特許第5915780号(P5915780)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

特許5915780繊維強化熱可塑性プラスチックを用いた積層基材
<>
  • 特許5915780-繊維強化熱可塑性プラスチックを用いた積層基材 図000003
  • 特許5915780-繊維強化熱可塑性プラスチックを用いた積層基材 図000004
  • 特許5915780-繊維強化熱可塑性プラスチックを用いた積層基材 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5915780
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】繊維強化熱可塑性プラスチックを用いた積層基材
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/28 20060101AFI20160422BHJP
   B29C 43/18 20060101ALI20160422BHJP
【FI】
   B32B5/28 101
   B29C43/18
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-561204(P2014-561204)
(86)(22)【出願日】2014年12月5日
(86)【国際出願番号】JP2014082242
(87)【国際公開番号】WO2015083820
(87)【国際公開日】20150611
【審査請求日】2014年12月19日
(31)【優先権主張番号】特願2013-252980(P2013-252980)
(32)【優先日】2013年12月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱レイヨン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(72)【発明者】
【氏名】石川 健
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 隼人
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 正雄
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−097465(JP,A)
【文献】 特開2010−235779(JP,A)
【文献】 特開平09−155862(JP,A)
【文献】 特表2015−502271(JP,A)
【文献】 特開平07−156172(JP,A)
【文献】 特開2007−146151(JP,A)
【文献】 特開2012−192645(JP,A)
【文献】 特開平07−314467(JP,A)
【文献】 特開平07−164439(JP,A)
【文献】 特開2008−194761(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00−43/00
C08J5/04−5/10
C08J5/24
B29B11/16
B29B15/08−15/14
B29C43/00−43/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維と熱可塑性樹脂とを含むプリプレグ基材の表面の少なくとも一方に、空隙率50%以上99%以下のシート状物を積層した積層基材であって、
前記プリプレグ基材と前記シート状物が接着されていないことを特徴とする積層基材
【請求項2】
前記プリプレグ基材が、一方向に配向した前記強化繊維と前記熱可塑性樹脂とを含むプリプレグを複数枚積層しているプリプレグ積層基材であることを特徴とする請求項1に記載の積層基材。
【請求項3】
前記プリプレグ基材が、前記強化繊維の繊維束もしくは前記強化繊維の単繊維が前記熱可塑性樹脂中に分散しているプリプレグ基材であることを特徴とする請求項1に記載の積層基材。
【請求項4】
前記プリプレグ基材が、一方向に配向した前記強化繊維を含むプリプレグの矩形のチップが、ランダム状に分散しているプリプレグ基材であることを特徴とする請求項1に記載の積層基材。
【請求項5】
前記プリプレグ基材を構成する前記強化繊維の長さが10〜100mmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の積層基材。
【請求項6】
前記シート状物が熱可塑性樹脂からなるシートであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の積層基材。
【請求項7】
前記シート状物が無機繊維からなるシートであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の積層基材。
【請求項8】
前記シート状物が不織布であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の積層基材。
【請求項9】
前記シート状物が発泡シートであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の積層基材。
【請求項10】
前記シート状物の厚みが、0.01mm以上10mm以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の積層基材。
【請求項11】
前記シート状物により、プリプレグ積層基材の表面の少なくとも一方の面の総面積に対し、プリプレグ積層基材の表面の少なくとも一方の面の30面積%以上が覆われていることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の積層基材。
【請求項12】
積層基材がスタンピング成形用積層基材であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の積層基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタンピング成形時に複雑な形状への賦形性に優れ、特に低金型温度で成形可能であることを特徴とする積層基材及びこれを用いた成形品の製造方法に関する。さらに詳しくは、リブ、ボス等の3次元形状の成形に容易に追随し、構造部材として機械強度を維持し、例えば航空機部材、自動車部材、スポーツ用具等に好適に用いられる繊維強化熱可塑性プラスチックの中間基材である積層基材、及びその製造方法に関する。
本願は、2013年12月6日に、日本に出願された特願2013−252980号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化熱可塑性プラスチックの成形方法としては、強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させた基材(プリプレグ基材)を、プレス等で加熱加圧することにより目的の形状に賦形するスタンピング成形が最も一般的に行われている。これにより得られた繊維強化プラスチック成形品は、強化繊維を適切な長さと含有量に設定することにより必要とする力学物性に設計することが可能である。しかしながら、金型温度が低い場合には十分なスタンピング成形性が得られず、リブやボスなどの複雑形状への賦形が不十分になるという問題点がある。逆に金型温度が高い場合には十分なスタンピング成形性が得られるものの、金型内での固化や結晶化が不十分となり、金型からの取り出し後に大きな変形が生じるという問題点がある。
この問題を解決するために金型を高温に加熱して成形し、次いで冷却して成形品を取り出す加熱冷却システムが提案されている(特許文献1−3)。しかしながらこれらのシステムでは設備費が膨大となり、また金型形状に制約を受けるという問題がある。
一般に繊維強化熱可塑性プラスチックの流動性を向上させるためには、強化繊維の含有量を減らすこと、又は強化繊維の長さを短くすることが効果的であると考えられている。しかしながらこの方法では、機械物性も低下することが知られており、目的の強度を持つ成形品を得ることが困難となる。
また、一般に繊維強化プラスチックに流動性を向上させるには、マトリックス樹脂の粘度を下げることが効果的であることが知られている。しかしながらこの方法おいても機械物性が低下することが知られており、目的の強度を持つ成形品を得ることが困難となる。
さらには、繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂の融点もしくはガラス転移点を下げることにより、低温での流動性を向上することが期待できる。しかしながらこの方法では、成形品の高温での機械物性が低下してしまうという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】日本国特許第3977565号
【特許文献2】日本国特許第4121833号
【特許文献3】日本国特許第4242644号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題点を解決しょうとするものであって、スタンピング成形時に複雑な形状への賦形性に優れ、特に低い金型の温度で成形が可能であることを特徴とする積層基材及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち本発明は、強化繊維と熱可塑性樹脂とを含むプリプレグ基材の表面の少なくとも一方に、空隙率50%以上99%以下のシート状物を積層した積層基材により上記課題を解決する。
本発明の要旨は以下の[1]〜[12]に存する。
【0006】
[1] 強化繊維と熱可塑性樹脂とを含むプリプレグ基材の表面の少なくとも一方に、空隙率50%以上99%以下のシート状物を積層した積層基材。
【0007】
[2] 前記プリプレグ基材が、一方向に配向した前記強化繊維と前記熱可塑性樹脂とを含むプリプレグを複数枚積層しているプリプレグ積層基材であることを特徴とする上記[1]に記載の積層基材。
【0008】
[3] 前記プリプレグ基材が、前記強化繊維の繊維束もしくは前記強化繊維の単繊維が前記熱可塑性樹脂中に分散しているプリプレグ基材であることを特徴とする上記[1]に記載の積層基材。
【0009】
[4] 前記プリプレグ基材が、一方向に配向した前記強化繊維を含むプリプレグの矩形のチップが、ランダム状に分散しているプリプレグ基材であることを特徴とする上記[1]に記載の積層基材。
【0010】
[5] 前記プリプレグ基材を構成する前記強化繊維の長さが10〜100mmであることを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれか一項に記載の積層基材。
【0011】
[6] 前記シート状物が熱可塑性樹脂からなるシートであることを特徴とする上記[1]〜[5]のいずれか一項に記載の積層基材。
【0012】
[7] 前記シート状物が無機繊維からなるシートであることを特徴とする上記[1]〜[5]のいずれか一項に記載の積層基材。
【0013】
[8] 前記シート状物が不織布であることを特徴とする上記[1]〜[7]のいずれか一項に記載の積層基材。
【0014】
[9] 前記シート状物が発泡シートであることを特徴とする上記[1]〜[6]のいずれか一項に記載の積層基材。
【0015】
[10] 前記シート状物の厚みが、0.01mm以上10mm以下であることを特徴とする上記[1]〜[9]のいずれか一項に記載の積層基材。
【0016】
[11] 前記シート状物により、プリプレグ積層基材の表面の少なくとも一方の面の総面積に対し、プリプレグ積層基材の表面の少なくとも一方の面の30面積%以上が覆われていることを特徴とする上記[1]〜[10]のいずれか一項に記載の積層基材。
【0017】
[12] 前記プリプレグ基材と前記シート状物が接着されていないことを特徴とする上記[1]〜[11]のいずれか一項に記載の積層基材。
【0018】
[13] 積層基材がスタンピング成形用積層基材であることを特徴とする上記[1]〜[12]のいずれか一項に記載の積層基材。
【0019】
[14] (1)強化繊維と熱可塑性樹脂とを含むプリプレグ基材を、プリプレグを構成する熱可塑樹脂の融点もしくはガラス転移点以上に加熱した後に、空隙率50%以上99%以下のシート状物をプリプレグ基材の表面の少なくとも一方に積層して積層基材を得ること、又は(2)強化繊維と熱可塑性樹脂とを含むプリプレグ基材に、空隙率50%以上99%以下のシート状物をプリプレグ基材の表面の少なくとも一方に積層した後に、得られた積層体をプリプレグを構成する熱可塑性樹脂の融点もしくはガラス転移点以上の温度に加熱して積層基材を得ること、を含み、
次いで前記積層基材を、前記プリプレグを構成する前記熱可塑性樹脂の融点もしくはガラス転移点以下の温度に設定した金型に仕込み、次いでスタンピング成形すること、を含む積層基材の成形品の製造方法。
【0020】
[15] 前記金型の温度が50℃〜200℃である、上記[14]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、複雑な形状への賦形性に優れ、特に低金型温度での成形性が可能である積層基材、及びこれを用いた成形品の製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明のプリプレグ基材の両表面に、空隙率50%以上99%以下のシート状物を積層した積層基材を示す図である。
図2】本発明の実施例で使用した成形品の図である。
図3】本発明で用いるプリプレグの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の第一の態様は、強化繊維と熱可塑性樹脂とを含むプリプレグ積層基材の表面に少なくとも一方に、空隙率50%以上99%以下のシート状物を積層した積層基材である。
一般にプリプレグ基材のスタンピング成形では、プリプレグ基材をIRヒーターなどの加熱設備で熱可塑性樹脂の融点もしくはガラス転移点以上の温度に加熱した後に、前記プリプレグ基材を熱可塑性樹脂の融点もしくはガラス転移点以下に設定した金型内に挿入し、加圧プレスすることにより目的の成形品を得る。その際に、金型表面からの冷却により熱可塑性樹脂の粘度が増大することから、スタンピング成形性の著しい低下が生じる。
この金型表面からの冷却を防ぐためには、金型と接するプリプレグ基材の表面に断熱層を設けて、プリプレグ基材の温度を高温に保持することが好ましい。またこの断熱層は、賦形後には速やかに金型からの冷却をプリプレグ基材に伝えて、固化もしくは結晶化を十分進行させることが好ましい。
この断熱層としては、プリプレグ基材の一部もしくは全部を覆うようにシート状であり、軽量でかつ十分な断熱効果が望めることから空気を含んだものであることが好ましい。本発明においては、高い断熱性の観点から、空隙率50%以上99%以下のシート状物により、プリプレグ積層基材の表面の少なくとも一方の面の総面積に対し、プリプレグ積層基材の表面の少なくとも一方の面の30面積%以上が覆われていることが好ましく、より好ましくは50面積%以上である。より具体的には30〜100面積%であり、より好ましくは50〜100面積%である。
【0024】
(空隙率50%以上99%以下のシート状物)
断熱層として用いるシート状物の空隙率は、十分な断熱性を保持するためには、50%以上99%以下であることが好ましい。さらに好ましくは60%以上99%以下であることが好ましい。またこのシート状物の厚みは特に制限はないが、断熱性が維持できれば薄いほどよく、0.01mm以上10mm以下が好ましく、より好ましくは0.05mm以上5mm以下である。なお、シート状物の厚みはノギスもしくはマイクロメータでシート状物の複数個所を測定し、その数平均値を求めることで測定することができる。
ここで空隙率とは、シート状物の総体積に占める空気相の堆積分率のことであり、空隙率(%)={1−(シート状物を構成する物質の総体積/シート状物の総体積)}×100 の手順で測定することができる。
このシート状物はスタンピング成形前には空隙を維持しており、スタンピング成形後には空隙が消失することが好ましい。そのためには不織布、もしくは発泡シートであることが好ましい。
また、スタンピング成形前にプリプレグ基材とシート状物は接着されていないことが好ましい。ここで「接着」とは接着剤もしくは熱融着によるプリプレグ基材とシート状物の一体化を意味する。スタンピング成形前にプリプレグ基材とシート状物が接着されていないことにより、断熱性を維持することができ、スタンピング成形後にプリプレグとシート状物とを接着することにより、機械的強度を向上することができる。なお、スタンピング成形した際のシート状物の空隙率は0〜2%であることが好ましく、0〜1%であることがより好ましい。
【0025】
前記不織布に用いられる繊維としては、繊維の種類は特に限定されず、無機繊維、樹脂繊維、植物繊維、金属繊維、又はこれらを組み合わせたハイブリッド構成の繊維が使用できる。無機繊維としては、炭素繊維、黒鉛繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、タングステンカーバイド繊維、ボロン繊維、ガラス繊維などが挙げられる。樹脂繊維としては、アラミド繊維、高密度ポリエチレン繊維、その他一般のポリプロピレン繊維、ナイロン繊維、ポリエステルなどが挙げられる。植物繊維としては、麻、ジュート、竹などセルロース繊維が挙げられる。金属繊維としては、ステンレス、鉄等の繊維を挙げられ、また金属を被覆した炭素繊維でもよい。なかでも炭素繊維、ガラス繊維、ポリプロピレン繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維が好ましい。
発泡シートに用いられる樹脂は熱可塑性樹脂であれば、樹脂の種類に特に限定されず、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66等)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、変性ポリオレフィン、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリカーボネート、ポリアミドイミド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリスチレン、ABS、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリエステルや、アクリロニトリルとスチレンの共重合体等を用いることができる。また、これらの混合物を用いてもよい。さらに、ナイロン6とナイロン66との共重合ナイロンのように共重合したものであってもよい。なかでもポリアミド、ポリオレフィンが好ましい。また、必要に応じて、難燃剤、耐候性改良剤、その他酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤、相溶化剤、導電性フィラー等を添加しておくこともできる。
【0026】
(強化繊維と熱可塑性樹脂とを含むプリプレグ基材)
本発明に用いられる強化繊維と熱可塑性樹脂とを含むプリプレグ基材はどのような形態であっても良いが、プリプレグを積層したもの、チョップしたプリプレグをランダムに分散させたもの、前記強化繊維の繊維束(以下、繊維束又は強化繊維束ともいう)もしくは前記強化繊維の単繊維(以下、単繊維ともいう)を熱可塑性樹脂中に分散させたもの等が挙げられる。これらはそのままの状態で用いても良いし、熱プレスにより板状に固定化してから用いてもよい。
プリプレグを積層したプリプレグ基材としては、強化繊維が一方向に配向したプリプレグを一方向に積層したもの、疑似等方に積層したもの、又は直交積層したものであっても良いが、特に積層方法にこだわるものはない。また前記プリプレグには、強化繊維の長さ方向を横切る方向に強化繊維を切断する深さの切込を有しても良い。図3において、直線状の切込が強化繊維の配向方向に対して斜めに設けられているが、垂直に設けられていてもよい。切込の形状は直線状でも曲線状でもよい。切込の際に生じる強化繊維の平均繊維長は、短いほどスタンピング成形性に優れ、長いほど機械物性に優れるが、一般には両者のバランスを鑑み10mm以上100mm以下が好ましい。なお、平均繊維長はプリプレグ上の全ての切込長さ(図3の10)を測定し、その数平均値で求めることができる。切込は平均繊維長が上記数値範囲内となるように、形成されることが好ましい。なお、図3に示すように、切断された強化繊維の長さ10は、切込から切込までの長さを意味する。プリプレグ1mあたりの切込の長さ9(以下、切込長ともいう)の総和が20〜200mであることが好ましく、30〜150mであることがより好ましい。切込6と強化繊維7のなす角度8は、30〜90度が好ましい。なお、平面視における切込の形状が曲線である場合の角度8は、強化繊維と切込のなす角度とし、直線の切込と同様にして計測することができる。プリプレグ基材が切込を有する場合、切込はプリプレグ基材の上面から下面まで、強化繊維が切断されていることが好ましい。さらには積層したプリプレグ間の全部もしくは一部には熱可塑性樹脂層を含んでいても良い。前記プリプレグ中の強化繊維の繊維体積含有率(Vf)は、小さいほどスタンピング成形性に優れ、大きいほど機械物性に優れるが、一般には両者のバランスを鑑みてプリプレグの総体積に対し、20%以上60%以下が好ましい。かかるVfの値は、例えば水中置換法により得られたプリプレグの密度ρcと、同様の方法で得られた繊維の密度ρf、またプリプレグの質量をW、プリプレグを燃焼し樹脂を焼失させた後の重量W1より、以下の式を用いて求めるものを用いる。
Wf=(W−W1)×100/W 式(3)
Vf=Wf×ρc/ρf 式(4)
矩形のプリプレグのチップに関して、チョップしたプリプレグをランダムに分散させたものとしては、強化繊維が一方向に配向したプリプレグを矩形状にカットしたもの(チョップドプリプレグ)を、ランダム状に分散させたものであることが好ましい。カットの際に生じる矩形の大きさには特に制限はないが、平均繊維長が10mm以上100mm以下にカットすることが、スタンピング成形性と機械物性に優れるために好ましい。またランダム状に分散させるためには矩形形状は小さい方が好ましく、一辺の長さが5mmから50mmが好ましい。前記プリプレグ中の強化繊維の繊維体積含有率(Vf)は、小さいほどスタンピング成形性に優れ、大きいほど機械物性に優れるが、一般には両者のバランスを鑑みてプリプレグの総体積に対し、20%以上60%以下が好ましい。
強化繊維の繊維束もしくは強化繊維の単繊維を熱可塑性樹脂中に分散させたものでは、繊維長には特に制限はないが、この流動性と機械物性とのバランスをとる観点から、強化繊維の平均繊維長は、1mmから20mmが好ましい。他の態様としては10〜100mmであることが好ましい。前記プリプレグ中の強化繊維の繊維体積含有率(Vf)は、小さいほどスタンピング成形性に優れ、大きいほど機械物性に優れるが、一般には両者のバランスを鑑みてプリプレグの総体積に対し、10%以上30%以下が好ましい。
【0027】
本発明のプリプレグ基材に用いられる強化繊維としては、強化繊維の種類は特に限定されず、無機繊維、樹脂繊維、植物繊維、金属繊維、又はこれらを組み合わせたハイブリッド構成の繊維が使用できる。無機繊維としては、炭素繊維、黒鉛繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、タングステンカーバイド繊維、ボロン繊維、ガラス繊維などが挙げられる。樹脂繊維としては、アラミド繊維、高密度ポリエチレン繊維、その他一般のナイロン繊維、ポリエステルなどが挙げられる。植物繊維としては、麻、ジュート、竹などセルロース繊維が挙げられる。金属繊維としては、ステンレス、鉄等の繊維を挙げられ、また金属を被覆した炭素繊維でもよい。これらの中は、最終成形物の強度等に機械特性を考慮すると、炭素繊維が好ましい。また、強化繊維の平均繊維直径は、1〜50μmであることが好ましく、5〜20μmであることがさらに好ましい。ここで直径とは、強化繊維を長さ方向に対して垂直な方向に切断した時の、断面の直径を意味する。平均繊維直径は、複数の繊維をマイクロメータで測定し、その数平均値を求めることで測定することができる。
【0028】
本発明のプリプレグ基材に用いられる樹脂は熱可塑性樹脂であれば、樹脂の種類に特に限定されず、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66等)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、変性ポリオレフィン、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリカーボネート、ポリアミドイミド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリスチレン、ABS、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリエステルや、アクリロニトリルとスチレンの共重合体等を用いることができる。また、これらの混合物を用いてもよい。なかでもポリアミド、ポリオレフィンが好ましい。さらに、ナイロン6とナイロン66との共重合ナイロンのように共重合したものであってもよい。また、必要に応じて、難燃剤、耐候性改良剤、その他酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤、相溶化剤、導電性フィラー等を添加しておくこともできる。
【0029】
強化繊維と熱可塑性樹脂とを含むプリプレグ基材において、強化繊維が炭素繊維であり、熱可塑性樹脂が変性ポリプロピレン、又はポリアミド樹脂であることが好ましく、シート状物がポリエステル不織布、ガラス不織布、及び発泡ポリアミドからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましく、空隙率は90〜95%であることが好ましい。
【0030】
以下に本発明の第二の態様における積層基材を用いた成形品の製造方法の一態様を説明するが、本発明はこれによって特に制限されるものではない。
本発明の第二の態様は、(1)強化繊維と熱可塑性樹脂とを含むプリプレグ基材を、プリプレグを構成する熱可塑樹脂の融点もしくはガラス転移点以上に加熱した後に、空隙率50%以上99%以下のシート状物をプリプレグ基材の表面の少なくとも一方に積層して積層基材を得ること、又は(2)強化繊維と熱可塑性樹脂とを含むプリプレグ基材に、空隙率50%以上99%以下のシート状物をプリプレグ基材の表面の少なくとも一方に積層した後に、得られた積層体をプリプレグを構成する熱可塑性樹脂の融点もしくはガラス転移点以上の温度に加熱して積層基材を得ること、を含み、
次いで前記積層基材を、前記プリプレグを構成する前記熱可塑性樹脂の融点もしくはガラス転移点以下に設定した金型に仕込み、次いでスタンピング成形すること、を含むプリプレグ積層基材の成形品の製造方法である。
本発明の第一の態様における積層基材は、(1)強化繊維と熱可塑性樹脂とを含むプリプレグ基材を、プリプレグを構成する熱可塑樹脂の融点もしくはガラス転移点以上に加熱した後に、空隙率50%以上99%以下のシート状物をプリプレグ基材の表面の少なくとも一方に積層すること、又は(2)強化繊維と熱可塑性樹脂とを含むプリプレグ基材に、空隙率50%以上99%以下のシート状物をプリプレグ基材の表面の少なくとも一方に積層した後に、得られた積層体をプリプレグを構成する熱可塑性樹脂の融点もしくはガラス転移点以上の温度に加熱すること、を含む積層基材の製造方法により製造することができる。
【0031】
金型の温度としては、50℃〜200℃であることが好ましく、100℃〜180℃であることがより好ましい。
スタンピング成形とは、加熱加圧してシート状物を一体化することである。スタンピング成形時の圧力は、0.1〜10MPaが好ましい。
【0032】
(プリプレグ)
本発明のプリプレグ基材に用いられるプリプレグは、例えばフィルム状とした熱可塑性樹脂を二枚準備し、その二枚の間に強化繊維をシート状に並べた強化繊維シートを挟み込み、加熱及び加圧を行うことにより得ることができる。より具体的には、2つのロールから2枚の熱可塑性樹脂からなるフィルムを送り出すとともに、強化繊維シートのロールから供給される強化繊維シートを2枚のフィルムの間に挟み込ませた後に、加熱及び加圧する。加熱及び加圧する手段としては、公知のものを用いることができ、2個以上の熱ロールを利用したり、予熱装置と熱ロールの対を複数使用したりするなどの多段階の工程を要するものであってもよい。ここで、フィルムを構成する熱可塑性樹脂は1種類である必要はなく、別の種類の熱可塑性樹脂からなるフィルムを、上記のような装置を用いてさらに積層させてもよい。
上記加熱温度は、熱可塑性樹脂の種類にもよるが、通常、100〜400℃であることが好ましく、より好ましくは150〜350℃である。一方、加圧時の圧力は、通常0.1〜10MPaであることが好ましい。この範囲であれば、プリプレグに含まれる強化繊維の間に、熱可塑性樹脂を含浸させることができるので好ましい。また、本発明の積層基材に用いることができるプリプレグは、市販されているプリプレグを用いることもできる。
【0033】
(プリプレグ積層基材)
このようにして得られたプリプレグを一方向、疑似等方、また直交積層になるよう積層してプリプレグ積層基材を作成するが、本発明のプリプレグ積層基材は、プリプレグを4〜96層となるよう積層することが好ましい。また前記プリプレグは、レーザーマーカー、カッティングプロッタや抜型等を利用して連続繊維を切断するよう切込を入れることができる。
【0034】
(ランダムプリプレグ基材)
上記のようにして得られたプリプレグをスリッター等で狭幅のテープ状に加工した後、ペレタイザー、ギロチンカッター、ローラーカッター等で一定長さにチョップしてチョップドプリプレグを得る。繊維方向がランダムになるようにチョップドプリプレグを分散させる方法としては、例えば、チョップドプリプレグを高い位置から自然落下させて、ベルトコンベアー上を流れる容器や金型のダイに堆積させる方法や、落下経路にエアーを吹き込んで気流を生じさせる方法や、落下経路に邪魔板を取り付ける方法、蓄積したチョンプドプリプレグを攪拌した後にダイ上に配置する方法などを適宜採用できる。上記積層物においては、チョップドプリプレグの積層数が2〜100層となることが好ましい。
【0035】
(繊維束もしくは単繊維分散プリプレグ基材)
強化繊維の繊維束もしくは強化繊維の単繊維をマトリックス樹脂中に良分散させる方法としては、例えば以下の方法が挙げられる。強化繊維を一定長さになるようギロチンカッター、ローラーカッター等で切断し、またマトリックス樹脂も紡糸後に切断して一定長さの繊維状とした後に、大量の水中で攪拌機を用いて両者を分散させた後にフィルターを通して水分を抜くことで強化繊維束とマトリックス樹脂中に均一分散させる方法が採用できる。上記方法においては水分中の強化繊維とマトリックス樹脂の重量濃度が、均一分散させた分散液(水分、強化繊維、及びマトリックス樹脂を含む)の総重量に対し、1%以下であることが好ましい。またその際に水分中に強化繊維束と繊維状樹脂とを結合させる接着剤を含んでいても良い。
【0036】
(不織布)
上記方法により得られたプリプレグ基材表面の一部もしくは全部に断熱層として不織布を用いる場合に、前記不織布を製造するには例えば以下の方法が挙げられる。平均繊維長5〜100mmの繊維状物をカーディング法やエアレイド法によりランダム状態に分散させてシート状とした後に、接着剤のスプレイ、熱融着、又はニードルパンチ等を用いて繊維同士を結合する方法が採用できる。
また、本発明の積層基材に用いることができる不織布は、市販されている不織布を用いることもできる。
【0037】
(発泡シート)
上記方法により得られたプリプレグ基材表面の一部もしくが全部に断熱層として発泡シートを用いる場合に、前記発泡シートを製造するには例えば以下の方法が挙げられる。熱可塑性樹脂ペレットと発泡剤を混合してシート成形機に投入し、ダイス出口から発泡する樹脂シートを複数の冷却ロールにより冷却することにより目的の空隙率の発泡シートを得る方法が採用できる。
また、本発明の積層基材に用いることができる発泡シートは、市販されている発泡シートを用いることもできる。
【0038】
(積層基材の製造方法)
本発明の第一の態様における積層基材の成形品は、(1)強化繊維と熱可塑性樹脂とを含むプリプレグ基材を、プリプレグを構成する熱可塑樹脂の融点もしくはガラス転移点以上に加熱した後に、空隙率50%以上99%以下のシート状物をプリプレグ基材の表面の少なくとも一方に積層して積層基材を得ることこと、又は(2)強化繊維と熱可塑性樹脂とを含むプリプレグ基材に、空隙率50%以上99%以下のシート状物をプリプレグ基材の表面の少なくとも一方に積層した後に、得られた積層体をプリプレグを構成する熱可塑性樹脂の融点もしくはガラス転移点以上の温度に加熱して積層基材を得ること、を含み、次いで前記積層基材をプリプレグを構成する熱可塑性樹脂の融点もしくはガラス転移点以下の温度に設定した金型に仕込み、次いでスタンピング成形すること、を含む製造方法により製造できる。
上記加熱温度は、熱可塑性樹脂の種類にもよるが、通常、融点もしくはガラス転移点より10〜100℃高い温度であることが好ましい。またシート状物の軟化点が上記加熱温度より低い場合は(1)に記載の方法を、シート状物の軟化点が上記加熱温度より高い場合は(2)の方法をとることが好ましい。上記金型温度は、熱可塑性樹脂の種類にもよるが、通常、融点もしくはガラス転移点より0〜200℃低い温度であることが好ましい。またスタンピング成形時の圧力は高ければ高いほどスタンピング成形性が良好となるため、成形品にかかる圧力として通常0.1〜50MPaであることが好ましい。
【0039】
本発明の第一の態様における積層基材は、スタンピング成形用積層基材であることが好ましい。すなわち、本発明の第一の態様における積層基材は、スタンピング成形において成形品を製造するための材料として使用することが好ましい。本発明の第一の態様における積層基材のスタンピング成形用積層基材としての使用方法は、積層基剤を金型に挿入したのち加圧するする工程、一定時間保持して冷却する工程、及び取り出しをする工程を含む。
加圧する際のプレス力は5〜500tであることが好ましい。
加圧する時間は10〜1800秒間であることが好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、実施例に記載の発明に限定されるものではない。
【0041】
(成形性の評価)
本発明の積層基材は、成形時の流動性が良好であるため、種々の複雑な形状に成形することができる。かかる流動性は、例えば、積層基材を加熱した後に、リブ等の複雑な形状をもった金型内で加圧した際に、リブ先端まで積層基材が充填したかどうかで評価することができる。具体的には、厚さ約2mmの積層基材を380mm×45mmに切り出し、IRヒーター(NGKキルンテック製:製品名:遠赤外線ヒータ式加熱炉)内で一定時間保持し、300tプレス(川崎油工製:製品名:TMP2−300)に装備したリブ付ハトチャンネル金型で75tのプレス力で60秒間保持し、図2に示す成形品を得た。その結果積層基材がリブの先端まで完全に充填したものを〇、リブが完全に充填しなかったものを×と評価した。
【0042】
(実施例1)
炭素繊維(三菱レイヨン製、製品名:パイロフィル(登録商標)TR−50S15L)を、強化繊維の方向が一方向となるように平面状に引き揃えて目付が72.0g/mである強化繊維シートとした。この強化繊維シートの両面を、酸変性ポリプロピレン樹脂製のフィルム(三菱化学社製、製品名:モディック(登録商標)P958、目付:36.4g/m)で挟み、カレンダロールを通して、熱可塑性樹脂を強化繊維シートに含浸し、繊維体積含有率(Vf)が33%、厚さが、0.12mmのプリプレグを得た。
得られたプリプレグを、300mm角に切り出し、カッティングプロッタ(レザック社製、製品名:L−2500)を用いて図3に示すように一定間隔で切込を入れた。その際、シートの端部より5mm内側部分を除き、強化繊維の長さL=25.0mm一定、平均切込長l=42.4mmになるよう、平面視における繊維を切断する切込みと強化繊維のなす角度θ=45°の切込加工を施した。
このようにして得られた切込の入ったプリプレグ16層を疑似等方([0/45/90/−45]s2)に重ね、超音波溶着機(日本エマソン社製、製品名:2000LPt)でスポット溶接してプリプレグ基材を作成した。
このようにして得たプリプレグ基材を300mm角で深さ1.5mmの印籠型内に配置し圧縮成形機(神藤金属工業所製、製品名:SFA−50HH0)を用いて、高温側プレスにて220℃、油圧指示0MPaの条件で7分間保持し、次いで同一温度にて油圧指示2MPa(プレス圧0.55MPa)の条件で7分間保持後、型を冷却プレスに移動させ、30℃,油圧指示5MPa(プレス圧1.38MPa)にて3分間保持することで一体化したプリプレグ基材を得た。
このようにして得られたプリプレグ基材を380mm×45mmに4枚切り出し、2枚を重ねて2セットを280℃のIRヒーターで5分間加熱した。その後加熱した2セットのプリプレグ基材を重ねて、常温のポリエステル不織布(高安製:アラフノン ニーパンC−100−107:空隙率90%)360mm×100mmの中央部に不織布が下側になるよう配置し、積層基材を作成した。その後すぐに300tプレスに設置した90℃に加熱したリブ付ハトチャンネル金型の下型の上表面に、不織布が接触するように挿入して、プレス力75tで60秒間加圧して成形品を得た。
このようにして得られた成形品は、図2に示すような天面4、リブ部3、及びフランジ部4を有するものであった。得られた成形品は表面光沢がよく、フランジ部5とリブ部3の先端まで積層基材が充填したものであった。
【0043】
(実施例2)
実施例1と同様の方法で得られたプリプレグ基材を380mm×45mmに4枚切り出し、2枚を重ねて2セットを作成し、その1セットを380mm×90mmに切り出したガラス繊維不織布(オリベスト製:グラベストFBP−025:空隙率95%)の中央部に不織布が下側になるように配置し、積層基材を作成した。それらを280℃のIRヒーターで5分間加熱した後、不織布のない1セットを不織布付の1セットの上に配置し、その後すぐに300tプレスに設置した80℃に加熱したリブ付ハトチャンネル金型の下型の上表面に、不織布が接触するように挿入して、プレス力75tで60秒間加圧した。
このようにして得られた成形品は、表面光沢がよく、リブの先端まで積層基材が充填したものであった。
【0044】
(比較例1)
実施例1と同様の方法でプリプレグ基材を加熱し加圧したが、ポリエステル不織布は用いなかった以外は実施例1と同様の方法で積層基材を作成し、成形品を得た。このようにして得られた成形品は、表面光沢がよかったが、一部リブ先端が未充填であった。
【0045】
(比較例2)
実施例1と同様の方法で積層基材を加熱、加圧したが、ポリエステル不織布の代わりに低発泡ポリプロピレンシート(三井化学東セロ製:ハッポート:空隙率30%)を用いた以外は実施例1と同様の方法で積層基材を作成し、成形品を得た。
このようにして得られた成形品は、表面光沢がよかったが、一部リブ先端が未充填であった。
【0046】
(比較例3)
比較例1と同様の方法でポリエステル不織布を用いずに積層基材を作成し、IRヒーターで加熱し、金型温度130℃でスタンピング成形した。
このようにして得られた成形品は、表面光沢が無く、リブ先端にガス溜りが発生して、充填が不十分であった。
【0047】
(実施例3)
一方向に炭素繊維(三菱レイヨン社製、製品名:パイロフィル(登録商標)TR−50S15L)を平面状に引き揃えて目付が72.0g/mとなる強化繊維シートとし、強化繊維シートの両面を、ポリアミド樹脂(ナイロン6、宇部興産社製、製品名:1013B)からなる目付が45.6g/mのフィルムで挟み、カレンダロールを通して、熱可塑性樹脂を繊維シートに含浸し、繊維体積含有率(Vf)が33%、厚さが、0.12mmのプリプレグを得た。このプリプレグを強化繊維の長さL=25.0mm一定、平均切込長l=42.4mmになるよう、平面視における繊維を切断する切込みと強化繊維のなす角度θ=45°の切込加工を施した。IRヒーターの設定温度を320℃、加熱時間を10分とし、リブ付ハトチャンネル金型の設定温度を120℃にした以外は、実施例1と同様の方法でポリエステル不織布を用いて積層基材とその成形品を作成して、スタンピング成形性を評価した。
その結果、表面光沢がよく、リブの先端まで積層基材が充填した成形品が得られた。
【0048】
(実施例4)
実施例3と同様にして得られたプリプレグ基材を用いて実施例2と同様の方法でガラス不織布を用いて積層基材を作成し、実施例3と同様の条件で加熱、加圧してスタンピング成形性を評価した。その結果、表面光沢がよく、リブの先端まで積層基材が充填した成形品が得られた。
【0049】
(実施例5)
ポリエステル不織布の代わりに、ナイロン発泡シート(イノアック製:商品名ZOTEK NB−50:空隙率95%)を用いた以外は実施例3と同様に積層基材を作成し、実施例3と同様の条件でスタンピング成形性を評価した。その結果、リブの先端まで積層基材が充填した成形品が得られた。
【0050】
(実施例6)
実施例4と同様にガラス不織布を用いて積層基材を作成したが、プリプレグ基材の両側にガラス不織布が配置するようにし、IRヒーターで加熱後にスタンピング成形した以外は実施例4と同様にスタンピング成形性を評価した。その結果、リブの先端まで積層基材が充填した成形品が得られた。
【0051】
(比較例4)
実施例3と同様にプリプレグ基材を作成、IRヒーターで加熱したが、不織布を用いずにスタンピング成形を実施して成形品を得、スタンピング成形性を評価した。その結果,表面光沢は良かったか、リブへの充填が不十分であった。
【0052】
(実施例7)
実施例1で得られたプリプレグをカッティングプロッタ(レザック社製、製品名:L−2500)を用いて、繊維方向25mm、繊維と垂直方向に15mmのチップ状に切断してチョップドプリプレグを得た。そのチョップドプリプレグ220gを1500mmの高さから自然落下させて、300mm角で深さ1.5mmの印籠型内に堆積させた。その後圧縮成形機(神藤金属工業所製、製品名:SFA−50HH0)を用いて、高温側プレスにて220℃、油圧指示0MPaの条件で7分間保持し、次いで同一温度にて油圧指示2MPa(プレス圧0.55MPa)の条件で7分間保持後、型を冷却プレスに移動させ、30℃,油圧指示5MPa(プレス圧1.38MPa)にて3分間保持することで一体化したプリプレグ基材を得た。このプリプレグ基材を実施例2と同様の方法でガラス不織布を用いて積層基材を作成し、加熱、スタンピング成形を実施して成形品を得、スタンピング成形性を評価した。このようにして得られた成形品は、表面光沢がよく、リブの先端まで積層基材が充填したものであった。
【0053】
(実施例8)
炭素繊維(三菱レイヨン製、製品名:パイロフィル(登録商標)TR−50S15L)をローラーカッターで長さ6mmの繊維長に切断した。また酸変性ポリプロピレン樹脂製のフィルム(三菱化学社製、製品名:モディック(登録商標)P958)を繊維長3mmの不連続繊維状に加工した。この炭素繊維束356gと、樹脂繊維束724gを、100Lの水の中に投入し攪拌機で10秒間撹拌し、水抜き乾燥して目付が2000g/mのマット状物を得た。このマット状物220gを、300mm角で深さ1.5mmの印籠型内に挿入し、その後圧縮成形機(神藤金属工業所製、製品名:SFA−50HH0)を用いて、高温側プレスにて220℃、油圧指示0MPaの条件で7分間保持し、次いで同一温度にて油圧指示2MPa(プレス圧0.55MPa)の条件で7分間保持後、型を冷却プレスに移動させ、30℃,油圧指示5MPa(プレス圧1.38MPa)にて3分間保持することで一体化したプリプレグ基材を得た。このようにして得られたプリプレグ基材を、実施例2と同様の方法でガラス不織布を用いて積層基材を得た。得られた積層基材を加熱、スタンピング成形を実施して成形品を得た。このようにして得られた成形品は、表面光沢がよく、リブの先端まで積層基材が充填したものであった。
【0054】
表中、「PP」はポリプロピレンを意味し、「PA6」はポリアミド樹脂を意味する。
表面光沢の評価項目に関して、表面が平滑で光沢がみられるものを「○」、(表面が荒れており光沢がないものを「×」と評価した。リブ充填の評価項目に関して、先端まで充填したものを「○」、先端が未充填のものを「×」と評価した。
評価結果を表1に併記する。
【0055】
【表1】
【0056】
<考察>
以上の結果から、本発明により、複雑な形状への賦形性に優れ、特に低金型温度での成形性に優れた積層基剤を提供できることが分かった。低金型温度により、成形後収縮によるソリが低減され、かつ表面性状の良い成形品が得られることが分かった。さらには空隙率が高いことにより、スタンピング成形時のガス溜りの抑制、さらにはシート状物に機能を付加させることで、加熱工程からスタンピング成形へ移行する際のハンドリングを容易にできること、また接着性の優れたシート状物を用いることで、接着した際の接着強度が向上することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、複雑な形状への賦形性に優れ、特に低金型温度での成形性が可能である積層基材、及びその製造方法を得ることができる。
【符号の説明】
【0058】
1:空隙率50%以上99%以下のシート状物
2:強化繊維と熱可塑性樹脂とを含むプリプレグ基材
3:リブ部
4:天面(積層基材チャージ部)
5:フランジ部
6:切込
7:強化繊維
8:切込と強化繊維のなす角度
9:切込長
10:切断された強化繊維の長さ
図1
図2
図3