特許第5910591号(P5910591)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5910591含油スカムの粘度低減方法、及び含油排水の粘度低減方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5910591
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】含油スカムの粘度低減方法、及び含油排水の粘度低減方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 11/00 20060101AFI20160414BHJP
   C02F 1/40 20060101ALI20160414BHJP
   C02F 11/14 20060101ALI20160414BHJP
【FI】
   C02F11/00 K
   C02F1/40 D
   C02F11/14 Z
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-190639(P2013-190639)
(22)【出願日】2013年9月13日
(65)【公開番号】特開2015-54309(P2015-54309A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2014年7月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100131635
【弁理士】
【氏名又は名称】有永 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100118050
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 将之
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 洋平
(72)【発明者】
【氏名】吉川 たかし
(72)【発明者】
【氏名】小野 貴史
【審査官】 岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−211189(JP,A)
【文献】 特開2003−211191(JP,A)
【文献】 特開平08−332304(JP,A)
【文献】 特開2008−006486(JP,A)
【文献】 特開平09−201574(JP,A)
【文献】 特開2007−260484(JP,A)
【文献】 特開2004−277550(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第00383522(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 11/00
C02F 1/40
C02F 11/14
C02F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含油スカムに対して、HLB値14以下、曇点60℃以下のノニオン系界面活性剤を添加する含油スカムの粘度低減方法。
【請求項2】
前記曇点が20℃以下である請求項1に記載の含油スカムの粘度低減方法。
【請求項3】
含油排水に対して、HLB値14以下、曇点60℃以下のノニオン系界面活性剤を添加する含油排水の粘度低減方法。
【請求項4】
前記曇点が20℃以下である請求項3に記載の含油排水の粘度低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含油スカムの粘度低減方法、及び含油排水の粘度低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷間圧延等の金属の圧延処理では、潤滑性のための油、冷却のための水が必要であり、含油排水が発生する。このように金属の圧延処理等で生じた含油排水は、油水分離槽において、水分と油分とに分離される。分離した水分は、回収して冷間圧延等で再利用するか、排水処理設備に送られる。油分は分離の際にスカムとして浮上し、この油分を含むスカム(以下、「含油スカム」と称する)は、油水分離槽からポンプで送液され、産業廃棄物として焼却処分される。
含油排水及び含油スカムは、油分の影響により粘度が高くなりやすい。粘度の上昇は低温環境下では顕著であり、特に含油スカムは油分の濃度が高いため粘度が高くなりやすく、油水分離槽からのポンプでの送液作業に深刻な影響を与える。
【0003】
含油排水の油水分離処理としては、特許文献1の技術が提案されている。
特許文献1は、含油廃水から油分離槽にて浮上油を分離した後、無薬注で加圧浮上槽にてさらに浮上油を分離して浮上油を2段階で除去し、その後エマルジョンブレークし凝集剤を添加して、分離された油分を凝集加圧浮上濃縮槽にてスカムとして浮上させるとともに濃縮して除去するものである。しかし、特許文献1は油水分離のみに着目しており、含油排水や含油スカムの粘度低減に関しては何ら考慮していない。
【0004】
含油排水や含油スカムの粘度を低減するためには、加温が有効である。特許文献2では、油スラッジを流動化して取り扱い性を向上させるために、油スラッジを加温することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−121688号公報
【特許文献2】特公昭59−38175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2のような加温処理は、一連の工程におけるエネルギー消費量が大きくなってしまうという問題がある。
また、含油スカムについては水の添加によっても粘度を低減することが可能であるが、スカムの水分が増加することによって、焼却処分の際に助燃剤が大量に必要となったり、水分の存在により含油スカムの熱量が低下し、含油スカムの再資源化が困難になるという問題がある。
【0007】
本発明は、このような状況下になされたものであり、エネルギーを大量に消費したり、含油スカム中の水分の増加を伴うことなく、含油スカムや含油排水の粘度を低減する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく、本発明は、次の[1]〜[4]を提供する。
[1]含油スカムに対して、HLB値14以下、曇点60℃以下のノニオン系界面活性剤を添加する含油スカムの粘度低減方法。
[2]前記曇点が20℃以下である上記1に記載の含油スカムの粘度低減方法。
[3]含油排水に対して、HLB値14以下、曇点60℃以下のノニオン系界面活性剤を添加する含油排水の粘度低減方法。
[4]前記曇点が20℃以下である上記3に記載の含油排水の粘度低減方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の含油スカムの粘度低減方法、及び含油排水の粘度低減方法は、エネルギーを大量に消費したり、含油スカム中の水分の増加を伴うことなく、含油スカム、及び含油排水の粘度を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[含油スカムの粘度低減方法]
本発明の含油スカムの粘度低減方法は、含油スカムに対して、HLB値14以下、曇点60℃以下のノニオン系界面活性剤を添加するものである。
なお、本発明でいう含油スカムとは、少なくとも油水分離槽で分離した油分(浮上油)を含むものであり、さらに場合により、油水分離時に油分とともに同時に取り出される水分等の油分以外の成分、及び含油スカムに散布する水分等の油水分離後に添加される成分を含むものである。
【0011】
本発明の含油スカムの粘度低減方法に適用可能な含油スカムは特に制限されない。含油スカムの由来としては、冷間圧延等の金属の圧延処理等で生じる含油排水が挙げられる。
含油スカム中の油分は特に限定されないが、通常20〜80質量%である。
【0012】
HLB値14以下、曇点60℃以下のノニオン系界面活性剤は、HLB値が14以下であることにより、含油スカムに溶けやすく、曇点が60℃以下であることにより、曇点を決定しているファクター(分子構造等)の影響により、油成分に作用しやすくなっていると考えられる。そして、HLB値14以下、曇点60℃以下のノニオン系界面活性剤が含油スカム中の油成分に作用すると、油分に含まれるワックス成分の結晶化が阻害され、含油スカムの粘度を低減できると考えられる。また、HLB値14以下、曇点60℃以下のノニオン系界面活性剤が含油スカム中の油成分に作用すると、含油スカム中の油滴の分散を促進することにより、含油スカムの粘度を低減できると考えられる。
このように、HLB値14以下、曇点60℃以下のノニオン系界面活性剤は、含油スカムの粘度低減作用があるため、含油スカムに散布する水の量を減らすことができる。これにより、含油スカム中の水分が減少し、含油スカムを焼却処分する際の助燃剤の添加量を削減できる。また、含油スカム中の水分が減少することにより、含油スカムの熱量が高くなり、回収した含油スカムを再資源化することができる。
また、含油スカムを加熱して粘度を低減する必要がなくなり、蒸気等のエネルギーの使用量を削減できる。
【0013】
ノニオン系界面活性剤のHLB値は11以下が好ましい。また、HLB値は含油スカムへの溶解性の観点から8以上が好適である。ノニオン系界面活性剤の曇点は20℃以下が好ましい。
【0014】
HLB値14以下、曇点60℃以下のノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンジ脂肪酸エステル及びこれらの誘導体等が挙げられる。
HLB値は、親水基と親油基とのバランスにより調整できる。曇点はポリエーテル鎖を長くすることにより低くすることができる。
【0015】
HLB値14以下、曇点60℃以下のノニオン系界面活性剤は、含油スカムの粘度を低減する作用を奏するが、該作用により、硬い油膜中に閉じ込められている水が油膜外に逃げやすくなり、油水分離効果を促進することもできる。含油スカムの油水分離効果により、油水分離の段階ごとに含油スカムの水分を減少させることができる。
【0016】
含油スカムに対するHLB値14以下、曇点60℃以下のノニオン系界面活性剤の添加量は、含油スカム中の油分に対して、3g/L〜30g/Lであることが好ましい。
HLB値14以下、曇点60℃以下のノニオン系界面活性剤を添加する箇所は特に制限されない。含油スカム中の水分を減少させる観点からは、含油スカムが得られるより前の箇所、具体的には油水分離槽又は油水分離槽以前の箇所で添加することが好ましい。また、添加量削減の観点からは、油水分離槽の後の配管等で添加することが好ましい。
【0017】
[含油排水の粘度低減方法]
本発明の含油排水の粘度低減方法は、含油排水に対して、HLB値14以下、曇点60℃以下のノニオン系界面活性剤を添加するものである。
【0018】
本発明の含油排水の粘度低減方法に適用可能な含油排水は特に制限されず、どのような含油排水でも適用することができる。含油排水としては、冷間圧延等の金属の圧延処理等で生じる排水が挙げられる。
含油排水中の油分は特に限定されないが、金属の圧延処理の排水の場合、通常油分は50〜500ppmである。
【0019】
HLB値14以下、曇点60℃以下のノニオン系界面活性剤は、HLB値が14以下であることにより、含油排水に溶けやすく、曇点が60℃以下であることにより、曇点を決定しているファクター(分子構造等)の影響により、油成分に作用しやすくなっていると考えられる。そして、HLB値14以下、曇点60℃以下のノニオン系界面活性剤が含油排水中の油成分に作用すると、油分に含まれるワックス成分の結晶化が阻害され、含油排水の粘度を低減できると考えられる。また、HLB値14以下、曇点60℃以下のノニオン系界面活性剤が含油排水中の油成分に作用すると、含油排水中の油滴の分散を促進することにより、含油排水の粘度を低減できると考えられる。
【0020】
HLB値14以下、曇点60℃以下のノニオン系界面活性剤は、含油排水の粘度を低減する作用を奏するが、該作用により、硬い油膜中に閉じ込められている水が油膜外に逃げやすくなり、油水分離効果を促進することもできる。当該油水分離効果により、油水分離槽で得た含油排水の水分を減少させることができる。
【0021】
含油排水に対するHLB値14以下、曇点60℃以下のノニオン系界面活性剤の添加量は、排水中の油分に対して、3g/L〜30g/Lであることが好ましい。
【0022】
本発明の含油排水の粘度低減方法で用いるHLB値14以下、曇点60℃以下のノニオン系界面活性剤の好適な実施態様は、本発明の含油スカムの粘度低減方法で用いるHLB値14以下、曇点60℃以下のノニオン系界面活性剤の好適な実施態様と同様である。
【0023】
<任意添加成分>
本発明の含油スカムの粘度低減方法及び含油排水の粘度低減方法においては、本発明の目的が損なわれない範囲で、各種の添加成分、例えば、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤等を添加することできる。これらの添加成分は一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【実施例】
【0024】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0025】
1.含油スカムの粘度低減の検証
[実施例1]
冷間圧延を経た含油排水の油水分離槽で採取した含油スカム(水分52質量%、油分48質量%、粘度7.6Pa・s)が入った缶を30〜40回撹拌混合した。攪拌した含油スカムを100mlの試験管に50ml注ぎ、薬剤としてノニオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル;三洋化成工業社製、ナロアクティーCL-50;HLB値10.0、曇点20℃以下)を添加し、再度含油スカムを注いで、薬剤濃度を10g/L(油分に対して20.8g/L)に調整した。試験管内の試料をスパチュラで120秒攪拌し、含油スカムと薬剤とを混合し、試料温度が20℃の条件で粘度を測定した。
【0026】
[実施例2〜8]、[比較例1〜10]
薬剤を以下のものに変更した以外は、実施例1と同様にして、含油スカムの粘度を測定した。
(実施例2の薬剤)
ノニオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンジ脂肪酸エステル;三洋化成工業社製、イオネットDO-400;HLB値8.4、曇点20℃以下)
(実施例3の薬剤)
ノニオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテル;三洋化成工業社製、エマルミンNL-70;HLB値12.4、曇点58℃)
(実施例4の薬剤)
ノニオン系界面活性剤(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル;三洋化成工業社製、ナロアクティーID-40;HLB値8.1、曇点20℃以下)
(実施例5の薬剤)
ノニオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル;三洋化成工業社製、サンノニックSS-50;HLB値10.5、曇点20℃以下)
(実施例6の薬剤)
ノニオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル;三洋化成工業社製、サンノニックSS-90;HLB値13.2、曇点56℃)
(実施例7の薬剤)
ノニオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール;三洋化成工業社製、ニューポールPE-61;HLB値1.9、曇点24℃)
(実施例8の薬剤)
ノニオン系界面活性剤(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル;三洋化成工業社製、ナロアクティーCL-85;HLB値12.6、曇点41℃)
【0027】
(比較例1の薬剤)
ノニオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテル;三洋化成工業社製、エマルミンNL-110;HLB値14.4、曇点97℃)
(比較例2の薬剤)
ノニオン系界面活性剤(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル;三洋化成工業社製、ナロアクティーCL-160;HLB値15.2、曇点99℃)
(比較例3の薬剤)
ノニオン系界面活性剤(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル;三洋化成工業社製、ナロアクティーCL-400;HLB値17.8、曇点100℃)
(比較例4の薬剤)
ノニオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンオレイルエーテルとポリオキシエチレンセチルエーテルの混合物;三洋化成工業社製、エマルミン110;HLB値13.2、曇点78℃)
(比較例5の薬剤)
ノニオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンオレイルエーテルとポリオキシエチレンセチルエーテルの混合物;三洋化成工業社製、エマルミン240;HLB値16.1、曇点100℃)
(比較例6の薬剤)
ノニオン系界面活性剤(モノステアリン酸ポリエチレングリコール;三洋化成工業社製、イオネットMS-1000;HLB値15.7、曇点100℃)
(比較例7の薬剤)
ノニオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール;三洋化成工業社製、ニューポールPE-68;HLB値15.7、曇点100℃)
(比較例8の薬剤)
カチオン系界面活性剤(塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム;三洋化成工業株式会社製、カチオンS)
(比較例9の薬剤)
カチオン系界面活性剤(塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム;三洋化成工業株式会社製、エコノールTM-22)
(比較例10の薬剤)
ブランク(薬剤は用いない)
【0028】
2.含油スカムの油水分離の検証
実施例1〜8及び比較例1〜10において、粘度測定後に試験管の試料をスパチュラで120秒攪拌し、含油スカムと薬剤とを混合した後に20℃の環境に18時間静置し、油水分離の状態を目視で観察した。その結果、水層が全体の1/5〜1/4観察できるものを「〇」、水層が1/5未満観察できるものを「△」、油水が分離せず水層が観察できないものを「×」とした。結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
表1の結果から明らかなように、HLB値14以下、曇点60℃以下のノニオン系界面活性剤を添加した実施例1〜8は、当初の含油スカムの粘度(7.6Pa・s)を大幅に低減できるものであった。また、実施例2〜7のノニオン系界面活性剤は、油水分離効果にも優れていた。