(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記交互に配設されている第1磁極及び第2磁極において、隣接する第1磁極と第2磁極との間に一対の補助磁極が前記第1磁極及び第2磁極と共に往復動自在に設けられており、該一対の補助磁極を構成する各磁極は、対向する第1磁極又は第2磁極とは異極となるように配置されていることを特徴とする、請求項1に記載のマグネトロンスパッタリングカソード。
前記両端に設けられた第1磁極の各々と、これに隣接する前記外側磁極の短辺または長辺との間に、第1磁極の延在方向に略平行に延在する一対の固定補助磁極が設けられており、該一対の固定補助磁極を構成する各磁極は、対向する第1磁極又は外側磁極とは異極となるように固定して配置されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のマグネトロンスパッタリングカソード。
前記第1磁極及び第2磁極はヨーク材に取り付けられており、該ヨーク材がリニアアクチュエータによって往復動することにより前記第1磁極及び第2磁極が往復動することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のマグネトロンスパッタリングカソード。
【背景技術】
【0002】
従来のマグネトロンスパッタリングカソードは、
図1に示すように、スパッタ粒子を放出するスパッタリングターゲット31がバッキングプレート32に固定され、バッキグプレート32はターゲット押さえ33により冷却板34の外周に固定されている。冷却板34とスパッタリングカソード本体35で画定される空間に磁気発生機構が格納されている。
【0003】
この磁気発生機構は、棒状の中心磁極39とこれを囲む外周磁極38とからなる磁極対から構成されている。そして、外周磁極38と中心磁極39の低面はヨーク材40に接して磁気回路を構成している。また、スパッタリングカソード本体35は絶縁層36の表面に配されており、スパッタリングカソード本体35の周囲にはアノード37が配されている。
【0004】
上記構成のマグネトロンスパッタリングカソードを、スパッタリングターゲットが被成膜用基材面に対向するように配置し、これらの配設空間内を真空にしてからアルゴンガスを導入し、この状態でスパッタリングターゲットに電圧を印加すると、スパッタリングターゲットから放出された電子によりアルゴンガスがイオン化し、このイオン化されたアルゴンガスがスパッタリングターゲットの表面に衝突してスパッタリングターゲットを構成するターゲット物質がたたき出される。
【0005】
たたき出されたターゲット物質は被成膜用基材面に堆積し、これにより薄膜が形成される。スパッタリングターゲットからターゲット物質がたたき出されると、ターゲット表面にはエロージョンと呼ばれる局所的な侵食が生じる。この時、電子は、カソードの表面側に漏洩する磁界が電界と直交する領域に集中し、高密度プラズマが生成され、これによって被成膜用基材面に対する成膜が高速で行われる。
【0006】
ところが、上記した従来のマグネトロンスパッタリングカソードの構成では、高速での成膜が可能であるという利点があるものの、スパッタリングターゲットの表面のほとんど一部のみから集中してスパッタ粒子がたたき出されるので、
図2のターゲットの模式的断面図に示すように、エロージョンが進むとターゲット表面に最深部において傾斜のきつい断面略V字形状の侵食部が形成される傾向にあった。このように、スパッタリングターゲットの使用効率が極めて低いことが問題になっていた。
【0007】
スパッタリングターゲットの使用効率を向上させる方法として、様々な提案がなされている。例えば、特許文献1には中心磁極と外周磁極の間に永久磁極を配する技術が開示されている。また、特許文献2や特許文献3には、磁気回路全体を回転させるか、あるいは往復動させる技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に示すように磁極の配置を工夫しても、エロージョンの改善には限界があった。一方、特許文献2及び特許文献3の技術では磁気回路全体を回転あるいは往復動させるため、磁気回路はターゲットの有効面積に比べて、偏芯距離あるいは移動距離分だけ小さくする必要があり、瞬時エロージョン面積は小さくなり、実質的な電力密度は大きくなる。しかし、基板を搬送しながら成膜処理を行うような連続スパッタリングスパッタ装置(例えば、ロールツーロール方式で長尺基板を搬送しながら成膜を行うスパッタリングウエブコータ)にこのようなカソードを利用すると、例えば長尺基板の幅方向の膜厚にばらつきが生じることがあった。
【0010】
本発明は上記した従来の課題に鑑みてなされたものであり、長尺基板をロールツーロールで搬送するスパッタリング成膜装置においてスパッタリング成膜の膜厚のばらつきを抑えつつスパッタリングターゲットの利用効率を向上させることが可能なマグネトロンスパッタリングカソードを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、矩形板状のスパッタリングターゲットに対応させるべく、該スパッタリングターゲットと略同サイズの長辺と短辺とで形成される矩形環状の外側磁極と、その内側に設けた内側磁極とで構成される磁界発生機構が格納されたスパッタリングカソードを用い、これら外側磁極と内側磁極との相対的な位置関係を変化させることで、膜厚分布の均一性を確保しつつ、ターゲット材の使用効率が向上すること見出し本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明のマグネトロンスパッタリングカソードは、
被成膜基材としての長尺基板の搬送方向と略直交する方向に長手方向が配される矩形板状のスパッタリングターゲットの外周部に対応して設けられた矩形環状の外側磁極と、該外側磁極の内側に外側磁極の短辺方
向に延在するように配置された内側磁極とからなる磁界発生機構を備えたマグネトロンスパッタリングカソードであって、該内側磁極は、該外側磁極とはそれぞれ異極及び同極の第1磁極及び第2磁極で構成され、これら第1磁極及び第2磁極は、
前記スパッタリングターゲットの短辺の長さの25%〜100%の範囲で前
記外側磁極
の長辺方向に往復動自在であり、該往復動方向に沿って第1磁極及び第2磁極が交互に且つ両端が第1磁極となるように配設されて
おり、前記両端に位置する両第1磁極の外側同士の距離が、前記外側磁極の長辺方向の内幅からその短辺方向の内幅を引いた長さの90%〜120%であることを特徴としている。
【0014】
また、交互に配設されている第1磁極及び第2磁極において、隣接する第1磁極及び第2磁極の間に一対の補助磁極が第1磁極及び第2磁極と共に往復動自在に設けられており、該一対の補助磁極を構成する各磁極は、対向する第1磁極又は第2磁極とは異極となるように配置されているのが好ましい。
【0015】
また、両端に設けられた第1磁極の各々と、これに隣接する前記外側磁極の短辺または長辺との間に、第1磁極の延在方向に略平行に延在する一対の固定補助磁極が設けられていてもよく、該一対の固定補助磁極を構成する各磁極は、対向する第1磁極又は外側磁極とは異極となるように固定して配置されているのが好ましい。
【0016】
また、第1磁極及び第2磁極がヨーク材に取り付けられていて、該ヨーク材がリニアアクチュエータによって往復動することにより前記第1磁極及び第2磁極が往復動するのが好ましい。また、第1磁極、第2磁極、補助磁極、及び固定補助磁極は、それぞれスパッタリングターゲットとの離間距離が個別に調整可能であるのが好ましい。
【0017】
また、本発明のスパッタリング成膜装置は、ロールツーロールで搬送される長尺基板の搬送経路の近傍に、該搬送経路上の長尺基板の表面に対向するように設けられた
マグネトロンスパッタリングカソードを備えたスパッタリング成膜装置であって、この
マグネトロンスパッタリングカソードは上記したマグネトロンスパッタリングカソード
であって、その長手方向が前記長尺基板の搬送方向と略直交するように配されていることを特徴としている。
【0018】
また、本発明のスパッタリング成膜方法は、第1磁極及び第2磁極は外側磁極の長辺方向に往復動自在であり、両端に位置する両第1磁極の外側同士の距離が、外側磁極の長辺方向の内幅からその短辺方向の内幅を引いた長さの90%〜120%であるようなマグネトロンスパッタリングカソードを備えたスパッタリング成膜装置を用いて成膜する方法であって、往復動の距離を外側磁極の短辺方向の内幅の25%〜100%にして長尺基板にスパッタリングすることを特徴としている。このスパッタリング成膜方法においては、往復動において往動と復動とが反転する位置が周期的に変化するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、膜厚分布の均一性を確保しつつ、スパッタリングターゲットの使用効率を向上させることが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
まず、本発明のマグネトロンスパッタリングカソードが好適に使用されるスパッタリング成膜装置の一具体例として、
図3に示すようなロールツーロール方式で搬送される長尺状の基材に対して連続的に成膜を行うスパッタリング成膜装置(スパッタリングウェブコータ)50を採り上げて説明する。このスパッタリング成膜装置50は、真空チャンバー51内において巻出ロール52から巻取ロール64に搬送される被成膜基材としての長尺基板Fをキャンロール56に巻き付けて冷却しながらスパッタリング成膜処理を施すものであり、例えば金属膜付耐熱性樹脂フィルムを連続的に作製することができる。
【0022】
具体的に説明すると、真空チャンバー51には、図示しないドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオコイル等の種々の装置が具備されており、真空チャンバー51内を到達圧力10
−4Pa程度まで減圧した後、アルゴンガスや目的に応じて添加される酸素ガスなどのスパッタリングガスを導入して0.1〜10Pa程度に圧力調整できるようになっている。真空チャンバー51の形状や材質については、上記減圧状態に耐え得るものであれば特に限定はなく、種々のものを使用することができる。
【0023】
この真空チャンバー51内に、長尺基板Fの搬送経路を画定する各種のロールが設けられている。巻出ロール52からキャンロール56までの搬送経路には、巻出ロール52から巻き出された長尺基板Fを案内するフリーロール53、長尺基板Fの張力の測定を行う張力センサロール54、及び張力センサロール54から送り出される長尺基板Fをキャンロール56に導入するモータ駆動のフィードロール55がこの順に配置されている。
【0024】
キャンロール56から巻取ロール64までの搬送経路にも、上記と同様に、キャンロール56の周速度に対する調整を行うモータ駆動のフィードロール61、長尺基板Fの張力測定を行う張力センサロール62、及び長尺基板Fを案内するフリーロール63がこの順に配置されている。
【0025】
上記巻出ロール52及び巻取ロール64では、パウダークラッチ等によりトルク制御が行われており、これにより長尺基板Fの張力バランスが保たれている。モータで回転駆動されるキャンロール56は、熱負荷の掛かるスパッタリング処理により熱せられる長尺基板Fを冷却するため、内部に冷媒が循環している。このキャンロール56の周速度に対して、フィードロール55、61の回転数が調整されており、これによりキャンロール56の外周面に長尺基板Fを密着させて搬送することができる。
【0026】
キャンロール56の外周面に対向する位置には、長尺基板Fの搬送経路に沿って4個のマグネトロンスパッタリングカソード57、58、59、60がこの順に設けられている。これらマグネトロンスパッタリングカソード57〜60の各々には、キャンロール56の外周面に対向する面に矩形板状のスパッタリングターゲット(図示せず)が取り付けられており、これらスパッタリングターゲットから叩き出されたターゲット物質が長尺基板Fの表面上に堆積して金属膜の成膜が行われる。
【0027】
矩形板状のスパッタリングターゲットは、その長辺方向が長尺基板の搬送方向と略直交する向き(すなわち、長尺基板の幅方向)となるように配されている。このように、スパッタリングターゲットが矩形板状の場合は、これを使用するマグネトロンスパッタリングカソードも一般にそのターゲット保持側は、スパッタリングターゲットに対応して略相似形の矩形となっている。そして、マグネトロンスパッタリングカソードの長手方向は長尺基板の搬送方向と略直交するように配されることが望ましい。
【0028】
なお、スパッタリングターゲット11の長辺の長さは、長尺基板Fの幅の1.2倍以上が望ましい。また、スパッタ粒子を飛散させたくない箇所には、長尺基板Fとスパッタリングターゲットの間に公知のマスクを配すればよい。そして、矩形状スパッタリングターゲットの長辺と短辺の長さの関係は、長辺は短辺の3倍以上の長さが望ましく、本発明の効果がより発揮できる。
【0029】
次に、本発明に係るマグネトロンスパッタリングカソードの一具体例を説明する。
図4はこの一具体例のマグネトロンスパッタリングカソード10を長辺方向に切断した断面図である。矩形板状のスパッタリングターゲット11は、バッキングプレート12に固着されている。バッキングプレート12は、ターゲット押さえ13によりOリング21を介して冷却板14の外周に固定されている。ターゲット押さえ13は、スパッタリングターゲット11においてスパッタ粒子が叩き出されるスパッタ表面を露出させるように、枠状に冷却板14の外周に配されている。
【0030】
そしてバッキングプレート12と冷却板14の間には冷却水が流れる間隙部22が形成されている。冷却水は、マグネトロンスパッタリングカソード外部から冷却水を供給する冷却水供給管(図示せず)と外部に冷却水を放出する冷却水放出管(図示せず)に導かれて間隙部22を通過する。また、冷却水供給管と冷却水放出管は、冷却板14に接続している。なお、後述する運動手段であるリニアアクチュエータ23より冷却水漏れが発生しないならば、冷却板14を用いずに、バッキングプレート12とスパッタリングカソード本体15により画定される空間に冷却水を導いても良い。
【0031】
前述したように、この一具体例のマグネトロンスパッタリングカソード10は、矩形板状のスパッタリングターゲット11を用いるので、このスパッタリングターゲット11の形状に対応するように、スパッタリングターゲット11の保持側はスパッタリングターゲット11の面と略相似形になっている。具体的には、スパッタリングカソード本体15の内周側の長辺と短辺は、スパッタリングターゲット11の長辺と短辺に略一致する。そして、スパッタリングカソード本体15の外周は、スパッタリングターゲット11の外周より広くなる。
【0032】
上記スパッタリングカソード本体15の内側に磁界発生機構が格納されている。磁界発生機構は、矩形板状のスパッタリングターゲット11の外周部に対応して設けられた矩形環状の外側磁極18と、該外側磁極18の内側に外側磁極18の短辺方向に延在するように配置された内側磁極19とからなる。内側磁極19は、更に外側磁極18とは異極の第1磁極19aと、外側磁極18と同極の第2磁極19bで構成される。
【0033】
これら第1磁極19a及び第2磁極19bは、上記した内側磁極19の延在方向(すなわち外側磁極18の短辺方向)に略直交する方向であって且つ外側磁極18の長辺方向に往復動自在である。これにより、スパッタリングターゲットが局所的にほられるのを防ぐことができる。なお、内側磁極19は外側磁極18の長辺方向に延在してもよい。この場合は、内側磁極19は外側磁極18の短辺方向に往復動自在となる。
【0034】
図5は、上記した外側磁極18と内側磁極19とで構成される磁界発生機構をスパッタリングターゲット側から見た平面図であり、
図6は、
図5のVI−VIの切断面で磁界発生機構を切断したときの断面図である。これら
図5及び
図6を参照しながら磁気発生機構の磁極の配置について説明する。第1磁極19a及び第2磁極19bは、前述した往復動方向に沿って第1磁極19a及び第2磁極19bが交互に且つ両端が第1磁極19aとなるように配設されている。
【0035】
これら第1磁極19a及び第2磁極19bは、往復動自在なヨーク材20のスパッタリングターゲット11側の面に設けられている。第1磁極19a及び第2磁極19bの磁極は、例えば第1磁極19aのスパッタリングターゲット11側をN極、外側磁極18及び第2磁極19bのスパッタリングターゲット側をS極とすることで、スパッタリングターゲット11のスパッタ表面にはN極からS極に向けて円弧状の磁力線が形成される。なお、第1磁極19aをS極、外側磁極18及び第2磁極19bをN極としてもよい。
図4、
図5及び
図6には、外側磁極18、第1磁極19a、及び第2磁極19bの磁極の関係を、後述する一対の補助磁極26a、26b、及び一対の固定補助磁極27a、27bと共にハッチングの向きを変えることで表している。
【0036】
内側磁極19の往復動方向の長さ、すなわち両端に位置する両第1磁極19aの外側同士の距離は、外側磁極18の長辺方向の内幅からその短辺方向の内幅を引いた長さの90%〜120%にするのが好ましい。また、内側磁極19の往復動の距離は、内側磁極19を外側磁極18の長辺方向に沿って往復動させる場合は、スパッタリングターゲット11の短辺の長さの25%〜100%とするのが好ましい。
【0037】
このような往復動ができるように内側磁極19や外側磁極18の寸法や磁極間の離間距離を設定すればよい。なお、外側磁極18の長辺方向(これはスパッタリングターゲット11の長辺方向に対応する)に往復動させる場合に、スパッタリングターゲット11の短辺の長さの25〜100%とするのは、膜厚分布の幅を小さくするためである。
【0038】
本発明の一具体例の磁気発生機構は、隣接する第1磁極19aと第2磁極19bとの間に一対の補助磁極26a、26bを設けてもよい。これら一対の補助磁極26a、26bは、ヨーク材20に取り付けられており、第1磁極19aと第2磁極19bと共に往復動自在となっている。なお、一対の補助磁極26a、26bを構成する各磁極は、対向する第1磁極19a又は第2磁極19bとは異極となるように配置されている。
【0039】
たとえば、第1磁極19a、第1磁極19aとは反対極の補助磁極26a、第1磁極19aと同じ極の補助磁極26b、第2磁極19bの順番で配される。このように一対の補助磁極26a、26bを配することでスパッタリングターゲット11表面での磁力線の強度を調整することができ、よってスパッタリングターゲット11の侵食の範囲(エロージョンの範囲)を調整することができる。
【0040】
内側磁極19の第1磁極19a及び第2磁極19b、さらに一対の補助磁極26a、26bは、それぞれ個別にスパッタリングターゲット11との離間距離を調整可能な磁極距離調整手段を備えていることが望ましい。例えば第1磁極19a及び第2磁極19bとスパッタリングターゲット11とが離間する距離を調整することで、スパッタリングターゲット11のスパッタ表面の磁力線の強弱を調整し、スパッタリングターゲットの侵食の範囲をより最適化できる。磁極距離調整手段は、ねじ利用して中心磁極等を移動させることや、ヨーク材20と第1磁極19a等の間にスペーサの挿入等内によって実現できる。
【0041】
補助磁極は、外側磁極18の内側において、往復動する内側磁極19の外側にも配することができる。例えば、両端に設けられた第1磁極19aの各々と、これに隣接する外側磁極18の短辺との間に、第1磁極19aの延在方向に略平行に延在する一対の固定補助磁極27a、27bを設けることができる。この場合は、一対の固定補助磁極27a、27bを構成する各磁極は、対向する第1磁極19a又は外側磁極18とは異極となるように固定して配置する。このように一対の固定補助磁極27a、27bを配することで磁界の分布や強度を調整することができる。
【0042】
本発明に係るマグネトロンスパッタリングカソードは、スパッタリング成膜装置50のような長尺基板を搬送しながら成膜する連続成膜装置のマグネトロンスパッタリングカソードに適している。特に、内側磁極の往復動の方向を、長尺基板などの搬送方向と略直交する方向に配することで、スパッタリングターゲットの使用効率の向上と長尺基板の幅方向の膜厚のばらつきを低減できる。
【0043】
スパッタリング成膜装置50では矩形状のスパッタリングターゲットが、長尺基板Fの搬送方向と直交する方向(幅方向)に略平行に配される。そのため、本発明に係るマグネトロンスパッタリングカソードは、長手方向がスパッタリングターゲットと同じ方向となる。そして、マグネトロンスパッタリングカソードが格納する内側磁極は、スパッタリングターゲットの略長辺方向に往復動する。これにより、上述したように長尺基板の幅方向の膜厚のばらつきを低減できる。往復動自在なヨーク材は、絶縁プレートを介して運動手段と連結している。運動手段は、リニアアクチュエータを用いることが望ましい。リニアアクチュエータのモータの回転速度や反転のタイミングを適宜調整することで、スパッタリングターゲットの浸食部をより均一にすることができる。
【0044】
膜厚のばらつき低減のためには、内側磁極の往復動の移動距離は短い方が望ましい。さらに、往復動における反転動作は短時間に行われることが望ましい。また、往復動の反転の前後で回転速度を速くしたり、反転位置を周期的に変化させたりすることは有効な方法である。
【0045】
本発明に係るマグネトロンスパッタリングカソードでは、内側磁極がスパッタリングターゲットの長辺方向に往復動する際の移動距離は、短辺の長さの25%〜100%の範囲で中心に対称とするのが望ましい。移動距離が、短辺の長さの25%未満、スパッタリングターゲットの使用効率が低く、100%を越えるとでは膜厚のばらつきが大きくなる。また、往復動の反転位置を周期的に変化させる場合の反転位置は、往復動の範囲とすることが望ましい。また、反転位置を周期的に変化させる周期は、膜厚のばらつきやスパッタリングターゲットの使用効率を考慮して適宜定めればよい。
【0046】
ところで、外側磁極18、第1磁極19a、及び第2磁極19bにより形成される磁力線はスパッタリングターゲット11の表面にトンネル状に形成され、この領域を電子がトロイダル運動し、真空チャンバー51に導入したアルゴンガスをイオン化することで高密度なプラズマが発生させることができる。
【0047】
アルゴンイオンがマイナス数百ボルト印加されたスパッタリングターゲット11の表面に衝突し、スパッタリングを行う。
図1に示すような外周磁極38と中心磁極39が固定して配置された従来のマグネトロンスパッタリングカソードでは、スパッタリングターゲット31の一部が局所的に彫られるためスパッタリングターゲット31の使用効率は25%以下程度である。
図2は、かかる従来のマグネトロンスパッタリングカソードでスパッタリング成膜した後のスパッタリングターゲットを長辺方向中央部で短辺方向に切断した模式的断面図である。
【0048】
本発明に係るマグネトロンスパッタリングカソードでは、図に示すように外側磁極、第1磁極、及び第2磁極によりスパッタリングターゲットの長手方向に複数のトロイダル運動が発生する。電子のトロイダル運動が発生した領域は、プラズマ発生領域(放電領域)に相当し、レーストラック状である。そして、内側磁極の往復動に応じてトロイダル運動が発生する位置もスパッタリングターゲット上を往復動する。
【0049】
トロイダル運動の発生位置の運動により、スパッタリングターゲット表面のトロイダル運動する範囲が広くなり、スパッタリングターゲットが局所的に彫られることを防ぎ、広い範囲で侵食されるので、より広い範囲でのエロージョンが発生する。内側磁極の周囲に外側磁極が配されているので、トロイダル運動が発生する領域は、スパッタリングターゲット表面全体に広がっている。そのため、幅方向の膜厚分布を小さくできる。
【0050】
その結果、本発明に係るマグネトロンスパッタリングカソードでは、スパッタリングターゲット表面の後述の放電領域が時間的に変化するので、使用後のスパッタリングターゲットは
図8に示す通り、
図2のように局所的に彫られていない。なお、
図8の断面位置は
図2と略同じである。
【0051】
以上、長尺基板を被成膜基材としたスパッタリングウエブコータに使用する場合を例に挙げて本発明のマグネトロンスパッタリングカソードを説明してきたが、本発明のマグネトロンスパッタリングカソードはこれに限定されるものではなく、例えば枚葉式の被成膜基材をトレイ式に搬送する場合でも同様に効果を発揮する。
【実施例】
【0052】
[実施例1]
厚さ38μm幅30cmのポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製、製品名「カプトン150EN」)をロールツーロール方式のスパッタリング装置50に設置し、1×10
−4Paまで真空排気した。続いて、Arガスを導入し装置内の圧力を0.3Paに保持した。マグネトロンスパッタリングカソード58、59、60はマグネトロンスパッタリングカソード10を配し、長さ40cm幅12cm厚さ1cmの銅スパッタリングターゲットを取り付けた。
【0053】
長辺方向の長さが30cmの内側磁極の往復動の距離は中心から3cm(往復動の範囲は6cm)とし、往復周期を1秒とし、ポリイミドフィルムを往復搬送しながらスパッタリングを行った。ターゲットの最深部の厚さが1mmとなったところでのターゲットの使用効率は47%であった。また、ポリイミドフィルムを速度1m/minで搬送し、電力6kW(電力密度12W/cm
2)でスパッタリングを行い、幅方向の膜厚分布を測定したところ、最大値と最小値の差は6%であった。
【0054】
[実施例2]
内側磁極の往復動の中心からの移動距離を3cmから4cm(往復動の範囲は6cmから8cm)に1周期毎に反転位置を0.1cmずつ拡張し、中心からの移動距離が4cmに達したら1周期毎に反転位置を0.1cmずつ縮小した以外は実施例1と同様の方法でスパッタリングを実施したところ、ターゲットの最深部の厚さが1mmとなったところでのターゲットの使用効率は55%であった。また、ポリイミドフィルムを速度1m/minで搬送し、電力6kW(電力密度12W/cm
2)でスパッタリングを行い、幅方向の膜厚分布を測定したところ、最大値と最小値の差は7%であった。
【0055】
[比較例]
磁界発生機構が外周磁極と中心磁極からなる従来のマグネトロンカスパッタリングソード1を使用した以外は、実施例と同様にスパッタリングを実施した。ターゲットの最深部の厚さが1mmとなったところでのターゲットの使用効率は21%であった。また、ポリイミドフィルムを速度1m/minで搬送し、電力6kW(電力密度12W/cm
2)でスパッタリングを行い、幅方向の膜厚分布を測定したところ、最大値と最小値の差は7%であった。
【0056】
[参考例]
内側磁極が中心から1cm移動(往復動範囲は2cm)したところで停止したこと以外は実施例1と同様の方法でスパッタリングを実施し、TD方向の膜厚分布を測定したところ、最大値と最小値の差は12%であった。