特許第5915862号(P5915862)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日産化学工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5915862-ハードディスク用被膜形成組成物 図000015
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5915862
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】ハードディスク用被膜形成組成物
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/84 20060101AFI20160422BHJP
   G11B 5/855 20060101ALI20160422BHJP
   C08F 12/36 20060101ALI20160422BHJP
   C08F 8/00 20060101ALI20160422BHJP
   C08F 290/12 20060101ALI20160422BHJP
【FI】
   G11B5/84 A
   G11B5/855
   G11B5/84 Z
   C08F12/36
   C08F8/00
   C08F290/12
【請求項の数】15
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2012-549848(P2012-549848)
(86)(22)【出願日】2011年12月21日
(86)【国際出願番号】JP2011079655
(87)【国際公開番号】WO2012086692
(87)【国際公開日】20120628
【審査請求日】2014年10月8日
(31)【優先権主張番号】特願2010-285740(P2010-285740)
(32)【優先日】2010年12月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068618
【弁理士】
【氏名又は名称】萼 経夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104145
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 嘉夫
(74)【代理人】
【識別番号】100104385
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100163360
【弁理士】
【氏名又は名称】伴 知篤
(72)【発明者】
【氏名】加藤 拓
(72)【発明者】
【氏名】首藤 圭介
(72)【発明者】
【氏名】小林 淳平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正睦
【審査官】 中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−259370(JP,A)
【文献】 特開2009−226750(JP,A)
【文献】 特開2007−072374(JP,A)
【文献】 特開2006−120222(JP,A)
【文献】 特開2005−235356(JP,A)
【文献】 特開2007−250091(JP,A)
【文献】 特開2011−159379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/84
C08F 8/00
C08F 12/36
C08F 290/12
G11B 5/855
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族基を含む300〜5000の分子量を有する大気圧下に常温で液体のポリマー(A1)、少なくとも2つの光重合性基を含む300〜5000の分子量を有する大気圧下に常温で液体のポリマー(A2)、芳香族基と少なくとも2つの光重合性基とを含む300〜5000の分子量を有する大気圧下に常温で液体のポリマー(A3)、芳香族基を含む100〜1000の分子量を有する大気圧下に常温で液体の化合物(a1)、少なくとも2つの光重合性基を含む100〜1000の分子量を有する大気圧下に常温で液体の化合物(a2)、及び芳香族基と少なくとも2つの光重合性基とを含む100〜1000の分子量を有する大気圧下に常温で液体の化合物(a3)からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマー又は少なくとも1種のポリマーと少なくとも1種の化合物との組み合わせからなり且つ光重合性基と芳香族基とを有するスチレン系化合物の疎水性被覆材を含む、ハードディスク用平坦化膜形成組成物。
【請求項2】
前記光重合性基がアクリレート基、メタクリレート基、又はビニル基である請求項1に記載の平坦化膜形成組成物。
【請求項3】
前記芳香族基がベンゼン環を含む基である請求項1又は請求項2に記載の平坦化膜形成組成物。
【請求項4】
前記疎水性被覆材が上記(A3)単独、(A1)と(A2)の混合物、(A1)と(A3)の混合物、(A2)と(A3)の混合物、(A3)と(a3)の混合物、(A1)と(a3)の混合物、又は(A1)と(a2)の混合物である請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の平坦化膜形成組成物。
【請求項5】
前記疎水性被覆材が上記(A3)単独又は(A1)と(a2)の混合物である請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の平坦化膜形成組成物。
【請求項6】
上記(A3)がホモポリマー又はコポリマーである請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の平坦化膜形成組成物。
【請求項7】
前記平坦化膜形成組成物から得られる平坦化膜は、水接触角測定において該平坦化膜と水との接触角が70°〜150°となる疎水性を有する膜である請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の平坦化膜形成組成物。
【請求項8】
更に光重合開始剤と溶剤を含む請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の平坦化膜形成組成物。
【請求項9】
前記平坦化膜形成組成物から得られる膜は、非ハロゲン系のドライエッチングガスでエッチバックによる平坦化が可能な膜である請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の平坦化膜形成組成物。
【請求項10】
磁性体上に凹凸を形成する第1工程、該凹凸を請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の平坦化膜形成組成物で被覆する第2工程、エッチングにより、被覆された膜表面を平坦化するとともに磁性体表面を露出する第3工程を含むハードディスクの製造方法。
【請求項11】
更に第4工程として硬質物質を被覆する工程を含む請求項10に記載のハードディスクの製造方法。
【請求項12】
前記第1工程で凹凸を形成する工程がナノインプリント法で行われる請求項10又は請求項11に記載のハードディスクの製造方法。
【請求項13】
前記第3工程で平坦化がドライエッチングで行われる請求項10乃至請求項12のいずれか1項に記載のハードディスクの製造方法。
【請求項14】
前記第4工程で用いられる硬質物質がダイヤモンドライクカーボンである請求項10乃至請求項13のいずれか1項に記載のハードディスクの製造方法。
【請求項15】
芳香族基を含む300〜5000の分子量を有する大気圧下に常温で液体のポリマー(A1)、少なくとも2つの光重合性基を含む300〜5000の分子量を有する大気圧下に常温で液体のポリマー(A2)、芳香族基と少なくとも2つの光重合性基とを含む300〜5000の分子量を有する大気圧下に常温で液体のポリマー(A3)、芳香族基を含む100〜1000の分子量を有する大気圧下に常温で液体の化合物(a1)、少なくとも2つの光重合性基を含む100〜1000の分子量を有する大気圧下に常温で液体の化合物(a2)、及び芳香族基と少なくとも2つの光重合性基とを含む100〜1000の分子量を有する大気圧下に常温で液体の化合物(a3)からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマー又は少なくとも1種のポリマーと少なくとも1種の化合物との組み合わせからなり且つ光重合性基と芳香族基とを有するスチレン系化合物の疎水性被覆材を含む、磁性物質の拡散防止膜形成組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ハードディスクドライブ用被膜形成組成物とそれを用いたハードディスク装置の製造方法に関する。本件被膜は平坦化と、磁性物質の被膜層への拡散抑制に効果がある。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブはヘッドの高性能化とドライブメディア(磁性体)の高性能化が共に進行し、大容量化と小型化が進行している。
メディアドライブの高性能化という点では、面記録密度を高めることで大容量化が進んでいる。記録密度を高める上では磁気ヘッドの点で磁界広がりが問題となり、磁気ヘッドを小さくする方向に進むがそれにも限界がある。ある値以下には小さくならないためにサイドライトと呼ばれる現象が発生する。サイドライトが発生すると記録時に隣接トラックへの書き込みを生じ、既に記録したデータに上書きしデータの消失を生じる。また、磁界広がりは再生時に隣接トラックからの余分な信号を読み込み、クロストークを生じる。
このような問題を解決するためにトラック間を非磁性材料で充填し、物理的、磁気的に分離することで解決しようとするディスクリートトラックメディアやビットパターンドメディアという技術が提案されている(特許文献1)。
トラック間に充填された非磁性材料からなる充填は、基板上に形成された凹凸を有する磁性層に非磁性材料を含む被膜形成組成物を被覆し、磁性層の表面までドライエッチングでエッチバックし磁性層と非磁性層が平坦になった平面を形成する。この非磁性層は底部や側部が磁性層と接触していて、磁性層から非磁性層に磁性材料の拡散が発生することがあり、これらの拡散を防止するためにポリシロキサン系の材料が用いられている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−100496号公報
【特許文献2】特開2009−259370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、ディスクリートトラックメディアやビットパターンドメディアという技術のために微細な溝(数十nm)を形成し、その溝に非磁性材料を充填し光硬化し平坦化して、磁性体部分と非磁性体部分を交互に有するトラックを形成するための方法に用いられる、非磁性体の充填剤、即ち平坦化膜形成組成物を提供することにある。
このような組成物は、微細な溝に十分に充填され、且つ光硬化時(露光時)と露光後焼成時に充填部分に収縮を生じないこと、そして充填部はコバルト成分等の磁性材料(コバルト、アルミニウム、ジルコニウム、クロム、ニッケル、亜鉛、鉄、ルテニウム等)が充填部(非磁性層)に拡散するのを防止することが求められる。本発明は、この様な要求性能を満たすハードディスク用平坦化膜形成組成物を提供するものである。そして、本発明は、それを用いたハードディスクの製造方法を提供するものである。また、本発明は磁性物質の拡散防止膜を形成するための組成物を提供するものでもある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は第1観点として、芳香族基を含む300〜5000の分子量を有する大気圧下に常温で液体のポリマー(A1)、少なくとも2つの光重合性基を含む300〜5000の分子量を有する大気圧下に常温で液体のポリマー(A2)、芳香族基と少なくとも2つの光重合性基とを含む300〜5000の分子量を有する大気圧下に常温で液体のポリマー(A3)、芳香族基を含む100〜1000の分子量を有する大気圧下に常温で液体の化合物(a1)、少なくとも2つの光重合性基を含む100〜1000の分子量を有する大気圧下に常温で液体の化合物(a2)、及び芳香族基と少なくとも2つの光重合性基とを含む100〜1000の分子量を有する大気圧下に常温で液体の化合物(a3)からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマー又は少なくとも1種のポリマーと少なくとも1種の化合物との組み合わせからなり且つ光重合性基と芳香族基とを有する疎水性被覆材を含む、ハードディスク用平坦化膜形成組成物、
第2観点として、光重合性基がアクリレート基、メタクリレート基、又はビニル基である第1観点に記載の平坦化膜形成組成物、
第3観点として、芳香族基がベンゼン環を含む基である第1観点又は第2観点に記載の平坦化膜形成組成物、
第4観点として、疎水性被覆材が上記(A3)単独、(A1)と(A2)の混合物、(A1)と(A3)の混合物、(A2)と(A3)の混合物、(A3)と(a3)の混合物、(A1)と(a3)の混合物、又は(A1)と(a2)の混合物である第1観点乃至第3観点のいずれか一つに記載の平坦化膜形成組成物、
第5観点として、疎水性被覆材が上記(A3)単独又は(A1)と(a2)の混合物である第1観点乃至第3観点のいずれか一つに記載の平坦化膜形成組成物、
第6観点として、上記(A3)がホモポリマー又はコポリマーである第1観点乃至第5観点のいずれか一つに記載の平坦化膜形成組成物、
第7観点として、平坦化膜形成組成物から得られる平坦化膜は、水接触角測定において該平坦化膜と水との接触角が70°〜150°となる疎水性を有する膜である第1観点乃至第6観点のいずれか一つに記載の平坦化膜形成組成物、
第8観点として、更に光重合開始剤と溶剤を含む第1観点乃至第7観点のいずれか一つに記載の平坦化膜形成組成物、
第9観点として、前記平坦化膜形成組成物から得られる膜は、非ハロゲン系のドライエッチングガスでエッチバックによる平坦化が可能な膜である第1観点乃至第8観点のいずれか一つに記載の平坦化膜形成組成物、
【0006】
第10観点として、磁性体上に凹凸を形成する第1工程、該凹凸を第1観点乃至第9観点のいずれか一つに記載の平坦化膜形成組成物で被覆する第2工程、エッチングにより、被覆された膜表面を平坦化するとともに磁性体表面を露出する第3工程を含むハードディスクの製造方法、
第11観点として、更に第4工程として硬質物質を被覆する工程を含む第10観点に記載のハードディスクの製造方法、
第12観点として、第1工程で凹凸を形成する工程がナノインプリント法で行われる第10観点又は第11観点に記載のハードディスクの製造方法、
第13観点として、第3工程で平坦化がドライエッチングで行われる第10観点乃至第12観点のいずれか一つに記載のハードディスクの製造方法、
第14観点として、第4工程で用いられる硬質物質がダイヤモンドライクカーボンである第10観点乃至第13観点のいずれか一つに記載のハードディスクの製造方法、及び
第15観点として、芳香族基を含む300〜5000の分子量を有する大気圧下に常温で液体のポリマー(A1)、少なくとも2つの光重合性基を含む300〜5000の分子量を有する大気圧下に常温で液体のポリマー(A2)、芳香族基と少なくとも2つの光重合性基とを含む300〜5000の分子量を有する大気圧下に常温で液体のポリマー(A3)、芳香族基を含む100〜1000の分子量を有する大気圧下に常温で液体の化合物(a1)、少なくとも2つの光重合性基を含む100〜1000の分子量を有する大気圧下に常温で液体の化合物(a2)、及び芳香族基と少なくとも2つの光重合性基とを含む100〜1000の分子量を有する大気圧下に常温で液体の化合物(a3)からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマー又は少なくとも1種のポリマーと少なくとも1種の化合物との組み合わせからなり且つ光重合性基と芳香族基とを有するスチレン系化合物の疎水性被覆材を含む、磁性物質の拡散防止膜形成組成物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の平坦化膜形成組成物は、芳香族基を有し光重合性である疎水性被覆材を含むことから、該平坦化膜形成組成物から形成された膜は疎水性に優れ、磁性層と交互に並ぶ非磁性層として使用した場合、大気中の水分の侵入による磁性体部分の腐食を防ぎ、腐食成分の非磁性層への拡散を防止することができる。
また、本発明のハードディスクの製造方法によると、平坦化膜形成組成物が有機系化合物からなるため、得られる平坦化膜のエッチバックに磁性層をエッチングしない非ハロゲン系ガスを適用することができることから、磁性材料の非磁性層部分への拡散を防ぎ、トラックの混在化を防止することが可能である。
また、本発明のハードディスクの製造方法によると、用いる平坦化膜形成組成物中の疎水性被覆材が特定の分子量である常温で液体の成分であることにより、微細な溝が形成された磁性層の上に塗布した場合に優れた充填性能を発揮し、塗布後のリフロー無しで平坦性の高い膜を形成することができ、また、このように形成された膜をエッチバックした後、その上にダイヤモンドカーボン等の硬質物質の被覆を好適に行うことができる。
また、本発明の磁性物質の拡散防止膜形成組成物から形成された膜は、磁性物質の拡散を好適に抑制することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】コバルト被覆基板上に平坦化膜を被覆して恒温恒湿試験後の平坦化膜表面のコバルトの定量値と、別途コバルト被覆基板上に被覆した平坦化膜の水接触角試験値との相関関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
微細な溝に平坦化膜形成組成物を充填させるための組成物として無機系化合物を用いる組成物と、本発明のように、有機系化合物を用いる組成物を比較することにより、本発明の特徴が明らかとなる。
無機系化合物を含む平坦化膜形成組成物を用いる場合は、凹凸基板上に塗布し、200℃以上の温度で加熱によるリフローを行い、CMPや湿式エッチング等で無機被覆物を削り、加熱硬化し、ドライエッチングを行い平坦化させ、更にダイヤモンドライクカーボンの被覆を行っていた。
本発明の有機系化合物による平坦化膜形成組成物を用いる場合は、凹凸基板上に塗布し、露光し、その後必要であれば露光後加熱を行い、ドライエッチングを行い平坦化させ、更にダイヤモンドライクカーボンの被覆を行うものである。
有機系化合物を含む平坦化膜形成組成物を用いる場合は、加熱によるリフローを行わなくても被覆のみで微細な溝に充填することができる。即ち被覆工程(本発明の第2工程)でリフローを必要としない。
【0010】
そして、無機系材料(例えばポリシロキサン)ではCMPや湿式エッチングで無機被覆部分を除去した後にドライエッチングによる平坦化が行われるが、無機系材料のエッチバックではフッ素系のガスで効率よくエッチングが行われる。しかし、フッ素ガスはエッチングしたときにフッ酸(HF)が生成することが知られており、HFは磁性材料を腐食させる原因となる。また、フッ素系ガスはエッチングした後の膜表面にラフネスが発生することがある。
本発明では凹凸が形成された磁性層の表面に、有機系化合物からなる非磁性体を含む平坦化膜形成組成物を塗布法により被覆し、その後に非ハロゲン系ガス(例えば酸素系ガス)によってエッチバックを行い、非磁性層をエッチバックして磁性層と非磁性層が表面で交互に並ぶ平坦な面を形成するものである。酸素系ガスによるエッチングのために非磁性層はエッチングされるが、磁性層は影響を受けない。
そして、非磁性層の充填部はコバルト成分等の磁性材料の非磁性層部分への拡散(いわゆるコバルトコロージョン)を防止することができ、磁性層と非磁性層の両方が磁性体化してトラックが混在化することを防止することができる。
【0011】
次に、斯かる特徴的な作用効果を営む本発明の組成物の構成を説明する。本発明は、芳香族基を含む300〜5000の分子量を有する大気圧下に常温で液体のポリマー(A1)、少なくとも2つの光重合性基を含む300〜5000の分子量を有する大気圧下に常温で液体のポリマー(A2)、芳香族基と少なくとも2つの光重合性基とを含む300〜5000の分子量を有する大気圧下に常温で液体のポリマー(A3)、芳香族基を含む100〜1000の分子量を有する大気圧下に常温で液体の化合物(a1)、少なくとも2つの光重合性基を含む100〜1000の分子量を有する大気圧下に常温で液体の化合物(a2)、及び芳香族基と少なくとも2つの光重合性基とを含む100〜1000の分子量を有する大気圧下に常温で液体の化合物(a3)からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリマー又は少なくとも1種のポリマーと少なくとも1種の化合物との組み合わせからなり且つ光重合性基と芳香族基とを有する疎水性被覆材を含む、ハードディスク用平坦化膜形成組成物である。そして、光重合開始剤と溶剤(有機溶剤)とを含み、必要により界面活性剤、光増感剤、及び紫外線吸収剤を含むことができる。
【0012】
平坦化膜形成組成物の固形分は0.01〜20質量%、又は0.1〜10質量%、又は0.1〜5質量%として用いることができる。ここで固形分とは平坦化膜形成組成物中で溶剤を除いた残りの成分の割合であり、それらが光硬化(必要により露光後加熱)により固化するものである。
上記ポリマー及び化合物は大気圧下に常温で液体であることが好ましい。大気圧は通常1気圧であり、常温は約20℃を示す。
ポリマーはオリゴマー状の低分子重合体を含むものであり、上記分子量範囲に属するものであれば使用することができる。
【0013】
固形分中の疎水性被覆材の割合は50〜99質量%、又は60〜95質量%、又は70〜90質量%の範囲で用いることができる。
また、固形分中での光重合開始剤は0.5〜30質量%、又は5〜30質量%、又は10〜30質量%の範囲で用いることができる。
また、固形分中での界面活性剤の添加剤は0.0001〜1質量%、又は0.001〜0.5質量%の範囲で使用することができる。
また、固形分中での光増感剤の添加剤は0.01〜5質量%、又は0.1〜1質量%の範囲で使用することができる。
また、固形分中での紫外線吸収剤の添加剤は0.01〜5質量%、又は0.1〜1質量%の範囲で使用することができる。
【0014】
疎水性被覆材は少なくとも2つの光重合性基を有していて、光重合性基はアクリレート基、メタクリレート基、及びビニル基が挙げられる。
疎水性被覆材は芳香族基を有していて、ベンゼン環のような芳香族単環や、ナフタレン等の芳香族縮合環が挙げられる。これらの芳香族基に上記光重合性基が結合することもでき、芳香族基と光重合性基を有する分子量300〜5000程度のオリゴマー又はポリマーを上記疎水性被覆材として用いることができる。
上記芳香族基と少なくとも2つの光重合性基とを含む300〜5000の分子量を有する大気圧下に常温で液体のポリマー(A3)は、ホモポリマーとして芳香族基と光重合性基を持った単一化合物の重合物である場合と、芳香族基を有する化合物と光重合性基を有する化合物のコポリマーである場合のいずれも使用することができる。
芳香族基と少なくとも2つの光重合性基とを含む100〜1000の分子量を有する大気圧下に常温で液体の化合物(a3)は、1分子中に芳香族基と少なくとも2つの光重合性基を有する化合物である。
【0015】
上記の芳香族基はアルキル基や、アルケニル基等の疎水性を阻害しない置換基を有することができる。また、アクリレート基のようなビニル基と芳香族との連結部分に存在するエステル基、カルボニル基、エーテル基等を含んでいても良い。
本発明の平坦化膜形成組成物から得られる平坦化膜は、疎水性被覆材による疎水性を発現する。非磁性層を疎水化することにより大気中の水分の侵入を防止することが可能であり、それにより磁性層成分、例えばコバルト等の腐食を防止することができ、コバルト等の磁性体の腐食成分の非磁性層への拡散(いわゆるコバルトコロージョン)を防止することが可能である。
疎水性の評価は水接触角の試験で求められる。例えば平坦化膜が形成されたサンプル基板表面に22Gのノズルから2μLの水滴を接触させ、接触した水滴と平坦化膜との接触角を、測定機械(全自動接触角計DM700型、協和界面科学株式会社製)を用いて測定することができる。この測定によれば、本発明に用いられる疎水性被覆材は該接触角が70°以上であり、例えば70°〜150°、又は70°〜85°の範囲の平坦化膜として好適に用いることができる。
【0016】
上記疎水性被覆材は上記ポリマー又はポリマーと化合物の組み合わせであり、それは上記(A3)のポリマー単独、(A1)と(A2)のポリマー混合物、(A1)と(A3)のポリマー混合物、(A2)と(A3)のポリマー混合物、(A3)と(a3)のポリマーと化合物の混合物、(A1)と(a3)のポリマーと化合物の混合物、又は(A1)と(a2)のポリマーと化合物の混合物であることが好ましい。特に、上記(A3)のポリマー単独、又は(A1)と(a2)のポリマーと化合物の混合物であることが好ましい。
【0017】
上記(A3)はホモポリマーである場合、又はコポリマーである場合がある。
上記疎水性被覆材はスチレン系化合物であり、具体的には光重合性スチレン系化合物の単独重合体、スチレンと光重合性化合物との共重合体、スチレン系ポリマー又はオリゴマーと光重合性化合物との混合物、又はスチレン系ポリマー又はオリゴマーと光重合性化合物のポリマー又はオリゴマーとの混合物が挙げられる。
光重合性スチレン系化合物は例えばジビニルベンゼンや、(メタ)アクリル酸スチリル等が挙げられる。
光重合性化合物は(メタ)アクリル酸アルケニルが挙げられる。ここでアルケニル基は炭素数2〜10の範囲で例示することができる。例えば(メタ)アクリル酸ビニル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸3−ブテニル、(メタ)アクリル酸4−ペンチル、(メタ)アクリル酸5−ヘキシル等が挙げられる。
また光重合性化合物はポリ(メタ)アクリレートが挙げられ、例えば2〜10個の(メタ)アクリレート基を有する化合物を例示することができる。またそれらはヒドロキシル基等の置換基を有することもできる。
光重合性化合物のオリゴマーは(メタ)アクリル酸アルケニルのオリゴマーが挙げられ、上記(メタ)アクリル酸アルケニルのオリゴマーが挙げられる。
【0018】
上記疎水性化合物は例えば単独重合体、共重合体は以下に例示することができる。
【化1】
【0019】
スチレン系ポリマー又はオリゴマーと光重合性化合物との混合物は以下に例示することができる。
【化2】
【0020】
スチレン系ポリマー若しくはオリゴマー同士の混合物、スチレン系ポリマー若しくはオリゴマーと光重合性ポリマー若しくはオリゴマーとの混合物は以下に例示することができる。
【化3】
【0021】
本発明の平坦化膜形成組成物における光重合開始剤は、光照射によって前記光重合性基の重合を開始することができる作用を有する化合物であれば特に限定はない。光照射により酸(ブレンステッド酸またはルイス酸)、塩基、ラジカル、又はカチオンを発生する化合物を使用することができる。特に光ラジカル重合開始剤を用いることが好ましい。
上記光ラジカル重合開始剤は、例えば商品名イルガキュア369(式4−1、BASFジャパン(株)製、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1)、
商品名イルガキュア500(式4−2、BASFジャパン(株)製、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン+ベンゾフェノン)、
商品名イルガキュア819(式4−3、BASFジャパン(株)製、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイン)−フェニルフォスフィンオキサイド)、
商品名イルガキュア651(式4−4、BASFジャパン(株)製、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン)、
商品名イルガキュア184(式4−5、BASFジャパン(株)製、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)、
商品名ダンロキュア1173(式4−6、BASFジャパン(株)製、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン)、
商品名イルガキュア2959(式4−7、BASFジャパン(株)製、1−(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチル)−1−プロパン−1−オン)、
商品名イルガキュア127(式4−8、BASFジャパン(株)製、2−ヒドロキシ−1−(4−(4−(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオニル)ベンジル)フェニル)−2−メチル−プロパン−1−オン)、
商品名イルガキュア907(式4−9、BASFジャパン(株)製、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン)、
商品名イルガキュア379(式4−10、BASFジャパン(株)製、2−(ジメチルアミノ)−2−(4−(メチルフェニル)メチル)−1−(4−(4−モルホリニル)フェニル)−1−ブタノン)、
商品名イルガキュアOXE01(式4−11、BASFジャパン(株)製、1,2−オクタンジオン1,4−(4−フェニルチオ)−2−(O−ベンゾイルオキシム))等が挙げられる。
【0022】
【化4】
【0023】
本発明の平坦化膜形成組成物は界面活性剤を含有することができる。
それら界面活性剤は例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンオクチルフエノールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフエノールエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロツクコポリマー類、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート、ソルビタントリステアレート等のソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等のノニオン系界面活性剤、商品名エフトップEF301、EF303、EF352((株)トーケムプロダクツ製)、商品名メガファックF171、F173、R−08、R−30(大日本インキ化学工業(株)製)、フロラードFC430、FC431(住友スリーエム(株)製)、商品名アサヒガードAG710,サーフロンS−382、SC101、SC102、SC103、SC104、SC105、SC106(旭硝子(株)製)等のフッ素系界面活性剤、及びオルガノシロキサンポリマ−KP341(信越化学工業(株)製)等を挙げることができる。これらの界面活性剤は単独で使用してもよいし、また二種以上の組み合わせで使用することもできる。
【0024】
本発明の平坦化膜形成組成物は光増感剤を含有することができる。
光増感剤としては、例えば、チオキサンテン系、キサンテン系、ケトン系、チオピリリウム塩系、ベーススチリル系、メロシアニン系、3−置換クマリン系、3,4−置換クマリン系、シアニン系、アクリジン系、チアジン系、フェノチアジン系、アントラセン系、コロネン系、ベンズアントラセン系、ペリレン系、メロシアニン系、ケトクマリン系、フマリン系、ボレート系等が挙げられる。
上記光増感剤は、単独又は2種以上の組み合わせで使用することができる。当該光増感剤を用いることによって、UV領域の波長を調整することもできる。
上記紫外線吸収剤としては、例えば、TINUVIN(登録商標)PS、同99−2、同109、同328、同384−2、同400、同405、同460、同477、同479、同900、同928、同1130、同111FDL、同123、同144、同152、同292、同5100、同400−DW、同477−DW、同99−DW、同123−DW、同5050、同5060、同5151(BASFジャパン(株)製)等が挙げられる。
上記紫外線吸収剤は、単独又は2種以上の組み合わせで使用することができる。当該紫外線吸収剤を用いることによって、光硬化時に膜の最表面の硬化速度を制御することができ、薄膜の光硬化性を向上できる場合がある。
【0025】
本発明の平坦化膜形成組成物は疎水性被覆材と光重合開始剤と有機溶剤を含むことができるが、該有機溶剤としてはトルエン、p−キシレン、o−キシレン、スチレン、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、1−オクタノール、エチレングリコール、ヘキシレングリコール、トリメチレングリコール、1−メトキシ−2−ブタノール、シクロヘキサノール、ジアセトンアルコール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、プロピレングリコール、ベンジルアルコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、γ−ブチルラクトン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルノーマルブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸イソプロピルケトン、酢酸ノーマルプロピル、酢酸イソブチル、酢酸ノーマルブチル、メタノール、エタノール、イソプロパノール、tert−ブタノール、アリルアルコール、ノーマルプロパノール、2−メチル−2−ブタノール、イソブタノール、ノーマルブタノール、2−メチル−1−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−1−ペンタノール、2−エチルヘキサノール、1−オクタノール、エチレングリコール、ヘキシレングリコール、トリメチレングリコール、1−メトキシ−2−ブタノール、ジアセトンアルコール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、プロピレングリコール、ベンジルアルコール、イソプロピルエーテル、1,4−ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、N−シクロヘキシル−2−ピロリジノンが挙げられる。
【0026】
本発明は磁性体上に凹凸を形成する第1工程、該凹凸を平坦化膜形成組成物で被覆する第2工程、エッチングにより平坦化し磁性体表面を露出する第3工程を含むハードディスクの製造方法である。
第1工程において、磁性体上に凹凸を形成する方法は、例えば磁性体上に光又は熱ナノインプリント法を用いてトラックパターンを形成する。そのパターンを用いてドライエッチング法により磁性体面を加工し凹凸を形成する。この時に用いるエッチングガスとしては、酸素、アルゴン、フッ素系ガスによるドライエッチングによって行なわれることができる。より好ましくは酸素、アルゴンである。フッ素系ガスとしては、例えば、テトラフルオロメタン(CF4)、パーフルオロシクロブタン(C)、パーフルオロプロパン(C)、トリフルオロメタン、及びジフルオロメタン(CH)等が挙げられる。フッ素系ガスを用いてドライエッチングした場合、エッチング時にHFが生成する場合があり、このHFが磁性体を腐食することがある。
【0027】
第2工程として、凹凸が形成された磁性体面に本発明の平坦化膜形成組成物が塗布される。
塗布は例えば、スピンコート法、ディップ法、フローコート法、インクジェット法、スプレー法、バーコート法、グラビアコート法、ロールコート法、転写印刷法、刷毛塗り、ブレードコート法、エアーナイフコート法等の方法を採用できる。
スピンコート法は好ましく用いることができる。例えば10〜10000rpmの回転数で、3〜60秒間適用することができる。
膜厚としては5nm〜10μmの範囲とすることが可能であるが、凹凸が数十nmであるために、特に5nm〜100nmの範囲で用いることが可能である。
平坦化膜形成組成物を凹凸面を有する磁性体上に塗布し、平坦化膜形成組成物で凹凸面が充填され、更にその上に平坦化膜形成組成物が上塗りされる。この膜形成組成物は光硬化によって硬化する。
【0028】
光照射は、例えば、波長が150nm〜1000nm、または200〜700nm、または300〜600nmである光を用いて行うことができる。光照射は例えば、超高圧水銀ランプ、フラッシュUVランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、DEEP−UV(深紫外)ランプ、キセノンショートアークランプ、ショートアークメタルハライドランプ、YAGレーザ励起用ランプ及びキセノンフラッシュランプ等を使用して行うことができる。例えば、超高圧水銀ランプを用い、紫外域の289nm、297nm、303nm、313nm(j線)、334nm、365nm(i線)や、可視光域の405nm(h線)、436nm(g線)、546nm、579nmの波長をピークとした輝線スペクトルを含めた波長250nm程度から650nm程度までの全波長を照射することによって行うことができる。照射量としては10〜1000mW/cm、又は10〜100mW/cmで2〜100秒、又は5〜20秒間行われる。
露光後、必要に応じて露光後加熱(post exposure bake)を行なうこともできる。露光後加熱は、加熱温度50℃〜170℃、加熱時間1〜10分間から適宜、選択される。
塗布する磁性体の材質はコバルト、アルミニウム、ジルコニウム、クロム、ニッケル、亜鉛、鉄、ルテニウム等を組み合わせた合金である。また、これらの磁性体は大気中においても腐食しやすい性質を有していることがあり、磁性体の上に数nmのダイヤモンドライクカーボンが積層されていても良い。
【0029】
第3工程として、平坦化膜で被覆された面を磁性体面が露出するまでドライエッチングを行って、磁性体面と該平坦化膜面を平坦化する。この時に用いられるエッチングガスは酸素、又は酸素を含むガスが用いられる。
このようにして磁性体面(層)に非磁性体(本発明の平坦化膜が充填された溝)の溝がトラックパターンとして形成され、磁性体面(層)と非磁性体面(層)は平坦な面を形成している。
【0030】
本発明では更に第4工程として、平坦化された上記面上に厚み数十nmの硬質物質を蒸着により被覆することができる。硬質物質としてはダイヤモンドライクカーボンが挙げられる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、実施例で用いた各測定装置は以下のとおりである。
膜厚はジェー・エー・ウーラム・ジャパン製の多入射角分光エリプソメーターVASEを使用した。
原子間力顕微鏡はエスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製、Nano Navi L−traceを用い、カンチレバーはSI−DF40(背面ALコート)を用いて測定した。
UV照射装置はオーク製作所製、無電極ランプシステムQRE4016を用い、照度が20mW/cmとして使用した。
電子顕微鏡は株式会社日立ハイテクノロジーズ社製 S−4800を使用した。
ポリマーの平均分子量測定は東ソー株式会社製、商品名:Eco SEC HLC−8320GPCを使用した。
コバルトの定量はXPSを用い、アルバック−ファイ株式会社製、Quantera SXMを使用した。
接触角測定は協和界面科学株式会社製の全自動接触角計DM700型を使用した。
【0032】
実施例1
温度計、還流管を備えた2Lの4つ口フラスコに5.00g(0.0480mol;共重合体中に70mol%の割合)のスチレン、2.97g(0.0206mol;共重合体中に30mol%の割合)のアクリル酸4−ヒドロキシブチル、0.56g(0.0034mol;全モノマーに対して5mol%、ラジカル重合開始剤)のアゾビスイソブチロニトリル、844.41gのテトラヒドロフラン(固形分:1.0質量%)を加え、ダイアフラムポンプを用いて減圧し、系内を窒素置換した。次いで、マグネティックスターラーで撹拌させながら、オイルバスを用いて66℃で還流し、1時間反応させた。反応終了後、23℃まで自然冷却した。
反応液は後処理を行わず、窒素雰囲気を保持したまま、氷浴を用いて0℃に冷却し、3.12g(0.0309mol;アクリル酸4−ヒドロキシブチルの1.5当量)のトリエチルアミン、2.79g(0.0309mol;アクリル酸4−ヒドロキシブチルの1.5当量)のアクリル酸クロリドを注射器を用いて加えた。反応温度は0℃乃至5℃の間で保持したまま、3時間反応させ、次いで、氷浴を取り去り23℃で40時間反応させた。
【0033】
反応終了後、5℃の冷蔵庫で48時間放置した。反応液中のトリエチルアミンの塩酸塩をろ過し、ろ液に844.41gのプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)を加え、エバポレーターを用いて溶剤置換を行った。テトラヒドロフランを完全に留去した。
反応液のGPCを測定したところ、Mwが1007、Mnが548、Mw/Mnが1.84のポリマー(PSA)の溶液を得た。
PSAはエバポレーターを用いて完全に溶媒を留去したとき、液状であることを確認した。
【0034】
上記疎水性被覆材(PSA)を得る反応式を下記に示した。
【化5】
【0035】
500mLの1つ口フラスコに上記PSAの1質量%PGMEA溶液200.00gを秤量し、0.40gのIRGACURE369(BASFジャパン(株)製、光重合開始剤)を加え、密着促進剤としてアクリル酸3−(トリメトキシシリル)プロピルの20質量%PGMEA溶液を0.50g加え、界面活性剤としてメガファックF−554(DIC(株)製)の0.01質量%PGMEA溶液を2.00g加え、47.12gのPGMEAを加えた後、室温にてスターラーを用いて24時間攪拌し、均一な透明溶液(PSAV)を調製し、ハードディスク用平坦化膜形成組成物とした。
【0036】
実施例2
温度計、還流管を備えた2Lの4つ口フラスコに4.00g(0.0384mol;共重合体中に50mol%の割合)のスチレン、5.00g(0.0384mol;共重合体中に50mol%の割合)のジビニルベンゼン、0.17gのNafion117(Aldrich社製、カチオン重合開始剤:炭素とフッ素からなる骨格とスルホン酸基を持つパーフルオロ側鎖を有するパーフルオロカーボン材料)、908.33gのPGMEA(固形分:1.0質量%)を加え、ダイアフラムポンプを用いて減圧し、系内を窒素置換した。次いで、マグネティックスターラーで撹拌させながら、23℃で24時間反応させた。
反応終了後、系内に浮遊したNafion117をろ過し、ろ液を得た。
反応液のGPCを測定したところ、Mwが808、Mnが448、Mw/Mnが1.80のポリマー(PSD)の溶液を得た。
PSDはエバポレーターを用いて完全に溶媒を留去したとき、液状であることを確認した。
【0037】
上記疎水性被覆材(PSD)を得る反応式を下記に示した。
【化6】
【0038】
500mLの1つ口フラスコに上記PSDの1質量%PGMEA溶液200.00gを秤量し、0.40gのIRGACURE369(BASFジャパン(株)、光重合開始剤)を加え、密着促進剤としてアクリル酸3−(トリメトキシシリル)プロピルの20質量%PGMEA溶液を0.50g加え、界面活性剤としてメガファックF−554(DIC(株))の0.01質量%PGMEA溶液を2.00g加え、47.12gのPGMEAを加えた後、室温にてスターラーを用いて24時間攪拌し、均一な透明溶液(PSDV)を調製し、ハードディスク用平坦化膜形成組成物とした。
【0039】
実施例3
500mLの1つ口フラスコに2.00gのPiccolastic(TM)A5(イーストマンケミカルジャパン(株)、液状ポリスチレン、重量平均分子量は400)を秤量し、0.50gのジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(商品名カヤラッド DPHA、日本化薬(株)、液状ポリアクリレート化合物:ジペンタエリスリトールのペンタアクリレート及びヘキサアクリレートの混合物、重量平均分子量は約550)を加えた。
上記疎水性被覆材は以下に示した。この疎水性被覆材は液状ポリスチレンと液状ポリアクリレート化合物の混合物である。
【化7】
【0040】
その疎水性被覆材に更に、0.50gのIRGACURE369(BASFジャパン(株)、光重合開始剤)を加え、密着促進剤としてアクリル酸3−(トリメトキシシリル)プロピルの20質量%PGMEA溶液を0.63g加え、界面活性剤としてメガファックF−554(DIC(株))の0.01質量%PGMEA溶液を2.50g加え、306.40gのPGMEAを加えた後、室温にてスターラーを用いて24時間攪拌し、均一な透明溶液(SDV)を調製し、ハードディスク用平坦化膜形成組成物とした。
【0041】
比較例1
上記疎水性被覆材を準備した。この疎水性被覆材はジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(商品名カヤラッド DPHA、日本化薬(株)、液状ポリアクリレート化合物:ジペンタエリスリトールのペンタアクリレート及びヘキサアクリレートの混合物、重量平均分子量は約550)である。
【0042】
【化8】
【0043】
500mLのナス型フラスコにジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物、商品名カヤラッド DPHA(日本化薬(株))を2.00g秤量し、0.40gのIRGACURE369(BASFジャパン(株)、光重合開始剤)を加え、密着促進剤としてアクリル酸3−(トリメトキシシリル)プロピルの20質量%PGMEA溶液を0.50g加え、界面活性剤としてメガファックR−30(DIC(株))の0.01質量%PGMEA溶液を2.00g加え、245.12gのPGMEAを加えた後、室温にてスターラーを用いて24時間攪拌し、均一な透明溶液(RV1)を調製し、ハードディスク用平坦化膜形成組成物とした。
【0044】
比較例2
500mLのナス型フラスコにスチレンとアクリル酸を85:15(共重合体中のmol%比)で共重合したポリマー(Mw=14300、Mn=5600;大阪有機化学工業(株)、固形状ポリマー)の35%PGMEA溶液を5.00g秤量した。
この疎水性被覆材は下記に示すスチレンとアクリル酸の共重合体であった。
【化9】
【0045】
この疎水性被覆材に更に、0.35gのGT−401(ダイセル化学工業(株)、多官能脂肪族環状エポキシ樹脂:成分はエポキシ化ブタンテトラカルボン酸テトラキス-(3-シクロヘキセニルメチル)修飾ε-カプロラクトン)を加え、密着促進剤としてアクリル酸3−(トリメトキシシリル)プロピルの20質量%PGMEA溶液を0.44g加え、界面活性剤としてメガファックF−554(DIC(株))の0.01質量%PGMEA溶液を1.75g加え、211.23gのPGMEAを加えた後、室温にてスターラーを用いて24時間攪拌し、均一な透明溶液(RV2)を調製し、ハードディスク用平坦化膜形成組成物とした。
【0046】
比較例3
500mLのナス型フラスコにポリスチレン(Mw=2000;和光純薬工業(株)、固形状ポリマー)を2.00g秤量した。
この疎水性被覆材は下記に示すポリスチレンであった。
【化10】
【0047】
この疎水性被覆材に更に、密着促進剤としてアクリル酸3−(トリメトキシシリル)プロピルの20質量%PGMEA溶液を0.50g加え、界面活性剤としてメガファックF−554(DIC(株))の0.01質量%PGMEA溶液を2.00g加え、205.52gのPGMEAを加えた後、室温にてスターラーを用いて24時間攪拌し、均一な透明溶液(RV3)を調製し、ハードディスク用平坦化膜形成組成物とした。
【0048】
<AFM(原子間力顕微鏡)による平坦化性>
実施例1乃至3で調製したPASV、PSDV、SDV、比較例1乃至3で調製したRV1、RV2、RV3はエバポレーターを用いて減圧濃縮し、固形分が4.0%質量になるように調製した。
固形分が4.0質量%に調製したワニス(ハードディスク用平坦化膜形成組成物)を用いて構造物付き基板上でスピンコートを行った。構造物付き基板の材質はシリコンであり、深さが100nm、ラインとスペースは30nmの等間隔で形成されているものを使用した。スピンコートは構造物が付いていないシリコン基板上で85nm製膜できる条件と同様の条件とした。
AFMは構造体を埋め込んだ後の製膜面を測定し、平均表面粗さ(R)及び最大表面粗さ(Rmax)を測定した。AFMの測定箇所はラインとスペースが存在する方向の垂直方向とし、測定範囲は5μm×5μmとした。
【0049】
(AFM(原子間力顕微鏡)の測定)
固形分が4.0質量%のPSAVワニス(実施例1で得られたハードディスク用平坦化膜形成組成物を固形分4.0質量%に調整)を構造物付き基板上にスピンコート法で製膜した。スピンコート後の膜はUV照射装置(メイン波長380nm)を用い、照度が20mW/cmにて10秒間(200mJ/cm)、大気下で光照射した。
光照射後の膜はAFMを用いて構造体上の平坦性を評価した。AFMの測定結果は表1に示す。
【0050】
固形分が4.0質量%のPSDVワニス(実施例2で得られたハードディスク用平坦化膜形成組成物を固形分4.0質量%に調整)を用いて、PSAVワニスを用いた場合と同様の方法で膜を製膜し、AFMを測定した。AFMの測定結果は表1に示す。
【0051】
固形分が4.0質量%のSDVワニス(実施例3で得られたハードディスク用平坦化膜形成組成物を固形分4.0質量%に調整)を用いて、PSAVワニスを用いた場合と同様の方法で膜を製膜し、AFMを測定した。AFMの測定結果は表1に示す。
【0052】
固形分が4.0質量%のRV1ワニス(比較例1で得られたハードディスク用平坦化膜形成組成物を固形分4.0質量%に調整)を用いて、PSAVワニスを用いた場合と同様の方法で膜を製膜し、AFMを測定した。AFMの測定結果は表1に示す。
【0053】
固形分が4.0質量%のRV2ワニス(比較例2で得られたハードディスク用平坦化膜形成組成物を固形分4.0質量%に調整)を構造物付き基板上にスピンコート法で製膜した。スピンコート後の膜は大気下で200℃のホットプレートを用い5分間焼成を行った。焼成後の膜はAFMを測定した。AFMの測定結果は表1に示す。
【0054】
固形分が4.0質量%のRV3ワニス(比較例3で得られたハードディスク用平坦化膜形成組成物を固形分4.0質量%に調整)を用いて、RV2ワニスを用いた場合と同様の方法で膜を製膜し、AFMを測定した。AFMの測定結果は表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
表1の結果から、PSAV、PSDV、SDV、RV1の各膜のRが良好であり、Rmaxが1nm以下であることから、構造物を良好に埋め込み、平坦性が良いことがわかった。この結果はワニス中の溶質が大気圧下で、液体性状を有する分子であることに起因し、構造物付き基板上での平坦性に優れることがわかった。
一方、RV2及びRV3の各膜はRmaxが1nm以上となり、表面ラフネスが大きいことがわかった。Rmaxが1nm以上であると、後工程で平坦化材料にダイヤモンドライクカーボン(DLC)を積層した際に、平坦化膜のラフネスを踏襲して、DLCにラフネスが反映してしまい、ハードディスク上を浮上しているヘッドとクラッシュする可能性がある。ヘッドとハードディスクとの距離は5nm以下が求められており、1nm以下のRmaxを有していることが重要である。
【0057】
<Coコロージョン試験>
実施例1乃至3で調製したPSAV、PSDV、SDVの各膜、比較例1乃至3で調製したRV1、RV2、RV3の各膜のコバルトコロージョン試験を行った。
用いた基板はSi基板上に200nmのコバルトをスパッタリングした基板(グローバルネット(株)製、コバルト被覆基板)を使用した。
コバルトの検出にはXPSを使用した。測定条件はX線がAlKa、1486.6eV(25W、15kV)、測定範囲が1000μm×1000μm、Pass Energyが55.0eV、112.0eV、Photoelectron Taku Off Angleが基板から45°とした。XPSによるコバルトの定量は膜の最表面から膜厚方向に10nmまでの情報が得られる。また、XPSによるコバルトのピークは778.2eV付近に現れる。
【0058】
PSAVワニス(実施例1で得られたハードディスク用平坦化膜形成組成物)をSi基板上に200nmのコバルトをスパッタリングした基板に膜厚が20nmとなるようにスピンコート法で製膜した。スピンコート後の膜はUV照射装置(メイン波長380nm)を用い、照度が20mW/cmにて10秒間(200mJ/cm)、大気下で光照射した。
光照射後の膜はXPSを用いて膜の最表面を測定し、コバルトを定量した。次いで、同一の膜を温度が90℃、相対湿度が90%RHに設定した恒温恒湿器を使用して120時間放置した。恒温恒湿試験後の膜はXPSを用いて膜の最表面を測定し、コバルトを定量した。XPSの測定結果は表2に示す。
【0059】
PSDVワニス(実施例2で得られたハードディスク用平坦化膜形成組成物)を用い、PSAVワニスを用いた場合と同様に試験し、XPSを測定した。XPSの測定結果は表2に示す。
【0060】
SDVワニス(実施例3で得られたハードディスク用平坦化膜形成組成物)を用い、PSAVワニスを用いた場合と同様に試験し、XPSを測定した。XPSの測定結果は表2に示す。
【0061】
RV1ワニス(比較例1で得られたハードディスク用平坦化膜形成組成物)を用い、PSAVワニスを用いた場合と同様に試験し、XPSを測定した。XPSの測定結果は表2に示す。
【0062】
RV2ワニス(比較例2で得られたハードディスク用平坦化膜形成組成物)をSi基板上に200nmのコバルトをスパッタリングした基板に膜厚が20nmとなるようにスピンコート法で製膜した。スピンコート後の膜は大気下で200℃のホットプレートを用い5分間焼成を行った。焼成後の膜はXPSを用いて膜の最表面を測定し、コバルトを定量した。次いで、同一の膜を温度が90℃、相対湿度が90%RHに設定した恒温恒湿器を使用して120時間放置した。恒温恒湿試験後の膜はXPSを用いて膜の最表面を測定し、コバルトを定量した。XPSの測定結果は表2に示す。
【0063】
RV3ワニス(比較例3で得られたハードディスク用平坦化膜形成組成物)を用い、RV2ワニスを用いた場合と同様に試験し、XPSを測定した。XPSの測定結果は表2に示す。
【0064】
また、上記平坦化膜を塗布していないコバルト基板はその最表面をXPSを用いて測定し、コバルトを定量した。次いで温度が90℃、相対湿度が90%RHに設定した恒温恒湿器を使用して120時間放置した。恒温恒湿試験後のコバルト基板はXPSを用いて基板の最表面を測定し、コバルトを定量した。XPSの測定結果は表2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
表2の結果から、恒温恒湿試験前のコバルトの定量値は0.00atm%となり、製膜直後の膜の最表面にはコバルトが存在していないことがわかった。参照用として試験したコバルト基板は恒温恒湿試験前が4.87atm%、恒温恒湿試験後が9.54atm%と非常に高い値となった。
恒温恒湿試験後のコバルトの定量値はPSAV、PSDV、SDV、RV3の各膜において0.1atm%以下となり、平坦化膜の表面にコバルトが拡散している割合が非常に小さいことがわかった。一方でRV1及びRV2の各膜は0.86atm%及び0.69atm%となり、平坦化膜の表面にコバルトが拡散していることがわかった。RV2はポリスチレン骨格を有するポリマーでありながら、コバルトが検出されるのは、極性基としてカルボン酸を有しているためである。カルボン酸はルイス酸として機能しコバルト基板を腐食させてしまうことがわかった。
【0067】
ハードディスクの中でディスクリートパターンメディアの非磁性体膜として用いる場合、非磁性体と磁性体とが磁性において分割されているため、デバイスを組み終わった後の信頼性試験を行ったときに、磁性体から磁性体であるコバルトは非磁性体に拡散してしまうことはサイドライト、クロストークの原因となり、問題となる。
非磁性体に磁性体が検出されてしまう現象は、磁性体のコバルト基板が酸やアルカリ、水蒸気などでイオン化して腐食(コロージョン)し、このイオン化した成分が非磁性体に拡散(マイグレーション)すると考えられる。したがって、恒温恒湿試験後の非磁性体の表面からコバルトが検出されないことは、非磁性体材料が磁性体であるコバルト基板を腐食させず、拡散させないことを示しており、高信頼性のハードディスクを提供できる。
【0068】
<水接触角の測定>
実施例1乃至実施例3、比較例1乃至比較例3で得た膜の水接触角を測定した。
PSAVワニス(実施例1で得られたハードディスク用平坦化膜形成組成物)をコバルト基板に膜厚が20nmとなるようにスピンコート法で製膜した。スピンコート後の膜はUV照射装置(メイン波長380nm)を用い、照度が20mW/cmにて10秒間(200mJ/cm)、大気下で光照射した。コバルト基板上に塗布されたPSAV膜の水接触角を測定した。測定結果は表3に示す。
PSDV膜の水接触角は、PSAV膜を用いた場合と同様に測定した。測定結果は表3に示す。
SDV膜の水接触角は、PSAV膜を用いた場合と同様に測定した。測定結果は表3に示す。
RV1膜の水接触角は、PSAV膜を用いた場合と同様に測定した。測定結果は表3に示す。
RV2ワニス(比較例2で得られたハードディスク用平坦化膜形成組成物)をコバルト基板に膜厚が20nmとなるようにスピンコート法で製膜した。スピンコート後の膜は大気下で200℃のホットプレートを用い5分間焼成を行った。
コバルト基板上に塗布されたRV2膜の水接触角を測定した。測定結果は表3に示す。
RV3膜の水接触角は、RV2膜を用いた場合と同様に測定した。測定結果は表3に示す。
【0069】
水接触角の測定は22Gの針を用い、2.0μLの水を一定で滴下し、Youngの式の準じたθ/2法を用いて測定した。
【表3】
【0070】
表3の結果から、PSAV、PSDV、SDV、RV3において70°以上の水接触角を有していることがわかった。一方でRV1及びRV2は70°以下の水接触角となった。
これらの水接触角の結果は、表2で示したコバルトのコロージョン試験結果と相関関係があることがわかり、図1に示した。図1はコバルト被覆基板上に平坦化膜を被覆して恒温恒湿試験後の平坦化膜表面のコバルトの定量値と、別途コバルト被覆基板上に被覆した平坦化膜の水接触角試験値との相関関係を示す図である。縦軸はコバルトの定量値(atom%)であり、横軸は水接触角の測定値(°)である。すなわち、水接触角が70°以上の疎水的な有機膜を用いることでコバルトのコロージョンを著しく抑制できることが明らかとなった。
【0071】
HDD(ハードディスクドライブ)の非磁性体としての平坦化膜は構造体を埋め込んだ後の有機膜表面の平坦性が1nm以下であり、恒温恒湿試験を経た後にコバルトのコロージョン及びマイグレーションが抑制できることを求められることから、PSAV、PSDV、SDVの各膜が良好であることがわかった。一方で、RV1の膜は平坦性が良好であるものの、コバルトコロージョンが不良であり、RV2の膜は平坦性、コバルトコロージョンが不良であり、またRV3の膜はコバルトコロージョンが良好であるものの平坦性が不良である。平坦性とコバルトコロージョンとは両立して良好である必要があり、これらを両立できる本発明の平坦化膜形成組成物はHDDの平坦化膜として良好に使用できる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
HDD(ハードディスクドライブ)製造過程で微細な溝(数十nm)を平坦化し、充填部はコバルト成分等の磁性材料が充填部(非磁性層)に拡散するのを防止することができるハードディスク用平坦化膜形成組成物に用いることができる。
図1