、一般的な皮膚疾患であるニキビ(尋常性座瘡)は、皮脂分泌の増加による毛嚢皮脂線の閉塞、及びアクネ菌(プロピオニバクテリウム・アクネス)の異常増殖が原因で起こることが知られている。ニキビの予防や治療における抗生物質の使用は、副作用や耐性菌が発生するという問題があり、イオウやサルファ剤等の角質の剥離剤の使用は、皮膚刺激性という問題がある。本発明は、皮膚への刺激性が低くかつ安全性の高い、皮膚疾患の予防や治療用の組成物を提供することができる。
【0020】
また別の用途としては、例えば、家庭用・業務用の厨房、調理器具、食品加工工場、食品素材製造工場などにおいて、食品危害微生物の殺菌に使用できる。
【0021】
これらの用途に本発明の組成物を使用する際、本発明の組成物の濃度は特に規定されないが、ナイシンの抗菌上有効量として5〜50,000IU/mlが好ましく、10〜5,000IU/mlがより好ましく、50〜1,000IU/mlが更に好ましい。5IU/ml未満になると抗菌効果が得られない場合があり、50,000IU/mlを超えると使用するナイシンの量が多くなるため経済的に不利になる。なお、5〜50,000IU/mlは国際単位の定義より0.125〜1250ug/mlに相当する。
【0022】
ナイシンを配合した組成物は、通常pHが3程度の酸性下でナイシンが安定に存在し、pHが3より大きくなる中性領域にいくに従いナイシンの安定性が低下する。本発明においては、ナイシンに(B)成分を配合することにより、pH3〜7の領域でもナイシンの安定性を改善し、更にナイシンの抗菌活性を向上させることができる。また(C)成分を配合することにより、ナイシンの抗菌活性を更に向上させることができる。また本発明の組成物は、通常、抗菌活性の向上と共に上昇する細胞毒性を上昇させない。
【0023】
本発明の組成物は、複数の種類の菌に対して殺菌あるいは抗菌効果を示すが、グラム陽性菌の殺菌に使用することが好ましい。グラム陽性菌としては、例えば、スタフィロコッカス属(Staphylococcus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、バチルス属(Bacillus)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、好ましくは、スタフィロコッカス・オーレウス(Staphylococcus aureus)、スタフィロコッカス・エピデルミス(Staphylococcus epidermis)、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)に属する微生物が挙げられる。
【0024】
一方で、ナイシンはグラム陰性菌に対する効果が低いことが知られている。本発明においては、ナイシンに(B)成分を配合することにより、グラム陰性菌に対するナイシンの抗菌活性を向上させ、ナイシンの抗菌スペクトルを改善することができる。また(C)成分を配合することにより、ナイシンの抗菌活性を更に向上させることが可能になる。グラム陰性菌としては、例えば、エッシェリヒア属(Escherichia)、シュードモナス属(Pseudomonas)、セラチア属(Serratia)、好ましくは、エッシェリヒア・コリ(Escherichia coli)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、セラチア・マルセセンス(Serratia marcescens)に属する微生物が挙げられる。
【0025】
また抗生物質耐性菌に対してもナイシンは有効であり、 例えば、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)、多剤耐性緑膿菌(MDRP)、カルバペネム耐性緑膿菌、カルバペネム耐性セラチア、第三世代セファロスポリン耐性大腸菌、第三世代セファロスポリン耐性肺炎桿菌、多剤耐性アシネトバクターなどに対しても殺菌効果を有する。
【実施例】
【0026】
以下本発明を実施例により、具体的に説明する。
<安定性評価試験(1)>
弱酸性水溶液(McIlvaine 緩衝液pH5.0)にナイシンAを500IU/ml添加し、更に下記の各種試験化合物を0.1質量%になるように添加して均一になるまで攪拌して試験水溶液を得た。この試験水溶液を75℃の過酷条件で恒温槽内に保存し、保存1日後および6日後のナイシンAの残存活性を、ATP測定装置を用いて調べた。ナイシンAの残存活性は、ナイシン高感受性株Micrococcus luteus NBRC13867を供試菌に用い、バイオルミネッセンス法(標的細胞からのATP流出量測定)により供試菌細胞からのATP流出量を測定した。ATP測定は,ルシフェラーゼ反応を応用したATP測定用試薬キット(ルシフェール250,キッコーマン社製)を使用し,ルミテスター C−100(キッコーマン社製)により測定した。結果を表1に示す。配合直後のATP流出量を100とし、保存後のナイシン残存活性(%)を算出した。保存後の数値減少が少ないほどナイシンAの活性が残存しており、弱酸性溶液内での安定性が高いことになる。
【0027】
試験化合物1:ヒドロキシプロピルセルロース(HPC、和光純薬社製、(2%,20℃)2.0〜2.9mPa・s)
試験化合物2:メチルセルロース(MC15、和光純薬社製、(2%,20℃)13〜18mPa・s)
試験化合物3:アルキルグルコシド(Mydol10、花王株式会社製)
試験化合物4:メチオニン(和光純薬社製)
試験化合物5:尿素(和光純薬社製)
試験化合物6:ジメチルスルホキシド(和光純薬社製)
試験化合物7:乳ホエー(市販ヨーグルトから調製)
【0028】
【表1】
【0029】
上記の安定性評価試験(1)の結果より、弱酸性水溶液でナイシンAと組み合わせて安定性が良好になる化合物は試験化合物1〜3であった。試験化合物4〜6は、酸化防止剤として公知の化合物であるが、いずれも安定化の効果が確認できなかった。また、タンパク質である乳ホエー(試験化合物7)においても安定化の効果は確認できなかった。添加剤無添加の活性を見ると、試験化合物4〜7はナイシンの安定性を逆に低下させている。
【0030】
<安定性評価試験(2)>
弱酸性水溶液でナイシンAの安定性に寄与した試験化合物1〜3について、試験化合物の濃度による安定性の違いを確認した。弱酸性水溶液(McIlvaine 緩衝液pH5.0)にナイシンAを500IU/ml添加し、試験化合物1〜3及び比較のため試験化合物4を0.01〜0.1質量%になるように配合し、40℃の加速条件で恒温槽内に保存し、安定性評価(1)と同様の方法で供試菌細胞からのATP流出を測定し、配合直後のATP流出量を100として、ナイシン残存活性を算出した。結果を表2に示す。
【0031】
【表2】
【0032】
安定性評価試験(1)と違い、40℃の加速条件で弱酸性水溶液下による長期の安定性を調べたが、セルロース誘導体である試験化合物1及び2は0.01質量%の低濃度でも安定性に寄与することが確認された。一方、ノニオン界面活性剤であるアルキルグルコシド(試験化合物3)は、0.05質量%以上の濃度であれば効果が得られるが、0.01質量%の低濃度では22日以降の活性が明らかに低下していることがわかる。なお、安定性評価試験(1)で効果がないと判断された試験化合物4や添加剤無添加は、本試験においても効果が得られないことが確認された。
【0033】
<セルロース誘導体の効果(1)>
セルロース誘導体がナイシン活性(細胞膜損傷)に及ぼす効果を、標的微生物細胞(St. aureus)から溶出したATPの濃度を測定することで評価した。試験は、弱酸性水溶液(McIlvaine 緩衝液pH5.0)にナイシンAを300IU/ml添加し、更に下記の各種試験化合物を0.1質量%になるように添加して均一になるまで攪拌した後、標的微生物細胞(Staphylococcus aureus NBRC12732(黄色ブドウ球菌))と接触させて安定性評価(1)と同様の方法によりATP濃度を測定した。ATP濃度が高いほどナイシン活性が高いことになり、ナイシン活性の増強効果が認められることになる。結果を表3に示す。
【0034】
(試験化合物:いずれも和光純薬社製)
HPC2 :ヒドロキシプロピルセルロース(2%,20℃)2.0〜2.9mPa・s
HPC150:ヒドロキシプロピルセルロース(2%,20℃)150〜400mPa・s
MC15 :メチルセルロース(2%,20℃)13〜18mPa・s
MC100 :メチルセルロース(2%,20℃)80〜120mPa・s
HPMC :ヒドロキシプロピルメチルセルロース(和光純薬社製)
CMC :カルボキシメチルセルロースナトリウム(和光純薬社製)
【0035】
【表3】
【0036】
種々のセルロース誘導体の効果について試験したが、ヒドロキシプロピルメチルセルロースでは増強効果が弱く、カルボキメチルセルロースでは弱い阻害効果を示した。顕著なナイシン活性の増強効果を認めたのは、メチルセルロースとヒドロキシプロピルセルロースだけであった。なお、本試験においてはアルキルセルロースとヒドロキシアルキルセルロースの分子量(粘度)による差は見られなかった。
【0037】
<セルロース誘導体の効果(2)>
セルロース誘導体がナイシン活性(細胞膜損傷)に及ぼす長期的な効果を、標的微生物細胞(St. aureus)から溶出したATPの濃度を測定することで評価した。試験は、弱酸性水溶液(McIlvaine 緩衝液pH5.0)にナイシンAを500IU/ml添加し、更に下記の各種試験化合物を0.1質量%になるように添加して均一になるまで攪拌した後、4℃及び40℃でそれぞれ22日間保存し、保存後の溶液を標的微生物細胞(Staphylococcus aureus NBRC12732(黄色ブドウ球菌))と接触させて安定性評価(1)と同様の方法によりATP濃度を測定した。ATP濃度が高いほどナイシン活性が高く、ナイシン活性が長期間安定ということになる。結果を表4に示す。
【0038】
(試験化合物:いずれも和光純薬社製)
HPC2:ヒドロキシプロピルセルロース(2%,20℃)2.0〜2.9mPa・s
MC15:メチルセルロース(2%,20℃)13〜18mPa・s
HPMC:ヒドロキシプロピルメチルセルロース(和光純薬社製)
CMC :カルボキシメチルセルロースナトリウム(和光純薬社製)
【0039】
【表4】
【0040】
ヒドロキシプロピルセルロース及びメチルセルロースを配合すると、低温でも高温でもナイシン活性が長期間維持されているが、他のセルロース誘導体では、HPCやMCほどの効果は得られていない。
【0041】
<キレート剤の効果>
ナイシンにセルロース誘導体及びキレート剤を添加したときのナイシン活性を測定した。弱酸性水溶液(McIlvaine 緩衝液pH5.0)に各種濃度のナイシンA、セルロース誘導体としてヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を0.1質量%及びキレート剤としてエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)を0.004質量%になるように添加し、Staphylococcus aureus NBRC12732(黄色ブドウ球菌)を供試菌として、最小発育阻止濃度(MIC)を25℃で18時間培養後の培地の混濁にて評価した。ナイシンA以外の添加剤の濃度を固定し、ナイシンAの濃度を変化させたときの、菌が培養されなかったナイシンAの最小濃度をMICとした。表5に結果を示す。
【0042】
【表5】
【0043】
++:菌の培養が確認される
+:わずかだが菌の培養が確認される
−:菌が培養されない
【0044】
試験1はナイシンAのみの結果であり、MICは500IU/mlであった。ナイシンAとセルロース誘導体の併用でMICを半分にでき(試験2)、ナイシンAとキレート剤との併用でMICを1/4にできる(試験3)。ここでナイシンAにセルロース誘導体とキレート剤とを併用すると(試験4)、MICは1/64まで低下し、顕著な相乗効果が確認できた。
【0045】
<溶血性試験>
溶血性試験により、人体等に対する安全性を評価した。溶血性試験は、細胞毒性の指標とされる試験法である。溶血活性は、壊れた赤血球細胞から溶出したヘモグロビンを指標として評価した。赤血球細胞は、緬羊保存血液<SHEEP>(日本バイオテスト研究所社製)をリン酸緩衝生理食塩水で洗浄し調製した。各種試験化合物を0.1質量%になるようリン酸緩衝生理食塩水に添加し、ナイシンと赤血球細胞を混合し、37℃で35分間放置後に上清の吸光度(540nm)を測定した。界面活性剤(Triton X-100)を0.2質量%で作用させ赤血球細胞が完全に溶血した時の吸光度を100(%)とした。試験化合物を0.1質量%になるように添加し、ナイシンは100、500、1000IU/mlの濃度で作用させた。結果を表6に示す。なお、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)が添加されている試験におけるEDTAの配合量は、いずれも試験溶液全量に対して0.004質量%である。
【0046】
(試験化合物)
ポリオキシエチレンオクチルフェノール(Triton X-100:ナカライテスク社製)
アルキルグルコシド(Mydol10、花王株式会社製)
ヒドロキシプロピルセルロース(HPC、和光純薬社製、20℃:2.0〜2.9mPa・S)
メチルセルロース(MC15、和光純薬社製、20℃:13〜18mPa・S)
EDTA(エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム)
【0047】
【表6】
【0048】
ポリエーテル系のノニオン界面活性剤や、弱酸性水溶液中での安定性が良好だったアルキルグルコシドをナイシンンと併用したものは、高い生体膜損傷(細胞毒性)を示した。それに対して、(B)成分とナイシンとの組成物や、(B)成分及び(C)成分との組成物の細胞毒性はナイシン単独と同等であり、(B)成分や(C)成分を添加しても細胞毒性を上昇させないことが確認できた。
【0049】
<アクネ菌に対する効果>
上記安定性評価試験(1)と同じ条件で、試験化合物1(HPC)を用い、また対象となる菌としてPropionicbacterium acnes ATCC6919(アクネ菌)を使用し、バイオルミネッセンス法を用いてナイシンの活性を評価した。
【0050】
【表7】
【0051】
上記の表より、HPC無添加の場合のATP流出量と比較して、HPC0.01質量%添加したものと比較して2倍になった。また、HPC添加量が増えるとATP流出量も増えていき、ナイシンの抗菌活性が増強されることが分かった。
この結果より、本発明のナイシン抗菌性組成物はアクネ菌にも活性があり、ニキビ予防もしくは治療薬として利用可能であることが分かった。
【0052】
さらに、ナイシンにセルロース誘導体およびキレート剤を加えたときの、アクネ菌に対する効果を確認した。
弱酸性水溶液(McIlvaine 緩衝液pH5.0)に各種濃度のナイシンA、セルロース誘導体としてヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を0.1質量%及びキレート剤としてエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)を0.004質量%になるように添加し、Propionicbacterium acnes ATCC6919(アクネ菌)を供試菌として、最小発育阻止濃度(MIC)を25℃で18時間培養後の培地の混濁にて評価した。
ナイシン単独の場合のMICは6.25ug/mL(250IU/mL)であった。これに対し、ナイシンにHPC、EDTAを添加した場合に、MICは0.195ug/mL(7.8IU/mL)となり、ナイシンのアクネ菌に対する効果がHPCおよびEDTAの添加により増強されたことが確認された。