特許第5912954号(P5912954)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5912954熱処理米粉組成物および菓子類または粉物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5912954
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】熱処理米粉組成物および菓子類または粉物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 13/08 20060101AFI20160414BHJP
   A23L 7/10 20160101ALI20160414BHJP
【FI】
   A21D13/08
   A23L1/10 Z
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-159324(P2012-159324)
(22)【出願日】2012年7月18日
(65)【公開番号】特開2014-18136(P2014-18136A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2014年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(74)【代理人】
【識別番号】100093377
【弁理士】
【氏名又は名称】辻 良子
(74)【代理人】
【識別番号】100108235
【弁理士】
【氏名又は名称】辻 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】桑原 明香
(72)【発明者】
【氏名】野崎 聡美
(72)【発明者】
【氏名】福留 真一
【審査官】 福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−045130(JP,A)
【文献】 秋田県総合研究所報告, 2006, p.5-10,[検索日:2015年9月30日],URL,http://www.arif.pref.akita.jp/pdf/houkoku8.PDF
【文献】 秋田大学教育文化学部研究紀要 自然科学,2003, vol.58, p.29-35
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 1/10−105
A21D 2/00−17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.05N酢酸水溶液に可溶性の蛋白質の含有量が乾熱処理白米粉1g当たり5〜35mgである乾熱処理白米粉を含有することを特徴とする菓子類または粉物類の製造用の乾熱処理白米粉組成物。
【請求項2】
0.05N酢酸水溶液に可溶性の蛋白質の含有量が乾熱処理白米粉1g当たり5〜35mgである乾熱処理白米粉の含有割合が、乾熱処理白米粉組成物に含まれる穀粉の全質量に基づいて30〜100質量%である請求項に記載の乾熱処理白米粉組成物。
【請求項3】
ホットケーキ、パンケーキ、蒸しパン、タイ焼き、マフィン、マドレーヌ、バターケーキ、クッキー、ドーナツ、スコーン、ワッフルおよびシフォンケーキから選ばれる菓子類、またはお好み焼き、もんじゃ焼き、たこ焼きおよびチヂミから選ばれる粉物類を製造するための乾熱処理白米粉組成物である請求項1または2に記載の乾熱処理白米粉組成物。
【請求項4】
液体資材を含まないミックス粉である請求項1〜のいずれか1項に記載の乾熱処理白米粉組成物。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載の乾熱処理白米粉組成物を用いて常法によって菓子類または粉物類を製造する方法。
【請求項6】
菓子類または粉物類が、ホットケーキ、パンケーキ、蒸しパン、タイ焼き、マフィン、マドレーヌ、バターケーキ、クッキー、ドーナツ、スコーン、ワッフルおよびシフォンケーキから選ばれる菓子、またはお好み焼き、もんじゃ焼き、たこ焼きおよびチヂミから選ばれる粉物である請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理米粉組成物、および当該熱処理米粉組成物を用いて菓子類または粉物類を製造する方法に関する。詳細には、本発明は、モチモチしていて良好な食感を有し、その一方で歯にまとわりつかず歯切れがよくて飲み込み易い菓子類および粉物類を製造することのできる熱処理米粉組成物および当該熱処理米粉組成物を用いて菓子類または粉物類を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
米粉は古くから、饅頭、団子、餅菓子、せんべいなどの和菓子の製造に広く用いられている。また、近年、モチモチ感を有するパンや菓子を得るために米粉を用いてパンや菓子を製造したり、米粉を用いてお好み焼き、たこ焼き、もんじゃ焼きなどのいわゆる「粉物」(こなものまたはこなもん)を製造する技術などの開発が色々試みられている。
【0003】
そのような従来技術としては、(1)原料米またはそれを粉砕したものに、マセレイティング酵素処理を行なった後、製粉および気流粉砕し、その際に、酵素処理前又は酵素処理後に水分を4〜16%に調整して120〜200℃で熱処理を行なって、パン、菓子、麺類などを製造するための米粉を製造する方法(特許文献1)、(2)もち米以外の原料米を湿式製粉し、脱水、乾燥して得られる平均粒度が12ミクロン以下で澱粉損傷度が5%以下の極微細米粉を用いた団子類や餅菓子などの食品(特許文献2)、(3)米粒または米粉に圧縮力、衝撃力、摩擦力および/または剪断力を加えることによって製造され、膨潤度が4.5以上で、アミログラフ糊化最高粘度が500BU以下の改質米粉を含有する、たこ焼き、お好み焼きまたはもんじゃ焼き用のミックス粉(特許文献3)などを挙げることができる。
【0004】
しかし、上記(1)の従来技術は、製粉に当たってマセレイティング酵素処理を行なって米の細胞壁組織を低分子化する必要があるため、目的とする米粉の製造工程が煩雑であり、しかもそれによって得られる米粉を用いて菓子類やお好み焼きなどの粉物類を製造しても、モチモチとした食感を有する菓子類や粉物類が得られにくい。
【0005】
また、上記(2)の従来技術で用いられている平均粒度が12ミクロン以下で澱粉損傷度が4%以下の米粉を菓子または粉物の製造に用いた場合には、生地にベタつきが生じて取り扱い性や作業性が悪くなったり、得られる菓子類や粉物類は、厚みに欠け、しかも外観が不良であったり、ボソついて不良な食感になり易い。
【0006】
上記(3)の従来技術は、日本酒の原料となる酒米を搗精するときに得られる糠から玄米の外皮部分の糠(赤糠)を除いた「白糠」という特殊な成分や、清酒製造用の酒米の製造時に産出される米粉を用いる技術であるため、特殊な米粉を用いることがあり、しかも当該米粉は米粉中に含まれる澱粉の50〜90%がα化されているために、当該米粉を用いて得られるお好み焼き、もんじゃ焼き、たこ焼き、ホットケーキ、蒸しパンなどの粉物類や菓子類は、歯にまとわりついて歯切れが悪く、飲み込みにくい。
【0007】
さらに、上記(1)の従来技術では米粉を用いてパンを製造する際にグルテンを添加しており、また上記(3)の従来技術では米粉に多量の小麦粉を添加してミックス粉とし、当該ミックス粉を用いてたこ焼き、お好み焼き、もんじゃ焼き、チヂミを製造していて、いずれも、米粉単独ではパンや粉物などを製造できないため、小麦アレルギー症(グルテンアレルギー症)の人が食する菓子類や粉物類の製造に用いることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4−287652号公報
【特許文献2】特公平8−35号公報
【特許文献3】特開2010−104244号公報
【特許文献4】特開2004−9022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、モチモチとした良好な食感を有し、その一方で歯にまとわりつかず歯切れがよくて飲み込み易いホットケーキ、パンケーキ、蒸しパン、タイ焼き、マフィン、マドレーヌ、バターケーキ、クッキー、ドーナツ、スコーン、ワッフル、シフォンケーキなどの菓子類、およびお好み焼き、もんじゃ焼き、たこ焼き、チヂミなどのいわゆる粉物類を製造することのできる米粉組成物を提供することである。
本発明の目的は、特殊な副原料や食品添加剤を用いなくても、モチモチとした良好な食感を有し、その一方で歯にまとわりつかず歯切れがよくて飲み込み易い上記した菓子類や粉物類を簡単に製造することのできる米粉組成物を提供することである。
本発明の目的は、小麦粉を使用してもまたは使用しなくても、モチモチとして良好な食感を有し、その一方で歯にまとわりつかず歯切れがよくて飲み込み易い上記した菓子類や粉物類を簡単に製造することのできる米粉組成物を提供することである。
また、本発明の目的は、小麦アレルギー(グルテンアレルギー)の人でも安心して食することのできる、上記した菓子類や粉物類を製造することのできる米粉組成物を提供することである。
さらに、本発明は、前記した米粉組成物を用いて上記した菓子類または粉物類を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく種々研究を重ねてきた。その結果、0.05N酢酸水溶液に可溶性の蛋白質の含有量が特定の範囲内にある熱処理米粉を用いて熱処理米粉組成物を調製し、当該熱処理米粉組成物を用いてホットケーキ、パンケーキ、蒸しパン、タイ焼き、マフィン、マドレーヌ、バターケーキ、クッキー、ドーナツ、スコーン、ワッフル、シフォンケーキなどの菓子類、およびお好み焼き、もんじゃ焼き、たこ焼き、チヂミなどのいわゆる粉物類を製造すると、モチモチとした良好な食感を有し、その一方で歯にまとわりつかず歯切れがよくて飲み込み易い菓子類および粉物類が得られることを見出した。
また、本発明者らは、0.05N酢酸水溶液に可溶性の蛋白質の含有量が当該特定の範囲内にある熱処理米粉を用いると、特殊な成分や食品添加剤を用いなくても、モチモチとして良好な食感を有し、その一方で歯にまとわりつかず歯切れがよくて飲み込み易い前記した菓子類や粉物類を円滑に且つ簡単に製造できることを見出した。
さらに、本発明者らは、0.05N酢酸水溶液に可溶性の蛋白質の含有量が当該特定の範囲内にある熱処理米粉を用いると、当該熱処理米粉と共に小麦粉を用いてもまたは用いなくても、モチモチとして良好な食感を有し、その一方で歯にまとわりつかず歯切れがよくて飲み込み易い前記した菓子類や粉物類を製造でき、そのため当該熱処理米粉を用いて小麦粉およびグルテンを含有しない熱処理米粉組成物を調製し、その熱処理米粉組成物を用いて菓子類または粉物類を製造すると、小麦アレルギー(グルテンアレルギー)の人でも安心して食すことのできる高品質の菓子類または粉物類が得られることを見出した。
また、本発明者らは、0.05N酢酸水溶液に可溶性の蛋白質の含有量が当該特定の範囲内にある熱処理米粉は、特殊な米粉や特別な米粉を用いずに汎用の米粉を用いて、酵素処理やその他の煩雑な処理工程を行なわずに、それぞれの状況に応じて所定の条件を採用して乾熱処理を行うことで簡単に且つ円滑に製造できることを見出し、それらの種々の知見に基づいて本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1) 0.05N酢酸水溶液に可溶性の蛋白質の含有量が熱処理米粉1g当たり5〜35mgである熱処理米粉を含有することを特徴とする菓子類または粉物類の製造用の熱処理米粉組成物である。
【0012】
そして、本発明は、
(2) 熱処理米粉が、米粉中のデンプンをα化させないようにして、0.05N酢酸水溶液に可溶性の蛋白質の含有量が熱処理米粉1g当たり5〜35mgとなる条件下で米粉を乾熱処理して得られたものである前記(1)の熱処理米粉組成物;
(3) 0.05N酢酸水溶液に可溶性の蛋白質の含有量が熱処理米粉1g当たり5〜35mgである熱処理米粉の含有割合が、熱処理米粉組成物に含まれる穀粉の全質量に基づいて30〜100質量%である前記(1)又は(2)の熱処理米粉組成物;
(4) ホットケーキ、パンケーキ、蒸しパン、タイ焼き、マフィン、マドレーヌ、バターケーキ、クッキー、ドーナツ、スコーン、ワッフルおよびシフォンケーキから選ばれる菓子類、またはお好み焼き、もんじゃ焼き、たこ焼きおよびチヂミから選ばれる粉物類を製造するための熱処理米粉組成物である請求項(1)〜(3)のいずれかの熱処理米粉組成物;および、
(5) 液体資材を含まないミックス粉である前記(1)〜(4)のいずれかの熱処理米粉組成物;
である。
【0013】
さらに、本発明は、
(6) 前記(1)〜(5)のいずれかの熱処理米粉組成物を用いて常法によって菓子類または粉物類を製造する方法;および、
(7) 菓子類または粉物類が、ホットケーキ、パンケーキ、蒸しパン、タイ焼き、マフィン、マドレーヌ、バターケーキ、クッキー、ドーナツ、スコーン、ワッフルおよびシフォンケーキから選ばれる菓子、またはお好み焼き、もんじゃ焼き、たこ焼きおよびチヂミから選ばれる粉物である前記(6)の方法;
である。
【発明の効果】
【0014】
0.05N酢酸水溶液に可溶性の蛋白質の含有量が熱処理米粉1g当たり5〜35mgである熱処理米粉を含有する本発明の熱処理米粉組成物を用いて、ホットケーキ、パンケーキ、蒸しパン、タイ焼き、マフィン、マドレーヌ、バターケーキ、クッキー、ドーナツ、スコーン、ワッフル、シフォンケーキなどの菓子類、およびお好み焼き、もんじゃ焼き、たこ焼き、チヂミなどの粉物類を製造すると、モチモチとした良好な食感を有し、その一方で歯にまとわりつかず歯切れがよくて飲み込み易い菓子類および粉物類を製造することができる。
また、0.05N酢酸水溶液に可溶性の蛋白質の含有量が熱処理米粉1g当たり5〜35mgである熱処理米粉を含有する本発明の熱処理米粉組成物は、特殊な成分や食品添加剤を含んでいなくても、モチモチとして良好な食感を有し、その一方で歯にまとわりつかず歯切れがよくて飲み込み易い前記した菓子類や粉物類を円滑に且つ簡単に製造することができる。
さらに、0.05N酢酸水溶液に可溶性の蛋白質の含有量が熱処理米粉1g当たり5〜35mgである熱処理米粉を含有する本発明の熱処理米粉組成物は、小麦粉やグルテンを含有していなくても、モチモチとして良好な食感を有し、その一方で歯にまとわりつかず歯切れがよくて飲み込み易い前記した菓子類や粉物類を製造できるので、小麦粉およびグルテンを含有しない本発明の熱処理米粉組成物を用いることによって、小麦アレルギー(グルテンアレルギー)の人でも安心して食すことのできる、前記した菓子類および粉物類を製造することができる。
また、本発明の熱処理米粉組成物を構成している熱処理米粉は、特殊な米粉や特別な米粉を用いずに、汎用の米粉を用いて、酵素処理やその他の煩雑な処理工程を行なわずに簡単に製造でき、そのため当該熱処理米粉を含有する本発明の熱処理米粉組成物は、汎用の米粉を用いて所定の熱処理を施すことによって0.05N酢酸水溶液に可溶性の蛋白質の含有量が熱処理米粉1g当たり5〜35mgである熱処理米粉をつくり、当該熱処理米粉を用いて、簡単にかつ低コストで製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明について詳細に説明する。
本発明の熱処理米粉組成物は、熱処理を施した米粉であって且つ熱処理米粉1g当たり0.05N酢酸水溶液に可溶性の蛋白質を5〜35mgの範囲で含有する熱処理米粉を含有する[以下、米粉(非熱処理米粉または熱処理米粉)1g当たりの0.05N酢酸水溶液に可溶性の蛋白質の含有量を、「0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が○○mg/g」というように表示する]。
0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が5〜35mg/gである熱処理米粉を用いることによって、当該熱処理米粉を含有する本発明の熱処理米粉組成物を用いて菓子類または粉物類を製造したときに、モチモチとした良好な食感を有し、その一方で歯にまとわりつかず歯切れがよくて飲み込み易い高品質の菓子類や粉物類を製造することができる。
【0016】
熱処理を施してない米粉(非熱処理米粉)を用いた場合には、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が5〜35mg/gの範囲内である場合または5〜35mg/gの範囲外である場合のいずれにおいても、当該非熱処理米粉を含有する米粉組成物を用いて得られる菓子類および粉物類は、歯にまとわりついて歯切れが悪く飲み込みにくいものとなる。
また、熱処理を施した熱処理米粉であっても、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が本発明で規定する範囲よりも多い場合には、当該熱処理米粉を含有する熱処理米粉組成物を用いて得られる菓子類および粉物類は、歯にまとわりついて歯切れが悪く飲み込みにくいものになり易い。一方、熱処理を施した熱処理米粉であっても、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が本発明で規定する範囲よりも少ない場合には、当該熱処理米粉を含有する熱処理米粉組成物を用いて得られる菓子類および粉物類は、モチモチ感のない不良な食感となる。
本発明の熱処理米粉組成物では、熱処理米粉として、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が7〜32mg/gである熱処理米粉を用いることが好ましく、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が10〜30mg/gの熱処理米粉を用いることがより好ましい。
【0017】
本明細書における米粉の「0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量(mg/g)」は、米粉に0.05Nの酢酸水溶液を加えて抽出処理を行い、当該酢酸水溶液中に抽出された蛋白質の質量(mg)を測定して、0.05Nの酢酸水溶液で抽出処理を行う前の米粉1g(乾物質量)当たりの当該抽出された蛋白質の質量(mg)として求められる値をいう。
0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量(mg/g)の具体的な測定方法については、以下の実施例に記載したとおりである。
【0018】
本発明で用いる熱処理米粉では、澱粉のα化度が、熱処理前の米粉のα化度と同じであるか又は差が小さいことが好ましい。かかる点から、本明細書における「米粉中のデンプンをα化させないようにして(α化が生じないようにして)米粉を熱処理する」とは、熱処理前と熱処理後とで米粉のα化度が同じであるか又は差が小さいようにして熱処理を行うことをいう。
また、本発明で用いる熱処理米粉では、米粉に含まれる澱粉の損傷度が、熱処理によって増加しておらず、熱処理前と熱処理後で澱粉の損傷度が同じであるかまたはほぼ同じであることが好ましい。熱処理によって米粉中の澱粉の損傷度が増していると、そのような熱処理米粉を含有する熱処理米粉組成物を用いて得られる菓子類および粉物類は、熱処理前の米粉と物性が大きく相違し、食感、保形性、作業性などが異なったものとなり、り取り扱いにくくなる。
【0019】
本発明では0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が5〜35mg/gである熱処理米粉として、粳米(ウルチ米)を原料として得られた熱処理米粉のみを用いてもよいし、モチ米を原料として得られた熱処理米粉のみを用いてもよいし、または粳米とモチ米の両方を原料として得られた熱処理米粉を用いてもよい。そのうちでも、本発明で用いる熱処理米粉は、粳米(ウルチ米)を原料として得られた熱処理米粉であることが、得られる菓子類または粉物類の品質、コストなどの点から好ましい。
【0020】
本発明では、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が5〜35mg/gである熱処理米粉であれば、特に0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が5〜35mg/gで、澱粉のα化がなく且つ熱処理による澱粉の損傷度の増加のない熱処理米粉であれば、いずれの方法で製造した熱処理米粉であっても使用することができる。
【0021】
何ら限定されるものではないが、本発明で用いる0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が5〜35mg/gである熱処理米粉は、好ましくは、米粉を、澱粉のα化が生じないようにしながら、120℃以下の温度で、外部から水分を供給することなく乾燥下で熱処理することによって円滑に製造することができる。
但し、120℃以上の温度であっても、熱処理時間を短くすることによって、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が5〜35mg/gである熱処理米粉を製造できる場合もある。
【0022】
米粉を熱処理するに当たっては、加熱処理を施す前の時点での米粉の水分含量が14質量%以下であることが好ましく、12質量%以下であることがより好ましく、8〜10質量%であることが更に好ましい。米粉の水分含量が高いと、熱処理の際に澱粉のα化が生じ易くなる。
また、熱処理時間は、熱処理温度、熱処理に供する米粉の量、米粉の種類、熱処理方法などによって調整するのがよい。120℃以下の温度で熱処理を行う場合であっても、熱処理時間が短すぎると0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が35mg/gよりも多くなることがあり、一方熱処理時間が長すぎると0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が5mg/gよりも少なくなることがある。
【0023】
0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が5〜35mg/gである熱処理米粉を製造するための熱処理装置の種類は特に制限されず、乾熱条件下で加熱できて、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が5〜35mg/gである熱処理米粉を製造できる熱処理装置であればいずれの熱処理装置を使用してもよい。限定されるものではないが、熱処理装置としては、例えば、ジャケット付きのリボンミキサー(特許文献4に記載されているような構造を有する穀物熱処理攪拌装置)を使用することができる。
【0024】
本発明の熱処理米粉組成物は、穀粉として、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が5〜35mg/gである熱処理米粉のみを含有していてもよいし、当該熱処理米粉と共に、それ以外の米粉、小麦粉、ライ麦粉、コーンフラワー、大麦粉等の穀粉類;タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉等およびこれらのα化、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理等の澱粉類などの1種または2種以上を含有していてもよい。
【0025】
そのうちでも、本発明の熱処理米粉組成物は、熱処理米粉組成物に含まれる穀粉の全質量に基づいて、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が5〜35mg/gである熱処理米粉を60〜100質量%の割合で含有していることが好ましく、70〜100質量%の割合で含有していることがより好ましく、80〜100質量%の割合で含有していることが更に好ましい。
当該熱処理米粉の含有割合が、熱処理米粉組成物に含まれる穀粉の全質量に基づいて60質量%よりも少ないと、得られる菓子または粉物類におけるモチモチ感が低下し、しかもパサパサとした食感となり易い。
【0026】
本発明の熱処理米粉組成物が、穀粉として、(a)0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が5〜35mg/gである熱処理米粉を含有し、小麦粉、グルテンおよびその他の穀粉を含有しない熱処理米粉組成物であるか、または(b)穀粉として、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が5〜35mg/gである熱処理米粉と、グルテンを含有しない穀粉のみを含有する熱処理米粉組成物である場合には、これらの熱処理米粉組成物(a)または(b)を用いて製造される菓子類および粉物類は、グルテンを含有しないため、小麦アレルギー(グルテンアレルギー)の人でも安心して食することができる。
【0027】
本発明の熱処理米粉組成物は、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が5〜35mg/gである熱処理米粉と共に、液体資材を含有していてもよいが、液体資材を含まない菓子類用または粉物類用のミックス粉の形態にしておくと、長期保存安定性および取り扱い性に優れたものとすることができる。
菓子類用または粉物類用のミックス粉は、製造を目的とする菓子または粉物の種類などに応じて、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が5〜35mg/g具である熱処理米粉と共に、他の穀粉(小麦粉、澱粉、コーンフラワー、α化澱粉など)、砂糖、粉ミルク、卵粉、粉末コーヒー、ココア粉末、ドライナッツ片、ドライフルーツ片、食塩、膨張剤、グルコース、増粘剤、香料、山芋粉、鰹節粉末、植物油脂、乳化剤、粉末水あめなどの1種または2種以上を含有することができる。
【0028】
特に、本発明の熱処理米粉組成物が菓子類用のミックス粉である場合に、当該ミックス粉を、例えば、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が5〜35mg/gである熱処理米粉と、砂糖、食塩および/または膨張剤からなるシンプルな組成にしておくと、使用者が、当該菓子類用のミックス粉を用いて菓子を製造する際に、当該ミックス粉に、製造しようとする菓子の種類に応じて、例えば、卵液、牛乳、水、粉末コーヒー、ココア粉末、ドライナッツ片、ドライフルーツ片、その他の資材の1種または2種以上を加えることによって、消費者の望む種々の菓子を簡単に製造することができる。
【0029】
また、本発明の熱処理米粉組成物が粉物類用のミックス粉である場合に、当該ミックス粉を、例えば、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が5〜35mg/gである熱処理米粉と食塩からなるミックス粉、または当該熱処理米粉と食塩と山芋粉からなるミックス粉にしておくと、製造しようとする粉物の種類に応じて、当該ミックス粉と共に、例えば、卵液、水、キャベツ、白菜、ネギ、豚肉、天かす、イカ、鰹節、エビ、青のり、紅ショウガ、タコなどを用いて、消費者の好むお好み焼き、タコ焼き、もんじゃ焼き、チヂミなどの粉物を円滑に製造することができる。
【0030】
本発明の熱処理米粉組成物における成分組成(各成分の含有割合)は、熱処理米粉組成物がどのような菓子または粉物の製造に用いるものであるかなどに応じて異なり得るが、液体成分を含まない菓子類用または粉物類用のミックス粉である場合には、全穀粉の合計配合量が70〜100質量部、砂糖の配合量が0〜30質量部、膨張剤の配合量が0〜4質量部、食塩の配合量が0〜0.5質量部、その他の非液体資材の配合量が0〜5質量部であって、且つ菓子類用または粉物類用のミックス粉に含まれる全穀粉の合計質量100質量部に対して、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が5〜35mg/gである熱処理米粉の割合が30〜100質量部、更には50〜100質量部、特に60〜100質量部にしておくと、種々の菓子または粉物類の製造に好適に用いることができる。
ミックス粉中に膨張剤を含有させる場合は、膨張剤として、炭酸水素ナトリウムやその他の従来から菓子または粉物類の製造に用いられている膨張剤を用いることができる。
【0031】
本発明の熱処理米粉組成物を用いて製造される菓子類としては、ホットケーキ、パンケーキ、蒸しパン、タイ焼き、マフィン、マドレーヌ、バターケーキ、クッキー、ドーナツ、スコーン、ワッフル、シフォンケーキなどを挙げることができ、特に本発明の熱処理米粉組成物は、ホットケーキ、蒸しパン、マドレーヌ、バターケーキを製造するのに適している。
また、本発明の熱処理米粉組成物を用いて製造される粉物類としては、お好み焼き、もんじゃ焼き、たこ焼き、チヂミなどを挙げることができ、特に本発明の熱処理米粉組成物は、お好み焼きを製造するのに適している。
【0032】
本発明の熱処理米粉組成物を用いて菓子類または粉物類を製造する際の製法は特に制限されず、菓子または粉物の種類などに応じて、従来から採用されている方法および条件を採用して製造することができる。
何ら限定されるものではないが、本発明の熱処理米粉組成物がホットケーキ用ミックス粉であって、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が5〜35mg/gである熱処理米粉100質量部に対して、砂糖を20〜30質量部、食塩を0.2〜0.3質量部、膨張剤を3〜4質量部の割合で含有するホットケーキ用ミックス粉である場合は、卵液20〜30質量部と牛乳70〜80質量部を予めよく混合しておき、この混合液にホットケーキ用ミックス粉100質量部を加えて均一に混ぜ合わせ、それにより得られた混合液を、約170〜180℃に加熱し、必要に応じて油を敷いたフライパン、鉄板、ホットプレートなどの上に、円形などの所望の形状に流し入れ、約2〜3分間加熱して焼き、次いで裏返して約3〜4分間加熱して焼くことによって、よく膨らんでいて厚さがあり、しかもモチモチとした良好な食感を有し、歯にまとわりつかず歯切れがよくて飲み込み易いホットケーキを円滑に製造することができる。
【0033】
本発明の熱処理米粉組成物が、マドレーヌやバターケーキ用のミックス粉であって、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が5〜35mg/gである熱処理米粉100質量部に対して、砂糖を90〜110質量部および膨張剤を1〜2質量部の割合で含有するミックス粉である場合は、ミックス粉100質量部に、卵液40〜60質量部、溶かしバター40〜60質量部を混合して生地を調製し、この生地を型に流し入れ、予め加熱しておいてオーブンで、180〜190℃で約10〜15分間焼成することによって、よく膨らんでいて、モチモチとしていて、滑らかで、しっとりした良好な食感を有するマドレーヌやバターケーキを円滑に製造することができる。
マドレーヌやバターケーキなどの製造に当たっては、乾果実片、ナッツ片、蜂蜜、アルコール類などの好みの資材を生地の調製時に添加したり、生地の上にトッピングすることができる。
【0034】
また、本発明の熱処理米粉組成物が蒸しパン用ミックス粉であって、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が5〜35mg/gである熱処理米粉100質量部に対して、砂糖を20〜35質量部、食塩を0.5〜2質量部、膨張剤を1〜3質量部の割合で含有する蒸しパン用ミックス粉である場合は、ミックス粉100質量部に、卵液10〜20質量部と牛乳70〜80質量部を加えて生地を調製し、それにより得られた生地をアルミカップなどの型に流し入れて、80〜100℃の蒸し器に入れて、15〜25分間蒸すことによって、よく膨らんでいて厚さがあり、しかもモチモチとした良好な食感を有し、歯にまとわりつかず歯切れがよくて飲み込み易い蒸しパンを円滑に製造することができる。
【0035】
本発明の熱処理米粉組成物がお好み焼き用ミックス粉であって、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が5〜35mg/gである熱処理米粉100質量部に対して、食塩を1〜3質量部の割合で含有し、場合により更に山芋粉を0〜60質量部の割合で含有するお好み焼き用ミックス粉である場合は、ミックス粉100質量部に、卵液30〜60質量部、水150〜250質量部を加え、それに更に好みに応じてキャベツ、ネギ、豚肉、エビ、天かす、イカなどの具材の1種または2種以上を加えて生地を調製し、当該生地を約170〜190℃に加熱し、必要に応じて油を敷いたフライパン、鉄板、ホットプレートなどの上に、円形などの所望の形状に流し入れ、約5〜8分間加熱して焼き、次いで裏返して約5〜8分間加熱して焼くことによって、よく膨らんでいて厚さがあり、しかもモチモチとした良好な食感を有し、歯にまとわりつかず歯切れがよくて飲み込み易いお好み焼きを円滑に製造することができる。
【実施例】
【0036】
以下に実施例によって本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の例によって何ら限定されるものではない。
以下の実施例において、米粉(非熱処理米粉および熱処理米粉)中の総蛋白質含有量、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量、澱粉損傷度およびα化度は以下の方法で求めた。
【0037】
(1)米粉中の総蛋白質含有量:
LECO社のTruMac Nを用いて窒素含有量(質量%)から総蛋白質含有量(質量%)を算出した。換算係数は5.95を使用した。また、炉温度を1100℃として測定を行った。
【0038】
(2)米粉(非熱処理米粉及び熱処理米粉)中の0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量:
(i) 米粉(非熱処理米粉または熱処理米粉)2.25gに0.05N酢酸水溶液15mlを添加して渦流混合機で混合し、次いで60分間振盪した後、3500rpmで5分間遠心分離して液体のほぼ全量を回収した(なお、この一連の操作は25℃で行った)。
(ii) 上記(i)の操作で残留した沈殿に、0.05N酢酸水溶液7.5mlを添加し、軽く振って混合した後、3500rpmで5分間遠心分離して、液体分の全量を回収した(この一連の操作は25℃で行った)。
(iii) 上記(i)で回収した液体分と上記(ii)で回収した液体分を一緒にした後、濾紙(No.2)を用いて濾過し、濾液を0.05N酢酸水溶液を用いて25mlに定量し、液1ml中の蛋白質の含有量W(mg)を、上記(1)の総蛋白質含有量の測定法と同様の方法を採用して測定して(但し測定に当たっては1250℃の炉温度を採用)、「0.05N酢酸可溶性蛋白質含有量(mg/g)」[米粉1g当たりの0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量(mg)]を下記の式〈1〉により求めた。

0.05N酢酸可溶性蛋白質含有量(mg/g)=(W×25)÷2.25 〈1〉
【0039】
(3)米粉の澱粉損傷度:
Megazyme社製「STARCH DAMAGE ASSAY KIT」を使用して、当該キットに添付されたプロトコールに従って、株式会社日立製作所製「U―2000A 吸光光度計」にて510nmにおける吸光度を測定することによって、米粉の澱粉損傷度(%)を求めた。
【0040】
(4)米粉のα化度:
β−アミラーゼ・プルラナーゼ法を用いて測定した。
【0041】
《製造例1》[熱処理米粉(A1)〜(A7)の調製]
(1) 米粉(A0)(熱処理前の米粉)(木徳神糧社製「米粉ファイン(国産)」、総蛋白質含有量=55mg/g、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量=36mg/g、澱粉損傷度=2.3%、α化度=4.6%)を650gずつをポリプロピレン/ポリエステル積層フィルムからなるパウチに入れたものを6個作製した。
(2) 上記(1)で作製した第1のパウチ入り米粉を、パウチの口を閉じて100℃の恒温槽に入れて15分間熱処理した後、恒温槽から取出し、全体の温度が常温(25℃)になった段階でパウチから熱処理米粉[以下「熱処理米粉(A1)」という]を取り出して、熱処理米粉(A1)の総蛋白質含有量、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量、澱粉損傷度およびα化度を上記した方法で測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で作製した第2のパウチ入り米粉、第3のパウチ入り米粉、第4のパウチ入り米粉、第5のパウチ入り米粉および第6のパウチ入り米粉を、パウチの口を閉じて、100℃の恒温槽に入れて、それぞれ30分間、45分間、60分間、90分間および120分間熱処理して、熱処理米粉(A2)、(A3)、(A3)、(A4)、(A5)および(A6)をそれぞれ調製し、全体の温度が常温(25℃)になった段階でパウチからそれぞれの熱処理米粉を取り出して、上記した方法で総蛋白質含有量、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量、澱粉損傷度およびα化度を上記した方法で測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
(3) 上記の米粉(A0)を乾熱式の穀物熱処理攪拌装置[ジャケット付きのリボンミキサー(特許文献4に記載されているような構造を有する穀物熱処理攪拌装置)]に供給して120℃の温度で60分間熱処理して熱処理米粉(A7)を調製し、熱処理米粉(A7)の温度が常温(25℃)になった段階で、上記した方法で総蛋白質含有量、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量、澱粉損傷度およびα化度を上記した方法で測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0042】
《製造例2》[熱処理米粉(B1)の調製]
米粉(B0)(熱処理前の米粉)(木徳神糧社製「米穀粉B」、総蛋白質含有量=70mg/g、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量=42mg/g、澱粉損傷度=8.6%、α化度=20.2%)を製造例1で使用したのと同じ乾熱式の穀物熱処理攪拌装置(ジャケット付きのリボンミキサー)に供給して120℃の温度で60分間熱処理して熱処理米粉(B1)を調製し、熱処理米粉(B1)の温度が常温(25℃)になった段階で、上記した方法で総蛋白質含有量、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量、澱粉損傷度およびα化度を上記した方法で測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0043】
《製造例3》[熱処理米粉(C1)〜(C2)の調製]
(1)米粉の製造:
(i)原料米(新潟県産コシヒカリ)15kgを株式会社井関邦栄製造所製の電子自動洗米機「POLISH BOY RW−150」を用いて、温度15℃の水で3分間洗米した後、水から取り出してテンパリングを行なった(このときの米の水分含量=20.4質量%)。
(ii) 上記(i)で得られた加水・調湿した米(米粒)を、ホソカワミクロン社製「ACMパルベライザ」(分級機能付き気流式粉砕機)に、40kg/hrの供給量で供給して、粉砕ロータの回転数6000ppmおよび分級ロータの回転数1000ppm、気流温度30℃の条件下に粉砕し分級して粉砕機から取り出して、米粉(総蛋白質含有量=58mg/g、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量=40mg/g、澱粉損傷度=10.5%、α化度=28.5%)[以下「米粉(C0)」という]を製造した。
(2) 上記(1)で得られた米粉(C0)(熱処理前の米粉)の650gずつをポリプロピレン/ポリエステル積層フィルムからなるパウチに入れたものを2個作製した。
(3) 上記(2)で作製した第1のパウチ入り米粉を、パウチの口を閉じて100℃の恒温槽に入れて30分間熱処理した後、恒温槽から取出し、全体の温度が常温(25℃)になった段階でパウチから熱処理米粉[以下「熱処理米粉(C1)」という]を取り出して、熱処理米粉(C1)の総蛋白質含有量、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量、澱粉損傷度およびα化度を上記した方法で測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
(4) 上記(2)で作製した第2のパウチ入り米粉を、パウチの口を閉じて、100℃の恒温槽に入れて90分間熱処理して熱処理米粉(C2)を調製し、全体の温度が常温(25℃)になった段階でパウチから熱処理米粉(C2)を取り出して、上記した方法で総蛋白質含有量、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量、澱粉損傷度およびα化度を上記した方法で測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0044】
《製造例4》[熱処理米粉(D1)〜(D2)の調製]
(1)米粉の製造:
(i) 原料米(新潟県産コシヒカリ)15kgを株式会社井関邦栄製造所製の電子自動洗米機「POLISH BOY RW−150」を用いて、温度15℃の水で3分間洗米した後、水から取り出してテンパリングを行なった(このときの米の水分含量=30.0質量%)。
(ii) 上記(i)で得られた加水・調湿した米(米粒)を、ホソカワミクロン社製「ACMパルベライザ」(分級機能付き気流式粉砕機)に、10kg/hrの供給量で供給して、粉砕ロータの回転数4000ppmおよび分級ロータの回転数1500ppm、気流温度30℃の条件下に粉砕し分級して粉砕機から取り出して、米粉(総蛋白質含有量=62mg/g、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量=31mg/g、澱粉損傷度=3.6%、α化度=6.1%)([以下「米粉(D0)」という]を製造した。
(2) 上記(1)で得られた米粉(D0)の650gずつをポリプロピレン/ポリエステル積層フィルムからなるパウチに入れたものを2個作製した。
(3) 上記(2)で作製した第1のパウチ入り米粉を、パウチの口を閉じて100℃の恒温槽に入れて10分間熱処理した後、恒温槽から取出し、全体の温度が常温(25℃)になった段階でパウチから熱処理米粉[以下「熱処理米粉(D1)」という]を取り出して、熱処理米粉(D1)の総蛋白質含有量、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量、澱粉損傷度およびα化度を上記した方法で測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
(4) 上記(2)で作製した第2のパウチ入り米粉を、パウチの口を閉じて100℃の恒温槽に入れて30分間熱処理して熱処理米粉(D2)を調製し、全体の温度が常温(25℃)になった段階でパウチから熱処理米粉(D2)を取り出して、上記した方法で総蛋白質含有量、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量、澱粉損傷度およびα化度を上記した方法で測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0045】
【表1】
【0046】
《実施例1》[ホットケーキ用ミックス粉およびホットケーキの製造]
(1) 製造例1で用いた熱処理前の米粉(A0)、製造例1で得られた熱処理米粉(A1)〜(A7)、製造例2で用いた熱処理前の米粉(B0)、製造例2で得られた熱処理米粉(B1)、製造例3で用いた熱処理前の米粉(C0)、製造例3で得られた熱処理米粉(C1)〜(C2)、製造例4で用いた熱処理前の米粉(D0)、製造例4で得られた熱処理米粉(D1)〜(D2)のそれぞれに、砂糖、グルコース、食塩および膨張剤(炭酸水素ナトリウム)を下記の表2に示す量で配合して、ホットケーキ用ミックス粉をそれぞれ製造した。
【0047】
【表2】
【0048】
(2) 卵50gと牛乳150gを混合して調製した卵乳液200gを、上記の(1)で製造したそれぞれのホットケーキ用ミックス粉200gに加えてよく混ぜて生地をそれぞれつくった。
(3) 上記(2)で得られたそれぞれの生地を、170℃に予め加熱しておいたグリドル(鉄板)の上に、約12〜13cmの直径の円形に流し入れて2分間焼成した後、ひっくり返して4分間焼成してホットケーキをそれぞれ製造した。
(4) 上記(3)で得られたそれぞれのホットケーキの食感(モチモチ感)および飲み込み易さを下記の表3に示す評価基準にしたがって10名のパネラーが評価し、その平均値を採ったところ、下記の表4に示すとおりであった。
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
【0051】
上記の表4にみるように、実験番号2〜5、12および15〜16では、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が5〜35mg/gの範囲内である熱処理米粉を用いてホットケーキ用ミックス粉を調製し、当該ホットケーキミックス粉を用いてホットケーキを製造したことにより、モチモチ感の評点が2.0〜2.9点であってモチモチとして良好な食感を有し、しかも飲み込み易さの評点が2.2〜3.0点であって歯にまとわりつかず歯切れがよくて飲み込み易い、高品質のホットケーキが得られている。
【0052】
それに対して、実験番号1、9および11では、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が35mg/gよりも多い非熱処理米粉を用いてホットケーキ用ミックス粉を調製し、当該ホットケーキミックス粉を用いてホットケーキを製造したことにより、実験番号1、9および11で得られたホットケーキは、モチモチ感には優れているが、飲み込み易さの評点が1.3〜1.9点であって、歯にまとわりついて歯切れが悪く飲み込みにくい。
また、実験番号14では、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量は5〜35mg/gの範囲内にあるが熱処理されていない米粉をを用いてホットケーキミックス粉を調製し、当該ホットケーキミックス粉を用いてホットケーキを製造したことにより、実験番号14で得られたホットケーキは、モチモチ感には優れているものの、飲み込み易さの評点が1.4点であって、歯にまとわりついて歯切れが悪く飲み込みにくい。
【0053】
また、実験番号6〜8、10および13では、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が5mg/gよりも少ない熱処理米粉を用いてホットケーキ用ミックス粉を調製し、当該ホットケーキミックス粉を用いてホットケーキを製造したことにより、実験番号6〜8、10および13で得られたホットケーキは、飲み込み易いが、モチモチ感の評点が1.4〜1.8点であってモチモチ感が小さく、食感に劣っている。
【0054】
《実施例2》[お好み焼き用ミックス粉およびお好み焼きの製造]
(1) 製造例1で用いた熱処理前の米粉(A0)、製造例1で調製した熱処理米粉(A2)、(A3)および(A5)のそれぞれ100質量部に食塩2質量部を添加して、お好み焼き用ミックス粉をそれぞれ製造した。
(2) 上記(1)で得られたそれぞれのお好み焼き用ミックス粉102gに、水200gおよび全卵液50gを混合して生地をそれぞれ調製し、それぞれの生地に刻みキャベツ200gをそれぞれ加えて混ぜ合わせた、それを180℃に予め加熱しておいたグリドル(鉄板)の上に円形に流し入れて6分半焼成した後、ひっくり返して6分半焼成してお好み焼きをそれぞれ製造した。
(3) 上記(3)で得られたそれぞれのお好み焼きの食感(モチモチ感)および飲み込み易さを上記の表4に示す評価基準にしたがって10名のパネラーが評価し、その平均値を採ったところ、下記の表5に示すとおりであった。
【0055】
【表5】
【0056】
上記の表5にみるように、実験番号2および3では、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が5〜35mg/gの範囲内である熱処理米粉(A2)または(A3)を用いてお好み焼き用ミックス粉を調製し、当該お好み焼き用ミックス粉を用いてお好み焼きを製造したことにより、モチモチ感の評点が2.4点または2.1点であってモチモチとして良好な食感を有し、しかも飲み込み易さの評点が2.8点または2.2点であって歯にまとわりつかず歯切れがよくて飲み込み易い、高品質のお好み焼きが得られている。
【0057】
それに対して、実験番号1では、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が35mg/gよりも多い非熱処理米粉(A0)を用いてお好み焼き用ミックス粉を調製し、当該お好み焼き用ミックス粉を用いてお好み焼きを製造したことにより、実験番号1で得られたお好み焼きはモチモチ感には優れているが、飲み込み易さの評点が1.9点であって、歯にまとわりついて歯切れが悪く飲み込みにくい。
また、実験番号4では、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が5mg/gよりも少ない熱処理米粉(A5)を用いてお好み焼き用ミックス粉を調製し、当該お好み焼き用ミックス粉を用いてお好み焼きを製造したことにより、実験番号4で得られたお好み焼きは、飲み込み易いが、モチモチ感の評点が1.5点であってモチモチ感に欠け、食感に劣っている。
【0058】
《実施例3》[蒸しパン用ミックス粉および蒸しパンの製造]
(1) 製造例1で用いた熱処理前の米粉(A0)、製造例1で調製した熱処理米粉(A2)、(A3)および(A5)のそれぞれに、上白糖、ベーキングパウダーおよび食塩を下記の表6に示す量で配合して、蒸しパン用ミックス粉をそれぞれ製造した。
【0059】
【表6】
【0060】
(2) 上記(1)で得られたそれぞれの蒸しパン用ミックス粉500gに、牛乳290gおよび全卵液54gを混合して生地をそれぞれ調製し、アルミカップにそれぞれの生地を70gずつ流し入れた後、蒸し庫中で100℃で20分間蒸して蒸しパンをそれぞれ製造した。
(3) 上記(3)で得られたそれぞれの蒸しパンの食感(モチモチ感)および飲み込み易さを上記の表4に示す評価基準にしたがって10名のパネラーが評価し、その平均値を採ったところ、下記の表7に示すとおりであった。
【0061】
【表7】
【0062】
上記の表7にみるように、実験番号2および3では、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が5〜35mg/gの範囲内である熱処理米粉(A2)または(A3)を用いて蒸しパン用ミックス粉を調製し、当該蒸しパン用ミックス粉を用いて蒸しパンを製造したことにより、モチモチ感の評点が2.9点または2.2点であってモチモチとして良好な食感を有し、しかも飲み込み易さの評点が2.5点または2.3点であって歯にまとわりつかず歯切れがよくて飲み込み易い、高品質の蒸しパンが得られている。
【0063】
それに対して、実験番号1では、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が35mg/gよりも多い非熱処理米粉(A0)を用いて蒸しパン用ミックス粉を調製し、当該蒸しパン用ミックス粉を用いて蒸しパンを製造したことにより、実験番号1で得られた蒸しパンはモチモチ感には優れているが、飲み込み易さの評点が1.6点であって、歯にまとわりついて歯切れが悪く飲み込みにくい。
また、実験番号4では、0.05N酢酸可溶性蛋白質の含有量が5mg/gよりも少ない熱処理米粉(A5)を用いて蒸しパン用ミックス粉を調製し、当該蒸しパン用ミックス粉を用いて蒸しパンを製造したことにより、実験番号4で得られた蒸しパンは、飲み込み易いが、モチモチ感の評点が1.8点であってモチモチ感に乏しく、食感に劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の熱処理米粉組成物を用いることによって、モチモチとして良好な食感を有し、その一方で歯にまとわりつかず歯切れがよくて飲み込み易い菓子類または粉物類を製造することができ、その上小麦粉およびグルテンを含まない本発明の熱処理米粉組成物は、小麦アレルギー(グルテンアレルギー)の人でも安心して用いることができるので、ホットケーキ、パンケーキ、蒸しパン、タイ焼き、マフィン、マドレーヌ、バターケーキ、クッキー、ドーナツ、スコーン、ワッフル、シフォンケーキなどの菓子類、お好み焼き、もんじゃ焼き、たこ焼き、チヂミなどの粉物類の製造に有効に用いることができる。