(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
半導体素子用のウェーハの一つとして、絶縁膜であるシリコン酸化膜の上にシリコン層を形成したSOI(Silicon On Insulator)ウェーハがある。このSOIウェーハは、デバイス作製領域となる基板表層部のシリコン層(以下、SOI層と呼ぶことがある)が埋め込み酸化膜層(BOX層)により基板内部と電気的に分離されているため、寄生容量が小さく、耐放射性能力が高いなどの特徴を有する。そのため、高速・低消費電力動作、ソフトエラー防止などの効果が期待され、高性能半導体素子用の基板として有望視されている。
【0003】
このSOIウェーハを製造する代表的な方法として、ウェーハ貼り合わせ法やSIMOX法が挙げられる。
ウェーハ貼り合わせ法は、例えば2枚のシリコン単結晶ウェーハのうちの一方の表面に熱酸化膜を形成した後、この形成した熱酸化膜を介して2枚のウェーハを密着させ、結合熱処理を施すことによって結合力を高め、その後に片方のウェーハ(SOI層を形成するウェーハ(以下、ボンドウェーハ))を鏡面研磨等により薄膜化することによってSOIウェーハを製造する方法である。
【0004】
また、この薄膜化の方法としては、ボンドウェーハを所望の厚さまで研削、研磨する方法や、予めボンドウェーハの内部に水素イオンまたは希ガスイオンの少なくとも1種類を注入してイオン注入層を形成しておき、貼り合わせ後にイオン注入層においてボンドウェーハを剥離するイオン注入剥離法と呼ばれる方法等がある。
【0005】
一方、SIMOX法は、単結晶シリコン基板の内部に酸素をイオン注入し、その後に高温熱処理(酸化膜形成熱処理)を行って、注入した酸素とシリコンとを反応させてBOX層(埋め込み酸化膜層)を形成することによってSOI基板を製造する方法である。
【0006】
上記の代表的な2つの手法のうち、ウェーハ貼り合わせ法は、作製されるSOI層やBOX層の厚さが自由に設定できるという優位性があるため、様々なデバイス用途に適用することが可能である。
特に、ウェーハ貼り合わせ法の一つであるイオン注入剥離法は、上記優位性に加え、さらに優れた膜厚均一性を有する特徴があり、ウェーハ全面で安定したデバイス特性を得ることができる。
【0007】
しかしながら、イオン注入剥離法では、結晶方位をもつ単結晶材料に、イオン注入を行うため、チャネリング効果を考慮せずにイオン注入を行うと、一部のイオンが深い位置まで打ち込まれてしまうため、注入深さ均一性の悪化や、注入ピーク位置濃度の低下が起き、剥離後の膜厚均一性が悪化したり、剥離が出来ないなどの問題が発生してしまう。
【0008】
この対策として、単結晶材料で、(100)方位を持つシリコンウェーハなどは、イオン注入角度を7度にすることで、イオンと単結晶材料との衝突確率を上げて、注入深さ均一性、注入量均一性を改善できることが知られている(非特許文献1)。
また、この対策として、単結晶材料の表面にアモルファスからなる、例えば、酸化膜を形成することで、アモルファス層にて、イオンの進入方向をランダムに変え、チャネリング抑制できることが知られている(非特許文献1)。
【0009】
また、特許文献1(請求項3、
図2)には、イオン注入面に付着したパーティクルに起因するマイクロボイドを低減するため、水素イオン注入を複数に分割し、かつ、イオン注入角度を変えてイオン注入することが記載されている。特に、実施例2においては、水素イオン注入を2回に分割し、±15度でイオン注入することが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
イオン注入剥離法で作製する貼り合わせウェーハの薄膜の膜厚均一性への要求は、年々厳しくなっている。
イオン注入剥離法で貼り合わせウェーハを作製する場合において、ウェーハ表面に酸化膜などの絶縁膜が形成されていないベアウェーハの状態でイオン注入する際、例えば、注入角度を7度として注入すると、剥離後の転写層の膜厚均一性が、ある方向に向かって若干の傾斜を持ち、これが剥離後の膜厚均一性を悪化させていることが判明した。
【0013】
また、イオン注入剥離法で貼り合わせウェーハを作製する場合において、注入するウェーハに、アモルファスからなる酸化膜層を形成して、注入角度を0度として注入すると、剥離後の転写層の膜厚均一性が、ある位置方向に向かって、中央部は厚く、外周部は薄い、凸状の分布をもち、これが剥離後の膜厚均一性を悪化させている場合があることが判明した。
【0014】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであって、バッチ式イオン注入機により、均一な深さにイオン注入して貼り合わせウェーハを作製するにあたり、剥離後に得られる転写層の膜厚均一性を改善し、所望の膜厚均一性を有する薄膜が形成された貼り合わせウェーハを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明は、回転体と該回転体に設けられ基板を配置する複数のウェーハ保持具とを備え、該ウェーハ保持具に配置され公転している複数の基板にイオン注入するバッチ式イオン注入機を使用し、ボンドウェーハの表面から水素イオン、希ガスイオンの少なくとも一種類のガスイオンをイオン注入してイオン注入層を形成するイオン注入工程と、前記ボンドウェーハのイオン注入した表面とベースウェーハの表面とを直接あるいは絶縁膜を介して貼り合わせる貼り合わせ工程と、前記イオン注入層でボンドウェーハを剥離させることにより、前記ベースウェーハ上に薄膜を有する貼り合わせウェーハを作製する剥離工程とを有する貼り合わせウェーハの製造方法において、前記ボンドウェーハを、シリコン単結晶からなるベアウェーハ、又は、前記イオン注入する側の表面に厚さ1nm以上100nm以下の絶縁膜が形成されたシリコン単結晶ウェーハとし、前記イオン注入工程において、同等の注入量でイオン注入を2回に分けて行い、該2回のイオン注入の際、公転方向にイオン注入角度+X度と−X度でそれぞれイオン注入し、前記イオン注入角度X度を前記ボンドウェーハに注入されたイオンのチャネリングが最小となるように設定することを特徴とする貼り合わせウェーハの製造方法を提供する。
【0016】
このように、イオン注入工程を行うことで、チャネリングを最小に抑制しつつ、各イオン注入の深さの不均一を相殺し、剥離後の薄膜の膜厚均一性を向上させることができる。
【0017】
このとき、前記各イオン注入の際の同等の注入量を、前記イオン注入工程における全注入量の40〜60%の範囲内とすることが好ましい。
このようなイオン注入量で各イオン注入を実施することで、より均一な深さにイオン注入でき、剥離後のボンドウェーハの膜厚均一性を良好に保つことができる。
【0018】
このとき、前記シリコン単結晶ウェーハの面方位を{100}とし、前記イオン注入角度X度を7度以上8度以下とすることが好ましい。
これにより、イオン注入においてチャネリングの発生を最小に抑制することができる。
【0019】
本発明は、回転体と該回転体に設けられ基板を配置する複数のウェーハ保持具とを備え、該ウェーハ保持具に配置され公転している複数の基板にイオン注入するバッチ式イオン注入機を使用し、ボンドウェーハの表面から水素イオン、希ガスイオンの少なくとも一種類のガスイオンをイオン注入してイオン注入層を形成するイオン注入工程と、前記ボンドウェーハのイオン注入した表面とベースウェーハの表面とを絶縁膜を介して貼り合わせる貼り合わせ工程と、前記イオン注入層でボンドウェーハを剥離させることにより、前記ベースウェーハ上に薄膜を有する貼り合わせウェーハを作製する剥離工程とを有する貼り合わせウェーハの製造方法において、前記ボンドウェーハを、前記イオン注入する側の表面に、厚さ1nm以上100nm以下の絶縁膜を形成したシリコン単結晶ウェーハとし、前記イオン注入工程において、同等の注入量でイオン注入を2回に分けて行い、該2回のイオン注入の際、公転方向にイオン注入角度+X度と−X度でそれぞれイオン注入し、前記イオン注入角度X度を1度以上3度以下に設定することを特徴とする貼り合わせウェーハの製造方法を提供する。
【0020】
このようにしてイオン注入工程を行うことで、各イオン注入の深さの不均一を相殺し、剥離後の薄膜の膜厚均一性を向上させることができる。
【0021】
このとき、前記各イオン注入の際の同等の注入量を、前記イオン注入工程における全注入量の40〜60%の範囲内とすることが好ましい。
このようなイオン注入量で各イオン注入を実施することで、より均一な深さにイオン注入することができ、剥離後のボンドウェーハの膜厚均一性を良好に保つことができる。
【0022】
このとき、前記シリコン単結晶ウェーハの面方位を{100}とすることが好ましい。
このような面方位のシリコン単結晶ウェーハを使用することで、シリコン半導体素子の作製に広く応用することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明によれば、イオン注入深さ分布のバラツキを改善し、薄膜の膜厚均一性が飛躍的に向上された貼り合わせウェーハを量産レベルで製造することができるため、このような貼り合わせウェーハを用いたデバイスの閾値電圧を安定化でき、デバイス歩留りが向上する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明者らは、バッチ式イオン注入機を用いて、イオン注入剥離法により、薄膜を有する貼り合わせウェーハを製造するに当たって、注入するウェーハが、アモルファス層を持たないベアウェーハ、もしくは、酸化膜厚が1〜100nmと薄い酸化膜付ウェーハである場合、バッチ式イオン注入機の回転体が持つコーンアングル効果により、回転体の回転する円周方向に対してイオン注入深さが変化し、得られる薄膜の膜厚バラツキが大きくなることを発見した。
【0026】
このように、イオン注入剥離法を用いた貼り合わせウエーハの製造方法において、イオン注入の深さ分布が生じる要因の1つとしては、コーンアングル(cone angle)効果がある。
【0027】
図2に示すように、バッチ式イオン注入機10は、基板3を保持するために、ウェーハ保持具2は回転体1の回転面より若干内側に傾けてある。この理由は、回転体1が回転することの遠心力により、ウェーハ保持具2に基板3を押し付け、それにより、基板3の裏面とウェーハ保持具2との押し付け力を増大し、接触面積を増加させ、基板3の冷却能力高めるためである。これにより、回転体1が回転する際、その遠心力により基板3をウェーハ保持具2に押し付ける力が働き、ウェーハ保持具2は基板3を保持するようになっている。
【0028】
ただし、このように回転体1の回転面と基板3の表面が平行でない場合、イオンビームを基板3に対して一定角度で注入しようとしても、基板中央部とビームスキャン方向の基板両端部では、回転体の回転に応じて注入角度にごくわずかなズレが生じる。これにより、イオン注入深さが基板中央部では深く(
図5の(a))、スキャン方向の基板両端部(
図5の(b)、(c))では浅くなる。この現象を、コーンアングル効果と呼んでいる。
【0029】
このため、イオン注入剥離法におけるイオン注入においては、基板3とイオンビームの設定角度は、基板3の表面とイオンビームとの角度が垂直になる注入角度0度(α=0°)に設定することで(
図5の(a))、スキャン方向の基板3の両端部で注入角度が同程度ずれる様にして、イオン注入の深さの分布が比較的均一になるようにしている。
【0030】
しかし、上記のようにイオン注入角度を0度に設定して、コーンアングル効果の影響を抑制する場合であっても、イオン注入層の深さ分布のバラツキが発生する別の要因として、Thin BOX型のSOIウェーハや酸化膜を介さない直接接合ウェーハの作製において、チャネリングが発生することが挙げられる。
【0031】
酸化膜を介さない直接接合ウェーハや、100nm以下のBOX層(シリコン酸化膜層)膜厚を有するThin BOX型のSOIウェーハの作製においては、酸化膜による散乱の効果が小さくなり、イオン注入角度を0度に設定したイオン注入ではチャネリングが発生する。
【0032】
バッチ式イオン注入機の場合、基板中央部では、基板内の結晶面とイオンビームの角度が垂直になるため、チャネリングの効果が大きくなり、イオン注入深さは深くなる。一方、スキャン方向の基板両端ではコーンアングル効果により注入角度が生じるため、チャネリングの影響は相対的に弱くなり、イオン注入深さが浅くなる。このように、Thin BOX型のSOIウェーハや、酸化膜を介さない直接接合ウェーハの作製においては、特にコーンアングル効果がチャネリングによって強調される。
【0033】
また、イオン注入剥離法により、貼り合わせウェーハを作製するに当たって、ウェーハ径が150mmと小さいうちは、コーンアングル効果による注入深さ均一性悪化がそれほど大きくなく、更に、要求されるSOI層膜厚バラツキの規格も比較的大きかったので、特に問題にならなかった。
【0034】
しかしながら、ウェーハ径が300mm以上と大きくなると、コーンアングル効果により、回転体の回転方向に対して、ウェーハ中央部とウェーハ外周部とで、イオン注入角度が約1度変化してしまうため、注入深さバラツキが大きくなってしまう。このため、イオン注入剥離法で作製される、貼り合わせウェーハの薄膜の膜厚バラツキが悪化してしまう。更に、300mmウェーハでは、要求される膜厚均一性も高いため、単に今まで通り作製していたのでは、要求された仕様を満たせない場合が出てきた。これは、当業者と言え、予測していない現象であった。
【0035】
イオン注入剥離法で、ウェーハ径が300mm以上の貼り合わせウェーハを作製する場合において、ベアウェーハの状態でイオン注入する際、例えば、イオン注入角度を7度として注入すると、300mmウェーハでは、ウェーハ中央に対し、ウェーハ外周部のイオン注入角度は±1度程度ずれてしまう。従って、ウェーハ中央部は7度で注入されるが、一方のウェーハ外周部は注入角度が6度、もう一方のウェーハ外周部は8度となってしまう。
【0036】
面方位が{100}のシリコン単結晶ウェーハの場合、チャネリングは、一般にイオン注入角度を7〜8度にすることで、最小に抑制されることが知られている。従って、イオン注入角度が6度では、チャネリングの影響が出て、イオン注入深さが深くなってしまう。また、イオン注入角度θに対して、イオン注入深さがsinθで変化する効果も加わり、更にイオン注入深さの均一性が悪化してしまう。これら2つの効果により、ベアウェーハでの剥離後の薄膜の膜厚均一性が悪化し、その膜厚分布は、回転体の回転方向に変化してしまう。
【0037】
また、イオン注入剥離法で、ウェーハ径が300mm以上の貼り合わせSOIウェーハを作製する場合において、比較的薄い酸化膜厚付ウェーハに、イオン注入角度を0度として注入すると、コーンアングル効果により、ウェーハ中央に対し、ウェーハ外周部の注入角度は±1度程度ずれてしまう。従って、ベアウェーハほどではないが、チャネリングが発生し、剥離後の薄膜は、回転体の回転方向で中央部は厚く、外周部は薄い、凸状の分布をもち、これにより剥離後の膜厚均一性が悪化してしまう。
【0038】
以上のように、ベアウェーハ、あるいは、比較的薄い酸化膜が形成されたウェーハで、特にウェーハ径が大きいものに対して、イオン注入剥離法を実施した場合、コーンアングル効果による注入角度のズレの大きさと、これに伴うチャネリングの発生に起因して、剥離後の膜厚均一性が悪化する。
【0039】
そこで、本発明者らは、イオン注入時にコーンアングル効果の影響を相殺することができれば、コーンアングル効果の影響を抑制し、たとえ、ウェーハ径が大きく、かつ、酸化膜等のアモルファス層が無い、あるいは、酸化膜等のアモルファス層が薄くても、剥離後の薄膜の厚さの均一性を改善できるのではないかと考えた。
【0040】
そして、本発明者らは、イオン注入時のイオン注入深さの均一性(剥離後の膜厚均一性)を改善する方法として、イオン注入を複数回に分割し、それぞれのノッチ向きを変えること(ウェーハを所定の角度回転させること)で、イオン注入深さの面内分布を相殺する方法を見い出した。この方法では、例えば、イオン注入を2分割した場合、前半のイオン注入時のノッチ角度に対して、後半のイオン注入時のノッチ角度を180度回すことで、面内の注入分布を均一にできる。
【0041】
しかしながら、バッチ式イオン注入機の場合、そのようにウェーハを自転させるため、一度ウェーハ保持具からウェーハを外したり、さらには、一度、チャンバーから取り出さなければならない。この搬送作業により、ウェーハにパーティクルが付着するリスクが発生するため、取り出し毎にウェーハを洗浄する必要が発生する。
【0042】
このような問題点を解決するため、さらに鋭意検討を行った結果、本発明者らは、イオン注入を2回に分け、前半と後半のイオン注入時のイオン注入角度を、イオン注入深さの均一性が相殺するように変えることで、イオン注入深さの均一性を改善し、剥離後の薄膜の膜厚を改善できることを見出し、本発明を完成させた。
【0043】
以下、本発明について、実施態様の一例として、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0044】
第1の本発明は、回転体と該回転体に設けられ基板を配置する複数のウェーハ保持具とを備え、該ウェーハ保持具に配置され公転している複数の基板にイオン注入するバッチ式イオン注入機を使用し、ボンドウェーハの表面から水素イオン、希ガスイオンの少なくとも一種類のガスイオンをイオン注入してイオン注入層を形成するイオン注入工程と、前記ボンドウェーハのイオン注入した表面とベースウェーハの表面とを絶縁膜を介して貼り合わせる貼り合わせ工程と、前記イオン注入層でボンドウェーハを剥離させることにより、前記ベースウェーハ上に薄膜を有する貼り合わせウェーハを作製する剥離工程とを有する貼り合わせウェーハの製造方法において、
前記ボンドウェーハを、前記イオン注入する側の表面に、厚さ1nm以上100nm以下の絶縁膜を形成したシリコン単結晶ウェーハとし、
前記イオン注入工程において、同等の注入量でイオン注入を2回に分けて行い、該2回のイオン注入の際、公転方向にイオン注入角度+X度と−X度でそれぞれイオン注入し、前記イオン注入角度X度を1度以上3度以下に設定することを特徴とする貼り合わせウェーハの製造方法である。
【0045】
このように、第1の本発明は、まずボンドウェーハの表面から水素イオン、希ガスイオンの少なくとも一種類のガスイオンをイオン注入してイオン注入層を形成する(イオン注入工程)。
第1の本発明のボンドウェーハとして、面方位が{100}のシリコン単結晶ウェーハを使用すれば、本発明の方法によって作製した貼り合わせウェーハを、現在のシリコン半導体素子の作製に広く応用することができるが、第1の本発明では、ホンドウェーハの面方位は特に限定されず、ウェーハの面方位が{110}や{111}の場合でも、同様に第1の本発明を実施することができる。
【0046】
上記イオン注入では、
図1〜
図3に示すような、バッチ式イオン注入機10を使用する。バッチ式イオン注入機10は、回転体1と該回転体1に設けられ基板3を配置する複数のウェーハ保持具2とを備え、該ウェーハ保持具2に配置され公転している複数の基板3にイオン注入するものである。
【0047】
第1の本発明のイオン注入工程では、同等の注入量でイオン注入を2回に分けて行い、その際、公転方向にイオン注入角度+X度(
図4の(a))と−X度(
図4の(b))でそれぞれイオン注入を行う。イオン注入角度X度は、基板3の表面中心の垂線とイオンビームのなす角度をいう。
これにより、各イオン注入によるイオン注入層の深さの不均一が相殺され、剥離後の薄膜の膜厚均一性が向上する。また、イオン注入角度X度は、回転体1の傾きを調整することで簡単に変更できる。従って、基板3をウェーハ保持具2から外す必要はないため、バッチ毎に基板3のパーティクルを低減するための洗浄を行う必要はなく、スループットを大幅に向上させることができる。尚、「同等の注入量」とは、イオン注入を2回に分けることによってイオン注入層の深さの不均一が相殺され、剥離後の膜厚均一性が向上する効果が得られる注入量の範囲を意味し、2等分に限定されるものではない。
【0048】
また、上記のように、ボンドウェーハを、前記イオン注入する側の表面に、厚さ1nm以上100nm以下の絶縁膜を形成したシリコン単結晶ウェーハとし、上記イオン注入角度X度を1度以上3度以下に設定することで、イオン注入する際のチャネリングの影響を抑制でき、剥離後の薄膜の膜厚均一性が向上する。
一方、上記イオン注入角度X度が1度未満では、チャネリングの影響が大きくなり、剥離後の薄膜の膜厚均一性が悪化する。また、上記イオン注入角度X度が3度以下であれば、絶縁膜とイオン注入角度X度によりチャネリングの影響は小さくなり、剥離後の薄膜の膜厚均一性が向上する。
【0049】
更に、第1の本発明のイオン注入工程では、各イオン注入の際の同等の注入量を、全注入量の40〜60%の範囲内とすることが好ましい。すなわち、50%、50%とする場合のみならず、例えば、前半を40%、後半を60%として注入してもよい。
これにより、各イオン注入によるイオン注入層の深さの不均一を効果的に相殺でき、剥離後の薄膜の膜厚均一性が向上する。
【0050】
次に、第1の本発明では、ボンドウェーハのイオン注入した表面とベースウェーハの表面とを絶縁膜を介して貼り合わせる(貼り合わせ工程)。
通常は、常温の清浄な雰囲気下でボンドウェーハとベースウェーハの表面同士を接触させることにより、接着剤等を用いることなくウェーハ同士が接着する。
【0051】
次に、第1の本発明では、イオン注入層でボンドウェーハを剥離させることにより、前記ベースウェーハ上に薄膜を有する貼り合わせウェーハを作製する(剥離工程)。
例えば、不活性ガス雰囲気下約500℃以上の温度で熱処理を加えれば、イオン注入層でボンドウェーハを剥離させることができる。また、貼り合わせ面に予めプラズマ処理を施すことによって、熱処理を加えずに(あるいは剥離しない程度の温度で熱処理を加えた後)、外力を加えて剥離することもできる。
【0052】
次に、第2の本発明は、回転体と該回転体に設けられ基板を配置する複数のウェーハ保持具とを備え、該ウェーハ保持具に配置され公転している複数の基板にイオン注入するバッチ式イオン注入機を使用し、ボンドウェーハの表面から水素イオン、希ガスイオンの少なくとも一種類のガスイオンをイオン注入してイオン注入層を形成するイオン注入工程と、前記ボンドウェーハのイオン注入した表面とベースウェーハの表面とを直接あるいは絶縁膜を介して貼り合わせる貼り合わせ工程と、前記イオン注入層でボンドウェーハを剥離させることにより、前記ベースウェーハ上に薄膜を有する貼り合わせウェーハを作製する剥離工程とを有する貼り合わせウェーハの製造方法において、
前記ボンドウェーハを、シリコン単結晶からなるベアウェーハ、又は、前記イオン注入する側の表面に厚さ1nm以上100nm以下の絶縁膜が形成されたシリコン単結晶ウェーハとし、
前記イオン注入工程において、同等の注入量でイオン注入を2回に分けて行い、該2回のイオン注入の際、公転方向にイオン注入角度+X度と−X度でそれぞれイオン注入し、前記イオン注入角度X度を前記ボンドウェーハに注入されたイオンのチャネリングが最小となるように設定することを特徴とする貼り合わせウェーハの製造方法である。
【0053】
このように、第2の本発明は、まずボンドウェーハの表面から水素イオン、希ガスイオンの少なくとも一種類のガスイオンをイオン注入してイオン注入層を形成する(イオン注入工程)。
第2の本発明のボンドウェーハは、面方位が{100}のシリコン単結晶ウェーハを使用すれば、第2の本発明の方法によって作製した貼り合わせウェーハを、現在のシリコン半導体素子の作製に広く応用することができるが、第2の本発明でも、第1の本発明と同様に、ホンドウェーハの面方位は特に限定されず、ウェーハの面方位が{110}や{111}の場合でも、第2の本発明を適用することができる。
【0054】
また、第2の本発明のイオン注入工程では、第1の本発明のイオン注入と同様に行うことができるが、第2の本発明では、イオン注入角度X度をボンドウェーハに注入されたイオンのチャネリングが最小となるように設定する。イオン注入角度X度が小さい場合、ボンドウェーハの表面に絶縁膜がないとチャネリングの影響が大きくなり、剥離後の薄膜の均一性が劣化する。そのため、チャネリングの影響を避けるために、イオン注入角度X度を適度に大きくすることで、剥離後の薄膜の均一性が向上する。
【0055】
また、第2の本発明におけるイオン注入角度X度は、7度以上8度以下とすることが好ましい。
これにより、第2の本発明では、シリコン単結晶からなるベアウェーハをボンドウェーハとして使用しても、イオン注入の際に、チャネリングの影響を十分に抑制でき、剥離後の薄膜の均一性を良好にすることができる。
【0056】
そして、第2の本発明では、ボンドウェーハを、シリコン単結晶からなるベアウェーハ、又は、前記イオン注入する側の表面に、厚さ1nm以上100nm以下の薄い絶縁膜を形成したシリコン単結晶ウェーハとし、上記イオン注入角度X度を前記ボンドウェーハに注入されたイオンのチャネリングが最小となるように設定することで、イオン注入する際のチャネリングの影響を抑制でき、剥離後の薄膜の膜厚均一性が向上する。
【0057】
また、第2の本発明のイオン注入工程では、各イオン注入の際の同等の注入量を、全注入量の40〜60%の範囲内とすることが好ましい。
これにより、各イオン注入によるイオン注入層の深さの不均一を効果的に相殺でき、剥離後の薄膜の膜厚均一性が向上する。
【0058】
次に、第2の本発明では、ボンドウェーハのイオン注入した表面とベースウェーハの表面とを直接あるいは絶縁膜を介して貼り合わせる(貼り合わせ工程)。
通常は、常温の清浄な雰囲気下でボンドウェーハとベースウェーハの表面同士を接触させることにより、接着剤等を用いることなくウェーハ同士が接着する。
【0059】
次に、第2の本発明では、イオン注入層でボンドウェーハを剥離させることにより、前記ベースウェーハ上に薄膜を有する貼り合わせウェーハを作製する(剥離工程)。
例えば、不活性ガス雰囲気下約500℃以上の温度で熱処理を加えれば、イオン注入層でボンドウェーハを剥離させることができる。また、貼り合わせ面に予めプラズマ処理を施すことによって、熱処理を加えずに(あるいは剥離しない程度の温度で熱処理を加えた後)、外力を加えて剥離することもできる。
【0060】
以下、本発明について、更に詳述する。
以下のようにイオンのチャネリングが最小となるイオン注入角度を調べた。まず、イオン注入剥離法で、ボンドウェーハとして、表面に酸化膜などの絶縁層が形成されていない、面方位が{100}のベアウェーハ(オフアングルなし)にイオン注入する場合について述べる。
図6の(A)に示すように、ベアウェーハでの貼り合わせウェーハの作製では、例えば、直径300mmのベアウェーハ5(
図6の(a))に、水素イオンを50keVの加速エネルギーで注入し、イオン注入層7を形成する(
図6の(b))。その後、イオン注入したベアウェーハ5と、酸化膜6付きのベースウェーハ4(
図6の(c))とを貼り合わせ(
図6の(d))、その後、上記イオン注入層7においてベアウェーハ5を剥離する(
図6の(e))。
【0061】
上記、ベアウェーハでの貼り合わせウェーハの作製において、ベアウェーハ5へのイオン注入(
図6の(b))の際に、イオン注入角度を0度としてイオン注入を行い、その後、ベアウェーハ5の剥離を行うと、得られる貼り合わせウェーハの薄膜の膜厚バラツキは、チャネリングによる影響にコーンアングル効果が加わって、膜厚分布のP−V(最大値−最小値)は8.9nmと大きな値となる(
図6の(B))。
【0062】
一方、イオン注入角度を7度としてイオン注入を行う場合には、膜厚バラツキ(P−V)は2.3nmとなり、ノッチを下にして、回転体の回転方向に沿って左下から右上に向かって膜厚が厚くなる傾向が得られる(
図6の(C))。また、イオン注入角度を−7度としてイオン注入を行う場合には、膜厚バラツキ(P−V)は2.4nmとなり、ノッチを下にして、左下から右上に向かって膜厚が薄くなる傾向が得られる(
図6の(D))。このように、イオン注入角度が±7度の場合は、チャネリングの影響は抑制できるが、コーンアングル効果による膜厚バラツキは大きくなる。また、イオン注入角度を−7度としてイオン注入を行う場合は、イオン注入角度が+7度の場合と比べ、膜厚分布の膜厚バラツキ(P−V)がほぼ同じで、その向きが正反対となる。イオン注入角度を±8度とした場合も±7度と同様の結果となる。
【0063】
上記のように、ウェーハに対し、イオン注入角度を7〜8度とすればチャネリングを最小にすることができることがわかる。
【0064】
そこで、
図7に示すように、全イオン注入量の約半分の注入量を、チャネリングが起きない注入角度7度で注入し(
図7の(a))、その後、残り半分の注入量を、前半の注入角度とは正反対の−7度で注入する(
図7の(b))。このように、同等の注入量でイオン注入を2回に分けて行い、この際、公転方向にイオン注入角度を+X度と−X度でそれぞれイオン注入することで、イオン注入層7の深さは、前半と後半のイオン注入深さの平均にピークを持つようになり(
図7の(c))、その位置でボンドウェーハの剥離が起きる。このように剥離を行うと、ウェーハの膜厚バラツキ(P−V)は1.7nmとなり、膜厚バラツキを改善することができる(
図7の(A))。
【0065】
また、ウェーハによっては、結晶方位に対して、オフアングルを付けている場合があるが、この場合は、オフアングルを加味してイオン注入角度を設定すればよい。尚、上記のように、面方位{100}のウェーハに対し、イオン注入角度を7〜8度とすればチャネリングを最小にすることができるが、面方位が{110}や{111}の場合も同様に、イオン注入角度を7〜8度とすればチャネリングを最小にすることができる。
【0066】
次に、
図8及び
図9に示すように、イオン注入剥離法で、酸化膜厚が薄い酸化膜付ウェーハにイオン注入する場合について考える。
図8の(A)において、例えば、30nmの酸化膜6が付いた300mmのボンドウェーハ3(
図8の(a))に、水素イオンを50keVの加速エネルギーで、かつ、イオン注入角度0度でイオン注入する(
図8の(b))。その後、イオン注入層7を有し、酸化膜6が付いたボンドウェーハ3と、ベースウェーハ4(
図8の(c))を貼り合わせ(
図8の(d))、イオン注入層7においてボンドウェーハを剥離する(
図8の(e))。
【0067】
このとき、得られる貼り合わせウェーハの膜厚バラツキ(P−V)は1.6nmとなり、その膜厚分布は、中心が厚く、ノッチを下にして、回転体の回転方向に沿って左下、及び、右上の膜厚が薄い、凸状の分布となる傾向が得られる(
図8の(B))。これは、チャネリングを抑制できる酸化膜6が形成されているものの、酸化膜6が薄いため、チャネリングの影響が残り、コーンアングル効果が強く現れるためである。尚、200nmの酸化膜6を形成した場合は、チャネリングの影響がなくなるため、膜厚バラツキ(P−V)は1.0nmとなる(
図8の(C))。
【0068】
また、
図9の(A)において、例えば、厚さ30nmの酸化膜6が付いた直径300mmのボンドウェーハ3(
図9の(a))に、水素イオンを50keVの加速エネルギーで、かつ、イオン注入角度3度でイオン注入する(
図9の(b))。その後、イオン注入層7を有し、酸化膜6が付いたボンドウェーハ3と、ベースウェーハ4(
図9の(c))を貼り合わせ(
図9の(d))、イオン注入層7においてボンドウェーハ3を剥離する(
図9の(e))。
【0069】
このとき、酸化膜6とイオン注入角度の両方の作用により、チャネリングの影響は小さくなるが、イオン注入角度の影響で、膜厚分布は一方向に傾斜した分布となり、膜厚バラツキ(P−V)は、0度注入(
図9の(B))と同等の1.6nm(
図9の(C))となる。更に、イオン注入角度を大きくして7度にすると、チャネリングの影響はなくなるが、膜厚分布は3度注入の場合よりも大きく一方向に傾斜した分布となり、膜厚バラツキ(P−V)は2.4nmに増大してしまう(
図9の(D))。
【0070】
次に、
図10の(a)に示すように、厚さ30nmの酸化膜6が付いた直径300mmボンドウェーハ3に、水素イオンを50keVの加速エネルギーで、かつ、イオン注入角度+2度としてチャネリングの影響を小さくして注入し、イオン注入剥離法で剥離を行うと、得られる貼り合わせウェーハの膜厚バラツキは、注入角度+3度の場合と同様に、膜厚バラツキ(P−V)は1.6nmとなり、ノッチを下にして、回転体の回転方向に沿って左下から右上に向かって膜厚が厚くなる傾向が得られる。
【0071】
一方、
図10の(b)に示すように、厚さ30nmの酸化膜が付いた直径300mmボンドウェーハに、水素イオンを50keVの加速エネルギーで、かつ、イオン注入角度−2度で注入し、イオン注入剥離法で剥離を行うと、得られるSOIウェーハの膜厚バラツキ(P−V)は1.6nmとなり、ノッチを下にして、左下から右上に向かって膜厚が薄くなる傾向が得られる。即ち、イオン注入角度が+2度の場合と比べて、膜厚分布のP−Vがほぼ同じで、その向きが正反対となる。
【0072】
そこで、
図10の(c)に示すように、全イオン注入量の半分の注入量を、チャネリングが起きない、イオン注入角度+2度で注入し、その後、残り半分の注入量を、前半の注入角度とは正反対の−2度で注入する。このようにすることで、注入されたイオンは、前半と後半の注入深さの平均の深さにピークを持つようになり、その位置で剥離が起きるようになる。このようにして剥離を行うと、貼り合わせウェーハの膜厚バラツキ(P−V)は1.0nmとなり、膜厚バラツキを改善することができる(
図10の(A))。
【0073】
以上、オフアングルがないボンドウェーハにイオン注入する場合について説明したが、もちろん、ウェーハによっては、結晶方位に対して、オフアングルを付けている場合がある。この場合において、本発明では、オフアングルを加味して、チャネリングが最小となるイオン注入角度を設定すればよい。また、通常は、イオン注入するウェーハをウェーハ保持具に保持した状態でイオン注入角度が0度となる様に設定されているが、ウェーハ保持具や回転体の取付具合によっては角度ズレが生じている場合があるので、その場合には、その角度ズレを考慮してイオン注入角度を調整する。
【実施例】
【0074】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1〜5、比較例1〜4)
ボンドウェーハ及びベースウェーハとして、直径300mm、面方位(100)のシリコン単結晶ウェーハ(オフアングルなし)を用意し、表1及び表2の条件で貼り合わせSOIウェーハを作製し、剥離後のSOI層の面内膜厚バラツキ(P−V:最大値−最小値)を比較した。
尚、いずれの条件においても、ウェーハの貼り合わせは室温で行い、剥離熱処理は500℃で30分間行い、剥離後の膜厚測定は、ADE社製Acumapを用いて行った。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
表1,2に示すように、実施例1〜5では、同等の注入量でイオン注入を2回に分けて行ったことにより、膜厚バラツキの結果が良好であった。特に、実施例1〜3では、ボンドウェーハに酸化膜が付いた状態で、かつ、イオン注入角度が1〜3度でイオン注入を行ったため、膜厚バラツキの結果が特に良好であった。また、実施例2,3に示すように、2回に分けたイオン注入の各イオン注入量が完全に同じ量でなくても、各イオン注入量が全注入量の40〜60%の範囲内であれば、膜厚バラツキの結果が良好になることがわかった。
【0078】
一方、実施例4,5では、2回に分けたイオン注入のイオン注入角度がともに7度であったため、チャネリングの影響を最小に抑えることができたが、実施例4では、ベアウェーハの状態でイオン注入を行ったため、実施例1〜3に比べると、膜厚バラツキの結果が悪かった。しかし、実施例4では、イオン注入角度が同じだが、2回に分けずにイオン注入を行った比較例3に比べれば、膜厚バラツキは大きく低減されていた。更に、実施例5についても、1回でイオン注入を行った比較例4に比べて、膜厚バラツキは大きく低減されていた。
【0079】
比較例1〜4では、イオン注入を2回に分けず、1回のみ行ったことにより、コーンアングルの影響を受け、実施例1〜5に比べ、膜厚バラツキの結果が悪かった。
【0080】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。