(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数回繰り返す工程を行う前に、フィルタ部のろ過部材に処理液を毛細管現象で染み込ませるために、処理液を加圧せずに前記ろ過部材に接した状態を予め設定した時間維持する放置工程を行うことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の処理液供給装置の運転方法。
加圧ろ過ステップは前記気体の排出口を開いた状態にして行われ、前記流路内の処理液が当該排出口を介して押し出されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の処理液供給装置の運転方法。
前記フィルタ部に供給される処理液中の気泡を除去するために、前記減圧ろ過ステップと加圧ろ過ステップとの間に、前記フィルタ部内におけるろ過部材の上流側に開口するベントを開いて閉じる工程を行うことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の処理液供給装置の運転方法。
前記制御部は、前記複数回繰り返す工程を行う前に、前記加圧ろ過ステップを行うように制御信号を出力するものであることを特徴とする請求項7記載の処理液供給装置。
前記制御部の制御信号により実施される加圧ろ過ステップは、前記気体の排出口を開いた状態にして行われ、前記流路内の処理液が当該排出口を介して押し出されることを特徴とする請求項7ないし9のいずれか一項に記載の処理液供給装置。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の液処理装置をレジスト塗布装置に適用した実施の一形態について説明する。
【0015】
先ず
図1を用いてレジスト塗布装置の全体構成について簡単に述べると、レジスト塗布装置は、基板であるウエハWを水平に保持する基板保持部であるスピンチャック63を含むカップモジュール60と、スピンチャック63に保持されたウエハWの中心部に処理液であるレジストを供給するためのノズル61と、このノズル61にレジストを供給する処理液供給装置であるレジスト供給装置10を備えている。
【0016】
前記カップモジュール60は、スピンチャック63を囲むように設けられ、ウエハWから振り切られたレジストを受けるためのカップ体62を備え、カップ体62の下部には、吸引排気路が接続されると共にドレーンを排出できるようにドレーン機構が構成されている。カップ体62は、ミストの舞い上がりを防止するように内カップ、外カップなどが組み合わされて構成されているが、ここでは省略する。
【0017】
前記レジスト供給装置10は、複数の配管からなる配管系に複数の機構が組み合わされて構成されている。レジストの流れの上流側から説明すると、レジストを貯留する密閉型のボトル12を備え、ボトル12の上部には2本の配管210、212が接続され、一方の配管212はバルブ33を介し、リキッドエンドタンク13の上部のポートを介してリキッドエンドタンク13の底部へと延伸され、他方の配管210はバルブ32の一端へと接続される。バルブ32の他端には別の配管211が接続され、当該配管211は延伸された後2本の配管213、22に分岐し、一方の配管213はバルブ31を介し加圧用ガスの供給源、この実施形態ではN
2ガス供給源11に接続される。他方の配管22はバルブ30を介して外部へ開放されていて、従ってこの配管22は排気管として構成されている。
【0018】
前記リキッドエンドタンク13は、レジストをウエハWへと安定供給するために設けられ、図示しない液面センサが複数取り付けられ、液量の管理が行われている。リキッドエンドタンク13の上部には、ボトル12からリキッドエンドタンク13内部へと延伸されている前記配管212の他に、リキッドエンドタンク13内部からのドレーン管23が接続されており、当該ドレーン管23にはバルブ34が介設されている。一方リキッドエンドタンク13の底部ポートには下流側へとレジストを供給する配管213が接続されている。配管213は2本の配管214、215に分岐し、一方の配管214はバルブ35を介してフィルタ部14の上流側に接続され、他方の配管215はバルブ36を介してトラップ15の底部ポートに接続されている。
【0019】
前記フィルタ部14は例えば
図2(a)に示すように、処理液、この実施形態ではレジストをろ過するろ過部72とその支持部材、例えば容器本体71、区画部材74、プレート75などからなり、ろ過部材としては例えば中空糸膜などから構成される。
図2においてレジストは供給口501を介してフィルタ部14内部へと流入し、第1の通流室51を経由してろ過部72でろ過され、第2の通流室51を経由して流出口502から流出する。ろ過部72と2つの通流室51及び52との間は通流口76aが設けられたプレート76で隔てられており、ろ過部72は例えば
図2(b)に示すように中空の円筒形をしている。また、フィルタ部14の上流側にはドレーン用の流路78が設けられている。
【0020】
図1に戻り説明を続ける。フィルタ部14の下流側には配管216が接続され、この配管216の他端はトラップ15の上部壁面に接続されている。当該配管216には液中パーティクルカウンタ27が取り付けられている。トラップ15は、フィルタ部14から吐出された気泡及び異物の混入した処理液を貯留し、後述するドレーン管21へと排出することによりウエハWへの気泡や異物の吐出を防ぐために設けられている。
【0021】
フィルタ部14の上流部及びトラップ15の上部のポートには、夫々配管217、218が接続され、夫々バルブ37及び38を介して、ドレーン管21に共通に接続される。また、トラップ15からは、側面下部と側面上部に設けられた2つのポートに夫々配管219、220が接続され、側面下部からの配管219はバルブ39を介して、側面上部からの配管220はバルブ40を介して、双方共にポンプ部16の上流側に接続されている。
【0022】
前記ポンプ部16としては、ポンプ外部からの吸引加圧を反映する構造を有するポンプ機構が用いられる。例としてはダイアフラムポンプなどが挙げられる。そしてポンプ部16の下流側にはノズル61へと向かう配管24が接続され、ポンプ部16とノズル61との間にはバルブ41、電空エアオペレートバルブ42が介在している。ノズル61へのレジストの吐出は電空エアオペレートバルブ42の開閉によってもコントロールされる。
なお、
図1等では、ポンプ部16について、
図3の上段で表されるように1つの流入ポートと2つの流出ポートがあるように記載されているが、この描写は便宜的なものである。実際には
図3の下段で表されるようにポンプ部16の流出ポートは1つであり、ポンプ部16への加圧及び吸引動作と併せて、バルブ39、40との協働作業によりポンプ部16は動作している。
【0023】
上述してきたレジスト塗布装置は制御部100により制御される。制御部100はCPU、メインメモリ及びバスなどからなり、各部位の制御を実行して所定の処理を行うように命令(各ステップ)が組まれているプログラムにより制御が行われる。このプログラムは、コンピュータ記憶媒体、例えばフレキシブルディスク、コンパクトディスク、ハードディスク、MO(光磁気ディスク)などの記憶部に格納されてメインメモリにインストールされる。ここでメインメモリにインストールされるプログラムには、スピンチャック63、ノズル61、N
2ガス供給源11、ボトル12、フィルタ部14などを制御するためのプログラムも含まれており、CPUに読み込まれた上、前記各部が制御されるようになっている。
【0024】
続いて、レジスト供給装置10におけるフィルタウェッティングの手順の一形態について述べていく。
先ず、フィルタ取付の前に、予めレジスト供給装置10からレジストを排出し、バルブ32を閉成した上、バルブ30及び31を開成する。そして排気管22からN
2ガスを排気しながら、N
2ガス供給源11からのN
2ガス圧を例えば5kPaとなるように調節する。5kPaに圧力を設定する理由は、後述のようにフィルタ部14を新規なものに交換した後、系内にレジストを投入することによりフィルタ部14内における発泡を防止し、細かな溝へのレジスト浸透効果を高めるためである。なおガス圧の調整は、先ず
バルブ31を閉成しN
2ガスの供給を遮断し、
バルブ33、35、38、39、41及び電空エアオペレートバルブ42を開成する。そしてトラップ15からのドレーン管21を通じた排気及びノズル61からの排気を行い、N
2ガス圧を0にした後に、上述したN
2ガス供給源11からのN
2ガス圧の調整を行った上で、N
2ガスを供給し系内への加圧を行う。
【0025】
そして上述のようにN
2ガス圧を調整した後に、フィルタ部14を新規取付、あるいは新規のフィルタ部に交換する。しかる後にバルブ30及びバルブ34を閉成し、バルブ31を開成した状態においてバルブ32及び33を開成し、N
2ガス供給源11からのN
2ガス圧によりボトル12からリキッドエンドタンク13にレジストを送出する。レジストのリキッドエンドタンク13への注入はレジストが一定量リキッドエンドタンク13に貯留されるまで行われる。
【0026】
次にリキッドエンドタンク13からフィルタ部14へレジストを注入する。この際にはバルブ35及びバルブ37を開成し、バルブ36及び38〜41を閉成することによりレジストの注入が行われる。当該レジストの注入は、液中パーティクルカウンタ27による気泡のモニタ、及びフィルタ部14内からドレーン管21へ排出されるレジストに対する目視による監視と共に行われ、目視により認識できる大きさの気泡が確認できなくなるまでレジストがフィルタ部14へと注入される。
【0027】
次にフィルタ部14からトラップ15へレジストを注入する。この際にはバルブ35を開成したままバルブ37を閉成し、代わってバルブ38を開成することによりレジスト注入が行われる。当該レジストの注入は、液中パーティクルカウンタ27による気泡のモニタ、及びトラップ15内からドレーン管21へ排出されるレジストに対する目視による監視と共に行われ、目視により認識できる大きさの気泡及び異物が確認できなくなるまでレジストがトラップ15へと注入される。そして、系内を常圧に調整し、全てのバルブを閉成した上、系全体を例えば約15分放置し、フィルタ部14を処理液内に浸漬する。
【0028】
しかる後に、N
2ガス供給源11からのN
2ガス圧を例えば50kPaとなるように調節し、バルブ31、32、33、35及び37を開成し、フィルタ部14内にレジストを圧送する。このステップにより、レジストがボトル12からリキッドエンドタンク13を経由してフィルタ部14へと圧送され、上述した工程内においてフィルタ部14内からレジスト中へ放出された気泡が、レジストと共にドレーン管21から排出される。当該レジストの圧送は、液中パーティクルカウンタ27による気泡のモニタ、及びフィルタ部14内からドレーン管21へ排出されるレジストに対する目視による監視と共に行われ、目視により認識できる大きさの気泡が確認できなくなるまで続けられる。
【0029】
次にトラップ15内へレジストを圧送する。N
2ガス圧を例えば50kPaに維持し、バルブ35を開成したままバルブ37を閉成し、代わってバルブ38を開成することにより、レジストがボトル12からリキッドエンドタンク13及びフィルタ部14を経由してトラップ15内へと圧送される。このステップにより、フィルタ部14内およびトラップ15内の異物及び気泡がドレーン管21から排出される。当該レジストの圧送は、液中パーティクルカウンタ27による気泡のモニタ、及びトラップ15内からドレーン管21へ排出されるレジストに対する目視による監視と共に行われ、目視により認識できる大きさの気泡及び異物が確認できなくなるまで続けられる。
【0030】
当該レジスト圧送工程において、レジスト圧送の初期の段階において、フィルタ部14に上流側から加わる圧力は大気圧以上の圧力(以下「正圧」と呼ぶ)とし、大気圧以下の圧力(以下「負圧」と呼ぶ)とならないようにしている。この工程の目的は、目視できるサイズの気泡及び異物をフィルタ部14及びトラップ15から除去することにある。後述する負圧ろ過工程は、フィルタ部14内部に残留する気泡核の成長を目的としており、当該負圧ろ過工程においてはポンプ吸引によってある程度の気泡がフィルタ部14から離脱するが、ほとんどの気泡は依然としてフィルタ部14内に残留する。一方、正圧ろ過によれば目視できるサイズの気泡及び異物をその圧力によってフィルタ部14内から排出することができるため、この段階で正圧ろ過を行っている。
【0031】
以上の手順により、フィルタ部14及びトラップ15内に残存していた、目視により認識できる気泡及び異物を除去した後、フィルタ部14の微細な気泡を除去する工程へと移る。この工程は複数のステップが複数回にわたり繰り返されることから、便宜上各ステップに符号を振った上、説明する。
【0032】
<ステップa>
まずフィルタ部14に対し加圧によるろ過、この例では正圧によるろ過を行う。即ちフィルタ部14の上流側を加圧して下流側より高い圧力とし、その圧力差を、ウエハWに対してレジストを供給する通常運転時における圧力差よりも大きい状態とする。
具体的に手順を述べると、N
2ガス圧を例えば50kPaに維持し、バルブ35を開成したままバルブ37を閉成し、バルブ38を開成し、リキッドエンドタンク13からフィルタ部14を通じてトラップ15内にレジストを圧送することによりレジストろ過を行い、ろ過したレジストは例えばドレーン管21から排出する。当該ステップにおいて、フィルタ部14におけるレジストろ過量は例えば40mL、ろ過時間は例えば30秒である。
このステップaにおけるレジストの流れを
図4に示す。
【0033】
<ステップb>
次に、フィルタ部14の下流側を減圧することによるろ過を行う。この例ではフィルタ部14に対する負圧によるろ過を行う。
概略的に手順を述べると、ポンプ16による吸引動作による工程(b−1)と、ポンプ16による圧縮動作による工程(b−2)の2工程からなる。以下、順を追って説明する。
【0034】
先ず工程(b−1)について説明する。
図5に示すようにバルブ37、38を閉成し、バルブ39を開成する。続いてポンプ16内を吸引することによって、フィルタ部14内にレジストを通液させる。すると、フィルタ部14内で負圧ろ過の作用が生じ、フィルタ部14内に残留している微小な気泡核が成長あるいは膨張する。この負圧ろ過による気泡成長については、微細気泡の除去のメカニズムの一部として後述する。そして成長あるいは膨張した気泡の一部はフィルタ下流に流出する。当該工程において、フィルタ部14におけるレジストろ過量は例えば60mL、ろ過速度は例えば0.5mL/secである。
続いて工程(b−2)について説明する。
図6に示すようにバルブ31を閉成し、系内へのN
2ガス供給を停止する。続いて、バルブ30、33、34、36及び40を開成し、バルブ35を閉成し、ポンプ部16内を加圧することによりレジストを加圧し、バルブ40、トラップ15、バルブ36、リキッドエンドタンク13の経路を上流側に逆送する。これにより、上述のポンプ吸引動作により流出した気泡が、リキッドエンドタンク13とトラップ15との間に移動する。当該工程において、ポンプ部16からのレジスト圧送量は例えば0.5mLである。
【0035】
<ステップc>
続いて、ステップbにより流出した気泡を系外へ排出するステップに移る。
具体的に手順を述べると、再びバルブ30を閉成し、バルブ31及び32を開成し、系内のN
2ガス圧を例えば50kPaとする。バルブ35及び37を開成し、バルブ36、38及び40を閉成する。そしてリキッドエンドタンク13からフィルタ部14へのレジスト圧送を行い、気泡を含んだレジストを、フィルタ部14内部からドレーン管21を経由して排出する。このレジスト排出の際にトラップ15を経由しない理由は、気泡を含んだレジストがトラップ15を経由することによって、フィルタ14の2次側へ気泡が再付着することを防止するためである。
【0036】
そして上述してきたステップa、ステップb及びステップcを、この順番によって1サイクルとし、このサイクルを例えば10回繰り返す。なお、ステップbにおいて、フィルタ部14から気泡が流出しなかった場合は、もはやステップcを行う必要はなく、後述するステップa及びステップbの繰り返し工程に移行してもよい。
当該サイクルの繰り返しにおいて、ステップbにより負圧ろ過を行い気泡が成長した後に、ステップaに戻り正圧ろ過を行う。すると、気泡に対して圧壊という作用が起こり気泡が極微小な気泡の集合へと変化する、あるいは気泡がレジスト中に溶解するなど、気泡に対する変化が発生する。これらの変化により、ステップa及びcにてフィルタ部14内から気泡が排出されやすくなる。気泡に起こる当該変化については、微細気泡の除去のメカニズムの一部として後述する。
【0037】
上述の10回のサイクルの繰り返し工程が終了した後、さらにステップa及びステップbをこの順番によって20回繰り返し、当該工程により、フィルタ部14全体の微細部の気泡を除去し、結果的にレジストをフィルタ部14の微細部まで行き渡らせる。
【0038】
なお、ステップa、b、cを1サイクルとする代わりに、ステップb、a、cを1サイクルとして例えば同様に10回繰り返すようにしてもよい。また、ステップa、bを上述のように例えば20回繰り返す工程は、ステップb、aの順番で20回繰り返すようにしてもよい。
【0039】
こうしてフィルタウェッティング工程が終了したところで、処理液供給装置によるプロセスを行う。例えばポンプ部による加圧により、レジストをウエハW上に例えば0.1mLずつ吐出し、スピンコーティング法によりレジストの塗布を行う。
【0040】
ここで、上述したフィルタ部14からの微細気泡の除去のメカニズムについて詳説する。
上述の実施形態において,減圧ろ過(負圧ろ過)と加圧ろ過(正圧ろ過)とを繰り返し行うことによって、次に述べるメカニズムで気泡がフィルタ部14の微細構造部分から離脱されるものと考えられている。
レジスト内に浸漬されたフィルタ部14内のフィルタには微細な気泡が多く存在している。Harveyの核モデルという理論によりこれらの微細な気泡は気泡核と呼ばれ、この理論では、以下のような気泡核の振る舞いが明らかになっている。
【0041】
即ち、
図7(a)のように円錐形の固体の溝Gの最奥部に微小な容積の空気(気泡核C)が含まれ、その上に液体が満たされているとき、気泡核Cの空気圧をP
i、液体に溶存している空気の平衡圧をP
eとすると、P
i>P
eが成立するとき、気泡核Cの表面は液体中にせり出し(
図7(b))、一定の場所までせり出すと、大部分が液体中に泡Bとなって放出される(
図7(c))。この泡Bはフィルタ部14あるいはトラップ15からドレーン管21を経由して排出することができる(
図8(d))。泡Bを放出した後も気泡核Cは溝Gの内部に残存するが、その体積は泡Bを放出する前よりも小さくなっている。
【0042】
また、気泡について古くから知られているのが圧壊という現象である。圧壊とは、大きな気泡が崩壊して微細な気泡となる現象である。即ち、
図9(a)のように溝Gの最奥部に存在する気泡核Cに負圧P
eが掛かると(
図9(b))、気泡核の圧力P
iはP
eより大きいため、気泡核Cは溝Gいっぱいまで膨張する。そして膨張した気泡核Cに対し大きな正圧P
sを急激に加えることにより、気泡核Cは破壊される(
図9(c))。破壊されたあとの気泡核Cは無数の微小な粒子様となり雲状になって広がり、フィルタ部14から離脱される。この一連の作用が圧壊と呼ばれる現象である。
【0043】
さらに、正圧ろ過と負圧ろ過の繰り返しにより気泡が大きくなる現象は、次のように説明できる。即ち、液体中に気泡核が存在する状態において、溶存気体の圧力を降下させるか、液体の温度を上昇させ、この液体を過飽和状態にすると、気泡核を基点にマイクロバブルと呼ばれる気泡が発生する。このマイクロバブルは、溶存気体を取り込むことにより成長する性質を持つ。故に、マイクロバブルが生成された時点において液体の圧力を低下させることにより、マイクロバブルは成長する。成長した大きなマイクロバブルは即ち気泡であるので容易に除去することができる。
【0044】
またさらに、気泡核が処理液中に溶解する現象は、次のように説明できる。
即ち、液体内において半径Rの水蒸気核が形成されるとき、一定温度一定圧力下において以下の式が成り立つ。
【0045】
ここで、Gはギブスの自由エネルギー、R
*は圧力と温度に応じて一意に決定される水蒸気核の半径である。半径がR
*である水蒸気核の大きさを「基本サイズ」と呼ぶことにする。また、(1)の左辺は水蒸気核のポテンシャルに比例する。式(1)の左辺を縦軸に、R/R
*を横軸に取ったグラフが
図10である。
【0046】
ここで、水蒸気核は、液体と共存した平衡状態を保つために、ポテンシャルの低い状態へと変化し、その結果自らの半径Rを変化させる。
図10のグラフではR/R
*=1、つまりRが基本サイズのとき水蒸気核のポテンシャルが最も高い。
R/R
*<1の時、つまり水蒸気核が基本サイズより小さいときは、水蒸気核はポテンシャルの低い状態に変化する結果、R/R
*が0になるように変化する。R
*は定数であり、よってRは0となるように変化し、結果として水蒸気核は消滅する。
一方R/R
*>1の時、つまり水蒸気核が基本サイズより大きいときは、やはりポテンシャルの低い状態に変化する結果、R/R
*は増大する。R
*は定数であり、よってRは大きくなり、結果として水蒸気核は膨張する。
R/R
*=1の時は、水蒸気核は上記のどちらかとなる。即ち消滅または膨張のどちらの結果ともなりうる。
よって最終的に水蒸気核は消滅、膨張若しくは破裂する。
【0047】
上述してきた理由により、負圧ろ過及び正圧ろ過の繰り返しによりフィルタ部14内部の気泡は膨張、破裂、消滅などの挙動をとることから、本発明ではこれらの作用を利用してフィルタ部14内部から気泡を除去している。
【0048】
一方、作用の説明で前述したフィルタ部14及びトラップ15内に処理液を注入した後、処理液をフィルタ部14内に圧送する前に、系全体を放置し、フィルタ部14を処理液内に浸漬するステップの目的は、毛細管現象により処理液をフィルタ部14内の細部にまで浸透させることにある。
【0049】
この処理液のフィルタ内部への浸透について概説すると、毛細管現象による細部への液浸透度と時間との関係は、Washburn式と呼ばれる次式により表される。
【0050】
(2)において、zは浸透深度、θ
Eは静的接触角、γは液体の表面張力、Rは毛細管の半径、ηは液体の粘性係数、tは時間である。よってzは時間の1/2乗に比例する。このzと時間tとの関係をグラフに表したものが
図11である。グラフから、フィルタへの処理液の浸透は、浸透初期ほど単位時間当たりに自然浸透する深度が大きいことがわかる。即ち毛細管現象により細部に液を浸透させる当該工程を行うのであれば、フィルタウェッティング工程の初期に行う方が時間的効率がよい、といえる。
【0051】
以上において、本発明に係る液処理装置の実施例として、レジスト供給装置10について説明したが、実際の液処理装置としては、勿論取り扱う処理液はレジストに限るものではなく、背景技術に記載した、他の薬液、例えば絶縁膜形成用薬液に対する処理にも応用が可能である。
【実施例】
【0052】
本発明を評価するための評価試験及び本発明の効果を確認するための比較試験について述べる。
【0053】
A.フィルタ通液量と気泡量との相関に関する評価試験
(評価試験A−1)
上述した実施形態と同様の構成の液処理装置を用いて、フィルタ取付後薬液を装置内に導入し、直後に薬液の正圧ろ過と負圧ろ過を繰り返し、フィルタウェッティング工程を行った場合のフィルタ通液量と薬液1mLあたりの100nm以上の大きさの気泡数の相関を調べた。
(評価試験A−2)
評価試験A−1と同じ装置を用い、フィルタ取付後薬液を装置内に導入し、フィルタを薬液中に15分浸漬し、それ以外は評価試験A−1と同じ条件により薬液の正圧ろ過と負圧ろ過を繰り返し、フィルタウェッティング工程を行った場合のフィルタ通液量と薬液1mLあたりの100nm以上の大きさの気泡数の相関を調べた。
(比較試験A−1)
評価試験A−1と同じ装置を用い、薬液の正圧ろ過のみによりフィルタウェッティング工程を行った場合のフィルタ通液量と薬液1mLあたりの100nm以上の大きさの気泡数の相関を調べた。
(比較試験A−2)
評価試験A−1と同じ装置を用い、薬液の負圧ろ過のみによりフィルタウェッティング工程を行った場合のフィルタ通液量と薬液1mLあたりの100nm以上の大きさの気泡数の相関を調べた。
【0054】
なお、各実験におけるN
2ガス圧、ろ過レートなどの条件は以下の通りである。
・使用薬液:OK73シンナー(登録商標・東京応化社製)
・N
2ガス圧(正圧ろ過時):50kPa
・負圧ろ過時ろ過レート:0.5mL/sec
・評価試験A−1、A−2における正圧ろ過時1回当たりのフィルタ通液量:
40mL
・評価試験A−1、A−2における負圧ろ過時1回当たりのフィルタ通液量:
60mL
結果を
図12に示す。グラフの実線が評価試験A−1、破線が評価試験A−2、点線が比較試験A−1、一点鎖線が比較試験A−2の結果を示したものである。横軸は通液量、縦軸は1mLあたりの100nm以上の大きさの気泡数を対数に取ったものである。
グラフに表した結果より、まず比較試験A−2の結果から、負圧ろ過のみではフィルタから気泡が十分に除去されないことが明らかである。また、他の試験例について、1mLあたりの気泡数が0.1個となった段階を安定状態とすると、評価試験A−1及び比較試験A−1では安定状態になるまで通液量が約3500mL必要であった。しかしこの2つの試験を比較すると、比較試験A−1は通液中において時折急激な気泡数の上昇がみられるのに対し、評価試験A−1では通液中に気泡数が上昇することがほとんどない。この点により評価試験A−1の結果は比較試験A−1の結果より優れているといえる。
【0055】
またさらに、評価試験A−2では、安定状態になるまでの通液量が約2500mLと、他の3つの試験に比して明らかな減少がみられ、通液中に大幅な気泡の増加も観察されなかった。
これらの4つの試験結果から、フィルタウェッティング工程においてはフィルタ交換後にフィルタを薬液中に浸漬した上放置し、その後正圧ろ過と負圧ろ過を交互に繰り返す工程、すなわち評価試験A−2の工程がもっとも薬液消費量の低減につながるといえる。
【0056】
B.フィルタウェッティング工程後の連続負圧ろ過と気泡量との相関に関する評価試験
(評価試験B−1)
評価試験A−1と同じ装置により同じ手順を行い、薬液1mLあたりの気泡数が0.1個となった後、0.5mL/secにより6秒間の負圧ろ過を100回繰り返す試験を4回行い、薬液1mLあたりの100nm以上の大きさの気泡量の分布を調べた。
(評価試験B−2)
評価試験A−2と同じ装置により同じ手順を行い、薬液1mLあたりの気泡数が0.1個となった後、0.5mL/secにより6秒間の負圧ろ過を100回繰り返す試験を4回行い、薬液1mLあたりの100nm以上の大きさの気泡量の分布を調べた。
(比較試験B−1)
比較試験A−1と同じ装置により同じ手順を行い、薬液1mLあたりの気泡数が0.1個となった後、0.5mL/secにより6秒間の負圧ろ過を100回繰り返す試験を4回行い、薬液1mLあたりの100nm以上の大きさの気泡量の分布を調べた。
【0057】
結果を
図13に示す。比較試験B−1においては、気泡量が1mLあたり約2個前後の部分に主な分布がみられるのに対し、評価試験B−1及びB−2では分布が約0.5個付近の部分に分布が見られ、比較試験に比べ気泡量の減少がみられる。また、観測された気泡の数については、統計学的検定の結果、有意に(p<0.05)評価試験と比較試験との間で差が認められた。
この評価試験から、フィルタ交換時におけるフィルタウェッティング工程においてフィルタに対し正圧ろ過と負圧ろ過を繰り返す手法において、フィルタウェッティング工程後、負圧ろ過のみを繰り返しても薬液中の気泡量が増加しないことが示された。結果、従来の正圧ろ過のみによるフィルタウェッティング工程よりも改善された効果が検証できた。