(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第一のロール及び前記第二のロールの回転軸と垂直な平面で、前記第一のロール及び前記第二のロールと前記第一の基材付きフィルム及び第二の基材付きフィルムとを切断してできる断面において、前記第一の基材付きフィルムと前記第一のロールとが接触する領域における前記第一のロールの回転方向の最も上流側の点と、前記第一のロールの中心点とを結ぶ直線を直線Aとし、前記第二の基材付きフィルムと前記第二のロールとが接触する領域における前記第二のロールの回転方向の最も上流側の点と、前記第二のロールの中心点とを結ぶ直線を直線Bとし、前記第一のロールの中心点と第二のロールの中心点とを結ぶ直線を直線Cとしたとき、直線Aと直線Cとのなす角度、及び、直線Bと直線Cとのなす角度の少なくとも一方が30°以上、かつ、135°以下である請求項1に記載の熱伝導シートの製造方法。
前記第一のロール及び前記第二のロールの間に配置される前の前記フィルムの残存揮発分が、前記フィルムの全質量の0.3質量%以上、かつ、1.2質量%以下である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の熱伝導シートの製造方法。
前記一対をなす第一のロール及び前記第二のロールのロール間を通過した前記第一の基材付きフィルム及び第二の基材付きフィルムの部分を、前記第一のロール及び前記第二のロールのロール間とは異なるロール間を構成する一対のロールのロール間に配置させて、前記フィルムの膜厚方向に圧力を付加する、請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の熱伝導シートの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明にかかる熱伝導シートの製造方法は、基材と、該基材上に設けられた熱伝導性粒子及び熱硬化性樹脂を含むフィルムと、を有する、第一の基材付きフィルム及び第二の基材付きフィルムを少なくとも準備し、前記第一の基材付きフィルム及び第二の基材付きフィルムのそれぞれの前記フィルムを接触させて、対向して配置されて一対をなす第一のロール及び第二のロールのロール間に配置し、前記一対をなす第一のロール及び第二のロールを回転させて、前記フィルムの膜厚方向に圧力を付加し、且つ第一の基材付きフィルム及び第二の基材付きフィルムを重ね合わせて搬送することを含む、結合された複数のフィルムを含む熱伝導シートの製造方法である。
【0017】
前記熱伝導シートの製造方法では、上記構成を採ることにより、前記第一の基材付きフィルム及び第二の基材付きフィルムを重ね合わせたときのシート面の圧力分布の拡大を抑制することができる。その結果、結合された複数の前記フィルムを含む熱伝導シートの熱伝導性、絶縁性等の特性のシート内でのばらつきを抑制できる。
また、本発明では、第一の基材付きフィルムと第二の基材付きフィルムとを、それぞれの前記フィルムを接触させて前記一対をなす第一のロール及び第二のロール間に配置させた後で、前記一対をなす第一のロール及び第二のロールを回転させて、前記フィルムの膜厚方向に圧力が付加される。これにより、それぞれの前記フィルムの膜厚方向の力と共に膜厚方向と垂直な方向(面内方向)にせん断力も付加される。この結果、前記フィルムを構成している樹脂に、前記フィルムの面内方向への流動性が生じる。この樹脂の前記フィルムの面内方向への流動性によって、樹脂内部に残留している気泡が、ロールの回転方向上流側となる前記フィルムの外部へ排除する作用が働くため、樹脂内部に残留する気泡の量を低減することができる。
更に、熱伝導シートを、少なくとも2つの基材付きフィルムの前記フィルム同士を接触させて重ね合わせるので、前記フィルムの膜厚方向に圧力をかけた後に、シート膜厚方向に貫通するピンホールの発生を抑制することができる。
従って、本発明の製造方法で得られた熱伝導シートは、高い熱伝導性と、絶縁性を併せ持つことができる。
【0018】
また、本発明の熱伝導シートの製造方法は、好ましくは、基材と、該基材上に設けられた熱伝導性粒子及び熱硬化性樹脂を含むフィルムと、を有する、第一の基材付きフィルム及び第二の基材付きフィルムを少なくとも準備し、前記第一の基材付きフィルム及び第二の基材付きフィルムを、離間した状態で、第一のロール及び第二のロールが対向する一対のロールの回転方向上流側に配置し、前記第一のロールの外周面に前記第一の基材付きフィルムの基材側面を接触させて沿わせ、前記第二のロールの外周面に前記第二の基材付きフィルムの基材側面を接触させて沿わせ、少なくとも前記第一のロールと前記第二のロールとの中心軸を結ぶ線上では、前記第一の基材付きフィルム及び前記第二の基材付きフィルムにおけるそれぞれの前記フィルムと接触させて、且つ前記一対のロールに配置し、前記一対のロールを回転させて、前記フィルムの膜厚方向に圧力を付加し、且つ第一の基材付きフィルム及び第二の基材付きフィルムを重ね合わせて搬送することを含む、結合された複数のフィルムを含む熱伝導シートの製造方法とすることができる。
これにより、高い熱伝導性と、絶縁性を併せ持つ熱伝導シートをより確実に得ることができる。
【0019】
なお、本発明における前記第一の基材付きフィルム及び第二の基材付きフィルムを、それぞれの前記フィルムを接触させて第一のロール及び第二のロールのロール間に配置する際には、第一の基材付きフィルム及び第二の基材付きフィルムは、発明の効果を損なわない範囲で、第一のロール又は第二のロールの周面に接触しない部分を有してもよい。前記第一のロール又は第二のロールの周面に接触しない部分としては、例えば、第一の基材付きフィルム、第二の基材付きフィルム又はこれら双方の幅方向の端部を挙げることができる。また、本発明における前記第一の基材付きフィルム及び第二の基材付きフィルムを、それぞれの前記フィルムを接触させて第一のロール及び第二のロールのロール間に配置する際には、第一の基材付きフィルム及び第二の基材付きフィルムは、幅方向の全領域が第一のロール又は第二のロールの周面と対向するように、第一のロール及び第二のロールに挟持されることが好ましい。
本発明における「フィルム」との語は、フィルムを形成可能な材料を基材上に付与して得られた複合部材のうち、フィルムを形成可能な材料により形成された部分を意味する。
【0020】
本発明における熱伝導シートの製造方法の他の態様は、基材と、該基材上に設けられた熱伝導性粒子及び熱硬化性樹脂を含むフィルムと、を有する、第一の基材付きフィルム及び第二の基材付きフィルムを少なくとも準備し、前記第一の基材付きフィルム及び第二の基材付きフィルムのそれぞれの前記フィルムを接触させて、第一のロール及び第二のロールが対向する一対のロールに挟持し、前記一対のロールを回転させて、前記フィルムの膜厚方向に圧力を付加し、且つ第一の基材付きフィルム及び第二の基材付きフィルムを重ね合わせて搬送すること、を含む、複数のフィルムが積層してなる熱伝導シートの製造方法としてもよい。
【0021】
本発明において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても本工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
また、本発明において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
また、本発明において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
以下、本発明について説明する。
【0022】
<熱伝導シートの製造方法>
本発明の熱伝導シートの製造方法は、基材と、該基材上に設けられた熱伝導性粒子及び熱硬化性樹脂を含むフィルムと、を有する、第一の基材付きフィルム及び第二の基材付きフィルムを少なくとも準備し、前記第一の基材付きフィルム及び第二の基材付きフィルムのそれぞれの前記フィルムを接触させて、対向して配置されて一対をなす第一のロール及び第二のロールの間に配置し、前記一対をなす第一のロール及び第二のロールを回転させて、前記フィルムの膜厚方向に圧力を付加し、且つ第一の基材付きフィルム及び第二の基材付きフィルムを重ね合わせて搬送することを含み、必要に応じて他の工程を含む。
【0023】
本発明において、熱伝導シートは、結合された複数のフィルムを含むものである。「結合された」とは、複数のフィルムが該フィルムの膜厚方向に結合されて密着することによって熱伝導シートが構成されていることを意味し、フィルムどうしの界面が存在している場合の他、界面が消失して一体化した場合も包含する。
熱伝導シートを構成する複数のフィルムの数には特に制限はなく、3枚以上のフィルムを重ね合わせたものであってもよい。3枚以上のフィルムを用いて熱伝導シートを製造する場合には、2枚の基材付きフィルムを重ね合わせた後に、いずれか一方の基材を剥離し、基材が剥離されて表面に露出したフィルムに対して、フィルムを重ね合わせるように基材付きフィルムを重ね合わせる工程を繰り返すことにより、3枚以上のフィルムを含む熱伝導シートを得ることができる。以下、特に断らない限り、2枚のフィルムを含む熱伝導シートを例に説明する。
熱伝導シートは、使用形態、取り扱い等によって、前記フィルム以外の構成要素を含むことができる。その他の構成要素としては、基材、保護フィルム、金属箔等を挙げることができ、これらの構成要素は、熱伝導シートの一方の面又は他方の面の一部又は全面に配置することができる。
【0024】
なお、本明細書において「フィルム積層体」とは、複数の基材付きフィルム又は基材及び保護フィルム付きフィルムを重ね合わせて得られた積層体中に存在する複数のフィルムの結合体を意味する。
図1Bには、フィルム積層体4を含む基材付きフィルム積層体5の概略断面図を示す。但し、フィルム「積層体」と称するが、フィルム積層体においては、フィルムどうしの界面が存在している場合のほか、界面が消失して一体化したものも包含する。
【0025】
(基材付きフィルムの準備)
まず、基材付きフィルムを少なくとも2枚準備する。基材付きフィルムは、基材と、該基材上に設けられたフィルムと、を有する。前記フィルムは、熱伝導性粒子及び熱硬化性樹脂を含む。基材付きフィルムは、市販品として購入したものであってもよく、基材上に前記フィルムを設けて作製して得たものであってもよい。
【0026】
図1Aに、第一の基材付きフィルム3Aの一例を示す概略断面図を示す。第一の基材付きフィルム3Aは、基材1A、及びフィルム2Aで構成されている。第二の基材付きフィルム3B(図示せず)も、基材1B、及びフィルム2Aで構成される。
【0027】
基材付きフィルムを作製して準備する場合、熱伝導性粒子及び熱硬化性樹脂を含むフィルムが製造できる限り、その製造方法については特に限定されず、一般的な製造方法を適用することができる。例えば、基材上に、熱伝導性粒子及び熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物を付与して前記フィルムを形成することを含む、基材付きフィルムの作製方法が挙げられる。他の基材付きフィルムの作製方法は、例えば、熱伝導性粒子及び熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物に溶剤を添加してワニスを調製すること、得られたワニスを基材上に塗工すること、加熱により基材上のワニスから溶剤を除去することを含む。これにより、基材上にフィルムが配置された状態としての基材付きフィルムを作製することができる。前記樹脂組成物等の、熱伝導シートを製造するために使用する各成分については、後述する。また、前記樹脂組成物を用いて、熱伝導シートを形成するために用いられるフィルム2Aを作製する方法についても後述する。
【0028】
前記フィルム3A、3Bは、フィルムを構成する熱硬化性樹脂の反応率が40%未満のフィルムであることが好ましい。前記反応率は、例えば、DSC(示差走査型熱量計)で測定した熱量から算出される。
【0029】
本発明では、準備する2枚の基材付きフィルム3A、3Bは、それぞれが同じ材質であってもよいし、異なる材質であってもよい。材質が異なる2枚の基材付きフィルム3A、3B組み合わせの例としては、基材1A、1Bの種類がそれぞれ異なるもの、基材1A、1Bのフィルムと対向する面の濡れ性が異なるもの、フィルム2A、2Bに含まれる成分又は組成比が異なるもの、基材1A、1Bの膜厚が異なるもの、フィルム2A、2Bの膜厚が異なるもの等を挙げることができる。得られる熱伝導シートにおける膜厚方向での熱伝導性等の観点から、2枚の基材付きフィルム3A、3Bは、それぞれが同じ材質のフィルム2A、2Bを有することが好ましく、同じ材質且つ同じ膜厚のフィルム2A、2Bであることがより好ましい。また、後の工程において一対のロールにより圧力を付与することを考慮すると、2枚の基材付きフィルム3A、3Bでは、それぞれ同じ材質の基材1A、1Bを有することが好ましく、同じ材質及び同じ膜厚の基材1A、1Bを有することがより好ましい。
【0030】
2枚の基材付きフィルム3A、3Bでは、それぞれのフィルム2A、2Bの膜厚を以下のように決定することが好ましい。
本発明において、熱伝導シートの熱伝導性及び絶縁性は熱伝導シートの膜厚により変化するので、熱伝導シートが所望の熱伝導性及び絶縁性を発現するように、熱伝導シートの膜厚を決めることが好ましい。このようにして決めた熱伝導シートの膜厚を「膜厚設計値」と定義する。さらに、膜厚が膜厚設計値に等しい熱伝導シートの単位面積(100cm
2)当たりの質量を「質量設計値」と定義する。この質量設計値に対して、フィルムの単位面積(100cm
2)当たりの質量が持つ倍率のことをフィルムの質量倍数と定義する。
【0031】
前記熱伝導シートを構成する複数のフィルムの、それぞれのフィルムの質量倍数は、以下の式(1)を満たすものであることが好ましい。式(1)中、nは前記熱伝導シートを作製するために準備されたフィルムの枚数を示す2以上の整数を表す。なお、フィルムの質量倍数は、1の熱伝導シートを作製するために準備された複数のフィルムどうしで、同一であっても、異なっていてもよい。得られる熱伝導シートが所望の熱伝導性、絶縁性等を発現しやすくするには、複数のフィルムどうしで質量倍数が同一であることが好ましい。いっぽう、熱伝導シートとしての熱伝導性などを膜厚方向に対して変化させるには、複数のフィルムどうしで質量倍数が異なっていることが好ましい。また、複数のフィルムを用いて得られる熱伝導シートにおける膜厚は、膜厚設計値の0.8倍〜1.2倍とすることができ、熱伝導性を高い確度で発現できるという点で0.8倍〜1倍であることが好ましい。複数のフィルムを用いて得られる熱伝導シートの単位面積(100cm
2)当たりの質量は、質量設計値の0.8倍〜1.2倍とすることができ、熱伝導性を高い確度で発現できるという点で0.8倍〜1倍であることが好ましい。
【0033】
前記フィルムの質量倍数が上記式(1)の下限値以上の場合には、熱伝導シートの絶縁性を所望の値にする傾向があり、一方、前記フィルムの質量倍数が上記式(1)の上限値以下の場合には、熱伝導シートの熱伝導率を所望の値にする傾向があり、それぞれ好ましい。
【0034】
具体的には、前記熱伝導シートが2枚のフィルム2A、2Bから形成される場合、前記熱伝導シートが所望の熱伝導性及び絶縁性を発現するには、フィルムの質量倍数が0.3倍以上、かつ、0.6倍以下であることが好ましく、0.45倍以上、且つ0.55倍以下であることがより好ましい。0.3倍以上であれば、熱伝導シートの絶縁性が所望の値となる傾向があり、一方、0.6倍以下であれば熱伝導シートの熱伝導率が所望の値となる傾向があり、好ましい。また、前記熱伝導シートが、3枚の前記フィルムから構成される場合、フィルムの質量倍数は0.2倍以上、かつ、0.4倍以下であることが好ましく、0.3倍以上、かつ、0.35倍以下であることがより好ましい。
【0035】
更に、前記熱伝導シートが所望の熱伝導性及び絶縁性をより安定して発現するため、実際の熱伝導シートの膜厚が、前記膜厚設計値に対して0.9倍以上、かつ、1.1倍以下であることが好ましく、0.95倍以上、かつ、1.05倍以下であることがより好ましい。これに対応して、前記熱伝導シートが2枚のフィルム2A、2Bから形成されている場合、フィルムの質量倍数は0.3倍以上、かつ、0.6倍以下であることが好ましい。また前記熱伝導シートが3枚以上の前記フィルムから形成されている場合、フィルムの質量倍数は前記式(1)で示される範囲の数値とすることができる。
【0036】
基材の平均膜厚としては、基材付きフィルム3A、3Bを重ね合わせて得られる基材付きフィルム積層体5を得る際に、基材付きフィルム積層体5の内部のフィルム積層体4に対して膜厚方向への圧力を付加しやすくする等の観点から、5μm以上、かつ、500μm以下であることが好ましく、10μm以上、かつ、300μm以下であることがより好ましい。5μm以上、又は500μm以下であれば、剛性が弱すぎて搬送にくいという傾向を回避しやすく、500μm以下であれば、剛性が強すぎて搬送しにくいという傾向を回避しやすい。
【0037】
なお、前記フィルムの平均膜厚、及び基材の平均膜厚は、マイクロメーターを用いて、フィルム及び基材の表面を数点(例えば10点)測定した値の算術平均とする。
【0038】
前記第一のロール及び前記第二のロールのロール間に配置される前の前記フィルム2A、2Bの残存揮発分は0.3質量%以上、かつ、1.2質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上、かつ、1.0質量%以下であることがより好ましい。前記残存揮発分が0.3質量%以上であれば、基材付きフィルム3A、3Bを重ね合わせて得られる基材付きフィルム積層体5に対してその膜厚方向に圧力をかけた後に、基材付きフィルム積層体5中のフィルム積層体4に割れを発生させることなく巻芯に巻取り可能となる屈曲性を確保しやすい傾向がある。一方、前記残存揮発分が1.2質量%以下であれば、基材付きフィルム積層体5から作製した熱伝導シートに金属箔を設けた金属箔付き熱伝導シート又は該金属箔付き熱伝導シートを含む半導体装置を加熱しても、界面膨れが発生しにくい傾向がある。なお、フィルムの残存揮発分は、常圧で180℃1時間の乾燥処理を行った場合の単位面積(例えば、前記フィルムを5cm×5cmとしたときの面積25cm
2)当たりの質量減少率として求めた値とする。
【0039】
なお、準備される基材付きフィルム3A、3Bは、基材1A、1Bが配置されていないフィルム3A、3Bの表面に、必要に応じて、付着防止のための保護フィルムを有していてもよい。このような保護フィルム付きの基材付きフィルムを準備した場合には、使用直前に、保護フィルムを剥離して用いることができる。保護フィルムとしては特に制限されないが、基材1A、1Bと同様のものを用いることができる。
【0040】
(一対のロールによる加圧)
上記で準備した前記基材付きフィルム3A及び基材付きフィルム3Bのそれぞれのフィルム2A、2Bを接触させて、対向して配置されて一対をなす第一のロール及び第二のロールのロール間に配置する。次いで前記一対をなすロールを回転させて、前記フィルムの膜厚方向に圧力を付加し、且つ基材付きフィルム3A及び基材付きフィルム3Bを重ね合わせて搬送する。なお、後述するように、フィルム2A、2Bの表面の平滑性及びフィルム2A、2B内の気泡を少なくする観点から、上記第一のロール及び第二のロールはその表面が加熱されていることが好ましい。なお、対向して配置されて一対をなす第一のロール及び第二のロールを総称して、「一対のロール」と称する場合がある。
【0041】
以下に、本発明の製造方法を、2枚の基材付きフィルム3A、3Bを一対のロールにより製造する場合を例に、図面を参照して説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0042】
図2は、一対のロールに2枚の基材付きフィルム3A、3Bを配置し加圧する方法を説明する概略概念図である。
図2では、ロールの回転軸と垂直な平面であって、且つロール及び2枚の基材付きフィルム3A、3Bを切断してできる断面を示す。
図2に示されるように、2枚の基材付きフィルム3A、3Bのうち、基材付きフィルム3Aは、第一のロール12Aの外周面に基材1A側を接触させながら、ロール間へ案内されることが好ましく、基材付きフィルム3Bは、第二のロール12Bの外周面に基材1B側を接触させながら、ロール間へ案内されることが好ましい。これにより、基材付きフィルム3Aのフィルム2A及び基材付きフィルム3Bのフィルム2Bは、第一のロール12A及び第二のロール12Bに接触しない側に配置される。また、基材付きフィルム3A及び基材付きフィルム3Bを、第一のロール12A及び第二のロール12Bの直径に応じた距離、離間させて配置させ、かつ、第一のロール12A及第二のロール12Bの回転によって安定した速度でロール間へ案内することができる。
【0043】
第一のロール12A及び第二のロール12Bが、それぞれ回転方向(矢印R、R’)に回転すると、第一のロール12Aと第二のロール12Bとの中心軸を結ぶ直線X−X’上では、基材付きフィルム3A及び基材付きフィルム3Bが、第一のロール12A及び第二のロール12B間に配置される。ここで、基材付きフィルム3Aのフィルム2Aと、基材付きフィルム3Bのフィルム2Bとが重ね合わされ、且つ、それぞれのフィルム2A、2Bには、膜厚方向に圧力が付加される。
【0044】
このフィルム2A、2Bに対する膜厚方向での圧力の付加によってフィルムの面内方向にせん断力が付加され、フィルム2A、2Bの内部の樹脂に流動性が発生する。これにより、フィルム2A、2Bの内部の気泡が、第一のロール12A及び第二のロール12Bそれぞれの回転方向上流側に押し出される。第一のロール12A及び第二のロール12Bの回転方向上流側においてフィルム2A、2Bが離間している場合には、フィルム2A、2Bの内部の気泡が、第一のロール12A及び第二のロール12Bそれぞれの回転方向上流側に押し出されやすくなる。
基材付きフィルム3A、3Bが第一のロール12A及び第二のロール12B間に配置された状態で、第一のロール12A及び第二のロール12Bが回転すると、これに伴い、基材付きフィルム3A、3Bが、搬送されて直線X−X’上を通過する。これにより、フィルム2A、2Bの膜厚方向にほぼ同一の圧力が順次付加される。フィルム2A及びフィルム2Bへの膜厚方向の圧力の付加により、基材付きフィルム3A、3Bが密着して、基材付きフィルム積層体5が形成される。
【0045】
このように、第一のロール12A及び第二のロール12Bを用いて基材付きフィルム積層体5中のフィルム2A、2Bに対して膜厚方向で圧力を付加するので、平板プレス機を用いる方法に比べて、圧力分布の均一性を高めことができる。平板プレスのように面接触で圧力をかける場合、面の中央部に比べて面の周縁部の圧力が高くなる傾向があり、面内の圧力分布の均一性の確保が難しい。これに対して第一のロール12A、第二のロール12Bを用いる方法では、第一のロール12Aと第二のロール12Bとの線接触により圧力を線状に集中させることができるので、圧力分布は線状に考慮すればよく、平板プレスに比べて圧力分布の均一性が高くなる。その結果、平板プレスに比べて熱伝導シートの面内での熱伝導性、絶縁性等の特性のばらつきが低減する。
またフィルム2A、2Bに対して膜厚方向に圧力を付加して重ね合わせているので、基材付きフィルム積層体5内のフィルム積層体4において、熱伝導シートの絶縁性低下の原因のひとつである、貫通ピンホールの発生を抑制することができる。ここで、貫通ピンホールとは、熱伝導シート両面に貫通している小径の穴を意味する。
【0046】
更に、フィルム2A、2Bを重ね合わせて膜厚方向に圧力が付加されるので、フィルム2A、2Bの内部に残留している気泡の量を低減することができる。前記膜厚方向への圧力は、回転している第一のロール12A及び第二のロール12Bにより付加されるため、基材付きフィルム積層体5中のフィルム積層体4に対して、膜厚方向の力とともに、膜厚方向と垂直な方向にせん断力も加わる。このため、フィルム積層体4を構成するフィルム2A、2B中の熱硬化性樹脂の流動性が向上し、前記樹脂内部に残留している気泡が前記樹脂の流動に伴って移動し、フィルム積層体4の外部に排除される作用が働く。その結果、フィルム積層体4内部に残留する気泡の量を低減することができ、気泡の量が低減されたフィルム積層体4から得られた熱伝導シートでは、電圧を印加した際の耐電圧性、すなわち、絶縁性が向上する。
【0047】
また、基材付きフィルム積層体5中のフィルム積層体4に膜厚方向の圧力をかけることで、熱伝導シート表面の平滑化を図ることができる。フィルム積層体4の膜厚方向に圧力をかけると、フィルム積層体4中の2枚のフィルム2A、2Bがそれぞれの基材1A、1Bと接している面では、熱硬化性樹脂が流動して基材1表面に追従する動きをとるため、フィルム2A、2Bそれぞれの基材1A、1Bと密着している面(熱伝導シート表面)が平滑化される。
【0048】
熱伝導性粒子間において、熱伝導性粒子と比べて熱伝導性の低い樹脂が多く存在する場合、熱伝導性粒子間の間隔が広いと熱伝導シートの熱伝導率が低下してしまうことがある。本実施形態では、重ね合わせた直後のフィルム積層体4の膜厚方向にロールを用いて圧力をかけるので、熱伝導性粒子間に存在する樹脂を流動させ、粒子の間隔を狭くして、熱伝導シートの熱伝導率を向上することができる。
【0049】
基材付きフィルム積層体5の膜厚方向に第一のロール12A、第二のロール12Bを用いて圧力をかけるため、保護フィルム付きフィルム積層体を得るための準備に要する工程を簡略化することができる。即ち、基材及び保護フィルム付きフィルム7A、7Bの巻きをフィルム引き出し用ロール14A、14Bに一回装てんすれば、フィルム引き出し用ロール14A、14Bから引き出して連続的に巻き取り用ロール24に巻き取られるまでの間に、順次加圧することができる(
図4参照)。なお、これと同じ面積の基材及び保護フィルム付きフィルムを、平板プレスのような枚葉方式で圧力をかける場合、熱盤サイズに合わせて基材及び保護フィルム付きフィルムを切り出す工程と、切り出したものを熱盤上に配置する工程とをそれぞれ複数回行う必要が出てくることになるため、煩雑になる。
【0050】
第一のロール12A、第二のロール12Bの種類としては、例えば、金属材料の熱間圧延加工、及び、冷間圧延加工に用いるロールを挙げることができる。また、熱伝導シートの表面の平滑性をより高めるため、カレンダーロール、エンボスロール、グラビアロール、メッシュロール、アニロックスロール等のロールを用いてもよい。
また、第一のロール12A、第二のロール12Bは、表面を曲面とする円筒又は円柱の形状であれば、軸方向の長さには特に制限はなく、所望する前記フィルムの大きさに応じて適宜選択することができる。
【0051】
第一のロール12A、第二のロール12Bの直径は、所望する前記フィルムの大きさに応じて適宜選択される。例えば、150cm以上、且つ、500cm以下とすることがロールと前記フィルムとの接触時間の適正化の点で好ましく、200cm以上、且つ、450cm以下とすることが更に好ましい。接触時間が適正であると、例えば、第一のロール12A、第二のロール12Bの表面温度による所望の予熱効果を得ることができる。
【0052】
第一のロール12A、及び第二のロール12Bの表面温度は60℃以上、かつ、110℃以下であることが好ましく、70℃以上、かつ、100℃以下であることがより好ましい。第一のロール12A及び第二のロール12Bの表面温度が前記範囲内とすることにより、フィルム2A、2Bの熱硬化性樹脂を軟化させて流動性を持たせたときに、表面が平滑化しやすくなる、フィルム2A、2B内部に残留している気泡を外部へ除去しやすくなる、又は、気泡を細かく分散しやすくなる傾向がある。また、第一のロール12A及び第二のロール12Bの表面温度が60℃以上であれば、フィルム2の熱硬化性樹脂の流動性を、フィルムを平滑化するのに充分な大きさに確保しやすくなる傾向がある。また、第一のロール12A及び第二のロール12Bの表面温度が110℃以下であれば、前記熱硬化性樹脂の硬化の進行を抑え、結果として前記熱硬化性樹脂の流動性を、フィルムを平滑化するのに充分な大きさに確保しやすくなる傾向がある。
【0053】
基材付きフィルム3A、3Bを、第一のロール12A及び第二のロール12Bのロール間へ案内する際には、基材付きフィルム3Aは第一のロール12Aの外周面に、基材付きフィルム3Bは第二のロール12Bの外周面に、それぞれ接触させて沿わせることが好ましい。これにより、第一のロール12Aと第二のロール12Bとの中心軸を結ぶ直線X−X’上でフィルム2A、2Bの膜厚方向に圧力が付加されたときに、フィルム2A、2B内の気泡を外部へ抜けやすくすることができる。また、第一のロール12A及び第二のロール12Bの表面温度が基材付きフィルム3A、3Bの表面温度よりも高い場合には、第一のロール12A及び第二のロール12Bの表面温度によって、基材付きフィルム3A、3Bを加温することができる。
【0054】
基材付きフィルム3Aと第一のロール12Aとの接触状態、及び基材付きフィルム3Bと第二のロール12Bとの接触状態について、
図3A、
図3Bを参照して、説明する。
図3A及び
図3Bに示すように、第一のロール12A及び第二のロール12Bの回転軸13A、13Bと垂直な平面26により第一のロール12A及び第二のロール12Bと基材付きフィルム3A、3Bを切断した場合にできる断面(
図3B)において、基材付きフィルム3Aが第一のロール12Aと接触する領域における第一のロール12Aの回転方向の最も上流側の点Pと、第一のロール12Aの回転軸13Aとを結ぶ直線を直線Aとし、基材付きフィルム3Bが第二のロール12Bと接触する領域における第二のロール12Bの回転方向の最も上流側の点P’と、第二のロール12Bの回転軸13Bとを結ぶ直線を直線Bとする。第一のロール12Aの回転軸13Aと、第二のロール12Bの回転軸13Bとを結ぶ直線を直線Cとする。直線Aと直線Cとのなす角度を抱き角θと定義し、直線Bと直線Cとのなす角度とを、抱き角θ’と定義する。
【0055】
抱き角θ、θ’は、フィルム2A、2Bの前記樹脂組成物の物性調節の観点から、抱き角θ、θ’の少なくとも一方が、30°以上、かつ、135°以下であることが好ましく、45°以上、かつ90°以下であることがより好ましい。
抱き角θ、θ’を30°以上の角度とすることにより、フィルム2A、2Bから外部へ気泡が抜けやすくなる傾向がある。また、第一のロール12A、第二のロール12Bの表面から予熱を受ける時間が、同一搬送速度で比較した場合に短すぎることがない。また、フィルム2A、2Bの膜厚方向に圧力をかけた際に、圧力が集中している部分の近傍で、フィルム2A、2B中の樹脂が流動変形しやすくなる。一方、抱き角θ、θ’を135°以下とすることにより、基材1を介して第一のロール12A、第二のロール12Bの表面からフィルム2A、2Bが予熱を受ける時間が、同一搬送速度で比較した場合に長すぎることがない。これにより、第一のロール12A、第二のロール12Bの表面温度によっては、フィルム2A、2Bの膜厚方向に圧力をかけた際に流動変形し過ぎることを抑制できる傾向があり、また、基材1の両側端部からフィルム2A、2Bのはみ出しを抑制できる傾向がある。
なお、抱き角θ、θ’は、同じであってもよく、異なっていてもよい。抱き角θ、θ’を同じとすることにより、準備する2枚の基材付きフィルム3A、3B、それぞれが同じ材質の場合に、それぞれが均一に予熱を受けることができるという利点がある。一方、異なる抱き角θ、θ’とすることにより、準備する2枚の基材付きフィルム3A、3Bの材質が異なる場合に、それぞれの材質に適した予熱を受けるように調節できるという利点がる。
【0056】
第一のロール12A及び第二のロール12Bにおけるフィルム2A、2Bの搬送速度は0.01m/分以上、且つ、2m/分以下であることが好ましく、1m/分以下であることがより好ましい。前記フィルムの搬送速度が前記範囲に含まれると、以下の利点がある。即ち、第一のロール12A及び第二のロール12Bの表面温度が基材付きフィルム3A、3Bの表面温度よりも高い場合には、第一のロール12A、第二のロール12Bで積層直後の基材付きフィルム積層体5の膜厚方向に圧力をかける際に、第一のロール12A、第二のロール12Bの表面から基材付きフィルム積層体5におけるフィルム積層体4(
図2参照)に熱が充分に伝わる。この結果、熱伝導シートの平滑化に必要な熱硬化性樹脂の流動性を確保できる傾向がある。一方、前記フィルムの搬送速度の範囲の下限は、熱伝導シートの特性の観点から特に定める必要はないが、全長100mの熱伝導シートを24時間以内に作製可能な搬送速度である、0.07m/min以上であることが好ましい。
【0057】
第一のロール12Aと第二のロール12Bによるフィルム積層体4A、4Bにおけるフィルム2A、2Bの膜厚方向にかける線圧は10kN/m以上、かつ、350kN/m以下であることが好ましく、20kN/m以上、かつ、100kN/m以下であることがより好ましい。前記線圧が10kN/m以上であれば、熱伝導シートの熱伝導率を所望の値にするために必要な、熱伝導性粒子間の間隔を確保することができる。これにより、熱伝導シートの熱伝導率の低下を抑制できる傾向がある。また、前記線圧が350kN/m以下であれば、得られるフィルム積層体4の膜厚が薄くなって、熱伝導シートの膜厚も薄くなるということがない。その結果、良導体である熱伝導性粒子間の間隔を充分に確保することができ、熱伝導シートの絶縁性の低下を回避することができる。
【0058】
本発明の製造方法は、少なくとも2つの基材付きフィルムを、それぞれの前記フィルムを接触させて、対向して配置された第一のロール及び第二のロールのロール間に配置し、前記一対のロールを回転させて、前記フィルムの膜厚方向に圧力を付加し、且つ第一の基材付きフィルム及び第二の基材付きフィルムを重ね合わせて搬送するものであれば、本製造方法を適用する製造装置の構成に特に制限はない。
【0059】
図4は、本発明の製造方法を適用可能な熱伝導シートの製造装置の一例を示す概略図である。
図4に示される製造装置10には、対向して配置された第一のロール12A及び第二のロール12Bと、積層シート巻き取り用ロール24とが配置されている。第一のロール12Aの回転方向上流側には、フィルム引き出し用ロール14Aと保護フィルム巻き取り用ロール16Aとが配置されている。第二のロール12Bの回転方向上流側には、フィルム引き出し用ロール14Bと保護フィルム巻き取り用ロール16Bとが配置されている。フィルム引き出し用ロール14A及びフィルム引き出し用ロール14Bは離間して配置されており、保護フィルム巻き取り用ロール16A及び保護フィルム巻き取り用ロール16Bは離間して配置されている。
【0060】
第一のロール12A及び第二のロール12Bと積層シート巻き取り用ロール24との間には、第一のロール12A、第二のロール12Bに近い側から基材巻き取り用ロール18と、保護フィルム引き出し用ロール20とが配置されており、保護フィルム引き出し用ロール20と積層シート巻き取り用ロール24との間には、巻き取り側ニップロール22A、22Bが対向して配置されている。
製造装置10には、フィルム引き出し用ロール14A、14Bと積層シート巻き取り用ロール24の回転を同期させて制御可能な図示しない駆動装置が配置されている。
【0061】
製造装置10では、駆動装置が駆動することにより、フィルム引き出し用ロール14A、14Bから、巻き取りロール24方向へ、各ロールが回転可能となり、フィルム2A及びフィルム2Bと、これらが膜厚方向に積層及び加圧されて得られたフィルム積層体4が搬送可能となる。
【0062】
熱伝導シート製造時には、ロール状の基材及び保護フィルム付きフィルム7A、7Bが用意され、それぞれの基材1A、1Bが第一のロール12A又は第二のロール12Bと接触する向きとなるように、フィルム引き出し用ロール14A、14Bに取り付けられる。基材及び保護フィルム付きフィルム7A、7Bは、保護フィルム巻き取り用ロール16A、16Bの回転に伴って保護フィルム6を剥離させながら、基材付きフィルム3A、3Bとして引き出されて搬送され、それぞれ第一のロール12A及び第二のロール12Bの間へ案内される。
【0063】
基材付きフィルム3A、3Bにおけるフィルム2A、2Bはロール間に案内されると、フィルム2A、2Bが互いに重ね合わされる。重ね合わされた状態で第一のロール12A及び第二のロール12Bのロール間を通過させると、フィルム2A、2Bの膜厚方向に圧力が付加され、フィルム積層体4(
図2参照)を含む基材付きフィルム積層体5が得られる。
【0064】
なお、フィルム2Aとフィルム2Bとが、第一のロール12A、及び第二のロール12Bに案内される際に対向する向きであれば、対応する基材及び保護フィルム付きフィルム7のいずれをフィルム引き出し用ロール14A、14Bのいずれに取り付けてもよい。
【0065】
第一のロール12A及び第二のロール12Bの間を通過した基材付きフィルム積層体5は、第一のロール12A及び第二のロール12Bの搬送方向下流側に配置された図示しない剥離装置によって一方の面の基材1Aを剥離された後、搬送方向下流側へ案内される。剥離された基材1Aは、基材巻き取り用ロール18に巻き取られる。
【0066】
一方の面の基材1Aを剥離された後の基材付きフィルム積層体5は、保護フィルム引き出し用ロール20の回転方向下流側において、巻き取り側ニップロール22A及び巻き取り用ロール22Bの間に案内される。基材1Aが剥離されて露出したフィルム積層体5の表面には、保護フィルム引き出し用ロール20から引き出された保護フィルム6が積層される。フィルム積層体4に積層される保護フィルム6は、基材及び保護フィルム付きフィルム7における保護フィルムと同一でも、異なってもよい。これにより、基材及び保護フィルム付きフィルム積層体8が形成される。
基材及び保護フィルム付きフィルム積層体8は、保護フィルム6が積層された側を内側として、巻き取り用ロール24に巻き取られる。
巻き取り用ロール24に巻き取られた基材及び保護フィルム付きフィルム積層体8は、保護フィルム6、基材1Bを取り除くことにより、熱伝導シートとして使用可能となる。
【0067】
製造装置10では、基材付きフィルム3A、3Bを重ね合わせて膜厚方向に圧力を付加して、基材付きフィルム積層体5を得るためのロールを、2本(第一のロール12A、第二のロール12B)としたものであるが、ロールの本数としては2本以上であれば、特には制限されない。また、ロール間にフィルム2A、2Bを配置し、且つ膜厚方向に圧力を付加するロール間の位置及び回数についても、特に制限されない。
ロールの本数及びロール間の位置を変更した他の例を、
図5、
図6及び
図7に示す。なお、
図5〜
図7では、
図1と同一の部材については同一の符号を付して、説明を省略する。
【0068】
図5は、ロール3本を用いた製造装置30を示す。
製造装置30では、基材付きフィルム3A、3B及び基材付きフィルム積層体5の搬送方向に沿って、第一のロール32A、第二のロール32B、及び、第三のロール32Cが連続して配置されている。製造装置30では、第一のロール32Aと第二のロール32Bにより作られる間隙に加えて、第二ロール32Bと第三ロール32Cとにより作られる間隙の合計2箇所にロール間を有する。これにより、基材付きフィルム積層体5の、第一のロール32Aと第二のロール32Bの間に配置された部分は、第一のロール32A及び第二のロール32Bの間を通過した後に、第三のロール32Cと第四のロール32D間に配置され、膜厚方向に圧力が付加される。この結果、フィルム積層体4には、膜厚方向に圧力が2回付加される。
【0069】
図6は、ロール4本を用いた製造装置40を示す。
製造装置40では、基材付きフィルム3A、3B及び基材付きフィルム積層体5の搬送方向に沿って、第一のロール42A、第二のロール42B、第三のロール42C、及び、第四のロール42Dが連続して配置されている。第一のロール42Aと第二のロール42Bとにより作られる間隙に加えて、第二のロール42Bと第三のロール42Cとにより作られる間隙、及び、第三のロール42Cと第四ロール42Dとにより作られる間隙の合計3箇所にロール間を有する。これにより、基材付きフィルム積層体5の、第一のロール42Aと第二のロール42Bの間に配置された部分は、第一のロール42Aと第二のロール42Bを通過した後に、第二のロール42Bと第三のロール42Cとの間に配置され、更に第三のロール42Cと第四のロール42Dとの間に配置され、それぞれ膜厚方向に圧力が付加される。この結果、フィルム積層体4には、膜厚方向に圧力が3回付加される。
【0070】
図7は、更にロール4本を用いた別の製造装置50を示す。
製造装置50では、基材付きフィルム3A、3B及び基材付きフィルム積層体5の搬送方向に沿って、第一のロール52Aと第二のロール52Bとにより作られる間隙に加えて、前記第一のロール52Aと第二のロール52Bとから距離をおいて配置させた第三のロール52Cと第四のロール52Dとにより作られる間隙の合計2箇所にロール間を有する。これにより、基材付きフィルム積層体5の、第一のロール52Aと第二のロール52Bの間に配置された部分は、第一のロール52Aと第二のロール52Bを通過した後に、第三のロール52Cと第四のロール52Dとの間に配置され、膜厚方向に圧力が付加される。この結果、フィルム積層体4には、膜厚方向に圧力が2回付加される。
【0071】
このように本発明の熱伝導シートの製造方法を適用可能な装置において、フィルム積層体4の膜厚方向へ加圧可能なロールの本数には特に制限はなく、ロールの本数に応じてフィルム積層体4の膜厚方向の加圧の回数を増やすことができる。フィルム積層体4の膜厚方向の加圧の回数を増やすことにより、膜厚、フィラー配向、平坦性等を調整することができるという利点を有する。
一方、フィルム積層体4の膜厚方向へ加圧可能なロール本数を2本にすることは、ロール2本で作られる間隙で、フィルム積層体4の膜厚方向に圧力をかけることで、フィルム積層体4に対する膜厚方向での加圧及び減圧、並びに、場合によっては基材1A、1Bを介しての加熱及び冷却を、いずれも1回で済ませることができる。その結果、前記フィルム積層体への加圧による負荷、加熱による熱的負荷等を最小限に抑制することができるという利点を有する。
【0072】
また製造装置30、40、50を用いた熱伝導シートの製造方法では、フィルムの搬送速度、フィルムへの膜厚方向の線厚等については、ロールの本数に伴う変更以外は、製造装置10と同じ条件及び好ましい条件をそのまま採用することができる。
【0073】
また製造装置10、30、40、50を用いた熱伝導シートの製造方法では、基材及び保護フィルム付きフィルム7を材料として、基材及び保護フィルム付きフィルム積層体8を得る場合を例に説明したが、本発明における熱伝導シートは、熱導電性粒子及び熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物から形成される複数のフィルムを組み合わせて作製されるものであれば、これに限定されない。
【0074】
(熱伝導シート)
本発明の製造方法により得られる熱伝導シートは、結合された複数のフィルムを含む。
熱抵抗性及び絶縁性の観点から、熱伝導シートの平均膜厚が、100μm以上、かつ、250μm以下であることが好ましく、熱伝導性と接着性の観点から、110μm以上、かつ、230μm以下であることが好ましく、120μm以上、かつ、210μm以下であることがより好ましい。
なお、熱伝導シートの平均膜厚は、マイクロメーターを用いて、熱伝導シートの表面を数点(例えば10点)測定した値の算術平均とする。
【0075】
また、熱伝導シートの膜厚は、準備された複数のフィルムの合計の膜厚よりも減少していてもよい。好ましくは、下記式(2)で示される膜厚減少率が50%以上、かつ、95%以下であり、より良好な熱伝導シートの熱伝導率及び絶縁性が得られやすい点で、75%以上、かつ、95%以下であることがより好ましい。
【0077】
ここで、熱伝導シートの膜厚は、上述した熱伝導シートの平均膜厚と同じ測定方法により得られた平均膜厚とする。熱伝導シートに、基材、金属箔等の他の構成要素が備えられている場合には、基材等の他の構成要素を取り除いた後の平均膜厚とする。
また、準備された前記フィルムの合計の膜厚は、準備された基材付きフィルムにおけるフィルムの平均膜厚の合計値とする。フィルムの平均膜厚は、基材付きフィルムから、基材を取り除いた後の得られる平均膜厚とする。
基材付きフィルム、及び基材付きフィルム積層体又は基材及び保護フィルム付きフィルム積層体から、樹脂等で構成された基材等を取り除く方法としては、接着テープ又は接着テープ等を用いて基材等を剥離することにより取り除く方法などが挙げられる。金属箔を取り除く方法としては、過硫酸アンモニウム水溶液を用いたエッチングにより取り除く方法が挙げられる。
【0078】
前記膜厚減少率が前記範囲に含まれると熱伝導性粒子間の間隔を熱伝導シートの絶縁性を低下させることなく、熱伝導性の向上が可能な、熱伝導性粒子間の間隔を確保できるという観点から好ましい。前記膜厚減少率が50%以上であれば、膜厚方向に圧力を付加して得られた基材付きフィルム積層体5中のフィルム積層体4の膜厚が薄くなり過ぎない傾向がある。その結果、熱伝導性粒子間の間隔が狭くなり過ぎることがないため、得られた熱伝導シートとしての絶縁性の低下を抑制することができる。また、前記膜厚減少率が95%以下であれば、膜厚方向に圧力を付加して得られた基材付きフィルム積層体5中のフィルム積層体4の膜厚が厚くなり過ぎることがない。その結果、熱伝導性粒子間の間隔が広くなり過ぎることがないため、得られた熱伝導シートとしての熱伝導率の低下を抑制することができる。
【0079】
熱伝導シートにおける残存揮発分は、0.1質量%以上、かつ、0.8質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上、かつ、0.5質量%以下であることがより好ましい。0.1質量%以上であれば、熱伝導シートに割れを発生させることなく半導体装置などへ実装可能な屈曲性を備えている傾向がある。0.8質量%以下であれば、熱伝導シートに金属箔を設けた金属箔付き熱伝導シート及び前記熱伝導シートを含む半導体装置を加熱しても界面膨れが発生しにくい傾向があるため、好ましい。なお、熱伝導シートにおける残存揮発分は、常圧で180℃、1時間の乾燥処理を行った場合の単位面積(例えば、前記熱伝導シートを5cm×5cmとしたときの面積25cm
2)当たりの質量減少率として求めた値とする。
【0080】
<樹脂組成物及び樹脂組成物層>
ここで、本発明の熱伝導シートの製造方法に好適に用いることのできる、熱伝導性粒子及び熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物について説明する。なお、以下の説明において符号は省略する。
【0081】
本発明で用いられる熱硬化性樹脂は、熱により硬化して接着作用を有するものであれば特に限定されず、通常、エポキシ樹脂が用いられる。エポキシ樹脂としては、硬化して接着作用を呈するものであれば特に限定されず、1分子中にエポキシ基を2個以上含有する二官能以上のエポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂の重量平均分子量は、接着フィルムの可撓性を良好に保つために、300以上5000未満であることが好ましく、300以上3000未満であることがより好ましい。1分子中にエポキシ基を2個含有する二官能エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型又はビスフェノールF型エポキシ樹脂等が例示される。1分子中にエポキシ基を3個以上含有する三官能以上のエポキシ樹脂としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等が例示される。
【0082】
エポキシ樹脂として、二官能エポキシ樹脂と三官能以上のエポキシ樹脂を併用する場合、それらの合計100質量部に対して、二官能エポキシ樹脂50質量部〜100質量部と三官能以上のエポキシ樹脂0質量部〜50質量部を用いることが好ましい。特に、高Tg(ガラス転移温度)化のためには二官能エポキシ樹脂50質量部〜90質量部と三官能以上のエポキシ樹脂10質量部〜50質量部を用いることが好ましい。
【0083】
本発明で使用することができるエポキシ樹脂は、また、液状エポキシ樹脂であってもよく、固形状エポキシ樹脂と液状エポキシ樹脂の組み合わせであってもよい。液状エポキシ樹脂としては、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ナフタレン型2官能エポキシ樹脂、液状ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、水素添加された構造のエポキシ樹脂等が挙げられる。液状エポキシ樹脂は塗工性、接着性等の観点から、使用するエポキシ樹脂全体の10質量部以上で含有されていることが好ましい。
【0084】
本発明における樹脂組成物には硬化剤を添加することができる。本発明で使用可能な硬化剤は、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である場合は、通常用いられている公知のエポキシ樹脂硬化剤であれば特に限定され。熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂である場合の硬化剤としては、アミン類、ポリアミド、酸無水物、ポリスルフィド、三弗化硼素及びフェノール性水酸基を1分子中に2個以上有する化合物であるビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等のビスフェノール類、フェノールノボラック樹脂、変性フェノールノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂又はクレゾールノボラック樹脂等のフェノール樹脂などが挙げられる。特に、吸湿時等の耐電食性に優れる点で、フェノールノボラック樹脂、ビスフェノールノボラック樹脂又はクレゾールノボラック樹脂等のフェノール樹脂が好ましい。
【0085】
エポキシ樹脂硬化剤は、エポキシ樹脂のエポキシ基1当量に対して、硬化剤中の反応活性基の総量が、好ましくは0.6当量〜1.4当量、より好ましくは0.8当量〜1.2当量となるよう配合する。上記範囲とすることで、熱伝導シートの接着性、及び硬化後の強度を確保でき、その結果、耐熱性を確保できる。硬化剤の配合量が0.6当量未満であっても、1.4当量を越えても耐熱性が低下する傾向がある。
【0086】
本発明における樹脂組成物には硬化促進剤を添加することができる。本発明で用いられる硬化促進剤は、イミダゾール系、トリフェニルホスフィン系、4級ホスホニウム塩系、4級アンモニウム塩系、DBU脂肪酸塩系、金属キレート系、金属塩系等を用いることができる。イミダゾール系の硬化促進剤としては、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテート等が挙げられる。また、熱伝導シートの可使期間が長くなる点で、潜在性硬化促進剤も好適に用いられる。潜在性硬化促進剤の代表例としては、ジシアンジミド、アジピン酸ジヒドラジド等のジヒドラジド化合物、グアナミン酸、メラミン酸、エポキシ化合物とイミダゾール化合物との付加化合物、エポキシ化合物とジアルキルアミン類との付加化合物、アミンとチオ尿素との付加化合物、アミンとイソシアネートとの付加化合物等が挙げられ、これらに限られるものではない。室温での活性を低減できる点でアダクト型の構造を有する化合物が特に好ましい。アダクト型の構造を有する化合物とは、触媒活性を有する化合物と種々の化合物を反応させて得られる付加化合物のことである。アダクト型硬化促進剤には、触媒活性を有する化合物として、1級アミノ基、2級アミノ基又は3級アミノ基を有する化合物、イミダゾール化合物等のアミン化合物を用いたアミンアダクト型硬化促進剤が挙げられる。アミンアダクト型硬化促進剤としては、更に、原料の種類により、アミン−エポキシアダクト型、アミン−尿素アダクト型、アミン−ウレタンアダクト型等が挙げられる。
【0087】
硬化促進剤の配合量は、エポキシ樹脂及び硬化剤の合計100質量部に対して、好ましくは0.1質量部〜20質量部、より好ましくは0.5質量部〜15質量部である。硬化促進剤の配合量が0.1質量部以上であれば硬化速度の低下を抑制できる傾向があり、また20質量部以下であれば可使期間の短縮を回避できる傾向がある。
【0088】
熱伝導性粒子としては、熱伝導性を有する粒子であれば特には制限されない。熱伝導性粒子としては、窒化アルミニウム、六方晶窒化ホウ素、立方晶窒化ホウ素、窒化珪素、ダイヤモンド、アルミナ、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ケイ素、窒化ガリウム、炭化ケイ素、二酸化ケイ素、タルク、マイカ、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム等を挙げることができる。熱伝導シートの熱伝導性を高めるために熱伝導性粒子の充填率を高くする観点から立方晶窒化ホウ素、又はアルミナであることが好ましい。2以上の種類の熱伝導性粒子としては、前記に挙げた種類のなかで熱伝導率が高い、酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム等と、これら以外の熱伝導粒子との組み合せが考えられる。例えば、酸化アルミニウムとタルク;室化ホウ素と水酸化アルミニウム;等が好ましい。
【0089】
特に、熱伝導性粒子として、少なくとも3種の、体積平均粒子径が異なるフィラーを含むことが好ましい。前記フィラーのうち、第一のフィラーは、体積平均粒子径が0.01μm以上1μm未満のフィラーとすることができる。第一のフィラーの体積平均粒子径は、分散性の観点から、0.05μm以上0.8μm以下であることが好ましく、充填性の観点から、0.1μm以上0.6μm以下であることがより好ましい。
また第二のフィラーは、体積平均粒子径が1μm以上10μm未満のフィラーとすることができる。第二のフィラーの体積平均粒子径は、樹脂溶融粘度の観点から、2μm以上8μm以下であることが好ましく、充填性の観点から、2μm以上6μm以下であることがより好ましい。
更に第三のフィラーは、体積平均粒子径が10μm以上60μm以下のフィラーとすることができる。第三のフィラーの体積平均粒子径は、絶縁性の観点から、15μm以上55μm以下であることが好ましく、熱伝導率の観点から、20μm以上50μm以下であることがより好ましい。
また、体積平均粒子径が異なる3種のフィラーを含むことで、フィラーの充填率が向上し、熱伝導率がより効果的に向上する。第一のフィラー、第二のフィラー及び第三のフィラーは、上述した体積平均粒子径の内以内のものであって、互いに異なる体積平均粒子径を有する組み合わせとなるように選択される。
【0090】
フィラーは、体積平均粒子径が0.01μm以上1μm未満の第一のフィラーと、体積平均粒子径が1μm以上10μm未満の第二のフィラーと、体積平均粒子径が10μm以上60μm以下の第三のフィラーとの組み合わせとすることができ、また、体積平均粒子径が0.05μm以上0.8μm以下の第一のフィラーと、体積平均粒子径が2μm以上8μm以下の第二のフィラーと、体積平均粒子径が15μm以上55μm以下の第三のフィラーとの組み合わせとすることができ、また、体積平均粒子径が0.1μm以上0.6μm以下の第一のフィラーと、体積平均粒子径が2μm以上6μm以下の第二のフィラーと、体積平均粒子径が20μm以上50μm以下の第三のフィラーとの組み合わせとすることができる。
【0091】
尚、フィラーの体積平均粒子径は、レーザー回折散乱法を用いて測定される。レーザー回折散乱法を用いる場合、まず樹脂組成物又は樹脂シート(硬化物を含む)からフィラーを抽出し、レーザー回折散乱粒度分布測定装置(例えば、ベックマン・コールター社製、LS230)を用いることにより測定可能である。また、測定には乾式法,湿式法があり、湿式法が好ましい。具体的には、有機溶剤、硝酸、王水等を用いて、樹脂組成物又は樹脂シートからフィラー成分を抽出し、超音波分散機などで充分に分散して分散液を調製する。この分散液の粒子径分布を測定することでフィラーの体積平均粒子径を測定することができる。
【0092】
本発明における前記第一のフィラー、第二のフィラー及び第三のフィラーは、それぞれ前記体積平均粒子径を有するものである。熱伝導率、絶縁性の観点から、前記第一のフィラーの体積平均粒子径に対する第二のフィラーの体積平均粒子径の比(第二のフィラーの体積平均粒子径/第一のフィラーの体積平均粒子径)が5〜50であることが好ましく、充填性と熱伝導率の観点から、8〜20であることがより好ましい。
また熱伝導率、絶縁性の観点から、前記第二のフィラーの体積平均粒子径に対する第三のフィラーの体積平均粒子径の比(第三のフィラーの体積平均粒子径/第三のフィラーの体積平均粒子径)が3〜40であることが好ましく、5〜30であることがより好ましい。
【0093】
本発明において前記第一のフィラー、第二のフィラー及び第三のフィラーは、それぞれ所定の体積平均粒子径を有するものであれば、その粒径分布は特に制限されないが、熱伝導性の観点から、広い粒度分布を有する方が好ましい。
【0094】
また本発明におけるフィラーは、フィラー全体として前記第一のフィラー、第二のフィラー及び第三のフィラーを含むものであればよい。すなわち、フィラー全体の粒径分布を測定した場合に、体積平均粒子径が0.01μm以上1μm未満の第一のフィラーに対応するピークと、体積平均粒子径が1μm以上10μm未満の第二のフィラーに対応するピークと、体積平均粒子径が10μm以上60μm以下の第三のフィラーに対応するピークと、の少なくとも3つのピークが観測されればよい。
【0095】
かかる態様のフィラーは、例えば、粒径分布において単一のピークを示す前記第一のフィラー、第二のフィラー及び第三のフィラーをそれぞれ混合して構成してもよく、また、粒径分布において2以上のピークを有するフィラーを用いて構成してもよい。
【0096】
また本発明においては、第一のフィラー、第二のフィラー及び第三のフィラーの総体積中における体積基準の含有率について、第一のフィラーの含有率が1体積%〜15体積%であって、第二のフィラーの含有率が10体積%〜40体積%であって、第三のフィラーの含有率が45体積%〜80体積%の範囲内であって合計で100体積%となる含有率にすることができる。充填性、熱伝導率の観点から、第一のフィラーの含有率が6体積%〜15体積%であって、第二のフィラーの含有率が18体積%〜35体積%であって、第三のフィラーの含有率が50体積%〜70体積%の範囲内であって合計で100体積%となる含有率であることがより好ましい。
また更に、第三のフィラー含有比率を極力高くし、次に第二のフィラーの含有比率を高くすることで、より効果的に熱伝導率が向上できる。このように体積平均粒子径が異なる少なくとも3種のフィラーを特定の含有比率(体積基準)で含むことで熱伝導率がより効果的に向上する。
【0097】
前記第三のフィラーとしては、少なくとも窒化ホウ素を含んでいればよく、窒化ホウ素に加えて、その他の絶縁性を有する無機化合物を更に含んでいてもよい。特定の体積平均粒子径を有する第三のフィラーが、窒化ホウ素を含むことで熱伝導率が飛躍的に向上する。
第三のフィラーに含まれる窒化ホウ素の含有率は特に制限されない。熱伝導性の観点から、第三のフィラー総体積を100体積%とした場合、60体積%以上であることが好ましく、80体積%以上であることがより好ましく、100体積%であることが更に好ましい。
また第三のフィラーが含みうる窒化ホウ素以外のその他の絶縁性を有する無機化合物としては、後述する第一のフィラー及び第二のフィラーと同様である。
【0098】
一方、第一のフィラー及び第二のフィラーとしては、絶縁性を有する無機化合物であれば特に制限はないが、高い熱伝導率を有するものであることが好ましい。
第一のフィラー及び第二のフィラーの具体例としては、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、タルク、マイカ、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム等を挙げることができる。中でも、熱伝導率の観点から、酸化アルミニウム、窒化ホウ素、又は窒化アルミニウムが好ましい。また、これらのフィラーの材質としては、1種類単独であっても、2種類以上を併用してもよい。
【0099】
前記フィラーの粒子形状としては特に制限はなく、球形、丸み状、破砕状、りん片状及び凝集粒子等が挙げられる。中でも、充填性と熱伝導率の観点から、丸み状又は凝集粒子状が好ましい。
【0100】
本発明において前記樹脂組成物中のフィラー含有量の全体比率としては特に制限されず、熱伝導率と接着性の観点から、樹脂組成物の全固形分中50体積%〜90体積%であることが好ましく、熱伝導率の観点から、50体積%〜85体積%であることがより好ましい。
尚、樹脂組成物の全固形分とは、樹脂組成物を構成する成分のうち、不揮発性成分の総質量を意味する。
【0101】
本発明では、異種材料間の界面結合をよくするためにカップリング剤を配合することができる。カップリング剤としては、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等が挙げられ、これらのなかでもシランカップリング剤が好ましい。カップリング剤の配合量は、添加による効果、耐熱性及びコストの点から、樹脂組成物の総量100質量部に対し、0.1質量部〜10質量部であることが好ましい。シランカップリング剤としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0102】
本発明では、熱伝導性粒子又はその他のフィラーの分散性を向上させる目的で、分散剤を配合することができる。分散剤としては、グラフト重合型分散剤、水酸基含有系分散剤、アミノ基含有系分散剤、カルボン酸含有系分散剤等の高分子分散剤がある。更に、粒子をより安定的に分散させるため、粒子表面を濡らす作用を有する湿潤剤と呼ばれる、低分子型分散剤を前記高分子分散剤と併用してもよい。分散剤は、1種単独であっても2種以上を併用してもよい。分散剤の配合量は、樹脂組成物の総量100質量部に対し、0.05質量部〜15質量部であることが好ましい。
【0103】
本発明においては、熱伝導シートの靭性を改良する目的でエラストマ樹脂を配合することができる。エラストマ樹脂とは、常温では加流ゴムのようなゴム弾性を示し、高温で可塑化され良好な加工性を有する、熱可塑性のエラストマ樹脂である。エラストマ樹脂としては、ポリエステル系エラストマ、オレフィン系エラストマ、スチレンブタジエンブロック共重合体、ウレタン系エラストマ、ポリアミド系エラストマ、アイオノマ系のエラストマ等が挙げられ、これらは1種単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0104】
前記樹脂組成物の製造方法としては、通常行なわれる樹脂組成物の製造方法を特に制限なく用いることができる。例えば、エポキシ樹脂、ノボラック樹脂、及びフィラー等を混合する方法としては、通常の撹拌機、らいかい機、三本ロール、ボールミル等の分散機を適宜組み合わせて行うことができる。また、適当な有機溶剤を添加して、分散及び溶解を行うことができる。
【0105】
具体的には例えば、エポキシ樹脂、ノボラック樹脂、フィラー、及びシランカップリング剤を適当な有機溶剤に溶解及び分散したものに、必要に応じて硬化促進剤等のその他の成分を混合することで、樹脂組成物を得ることができる。
有機溶剤は後述する樹脂シートの製造方法における乾燥工程にて、乾燥、脱離するものであり、大量に残留していると熱伝導率又は絶縁性能に影響を及ぼすので、沸点又は蒸気圧が低いものが望ましい。また、完全に無くなってしまうとシートが硬くなり接着性能が失われてしまうので、乾燥方法、条件等との適合が必要である。
【0106】
前記フィルムの製造工程において、熱伝導性粒子及び熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物のワニスを基材上に塗工する場合、ワニスの固形分(不揮発成分)はワニス全質量の30質量%以上であることが好ましい。なお、ワニスの固形分(不揮発成分)の測定は、常圧で180℃30分の乾燥処理を行った場合のワニス単位体積(例えば、ワニス体積1cm
3)当たりの質量残存率として求めた値とする。
【0107】
ワニスは、熱伝導性粒子を含むフィラー成分の分散性を考慮した場合には、らいかい機、3本ロール、ビーズミル等を用いて、又はこれらを組み合わせて用いて調製することができる。前記樹脂組成物中に分子量の異なる成分が存在する場合には、フィラー成分と低分子量物をあらかじめ混合した後、高分子量物を配合することにより、混合に要する時間を短縮することも可能となる。またワニスとした後、真空脱気によりワニス中の気泡を除去することが好ましい。
【0108】
本発明においてワニスを作製する際に使用する溶剤には特に制限が無い。溶剤としては、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、2−エトキシエタノール、トルエン、ブチルセルソルブ、メタノール、エタノール、2−メトキシエタノール、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、メチルピロリドン、シクロヘキサノン等を用いることができる。これらのなかでも、塗膜性を向上するなどの目的で、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、メチルピロリドン、シクロヘキサノン等の高沸点溶剤が好ましい。これら溶剤は1種単独で又は2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0109】
前記フィルムを成形するための基材としては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリイミドフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエーテルスルフォンフィルム、ポリエーテルアミドフィルム、ポリエーテルアミドイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム等のプラスチックフィルムが使用できる。また、銅、アルミニウム、ニッケル、鉄、銀等の金属の基材を用いてもよい。前記基材には必要に応じて、プライマー塗工、UV処理、コロナ放電処理、研磨処理、エッチング処理、離型処理等の表面処理を行ってもよい。前記樹脂組成物のワニスを用いて前記フィルムを成形するための基材としては使用可能な温度範囲、弾性率、表面平滑性等の特性からポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。
【0110】
前記フィルムの製造方法として具体的には、有機溶剤を含む樹脂組成物(ワニス)を基材上に、所望の平均膜厚となるように、塗布して塗布層を形成し、形成された塗布層を加熱乾燥して有機溶剤の少なくとも一部を除去(乾燥する)する方法等を挙げることができる。
【0111】
樹脂組成物の塗布方法及び乾燥方法については特に制限なく通常用いられる方法から適宜選択することができる。例えば、塗布方法としては、コンマコータ又はダイコータを用いる方法、ディップ塗工等が挙げられる。また乾燥方法としては、常圧下又は減圧下での加熱乾燥、自然乾燥、凍結乾燥等が挙げられる。
塗布層の膜厚は目的に応じて適宜選択でき、例えば、50μm〜250μmとすることができ、100μm〜200μmであることが好ましい。
【0112】
本発明では、前記樹脂組成物から得られた前記フィルムを基材上に形成し、得られた基材付きフィルムを、本発明の製造方法に用いる。
【0113】
本発明の製造方法により得られた熱伝導シートは、また、銅又はアルミニウム等の熱伝導性の金属箔を表面に貼付けて、金属箔付き熱伝導シートもよい。これにより、熱伝導率を更に高めることができる。前記熱伝導性の金属の箔を貼付け条件として、温度は前記熱硬化性樹脂が完全硬化しない温度、具体的には100℃以上、かつ、200℃以下、また、圧力は1MPa以上、かつ、20MPa以下であることが好ましい。
【0114】
本発明にかかる熱伝導シート又は金属箔付き熱伝導シートは、更に熱硬化処理を行って、熱伝導シート又は金属箔付き熱伝導シートの硬化物を得ることができる。
熱伝導シートの硬化物を製造する際の熱処理条件は、樹脂組成物の構成に応じて適宜選択することができる。例えば、120℃〜250℃、10分間〜300分間加熱処理することができる。また、熱伝導率の観点から、高次構造を形成し易い温度を含むことが好ましく、例えば100℃〜160℃と160℃〜250℃の少なくとも2段階の加熱を行うことがより好ましい。更に、上記の温度範囲にて、2段階以上の多段階の加熱処理を行うことがより好ましい。
【0115】
また前記金属箔付き熱伝導シートは、前述のように、高い熱伝導性と絶縁性を有し、且つ半導体装置などへ実装可能な屈曲性を備えているため、半導体装置の一部を構成してもよい。このような熱伝導シートを含む半導体装置としては、自動車搭載用のパワーコントロールユニット、LED(Light Emitting Diode)等の用途に用いられる。
【実施例】
【0116】
以下に実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0117】
(実施例1)
熱硬化性樹脂として、フェノールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬株式会社製、EPPN−201)4.5質量部、液状ビスフェノールAF型エポキシ樹脂(東都化成株式会社製、エポトートZX−1059)4.5質量部、硬化剤として低吸水性フェノール樹脂(三井化学株式会社製、商品名:XLC−LL)6質量部、硬化促進剤としてトリフェニルホスフィン(関東化学株式会社製)0.09質量部、カップリング剤としてN−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−573)0.07質量部、分散剤として水酸基含有ポリマー塩(ビックケミー・ジャパン社製、DISPERBYK−106)0.11質量部、熱伝導性粒子として、アルミナフィラ〔住友化学株式会社製、スミコランダムAA3(平均粒子径3μm):第二のフィラー〕21質量部、アルミナフィラ〔住友化学株式会社製、スミコランダムAA04(平均粒子径0.4μm):第一のフィラー〕9質量部、窒化ホウ素〔水島合金鉄株式会社製、HP−40(平均粒子径18μm):第三のフィラー〕32質量部、溶剤としてシクロヘキサノン(和光純薬工業株式会社製)23質量部をそれぞれ秤量した。
【0118】
前記秤量した材料をボールミルで混合した。前記ボールミルでは、前記秤量した材料と直径5mmのアルミナボール75質量部とを蓋付きポリビン(容積2リットル)に入れたものを卓上2本ローター上に置いて、前記卓上2本ローターを100min
−1(回転/分)で回転させた。このとき、粘度を調整するために、シクロヘキサノンを1質量部追加した。混合終了後、真空ポンプを用いて真空脱泡して、固形分76質量%のワニスを得た。前記ワニスの粘度はコーンプレート型回転粘度計RE100(東機産業社製)により25℃設定の恒温槽内において回転数5min
−1(回転/分)で測定したところ、3.2Pa・sであった。
【0119】
次に、前記ワニスを基材に塗工した。基材にはポリエチレンテレフタレート(帝人株式会社製、ピューレックスA53)を使用した。基材幅を400mm、塗工幅を350mmとした。塗工はコンマコータで実施し、塗工ギャップを275μm、搬送速度を0.7m/minに設定した。膜が形成された後、温度120℃に設定された乾燥炉で7分間乾燥することで、前記基材上にフィルム30mを得た。乾燥後のフィルムから5cm×5cmサイズのサンプルを切り出して、常圧で180℃1時間の乾燥処理を行い、質量を精密天秤により測定して、乾燥処理前のフィルムの質量からの減少率として残存揮発分を算出した。得られたフィルムの残存揮発分は1.1質量%、平均膜厚は125μmであった。更に、前記得られたフィルムの単位面積(100cm
2)当たりの質量は2.76gであった。ここで、熱伝導シートの膜厚設計値を200μmとしたので、熱伝導シートの理論密度2.3g/cm
3を使って前記熱伝導シートの質量設計値を計算すると4.6gとなり、その結果、前記得られたフィルムの質量倍数は0.60倍となった。前記得られたフィルムの塗工した側には保護フィルムとして、微粘着ポリエチレンフィルム(タマポリ株式会社製、NF−15)を貼付した。
【0120】
上記のようにして得られた基材及び保護フィルム付きフィルム7を、2巻、
図7に示す製造装置50に通紙した。製造装置50は、4本のロールによりフィルム積層体4の膜厚方向に圧力を付加可能となっている。
【0121】
基材付きフィルム3Aの第一のロール52Aに対する抱き角θを95°に設定し、また、基材付きフィルム3Bの第二のロール52Bに対する抱き角θ’も95°に設定した。
【0122】
第一のロール52Aの表面温度と前記第二のロール52Bの表面温度はいずれも65℃に設定した。基材付きフィルム積層体5中のフィルム積層体4の膜厚方向にかける線圧を15kN/mに設定した。
【0123】
保護フィルム6を剥離した後の基材付きフィルム3A、3Bを、はじめに第一のロール52Aと第二のロール52Bとの間隙に通して、フィルム積層体4の膜厚方向に圧力をかけた。
第一のロール52Aと第二のロール52Bとにより、膜厚方向に圧力をかけたフィルム積層体4を、更に第三のロール52Cと第四のロール52Dとにより膜厚方向に圧力をかけた。第三のロール52Cの表面温度と前記第四のロール52Dの表面温度はいずれも45℃に設定した。更に、第三のロール52C及び第四のロール52Dによるフィルム積層体4の膜厚方向にかける線圧を10kN/mに設定した。
【0124】
第三のロール52Cと第四のロール52Dとにより膜厚方向に圧力をかけたフィルム積層体4の上面側の基材1Aを剥離した後、巻取り側ニップロール22A,22Bを用いて、基材1Aを剥離した面のフィルム積層体4上に保護フィルム6を貼付けた。保護フィルム6には微粘着ポリエチレンフィルム(タマポリ株式会社製、NF−15)を使用した。保護フィルム6を貼付した加圧後の基材及び保護フィルム付きフィルム積層体8を、保護フィルム6を貼付けた側の面が内側となるように巻き取った。
【0125】
保護フィルム6を貼付した基材及び保護フィルム付きフィルム積層体8からフィルム積層体4のみを、短冊状の粘着テープを用いて引剥がして採取し、平均膜厚を測定したところ、213μmであった。前記のとおり、フィルムの平均膜厚が125μmであるから、式(2)より膜厚減少率は85%となった。なお、短冊状の粘着テープには、微粘着タイプの、ポリエチレン、ポリエステル等を使用できる。
【0126】
更に、保護フィルム6を貼付した基材及び保護フィルム付きフィルム積層体8から大きさ100mm×100mmの、基材及び保護フィルム付きフィルム積層体8を取り出して、保護フィルム及び基材を、短冊状の粘着テープを用いて引剥がし、フィルム積層体4のサンプルを採取した。採取されたフィルム積層体4のサンプルの両面に膜厚105μmの銅箔(日本電解株式会社製GTS−105)の光沢面を平板プレスで貼付けた。前記平板プレスの条件は真空(15mmHg(2.0kPa)以下)状態で、温度180℃、圧力12MPa、時間5分であった。平板プレスで銅箔を両面に貼付けたフィルム積層体4を形成する熱硬化性樹脂を完全に硬化させるため、防爆乾燥機により、150℃で30分、更に190℃で120分加熱した。このようにして熱硬化性樹脂を完全に硬化したフィルム積層体を、銅箔付き熱伝導シートとして得た。
【0127】
前記銅箔付き熱伝導シートの熱抵抗を測定するため、10mm×10mmの試験片に切り分け、トランジスタ(2SC2233)と、水冷銅ヒートシンクとの間に挟み、トランジスタを押し付けながら電流を通じた。トランジスタの温度T1(℃)と、銅ヒートシンクの温度T2(℃)を測定し、測定値と印可電力W1(W)、及び、熱伝導シート試験片の面積S(cm
2)とから、次の式(3)によって熱抵抗X(℃/W)を算出した結果、熱抵抗は0.184(℃/W)であった。
【0128】
X=(T1−T2)/W1/S ・・・ (3)
【0129】
次に熱伝導シートの膜厚、密度、比熱、熱伝導率、及び絶縁耐圧を測定するため、銅箔付き熱伝導シートを過硫酸アンモニウム水溶液に浸漬してエッチングを実施して両面の銅箔を除去した。
【0130】
銅箔除去後の熱伝導シートの膜厚、密度及び比熱をそれぞれ測定した。平均膜厚は207μmとなった。密度はアルキメデスの原理を利用した浸漬法により測定した。装置はALFA MIRAGE社製MD−300Sを使用して、密度は2.26g/cm
3と求まった。比熱はJIS K7123に定める、プラスチックの比熱容量測定方法に基づき、DSC(示差走査型熱量計)により測定したところ、0.87J/(g・K)となった。
【0131】
前記熱伝導シートの熱伝導率を求めるため、前記銅箔を除去した熱伝導シートを100mm×100mmのサイズの試験片に切出し、両面をグラファイトスプレーで黒化処理した。試験片を25℃設定の恒温槽にセットして、前記熱伝導シートの膜厚方向の熱拡散率をNETZSCH社製Nanoflash LFA447型フラッシュ法熱拡散率測定装置を用いて測定したところ、5.73mm
2/sであった。得られた熱拡散率と、比熱及び密度とから次の式(4)により熱伝導率を算出した。計算の結果、熱伝導率は11.3W/(m・K)であった。
【0132】
熱伝導率〔W/(m・K)〕
=熱拡散率(mm
2/s)×比熱〔J/(g・K)〕×密度(g/cm
3) ・・・(4)
【0133】
絶縁耐圧は絶縁破壊試験により測定した。昇圧速度を500V/sとして気中で熱伝導シートに電圧を加えていったときに絶縁破壊が発生した電圧を絶縁耐圧とした。測定は100mm×100mmのサイズの熱伝導シート試験片中の5点について実施し、測定値の最小値を採用した。その結果、絶縁耐圧は8.6kVであった。
【0134】
(実施例2)
実施例1と同じ配合、同じ製造条件で製造した、基材及び保護フィルム付きフィルムを、2巻、
図4に示す製造装置10に通紙して、熱伝導シートを製造した。
【0135】
製造装置10における基材付きフィルム3ABの第一のロール12Aに対する抱き角θ、及び、基材付きフィルム3Bの第二のロール12Bに対する抱き角θ’を、それぞれ95°に設定した。
【0136】
第一のロール12Aの表面温度と第二のロール12Bの表面温度はいずれも65℃に設定した。また、フィルム2A、2Bの搬送速度を0.4m/min(分)に設定した。更に、第一のロール12Aと第二のロール12Bによるフィルム積層体3の膜厚方向にかける線圧を15kN/mに設定した。
【0137】
第一のロール12Aと第二のロール12Bとにより膜厚方向に圧力をかけたフィルム積層体4の上面側の基材1Aを剥離した後、巻取り側ニップロール22A、22Bを用いて、基材1Aを剥離した面のフィルム積層体4上に保護フィルム6を貼付けた。保護フィルムには微粘着ポリエチレンフィルム(タマポリ株式会社製、NF−15)を使用した。保護フィルム6を貼付した加圧後の基材及び保護フィルム付きフィルム積層体8を、保護フィルム6を貼付けた側の面が内側となるように巻き取った。
【0138】
保護フィルム6を貼付した基材及び保護フィルム付きフィルム積層体8からフィルム積層体4のみを、短冊状の粘着テープを用いて引き剥がして採取し、平均膜厚を測定したところ、210μmであった。前記のとおり、フィルムの平均膜厚が125μmであるから、式(2)より膜厚減少率は84%となった。
【0139】
更に、得られたフィルム積層体4から、実施例1と同様にして作製した銅箔付き熱伝導シートの熱抵抗は0.178(℃/W)であった。また、銅箔除去後の熱伝導シートは、膜厚204μm、密度2.27g/cm
3、比熱0.87J/(g・K)であった。また、熱拡散率は5.81mm
2/sであり、その結果、熱伝導率が11.5W/(m・K)と求まった。一方、熱伝導シートの絶縁耐圧は8.5kVであった。
【0140】
(実施例3)
実施例2と同じ配合、同じ製造条件で製造した、基材及び保護フィルム付きフィルムを2巻、実施例2と同じく、
図4に示す製造装置10に通紙して、熱伝導シートを製造した。
【0141】
製造装置10における基材付きフィルム3Aの第一のロール12Aに対する抱き角θ、及び、基材付きフィルム3Bの第二のロール12Bに対する抱き角θ’をそれぞれ80°に設定した。抱き角以外の条件は実施例2と同じ設定で実施した。
【0142】
保護フィルム6を貼付した基材及び保護フィルム付きフィルム積層体8からフィルム積層体4のみの平均膜厚を測定したところ、207μmであった。前記のとおり、フィルムの平均膜厚が125μmであるから、式(2)より膜厚減少率は83%となった。
【0143】
更に、得られたフィルム積層体4から実施例1と同様にして作製した銅箔付き熱伝導シートの熱抵抗は0.174(℃/W)であった。また、銅箔除去後の熱伝導シートは、膜厚202μm、密度2.28g/cm
3、比熱0.87J/(g・K)であった。また、熱拡散率は5.85mm
2/sであり、その結果、熱伝導率が11.6W/(m・K)と求まった。一方、熱伝導シートの絶縁耐圧は8.5kVであった。
【0144】
(実施例4)
実施例1と同じ配合のワニス及び基材を用いて、コンマコータでフィルムを塗工した際、塗工ギャップを260μmに設定した。乾燥条件は実施例2と同じで、温度を120℃、搬送速度を0.7m/minに設定し、乾燥時間は7分とした。乾燥後のフィルムから5cm×5cmサイズのサンプルを切り出して、常圧で180℃1時間の乾燥処理を行い、質量を精密天秤により測定して、乾燥処理前のフィルムの質量からの減少率として残存揮発分を算出した。得られたフィルムの残存揮発分は1.15質量%、平均膜厚は119μmであった。更に、単位面積(100cm
2)当たりの質量は2.4gであり、前記のとおり熱伝導シートの質量設計値は4.6gであるから、得られたフィルムの質量倍数は0.52倍となった。
【0145】
得られた基材及び保護フィルム付きフィルム2巻から、実施例3と同様に、製造装置10を用いて熱伝導シートを製造した。
第一のロール12A及び第二のロール12Bによる基材付きフィルム積層体4中のフィルム積層体3の膜厚方向に圧力をかける工程の製造条件は、実施例3と同じ設定で実施した。その結果、基材及び保護フィルム付きフィルム積層体8から採取した加圧後のフィルム積層体4のみの平均膜厚は201μmであったので、前記のとおり、フィルムの平均膜厚が119μmであるから、式(2)より膜厚減少率は84%となった。
【0146】
更に、得られたフィルム積層体4から実施例1と同様にして作製した銅箔付き熱伝導シートの熱抵抗は0.170(℃/W)であった。また、銅箔除去後の熱伝導シートは、膜厚199μm、密度2.29g/cm
3、比熱0.87J/(g・K)であった。また、熱拡散率は5.86mm
2/sであり、その結果、熱伝導率が11.7W/(m・K)と求まった。一方、熱伝導シートの絶縁耐圧は8.3kVであった。
【0147】
(実施例5)
実施例1と同じ配合のワニス及び基材を用いた。フィルムをコンマコータで塗工した後の乾燥条件において、温度を120℃、搬送速度を0.6m/minにして、乾燥時間を8分とした。乾燥後のフィルムから5cm×5cmサイズのサンプルを切り出して、常圧で180℃1時間の乾燥処理を行い、質量を精密天秤により測定して、乾燥処理前のフィルムの質量からの減少率として残存揮発分を算出した。その結果、得られたフィルムの残存揮発分は0.7質量%、平均膜厚は118μmであった。更に、単位面積(100cm
2)当たりの質量は2.4gであり、前記のとおり熱伝導シートの質量設計値は4.6gであるから、その結果、前記得られたフィルムの質量倍数は0.52倍となった。
【0148】
得られた基材付きフィルム2巻から、実施例4と同様に、製造装置10を用いて熱伝導シートを製造した。
第一のロール12A、第二のロール12Bによる基材付きフィルム積層体4中のフィルム積層体3の膜厚方向に圧力をかける工程の製造条件は、実施例4と同じ設定で実施し、保護フィルム6を貼付した基材及び保護フィルム付きフィルム積層体8から採取したフィルム積層体4のみの平均膜厚は199μmであったので、前記のとおり、フィルムの平均膜厚が118μmであるから、式(2)より膜厚減少率は84%となった。
【0149】
更に、得られたフィルム積層体4から作製した銅箔付き熱伝導シートの熱抵抗は0.167(℃/W)であった。また、銅箔除去後の熱伝導シートは、平均膜厚197μm、密度2.29g/cm
3、比熱0.87J/(g・K)であった。また、熱拡散率は5.91mm2/sであり、その結果、熱伝導率が11.8W/(m・K)と求まった。一方、熱伝導シートの絶縁耐圧は8.8kVであった。
【0150】
以下の実施例6から9までは、実施例5と同一のフィルムを使用した。
【0151】
(実施例6)
製造装置10における第一のロール12Aの表面温度と第二のロール12Bの表面温度ともに80℃に設定した以外は実施例5と同じとした。保護フィルム6を貼付した基材及び保護フィルム付きフィルム積層体8からフィルム積層体4のみを採取して平均膜厚を測定したところ、198μmであった。前記のとおり、フィルムの平均膜厚が118μmであるから、式(2)より膜厚減少率は84%となった。
【0152】
更に、得られたフィルム積層体4から実施例1と同様にして作製した銅箔付き熱伝導シートの熱抵抗は0.165(℃/W)であった。また、銅箔除去後の熱伝導シートは、平均膜厚196μm、密度2.29g/cm
3、比熱0.87J/(g・K)であった。また、熱拡散率5.95mm
2/sであり、その結果、熱伝導率が11.9W/(m・K)と求まった。一方、熱伝導シートの絶縁耐圧8.8kVであった。
【0153】
(実施例7)
フィルム積層体3の膜厚方向に圧力をかける工程の製造条件及び使用した製造装置は、フィルム2A、2Bの搬送速度を1m/minに設定した以外は実施例6と同じである。保護フィルム6を貼付した基材及び保護フィルム付きフィルム積層体8から採取したフィルム積層体4のみの平均膜厚は198μmであった。前記のとおり、フィルムの平均膜厚が118μmであるから、式(2)より膜厚減少率は84%となった。
【0154】
更に、得られたフィルム積層体4から実施例1と同様にして作製した銅箔付き熱伝導シートの熱抵抗は0.165(℃/W)であった。また、銅箔除去後の熱伝導シートは、平均膜厚196μm、密度2.29g/cm
3、比熱0.87J/(g・K)であった。また、熱拡散率は5.96mm
2/sであり、その結果、熱伝導率が11.9W/(m・K)と求まった。一方、熱伝導シートの絶縁耐圧は9.0kVであった。
【0155】
(実施例8)
フィルム積層体4の膜厚方向に圧力をかける工程の製造条件及び使用した製造装置は、第一のロール12Aと第二のロール12Bの基材付きフィルム積層体5中のフィルム積層体4の膜厚方向にかける線圧を40kN/mに設定した以外は実施例7と同じである。保護フィルム6を貼付した基材及び保護フィルム付きフィルム積層体8から採取したフィルム積層体4のみの平均膜厚は196μmであった。前記のとおり、フィルムの平均膜厚が118μmであるから、式(2)より膜厚減少率は83%となった。
【0156】
更に、得られたフィルム積層体4から実施例1と同様にして作製した銅箔付き熱伝導シートの熱抵抗は0.161(℃/W)であった。また、銅箔除去後の熱伝導シートは、平均膜厚193μm、密度2.3g/cm
3、比熱0.87J/(g・K)であった。また、熱拡散率は5.98mm
2/sであり、その結果、熱伝導率が12.0W/(m・K)と求まった。一方、熱伝導シートの絶縁耐圧は9.1kVであった。
【0157】
(実施例9)
フィルム積層体3の膜厚方向に圧力をかける工程の製造条件及び使用した製造装置は、第一のロール12Aと第二のロール12Bにより、基材付きフィルム積層体5中のフィルム積層体4の膜厚方向にかける線圧を80kN/mに設定した以外は、実施例8と同じ設定である。保護フィルム6を貼付した基材及び保護フィルム付きフィルム積層体8から採取したフィルム積層体4のみの平均膜厚は188μmであった。前記のとおり、フィルムの平均膜厚が118μmであるから、式(2)より膜厚減少率は80%となった。
【0158】
更に、得られたフィルム積層体4から作製した銅箔付き熱伝導シートの熱抵抗は0.153(℃/W)であった。また、銅箔除去後の熱伝導シートは、平均膜厚187μm、密度2.34g/cm
3、比熱0.87J/(g・K)であった。また、熱拡散率は6.01mm
2/sであり、その結果、熱伝導率が12.2W/(m・K)と求まった。一方、熱伝導シートの絶縁耐圧は9.4kVであった。
【0159】
(実施例10)
熱硬化性樹脂として、フェノールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬株式会社製、EPPN−201)4.5質量部、液状ビスフェノールAF型エポキシ樹脂(東都化成株式会社製、エポトートZX−1059)4.5質量部、硬化剤として低吸水性フェノール樹脂(三井化学株式会社製、商品名:XLC−LL)6質量部、硬化促進剤としてトリフェニルホスフィン(関東化学株式会社製)0.09質量部、カップリング剤としてN−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−573)0.07質量部、分散剤として水酸基含有ポリマー塩(ビックケミー・ジャパン社製、DISPERBYK−106)0.11質量部、熱伝導性粒子として、窒化ホウ素〔水島合金鉄株式会社製、HP−40(平均粒子径18μm)〕62質量部、溶剤としてシクロヘキサノン(和光純薬工業株式会社製)23質量部をそれぞれ秤量した。
【0160】
前記秤量した材料をボールミルで混合した。前記ボールミルでは、前記秤量した材料と直径5mmのアルミナボール75質量部とを蓋付きポリビン(容積2リットル)に入れたものを卓上2本ローター上に置いて、前記卓上2本ローターを100min
−1(回転/分)で回転させた。このとき、粘度を調整するために、シクロヘキサノンを1.2質量部追加した。混合終了後、真空ポンプを用いて真空脱泡して、固形分77質量%のワニスを得た。前記ワニスの粘度はコーンプレート型回転粘度計RE100(東機産業社製)により25℃設定の恒温槽内において回転数5min
−1(回転/分)で測定したところ、3.3Pa・sであった。
【0161】
次に、前記ワニスを基材に塗工した。基材にはポリエチレンテレフタレート(帝人株式会社製、ピューレックスA53)を使用した。基材幅を400mm、塗工幅を350mmとした。塗工はコンマコータで実施し、塗工ギャップを280μm、搬送速度を0.7m/minに設定した。塗工後のシートは乾燥炉に入り、温度120℃、時間7分で乾燥することで、前記基材上にフィルム30mを得た。乾燥後のフィルムから5cm×5cmサイズのサンプルを切り出して、常圧で180℃1時間の乾燥処理を行い、質量を精密天秤により測定して、乾燥処理前のフィルムの質量からの減少率として残存揮発分を算出した。得られたフィルムの残存揮発分は0.9質量%、平均膜厚は121μmであった。更に、前記得られたフィルムの単位面積(100cm
2)当たりの質量は2.45gであった。ここで、熱伝導シートの膜厚設計値を200μmとしたので、前記熱伝導シートの質量設計値は4.6gとなり、その結果、前記得られたフィルムの質量倍数は0.53倍となった。前記得られたフィルムの塗工した側には保護フィルムとして、微粘着ポリエチレンフィルム(タマポリ株式会社製、NF−15)を貼付した。
【0162】
フィルム積層体4の膜厚方向に圧力をかける工程の製造条件及び使用した製造装置は、実施例9と同じである。保護フィルム6を貼付した基材及び保護フィルム付きフィルム積層体8から採取したフィルム積層体4のみの平均膜厚は190μmであった。前記のとおり、フィルムの平均膜厚が118μmであるから、式(2)より膜厚減少率は79%となった。
【0163】
更に、得られたフィルム積層体4から実施例1と同様にして作製した銅箔付き熱伝導シートの熱抵抗は0.141(℃/W)であった。また、銅箔除去後の熱伝導シートは、平均膜厚187μm、密度2.34g/cm
3、比熱0.88J/(g・K)であった。また、熱拡散率は6.45mm
2/sであり、その結果、熱伝導率が13.3W/(m・K)と求まった。一方、熱伝導シートの絶縁耐圧は9.0kVであった。
【0164】
(比較例1)
本比較例では、実施例9と同一の基材付き保護フィルム付きフィルムを使用した。
基材付き保護フィルム付きフィルムから短冊状の粘着テープを用いた引剥がしにより保護フィルムを剥離した後の基材付きフィルム3A、3Bから、100mm×100mmのサイズを2枚切り出し、平板プレス(名機製作所製、製番:MHPC−V−100−610、型式:B1240)で、フィルム2A、2Bを対向させて基材付きフィルム3A、3Bを貼り合わせて、基材付きフィルム積層体7を得た。その際の平板プレスの条件は真空(15mmHg以下)状態で、温度150℃、圧力12MPa、時間1分であった。
【0165】
基材付きフィルム積層体5からフィルム積層体4のみを採取した。得られたフィルム積層体4の平均膜厚は188μmであった。前記のとおり、フィルムの平均膜厚が118μmであるから、式(2)より膜厚減少率は80%となった。
【0166】
更に、上述のようにして得られたフィルム積層体4を用いて、実施例1と同様にして、銅箔を平板プレスで貼り付け、銅箔付き熱伝導シートを得た。得られた銅箔付き熱伝導シートの熱抵抗は0.153(℃/W)であった。また、銅箔除去後の熱伝導シートは、平均膜厚185μm、密度2.32g/cm
3、比熱0.87J/(g・K)であった。また、熱拡散率は5.99mm
2/sであり、その結果、熱伝導率が12.1W/(m・K)と求まった。いっぽう、熱伝導シートの絶縁耐圧は5.6kVであった。
【0167】
(比較例2)
実施例1に示した配合で秤量した材料をボールミルで混合する際に、粘度調整を目的に実施していた、シクロヘキサノン1質量部の追加を行わずにワニスを作製した。その結果、固形分78質量%、粘度3.4Pa・s(回転数5min
−1(回転/分)、25℃設定の恒温槽内)のワニスを得た。
【0168】
次に、前記ワニスを基材に塗工した。基材にはポリエチレンテレフタレート(帝人株式会社製、ピューレックスA53)を使用した。基材幅を400mm、塗工幅を350mmとした。塗工はコンマコータで実施し、塗工ギャップを350μm、搬送速度を0.5m/minに設定した。塗工後のシートは乾燥炉において、温度120℃、時間10分で乾燥することで、前記基材上に平均膜厚135μmのフィルムを得た。乾燥後のフィルムから5cm×5cmサイズのサンプルを切り出して、常圧で180℃1時間の乾燥処理を行い、質量を精密天秤により測定して、乾燥処理前のフィルムの質量からの減少率として残存揮発分を算出した。得られたフィルムの残存揮発分は1.0質量%であった。前記得られたフィルムの塗工した側には保護フィルムとしてポリエチレンテレフタレート(帝人株式会社製、ピューレックスA53)を貼付した。
【0169】
得られた基材及び保護フィルム付きフィルムから、100mm×100mmのサイズを1枚切り出し、平板プレスで、基材及び保護フィルム付きフィルム1枚を真空(15mmHg以下)状態で、温度150℃、圧力12MPa、時間1分で加圧した。
【0170】
加圧後の基材及び保護フィルム付きフィルムから短冊状の粘着テープを用いた引剥がしにより保護フィルムを剥離した後のフィルムの平均膜厚は130μmであった。更に、このフィルムから作製した銅箔付き熱伝導シートの熱抵抗は0.122(℃/W)であった。また、銅箔除去後の熱伝導シートは、密度2.25g/cm
3、比熱0.87J/(g・K)であった。また、熱拡散率5.45mm
2/sであり、その結果、熱伝導率が10.7W/(m・K)と求まった。いっぽう、熱伝導シートの絶縁耐圧は1.9kVであった。
【0171】
(比較例3)
比較例2で作製した基材及び保護フィルム付きフィルムを、1枚のみ、
図4に示す製造装置10により、膜厚方向に加圧した。第一のロール12Aの表面温度と第二のロール12Bの表面温度はいずれも80℃に設定した。また、基材及び保護フィルム付きフィルムの搬送速度を1m/minに設定した。更に、前記フィルムの膜厚方向にかける線圧を40kN/mに設定した。なお、基材及び保護フィルム付きフィルムの第一のロール12Aに対する基材及び保護フィルムフィルムの抱き角は、80°である。
【0172】
加圧後の基材及び保護フィルムフィルムから短冊状の粘着テープを用いた引き剥がしにより基材保護フィルムを剥離した後のフィルムの平均膜厚は132μmであった。更に、得られた加圧後のフィルムから実施例1と同様にして作製した銅箔付き熱伝導シートの熱抵抗は0.122(℃/W)、密度は2.24g/cm
3であった。また、銅箔除去後の熱伝導シートは、比熱は0.87J/(g・K)であった。また、熱拡散率は5.55mm
2/sであり、その結果、熱伝導率は10.8W/(m・K)と求まった。一方、熱伝導シートの絶縁耐圧は2.1kVであった。
【0173】
(比較例4)
本比較例では、実施例10の基材及び保護フィルム付きフィルム7と同一のフィルムを使用した。
基材付き保護フィルム付きフィルム7から保護フィルム6を剥離した後の基材付きフィルム3A、3Bから、100mm×100mmのサイズを2枚切り出し、平板プレスで、フィルム2枚を対向させて貼付けて、加圧後の基材付きフィルム積層体7を得た。その際の平板プレスの条件は真空(15mmHg(2.0kPa)以下)状態で、温度150℃、圧力12MPa、時間1分であった。
【0174】
加圧後の基材付きフィルム積層体7からフィルム積層体4のみを短冊状の粘着テープを用いた引剥がしにより採取した。フィルム積層体4の平均膜厚は191μmであった。前記のとおり、フィルムの平均膜厚が118μmであるから、式(2)より膜厚減少率は79%となった。
【0175】
更に、上述のようにして得られたフィルム積層体4を用いて、実施例1と同様にして、銅箔を平板プレスで貼り付け、銅箔付き熱伝導シートを得た。得られた熱伝導シートの熱抵抗は0.153(℃/W)、膜厚は188μm、密度は2.33g/cm
3、比熱は0.88J/(g・K)であった。また、熱拡散率は6.00mm
2/sであり、その結果、熱伝導率は12.3W/(m・K)と求まった。いっぽう、熱伝導シートの絶縁耐圧は5.1kVであった。
【0176】
(比較例5)
実施例10に示した配合で秤量した材料をボールミルで混合する際に、粘度調整を目的に実施していた、シクロヘキサノン1質量部の追加を行わずにワニスを作製した。その結果、固形分78質量%、粘度3.5Pa・s(回転数5min
−1(回転/分)、25℃設定の恒温槽内)のワニスを得た。
【0177】
次に、前記ワニスを基材に塗工した。基材にはポリエチレンテレフタレート(帝人株式会社製、ピューレックスA53)を使用した。基材幅を400mm、塗工幅を350mmとした。塗工はコンマコータで実施し、塗工ギャップを350μm、搬送速度を0.5m/minに設定した。塗工後のシートは乾燥炉に入り、温度120℃、時間10分で乾燥することで、前記基材上に膜厚140μmのフィルムを得た。乾燥後のフィルムから5cm×5cmサイズのサンプルを切り出して、常圧で180℃1時間の乾燥処理を行い、質量を精密天秤により測定して、乾燥処理前のフィルムの質量からの減少率として残存揮発分を算出した。得られたフィルムの残存揮発分は1.0質量%であった。前記得られたフィルムの塗工した側には保護フィルムとしてポリエチレンテレフタレート(帝人株式会社製、ピューレックスA53)を貼付した。
【0178】
得られた基材及び保護フィルム付きフィルムから、100mm×100mmのサイズを1枚切り出し、平板プレスで、基材及び保護フィルム付きフィルム1枚を真空(15mmHg以下)状態で、温度150℃、圧力12MPa、時間1分で加圧した。
【0179】
加圧後の基材付き保護フィルム付きフィルムから短冊状の粘着テープを用いた引剥がしによりフィルムのみを採取し、得られた加圧後のフィルムの平均膜厚は131μmであった。更に、このフィルムから作製した熱伝導シートの熱抵抗は0.126(℃/W)、密度は2.28g/cm
3、比熱は0.87J/(g・K)であった。また、熱拡散率は5.23mm2/sであり、その結果、熱伝導率は10.4W/(m・K)と求まった。一方、熱伝導シートの絶縁耐圧は1.7kVであった。
【0180】
(比較例6)
比較例5で作製した基材及び保護フィルム付きフィルムを、
図1に示す製造装置10により、膜厚方向に加圧した。第一のロール12Aの表面温度と第二のロール12Bの表面温度はいずれも80℃に設定した。また、フィルムの搬送速度を1m/minに設定した。更に、第一のロール12A及び第二のロール12Bによる基材付きフィルムの膜厚方向にかける線圧を40kN/mに設定した。なお、第一のロール12Aに対する基材付きフィルムの抱き角は、80°である。
【0181】
基材付きフィルムの平均膜厚は135μmであった。更に、得られた加圧後の基材付きフィルムから基材を、短冊状の粘着テープを用いて引き剥がして取り除いた後に、作製した熱伝導シートの熱抵抗は0.121(℃/W)、密度は2.24g/cm
3、比熱は0.88J/(g・K)であった。また、熱拡散率は5.64mm
2/sであり、その結果、熱伝導率は11.1W/(m・K)と求まった。いっぽう、熱伝導シートの絶縁耐圧は1.9kVであった。
【0182】
なお、実施例1〜10及び比較例1〜6全ての場合について、前記銅箔付き熱伝導シートの銅箔とフィルム積層体との界面には剥れは無く、接着性は良好であった。
【0183】
以上の実施例、及び、比較例の検討結果を表1〜表3にまとめた。
表1〜表3において、「−」は該当項目に対応する値がないことを意味する。
【0184】
【表1】
【0185】
【表2】
【0186】
【表3】
【0187】
比較例1及び比較例4に示すように、フィルム2枚の膜厚方向に圧力を加える手段として、平板プレスを用いる場合、熱抵抗及び熱伝導率は良好であるが、絶縁耐圧が実施例1〜10と比べて低い結果となった。一方、比較例3及び比較例6に示すように、フィルムの膜厚方向に圧力を加える手段としてロールを用いても、フィルムが1枚の場合では、実施例1〜10で示すようなフィルム2枚の膜厚方向に圧力を加えた場合と比較して、絶縁耐圧が著しく劣っていた。
以上の結果から、フィルム2枚を対向させて配置してなるフィルム積層体の膜厚方向に圧力をかけることにより得られる熱伝導シートの製造方法であって、2本以上のロールにより前記フィルム積層体の膜厚方向に圧力をかけることを含む本発明の熱伝導シートの製造方法の有用性を示すことができた。
【0188】
2012年3月30日に出願された日本特許出願2012−082675号の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。