(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ブロック共重合体は、スチレン単位に対するスチレン単位以外の構成成分の質量比(α)が1〜6であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のボンド磁石用組成物。
【背景技術】
【0002】
ボンド磁石は、磁性粉末、有機樹脂等のバインダ成分、及び滑剤等の添加剤を配合した組成物を、押出機等を用いて混練、次いでペレット状等に加工した後、射出成形、圧縮成形又は押出成形することにより製造される。特に、ポリアミド樹脂やポリフェニレンサルファイド樹脂等の熱可塑性樹脂をバインダとし、さらに射出成形法を用いて製造される磁石は、寸法精度が高く、後加工の必要がないので、磁石の製造コストを低減できるという利点がある。
磁性粉末を40体積%以上含有し熱可塑性樹脂をバインダとするボンド磁石用組成物は、射出成形や押出成形により加工されて製品となる。
【0003】
熱可塑性樹脂バインダとしては、ポリアミド、ポリエチレンなどのポリオレフィン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、PETなどが用いられているが、機械的強度や耐候性などの面でポリアミド及びPPSが好ましいことから、本出願人は、例えば、ポリアミド12を用い射出成形法で成形することを提案している(特許文献4)。
この特許文献の実施例には、24.6wt%Sm−3.6wt%N−bal.FeのSm−Fe−N系磁性粉末を得た後、磁性粉末100重量部に対して12−ポリアミド樹脂8重量部、エチレンビスステアリン酸アミド1重量部、パラフィンワックス1重量部を混合しラボプラストミルにて混練したと記載されている。
【0004】
また熱可塑性樹脂としてPPS樹脂を用いると、樹脂自体の高い耐熱性や耐薬品性が反映された、たとえば熱変形温度や耐油性、耐溶剤性に優れたボンド磁石となることから、本出願人は、特定溶融粘度の架橋型PPSと直鎖型PPS樹脂を用いた射出成形磁石を提案している(特許文献5)。
ここには、希土類−遷移金属系磁石粉末と、PPS樹脂とを含有するリサイクル性に優れた希土類系ボンド磁石用組成物として、PPS樹脂の少なくとも70重量%を、溶融粘度(300℃、剪断速度600s
−1で測定)が200poise以上の架橋型PPS樹脂とした希土類系ボンド磁石用組成物が記載されている。
【0005】
射出成形法では、成形機のシリンダ内で組成物を樹脂バインダの融点以上に加熱溶融させた状態とし、融点以下の温度に設定された金型に射出充填し、キャビティに対応する形状の成形品とする。金型内のキャビティまでには、スプルーおよびランナーと呼ばれる溶融した材料が通過する湯道が形成されている。成形機シリンダ内で溶融した組成物は、スプルー、ランナーを通りキャビティに入るまでに冷却されるため、溶融粘度が上昇し、流動しにくくなる。これはスプルー、ランナー、キャビティが狭くなるほど顕著になり、十分組成物が充填できなくなる場合が生じる。
【0006】
そのため、前記特許文献4では、Sm−Fe−N系磁性粉末を含む12−ポリアミド樹脂に対して、エチレンビスステアリン酸アミド、パラフィンワックスを滑剤として混合し混練し、充填性を改善させているが、まだ十分とはいえなかった。
【0007】
また、前記PPS樹脂に希土類遷移金属合金粉末が40体積%以上となるように高充填された組成物においては、射出成形時の流動性が低下するため、射出成形機のノズル温度を上記した該樹脂融点より遙かに高い310〜340℃に設定することが行われている。
しかしながら、成形温度が高くなるほど、希土類遷移金属合金粉末は酸化劣化しやすく、PPS樹脂も劣化して成形品の曲げ強さや引張強さなどの物性低下を引き起こすという問題があった。
【0008】
ところで、キャビティに充填された材料は、成形品として製品になるが、スプルーやランナーに残る材料は端材である。この端材は、再度成形機シリンダに投入され、リサイクル利用されるのが一般であるが、磁性粉末を多く含有する複合材料では、リサイクルする毎に成形体の強度が低下する問題がある。これは、加熱や剪断力を繰り返し受けることによって、樹脂バインダが劣化するためである。
【0009】
このような複合材料の成形時の流動性や、リサイクルに伴う強度低下の問題については、様々な提案がなされてきた。たとえば、特許文献1においては組成物に脂肪酸のアルカリ金属塩を添加すること、特許文献2においては金属不活性化剤及びラジカル捕集剤を共に含有する劣化防止剤を添加すること、特許文献3においては磁性粉末表面にポリアミドイミド樹脂皮膜を形成すること、などが提案されている。また滑剤として、特許文献4のように、ワックス類、ジステアリル系尿素化合物や、ステアリン酸カルシウムに代表される金属石鹸を添加することなども検討されている。
また、特許文献6には、水添スチレン系熱可塑性エラストマー中のスチレン含有率が、20wt%以上60wt%以下であるブロック共重合体を、エチレンエチルアクリレート系樹脂と磁性粉末との組成物に含有させた押出成形用樹脂磁石組成物が開示されている。
【0010】
しかしながら、これらの従来技術ではボンド磁石用組成物の流動性を高めると、ボンド磁石の強度が低下してしまい、逆にボンド磁石の強度を高めようとするとボンド磁石用組成物の流動性が低下するなどの現象が生じ、これらの問題がまだ十分には解決できていない。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のボンド磁石用組成物とその製造方法、得られるボンド磁石について説明する。
1.ボンド磁石用組成物
本発明のボンド磁石用組成物は、磁性粉末と樹脂バインダとしてポリアミド樹脂またはポリフェニレンサルファイド樹脂とを含むボンド磁石用組成物において、前記樹脂バインダは、スチレン単位とブチレン単位とを構成成分として含むブロック共重合体を含有し、該ブロック共重合体が樹脂バインダ中に平均粒径0.1〜5μmの球状体として分散していることを特徴とする。
【0021】
(1)磁性粉末
本発明において使用される磁性粉末は、ボンド磁石用の磁性粉末として一般的なものでよく、種類によって特に制限されない。
たとえば、希土類元素と遷移金属元素とを含む金属間化合物合金を主相とするもので、希土類元素としては、特に制限されないが、Sm、Gd、Tb、およびCeから選ばれる少なくとも1種の元素、あるいは、さらにPr、Nd、Dy、Ho、Er、Tm、およびYbから選ばれる少なくとも1種の元素が含まれるものが好ましい。具体的には、Sm
2Fe
17N
3系などの合金、正方晶のNd
2Fe
14B系の合金、Th
2Zn
17型構造を有するSm
2Co
17系の合金やCaCu
5型構造を有するSmCo
5系の合金などの各種合金が適用できる。また、フェライト磁石粉末も使用できる。
【0022】
Sm−Fe−N磁石で代表される希土類−鉄−窒素系磁石は、高性能かつ安価な磁石として知られている。このSm−Fe−N系磁石粉末は、窒素の量によって組成が変わるがSm
2Fe
17N
3の組成で構成されることによって最大の飽和磁化を示すとされている。
この希土類−鉄−窒素系磁石は、FeとSm金属を用いて高周波炉、アーク炉などにより原料粉末を1500℃以上で溶解、粉砕、組成均一化のための熱処理を行って希土類−鉄合金を作製する溶解法や、FeあるいはFe
2O
3、Sm
2O
3等とCaを混合加熱処理により希土類−鉄合金を作製する還元拡散法によって得られた母合金を窒化することで得られている。
この様にして得られた粉末状の希土類−鉄−窒素系磁石は、保磁力の発生機構がニュークリエーション型であることから、次の工程において平均粒径が数μmから5μm程度になるまで微粉砕処理されている。また、出発原料として用いる粉末の粒径を小さくすることにより、母合金を粉砕せずに磁石微粉末を得る方法もある。
【0023】
溶解法では、工程が極めて煩雑であるとともに、各工程間において、一旦大気中に曝されるために酸化により不純物質が生成し、湿式処理後に窒化を行うが、湿式処理時に表面が酸化しているため窒化が均一に進行できなくなり、磁気特性のうち飽和磁化、保磁力、角形性が低下し、結果として最大エネルギー積が低くなってしまうために、希土類−鉄−窒素系磁石の製造方法としては、安価な希土類酸化物粉末を原料として利用できる還元拡散法が有利と考えられている。
【0024】
還元拡散法では、先ず、希土類−鉄系合金を含む還元生成物を得て、次に、この還元生成物を湿式処理して、該還元生成物中に生成している還元剤の酸化物を除去し、その後、得られた希土類−鉄系合金を、アンモニアと水素とを含有する混合気流中で窒化した後、粉砕、乾燥することにより所望の希土類−鉄−窒素系磁石粉末を製造している。
【0025】
一方、Nd
2Fe
14B系の合金のような希土類元素−鉄−硼素(R−Fe−B)系永久磁石の組織は、R
2Fe
14B相、Rリッチ相、Bリッチ相から構成され、各相の構成比率により磁石特性が異なる。
R−Fe−B系永久磁石の原料にはR−Fe−B系合金粉末が使用されるが、この合金粉末の製造法にも液体急冷法とHDDR法とがある。液体急冷法は、構成成分となる金属や母合金を目的組成に調合し、溶解し、銅などの金属ロールで急冷し薄片化するものである。HDDR法は、合金に水素を吸収させてR
2Fe
14B金属間化合物を分解し、その後脱水素熱処理することでR
2Fe
14B金属間化合物を再生成させる方法である。
【0026】
また、還元拡散法は、希土類酸化物粉末、鉄、ニッケル、コバルトなどの金属粉末、鉄−ホウ素合金粉末あるいは酸化ホウ素粉末と、還元剤としてのアルカリ土類金属とを混合し、加熱して原料酸化物を還元し、拡散反応で希土類金属と遷移金属などを合金化し、次いで湿式処理して合金粉末を得るものであり、溶解法と比較して低コストで均一な組成の合金粉末を得ることができる。そして、本出願人が提案した、28〜35重量%の希土類元素と、1.0〜1.5重量%のホウ素と、残部の鉄または鉄合金からなり、該鉄合金がニッケルとコバルトの少なくとも一種を含有する磁石用合金粉末を還元拡散法で製造するに際し、前記合金粉末を混合した後、100〜1000kg/cm
2の圧力で成型し、次いで1000〜1200℃で還元拡散反応を起こさせてから粉末にする方法(例えば、特開平10−280002)などが例示される。
【0027】
磁性粉末の平均粒径は、特に限定されず、通常、1〜250μmの範囲にあればよい。ただし、小型薄物形状の磁石を得る場合には、組成物の流動性に優れ、かつ磁石の密度が上昇し磁気特性にも優れるようにするには、特に0.1〜40μmの範囲が好ましい。Nd
2Fe
14B系合金の場合は、通常、20〜150μmであり、Sm
2Co
17系合金やSmCo
5系合金の場合は、5〜150μmであり、またフェライト磁石粉末の場合は、1〜5μmである。
【0028】
Sm
2Fe
17N
3系の合金の場合、平均粒径20μmを超える磁石合金粗粉は、磁気特性が低いので、有機溶媒中で平均粒径8μm以下に粉砕する必要がある。この粉砕の際、又は粉砕後に、リン酸を添加した後、該溶液を攪拌することで複合金属リン酸塩被膜を形成することが好ましい。
本発明で希土類−鉄−窒素系磁石粉末を微粉砕するには、固体を取り扱う各種の化学工業において広く使用され、種々の材料を所望の程度に粉砕するための粉砕装置であれば、特に限定されるわけではない。その中でも、粉末の組成や粒子径を均一にしやすい点で優れた、媒体撹拌ミルまたはビーズミルによる湿式粉砕方式によることが好適である。
粉砕に用いる溶媒としては、イソプロピルアルコール、エタノール、トルエン、メタノール、ヘキサン等が使用できるが、特にイソプロピルアルコールが好ましい。粉砕後所定の目開きのフィルターを用いて、ろ過、乾燥して希土類−鉄−窒素系磁石微粉末を得る。
【0029】
磁性粉末はカップリング剤で表面処理したものが好ましい。カップリング剤としては、前記のとおり、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤のいずれかが挙げられる。このうち特に好ましいのはシラン系カップリング剤である。
本発明では、前記磁性粉末のいずれかを単独で用いても良いが、例えば、Nd
2Fe
14B系の合金とSm
2Co
17系の合金、Nd
2Fe
14B系の合金とSm
2Fe
17N
3系の合金、またSm
2Fe
17N
3系の合金とフェライトを混合使用してもよい。組み合わせることで、大きい粒子の間に小さい粒子が入り、コンパウンドの流動性を下げずにボンド磁石の磁粉充填率を高めて磁気特性をアップしたり、コストを低減したりすることができる。また、磁性粉末の混合割合は、要求される用途や成形手段などによって適宜設定される。
【0030】
(2)熱可塑性樹脂
本発明において、熱可塑性樹脂は、樹脂バインダの主成分であって、ポリアミド系樹脂(A)又はポリフェニレンサルファイド樹脂(B)が使用される。これらは単独で用いても、混合して用いても良い。
【0031】
(A)ポリアミド系熱可塑性樹脂
ポリアミド系樹脂としては、ボンド磁石用に用いられるポリアミド樹脂であれば制限無く利用できる。たとえば、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6,12、芳香族ポリアミド、重合脂肪酸系ポリアミド、これらの末端基を変性したポリアミドなどの単独重合ポリアミドや共重合ポリアミドが利用できる。また、これら熱可塑性樹脂は、単独でも2種類以上のブレンド等による混合物でもよい。
【0032】
上記ポリアミド樹脂の数平均分子量は、ポリメチルメタクリレート換算で1000〜60,000の範囲内にあることが好ましく、1000〜20,000の範囲がより好ましく、特に2000〜10,000の範囲にあるものがさらに好ましい。数平均分子量が1000未満では、得られる磁石の機械的強度も低下することがあり、一方、数平均分子量が60,000を超えると、組成物の流動性が著しく低下して、射出成形も困難となる場合がある。また、流動性を上げるために高温で射出成形しようとすると、磁性粉末の酸化劣化のために磁気特性に優れた磁石が得られないこともある。
【0033】
上記末端基を変性したポリアミドとは、末端アミノ基がカルボキシル基含有炭化水素で変性されたポリアミド樹脂である。変性前のポリアミド樹脂は、例えば、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド612、芳香族系ポリアミド等が挙げられ、これらの単重合体や他種モノマーとのランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、他の物質での末端基変性品などが挙げられる。
【0034】
この変性されたポリアミド樹脂の末端アミノ基の残存量は、20mmol/kg以下が好ましく、さらに好ましくは15mmol/kg以下で、小さければ小さいほど良好である。この20mmol/kgよりも残存末端アミノ基量が増すと、磁性粉末、特に非酸化状態の鉄元素を含む磁性粉末との反応が著しくなり、著しい溶融粘度の上昇、流動性の低下を招くことがある。また、このポリアミド樹脂は、その末端カルボキシル基濃度が0〜500mmol/kgであることが好ましい。
【0035】
また、変性に用いるカルボキシル基含有炭化水素としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉相酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸等のモノカルボキシル飽和脂肪酸系、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸等のジカルボキシル飽和脂肪酸系、アクリル酸、リノール酸、オレイン酸等のモノカルボキシル不飽和脂肪酸系、マレイン酸、フマル酸等のジカルボキシル不飽和脂肪酸系、安息香酸等の芳香族系モノカルボキシル炭化水素、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族系ジカルボキシル炭化水素等が挙げられる。
【0036】
(2)ポリフェニレンサルファイド樹脂
ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂は、その分子構造によって架橋型、直鎖型、セミ直鎖型(部分架橋型あるいは半架橋型とも称される)に大別される。通常ボンド磁石用には、剛性が求められる場合には架橋型、靱性が求められる場合には直鎖型またはセミ直鎖型が使用される。本発明ではいずれのものも使用でき、それぞれを混合して使用してもよいが、直鎖型またはセミ直鎖型を使うと効果が顕著である。
本発明においては、PPS樹脂を架橋率によって区別する場合、架橋型PPS樹脂とは架橋率が26%以上(例えば、30〜40%)のもの、セミ直鎖型PPS樹脂とは架橋率が5〜25%のもの、直鎖型PPS樹脂とは架橋率が5%未満のものを指すものとする。
【0037】
また、本発明に用いられるPPS樹脂の平均分子量は、特に制限されないが、10,000〜100,000であることが好ましい。低分子量のPPS樹脂を用いた場合には溶融粘度が低いため射出成形用組成物の成形性に優れるが強度などの物性が劣ってしまい、高分子量のPPS樹脂を用いた場合には逆に物性には優れるが高粘度であるため、磁性粉末の充填率を高くすると成形性が劣ることとなる。より好ましいPPS樹脂の平均分子量は、20,000〜80,000である。
【0038】
また、直鎖型PPS樹脂、セミ直鎖型PPS樹脂は、従来公知の方法により容易に合成することができる。セミ直鎖型PPS樹脂は、直鎖型PPS樹脂を熱処理して部分架橋させる際の熱処理時間を短くしたり、あるいは処理温度を低くしたりすればよいが、直鎖型PPS樹脂の場合は、架橋は酸素によって促進されるため、熱処理雰囲気中の酸素含有量を少なくしても、セミ直鎖型PPS樹脂の架橋率は調整することができる。実際の製造に際しては上記方法を適宜組み合わせて、セミ直鎖型PPS樹脂の架橋率を調整すればよい。
【0039】
直鎖型PPS樹脂としては、(株)トープレン製のH−1(商品名)、LR−03(商品名)、トープレンPPS LN−1(商品名)、(株)トープレン製のLC−5(商品名)、(株)クレハ製、商品名:W−203A、W−214A、DIC社製のLR−2G(商品名)などの市販品を使用することもできる。セミ直鎖型PPS樹脂としては、(株)トープレン製のT−2(商品名)などの市販品を使用することもできる。また、架橋型PPS樹脂としては、(株)トープレン製のK−1G(商品名)などの市販品を使用することもできる。
【0040】
本発明において、PPS樹脂の溶融粘度は、合金粉末の種類に応じて適切なものを選択すればよいが、得られるボンド磁石に所望の機械的強度が与えられる範囲内で、できるだけ低い方が好ましく、10Pa・s以上であることが望ましい。溶融粘度は、300°Cにおいて10〜1000Pa・sの範囲内にあることが好ましく、特に20〜200Pa・sの範囲にあるものがさらに好ましい。溶融粘度が10Pa・s未満では、得られる磁石の機械的強度が低下することがあり、一方、溶融粘度が1000Pa・sを超えると、組成物の流動性が著しく低下して、射出成形が困難となる場合がある。このとき流動性を上げるために高温で射出成形しようとすると、磁性粉末の酸化劣化のために磁気特性に優れた磁石が得られないこともある。また、これら熱可塑性樹脂は、単独でも2種類以上のブレンド等による混合物でもよい。
【0041】
これら熱可塑性樹脂の形状は、パウダー、ビーズ、ペレット等、特に限定されないが、磁性粉との均一混合性から考えるとパウダーが望ましい。
磁性粉末への添加量は、その種類や成形方法などによっても異なるが、磁性粉末100重量部に対して5〜50重量部の割合が良く、好ましくは8〜20重量部、さらには8〜15重量部がより好ましい。該熱可塑性樹脂の添加量が該磁性粉100重量部に対して5重量部未満の場合は、成形性が著しく低下し、所望の樹脂結合型磁石成形することができない。また、添加量が50重量部を超える場合、所望の磁気特性が得られない。
【0042】
(3)ブロック共重合体
本発明の組成物において、熱可塑性樹脂には、スチレン単位とブチレン単位とを構成成分として含むブロック共重合体(以下、単にブロック共重合体ともいう)、いわゆるスチレン系の熱可塑性エラストマーが添加される。
【0043】
ブロック共重合体としては、スチレンとブタジエンを必須単位とする共重合体SBSに水素添加することで製造されるもので、スチレン・ブタジエン・ブチレン・スチレンブロック共重合体(SBBS)、スチレン・エチレン・ブチレン・ブチレン・オレフィン結晶ブロック共重合体(SEBC)、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレンブロック共重合体(SEBS)などが挙げられる。
【0044】
本発明の組成物を用いて得られるボンド磁石(成形品)は、破断面をSEM観察すると熱可塑性樹脂としてポリアミド樹脂を用いたものでは、
図1のような状態になっている。
図2は
図1の試料をトルエンでエッチングしたものであり、球状の孔がブロック共重合体の跡である。20点の孔の大きさを測定し平均した分散粒径は0.7μmだった。
【0045】
また、熱可塑性樹脂としてポリフェニレンサルファイド樹脂を用いたものでは、ボンド磁石(成形品)は、試料をトルエンでエッチングしたあと破断面をSEM観察すると、
図3のような状態になっている。ポリアミド樹脂を用いたものと同様に、球状の孔がブロック共重合体の跡である。20点の孔の大きさを測定し平均した分散粒径は1.6μmだった。
そして、本発明のボンド磁石用組成物では、このブロック共重合体が0.1〜5μmの球状体としてポリアミド樹脂またはポリフェニレンサルファイド樹脂の中に微細分散していると、リサイクルに伴う組成物の強度低下を抑えながら流動性の指標であるQ値を向上できることが確認されている。
【0046】
そのため本発明では、これらのブロック共重合体において、スチレン単位に対するスチレン単位以外の構成単位の質量比(α)、すなわち(スチレン単位以外の構成単位)/(スチレン単位)が1〜6とする。これは、SBBSであれば(ブタジエン単位とブチレン単位の質量和)/(スチレン単位の質量)であり、SEBCであれば(エチレン単位、ブチレン単位、オレフィン結晶単位の質量和)/(スチレン単位の質量)であり、SEBCであれば(エチレン単位とブチレン単位の質量和)/(スチレン単位の質量)である。好ましい範囲は、1〜5であり、より好ましい範囲は、1〜4である。これにより、樹脂バインダ中にブロック共重合体を効果的に0.1〜5μmの球状体として分散させることができる。
これに対して質量比(α)が1未満では、環状のスチレン単位が多いので強度が低くなる傾向にあり、また6を超えると鎖状のブタジエン単位とブチレン単位などが多いのでポリアミド樹脂系では流動性が低くなり、ポリフェニレンサルファイド樹脂系では逆に流動性が上がりすぎ、ブロック共重合体が球状体として分散しないので、強度が低下する傾向にある。
【0047】
なお、本発明において、球状体とは、真球はもちろんのこと、断面が略円形のラグビーボール状、弾丸状、円盤・円錐状、瓢箪状、あるいはこれらの類似形も含むものとする。また、表面は通常平坦で滑らかであるが、微細な凹凸があってもよい。ラグビーボール状や弾丸状の場合、その長軸の長さが短軸の長さに対して、1〜3倍であることが好ましい。
【0048】
希土類遷移金属合金粉末は、フェライトなどの酸化物に比べて高価なフィラーであるため、射出成形時に発生するスプルーやランナーはリサイクル使用されるのが一般であるが、前記したとおり、高温成形で劣化した熱可塑性樹脂と希土類遷移金属合金粉末を用いた組成物では、リサイクル使用の回数が限られるという問題があった。
しかし、本発明では、熱可塑性樹脂には特定のブロック共重合体が配合されていることから、低温溶融時の流動性に優れ、成形性が良く、磁気特性、剛性等の機械強度及びリサイクル性に優れたボンド磁石用組成物とすることができる。
【0049】
(4)添加剤など
本発明における組成物は、本発明の目的を損なわない限り、上記の必須成分であるポリアミド樹脂、またはポリフェニレンサルファイド樹脂やブロック共重合体の他にも、これら以外の樹脂、プラスチック成形用滑剤や種々の安定剤等を添加することができる。
本発明の組成物に添加可能な樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブテン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン−エタクリレート共重合樹脂、エチレン−メタクリレート共重合樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、部分酸化ポリエチレン樹脂等のポリオレフィン系及びその共重合樹脂をはじめ、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、酢酸セルロース、酪酸セルロース、ポリスチレン樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、スチレン−ブタジエン共重合樹脂、スチレン−アクリロニトリル共重合樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂、アクリレート−スチレン−アクリロニトリル樹脂、塩素化ポリエチレン−アクリロニトリル−スチレン共重合樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリブチルメタクリレート樹脂、ポリテトラフロロエチレン樹脂、エチレン−ポリテトラフロロエチレン共重合樹脂等が挙げられる。
これら任意成分の樹脂は、必須成分であるポリアミド樹脂またはポリフェニレンサルファイド樹脂に対して40重量%以下、好ましくは30重量%以下とする。任意成分である樹脂が40重量%を超えると、組成物の成形性やボンド磁石の強度、あるいはリサイクル性が低下するために、本発明の目的を達することができない。
【0050】
滑剤としては、例えばパラフィンワックス等のワックス類、ステアリン酸等の脂肪酸類、ステアリン酸カルシウム等の脂肪酸塩(金属石鹸類)、ステアリン酸アミド等の脂肪酸エステル、エチレングリコール等のアルコール類、グリセリンモノラウレート等のグリセリン系化合物、またはグリセリン系脂肪酸エステル化合物、ポリエチレングリコールなどのポリエーテル類、ジメチルポリシロキサン等のポリシロキサン類、弗素系オイルといった弗素化合物、窒化珪素等の無機化合物粉体が挙げられる。
【0051】
また、安定剤としては、ビス(2、2、6、6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1、2、2、6、6、−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、1−[2−{3−(3,5−ジ−第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]−4−{3−(3、5−ジ−第三ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン、8−ベンジル−7、7、9、9−テトラメチル−3−オクチル−1、2、3−トリアザスピロ[4、5]ウンデカン−2、4−ジオン、4−ベンゾイルオキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン、こはく酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2、2、6、6−テトラメチルピペリジン重縮合物、ポリ[[6−(1、1、3、3−テトラメチルブチル)イミノ−1、3、5−トリアジン−2、4−ジイル][(2、2、6、6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[[2、2、6、6−テトラメチル−4−ピペリジル]イミノ]]、2−(3、5−ジ・第三ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1、2、2、6、6−ペンタメチル−4−ピペリジル)等のヒンダード・アミン系安定剤のほか、フェノール系、ホスファイト系、チオエーテル系等の抗酸化剤等が挙げられる。
【0052】
上記の他、顔料やプラスチック用各種改質剤、相溶化剤等を適宜必要に応じて添加しても差し支えないが、最終混練後の組成物が所定の溶融時の組成物流れ値となるようにする。
また、樹脂バインダの配合量は、磁性粉末の種類や量、成形方法などによっても異なるが、組成物全体に対して3〜20質量%とするのが望ましく、好ましくは5〜15質量%とする。配合量が3質量%より少ないと流動性が低く成形できなかったり、15質量%を超えると磁気特性が低くなったりすることがある。
【0053】
2.ボンド磁石用組成物の製造方法
本発明のボンド磁石用組成物は、磁性粉末、ポリアミド系熱可塑性樹脂またはポリフェニレンサルファイド樹脂と、スチレン単位とブチレン単位とを構成成分として含むブロック共重合体とを混合し、ポリアミド系熱可塑性樹脂またはポリフェニレンサルファイド系熱可塑性樹脂中に0.1〜5μmの球状の共重合体が分散するように溶融混練することで製造される。必要に応じて前記の滑剤や安定化剤などの添加剤を添加してもよい。
【0054】
磁性粉末の配合量は、ボンド磁石の成形方法によって異なり、射出成形では組成物に対して65〜95質量%、押出し成形では組成物に対して80〜97質量%とするのが好ましい。
【0055】
本発明では、ブロック共重合体として、市販品をそのまま使用してもよいが、300μm以下、特に250μm以下に粉砕して使用することが好ましい。これにより、熱可塑性樹脂へ混合しやすくなり、分散性をより向上することができる。
【0056】
ここでブロック共重合体の配合量は、ポリアミド系樹脂またはポリフェニレンサルファイド樹脂を含むバインダ成分全体の1〜50質量%であることが好ましい。1質量%未満では、0.1〜5μmの球状共重合体の分散密度が低く、流動性や強度への改善効果が小さい。また50質量%を超えると、球状の共重合体の分散粒径が5μmを超えて、改善効果が低下する。ブロック共重合体の好ましい配合量は、ポリアミド系樹脂の場合、1〜40質量%であり、ポリフェニレンサルファイド樹脂の場合、2〜45質量%である。
【0057】
混練装置としては、バッチ式のニーダーや連続式の押出機が利用できる。それぞれの混練装置で、混練中の組成物にかかるせん断力をコントロールして、ポリアミド系熱可塑性樹脂またはポリフェニレンサルファイド樹脂中で共重合体の分散粒径を変えることができる。ニーダーであれば、温度、原料の混合槽への投入量、ニーディングブレードの回転数あるいは混練時間で、連続押出機であれば、温度分布、原料の投入速度、スクリューセグメントの形状、スクリュー回転数、ダイの穴径などで調整することができる。
【0058】
いずれの条件を制御してもよいが、ボンド磁石用組成物中の共重合体の球状分散物が0.1〜5μmの大きさになるようにすることが重要で、一般には混練時のせん断力を大きくするほど分散物の粒径は小さくなる。
【0059】
せん断力を大きくするには、原料の混合槽への投入量を増やす、ニーディングブレードの回転数を上げる、あるいは混練時間を長くすることができる。せん断力が小さいと、分散物が球状にならないか大きさが5μmを超えることがある。
ブロック共重合体は、樹脂バインダの溶融する温度よりも高温に加熱・混練される。混練温度は、樹脂の種類によっても異なるが、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂のいずれであっても180℃以上とする必要があり、200℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましい。混練温度が180℃未満では、分散物が球状にならないか大きさが5μmを超えることがある。
【0060】
なお、前記特開2007−103812号公報(特許文献6)には、水添スチレン系熱可塑性エラストマー中のスチレン含有率が、20wt%以上60wt%以下であるブロック共重合体を、エチレンエチルアクリレート系樹脂と磁性粉末との組成物に含有させた押出成形用樹脂磁石組成物が開示されている。
しかし、このエチレンエチルアクリレート系樹脂は本発明で用いるポリアミド系樹脂やポリフェニレンサルファイド樹脂とは異なり、また最も重要な熱可塑性樹脂中の共重合体の球状分散物の大きさについて記載がない。0.1〜5μmの球状に分散させるのは、ただ所定のブロック共重合体を添加すればよいのではなく、そのような大きさで分散させるための配合量や混練条件を必要とするものである。
混練物は、プラスチック粉砕機などでペレット化して射出成形原料とすることができる。
【0061】
3.ボンド磁石
本発明のボンド磁石は、前記の組成物を樹脂の融点以上の温度で加熱溶融した後、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法等を用いて該溶融物を磁場中で成形することにより、成形体として得ることができる。加熱溶融温度は、ポリアミド系樹脂の場合、好ましくは200〜250℃の範囲とし、ポリフェニレンサルファイド樹脂の場合、好ましくは250〜350℃の範囲とする。
【0062】
特に、射出成形法は、成形体の形状の自由度が大きく、しかも得られる磁石の表面性状及び磁気特性が優れ、そのまま電子部品の部品として組み込める点で好ましい。
得られた成形体は、使用前に着磁することが望ましい。着磁には、静磁場を発生する電磁石、パルス磁場を発生するコンデンサー着磁機等が用いられる。着磁磁場、すなわち磁場強度は、磁石粉末の種類によって若干異なるが、1200kA/m(15kOe)以上が好ましく、さらには2400kA/m(30kOe)以上が好ましい。
得られるボンド磁石は、磁気特性に優れ、かつ剛性等の機械的強度に優れる。例えば電子機器用モーター部品等の小型で偏平な複雑形状品に用いられ、大量生産が可能、後加工が不要、インサート成形可能等の特長を有しており、特に、金属材料との一体成形部品に好適である。
【実施例】
【0063】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これら実施例によって何ら限定されるものではない。
なお、ブロック共重合体として、表1に示す市販品を用いた。
【0064】
【表1】
【0065】
また、得られる組成物、ボンド磁石の物性は以下に示す方法で測定・評価した。
<組成物の溶融流動性Q値>
ニーダーから回収された組成物をプラスチック粉砕機で粉砕し、JIS K 7210−1976「熱可塑性プラスチックの流れ試験方法」の参考試験とされている手法に基づき組成物の溶融流動性Q値を測定した。ダイの流路は直径1mm長さ10mmで、熱可塑性樹脂バインダとしてポリアミド樹脂を用いたときの試験温度は250℃、荷重は21.6kgであり、ポリフェニレンサルファイド樹脂を用いたときの試験温度は300℃、荷重は21.6kgである。
なお、ニーダーで混練直後の組成物をバージン材(V材)とし、一度射出成形し粉砕した組成物をリサイクル材(R材)と呼ぶ。V材およびR材の溶融流動性Q値は、いずれも0.1cc/s以上であり、両者の差が0.1cc/s以下であるものが望ましい。
【0066】
<曲げ強さ>
得られた組成物をポリアミド樹脂の場合、シリンダ温度240℃で射出成形し、また、ポリフェニレンサルファイド樹脂の場合、310℃で射出成形し、長さ40mm、幅8mm、厚み2mmの板状試験片を得て、JIS K 7203−1982「硬質プラスチックの曲げ試験方法」に準拠して曲げ強さを評価した。評価にあたって、支点間距離は30mm、クロスヘッドの移動速度は1mm/minとしている。曲げ強さは、V材およびR材ともに50MPa以上であるものが望ましい。
【0067】
<ブロック共重合体の分散状態>
また、組成物中の樹脂バインダ部分へのブロック共重合体の分散状態については、曲げ強さ試験後の破断面をトルエンでエッチングした後、走査型電子顕微鏡で観察した。ブロック共重合体が球状に分散している場合、エッチングによって球状の穴が形成され、開いた穴の直径を20点測定し平均することによって分散粒径を算出した。ブロック共重合体の分散粒径は、本発明の場合、5μm以下でなければならない。
【0068】
(実施例1〜4)
磁性粉末としてSmFeN系磁石粉末(住友金属鉱山製SFN−C)を90.0質量%、熱可塑性樹脂バインダとしてポリアミド12(宇部興産製UBESTA3020、平均分子量Mw 5300、末端アミノ基の残存量 7mmol/kg)を9.0質量%、スチレン単位とブチレン単位とエチレン単位を含むブロック共重合体A(JSR製DYNARON890P)を1.0質量%として、加圧型ニーダーに充填率80vol%で投入し、200℃30分混練した。ポリアミド系熱可塑性樹脂バインダ全体に占めるブロック共重合体の比率は、10質量%となる。
スチレン単位とブチレン単位を含むブロック共重合体の種類、ブチレン単位に対するスチレン単位の、またはブチレン単位とエチレン単位との和に対するスチレン単位の質量比α、ニーダー混練時の充填率、ブレード回転数、混練時間を表2に示す。
ニーダーから回収された組成物をプラスチック粉砕機で粉砕し、前記手法に基づき組成物の溶融流動性Q値を測定した。また、この組成物をシリンダ温度240℃で射出成形し、長さ40mm、幅8mm、厚み2mmの板状試験片を得て、前記の条件で曲げ強さを評価した。
また、組成物中の樹脂バインダ部分へのブロック共重合体の分散状態については、曲げ強さ試験後の破断面をトルエンでエッチングした後、走査型電子顕微鏡で観察し、ブロック共重合体が球状に分散している場合、エッチングによって球状の穴が形成され、開いた穴の直径を20点測定し平均することによって分散粒径を算出した。
次に、組成物のリサイクル性を調べるため、射出成形品の一部をプラスチック粉砕機で粉砕し、再度溶融流動性Q値を測定した。また再び射出成形し、曲げ強さおよび分散粒径を評価した。なお、ニーダーで混練直後の組成物をバージン材(V材)とし、一度射出成形し粉砕した組成物をリサイクル材(R材)と呼ぶ。
混練後の組成物の溶融流動性Q値、板状試験片の曲げ強さ、樹脂バインダ内のブロック共重合体の分散粒径を、それぞれV材とR材について評価した結果を表4に示す。
【0069】
(実施例5〜12)
実施例1で用いたスチレン単位とブチレン単位とエチレン単位を含むブロック共重合体A(JSR製DYNARON890P)の代わりに、表1に示すブロック共重合体を用い、実施例1と同様にして、組成物を調製した。なお、ブロック共重合体A〜Gはスチレン単位とブチレン単位に加え、エチレン単位を含むブロック共重合体である。
組成物を表2の条件で混練後に、溶融流動性Q値、板状試験片の曲げ強さ、樹脂バインダ内のブロック共重合体の分散粒径を、それぞれV材とR材について評価した。結果を表4に示す。
なお、実施例7で得られるボンド磁石(成形品)は、破断面をSEM観察すると、
図1のような状態になっていた。
図2は
図1の試料をトルエンでエッチングしたものであり、球状の孔がブロック共重合体の跡である。20点の孔の大きさを測定し平均した分散粒径は0.7μmだった。
【0070】
(実施例13〜18)
ポリアミド12を含む熱可塑性樹脂バインダと磁性粉末からなるボンド磁石用組成物中の熱可塑性樹脂バインダの占める比率を10質量%とし、ブロック共重合体の投入量を表2のように変化させた以外は、実施例2と同様にニーダー混練し、得られた組成物を評価した。結果を表4に示す。
【0071】
(実施例19)
磁性粉末として異方性NdFeB系磁石粉末(愛知製鋼製MF−P18)56.5質量%とSmFeN系磁石粉末(住友金属鉱山製SFN−C)37.5質量%を混合した粉末に、熱可塑性樹脂バインダとしてポリアミド12(宇部興産製UBESTA3020)5.4質量%とブロック共重合体Iを0.6質量%加えて、さらに混合し加圧型ニーダーに充填率75体積%で投入し、ブレード回転数50rpm、200℃で30分混練した。得られた組成物を評価し、結果を表4に示す。
【0072】
(実施例20)
磁性粉末として異方性Sm
2Co
17系磁石粉末(信越化学製)46質量%とSmFeN系磁石粉末(住友金属鉱山製SFN−C)46質量%を混合した粉末に、熱可塑性樹脂バインダとしてポリアミド12(宇部興産製UBESTA3020)6.8質量%とブロック共重合体Iを1.2質量%加えて、さらに混合し加圧型ニーダーに充填率75体積%で投入し、ブレード回転数50rpm、200℃で30分混練した。得られた組成物を評価し、結果を表4に示す。
【0073】
(実施例21)
磁性粉末として異方性フェライト磁石粉末(同和鉱業製SF−H270)45質量%とSmFeN系磁石粉末(住友金属鉱山製SFN−C)43質量%を混合した粉末に、熱可塑性樹脂バインダとしてポリアミド12(宇部興産製UBESTA3020)8.4質量%とブロック共重合体Iを3.6質量%加えて、さらに混合し加圧型ニーダーに充填率75体積%で投入し、ブレード回転数50rpm、200℃で30分混練した。得られた組成物を評価し、結果を表4に示す。
【0074】
(実施例22)
磁性粉末として等方性NdFeB系磁石粉末(マグネクエンチ製MQP−B)93質量%を混合した粉末に、熱可塑性樹脂バインダとしてポリアミド12(宇部興産製UBESTA3020)5.6質量%とブロック共重合体Iを1.4質量%加えて、さらに混合し加圧型ニーダーに充填率75体積%で投入し、ブレード回転数50rpm、200℃で30分混練した。得られた組成物を評価し、結果を表4に示す。
【0075】
(従来例1)
従来例として、ブロック共重合体を添加せず、熱可塑性樹脂バインダとしてポリアミド12の量を10質量%とした以外は、実施例1と同様にして組成物を作製し、溶融流動性Q値、曲げ強さを、V材とR材について評価した。その結果も表2,4に示す。
【0076】
(比較例1)
ブレード回転数を20rpmに落として混練のせん断力を下げた以外は、実施例2と同様にニーダー混練し、得られた組成物を評価した。結果を表2,4に示す。
【0077】
(比較例2)
混練時間を15分に短縮して混練した以外は、実施例2と同様にニーダー混練し、得られた組成物を評価した。結果を表2,4に示す。
【0078】
(比較例3)
ニーダーの混練槽に投入する材料の充填率を65vol%に抑えた以外は、実施例2と同様にニーダー混練し、得られた組成物を評価した。結果を表2,4に示す。
【0079】
(比較例4)
ブロック共重合体の投入量を6質量%(熱可塑性樹脂バインダ全体の60質量%)に増やした以外は、実施例2と同様にニーダー混練し、得られた組成物を評価した。結果を表2、4に示す。
【0080】
【表2】
【0081】
(実施例23〜26)
磁性粉末として等方性NdFeB系磁石粉末(マグネクエンチ製MQP−B)を89.0質量%、熱可塑性樹脂バインダとしてポリフェニレンサルファイド(DIC社製LR−2G、溶融粘度 80Pa・s、直鎖型)を10.5質量%、スチレン単位とブチレン単位とエチレン単位を含むブロック共重合体E(クラレ製セプトン807)を0.5質量%として、加圧型ニーダーに充填率70vol%で投入し、300℃20分混練した。熱可塑性樹脂バインダ全体に占めるブロック共重合体の比率は、4.5質量%となる。
スチレン単位とブチレン単位を含むブロック共重合体の種類、ブチレン単位に対するスチレン単位の、またはブチレン単位とエチレン単位との和に対するスチレン単位の質量比α、ニーダー混練時の充填率、ブレード回転数、混練時間を表3に示す。
ニーダーから回収された組成物をプラスチック粉砕機で粉砕し、前記の手法に基づき組成物の溶融流動性Q値を測定した。
また、この組成物をシリンダ温度310℃で射出成形し、長さ40mm、幅8mm、厚み2mmの板状試験片を得て、前記の要領で曲げ強さを評価した。
また、組成物中の樹脂バインダ部分へのブロック共重合体の分散状態については、曲げ強さ試験後の破断面をトルエンでエッチングした後、走査型電子顕微鏡で観察した。ブロック共重合体が球状に分散している場合、エッチングによって球状の穴が形成され、開いた穴の直径を20点測定し平均することによって分散粒径を算出した。
次に、組成物のリサイクル性を調べるため、射出成形品の一部をプラスチック粉砕機で粉砕し、再度溶融流動性Q値を測定した。また再び射出成形し、曲げ強さおよび分散粒径を評価した。なお、ニーダーで混練直後の組成物をバージン材(V材)とし、一度射出成形し粉砕した組成物をリサイクル材(R材)と呼ぶ。
混練後の組成物の溶融流動性Q値、板状試験片の曲げ強さ、樹脂バインダ内のブロック共重合体の分散粒径を、それぞれV材とR材について評価した結果を表4に示す。
【0082】
(実施例27〜29)
磁性粉末とポリフェニレンサルファイドからなるボンド磁石用組成物中の熱可塑性樹脂バインダ全体の占める比率を11質量%とし、ブロック共重合体の投入量を表3のように変化させた以外は、実施例25と同様にニーダー混練し、得られた組成物を評価した。結果を表4に示す。
【0083】
(実施例30〜33)
スチレン単位とブチレン単位とエチレン単位を含むブロック共重合体E(クラレ製セプトン807)の代わりに表1に示すブロック共重合体を用い、熱可塑性樹脂バインダ全体に占めるブロック共重合体の比率を8質量%とした以外は、実施例25と同様に組成物を調製した。
組成物を混練後に溶融流動性Q値、板状試験片の曲げ強さ、樹脂バインダ内のブロック共重合体の分散粒径を、それぞれV材とR材について評価した。結果を表4に示す。
【0084】
(実施例34〜37)
磁性粉末として異方性NdFeB系磁石粉末(愛知製鋼製MF−P18)63質量%とSmFeN系磁石粉末(住友金属鉱山製SFN−C)27質量%を混合した粉末、つまり両者を70:30で混合した粉末と、熱可塑性樹脂バインダとしてポリフェニレンサルファイド(DIC社製LR−2G)と表2のブロック共重合体を用意した。ボンド磁石用組成物中の熱可塑性樹脂バインダの量を10質量%とし、樹脂バインダ全体に占めるブロック共重合体の比率を10質量%とした。これらを加圧型ニーダーに充填率75体積%で投入し、ブレード回転数50rpm、300℃で20分混練した。
組成物を混練後に溶融流動性Q値、板状試験片の曲げ強さ、樹脂バインダ内のブロック共重合体の分散粒径を、それぞれV材とR材について評価した。結果を表4に示す。
なお、実施例35で得られるボンド磁石(成形品)は、破断面をトルエンでエッチングしたSEM観察すると、
図3のような状態になっていた。球状の孔がブロック共重合体の跡である。20点の孔の大きさを測定し平均した分散粒径は1.6μmだった。
【0085】
(実施例38〜41)
磁性粉末として異方性Sm
2Co
17系磁石粉末(信越化学製)54.6質量%とSmFeN系磁石粉末(住友金属鉱山製SFN−C)36.4質量%を混合した粉末、つまり両者を60:40で混合した粉末、熱可塑性樹脂バインダとしてポリフェニレンサルファイド(DIC社製LR−2G)、および表2のブロック共重合体を用意した。ボンド磁石用組成物中の熱可塑性樹脂バインダの量を9質量%とし、樹脂バインダ全体に占めるブロック共重合体の比率を20質量%とした。これらを加圧型ニーダーに充填率80体積%で投入し、ブレード回転数40rpm、300℃で20分混練した。
組成物を混練後に溶融流動性Q値、板状試験片の曲げ強さ、樹脂バインダ内のブロック共重合体の分散粒径を、それぞれV材とR材について評価した。結果を表4に示す。
【0086】
(従来例2)
従来例として、ブロック共重合体を添加せず、熱可塑性樹脂バインダとしてポリフェニレンサルファイドを11質量%とした以外は、実施例25と同様にして組成物を作製し、溶融流動性Q値、曲げ強さを、V材とR材について評価した。その結果を表3、4に示す。
【0087】
(従来例3)
従来例として、ブロック共重合体を添加せず、熱可塑性樹脂バインダとしてポリフェニレンサルファイドを10質量%とした以外は、実施例34と同様にして組成物を作製し、溶融流動性Q値、曲げ強さを、V材とR材について評価した。その結果を表3、4に示す。
【0088】
(従来例4)
従来例として、ブロック共重合体を添加せず、熱可塑性樹脂バインダとしてポリフェニレンサルファイドを9質量%とした以外は、実施例38と同様にして組成物を作製し、溶融流動性Q値、曲げ強さを、V材とR材について評価した。その結果を表3、4に示す。
【0089】
(比較例5)
ブレード回転数を15rpmに落として混練のせん断力を下げた以外は、実施例23と同様にニーダー混練し、得られた組成物を評価した。結果を表3、4に示す。
【0090】
(比較例6)
混練時間を7分に短縮して混練した以外は、実施例35と同様にニーダー混練し、得られた組成物を評価した。結果を表3、4に示す。
【0091】
(比較例7)
ニーダーの混練槽に投入する材料の充填率を50vol%に抑えた以外は、実施例40と同様にニーダー混練し、得られた組成物を評価した。結果を表3、4に示す。
【0092】
(比較例8)
スチレン単位とブチレン単位とエチレン単位を含むブロック共重合体C(JSR製DYNARON860P)の代わりにブロック共重合体J(旭化成製タフテックH122)を用いた以外は、実施例32と同様に組成物を調製した。
組成物を混練後に溶融流動性Q値、板状試験片の曲げ強さを、それぞれV材とR材について評価した。結果を表4に示す。なお樹脂バインダ内にはブロック共重合体の球状体は確認できなかった。
【0093】
【表3】
【0094】
【表4】
【0095】
「評価」
上記の実施例、比較例などの結果を示す表2〜4から、次のことがわかる。
まず、バインダ樹脂がポリアミド樹脂の場合について、従来例1において、V材で0.31cc/sだったQ値がリサイクルすることで0.14cc/sに低下している。また曲げ強さが91MPaから58MPaに低下している。
【0096】
これに対して、スチレン単位とブチレン単位を含むブロック共重合体を添加して混練した組成物(実施例1〜22)においては、V材のQ値が上昇し、リサイクルしてもその低下が少ないことがわかる。
また曲げ強さについては、組成物をリサイクルすることによる低下が押さえられていることがわかる。実施例7のV材成形品の破断面をSEM観察したものが
図1、2である。
図2は
図1の試料をトルエンでエッチングしたものであり、球状の孔がブロック共重合体の跡である。20点の孔の大きさを測定し平均した分散粒径は0.7μmだった。
【0097】
一方、比較例1〜3のように、ブレード回転数、混練時間やニーダー充填率を下げて、混練のせん断力を弱めて、分散粒径を5μm以上にしたものでは、V材をリサイクルしたときの溶融流動性Q値の低下が大きい。また曲げ強さが低く、リサイクルに伴う変化も大きい。比較例2、3ではリサイクルによりQ値と曲げ強さが大きくなる傾向を示すが、これは射出成形時に組成物にかかるせん断力でブロック共重合体の分散粒径が小さくなるためだと思われる。しかしながらR材の分散粒径が、まだ十分小さくないことから、Q値も曲げ強さも低いレベルに留まっている。
また比較例4のように、ブロック共重合体の投入量が6質量%と、熱可塑性樹脂バインダ全体10質量%の1/2以上になると、分散粒径が5μmを超えるので、曲げ強さの低下が大きい。
【0098】
次に、バインダ樹脂がポリフェニレンサルファイド樹脂の場合について、従来例2において、V材で0.61cc/sだったQ値がリサイクルすることで1.2cc/sと約2倍になっている。曲げ強さは49MPaから31MPaに低下している。ポリフェニレンサルファイド樹脂は混練や射出成形によるせん断力で分子鎖が切断され低分子量化するため、通常リサイクルによりQ値が上昇する。曲げ強さは低分子量化により低下する。この傾向は従来例3、4でも同様で、Q値はリサイクルにより、0.14cc/sから0.49cc/s、あるいは0.54cc/sから1.3cc/sと2倍以上に増加し、曲げ強さは85MPaから59MPa、あるいは46MPaから28MPaに低下した。
これに対して、スチレン単位とブチレン単位を含むブロック共重合体を添加して混練した組成物(実施例23〜41)においては、V材とR材のQ値の変化は最も高いものでも実施例25の1.5倍に留まり、リサイクルしてもその変化が小さいことがわかる。
また曲げ強さについては、従来例ではリサイクルによりV材の6割から7割に低下しているのに対して、低下の大きい実施例23でもV材の88%に押さえられていることがわかる。
一方、比較例5〜7のように、ブレード回転数、混練時間やニーダー充填率を下げて、混練のせん断力を弱めて、分散粒径を6μm以上にしたものでは、リサイクルによってQ値が1.5倍以上に増大している。またR材の曲げ強さはV材の74%から80%と実施例ほどの抑制効果がない。なお、比較例8では、α値が大きいブロック共重合体を用いたので、樹脂バインダ内でブロック共重合体が球状体とならず、リサイクルによってQ値が1.5倍以上に増大し、R材の曲げ強さも大幅に低下した。