(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のインクジェット記録用水性インクセットは、第1のインクが色材、水性ウレタン樹脂、水溶性溶媒及び/または水を含むインクであり、第2のインクはpHが9以上でありキレート化剤、水溶性溶媒、水溶性溶媒及び/または水を含むインクである。両インクを重ね刷りすることでゲル化が生じる。この結果、滲み、色間滲み等の画像の乱れがなく、且つ印刷直後の耐擦性に優れる
インクを得ることができる。
両インクを重ね刷りすることでゲル化が生じることについては明確ではないが、以下を推定している。例えば、第1のインク中に存在する水性ウレタン樹脂と、第2のインクに存在するキレート化剤との反応しゲル化が生じている可能性がある。あるいは、キレート化剤がトリガーとなってウレタンセグメントの分子間水素結合により巨大会合体へと成長し、ファンデルワールス力などの相互作用によりそれらが束になって網目状に絡まり相互に運動を妨げあって流動性を失い、その中に溶媒である水を抱き込んでゲル化が生じている可能性もある。
【0013】
(第1のインク 水性ウレタン樹脂)
本発明で使用する第1のインクは、色材、水性ウレタン樹脂、水溶性溶媒及び/または水を含む。水性ウレタン樹脂としては、公知慣用の水性ウレタン樹脂を使用すればよく、特に限定はない。例えば、水性のポリエステルポリウレタン、水性のポリエーテルポリウレタン、水性のポリアクリルポリウレタン、水性のポリカーボネートポリウレタン、ヒドラジン等の官能基を有する水性のポリウレタン等を好ましく使用できる。
【0014】
前記水性ウレタン樹脂は、水性となっているために酸価を有するが、該酸価は樹脂固形分あたり10〜200mgKOH/gであることが好ましい。酸価が10mgKOH/g未満では、水性ポリウレタン樹脂の貯蔵安定性に劣る恐れがある。一方、酸価が200mgKOH/gを超えると、好ましい耐久性、耐水性等の物性が得られないことがある。
【0015】
また、前記水性ポリウレタン樹脂のガラス転移点温度(以下Tgと略す)は、所望する用途に応じて適宜設定することが好ましい。例えば食品用の包装材料用途等の可とう性を有するプラスチックフィルムに印字する場合はフレキシビリティー(柔軟性)が要求されることから、Tgはあまり高くないほうが好ましい。適当なフィルムへの密着性とフレキシビリティーとを両立させるために、前記水性ポリウレタン樹脂のTgは−80℃〜30℃の範囲であることが好ましい。
【0016】
本発明で使用する水性ポリウレタン樹脂が水分散体の場合、その平均粒子径が大きすぎるとヘッド詰まりの原因となり吐出不良を引き起す。そのため、ポリウレタン樹脂粒子の平均粒子径はできるだけ小さいことが吐出不良への影響が少ないことから好ましい。具体的には10nm〜500nmの範囲であることが好ましく、10〜100nmの範囲であることが特に好ましい。
ここで粒子径の測定は、公知慣用の遠心沈降方式、レーザー回折方式(光散乱方式)、ESA方式、キャピラリー方式、電子顕微鏡方式などで行うことができる。好ましいのは、動的光散乱法を利用したマイクロトラックUPAによる測定である。
【0017】
本願においては、後述の第2のインクに含まれるキレート剤と、前記水性ウレタン樹脂のケト基とが反応すると推定している。従って、ウレタン結合が存在していればよいが、該キレート剤と反応しうる他の基が含まれていると本発明の効果をより一層高めることができ好ましい。そのような基としては、例えば、ヒドラジン基、カルボキシル基等があげられる。
【0018】
(第1のインク 色材)
本発明で使用する色材は、特に限定はなく、水性インクジェットインクにおいて通常使用される色材を使用することができ、顔料や染料等が挙げられる。
耐候性、耐水性を要求される用途であれば、顔料を使用することが好ましい。顔料としては、公知慣用の有機顔料あるいは無機顔料を使用することができる。
【0019】
本発明で使用する顔料は、公知慣用の有機顔料あるいは無機顔料の中から選ばれる少なくとも一種の顔料である。また、本発明は未処理顔料、処理顔料のいずれでも適用することができる。
プラスチックを被記録材とする印刷の場合、インクジェットインクとしては、イエローインク、シアンインク、マゼンタインク、ブラックインク等のほか、視認性を高める目的から白色インクも使用される。これらの使用される顔料は特に限定はなく、通常水性インクジェット記録用インク用の顔料として使用されているものが使用できる。具体的には、水や水溶性有機溶剤に分散可能であり、公知の無機顔料や有機顔料が使用できる。無機顔料としては例えば、酸化鉄、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法等の公知の方法によって製造されたカーボンブラック等がある。また、有機顔料としては、アゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料などを含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料など)、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレートなど)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどを使用することができる。
【0020】
例えばブラックインクに使用される顔料としては、カーボンブラックとして、三菱化学社製のNo.2300、No.2200B、No.900、No.960、 No.980、No.33、No.40、No,45、No.45L、No.52、HCF88、MA7、MA8、MA100、等が、コロンビア社製のRaven5750、Raven5250、Raven5000、Raven3500、Raven1255、Raven700等が、キャボット社製のRegal 400R、Regal 330R、Regal 660R、Mogul L、Mogul 700、Monarch800、Monarch880、Monarch900、Monarch1000、Monarch1100、Monarch1300、Monarch1400等が、デグサ社製のColor Black FW1、同FW2、同FW2V、同FW18、同FW200、同S150、同S160、同S170、Printex 35、同U、同V、同1400U、Special Black 6、同5、同4、同4A、NIPEX150、NIPEX160、NIPEX170、NIPEX180等が挙げられる。
【0021】
またイエローインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、12、13、14、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、120、128、129、138、150、151、154、155、174、180、185等が挙げられる。
【0022】
また、マゼンタインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、146、168、176、184、185、202、209、等が挙げられる。
【0023】
また、シアンインクに使用される顔料の具体例としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:3、15:4、16、22、60、63、66等が挙げられる。
【0024】
また、白インクに使用される顔料の具体例としては、アルカリ土類金属の硫酸塩、炭酸塩、微粉ケイ酸、合成珪酸塩、等のシリカ類、ケイ酸カルシウム、アルミナ、アルミナ水和物、酸化チタン、酸化亜鉛、タルク、クレイ等があげられる。また、前記無機白色顔料が各種表面処理方法で表面処理されていてもよい。
【0025】
また、染料としては、例えば、C.I.アシッド ブラック1、2、7、16、17、24、26、28、31、41、48、52、58、60、63、94、107、109、112、118、119、121、122、131、155、156;C.I.アシッド イエロー1、3、4、7、11、12、13、14、17、18、19、23、25、29、34、38、40、41、42、44、49、53、55、59、61、71、72、76、78、79、99、111、114、116、122、135、142、161、172、;C.I.アシッド オレンジ7、8、10、19、20、24、28、33、41、45、51、56、64;C.I.アシッド レッド1、4、6、8、13、14、15、18、19、21、26、27、30、32、34、35、37、40、42、44、51、52、54、57、80、82、83、85、87、88、89、92、94、97、106、108、110、111、114、115、119、129、131、133、134、135、143、143:1、144、152、154、155、172、176、180、184、186、187、249、254、256、289、317、318;C.I.アシッド バイオレット7、11、15、34、35、41、43、49、51、75;C.I.アシッド ブルー1、7、9、15、22、23、25、27、29、40、41、43、45、49、51、53、55、56、59、62、78、80、81、83、90、92、93、102、104、111、113、117、120、124、126、138、145、167、171、175、183、229、234、236、249;C.I.アシッド グリーン3、9、12、16、19、20、25、27、41、44;C.I.アシッド ブラウン4、14等の酸性染料や、
【0026】
C.I.ベイシック ブラック2.8;C.I.ベイシック イエロー1、2、11、12、14、21、32、36;C.I.ベイシック オレンジ2、15、21、22;C.I.ベイシック レッド1、2、9、12、13、37;C.I.ベイシック バイオレット1、3、7、10、14;C.I.ベイシック ブルー1、3、5、7、9、24、25、26、28、29;C.I.ベイシック グリーン1、4;ベイシック ブラウン1、12等の塩基性染料や、
【0027】
C.I.ダイレクト ブラック2、4、9、11、14、17、19、22、27、32、36、38、41、48、49、51、56、62、71、74、75、77、78、80、105、106、107、108、112、113、117、132、146、154、168、171、194;I.C.ダイレクト イエロー1、2、4、8、11、12、24、26、27、28、33、34、39、41、42、44、50、51、58、72、85、86、87、88、98、100、110、127、135、141、142、144;C.I.ダイレクト オレンジ6、8、10、26、29、41、49、52、102;C.I.ダイレクト レッド1、2、4、8、9、11、13、15、17、20、23、24、28、31、33、37、39、44、46、47、48、51、59、62、63、73、75、77、80、81、83、84、85、87、89、90、94、95、99、101、108、110、145、189、197、220、224、225、226、227、230、250、254、256、257;C.I.ダイレクト バイオレット1、7、9、12、35、48、51、90、94;C.I.ダイレクト ブルー1、2、6、8、15、22、25、34、69、70、71、72、75、76、78、80、81、82、83、86、90、98、106、110、110、120、123、158、163、165、192、193、194、195、196、199、200、201、202、203、207、218、236、237、239、246、258、287;ダイレクト グリーン1、6、8、28、33、37、63、64;C.I.ダイレクト ブラウン1A、2、6、25、27、44、58、95、10、101、106、112、173、194、195、209、210、211等の直接染料や、
【0028】
C.I.リアクテブ ブラック1、3、5、6、8、12、14;C.I.リアクテブ イエロー1、2、3、13、14、15、17;C.I.リアクテブ オレンジ2、5、7、16、20、24;、リアクテブ レッド6、7、11、12、15、17、21、23、24、35、36、42、63、66、84、184;C.I.リアクテブ バイオレット2、4、5、8、9;C.I.リアクテブ ブルー2、5、7、12、13、14、15、17、18、19、20、21、25、27、28、37、38、40、41;C.I.リアクテブ グリーン5、7;リアクテブ ブラウン1、7、16等の反応性染料や、
【0029】
C.I.フード ブラック1、2;C.I.フード イエロー3、4、5;C.I.フード レッド2、3、7、9、14、52、87、92、94、102、104、105、106;C.I.フード バイオレット2;C.I.フード ブルー1、2;C.I.フード グリーン2、3等の食品用色素等が挙げられる。
【0030】
本発明においては、顔料表面に水分散性付与基を有し、分散剤が無くとも安定に分散状態が維持できる、いわゆる自己分散型顔料(表面処理顔料)でも良いし、顔料表面の全体をポリマーで被覆し、これにより分散剤が無くとも安定に分散状態が維持できる、いわゆるカプセル顔料(水分散性ポリマー包含顔料)でも良いし、分散剤により分散された顔料を使用してもよい。
前記顔料の平均粒子径は、通常インクジェットインクに使用される粒径であることが好ましく、具体的には50〜500nmが好ましく、カラーインクに関しては50〜300nmがより好ましい。
【0031】
前記顔料は、公知慣用の顔料分散剤やバインダーを使用して水に分散してもよいし、界面活性剤を使用してもよい。
前記顔料分散剤としては水性樹脂がよく、好ましい例としては、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのアクリル系樹脂、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−α−メチルスチレン−アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのスチレン−アクリル樹脂、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、及び該水性樹脂の塩が挙げられる。
前記共重合体の塩を形成するための化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどの水酸化アルカリ金属類、およびジエチルアミン、アンモニア、エチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、モルホリンなどが挙げられる。これらの塩を形成するための化合物の使用量は、前記共重合体の中和当量以上であることが好ましい。
また市販品を使用することも勿論可能である。市販品としては、味の素ファインテクノ(株)製品)のアジスパーPBシリーズ、ビックケミー・ジャパン(株)のDisperbykシリーズ、BYK−シリーズ、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製のEFKAシリーズ等を使用できる。
【0032】
(第1のインク 水溶性溶媒及び/または水)
本発明で使用する水溶性溶媒及び/または水は、水単独で使用してもよいし、水と水溶性溶媒からなる混合溶媒でもよい。水溶性溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、等のケトン類;メタノール、エタノール、2−プロパノール、2−メチル−1−プロパノール、1−ブタノール、2−メトキシエタノール、等のアルコール類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、等のアミド類が挙げられ、とりわけ炭素数が3〜6のケトン及び炭素数が1〜5のアルコールからなる群から選ばれる化合物を用いるのが好ましい。
【0033】
(第1のインクの製造方法)
本発明で使用する第1のインクは、前記顔料の分散液(顔料ペースト)を作成し、それを水で希釈し、前記水性ウレタン樹脂を加え、必要に応じて湿潤剤(乾燥抑止剤)、浸透剤、あるいはその他の添加剤を添加して、インクを調製することができる。
【0034】
(顔料ペースト)
前記顔料ペーストを調製する方法としては、下記の方法を採用することができる。
(1)顔料分散剤及び水を含有する水性媒体に、顔料を添加した後、攪拌・分散装置を用いて顔料を該水性媒体中に分散させることにより、顔料ペーストを調製する方法。
(2)顔料、及び顔料分散剤を2本ロール、ミキサー等の混練機を用いて混練し、得られた混練物を、水を含む水性媒体中に添加し、攪拌・分散装置を用いて顔料ペーストを調製する方法。
(3)メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン等のような水と相溶性を有する有機溶剤中に顔料分散剤を溶解して得られた溶液に顔料を添加した後、攪拌・分散装置を用いて顔料を有機溶液中に分散させ、次いで水性媒体を用いて転相乳化させた後、前記有機溶剤を留去し顔料ペーストを調製する方法。
【0035】
混練機としては、特に限定されることなく、例えば、ヘンシェルミキサー、加圧ニーダー、バンバリーミキサー、プラネタリーミキサーなどがあげられる。また、攪拌・分散装置としても特に限定されることなく、例えば、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ボールミル、ロールミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、ナノマイザー等を挙げられる。
これらのうちの1つを単独で用いてもよく、2種類以上装置を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
前記顔料ペーストに占める顔料量は5〜60質量%であることが好ましく、10〜50質量%であることがより好ましい。顔料量が5質量%より少ない場合は、前記顔料ペーストから調製した水性インクの着色が不充分であり、充分な画像濃度が得られない傾向にある。また、逆に60質量%よりも多い場合は、顔料ペーストにおいて顔料の分散安定性が低下する傾向がある。
【0037】
また、インクの調整の際には、粗大粒子が、ノズル詰まり、その他の画像特性を劣化させる原因になるため、インク調製後に、遠心分離、あるいは濾過処理等により粗大粒子を除去することが好ましい。
【0038】
(湿潤剤)
前記湿潤剤は、インクの乾燥防止を目的として添加する。乾燥防止を目的とする湿潤剤のインク中の含有量は3〜50質量%であることが好ましい。
本発明で使用する湿潤剤としては特に限定はないが、水との混和性がありインクジェットプリンターのヘッドの目詰まり防止効果が得られるものが好ましい。例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、分子量2000以下のポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、イソプロピレングリコール、イソブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、メソエリスリトール、ペンタエリスリトール、等が挙げられる。中でも、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオールを含むことが安全性を有し、かつインク乾燥性、吐出性能に優れた効果が見られる。
【0039】
(浸透剤)
前記浸透剤は、被記録媒体への浸透性改良や記録媒体上でのドット径調整を目的として添加する。浸透剤としては、例えばエタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、エチレングリコールヘキシルエーテルやジエチレングリコールブチルエーテル等のアルキルアルコールのエチレンオキシド付加物やプロピレングリコールプロピルエーテル等のアルキルアルコールのプロピレンオキシド付加物等が挙げられる。
インク中の浸透剤の含有量は0.01〜10質量%であることが好ましい。
【0040】
(界面活性剤)
前記界面活性剤は、表面張力等のインク特性を調整するために添加する。このために添加することのできる界面活性剤は特に限定されるものではなく、各種のアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられ、これらの中では、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0041】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルフェニルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステルの硫酸エステル塩、高級脂肪酸エステルのスルホン酸塩、高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩及びスルホン酸塩、高級アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩等が挙げられ、これらの具体例として、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、イソプロピルナフタレンスルホン酸塩、モノブチルフェニルフェノールモノスルホン酸塩、モノブチルビフェニルスルホン酸塩、ジブチルフェニルフェノールジスルホン酸塩などを挙げることができる。
【0042】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、脂肪酸アルキロールアミド、アルキルアルカノールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマー、等を挙げることができ、これらの中では、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルキロールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマーが好ましい。
【0043】
その他の界面活性剤として、ポリシロキサンオキシエチレン付加物のようなシリコーン系界面活性剤;パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、オキシエチレンパーフルオロアルキルエーテルのようなフッ素系界面活性剤;スピクリスポール酸、ラムノリピド、リゾレシチンのようなバイオサーファクタント等も使用することができる。
【0044】
これらの界面活性剤は、単独で用いることもでき、又2種類以上を混合して用いることもできる。また、界面活性剤の溶解安定性等を考慮すると、そのHLBは、7〜20の範囲であることが好ましい。界面活性剤を添加する場合は、その添加量はインクの全質量に対し、0.001〜2質量%の範囲が好ましく、0.001〜1.5質量%であることがより好ましく、0.01〜1質量%の範囲であることがさらに好ましい。界面活性剤の添加量が0.001質量%未満の場合は、界面活性剤添加の効果が得られない傾向にあり、2質量%を超えて用いると、画像が滲むなどの問題を生じやすくなる。
【0045】
また、必要に応じて防腐剤、粘度調整剤、pH調整剤、キレート化剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を添加することができる。
【0046】
前記顔料ペーストから調整するインクジェット記録用インクに占める顔料量は、充分な画像濃度を得る必要性と、インク中での顔料の分散安定性を確保するために、1〜20質量%であることが好ましい。
【0047】
本発明において第1のインクの表面張力は、20mN/m以上60mN/m以下であることが好ましい。より好ましくは、20mN以上45mN/m以下であり、更に好ましくは、20mN/m以上35mN/m以下である。表面張力が20mN/m未満となるとノズル面に液体が溢れ出し、正常に印字できない場合がある。一方、60mN/mを超えると非吸収基材でのはじきが発生し易い傾向がある。
【0048】
本発明において第1のインクの粘度は、1.2mPa・s以上20.0 mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは2.0 mPa・s以上 15.0mPa・s未満、更に好ましくは3.0mPa・s以上 12.0 mPa・s未満である。粘度がこの範囲において、優れた吐出性と、長期間にわたる良好な噴射性の維持が達成できる。
第1のインクの表面張力や粘度は、含有する界面活性剤や水溶性溶媒の種類や添加量を調整するにより上記の好ましい範囲に維持することができる。
【0049】
(第2のインク キレート剤)
本発明で使用する第2のインクは、3−ヒドロキシ−2−2’−イミノジコハク酸四ナトリウム及びエチレンジアミン四酢酸の四ナトリウム塩からなる群から選ばれる少なくとも1つのキレート化剤、水溶性溶媒、水溶性溶媒及び/または水を含む。
本発明で使用するキレート剤は、3−ヒドロキシ−2−2’−イミノジコハク酸四ナトリウムまたはエチレンジアミン四酢酸の四ナトリウム塩である。これ以外のキレート剤、例えばエチレンジアミン四酢酸の三ナトリウム塩、エチレンジアミン四酢酸の二ナトリウム塩は、ウレタン樹脂を含む第1のインクと重ね刷りしても、ゲル化の効果が得られない。前記キレート剤は、第2のインク全量5〜30質量%となるように添加することが好ましい。キレート剤が少なすぎる量では、ゲル化効果が十分に得られないおそれがあり、一方多すぎる量では乾燥性が低下する。
【0050】
前記第2のインクは、塩基性とすることでよりゲル化の効果を高めることができる。具体的にはpH7.5以上の環境下でゲル化を生じさせることができるが、安定的にゲル化を生じさせるためには、pH9以上とすることが好ましい。pHを9以上とするには、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属類の化合物、水酸化アンモニウム、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、エタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール等の含窒素化合物、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属類の化合物を添加することで、適宜調整することができる。
【0051】
本発明で使用する第2のインクは、前記第1のインクで使用する色材や、湿潤剤(乾燥抑止剤)、浸透剤、あるいはその他の添加剤を適宜添加してインクを調製することができる。
第2のインクの表面張力は、20mN/m以上60mN/m以下であることが好ましい。より好ましくは、20mN以上45mN/m以下であり、更に好ましくは、20mN/m以上35mN/m以下である。表面張力が20mN/m未満となるとノズル面に液体が溢れ出し、正常に印字できない場合がある。一方、60mN/mを超えると記録媒体への浸透性の低下、はじきが発生することから画像再現性が劣る傾向がある。
【0052】
第2インクの粘度は、1.2mPa・s以上20.0 mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは3.0 mPa・s以上 15.0mPa・s未満、更に好ましくは5.0mPa・s以上 12.0 mPa・s未満である。粘度がこの範囲において、優れた吐出性と、長期間にわたる良好な噴射性の維持が達成できる。
第2のインクの表面張力や粘度は、含有する界面活性剤や水溶性溶媒の種類や添加量を調整することにより上記の好ましい範囲に維持することができる。
【0053】
(インクセット)
本発明のインクジェット記録用水性インクセットは、少なくとも前記第1のインクと第2のインクとを含むものであり、これら前記第1のインクと、第2のインクとが互いに接するように非吸収性基材上に付与され、画像が形成されることになる。
【0054】
(非吸収基材)
本発明で用いる非吸収基材であるプラスチックフィルムとしては、例えば食品用の包装材料に使用されているもの等を使用することができ、公知のプラスチックフィルムが使用できる。具体例としては、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンフィルム、ナイロン等のポリアミド系フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、ポリ乳酸フィルム等の生分解性フィルム等が挙げられる。特にポリエステルフィルム、ポリオレフィンフィルム、ポリアミド系フィルムが好ましく、さらにポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ナイロンが好ましい。またバリア性を付与するためのポリ塩化ビニリデン等のコーティングをした上記フィルムでもよいし、必要に応じてアルミニウム等の金属、あるいはシリカやアルミナ等の金属酸化物の蒸着層を積層したフィルムを併用してもよい。
【0055】
前記プラスチックフィルムは、未延伸フィルムであってもよいが、1軸もしくは2軸方向に延伸されたものが好ましい。さらにフィルムの表面は、未処理であってもよいが、コロナ放電処理、オゾン処理、低温プラズマ処理、フレーム処理、グロー放電処理等、接着性を向上させるための各種処理を施したものが好ましい。
前記プラスチックフィルムの膜厚は用途に応じて適宜変更されるが、例えば軟包装用途である場合は、柔軟性と耐久性、耐カール性を有しているものとして、膜厚が10μm〜100μmであることが好ましい。より好ましくは10μm〜30μmである。
【0056】
本発明のインクジェット記録用水性インクセットは、通常のインクジェット記録装置は勿論、インクのドライングを制御するためのヒーター等を搭載した記録装置、または、中間体転写機構を搭載し、中間体に記録材料を印字した後、非吸収基材等の記録媒体に転写する記録装置等においても用いることもできる。
インクジェット記録方式としては、従来公知の方式がいずれも使用できる。例えば圧電素子の振動を利用して液滴を吐出させる方法(電歪素子の機械的変形によりインク滴を形成するインクジェットヘッドを用いた記録方法)や熱エネルギーを利用する方法が挙げられる。
【0057】
本発明の方法においては、前記第1のインクと第2のインクとを、互いに接するように非吸収基材上に付与するに際して、その付与する順には特に制限はなく、第1のインクの付与後に第2のインクを付与してもよく、第2のインクの付与後に第1のインクを付与してもよく、同時に付与してもよい。
【0058】
1画素を形成するために付与される前記第1のインクと第2のインクの付与量は、必ずしも等量でなくてもよいが、質量比で1:10〜10:1の範囲内となるようにインクを付与することが好ましい態様である。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、下記実施例に何ら制限されるものではない。なお、以下実施例中にある部とは、質量部を表す。
【0060】
(調整例 顔料ペースト(a−1) シアン顔料分散液)
DIC(株)製のシアン顔料「FANTOGEN BLUE FSJ−SD」20部、顔料分散剤としてビックケミー・ジャパン(株)社製の「Disperbyk−190」30部、イソプロピルアルコール5部、純水45部を攪拌混合した。次にビーズミルを用いて練肉分散した後、遠心分離機にかけて粗大粒子を取り除き、純水を加えて、顔料濃度15質量%に調整したシアン顔料分散液(a−1)を得た。
【0061】
(調整例 インク調整)
表1〜2に示す配合に従い、攪拌混合した混合液を調整した。該混合液を0.5μmのフィルターで濾過して、第1のインク(1−1)〜(1−3)、第1の比較インク(H1−1)〜(H1−2)、第2のインク(2−1)〜(2−2)、第2の比較インク(H2−1)を得た。
【0062】
【表1】
【0063】
なお、表1中の樹脂は、下記に表す。
ハイドランAP−40F:ポリエステル系ウレタンエマルジョン(DIC(株)製、pH7.4、 酸価:25mgKOH/g、固形分22.4%)
ハイドランCP−7060:ポリカーボネート系ウレタンエマルジョン(DIC(株)製、pH、3.3、固形分21.0%)
ボンコートWKA−565:ポリエーテル系水性ウレタンエマルジョン(DIC(株)製、pH8.7、酸価:16mgKOH/g、固形分35.7%)
ジョンクリル780:アクリル系水性エマルジョン(BASF(株)製、pH8.4、酸価:46mgKOH/g、固形分48.0%)
バイロナールMD−2000:水性ポリエステルエマルジョン(東洋紡績(株)製、pH5.5、固形分40.0%)
【0064】
【表2】
【0065】
なお、表2中のキレート剤は、下記に表す。
キレスト400(商品名、キレスト(株)製、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム四水塩)
HIDS(商品名、日本触媒(株)製、3−ヒドロキシー2,2’−イミノゾコハク酸四ナトリウム水溶液、固形分51.3%、pH 10.3)
キレスト110(商品名、キレスト(株)製、エチレンジアミン四酢酸)
界面活性剤は、下記に表す。
アセチレン系:サーフィノール440(商品名、エアープロダクツジャパン(株)製)
フッ素系:メガファックF−444(商品名、DIC(株)製)
【0066】
(実施例1〜4、比較例1〜6)
256ノズル×2列のピエゾ型インクジェットノズルを有するインクジェット記録装置(コニカミノルタ(株)製 EB−100)に、各インクセットを装填し、被記録材としてOPPフィルム(フタムラ化学(株)製 FOR#20、膜厚20μm)上への画像記録を行った。液滴サイズは約42plとし、360×360dpi(dpiとは2.54cmあたりのドット数)の解像度で射出できるようにし、駆動周波数2kHzにて駆動した。フィルムの表面が60℃程度になるようにヒーターにてプレヒートしながら、第2のインク、第1のインクの順に印字を行い、乾燥(60秒/80℃)させた。
【0067】
(粘度測定)
E型粘度計、TV−25型(東機産業(株)製)を用いて測定(インク温度25℃)
【0068】
(pH測定)
MM−60R(東亜ディーケーケー(株)製)を用いて測定(インク温度25℃)
【0069】
(表面張力測定)
CBVP−Z型(協和界面科学(株)製)を用いて測定(インク温度25℃)
【0070】
(評価方法)
吐出性、及び得られた印字について、恒温恒湿室(室温25℃、湿度50%)において、以下(1)〜(5)の物性を評価した。
【0071】
(1)吐出性
連続12枚印刷後のノズルの目詰り等を評価した。
○:ノズル周辺にインク付着無く、ノズルの目詰り無し。
△:ノズル周辺にインク付着があるが、ノズルの目詰り無し。
×:ノズルの目詰り有り。
【0072】
(2)滲み性(ブリード)
○:網点ドット、ベタ部の境界でインクが滲まない。
△:網点ドット、ベタ部の境界で若干滲みがある。
×:網点ドット、ベタ部の境界が滲む。
【0073】
(3)ハジキ性
○:網点ドット、ベタ部でインクがはじかない。
△:網点ドット、ベタ部で若干インクがはじく。
×:網点ドット、ベタ部でインクがはじく。
【0074】
(4)ベタ部再現性
○:ベタ画像印字部で濃度ムラ無くインクが再現する。
△:ベタ画像印字部の濃度ムラが印字部に対して20%未満。
×:ベタ画像印字部の濃度ムラが印字部に対して20%以上。
【0075】
(5)耐擦性
○:ベタ画像印字部分をウエスで擦っても傷がつかない。
△:傷がついたベタ画像印字部が印字部に対して20%未満。
×:傷がついたベタ画像印字部が印字部に対して20%以上。
結果を、表3、4に示す。
【0076】
【表3】
吐出性:第1のインクの吐出性/第2のインクの吐出性
【0077】
【表4】
吐出性:第1のインクの吐出性/第2のインクの吐出性
【0078】
この結果、実施例1〜6で得たインクセットは、いずれも比較例1〜6の組み合わせで得られた水性インクよりも滲み、ハジキ、ベタ部再現性および耐擦性は良好であった。
比較例1,2、は、キレート剤としてエチレンジアミン四酢酸を使用した例であるが、いずれの項目も×であった。比較例3〜6は、第1のインクにウレタン樹脂を使用しない例であるが、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂いずれも効果は得られなかった。