(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5913639
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】酸化インジウム−酸化錫粉末の製造方法、ITOターゲットの製造方法及び水酸化インジウム−メタ錫酸混合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 1/00 20060101AFI20160422BHJP
C22B 58/00 20060101ALI20160422BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20160422BHJP
C22B 5/12 20060101ALI20160422BHJP
C22B 25/06 20060101ALI20160422BHJP
B09B 3/00 20060101ALI20160422BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20160422BHJP
【FI】
C25B1/00 Z
C22B58/00ZAB
C22B7/00 F
C22B5/12
C22B25/06
B09B3/00 303A
B09B3/00 304J
C23C14/34 A
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-557339(P2014-557339)
(86)(22)【出願日】2013年11月18日
(86)【国際出願番号】JP2013080994
(87)【国際公開番号】WO2014112198
(87)【国際公開日】20140724
【審査請求日】2015年3月9日
(31)【優先権主張番号】特願2013-6806(P2013-6806)
(32)【優先日】2013年1月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093296
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100173901
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 一輝
(72)【発明者】
【氏名】竹本 幸一
(72)【発明者】
【氏名】小庄 孝志
(72)【発明者】
【氏名】古仲 充之
【審査官】
向井 佑
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−208216(JP,A)
【文献】
特開平7−145432(JP,A)
【文献】
特開平6−329415(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00
C22B 58/00
C22B 7/00
C22B 5/00
JSTplus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元炉内で、ITOターゲットスクラップを還元ガスで還元して回収したインジウム−錫合金を、電解法により水酸化インジウム−メタ錫酸混合物とし、さらにこれを焙焼して酸化インジウム−酸化錫粉とし、ITO中の金属成分の組成を維持したままITOターゲットの原料とすることを特徴とする酸化インジウム−酸化錫粉の製造方法。
【請求項2】
請求項1で製造した酸化インジウム−酸化錫粉を、さらに造粒、成型、焼結を行い、ITOスパッタリングターゲットの製造時又は使用後に発生する高純度酸化インジウム−酸化錫含有スクラップから、ITO中の金属成分の組成比を維持したまま、ITOターゲットを製造することを特徴とするITOターゲットの製造方法。
【請求項3】
回収したインジウム−錫合金を陽極板として電解するに際して、電解液の供給量(L)、陽極板の電解面積(m2)、電流値(A)、時間(min)の関係を、0.01〜100.0 (L・m2)/(A・min)になるように調整して、電解液を流すことを特徴とする請求項1に記載の水酸化インジウム−メタ錫酸混合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ITO(酸化インジウム−酸化錫)スパッタリングターゲットの製造時又は使用後に発生する高純度酸化インジウム−酸化錫含有スクラップ(以後、「ITOスクラップ」と称呼する)を還元し、インジウム−錫合金を回収すると共に、これを酸化インジウム−酸化錫粉末とし、さらにこの酸化インジウム−酸化錫粉末を原料としてITOターゲットを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ITOスパッタリングターゲットは液晶表示装置の透明導電性薄膜やガスセンサーなどに広く使用されているが、多くの場合スパッタリング法による薄膜形成手段を用いて基板等の上に薄膜が形成されている。
このスパッタリング法による薄膜形成手段は優れた方法であるが、スパッタリングターゲットを用いて、例えば透明導電性薄膜を形成していくと、該ターゲットは均一に消耗していく訳ではない。
【0003】
このターゲットの一部の消耗が激しい部分を一般にエロージョン部と呼んでいるが、このエロージョン部の消耗が進行し、ターゲットを支持するバッキングプレートが剥き出しになる直前までスパッタリング操作を続行する。そして、その後は新しいターゲットと交換している。
したがって、使用済みのスパッタリングターゲットには多くの非エロージョン部、すなわち未使用のターゲット部分が残存することになり、これらは全てスクラップとなる。また、ITOスパッタリングターゲットの製造時においても、研磨粉、切削粉からスクラップが発生する。
【0004】
ITOスパッタリングターゲット材料には高純度材料が使用されており、価格も高いので、一般にこのようなスクラップからインジウムを回収することが行われている。
このインジウム回収方法として、従来、酸溶解法、イオン交換法、溶媒抽出法などの湿式精製を組み合わせた方法が用いられている。
例えば、ITOスクラップを洗浄及び粉砕後、塩酸に溶解し、溶解液に硫化水素を通して、亜鉛、錫、鉛、銅などの不純物を硫化物として沈殿除去した後、これにアンモニアを加えて中和し、水酸化インジウムとして回収する方法である。
【0005】
しかし、この方法によって得られた水酸化インジウムはろ過性が悪く操作に長時間を要し、Si、Al等の不純物が多く、また生成する水酸化インジウムはその中和条件及び熟成条件等により、粒径や粒度分布が変動するため、その後ITOターゲットを製造する際に、ITOターゲットの特性を安定して維持できないという問題があった。
【0006】
このようなことから、本発明者は先に、ITOインジウム含有スクラップを塩酸で溶解して塩化インジウム溶液とする工程、該塩化インジウム溶液に水酸化ナトリウム水溶液を添加してスクラップ中に含有する錫を水酸化錫として除去する工程、該水酸化錫を除去した後液から亜鉛によりインジウムを置換、回収し、さらにこの置換、回収したスポンジインジウムを固体の水酸化ナトリウムと共に溶解して粗インジウムメタルを作製した後、さらに該粗インジウムメタルを電解精製して高純度インジウムを得るインジウムの回収方法を提案した(特許文献1参照)。これによれば、高純度のインジウムを効率良く安定して回収することが可能となった。
【0007】
しかし、上記電解精製によってインジウムを回収する工程では、カソードに電析したメタルを鋳造する操作が必要となるが、この際に鋳造メタルの上に浮上する酸化物含有スクラップ(鋳造スクラップ)が発生するという問題がある。
従来、この鋳造スクラップは塩酸溶解、pH調製、亜鉛還元、アノード鋳造という電解精製の工程を踏まなければ処理できず、コスト高になるという問題があった。
【0008】
この問題を解決するために、ITOスパッタリングターゲットの製造時又は使用後に発生するITOスクラップからインジウムを回収する工程において、カソードに電析したメタルの鋳造の際に発生する鋳造スクラップから金属インジウムを効果的に回収する方法を提案した(特許文献2)。しかし、この場合は、鋳造メタルの上に浮上する亜酸化物含有鋳造スクラップという限定した対象物であるため、汎用性に欠けるという問題があった。
【0009】
この他、インジウムの高純度化又は回収する技術として、次の文献が開示されているが、いずれも工程が煩雑であるという問題がある。参考まで掲示する。
特許文献3には、化合物半導体用の原料として使用する高純度インジウムを製造する方法で、インジウム中に存在する正3価のインジウム酸化物を還元して正1価の酸化物に変成する工程、これを蒸発させた後、第2の加熱温度で、残存する不純物を除去する工程からなるインジウムの純化方法が開示されている。
特許文献4には、ITOスクラップからインジウムを回収する方法で、ITOスクラップを750〜1200°Cで還元ガスにより還元して金属インジウムとした後、このインジウムを電解精製する方法が開示されている。
【0010】
特許文献5には、IXOスクラップからインジウムを回収する方法で、IXOスクラップを粉砕し、カーボン粉を混合し、これを還元炉に入れ、加熱還元すると同時に、亜鉛を蒸気として系外に排出する工程からなり、この工程で得た粗インジウムを電解精製する工程からなるインジウムの回収方法が開示されている。
【0011】
特許文献6には、塩酸濃度が1〜12Nであって、インジウム濃度が20g/L以下のインジウムを含有する塩酸溶液を溶媒和抽出型の抽出剤で抽出し、次にpHが0〜6である希酸で逆抽出し、さらにこれを活性炭処理して油分を除去した後、電解採取するか又は中和して水酸化物とした後、カーボン又は水素で還元するか又は硫酸で溶解し、電解してインジウムを回収する方法が開示されている。
【0012】
特許文献7には、プラズマ炉を使用し、気体状態のインジウムを凝縮させるスプラッシュコンデンサーを設けた廃棄物からのインジウム回収方法が開示されている。
特許文献8には、酸化インジウム、酸化錫を含有する塊状物を還元雰囲気にて還元し、インジウム・錫合金アノードを製造した後、2回インジウム電解精製して、高純度インジウムと粗錫を回収する方法が開示されている。
【0013】
また、ITOターゲットの原料となる酸化インジウム、酸化錫粉末を製造する技術として、本発明者は次の特許を提案した。
特許文献9には、インジウムを陽極として電解することにより得た水酸化インジウムをか焼することを特徴とする、酸化インジウムの製造方法が開示されている。
特許文献10には錫を陽極として電解することにより得たメタ錫酸をか焼することを特徴とする、酸化錫の製造方法が開示されている。
これらは出発原料が金属単体で、それぞれの酸化物を製造する技術となっている。
【0014】
本発明者は更に、ITOターゲットの製造方法、又はその原料となる酸化インジウム-酸化錫粉末の製造方法として、次の特許を提案した。
特許文献11にはITOターゲットの製造方法として、水酸化インジウムを分散させた分散溶液とメタ錫酸を分散させた分散溶液を混合して混合分散溶液とし、この混合分散溶液を乾燥させた後焙焼し、これによって得た酸化物混合粉末の成型体を焼結する事を特徴とするITOターゲットの製造方法である。
【0015】
特許文献12にはインジウムと錫との合金を陽極としてこれを電解し、得られた水酸化インジウムとメタ錫酸の混合沈積物をか焼することを特徴とする、酸化インジウム-酸化錫粉末の製造方法である。この特許も前者は水酸化インジウムとメタ錫酸の分散溶液を個別に作製するものであり、後者は、陽極となるインジウムと錫との合金の製造方法について、何ら具体的に述べてはいない。
【0016】
上記の通り、従来、ITOのリサイクルは湿式を主体とした工程であるため、有害な酸、アルカリなどの薬品を使用し、分離した副生成物も適切な処理が必要になる等、環境への負荷(結果として、これに対応する為のコスト)が相対的に大きいという問題があった。また、ITOのリサイクルは主に価格の高いインジウムの回収を目的としたもので、錫とは別に分離精製されている。錫は付加的に個別に回収することもある。
【0017】
このため、回収された単体金属を使用した工程で酸化インジウムを生成し、別途用意した酸化錫と混合するか、又は、別に用意した金属単体を合金にしてから使用することになるため、何れの方法でも都度、金属単体または酸化物の秤量及び調合が必要であるという問題があった。
【0018】
ITOの原料となる酸化物の製造方法において、特許文献10、特許文献12では、錫、或いはインジウムと錫との合金を陽極としてこれを電解する場合、通常のいわゆる平波による電解法が可能と記載されているが、実際には表面にメタ錫酸が発生することによって不動態化が起こり安定した電解が出来なくなる。その為、実施例は全て極性を周期的に反転させる電解法(PR電解法)となっている。
【0019】
また、特許文献11では、先に述べた錫の不動態化の問題から、コストの面で溶解沈澱法が有利であるとしている。一方、インジウムは電解法が良いとされているので、製造方法が相反することになり、インジウムと錫との合金を用いた酸化インジウム-酸化錫粉末の製造方法は技術的には可能でも、実用できないと考えられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2002−69544号公報
【特許文献2】特開2002−241865号公報
【特許文献3】特開昭63−250428号公報
【特許文献4】特開平7−145432号公報
【特許文献5】特開2002−3961号公報
【特許文献6】特開2002−201026号公報
【特許文献7】特開2009−293065号公報
【特許文献8】特開2011−208216号公報
【特許文献9】特開平6−171937号公報
【特許文献10】特開平6−199523号公報
【特許文献11】特開2001−303239号公報
【特許文献12】特開平6−329415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
ITOターゲットは、その製造工程で混入する一部の不純物を除いて高純度であり、従来の精製工程では一方の原料である錫を除くことが主な目的となっている。又、従来のインジウム回収、精製工程では、ITOを酸浸出する時に反応性を向上させるため機械的に粉砕するが、この工程がさらなる汚染源となり、インジウム回収、精製工程を複雑にしている面もある。
【0022】
本発明者らは、これまでとは発想を変え、汚染をする事無くITOターゲット製造工程で混入する不純物を除去し、且つインジウムと共に錫も合金として同時に回収し、このインジウム-錫合金を用いた酸化インジウム-酸化錫製造方法が出来れば、リサイクルを含めたITO製造工程の大幅な簡略化が可能ではないかと考えた。
【0023】
そこで鋭意検討を行った結果、粉砕や酸浸出等の機械的、化学的処理を行わず、高温の還元性ガス雰囲気中で還元するだけで、汚染をすること無く、インジウムと共に錫も合金として同時に回収すること、更にインジウム-錫合金の組成は、元のITOスクラップの金属比率を維持できるとの知見を得た。
【0024】
次に、得られたインジウム-錫合金を陽極として電解するにあたり、陽極を不動態化させない条件として、電解液の供給量と電解面積、電流値、電解時間の関係がある所定内の範囲を満たすことが必要であり、これを適正にすることで、不動態化をすること無くインジウム-錫合金を陽極として電解することを可能とする。
そして、得られた電解生成物を焙焼して、酸化インジウム-酸化錫粉とし、更に造粒、成型、焼結する事で金属単体を出発原料とした場合と同等のITOターゲットの製造を可能とするものである。
【0025】
本発明は、インジウム−錫のリサイクルを酸化物の還元だけとする事で工程を簡素化し、従来法に比べて製造コストを削減する。さらに、副生成物が水だけになる事で、有害な物質の取り扱い、発生を抑制し、以って環境への負荷を低減させる。
【課題を解決するための手段】
【0026】
すなわち、本発明は、次の発明を提供する。
1)還元炉内で、ITOターゲットスクラップを還元ガスで還元し、ITO中の金属成分の組成比を維持したまま、ITOターゲットの原料となるインジウム−錫合金を回収する方法。
2)還元炉内で、炉内温度を750〜1200°Cとし、還元ガスとして水素を使用し、水素導入量をITOターゲットスクラップ1kgあたり500〜1,000Lとして還元することを特徴とする上記1)記載のインジウム−錫合金の回収方法。
3)上記1)及び2)で回収したインジウム−錫合金を、電解法により水酸化インジウム−メタ錫酸混合物とし、さらにこれを焙焼して酸化インジウム−酸化錫粉とし、ITO中の金属成分の組成を維持したままITOターゲットの原料とすることを特徴とする酸化インジウム−酸化錫粉の製造方法。
【0027】
4)上記3)で製造した酸化インジウム−酸化錫粉を、さらに造粒、成型、焼結を行い、ITOスパッタリングターゲットの製造時又は使用後に発生する高純度酸化インジウム−酸化錫含有スクラップから、ITO中の金属成分の組成比を維持したまま、ITOターゲットを製造することを特徴とするITOターゲットの製造方法。
5)電解液の供給量と電解面積、電流値、電解時間の間で、0.01〜100.0(L・m
2)/(A・min)の関係が成立するように電解液を電解槽に供給する量を調整することを特徴とする上記3)記載の水酸化インジウム−メタ錫酸混合物の製造方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、ITOスパッタリングターゲットの製造時又は使用後に発生する高純度酸化インジウム−酸化錫含有スクラップからインジウム−錫合金を回収すると共に、これを酸化インジウム−酸化錫粉末とし、さらにこの酸化インジウム−酸化錫粉末を原料としてITOターゲットを製造する技術を提供することができる優れた効果を有する。すなわち、スクラップをそのまま合金に還元し、得られた合金の組成を維持したままITO製造に使用し、これにより製造工程での組成の制御及び調整を簡素化する。
また、インジウム−錫のリサイクルを酸化物の還元だけとする事で工程を簡素化し、従来法に比べて製造コストを削減することができるという効果を有する。さらに、副生成物を水だけとすることができるので、有害な物質の取り扱い、発生を抑制し、以って環境への負荷を低減させることができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】従来のITOスクラップを原料とし、インジウムと錫とを、それぞれ別々に回収する工程の説明図である。
【
図2】従来のITOスパッタリングターゲットの製造工程の概要を説明する図である。
【
図3】本願発明の、ITOスクラップを原料とし、ガス還元工程を経て、インジウム−錫合金を製造し、次にこれを電解、焙焼工程を経て酸化インジウム−酸化錫粉とし、これをさらに造粒、成型、焼結工程を経て、バッキングプレートに接合しITOスパッタリングターゲットする製造工程と、使用済みターゲット及びこのITOスパッタリングターゲット製造工程から出る加工屑を、再度ITOスパッタリングターゲットの原料とする、リサイクル工程の概要を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、ITO焼結体スクラップ(使用済みターゲット、加工端材)を原料として、再びITOターゲットを製造する技術であり、概要は次の通りである。
具体的にはITOスクラップを還元性ガスで還元し、インジウム−錫合金として回収するものである。次に、この回収したインジウム−錫合金を陽極として、SUS製の金属板を陰極板として用い、電解液には硝酸アンモニウムを用いて、電気分解して水酸化インジウム−メタ錫酸混合物を生成させる。さらにこの混合物を濾過回収し、乾燥粉を経て、酸化インジウム-酸化錫粉を製造する。このようにして得た酸化インジウム-酸化錫粉を、造粒、成型、焼結してITO焼結体を作製する。これを切断、研削等の加工で所定の寸法にして、バッキングプレートに接合してITOターゲットを製造する。
【0031】
図3に、還元炉内でITOターゲットスクラップを還元ガスで還元し、ITOの金属成分の組成比を維持したまま、インジウム−錫合金を回収し、これを用いてITOスパッタリングターゲットを製造する方法の概略説明図を示す。
【0032】
ITOターゲットスクラップを還元する還元炉にスクラップを導入し、該還元炉に水素ガスを導入する。還元に際しては、前記スクラップを加熱装置で750〜1200°Cとし、前記酸化物スクラップを還元する。水素導入量をITOターゲットスクラップ1kgあたり500〜1,000Lとして還元する。
このように、粉砕や酸浸出等の機械的、化学的処理を行わずに、高温の還元性ガス雰囲気中で還元するだけで、汚染をすること無く、インジウムと共に錫も合金として同時に回収できること、更にインジウム-錫合金の組成は、元のITOスクラップの金属比率を維持できることは、ITOスクラップのリサイクルを簡便な方法で行うということから極めて重要なことである。
【0033】
以上による金属インジウム−錫の回収方法は、従来に比べはるかに容易に、しかも安価に回収できるという特徴がある。得られたインジウム−錫合金を陽極とし、SUS製の金属板を陰極板として用いて、電解装置内で電解を行い、水酸化インジウム−メタ錫酸混合物を生成させる。これを濾過乾燥、焙焼して酸化インジウム-酸化錫粉とする。その後、造粒、成型、焼結工程を経てITOターゲットを製造する。
電解工程で陽極を不動態化させない為には、電解液の供給量(L)と電解面積(m
2)、電流値(A)、電解時間(min)の関係を(電解液の供給量L×電解面積m
2)/(電流値A×電解時間min)とした場合に、0.01〜100.0 (L・m
2)/(A・min)になるように電解液を流す。ここで、この電解面積とは、電解槽中で平行になるように配置されたインジウム−錫合金の陽極板と陰極板に対して、インジウム−錫合金の陽極板の、陰極板に対向する表裏両面の合計面積を意味している。
このように、得られたインジウム-錫合金を陽極として電解するにあたり、陽極を不動態化させない条件として、電気量(電流値×時間)当たりの、電解面積と電解液量(電解液の供給量)を適正に調整することは、不動態化をすること無くインジウム-錫合金を陽極として電解することを可能とする上で、極めて重要な意味を持つものである。
【実施例】
【0034】
次に、実施例について説明する。なお、本実施例は発明の一例を示すためのものであり、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。すなわち、本発明の技術思想に含まれる他の態様及び変形を含むものである。
【0035】
本発明のITOターゲット製造方法の例として、ITOスパッタリングターゲットの製造時又は使用後に発生する高純度酸化インジウム含有スクラップからインジウム−錫合金を回収し、これを陽極として電解し、得られた水酸化インジウム‐メタ錫酸混合物を焙焼して酸化インジウム‐酸化錫粉とし、これを造粒、成型、焼結してITOターゲットを製造する工程を実施例1〜5に基づいて説明する。
【0036】
なお、ITOを還元するために投入する水素量は、理論反応量とし、具体的には、ITO1kg当たり492Lの水素を投入した。また、後述するITO反応率及び水素還元反応効率について、例えば、反応したITO1kgのうち半分の500gが反応した(インジウム錫合金412gが得られた)場合、ITO反応率は50%と算出できる。
また、ITO500gを還元するのに消費された水素は492L×500g/1kg=246Lとなり、この場合、水素還元反応効率は50%と算出することができる。このようにITO1kg当たり492Lの比率で水素を導入している限り、後述のITO反応率と水素還元効率は同じ値となる。
【0037】
(実施例1)
ITOスクラップ5,000g(金属分4,210g)を還元炉に入れて、水素を5L/min流しながら、1,000℃まで2時間かけて昇温し、その後16時間保持した。加熱を停止した後、炉内の回収容器内に回収された合金重量は3,760gで反応率は91%であった。また、反応容器内には残渣が一部残った。
回収された合金中の主成分であるインジウムと錫の成分濃度を、蛍光X線分析(XRF:X-ray Fluorescence Analysis)法によって測定した結果、In品位は90.02wt%、Sn品位は9.98wt%であった。また、該合金中の他の不純物元素の濃度を、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP:Inductively Coupled Plasma発光分光法)によって測定した結果、Niが2ppm検出された以外、Cd、Cu、Fe、は<1ppm、Al、Bi、Cr、Pb、Sn、Znは<5ppm、Si、Ti、Zrは<10ppmとなり、Ni以外の全ての不純物元素は定量下限未満であった。
【0038】
この回収したインジウム−錫合金を陽極として、電気分解して水酸化インジウム‐メタ錫酸混合物を生成させた。この時の電解液の流れの強さ(電解液供給速度)は、1.0 (L・m
2)/(A・min)とした。さらにこの混合物を濾過回収し、乾燥粉を経て、酸化インジウム‐酸化錫粉を製造した。得られた酸化インジウム‐酸化錫粉中の酸化錫品位は10.21wt%であった。
【0039】
このようにして得た酸化インジウム‐酸化錫粉を、組成の微調整の後、造粒、成型、焼結してITO焼結体を作製した。得られた焼結体の密度は7.132g/cm
3と高密度なものであり、ターゲットに使用するのに好適なものであったため、これを切断、研削等の加工で所定の寸法にして、バッキングプレートに接合してITOターゲットを製造したところ、品質に問題のないものが得られた。
【0040】
(実施例2)
ITOスクラップ5,000g(金属分4,210g)を還元炉に入れて、水素を10L/min流しながら、1,000℃まで2時間かけて昇温し、その後6時間保持した。加熱を停止した後、炉内の回収容器内に回収された合金重量は3,960gで反応率は96%であった。又、反応容器内には残渣が一部残った。
回収された合金中の主成分元素の品位と残留不純物濃度は実施例1と同様の分析方法によってそれぞれ分析した結果、該合金中のIn品位は90.63wt%、Sn品位は9.37wt%であり、他の不純物はNiが2ppm検出された以外、Al、Bi、Cd、Cu、Cr、Fe、Pb、Si、Ti、Zn、Zrは全て定量下限未満であった。
【0041】
この回収したインジウム−錫合金を陽極として、電気分解して水酸化インジウム‐メタ錫酸混合物を生成させた。この時の電解液の流れの強さ(電解液供給速度)は、2.0 (L・m
2)/(A・min)とした。さらにこの混合物を濾過回収し、乾燥粉を経て、酸化インジウム‐酸化錫粉を製造した。得られた酸化インジウム‐酸化錫粉中の酸化錫品位は9.53wt%であった。このようにして得た酸化インジウム‐酸化錫粉を、組成の微調整の後、造粒、成型、焼結してITO焼結体を作製した。
得られた焼結体の密度は7.135g/cm
3と高密度なものであり、ターゲットに使用するのに好適なものであったため、これを切断、研削等の加工で所定の寸法にして、バッキングプレートに接合してITOターゲットを製造したところ、品質に問題のないものが得られた。
【0042】
(実施例3)
ITOスクラップ10,000g(金属分7,480g)を還元炉に入れて、水素を10L/min流しながら、1,000℃まで2時間かけて昇温し、その後8時間保持した。
加熱を停止した後、炉内の回収容器内に回収された合金重量は7,780gで反応率は94%であった。又、反応容器内には残渣が一部残った。回収された合金中の主成分元素の品位と残留不純物濃度は実施例1と同様の分析方法によってそれぞれ分析した結果、該合金中のIn品位は90.65wt%、Sn品位は9.35wt%、他の不純物はFe、Niが各2ppm検出された以外、Al、Bi、Cd、Cu、Cr、Pb、Si、Ti、Zn、Zrは全て定量下限未満であった。
【0043】
この回収したインジウム−錫合金を陽極として、電気分解して水酸化インジウム‐メタ錫酸混合物を生成させた。この時の電解液の流れの強さ(電解液供給速度)は、1.0 (L・m
2)/(A・min)とした。さらにこの混合物を濾過回収し、乾燥粉を経て、酸化インジウム‐酸化錫粉を製造した。得られた酸化インジウム‐酸化錫粉中の酸化錫品位は9.89wt%であった。このようにして得た酸化インジウム‐酸化錫粉を、組成の微調整の後、造粒、成型、焼結してITO焼結体を作製した。
得られた焼結体の密度は7.128g/cm
3と高密度なものであり、ターゲットに使用するのに好適なものであったため、これを切断、研削等の加工で所定の寸法にして、バッキングプレートに接合してITOターゲットを製造したところ、品質に問題のないものが得られた。
【0044】
(実施例4)
ITOスクラップ24,000g(金属分19,780g)を還元炉に入れて、水素を40L/min流しながら、1,000℃まで1時間かけて昇温し、その後5時間保持した。加熱を停止した後、炉内の回収容器内に回収された合金重量は14,064gで反応率は71%であった。又、反応容器内には残渣が一部残った。回収された合金中の主成分元素の品位と残留不純物濃度は実施例1と同様の分析方法によってそれぞれ分析した結果、該合金中のIn品位は90.19wt%、Sn品位は9.81wt%、他の不純物はFe、Niが各3ppm検出された以外、Al、Bi、Cd、Cu、Cr、Pb、Si、Ti、Zn、Zrは全て定量下限未満であった。
【0045】
この回収したインジウム−錫合金を陽極として、電気分解して水酸化インジウム‐メタ錫酸混合物を生成させた。この時の電解液の流れの強さ(電解液供給速度)は、2.0 (L・m
2)/(A・min)とした。さらにこの混合物を濾過回収し、乾燥粉を経て、酸化インジウム‐酸化錫粉を製造した。得られた酸化インジウム‐酸化錫粉中の酸化錫品位は10.15wt%であった。
【0046】
このようにして得た酸化インジウム‐酸化錫粉を、組成の微調整の後、造粒、成型、焼結してITO焼結体を作製した。得られた焼結体の密度は7.138g/cm
3と高密度なものであり、ターゲットに使用するのに好適なものであったため、これを切断、研削等の加工で所定の寸法にして、バッキングプレートに接合してITOターゲットを製造したところ、品質に問題のないものが得られた。
【0047】
(実施例5)
ITOスクラップ24,000g(金属分19,780g)を還元炉に入れて、水素を10L/min流しながら、1,000℃まで1時間かけて昇温し、その後20時間保持した。加熱を停止した後、炉内の回収容器内に回収された合金重量は16,986gで反応率は86%であった。また、反応容器内には残渣が一部残った。回収された合金中の主成分元素の品位と残留不純物濃度は実施例1と同様の分析方法によって分析した結果、該合金中のIn品位は90.32wt%、Sn品位は9.68wt%、他の不純物はCuが1ppm、Feが3ppm、Niが5ppm各検出された以外、Al、Bi、Cd、Cr、Pb、Si、Ti、Zn、Zrは全て定量下限未満であった。
【0048】
この回収したインジウム−錫合金を陽極として、電気分解して水酸化インジウム‐メタ錫酸混合物を生成させた。この時の電解液の流れの強さ(電解液供給速度)は、1.0 (L・m
2)/(A・min)とした。さらにこの混合物を濾過回収し、乾燥粉を経て、酸化インジウム‐酸化錫粉を製造した。得られた酸化インジウム‐酸化錫粉中の酸化錫品位は10.32wt%であった。
【0049】
このようにして得た酸化インジウム‐酸化錫粉を、組成の微調整の後、造粒、成型、焼結してITO焼結体を作製した。得られた焼結体の密度は7.135g/cm
3と高密度なものであり、ターゲットに使用するのに好適なものであったため、これを切断、研削等の加工で所定の寸法にして、バッキングプレートに接合してITOターゲットを製造したところ、品質に問題のないものが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、ITOスパッタリングターゲットの製造時又は使用後に発生する高純度酸化インジウム含有スクラップからインジウム−錫合金を回収すると共に、これを酸化インジウム−酸化錫粉末とし、さらにこの酸化インジウム−酸化錫粉末を原料としてITOターゲットを製造する技術を提供する。すなわち、スクラップをそのまま合金に還元し、得られた合金の組成を維持したままITO製造に使用し、これにより製造工程での組成の制御及び調整を簡素化する。また、インジウム−錫のリサイクルを酸化物の還元だけとする事で工程を簡素化し、従来法に比べて製造コストを削減することができるという効果を有する。さらに、副生成物が水だけになる事で、有害な物質の取り扱い、発生を抑制し、以って環境への負荷を低減させることができるという優れた効果を有する。このようにして製造されたターゲットは、金属単体を出発原料とした場合と同等である。