特許第5914023号(P5914023)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5914023製膜組成物並びにそれを使用する製膜方法、積層構造体及び有機電子素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5914023
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】製膜組成物並びにそれを使用する製膜方法、積層構造体及び有機電子素子
(51)【国際特許分類】
   C08L 65/00 20060101AFI20160422BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20160422BHJP
   C08G 61/10 20060101ALI20160422BHJP
   C08K 5/05 20060101ALI20160422BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20160422BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20160422BHJP
【FI】
   C08L65/00
   C09K11/06 690
   C08G61/10
   C08K5/05
   H05B33/14 B
   H05B33/22 B
   H05B33/22 D
   H05B33/10
【請求項の数】7
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2012-31294(P2012-31294)
(22)【出願日】2012年2月16日
(65)【公開番号】特開2013-166871(P2013-166871A)
(43)【公開日】2013年8月29日
【審査請求日】2014年12月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080089
【弁理士】
【氏名又は名称】牛木 護
(72)【発明者】
【氏名】田中 健太
【審査官】 井津 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−128354(JP,A)
【文献】 特開2006−152167(JP,A)
【文献】 特開平10−292034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/16
C09D 1/00−201/10
C08J 5/00−5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素化アルコール1重量%以上と、
下記式(2)で表される構造を有する化合物Qを0.001重量%以上と、
を含有する、製膜組成物。
【化1】

(式中、
は、水素原子または置換基を有していてもよい炭素原子数1〜10のアルキル基もしくはシクロアルキル基であり、
Gは、−O−、−S−、−NR−(ここで、Rは前記の通り)またはこれらが連結した基で表される2価の基であり、
jは1〜50の整数であり、kは2以上の整数であり、
複数存在するR,G,jおよびkの各々は、同一でも異なっていてもよく、
Arは、式(Ar−8)で表される化合物から(m+2)個の水素原子を取り除いた基であり、
【化2】

Ar'は、(i+1)価のヘテロ原子を有していてもよい芳香族基であって、その一部として置換基R(ここで、Rは前記の通り)を含んでいてもよく、
は、水素原子または炭素原子数1〜10のアルキル基もしくはシクロアルキル基であり、
aは0〜5の整数であり、bは0〜5の整数であり、eは0または1であり、hは3以上の整数であり、iは1〜5の整数であり、mは1〜10の整数である。但し、aが0の場合は、iは1である。
とRとは、結合して単結合またはアルキレン基を形成していてもよい。
Ar、Ar'、R、G、R、a、b、j、k、e、h、iおよびmのいずれか1つ以上が複数存在する場合は、その複数存在するものの各々は、同一でも異なっていてもよい。)
【請求項2】
前記kが、2〜50の整数である、請求項1に記載の製膜組成物。
【請求項3】
前記kが、10〜100000の整数である、請求項1に記載の製膜組成物。
【請求項4】
前記式(2)において、Gが−O−で表される2価の基である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製膜組成物。
【請求項5】
常温で流動性を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製膜組成物。
【請求項6】
前記化合物Qのゲルパーミエーションクロマトグラフィで測定したポリスチレン換算の数平均分子量が1000以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製膜組成物。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか1項に記載の製膜組成物を基材表面に塗布し、基材上に前記化合物Qを含む膜を形成することを含む、製膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製膜組成物並びにそれを使用する製膜方法、積層構造体及び有機電子素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機EL素子に代表される有機電子素子が注目されている。有機電子素子は有機膜からなる有機層を多層化させることで、素子としての機能を高めることができる。
【0003】
しかし、有機層、中でも可溶性の高分子化合物を含む有機層を多層化させた有機電子素子を製造することは困難である(非特許文献1)。このため、可溶性の高分子化合物を含む有機層を所望の厚みで精密に多層化させることは一層困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】トコトンやさしい有機ELの本(B&Tブックス):日刊工業新聞社,2008年4月26日,第70−71頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の課題は、有機層を所望の厚みで精密に多層化させた有機電子素子を容易に製造可能な製膜組成物、それを使用する製膜方法、並びに製膜方法を利用して作製される積層構造体及び有機電子素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、研究の結果、上記課題を解決するものとして、以下で説明する本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、第1に、
フッ素化アルコール1重量%以上と、
下記式(1)で表される構造を有する化合物Qを0.001重量%以上と、
を含有する、製膜組成物を提供する。
【0008】
【化1】
【0009】
(式中、
は、水素原子または置換基を有してもよい炭素原子数1〜10のアルキル基もしくはシクロアルキル基であり、
Gは−O−、−S−、−NR−(ここで、Rは前記の通り)またはこれらが連結した基で表される2価の基であり、
jは1〜50の整数であり、kは2以上の整数であり、
複数存在するR,G,jおよびkの各々は、同一でも異なっていてもよい。)
【0010】
本発明は第2に、
上記の製膜組成物を基材表面に塗布し、基材上に上記化合物Qを含む膜を形成することを含む、製膜方法を提供する。
【0011】
本発明は、第3に、
上記の製膜方法を用いて製造した、化合物Qを含む膜を層として含む、積層構造体を提供する。
【0012】
本発明は、第4に、
上記の製膜方法を用いて製造した、化合物Qを含む膜を層として含む、有機電子素子を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製膜組成物を使用して製膜すると、有機膜を所望の均一な厚みで作製ことができる。したがって、精密な積層構造が求められる用途において複数層を精密に形成することができる。そのため、複数の有機層を精密に作製する必要がある有機電子素子の製造に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
―用語の説明―
本願において、「置換基を有していてもよい」とは、その対象である化合物又は基の骨格を構成する原子に結合した水素原子が無置換の場合及び該水素原子の一部又は全部が別の基又は原子(本願では「置換基」と総称する)によって置換されている場合の双方を含むことを意味する。
水素原子が置換基によって置換されている場合の置換基としては、特記しない限り、ハロゲン原子、シアノ基、炭素原子数1〜30のヒドロカルビル基、炭素原子数1〜30のヒドロカルビルオキシ基、炭素原子数1〜7のヒドロカルビルスルホニル基が挙げられ、これらの中でも、好ましくは、ハロゲン原子、炭素原子数1〜18のヒドロカルビル基、炭素原子数1〜18のヒドロカルビルオキシ基であり、より好ましくは炭素原子数1〜12のヒドロカルビル基、炭素原子数1〜12のヒドロカルビルオキシ基であり、更に好ましくは炭素原子数1〜6のヒドロカルビル基、炭素原子数1〜6のヒドロカルビルオキシ基である。ヒドロカルビル基及びヒドロカルビルオキシ基等の置換基はそれぞれ、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれであってもよい。
【0016】
置換基であるハロゲン原子は、好ましくは、フッ素原子、塩素原子または臭素原子であり、より好ましくは、フッ素原子または塩素原子である。
【0017】
置換基であるヒドロカルビル基は、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれでもよい。
このヒドロカルビル基としては、例えば、メチル基、エチル基、1−プロピル基、2−プロピル基、1−ブチル基、2−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、2−エチルヘキシル基、3,7−ジメチルオクチル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1−アダマンチル基、2−アダマンチル基、ノルボルニル基、ベンジル基、α,α―ジメチルベンジル基、1−フェネチル基、2−フェネチル基、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、オレイル基、エイコサペンタエニル基、ドコサヘキサエニル基、2,2−ジフェニルビニル基、1,2,2−トリフェニルビニル基、2−フェニル−2−プロペニル基、フェニル基、2−トリル基、4−トリル基、4−(トリフルオロメチル)フェニル基、4−メトキシフェニル基、4−シアノフェニル基、2−ビフェニリル基、3−ビフェニリル基、4−ビフェニリル基、ターフェニリル基、3,5−ジフェニルフェニル基、3,4−ジフェニルフェニル基、ペンタフェニルフェニル基、4−(2,2−ジフェニルビニル)フェニル基、4−(1,2,2−トリフェニルビニル)フェニル基、フルオレニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、9−アントリル基、2−アントリル基、9−フェナントリル基、1−ピレニル基、クリセニル基、ナフタセニル基、コロニル基が挙げられ、好ましくは、メチル基、エチル基、1−プロピル基、2−プロピル基、1−ブチル基、2−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、2−エチルヘキシル基、3,7−ジメチルオクチル基、ベンジル基、α,α―ジメチルベンジル基、1−フェネチル基、2−フェネチル基、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、オレイル基、エイコサペンタエニル基、ドコサヘキサエニル基、2,2−ジフェニルビニル基、1,2,2−トリフェニルビニル基、2−フェニル−2−プロペニル基、フェニル基、2−トリル基、4−トリル基、4−(トリフルオロメチル)フェニル基、4−メトキシフェニル基、4−シアノフェニル基、2−ビフェニリル基、3−ビフェニリル基、4−ビフェニリル基、ターフェニリル基、3,5−ジフェニルフェニル基、3,4−ジフェニルフェニル基、ペンタフェニルフェニル基、4−(2,2−ジフェニルビニル)フェニル基、4−(1,2,2−トリフェニルビニル)フェニル基、フルオレニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、9−アントリル基、2−アントリル基、9−フェナントリル基であり、より好ましくは、メチル基、エチル基、1−プロピル基、2−プロピル基、1−ブチル基、2−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、3,7−ジメチルオクチル基、ベンジル基、フェニル基であり、更に好ましくは、メチル基、エチル基、1−プロピル基、2−プロピル基、1−ブチル基、2−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基である。
【0018】
置換基であるヒドロカルビルオキシ基は、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれでもよい。
このヒドロカルビルオキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、1−プロポキシ基、2−プロポキシ基、1−ブトキシ基、2−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、3,7−ジメチルオクチルオキシ基、シクロプロピルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、1−アダマンチルオキシ基、2−アダマンチルオキシ基、ノルボルニルオキシ基、トリフルオロメトキシ基、ベンジロキシ基、α,α−ジメチルベンジロキシ基、2−フェネチルオキシ基、1−フェネチルオキシ基、フェノキシ基、アルコキシフェノキシ基、アルキルフェノキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基、ペンタフルオロフェニルオキシ基が挙げられ、好ましくはメトキシ基、エトキシ基、1−プロポキシ基、2−プロポキシ基、1−ブトキシ基、2−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、3,7−ジメチルオクチルオキシ基であり、より好ましくはメトキシ基、エトキシ基、1−プロポキシ基、2−プロポキシ基、1−ブトキシ基、2−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基である。
【0019】
[製膜組成物]
【0020】
<フッ素化アルコール>
本発明で用いるフッ素化アルコールとは、アルコールを構成する炭化水素基中の水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されているアルコールをいう。フッ素化アルコールは、一種単独で用いても複数種を混合して用いてもよいが、一種単独で用いるのが好ましい。上記の炭化水素基はアルキル基であることが好ましい。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の炭素原子数1〜10のアルキル基が挙げられる。
【0021】
フッ素化アルコールにおけるフッ素化の割合、即ち、フッ素化アルコール中の炭化水素基における(フッ素原子の数)/((フッ素原子の数)+(水素原子の数))の値は、0.05以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましく、0.4以上であることがさらに好ましく、0.6以上であることが特に好ましく、0.7以上であることが最も好ましい。フッ素化アルコール中のヒドロキシル基の数に制限はないが、2つ以下が好ましく、1つがより好ましい。
【0022】
フッ素化アルコールの具体例としては以下のものが挙げられる。括弧内の数値は引火点を表し、*は当該フッ素化アルコールは引火点が100℃を超えることを意味する。
【0023】
2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール(49℃)、
2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパノール(*)、
2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロブタノール(*)、
2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンタノール(75℃)、
1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(*)、
2,2,2−トリフルオロ−1−エタノール(29℃)、
1,3−ジフルオロ−2−プロパノール(42℃)、
2,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロ−1−ブタノール(91℃)、
2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロ−1−ペンタノール(75℃)、
2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロ−1−ヘプタノール(*)、
2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ペンタデカフルオロ−1−オクタノール(*)、
3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロ−1−オクタノール(*)、
1H,1H,2H,2H−パーフルオロ−1−デカノール(*)
【0024】
これらの中でも以下のものが好ましい。
2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール(49℃)、
2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロパノール(*)、
2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロブタノール(*)、
2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンタノール(75℃)、
1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール(*)、
1,3−ジフルオロ−2−プロパノール(42℃)、
2,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロ−1−ブタノール(91℃)、
2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロ−1−ペンタノール(75℃)、
2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロ−1−ヘプタノール(*)、
2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ペンタデカフルオロ−1−オクタノール(*)、
3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロ−1−オクタノール(*)
【0025】
更に、以下のものがより好ましい。
2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロブタノール(*)、
2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンタノール(75℃)、
2,2,3,3,4,4,4−ヘプタフルオロ−1−ブタノール(91℃)、
2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロ−1−ペンタノール(75℃)、
2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロ−1−ヘプタノール(*)、
2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ペンタデカフルオロ−1−オクタノール(*)、
3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロ−1−オクタノール(*)
【0026】
本発明の製膜組成物中のフッ素化アルコールの含有量は、1重量%〜99.999重量%であり、5重量%〜99.999重量%が好ましく、10重量%〜99.999重量%がより好ましく、20重量%〜99.999重量%がさらに好ましく、40重量%〜99.999重量%が特に好ましく、85重量%〜99.999重量%が最も好ましい。
フッ素化アルコールの含有量が1重量%未満では、得られる製膜組成物の塗布性を確保しにくい。フッ素化アルコールの含有量が99.999重量%を超えると、化合物Qの含有量が少なすぎて所望の膜形成が困難になる場合がある。
【0027】
<その他の溶媒>
本発明の製膜組成物はフッ素化アルコール以外の溶媒を含んでもよい。フッ素化アルコール以外の溶媒としては、クロロホルム、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等の塩素化炭化水素溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ペンタン、ヘキサン、へプタン、オクタン、ノナン、デカン等の脂肪族炭化水素溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート等のエステル溶媒、エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジメトキシエタン、プロピレングリコール、ジエトキシメタン、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、グリセリン、1,2−ヘキサンジオール等の多価アルコール及びその一部又はすべてのヒドロキシル基がアルコキシ化した化合物、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、シクロヘキサノール等の一価のアルコール溶媒、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド溶媒が例示される。
【0028】
これらの中でも、化合物Qの分散安定性をより向上させる点で、上記の多価アルコール、その一部又はすべてのヒドロキシル基がアルコキシル化した化合物及び一価アルコール溶媒が好ましく、エチレングリコール、グリセリン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールがより好ましく、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールがさらに好ましい。これらの、フッ素化アルコール以外の溶媒は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。本発明の製膜組成物中において、フッ素化アルコール以外の溶媒の割合は、フッ素化アルコールに対し、100重量%以下が好ましく、75重量%以下がより好ましく、45重量%以下がさらに好ましく、15重量%以下が特に好ましく、0重量%であることが最も好ましい(即ち、本発明の組成物はフッ素化アルコール以外の溶媒を含まないことが最も好ましい)。
【0029】
<化合物Q>
本発明に用いられる化合物Qは、下記式(1)で表される構造を有する。
【0030】
【化2】
【0031】
(式中、
は、水素原子または置換基を有していてもよい炭素原子数1〜10のアルキル基もしくはシクロアルキル基であり、Gは、−O−、−S−、−NR−(ここで、Rは前記の通り)またはこれらが連結した基で表される2価の基であり、jは1〜50の整数であり、kは2以上の整数であり、複数存在するR,G,jおよびkの各々は、同一でも異なっていてもよい。)
【0032】
は、水素原子または置換基を有していてもよい炭素原子数1〜10のアルキル基もしくはシクロアルキル基である。ここで、アルキル基は、直鎖状及び分岐状のものを含む意味で使用される。したがって、アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、iso−プロピル基、ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソアミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、3,7−ジメチルオクチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロオクチル基などが挙げられ、シクロアルキル基としてはシクロヘキシル基などが挙げられる。
としては水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、iso−プロピル基、ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソアミル基およびヘキシル基が好ましく、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、iso−プロピル基、ブチル基、iso−ブチル基およびtert−ブチル基がより好ましく、水素原子、メチル基およびエチル基がさらに好ましく、水素原子およびメチル基が特に好ましく、水素原子が最も好ましい。2つのアルキル基どうしが結合してアルキレン基を形成することにより環を形成してもよいが、環を形成しないことが好ましい。化合物Q内に複数存在するRは、同一でも異なっていてもよいが、3種類以内が好ましく、2種類以内がより好ましく、同一種であることがさらに好ましい。
【0033】
Gは、−O−、−S−、−NR−またはこれらの基が連結した基で表される2価の基であるが、−O−または−S−で表される基であることが好ましく、−O−であることがより好ましい。化合物Q内に複数存在するGは、同一でも異なっていてもよいが、3種類以内であることが好ましく、2種類以内であることがより好ましく、同一種であることがさらに好ましい。
【0034】
jは1〜50の整数であり、1〜20の整数が好ましく、1〜10の整数がより好ましく、1〜5の整数がさらに好ましく、2〜4の整数が特に好ましく、2または3がとりわけ好ましく、2が最も好ましい。化合物Q内に複数存在するjは、同一でも異なっていてもよいが、3種類以内が好ましく、2種類以内がより好ましく、同一であることがさらに好ましい。
【0035】
kは2以上の整数であり、好ましくは2〜100000の整数である。但し、化合物Qの導電性が高まる点では、2〜50の整数が好ましく、2〜20の整数がより好ましく、2〜10の整数がさらに好ましく、2〜5の整数が特に好ましく、2または3が最も好ましい。
【0036】
一方、化合物Qの親水性、吸水性または親水性材料への密着性が高まる点では、10〜100000の整数が好ましく、100〜50000の整数がより好ましく、300〜10000の整数がさらに好ましく、500〜10000の整数が特に好ましく、2000〜10000の整数が最も好ましい。
【0037】
化合物Q内に複数のkが存在する場合には、それらのkは同一でも異なっていてもよい。ただし、複数のkのすべてが9以下の整数である場合は、kは3種類以内が好ましく、2種類以内がより好ましく、同一であることがさらに好ましい。複数のkの少なくとも1つが10以上の整数である場合は、kは3種類以上が好ましく、10種類以上がより好ましい。
【0038】
化合物Qの分子量は、ゲルパームエーションクロマトグラフィー(GPC)で得られるポリスチレン換算の数平均分子量が1000以上であることが好ましく、3000以上であることがより好ましく、7000以上であることがさらに好ましく、10000以上であることが特に好ましい。該数平均分子量は特に制限されないが、通常1000000以下、好ましくは500000以下である。
【0039】
<実施形態A>
化合物Qは、式(1)で表される直鎖状構造を有する。この好ましい実施形態においては、式(1)におけるGは−O−である。この実施形態では式(1)で表される構造以外に分岐を形成する構造があってもよい。このような化合物Qとしては、下記式(1a)で表される構造(以下、「構造U」と称する)を有する化合物を挙げることができる。
【0040】
【化3】
【0041】
(式中、R、jおよびkは前記の通りである。)
【0042】
式(1a)において、kは2以上の整数であるが、化合物Qの親水性、吸水性または親水性材料への密着性が高まる点で、10〜100000の整数が好ましく、100〜50000の整数がより好ましく、300〜10000の整数がさらに好ましく、500〜10000の整数が特に好ましく、2000〜10000の整数が最も好ましい。化合物Q内に複数存在するkは同一でも異なっていてもよいが、すべてのkが9以下の整数である場合は、kは3種類以内が好ましく、2種類以内がより好ましく、同一であることがさらに好ましく、kの少なくとも1つが10以上の整数である場合は、kは3種類以上が好ましく、10種類以上がより好ましい。
【0043】
構造Uの具体的な構造を、以下に例示する。
【0044】
【化4】
【0045】
<実施形態B>
化合物Qの別の好ましい実施形態は、式(2)で表される2価の基からなる構造(以下、「構造V」と称する)を有する化合物である。
【0046】
【化5】
【0047】
(式中、
G、R、jおよびkは前記の通りであり、
Arは、(m+2)価のヘテロ原子を有していてもよい芳香族基であり、
Ar’は、(i+1)価のヘテロ原子を有していてもよい芳香族基であって、その一部として置換基R(ここで、Rは前記の通りである)を含んでいてもよく、
は水素原子または炭素原子数1〜10のアルキル基もしくはシクロアルキル基であり、
aは0〜5の整数であり、bは0〜5の整数であり、eは0または1であり、hは3以上の整数であり、iは1〜5の整数であり、mは1〜10の整数である。但し、aが0の場合は、iは1である。
とRとは、結合して単結合またはアルキレン基を形成していてもよい。
Ar、Ar’、R、G、R、a、b、j、k、e、h、iおよびmのいずれか1つ以上が複数存在する場合は、その複数存在するものの各々は、同一でも異なっていてもよい。)
【0048】
式(2)において、Arは(m+2)価の芳香族基であり、ヘテロ原子を有してもよい。該Arとしては、芳香環を有する化合物から芳香環に直結した(m+2)個の水素原子を取り除いた残りの原子団が例示できる。この(m+2)価の芳香族基は、置換基を有してもよい。
【0049】
前記の芳香環を有する化合物としては、下記式(Ar-1)〜(Ar-63)で表される化合物が挙げられ、下記式(Ar-1)〜(Ar-12)、(Ar-15)〜(Ar-31)、(Ar-37)〜(Ar-40)または(Ar-63)で表される化合物が好ましく、下記式(Ar-1)〜(Ar-3)、(Ar-8)〜(Ar-10)、(Ar-15)〜(Ar-21)、(Ar-24)〜(Ar-31)、(Ar-37)、(Ar-38)または(Ar-63)で表される化合物がより好ましく、下記式(Ar-1)〜(Ar-3)、(Ar-8)、(Ar-10)、(Ar-15)、(Ar-17)〜(Ar-19)、(Ar-21)、(Ar-24)、(Ar-37)、(Ar-38)または(Ar-63)で表される化合物がさらに好ましく、下記式(Ar-1)〜(Ar-3)、(Ar-8)、(Ar-10)、(Ar-17)、(Ar-18)または(Ar-37)で表される化合物が特に好ましく、下記式(Ar-1)、(Ar-8)、(Ar-10)、(Ar-17)または(Ar-18)で表される化合物がとりわけ好ましい。
【0050】
【化6】
【0051】
【0052】
式(2)において、Ar’は(i+1)価の芳香族基であり、ヘテロ原子を有しても良く、芳香環を有する化合物から芳香環に直結した(i+1)個の水素原子を取り除いた残りの原子団が例示できる。この(i+1)価の芳香族基は、置換基を有してもよい。
【0053】
芳香環を有する化合物としては、上記式(Ar-1)〜(Ar-62)で表される化合物が挙げられ、上記式(Ar-1)〜(Ar-12)、(Ar-15)〜(Ar-31)または(Ar-37)〜(Ar-40)で表される化合物が好ましく、上記式(Ar-1)〜(Ar-3)、(Ar-8)、(Ar-15)〜(Ar-21)または(Ar-54)で表される化合物がより好ましく、上記式(Ar-1)、(Ar-2)、(Ar-16)〜(Ar-19)または(Ar-54)で表される化合物がさらに好ましく、上記式(Ar-1)、(Ar-17)、(Ar-18)または(Ar-19)で表される化合物が特に好ましく、上記式(Ar-1)で表される化合物がとりわけ好ましい。
【0054】
式(2)において、aは0〜5の整数であり、0〜3の整数が好ましく、0、1または2がより好ましく、0または1がさらに好ましい。化合物Q内に複数存在するaは、同一でも異なっていてもよいが、3種類以内が好ましく、2種類以内がより好ましく、同一であることがさらに好ましい。
【0055】
式(2)において、bは0〜5の整数であり、0〜3の整数が好ましく、0、1または2がより好ましい。化合物Q内に複数存在するbは、同一でも異なっていてもよいが、3種類以内が好ましく、2種類以内がより好ましく、同一であることがさらに好ましい。
【0056】
式(2)において、kは2以上の整数であるが、化合物Qの導電性が高まる点で、2〜50の整数が好ましく、2〜20の整数がより好ましく、2〜10の整数がさらに好ましく、2〜5の整数が特に好ましく、2または3がとりわけ好ましい。化合物Q内に複数存在するkは、同一でも異なっていてもよいが、3種類以内が好ましく、2種類以内がより好ましく、同一種であることがさらに好ましい。
【0057】
式(2)において、eは0または1であり、1が好ましい。化合物Q内に複数存在するeは、同一でも異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0058】
式(2)において、R水素原子または置換基を有していてもよい炭素原子数1〜10のアルキル基もしくはシクロアルキル基であり、水素原子または炭素原子数1〜5のアルキル基が好ましく、水素原子、メチル基、エチル基、n−ブチル基またはイソブチル基が特に好ましく、水素原子またはメチル基が最も好ましい。化合物Q内に複数存在するRは、同一でも異なっていてもよいが、3種類以内が好ましく、2種類以内がより好ましく、同一種であることがさらに好ましい。
【0059】
式(2)において、iは1〜5の整数であり、1〜4の整数が好ましく、1〜3の整数がより好ましく、1または2がさらに好ましく、1が特に好ましい。但し、aが0の場合はiは1である。化合物Q内に複数存在するiは、同一でも異なっていてもよいが、3種類以内が好ましく、2種類以内がより好ましく、同一であることがさらに好ましい。
【0060】
式(2)において、mは1〜10の整数であり、1〜5の整数が好ましく、1〜4の整数がより好ましく、1〜3の整数がさらに好ましく、1または2が特に好ましい。化合物Q内に複数存在するmは、同一でも異なっていてもよいが、3種類以内が好ましく、2種類以内がより好ましく、同一であることがさらに好ましい。
【0061】
式(2)で表される構造Vを構成する繰り返し単位の具体例は下記式(V−1)〜(V−22)で表される単位が挙げられる。
【0062】
【化7】
【0063】
【化8】
【0064】
式(2)において、hは3以上の整数であり、3〜100000の整数が好ましく、3〜50000の整数がより好ましく、3〜10000の整数がさらに好ましく、3〜5000の整数が特に好ましく、5〜2000の整数がとりわけ好ましい。化合物Q内に複数存在するhは、同一でも異なっていてもよい。すべてのhが9以下の整数である場合は3種類以内が好ましく、2種類以内がより好ましく、同一であることがさらに好ましく、hのいずれかが10以上の整数である場合は3種類以上が好ましい。
【0065】
本発明の製膜組成物における化合物Qの割合は、組成物全体の0.001重量%以上であり、0.02重量%以上が好ましく、0.05重量%以上がより好ましく、0.1重量%以上がさらに好ましく、0.1重量%以上が特に好ましく、0.5重量%以上がとりわけ好ましい。
【0066】
[製膜方法]
本発明の製膜方法は、上記の製膜組成物を基材表面に塗布し、基材上に上記化合物Qを含む膜を形成することを含む、製造方法である。
【0067】
基材としては、本発明の製膜方法による膜の形成を損なわない限り特に制限されない。材料としては、たとえば、金、銀、銅、鉄、アルミニウム、ニッケル等の金属またはそれらの合金、インジウムスズ酸化物(ITO)等の金属酸化物、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレン、ABS等の有機樹脂材料等が挙げられる。製膜に適さない基材の例としては、例えば、-OCHCH-で表される構造を有する有機物はフッ素化アルコールに溶けやすいため、そのような有機物を含む基材が挙げられる。
【0068】
本発明の組成物を塗布する方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法、キャピラリ−コート法、ノズルコート法等が挙げられる。これらの方法には、形成した膜の乾燥および熱処理などの後処理を含む。
【0069】
この製膜方法によれば、化合物Qを含有する膜を所望の厚さで容易に形成することができる。膜の厚さは、通常、1nm〜100μmであり、好ましくは1nm〜500nmである。
【0070】
[積層構造体]
基材として、本発明の製膜方法により形成した化合物Qを含む膜を新たな基材として、必要に応じて不溶化処理を行った後に、さらにその上に本発明の製膜方法により膜形成することができ、それにより2層の積層構造を形成できる。必要に応じてこの様な製膜を繰り返すことにより、3層以上の積層構造を形成することもできる。本発明の製膜方法により形成される層どうしが隣接してもよいし他の材料からなる層が介在してもよい。積層構造体の用途に応じて特定の層に期待される機能が付与されるように公知の成分が添加されてもよい。なお、不溶化処理としては、公知の手段が挙げられる。
【0071】
[有機電子素子]
本発明によると、上記の製膜方法を用いて製造した、化合物Qを含む膜を層として含む積層構造体が提供される。該積層構造体において、化合物Qを含む層は一層でも二層以上でもよい。
【0072】
本発明の積層構造体は、上述のように、本発明の化合物Qを含む膜の製膜方法を用いて積層構造を形成したものであり、有機エレクトロルミネッセンス素子等の発光素子、有機トランジスタ、太陽電池等の光電変換素子等の有機電子素子の製造に有用である。
【0073】
前記発光素子は、陽極及び陰極からなる電極と、該電極間に設けられた発光層とを有するものである。この発光素子は、正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層、電子輸送層等を更に有していてもよい。本発明の製膜方法により、上記のうち、発光層、正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層、電子輸送層等を形成することができる。
【0074】
前記有機トランジスタは、ソース電極、ドレイン電極、絶縁されたゲート電極および半導体層を有するものである。この有機トランジスタは、正孔注入層、電子注入層等を更に有していてもよい。本発明の製膜方法は、上記のうち、半導体層、正孔注入層、電子注入層等の形成に用いることができる。
【0075】
前記光電変換素子は、陽極及び陰極からなる電極と、該電極間に設けられた正孔輸送層と電子輸送層または電荷分離層を有するものである。本発明の製膜方法は、上記のうち、正孔輸送層、電子輸送層または電荷分離層等の形成に用いることができる。
【実施例】
【0076】
<合成例1>
(化合物Aの合成)
2,7−ジブロモ−9−フルオレノン52.5g(0.16mol)、サリチル酸エチル154.8g(0.93mol)及びメルカプト酢酸1.4g(0.016mol)を容量3000mLのフラスコに入れ、窒素ガスで置換した。該フラスコに、メタンスルホン酸(630mL)を添加し、得られた混合物を75℃で終夜撹拌した。得られた混合物を放冷し、氷水に添加して1時間撹拌した。生じた固体をろ別し、加熱したアセトニトリルで洗浄した。洗浄した固体をアセトンに溶解させ、得られたアセトン溶液から固体を再結晶させて、ろ別した。得られた固体(62.7g)、3,6,9−トリオキサデシルオキシ−p−トルエンスルホネート86.3g(0.27mmol)、炭酸カリウム62.6g(0.45mmol)及び1,4,7,10,13,16−ヘキサオキサシクロオクタデカン(「18−クラウン−6」と呼ばれることもある。) 7.2g(0.027mol)をN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)(670mL)に溶解させ、得られた溶液をフラスコに移して105℃で終夜撹拌した。得られた混合物を室温まで放冷し、フラスコに氷水を加え、1時間撹拌した。反応液にクロロホルム(300mL)を加えて分液抽出を行い、得られたクロロホルム溶液を濃縮することで、下記式で表される化合物A(51.2g)を得た。収率は31%であった。
【0077】
【化9】
【0078】
<合成例2>
(化合物Bの合成)
アルゴンガス置換した容量1000mLのフラスコに、合成例1で得た化合物A(15g)、ビス(ピナコラート)ジボロン(8.9g)、[1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(II)ジクロロメタン錯体(0.8g)、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン(0.5g)、酢酸カリウム(9.4g)及びジオキサン(400mL)を入れて混合し、110℃に加熱して、10時間加熱還流させた。放冷後、反応液をろ過し、ろ液を減圧濃縮した。反応混合物をメタノールで3回洗浄した。沈殿物をトルエンに溶解させ、溶液に活性炭を加えて攪拌した。その後、ろ過を行い、ろ液を減圧濃縮することで、下記式で表される化合物B(11.7g)を得た。
【0079】
【化10】
【0080】
<合成例3>
(高分子化合物P−1の合成)
アルゴンガス置換した容量100mLのフラスコに、合成例1で得られた化合物A(0.55g)、合成例2で得られた化合物B(0.61g)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0.01g)、メチルトリオクチルアンモニウムクロライド(シグマアルドリッチジャパン(株)製、商品名Aliquat336(登録商標))(0.20g)及びトルエン(10mL)を入れて混合し、105℃に加熱した。この温度に反応液を維持しながら、該反応液に2M炭酸ナトリウム水溶液(6mL)を滴下し、8時間還流させた。得られた反応液に4−tert−ブチルフェニルボロン酸(0.01g)を加え、さらに6時間還流させた。その後、ジエチルジチアカルバミン酸ナトリウム水溶液(10mL、濃度:0.05g/mL)を加え、室温にて2時間撹拌した。得られた混合溶液を、室温下のメタノール300mL中に滴下し、次いで1時間攪拌した後、析出した沈殿をろ過して2時間減圧乾燥させ、テトラヒドロフラン20mLに溶解させた。得られた溶液をメタノール120mL、3重量%酢酸水溶液50mLの混合溶媒中に滴下し、次いで1時間攪拌した後、析出した沈殿をろ過し、テトラヒドロフラン20mLに溶解させた。こうして得られた溶液をメタノール200mLに滴下し、次いで30分攪拌した後、析出した沈殿をろ過により固体として得た。得られた固体をテトラヒドロフランに溶解させ、アルミナカラム、シリカゲルカラムを通すことにより精製した。カラムから回収したテトラヒドロフラン溶液を濃縮した後、メタノール(200mL)に滴下し、固体を析出させた。析出した固体をろ取し、乾燥することにより、高分子化合物(以下、「高分子化合物P−1」という)を520mg得た。
【0081】
H−NMRの測定結果から、高分子化合物P−1は下記式で表される構造を有することが確認された。
【0082】
【化11】
【0083】
高分子化合物P−1のGPCで測定されたポリスチレン換算の数平均分子量は5.2×104であった。なお、上記式中のnは該数平均分子量と式中の構造単位の式量から66と決定された。
【0084】
<合成例4>
(高分子化合物P−2の合成)
合成例3で得られた高分子化合物P−1(200mg)を容量100mLのフラスコに入れ、窒素ガスで置換した。テトラヒドロフラン(20mL)及びエタノール(20mL)を添加し、それらの混合物を55℃に昇温した。そこに、水酸化セシウム(200mg)を水(2mL)に溶解させた水溶液を添加し、55℃で6時間撹拌した。得られた混合物を室温まで冷却した後、反応溶媒を減圧留去した。生じた固体を水で洗浄し、減圧乾燥させることにより、下記式:
【0085】
【化12】
【0086】
で表される構造を有する高分子化合物(以下、「高分子化合物P−2」という)を150mg得た。H−NMRスペクトルにより、高分子化合物P−1内に存在したエチルエステル部位のエチル基由来のシグナルが完全に消失していることを確認した。なお、上記式中、nは66である。
【0087】
<実施例1>
高分子化合物P−2を17mgとり、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロ−1−ペンタノール(以下、「OFP」と略す)1.05gに溶かし、高分子化合物P−2のOFP溶液を作成した。この溶液を、ガラス基板の上に滴下後放置して乾燥することにより、また、この溶液をガラス基板の上にスプレー塗布後乾燥することにより、被膜を形成した。
【0088】
<合成例5>
(F2COOBuBr2の合成)
2,7−ジブロモフルオレン(8.02g)およびベンジルトリエチルアンモニウムクロリド(0.56g)を30mLのベンゼンに溶解させた後、窒素雰囲気下において50重量%水酸化ナトリウム水溶液8mLを滴下し、15間攪拌した。得られた混合物にn-ブチルアクリレート(12.65g)を滴下し、室温で5時間反応させた。得られた反応溶液を酢酸エチル200mLに注ぎ入れて希釈し、水で3回、塩水で1回洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムにより乾燥させた。得られた有機溶液をろ過し、ろ液から溶媒を留去した後、得られた固形物を、ジクロロメタンを展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、さらにヘキサンから再結晶を行うことで、下記の式で表されるF2COOBuBr2(7.87g、55%)を得た。
【0089】
【化13】
F2COOBuBr
【0090】
<合成例6>
(重合体Hの合成)
不活性雰囲気下、2,7−ビス(1,2−ジオキサボロラン−2−イル)−9,9−ジオクチルフルオレン(1.00g)、合成例5で得られたF2COOBuBr2(1.09g)、トリフェニルホスフィンパラジウム(0.03g)、メチルトリオクチルアンモニウムクロライド(シグマアルドリッチジャパン(株)製、商品名Aliquat336(登録商標))(0.20g)およびトルエン(20mL)を混合し、105℃に加熱した。この反応溶液に2M Na2CO3水溶液(5mL)を滴下し、4時間還流させた。反応後、この反応液を室温まで冷却し、メタノール120ml中に滴下して1時間攪拌した後、析出した沈殿をろ過して2時間減圧乾燥し、テトラヒドロフラン20mlに溶解させた。この溶液をメタノール120ml、水50mLの混合溶媒中に滴下して1時間攪拌した後、析出した沈殿をろ過して2時間減圧乾燥し、テトラヒドロフラン20mlに溶解させた。この溶液をアセトン120mlに滴下して30分攪拌した後、析出した沈殿をろ過して20時間減圧乾燥させた。得られた重合体(以下、「重合体H」という)の収量は300mgであった。
【0091】
重合体Hのポリスチレン換算の数平均分子量は、3.5×104であった。重合体Hは式(V)で表される構造を有する。
【0092】
【化14】
(式中、nは上記の数平均分子量と式(V)中の繰り返し単位の式量から、43と決定された。
【0093】
<合成例7>
(重合体H’の合成)
合成例6で得られた重合体H(200mg)を100mLフラスコに入れ、窒素置換した。テトラヒドロフラン(20mL)、エタノール(5mL)を添加し、得られた混合物を55℃に昇温した。そこに、水酸化ナトリウム(120mg)を水(1mL)に溶かした水溶液を添加し、55℃で3時間撹拌した。混合物を室温まで冷却した後、反応溶媒を減圧留去した。生じた固体を水で洗浄し、減圧乾燥させることで、薄黄色の固体として重合体(以下、「重合体H’」という)(120mg)を得た。
【0094】
H−NMRスペクトルにより、重合体Hに存在したブチルエステル部位のブチル基由来のシグナルが完全に消失していることを確認した。重合体H’は式(W)で表される構造を有する。
【0095】
【化15】
(式中、nは43である。)
【0096】
<比較例1>
前記の重合体H’を1mgとり、OFP1mLと混合し、60℃に加熱した。しかし、該重合体H’はOFPに溶解させることはできなかった。したがって、重合体H’の膜を作製することはできなかった。