【実施例】
【0108】
(実施例1)
本実施例1における混合粉末およびターゲットの組成の目標は40(50Fe−50Pt)−60Cである。即ち、金属成分の組成の目標は50at%Fe−50at%Ptであり、FePt合金とC(炭素)の組成比の目標は、FePt合金が40at%、Cが60at%である。ただし、後述するように、混合粉末作製時およびターゲットの焼結時にC(炭素)の一部が揮発するので、得られる混合粉末およびターゲットにおいて、FePt合金とC(炭素)の組成比は目標値から少しずれる。なお、C(炭素)の含有量をat%ではなくvol%で表示すると、本実施例1における混合粉末およびターゲットの組成の目標は(50Fe−50Pt)−49.6vol%Cである。
【0109】
合金組成がFe:50at%、Pt:50at%となるようにバルク状の各金属を秤量し、高周波で加熱して1800℃のFe−Pt合金溶湯とし、アルゴンガスを用いたガスアトマイズ法により50at%Fe−50at%Pt合金粉末を作製した。得られた合金粉末の平均粒径を日機装株式会社製のマイクロトラックMT3000により測定したところ、50μmであった。
【0110】
得られたFe−Pt合金粉末620.00gに、Cの含有量が粉末全体に対して60at%となるように平均粒径35μmで嵩密度0.25g/cm
3のC粉末を89.03g
添加し、ボールミルでその回転回数が累計で4136400回に達するまで混合して混合粉末を作製した。以下、ボールミルの累計の回転回数を、ボールミル累計回転回数または単に回転回数と記すことがある。
【0111】
混合中、混合容器のふたは閉じておいたが、混合容器には外気を導入する導入口と排気する排気口を設け、混合容器内は常に新鮮な大気を循環させるようにし、混合容器内の酸素量が常に大気と同等になるようにした。
【0112】
ボールミル累計回転回数が935280回、2535840回、4136400回の各時点で、混合容器のふたを開けて混合粉末を取り出し、混合粉末中の酸素、窒素の含有量をLECO社製のTC−600型酸素窒素同時分析装置、炭素の含有量をHORIBA社製の炭素硫黄分析装置で測定した。また、混合容器のふたを開けた際、目視で発火の有無について確認した。それらの結果を下記表1に記す。
【0113】
【表1】
【0114】
ボールミル累計回転回数が935280回、2535840回、4136400回の各時点で混合容器を開放して、目視で発火の有無について確認したが、いずれの場合も発火は確認されなかった。
【0115】
ボールミル累計回転回数が多くなるにしたがって、混合粉末中の酸素含有量が増えているが、炭素の含有量は減少している。混合が進むにつれてC粉末への酸素の吸着が進む一方、一部の炭素は酸素と反応してCOやCO
2となって揮発したと考えられる。混合粉末
中の窒素含有量はボールミル累計回転回数935280回以降ほぼ一定である。
【0116】
ボールミル累計回転回数4136400回の混合を行った後の混合粉末を、温度:1460℃、圧力:25MPa、時間:45min、雰囲気:5×10
-2Pa以下の真空中の条件でホットプレスを行い、焼結体を作製した。
【0117】
作製した焼結体の密度をアルキメデス法により測定し、その測定値を理論密度で除して相対密度を求めた。その結果を下記の表2に示す。なお、理論密度算出の際に用いた炭素量は実測した焼結体中の炭素含有量(表3参照)を用いており、混合時および焼結時に減少した炭素量を考慮して理論密度を算出している。
【0118】
【表2】
【0119】
相対密度は96.4%と高く、得られた焼結体の空孔は少なかった。
【0120】
焼結体中の酸素、窒素の含有量をLECO社製のTC−600型酸素窒素同時分析装置で、炭素の含有量をHORIBA社製の炭素硫黄分析装置で測定した。下記表3にその測定結果を示す。なお、下記表3には、焼結させる前の混合粉末(ボールミル累計回転回数4136400回)についての測定結果も比較のため記載している。
【0121】
【表3】
【0122】
ボールミル累計回転回数4136400回の混合を行った後の混合粉末中の酸素の含有量が2.30質量%であるのに対し、該混合粉末を真空中でホットプレスを行って得た焼結体中の酸素の含有量は0.0045質量%(45質量ppm)であり約511分の1に減少しており、顕著に減少している。したがって、酸素の存在する雰囲気で混合を行って混合中にC粉末へ酸素が多量に吸着しても、焼結時に揮発し、焼結体中に酸素はほとんど導入されないことがわかる。
【0123】
また、窒素についてもホットプレスを行って得た焼結体中の含有量は約647分の1に減少しており、顕著に減少している。
【0124】
炭素についてはホットプレスを行うことによりわずかに減少している。表面に吸着していた酸素とホットプレス時に反応してCOやCO
2となって揮発したとものと考えられる
。
【0125】
得られた焼結体(ボールミル累計回転回数4136400回、焼結温度1460℃)の組織観察を走査型電子顕微鏡(SEM)で行った。
図1、
図2、
図3に焼結体のSEM写真を示す。
図1は低倍率(撮影時の写真倍率は3000倍)のSEM写真(写真中の縮尺目盛りは1μm)で、
図2は中倍率(撮影時の写真倍率は5000倍)のSEM写真(写真中の縮尺目盛りは1μm)で、
図3は高倍率(撮影時の写真倍率は10000倍)のSEM写真(写真中の縮尺目盛りは1μm)である。
図1、
図2、
図3において濃い灰色の部分がC相であり、白色の部分がFePt合金相である。
図1、
図2、
図3からわかるように、組織全体に微細なC相が分散した構造となっていることがわかる。
【0126】
次に、得られた焼結体(ボールミル累計回転回数4136400回、焼結温度1460℃)中の相の大きさをインターセプト法によって求めた。
【0127】
具体的には、ターゲット断面についての
図6のSEM写真(撮影時の写真倍率は10000倍)に、上下に3等分するように左右方向に2本の水平線を引くとともに、左右に4等分するように上下方向に3本の垂直線を引き、合計5本の直線を
図6のSEM写真に引いた。
【0128】
そして、C相の上を横切った部分の線分の長さの合計と、横切ったC相の数を、前記5本の直線それぞれについて求め、前記5本の直線についてC相の上を横切った部分の線分の長さの平均値を計算(C相の上を横切った部分の線分の長さの合計を横切ったC相の数で除す)により求め、その値をインターセプト法によって求めたC相の平均の大きさとした。その結果、インターセプト法によって求めたC相の平均の大きさは0.52μmであった。
【0129】
(実施例2)
混合容器内を大気にして密閉しその中でFePt粉末とC粉末を混合したこと、ボールミル累計回転回数を変えたこと、混合途中で混合容器を開放して新鮮な大気を導入する回数とタイミングを変えたこと、および焼結体作製時の焼結温度を1380℃、1340℃としたこと以外は実施例1と同様にして、混合粉末、焼結体の作製を行った。本実施例2における混合粉末およびターゲットの目標とする組成は実施例1と同じであり、40(50Fe−50Pt)−60Cである。
【0130】
ボールミル累計回転回数が2805840回、4073760回の各時点で、混合容器のふたを開けて混合粉末を取り出し、混合粉末中の酸素、窒素の含有量をLECO社製のTC−600型酸素窒素同時分析装置、炭素の含有量をHORIBA社製の炭素硫黄分析装置で測定した。また、混合容器のふたを開けた際、目視で発火の有無について確認した。それらの結果を下記表4に記す。
【0131】
【表4】
【0132】
ボールミル累計回転回数が935280回、1870560回、2805840回、4073760回の各時点で混合容器を開放して、目視で発火の有無について確認したが、いずれの場合も発火は確認されなかった。
【0133】
ボールミル累計回転回数が2805840回の時点で、混合開始前(回転回数0回)と比べて、混合粉末中の酸素含有量が114倍に増えているが、炭素の含有量は減少している。混合が進むにつれてC粉末への酸素の吸着が進む一方、一部の炭素は酸素と反応してCOやCO
2となって揮発したと考えられる。混合粉末中の窒素含有量も、ボールミル累
計回転回数が2805840回の時点では、混合開始前(回転回数0回)と比べて約25倍に増えている。
【0134】
次に、ボールミル累計回転回数2805840回の混合を行った混合粉末を、温度:1380℃、圧力:25MPa、時間:45min、雰囲気:5×10
-2Pa以下の真空中の条件でホットプレスを行い、ボールミル累計回転回数4073760回の混合を行った混合粉末を、温度:1340℃、圧力:25MPa、時間:45min、雰囲気:5×10
-2Pa以下の真空中の条件でホットプレスを行って、それぞれ焼結体を作製した。
【0135】
作製した焼結体の密度をアルキメデス法により測定し、それぞれの測定値を理論密度で除して相対密度を求めた。その結果を下記の表5に示す。なお、理論密度算出の際に用いた炭素量は表6に示す焼結体中の炭素含有量を用いており、混合時および焼結時に減少した炭素量を考慮して理論密度を算出している。
【0136】
【表5】
【0137】
2種の焼結体の相対密度は93.4%、92.0%と高く、得られた焼結体の空孔は少なかった。
【0138】
焼結体中の酸素、窒素の含有量をLECO社製のTC−600型酸素窒素同時分析装置で、炭素の含有量をHORIBA社製の炭素硫黄分析装置で測定した。下記表3にその測定結果を示す。なお、下記表6には、焼結させる前の混合粉末(ボールミル累計回転回数が2805840回、4073760回)についての測定結果も比較のため記載している。
【0139】
【表6】
【0140】
ボールミル累計回転回数が2805840回の混合を行った後の混合粉末中の酸素の含有量は2.28質量%であるのに対し、該混合粉末を真空中でホットプレスを行って得た焼結体中の酸素の含有量は0.0048質量%(48質量ppm)であり475分の1に減少している。また、トータルの回転回数が4073760回の混合を行った後の混合粉末中の酸素の含有量は1.98質量%であるのに対し、該混合粉末を真空中でホットプレスを行って得た焼結体中の酸素の含有量は0.0053質量%(53質量ppm)であり約374分の1に減少している。したがって、酸素の存在する雰囲気で混合を行って混合中にC粉末へ酸素が多量に吸着しても焼結時に揮発し、焼結体中に残留する酸素は少なくなっていることがわかる。
【0141】
また、窒素についても焼結体中の含有量は混合粉末中よりも顕著に減少している。
【0142】
炭素については焼結を行うことによりわずかに減少している。表面に吸着していた酸素とホットプレス時に反応してCOやCO
2となって揮発したとものと考えられる。
【0143】
得られた焼結体(ボールミル累計回転回数4073760回、焼結温度1340℃)の組織観察を走査型電子顕微鏡(SEM)で行った。
図4、
図5、
図6に焼結体のSEM写真を示す。
図4は低倍率(撮影時の写真倍率は3000倍)のSEM写真(写真中の縮尺目盛りは1μm)で、
図5は中倍率(撮影時の写真倍率は5000倍)のSEM写真(写真中の縮尺目盛りは1μm)で、
図6は高倍率(撮影時の写真倍率は10000倍)のSEM写真(写真中の縮尺目盛りは1μm)である。
図4、
図5、
図6において黒色の部分がC相であり、白色の部分がFePt合金相である。
図4、
図5、
図6からわかるように、組織全体に微細なC相が分散した構造となっていることがわかる。
【0144】
次に、得られた焼結体(ボールミル累計回転回数4073760回、焼結温度1340℃)中の相の大きさをインターセプト法によって求めた。
【0145】
具体的には、ターゲット断面についての
図6のSEM写真(撮影時の写真倍率は10000倍)に、上下に3等分するように左右方向に2本の水平線を引くとともに、左右に4等分するように上下方向に3本の垂直線を引き、合計5本の直線を
図6のSEM写真に引いた。
【0146】
そして、C相の上を横切った部分の線分の長さの合計と、横切ったC相の数を、前記5本の直線それぞれについて求め、前記5本の直線についてC相の上を横切った部分の線分の長さの平均値を計算(C相の上を横切った部分の線分の長さの合計を横切ったC相の数で除す)により求め、その値をインターセプト法によって求めたC相の平均の大きさとした。その結果、インターセプト法によって求めたC相の平均の大きさは0.50μmであった。
【0147】
(実施例3)
本実施例3における混合粉末およびターゲットの組成の目標は60(50Fe−50Pt)−40Cである。即ち、金属成分の組成の目標は50at%Fe−50at%Ptであり、FePt合金とC(炭素)の組成比の目標は、FePt合金が60at%、Cが40at%である。実施例1および2においては全体に対するCの組成比の目標が60at%であるのに対し、本実施例3におけるCの組成比の目標は40at%であり、実施例1および2よりもCの含有量が少なくなっている。なお、後述するように、混合粉末作製時およびターゲットの焼結時にC(炭素)の一部が揮発するので、得られる混合粉末およびターゲットにおいて、FePt合金とC(炭素)の組成比は目標値から少しずれる。また、C(炭素)の含有量をat%ではなくvol%で表示すると、本実施例3における混合粉末およびターゲットの組成の目標は(50Fe−50Pt)−30.4vol%Cである。
【0148】
また、本実施例3においては、混合容器内を混合ガス(Ar−20%O
2)にして密閉しその中でFePt粉末とC粉末を混合したこと、ボールミル累計回転回数を変えたこと、混合途中で混合容器を開放して新鮮な大気を導入する回数とタイミングを変えたこと、および焼結体作製時の焼結温度を1250℃、1300℃としたことが実施例2と異なる。
【0149】
以上の点以外は実施例2と同様にして、混合粉末、焼結体の作製を行った。
【0150】
ボールミル累計回転回数が290520回、905040回、1195560回、1810080回、2246400回、3181680回の各時点で混合容器を開放して、目視で発火の有無について確認したが、いずれの場合も発火は確認されなかった。
【0151】
ボールミル累計回転回数が1810080回の混合を行った混合粉末を、温度:1300℃、圧力:25MPa、時間:45min、雰囲気:5×10
-2Pa以下の真空中の条件でホットプレスを行い、ボールミル累計回転回数が3181680回の混合を行った混合粉末を、温度:1250℃、1300℃、圧力:25MPa、時間:45min、雰囲気:5×10
-2Pa以下の真空中の条件でホットプレスを行って、それぞれ焼結体を作製した。
【0152】
作製した焼結体の密度をアルキメデス法により測定し、それぞれの測定値を理論密度で除して相対密度を求めた。その結果を下記の表7に示す。なお、理論密度算出の際に用いた炭素含有量は表8に示す焼結体中の炭素含有量を用いており、混合時および焼結時に減少した炭素量を考慮して理論密度を算出している。
【0153】
【表7】
【0154】
3種の焼結体の相対密度は100.0%、96.9%、95.2%と高く、得られた焼結体の空孔は少なかった。
【0155】
表7に記載の混合粉末を焼結温度1250℃または1300℃で焼結して成形した焼結体中の酸素、窒素の含有量をLECO社製のTC−600型酸素窒素同時分析装置で、炭素の含有量をHORIBA社製の炭素硫黄分析装置で測定した。下記表8にその測定結果を示す。
【0156】
【表8】
【0157】
表8に示されるように、焼結体中の酸素含有量、窒素含有量は極めて少なかった。
【0158】
得られた焼結体の組織観察を走査型電子顕微鏡(SEM)で行った。
図7、
図8、
図9に焼結体のSEM写真を示す。
図7は低倍率(撮影時の写真倍率は3000倍)のSEM写真(写真中の縮尺目盛りは1μm)で、
図8は中倍率(撮影時の写真倍率は5000倍)のSEM写真(写真中の縮尺目盛りは1μm)で、
図9は高倍率(撮影時の写真倍率は10000倍)のSEM写真(写真中の縮尺目盛りは1μm)である。
図7、
図8、
図9において黒色の部分がC相であり、白色の部分がFePt合金相である。
図7、
図8、
図9からわかるように、組織全体に微細なC相が分散した構造となっていることがわかる。
【0159】
次に、得られた焼結体(ボールミル累計回転回数3181680回、焼結温度1300℃)中の相の大きさをインターセプト法によって求めた。
【0160】
具体的には、ターゲット断面についての
図9のSEM写真(撮影時の写真倍率は10000倍)に、上下に3等分するように左右方向に2本の水平線を引くとともに、左右に4等分するように上下方向に3本の垂直線を引き、合計5本の直線を
図9のSEM写真に引いた。
【0161】
そして、C相の上を横切った部分の線分の長さの合計と、横切ったC相の数を、前記5本の直線それぞれについて求め、前記5本の直線についてC相の上を横切った部分の線分の長さの平均値を計算(C相の上を横切った部分の線分の長さの合計を横切ったC相の数で除す)により求め、その値をインターセプト法によって求めたC相の平均の大きさとした。その結果、インターセプト法によって求めたC相の平均の大きさは0.33μmであった。
【0162】
(比較例1)
混合容器内をアルゴン(Ar)にして密閉しその中でFePt粉末とC粉末を混合したこと、ボールミル累計回転回数を変えたこと、混合途中で混合容器を開放して新鮮な大気を導入する回数とタイミングを変えたこと、および焼結体作製時の焼結温度を1100℃としたこと以外は実施例3と同様にして、混合粉末、焼結体の作製を行った。本比較例1における混合粉末およびターゲットの目標とする組成は実施例3と同じであり、60(50Fe−50Pt)−40Cである。実施例1および2においては全体に対するCの組成比の目標が60at%であるのに対し、本比較例1におけるCの組成比の目標は40at%であり、実施例1および2よりもCの含有量が少なくなっている。
【0163】
ボールミル累計回転回数が209520回、608040回、1006560回、1405080回、1803600回、2202120回、2816640回の各時点で混合容器を開放して、目視で発火の有無について確認したところ、ボールミル累計回転回数が2202120回の時点まではいずれの場合も発火が確認されなかったが、ボールミル累計回転回数が2816640回の時点で発火が確認された。
【0164】
混合時の混合容器内の雰囲気は、正確には、混合開始後の初期(ボールミル累計回転回数が209520回まで)のみ密閉した混合ガス(Ar−20%O
2)雰囲気であり、そ
れ以降は密閉したアルゴン(Ar)雰囲気である。混合開始後の初期(ボールミル累計回転回数が209520回まで)のみ密閉した混合ガス(Ar−20%O
2)雰囲気で混合
したが、最終的なボールミル累計回転回数2816640回のうちの7.4%にすぎず、混合開始後の初期(ボールミル累計回転回数が209520回まで)の混合でC粉末表面に吸着する酸素は少量であると考えられる。したがって、本比較例1は、ある一定以下の酸素が吸着したC粒子とFePt粉末とをアルゴン(Ar)雰囲気で、2816640−209520=2607120回混合した実験例であると言うことができる。
【0165】
ボールミル累計回転回数が1405080回の混合を行った混合粉末を、温度:1100℃、圧力:25MPa、時間:45min、雰囲気:5×10
-2Pa以下の真空中の条件でホットプレスを行って、焼結体を作製した。
【0166】
作製した焼結体の密度をアルキメデス法により測定し、それぞれの測定値を理論密度で除して相対密度を求めた。その結果を下記の表9に示す。なお、本比較例1では実施例1〜3のように、焼結時に減少した炭素量を考慮して理論密度を算出することはしていない。
【0167】
【表9】
【0168】
焼結体の相対密度は71.1%と低く、空孔の多い焼結体であった。焼結時に減少した炭素量を考慮して理論密度を算出して相対密度を算出すれば、本比較例1の相対密度は71.1%よりもさらに小さくなると考えられる。
【0169】
(実施例4)
実施例1〜3、比較例1は、金属成分がFe、Ptの2元系であるのに対し、実施例4の金属成分はFe、Pt、Cuの3元系である。
【0170】
本実施例4における混合粉末およびターゲットの組成の目標は66.6(45Fe−45Pt−10Cu)−33.4Cである。即ち、金属成分の組成の目標は45at%Fe−45at%Pt−10at%Cuであり、FePtCu合金とC(炭素)の組成比の目標は、FePtCu合金が66.6at%、Cが33.4at%である。本実施例4では、実施例1〜3、比較例1よりもCの含有量が少なくなっている。なお、後述するように、混合粉末作製時およびターゲットの焼結時にC(炭素)の一部が揮発するので、得られる混合粉末およびターゲットにおいて、FePtCu合金とC(炭素)の組成比は目標値から少しずれる。また、C(炭素)の含有量をat%ではなくvol%で表示すると、本実施例4における混合粉末およびターゲットの組成の目標は(45Fe−45Pt−10Cu)−25vol%Cである。
【0171】
また、本実施例4においては、実施例3と同様に、混合容器内を混合ガス(Ar−20%O
2)にして密閉し、その中でFePtCu粉末とC粉末を混合したが、ボールミル累計回転回数は実施例3と異なり、また、混合途中で混合容器を開放して新鮮な大気を導入する回数とタイミングも実施例3と異なる。さらに、焼結体作製時の焼結温度を1350℃とした点も実施例3と異なる。
【0172】
以上の点以外は実施例3と同様にして、混合粉末、焼結体の作製を行った。
【0173】
ボールミル累計回転回数が935280回、1870560回、2805840回、4073760回、5674320回の各時点で混合容器を開放して、目視で発火の有無について確認したが、いずれの場合も発火は確認されなかった。
【0174】
ボールミル累計回転回数が4073760回、5674320回の混合を行った混合粉末を、それぞれ温度:1350℃、圧力:26.2MPa、時間:45min、雰囲気:5×10
-2Pa以下の真空中の条件でホットプレスを行い、焼結体を作製した。
【0175】
作製した焼結体の密度をアルキメデス法により測定し、それぞれの測定値を理論密度で除して相対密度を求めた。その結果を下記の表10に示す。なお、理論密度算出の際に用いた炭素含有量は表11に示す焼結体中の炭素含有量を用いており、混合時および焼結時に減少した炭素量を考慮して理論密度を算出している。
【0176】
【表10】
【0177】
2種の焼結体の相対密度は92.1%、96.4%と高く、得られた焼結体の空孔は少なかった。
【0178】
表11に記載の混合粉末を焼結温度1350℃で焼結して成形した焼結体中の酸素、窒素の含有量をLECO社製のTC−600型酸素窒素同時分析装置で、炭素の含有量をHORIBA社製の炭素硫黄分析装置で測定した。下記表11にその測定結果を示す。
【0179】
【表11】
【0180】
表11に示されるように、焼結体中の酸素含有量は極めて少なかった。
【0181】
得られた焼結体の組織観察を走査型電子顕微鏡(SEM)で行った。
図10、
図11、
図12に焼結体のSEM写真を示す。
図10は低倍率(撮影時の写真倍率は3000倍)のSEM写真(写真中の縮尺目盛りは1μm)で、
図11は中倍率(撮影時の写真倍率は5000倍)のSEM写真(写真中の縮尺目盛りは1μm)で、
図12は高倍率(撮影時の写真倍率は10000倍)のSEM写真(写真中の縮尺目盛りは1μm)である。
図10、
図11、
図12において黒色の部分がC相であり、白色の部分がFePt合金相である。
図10、
図11、
図12からわかるように、組織全体に微細なC相が分散した構造となっていることがわかる。
【0182】
次に、得られた焼結体(ボールミル累計回転回数5674320回、焼結温度1350℃)中の相の大きさをインターセプト法によって求めた。
【0183】
具体的には、ターゲット断面についての
図12のSEM写真(撮影時の写真倍率は10000倍)に、上下に3等分するように左右方向に2本の水平線を引くとともに、左右に4等分するように上下方向に3本の垂直線を引き、合計5本の直線を
図12のSEM写真に引いた。
【0184】
そして、C相の上を横切った部分の線分の長さの合計と、横切ったC相の数を、前記5本の直線それぞれについて求め、前記5本の直線についてC相の上を横切った部分の線分の長さの平均値を計算(C相の上を横切った部分の線分の長さの合計を横切ったC相の数で除す)により求め、その値をインターセプト法によって求めたC相の平均の大きさとした。その結果、インターセプト法によって求めたC相の平均の大きさは0.25μmであった。
【0185】
(考察)
実施例1〜4および比較例1についての主要な実験データを下記の表12にまとめて示す。
【0186】
【表12】
【0187】
実施例1〜3は、FePt粉末とC粉末を混合する全過程を酸素の存在する雰囲気下で行い、実施例4は、FePtCu粉末とC粉末を混合する全過程を酸素の存在する雰囲気下で行ったが、実施例1についてはボールミル累計回転回数が4136400回に達しても発火は確認されず、実施例2についてはボールミル累計回転回数が4073760回に達しても発火は確認されず、実施例3についてはボールミル累計回転回数が3181680回に達しても発火は確認されず、実施例4についてはボールミル累計回転回数が5674320回に達しても発火は確認されなかった。
【0188】
これに対し、ボールミル累計回転回数が209520回〜2816640回の間、酸素の存在しないアルゴン雰囲気下でFePt粉末とC粉末との混合を行った比較例1では、ボールミル累計回転回数2816640回で混合容器を開放したところ、発火が確認された。
【0189】
また、実施例1〜4では、ボールミル累計回転回数が2800000回を超える回数まで混合を行った混合粉末を用いて焼結体を作製したが、作製した焼結体の相対密度はいずれも92%以上であった。これに対して、比較例1では、ボールミル累計回転回数が1405080回の混合を行った混合粉末を用いて焼結体を作製したが、作製した焼結体の相対密度は71.1%と小さかった。比較例1の焼結温度が1100℃と低かったことも影響したと思われるが、ボールミル累計回転回数が少なく、焼結体作製に用いた混合粉末中のC粉末の粒径が十分に小さくなっていなかったため、燒結体中の空孔が大きくなり、焼結体の相対密度が小さくなったものと思われる。
【0190】
また、実施例1、2、3、4では、得られたターゲット中のC相の大きさをインターセプト法によって測定したが、それぞれC相の大きさは0.52μm、0.50μm、0.33μm、0.25μmであり、いずれも0.6μmを下回っており、十分に小さくなっていることがわかった。
【0191】
なお、得られたターゲット中のC相の大きさは、ターゲット中のCの含有量が60at%である実施例1、2では0.52μm、0.50μmであり、ターゲット中のCの含有量が40at%である実施例3では0.33μmであり、ターゲット中のCの含有量が33.4at%である実施例4では0.25μmであり、Cの含有量が少ないほどC相の大きさは小さくなっている。これは、Cの含有量が多いとC相同士が連結しやすいので、C相の大きさが小さくなりにくいためと思われる。