【文献】
Chul Baika, Duckhyun Kim, Moon-Sung Kang, Sang Ook Kanga, Jaejung Ko, Mohammad K. Nazeeruddin, Michael Gratzel,Organic dyes with a novel anchoring group for dye-sensitized solarcell applications,Journal of Photochemistry and Photobiology A: Chemistry,2009年 1月25日,Volume 201, Issues 2-3,168-174
【文献】
撹上健二、山村正樹、海野雅史、京免徹、花屋実,色素増感太陽電池の増感色素におけるアルコキシシリル基のアンカー基としての検討,日本化学会第89春季年会 講演予稿集I,日本,社団法人日本化学会,2009年 3月13日,481頁,2 L2-16
【文献】
撹上健二、山村正樹、海野雅史、京免徹、花屋実,アルコキシシリルアゾベンゼン類の色素増感太陽電池における増感色素としての検討,2009年光化学討論会 講演要旨集,日本,平塚浩士,2009年 9月16日,142頁,1P068
【文献】
撹上健二、山村正樹、海野雅史、京免徹、花屋実,シリル置換アゾベンゼン類の色素増感太陽電池における増感特性,2010年光化学討論会 講演要旨集,日本,太田信廣,2010年 9月 8日,155頁,1P085
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の新規化合物、該新規化合物を担持させてなる担持体、及び該担持体を用いてなる光電変換素子について、好ましい実施形態に基づき説明する。
【0015】
まず、本発明の新規化合物(以下、本発明の化合物ともいう)について説明する。
上記一般式(1)におけるAが表す基は、2価の基であり、置換されていてもよい芳香族炭化水素環基又は置換されていてもよい芳香族ヘテロ環基である。
上記芳香族炭化水素環基としては、無置換芳香族炭化水素環基、脂肪族炭化水素基で置換された芳香族炭化水素環基等が挙げられ、上記芳香族ヘテロ環基としては、無置換芳香族ヘテロ環基、脂肪族炭化水素基で置換された芳香族ヘテロ環基等が挙げられる。
【0016】
2価の無置換芳香族炭化水素環基としては、1,2−フェニレン、1,3−フェニレン、1,4−フェニレン、ナフタレン−1,2−ジイル、ナフタレン−1,3−ジイル、ナフタレン−1,4−ジイル、ナフタレン−1,5−ジイル、ナフタレン−1,6−ジイル、ナフタレン−1,7−ジイル、ナフタレン−1,8−ジイル、ナフタレン−2,3−ジイル、ナフタレン−2,6−ジイル、アントラセン−1,4−ジイル、アントラセン−1,5−ジイル、アントラセン−1,10−ジイル、アントラセン−9,10−ジイル、ペリレン−3,9−ジイル、ペリレン−3,10−ジイル、ピレン−1,6−ジイル、ピレン−2,7−ジイル等が挙げられる。
【0017】
脂肪族炭化水素基で置換された2価の芳香族炭化水素環基としては、例えば、上記2価の無置換芳香族炭化水素環が炭素原子数1〜20の脂肪族炭化水素基で1〜3箇所置換されたものが挙げられる。
炭素原子数1〜20の脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、s−ブチル、t−ブチル、イソブチル、アミル、イソアミル、t−アミル、ヘキシル、ヘプチル、イソヘプチル、t−ヘプチル、n−オクチル、イソオクチル、t−オクチル、ノニル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、シクロデシル等の直鎖、分岐及び環状のアルキル基が挙げられ、炭素原子数1〜20の脂肪族炭化水素基は、−O−、−COO−、−OCO−、−CO−、−S−、−SO−、−SO
2−、−NR6−、−C=C−、−C≡C−で中断されていてもよく、R6は炭素原子数1〜20の脂肪族炭化水素基であり、その例としては上記炭素原子数1〜20の脂肪族炭化水素基と同じであり、中断する基に炭素原子を含む場合、中断される基を含めた炭素原子数が1〜20である。
【0018】
2価の無置換芳香族ヘテロ環基としては、フラン−2,5−ジイル、フラン−3,5−ジイル、チオフェン−2,5−ジイル、チオフェン−3,5−ジイル、2H−クロメン−3,7−ジイル、ベンゾチオフェン−2,6−ジイル、ベンゾチオフェン−2,5−ジイル等が挙げられる。
【0019】
脂肪族炭化水素基で置換された2価の芳香族ヘテロ環基としては、例えば、1−アルキル−ピロール−2,5−ジイル、1−アルキル−ピロール−3,5−ジイル、上記2価の無置換芳香族へテロ環基が炭素原子数1〜20の脂肪族炭化水素基で1〜3箇所置換されたものが挙げられる。また、炭素原子数1〜20の脂肪族炭化水素基は、上記と同様の基である。
【0020】
以上に挙げた芳香族炭化水素環基又は芳香族ヘテロ環基は、さらに置換されていてもよく、芳香族炭化水素環基及び芳香族ヘテロ環基を置換してもよい基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、水酸基、チオール基、−NR7R8基等が挙げられる。R7及びR8は、後述する式(B−1)〜(B−13)におけるR7及びR8と同様の基を表す。また、芳香族炭化水素環基又は芳香族ヘテロ環基中にメチレンを有する場合、二つの水素原子は同一の酸素原子で置換されカルボニルであってもよい。
【0021】
上記一般式(1)におけるBは、上記式(B−1)〜(B−13)で表される基から選ばれる基を1〜4個連結した基であり、好ましくは2〜4個連結した基である。上記式(B−1)〜(B−13)で表される基は、それぞれ連結する方向は自由である。尚、上記式(B−1)〜(B−13)中の*は、これらの式で表される基が、*部分で、隣接する基と結合することを意味する(以下同様)。
【0022】
上記式(B−1)〜(B−13)において、Xは、S、O又はNRを表し、Rは置換されていてもよい炭化水素基を表す。Rで表される置換されていてもよい炭化水素基は、R1、R2及びR3で表される置換されていてもよい炭化水素基として後に挙げるものと同様である。
【0023】
上記式(B−1)〜(B−13)で表される基に含まれる水素原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、水酸基、チオール基、−NR7R8基又は置換されていてもよい脂肪族炭化水素基で置換されていてもよく、R7及びR8は、置換されていてもよい炭化水素基を表す。これらBを置換する基は互いに連結して環を形成してもよい。
上記の置換されていてもよい脂肪族炭化水素基としては、例えば前述の炭素原子数1〜20の脂肪族炭化水素基が挙げられ、それらを置換してもよい置換基は、芳香族炭化水素環基及び芳香族ヘテロ環基を置換してもよい基として挙げたものと同様である。
R7及びR8で表される上記の置換されていてもよい炭化水素基は、R1、R2及びR3で表される置換されていてもよい炭化水素基として後に挙げるものと同様である。
【0024】
上記一般式(1)におけるA−B部分の構造の具体例としては、以下のA−B(1)〜(35)が挙げられる。以下に示すA−B部分において、左端の環構造がAであり、それ以外の部分がBに該当する。
尚、以下には、置換基を有していないものを示しているが、上記の通り、Aは置換基を有していてもよく、B中の水素原子は置換基で置換されていてもよい。また、以下のA−B(16)〜(23)において、複数の環にまたがって記載されている結合手は、それらの環を構成する炭素原子のいずれかに結合することを意味する(以下同様)。
【0027】
上記一般式(1)におけるR1、R2及びR3で表される置換されていてもよい炭化水素基の炭化水素基としては、芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素で置換された芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素基等が挙げられる。
上記芳香族炭化水素基としては、フェニル、ナフチル、シクロヘキシルフェニル、ビフェニル、ターフェニル、フルオレイル、チオフェニルフェニル、フラニルフェニル、2’−フェニル−プロピルフェニル、ベンジル、ナフチルメチル等が挙げられ、上記脂肪族炭化水素基としては、例えばAの説明で用いた炭素原子数1〜20の脂肪族炭化水素基が挙げられ、上記脂肪族炭化水素基で置換された芳香族炭化水素基としては、上記脂肪族炭化水素基で置換されたフェニル、ナフチル、ベンジル等が挙げられる。
これらの炭化水素基を置換してもよい基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、シアノ基、ニトロ基、水酸基、チオール基、−NR7R8基等が挙げられ、R7及びR8が表す基は、Bにおいて説明したR7及びR8と同様である。
【0028】
上記一般式(1)におけるR1、R2及びR3で表される置換されていてもよい炭化水素オキシ基とは、上記R1が表す置換されていてもよい炭化水素基とSi原子との間が−O−で中断されるものである。
【0029】
R1、R2及びR3が表す基は、少なくとも一つが置換されていてもよい炭化水素オキシ基である。後で説明する担持体への吸着性が優れる点で、好ましくは、R1、R2及びR3の少なくとも一つが脂肪族炭化水素オキシ基又はR1、R2及びR3のすべてが置換されていてもよい炭化水素オキシ基である。更に好ましくは、R1、R2及びR3の2〜3個が直鎖又は分岐鎖脂肪族炭化水素オキシ基(特に炭素原子数1〜5のもの)であり、0〜1個が直鎖又は分岐鎖脂肪族炭化水素基(特に炭素原子数1〜5のもの)であり、最も好ましくは、R1、R2及びR3のすべてが直鎖又は分岐鎖脂肪族炭化水素オキシ基(特に炭素原子数1〜5のもの)である。
【0030】
上記一般式(1)におけるR4及びR5で表される置換されていてもよい炭化水素基としては、R1の説明で用いた基が挙げられ、R4及びR5は、互いに連結して環を形成してもよく、R4及びR5は互いに独立してAと連結して環を形成してもよい。
【0031】
上記一般式(1)で表される化合物の中でも下記部分構造(2)が、下記部分構造(2−1)〜(2−4)の何れかである化合物は、光電変換用途として特に良好な特性を示すため好ましい。特に下記部分構造(2−1)又は(2−2)の骨格を有するものは、製造が容易であり、担体への電子注入効率が高いため好ましい。
尚、下記部分構造(2)及び(2−1)〜(2−4)において、AからBへの結合手は記載を省略している。下記部分構造(2−1)〜(2−4)においては、AからBへの結合手は、芳香族炭化水素環及び芳香族ヘテロ環を構成するいずれの炭素原子に付いていてもよい。
【0034】
上記一般式(1)で表される化合物の中でも下記部分構造(3)が、下記部分構造(3−1)又は(3−2)である化合物は、製造が容易であり、光電変換用途として良好な特性を示すため好ましい。
尚、下記部分構造(3)、(3−1)及び(3−2)において、BからSi原子への結合手は記載を省略している。下記部分構造(3−1)及び(3−2)においては、BからSi原子への結合手は、右端の環構造中のいずれかの炭素原子に付く。
【0037】
また、上記一般式(1)において、i)〜iii)の条件の少なくとも一つ満たすものが好ましい。
i)Bが表す基の中に、上記式(B−1)〜(B−9)及び(B−11)〜(B−13)の何れかで表される基を少なくとも一つ有する。
ii)R4及びR5が、置換されていてもよい炭素原子数1〜12の炭化水素基である。
iii)R4及びR5の少なくとも一つが、Aと連結して環を形成している。
上記i)の条件を満たす化合物は、担体への電子注入効率が特に高い点で好ましい。上記ii)の条件を満たす化合物は、製造が容易であり、担持体への吸着モル数が特に大きい点で好ましい。上記iii)の条件を満たす化合物は、光電変換素子の耐久性が特に高い点で好ましい。
【0038】
上記一般式(1)で表される化合物の具体例としては、以下のNo.1〜68の化合物が挙げられるが、本発明の新規化合物はこれらに限定されるものではない。尚、式中Meはメチル基、Etはエチル基、Buはブチル基、Prはプロピル基、Penはペンチル基、Hexはヘキシル基、Decはデシル基、Phはフェニル基を表す。
【0043】
本発明の新規化合物は、公知或いは周知一般の反応を利用した方法で得ることができ、その合成方法には特に限定されない。代表的な合成方法の一例を挙げると、下記反応式(ア)に示す通り、ハロゲン体(11)及びシリル化剤(12)を反応させることにより、上記一般式(1)で表される本発明の新規化合物を合成することができる。また、必要に応じて触媒、配位子及び塩基は変更してもよい。
【0045】
本発明の新規化合物は、後述するように、担体に担持させて担持体の形態として、光電変換素子等の用途に好適に用いることができる。本発明の新規化合物は、その他に、光学記録材料、医薬品、農薬、香料、染料等の合成中間体;各種機能性材料、各種ポリマー原料;光電気化学電池、非線形光学装置、エレクトロクロミックディスプレイ、ホログラム、有機半導体、有機EL;ハロゲン化銀写真感光材料、光増感剤;印刷インキ、インクジェット、電子写真カラートナー、化粧料、プラスチック等に用いられる着色剤;タンパク質用染色剤、物質検出のための発光染料;合成石英原料、塗料、合成触媒、触媒担体、表面コート薄膜材料、シリコーンゴム架橋剤、粘結剤等の用途に用いることもできる。
【0046】
次に、本発明の新規化合物を担持した本発明の担持体について説明する。
本発明の担持体に用いられる材料(担体)としては、アクリル樹脂、フッ素樹脂等の有機樹脂、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム等の金属酸化物、酸化ケイ素、ゼオライト、活性炭等が挙げられ、表面が多孔質であるものが好ましい。本発明の新規化合物は、アルコキシシリル基を有することで、担体への吸着力が高い。本発明の化合物を担体に担持させる方法としては、公知の気層吸着、液層吸着等の方法を用いることが可能であるが、例えば、液層吸着の例として、本発明の化合物を溶媒に溶解し、その溶液に上記担体を浸漬することで吸着させる方法が挙げられる。
【0047】
上記担体の形状は、特に制限されず、例えば、膜状、粉状、粒状等の形状から、担持体の用途によって適宜選択すればよい。また、上記担体の大きさ及び本発明の担持体における本発明の化合物の担持量についても、特に制限されず、担持体の用途によって適宜選択すればよい。
【0048】
本発明の新規化合物を担持した本発明の担持体は、以下で説明する光電変換素子に好適に用いられるほか、触媒、トナー等にも用いることができる。
【0049】
次に、本発明の光電変換素子について説明する。
本発明の光電変換素子は、色素増感型光電変換素子であり、色素として本発明の新規化合物を用いる点以外は、従来の色素増感型光電変換素子と同様とすることができる。以下、本発明の光電変換素子の代表的な構成例について、
図1及び
図2を参照して説明する。
【0050】
図1は、本発明の光電変換素子の一例の断面構成を模式的に表すものであり、
図2は、
図1に示した光電変換素子の主要部を抜粋し拡大して表すものである。
図1及び
図2に示した光電変換素子は、いわゆる色素増感型太陽電池の主要部である。この光電変換素子は、作用電極10と対向電極20とが電解質含有層30を介して対向配置されたものであり、作用電極10及び対向電極20のうちの少なくとも一方は、光透過性を有する電極である。
【0051】
作用電極10は、例えば、導電性基板11と、その一方の面(対向電極20の側の面)に設けられた金属酸化物半導体層12と、金属酸化物半導体層12に担持された色素13とを有している。本発明の光電変換素子においては、色素13が上記一般式(1)で表される本発明の新規化合物であり、色素としての本発明の新規化合物を担持する金属酸化物半導体層12が本発明の担持体である。
作用電極10は、外部回路に対して、負極として機能するものである。導電性基板11は、例えば、絶縁性の基板11Aの表面に導電層11Bを設けたものである。
【0052】
基板11Aの材料としては、例えば、ガラス、プラスチック等の絶縁性材料が挙げられる。プラスチックは、例えば透明ポリマーフィルムの形態で用いられ、透明ポリマーフィルムを形成するプラスチックとしては、例えば、テトラアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAR)、ポリスルフォン(PSF)、ポリエステルスルフォン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、環状ポリオレフィンあるいはブロム化フェノキシ等が挙げられる。
【0053】
導電層11Bとしては、例えば、酸化インジウム、酸化スズ、インジウム−スズ複合酸化物(ITO)あるいは酸化スズにフッ素をドープしたもの(FTO:F−SnO
2)等を含む導電性金属酸化物薄膜や、金(Au)、銀(Ag)あるいは白金(Pt)等を含む金属薄膜及び金属メッシュ、導電性高分子等で形成されたもの等が挙げられる。
【0054】
なお、導電性基板11は、例えば、導電性を有する材料によって単層構造となるように構成されていてもよく、その場合、導電性基板11の材料としては、例えば、酸化インジウム、酸化スズ、インジウム−スズ複合酸化物あるいは酸化スズにフッ素をドープしたもの等の導電性金属酸化物や、金、銀あるいは白金等の金属や、導電性高分子等が挙げられる。
【0055】
金属酸化物半導体層12は、色素13を担持する担持体であり、例えば、
図2に示したように多孔質構造を有している。金属酸化物半導体層12は、緻密層12Aと多孔質層12Bとから形成されている。緻密層12Aは、導電性基板11との界面において形成され、緻密で空隙の少ないものであることが好ましく、膜状であることがより好ましい。多孔質層12Bは、電解質含有層30と接する表面において形成され、空隙が多く、表面積の大きな構造であることが好ましく、特に、多孔質の微粒子が付着している構造であることがより好ましい。なお、金属酸化物半導体層12は、例えば、膜状の単層構造となるように形成されていてもよい。本発明において、担持とは、色素13が、多孔質層12Bと化学的、物理的又は電気的に結合又は吸着している状態である。
【0056】
金属酸化物半導体層12に含まれる材料(金属酸化物半導体材料)としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニオブ、酸化インジウム、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化バナジウム、酸化イットリウム、酸化アルミニウムあるいは酸化マグネシウム等が挙げられる。中でも、金属酸化物半導体材料としては、高い変換効率が得られるため、酸化チタン及び酸化亜鉛が好ましい。また、これらの金属酸化物半導体材料は、いずれか1種を単独で用いてもよいが、2種以上を複合(混合、混晶、固溶体、表面被覆等)させて用いてもよく、例えば、酸化チタンと酸化亜鉛等の組み合わせで使用することもできる。
【0057】
多孔質構造を有する金属酸化物半導体層12の形成方法としては、例えば、電解析出法や、塗布法や、焼成法等が挙げられる。電解析出法により金属酸化物半導体層12を形成する場合には、金属酸化物半導体材料の微粒子を含む電解浴液中において、導電性基板11の導電層11B上にその微粒子を付着させると共に金属酸化物半導体材料を析出させる。塗布法により金属酸化物半導体層12を形成する場合には、金属酸化物半導体材料の微粒子を分散させた分散液(金属酸化物スラリー)を導電性基板11の上に塗布したのち、分散液中の分散媒を除去するために乾燥させる。焼結法により金属酸化物半導体層12を形成する場合には、塗布法と同様にして金属酸化物スラリーを導電性基板11の上に塗布、乾燥したのち、焼成する。中でも、電解析出法あるいは塗布法により金属酸化物半導体層12を形成すれば、基板11Aとして耐熱性が低いプラスチック材料やポリマーフィルム材料を用いることができるため、フレキシブル性の高い電極を作製することができる。
【0058】
また、金属酸化物半導体層12は、有機塩基、尿素誘導体、環状糖鎖を用いて処理してもよい。有機塩基としては、ジアリールアミン、トリアリールアミン、ピリジン、4−t−ブチルピリジン、ポリビニルピリジン、キノリン、ピペリジン、アミジン等の有機塩基が挙げられる。該処理は、下記で説明する色素13を吸着させる前でも後でもよい。処理方法としては浸漬処理が挙げられ、処理剤が固体の場合、有機溶媒に溶解した上で浸漬処理すればよい。
【0059】
色素13は、金属酸化物半導体層12に対して、例えば吸着しており、光を吸収して励起されることにより、電子を金属酸化物半導体層12へ注入することが可能な1種あるいは2種以上の色素(増感色素)を含んでいる。本発明の光電変換素子において、上記一般式(1)で表される本発明の新規化合物が色素13に該当するものである。色素13として本発明の新規化合物を用いると、色素13全体として、照射された光量に対する金属酸化物半導体層12への電子注入量の割合が高くなるため、変換効率が向上する。
【0060】
色素13は、上記一般式(1)で表される本発明の新規化合物を少なくとも一種含んでいればよく、他の色素を含んでいてもよい。他の色素としては有機色素(以下、他の有機色素という)及び有機金属錯体化合物が挙げられ、好ましくは、金属酸化物半導体層12(担持体)に吸着できる基を有する色素が好ましい。
【0061】
他の有機色素としては、エオシンY、ジブロモフルオレセイン、フルオレセイン、ローダミンB 、ピロガロール、ジクロロフルオレセイン、エリスロシンB ( エリスロシンは登録商標) 、フルオレシン、マーキュロクロム、シアニン系色素、メロシアニンジスアゾ系色素、トリスアゾ系色素、アントラキノン系色素、多環キノン系色素、インジゴ系色素、ジフェニルメタン系色素、トリメチルメタン系色素、キノリン系色素、ベンゾフェノン系色素、ナフトキノン系色素、ペリレン系色素、フルオレノン系色素、スクワリリウム系色素、アズレニウム系色素、ペリノン系色素、キナクリドン系色素、無金属フタロシアニン系色素、無金属ポルフィリン系色素又は無金属アザポルフィリン系色素等が挙げられる。
有機金属錯体化合物としては、芳香族複素環内にある窒素アニオンと金属カチオンとで形成されるイオン性の配位結合と、窒素原子又はカルコゲン原子と金属カチオンとの間に形成される非イオン性配位結合の両方を有する有機金属錯体化合物や、酸素アニオン又は硫黄アニオンと金属カチオンとで形成されるイオン性の配位結合と、窒素原子又はカルコゲン原子と金属カチオンとの間に形成される非イオン性配位結合の両方を有する有機金属錯体化合物等が挙げられる。具体的には、銅フタロシアニン、チタニルフタロシアニン、コバルトフタロシアニン、ニッケルフタロシアニン、鉄フタロシアニン等の金属フタロシアニン系色素、金属ナフタロシアニン系色素、金属ポルフィリン系色素、金属アザポルフィリン系色素ならびにルテニウム、鉄、オスミウムを用いたビピリジル金属錯体、ターピリジル金属錯体、フェナントロリン金属錯体、ビシンコニン酸金属錯体、アゾ金属錯体あるいはキノリノール金属錯体等のルテニウム錯体等が挙げられる。
【0062】
また、色素13は、上記した色素の他に、1種あるいは2種以上の添加剤を含んでいてもよい。この添加剤としては、例えば、色素中の化合物の会合を抑制する会合抑制剤が挙げられ、具体的には、化学式(13)で表されるコール酸系化合物等である。これらは単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
【0064】
対向電極20は、例えば、導電性基板21に導電層22が設けられたものであり、外部回路に対して正極として機能するものである。導電性基板21の材料としては、例えば、作用電極10の導電性基板11の基板11Aの材料と同様のものが挙げられる。導電層22は、1種あるいは2種以上の導電材と、必要に応じて結着材を含んで構成されている。導電層22に用いられる導電材としては、例えば、白金、金、銀、銅(Cu)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)あるいはインジウム(In)等の金属、炭素(C)、又は導電性高分子等が挙げられる。また、導電層22に用いられる結着材としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、セルロース、メラミン樹脂、フロロエラストマー又はポリイミド樹脂等が挙げられる。なお、対向電極20は、例えば、導電層22の単層構造であってもよい。
【0065】
電解質含有層30は、例えば、酸化還元対を有するレドックス電解質を含んで構成されている。レドックス電解質としては、例えば、I
-/I
3-系、Br
-/Br
3-系、キノン/ハイドロキノン系、Co錯体系又はニトロキシラジカル化合物系等が挙げられる。具体的には、ヨウ化物塩とヨウ素単体とを組み合わせたもの、又は臭化物塩と臭素とを組み合わせたもの等のハロゲン化物塩とハロゲン単体とを組み合わせたもの等である。このハロゲン化物塩としては、ハロゲン化セシウム、ハロゲン化四級アルキルアンモニウム類、ハロゲン化イミダゾリウム類、ハロゲン化チアゾリウム類、ハロゲン化オキサゾリウム類、ハロゲン化キノリニウム類あるいはハロゲン化ピリジニウム類等が挙げられる。具体的には、これらのヨウ化物塩としては、例えば、ヨウ化セシウムや、テトラエチルアンモニウムヨージド、テトラプロピルアンモニウムヨージド、テトラブチルアンモニウムヨージド、テトラペンチルアンモニウムヨージド、テトラヘキシルアンモニウムヨージド、テトラへプチルアンモニウムヨージドあるいはトリメチルフェニルアンモニウムヨージド等の4級アルキルアンモニウムヨージド類や、3−メチルイミダゾリウムヨージドあるいは1−プロピル−2,3−ジメチルイミダゾリウムヨージド等のイミダゾリウムヨージド類や、3−エチル−2−メチル−2−チアゾリウムヨージド、3−エチル−5−(2−ヒドロキシエチル)−4−メチルチアゾリウムヨージドあるいは3−エチル−2−メチルベンゾチアゾリウムヨージド等のチアゾリウムヨージド類や、3−エチル−2−メチル−ベンゾオキサゾリウムヨージド等のオキサゾリウムヨージド類や、1−エチル−2−メチルキノリニウムヨージド等のキノリニウムヨージド類や、ピリジニウムヨージド類等が挙げられる。また、臭化物塩としては、例えば、四級アルキルアンモニウムブロミド等が挙げられる。ハロゲン化物塩とハロゲン単体とを組み合わせたものの中でも、上記したヨウ化物塩のうちの少なくとも1種とヨウ素単体との組み合わせが好ましい。
【0066】
また、レドックス電解質は、例えば、イオン性液体とハロゲン単体とを組み合わせたものでもよい。この場合には、さらに上記したハロゲン化物塩等を含んでいてもよい。イオン性液体としては、電池や太陽電池等において使用可能なものが挙げられ、例えば、「Inorg.Chem」1996,35,p1168〜1178、「Electrochemistry」2002,2,p130〜136、特表平9−507334号公報、又は特開平8−259543号公報等に開示されているものが挙げられる。中でも、イオン性液体としては、室温(25℃)より低い融点を有する塩、又は室温よりも高い融点を有していても他の溶融塩等と溶解することにより室温で液状化する塩が好ましい。このイオン性液体の具体例としては、以下に示したアニオン及びカチオン等が挙げられる。
【0067】
イオン性液体のカチオンとしては、例えば、アンモニウム、イミダゾリウム、オキサゾリウム、チアゾリウム、オキサジアゾリウム、トリアゾリウム、ピロリジニウム、ピリジニウム、ピペリジニウム、ピラゾリウム、ピリミジニウム、ピラジニウム、トリアジニウム、ホスホニウム、スルホニウム、カルバゾリウム、インドリウム、又はそれらの誘導体が挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いられてもよい。具体的には、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウム、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムあるいは1−エチル−3−メチルイミダゾリウム等が挙げられる。
【0068】
イオン性液体のアニオンとしては、AlCl
4-あるいはAl
2Cl
7-等の金属塩化物や、PF
6-、BF
4-、CF
3SO
3-、N(CF
3SO
2)
2-、F(HF)
n-あるいはCF
3COO
-等のフッ素含有物イオンや、NO
3-、CH
3COO
-、C
6H
11COO
-、CH
3OSO
3-、CH
3OSO
2-、CH
3SO
3-、CH
3SO
2-、(CH
3O)
2PO
2-、N(CN)
2-あるいはSCN
-等の非フッ素化合物イオンや、ヨウ化物イオンあるいは臭化物イオン等のハロゲン化物イオンが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いられてもよい。中でも、このイオン性液体のアニオンとしては、ヨウ化物イオンが好ましい。
【0069】
電解質含有層30には、上記したレドックス電解質を溶媒に対して溶解させた液状の電解質(電解液)を用いてもよいし、電解液を高分子物質中に保持させた固体高分子電解質を用いてもよい。また、電解液とカーボンブラック等の粒子状の炭素材料とを混合して含む擬固体状(ペースト状)の電解質を用いてもよい。なお、炭素材料を含む擬固体状の電解質では、炭素材料が酸化還元反応を触媒する機能を有するため、電解質中にハロゲン単体を含まなくてもよい。このようなレドックス電解質は、上記したハロゲン化物塩やイオン性液体等を溶解する有機溶媒のいずれか1種あるいは2種以上を含んでいてもよい。この有機溶媒としては、電気化学的に不活性なものが挙げられ、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、バレロニトリル、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、N−メチルピロリドン、ペンタノール、キノリン、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトン、ジメチルスルホキシドあるいは1,4−ジオキサン等が挙げられる。
【0070】
また、電解質含有層30には、光電変換素子の発電効率向上、耐久性向上等の目的で、非円環状糖類(特開2005−093313号公報)、ピリジン系化合物(特開2003−331936号公報)、尿素誘導体(特開2003−168493号公報)、ゲル化剤(ジベンジリデン−D−ソルビトール、コレステロール誘導体、アミノ酸誘導体、トランス−(1R,2R)−1,2−シクロヘキサンジアミンのアルキルアミド誘導体、アルキル尿素誘導体、N−オクチル−D−グルコンアミドベンゾエート、双頭型アミノ酸誘導体、4級アンモニウム誘導体、特許第4692694号公報に記載される層状粘土鉱物、アクリル酸モノマーなどの光重合性モノマー等)等を添加してもよい。
【0071】
この光電変換素子では、作用電極10に担持された色素13に対して光(太陽光又は、太陽光と同等の紫外光、可視光あるいは近赤外光)が照射されると、その光を吸収して励起した色素13が電子を金属酸化物半導体層12へ注入する。その電子が隣接した導電層11Bに移動したのち外部回路を経由して、対向電極20に到達する。一方、電解質含有層30では、電子の移動に伴い酸化された色素13を基底状態に戻す(還元する)ように、電解質が電子を受け取り酸化される。このようにして、作用電極10及び対向電極20の間における電子の移動と、これに伴う電解質含有層30における酸化還元反応とが繰り返される。これにより、連続的な電子の移動が生じ、定常的に光電変換が行われる。
【0072】
本発明の光電変換素子は、例えば、以下のように製造することができる。
【0073】
まず、作用電極10を作製する。最初に、導電性基板11の導電層11Bが形成されている面に多孔質構造を有する金属酸化物半導体層12を電解析出法や焼成法により形成する。電解析出法により形成する場合には、例えば、金属酸化物半導体材料となる金属塩を含む電解浴を、酸素や空気によるバブリングを行いながら、所定の温度とし、その中に導電性基板11を浸漬し、対極との間で一定の電圧を印加する。これにより、導電層11B上に、多孔質構造を有するように金属酸化物半導体材料を析出させる。この際、対極は、電解浴中において適宜運動させるようにしてもよい。また、焼成法により形成する場合には、例えば、金属酸化物半導体材料の粉末を分散媒に分散させることにより調製した金属酸化物スラリーを導電性基板11に塗布して乾燥させたのち焼成し、多孔質構造を有するようにする。続いて、有機溶媒に上記一般式(1)で表される本発明の新規化合物を含む色素13を溶解した色素溶液を調製する。この色素溶液に金属酸化物半導体層12が形成された導電性基板11を浸漬することにより、金属酸化物半導体層12に色素13を担持させる。
【0074】
上記色素溶液における本発明の新規化合物の濃度は、1.0×10
-5〜1.0×10
-3mol/dm
3が好ましく、5.0×10
-5〜5.0×10
-4mol/dm
3がより好ましい。上記色素溶液に用いる有機溶媒は、本発明の新規化合物を溶解できるものであれば特に制限はなく、具体例としては、トルエン、ベンゼン、キシレン等の炭化水素類;メタノール、エタノール、t−ブタノール等のアルコール類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ブチルジグリコール等のエーテルアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等のエステル類;アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸エステル類;2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール等のフッ化アルコール類;メチレンジクロライド、ジクロロエタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素類;アセトニトリル等が挙げられ、これらの有機溶媒を任意に混合してもよい。好ましくは、トルエン、アセトニトリルが挙げられる。
【0075】
次に、導電性基板21の片面に導電層22を形成することにより、対向電極20を作製する。導電層22は、例えば、導電材をスパッタリングすることにより形成する。
【0076】
最後に、作用電極10の色素13を担持した面と、対向電極20の導電層22を形成した面とが所定の間隔を保つと共に対向するように、封止剤等のスペーサ(図示せず)を介して貼り合わせ、例えば、電解質の注入口を除いて全体を封止する。続いて、作用電極10と対向電極20との間に、電解質を注入したのち注入口を封止することにより、電解質含有層30を形成する。これにより
図1及び
図2に示した光電変換素子が完成する。
【0077】
本発明の光電変換素子では、色素13が上記一般式(1)で表される本発明の化合物を含むため、本発明の化合物とは異なる化合物を用いた場合と比較して、色素13を担持させた担持体(金属酸化物半導体層12)から色素13が電解質含有層30へ溶出することが抑制できる。ついては、金属酸化物半導体層12に担持した色素13の量が低下しないため、色素13から金属酸化物半導体層12への電子注入量が低下しない。このような効果により、本発明の光電変換素子の耐久性を向上させることができる。
【0078】
なお、上記した光電変換素子では、作用電極10と対向電極20との間に電解質含有層30を設けた場合について説明したが、電解質含有層30に代えて固体電荷移動層を設けてもよい。この場合、固体電荷移動層は、例えば、固体中のキャリアー移動が電気伝導にかかわる材料を有している。この材料としては、電子輸送材料や正孔(ホール)輸送材料等が好ましい。
【0079】
正孔輸送材料としては、芳香族アミン類や、トリフェニレン誘導体類等が好ましく、例えば、オリゴチオフェン化合物、ポリピロール、ポリアセチレンあるいはその誘導体、ポリ(p−フェニレン)あるいはその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)あるいはその誘導体、ポリチエニレンビニレンあるいはその誘導体、ポリチオフェンあるいはその誘導体、ポリアニリンあるいはその誘導体、ポリトルイジンあるいはその誘導体等の有機導電性高分子等が挙げられる。
【0080】
また、正孔輸送材料としては、例えば、p型無機化合物半導体を用いてもよい。このp型無機化合物半導体は、バンドギャップが2eV以上であることが好ましく、さらに、2.5eV以上であることがより好ましい。また、p型無機化合物半導体のイオン化ポテンシャルは色素の正孔を還元できる条件から、作用電極10のイオン化ポテンシャルより小さいことが必要である。使用する色素によってp型無機化合物半導体のイオン化ポテンシャルの好ましい範囲は異なってくるが、そのイオン化ポテンシャルは、4.5eV以上5.5eV以下の範囲内であることが好ましく、さらに4.7eV以上5.3eV以下の範囲内であることがより好ましい。
【0081】
p型無機化合物半導体としては、例えば、1価の銅を含む化合物半導体等が挙げられる。1価の銅を含む化合物半導体の一例としては、CuI、CuSCN、CuInSe
2、Cu(In,Ga)Se
2、CuGaSe
2、Cu
2O、CuS、CuGaS
2、CuInS
2、CuAlSe
2等がある。このほかのp型無機化合物半導体としては、例えば、GaP、NiO、CoO、FeO、Bi
2O
3、MoO
2又はCr
2O
3等が挙げられる。
【0082】
このような固体電荷移動層の形成方法としては、例えば、作用電極10の上に直接、固体電荷移動層を形成する方法があり、そののち対向電極20を形成付与してもよい。
【0083】
有機導電性高分子を含む正孔輸送材料は、例えば、真空蒸着法、キャスト法、塗布法、スピンコート法、浸漬法、電解重合法又は光電解重合法等の手法により電極内部に導入することができる。無機固体化合物の場合も、例えば、キャスト法、塗布法、スピンコート法、浸漬法又は電解メッキ法等の手法により電極内部に導入することができる。このように形成される固体電荷移動層(特に、正孔輸送材料を有するもの)の一部は、金属酸化物半導体層12の多孔質構造の隙間に部分的に浸透し、直接接触する形態となることが好ましい。
【0084】
本発明の化合物は、電解質含有層30に代えて固体電荷移動層を設けた光電変換素子においても、電解質含有層30を設けた場合と同様に、変換効率を向上させることができる。
【0085】
本発明の光電変換素子の使用用途は、前述した太陽電池の用途に限らず、他の用途であってもよい。他の用途としては、例えば、光センサ等が挙げられる。
【実施例】
【0086】
以下、合成例、実施例及び比較例を挙げて、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0087】
以下の合成例により、上記化合物No.1〜No.25及びNo.66〜No.68を合成した。尚、前駆体であるハロゲン体及びシリル化剤(それぞれ前述の化学式(11)及び(12)に相当)は、購入又は公知の方法により合成した。
【0088】
(合成例1)化合物No.1の合成
4−(4−ブロモフェニルアゾ)−N,N−ジメチルアニリン(ハロゲン体、2.0mmol、0.60g)、トリエトキシシラン(シリル化剤、3.0mmol、0.49g)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0.03mmol、0.027g)、(2−ビフェニル)ジターシャリーブチルホスフィン(0.12mmol、0.036g)、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(6.0mmol、0.78g)及びジメチルホルムアミド(4ml)を仕込み、60℃で3時間撹拌した。室温まで冷却した後、反応液にクロロホルム(10ml)及び水(10ml)を加え、油水分液を行った。得られた有機層をPLC(ヘキサン:酢酸エチル=15:1の移動相溶媒)を用いて精製することにより、黄色固体を0.35g(収率45.2%)得た。得られた固体が、化合物No.1であることをUV−VIS(λmax)、
1H−NMRを用いて確認した。データを〔表1〕〜〔表2〕に示す。
【0089】
(合成例2〜28)化合物No.2〜No.25及びNo.66〜No.68の合成
目的化合物に対応したハロゲン体(ブロモ体)及びシリル化剤を用いた以外は合成例1と同様の手法で化合物No.2〜No.25及びNo.66〜No.68を合成した。得られた固体又は液体の外観及び収率を〔表1〕に示す。尚、PLCによる精製時に用いた移動相溶媒は化合物によって異なるため、移動相溶媒についても合わせて〔表1〕に示す。合成した化合物が目的化合物であることは、合成例1と同様に確認した。データを〔表1〕及び〔表2〕に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2-1】
【0092】
【表2-2】
【0093】
上記で合成した化合物を用いて、本発明の担持体を以下の手順により作製した。
【0094】
(実施例1)化合物No.1を用いた担持体(作用電極)
まず、縦2.0cm×横1.5cm×厚さ1.1mmの導電性ガラス基板(F−SnO
2)よりなる導電性基板11を用意した。続いて、導電性基板11に、縦0.5cm×横0.5cmの四角形を囲むように厚さ70μmのマスキングテープを貼り、この部分に金属酸化物スラリー3cm
3を一様の厚さとなるように塗布して乾燥させた。金属酸化物スラリーとしては、10重量%となるように酸化チタン粉末(TiO
2、Solaronix社製Ti−NanoxideD)を、水に懸濁したものを用いた。続いて、導電性基板11上のマスキングテープを剥がし取り、この基板を電気炉により450℃で焼成し、厚さ約5μmの金属酸化物半導体層12を形成した。続いて、化合物No.1を3×10
-4mol/dm
3の濃度になるようにトルエンに溶解させて、色素溶液を調製した。続いて、金属酸化物半導体層12が形成された導電性基板11を上記の色素溶液に浸漬し、色素13を担持させた作用電極10を作製した。
作製した作用電極10を25℃、24時間の条件で、剥離液(アセトニトリル:水=99:1)に浸漬した。剥離液浸漬前の色素担持量(色素のλmaxにおけるAbs.)を100としたときの、剥離液浸漬後の色素担持量を、耐剥離性として〔表3〕に示した。剥離後の色素担持量が100に近いほど耐剥離性が高いといえる。
【0095】
(実施例2〜22及び比較例1〜5)
金属スラリー及び化合物No.1を〔表3〕の化合物に替えた以外は実施例1と同様の操作により、各色素を担持させた作用電極10を作製し、色素の耐剥離性を求めた。結果を〔表3〕に示した。尚、〔表3〕に記載の金属スラリーのZnOとしては、酸化亜鉛粉末(平均粒径20nm、堺化学工業社製FINEX−50)を用いた。
【0096】
【表3】
【0097】
【化11】
【0098】
表3の耐剥離性の結果(特に、実施例1と比較例1、実施例11と比較例2、実施例4と比較例3、実施例13と比較例4、実施例17と比較例5の比較)の通り、上記一般式(1)で表される本発明の化合物は、吸着耐久性が高い。このことから、本発明の化合物を用いれば、光電変換素子の光電変換効率を安定的・継続的に維持できることが明らかである。