(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書においては、コラーゲン様ポリペプチドに関して「単分子鎖」という場合は、Pro−Y−Gly(Yはヒドロキシプロリンまたはプロリン)の繰り返し配列のペプチドフラグメントを有するポリペプチドであって、三重らせん等の分子鎖間相互作用による構造を取らずに1本鎖として存在する状態をいう。また、コラーゲン様ポリペプチドに関して「複合体」という場合は、コラーゲン様ポリペプチド(単分子)鎖が三重らせん構造をとった状態を示す。多くの場合において、コラーゲン様ポリペプチド複合体はさらに、三重らせんが分岐構造をとったり、三重らせん分子間で会合したりする高次構造を形成する。なお、三重らせん構造をとっているか否かは後述するように円二色性スペクトルを測定することにより確認することができる。
【0011】
本発明においては各種アミノ酸残基を次の略語で記述する。
Ala:L−アラニン残基
Arg:L−アルギニン残基
Asn:L−アスパラギン残基
Asp:L−アスパラギン酸残基
Cys:L−システイン残基
Gln:L−グルタミン残基
Glu:L−グルタミン酸残基
Gly:グリシン残基
His:L−ヒスチジン残基
Hyp:L−ヒドロキシプロリン残基
Ile:L−イソロイシン残基
Leu:L−ロイシン残基
Lys:L−リジン残基
Met:L−メチオニン残基
Phe:L−フェニルアラニン残基
Pro:L−プロリン残基
Sar:サルコシン残基
Ser:L−セリン残基
Thr:L−トレオニン残基
Trp:L−トリプトファン残基
Tyr:L−チロシン残基
Val:L−バリン残基
なお、本明細書におけるペプチド鎖のアミノ酸配列は、定法に従い、N末端のアミノ酸残基を左側に、C末端のアミノ酸残基を右側に位置させて記載する。
【0012】
<1>本発明の止血材に含まれるコラーゲン様ポリペプチド
本発明の止血材は、下記式(1)で表されるペプチドフラグメントを有するコラーゲン様ポリペプチドを含む。
―(Pro−Y−Gly)
n― (1)
ここでYはヒドロキシプロリンまたはプロリンであり、ヒドロキシプロリンは、例えば4Hypであり、trans−4−ヒドロキシ−L−プロリンが好ましい。
また、式(
1)中、繰り返し数nは74〜171の整数である。すなわち、従来のコラーゲン様ポリペプチド(例えば、特開2003−321500号公報に記載の合成方法で得られたもの)に比して繰り返し数が大きいものである。
また、前記コラーゲン様ポリペプチドの重量平均分子量は、好ましくは単分子鎖当たり20,000以上、より好ましくは26,700〜45,600である。すなわち、従来のコラーゲン様ポリペプチド(例えば、特開2003−321500号に記載の方法で製造したコラーゲン様ポリペプチド:重量平均分子量が単分子鎖当たり16000程度)に比して高分子量のものである。
本発明では、従来のコラーゲン様ポリペプチドよりも単分子鎖での大きさが高分子量のものを用いることにより、単独でも繊維やナノファイバーにできる等加工性に優れ、強度も向上した材料による止血材を提供することが可能となる。
【0013】
なお、本明細書においてポリペプチドの重量平均分子量は、以下の条件のHFIP系GPC法により測定された単分子鎖当たりの値である。HFIP系GPC法は、三重らせんや会合状態のみかけの分子量ではなく、ポリペプチド単分子鎖の正確な分子量を測定できる方法である。
移動相:ヘキサフルオロイソプロパノール
カラム:GPC KF−606M、昭和電工株式会社製
流速:0.2〜1mL/min
温度:18〜50℃
分子量標準:PHGオリゴマーおよびMALS法にて絶対分子量測定したコラーゲン様ポリペプチド(表1)
検出:紫外線吸光度計
【0015】
本発明にかかるコラーゲン様ポリペプチドは、天然コラーゲンのように三重らせん構造をとりコラーゲン様ポリペプチド複合体を形成することができる。なお、ポリペプチドが三重らせん構造をとっているか否かは、ポリペプチド溶液について円二色性スペクトルを測定することにより確認することができる。具体的には、波長220〜230nmに正のコットン効果、および波長195〜205nmに負のコットン効果を示す場合、そのポリペプチドは三重らせん構造をとっていると考えられる。三重らせん構造の複合体となっている場合、コラーゲン様繊維の状態であることにより紡糸等の加工が容易となる。
本発明にかかるコラーゲン様ポリペプチド複合体は、直線状または1以上の分岐を有していてもよい。分岐を有する場合、分岐点以降に三重らせん構造が形成されていてもよく、さらにその三重らせん構造の後ろに分岐を有していてもよい。また、ポリペプチド鎖どうしは、互いに架橋されていてもよい。
【0016】
本発明にかかるコラーゲン様ポリペプチドは、上記式(1)で表されるペプチドフラグメントのみからなるものであってもよいが、その他にアミノ酸残基もしくはペプチドフラグメントまたはアルキレンを含んでもよい。
アミノ酸残基としては、Ala、Arg、Asn、Asp、Cys、Gln、Glu、Gly、His、Hyp、Ile、Leu、Lys、Met、Phe、Pro、Sar、Ser、Thr、Trp、Tyr、Valから選択された少なくとも1種が挙げられる。ペプチドフラグメントとしては、前記アミノ酸残基の1種以上が複数個結合したペプチドが挙げられる。アルキレンとしては、直鎖状、分岐状のいずれでもよく、特に限定されるものではないが、具体的には炭素数1〜18のアルキレンが挙げられ、実用的には炭素数2〜12のアルキレンが好ましい。
本発明にかかるコラーゲン様ポリペプチド単分子鎖は、上記式(1)で表されるペプチドフラグメントと他のアミノ酸残基もしくはペプチドフラグメントまたはアルキレンを、重量比において上記式(1)で表されるペプチドフラグメント:他のアミノ酸残基もしくはペプチドフラグメントまたはアルキレン=1:99〜100:0、好ましくは10:90〜100:0の範囲で有する。
【0017】
<2>コラーゲン様ポリペプチドの製造方法
本発明にかかるコラーゲン様ポリペプチドの製造方法を以下に説明するが、特にこれに限定されない。
本発明にかかるコラーゲン様ポリペプチドは、下記式(4)〜(6)のいずれかで表されるペプチドオリゴマーを縮合反応させることにより製造することができる。
H−(Pro−Y−Gly)
m−OH (4)
H−(Y−Gly−Pro)
m−OH (5)
H−(Gly−Pro−Y)
m−OH (6)
式(4)〜(6)中、Yはヒドロキシプロリンまたはプロリンであり、好ましくはヒドロキシプロリンである。ヒドロキシプロリンは、例えば4Hypであり、trans−4−ヒドロキシ−L−プロリンが好ましい。また、mは1〜10の整数であり、1〜5の整数であることが、ハンドリングの容易さ、縮合反応の効率、ペプチドオリゴマーの入手の容易さや経済性の観点から好ましい。
式(4)〜(6)で表されるペプチドオリゴマーはいずれか1種を用いてもよいし、混合物であってもよい。また、
mは単一の整数であってもよいし、種々の繰り返し数のオリゴマーの混合物であってもよい。
これらのペプチドオリゴマーは、既知の固相合成法または液相合成法により取得することができる。
式(4)〜(6)で表されるペプチドオリゴマーの他のペプチドオリゴマー(1〜10mer程度)を用いてもよい。ただし、式(4)〜(6)で表されるペプチドオリゴマーと他のペプチドオリゴマーとの使用量が重量比において100:0〜50:50の範囲であることが、生成されるコラーゲン様ポリペプチド単分子鎖が三重らせん構造を形成して複合体となりやすいため好ましい。
【0018】
前記縮合反応は、0〜0.2Mのリン酸イオンを含む水系溶媒中で行う。ここで水系溶媒とは、水を含む溶媒であり、有機溶媒が水系溶媒に混入してもよい。また有機溶媒とは、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホロアミド等)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド等)、窒素含有環状化合物(N−メチルピロリドン、ピリジン等)、ニトリル類(アセトニトリル等)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、アルコール類(メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール等)をいう。また、混入してもよいとは、含有量が好ましくは50重量%未満、より好ましくは10重量%未満、さらに好ましくは全く含まないことをいう。
【0019】
前記水系溶媒に含まれるリン酸イオンとは、リン酸二水素イオン(H
2PO
4-)、リン
酸水素イオン(HPO
42-)、及びリン酸イオン(PO
43-)の総称であり、水系溶媒中のリン酸イオン濃度は、リン酸二水素イオン(H
2PO
4-)、リン酸水素イオン(HPO
42-)、及びリン酸イオン(PO
43-)の合計濃度である。
本発明者らは水系溶媒中のリン酸イオン濃度を低くすると高分子量のコラーゲン様ポリペプチドを製造することができ、該濃度を高くすると低分子量のコラーゲン様ポリペプチドを製造することができ、リン酸イオン濃度を調節することによって製造されるコラーゲン様ポリペプチドの分子量を制御することができることを見出した。具体的には、例えば水系溶媒中のペプチドオリゴマーの濃度が5重量%であるときを例に説明すると、リン酸イオン濃度が0〜0.0025Mの場合は重量平均分子量45,600〜26,700のコラーゲン様ポリペプチドが得られ、0.005M以上0.01M未満の場合は、20,300〜16,000のコラーゲン様ポリペプチドが得られ、従来得難かった高分子量のコラーゲン様ポリペプチドを製造できる。また、0.012〜0.06Mの場合は重量平均分子量13,500〜7,100のコラーゲン様ポリペプチドが得られる。
リン酸イオン濃度は、水系溶媒に、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム等のリン酸塩を添加することにより調節できる。これらのリン酸塩は簡便かつ安価に入手でき、またその濃度の調節も簡便であるため、本発明は容易に実施することが可能である。
【0020】
前記縮合反応において、水系溶媒中のペプチドオリゴマーの濃度は、反応効率の観点から0.1〜50重量%であることが好ましく、反応のハンドリングの観点からは4〜25重量%であることがより好ましい。なお、ペプチドオリゴマーの濃度を小さくすることにより、生成するコラーゲン様ポリペプチドの分子量が小さくなるように制御することもできる。
また、縮合反応を行う温度は、反応効率の観点から0〜60℃であることが好ましく、
4〜20℃であることがより好ましい。
また、反応時間は1〜96時間であることが好ましく、2〜48時間であることがより好ましい。
また、縮合反応を行う水系溶媒のpHは特に限定されないが、通常、中性付近(pH=6〜8程度)に調整される。pHの調節は、通常、無機塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムなど)、有機塩基、無機酸(塩酸など)や有機酸を用いて行うことができる。
また、反応効率を上げるため水系溶媒を攪拌してもよいが、特に限定されない。
【0021】
また、前記縮合反応は、脱水剤(脱水縮合剤、縮合助剤)の存在下で行う。脱水縮合剤や縮合助剤との存在下で反応させることにより、脱保護とアミノ酸結合とを繰返す煩雑な処理を経ることなく、二量化や環化を抑制しつつ円滑に縮合反応が進行する。
脱水縮合剤は、前記溶媒中で脱水縮合を効率よく行える限り特に限定されるものではなく、例えば、カルボジイミド系縮合剤(ジイソプロピルカルボジイミド(DIPC)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(EDC=WSCI)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(WSCI
・HCl)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)等)、フルオロホスフェート系
縮合剤(O−(7−アザベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート、O−ベンゾトリアゾール−1−イル−N,N,N′,N′−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート、ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス−ピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスフェート、ベンゾトリアゾール−1−イル−トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロリン化物塩(BOP))等)、ジフェニルホスホリルアジド(DPPA)が例示できる。
これらの脱水縮合剤は単独で又は二種以上組み合わせて混合物として使用できる。好ましい脱水縮合剤は、カルボジイミド系縮合剤(例えば、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩)である。
脱水縮合剤の使用量は、ペプチドオリゴマーの総量1モルに対して、通常、水を含まない非水系溶媒を用いる場合0.7〜5モル、好ましくは0.8〜2.5モル、さらに好ましくは0.9〜2.3モル(例えば1〜2モル)の範囲である。水を含む溶媒(水系溶媒)においては、水による脱水縮合剤の失活があるので、脱水縮合剤の使用量は、ペプチドオリゴマーの総量1モルに対して、通常、2〜500モル、好ましくは5〜250モル、さらに好ましくは10〜125モルの範囲である。
【0022】
縮合助剤は、縮合反応を促進する限り特に制限されず、例えば、N−ヒドロキシ多価カルボン酸イミド類(例えば、N−ヒドロキシコハク酸イミド(HONSu)、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸イミド(HONB)等のN−ヒドロキシジカルボン酸イミド類)、N−ヒドロキシトリアゾール類(例えば、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)等のN−ヒドロキシベンゾトリアゾール類)、3−ヒドロキシ−4−オキソ−3,4−ジヒドロ−1,2,3−ベンゾトリアジン(HOOBt)等のトリアジン類、2−ヒドロキシイミノ−2−シアノ酢酸エチルエステルが例示できる。
これらの縮合助剤も単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましい縮合助剤は、N−ヒドロキシジカルボン酸イミド類(HONSu等)、N−ヒドロキシベンゾトリアゾール又はN−ヒドロキシベンゾトリアジン類(HOBt等)である。
縮合助剤の使用量は、溶媒の種類に関係なく、ペプチドオリゴマーの総量1モルに対して、通常、0.5〜5モル、好ましくは0.7〜2モル、さらに好ましくは0.8〜1.5モルの範囲である。
【0023】
脱水縮合剤と縮合助剤とは適当に組み合わせて使用することが好ましい。脱水縮合剤と縮合助剤との組合せとしては、例えば、DCC−HONSu(HOBtまたはHOOBt
)、WSCI−HONSu(HOBt又はHOOBt)が挙げられる。
【0024】
<3>本発明の止血材
本発明にかかるコラーゲン様ポリペプチドは、後述する実施例で示されるように、血液凝固能を有し、また生体が負った傷に対して止血能を有する。コラーゲン様ポリペプチドは、溶液(水溶液を含む)の形態であっても、固体の形態であっても上記性質を呈する。
そのため、コラーゲン様ポリペプチドを種々の態様で止血材とすることができる。本発明のコラーゲン様ポリペプチドが含まれる止血材の態様は、ナノファイバー、前記ナノファイバーからなる織布又は不織布、及びスポンジなど、特に限定されない。これらのうち、比表面積が大きくなるナノファイバーの形態が、血液と接触する比表面積が小さい(これは比重が大きいことでも示される)、例えばコラーゲン様ポリペプチドがフィルムやブロック状等の形態よりも、血液凝固能および止血能が高いため好ましい。さらに、取扱いの容易さも加わるナノファイバーからなる織布又は不織布が、より高い止血能の発揮という観点から好ましい。
また、これらの場合、ナノファイバー、前記ナノファイバーからなる織布・不織布、又はスポンジ中の合成コラーゲンの含有量は、止血能の確保の観点から、2.5〜100重量%であることが好ましい。
本発明の止血材は、含まれるコラーゲン様ポリペプチドの分子量(単分子鎖)が大きいため、スポンジやナノファイバー等の形態にしても力学的強度が高い。したがって、止血中や止血に用いた後であっても形状が崩れにくかったり破損しにくかったりするため、止血の際に止血材の上から患部を圧迫することもできるし、使用後の取扱い性にも優れるなどの利点がある。
【0025】
止血材を織布や不織布とする場合、取扱い性の観点から、織布又は不織布の厚さは0.01〜0.5mmであることが好ましく、0.1〜0.3mmであることがさらに好ましい。
また、織布や不織布形態の止血材は、支持基材がさらに積層している形態であることが、止血能をより向上させる観点から好ましい。かかる支持基材の形態は、フィルム、不織布、ゲル、板など特に限定されず、その材料も特に限定されないが、例えばポリウレタン等のポリマーが取扱い性上好ましい。かかる支持基材層は任意の方法で形成することができる。例えば、ポリウレタン製のフィルムを不織布の片面に積層・貼付することにより形成できる。また、かかる支持基材の厚さは、取扱い性および止血能の観点から、0.01〜0.2mmであることが好ましく、0.1〜0.3mmであることがさらに好ましい。
また、本発明の止血材は、ナノファイバー、織布、不織布、スポンジ等の形態のものをそのまま止血用途に供してもよいが、これらを適切な支持体に設置した形状に加工することにより、さらに取扱い性を向上させることができる。
【0026】
本発明の止血材を用いて止血する場合は、止血材を擦過傷や切創などの止血が必要な患部に接触させて使用する。この場合、患部に止血材を圧迫しながら接触させてもよいし、圧迫はしなくてもよい。止血材と血液との接触により、凝血因子である合成コラーゲンが素早く放出され、数秒〜数十秒程度の短時間で止血することができる。
【0027】
本発明の止血材は、トロンビン等の凝血因子を他に含有せずとも十分な止血能を有するが、必要に応じて他の凝血剤や添加物などを含有させてもよく、特に制限されない。例えば、トロンビン、フィブリノーゲン、酸化セルロース等の止血成分や、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン等の細胞接着性タンパク質や、抗線溶作用を示すアプロチニンやアミノカプロン酸、トラネキサム酸等を、本発明の止血材に含めることができる。また、安定剤(アルブミンやLアルギニン塩酸塩等のアミノ酸類を含む)、抗菌剤、保存剤、その他ビタミン類や生理学的に許容される塩類など種々の添加物を本発明の止血材に含めてもよい。また、ヒアルロン酸等のゲル基材を本発明の止血材に含めてもよい。
【0028】
ここで、本発明の止血材とすることができる、コラーゲン様ポリペプチドのナノファイバーをエレクトロスピニング法により得る方法について説明するが、これに制限されるものではない。なお、エレクトロスピニング法であれば、繊維径5nm〜50μmの均一なコラーゲン様ポリペプチド繊維を得ることができ、繊維径がナノメートル単位(1〜1000nm)のナノファイバーを得ることもでき、比表面積の大きい止血材材料を得られるという点で好ましい。
【0029】
まず、コラーゲン様ポリペプチドを溶媒に溶解させて紡糸溶液を調製する。かかる溶媒としては、ポリペプチドを溶解し、かつ紡糸する段階で蒸発し、繊維を形成可能なものであれば特に限定されない。例えば、水、エタノール、メタノール、イソプロパノール、アセトン、スルホランアセトン、プロパノール、ジクロロメタン、蟻酸、ヘキサフルオロイソプロパノール、ヘキサフルオロアセトン、メチルエチルケトン、クロロホルム、イソプロパノール、トルエン、テトラヒドロフラン、ベンゼン、ベンジルアルコール、1,4−ジオキサン、四塩化炭素、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、塩化メチレン、フェノール、ピリジン、トリクロロエタン、酢酸、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、アセトニトリル、N−メチルモルホリン−N−オキシド、ブチレンカーボネート、1,4−ブチロラクトン、ジエチルカーボネート、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジオキソラン、エチルメチルカーボネート、メチルホルマート、3−メチルオキサゾリジン−2−オン、メチルプロピオネート、2−メチルテトラヒドロフランなどが挙げられる。溶媒は一種を単独で用いてもよく、複数の溶媒の混合物であってもよい。
紡糸溶液中のポリペプチド濃度は、連続繊維を形成しやすくするため、0.1〜10.0重量%であることが好ましく、1.0〜8.0重量%であることがより好ましく、3.0〜6.0重量%であることがさらに好ましい。
【0030】
また、本発明にかかるコラーゲン様ポリペプチドは高分子量であるため、単独で紡糸することが可能であるが、他のポリマーを共に用いて紡糸溶液を調製してもよい。この場合、得られる繊維の力学的強度を向上させたり、繊維長さを大きくしたり、種々の機能を付与することができる。他のポリマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ポリスチレン等、特に制限されない。
また、紡糸溶液は、紡糸を妨げない限りにおいて任意の成分を含有してもよい。かかる任意成分としては、接着剤、電解質などが挙げられる。
接着剤を添加すると、製造されたナノファイバーどうしが接触点で接着されるので、ナノファイバーを不織布の形態で得る際に強力で摩擦によるケバ立ちの少ない柔軟な不織布とすることができる。接着剤としては、製造されたナノファイバーどうしを接着でき、かつ紡糸溶液の溶媒に可溶であれば特に限定されないが、例えばホットメルト樹脂からなる接着剤、エラストマー系の接着剤、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、ビニル系接着剤などが挙げられる。エラストマー系の接着剤としては、ポリクロロプレンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ブチルゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴムが例示される。接着剤を添加する場合は紡糸溶液中のポリペプチドに対して0.5〜10重量%添加されることが好ましい。
電解質を添加することによって紡糸溶液表面の電荷密度を上げることが出来、結果として紡糸性を向上させることが可能となる。電解質としては、紡糸溶液に可溶で、紡糸溶液中で電離するものであれば特に限定はされないが、例えば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸二水素ナトリウム、炭酸マグネシウムが例示される。電解質を添加する場合は、紡糸溶液中のポリペプチド
が塩析しない程度が望ましく、紡糸溶液中のポリペプチドに対して0.5〜10重量%添加されることが好ましい。
【0031】
次いで、調製した紡糸溶液を周知のエレクトロスピニング法の手段によって紡糸する。具体的には、紡糸溶液を充填したノズルとコレクター(基板)の間に電圧を印加した状態で、ノズルから紡糸溶液を吐出させて、コレクター上に繊維を回収する。エレクトロスピニング法を行う条件は、特に限定されず、紡糸溶液の種類や得られる繊維の用途等に応じて適宜調整すればよい。本発明の方法における一般的な条件としては、例えば、印加電圧は5〜50kV、吐出速度は0.01〜5.00mL/時、ノズルとコレクターの間の垂直距離は50〜300mmとすることができ、ノズルは18〜30Gの径のものを使用することができる。紡糸環境は、相対湿度10〜70%、温度を10〜30℃とすることが好ましいが、特段厳密に制御を行わなくてもよい。
【0032】
また、ここで、本発明の止血材とすることができる、コラーゲン様ポリペプチドのスポンジは、ポリペプチドの水溶液を一般的な条件で凍結乾燥することにより得ることができるが、特に制限されるものではない。
ナノファイバーやそれを用いた織布・不織布に比べて比表面積が小さいが、スポンジの方が成形が容易である点で好ましい場合もある。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0034】
<コラーゲン様ポリペプチドの作製>
1.高分子量コラーゲン様ポリペプチド(HMW−SC)の作製
モノマーとして、L−プロピル−L−(4−ヒドロキシプロピル)−グリシン 0.5
g、HOBt・H
2O 0.05gを量り取り、純水5mLに加えて4℃で攪拌した。別容器にEDC・HCl 1.58gを量り取り、純水5mLに加えて4℃で攪拌した。両者
を混合して縮合反応を開始し、4℃で24時間反応させた。
得られた生成物の単分子鎖の重量平均分子量を、HFIP系GPC法で測定したところ26,700であった。なお、HFIP系GPC法の測定条件は、5mM CF
3COONa HFIP溶液、カラム:GPC KF−606M、流速:0.5mL/min、温度:
40℃、分子量標準:前述したPHG、(PHG)
2、(PHG)
4、(PHG)
10及びMALSにて絶対分子量を決定したコラーゲン様ポリペプチド単分子鎖である。
【0035】
2.従来のコラーゲン様ポリペプチド(SC)の作製
特開2003−321500号公報に記載の合成方法でコラーゲン様ポリペプチドを作製した。すなわち、モノマーとして、L−プロピル−L−(4−ヒドロキシプロピル)−グリシン 0.5g、HOBt・H
2O 0.05gを量り取り、PBS溶液(8.1mM Na
2HPO
4、2.68mM KCl、1.47mM KH
2PO
4水溶液)5mLに加えて4℃で攪拌した。別容器にEDC・HCl 1.58gを量り取り、同様にPBS溶液を希釈した希釈液5mLに加えて4℃で攪拌した。両者を混合して縮合反応を開始し、4℃で24時間反応させた。
得られた生成物の単分子鎖の重量平均分子量を、上記条件と同様のHFIP系GPC法で測定したところ16000であった。
【0036】
<止血試験>
上記の如く作製したコラーゲン様ポリペプチドHMW−SC(単分子鎖の重量平均分子量:26700)の0.5w/w%水溶液、SC(単分子鎖の重量平均分子量:16000)の0.5w/w%水溶液、およびSCの1.6w/w
%水溶液とヒアルロン酸の0.6w/w%の水溶液とを1:1の割合(容量比)で混合した水溶液(SC+HA)をそれぞれ−80℃で凍結乾燥した後、180℃で2時間加熱することにより、スポンジ状の熱架橋物を得た。なお、SCスポンジの比重は0.007〜0.064g/cm
3であった。
このコラーゲン様ポリペプチド凍結乾燥スポンジの熱架橋物6mgを試料として用いて止血試験を行った。また、ウシ由来コラーゲンの熱架橋物からなる止血材であるテルプラグ(登録商標、オリンパステルモバイオマテリアル社製)も同じく6mg量り取り、比較対象として止血試験に供した。また、ガーゼ6mgでも同様に止血試験を実施した。
マウスの肝臓に外科用メスを用いて刺傷を作って出血させ、無処置では出血が続くこと
を確認した。出血部位全体(穿孔口)を覆うように試料を接触させ止血するまでそのままの状態とした。このとき試料上部からの圧迫などはしなかった。止血前後に試料の重量を測定し、出血量を比較した。止血材なしの場合は、出血部位に何も覆わないで、流れる血液をろ紙に吸収させ処理前後の重量を測定した。
図1に示す結果のとおり、本願発明の止血材を含むコラーゲン様ポリペプチドを含む止血材は、天然コラーゲンを含む止血材やガーゼに比して少ない出血量で止血できることがわかる。
また、止血試験後のスポンジの状態を観察した。表2に示した結果のとおり、本発明の止血材は、スポンジの強度が高く、血液吸収後であっても形状を保っていた。
【0037】
【表2】
【0038】
<参考:血液凝固確認試験>
24穴プレート(住友ベークライト社製、スミロン マルチプレート)にブタ血液(クエン酸ナトリウム処理済、東京芝浦臓器より購入)500μLを分注し、各ウェルにCaCl
2溶液(250mM)を3〜5μL添加してCa
2+最終濃度1.5〜2.5mMとし
た。該プレートを37℃に保温した振とう器(TAITEC社製、BR−40LF)で60秒間振とう(197rpm)した後、ウォーターバスで37℃に保温し、血液が凝固する時間を測定した。結果を表3に示す。これに基づき、以降の血液凝固試験ではCa
2+最終濃度を1.5mMとした。
【0039】
【表3】
【0040】
<参考:血液凝固試験1>
24穴プレート(住友ベークライト社製、スミロン マルチプレート)の4個のウェルにブタ血液(クエン酸ナトリウム処理済、東京芝浦臓器より購入)500μLを分注し、各ウェルにCaCl
2溶液(250mM)を3μL添加してCa
2+最終濃度1.5mMと
した。該プレートを37℃に保温した振とう器(TAITEC社製、BR−40LF)で60秒間振とう(197rpm)した後、2個のウェルにコラーゲン様ポリペプチド(SC)水溶液(0.5w/w%)165μLを添加した。該プレートを37℃に保温したウォーターバスで静置し、血液凝固時間を測定した。結果を表4に示す。これより、コラーゲン様ポリペプチド溶液の添加によってわずかながらも血液凝固が促進されることが確認
された。
【0041】
【表4】
【0042】
<血液凝固試験2 溶液>
24穴プレート(住友ベークライト社製、スミロン マルチプレート)の2個のウェルにブタ血液(クエン酸ナトリウム処理済、東京芝浦臓器より購入)500μLを分注し、各ウェルにCaCl
2溶液(250mM)を3μL添加してCa
2+最終濃度1.5mMと
した。該プレートを37℃に保温した振とう器(TAITEC社製、BR−40LF)で30秒間振とう(100rpm)した後、1個のウェルにSCまたはHMW−SCコラーゲン様ポリペプチド水溶液(0.5w/w%)165μLを添加した。該プレートを37℃で20秒間振とう(197rpm)した後、37℃で緩やかに振とう(50rpm)しながら、1分ごとに血液の状態を観察した。結果を表5に示す。これより、コラーゲン様ポリペプチドの添加によって血液凝固が促進されることが確認された。
【0043】
【表5】
【0044】
<血液凝固試験3 スポンジ>
SC及びHMW−SCコラーゲン様ポリペプチド並びに天然コラーゲン(日本ハム、豚皮、1%、pH3、塩酸水溶液)の0.5w/w%水溶液をそれぞれ調製し、これらを凍結乾燥してスポンジ状の試料を得た。各試料を0.1gずつ量り取って入れた試験管と対照のための空の試験管とを用意し、ブタ血液(採取後2日目、クエン酸ナトリウム処理済、東京芝浦臓器より購入)1mLを加え、すぐに250mMの塩化カルシウム溶液3μLを加えた。15〜30秒毎に傾斜させて観察し、血液が凝固するまで時間を測定した。結果を表6に示す。
【0045】
【表6】
【0046】
<参考:血液凝固試験4 フィルム>
SCコラーゲン様ポリペプチド溶液(0.615w/w%)4gを氷浴中で冷却し、ここに氷浴で冷却した0.01N NaCl、0.26mM NaHCO
3、HEPES 20mMを75μL添加した。この溶液をテフロン(登録商標)製丸容器(φ5cm)に注ぎ、35℃に保温したインキュベーターで乾燥して円形状のSCフィルム(62.1 mg
)を得た。なお、このフィルムの比重は3.2g/cm
3であった。
天然コラーゲン(NC)溶液(日本ハム、豚皮、1%、pH3、塩酸水溶液)5gに超純水5mLを加え希釈し、氷浴中で冷却した。ここに氷浴中で冷却した0.01N Na
Cl、0.26mM NaHCO
3、HEPES 20mMを150μL添加してpH6に
調整した。この溶液をテフロン(登録商標)製丸容器(φ5cm)2個に5mLずつ分注し、35℃に保温したインキュベーターで乾燥して円形状のNCフィルム(67.2mg)を得た。
24穴プレート(住友ベークライト社製、スミロン マルチプレート)にブタ血液(クエン酸ナトリウム処理済、東京芝浦臓器より購入)を500μLずつ分注し、各ウェルの血液にCaCl
2用液(250 mM)を2μLずつ添加してCa
2+最終濃度1.5mMとし、該プレートを37℃に保温した振とう器(TAITEC社製、BR−40LF)で30秒間振とう(100rpm)した。ここにSCフィルム(1.1mg)またはNCフィルム(1.1mg)を添加し、37℃で20秒間激しく振とう(197rpm)した。その後50rpmで緩やかに振とうしながら血液の状態を1分ごとに確認した。結果を表7及び表8に示す。1回目、2回目で固化時間は異なるが、フィルムの有無で血液凝固時間に差は見られなかった。また、スポンジに比して、フィルムの方が血液凝固に時間がかかる結果となった。
【0047】
【表7】
【0048】
【表8】