特許第5915565号(P5915565)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5915565シリコン単結晶の製造方法およびシリコン単結晶ウェーハの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5915565
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】シリコン単結晶の製造方法およびシリコン単結晶ウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20160422BHJP
   C30B 15/04 20060101ALI20160422BHJP
【FI】
   C30B29/06 502H
   C30B15/04
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-28604(P2013-28604)
(22)【出願日】2013年2月18日
(65)【公開番号】特開2014-156376(P2014-156376A)
(43)【公開日】2014年8月28日
【審査請求日】2015年2月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】園川 将
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 弘美
(72)【発明者】
【氏名】岡井 篤志
【審査官】 國方 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−315336(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0111489(US,A1)
【文献】 特開平06−283581(JP,A)
【文献】 特開2004−161595(JP,A)
【文献】 特開2009−179554(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多結晶シリコンを原料として、シリコン単結晶を製造するシリコン単結晶の製造方法であって、
前記多結晶シリコンの表面部分の抵抗率、又は、ドナー濃度およびアクセプター濃度と、前記多結晶シリコンのバルク部分の抵抗率、又は、ドナー濃度およびアクセプター濃度とを測定する工程と、
前記測定の結果に基づいて、ドナーまたはアクセプターを供給するドープ剤のドープ量を決定する工程と、
前記ドープ量のドープ剤を投入して、シリコン単結晶を製造する工程と、
を備え
前記製造されるシリコン単結晶の導電型がP型の場合は、前記多結晶シリコンとして、表面部分およびバルク部分のドナー濃度が0.04ppba未満の多結晶シリコンを使用し、
前記製造されるシリコン単結晶の導電型がN型の場合は、前記多結晶シリコンとして、表面部分およびバルク部分のアクセプター濃度が0.1ppba未満の多結晶シリコンを使用することを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記シリコン単結晶は、CZ法(チョクラルスキー法)により製造されることを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記製造されるシリコン単結晶は抵抗率が1000Ωcm以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のシリコン単結晶の製造方法によって製造されたシリコン単結晶をスライスして、シリコン単結晶ウェーハを製造する工程をさらに備えることを特徴とするシリコン単結晶ウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶の製造方法およびシリコン単結晶ウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CZ法(チョクラルスキー法)によって製造されたシリコン単結晶の品質として、1000Ωcm以上の高抵抗率をもったものの要求が増えてきている。これらの用途としては、今までFZ法によって製造されたシリコン単結晶で製造していた品種やRFデバイスといわれる通信用のデバイスなど、様々な用途がある。
【0003】
通常のCZ法による製造では、リンやボロンといったドープ剤をシリコン原料に添加することにより、目標の抵抗率をもったシリコン単結晶を製造している。
【0004】
1000Ωcm以上のシリコン単結晶を製造する場合は、高純度の石英ルツボ(内表面が合成石英でコートされたもの)に高純度の多結晶シリコンを投入し、ドープ剤を添加しない方法、すなわち、ノンドープで製造することが一般的である。
【0005】
多結晶シリコンの純度は、一般的にバルク部分のドナー濃度、および、アクセプター濃度を品質保証している。これは、製造した多結晶シリコンのロッドから、FZ法(フローティングゾーン法)による製造に使われる多結晶シリコンをくりぬき、バルク部分のドナー濃度およびアクセプター濃度を測定するとともに、これを原料にしてFZ法によってシリコン単結晶を製造し、このようにして製造されたシリコン単結晶から切り出したサンプル(以下、FZサンプルと称する)により、多結晶シリコンのバルク部分のドナー、アクセプターが規格値以下の濃度であること、FZサンプルの抵抗率がある値以上であることにより保証している。上記で保証された多結晶シリコンを使うことにより、1000Ωcm以上の高抵抗率のシリコン単結晶を製造することが可能となる。
【0006】
今までは、抵抗率が1000Ωcm以上であれば、どのような値の抵抗率でも良かったが、最近の品質要求は、たとえば、抵抗率が1000Ωcm以上という要求に加えて、導電型がP型であることや、抵抗率の上限を1500−2500Ωcmに限定されたり、導電型がP型であって、さらに抵抗率が3500Ωcm以上と要求されたりする。
【0007】
このような厳しい要求に対して、原料となる多結晶シリコンのドナー、アクセプターの量を的確に把握し、必要なドープ剤(たとえば、ボロン)を添加する必要がある。
【0008】
このような高抵抗シリコン単結晶の製造方法として、特許文献1は、抵抗率が100−2000Ωcmの高抵抗シリコン単結晶を製造する際に、シリコン原料として、原料中の不純物濃度が「ドナー濃度−アクセプター濃度」で表して、−5〜50pptaの範囲に管理されたものを使用することを開示している。
【0009】
また、特許文献2は、品質の高いシリコン単結晶を製造するためのシリコン原料として、バルク部分から検出されるクロム、鉄、ニッケル、銅、コバルトの不純物濃度の総計が150ppta以下である多結晶シリコンを使うことを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−315336号公報
【特許文献2】特開2011−63471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
発明者らが検討した結果、1000Ωcm以上の抵抗率をもった高抵抗シリコン単結晶を製造する場合には、従来のように、多結晶シリコン原料のバルク部分のドナー濃度、および、アクセプター濃度より推定して単結晶を製造すると、予想された製品抵抗率と、実際に製造された単結晶の抵抗率に大きな乖離が有ることが確認された。
【0012】
図6は、シリコン原料である多結晶シリコンのバルク部分のドナー濃度と、この多結晶シリコンから作製したFZサンプル(定義については(0005)段落参照)の抵抗率の関係を示すグラフである。図6からわかるように、多結晶シリコンのバルク部分のドナー濃度と、多結晶シリコンから作製したFZサンプルの抵抗率との間には、良好な相関が見られ、バルク部分のアクセプターを供給する不純物(例えば、ボロン)の影響がほとんど見られないことが確認された。
【0013】
一方、図7は、シリコン原料である多結晶シリコンから作製したFZサンプルの抵抗率の最大値と、この多結晶シリコンからCZ法によって製造したシリコン単結晶の抵抗率の最大値の関係を示すグラフである。図7からわかるように、多結晶シリコンから作製したFZサンプルの抵抗率と、この多結晶シリコンから製造したシリコン単結晶の抵抗率との間には、相関が全く見られない。さらに、多結晶シリコンから作製したFZサンプルでは、N型の導電型を示していたにもかかわらず、この多結晶シリコンから製造したシリコン単結晶では、P型の導電型を示している。
この原因として、シリコン原料である多結晶シリコンの表面部分に付着したアクセプターを供給する不純物(例えば、ボロン)の影響が考えられる。
【0014】
従って、シリコン原料である多結晶シリコンのバルク部分のドナー濃度、および、アクセプター濃度より、この多結晶シリコンから製造されたシリコン単結晶の抵抗率を推定するという従来の管理方法では、シリコン単結晶の製造に大きな支障が発生することが判明した。
【0015】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、高抵抗シリコン単結晶を製造する際に、シリコン単結晶の導電型および抵抗率を精度よく制御することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明は、多結晶シリコンを原料として、シリコン単結晶を製造するシリコン単結晶の製造方法であって、前記多結晶シリコンの表面部分の抵抗率、又は、ドナー濃度およびアクセプター濃度と、前記多結晶シリコンのバルク部分の抵抗率、又は、ドナー濃度およびアクセプター濃度とを測定する工程と、前記測定の結果に基づいて、ドナーまたはアクセプターを供給するドープ剤のドープ量を決定する工程と、前記ドープ量のドープ剤を投入して、シリコン単結晶を製造する工程と、を備えることを特徴とするシリコン単結晶の製造方法を提供する。
【0017】
このように、多結晶シリコンのバルク部分の抵抗率、又は、ドナー濃度およびアクセプター濃度に加えて、多結晶シリコンの表面部分の抵抗率、又は、ドナー濃度およびアクセプター濃度を考慮して、ドナーまたはアクセプターを供給するドープ剤を投入して、シリコン単結晶を製造するので、高抵抗シリコン単結晶を製造する場合でも、シリコン単結晶の導電型および抵抗率を精度よく制御することができる。
【0018】
ここで、前記シリコン単結晶は、チョクラルスキー法により製造されることが好ましい。
このように、前記シリコン単結晶がチョクラルスキー法により製造されれば、高抵抗率で結晶性の良好な大口径のシリコン単結晶を製造することができる。
【0019】
また、前記製造されるシリコン単結晶は、抵抗率が1000Ωcm以上であることが好ましい。
本発明は、抵抗率が1000Ωcm以上の高抵抗率のシリコン単結晶を製造する場合に、好適に、シリコン単結晶の導電型および抵抗率を精度よく制御することができる。
【0020】
そして、前記製造されるシリコン単結晶の導電型がP型の場合は、前記多結晶シリコンとして、表面部分およびバルク部分のドナー濃度が0.04ppba未満の多結晶シリコンを使用し、前記製造される単結晶シリコンの導電型がN型の場合は、前記多結晶シリコンとして、表面部分およびバルク部分のアクセプター濃度が0.1ppba未満の多結晶シリコンを使用することが好ましい。
このように、シリコン原料となる多結晶シリコンに関して、シリコン単結晶の導電型をコンペンセートするような表面部分およびバルク部分の不純物濃度の上限を規定することによって、P型/N型のコンペンセートを抑制することができ、デバイス特性に対して問題のないシリコン単結晶を製造することができる。
【0021】
さらに、上記のシリコン単結晶の製造方法によって製造されたシリコン単結晶をスライスして、シリコン単結晶ウェーハを製造することができる。
このようにして、本発明は、高抵抗シリコン単結晶ウェーハを製造することができるとともに、高抵抗シリコン単結晶ウェーハの導電型および抵抗率を精度よく制御することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明によれば、高抵抗シリコン単結晶を製造する際に、シリコン単結晶の導電型および抵抗率を精度よく制御することができるので、高抵抗シリコン単結晶の製造歩留まりを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】シリコン原料である多結晶シリコンのバルク部分および表面部分の不純物濃度から計算した抵抗率の最大値と、この多結晶シリコンから製造したシリコン単結晶の抵抗率の最大値との関係を示すグラフである。
図2】本発明の製造方法を示すフロー図である。
図3】比較例において、P型の1000−3000Ωcmの抵抗率のシリコン単結晶を製造した場合の、各キャリア濃度(多結晶シリコンのバルク部分のドナー濃度、多結晶シリコンの表面部分のドナー濃度、多結晶シリコンのバルク部分のアクセプター濃度、多結晶シリコンの表面部分のアクセプター濃度、投入したドープ剤のアクセプター濃度)の分布を示すグラフである。
図4】実施例1において、P型の1000−3000Ωcmの抵抗率のシリコン単結晶を製造した場合の、各キャリア濃度(多結晶シリコンのバルク部分のドナー濃度、多結晶シリコンの表面部分のドナー濃度、多結晶シリコンのバルク部分のアクセプター濃度、多結晶シリコンの表面部分のアクセプター濃度、投入したドープ剤のアクセプター濃度)の分布を示すグラフである。
図5】P型のシリコン単結晶を製造した場合の、実施例2および実施例3における、多結晶シリコン由来のキャリア濃度と、ドープ剤由来のキャリア濃度を示すグラフである。
図6】シリコン原料である多結晶シリコンのバルク部分のドナー濃度と、この多結晶シリコンから作製したFZサンプルの抵抗率の関係を示すグラフである。
図7】シリコン原料である多結晶シリコンから作製したFZサンプルの抵抗率の最大値と、この多結晶シリコンから製造したシリコン単結晶の抵抗率の最大値の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下本発明についてより具体的に説明する。 前述のように、高抵抗シリコン単結晶を製造する場合に、従来のように、シリコン原料である多結晶シリコンのバルク部分のドナー濃度、および、アクセプター濃度より推定して単結晶を製造すると、予想されるシリコン単結晶の抵抗率と、実際に製造されたシリコン単結晶の抵抗率に大きな乖離が有った。
【0025】
そこで、本発明者らは、予想されるシリコン単結晶の抵抗率と、実際に製造されたシリコン単結晶の抵抗率との間の乖離を解消すべく検討を行ってきた。その結果、予想されるシリコン単結晶の抵抗率と、実際に製造されたシリコン単結晶の抵抗率との間の乖離の原因が、シリコン原料である多結晶シリコンの表面部分のドナー濃度、および、アクセプター濃度を考慮しないことであることを見出し、本発明をなすに至った。
【0026】
すなわち、本発明者らは、多結晶シリコンを原料として、シリコン単結晶を製造するシリコン単結晶の製造方法であって、前記多結晶シリコンの表面部分の抵抗率、又は、ドナー濃度およびアクセプター濃度と、前記多結晶シリコンのバルク部分の抵抗率、又は、ドナー濃度およびアクセプター濃度とを測定する工程と、前記測定の結果に基づいて、ドナーまたはアクセプターを供給するドープ剤のドープ量を決定する工程と、前記ドープ量のドープ剤を投入して、シリコン単結晶を製造する工程と、を備えることを特徴とするシリコン単結晶の製造方法を用いることで、予想されるシリコン単結晶の抵抗率と、実際に製造されたシリコン単結晶の抵抗率との間の乖離が解消されることを見出した。
【0027】
図1は、シリコン原料である多結晶シリコンのバルク部分および表面部分の不純物濃度から計算した抵抗率の最大値と、この多結晶シリコンから製造したシリコン単結晶の抵抗率の最大値との関係を示すグラフである。
【0028】
図1からわかるように、シリコン原料である多結晶シリコンのバルク部分および表面部分の不純物濃度から計算した抵抗率の最大値と、この多結晶シリコンから製造したシリコン単結晶の抵抗率の最大値との間には、良い相関が見られる。なお、シリコン単結晶の抵抗率が、計算により求められた抵抗率より低くなっているのは、多結晶シリコンの袋を開封した後、石英るつぼへの仕込み、シリコン単結晶製造装置へのセットまでの間にも、アクセプターを供給する不純物であるボロンが多結晶シリコンの表面に付着した影響であると考えられる。
【0029】
図1に示された実験結果から、高抵抗シリコン単結晶を製造する場合には、シリコン原料である多結晶シリコンのバルク部分の不純物濃度だけでなく、多結晶シリコンの表面部分の不純物濃度も考慮することによって、シリコン単結晶の抵抗率を精度よく制御することができることがわかる。
【0030】
ここで、本発明のシリコン単結晶の製造フローを、図2を用いて以下に詳述する。
まず、シリコン原料としての多結晶シリコンを準備する(ステップS11)。次いで、この多結晶シリコンの表面部分のドナー濃度およびアクセプター濃度を測定する(ステップS12)。なお、ステップS12において、多結晶シリコンの表面部分の抵抗率を測定してもよい。次いで、この多結晶シリコンのバルク部分のドナー濃度およびアクセプター濃度を測定する(ステップS13)。なお、ステップS13において、多結晶シリコンのバルク部分の抵抗率を測定してもよい。次いで、ステップS12およびステップS13の測定結果に基づいて、ドナー又はアクセプターを供給するドープ剤のドープ量を決定する(ステップS14)。次いで、シリコン原料としての多結晶シリコンとともに、ステップS14で決定されたドープ量のドープ剤を坩堝に投入して、シリコン単結晶を製造する(ステップS15)。
【0031】
この場合、ステップS12およびステップS13の測定結果に基づいて、多結晶シリコンの表面部分のドナー濃度と多結晶シリコンのバルク部分のドナー濃度の合計が、0.04ppba未満であり、かつ、多結晶シリコンの表面部分のアクセプター濃度と多結晶シリコンのバルク部分のアクセプター濃度の合計が、0.1ppba未満である基準を満たす多結晶シリコンを使用することが好ましい。
上記のような基準を満たす多結晶シリコンを使用することにより、目標抵抗率が1000Ωcm以上であっても、導電型が所望の導電型(P型またはN型)であり、かつ、所望の抵抗率の規格(上限値および下限値を有する規格)に対応することができる。
さらに、目標抵抗率が3000Ωcm以上である場合に、P型/N型コンペンセートによる高抵抗率のシリコン単結晶である可能性もあるが、上記のような基準を満たす多結晶シリコンを使用することにより、P型/N型コンペンセートによる高抵抗率であるリスクを低減することができ、デバイス特性に対して問題のないシリコン単結晶を製造することができる。
【0032】
また、導電型がP型指定の場合は、アクセプターの濃度は目標の抵抗率の領域まで規格を緩和することができ、導電型がN型指定の場合は、ドナーの濃度は目標の抵抗率の領域まで規格を緩和することができ、足りない分をドープ剤で補うことも可能である。ただし、P型/N型コンペンセートを避けるために、導電型がP型指定の場合は、多結晶シリコンの表面部分のドナー濃度と多結晶シリコンのバルク部分のドナー濃度の合計が、0.04ppba未満という基準を維持し、導電型がN型指定の場合は、多結晶シリコンの表面部分のアクセプター濃度と多結晶シリコンのバルク部分のアクセプター濃度の合計が、0.1ppba未満という基準を維持することが望ましい。
【0033】
なお、0.04ppbaのドナー濃度は、N型シリコン単結晶のおよそ5000Ωcmの抵抗率に相当し、0.1ppbaのアクセプター濃度は、P型シリコン単結晶のおよそ3000Ωcmの抵抗率に相当する。
【0034】
上記の基準のドナー濃度上限値およびアクセプター濃度上限値は、低ければ低いほど望ましいが、現状の製造レベルおよび検出感度を考慮すれば、このレベルでの管理が望ましい。
【0035】
ここで、図2のステップS12における多結晶シリコンの表面部分のドナー濃度およびアクセプター濃度の測定方法の一例について、以下に説明する。
まず、シリコン原料である多結晶シリコンを、特定の袋から一定量だけサンプリングにより抽出し、この一定量の多結晶シリコンをフッ酸溶液中にいれる。次いで、多結晶シリコンの表面部分が溶解した後に、残った多結晶シリコンをフッ酸溶液中から取り出す。次いで、多結晶シリコンの表面部分が溶解したフッ酸溶液をICP−MS(誘導結合プラズマ質量分析装置)に投入して、ドーパント元素(例えば、リン、ボロン、等)の定量分析を行う。次いで、定量分析によって得られた量のドーパント元素が、上記の一定量の多結晶シリコンに含まれると仮定して、ドーパント元素の濃度を算出する。ドーパント元素がリンのようなN型のドーパントの場合にはドナー濃度とし、ドーパント元素がボロンのようなP型のドーパントの場合にはアクセプター濃度とする。
なお、上記の測定方法は一例であり、測定方法はこれに限定されない。
【0036】
また、図2のステップS13における多結晶シリコンのバルク部分のドナー濃度およびアクセプター濃度の測定方法の一例について、以下に説明する。
まず、シリコン原料である多結晶シリコンを、特定の袋からサンプリングにより抽出し、この多結晶シリコンを粉砕し、中心部分の多結晶シリコンを一定量採取する。次いで、この一定量の多結晶シリコンの表面部分を、フッ硝酸でエッチングする。次いで、表面部分が除去された多結晶シリコンをフッ硝酸ですべて溶解させる。次いで、多結晶シリコンが溶解したフッ硝酸をICP−MS(誘導結合プラズマ質量分析装置)に投入して、ドーパント元素(例えば、リン、ボロン、等)の定量分析を行う。次いで、定量分析によって得られた量のドーパント元素が、上記の一定量の多結晶シリコンに含まれると仮定して、ドーパント元素の濃度を算出する。ドーパント元素がリンのようなN型のドーパントの場合にはドナー濃度とし、ドーパント元素がボロンのようなP型のドーパントの場合にはアクセプター濃度とする。
なお、上記の測定方法は一例であり、測定方法はこれに限定されない。
【0037】
さらに、図2のステップS14におけるドープ剤のドープ量の決定方法について、以下に説明する。
まず、目標抵抗率に必要なキャリア濃度Aを計算する。例えば、導電型指定がP型で、目標抵抗率が2000Ωcmの場合には、0.2ppbaのアクセプター濃度が必要となる。次いで、S12で測定した多結晶シリコンの表面部分のドナー濃度にS13で測定した多結晶シリコンのバルク部分のドナー濃度を加えて、多結晶シリコンの表面部分およびバルク部分のドナー濃度Bを算出する。例えば、多結晶シリコンの表面部分およびバルク部分のドナー濃度は、0.02ppbaであるとする。次いで、S12で測定した多結晶シリコンの表面部分のアクセプター濃度にS13で測定した多結晶シリコンのバルク部分のアクセプター濃度を加えて、多結晶シリコンの表面部分およびバルク部分のアクセプター濃度Cを算出する。例えば、多結晶シリコンの表面部分およびバルク部分のアクセプター濃度は、0.05ppbaであるとする。次いで、多結晶シリコンの表面部分およびバルク部分のドナー濃度B、および、多結晶シリコンの表面部分およびバルク部分のアクセプター濃度Cを考慮して、正味のキャリア濃度が目標抵抗率に必要なキャリア濃度Aになるように、ドープ剤のドープ量Dを算出する。例えば、D=0.2ppba−0.05ppba+0.02ppba=0.17ppbaに相当するドープ量のドープ剤が必要となる。
【0038】
なお、図2のステップS15において、CZ法(チョクラルスキー法)によって、シリコン単結晶を製造することが好ましい。シリコン単結晶がCZ法により製造されれば、結晶性の良好な大口径のシリコン単結晶を製造することができる。
【0039】
さらに、上述した製造方法によって、製造されたシリコン単結晶をスライスして、シリコン単結晶ウェーハを製造することができる。
このようにして、本発明では、高抵抗シリコン単結晶ウェーハを製造する場合でも、シリコン単結晶ウェーハの導電型および抵抗率を精度よく制御することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
図2に示すようなフローを用いて、6水準(P型指定で目標抵抗率500〜1000Ωcm、P型指定で目標抵抗率1000〜3000Ωcm、P型指定で目標抵抗率3000〜5000Ωcm、N型指定で目標抵抗率500〜1000Ωcm、N型指定で目標抵抗率1000〜3000Ωcm、N型指定で目標抵抗率3000〜5000Ωcm)のシリコン単結晶を製造した。
ここで、図2のステップS15におけるシリコン単結晶の製造に関しては、CZ法を用いて、直径200mmのシリコン単結晶を製造した。
また、多結晶シリコンの表面部分のドナー濃度と多結晶シリコンのバルク部分のドナー濃度の合計が、0.04ppba未満であり、かつ、多結晶シリコンの表面部分のアクセプター濃度と多結晶シリコンのバルク部分のアクセプター濃度の合計が、0.1ppba未満である基準を満たす多結晶シリコンをシリコン原料として使用した。
【0042】
(比較例)
実施例1と同様に、6水準(P型指定で目標抵抗率500〜1000Ωcm、P型指定で目標抵抗率1000〜3000Ωcm、P型指定で目標抵抗率3000〜5000Ωcm、N型指定で目標抵抗率500〜1000Ωcm、N型指定で目標抵抗率1000〜3000Ωcm、N型指定で目標抵抗率3000〜5000Ωcm)のシリコン単結晶を製造した。ただし、ドープ剤のドープ量は、シリコン原料である多結晶シリコンのバルク部分のドナー濃度およびアクセプター濃度のみを考慮して、決定した。
また、シリコン原料である多結晶シリコンのキャリア濃度については、基準を設けなかった。
【0043】
(実施例2)
実施例1と同様にして、3水準(P型指定で目標抵抗率900Ωcm、P型指定で目標抵抗率2500Ωcm、P型指定で目標抵抗率4000Ωcm)のシリコン単結晶を製造した。多結晶シリコンの表面部分のドナー濃度に多結晶シリコンのバルク部分のドナー濃度加えたものが、0.04ppba未満であり、かつ、多結晶シリコンの表面部分のアクセプター濃度に多結晶シリコンのバルク部分のアクセプター濃度を加えたものが、0.1ppba未満である多結晶シリコンのみを、シリコン原料として使用した。
【0044】
(実施例3)
実施例2と同様にして、3水準(P型指定で目標抵抗率900Ωcm、P型指定で目標抵抗率2500Ωcm、P型指定で目標抵抗率4000Ωcm)のシリコン単結晶を製造した。ただし、シリコン原料である多結晶シリコンのキャリア濃度については、基準を設けなかった。
【0045】
実施例1および比較例の6水準(P型指定で目標抵抗率500〜1000Ωcm、P型指定で目標抵抗率1000〜3000Ωcm、P型指定で目標抵抗率3000〜5000Ωcm、N型指定で目標抵抗率500〜1000Ωcm、N型指定で目標抵抗率1000〜3000Ωcm、N型指定で目標抵抗率3000〜5000Ωcm)のそれぞれについて、抵抗率の合格率を比較した結果を。表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1から、全水準において、多結晶シリコンの表面部分のキャリア濃度を考慮した実施例1のほうが、比較例に比べ、抵抗率の合格率が高くなっていることがわかる。特に、目標抵抗率が1000Ωcm以上の水準においては、導電型にかかわりなく、抵抗率の合格率の上昇率が顕著である。
【0048】
図3に、比較例の水準2(P型指定で目標抵抗率1000〜3000Ωcm)における各キャリア濃度(多結晶シリコンのバルク部分由来のドナー濃度、多結晶シリコンの表面部分由来のドナー濃度、多結晶シリコンのバルク部分由来のアクセプター濃度、多結晶シリコンの表面部分由来のアクセプター濃度、ドープ剤由来のアクセプター濃度)の分布を示す。ここで、図3の横軸は、各キャリア濃度を複数の所定の範囲に分類したときの各キャリア濃度のそれぞれの所定の範囲の中心値を表している。
なお、比較例においては、多結晶シリコンの表面部分由来のキャリア濃度は、PL(フォトルミネッセンス)により測定したシリコン単結晶中のリン濃度、ボロン濃度と、バルク由来のキャリア濃度と、ドープ剤由来のキャリア濃度から算出した。
【0049】
図4に、実施例1の水準2(P型指定で目標抵抗率1000〜3000Ωcm)における各キャリア濃度(多結晶シリコンのバルク部分由来のドナー濃度、多結晶シリコンの表面部分由来のドナー濃度、多結晶シリコンのバルク部分由来のアクセプター濃度、多結晶シリコンの表面部分由来のアクセプター濃度、ドープ剤由来のアクセプター濃度)の分布を示す。ここで、図4の横軸は、図3と同様に、各キャリア濃度を複数の所定の範囲に分類したときの各キャリア濃度のそれぞれの所定の範囲の中心値を表している。
【0050】
図3(比較例)と図4(実施例1)を比較するとわかるように、多結晶シリコンの表面部分由来のキャリア濃度を考慮しない比較例においては、多結晶シリコンの表面部分のキャリア濃度がばらつているにもかかわらず、ドープ剤のドープ量がほぼ同じ量になっている(ドープ剤由来のアクセプター濃度は、全て0.25ppba)に対して、多結晶シリコンの表面部分由来のキャリア濃度を考慮する実施例1においては、多結晶シリコンの表面部分のキャリア濃度のばらつきに応じて、ドープ剤のドープ量を変えている。
すなわち、比較例では、表面部分のキャリア濃度のばらつきの分だけ抵抗率がばらつき、表1に示すように抵抗率の合格率が低下している。
それに対して、実施例1では、表面部分のキャリア濃度のばらつきを、ドープ剤によって吸収しているので、抵抗率のばらつきを抑えることができ、表1に示すように良好な合格率(90%)が得られている。
さらに、比較例では、シリコン原料である多結晶シリコンのキャリア濃度については、基準を設けなかったので、P型指定であるにもかかわらず、ある程度の量のドナーが入っているものがあり、P型/N型コンペンセートのリスクがある。
【0051】
図5は、P型のシリコン単結晶を製造した場合の、実施例2および実施例3における、多結晶シリコン由来のキャリア濃度と、ドープ剤由来のキャリア濃度を示すグラフである。
シリコン原料である多結晶シリコンのキャリア濃度について基準を設けなかった実施例3では、抵抗率の制御は可能であるが、多結晶シリコン由来のアクセプター濃度が高くなると、P型指定にもかかわらずに、ドープ剤によりドナーを投入して調整する(すなわち、P型/N型コンペンセートにより調整する)という本来の使用目的から外れたシリコン単結晶になってしまう。
それに対して、多結晶シリコンのキャリア濃度について基準(多結晶シリコンの表面部分のドナー濃度に多結晶シリコンのバルク部分のドナー濃度加えたものが、0.04ppba未満で、かつ、多結晶シリコンの表面部分のアクセプター濃度に多結晶シリコンのバルク部分のアクセプター濃度を加えたものが、0.1ppba未満)を設けた実施例2においては、ドープ剤によりドナーを投入して調整する必要がない。
上記の結果から、多結晶シリコン由来のドナー濃度、アクセプター濃度は、ある程度の低いレベルに抑えておくことが好ましいことがわかる。
【0052】
なお、図5からわかるように、目標の抵抗率が2500Ωcmの場合には、多結晶シリコンのドナー濃度の上限基準は0.04ppba未満に保ったまま、多結晶シリコンのアクセプター濃度の上限基準を0.15ppba未満にまで緩和して、使用する多結晶シリコンを選択することは、本来の調整方法からは外れていない。
すなわち、目標の抵抗率に合わせて、指定導電型と同じ導電型のキャリア濃度の上限基準を緩和することは好ましい。
【0053】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7