(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5914139
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】多孔質半導体電極の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
H01G 9/20 20060101AFI20160422BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20160422BHJP
B01J 21/06 20060101ALI20160422BHJP
【FI】
H01G9/20 111C
H01G9/20 111E
B01J35/02 J
B01J21/06 M
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-101035(P2012-101035)
(22)【出願日】2012年4月26日
(65)【公開番号】特開2013-229208(P2013-229208A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2015年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】新日鉄住金エンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】新日鉄住金化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 敬介
(72)【発明者】
【氏名】花田 和美
(72)【発明者】
【氏名】河野 充
(72)【発明者】
【氏名】藤高 俊久
【審査官】
松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−021091(JP,A)
【文献】
特開2006−328459(JP,A)
【文献】
特開2004−039286(JP,A)
【文献】
特開2008−297184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/20
H01M 14/00
H01L 31/04
B01J 21/06
B01J 35/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表裏を貫通する細孔を有する多孔質金属製の基板の表面に多孔質半導体製の薄膜を形成して構成される多孔質半導体電極の製造方法であって、
前記基板を載置する載置面と、前記載置面に形成されて当該載置面に臨むガスを外部へ排出可能なガス抜き用凹部とを有し、前記ガス抜き用凹部は、前記載置面に形成された多数の溝条である載置台を用い、
前記基板を前記載置面に載置して前記基板の裏面と前記載置面とを密着させ、前記載置面に載置された前記基板の表面に前記薄膜となる多孔質半導体粒子を加圧ガスによりスプレーし、前記基板の細孔を通して裏面側に抜けた前記加圧ガスを前記ガス抜き用凹部により排出することを特徴とする多孔質半導体電極の製造方法。
【請求項2】
表裏を貫通する細孔を有する多孔質金属製の基板の表面に多孔質半導体製の薄膜を形成して構成される多孔質半導体電極の製造装置であって、
前記基板を載置する載置面と、前記載置面に形成されて当該載置面に臨むガスを外部へ排出可能なガス抜き用凹部とを有し、前記ガス抜き用凹部は、前記載置面に形成された多数の溝条である載置台と、
前記載置面に載置された前記基板の表面に前記薄膜となる多孔質半導体粒子を加圧ガスによりスプレーするスプレー装置とを有することを特徴とする多孔質半導体電極の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表裏を貫通する細孔を有する多孔質金属製の基板の表面に薄膜を形成す
る多孔質半導体電
極の製造方法および製造装置であり、例えば、色素増感型の光電気化学セル、光触媒皮膜等の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自然エネルギの利用の一環として太陽電池あるいは太陽光発電システムの利用が進められている。太陽電池システムでは、太陽光を電気エネルギに変換するために太陽電池セル(光電気化学セル)が用いられる。
光電気化学セルについては、その光電変換効率の向上に向けて研究開発が進められており、近年では色素増感型光電気化学セルが知られている(特許文献1および特許文献2参照)。
【0003】
図9において、特許文献1の色素増感型光電気化学セル90は、多孔質金属製の基板91の表面に色素付きの多孔質半導体製の薄膜92を形成した受光側電極93を有する。この受光側電極93の裏面には、スペーサ94を介して、所定間隔で平行に対極95が設置されている。スペーサ94の間の空間には電解質96が充填されるとともに、これらの外周は透明な光透過性膜97で被覆されている。
このような色素増感型光電気化学セル90では、受光側電極93で受光された光により、電解質96を挟んで対向された受光側電極93と対極95との間に起電力が生じ、この起電力を各電極93,95に接続された導線98で取り出すことができる。
【0004】
ここで、従来の光電気化学セルにおいては、受光側電極93として、導電性ガラス等による電極基板の表面に、金属酸化物製の透明電極膜を形成した構成を用いていた。
これに対し、特許文献1の色素増感型光電気化学セル90では、多孔質金属製の基板の表面に、色素付きの多孔質半導体製の薄膜を形成して多孔質半導体製の受光側電極93を形成している。
このような特許文献1の受光側電極では、従来のガラス製基板および透明電極膜を用いた電極に比べて、光電気化学セルとしての製造コストの低減、電気抵抗の軽減、軽量化および柔軟性の確保を図ることができる。
【0005】
特許文献1の色素増感型光電気化学セル90では、受光側電極93を製造するにあたり、多孔質金属製の基板91の表面に色素付きの多孔質半導体製の薄膜92を形成するために、薄膜92となるべき多孔質半導体をスラリー状にして基板91の表面に塗布することが行われている。
図8において、受光側電極93は、多孔質金属製の基板91の表面に多孔質半導体製の薄膜92を塗布して構成される。
基板91は、金属の粒子91Aを焼結などにより板状に成形した多孔質の導電性自立基板であり、粒子91Aの間には空隙が形成され、その一部は基板91の表裏を貫通する細孔91Bとされている。
薄膜92は、色素を有する多孔質半導体を基板91に塗布して薄膜状に形成される。具体的には、スラリー状にした多孔質半導体粒子(例えば多孔質半導体の前駆体を含む溶液またはペースト)を、多孔質金属製基板の表面に塗布したうえ、加熱することにより多孔質半導体薄膜を形成し、この多孔質半導体薄膜に色素を含有させて前述した薄膜92を形成する。
【0006】
前述した通り、特許文献1においては、受光側電極93の製造にあたって多孔質金属製の基板91に薄膜92となるべき多孔質半導体粒子のスラリーを塗布する。
ここで、多孔質半導体粒子のスラリーを基板91に塗布した際には、多孔質半導体粒子のスラリーが基板91の表面に拡がることがあるとともに、スラリーの粒子92Aの一部が多孔質の基板91の細孔91B内に侵入することがある。
特許文献1では、多孔質半導体粒子のスラリー(前述した溶液またはペースト)を基板91の表面に塗布する際には、このような多孔質半導体粒子のスラリーの塗布時の拡がり方や、形成される膜厚、細孔への侵入度合い等を調整するために、溶液またはペーストの粘度を調整することが示されている。
【0007】
前述した特許文献1の色素増感型光電気化学セル90では、薄膜92となるべき多孔質半導体粒子をスラリー状にして基板91に塗布していた。
一方、特許文献2には、基材上に薄膜を形成する際にスラリーを用いない方法が記載されている。
特許文献2では、基材上に二酸化チタン触媒皮膜を形成するために、加圧ガスにより粉末状の二酸化チタン粒子を基板に向けて吹き付け、この粒子を基板表面に堆積させるコールドスプレー法が示されている。このようなコールドスプレー法では、薄膜を形成する二酸化チタン粒子を、乾燥した粉末の状態で吹き付けるため、スラリー(液体分を含む)とする必要がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−21091号公報
【特許文献2】特開2008−297184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、前述した特許文献1の色素増感型光電気化学セル90における受光側電極93では、多孔質金属製の基板91の細孔91Bに粒子92Aが入り込むことで、多孔質半導体製の薄膜92の厚みが変動することになる。すなわち、細孔91Bのある部分では、細孔91Bに入り込んだ粒子92Aの分だけ、他の部分より薄膜92の厚みが大きくなる。このような薄膜92の厚みの変動があると、特に厚みの大きな部分で電子の拡散が生じにくく、光電変換効率が低下する可能性がある。
【0010】
このような細孔91Bへの侵入を回避するために、薄膜92とするために塗布する多孔質半導体粒子のスラリーの粘度を高めることが考えられる。粘度調整以外の方法として、多孔質半導体粒子のスラリーを多孔質金属製の基板91の下面側から塗布することも考えられるが、重力と反対向きのスラリーの塗布が困難であるばかりか、毛細管現象によりスラリーが細孔91B内に侵入することが避けられず、粘度調整が最も現実的な対応といえる。
【0011】
しかし、細孔91Bへの侵入を回避するためにスラリーの粘度を高めた場合、細孔91Bへの侵入が抑止されるだけでなく、基板91の表面での拡散性が低下し、全体として塗膜が厚くなることがあり、これらの性能を総合的に満足するような粘度調整は難しいという問題があった。
また、塗布にあたって多孔質半導体粒子のスラリーの粘度を常に一定に維持することは難しく、細孔91Bへのスラリー侵入の回避が不十分になり、薄膜92の厚みが変動する可能性があった。
さらに、粘度を高めるためにスラリーに高沸点の高分子化合物を添加することがあるが、このような場合には、多孔質半導体製の薄膜を形成した後の多孔質半導体の表面に高分子化合物の残渣あるいはこれの分解物などの炭素化合物が付着することがあり、例えば、色素増感太陽電池としたときの性能を低下させる原因となることが考えられる。
【0012】
一方、色素増感太陽電池の基板の薄膜形成に、特許文献2に記載されたようなコールドスプレー法を用いれば、薄膜とする粒子をスラリーにして基板表面に塗布する必要がなくなるため、前述したスラリーの細孔内への侵入が回避できる可能性がある。
しかし、コールドスプレー法に基づいて、多孔質半導体粒子を加圧ガスによって基板に吹き付ける処理を実験的に行ってみると、多孔質半導体粒子の基板細孔内への侵入は期待通り抑制できるものの、スプレーを受けた基板がしばしば破損するという問題があった。
【0013】
本発明の目的は、一定膜厚の多孔質半導体薄膜が得られる多孔質半導体電
極の製造方法および製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明の発明者は、鋭意研究の結果、コールドスプレー法を用いた場合、加圧ガスが基板の細孔を通して裏面側に回り込み、基板を浮かせてしまうことが破損の原因になっていることを見いだし、これを解決するために独自の構成を提案するものである。
図7に示すように、コールドスプレー用の装置の載置台87の表面(載置面)上に基板81を保持し、スプレー装置88を用いて基板81の表面に多孔質半導体粒子および加圧ガスをスプレーしたとする。
このスプレーにより、基板81の表面には多孔質半導体製の薄膜82が形成される。薄膜82を形成する多孔質半導体粒子は、スラリーとしてではなく粉末状で基板81に堆積され、基板81の細孔81Bへの侵入が抑制される。
【0015】
多孔質半導体粒子とともにスプレーされる加圧ガスの一部は、基板81の細孔81Bを通して基板81の表面側から裏面側に抜け、基板81の裏面と載置面(載置台87の表面)との間に溜まり、このガス溜まりによって基板81の裏面と載置面との間には空洞86が形成される。
このような空洞86が生じることで、基板81が載置面から浮き上がって変形し、条件によっては基板81が膜状に振動し、結果として基板81が破壊に至ると考えられる。
本発明は、このような破壊の原因となる加圧ガスによる空洞86を解消するべく、以下の構成を採用するものである。
【0016】
本発明の多孔質半導体電極の製造方法は、表裏を貫通する細孔を有する多孔質
金属製の基板の表面に多孔質半導体製の薄膜を形成して構成される多孔質半導体電極の製造方法であって、前記基板を載置する載置面と、前記載置面に形成されて当該載置面に臨むガスを外部へ排出可能なガス抜き用凹部とを有
し、前記ガス抜き用凹部は、前記載置面に形成された多数の溝条である載置台を用い、前記基板を前記載置面に載置して前記基板の裏面と前記載置面とを密着させ、前記載置面に載置された前記基板の表面に前記薄膜となる多孔質半導体粒子を加圧ガスによりスプレーし、前記基板の細孔を通して裏面側に抜けた前記加圧ガスを前記ガス抜き用凹部により排出することを特徴とする。
【0017】
このような本発明では、載置面に載置された基板の表面に、粉末状の多孔質半導体粒子を加圧ガスとともにスプレーし、多孔質半導体粒子を基板の表面に薄く堆積させることにより、表面に多孔質半導体製の薄膜が形成された基板を得ることができる。
この際、基板にスプレーされる多孔質半導体粒子および加圧ガスのうち、多孔質半導体粒子は薄膜として基板表面に堆積されるが、加圧ガスは、一部が基板の周囲に拡散しつつ、他の一部は基板の細孔を通して基板の裏面側に抜ける。
ここで、載置面にはガス抜き用凹部が形成されており、細孔を通して基板の裏面側に抜けた加圧ガスは、ガス抜き用凹部により排出され、基板と載置面との間に空洞を形成することがない。
従って、載置面に載置された基板は破壊されることなく、表面に多孔質半導体製の薄膜が形成された状態で取り出すことができる。
【0019】
さらに、本発明において、前記ガス抜き用凹部は、前記載置面に形成された多数の溝条と
される。
このような多数の溝条を用い
ることで、基板の裏面に回り込んだ加圧ガスは、溝条により載置面に沿って、載置面の基板が密着された領域から載置面の基板のない領域へと排出される。このため、基板と載置面との間に空洞が生じることがない。
【0020】
本発明において、ガス抜き用凹部は、スプレーされる加圧ガスの流用および基板の細孔からの貫通量を考慮し、基板と載置面との間に空洞を生じないような十分な排気能力が得られるように適宜設定すればよい。
また、粉末状の多孔質半導体粒子を加圧ガスとともにスプレーする際の、加圧ガスの圧力、流量、温度、等は、基板の強度、薄膜とする多孔質半導体粒子の量、薄膜の厚み等に応じて適宜設定すればよい。
【0021】
本発明の多孔質半導体電極の製造装置は、表裏を貫通する細孔を有する多孔質
金属製の基板の表面に多孔質半導体製の薄膜を形成して構成される多孔質半導体電極の製造装置であって、前記基板を載置する載置面と、前記載置面に形成されて当該載置面に臨むガスを外部へ排出可能なガス抜き用凹部とを有
し、前記ガス抜き用凹部は、前記載置面に形成された多数の溝条である載置台と、前記載置面に載置された前記基板の表面に前記薄膜となる多孔質半導体粒子を加圧ガスによりスプレーするスプレー装置とを有することを特徴とする。
このような本発明では、前述した本発明の多孔質半導体電極の製造方法に基づいて、表裏を貫通する細孔を有する多孔質
金属製の基板の表面に多孔質半導体製の薄膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の
実施形態の前提となる参考例の多孔質半導体電極の製造装置を示す模式図。
【
図3】前記
参考例におけるスプレー動作を示す模式図。
【
図4】前記
参考例で製造される多孔質半導体電極を示す模式図。
【
図5】本発明
の実施形態の多孔質半導体電極の製造装置を示す模式図。
【
図7】本発明が解決する課題を説明するための模式図。
【
図8】従来の色素増感型光電気化学セルを示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
〔
参考例〕
図1から
図4には、本発明の
実施形態の前提となる参考例が示されている。
図4において、本
参考例では、基板11としてチタン焼結体による多孔質金属基板を用い、その表面に薄膜12として二酸化チタン多孔質半導体の薄膜を形成し、基板11の表面に薄膜12を有する多孔質半導体電極13を製造する。
そのために、本
参考例では、
図1に示すように、コールドスプレー法で基板11の表面に薄膜12を形成する製造装置20を用い、薄膜12となるべき粉末状の多孔質半導体粒子12Aを加圧ガスGによって基板11の表面へとスプレーする。
【0025】
製造装置20は、基礎上に固定された載置台21を有する。載置台21の上面側には基板11を載置する載置面材22が水平に支持されている。
載置面材22の表面は載置面23とされ、載置面23に載置された基板11の裏面は載置面23と密着される。
図2に示すように、本
参考例の載置面材22は、載置面23のガス抜き用凹部として、載置面23である表面から載置面材22の裏面まで貫通する多数の貫通孔26を備えている。貫通孔26は、それぞれ所定内径の円形断面とされ、同じ物が載置面23に二次元的に配列されている。
【0026】
なお、貫通孔26の断面は、矩形、楕円、ハニカム構造等、特に制約を受けるものではない。又、貫通孔26の断面寸法は、同一のである必要はなく、異なる寸法の貫通孔を配置しても良い。さらに、貫通孔26は、異なる断面形状の貫通孔を配置しても良い。
図1に戻って、載置面23の外周部分には、載置面23に載置された基板11の辺縁を保持するためのクランプ24が設置されている。
【0027】
載置面23の上方には、載置面23に沿って移動可能なスプレー装置25が設置されている。
スプレー装置25は、加圧ガスGを供給する外部の加圧ガス源(図示省略)および多孔質半導体粒子を供給する定量供給装置(図示省略)を有する。
このようなスプレー装置25では、加圧ガスGにより多孔質半導体粒子12Aを分散させてノズル25Bから噴出させ、これを載置面23に載置された基板11の表面に向けてスプレーすることで、基板11の表面に薄膜12を形成することができる。
なお、定量供給装置は、多孔質半導体粒子を必要量、安定供給出来る物であればよく、スクリュー式、コイル式、振動式、サークル式、テーブル式、金網式、枡式、これらを組合せた方式や、容積式、ロスインイエイト方式等、特に制約を受けるものではない。
【0028】
本
参考例においては、次のような手順で多孔質半導体電極13を製造する。
図3に示すように、基板11を載置面23に載置し、クランプ24(
図1参照)により固定する。続いて、スプレー装置25によりスプレーを行い、粉末状の多孔質半導体粒子12Aを分散させた加圧ガスGを基板11の表面に吹き付ける。
このスプレーにより、基板11の表面には多孔質半導体粒子12Aが堆積されて薄膜12が形成される。
【0029】
この際、基板11にスプレーされる多孔質半導体粒子12Aおよび加圧ガスGのうち、多孔質半導体粒子12Aは薄膜12として基板11の表面に堆積されるが、加圧ガスGは、一部が基板11の周囲に拡散しつつ、他の一部は基板11の細孔11Bを通して基板の裏面側に抜ける。載置面23には、ガス抜き用凹部としての貫通孔26が形成されており、細孔11Bを通して基板11の裏面側に抜けた加圧ガスGは、貫通孔26により載置面材22の裏面側へ排出され、基板11と載置面23との間に空洞86(
図7参照)を生じることがない。
【0030】
これらにより、載置面23に載置された基板11の表面に、粉末状の多孔質半導体粒子12Aを薄く堆積させ、基板11の表面に多孔質半導体製の薄膜12が形成された多孔質半導体電極13を製造することができる。
そして、載置面23にガス抜き用凹部としての貫通孔26が形成されているため、スプレーに用いる加圧ガスGによる基板11の破壊を未然に防止することができ、本
参考例で製造される多孔質半導体電極13を確実に得ることができる。
【0031】
図4に示すように、このようにして本
参考例で製造された多孔質半導体電極13は、基板11を構成する金属材料の粒子11Aの間に多数の細孔11Bを有する。しかし、粉末状の多孔質半導体粒子12Aをコールドスプレー法により吹き付けることで、基板11の表面に多孔質半導体粒子12Aを薄く堆積させることができ、この多孔質半導体粒子12Aが細孔11Bに侵入することがない。
このため、二酸化チタンの多孔質半導体粒子12Aの薄膜12は厚さTでの安定した膜厚を得ることができる。
また、コールドスプレー法であるため、スラリー塗布のような加熱乾燥は必要がなく、製造を短時間で効率よく行うことができる。
【0032】
〔実施形態〕
図5および
図6には、本発明
の実施形態が示されている。
図5に示すように、本実施形態は、前記
参考例と同様に、基板11の表面に薄膜12を形成して多孔質半導体電極13を製造するものであり、前記
参考例と同様なコールドスプレー法に基づく製造装置20Aを用いる。
【0033】
製造装置20Aは、各部構成が前記
参考例と共通であり、共通の構成については同じ符号を付して重複する説明は省略する。但し、本実施形態の載置面材22Aは、前記
参考例と異なる構成とされている。
図6に示すように、本実施形態の載置面材22Aは、載置面23のガス抜き用凹部として、載置面23である表面に平行に配列された多数の溝条27を備えている。溝条27は、それぞれ所定深さおよび溝幅の矩形断面とされ、載置面23の一辺に沿って平行に配列されている。
なお、溝状27の断面形状は、円形、楕円等、特に制約を受けるものではない。また、溝条27の断面寸法は、同一である必要はなく、異なる寸法の溝状を配置してもよい。さらに、溝条27は、異なる断面形状の溝条を配置してもよい。
【0034】
このような本実施形態においても、前述した
参考例と同様な手順により、コールドスプレー法に基づいて基板11の表面に薄膜12が形成された多孔質半導体電極13を製造することができる。
この際、本実施形態の載置面材22Aでは、載置面23のガス抜き用凹部として溝条27を用いており、スプレーに含まれる加圧ガスGは溝条27により排出される。
図5に示すように、加圧ガスGは、基板11の細孔11Bを通して裏面へ通り抜け、それぞれ最寄りの溝条27内に入り込む。溝条27に集められた加圧ガスGは、載置面23の基板11が載置されていない領域で大気に放散される。なお、溝条27に集められた加圧ガスGの一部は、基板11のスプレーされていない領域で細孔11Bを通して基板11の表面側へ排出されることもある。
【0035】
このように、本実施形態においても、載置面23に載置された基板11の表面に、粉末状の多孔質半導体粒子12Aを薄く堆積させ、基板11の表面に多孔質半導体製の薄膜12が形成された多孔質半導体電極13を製造することができる。
そして、載置面23にガス抜き用凹部としての溝条27が形成されているため、スプレーに用いる加圧ガスGによる基板11の破壊を未然に防止することができ、本実施形態で製造される多孔質半導体電極13を確実に得ることができる。
【0036】
〔変形例〕
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形などは本発明に含まれるものである。
例えば、コールドスプレー法に用いる加圧ガスGは、一般に空気を用いればよいが、窒素ガスその他の不活性ガス等を用いてもよい。
【0037】
また、前記各実施形態では、基板11としてチタン焼結体による多孔質金属基板を用い、その表面に二酸化チタン多孔質半導体の薄膜12を形成するとしたが、基板11および薄膜12に用いる材料は他の材料であってもよく、適宜選択することができる。
さらに、載置台21において載置面材22,22Aを支持する構造等は適宜設計すればよく、スプレー装置25の具体的構造、スプレー装置25と載置台21とを相対移動させる構造等も、必要な機能が得られるように適宜設計すればよい。
【0038】
前記
参考例ではガス抜き用凹部として貫通孔26を用い、前
記実施形態ではガス抜き用凹部として溝条27を用いたが、これらを組み合わせて溝条27の底面にさらに載置面材の背面側に抜ける貫通孔26を形成してもよい。
さらに、
前記実施形態のガス抜き用凹部としては、溝条27を縦横に形成して格子状を描くようにしたもの(基板11は格子の升内に形成される突起で支持される)であってもよい。
また
、実施形態において、載置面23と基板11の間には、スペーサを挿入してもよい。スペーサとしては、金網や多孔質金属基板11と同様の構造の細孔を有するものが使用できる。
【符号の説明】
【0039】
11…基板
11A…チタン焼結体粒子
11B…細孔
12…薄膜
12A…多孔質半導体粒子
13…多孔質半導体電極
20,20A…製造装置
21…載置台
22,22A…載置面材
23…載置面
24…クランプ
25…スプレー装置
25B…ノズル
26…ガス抜き用凹部である貫通孔
27…ガス抜き用凹部である溝条
G…加圧ガス