特許第5911053号(P5911053)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5911053放射性ヨウ素除去材料及び放射性ヨウ素除去方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5911053
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】放射性ヨウ素除去材料及び放射性ヨウ素除去方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/12 20060101AFI20160414BHJP
   G21F 9/02 20060101ALI20160414BHJP
【FI】
   G21F9/12 501A
   G21F9/02 511C
【請求項の数】2
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2011-289619(P2011-289619)
(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公開番号】特開2013-140028(P2013-140028A)
(43)【公開日】2013年7月18日
【審査請求日】2014年10月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000135265
【氏名又は名称】株式会社ネオス
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】野口 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 栄一
(72)【発明者】
【氏名】明石 満
(72)【発明者】
【氏名】木田 敏之
【審査官】 山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】 特許第3010602(JP,B2)
【文献】 特開2008−093545(JP,A)
【文献】 特開昭59−087399(JP,A)
【文献】 特表2000−508010(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/102346(WO,A1)
【文献】 特許第5725502(JP,B2)
【文献】 特許第5747379(JP,B2)
【文献】 特許第5532359(JP,B2)
【文献】 特開2009−095792(JP,A)
【文献】 特開2005−154675(JP,A)
【文献】 特開2010−247083(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/12
G21F 9/02
C08B 37/16
C08F 299/00
B01J 20/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロデキストリン類に、テトラヒドロフランに溶解した、テレフタル酸、イソフタル酸、ジクリコ−ル酸またはこれらのハロゲン化物から選択される有機二塩基酸または有機二塩基酸ハロゲン化物を滴下することにより反応させて得たシクロデキストリン縮合ポリマーの末端に、水、トリエチレングリコールまたはヘキサエチレングリコールから選択される多価アルコール類、2,2’−ビスフェノールから選択される多価アリールアルコール類またはイミノ二酢酸から選択される多価カルボン酸を反応させて得たポリマーを含む、放射性ヨウ素除去材料。
【請求項2】
シクロデキストリン類に、テトラヒドロフランに溶解した、テレフタル酸、イソフタル酸、ジクリコ−ル酸またはこれらのハロゲン化物から選択される有機二塩基酸または有機二塩基酸ハロゲン化物を滴下することにより反応させて得たシクロデキストリン縮合ポリマーの末端に、水、トリエチレングリコールまたはヘキサエチレングリコールから選択される多価アルコール類、2,2’−ビスフェノールから選択される多価アリールアルコール類またはイミノ二酢酸から選択される多価カルボン酸を反応させて得たポリマーを含有する、放射性ヨウ素除去材料と、放射性ヨウ素を含有する水とを接触させ、該水に含有された放射性ヨウ素を該放射性ヨウ素除去材料に固着させて、放射性ヨウ素を含有しない水を得ることを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射性物質の吸着除去材料に関するものである。原子力発電所や放射性同位元素取扱等事業所をはじめとする原子力関連施設から発生する放射性物質含有廃液から、放射性物質を除去するための材料およびその製造方法に関する。特に、原子力関連施設の事故に伴い発生する放射性物質を含む廃液から、放射性物質を効率よく分離除去し、作業者の被ばくを最小限に抑えることを可能とする材料およびその製造方法に関するものである。
【0002】
より詳細には、本発明は、特に海、河川、地下水、溜め水などの水系に、放射性物質が流出した場合に、これを捕集することのできる選択固着剤、及び、これを用いて放射性物質を実質的に含有しない水を得る方法に関する。本発明は、シクロデキストリンと有機二塩基酸または有機二塩基酸ハロゲン化物とを縮合させ、得られた縮合ポリマーの末端に水、多価アルコール類、多価アリールアルコール類、または多価カルボン酸類をエステル化させることにより得ることができる、新規な構造を有するシクロデキストリンポリマーを用いて、水中に含有された放射性物質を選択的に固着する方法に関する。さらに本発明は、上記の新規な構造を有するシクロデキストリンポリマーならびにその製造方法に関する。本発明に係るポリマーは、水中に含有された各種放射性物質を選択的かつ効率的に固着することが出来る。
【背景技術】
【0003】
環境中に大量放出された放射性ヨウ素(I129、 I131)は、人体、動植物に対して強い毒性を示す化合物であり、特に放射性ヨウ素(I131)は人体の甲状腺に蓄積すると甲状腺がんを誘発する。また放射性ヨウ素(I129)は、半減期1.571×10年のβ核種であり、有害性が長期間に渡って持続する。このため放射性ヨウ素(I129, I131)が大気、土壌、海水、地下水等に放出された場合は、直ちに除去し、安全に保管する必要がある。
【0004】
従来、放射性ヨウ素を含む汚染水処理技術としては、活性炭、ゼオライト、イオン交換樹脂、逆浸透膜を用いる手法などが一般的であるが、不燃性の無機物質を用いる手法は、汚染物を吸着させた物質の減容処理が困難であり、またゼオライトを用いる方法では、塩存在下で放射性物質の吸着性能が低くなるという問題があった。一方、イオン交換樹脂などの有機材料を用いる方法は、放射線による材料自体の劣化の問題があり、逆浸透膜を用いる手法は、一度に処理できる量が著しく少ないという問題があった。
【0005】
例えば、特許文献1には、ヨウ素などの放射性元素をゼオライトの窓部内に吸着させ、ゼオライト窓部をシリコンアルコキシドによりシリカコートして窓部を塞ぎ、包摂したヨウ素の外部への溶出を抑制する方法が開示されている。特許文献1に開示される方法は、ヨウ素を効果的に吸着することができるが、ヨウ素を吸着後のゼオライトをどのように処理するかについては何ら開示されていない。
【0006】
特許文献2には、銀が担持されたゼオライトで放射性ヨウ素を捕集し、ヨウ素ガスを捕集したゼオライトを焼成炉にて焼成することによりソーダライト型廃棄物固化体を得る、ソーダライト型廃棄物固化体の製造方法が開示されている。引用文献2に開示される方法では、放射性ヨウ素を含む廃棄物をソーダライト型の安定な固体にすることができるが、該ソーダライト型の固体自体の体積が大きく、依然として保管が困難である。
【0007】
特許文献3には、ヨウ素サンプラが開示されている。特許文献3では、原子力関連施設にある固体廃棄物の焼却炉または溶融炉から放出される廃棄物に含まれる放射性ヨウ素の放射能量を、カリゼオライトを充填したフィルターカートリッジを用いて測定している。特許文献3に開示された方法でも、放射性ヨウ素を捕集したフィルターカートリッジをどのように保管するかが問題となる。
【0008】
このように、いずれの特許文献にも、放射性ヨウ素を捕集した後のゼオライトの処理についての記載は無い。現在、放射性ヨウ素を捕集した後のゼオライトを処理する方法が確立していないため、大量に存在する放射性ヨウ素を含む汚染水を処理するためにゼオライトを利用するのは困難であると云える。また特許文献1〜3に記載されている方法は、排ガス中に含まれている放射性ヨウ素を捕集することを目的としているが、様々な塩を含み得る放射性ヨウ素汚染水を処理する方法にゼオライトを利用するのは難しい。
【0009】
さらに特許文献4および特許文献5には、有機材料である水酸基型イオン交換樹脂を用いて放射性ヨウ素を除去する方法が開示されている。しかし特許文献4と特許文献5に記載されている方法は、長時間かつ放射線量の強い汚染水中での使用を想定していないため、放射線量の強い場所ではイオン交換樹脂中の結合が切れることによる性能劣化が生じ、想定している性能を示さない可能性がある。
【0010】
このような観点から、減容処理が困難な無機物質であるゼオライトを用いない、有機物質を探索することにした。そして、放射線量の強い放射性物質汚染水中で使用しても性能劣化が生じない有機物質として、シクロデキストリンと有機二塩基酸とを縮合させて得たポリマーを見いだし、これを含有する選択的放射性ヨウ素除去剤を提供する。シクロデキストリンと有機二塩基酸とを縮合させて得たポリマーを含有するポリマーは、放射性物質汚染水からヨウ素を選択的に除去することができ、ヨウ素を含まない水を回収することを実施例にて明らかにした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001-091694号
【特許文献2】特開2003-255083号
【特許文献3】特開2010-048765号
【特許文献4】特開2005-037133号
【特許文献5】特開2005-037147号
【非特許文献1】三菱重工技報、Vol.35、No.4、282頁〜285頁
【非特許文献2】エバラ時報、No.218、29頁〜34頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、水に含有される放射性物質、特に放射性ヨウ素を選択的に固着し、水中から放射性物質を除去することにより、放射性物質の処理を容易にすることを可能とする選択除去材料を提供することを目的とする。また本発明は、かかる選択除去材料を使用して、水中に含有される放射性物質を選択的に捕集し、以って放射性物質を含有しない水を高い回収率で得る方法を提供する。
【0013】
本発明者らは、水溶性であるシクロデキストリンと有機二塩基酸とを縮合させて得たシクロデキストリン縮合ポリマーの末端に、多価アルコール類、多価アリールアルコール類、多価カルボン酸類を反応させて生成した、水不溶性の新規なシクロデキストリンポリマーを除去材料の成分として使用して、水中に含有される放射性物質を捕集し、放射性物質を含有しない水を高い回収率で得ることができることを見いだした。この放射性物質除去材料を、放射性物質を含有する水に直接投入し、あるいは、カラム内に充填して放射性物質を含有する水を通過させる等の手段により、効率的に放射性物質を捕集することができることを発見した。
【0014】
本発明の態様は、以下の通りである:
1.シクロデキストリン類と、有機二塩基酸または有機二塩基酸ハロゲン化物とを反応させて得たシクロデキストリン縮合ポリマーに、水、多価アルコール類、多価アリールアルコール類、または多価カルボン酸類を反応させて得たポリマーを含む、放射性物質除去材料。
2.有機二塩基酸または有機二塩基酸ハロゲン化物が、テレフタル酸、イソフタル酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、フタル酸、ジグリコール酸またはこれらのハロゲン化物から選択される、上記1に記載の材料。
3.多価アルコール類が、炭素数1〜10を有する二価アルコール類、三価アルコール類、または四価アルコール類から選択され、多価アリールアルコール類がヒドロキノン類、カテコール類、レゾルシノール類、ビスフェノール類または置換ビスフェノール類から選択され、多価カルボン酸類が、ジカルボン酸類、トリカルボン酸類、またはテトラカルボン酸類から選択される、上記1または2に記載の材料。
4.放射性物質が、放射性ヨウ素である、上記1〜3のいずれか1つに記載の材料。
5.シクロデキストリンと有機二塩基酸または有機二塩基酸ハロゲン化物とを反応させて得たシクロデキストリン縮合ポリマーの末端に、水、多価アルコール類、多価アリールアルコール類または多価カルボン酸類を反応させて得たポリマーを含有する、放射性物質除去材料と、放射性物質を含有する水とを接触させ、該水に含有された放射性物質を該放射性物質除去材料に固着させて、放射性物質を含有しない水を得ることを特徴とする、方法。
6.有機二塩基酸または有機二塩基酸ハロゲン化物が、テレフタル酸、イソフタル酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、フタル酸、ジグリコール酸またはこれらのハロゲン化物から選択される、上記5に記載の方法。
7.多価アルコール類が、炭素数1〜10を有する二価アルコール類、三価アルコール類、または四価アルコール類から選択され、多価アリールアルコール類がヒドロキノン類、カテコール類、レゾルシノール類、ビスフェノール類または置換ビスフェノール類から選択され、多価カルボン酸類が、ジカルボン酸類、トリカルボン酸類、またはテトラカルボン酸類から選択される、上記5または6に記載の方法。
8.放射性物質が、放射性ヨウ素である、上記5〜7のいずれか1つに記載の方法。
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、シクロデキストリン類と、有機二塩基酸または有機二塩基酸ハロゲン化物とを反応させて得たシクロデキストリン縮合ポリマーに、水、多価アルコール類、多価アリールアルコール類、または多価カルボン酸類を反応させて得たポリマーを含む、放射性物質除去材料に係る。まず、本発明の放射性物質除去材料を構成するポリマーについて説明する。
【0017】
シクロデキストリン類は、数分子のD−グルコースがα(1→4)グルコシド結合によって結合し環状構造をとったオリゴ糖の一種である。一般的にグルコースが6個、7個または8個結合したものが知られており、それぞれ、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンと称される。シクロデキストリン類は、その環状構造の内部が小さな分子を包接できる空孔となっている。シクロデキストリンのヒドロキシ基は空孔の外側に位置するため、空孔内部は疎水性であり、疎水性物質を包接しやすい。
【0018】
有機二塩基酸類とは、例えば、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、脂肪酸を含み、本発明においては、シクロデキストリン分子中の−CHOH基と反応して逐次縮合し、ポリマーを形成しうる化合物のことである。このような有機二塩基酸類として、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、ジグリコール酸等が挙げられる。有機二塩基酸ハロゲン化物とは、上記の有機二塩基酸類の酸ハロゲン化物を指す。本発明では特に有機二塩基酸であるテレフタル酸、又は有機二塩基酸ハロゲン化物であるテレフタル酸ジクロライド(二塩化テレフタロイル)を用いることが好適である。シクロデキストリンと有機二塩基酸との反応は、例えば約50〜100℃、好ましくは約60〜90℃で行うことができる。
【0019】
水、多価アルコール類、多価アリールアルコール類、または多価カルボン酸類を反応させる、とは、上記のように得たシクロデキストリン縮合ポリマーの末端に残る有機二塩基酸由来のカルボキシル基を、特定の置換基でエンドキャップすることを意味する。カルボキシル基をエンドキャップするために、水、多価アルコール類、多価アリールアルコール類、多価カルボン酸類を反応させ、エステル化することができる。シクロデキストリン類と有機二塩基酸類とを反応させる際に、シクロデキストリン類と有機二塩基酸との割合を、例えば1:3〜10、好ましくは1:3〜5等、有機二塩基酸類が過剰な条件下で反応させる。すると、シクロデキストリン類の分子中に存在する複数のヒドロキシル基に有機二塩基酸類が反応することになる。
【0020】
先に説明したとおり、シクロデキストリン類は、空孔の外側が親水性、空孔の内側が疎水性の性質を有する。このシクロデキストリン類に過剰の有機二塩基酸類を反応させると、シクロデキストリン類の外側に疎水性の基が導入されることになる。そして結合した有機二塩基酸類を介してシクロデキストリン類が架橋構造を形成していく。シクロデキストリン類自体は基本的に水溶性の物質であるが、このように疎水性の基を導入することによってシクロデキストリン類を水不溶性にすることができる。さらに親水性基と疎水性基とのバランスを工夫することにより、水に不溶性、あるいは難溶性ではあるが、水中に含有する物質と相互作用することができる親水基を有する物質を作ることが可能となる。
【0021】
再度詳しく説明すると、シクロデキストリン類と有機二塩基酸類との縮合ポリマーの末端に水、多価アルコール類、多価アリールアルコール類、または多価カルボン酸類を反応させる、とは、例えば炭素数1〜10のアルコールから選択される二価アルコール類、三価アルコール類、または四価アルコール類、芳香族環にヒドロキシル基を2以上有する多価アリールアルコール類、または1分子内にカルボキシル基を2以上有する多価カルボン酸類を、有機二塩基酸由来のカルボキシル末端基に反応させて、エステル結合を形成することを意味する。すなわち、シクロデキストリン類に結合した有機二塩基酸類の末端を、水、多価アルコール類、多価アリールアルコール類、または多価カルボン酸類でエンドキャップすることである。末端のエンドキャップに用いた多価アルコール類、多価アリールアルコール類、または多価カルボン酸類は、複数のヒドロキシル基を有しているため、有機二塩基酸類の末端のエンドキャップに寄与しなかったヒドロキシル基が残ることになる。このようにヒドロキシル基をポリマーの末端に存在させることにより、末端基の水への親和性が向上するため、水中の放射性物質との相互作用の機会も増加すると考えられる。このように生成したポリマーは、疎水性の有機二塩基酸類部分と親水性の末端基とを有するため、水に不溶性または難溶性であるが水中に含有された放射性物質と相互作用することができる。すなわち、本発明のポリマーは、シクロデキストリン部位の空孔内に、水中に含有された放射性物質を取り込む能力を有している。
【0022】
本発明で用いるシクロデキストリンポリマーの化学構造式は、例えば以下の式で表されると考えられる:
【0023】
【化1】
【0024】
この式において、シクロデキストリン類の部分は、円錐台形で表されており、有機二塩基酸としてはテレフタル酸が用いられている。シクロデキストリン類中の水酸基と有機二塩基酸とがエステル結合により交互に結合し、網目状の構造を形成している。そしてポリマーの末端は、多価アルコール類であるトリエチレングリコールと反応させた結果として、ヒドロキシ基を有するトリオキシエチレン基によりキャップされている。末端のエンドキャップに用いる化合物によって、末端基の長さを変えることができる。除去したい放射性物質の性質に応じて、シクロデキストリン類と有機二塩基酸類との結合数の割合、および末端基の長さを適宜変更し、シクロデキストリンポリマーの水との親和性ならびに水中に含有される放射性物質との親和性を変えることが可能である。
【0025】
本発明の放射性物質除去材料にて捕集を意図する放射性物質は、放射能を有する物質の総称であり、これに含まれる放射性元素(または核種)は、放射線を放射しながら時間と共に崩壊し、最終的に放射能を持たない安定な同位体となる。本発明の材料で捕集を意図する放射性物質として、ウラン235、セシウム137、コバルト60、ストロンチウム90、ヨウ素129、ヨウ素131等が挙げられる。本発明の材料は、特に水中に含有されるヨウ素129およびヨウ素131の捕集に高い性能を発揮する。
【0026】
次に、本発明の放射性物質除去材料を用いて、水に含有された放射性物質を捕集する方法を説明する。本発明は、シクロデキストリンと有機二塩基酸または有機二塩基酸ハロゲン化物とを反応させて得たシクロデキストリン縮合ポリマーの末端に、水、多価アルコール類、多価アリールアルコール類または多価カルボン酸類を反応させて得たポリマーを含有する、放射性物質除去材料と、放射性物質を含有する水とを接触させ、該水に含有された放射性物質を該放射性物質除去材料に固着させて、放射性物質を含有しない水を得ることを特徴とする、方法に係る。上に説明した本発明の放射性物質除去材料は、固体または半固体の形態を有している。そこで、放射性物質を含有する水に本発明の放射性物質除去材料を分散させて、よく攪拌することにより、本発明の放射性物質除去材料と、放射性物質を含有する水とを接触させ、該水に含有された放射性物質を固着させることができる。より詳細には、含有されている放射性物質に対して10倍−1000倍のシクロデキストリン部位を含む本発明の放射性物質除去材料を投入し、よく攪拌する。本発明の放射性物質除去材料中の活性成分であるポリマーは、水中に分散し、水中に含有される放射性物質と接触する。放射性物質と相互作用するポリマー中の相互作用部分(シクロデキストリン部位)との相互作用により、放射性物質が当該相互作用部分またはその近傍に固着される。処理する水の量や放射性物質の濃度、及び本発明の放射性物質除去材料の量にもよるが、一般的には5時間〜数日間にわたり攪拌等による方法で接触させることができる。固着反応は常温で好適に行うことができ、必要に応じて加熱することもできる。例えば、20〜150℃、好ましくは50〜120℃、さらに好ましくは70〜90℃の温度にまで加熱することができる。本発明の放射性物質除去材料に含まれるポリマーは、特に低温下でも放射性物質を固着することができる点が有利である。
【0027】
このように放射性物質と相互作用するポリマーに水中に含有される放射性物質が固着された後、放射性物質が固着されたポリマー(または当該ポリマーを含む組成物)のみを分離する。分離は既存の固液分離技術を用いて行えばよく、例えば、遠心分離機、加圧濾過機を使用する方法があげられる。分離する際のフィルタは、市販のフィルタ、ガラスフィルタ、メンブレン、脱脂綿、金属、樹脂等を用いて行うことができる。本発明の放射性物質除去材料に含まれるポリマーを分離することができる孔径のものであれば、いかなるフィルタ、メンブレンを用いても良いが、一般的なポリマーの粒径を考慮して、孔径約0.1−100μmのものを使用することが好ましい。
【0028】
分離により得た放射性物質を固着したポリマー(ポリマー組成物)は、焼却するなどの減容処理を行うことができる。ポリマーに固着させた放射性物質を環境に再度放出することがないように、減容処理や焼却処分には細心の注意を要するが、例えば上記に示した従来文献にて確立した方法を用いることができる(非特許文献1、非特許文献2等を参照のこと。)。
【0029】
放射性物質を固着したポリマーを分離した後に得られた水は、放射性物質が実質的に完全に除去されている。したがって、放射性物質が含まれているが故に従来は移動することができなかった水を、再利用可能なものは再利用し、あるいは通常の方法、例えば海や河川に廃棄することができる。
【0030】
この方法を、海水や河川水が放射性物質を含む場合への対処に応用することができる。すなわち、放射性物質を含有する海水や河川水に、本発明の放射性物質除去材料を投入し、所定の時間の経過後に本発明の放射性物質除去材料を回収することができる。上記の通り、本発明の放射性物質除去材料は海水中または河川水中に含有する放射性物質を固着しており、これを捕集網や回収装置を用いて回収すれば、環境に存在する放射性物質を直接回収することが可能となる。
【0031】
本発明の放射性物質除去材料をカラムに充填し、放射性物質を含有した水をカラムに流通させて、放射性物質除去材料と放射性物質を含有する水とを接触させる方法により、放射性物質除去材料に放射性物質を固着させることも可能である。このようなカラム処理法では、一度に大量の放射性物質含有水を連続的に処理することができる。
【0032】
なお、本発明の方法に使用する放射性物質を含有する水は、上述の放射性物質を少なくとも1種含有しているものである。放射性物質は、水中いかなる濃度で溶解していても良いが、通常、原子力関連施設等から排出されうる放射性物質汚染水は極微量(例えば0.00017ppm等)の放射性物質を含有している。このように放射性物質を極微量含有する水は、処理すべき放射性物質は極少量であるのに、水自体の体積が非常に大きくなる。このような汚染水を保管しておくことは非常に困難であるとともに環境への流出の危険性も増大する。よって、極微量に溶解している放射性物質を水から濃縮分離して、処理すべき放射性物質と、再利用可能な水とに分けることができれば、放射性物質の処理効率が上がる一方、かかる大量の水の問題も解決することができる。
【0033】
本発明の放射性物質除去材料として、活性成分である、放射性物質と相互作用するポリマーを、たとえばシリカゲル、ポリマービーズ、イオン交換樹脂、発泡体、フィルム、メンブレン、各種格子状構造物及び網状構造物、多孔質物質などの担体に固定化させたものを好適に使用することもできる。たとえばシリカゲル、ポリマービーズ又はイオン交換樹脂等の固体担体に本発明で使用するポリマーを担持させたものをカラム内に積層し、ここに放射性物質を含有する水を常圧下または加圧下にて流し、当該ポリマーと相互作用させ、水中に含有された放射性物質を効果的に除去することが可能となる。あるいはフィルタ、メンブレンなどの固体担体に本発明で使用するポリマーを担持させたものを用いて、放射性物質を含有する水を常圧または減圧濾過することにより、水中に含有される放射性物質をメンブレン又はフィルタに固着させて、放射性物質を除去することが可能となる。あるいは発泡体、網状構造物、格子状構造物、多孔質物質などの固体担体に本発明で使用するポリマーを担持させたものを放射性物質を含有する水中、海水中、あるいは河川水中に投入して、当該固体担体の網状部分、格子状部分、あるいは孔部分に水を吸収させ、水中に含有された放射性物質を本発明のポリマーに固着させ、次いで、必要に応じて当該固体担体に圧力をかけて(たとえば搾る等の操作を行って)、放射性物質が除かれた水を得ることができる。
【0034】
このように本発明で使用するポリマーを固体担体に固定化させた組成物は、放射性物質を含有する水からバッチ処理にて放射性物質を除去する方法に用いられる他、連続的に処理する方法にも非常に好適に用いられる。
【0035】
このように本発明の放射性物質除去材料は、水中に含有された放射性物質を選択的に固着し、これを水中から除去することができる。本発明の放射性物質除去材料を使用することにより、微量の放射性物質が溶解しているが故に移動することができなかった水から、厳密かつ慎重な処理が必要な放射性物質のみを除去、濃縮することができるので、放射性物質の処理効率が飛躍的に高まる一方、効率よく回収された安全な水は通常の方法で処理するか、再利用することが可能となる。本発明の放射性物質除去材料を使用して、水に含有された放射性物質を除去する方法は、水中に放射性物質除去材料を投入・分散させ、攪拌などにより放射性物質を固着させ、これを分離するという比較的容易な方法であり、常温で行うことも可能であるため、放射性物質が大気中に拡散するおそれのない、安全な方法である。本発明の放射性物質除去材料として、放射性物質と相互作用するポリマーを各種固体担体に固定化させた物質を用いると、水に含有された放射性物質を連続的に除去することが可能となる。
【0036】
なお、高分子材料は、放射線を照射するとポリマー主鎖や側鎖に断裂等の構造的な破壊が生じ、一般的には脆くなるなどの現象が観察される。本発明に使用するポリマーは、放射性物質に接触させるという用途を考慮すると、放射線の照射に耐えうる充分な強度を有している必要がある。本発明に使用するポリマーは、放射線を照射しても強度や放射性物質の固着性能が減殺することがなく、放射性物質除去材料という用途に充分使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】放射性物質除去性能の評価法を模式的に説明する図面である。
図2】放射性物質除去性能の別の評価法を模式的に説明する図面である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の放射性物質除去材料の活性成分としての、ポリマーの典型的な製造方法を模式的に示す:
【0039】
【化2】
【0040】
上のスキームに従い、α−シクロデキストリンから本発明に使用するポリマーを製造する方法の具体例を説明する。
α−シクロデキストリン(以下、「α−CD」と称する。)を有機溶媒(例えばピリジン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等。好ましくは乾燥ピリジン)に分散させる。一方、二塩化テレフタロイルを有機溶媒(例えばテトラヒドロフラン、ジクロロメタン、1,4−ジオキサン等。好ましくは乾燥テトラヒドロフラン)に溶解させ、これを先に用意したα−CD分散液に滴下する。この際、縮合反応による熱が発生するので、α−CD分散液を氷浴などで冷却しながら滴下することが望ましい。その後50〜100℃の湯浴に反応器をつけて、反応液を激しく撹拌する。反応終了後、湯浴をはずし、さらに必要に応じて冷却して反応容器内温を0〜10℃に下げ、水、多価アルコール類(トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、シクロヘキサンジオール、グルコース等)、多価アリールアルコール類(ヒドロキノン、フロログルシノール、ベンゼンジメタノール等)、または多価カルボン酸類(イミノ二酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、グルタミン酸等)を加え、さらに撹拌を続ける。得られた固体をアルコール類、水、アセトンなどの洗浄液体で洗浄し、乾燥すると、本発明で使用するポリマーを得ることができる。この際、溶媒として用いたピリジン等や、原料である二塩化フタロイルがメチル化したフタル酸ジメチル等の副生物がポリマー内に残存することを防止する観点から、得られたポリマーを、吸引濾過用漏斗上に溜め、ここにアルコール類/水混合溶媒を添加して吸引し、該漏斗上にアセトンを添加して吸引し、これらの工程を少なくとも2回以上繰り返す洗浄方法を採用することが望ましい。
【0041】
本発明で使用するポリマーは、α−CDの他、β−及びγ−シクロデキストリンを用いても同様のポリマーを形成することができる。
本明細書では、このように得たポリマーを「TC3−WA−αCD」(α−CDと二塩化フタロイルとを1:3のモル比で反応させて得た縮合ポリマーの末端を水でエンドキャップしたポリマー)、「GC10−WA−βCD」(β−CDとジグリコリルクロリドとを1:10のモル比で反応させて得た縮合ポリマーの末端を水でエンドキャップしたポリマー)、「TC10−IA−βCD」(β−CDと二塩化フタロイルとを1:10のモル比で反応させて得た縮合ポリマーの末端をイミノ二酢酸でエンドキャップしたポリマー)、あるいは「TC10−TG−βCD」(β−CDと二塩化フタロイルとを1:10のモル比で反応させて得た縮合ポリマーの末端をトリエチレングリコールでエンドキャップしたポリマー)等と表す。これらはいずれも本発明の放射性物質除去材料の活性成分たるポリマーである。
【実施例】
【0042】
[合成例1]α−シクロデキストリンと二塩化テレフタロイルの縮合シクロデキストリンを水でエンドキャップして得たポリマー(以下、「TC3−WA−αCD」と称する。)の合成
滴下ロート、風船付き三方コック、活栓の付いた200 mLの三つ口フラスコに、乾燥α-シクロデキストリン(以下、「α−CD」と称する。0.97 g、1.0 mmol、含水量1%以下、純正化学)と特級ピリジン(50 mL、和光純薬工業)とを入れて、室温で15分間撹拌した。フラスコを氷浴につけた後、特級テトラヒドロフラン(40 mL、和光純薬工業)に溶解した二塩化テレフタロイル(0.61 g、3.0 mmol、東京化成工業)を30分かけて滴下した。滴下後、氷浴を外し、湯浴(80℃)で3時間撹拌した。反応終了後、蒸留水(0.11 g、6.0 mmol)を加え、1時間撹拌した。結晶を吸引濾過した後、得られた結晶を蒸留水(50 mL×3)、1級アセトン(50 mL×3、純正化学)の順で洗浄し、得られた固体を70℃で終夜真空乾燥した。1.28 gのTC3−WA−αCDが得られた。
IR 3445, 2979, 1716, 1268, 1096, 1044, 1016, 730 cm-1
【0043】
[合成例2]α−シクロデキストリンと二塩化テレフタロイルの縮合シクロデキストリンを水でエンドキャップして得たポリマー(以下、「TC5−WA−αCD」と称する。)の合成
滴下ロート、風船付き三方コック、活栓の付いた200 mLの三つ口フラスコに、乾燥α−CD(0.97 g、1.0 mmol、含水量1%以下、純正化学)と特級ピリジン(50 mL、和光純薬工業)を入れて室温で15分撹拌した。フラスコを氷浴につけた後、特級テトラヒドロフラン(40 mL、和光純薬工業)に溶解した二塩化テレフタロイル(1.02 g、5.0 mmol、東京化成工業)を30分かけて滴下した。滴下後、氷浴を外し、湯浴(80℃)で3時間撹拌した。反応終了後、蒸留水(0.18 g、10 mmol)を加え、1時間撹拌した。結晶を吸引濾過した後、得られた結晶を蒸留水(50 mL×3)、1級アセトン(50 mL×3、純正化学)の順で洗浄し、得られた固体を70℃で終夜真空乾燥した。1.52 gのTC5−WA−αCDが得られた。
IR 3423, 2971, 1716, 1268, 1098, 1044, 1017, 729 cm-1
【0044】
[合成例3]α−シクロデキストリンと二塩化テレフタロイルの縮合シクロデキストリンを水でエンドキャップして得たポリマー(以下、「TC10−WA−αCD」と称する。)の合成
滴下ロート、風船付き三方コック、活栓の付いた200 mLの三つ口フラスコに、乾燥α−CD(0.97 g、1.0 mmol、含水量1%以下、純正化学)と特級ピリジン(50 mL、和光純薬工業)を入れて室温で15分撹拌した。フラスコを氷浴につけた後、特級テトラヒドロフラン(40 mL、和光純薬工業)に溶解した二塩化テレフタロイル(2.03 g、10 mmol、東京化成工業)を30分かけて滴下した。滴下後、氷浴を外し、湯浴(80℃)で3時間撹拌した。反応終了後、蒸留水(0.36 g、20 mmol)を加え、1時間撹拌した。結晶を吸引濾過した後、得られた結晶を蒸留水(50 mL×3)、1級アセトン(50 mL×3、純正化学)の順で洗浄し、得られた固体を70℃で終夜真空乾燥した。2.14 gのTC10−WA−αCDが得られた。
IR 3480, 2985, 1717, 1268, 1097, 1045, 1017, 729 cm-1
【0045】
[合成例4]β−シクロデキストリンと二塩化テレフタロイルの縮合シクロデキストリンを水でエンドキャップして得たポリマー(以下、「TC3−WA−βCD」と称する。)の合成
滴下ロート、風船付き三方コック、活栓の付いた200 mLの三つ口フラスコに、乾燥β−シクロデキストリン(以下、「β−CD」と略す、1.13 g、1.0 mmol、含水量1%以下、純正化学)と特級ピリジン(50 mL、和光純薬工業)を入れて室温で15分撹拌した。フラスコを氷浴につけた後、特級テトラヒドロフラン(40 mL、和光純薬工業)に溶解した二塩化テレフタロイル(0.61 g、3.0 mmol、東京化成工業)を30分かけて滴下した。滴下後、氷浴を外し、湯浴(80℃)で3時間撹拌した。反応終了後、蒸留水(0.11 g、6.0 mmol)を加え、1時間撹拌した。結晶を吸引濾過した後、得られた結晶を蒸留水(50 mL×3)、1級アセトン(50 mL×3、純正化学)の順で洗浄し、得られた固体を70℃で終夜真空乾燥した。1.41 gのTC3−WA−βCDが得られた。
IR 3384, 2923, 1716, 1272, 1127, 1079, 1049, 731 cm-1
【0046】
[合成例5]β−シクロデキストリンと二塩化テレフタロイルの縮合シクロデキストリンを水でエンドキャップして得たポリマー(以下、「TC5−WA−βCD」と称する。)の合成
滴下ロート、風船付き三方コック、活栓の付いた200 mLの三つ口フラスコに、乾燥β−CD(1.13 g、1.0 mmol、含水量1%以下、純正化学)と特級ピリジン(50 mL、和光純薬工業)を入れて室温で15分撹拌した。フラスコを氷浴につけた後、特級テトラヒドロフラン(40 mL、和光純薬工業)に溶解した二塩化テレフタロイル(1.02 g、5.0 mmol、東京化成工業)を30分かけて滴下した。滴下後、氷浴を外し、湯浴(80℃)で3時間撹拌した。反応終了後、蒸留水(0.18 g、10 mmol)を加え、1時間撹拌した。結晶を吸引濾過した後、得られた結晶を蒸留水(50 mL×3)、1級アセトン(50 mL×3、純正化学)の順で洗浄し、得られた固体を70℃で終夜真空乾燥した。1.64 gのTC5−WA−βCDが得られた。
IR 3394, 2909, 1717, 1271, 1082, 1043, 1017, 730 cm-1
【0047】
[合成例6]β−シクロデキストリンと二塩化テレフタロイルの縮合シクロデキストリンを水でエンドキャップして得たポリマー(以下、「TC10−WA−βCD」と称する。)の合成
滴下ロート、風船付き三方コック、活栓の付いた200 mLの三つ口フラスコに、乾燥β−CD(1.13 g、1.0 mmol、含水量1%以下、純正化学)と特級ピリジン(50 mL、和光純薬工業)を入れて室温で15分撹拌した。フラスコを氷浴につけた後、特級テトラヒドロフラン(40 mL、和光純薬工業)に溶解した二塩化テレフタロイル(2.03g、10 mmol、東京化成工業)を30分かけて滴下した。滴下後、氷浴を外し、湯浴(80℃)で3時間撹拌した。反応終了後、蒸留水(0.36 g、20 mmol)を加え、1時間撹拌した。結晶を吸引濾過した後、得られた結晶を蒸留水(50 mL×3)、1級アセトン(50 mL×3、純正化学)の順で洗浄し、得られた固体を70℃で終夜真空乾燥した。2.25 gのTC10−WA−βCDが得られた。
IR 3279, 2936, 1716, 1271, 1099, 1045, 1017, 729 cm-1
【0048】
[合成例7]β−シクロデキストリンと二塩化テレフタロイルの縮合シクロデキストリンをイミノ二酢酸でエンドキャップして得たポリマー(以下、「TC10−IA−βCD」と称する。)の合成
滴下ロート、風船付き三方コック、活栓の付いた200 mLの三つ口フラスコに、乾燥β−CD(1.13 g、1.0 mmol、含水量1%以下、純正化学)と特級ピリジン(50 mL、和光純薬工業)を入れて室温で15分撹拌した。フラスコを氷浴につけた後、特級テトラヒドロフラン(40 mL、和光純薬工業)に溶解した二塩化テレフタロイル(2.03 g、10 mmol、東京化成工業)を30分かけて滴下した。滴下後、氷浴を外し、湯浴(80℃)で3時間撹拌した。反応終了後、イミノ二酢酸(2.66 g、20 mmol、東京化成工業)を加え、1時間撹拌した。結晶を吸引濾過した後、得られた結晶を蒸留水(50 mL×3)、1級アセトン(50 mL×3、純正化学)の順で洗浄し、得られた固体を70℃で終夜真空乾燥した。4.14 gのTC10−IA−βCDが得られた。
IR 3381, 2936, 1716, 1270, 1097, 1044, 1017, 730 cm-1
【0049】
[合成例8]β−シクロデキストリンとイソフタロイルクロライドの縮合シクロデキストリンを水でエンドキャップして得たポリマー(以下、「IC10−WA−βCD」と称する。)の合成
滴下ロート、風船付き三方コック、活栓の付いた200 mLの三つ口フラスコに、乾燥β−CD(1.13 g、1.0 mmol、含水量1%以下、純正化学)と特級ピリジン(50 mL、和光純薬工業)を入れて室温で15分撹拌した。フラスコを氷浴につけた後、特級テトラヒドロフラン(40 mL、和光純薬工業)に溶解したイソフタロイルクロライド(2.03 g、10 mmol、東京化成工業)を30分かけて滴下した。滴下後、氷浴を外し、湯浴(80℃)で3時間撹拌した。反応終了後、蒸留水(0.36 g、20 mmol)を加え、1時間撹拌した。結晶を吸引濾過した後、得られた結晶を蒸留水(50 mL×3)、1級アセトン(50 mL×3、純正化学)の順で洗浄し、得られた固体を70℃で終夜真空乾燥した。2.51 gのIC10−WA−βCDが得られた。
IR 3381, 2940, 1717, 1270, 1139, 1074, 1044, 728 cm-1
【0050】
[合成例9]β−シクロデキストリンとジグリコリルクロライドの縮合シクロデキストリンを水でエンドキャップして得たポリマー(以下、「GC10−WA−βCD」と称する。)の合成
滴下ロート、風船付き三方コック、活栓の付いた200 mLの三つ口フラスコに、乾燥β−CD(1.13 g、1.0 mmol、含水量1%以下、純正化学)と特級ピリジン(50 mL、和光純薬工業)を入れて室温で15分撹拌した。フラスコを氷浴につけた後、特級テトラヒドロフラン(40 mL、和光純薬工業)に溶解したジグリコリルクロリド(1.71 g、10 mmol、東京化成工業)を30分かけて滴下した。滴下後、氷浴を外し、湯浴(80℃)で3時間撹拌した。反応終了後、蒸留水(0.36 g、20 mmol)を加え、1時間撹拌した。結晶を吸引濾過した後、得られた結晶を蒸留水(50 mL×3)、1級アセトン(50 mL×3、純正化学)の順で洗浄し、得られた固体を70℃で終夜真空乾燥した。2.02 gのGC10−WA−βCDが得られた。
IR 3380, 2946, 1747, 1243, 1136, 1077, 998 cm-1
【0051】
[合成例10]β−シクロデキストリンと二塩化テレフタロイルの縮合シクロデキストリンをトリエチレングリコールでエンドキャップして得たポリマー(以下、「TC10−TG−βCD」と称する。)の合成
滴下ロート、風船付き三方コック、活栓の付いた200 mLの三つ口フラスコに、乾燥β−CD(1.13 g、1.0 mmol、含水量1%以下、純正化学)と特級ピリジン(50 mL、和光純薬工業)を入れて室温で15分撹拌した。フラスコを氷浴につけた後、特級テトラヒドロフラン(40 mL、和光純薬工業)に溶解した二塩化テレフタロイル(2.03 g、10 mmol、東京化成工業)を30分かけて滴下した。滴下後、氷浴を外し、湯浴(80℃)で3時間撹拌した。反応終了後、トリエチレングリコール(1.50 g、10 mmol、ALDRICH)を加え、1時間撹拌した。結晶を吸引濾過した後、得られた結晶を蒸留水(50 mL×3)、1級アセトン(50 mL×3、純正化学)の順で洗浄し、得られた固体を70℃で終夜真空乾燥した。3.32 gのTC10−TG−βCDが得られた。
IR 3381, 2928, 1717, 1270, 1096, 1043, 1017, 729 cm-1
【0052】
[合成例11]β−シクロデキストリンと二塩化テレフタロイルの縮合シクロデキストリンをヘキサエチレングリコールでエンドキャップして得たポリマー(以下、「TC10−HG−βCD」と称する。)の合成
滴下ロート、風船付き三方コック、活栓の付いた200 mLの三つ口フラスコに、乾燥β−CD(1.13 g、1.0 mmol、含水量1%以下、純正化学)と特級ピリジン(50 mL、和光純薬工業)を入れて室温で15分撹拌した。フラスコを氷浴につけた後、特級テトラヒドロフラン(40 mL、和光純薬工業)に溶解した二塩化テレフタロイル(2.03 g、10 mmol、東京化成工業)を30分かけて滴下した。滴下後、氷浴を外し、湯浴(80℃)で3時間撹拌した。反応終了後、ヘキサエチレングリコール(2.82 g、10 mmol、ALDRICH)を加え、1時間撹拌した。結晶を吸引濾過した後、得られた結晶を蒸留水(50 mL×3)、1級アセトン(50 mL×3、純正化学)の順で洗浄し、得られた固体を70℃で終夜真空乾燥した。4.26 gのTC10−HG−βCDが得られた。
IR 3610, 2941, 1717, 1270, 1098, 1045, 1017, 730 cm-1
【0053】
[合成例12]β−シクロデキストリンと二塩化テレフタロイルの縮合シクロデキストリンを2,2’−ビスフェノールでエンドキャップして得たポリマー(以下、「TC10−BP−βCD」と称する。)の合成
滴下ロート、風船付き三方コック、活栓の付いた200 mLの三つ口フラスコに、乾燥β−CD(1.13 g、1.0 mmol、含水量1%以下、純正化学)と特級ピリジン(50 mL、和光純薬工業)を入れて室温で15分撹拌した。フラスコを氷浴につけた後、特級テトラヒドロフラン(40 mL、和光純薬工業)に溶解した二塩化テレフタロイル(2.03 g、10 mmol、東京化成工業)を30分かけて滴下した。滴下後、氷浴を外し、湯浴(80℃)で3時間撹拌した。反応終了後、2,2’-ビフェノール(1.86 g、10 mmol、ALDRICH)を加え、1時間撹拌した。結晶を吸引濾過した後、得られた結晶を蒸留水(50 mL×3)、1級アセトン(50 mL×3、純正化学)の順で洗浄し、得られた固体を70℃で終夜真空乾燥した。3.57 gのTC10−BP−βCDが得られた。
IR 3610, 2937, 1719, 1271, 1099, 1046, 1017, 729 cm-1
【0054】
[合成例13]γ−シクロデキストリンと二塩化テレフタロイルの縮合シクロデキストリンを水でエンドキャップして得たポリマー(以下、「TC3−WA−γCD」と称する。)の合成
滴下ロート、風船付き三方コック、活栓の付いた200 mLの三つ口フラスコに、乾燥γ−シクロデキストリン(以下、「γ−CD」と称する。1.30 g、1.0 mmol、含水量1%以下、純正化学)と特級ピリジン(50 mL、和光純薬工業)を入れて室温で15分撹拌した。フラスコを氷浴につけた後、特級テトラヒドロフラン(40 mL、和光純薬工業)に溶解した二塩化テレフタロイル(0.61 g、3.0 mmol、東京化成工業)を30分かけて滴下した。滴下後、氷浴を外し、湯浴(80℃)で3時間撹拌した。反応終了後、蒸留水(0.11 g、6.0 mmol)を加え、1時間撹拌した。結晶を吸引濾過した後、得られた結晶を蒸留水(50 mL×3)、1級アセトン(50 mL×3、純正化学)の順で洗浄し、得られた固体を70℃で終夜真空乾燥した。1.55 gのTC3−WA−γCDが得られた。
IR 3385, 2922, 1715, 1271, 1149, 1080, 1018, 731 cm-1
【0055】
[合成例14]γ−シクロデキストリンと二塩化テレフタロイルの縮合シクロデキストリンを水でエンドキャップして得たポリマー(以下、「TC5−WA−γCD」と称する。)の合成
滴下ロート、風船付き三方コック、活栓の付いた200 mLの三つ口フラスコに、乾燥γ−CD(1.30 g、1.0 mmol、含水量1%以下、純正化学)と特級ピリジン(50 mL、和光純薬工業)を入れて室温で15分撹拌した。フラスコを氷浴につけた後、特級テトラヒドロフラン(40 mL、和光純薬工業)に溶解した二塩化テレフタロイル(1.02 g、5.0 mmol、東京化成工業)を30分かけて滴下した。滴下後、氷浴を外し、湯浴(80℃)で3時間撹拌した。反応終了後、蒸留水(0.18 g、10 mmol)を加え、1時間撹拌した。結晶を吸引濾過した後、得られた結晶を蒸留水(50 mL×3)、1級アセトン(50 mL×3、純正化学)の順で洗浄し、得られた固体を70℃で終夜真空乾燥した。1.77 gのTC5−WA−γCDが得られた。
IR 3386, 2923, 1712, 1269, 1149, 1081, 1017, 730 cm-1
【0056】
[合成例15]γ−シクロデキストリンと二塩化テレフタロイルの縮合シクロデキストリンを水でエンドキャップして得たポリマー(以下、「TC10−WA−γCD」と称する。)の合成
滴下ロート、風船付き三方コック、活栓の付いた200 mLの三つ口フラスコに、乾燥γ−CD(1.30 g、1.0 mmol、含水量1%以下、純正化学)と特級ピリジン(50 mL、和光純薬工業)を入れて室温で15分撹拌した。フラスコを氷浴につけた後、特級テトラヒドロフラン(40 mL、和光純薬工業)に溶解した二塩化テレフタロイル(2.03 g、10 mmol、東京化成工業)を30分かけて滴下した。滴下後、氷浴を外し、湯浴(80℃)で3時間撹拌した。反応終了後、蒸留水(0.36 g、20 mmol)を加え、1時間撹拌した。結晶を吸引濾過した後、得られた結晶を蒸留水(50 mL×3)、1級アセトン(50 mL×3、純正化学)の順で洗浄し、得られた固体を70℃で終夜真空乾燥した。2.37 gのTC10−WA−γCDが得られた。
IR 3386, 2941, 1716, 1269, 1097, 1043, 1017, 729 cm-1
【0057】
[比較合成例1]β−シクロデキストリンとtert-ブチルジメチルシリルクロリドの縮合シクロデキストリンポリマー(以下、「TBDMS−β−CD」と称する。)の合成
滴下ロート、風船付き三方コック及びセプタムの付いた200mlの3つ口フラスコに、β-シクロデキストリン(5.0 g、4.4 mmol、和光純薬工業)と乾燥ピリジン(44 mL、和光純薬工業)とを入れた。フラスコを氷浴につけた後、乾燥ピリジン(26 mL)に溶解したtert-ブチルジメチルシリルクロリド(6.03 g、40 mmol、東京化成工業)を2時間かけて滴下した。滴下終了後、氷浴を外し、室温で11時間撹拌した。反応終了後、反応溶液を水(200 mL)に注ぎ、析出してきた白い結晶を濾取した。この白い結晶をジクロロメタンに溶かし、水で洗浄した。ジクロロメタン層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を留去した。得られた白い結晶をシリカゲルカラム精製とアセトンによる再結晶によりTBDMS−β−CD(2.3g、収率:27%)を単離した。
【0058】
[比較合成例2]
比較合成例1で得られたTBDMS−β−CDを乾燥させ(11.61 g、6.0 mmol)、水酸化ナトリウム(6.72 g、168 mmol)を乾燥テトラヒドロフラン(200 mL)中で2時間還流させた後、臭化ベンジル(29.62 g、168 mmol)を1時間かけて滴下した。一晩還流させた後、薄層クロマトグラフィ法(TLC法)にて原料の消失を確認し、溶媒を留去した。残渣をヘキサン(300 mL)-水(200 mL×2)抽出により脱塩し、ヘキサン相を無水硫酸マグネシウムで乾燥して溶媒留去した。得られた褐色粘性液体を少量のジクロロメタンに溶解させ、大量のメタノールを加え、析出した固体を濾取した。これをメタノール/アセトンからの再結晶により精製しTBDMS−Bn−β−CD(白色、15.49 g)を得た。収率81%。
次に、得られたTBDMS−Bn−β−CD(13.75 g、4.3 mmol)、テトラブチルアンモニウムフルオリド三水和物(14.25 g、45.15 mmol)をテトラヒドロフラン(150 mL)に溶解し、一晩還流させた。TLC法より、原料の消失を確認して、溶媒を留去した。残渣をクロロホルムに溶かし、飽和食塩水で洗浄後、クロロホルム相を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒を留去した。得られた黄色粘性液体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl3 / MeOH = 19 / 1)により精製し、Bn−β−CD(白色、5.2 g)を得た。収率50%。
【0059】
[比較合成例3]α−シクロデキストリンとtert-ブチルジメチルシリルクロリドの縮合シクロデキストリンポリマー(以下、「TBDMS−α−CD」と称する。)の合成
滴下ロート、風船付き三方コック及びセプタムの付いた200mlの3つ口フラスコに、α-シクロデキストリン(4.28 g、4.4 mmol、和光純薬工業)と乾燥ピリジン(44 mL、和光純薬工業)とを入れた。フラスコを氷浴につけた後、乾燥ピリジン(26 mL)に溶解したtert-ブチルジメチルシリルクロリド(6.03 g、40 mmol、東京化成工業)を2時間かけて滴下した。滴下終了後、氷浴を外し、室温で11時間撹拌した。反応終了後、反応溶液を水(200 mL)に注ぎ、析出してきた白い結晶を濾取した。この白い結晶をジクロロメタンに溶かし、水で洗浄した。ジクロロメタン層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を留去した。得られた白い結晶をシリカゲルカラム精製とアセトンによる再結晶によりTBDMS−α−CD(1.26g、収率:26.4%)を単離した。
【0060】
[比較合成例4]γ−シクロデキストリンとtert-ブチルジメチルシリルクロリドの縮合シクロデキストリンポリマー(以下、「TBDMS−γ−CD」と称する。)の合成
滴下ロート、風船付き三方コック及びセプタムの付いた200mlの3つ口フラスコに、γ-シクロデキストリン(5.71 g、4.4 mmol、和光純薬工業)と乾燥ピリジン(44 mL、和光純薬工業)とを入れた。フラスコを氷浴につけた後、乾燥ピリジン(26 mL)に溶解したtert-ブチルジメチルシリルクロリド(6.03 g、40 mmol、東京化成工業)を2時間かけて滴下した。滴下終了後、氷浴を外し、室温で11時間撹拌した。反応終了後、反応溶液を水(200 mL)に注ぎ、析出してきた白い結晶を濾取した。この白い結晶をジクロロメタンに溶かし、水で洗浄した。ジクロロメタン層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を留去した。得られた白い結晶をシリカゲルカラム精製とアセトンによる再結晶によりTBDMS−γ−CD(1.98g、収率:31.9 %)を単離した。
【0061】
[比較合成例5]
比較合成例4で得られたTBDMS−γ−CDを乾燥させ(8.46g、6.0 mmol)、水酸化ナトリウム(6.72 g、168 mmol)を乾燥テトラヒドロフラン(200 mL)中で2時間還流させた後、臭化ベンジル(29.62 g、168 mmol)を1時間かけて滴下した。一晩還流させた後、薄層クロマトグラフィ法(TLC法)にて原料の消失を確認し、溶媒を留去した。残渣をヘキサン(300 mL)-水(200 mL×2)抽出により脱塩し、ヘキサン相を無水硫酸マグネシウムで乾燥して溶媒留去した。得られた褐色粘性液体を少量のジクロロメタンに溶解させ、大量のメタノールを加え、析出した固体を濾取した。これをメタノール/アセトンからの再結晶により精製しTBDMS−Bn−γ−CD(白色、7.16g)を得た。収率79.5%。
次に、得られたTBDMS−Bn−γ−CD(6.46g、4.3 mmol)、テトラブチルアンモニウムフルオリド三水和物(14.25 g、45.15 mmol)をテトラヒドロフラン(150 mL)に溶解し、一晩還流させた。TLC法より、原料の消失を確認して、溶媒を留去した。残渣をクロロホルムに溶かし、飽和食塩水で洗浄後、クロロホルム相を無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒を留去した。得られた黄色粘性液体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CHCl3 / MeOH = 19 / 1)により精製し、Bn−γ−CD(白色、2.45g)を得た。収率41.0%。
【0062】
[合成例16]γ線を照射したポリマーの合成−照射線量:0.61 kGy、使用脱イオン水量:5 mL)
本発明の放射性物質除去材料に使用するポリマーが、放射線の照射に耐えうるものであるかを確かめるために、以下の合成例では、本発明に使用するポリマーに放射線を照射した試料を作成することとした。
ねじ口試験管に、合成例1、6、7、9、10及び比較合成例1で得られたポリマー350 mg、(TC3−WA−αCD、TC10−WA−βCD、TC10−IA−βCD、GC10−WA−βCD、TC10−TG−βCD、TBDMS−A―CD)を入れた後、5 mLの脱イオン水を入れた。準備した6本のねじ口試験管に0.61 kGyのγ線を照射した。γ線を照射したポリマーを吸引濾過した後、1級アセトン(50 mL、純正化学)で洗浄し、70℃で終夜真空乾燥した。約350 mgのγ線を照射したポリマー(TC3−WA−αCD−SS、TC10−WA−βCD−SS、TC10−IA−βCD−SS、GC10−WA−βCD−SS、TC10−TG−βCD−SS、およびTBDMS−β―CD−SS)が得られた。
【0063】
[合成例17」(γ線を照射したポリマーの合成−照射線量:0.61 kGy、使用脱イオン水量:15 mL)
ねじ口試験管に合成例1、6、7、9、10及び比較合成例1で得られたポリマー350 mg(TC3−WA−αCD、TC10−WA−βCD、TC10−IA−βCD、GC10−WA−βCD、TC10−TG−βCD、TBDMS−βCD)を入れた後、15 mLの脱イオン水を入れた。準備した6本のねじ口試験管に0.61 kGyのγ線を照射した。γ線を照射したポリマーを吸引濾過した後、1級アセトン(50 mL、純正化学)で洗浄し、70℃で終夜真空乾燥した。約350 mgのγ線を照射したポリマー(TC3−WA−αCD−SL、TC10−WA−βCD−SL、TC10−IA−βCD−SL、GC10−WA−βCD−SL、TC10−TG−βCD−SL、およびTMDMS−βCD−SL)が得られた。
【0064】
[合成例18](γ線を照射したポリマーの合成−照射線量:3.91kGy、使用脱イオン水量:5 mL)
ねじ口試験管に合成例1、6、7、9、10及び比較合成例1で得られたポリマー350 mg(TC3−WA−αCD、TC10−WA−βCD、TC10−IA−βCD、GC10−WA−βCD、TC10−TG−βCD、TBDMS−βCD)を入れた後、5 mLの脱イオン水を入れた。準備した6本のねじ口試験管に3.91 kGyのγ線を照射した。γ線を照射したポリマーを吸引濾過した後、1級アセトン(50 mL、純正化学)で洗浄し、70℃で終夜真空乾燥した。約350 mgのγ線を照射したポリマー(TC3−WA−αCD−LS、TC10−WA−βCD−LS、TC10−IA−βCD−LS、GC10−WA−βCD−LS、TC10−TG−βCD−LS、およびTBDMS−β―CD−LS)が得られた。
【0065】
[合成例19](γ線を照射したポリマー合成−照射線量:3.91 kGy、使用脱イオン水量:15 mL)
ねじ口試験管に合成例1、6、7、9、10及び比較合成例1で得られたポリマー350mg(TC3−WA−αCD、TC10−WA−βCD、TC10−IA−βCD、GC10−WA−βCD、TC10−TG−βCD、TBDMS−β―CD)を入れた後、15 mLの脱イオン水を入れた。準備した6本のねじ口試験管に3.91 kGyのγ線を照射した。γ線を照射したポリマーを吸引濾過した後、1級アセトン(50 mL、純正化学)で洗浄し、70℃で終夜真空乾燥した。約350 mgのγ線を照射したポリマー(TC3−WA−αCD−LL、TC10−WA−βCD−LL、TC10−IA−βCD−LL、GC10−WA−βCD−LL、TC10−TG−βCD−LL、およびTBDMS−βCD−LL)が得られた。
【0066】
[実施例1](合成したポリマーの放射性物質除去性能の評価(1))
本発明の放射性物質除去材料の放射性物質除去性能を、以下の方法に従い、評価した。
脱イオン水にヨウ素(東京化成工業)を溶解し、ヨウ素水溶液(脱イオン水)を作製した。25 gのヨウ素水溶液(脱イオン水)を50 mLのサンプル管に入れた後、5 gのヨウ素水溶液(脱イオン水)を採取した。サンプル管に、上記合成例にて作製した各ポリマー(20 mg)を入れ、500 rpmで30分撹拌した。撹拌終了後、ろ過を行い、水溶液を回収した。回収した水溶液中のヨウ素濃度をICP発光分析装置で測定し、ヨウ素の除去率を算出した。図1には、本評価法を模式的に説明する図を示した。使用したポリマーの種類と、ヨウ素除去率の結果を表1に示した。
【0067】
【表1】
【0068】
実施例1の方法にて、比較合成例1〜5にて合成したポリマーならびに活性炭(キシダ化学株式会社)及びアミロース(東京化成工業株式会社)についてヨウ素除去率を測定した。結果を表1(比較)に示した。
【0069】
【表2】
【0070】
[実施例2](合成したポリマーの放射性物質除去性能の評価(2))
本発明に使用するポリマーが、長時間にわたり有効に機能することを確かめるために実施例2を行った。
脱イオン水にヨウ素(東京化成工業)を溶解し、ヨウ素水溶液(脱イオン水)を作製した。25 gのヨウ素水溶液(脱イオン水)を50 mLのサンプル管に入れた後、5 gのヨウ素水溶液(脱イオン水)を採取した。サンプル管に作製した各ポリマー(20 mg)を入れ、500 rpmで24時間撹拌した。撹拌終了後、ろ過を行い、水溶液を回収した。回収した水溶液中のヨウ素濃度をICP発光分析装置で測定し、ヨウ素の除去率を算出した。結果を表2に示した。
【0071】
【表3】
【0072】
実施例2の方法にて、活性炭(キシダ化学株式会社)及びアミロース(東京化成工業株式会社)についてヨウ素除去率を測定した。結果を表2(比較)に示した。
【0073】
【表4】
【0074】
[実施例3](合成したポリマーの放射性物質除去性能の評価(3))
本発明に使用するポリマーが、海水中の放射性物質を除去することができることを確かめるために、実施例3を行った。
100%人工海水にヨウ素(東京化成工業)を溶解し、ヨウ素水溶液(100%人工海水)を作製した。25 gのヨウ素水溶液(人工海水)を50 mLのサンプル管に入れた後、5 gのヨウ素水溶液(人工海水)を採取した。サンプル管に作製した各ポリマー(20 mg)を入れ、500 rpmで24時間撹拌した。撹拌終了後、ろ過を行い、水溶液を回収した。回収した水溶液中のヨウ素濃度をICP発光分析装置で測定し、ヨウ素の除去率を算出した。使用したポリマーの種類と、ヨウ素除去率の結果を表3に示した。
【0075】
【表5】
【0076】
実施例3の方法にて、比較合成例1および2にて合成したポリマーならびに活性炭(キシダ化学株式会社)及びアミロース(東京化成工業株式会社)についてヨウ素除去率を測定した。結果を表3(比較)に示した。
【0077】
【表6】
【0078】
[実施例4](合成したポリマーの放射性物質除去性能の評価(4))
本発明に使用するポリマーが、海水中においても長時間にわたり機能することを確かめるために、実施例4を行った。
人工海水(人工海水と脱イオン水との混合物。人工海水の濃度、各々10%、50%、ならびに100%のものを使用。)に、ヨウ素(東京化成工業)を溶解し、ヨウ素水溶液を作製した。25 gのヨウ素水溶液(人工海水)を50 mLのサンプル管に入れた後、5 gのヨウ素水溶液(人工海水)を採取した。サンプル管に作製した各ポリマー(20 mg)を入れ、500 rpmで24時間撹拌した。撹拌終了後、ろ過を行い、水溶液を回収した。回収した水溶液中のヨウ素濃度をICP発光分析装置で測定し、ヨウ素の除去率を算出した。使用したポリマーの種類と、ヨウ素除去率の結果を表4に示した。
【0079】
【表7】
【0080】
実施例4の方法にて、活性炭(キシダ化学株式会社)についてヨウ素除去率を測定した。結果を表4(比較)に示した。
【0081】
【表8】
【0082】
[実施例5](合成したポリマーの放射性物質除去性能の評価(5))
本発明に使用するポリマーをシリンジに充填し、ここに放射性物質を含有する水を流通させることにより、簡易に放射性物質を除去することができることを確かめるために、実施例5を行った。なお、本実施例は、本発明に使用するポリマーをカラムに充填し、ここに放射性物質を含有する水を流通させる方法による放射性物質除去方法のモデルとなるものである。
脱イオン水にヨウ素(東京化成工業)を溶解し、ヨウ素水溶液(脱イオン水)を作製した。シリンジに、作製した各ポリマー(200 mg)を充填した後、20 gのヨウ素水溶液(脱イオン水)を流した。ポリマーを充填したシリンジを通過した水溶液を回収した後、水溶液中のヨウ素濃度をICP発光分析装置で測定し、ヨウ素の除去率を算出した。図2には、この評価法を模式的に説明した図を示した。使用したポリマーの種類と、ヨウ素除去率の結果を表5に示した。
【0083】
【表9】
【0084】
実施例5の方法にて、比較合成例1および2にて合成したポリマーならびに活性炭(キシダ化学株式会社)及びアミロース(東京化成工業株式会社)についてヨウ素除去率を測定した。結果を表5(比較)に示した。
【0085】
【表10】
【0086】
[実施例6](合成したポリマーの放射性物質除去性能の評価(6))
本発明に使用するポリマーが、海水中の放射性物質を、シリンジを用いた簡易な方法で除去することができることを確かめるために、実施例6を行った。
100%人工海水にヨウ素(東京化成工業)を溶解し、ヨウ素水溶液(100%人工海水)を作製した。シリンジに、作製した各ポリマー(200 mg)を充填した後、20 gのヨウ素水溶液(人工海水)を流した。ポリマーを充填したシリンジを通過した水溶液を回収した後、水溶液中のヨウ素濃度をICP発光分析装置で測定し、ヨウ素の除去率を算出した。使用したポリマーの種類とヨウ素除去率の結果を表6に示した。
【0087】
【表11】
【0088】
[実施例7〜10](合成したポリマーの放射性物質除去性能の評価(7))
脱イオン水にヨウ素(東京化成工業)を溶解し、ヨウ素水溶液(脱イオン水)を作製した。シリンジに、γ線を照射したポリマー(200 mg、合成例16〜19)を充填した後、20 gのヨウ素水溶液(脱イオン水)を流した。ポリマーを充填したシリンジを通過した水溶液を回収した後、水溶液中のヨウ素濃度をICP発光分析装置で測定し、ヨウ素の除去率を算出した。使用したポリマーの種類と、ヨウ素除去率の結果を表7〜10にそれぞれ示した。
【0089】
また、放射線を照射していない各ポリマーについても同様の実験を行った。結果を表11に示した。
【0090】
【表12】
【0091】
【表13】
【0092】
【表14】
【0093】
【表15】
【0094】
【表16】
【0095】
[補足説明]
なお、上記各実施例1〜7における分析方法は、以下の通りである:
合成した各ポリマーの性状は、Spectrum 100 FT-IR Spectrometer (PerkinElmer)で、赤外分光法により測定し、同定した。また、水溶液中のヨウ素濃度は、ICPS-7510(SHIMADZU)を使用し、IPC(誘導結合プラズマ)発光分析法により行った。
図1
図2