(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】紫外光源を有する除電機構を備えた走査電子顕微鏡の一例を示す図。
【
図2】紫外光源から静電チャックに直接紫外光を照射する除電機構を備えた走査電子顕微鏡の一例を示す図。
【
図3】紫外光源から静電チャックに直接紫外光を照射したときの除電効果を示す図。
【
図4】静電チャックとは異なる位置に紫外光を照射する除電機構を備えた走査電子顕微鏡の一例を示す図。
【
図5】紫外光源から紫外光を照射したときの静電チャック上の帯電分布を示す図。
【
図6】紫外光源から紫外光を照射したときの繰り返し回数と、除電に要する時間の関係を示す図。
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図7】紫外光の静電チャックへの直接的な照射を遮断する遮蔽部材を有する除電機構の一例を示す図。
【
図8】紫外光の静電チャックへの直接的な照射を遮断する遮蔽部材の一例を示す図。
【
図9】紫外光源から遮蔽部材に紫外光を照射したときの静電チャックの除電効果を示す図。
【
図10】紫外光源から遮蔽部材に紫外光を照射したときの静電チャック上の帯電分布を示す図。
【
図11】紫外光の静電チャックへの直接的な照射を遮断する遮蔽部材の一例を示す図。
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図12】除電工程を含まない電子顕微鏡を用いた測定工程を示すフローチャート。
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図13】除電工程を含む電子顕微鏡を用いた測定工程を示すフローチャート。
【
図16】試料室内に設けられた除電位置と遮蔽部材との位置関係を示す図。
【
図17】紫外光の静電チャックへの直接的な照射を遮断する遮蔽部材を有する除電機構の一例を示す図。
【
図18】紫外光の静電チャックへの直接的な照射を遮断する遮蔽部材を有する除電機構の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、荷電粒子線装置の一例として、CD−SEMを例にとり、CD−SEMの測定の基本原理を簡単に説明する。基本的には走査型電子顕微鏡と同じである。電子銃から一次電子を放出させ、電圧を印加して加速する。その後、電磁レンズによって電子ビームのビーム径を細く絞る。この電子ビームを半導体ウェハ等の試料上に2次元的に走査する。走査した電子ビームが試料に入射することにより発生する二次電子を検出器で検出する。この二次電子の強度は、試料表面の形状を反映するので、電子ビームの走査と二次電子の検出を同期させてモニタに表示することで、試料上の微細パターンが画像化できる。CD−SEMでは、例えばゲート電極の線幅を測定する場合には、得られた画像の明暗の変化に基づいてパターンのエッジを判別して寸法を導き出す。以上がCD−SEMの測定原理である。
【0012】
このCD−SEMは半導体製造ラインにおけるデバイスパターンの寸法測定に使用されるため、分解能、測長再現性といった電子顕微鏡としての性能だけでなく、スループットが非常に重要となる。スループットを決定する要因は複数存在するが、特に影響が大きいのがウェハを積載しているステージの移動速度と画像を取得するときのオートフォーカスに要する時間である。この2項目を改善するのに有効な手段として、ステージの静電チャック化が挙げられる。すなわち、ウェハを静電チャックで安定的に固定することができれば、ウェハがステージからズレ落ちたりすることなく高加速度、高速度で搬送することが可能となる。また、静電チャックであればウェハ全面をほぼ均等な力で反りウェハなども平坦化して固定できるため、ウェハ面内の高さ分布が均一化しフォーカス合わせをするために対物レンズのコイルに流す電流値を決定する時間、すなわちオートフォーカス時間が短縮される。
【0013】
このように、静電チャックを電子顕微鏡に適用することでさまざまな性能の改善効果が期待できるが、その特性に起因する課題も存在する。例えば、静電チャックはウェハを保持する面は電気絶縁性の高いセラミックスで覆われているため、ウェハと静電チャックとの間の接触や摩擦によって帯電が発生し、静電チャック上に残留電荷として蓄積する。この蓄積した残留電荷は、取得する画像のフォーカスぼけの原因となるだけでなく、残留電荷に起因した残留吸着力が発生し、スループットの低下や搬送エラーを引き起こす可能性がある。
【0014】
また、周囲の異物を静電気力によって吸い寄せ、ウェハ上へ付着させる要因となる可能性もある。この接触・摩擦によって発生する帯電は、摩擦量やウェハの吸着力を低減することにより抑制することはできるものの、完全に無くすことはできない。したがって、静電チャックを適用した電子顕微鏡を安定して稼働させるためには、静電チャック上に蓄積する残留電荷を定期的に除去する必要がある。
【0015】
残留電荷を除去(以下、除電と呼ぶ)する手段としては、次に列挙する3つの手段がある。1つ目は、静電チャック表面をアルコールなどの有機溶剤で浸した布でクリーニングする方法である。本手法によれば、静電チャック上に塗布された溶剤を介して残留電荷を除去することが可能である。しかしながら、クリーニングのため一度静電チャックを設置した真空容器を大気開放しなくてはならず、大気開放と次の真空排気に多大な時間を要することになる。次に、2つ目の手段として、静電チャックを設置した真空容器内でプラズマを発生させ、残留ガスの解離により帯電を中和させる手法がある。本手法によれば、真空容器を大気開放せずに除電が可能であるが、エネルギーの大きい荷電粒子を多く発生させるため、装置内部品へ与えるダメージを与えてしまう可能性がある。最後に、3つ目の手段として、真空容器内に紫外線を照射し、電離した残留ガスイオンおよび電子により帯電を中和させ、除電する方法がある。本手法によれば、装置を真空に保ったまま除電を行うことができ、また、生成されるイオンおよび電子のエネルギーは極めて小さいため、装置内部品にダメージを与えることもない。
【0016】
しかしながら、紫外線照射による除電では、CD−SEMのように残留電荷の影響を受けやすい装置の場合、紫外線照射による光電効果の影響が無視できない。
図2に、紫外線除電機能をCD−SEMに適用した一例を示す。電子ビームを放出する電子銃などを備えた鏡筒1は、試料室2と接続されている。また、試料室2は、ウェハ交換用の予備排気室3を備える。鏡筒1および試料室2は常時高真空に保たれており、予備排気室3は試料交換の際に大気開放され、ウェハ観察中は高真空に保たれる。試料室2内に設置されたX−Yステージ4上には、静電チャック5が固定されており、ウェハ観察の際には図示しないウェハを静電チャック5上に保持し、静電チャック5と共に動作するX−Yステージ4を移動させてウェハ上の任意の位置を観察する。
【0017】
試料室2には、静電チャック5の表面に蓄積された残留電荷を除去するための紫外線光源6が設置されている。紫外線光源6から放出された紫外線は、紫外線照射領域8内を伝搬する。紫外線照射領域8内では、紫外線照射により残留ガスが電離し、生成された残留ガスイオンおよび電子が静電チャック上へ到達し、残留電荷を中和する。
【0018】
図3に、このような構成において静電チャック上の残留電荷を紫外線照射により除去した場合の、除電に要する時間を計測した結果の一例を示す。紫外線の照射により、残留電荷はただちに除去されるが、紫外線照射を継続すると、正帯電が形成される。これは、静電チャック材料の仕事関数よりも大きなエネルギーを持った光が静電チャック上で光電効果を起こし、電子を放出した静電チャックが正に帯電するためである。この正帯電は、紫外線照射で発生した電子との結合により緩和されるので、ある一定のレベルで飽和するものの、紫外線が静電チャックに直接照射されるような構成では、残留電荷を完全に取り去ることはできない。
【0019】
静電チャック上に光電効果による正帯電を発生させないためには、静電チャックに直接紫外線が照射されない構成とする必要がある。たとえば
図4に示すように、紫外線光源6を水平方向にオフセットさせた位置に設置する方法が考えられる。
【0020】
このような構成とすれば、紫外線照射領域8は静電チャックと重ならないため、紫外線は直接静電チャックに照射されない。しかしながら、このような位置に紫外線光源6を配置した場合、除電の対象物である静電チャックと紫外線光軸との対称性が崩れるため、除電の進行に空間的な不均一が生じる。
【0021】
図5は、このような構成で配置して除電を実施した後の、静電チャック上の帯電分布を計測した結果の一例である。紫外線光源6から近い領域は除電が完了しているが、紫外線光源6から離れた領域の帯電が残っている。このような局所的な残留電荷は、その領域が小さければ、静電チャック上全体の平均の残留電荷としては僅かであるため、像観察上問題とはならない。しかしながら、試料内の計測位置を極力短時間で次々と計測していくことが求められる場合には、計測位置毎に実施するオートフォーカスの振り幅を大きくしなければならないため、装置のスループット低下を引き起こしてしまう。また、この局所的な残留電荷が蓄積していくと、除電に要する時間が大きくなっていく。
【0022】
図6に、このような構成とした場合の、除電時間の計測を繰り返し実施した例を示す。回数を追うごとに局所的な残留電荷が蓄積していくため、除電の時定数が大きくなっていく。紫外線照射を長時間実施すれば、紫外線光源6から離れた領域も除電されるため、除電の時定数は元の値に戻る。しかしながら、このような長時間照射は、装置のダウンタイムを長期化させてしまう。
【0023】
以下に説明する実施例では、静電チャックでウェハを保持し、電子ビームを用いてウェハ上のデバイスを計測、分析、または画像取得する走査電子顕微鏡において、静電チャックに蓄積した残留電荷を除去するための紫外線光源をその光軸が静電チャックの中心軸と同芯上に配置させ、この紫外線光源から照射される紫外線が直接前記静電チャックに到達することがないように遮蔽板を設け、紫外線を照射することにより生成された残留ガスイオンおよび電子のみが前記静電チャック上へ効率よく到達させることができるように遮蔽板に開口部を設けた構成について説明する。
【0024】
具体的には、真空排気される試料室を備えた走査電子顕微鏡において、試料室内に、試料を保持する静電チャックを含む試料ステージと、紫外光源と、当該紫外光源からの紫外光が照射される被照射部材を静電チャックの吸着面に面した位置に設けた走査電子顕微鏡について説明する。
【0025】
また、紫外線を静電チャックの側面方向から照射し、静電チャック上の空間を均一に紫外線が通過し、かつ静電チャックには直接照射されないような遮蔽板を設けた走査電子顕微鏡についても併せて説明する。
【0026】
以下に説明する実施例によれば、静電チャック上に蓄積した残留電荷を、短時間で確実かつ均一に除去することが可能となる。
【0027】
はじめに、
図1を用いて、第一の実施例を適用したCD−SEMの概略図を示す。10−4〜10−5Paの高真空に保たれた試料室2内のX−Yステージ4上には、静電チャック5が固定されており、図示しないウェハは静電チャック5上に保持される。静電チャックには、誘電体膜の固有抵抗率が1×109Ωcmから1012Ωcm程度のいわゆるジョンソンラーベック方式の静電チャックと、固有抵抗率がそれ以上のいわゆるクーロン方式の静電チャックの大きく2通りの方式が存在する。それぞれの静電チャック方式には特徴があるが、本実施例はいずれの方式に対しても有効である。本実施例では、リーク電流が実質的に0であるために、ウェハ電位の安定性に優れ、計測中の電位安定が重要なCD−SEMに適したAl
2O
3を素材とするクーロン方式の静電チャックをCD−SEMに適用した場合について説明する。
【0028】
この静電チャックの上には、紫外線光源6をその光軸が静電チャックと同軸となる配置で設けている。この紫外線光源から照射される紫外線の波長は、400nm以下である。物質はその物質固有の仕事関数よりも大きなエネルギーを持った波長の光が照射されると光電効果を起こして電子を放出するが、Al
2O
3の仕事関数は、波長140nmに相当するため、140nmよりも短い波長の光がAl
2O
3に照射されると光電効果が起こり、絶縁物質であるAl
2O
3は正に帯電する。本実施例は、静電チャック5と紫外線光源6の間に、紫外線が直接静電チャックに到達することなく、電離した残留ガスのみが静電チャック上に効率よく到達するように遮蔽板7を設置したことを特徴としており、光電効果による正帯電を防ぎながら、残留電荷を除去できる。
図7に、本実施例の特徴を詳細に示した図を示す。静電チャック5、紫外線光源6および遮蔽板7はすべて同軸上に配置されており、紫外線光源6からは、開口角α(図中寸法11)の領域に紫外線が照射される。また、静電チャック5の吸着面(上面)に対して垂線方向に、遮蔽板7が設置されると共に、遮蔽板7の紫外光の被照射部中心は、静電チャック5の吸着面中心と同軸に配置された状態で、紫外光照射がなされる。また、被照射部と静電チャック75の吸着面は、所定間隔分離間しているため、被照射部にて発生したガスは、拡散しつつ、吸着面に到達することになり、除電効果の均一化を実現できる。
【0029】
遮蔽板7は、紫外線光源6から距離l(図中寸法12)だけ離れた位置に設置されており、紫外線照射領域8と重ならない位置に通過穴9が設けられている。
図8に、遮蔽板7を紫外線光源6側から見た図を示す。本実施例では、通過穴として円形の穴を遮蔽板7の中心から同一半径上に均等に(軸対称に)8個所設けている。遮蔽板7上における紫外線照射領域8(被照射部)は、遮蔽板の中心から数式1で示す値r(図中寸法13)以下の範囲となる。
【0031】
通過穴9は、紫外線照射領域8と通過穴9が重ならないように、遮蔽板中心からの距離R(図中寸法14)および通過穴の径D(図中寸法15)が、数式2に示す関係を保つように配置する。
【0033】
このような構成とすれば、紫外線光源6から照射される紫外線は、遮蔽板7によって遮られるため静電チャック5には直接照射されず、かつ、紫外線照射領域8内で生成された残留ガスイオンおよび電子は、拡散や静電チャック5上に蓄積された残留電荷が作り出す電界によって通過穴9を通過して静電チャック5の表面まで到達し、残留電荷を中和させることができる。
図9に、本実施例を適用したCD−SEMにおいて、静電チャック上に蓄積された残留電荷を除電するのに要する時間を計測した結果の一例を示す。紫外線を直接照射する場合と同様にただちに除電を完了させることが可能であり、かつ、直接照射を行っていないため、照射継続に伴う正帯電の発生も無く、確実にゼロにすることができている。
【0034】
図10に、本実施例を適用した場合の、除電実施後の静電チャック上の帯電分布を計測した結果の一例を示す。静電チャックと紫外線光源を同軸上に配置しているため、空間的な対称性が保たれており、除電の不均一性が無い。したがって、本実施例を適用すれば、静電チャック上の残留電荷を、短時間で確実かつ均一に除去することが可能となる。
【0035】
次に、第二の実施例を説明する。第二の実施例では、
図8で示した遮蔽板7の代わりに、
図11に示す遮蔽板7aを利用する。遮蔽板7aは、
図1で示す遮蔽板7と同一個所に設置される。遮蔽板7aは、紫外線照射領域8と重ならない位置に、十字状の梁10および外周リング16を残して4個所の通過穴9aを設けている。通過穴9aの内側の径R′(図中寸法15)は、数式3で示す関係を保たれており、紫外線光源6から照射される紫外線は、遮蔽板7aによって遮られる。
【0037】
一方、紫外線照射により生成された残留ガスイオンおよび電子は、通過穴9aを通過できる。したがって、本実施例によれば、紫外線を直接静電チャックに照射することなく、電離した残留ガスのみを静電チャック上に到達させることが可能となる。
【0038】
尚、上記特徴は、静電チャックを紫外線が直接照射させずに、電離した残留ガスのみを静電チャック上に均一に到達させることであるため、静電チャックと紫外線光源が同軸上に配置された場合に限定しない。たとえば、紫外線を静電チャックの側面方向から照射し、静電チャック上の空間を均一に紫外線が通過し、かつ静電チャックには直接照射されないような遮蔽板を設ける構成とした場合でも、同様の効果が期待できる。
【0039】
但し、静電チャック中心と遮蔽部材の中心を一致させる構成によれば、比較的簡単な構成で帯電抑制効果の面内均一性を確保することが可能となる。
【0040】
ここで、本実施例のCD−SEMの計測シーケンスを説明する。
図12は、静電チャックの除電工程のない計測工程を示すフローチャートの一例であり、
図13は静電チャックの除電工程を含む計測工程を示すフローチャートの一例である。
【0041】
はじめに、
図12の計測フローチャートについて説明する。まず、図示しない搬送機構によりウェハが搬入され(18)、静電チャック上に積載される(19)。次に、静電チャック電源により電圧を印加し(20)、ウェハを静電吸着する。次いで、X−Yステージを動作させ、ウェハ上の計測すべきチップが電子ビーム照射位置にくるように所定の座標位置に移動する(21)。所定の位置へ移動が完了したら、オートフォーカスを実施して画像のフォーカスを合わせ(22)、電子ビームを走査して画像を取得し(25)、取得された画像をもとに画像処理し、目的の寸法を算出する(26)。予め設定されたレシピが完了(27)すると、ウェハがX−Yステージにより静電チャックとともに初期位置に移動される(28)。もし、レシピが完了しておらず、次のチップの計測や画像取得を行う場合には、再び次のチップの所定の座標に移動し計測を繰り返す(27)。初期位置に移動した静電チャックは、直流電源による給電を停止し(29)、装置外へ搬出される(30)。観察対象のウェハが複数ある場合は、この一連のシーケンスを順次複数のウェハに対し繰り返していくが、ウェハと静電チャックとの間の接触や摩擦が繰り返されることにより、静電チャック表面に残留電荷が蓄積していくと、ウェハ上の表面電位が次第にずれていく。ウェハ上の表面電位が変動すると、それに伴ってオートフォーカスで合わせるフォーカス値も変動するが、表面電位の変動量がある一定の値よりも大きくなると、オートフォーカスが追従できなくなり、フォーカス合わせに失敗する。フォーカスに失敗した場合、フォーカスを振る範囲を変更して(24)再度オートフォーカスを実施するが(23)、その分一回の測定に要する時間が増加し、装置スループットを低下させてしまう。
【0042】
次に、
図13の計測フローチャートについて説明する。本フローチャートは、観察対象のウェハを装置へ搬入する前に、対象ウェハよりも以前に搬入していたウェハの観察情報をもとに静電チャック上の帯電量をあらかじめ知っておき、その帯電量がある一定の値よりも大きい場合に、対象ウェハの搬入前に紫外線による除電を実行することを特徴とする。静電チャックの帯電量は、後述する制御装置内のメモリ(記録媒体)等に記録しておき、ウェハを搬入する前に、帯電量がある一定の値より大きいか否かを判断する。もし、帯電量がある一定の値より大きければ(31)、紫外線照射による除電を実行し(32)、帯電量がある一定の値よりも小さければ、除電は実行せずにウェハを搬入する(18)。この判断基準となるある一定の値は、オートフォーカスに失敗せず、また搬送精度の劣化や異物付着の増加を起こさない程度の値、すなわち除電を実行しなくても装置を安定して稼働できるような値に設定する。また、静電チャックの帯電量は、ウェハ面内の計測個所毎にオートフォーカスを実施する際のフォーカス変動量から算出し(33)、その平均値を記録媒体へ記録する(34)。この値は、ウェハ毎に更新され、観察対象となるウェハは、そのひとつ前のウェハで計測された帯電量をもとに、搬入前の除電が必要かどうかを判断する(31)。このようなフローチャートとすれば、静電チャック上に蓄積される残留電荷が装置運用上問題となる前に自動で静電チャックの除電を実行できるため、装置スループットを低下させることなく、安定して稼働し続けるCD−SEMを提供できる。尚、本実施例では新たに計測すべきウェハを搬入する前に紫外線照射を実施する例を開示したが、計測中のウェハの電位を計測し、このウェハを搬出した直後に紫外線照射を実施しても良い。また、ウェハに直接紫外線を照射すると、ウェハへダメージを与えてしまう可能性があるため、ウェハ搬入中には紫外線照射しないように安全回路が組み込まれているのは言うまでもない。
【0043】
尚、本シーケンスでは静電チャック上の帯電量をオートフォーカスの変動量から算出する手法を説明したが、例えば表面電位計などの電位計測手段を用いて静電チャック表面の帯電を直接計測し、その結果をもとに除電の要否を判断する構成としても良い。
【0044】
上記実施例によれば、静電チャックを適用した電子顕微鏡において、装置運用中に蓄積した静電チャック上の残留電荷を短時間で確実かつ均一に除去することが可能となり、装置稼働率低下を最小限に抑えながら、安定して性能を発揮し続けることができる走査電子顕微鏡を提供することが可能となる。
【0045】
図14は、走査電子顕微鏡本体1401と、走査電子顕微鏡を制御する制御装置1402からなる走査電子顕微鏡システムの一例を示す図である。制御装置1402には、走査電子顕微鏡本体1401の光学条件を制御する光学条件調整部1403と、検出電子に基づいて画像形成やプロファイル波形形成を行うと共に、当該画像信号等に基づいて、測定や検査を行う検出信号演算部1404が含まれている。また、図示しない静電チャックの除電を行う紫外光源の制御を行う紫外光源制御部1405、及び試料ステージを制御すると共に、静電チャックの電源のオンオフ制御を行うステージ制御部1406、及び制御装置の制御条件を予め記憶しておくメモリ1407が含まれている。
【0046】
以上のような構成を備えた走査電子顕微鏡システムは、
図15に例示するようなフローチャートに基づいて、静電チャックの除電を実行する。まず、試料室内にウェハが残っている場合には、試料室外にウェハを搬送し(ステップ1501)、試料室と予備排気室との間に設けられた真空バルブを閉じる(ステップ1502)。次に、除電を行う場所に静電チャックが搭載された試料ステージ4を移動する(ステップ1503)。除電を行う場所とは、例えば
図16に例示する静電チャック除電位置1601である。
図16は試料室1602内に設置された遮蔽部材1603と、静電チャック除電位置1601との位置関係を示す図であり、試料室1602の上視図である。静電チャック除電位置1601に静電チャックを移動させた後、図示しない紫外光光源より、遮蔽部材1603上の紫外線照射領域1604に紫外線を照射(ステップ1504)し、電離した残留ガスを発生させることによって、除電を行う。除電を終えた後、通常の測定、検査工程に復帰すべく、真空バルブ前のウェハ受け取り位置にステージを移動させる(ステップ1505)。
【0047】
遮蔽部材1603の遮蔽部より紫外線照射領域1604の方が小さく設定されているため、静電チャックへの紫外線の直接的な照射を避けつつ、電離した残留ガスを選択的に静電チャックに到達させることが可能となる。
【0048】
図17は、紫外光源6の下方(静電チャック側(重力場の向かう方向))に遮蔽材1701を設ける他の例を示す図である。
図17の例では、遮蔽部材1701が他の例と比較して簡単な構造となっている。このような構成によれば、比較的簡単な構成で直接的な紫外光の照射を抑制しつつ、電離した残留ガスを選択的に静電チャックに到達させることができるが、
図7の遮蔽板7のような外枠がないため、
図7に例示した遮蔽板の方が、静電チャックが存在する領域に選択的に残留ガスを到達させるのにより好適な構造となっている。
【0049】
図18は、紫外光を直接静電チャックに照射することなく、電離した残留ガスを発生させる更に他の構成を示す図である。紫外光1801は試料室側方から、被紫外光照射部1802に照射される。被紫外光照射部1802で発生した電離した残留ガスは、ガス供給口1803から下方に位置する静電チャックに供給される。このような構成によっても、直接的な紫外光の照射を抑制しつつ、電離した残留ガスを選択的に静電チャックに到達させることができる。但し、除電効果の均一化の観点から見れば、
図7等に例示するように、紫外光の光軸と遮蔽部材の中心位置と静電チャック中心位置が同軸上に位置する状態で、紫外光照射を行うことが望ましい。